○関嘉彦君 私は、民社党・
国民連合を代表しまして、
外国為替及び
外国貿易管理法の一部
改正案につきまして、
政府に対して
質問するものでございます。
第一は、この
改正案の
背景になっている
基本的考え方につきまして
総理に
質問いたします。民社党は基本的にはこの
改正案に
賛成するものでありますが、
政府の
考えが我が党のそれと同じであるかどうかを確認するためでございます。
まず最初に明らかにしておきたいことは、国際
情勢の認識についてであります。
戦後既に四十二年を経過しましたが、その間、局地的な紛争は連続して起こっているにかかわらず、世界的規模では平和が
維持されてまいりました。それは
アメリカを中心とする自由世界とソ連を盟主とするソ連共産世界とがその軍事的衝突を回避してきたからでございますが、その衝突の最大の抑止力になったのは、自由世界がソ連共産世界に劣らないだけの力の
均衡を
維持し得たからであります。確かにゴルバチョフ書記長のもとのソ連は、軍縮などの対外
政策及び
国内改革について歓迎すべき変化の兆候を見せておりますけれども、全面的軍縮交渉の前途はなお遼遠であり、
国内改革の前途には多難が予想されます。当分の間は米ソの軍事的対立はなお続くものと考うべきであります。
そうであるとするならば、
日本は、
日本と同じ
憲法体制を持つ自由世界の一員としてそれに協力する以外に道がないわけであります。もちろん
日本は、
憲法の制約があります。したがって、軍事的協力には限界がありますが、少なくとも
日本の
安全保障が自由世界の
安全保障に依存することを認識して、先般の
東芝機械の不正
輸出に見られるような、自由世界の軍事力を弱めかねないようなことは断じて許してはならないと思うのであります。
これに対しましては、政治と
経済とは別であって、政治的には対立しても
経済的には
自由貿易をソ連圏とも続けるべきであるとか、あるいは
安全保障の見地を
経済に導入するのは
自由貿易に反するという
意見の人もありますが、それは私はいずれも間違いであると思います。政経分離論は、政治、
経済、
防衛等を多元的に分離して
考える自由世界の内部においては通用しても、政治がすべてを支配する一党独裁の国においては適用しないわけであります。自由に
経済活動ができるのはその国の安全が保障されているからであります。自由
経済と自由放任とは違います。自由
経済論者であったアダム・スミスも、「国富論」の中で、航海条令を擁護する論拠といたしまして、「国防は富裕よりはるかに大事である」と言っております。
民社党は、以上のような見地から
改正案に
賛成するものでありますが、
総理の
見解はそれと同じであるかどうか、それを確認したいと思います。
第二に、
総理にお伺いしたいことは、今度のような不祥
事件を招いたことについての歴代自民党
内閣の
責任についてであります。
今回の
東芝機械事件発覚のきっかけをつくった熊谷独氏の「文藝春秋」八月号に寄せた手記によりますと、ソ連へのそのような物資の売り込みは日常茶飯事であり、
東芝機械事件は氷山の一角にすぎないと述べております。私は、必ずしもこの記述がすべて正しいとは即断いたしませんが、
日本の
企業や
国民の一部の中に、
国家の
安全保障についての感覚が十分でないことは否定できないと思います。さらに、
東芝機械事件について最初に
ココムから
日本に照会がありましたのは六十年の十二月であり、
アメリカ政府から
外交ルートを通じ照会があったのは六十一年の六月であります。そのような通報を
通産省は軽視していたのであります。これも
通産省官僚の
国家の
安全保障への感覚の希薄さを示すものと言えましょう。
このように、水と安全とはただで手に入ることができるのだ、そういうふうな
考え方が
日本の
国民の一部にありますけれども、そのような
考え方が
経済界、官庁あるいは
国民の一部に見られることの
責任の一半は、歴代
政府が
国家の
安全保障の重要性を正面から
国民に訴えることに対して積極的でなかったことにあると思います。昨年の
安全保障会議設置のときも、民社党は
国家安全保障会議と
国家という名称をつけることを要求したのに対して、
総理は
国家という名はいかつい印象を
国民に与えるからという理由で拒否されました。このようなあいまいな
政府の
態度が
国民の
安全保障感覚を希薄ならしめたと反省はされませんですか。
この問題に
関連して第三の
質問を
通産大臣に申し上げます。
それは、
改正法案の第二十五条及び第四十八条に書かれている「国際的な平和及び安全の
維持」の文言についてであります。この場合、国際の平和はまだいいとしましても、国際的な安全の
維持とは一体何を
意味するのでありますか。これは国連憲章であるとか
日米安保
条約とは違いまして、
国内法であります。まず
日本の
国家の
安全保障、安全のためにと書くべきではないでしょうか。
今度の
法律の
改正につきましても、
アメリカが怒っているからそれをなだめるためであるとか、あるいは
日本たたきを
緩和するため、
外交上の配慮からやむを得ずやっているのだという印象を持っている人が少なくありません。最近ヴォルフレンというオランダのジャーナリストが「
日本問題」という論文を書きましたが、その中で、
日本という国は外圧を加えなければ動かない国だという
趣旨のことを書いております。今度の場合も、もし
アメリカの圧力に屈して
日本が
対応したのだという印象が広がりますならば、単に
アメリカのみならず、他の外国もその要求を貫徹するために外圧を加えてくるでありましょう。また、泣く子と地頭には勝てないのだ、だから頭を下げるというのでありますならば、
国民の間に屈折したナショナリズムが起こってくる危険があるわけであります。
私は、これは極めて危険なことであると思います。あえて文面の修正を求めるのではございませんが、その危険を避けるために、今度の
改正はまず何よりも
日本の安全の保障のためにやるのだということを
経済界及び
国民に対して強調していただきたい。また、必要な場合は、単に
外務大臣の
意見を求めるのみでなしに、
防衛庁長官の
意見にも進んで耳を傾けていただきたいと思いますけれども、
通産大臣の
所見をお伺いします。
第四の
質問は、
外務大臣に対してであります。
ココム協定は
紳士協定と言われるものでありますが、約束した以上はそれは遵守しなければなりません。しかし、最近の
技術、特に
先端技術の領域では、進んでいるものがたちまちにして陳腐化し、民需用と軍事用の境界が明白でない、いわゆるグレーゾーンに属するものがふえてきつつあります。それゆえ、その禁輸リストの絶えざる見直しが必要であります。しかも、
ココムの
委員会は自由圏諸
国内における
貿易上の利害が対立する場でもあります。いやしくも力の強い国の
企業の
利益が優先することがないように、
外務省としましても、
関係省庁と連絡の上、格段の努力をしていただきたい。そして、これは単に
ココム関係だけの問題ではなしに、
外交交渉すべてについてであります。真の国際主義というのは、それぞれの国がその国益を主張し合いつつ、その協調点を求めていくことにあると思います。これについて
外務大臣の
所見をお伺いいたします。
最後に、私の
質問を終わるに当たりまして、ウィンストン・チャーチルの言葉を引用しておきたいと思います。
第二次大戦でイギリスを戦勝に導いたチャーチルは、戦後「第二次大戦回顧録」という本を書いておりますけれども、その開巻第一ページに、「イギリス
国民は、善意ではあるが無知と軽率であったため、不必要な戦争を自ら招き寄せた」と書いております。ナチスが台頭してきて、ベルサイユ
条約を無視するような行動をしていたときに、イギリス
国民は平和を愛好する善意は持っておりましたけれども、歴史の教訓に無知で
防衛の問題を軽視していたために、戦う必要のなかった戦争をみずから招き寄せたという
意味であります。
日本国民もそのようなイギリス
国民の失敗の教訓から学んでいただきたい、そのことをつけ加えて私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕