○田中慶秋君 私は、民社党・民主連合を代表し、ただいま提案されております
労働基準法の
改正案について、
中曽根総理並びに
関係大臣に
質問いたします。
四十年ぶりの労基
法改正は、
国民の関心の的になっているわけであります。言うまでもなく、ゆとりと潤いのある
国民生活を
実現するためには
労働時間の
短縮は不可欠であり、同時に、現在深刻化しつつある
貿易摩擦の解消、
内需拡大の
実現にとっても急務であります。
労働時間の
短縮は、当然余暇活動、例えばスポーツや趣味に振り向ける時間を長くいたします。
国民生活にゆとりが生まれるだけではなく、余暇関連
産業への需要が高まることでしょう。現在、余暇関連
産業の市場規模は約五十兆円と言われ、年々その規模を
拡大していることは御承知のところだと思います。
労働時間の
短縮は、
内需拡大を通じて
貿易摩擦の解消へ寄与するところ極めて大と言わざるを得ません。現に、ある試算によれば、休日を
年間十日ふやすと、経常収支は
昭和六十年度価格で九十二億ドル減ると言われております。
労働時間の
短縮は、
貿易摩擦の解消を果たすには
効果抜群のものと私どもは
考えているわけであります。
さらにまた、
労働時間の
短縮が
雇用の増大にも大きな
効果を発揮することを
指摘しなければなりません。現在、完全失業率が三・二%に達するという厳しい
雇用状況にあり、加えて、高齢化社会の到来を迎えでできるだけ多くの人々に仕事を分かち合う
必要性が高まっていることは、改めて
指摘をするまでもありません。
労働時間の
短縮が
雇用機会の
拡大につながることは、既にさまざまな試算でも明らかなことであります。
西ドイツ、
フランスなどでは、
政府、
労働組合が
中心となって
労働時間
短縮によるワークシェアリング政策に取り組み、完全失業率を引き下げる上で大きな貢献をしたのであります。
以上申し上げましたように、今や
労働時間の
短縮は、
日本が国際的
責任を果たし、
経済大国にふさわしい
生活水準を達成するために避けて通れない最大の課題の一つと言わざるを得ません。
労働時間
短縮に取り組む
政府の基本姿勢を、
総理並びに
労働大臣にお尋ねいたします。
四月二十三日に提出されましたいわゆる新
前川レポートでは、西暦二〇〇〇年に向けてできるだけ早い時期に
年間総実
労働時間千八百時間
程度への
短縮を進めるべきだとしております。二〇〇〇年までに千八百時間を
実現するという
目標は、諸外国からも国際的
公約と受け取られております。しかしながら、新
前川レポートにおいても、千八百時間を達成する具体的なプログラムは全く示されておりません。
政府は、千八百時間の
実現に向けて具体的なプログラムを策定する責務を負っていると
考えておりますが、
総理並びに
関係大臣の所見をお伺いしたいのであります。
既に
政府は、
昭和五十五年に
週休二日制等
労働時間
対策推進計画を策定し、
年間総実
労働時間を
昭和六十年までに二千時間にすることを打ち出しました。しかし、同計画が思うように進まなかったために、
昭和六十年六月に「
労働時間
短縮の展望と指針」を改めて策定し、
昭和六十五年までに二千時間に
短縮することを打ち出したのであります。また、
昭和六十年十月十五日の
経済閣僚
会議で策定しました「
内需拡大に関する
対策」では、
週休日等の
年間休日日数を今後五
年間で十日
程度ふやし、これを欧米
主要国並みに近づけていくとの方針を示しました。
しかしながら、これほど多くの方針、提言がなされながら、
我が国の
労働時間
短縮は遅々として進んでいないのであります。一九八五年の国際比較統計によれば、
日本の
労働者の
年間総実
労働時間は二千百六十八時間に達し、アメリカ、イギリスよりも二百時間以上、
西ドイツ、
フランスよりも実に五百時間以上長くなっているのであります。しかも、OECDの統計によれば、一九七五年を一〇〇とした場合の
労働時間は、先進諸国がおおむね九〇台に減少する傾向にあるのに対し、
日本は一九八四年で一〇二・四と、むしろふえる傾向にあるのであります。
このように
労働時間
短縮が進まず、
政府の施策が達成できなかった理由についての十分な反省と
検討がなくては、これから
労働時間の
短縮を推進していくことは困難であると
考えております。なぜこれまで
労働時間が思うように
短縮できなかったのか、その原因をどのように
考えているのか、御
答弁をいただきたいのであります。
このたびの
労働基準法改正案では、本則に週四十時間
労働制を定めてはいるものの、当面の
労働時間は政令で別に定めるとしており、週四十時間制への移行時期が全く明らかになっておりません。これではまた
もとのもくあみとなることは必至と言わなければなりません。二〇〇〇年までに千八百時間を達成するという政策
目標との関連はどのようになっているのでしょうか。我々は、一九九〇年代のできるだけ早い時期に週四十時間制へ移行するのでなければ、千八百時間の達成は不可能であると
考えております。週四十時間制への移行時期を明らかにしていただくとともに、今回の
改正が千八百時間達成につながるということの具体的な
効果について明確な
答弁をいただきたいものであります。
あわせて
変形労働時間制についてお尋ねいたします。
本
改正案で導入されることになっている三カ月
単位の
変形労働時間制でありますが、
労使協定を結ぶと、従業員三百人以上の
企業では、三カ月を
平均して週の
労働時間が四十時間であれば、一日八時間、週四十六時間を超えて働かせてもよいということになります。一日、一週の最長
労働時間の
規制がなければ、繁忙期には一日十時間でも十二時間でも働かせてよいということになるわけであります。それだけでも過重
労働を認めるがごときことと言わざるを得ません。
さらに問題になるのは、この
変形労働時間制は、
労使協定こそ必要としているものの届け出不要ということから、
労使の力
関係いかんでは、使用者側の都合でどうにでもなるおそれがあることであります。また、この場合の超勤手当の支給についても、週
平均四十時間を超えた場合、超勤手当を支払うということでありますが、三カ月経過しないと、超勤したかどうか本人にもわからないという不明な点が数多くあるのであります。加えて、零細
企業の場合、こうした
変形労働時間の導入は一層
労働条件の劣悪化を招くことは必至であり、一日、一週、一カ月の
労働時間の
上限を明確にする必要があると思いますが、この点についての
見解をお伺いしたいと思います。
現在、
完全週休二日制の採用など
労働時間の
短縮は、大
企業では、徐々にではありますが、進んでおります。しかしながら、七月十三日の
昭和六十一年
賃金労働時間
制度等総合調査の結果によれば、
完全週休二日制を享受している
労働者の割合は、中
企業で一五・六%、小
企業の
労働者では三・五%と、
企業の規模による
格差は極めて大きくなっております。
労働時間の
短縮を進めるためには、
中小企業の
勤労者、経営者への配慮を欠いてはなりません。この点について
総理の御
見解をお伺いしたいと思います。
労働時間の
短縮を進める際に
影響力の大きいのは、
金融機関と官庁であります。八月六日の人事院勧告においても、隔週
週休二日制、いわゆる四週六
休制の本格
実施を求めております。四週六
休制について、既に一部では試験
実施が行われているわけでありますが、その間の経過を見ても本格
実施の機は熟していると言えましょう。
国民に対する行政サービスの低下を招かないよう、行政事務の効率化を進めるとともに、土曜
閉庁方式を含めて公務員の
週休二日制をさらに推進すべきだと
考えておりますが、御所見を賜りたいと思います。
次に、所定外
労働時間についてお尋ねいたします。
日本の
勤労者の
労働時間の中で特に所定外
労働時間、言いかえれば残業時間の長さが目立っておりますが、一九八五年の推計によれば、アメリカの百七十二時間、イギリスの百六十一時間、
西ドイツの八十三時間などと比べて、
日本は二百十九時間に及んでおります。しかしながら、他方、時間外
労働による収入が、現在住宅ローンの支払いや高額の教育費負担に苦しむ
勤労者の
生活を支える貴重な収入源になっていることも事実であります。所定外
労働時間を
短縮するためには、
法定労働時間の
短縮と並んで、所定外
労働時間に頼らずに済むように、中長期的な
観点から住宅土地政策の充実、教育費の負担の軽減など、他の政策と並行して進めるべきではないかと
考えておりますが、御所見をお伺いしたいのであります。
労働時間の
短縮は、単に国内的な
目標だけではなく、それ自体国際的
目標になっているのであります。それは、
経済の
国際化が進んだ
世界で公正な国際競争を進めるためには、
労働時間など
経済成長の
要因となる条件をできるだけ統一しなければならないからであります。そのために設定されておりますのが、
ILO条約・勧告に示されているいわゆる国際
労働基準であります。
我が国の
労働時間を含めた
労働条件も国際
労働基準にできるだけ近づけていかなければならないと
考えております。
しかしながら、現在、
我が国の
ILO条約批准数は、
昭和六十二年七月現在で総条約百六十二のうちわずか三十九にしかすぎません。また、
ILOが創立五十周年記念として設定された基本十七条約についても、九条約の批准にとどまっております。先進諸国では批准数は百を超えているところもあり、
我が国の条約批准の現状は発展途上国並みであると言えましょう。
労働時間についても、週四十時間
労働制を定めた第四十七
号条約、
年次有給休暇について定めた第百三十二
号条約はいまだ批准されておりません。本
改正案でも、
年次有給休暇の
最低付与日数が六日から十日に
引き上げられますが、これは
ILO条約に言う
最低付与日数、三
労働週、
週休二日として十五日から見ると、いまだ不十分なものにとどまっているわけであります。
再度申し上げますが、
労働時間、
労働諸条件を国際
水準に近づけることは、
経済大国から
生活先進国への道を進むためには、また諸外国からアンフェアとのそしりを受けないためにも欠くことのできない施策ではないでしょうか。この点から
考えてみますと、
労働基準法の抜本
改正など国内条件の
整備とともに、
ILO条約の批准を積極的に進めなければならないと
考えておりますが、
総理及び外務
大臣の
見解をお伺いしたいと思います。
また、
年間休日数の増加についてお伺いいたします。
昭和六十年に与野党間で構成された時間
短縮及び連休問題懇談会の
報告を受け、連休の谷間であった五月四日の休日化が
実現されました。
労働時間
短縮がいよいよ緊急の課題となっている今日、
労働者の祭典である五月一日をも休日とし、太陽と緑の週として五月の飛び石連休を丸々一週間休めるようにすることは極めて意義深いものでありましょう。太陽と緑の週の
実現に向けての
努力について、
総理の
見解をお伺いしたいのであります。
最後になりますが、
総理は「戦後政治の総決算」とよく言われます。また、国際国家
日本を信条としておられました。
日本は今日まで
経済大国として成長してまいりましたが、そのことが
円高、
貿易摩擦を招いております。
そこで、民社党は、今、
経済大国より
生活大国、すなわち
生活先進国として、今回の時間
短縮、
労働基準法改正もその一歩として受けとめております。
総理並びに
労働大臣の御
見解をお伺いし、私の
質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕