○田渕勲二君 私は、
日本社会党・
護憲共同を代表して、
公害健康被害補償法の一部を改正する
法律案について、
反対の立場から
討論を行うものであります。
本法案は、工業都市
地域を
中心に硫黄酸化物の濃度が減少し改善されたとして、現行の四十一の第一種指定
地域を一挙に全面解除しようとしているものであります。しかも、これは制度上もはや大気汚染による公害病患者は出ないと決めつけたものであり、これからは大気汚染でぜんそくになっても汚染者の費用で補償されることはなく、新たな患者は当然の権利である補償の道を閉ざされるわけであります。これは
昭和四十九年に民事責任を踏まえた損害賠償制度として発足し、公害
被害者の補償、救済のみならず、大気汚染による公害の予防にも重要な
役割を果たしてきた本法の
精神を踏みにじり、本制度の空洞化をもたらすものであり、このことは環境行政の変質と大幅な後退を示すものであります。
当
委員会が行った板橋区大和町交差点の現地調査によっても明らかなごとく、今日なお、大都市や幹線道路沿線における窒素酸化物、大気中粒子状物質による複合汚染は依然として改善されておらず、公害患者は増加しております。このような現状において、大気汚染と健康影響との因果
関係に
ついて、科学的知見の集積による合理的な
説明もないまま、弱い立場の公害
被害者を切り捨てるということは、
国民の健康と生活を公害から守ることを目的とする環境行政の原点を放棄したまさに暴挙と言わざるを得ません。
政府は、今回の法改正は、中公審答申を踏まえて、本制度をより公正で合理的なものとするものであるとしておりますが、中公審の専門
委員会が、「現在の大気汚染は、慢性閉塞性肺疾患に何らかの影響を及ぼしていることは否定できない。また、局地的汚染と感受性の高い集団の存在に留意すべきである」と指摘した重要な点を本答申はねじ曲げ、事故以外にはあり得ない判断条件を勝手に作文して、これに当たらないとし、指定
地域の全面解除の方向を打ち出しておるのであります。
そればかりでなく、答申は、東京都の調査の結果、幹線道路沿道での局地的汚染では、女性の肺がんや乳幼児の呼吸器疾患への影響を示唆した点をも無視するなど、極めて不公正、不合理なものであり、国会の審議を通じても納得できる
説明はなされておりません。
殊に遺憾なのは、この専門
委員会報告と答申との相違点をただすため必要不可欠である中公審での部会、専門
委員会及び作業小
委員会における議事録や
関係資料の
委員会提出要求を拒否したことであります。国会が必要かつ正確な資料に基づいて法案を納得できるまで審議することは当然の責務でありますが、
委員会の協議に基づく
委員長の資料
提出要望をあくまで拒否するということは、中公審の申し合わせを隠れみのにして国会の審議権を妨害するものであり、断じて許すことはできません。
さらに問題なのは、本法案の
提出の過程において、本件諮問を付託された中公審の環境保健部会とそのもとに設置された専門
委員会、作業小
委員会のいずれについても、
被害者ないし
被害者団体の推薦する委員が一人も存在しなかったことであります。それに引きかえ、経団連初め第一種指定
地域の解除を強く要求してきた団体の責任者を初め、原因者や費用負担者である産業界を代表する委員が相当数を占めている事実を見ましても、このような構成は中公審の使命と目的に反する全く不公正なものと言わざるを得ないのであり、かかる審議過程を経た答申に基づく法案は、直ちに撤回すべきであります。
次に、本法案は、第一種指定
地域を全面解除した後は、個人に対する個別の補償ではなく、総合的な環境保健施策を推進することとしておりますが、中公審会長がその早急な具体化を求めたにもかかわらず、
事業メニューの開発や
自治体との
関係及び助成基準等はなお明らかではありません。また、新
事業を支える基金についても、
事業ベースでの積算根拠や国を含めた拠出者並びに拠出方式等が不明確なままであります。これで果たして実効性のある環境保健施策が講ぜられるのか全く疑わざるを得ません。
また、公害認定患者は毎年約九千人も増加しておりますが、
地域指定解除によって公害患者が一人もいなくなるということは全くナンセンスであります。
総理は、法案審議の中で、
地域指定解除後においても、科学的調査の結果により再び指定することもあり得るとの答弁を行ったのでありますが、その具体的な再指定の
要件は明らかにされておりません。
我が国の最近の大気汚染は、二酸化窒素と大気中粒子状物質が特に注目される汚染物質であります。したがって、これらの物質を
地域指定の
要件である著しい大気汚染の要素として認め、速やかに指標化を図るべきであります。
また、主要幹線沿道等の局地的汚染については、科学的な調査研究を積極的に推進し、その結果に基づいて
被害者認定の
要件を明確にすべきであります。これらの具体的な
内容が明確にされない以上、総理の再指定の約束は全く
内容のないその場限りの答弁と言わざるを得ません。
さらに、今回の法改正は、初めに
地域指定全面解除の結論があって、後は形式的な手続を踏んだにすぎないとの批判も出されておりますが、このことは本法案の
提出の過程においても、中公審の審議に企業側の代表を参加させながら公害患者側の代表を除外したこと、五十一の
関係自治体のうち四十五の九割にも及ぶ
反対、慎重の
意見を全く無視したこと、また、
委員会の審議において都合の悪い中公審の資料の
提出をあくまでも拒否したことなどから見ても明らかであります。
確かに、
昭和四十年代に比べて工場から出る硫黄酸化物の濃度は減少傾向をたどっていると言われておりますが、その制度の何らかの見直しは必要であるかもしれません。しかし、大気汚染の程度を測定する際の指標とされた窒素酸化物や浮遊粒子状物質の汚染は何ら改善を見ることなく、依然として深刻な
状況が続いていることは、専門
委員会報等も認めているところであり、硫黄酸化物による汚染の改善だけに着目して一気に制度を廃止するに等しいこの
変更は、まさに無謀と言うほかございません。なぜ制度の現実に見合った改善策がとれないのか、四十一指定
地域の全面解除ではなくて、再調査を行った上で
国民や公害患者の皆さんが納得する見直しが図れないのか。血の通った施策をとるべき立場の環境庁が、産業界だけの
意見を優先させて一拠に
変更してしまおうとする
政府の態度にはどうしても私は納得することができません。このような手続的にも、
内容的にも、また現実的にも多くの矛盾と問題を抱えた法案は、直ちに撤回すべきであり、これを多数の力で成立させることには断固
反対するものであります。
本法案については、公害患者を初め多くの
関係者が注目しているのであります。弱い立場の公害患者を一方的に切り捨てるばかりでなく、公害防止の歯どめを放棄する本法案の成立を推進した
政府・自民党は、環境庁の存在意義をも否定したものであることを警告して、本法案に強く
反対する決意を表明して
討論を終わるものであります。(
拍手)