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参考人(
南雲道彦君) 新日鐵の
南雲でございます。本日は、このような機会を与えていただきましてありがとうございます。
液体窒素温度あるいは常温で
超電導になる
材料が見つかったということで、最近いろいろバラ色の世界が描かれておりますけれ
ども、その
実用化にはまだまだ多くの
課題がございます。本日は、
研究開発の実態を
先生方に正確に認識していただきたいということで、これからどういう
研究をやらなくちゃいかぬかということをお考えいただくために、若干細かいことに入るかもしれませんが、御説明申し上げたいと思います。お手元の資料で御説明申し上げたいと思います。
まず第一ページ目でございますが、
超電導材料がどういうところに使われるかということは、今までもお話がございましたけれ
ども、いわゆるエネルギー関係、運輸・交通、情報・通信、医療、
研究機器、産業設備、いろいろございます。
超電導がアカデミックな
研究対象から
実用化に進みましたのは、いわゆる一九五〇年代に、
ニオブ・
チタンとか、あるいは
ニオブ3
スズというような強い
磁場で使える、いわゆる第二世代と呼んでいますが、第二世代の
超電導体が発見されまして、次いで一九六〇年代に入りましてからこれらの
加工技術が開発された、それが契機になっております。特に
加工技術に関しましては、
先ほどの
金属材料技術研究所の太刀川グループが非常に大きな寄与をしております。
それがきっかけになりまして、現在既に例えば医療用のNMR-CTですとかあるいは
研究用の強力磁石とか、そういうものが
実用になっておりますし、あるいは鉄道総合技研の
磁気浮上列車ですとかあるいは神戸商船大学でやっております磁力推進船とかあるいは
超電導発電機とか、小型機で
超電導を使った技術というものは実際に使えるんだということが実証されておるわけでございます。
さらに八〇年代になりましてから、例えば電力貯蔵プラントですとか大型の粒子の加速器ですとか、そういった設計がなされておりまして、ちょうど
超電導のいろんな応用が具体的に検討されてきた、そのタイミングに今回もっと高い
温度で使えるもっといいものがあるぞということになったわけでありまして、非常にそういう意味では時宜を得た
研究の開発のテンポになったというふうに考えております。そういう意味でございますから、
超電導というのは必ずしも降ってわいた話ではございませんけれ
ども、そこに二つの例を示してございます。
一つは
磁気浮上列車でございますが、これは五月の二十六日の衆議院の科学技術
委員会で、テクノバの京谷さんが詳しく述べておられますので省略いたしますけれ
ども、連結二両のMLU001というタイプでございますが、これで時速四百キロメーターを記録しております。これには
ニオブ、
チタンの
合金が使われておりまして、これを冷やすためのヘリウムの冷凍機がこの列車の中に積まれておるわけでございます。
それから右の電力貯蔵プラントでございますが、これは
超電導エネルギー貯蔵
研究会というのが設計したものでございます。現在例えば夏と冬と、あるいは昼間と夜ということで電力消費量が大幅に違っております。ピークになりますと言力が足らないということになるわけですが、それに対応するためには発電設備というのはピークに合わせてつくることになります。当然使わない時間が出てまいりますので、例えば西暦二〇〇〇年には電源設備の負荷率が六〇%以下になるんではないかというような予想もございます。
そこで、電力消費を平均化、負荷を平均化するために電力貯蔵が考えられておるわけでございますが、なかなかいいものがございません。揚水発電所というのがございます。これは夜間電力で水を上のダムに上げて昼間発電しようという方式ですが、これですと貯蔵効率が六五から七〇%ぐらいと言われております。それに対しましてこの
超電導を利用した
方法、これは永久
電流を使って
電流をぐるぐる回してためておいて必要なときに取り出すという方式でございますが、これですと、冷やしたりするための電力を入れても九〇%以上の貯蔵効率が見込まれておるわけでございます。技術的にも、これは設計段階でございますが、かなり確かな技術になっていると思います。
ただ問題は、いろいろな応用が考えられるわけでございますけれ
ども、建計とかあるいは運転にかかるコストということで、やはりヘリウムで冷やすというのは非常に大変なことになるわけでございます。それに対しまして今回
液体窒素あるいは常温で
超電導が使えるということになりますので、そういった障害が取り除かれるということで、非常に経済的に有利な見通しになってまいるわけでございます。
例えば
先ほどの
磁気浮上列車でございますけれ
ども、住友電工の中原副社長の御試算がございますが、五百キロメーターの線路で走らせますと設備費と運転費の軽減で例えば年間二百二十億のメリットが出てくるというようなこともございまして、いろいろな応用を考えましても、確かに高い
温度で使える
超電導ができるということは非常に
超電導の夢を現実にしてくれるものでございます。ただ、今まではいわゆる
臨界温度が高いということだけでよく議論されているわけでございますけれ
ども、実際にこういった
用途に使っていくというためには非常に難しい問題が多々ございますので、それをきょうは御説明申し上げていきたいというふうに思います。
次のページになりますが、
超電導をいろいろな
用途に使っていく原理は大きく分けて二つございます。
一つは
電気抵抗がゼロだということ、つまり
電流が流れるときのエネルギー損失がないということを利用するものでございます。もう
一つは、少し難しくなりますけれ
ども、
超電導現象が物理の量子力学の法則に起因するということから生ずる特異な
現象を利用するものでございます。
電流のエネルギー損失をゼロにするという
用途では、右に書きましたような
磁場をつくるとか、永久
電流を持続させるとか、
薄膜、エレクトロニクスになりますが、信号伝送を高速化するとか、こういった
用途でございますが、大体
超電導の形としては線とかテープという形にして使ってまいります。それに対しまして
超電導の量子効果を利用するということでは主にエレクトロニクスの分野になりまして、いわゆるジョセフソン素子を使って信号処理を高速化するとか、あるいは非常に微弱な
磁場を検出するというそういったものでございますが、主に
薄膜にして使われてまいります。
用途によって違いますけれ
ども、ただ材科ができたというだけでは済みませんで、こういった形にして初めて使い物になるわけでございます。
下の方に電力貯蔵プラントに使う
超電導コイルの設計の一例を、ちょっと細かくなっておりますけれ
ども、お示ししてございます。
超電導の線、これは
先ほど中川所長のお話にございましたように、もともとの線は直径が五ミクロンという非常に細い線でございますが、これを二万七千本束ねたもの、これが
一つの素線になります。これをさらに九本束ねて
一つのコイルにいたします。そのコイルが全部で百五十ターン、直径五メートルに巻いてそこに
電流を流してためようというのが今設計しておりますこのモデルプラントの例でございます。
このような線にするのは、さっき
中川所長からお話ありましたように非常に難しい高度の技術を使うわけでございますが、酸化物の
超電導体を使うといたしますと、これは窒素
温度で使いますから当然ヘリウム
温度で使う
ニオブ3
スズとは若干設計が異なってくるかと思いますけれ
ども、やはり細くしたりあるいは曲げたりというような、かなり
加工しなければならないということになってまいりまして、
金属系とは違った
セラミックスの
材料をどうやってこのような形に仕上げていくかという非常に難しい問題が出てくるわけでございます。
次のページでございますが、現在使われておりますいわゆる第二世代の
金属系の
超電導材料、例えば
ニオブ3
スズとそれから最近の新
超電導材料、
セラミックス系のものとを比べてみたのがその表でございますが、
臨界温度、要するに
超電導が壊れないぎりぎりの
温度という意味では
セラミックス系の
超電導体は非常に高い値を示しております。それから、Jcといいますのが流し得る
電流の値でございますが、大体現在便われております強力な磁石では平方センチメートル当たり大体数十万アンペアぐらいの
電流を流します。ところが現在の
セラミックス系では、
先ほど来お話がございますように、せいぜい数百から千アンペアぐらいということで、まだまだギャップが多うございます。それから、どのくらいの高い
磁場を出せるかということでは、これは案外
セラミックス系の
超電導体は有利でございまして、まあまあ
実用と考えられるものは出せるんではないかというふうに思われておりますけれ
ども、いずれにせよ、現在ではこの比といいます
電流密度が一番大きな
課題でございます。
それから、ここには書いてございませんが、
実用化いたします場合には、
先ほどの電力貯蔵プラントもそうでございますが、非常に大きな力が働きます。大
電流を流して高い
磁場が作用しますので、コイルに非常に強い
磁場が働く、あるいは
液体窒素とかヘリウムで冷やしてまいりますので当然熱収縮がございます。そういう力に対してコイルあるいは
超電導材料がひずんでまいりますので、そういうひずみに対してどうなるかというそういった難しい問題がございます。これはまだほとんど十分な
データがない
状態でございますが、単に焼き固めた小さなサンプルではかるだけではなくて、
一つの構造物としての検討をしていくということが応用の上では大きな宿題になるわけでございます。
若干基礎的な問題になりますが、次のページの
超電導材料の基本的な特性をお話し申し上げたいというふうに思います。
先ほど来お話がございますように、
超電導を
特徴づけますのは
温度と
電流と
磁場との
三つでございまして、それぞれに
超電導を
特徴づける限界の値、臨界値がございます。
実用的には、使用
温度、例えば
液体ヘリウムですとかあるいは
液体窒素ですとかそういう
温度で流すことのできる言流が幾らなのか、あるいはつくれる
磁場の値が幾らなのかというそれが大事になるわけでございます。非常に重要なことは、例えば
臨界温度が今九十Kとか百Kとか言いまして、
液体窒素温度に比べますと非常に高い値なんですけれ
ども、
磁場がかかるとそれがすとんと落ちてしまう。
実用する場合には
磁場をつくりたいわけですから、当然
磁場が働くわけですが、そうしますと
臨界温度も下がってしまって、せっかく
液体窒素温度で使えると思っていたものが実はだめだったということが起こりかねないわけでございます。その例を下にグラフに示してございます。
左の図は電総研、電子技術総合
研究所でおとりになった
データでございますが、抵抗の
温度変化を示してございます。少し小さいんですが、
磁場がない場合には一番右の点線でございまして、これは
臨界温度がこの場合は八十四度か五度ぐらいで
超電導になってございます。ところが
磁場をかけますと、例えば〇・五Tというのは〇・五テスラでございますが、それだけの
磁場をかけますと抵抗が出てまいりまして、
液体窒素温度が七十七度でございますけれ
ども、その
温度ではまだ
超電導にならない。やっと七十度を切った六十数度で
超電導になる。さらに
磁場を強くいたしますと、その
臨界温度がどんどん下がって五十度台まで落ちてしまうという、こういった
データでございます。
それから右の図でございますが、これは
電流密度がやはり
磁場をかけたときに下がってくるという
データでございまして、東芝でおとりになった
データでございますが、例えば
横軸が
磁場の強さでございますが、これがゼロ、つまり
磁場がない場合には千アンペア近くの数百アンペアの
電流が流れております。ところが
磁場をかけますと、例えば一テスラの
磁場をかけますと、その限界
電流密度が何と数アンペアにまで落ちてしまうということになるわけでございまして、とても強い
磁場は実際にはつくれないということになってまいります。このような特性を改善していかなければいけないというのが現在の
状態でございます。これがいろいろな原因で出てまいりますけれ
ども、それはまた後ほど御説明するといたしまして、次のページが
先ほど笛木先生がお話になりました酸化物
超電導体の構造と、それから特性との結びつきを示したものでございます。
いわゆる製造技術によって改良される部分と、それから材科そのものがどうしても抱えている本質的な問題と二つございます。現在は必ずしもその二つが分離されておりませんけれ
ども、やはり
材料そのものがどんな性質を持っているのかということは十分認識する必要があるかと思います。
その
一つといたしまして、この酸化物
超電導材料は
先ほどの三層ペロブスカイト構造というものでございますので、いわゆる異方性というのを持っております。異方性と申しますのは、その
材料の特性が結晶の方向によって変わるという性質でございます。この左の図で、これはペロブスカイトの結晶構造でございますが、縦方向を一応C軸ということに呼びますが、実際の
超電導の
電流はこのC軸に直角な面、a、b面と呼んでいますが、この面に
電流が非常に流れやすい、このC軸に沿った、つまり縦方向には非常に
電流が流れにくいという、そういった異方性を持っております。実際の粉を焼き固めて
材料にいたしますと、これは多結晶でございますから、それぞれの結晶の向きはぱらぱらでございます。ぱらぱらのものが入ってしまいますと、どうしても悪い方の性質が全体を引っ張ってしまうということで、いい方の性質だけを取り出すというわけにはまいりませんのです。そういう意味で、悪い方の性質がどこまでなのかということをよく認識する必要があるかと思います。
右の、少し小そうございますけれ
ども、グラフがその異方性を示した例でございます。これも
電気抵抗の
温度変化を示したものでございますが、いろいろな
磁場をかけてその
電気抵抗の
温度変化を見たものでございます。上の図が
磁場をC軸に直角にかけた場合、それから下がC軸に沿って
磁場をかけた場合でございます。ごらんのように、下の方でございますが、
磁場をこのC軸、縦方向の軸に平行にかけますと、
電気抵抗をはかってまいりますと抵抗がゼロになる
温度、つまり
臨界温度がどんどん下がってまいりまして、非常に
超電導は得られにくくなってくるということが出てまいります。こういった
特徴を持っている、異方性を持っているのだということをよく認識する必要があるわけでございまして、例えば
薄膜にいたします場合でも、
薄膜の面で、広い面積でこういう結晶方位をきちっとそろえておきませんと場所によって特性が違ってくるということになります。そういう意味で技術的にもかなり難しい問題が出てまいります。
それから、もう
一つのペロブスカイトの構造の問題は、
先ほど笛木先生がおっしゃいましたように、非常に酸素に対してデリケートな
物質でございまして、ちょっとしたつくり方の違いでもって特性が変わってくるということが出てまいります。これは主に酸素を媒介として出てくるわけでございます。これに関してはまた後ほど申し上げたいと思います。一応基本的な
特徴はそういうところにあるんだということを、
材料そのものの
特徴はそこにあるんだということを御認識いただきまして、あとはつくり方に関連した問題点を申し上げたいと思います。
六ページ目が
超電導材料の製造法でございまして、
先ほど笛木先生から御説明がありましたので詳しくは省略いたしますが、一がいわゆる
粉末をコリコリと乳鉢でこすってという
方法でございます。
真ん中が共沈法ということで、いろんな
方法がございますけれ
ども、この場合には蓚酸で沈殿させる
方法でございます。水溶液から沈殿させますから非常に均一のものが出そうでございますけれ
ども、実際は、イットリウムとかバリウムとか銅とかというこの
三つを
一緒に全部を落とすということはかなり難しい技術でございまして、いろいろと技術的な困難がございます。実はスイスのチューリヒのIBMの
方々が最初にやられたのは共沈法でございますけれ
ども、そのときの
データは必ずしも余りいい
データではございませんでした。いろいろ技術的な改善が必要な分野でございます。
それからさらに、一番下のゾル・ゲル法というのがございますが、これはさらに細かくいわゆる分子オーダーでこの
三つの元素をまぜ合わせる
方法でございます。これは
セラミックスの
一つの
加工技術として現在注目されている
方法でございますが、イットリウムとかバリウムとかという元素のアルコキシドでございますが、これを有機溶媒に溶かして、それに水を入れて加水分解させてやる。そこでゾルとかゲルとか非常に微細に分散した
状態になります。ゲルというのは、例えばお豆腐がゲルでございますが、ああいう形になりますと成形できますから、つまり初めから自分の好きな形にできますから、
実用という面では非常に有利になってまいります。ただ、これも均一なゾル、ゲルにするとか、あるいはそれを乾かしていくときにひびが入らないようにするとかという点ではいろいろな難しい技術がございます。いずれにせよ、いろいろな
方法があり得るわけでございますけれ
ども、将来の工業化を見通した場合にはやはり均一な、
材料が大量につくった場合にどれをとっても均一であるということとか、あるいは大量生産ができなくてはいけないということに適合する必要がありますから、そういう意味で、いい特性を出すと同時に工業化ということを考えた製造技術を開発していく必要があるというのが
一つの問題でございます。
次のページに、これは本論になってくるわけでございますが、まだまだ
超電導材料としての特性を上げていかなくてはいけない、その場合に
研究者はどんなことをやろうとしておるのかということをお話ししたいと思います。
先ほど来申し上げていますように、まず
臨界温度、Tcを上げていく必要がございます。現在例えば九十
度Kで
臨界温度が得られるのであれば、
液体窒素は七十七度ですからもう十分じゃないかというふうになりますけれ
ども、やはりマージンといいますか、上乗せが必要でございます。じゃどのくらいのマージンが必要かということは、どういう
条件で使うか、つまり
磁場の強さが幾らになるか、あるいは
電流をどのくらい流すのかとか、あるいはどんな構造にするのかとかという、そういったことで決まるわけでございます。できれば常温までもっていきたいわけでございますけれ
ども、実は、残念ながら
臨界温度を上げていくための指導原理といいますか、そういうものが現在ない
状態でございます。BCS理論というのが
一つの指針でございますけれ
ども、必ずしもそれに当てはまるかどうかというのははっきりしておりませんし、この新しい
材料についての基礎理論というものがそういう
方法を考えていく上でぜひ待たれる段階でございます。
ただ、経験的にはどんなものがこのTcに作用するのかということは若干わかっております。
一つは成分系でございます。例えばイットリウム系でございますが、これをほかの希土類元素に置きかえていくということが、我々もしておりますが、いろいろなされております。それからバリウムというアルカリ土層、これもほかのものに置きかえたらどうかとか、あるいは銅をやはりほかの遷移
金属にかえたらどうかとか、いろんなやり方がございます。こういった組み合わせを、いわゆる組成比、量まで含めて組み合わせを考えますとこれは無限に近い
条件が出てまいります。いわゆる人海戦術でいっぱい人が並んで乳鉢をコリコリという風景も出てくるわけでございますけれ
ども、なかなか難しい
状態でございます。
右の図は、イットリウムをランタンで置きかえた場合でございまして、少量の置きかえですと非常に特性が悪くなるんでございますけれ
ども、一〇〇%置きかえてしまうとまたよくなるということでございます。いわゆる資源的にはイットリウムよりランタンの方が値段も安いし大量にあるということで、このような
データは
実用的な意味では役に立つんではないかというふうに思っております。
それから第二番目の問題としましては、組織の均一性がございます。これは若干後で触れたいと思いますけれ
ども、こういった組成にしたいということで、原科の粉をはかっていろいろ焼結するわけでございますけれ
ども、思ったとおりの
材料になっているかどうかということの保証はないわけでございます。例えば反応しないで残ったり、あるいは沈殿させようと思っても沈殿しないで液の中に残ったりというようなことがございまして、そういった均一な組織にしていくという技術が
一つの大きな
課題でございます。
それからもう
一つは、熱処理
条件の最適化ということでございます。
先ほどペロブスカイト構造が酸素に敏感だということを申し上げましたけれ
ども、右の図に示してございますけれ
ども、例えば九百五十度ぐらいで焼結いたしましてそれを冷やしていく場合に、すぐに急冷いたしますと、一番右にございますが、
絶縁物になってしまいまして
超電導ではなくなります。それから、炉から出しまして空気中で冷やしますと
超電導にはなりますけれ
ども、
臨界温度は五十
度Kぐらいである。ところが炉に入れたままで炉の電源を切ってゆっくり冷やしてやると九十度ぐらいの特性が得られるということになります。これは主に酸素の量ですとか入る位置によりまして、同じ組成の同じ
物質であってもこのような熱処理の
条件とか雰囲気とかそういうものによって特性が大幅に変わってくるということでございます。特に大量にものをつくっていくという意味では注意しなくてはならないところでございます。以上が
臨界温度でございまして、次のページに臨界
電流について若干触れてあります。
これは今の
セラミックス系の
超電導材料の一番の弱点と申し上げてよろしいんですが、何がきいているかと申しますと、まず密度がございます。
材料の
電流密度というのはトータルの
電流値を
断面積で割った値でございますから、試料の中に気孔が残っていますと
電流の流れる道が狭くなるということで、実質的には
電流密度が小さくなってしまいます。
セラミックスの宿命といたしまして、まず原料の粉を混合いたします。そのときに均一にまざってくれるといいんですが、どうしてもまだらにしか入らないということがございます。それを今度は焼結して反応させて
一つのものにしていくわけですが、もともとの
状態が粉だということのために、焼結していくときにどうしても中に気孔が残ります。そういった穴が残ってしまうこととか、あるいは入れた原科が完全に反応してくれないとかいうようなことがございまして、結局でき上がったものが不均一な
状態になってしまうという問題がございます。
それから、その下にございますのが組成の均一化ということでございますが、
先ほど臨界温度Tcのところでも申し上げましたけれ
ども、せっかく入れた
材料がちゃんと反応してくれたかどうかという問題がございます。
左の図は、
先ほどの酸化物混練法という名前にしていますが、原料の酸化物を乳鉢でこすり合わせましてそれを焼いたものでございます。この
写真は一種の
顕微鏡写真でございまして、コンピューターで処理して、元素ごとにあるいは濃度ごとに分布
状態をカラー表示することができるものでございまして、私
どもで開発しました手法でございますが、この
写真は、赤い部分が銅、それから青い部分がバリウム、それから緑の部分がイットリウムという
状態でございます。ごらんのように左の
写真では、せっかく入れたものが反応しないで、銅は銅のまま、バリウムは青のままということで固まって残っておりまして、当然その部分は
超電導ではございませんから、全体の中で
超電導が占める比率は非常に小さくなってしまうということでございます。その結果といたしまして、
電流密度は単位平方センチメーター当たり六アンペアしか得られておりません。
それに対しまして、右側の化学的合成法と書きましたのは、私
どもで共沈法を少し改良いたしましてつくったものでございますけれ
ども、これですとかなり均一になりまして、
電流密度も三百五十アンペアまで上がったということでございます。これでもまだ完全には均一でございませんので、非常に均一に原科がまざるような技術を開発すればJcの改善はよくなるだろうというふうに考えております。
それから、さらに話が細かくなりますけれ
ども、次のページにミクロの話が書いてございます。例えば粉を焼き固めた場合には、多結晶といいまして、ここに
写真がございますように、
一つ一つが数ミクロンから十ミクロンぐらいの結晶の固まりになっているわけですが、例えば、それぞれの結晶の境界、結晶粒界と言ってもいいんですが、そこが非常にJcの
電流密度の低い部分であった、極端な話、
絶縁体であったといたしますと、そこに壁がございますから
電流は流れられなくなるわけでございます。そういう意味で、非常にわずかな層でございますけれ
ども、例えば結晶粒界にそんなものができると非常に特性が悪くなる。事実こういった、これはたまたま結晶粒界に層ができた
状態でございますけれ
ども、
電流密度は非常に低い
状態になっております。
右の図は、それを割ってその破面を電子顕微鏡で見たものでございますけれ
ども、やはり非常に細かいぼちぼちした層が出てくるということでございます。これもやはり熱処理のやり方、つくり方の技術によってこういった
状態が出てまいりますので、この辺の安定した製造技術というものが入ってまいります。この辺は、その技術が改良されますとだんだんよくなってくるというふうに思いますけれ
ども、その
真ん中の下に書いてございます結晶の方位の異方性の問題がございます。
これは、
先ほど申し上げましたが、やはり
電流の流れ方にいたしましても異方性はございまして、例えばC面に垂直、つまりC軸に沿って
電流を流そうと思いますと、これはヘリウム
温度ですけれ
ども、これは
薄膜での
データで直接の測定ではございませんが、四十二万アンペアでございますが、C面に平行、つまりC軸に垂直な面ではかりますと非常に大
電流が得られまして、約三百万アンペアぐらいの
電流が得られる。つまり
電流の流す面によって
電流値が大幅に異なる、一けたから二けたぐらい違うということになってまいります。ですから、一番最適な
条件でどこまでの
電流が流れるのか、あるいはそのように結晶の方位をそろえてやるということが大きな技術的な
課題でございます。あるいはそれが場合によってはこの
材料の限界特性を支配するということになってまいります。
それから、五番目が
材料のミクロ不均一性ということでございますが、これは現在までほとんどまだ
研究もございませんし、詳しいことは申し上げられませんが、例えば
ニオブ・
チタンですとか、
ニオブ3
スズというような
金属系の
超電導材料では、この
材料のミクロ不均一性というものをうまく使いまして特性を上げることがなされております。ミクロ不均一性は何かといいますと、例えば不純物元素だとか、あるいは
先ほどの非常に細かい析出物だとか、あるいは結晶の構造が乱れてくるそういう不完全性だとか、
原子オーダーの話でございますけれ
ども、それを上手にコントロールいたしますと、例えば火、
電流値ですとかあるいは
磁場の値とかいうものがよくなる可能性がある。これは非常に夢のある話でして、ぜひ取り組んでいきたいというふうに思いますが、
先ほど申し上げましたように、まだまだここまで立ち入った
研究はなされていないというのが実態でございます。
以上がいわゆる素材としての
研究の状況でございますが、次のページにそれを
線材にしていく上での話を若干書いてございます。酸化物の
超電導材料といいますのは、
セラミックスでございますから、一たん焼き固めた後、それを曲げたりあるいは細い線にしたりするという
加工は極めて国難でございます。したがいまして、最後に焼き固める前に成形するという
方法になります。
そこに漫画でかきましたのは私
どもがやっている
方法でございますが、私
どもは、フラックス入りの溶接棒というのがございまして、溶接棒をつくるときにやはり酸化物を中に詰め込んでいく技術を持ってございます。それを
超電導材料に適用しているわけでございますが、図にございますように、一番右にアンコイラーというふうにありますけれ
ども、幅の狭い
金属のリボン、テープを使います。それを丸めてまいりまして、そこに酸化物の粉を入れます。それをさらに丸めて溶接し圧延して巻き取り、あるいはさらにそれを伸線するという
方法で線にするわけでございます。線にした後それを熱処理いたしまして、反応させて
超電導状態にするという、そういった
方法をとります。
問題は、
先ほど来申しておりますように、いい特性を与えるためには十分な密度を与えないといけませんがら、いかにしてそういった圧縮を与えるかという問題がございます。それから、後で反応させるときに周りを囲んでおります
金属と中の酸化物とが反応いたしましてどうも酸素が足りなくなってしまうということで、反応のしにくい
材料を選ぶということがございます。さらに熱処理するときに酸素を十分吸わせるというような、そういった技術が必要になってまいります。
右の
写真に示してございますけれ
ども、この場合には一番外側に銅を使い、市側にステンレスを使い、一番中に
超電導材料を詰め込んだというものでございまして、
超電導状態は得られますけれ
ども、特性はやはりただ焼結したものと比べますと若干落ちるというのが実態でございます。
線とかテープのつくり方としましては、それ以外に、下にございますように、例えばゾル・ゲルみたいなものを基板の上に塗って乾燥して焼きつける
方法とか、プラズマで粉を吹きつけるとか、あるいは
中川先生からお話しございましたように、電子ビームとかレーザーで照射するとかいろいろな
方法がございまして、それぞれにこれからの展開があろうかと思います。ただ、こういった
加工技術と申しますのはいずれもファイン
セラミックス分野で直面している技術
課題でございまして、そこで抱えている大きな問題を
超電導の分野でも克服していかなければいけない、あるいはさらに難しい
条件でそれを克服していかなければならないという
課題でございます。
最後に、これからどんなことをしなければいけないかということを若干述べてございます。
最初に申し上げたいことは、今回の
超電導材料といいますのは総合技術であるということでございます。これはいわゆる物理の基礎原理ということに立ち返って考えなければいけない問題だということがまず第一にございますし、それが従来培われてきた
金属系の
超電導材料と比較した上で
セラミックスの技術をフルに活用しなくちゃいけないということがございます。さらに
加工技術ですとか周辺技術、周辺技術の中には例えば微細
加工の技術ですとか、あるいは構造材をどう組み合わせるとかいったそういうメカニカルな問題も入ってまいります。ですから、こういう総合技術を発展させるためにはやはり多分野の有機的な協力が必要になるわけでございまして、従来の
一つの専門分野だけではとても発展が期待できないというふうに考えております。またさらに、いろいろ申し上げましたけれ
ども、技術的な努力の積み重ねで一部は解決されるというふうに思いますけれ
ども、やはり新たなブレークスルーというものがどうしても必要じゃないかなという予感がしておりまして、やはり基礎
研究の強化というものが必要だというふうに思っております。
それから二番目が安全性、信頼性の問題でございますが、特にこの
用途が例えばエネルギー産業ですとか運輸、交通とか、非常に産業の根幹にかかわるようなものになればなるほどその信頼性というものが非常に重要になってくるわけでございます。そういう意味で、
材料をどう評価するか、あるいはそれをどう規格化していくかということについては万全の検討が必要ではないかというふうに思っております。
それから最後に、「新産業革命ともいうべき社会的インパクト」と書きましたけれ
ども、これが、大勢の人が予想しておりますような世界が実際に実現いたしますれば、まさに産業革命に匹敵する技術になります。そうなった場合に、これは非常に人類の全体の問題にかかわるわけでございますから、一体特許というものをどう扱っていくのか、ごく一部の人の独占に任せていいものかどうかというような問題もございます。それから、当然非常に大きな広がりを持った
研究になってまいりますから、やはり巨大科学技術という性格を持ってくるというふうに思います。そういう意味でのできれば国際的な共同プロジェクトというものを推進していく必要があるんじゃないか。当然民間もそれに参画するわけでございますけれ
ども、規模からいって非常に大きな規模になってくるだろう、
一つの民間企業としてこれにたえ得るだろうかというような問題も実は考えております。そういう意味で、大きな社会的インパクトをもたらすようなものをどのように総合的に
一つの
研究開発として組織していくかということをやはり考えていかなければいけないんじゃないかと思います。
最後に、特に日米関係などでいろいろ批判がございますけれ
ども、こういう画期的な技術は、やはり基本というのは大きな人類の歴史の流れの中でイノベーション、単に応用技術ということじゃなくて、イノベーションで世界に貢献していくということが不可欠なことでございまして、その基本に立っていろいろ国際的な問題にも対処していくべきじゃないかというふうに考えております。
以上でございます。