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参考人(
山崎眞秀君)
山崎でございます。
私は、憲法、
行政法、
教育法の
研究と
教育に携わっております者ですから、そういう
立場から、今次の
学校教育法及び
私立学校法の一部を改正する
法律案、以下、便宜上
大学審議会法案というふうに略称させていただきますが、この法案について、考えているところを申し述べさせていただきたいと思います。
法案の内容について所見を申し述べますに先立ちまして、あらかじめ
二つのことを、私の所見の前提として明らかにしておきたいと思います。
まず、その
一つは、国のレベルでの民主的な
大学政策立案機関、それ
自体は大変必要であるというふうに認識していることでございます。ここで民主的なと申しますのは、詳論することは時間がかかりますので要約的に申し上げさせていただきますけれ
ども、これは第二次
世界大戦後の戦後
教育改革、ここでは当然
教育制度及び
教育行政制度の
改革を含みますが、この戦後
教育改革の理念と原則に立脚し、すなわち憲法及び
教育基本法の理念と原則、それから法規定の十分な実現を、今日の
社会経済、
文化、
科学技術の
発展に対応したアカデミックニーズとソシアルニーズの統一的実現の
要請に資する
学術研究と
高等教育の
発展を保障するための
大学政策の構想、立案という
意味でございまして、具体的には、自主、民主、公開といういわば戦後の、これは特に原子力基本法の冒頭に出てまいりますので御承知のことと思いますが、この自主、民主、公開という
制度原則に基づく
大学政策立案機関の必要ということについて申し述べたわけでございます。それからもう一点の前提は、先ほど来
田中、
石川、
飯島各
参考人がそれぞれお述べになりましたこととかかわりますけれ
ども、今日の複雑、高度に
発展をした
社会経済、
文化など
大学を取り巻く
状況の
変化と、そしてそれが
大学に
改革を求めて突きつけている
課題の認識、それ
自体については大きく異なるところはないということでございます。ただ、問題は、そういう
状況変化に対応して
大学が
改革を遂げていくためにどのような視点と原則と方法論を持って取り組むかということになるかと思います。
この二点の確認を前提といたしまして、それなるがゆえに、私の考えでは、今回の法案にはその内容においてにわかに賛成しがたいところがあるというふうに申し上げざるを得ないのでございます。
時間もございませんので、以下、大きく三つの論点に絞りまして、考えるところを申し述べます。
まず第一に、この法案の立法形式、それから立法手続、そして立法への
過程についてでございます。まずその
一つは、この
大学審議会の
設置をなぜ
文部省設置法の改正で行わずに、
学校教育法及び
私立学校法で行おうとするのかということについての疑問でございます。
法律学を専攻しております者の
立場として感じるところでございますが、申し上げるまでもなく、従来、中央
教育審議会を初め幾多の
審議会が、
行政組織法としての
文部省設置法並びに
文部省組織令の中に規定されております。ところが今回の
大学審議会に関しましては、そういう方法をとらず、
学校教育法及び
私立学校法の改正で行おうとされようとしております。これは、
学校教育法と
私立学校法は、基本的にはむしろ
行政作用法と申しますか
行政実体法でございまして、私が推測をするところでは、こちらの方を法改正で行おうとすることは、
行政組織法として平板的に位置づけるのではなくて、むしろ
高等教育、
学術研究の体制の内容そのものについて法によって一定の
方向づけをすることを意図されているのではないだろうかということを考えるわけでございますが、その点がまず
一つでございます。
二つには、今回の法案の第六十九条の三第五項に文言で出ておりますが、いわゆる
大学審議会の組織及び
運営の細目を政令に委任をしているという、いわゆる政令への委任方式への疑念でございます。
もちろん政令で定める事項そのものは、衆議院の
文教委員会でも既に阿部
高等教育局長その他から御
説明があって、
会議録を拝見いたしましたが、言ってみればそれは形式的な事項六項目であるというふうにおっしゃっておりますので、そのこと
自体に私はとりたてて
意見を申し上げようとは思いません。しかし、政令記載事項は形式的な事項でありましょうけれ
ども、この法案における
大学審議会の所掌権限内容が
大学制度の基本に関することという大変包括的な規定でありますことから、これを受けて、政令が、
運営に関し必要な事項は
審議会が定めるということになりますと、全体として一種の授権法的性格並びに機能を持つことになりはしないだろうかということを恐れることでございます。
それから三つ目には、
大学審議会の
設置に先立ちまして、既に
文教委員会でも御
議論があったようでございますが、文部大臣の私的諮問機関として昨年五月二十七日に発足をいたしました
大学改革協議会によるいわば
大学審議会の機能の既成事実化と、その
審議内容と申しましょうか、
審議経過に関する内容が明らかにされないということに対する不安といいましょうか、疑念でございます。
これは、
文教委員会議事録を拝見いたしますと、第一号で、江田五月
委員の質問に対する阿部
高等教育局長の御答弁の中に、「
大学審議会のプレの状態のようなものという実質はありましたにしても、」ということが
会議録一号の十七ページにございます。このことがいわば私の懸念にかかわるわけでございますが、もし、
審議会のプレのようなものという実態がございますならば、どのようなことがどのように御
議論されているのか明らかにされても、これはおかしくはないのではないだろうか。
およそ私は、
教育の問題に関して基本的に秘密にしなければならないということはないのではないかというふうに考えます。むろん、
審議会が現行の具体的な
政策について御
議論をなさっている場合に、例えば議事録をそのまま公開するなどということは確かに場合によっては差しさわりがあるだろうと思います。例えば、どの発言者がどのように言ったということは、それがそのまま明らかになるとすれば、それは発言者がさまざまな心理的な圧迫を受け、自由な討論が期待できないという御懸念は確かにあると思います。しかしながら、今日のいわば憲法の一般理論に徴しますと、例えば
皆様方も御承知のように、いわゆる情報公開の動きの中で、去る昭和五十九年六月十一日に埼玉県におけるごみ焼却場の
設置場所についての資料の公開を求めた裁判がございますが、浦和地方裁判所の五十九年六月十一日の判決の中でも、これは確定判決でございますが、
会議そのものの公開ということは確かに発言者の心理的圧迫を誘うおそれがあるのでこれは公開できないことがあるけれ
ども、そのことは議事録の公開と矛盾するものではないとして原告の言い分を全面的に認めております。場合によりましては、
会議録の発言者の名前だけを伏せて、発言内容、
討議内容だけを公開するということも今日の情報公開論議の中では常識に属することでございまして、そのようなことを考えますと、
大学協議会での御
議論の内容が明らかにされないということは、私のような
立場で
教育政策、
教育行政、
教育制度、
教育法の
研究に携わっている者からいたしまして、いささかならず疑念を感じざるを得ないところでございます。
第二番目は、
大学審議会の組織及び構成についてでございます。
その
一つは、
大学審議会の
委員構成についてでございますが、法案の六十九条の三第四項を見ますと、現行の私立
大学審議会、これは
私立学校法の十九条三項、四項でございますが、現行の私立
大学審議会のごとき、
大学関係者、これは
研究や
教育に直接責任を負い得る者としての
意味で、
大学関係者が三分の二以上あるいは過
半数を占めなければならないというがごときいわゆる歯どめ規定がないことでございます。法案を拝見いたしますと、
大学設置・学校法人
審議会の
大学設置分科会の組織基準についてのみ四分の三以上として引き継がれているように見受けられますが、それにもかかわらず、なぜ
大学審議会の方にはこのような
大学での
教育研究に直接かかわる
委員が過
半数を占めるような、いわゆる
自主性保障のための歯どめ条項がないのでございましょうか。この不整合について、いささかならず疑義を感ずるところでございます。
二つには、
大学設置・学校法人
審議会の
委員選出区分の規定について一点申し上げます。
これは、法案の六十九条の四第四項の一号と二号でございますが、ここを拝見いたしますと、現行私立
大学審議会のそれと申しますか、
私立学校法十九条の二項一号が「教員」というふうに書かれているのに対して、法案の今申し上げました六十九条の四の第四項一号、二号では「職員」というふうに用語が殊さら改められております。これは、恐らく何か
意味がおありになるのではないかと思います。推測いたしまするに、現行の
大学設置審議会令の二条一項、それから六条三項一号には「職員」という言葉が確かに使ってございますけれ
ども、ここで、新しい法案でもって「教員」を「職員」というふうに変えたのは、それだけの単なる法文上の整合性だけではないように考えますが、いかがでございましょうか。
三つ目は、
大学審議会の創設を
提案した
臨時教育審議会が、その第二次答申の中で、開かれた
大学あるいは
大学情報の公開ということを力説していらっしゃることにつきまして、私も大変そのこと
自体には賛成でございます。先ほど
飯島参考人もおっしゃいましたように、この
大学審議会は、
大学からぜひさまざまな意向、要求を寄せてほしい、それによって
大学の
自主性を
行政に反映させてほしいというふうにおっしゃいまして、私も
飯島参考人のおっしゃったそのお考え
自体にはもとより賛成でございます。しかし、法案で拝見いたします限り、法案の中には、
大学審議会から
大学に対する意向を聴取する
制度的ルート、あるいは
大学から
審議会への意思反映の何らかの
制度的ルート、いずれも規定されてはおりませんで、かつまた、
審議会の
審議結果の公開原則も定められておりません。これらの原則、
制度的ルートということが全く欠けていることによって、私も考えを等しくいたします先ほどの
飯島参考人のお考えが、法律として可能であるのであろうかどうだろうか、法律学
研究者としての私には大変に疑念を感じざるを得ないところでございます。
最後に、第三番目に、所掌権限について一、二のことを申し述べたいと思います。
その
一つは、法案の六十九条の三の第三項で、いわゆる従来の
審議会一般が、諮問に対する答申とそれからもう
一つは建議と、通常この
二つでございますのに対して、
大学審議会では勧告権という規定のされ方をしております。なぜ通常の
審議会の場合のごとき建議ではいけないのであろうか。これを過般の
委員会における阿部
高等教育局長の御答弁を承っておりましたら、勧告というのは法的
意味においては建議と変わらない。すなわち相手方を別に法的に拘束するものではないという御
説明がございました。そうでありますならば、なぜあえて勧告という言葉に置きかえたのであろうか。むしろ、立法当時の意思はともかくといたしまして、このままの形で法律が成立をいたしますと、やがてはこの勧告権という権限のニュアンスが政治的に機能するおそれなしとしないのではないかと思いますが、この問題については深入りはいたしません。
次に
二つ目に、これがある
意味で所掌権限の核心に触れるところでございますが、「
大学に関する基本的事項」という包括的かつ無限定な規定のされ方について、それなるがゆえに、包括的でかつ無限定であるがゆえに、当然にこのことは
大学の
自治に抵触をすると考えざるを得ません。内容的には、「
大学に関する基本的事項」とは何かということについては法案では直接にもちろんお触れになっておりませんが、これまでの
臨時教育審議会の御
議論から拝見をいたしますと、
臨教審がお出しになった「
審議経過の概要(その三)」、ここに持ってまいりましたこの本でございますが、この第三章「
高等教育の
改革」の第一節、特にその5の(5)のイという項目とのかかわりで考えてみたいと思います。時間もございませんので、今
指摘をいたしました第三章の第一節の5の(5)のイというのが何を書いてあるかは省略をさせていただきますが、必要がございましたら後ほど補足をいたしますが……