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山田耕三郎君 過去を振り返る余裕がないほど
事態は切迫をいたしておるように思います。しかし、なぜそのような孤立にならなければならないのだろうか。二、三私の立場から意見を申し述べたいと思います。
私がさきに
参議院に参りましてから仲間と一緒になって
日本セイシェル協会なる一つの団体を設立いたしました。それは
両国の関係の友好を促進するとともに情報を収集したいからであります。そして、このことを計画いたしました私
たちの問題意識は、一つには、中国のような大国を
世界秩序の中からオミットする外交は間違っていると同様に、セイシェルのようにたとえ小国であっても無視に近い態度をとる大国志向は間違っている。二つ目には、
日本の外交と情報の流れを
外務省だけに任せるのではなく、市民サイドでも自分
たちの能力でできる範囲で国際情勢のチャンネルを開拓すると同時に非
政府間外交のあり方を研究する必要があり、外交のルートは多元的であるほどよろしい、こういう立場。最後の三つ目には、セイシェルは映画「さよならエマニエル夫人」などのロケ地であったことから想像できるように、それはハワイよりも何倍か美しいところであり、地球上残された最後の楽園と言われております上に、カツオ、マグロの宝庫であることから
日本漁船の密漁問題やIWCにおけるこの国と
日本との決定的対立などがあり、これらの真相を
調査してみたい等々のことがあったからであります。
前松浦
水産庁長官などは、セイシェルは
我が国水産界にとっては不倶戴天の敵だから援助などは
考えられないと私
たちの協会事務局長、渡辺武達京都産業大学教授に話されたこともあったほどの状態にありました。しかし、その
実態について私
たちの意見を申し述べさせていただきたいと思いますが、さきにこの国の企画開発大臣、実体は
日本でいえば総理大臣相当官でありますけれ
ども、ファラーリ大臣を
日本にお招きをいたしました。東京における歓迎集会に先立ちまして
鈴木総理大臣を表敬訪問いたしました。そのときの
鈴木大臣の言葉について若干申し述べさせていただきます。
官邸へお伺いをいたし、写真を撮った後、隣室の会見場に入りました。
鈴木総理から歓迎の意が表明され、セイシェル側からはルネ大統領からのメッセージが渡されました。
総理いわく、
「
我が国はクジラを昔から食用その他に供してきており、その資源は有効に使いたいと
考えてきた。もしクジラが絶滅の危機にあるのなら、断固その捕獲は止めるべきだ。しかし、
日本の科学者
たちは、種類によっては適正に利用しないことのほうが生物界のバランスのうえでむしろ有害であると言っており、セイシェル側の科学的な検討をお願いしたい。またマグロについては、ハエナワ漁その他近代的な漁法をも研究されることがよいし、貴国の貴重な資源を
調査研究するための
調査船その他の提供についても
日本は積極的に
考えていきたい。ともに
両国は島国であり、手をたずさえて進めるはずだ」
こういったことで会見を終わりまして、二階からおりてくる階段のところで、いかがでしたかと大臣に
お尋ねをいたしましたら、右手の親指と人さし指で丸をつくって、ベリーグッドと言って彼は喜んでおりました。そして後日、ファラーリ氏が次のように言っております。「今までずいぶん多くの国の首相と出会ったが、
鈴木総理ほど
漁業にくわしい方にお目にかかったことはなく感銘した。」と。外交辞令ではあってもうれしいではないかと私は思います。
さらにそれから歓迎集会を行いましたが、
参議院よりは徳永議長、秋山副議長——当時でございますが、出席をしていただきました。みんなが私
たちの零細な資金でやりますのでその歓迎集会参加者には一万円の会費をいただきました。それでも百二十人を超す人が集まっていただいて体裁を整えることができましたが、その歓迎集会の半ばに突然共同通信の記者の方が
質問をしたいと言い出されました。
いわく、
「セイシェルは、IWCでことごとく
日本と反対の立場をとり、とうてい
日本側では認められない巨大海棲哺乳動物の禁漁区の設定や、徹底した生物保護の政策をとっているが、その主張の根拠は何か」
ファラリー氏こたえるに、
「私
たちは、
日本人がクジラを食べ、それを貴重なたんぱく源にしていることに決して反対していません。また、
鯨類の捕獲がIWCなどで
規制され、
日本の捕鯨産業従事者、とくに零細
漁業者が困難な状態におかれていることには大いに同情を禁じえない。
しかし、セイシェル側としてはここで二つのことをはっきりと申し上げておきたい。一つは、私
たちは、クジラやイルカなどの巨大海棲哺乳動物だけを保護せよと言っているのではなく、私
たちは、自然界のあらゆる動物、鳥などは絶滅に瀕する前に適切に保護される必要があると
考えており、私
たちの
調査では
鯨類は確実に減少している。これは生物界全体のバランスがくずれつつあることを
意味しており、エコロジーの観点から言っても、ある生物資源が少なくなりつつあれば、いずれそのつけは人類におよぶのであり、今日時点で何らかの手を打っておく必要がある。
もう一つは、たしかにこれまでIWCの
会議などで
日本側とは過激なほどの対立をすることがあったが、それは
日本側がセイシェルの国家としての尊厳を侮辱したり、その活動が人間らしい表情をしていないからである。
一昨(一九八〇)年八月、セイシェルは
日本に対して、経済専管
水域直径一五〇〇キロもある我が
海域の資源測定をするための
漁業調査船の援助の要請をおこなった。正式な外交ルートであるナイロビ駐在の
日本大使館を通じて
交渉した結果、船の細部にいたるまでの話が煮つまったのですが、いざ調印の寸前に、当時のS大使が私
たちに、IWCにおいて
日本に同調してくれるなら、援助をしよう、というわけです。セイシェルは独立した主権国家であり、政治的独立、将来における経済的な自立が国是である。その上私
たちは
日本がこれまで
我が国領海内で何百、何千回とカツオ・マグロの密漁をしてきたのを黙認してきた。私
たちにはそのやり方と行動が許せなかった。その大使とそれを指示した
日本の担当幹部はとうてい私
たちの友人ではありえない。
クジラの話にもどれば、南氷洋をふくめ、
世界中でその資源が涸渇してきたのは、アメリカ、スウェーデン、それに
日本などが乱獲した為であるのに、
日本にはその反省がまったく見られない。しかし、今朝、
鈴木善幸総理が、十五分の予定を四十分間にして私
たちと話し合う機会をつくられたので、
日本の科学者の準備する資料を
我が国の専門家が慎重に検討して、つぎのIWCにはそれを参考にした態度表明をするという約束を総理にしてきました。」
このように言っておいでになるのでございますけれ
ども、その後は
水産庁当局もこの国にはいろいろお気遣いをいただいておりまして、今においても
交渉は続いておりますように承っております。今年のセイシェルの総会における態度はイギリス案に賛成ということでありましたから、
日本の代表団にとっては不信を買ったことかと思いますけれ
ども、やっぱりこの国はイギリスが旧宗主国であります。さらに小国の悩みがいろいろあったことだとは思いますけれ
ども、今日では
お互いに話し合える仲になっていただいておると思います。
その次には、小国べっ視はやっぱり慎しむべきではないか。私
たちがこの協会をつくりましたときに、千葉県のあるマグロ会社の
漁船がセイシェルに拿捕されました。
水産庁にお伺いをいたしました。担当の方の言葉が今も私の脳裏から離れません。
先生、二百海里といいましても、水の色が変わっているわけでなし印がしてあるわけではありませんから、それは間違って入ることもあります、こういうことでありました。それは事実かもしれませんけれ
ども、もし相手がアメリカであり北方四島
近海の
ソ連であったらこんなことはおっしゃらなかっただろうと私は思うのであります。百歩譲ってそうであったとしたなら、拿捕されたときに、水の色が変わっておるわけでありませんから間違って入りましたと言って何で助けてやってくれなかったんでしょうと今も思います。
私
たちはセイシェルヘ参りました。お話をいたしました。
向こうの大臣の話では、三十七年来
日本は
我が国に対して何にもよいことをやってくれなかった、皆さんがおいでになったのを機会にこれから友好国としてのよしみを通じていきましょう、拿捕した船もどうしたらよいのか皆さんにお任せをいたしますということでした。帰国をいたしましてその船主の方に連絡をいたしました。ただでも結構ですと、こういうことでありました。それは長い間抑留されておりますから、船員の方々を
向こうに送って
日本へ回送していくのは大変なことだったのかもしれません。しかしまた承りますと、そうするよりも保険金の手当てを受けた方がその方が得だったのかもしれないという声もございました。
しかし、今は
韓国とセイシェルとの共同事業としてその船が活躍をしておるということでありますから、こういったことから
考えれば
日本よりも
韓国を信頼されるということになるのは当然かと思いますけれ
ども、このようなことはやっぱり避けていって、そして小国とよしみを通じて、それからアメリカの分断策に乗せられるのではなしに、逆にアメリカとの分断策を
日本こそ行っていくことによってIWCの中で多数派を形成していくということは、本問題の
解決のためには何よりも必要なことなのではないか。小国の皆さん方の盟主として
日本が
水産界で活動できる姿を
考えただけでも愉快ではないか、このように思いますのですけれ
ども、
長官の御見解を承りたい。