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参考人(
宮城雅子君) この調査研究は目下継続中でございますが、ここで明確に申し上げられることは、第一に、
報告者の安全に対する認識が非常に高かったことで、
報告された方々のエアマンシップに対し敬意を表しております。第二に、
関係各方面の中に
理解者と
協力者があったことで、その方々に深く感謝申し上げております。しかし、その基礎となったのは、当会が運輸省からも航空会社からも実質的に独立し、中立、公正な第三者の研究組織であるとの認識がなされていたこと。また、総合的に調査を行ったことが大きな要因だったと
考えております。また、この調査研究を通じ明白になったことは、組織上の独立性と総合性を備えていればそれでよいというものではないということでございます。つまり安全
報告制度にはソフト面の必要要件があるのでございます。
その第一は、
報告者と
報告を受ける側、すなわち分析者との間の信頼
関係でございます。人的要因インシデントリポートは、
報告者らの過誤がかかわった具体的な事実の情報ですから、両者間の信頼
関係に基づいて
報告者が自発的意思によって書いたものでなければ真実の情報は
報告されません。例え法律によって
報告を義務づけ、あるいは反対に一定の条件のもとに処分、処罰をしないものとしても、それでこの種リポートが得られるものではございません。この種リポートは単なる権威や権力、あるいは形骸化した組織では収集できないことを御銘記いただきたいものと存じます。従来日本において安全
報告制度は実現不可能と言われてきたのも、一つにはこのような
理由によるのではないのでしょうか。当会に
報告された千件以上のリポートは、組織上の実質的独立性と総合性及び両者間の信頼
関係が安全
報告制度の不可欠な要件であることを何よりも如実に証明していると受けとめております、信頼
関係を構成する要件は情報源の絶対の秘匿、分析者の分析態度と能力、情報の現場へのフィードバック、改善策の四つでございます。若干説明申し上げますと、人的要因インシデントの情報が重要なのはそこに記されている事実であって、だれが
報告したかということはその詳細を確認するため以外に意味はなく、不当なせんさくや非難あるいは処分や不利益が
報告者に対してなされることのないよう特に配慮しなければなりません。そして情報源の絶対の秘匿は組織上の実質的独立性によっても客観的に保障する必要がございます。また、冒頭に申し上げたとおり安全は公共の利益でございますから、分析の任に当たる者は自己の所属する
立場の利益や個人のイデオロギーに左右されてはならず、中立
かつ公正に事実に対し謙虚に全人格を傾注して分析する必要がありますし、そのための客観的妥当性ある分析手法が必要でございます。内外を通じ従来の分析手法の中には適切なものがなく、当会は航空以外の他の分野にも汎用性ある分析手法として次のものを開発いたしました。それは
一連の作業を情報受容、判断、操作の三つの時系列の繰り返しから成る情報処理活動として把握し、人間の過誤を九つのカテゴリーに分け、各時系列における計二十七の態様と背景要因との関連を個々のインシデントについて分析する手法でございます。そしてこの分析手法並びに分析結果の客観的妥当性は社会調査の統計学上の一手法である数量化三類によっておおむね裏づけ得たものと
考えております。これは相互に関連し、複雑に絡み合った現象からインシデントの本質的な構造を明らかにするもので、分析の精度は数値によって示され、その分析結果を基礎に事故の予見、予測も可能となります。個々のインシデントの具体的
内容の現場へのフィードバックは、他人の経験を自分のノーハウとして蓄積することによって類似の危険要因に遭遇したときの回避を容易にいたします。危険要因除去のための改善策の提言が安全
報告制度の機能として最も重要であることはさきに申し上げたとおりでございます。
ソフト面の第二の要件は、継続的、反復的に行うことで、それによってとられた改善策が効果的であったかどうかを確認できると同時に、技術の進歩によって新たに生じてくる新しいタイプの危険要因を発見することができます。
第三の要件は、政府を初め
関係各方面の
協力と一般の
理解でございます。組織上、実質的独立性は不可欠な要件でございますが、安全
報告制度を実施する第三者の組織、機関に対する政府及び当該企業の
理解と
協力はもとより必要でございます。特に留意しなければならないのは一般の
理解で、一見いかにばかげたエラーの
報告であっても、決して非難してはなりません。もし安全
報告制度の本来の趣旨を没却して非難がなされるなら、二度とこの最も貴重な情報は提供されなくなって、潜在的危険要因は隠ぺいされたまま事故への道をたどることになります。そして、甚大な社会的損失を招く結果となるのでございます。
以上、主として航空の分野に関連して安全
報告制度の必要性とハード面及びソフト面についての必要要件の大要について申し上げました。航空の分野については現在まで短期的かつ暫定的に当会がこれを行ってまいりました。しかし、ただいま申し上げたとおり、安全確保のためには長期的かつ継続的な実施が必要でございます。さらには、航空の分野に限らず、特に宇宙及び原子力産業、遺伝子工学等の先端技術産業において一たび事故が発生すれば甚大な損害を生ずること、安全は
国民の利益、公共の福祉でありますから、世界の主要先進国の一つである日本においてこの長期的かつ継続的な実施は科学の進歩のためにも絶対に必要でございます。
最後に、当会に寄せられた
報告者らの信頼と安全に対する熱意及び当会の研究成果をさらに発展させ、真に効果的に機能する長期的かつ継続的な安全
報告制度を実現できる条件が
関係各方面の御
理解と御認識により整備されることを心から念願いたします。
時間の
関係上割愛いたしました法律上その他の諸点につきましては、提出した参考資料をもって補足させていただければありがたいと存じます。