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参考人(
峯田勝次君) 私は、ただいま紹介いただきました
日本弁護士連合会の
公害対策環境保全
委員会の
委員を務めさせていただいております
峯田と申します。
日弁連は
補償法成立以後、今日まで何回となくこの
補償法の問題につきまして
報告書を取りまとめまして、さらに
意見書を
関係各方面に提出してまいりました。現在問題になっております
指定地域の解除問題につきましても、
昭和五十八年の十一月に
環境庁長官から
中公審に対し諮問がありました後、三回
意見書を提出いたしました。当
委員会の
先生方にも既にお届けに上がっているかと存じます。詳しい、かなり多方面にわたります
意見はその中に盛り込んでございますので、ぜひとも御
参考にしていただきたいというふうに
考えておりますが、当
委員会に招かれましたこの
機会を利用いたしまして、若干の点につきまして改めて
訴えをさせていただきたい、
意見を述べたいというふうに思います。
まず、私
どもがこの
地域指定解除問題に取り組むに当たりましての指摘の第一点は、手続過程が非常に不公正で非民主的でおったということの指摘であります。
昭和五十九年の二月付の私
どもの
意見書の中では、手続的な担保といたしまして概略
三つほどの提案をいたしました。
一つは
被害者側推薦の学識経験者を
中公審の
環境保健部会の
委員会に加える。そして損害賠償
制度に習熟した
法律専門家を
専門委員会の中にも加えていただくこと。そして公聴会を開催するとか、あるいは議事録、資料の公開をする、こういった手続的な保障をする必要があるということを申し上げました。
なぜ、このようなことを申し上げたかということでございますが、何と申しましても第一種
地域の解除問題といいますのは本
救済制度の根幹をなすものでありまして、
被害者の権利保障の面でいきますと三要件の重要な柱になっておることから明らかなように、スタートになる重要な命題だからであります。
もう
一つは、本
制度がスタート以来、
民事責任を踏まえた損害賠償保障
制度だという構想を持っている以上、この
制度は
被害者の権利の
制度化という本質的な
法律上の性格を持っているというふうに
考えます。そしてまた、潜在
患者を含めました広く
国民の健康と生命にかかわっている
法律である。このような観点からいたしますと、
被害者側の
関係委員会に対する参加であるとか公聴会の開催、あるいは資料、議事録の公開という手続は不可欠なものだというふうに私
どもは
考えました。現に公共料金等の改定問題につきましては公聴会が各地で行われることになっております。
中公審の
審議規則を拝見いたしましても、私
どもが提案をしておりますような手続的保障ができないという論拠は全くなかったわけであります。しかし、残念ながらこれまでの経過を拝見しておりますと、私
どもの提言はほとんど生かされなかったというのが実感であります。こういう非民主的、不公正な手続過程で行われた今回の
改正法案、極めて遺憾な事態だというふうに私
どもは
考えております。
次に、
指定地域の
全面解除の
答申が
中公審からなされました。その論拠となりました二つの
基準についての
法律的な見解であります。
中公審の
答申はこう申しております。人口集団に対する
大気汚染の
影響を定量的に判断できること、これが
一つ。二つ目は、
地域の
患者をすべて
大気汚染によるものとみなし得ること。砕いて言いますと、
大気汚染の寄与度を判定をいたしまして、
大気汚染に関連する諸要因の中で
大気汚染が主たる
原因であるということの証明がない限りは
地域指定は行わない、これに該当しない限りは解除をするという、これが
中公審答申の骨格をなす
法律的な見解であります。私
どもはこの
法律的な見解について極めて大きな疑問を持っておる次第であります。
この点につきましては、まずこのような
法律的な見解が認められるものであろうかどうか、さらに従前の裁判所で蓄積された判例理論その他に合致するものであろうかどうか、これが一点であります。二つ目は、
答申が言っております寄与度の判定、これができるという前提に立っておりますが、果たしてできるものでしょうか、これが二つ目であります。そして
三つ目の疑問は、
中公審答申は
現行四十一
指定地域すべて二つの判断
基準に合致しないということで
全面解除を
答申したわけでありますが、果たして寄与度の判定をいたしまして、それが主たる
原因であるかなかったかということについての
検討を実際に行っているであろうかという、
三つの観点からの疑問であります。
まず
最初に、このような二つの判断
基準というのが法理論上認められるかという点でありますが、御存じのように、閉塞性
呼吸器疾患は
非特異性疾患だと言われております。
大気汚染のほかにも、性であるとか年齢、
喫煙、体質、
アレルギーということをよく言われますが体質の問題、職業性暴露の問題、あるいは気象、
生活水準、遺伝因子、さまざまの因子が取り上げられております。
これらのさまざまな危険因子ないし交絡因子の中で
大気汚染の寄与度を判定しろという理論でありますが、私
どもは、
大気汚染以外のその他の諸要因というのは
被害者にとって
責任を免除する理由にはならないし、あるいは
責任を限定するという理由にもならない。例えば、年をとった。確かに年をとるということを通じまして
呼吸器疾患になる
可能性が高くなりますが、年をとったということを理由にして、年をとったということと
大気汚染の関与の寄与度を比べまして、年をとったということの方が
影響が大きければ
責任がないというふうに断定していいものかどうか。現在の
法律理論上そういうことを認めることはできないというふうに
考えます。また、このような
考え方が従前の判例理論ないし本
制度の
発足時の
中公審の
考え方と一致するかどうかという点について若干の御紹介をしておきたいというふうに思います。
本
制度発足時、
昭和四十八年当時の
中公審の
答申、さまざまな
答申がございますが、医療分科会の
答申の中にこのような指摘がございます。加害者に
法律上の
責任を追及できる要素が働いている限り、科学的寄与度を定量的に明らかに分離し得なくても法的
因果関係はあるというふうに
考えるべきだという
考え方であります。この
考え方によりますと、
大気汚染の寄与度を定量的に分離、量的判定をしろということは言っていないわけであります。
制度の基本になりました四日市判決はどうでしょう。御存じのように本
制度の重要な契機となった判決でございますが、判決は、一字一句ではありませんが、このように指摘しております。他の因子が関与していても、
大気汚染と罹患、増悪との間に
因果関係があれば損害賠償
責任に消長は来さない。このように指摘をいたしておりまして、
大気汚染のその他の諸要因との
関係での寄与度の判定は一切行っておりません。現にヘビースモーカーだという指摘を受けた原告もいらっしゃいましたけれ
ども、全員につきまして損害賠償の認容をいたしております。
時間の
関係で全部を申し上げることはできないのが残念でありますが、
東京の例でいきますとクロムの労災事件という事件がございました。これは六価クロムに暴露された人
たちががんにかかった、そのがんとクロムとの間に
因果関係があるかどうか、
責任を問うていいかどうかという事件でございましたけれ
ども、もちろん、がんは御存じのように
非特異性疾患であります。裁判所はこの
非特異性疾患であるがんにつきまして、クロムは誘因であれば十分であるという観点で損害賠償を認容したわけであります。
もう少し大きい事件でまいりますと、大阪国際空港の事件。損害賠償の点では
最高裁まで行きまして、全部認容された事件でありますが、ここでも騒音と難聴、胃腸障害、こういった身体的被害との
関係で
因果関係があるかどうか、
責任を負わせていいかどうかということが大きな論点になりました。ところが裁判所は、騒音がこうした身体的被害の一因であればよろしいという観点に立ちまして損害賠償請求を認めた判決をいたしております。さらに名古屋地裁の
予防接種の事件におきまして、
予防接種と脳炎、脳症との
関係につきましても、たとえほかの
原因が関与しておったとしても、ほかの
原因だけによってその
疾病が生じたということが証明されない限り
責任を認めてよろしい、
因果関係を認めるべきだという判断でございます。
少しくどくなりましたけれ
ども、こうしたこれまでの裁判所の
考え方その他からいたしますと、
中公審がこのたびの判断
基準といたしました、寄与度の判定をいたしまして、そのほかの諸要因との比較の中で
大気汚染が主であったかどうかというようなことを
因果関係の面で判断する必要がないというのがこれまでの裁判所の判例であります。そういう意味では、
中公審の
考え方は極めて特異なものであったと評さざるを得ないというふうに私
どもは
考えております。
次に、そういう
因果関係の問題とは別に、では
大気汚染とその他の諸要因の寄与度の判定が実際には可能なんですかという問題であります。
可能だという前提がなければ、
中公審の二つの判断
基準は意味をなしません。しかし、残念ながら、これまでの疫学
調査その他を通じまして、
大気汚染とその他の諸要因との間の寄与度の判定というのは不可能だというのが実態であろうかと承知しております。したがいまして、当然のことですが、このたびの
答申の中で四十一
指定地域の解除を打ち出すに際しましても、
中公審もあるいはその委託を受けました
専門委員会におきましても、
検討の過程におきまして
大気汚染とその他の諸要因との間の寄与度の判定をした形跡は一切ございません。どの
部分を閲覧、通読をいたしましてもそのような記述はないのであります。そうしますと、四十一
指定地域の解除というのはどのような科学的な根拠を持っておやりになって、それが冒頭紹介いたしました二つの判断
基準に合致するとかしないとかいう判断をされたのか、私
どもは極めて疑問に思うところであります。
時間が迫ってまいりましたので少し飛びますが、あと一点だけでございますが、実は
指定地域の
解除要件につきましては、御存じのように、
昭和四十九年十一月二十五日付の
中公審答申がございます。
答申の
部分の朗読は省略させていただきますが、私
どもは、この四十九年十一月二十五日付
答申で言う
解除要件というのを今回全部
現状に合わないということで排斥をした理由、全く納得できるものがないというふうに
考えておりますが、現に
答申を見ましても、なぜ、どういう科学的な
検討を経た上で、以前取り決めました
解除要件を排斥するのかという指摘がないというのが実情だというふうに
考えます。
何か有症率に
影響を与える新しい因子が出現したかのごとく読むこともできますし、あるいは以前からある因子ではありますけれ
ども最近になってその因子が有症率に極めて大きな
影響を与えるということが判明したかのように読むこともできますが、いずれも、これまでの公衆衛生学の蓄積の経過を見てみましても、有症率に何か特別に
影響を与える因子が発見されたというレポートは一切ないというふうに私
どもは承知しております。そうしますと、この四十九年十一月二十五日付
答申に言う
解除要件に従って現在
考えてみたらどうかということに帰着いたしますが、これについては
環境庁もしっかりしたデータを実はお持ちではないというのが実情ではないかというふうに見受けられます。
以上、何点か申し上げましたけれ
ども、私
ども日弁連といたしましても、
現状におきまして四十一
指定地域の
全面解除をすることは時期が尚早である。
専門委員会で解析を経た
二酸化窒素との
関係も考慮して、
二酸化窒素を
指定地域の要件に加えて、幹線沿道に対する
措置も含めて新しく
救済制度の拡充を図っていくことが現在のとりあえずの急務であろうというふうに
考えております。これが私
どもの現在における提言でございます。
少し早口になりましたけれ
ども、これをもちまして私の
意見陳述を終わります。