○薮仲義彦君 私は、公明党・国民
会議を代表して、ただいま
議題となりました
外国為替及び
外国貿易管理法の一部を改正する
法律案について、総理並びに関係大臣に質問するものであります。
総理、あなたは、去る八月六日、広島被爆四十二年平和記念式典に出席され、多くの今は亡き方々に献花をなさいました。そして今、八月十五日、終戦の日を迎えられました。総理、総理の胸に去来するさまざまな思いがあることと思います。国民もまた、めぐり来た四十二回目の終戦の日を迎えました。国民は、その戦争の悲惨さ、残酷さを胸に刻み、再び戦争など断じて起こしてはならないとかたく決意したことでありましょう。そして、余りに大きく悲しい代償の中に得た平和の重み、平和の大切さ、そして平和のぬくもりを改めてかみしめた日でもあったと思うのであります。さらに、国民は、日本が平和の中にしか存在し得ないこと、そしてそのことがいかに大切であるかを再確認した日でもあったと思います。
総理、改めて申すまでもなく、
我が国が世界で初めての、しかも唯一の被爆国家として、
国際社会の中で核廃絶に、そして世界平和へと大きな役割と責任を果たさなければならないことは言うまでもありません。私は、この思いの中で、ただいま上程された
外為法改正につき、総理並びに関係閣僚に質問するものであります。
我が党は、基本的に、対外貿易は自由であり、その原則は堅持されなければならないと考えております。本来自由な経済活動の中で
我が国が世界に対し何をなすべきか。それは申すまでもなく、すぐれた
技術と優秀な製品をもって世界経済の
発展に寄与すべきことが大切であると考えます。この本来自由であるべき対外貿易に、
安全保障という国防上の概念が今回さらに
強化されるということについてであります。
我が党としては、世界貿易が建前どおり自由に行われているものではなくしかも国の
安全保障が確保されずに貿易の自由が存在するものではないことも十分承知いたしております。しかし、貿易という経済活動に
安全保障という観点からの政治の介入が
強化された場合、それはひとり貿易にとどまらず、国の経済活動や社会の体制にまで
影響し、すべてが国の
安全保障という政治力に支配される事態にならないかとの懸念を持つものであります。
すなわち、
我が国の経済の
発展、特にその基礎となる自由な研究や新しい
技術の開発、また、これからの世界経済の中で最も大切な最先端
技術であるエレクトロニクスやバイオテクノロジー、新素材の開発等の阻害要因になることはないかとの懸念を持たざるを得ません。
なぜかならば、現代のすべての高度な
産業技術や機械製品を汎用、軍事用に区別することは、今やほとんど不可能に近いと言わざるを得ないからであります。そこへ防衛というイデオロギーが持ち込まれれば、すべてのすぐれた工業
技術や機械製品が軍事用とみなされる事態にならないかとの危惧であります。したがって、
外為法の中で国の
安全保障という概念が強調された場合、日本の全
産業に国防優先のゆゆしき支配体制が出現しかねず、一歩踏み誤れば日本の将来に重大な禍根を残すことになるのではないかとの懸念を持つものであります。
特に、我が党としては、中曽根
内閣になってからの五年、日本が唯一の被爆国であるとの立場から、世界平和の旗手として、世界に誇れる平和国家として行動してきたかどうか、疑念を持たざるを得ません。それは、東西の緊張緩和に確かな足取りを示したでありましょうか。また、特に、最も近い国々、お隣の中国を初めアジアの国々に対し、平和への確かな安心感を与えてきたでありましょうか。断じてノーと言わざるを得ないのであります。
なぜかならば、中曽根
内閣になってからの日本を中心とする東西関係はどうであったでありましょうか。あるときは三海峡封鎖、あるときは日本列島不沈空母論、そして防衛費の一%突破、さらにはSDI参加へと、危険な、もと来た道へと歩みを進めているのではないかとの危惧をぬぐい去ることができないのであります。
そこで、質問の第一は、日本国憲法の前文と
ココムの
規制についての見解であります。
日本国憲法は、その前文において、基本原理として、国民主権、基本的人権の尊重及び平和原則を宣言しております。とりわけ平和原則が明示され強調されているのは、総理が十分御承知のことであります。
前文冒頭は「日本国民は、正当に選挙された
国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とあります。このことは、すなわち、現在はもとより将来の世代に至るまで、
政府の行為によって戦争の惨禍を再び起こさない決意、さらに決して戦争の被害者にも加害者にもならないことを確認し、恒久平和を念願し、いかなる国をも仮想敵国視することなく、相互を信頼し、平和主義に基づく国際協調の精神を明らかにしております。
この憲法の精神に立脚するならば、
ココムの
規制強化をすることは、憲法の平和主義、国際協調の精神に反することにならないか、総理の見解を求めるものであります。
また、今日東西関係が再び緊張緩和の方向をたどろうとしているとき、
我が国がそれに背を向けるような施策を国としてとることが日本の平和と安全の
維持に役立つと考える理由を明確にしていただきたい。我が党としては、
ココムの体制の
強化ではなく、東西交流を通じた緊張の緩和と平和の
維持へと努力することが国のとるべき道であると考えますが、あわせ総理の見解を求めるものであります。
質問の第二は、このたびの
外為法改正案によれば、二十五条及び四十八条において「国際的な平和及び安全の
維持」という
表現で、
ココム規制地域とその他の
地域を区分した法案の立て方になっております。
ここで
通産大臣にお伺いしたいのは、いわゆる「国際的な平和及び安全の
維持」とは具体的に何を意味するのか、また「国際的な平和及び安全の
維持を妨げること」を政令で定めるとしておりますが、その判断はだれが行い、また具体的にはどのような基準で行うのか、明確な答弁を求めます。
また、総理は、今回の
東芝機械の
事件に関し、今回の
事件はひとり自由世界の
安全保障のみならず、
我が国の安全にも重大な危険性をもたらす背信行為であるとの
表現での発言がありますが、
我が国は防衛政策の基本として仮想敵国を持たないことを明らかにしております。しかるに、いかなる国のいかなる危険を脅威とするのか、この点明確な答弁を求めるものであります。
第三は、
外為法は本来経済法であり、しかもその第一条で明確に
対外取引の自由を定義しております。しかるに、その経済法に
安全保障という異質の、しかも本来自由であるべき貿易に逆に働くであろう
安全保障の概念を持ち込んだことは、明らかに立法上矛盾ありと思いますが、見解を求めます。
また、運用上、もしその運用を誤れば重大な事態を引き起こしかねない点についてであります。それは、運用に際し、
安全保障が強調された場合、日本の全
産業が防衛という立場からコントロールされる危険性があるのではないかという危惧についてであります。もしその危険なしとするならば、その歯どめについて。また、
産業界のみならず、自由な学術研究や基礎研究の分野にも及ぼすことがないのかとの懸念に対しても、あわせて
通産大臣に明確な答弁を求めるものであります。
第四に、防衛庁及び外務省の関与についてであります。
初めに、防衛庁が今後どのように
ココムに関与するのか伺いたい。また、
ココムに関する関係閣僚
会議の設置が検討されましたが、この
会議の
目的並びに構成メンバー、さらには
協議されるべき
内容、開催の時期について明確にされたい。
次に、外務省は、いかなる事態のとき、どのような
意見を述べるのか、また、その
意見の及ぶ範囲を具体的に
説明されたい。
第五に、東西の緊張緩和及び世界平和の観点からするならば、総理は、将来
ココムをどのようにすべきものと考えておられるか伺いたい。すなわち、
強化拡大が、それとも縮小削減を期待するのか、明確にお答えいただきたい。
もし
強化を望まれるのであれば、なぜ
強化することにより世界平和が前進し、しかも
我が国の平和と安全の
維持に役立つのか、明快な答弁を求めます。また、縮小を期待するのであれば、今後どのように
ココムに対し働きかけるのか、決意を伺いたい。
第六に、今回の
東芝機械の
事件を通じてのアメリカ議会の対応について総理の見解を求めます。
その第一は、本来
ココムの
規制は国際条約ではなく紳士協定であり、違反については、あくまでそれぞれの国がそれぞれの国の国内法で処理すべきものであります。今回のアメリカ議会の対応は、かえって日米友好関係に亀裂を生ずるのではないかとの深刻な危惧がありますが、総理の見解を求めます。
また、第二には、アメリカの世界における軍事及び先端
産業におけるヘゲモニーの確保のためのいら立ちとの批判もあるようですが、総理はいかがお考えか、お伺いいたします。
第七に、今日の
我が国と中国との友好関係を
維持発展させることの重要性の立場から、
外為法改正により日中関係に悪
影響があってはならないと考えますが、今後の中国との貿易の
発展向上にはどのように取り組もうとするのか、総理の見解をお伺いいたします。
第八に、
政府はSDIの研究参加を決定しましたが、このことは、
昭和四十四年五月九日の、宇宙の開発利用は平和
目的に限るとした
国会決議の無視に当たるのではないか。また、新しい
技術の使用権、機密保持などは、今回の
ココム強化と同列で、
我が国の先端
技術へのアメリカの介入及び軍事機密の名のもとでの防衛庁の
産業活動への介入にならないかとの懸念にどう答えられるのか、明快な答弁を求めます。
最後に、今回の
東芝機械の問題をめぐって国家秘密法制定に対しての動きがあるように思いますが、総理の国家秘密法に対する見解、並びに今
国会に
提出の考えがあるのかどうか答弁を求め、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕