○稲村稔夫君 私は、
日本社会党・
護憲共同を代表して、ただいま議題となりました
国立病院等の再編成に伴う
特別措置に関する
法律案に対し、
総理並びに関係各大臣に
質問したいと存じます。
さて、
総理、あなたはみずからの内閣を仕事師内閣だと胸を張られることがよくありますが、あなたの政権下での五十八年度から六十二年度に至る五
年間の予算の伸び率を見ますと、国債費と地方財政関係費を除いて、この間の一般歳出では〇・一%の減になっているにもかかわらず、防衛関係費が実に三六%増と大幅な伸びを示しているのであります。そして、こうしたもとでの社会保障関係費は、高齢化の進展のため、毎年一割程度の経費の当然増が見込まれていたにもかかわらず、五
年間でわずかに一一・一%増にとどまっているのであります。
このようにして、一口で言わせていただきますならば、防衛費だけを例外に扱いながら、他の面では、連年、国庫負担の削減、縮小に腐心してきたのが、
総理、あなたの言う戦後政治の総決算であり、あなたの言う仕事師たちがやってきた行革路線の実際なのであります。したがって、私は、今回の
国立病院等の再編成計画なるものも、結局は、いろいろな名目をつけながら、国庫負担の削減、縮小、それと
国民医療費の抑制をねらっただけのものではないかと大いに疑いを持って見ているのであります。
そこで、以下、その疑問の主なものについて
質問を行いたいと思うのであります。
まず第一は、
政府は一体、今後の社会保障政策をどのように展開しようとしているのかということであります。
そもそも、高齢化社会に向けて
増大する社会保障関係財源をどのように
確保していく考えなのか。これまで
政府は、場当たり的な削減以外に、適切な見通しに立ったその対応策については全く示し得ていないのであります。否、短期的にすら理解に苦しむ対応であります。例えば厚生省予算で言えば、六十一年度以降の高率補助一律引き下げ
措置を前提としても、七千億円の当然増が見込まれるのに、財政当局が示した概算要求基準の枠は四千四百億円。当然不足する二千六百億円と新規
施策のための所要財源はどうするのですか。
厚生省は、概算要求においてこれらの具体的な財源手当てのめどが立っておりますか。財政を握る大蔵当局は、この再編成が計画どおり完了すれば、国家財政にどれほどの寄与があると見込んでおられるのですか。また、厚生省は、何か医療保険財政にメリットがあるとでも皮算用しておいでになるのですか。大蔵大臣並びに厚生大臣にこれらの点を明確にしていただきたいのであります。
そして、
総理、本来ならば、再編成計画を提起される前に、こうした事柄、すなわち財源を含めた政策展望が明確にされていなければならないにもかかわらず、あいまいなまま提案をされているという理由が伺いたいのであります。
第二は、今日のさまざまな医療環境の
変化の中で、国立病院・療養所に求められている役割は何かという点であります。
政府は、今回の再編成計画で、国立病院・療養所で行う医療を高度専門医療と位置づけて、地域での一般的医療は地方自治体や民間にゆだねようとしておりますが、それでは、これまでの、地域住民の医療需要に基づいて高度かつ総合的な診療機能を発揮し、地域専門医療の
指導的役割を果たしてきた国立病院、そして
国民の疾病
構造の
変化のもとで、結核のみならず各種難病、小児慢性疾患、脳卒中リハビリテーションなどの長期慢性疾患に対する専門的医療機能の役割を担ってきた国立療養所をどう評価しているのでありましょうか。
そして、このように地域医療供給体制と深くかかわり合いながら、
国民の医療機関として評価されてきている多くの現場での
努力の積み重ねは、この再編成計画の中ではどのように位置づけられているのでありましょうか。これらをどのように
認識して今回の再編成合理化案を作成したのか、
政府の
基本的考え方を明確にしていただきたいのであります。
特に、
総理、国立医療機関の地域との長い歴史的つながりを無視してまでもあえて合理化を強行したいとする理由は何か、御説明をいただきたいのであります。
第三は、この再編成計画で、最終的に国立医療機関の数量的規模はどの程度になるのかということであります。
それは、統廃合、経営移譲の
対象施設のみがリストアップされておりますが、全体計画での十年後の国立医療機関の病床数や職員数等その数量的規模が、ただ単年度ごとに統廃合、移譲の
対象施設名とその病床数を次年度予算の概算要求に盛り込むというだけの、全く雲をつかむような話だからであります。
また、ここで生み出される要員についても、必要に応じ医療スタッフを
中心に再配分すると言うが、一方では人減らし行革路線が推進されているのであります。これでは全く保証にはならないではありませんか。ましてや、医療職を除く事務、現場の職員が、合理化の名のもとに排除されるのではないかとの不安に覆われるのも当然のことであります。
少なくとも、再編成計画と銘打って発表する以上、
変化する医療環境や
国民医療とのかかわり、
整備のための財源、病床数、要員等多角的に肉づけをした将来像を明らかにすべきだと思うのでありまして、それがなければ、ただ施設を減らし職員を減らしさえすればよいという無
責任な行政改革だと言われてもいたし方ありますまい。もしそうでないと言われるならば、はっきりとした将来像を示していただきたい。厚生大臣のお考えが伺いたいのであります。
また、
総理、行政改革とは、人減らし、金減らし、国の仕事の自治体への押しつけ、民活という名目での
国民サービス事業からの国の撤退がどうも先行しているのではないかと思いますが、このことを行革の
成果だと評価しておられますか。御所見を承りたいのであります。
第四は、国立医療機関の再編合理化を図る理由として財政の効率化が挙げられておりますが、それは医療供給体制の地域
格差を
拡大するだけではないかということであります。
というのは、統廃合、経営移譲の
対象施設が、三百床未満を
中心に、医療に恵まれない山間僻地、離島等、いわゆる特例地域にある国立病院。療養所に大きく偏っているからであります。
例えば地元入院患者や一般医療の比率の高さ、地元に公立病院のないこと等を挙げて、佐渡、淡路、壱岐、対馬の離島にある医療施設のすべてを移譲の
対象にしているのであります。しかし、公立病院さえなかった医療に恵まれない離島だからこそ、一般医療や地元患者の比率が高くなるのは当然ではありませんか。とするならば、
政府の言う効率化とは、まさに僻地、離島べっ視であり、医療過疎を新たにつくり出すもの以外の何物でもないと言わざるを得ないのであります。もしそうでないと言われるのでありましたら、本計画によって病床不足地域の施設が統合で廃止され、逆に病床過剰地域の施設が拡充されるなどという珍現象が生まれるのではないかという可能性をどう説明されますか。
この際、かねてから我が党が主張しているような、僻地、離島等の施設は過疎地域を担当する地域中核病院として
整備する等の思い切った方向で、これらの地域住民が安心して適正な医療が受診できるようにしてはいかがですか。
第五は、地方自治体への経営移譲の問題であります。
昭和六十年に医療法が
改正され、都道府県が地域医療計画を作成することになっておりますが、この計画は現在までにどれだけの都道府県が策定しているのでありましょうか。国立病院・療養所の再編成は、これらの都道府県の地域医療計画と整合性がなければ、地方には計画的に進めよと指示しながら国の方は勝手にやるという御都合主義になってしまいます。国立医療機関のあるすべての地域医療計画が出そろうまで、大きな計画変更は差し控えられたらいかがですか。
第一、今回の再編成計画に関連して、自治省事務次官の各都道府県知事あての通知には、「各地方団体においては、公立病院を取り巻く厳しい
経営環境、地方財政の厳しい現状等にかんがみ、経営移譲の問題については慎重に
対処すること。」としているのでありますから、
政府部内の考え方も必ずしも一致していないのではありませんか。
さらに、私は、
国民のだれでもが納得できる再編成計画になるよう努めるのが
政府の
責任だと思うのでありますが、もしそうだとすれば、
国民の国立医療機関に対する期待が那辺にあるかを十分に掌握することから始めるべきではありませんか。今日、全国の自治体の九〇%を超える二千九百九十八議会が、国立医療機関の存続と
充実を求める決議を行っている
実態をどのように
認識しているのか、厚生、自治両大臣から納得のいく御
答弁をお願いしたいのであります。
そして、
総理には、あなたがお好みの人々を集めての
審議会をつくるよりも、地方のこうした声を聞くことの方が何層倍も肝要なことだと思いますが、いかがですか。お考えを伺いたいのであります。
最後に、
政令事項の扱いについて厚生大臣に伺います。
本案の中で、移譲の譲渡先として明らかにしているのは公的医療機関であり、それ以外は
政令事項とされておりますが、そこでは厚生大臣の指定するものとして民間機関にまでその間口を大きく広げているようであります。これはまず、地方自治体に経営を押しつけ、それができなければ民間でということなのでありましょうか。いずれにしても、この
政令事項の存在は、最も望ましいと思われる自治体への移譲、譲渡がいかに困難であるかを
政府自身が認めているからではありませんか。
加えて、
対象施設の職員の身分の取り扱いについて、
法律には示されておりません。この扱いは一体どうなるのでありましょうか。地方自治体ばかりか、民間を含めるということになりますと、職員の処遇、要員数等には大きなばらつきがあります。民間に移譲された場合の対応が特に心配であります。これまで熱意を持って医療とそれを支えるために献身してきた職員でありますから、その働く場が保障できないような移譲、譲渡は絶対に行わないということをこの際、明確にしていただきたいのであります。
以上で私の
質問を終わりますが、
国立病院等の再編成なるものは、なぜ再編成しなければならないか、その根拠も、また将来どのようになるか、その未来像も、さらにはその財源的根拠も、何もかもあいまいであります。したがって、厚生省の地方機関である地方医務局長、そして現場の国立病院・療養所の長がこの統廃合、経営移譲に反対して、大臣に上申書まで提出しているではありませんか。だから、私は、この計画は全く不当なものだと断ぜざるを得ないのであります。
衆議院で若干の修正がなされたとはいえ、本質に何らの変わりがないばかりか、
対象施設の施設だけの安売り
促進策にすぎません。
本国会の会期もいよいよあすまでということになりました。議了を急ぐことなく、本院において
国民の納得のいくよう時間をかけて十分な
審議を行うべきであります。
政府の再考を重ねて促し、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕