○
参考人(
池田正範君) それでは、
委員長のお許しをいただきまして、
参考人としての
意見を述べさせていただきたいと存じます。私は
財団法人食品産業センターの
理事長をいたしております
池田でございます。
結論から申し上げますと、
流通食品への
毒物の
混入等の
防止等に関する
特別措置法案に対しましては、私
どもといたしましては、この
法案に
賛成をする
立場にございます。
その
理由を申し上げたいと存じますが、御
案内のように、
昭和五十九年三月に、俗に言われます怪人二十一面相なるもののいわゆる
グリコ・
森永事件が
発生をいたしまして、それ以来
警察庁の
認知事件数だけ取り上げてみましても、この種類の
犯罪が
昭和五十九年に五十一件、六十年に百一件、六十一年には二百二十二件というふうに、年を追いまして倍増の非常に脅威的な
発生件数を見ておるわけでございます。
翻って我が国の
食品企業、これを
国民経済計算ベースで
国民全体が一
年間で支払います
飲食費、これは
昭和六十一年
ベースでおよそ五十兆円に達するわけでございますが、その約六〇%に相当する三十兆円前後の
シェアを
食品企業としては持っておるわけでございます。
食品産業と申しますと、俗に
食品工業、
食品卸売業、
食品小売業、それから
飲食店といったようなものが全部含まれまして
食品産業と俗称しておりますけれ
ども、この
食品産業に就業しております
就業者数は、
農水産業が現在五百万人前後でございますけれ
ども、この
食品産業の
就業者数は七百万人に達しておるわけでございます。
また全
製造業に占めますところの
食品工業の地位でございますが、これはいろいろの尺度があると思いますが、
一つは、例えば
事業所の数で申し上げますと、八万二千カ所、
シェアにいたしまして一〇・九%の
シェアを持っております。また
従業者の数で申しますというと百二十万人、一〇・五%ということでございます。それから
出荷額で申し上げますというと、ほぼ先ほど申し上げました三十兆弱でございますから、これも約一〇%余ということになるわけでございます。いわば全
製造業に対してほぼ一〇%のウエートを持つ
産業であるというふうにお考えをいただいてよろしいかと存じます。中でもこの
出荷額につきましては
日本で
最大の
業種部門を持ちます電機あるいは自動車といったようなものに次ぐ第三位の
シェアを持つ大きな
産業分野であるというふうに言うことができようかと思うわけでございます。
なお、これらの
生産をいたしましたものはどういうルートで入ってくるかということになりますと、これは先ほど申し上げました
食品卸売業、
小売業といったようなところを通ずるわけでありますけれ
ども、特に最近進出の著しい
スーパーからほぼ四二%のものが買われておる、こういうことでございまして、これは後で申し上げますところの
加工食品を
スーパーを通じて買うということから、いろいろな問題を今回の
事件と関連して
発生しているわけでございます。
申し上げるまでもないわけではございますけれ
ども、この
安全性に疑問を持たれるようなものはもはや
食品としては失格でございまして、まして
加工食品というのは、一見しましていいか悪いかについてはなかなか
消費者が見分けがたいという
性格を持っておるわけでございます。したがって、
食品工業サイドといたしましては、
食品を
製造し
包装するというふうなことを含めまして、
国民に提供する
義務を負っているわけでございまして、食料の
安定供給という
社会的な
使命の点からもどうしても
安全性の
確保ということが
最大の
使命であるというふうに考えられるわけでございます。
ところが、最近、御
案内の
製品に対するいたずら、あるいは異物、
毒物の故意な
混入というふうなことが、これは国際的に見ましてもそうなんでありますけれ
ども、完全に安全に
包装するという形で防御できないという実は問題があるわけでございます。
飲食品の
価格でほぼ
包装用に使います
包装費は約一〇%内外というのが
限界費用というふうに一応考えられておりますけれ
ども、その
安全包装、これは俗にタンパー・レジスタント・パッケージというふうに国際的には言われておりますが、この
安全包装というふうなことに対しまして、もう少しそれは金をかけるということで、やや
安全性を増すということが技術的にないわけではありませんけれ
ども、御
案内のように、
食品の
コスト全体が過大になるということになりますから、したがって、法外な
コストというものは
商品の
性格上かけにくいわけでございます。しかも完全でない、こういうことでございますので、ここの面からも非常に
企業としては対策に苦慮をしておるというのが実情でございます。
それから、一番代表的な
事例として挙げられます
グリコ・
森永事件等のこの種の
犯罪発生の
特徴について、
業界側として見ておることを申し上げますというと、
一つは、やはり
包装の
弱点をついてくる、
包装が完全にいかないということを百も
承知でついてくる。しかもセルフサービスという
販売形態が近代の
販売形態であるというこの
弱点をついてくるというふうなことで、手っ取り早く
企業をおどして金を強奪するというふうな
短絡化の
傾向というのが一番大きな
特徴であろうかと思うわけでございます。二番目には、これは
日本だけではございませんで、世界的な風潮というふうに考えてよかろうかと思いますが、いわば
余り汗をかかず労せずして一獲千金をとるといったような
傾向が最近非常に強く出てきている。三番目には、
電話とか手紙あるいは最近の
CDカードといったようなものを利用いたしまして、自分は全く表に姿をあらわさないで金銭を奪取するといういわば陰湿な
性格を持っておる、こういうことがこの
種犯罪の
一つの形として見られるわけでございます。これらはいずれも最近の
都市化現象あるいは
情報化の
社会を迎えました現代の
社会病理現象の
一つではないかというふうに考えられるわけでございます。
そこで、
現行刑法の問題でございますが、殺意までは持たずに、俗に言う、いたずらに少し質的に毛の生えた程度の中毒などを起こさせるというふうなつもりで
毒物を
混入した場合に、そのことによって死傷の結果が生じなかったというふうな
場合もあるわけでございますが、
現行刑法では
傷害未遂の
規定はございませんので
犯人を処罰することができないわけでございます。また仮に結果的に処罰する
法制要件が整った場合でございましても、
毒物混入行為というもの、
そのものに対する
処罰規定が
現行法ではございませんので、やはりその
行為そのものを罰するという法的な
体制がこの際どうしても必要なんではなかろうかと
業界側では考えるわけでございます。
それからもう
一つ、
偽計業務妨害罪というような
法定刑もございます。しかし、これもまた三年以下の
懲役または二十万円以下の罰金というようなことでございまして、御
案内のような
国民を底知れないような恐怖に陥れ、大きな
社会不安を引き起こすというふうなこの種の
毒物混入行為に対する刑罰といたしましては、諸外国と比べましてもまことに軽過ぎるというふうに考えられるわけでございまして、この種の新型の
悪質犯罪の
再発防止のためにもどうしてもやはり
規定の
明確化、
抑止効果のための
罰則の強化ということをぜひ国会の御
審議を通じてお決めいただけたらということが私
ども切なる願いであるわけでございます。
他方、
業界側といたしましては、自己の全く責任でないという
体制のもとで、仮に
毒物混入恐喝の
対象になりますというと、当然これは
新聞報道等を通じて
一般に知られるわけでございますが、これを売ります
企業サイドからいたしますと、当然そのような危険のあるものを
店頭に置くわけにはいかないということになるわけでございまして、
対象商品が一斉に
店頭から
全面撤去をされるというふうな形になるわけでございます。今、先ほど申し上げましたように、
スーパー等いわゆる
量販店の
店頭の棚というものは
食品メーカーにとりましては命綱でございまして、そこにどれだけ売りやすい地、場所にどれだけの
シェアを占めて
食品を置いてもらえるかということは
年間の
売り上げに非常に大きな
影響力を持つわけでございます。
それが一転、この問題が起きますというと、全部棚おろしをされてしまうということでございまして、これがいつもとの棚に復帰できるかということについては全く見当がつかない。したがいまして、当然
安全確認のために極めて長い間に多数の
従業員や、またその
従業員の
家族というものが動員をされまして、非常に大きな
努力と
費用を莫大に使いまして、大きな
損失のもとに
原状回復に躍起となるわけでございます。
例えば、今問題になりました一番大きな
M製菓の場合でございますけれ
ども、これらは御
案内のように五十九年の九月十二日にまず一億円
要求の一通の
脅迫状が当
会社に舞い込んだわけでございます。翌々でしたか、二十日ですね。二十日に某
新聞社がこれスクープをされまして、これが元で全国の
マスコミに非常に大きく取り上げられた。これはもう最初のことでございましたので、
マスコミのこれらに対する
報道の形についても、何と申しますか、余り大きな形というものができ上がっていなかったせいもありますけれ
ども、競って取り上げられたわけでございます。
十月の
同社の
売り上げは前年比で六〇%減ってしまうというふうなことでございまして、十一月の
販売額は前年同月比で七十億円の減、返品の続出というような惨たんたるありさまになったわけでございます。
スーパーやデパートの
店頭から
同社の
製品が
全面撤去を迫られまして、
製品を回収するあるいは
工場生産を半減するというふうなことで、パートの
従業員四百五十人をとりあえず
自宅待機をさせる、それからその後ついにその全員を解雇せざるを得なくなったというようなところまで追い込まれたわけでございまして、一カ月間だけの
損失が既に十億円ということでございまして、
年間、この
事案に対します
同社の全体の
損失は百三十億円に上るというふうに言われておるわけでございますが、しかし、御
案内のように
同社を救えという民間の非常に大きな広範な
援助運動が巻き起こりまして、例の
お菓子の千円パックの
袋詰めの
お菓子を各職場でもさばいていただくというふうなことを、恐らく行
政府では初めてでございましょうが、個人の、個別の私的な
会社の応援に農水省を中心にして立ち上がってくれまして、
従業員とその
家族三千人がすべて街頭に出ましてこれを売り歩いたわけでございまして、
小売店三千店に一軒一軒頭を下げて歩いたというふうな
異常事態であったわけでございます。
また、
従業員のボーナスは即日二割減というふうなことで、
支給日も十日もおくらせるというふうなことで、まことに
従業員にとりましても残念なことであったわけでありますが、現在に至りましてもなお
同社の
ベースアップは
業界で最低の
状態にある。ちょうど三年たったわけでございますけれ
ども、なお三年を経過した今日でも三年前の一〇〇%の水準にまで業績が戻っていないというのが現状でございます。
また、他の社におきましても、たまたま二番目、三番目になりますというと、
報道の方と
警察の方との間でもいろいろと
影響度を考えられて
一つのルールをだんだんつくってこられまして、なるべく
会社側への
影響力を少なく、かつ
社会になるべく不安を起こさないようにというふうなことで、だんだんいわば利口なやり方を発見してくれたわけでございますけれ
ども、そういうふうなことになってまいりますというと、百何十億という猛烈な
損失が数十億とかあるいは数億とかいうところで食いとめられた
会社もあるわけでございます。
したがいまして、
食品会社といたしましては、極めて
会社自体の損得のことから考えますれば、なるべくこの種のものは表に出ないということで対応できれば一番いいわけでございますが、しかし
隠密裏に事を運ぶということが逆に
犯人側に乗ぜられる
一つのすきにもなるわけでございまして、したがって
犯人だけでなくて、特にそういうものの
製造に従事をいたしております職員、
従業員も、うちの
会社はどうなるんだろうかということでの不安、動揺が非常に出てくるわけでございまして、したがってこれらの
情報につきましても、これをコントロールしていくことはなかなか容易ではないわけでございます。
また、
企業自身の
立場として、
犯人からその種の
要求が出てまいりますというと、
会社全体がこうむるその後の何年かにわたるつらい
損失と膨大な犠牲ということを考えまして、えてして
犯人の
要求に屈する方向への誘因が十分にあるわけでございまして、これをやはり断ち切らして、
犯人と対決させていくというふうなきっかけというものをどうしても制度的に持っていくことが必要であろうと
業界自体も考えるに至っておるわけでございます。したがいまして、残念ながら昨年の夏に某社が
恐喝に対応いたしましたために、
マスコミに
報道されまして、
恐喝成功事例として
警察当局からも異例の
協力要請を得た
事案があるわけでございますが、この
事案ができました後、同種の、いわばコピーキャットと申しますか、物まねの
事件というものが続発をいたしまして、急激に昨年の七月以降
事件がふえたわけでございますが、そのために当
産業センターといたしましても、
警察の強い
協力要請を受けまして、
食品業界全体に及ぼす悪影響を断ち切るためのいろいろと
措置を会員の各
会社にいたしたわけでございます。
既に御
承知おきと思いますが、一九八二年に
アメリカではタイレノールという
鎮痛剤の中に青酸カリを
混入するという
事件が
発生をいたしまして、七名の死者を出したわけでございますけれ
ども、これは今もって解決を見ておりません。したがいまして、翌一九八三年に
アメリカの議会は、
アメリカでは州法とそれから
中央の
政府との持つ
法律の体系が、それぞれ
日本とはちょっと違った関係になっておりますけれ
ども、
刑法の一部を直して
重罰規定の導入をするというような形をとっております。
申し上げますまでもないことでございますけれ
ども、この種の
恐喝事件というのは無差別に人命を危険にさらす極めて悪質な
事件であるというふうに考えられるわけでございまして、特に
一般消費者を
人質にとるというところが極めて特異なことでございます。菓子とかアイスクリームというふうなことになりますというと、
毒物が
混入され
た場合に、文字すら読めない子供が皆
人質にとられるということになるわけでございまして、したがって、
毒物混入恐喝の
対象になりました
企業の
製品は、
スーパーの
店頭から先ほど申し上げましたように
撤去をされまして、
安全確認の日まで莫大な
損失をこうむるというふうなことでございます。
原状を回復するのに長年月を要するというふうなことでございますので、私
どもといたしましては、ただいま提案を見ておりますところの
毒物混入法案の一日も早い御
審議と成立を
お願い申し上げたいと、切に
お願い申し上げる次第でございます。
ありがとうございました。