運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1987-09-01 第109回国会 衆議院 法務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年九月一日(火曜日)     午前九時十三分開議 出席委員   委員長 大塚 雄司君    理事 井出 正一君 理事 今枝 敬雄君    理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君    理事 保岡 興治君 理事 坂上 富男君    理事 中村  巖君 理事 安倍 基雄君       逢沢 一郎君    赤城 宗徳君       稻葉  修君    木部 佳昭君       佐藤 一郎君    佐藤 敬夫君       丹羽 兵助君    宮里 松正君       稲葉 誠一君    小澤 克介君       山花 貞夫君    橋本 文彦君       冬柴 鐵三君    安藤  巖君  出席国務大臣         法 務 大 臣 遠藤  要君  出席政府委員         法務大臣官房長 根來 泰周君         法務省民事局長 千種 秀夫君         法務省刑事局長 岡村 泰孝君         法務省入国管理         局長      小林 俊二君  委員外出席者         警察庁警備局外         事課長     国枝 英郎君         法務省入国管理         局登録課長   黒木 忠正君         参  考  人         (財団法人入管         協会専務理事) 中市 二一君         参  考  人         (在日本朝鮮人         総聯合会中央常         任委員会社会局         長)      河  昌玉君         参  考  人        (南山大学教授) 萩野 芳夫君         参  考  人         (愛知県立大学         教授)     田中  宏君         参  考  人        (東京大学教授) 大沼 保昭君         法務委員会調査         室長      末永 秀夫君     ――――――――――――― 八月三十一日  外国人登録法の一部を改正する法律案坂上富  男君外四名提出衆法第八号) 同日  刑事施設法案反対に関する請願正森成二君紹  介)(第八二二号)  刑事施設法案廃案に関する請願中路雅弘君  紹介)(第八一四号)  同(中島武敏紹介)(第八一五号)  刑事施設法案早期成立に関する請願森喜朗  君紹介)(第八一六号)  同(伊吹文明紹介)(第九二一号) 九月一日  刑事施設法案廃案に関する請願柴田睦夫君  紹介)(第九六七号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 九月一日  外国人登録法改正に関する陳情書外二件  (第九八号)  刑事施設法案反対に関する陳情書外七件  (第  九九号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  外国人登録法の一部を改正する法律案内閣提  出、第百八回国会閣法第六二号)      ――――◇―――――
  2. 大塚雄司

    大塚委員長 これより会議を開きます。  内閣提出外国人登録法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  3. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 大臣が閣議でちょっとおくれられるという話なので、それに関係がないといいますか、質問をさしていただきたいと思うのです。  この前ちょっとお話ししましたように、七月一日に東京地方検察庁八王子支部に、朴信泳というのが告訴人被告訴人小平警察署内の警察官二名ということで告訴しているのです。これは、被告訴人の方の調べはまだですがね。  そこで、朴信泳というのが起訴猶予になったというお話をこの前の委員会でお聞きしたわけなんですが、起訴猶予になった理由を、認定された外国人登録法違反の事実、被疑事実との関連において、刑事訴訟法起訴便宜主義条文がありますね、二百七十八条でしたっけ、何条でしたっけ。その条文に即して御説明をお願いをしたい。これは二百七十八条じゃない、条文を間違えましたが、起訴便宜主義条文がありましたね。それとの関連で御説明を願いたいと思うのです。
  4. 岡村泰孝

    岡村政府委員 起訴猶予にいたしましたのでありまして、その理由は、いろいろな事情を総合いたしまして起訴猶予という処分をいたしたところでございますが、一つ理由といたしまして、本人の部下が直ちに登録証を持参して身分の確認が容易にできたというような事情もあったように承知いたしております。
  5. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私の言うのは、起訴便宜主義の刑訴の条文がありますね、その条文に即して御説明をいただきたい、こう言っているわけです。
  6. 岡村泰孝

    岡村政府委員 条文に即してということでございますが、条文によりますと、「犯人性格、年齢及び境遇、犯罪軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」こういうふうに規定されておるわけでございまして、本件におきましては、私が先ほど述べましたような事情あるいは前科がないような事情、こういった点も総合いたしまして起訴猶予にいたしたということでございます。これを一々、犯人性格はこうだというふうにちょっと御説明は、何しろ不起訴にいたしました事案でございますので、できかねるところであります。
  7. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私の聞きたかったのは、「犯罪軽重」と書いてあるでしょう。だから、軽だったのか重だったのか、そこを聞いているわけなんですよ。重だったら罰金を取っているわけでしょう、普通なら。そこのところを聞いているわけなんですけれども
  8. 岡村泰孝

    岡村政府委員 先ほど述べましたようないろいろな事情を総合いたしますれば、罰金刑に処するほどの情状はなかったということであろうかと思います。
  9. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今刑事局長がお話しになりましたように、後からだれかが登録証明書を持ってきたというのですね。それで身分が確認された、こういうわけですね。  この前委員会でヨーロッパヘ行ってイギリスヘ行ったわけですが、ちょうどサッチャー政権が誕生して、開会式の日だったわけですけれども、アイルランドのテロの問題やなんかのレクチャーを議事堂で受けて、帰ってきて、私はホテルで、警察庁から行っているアタッシェの人がおられますが、非常にまじめないい方ですが、その方からいろいろレクチャーを聞いたわけです。そのときに私が聞いたのは、一つは、前から問題としておりまする例の供述調書のテープの問題ですね。これが一つと、それから外国人登録証の不携帯の問題が条文上どういうふうにイギリスで処置されているか、これを私は聞いたわけなんですが、まずあなたの方では、イギリスにおいては今言った不携帯罪条文上どういうふうになって処理されているか、これはどういうふうに把握されておられますか。
  10. 黒木忠正

    黒木説明員 英国の場合ですと、一九七二年の移民規則によりますと、四十八時間以内に外国人登録証提示義務があるということになっております。
  11. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうですね。提示義務はあるわけですよ。提示義務はあるけれども、そのとき持っていなかったからといって、そこですぐ処罰されないわけです。四十八時間以内に警察提示すればいいのです。そういうようになっておる。これは法務省当局は、刑事局なりあるいは入管当局でいろいろ研究されているのだと思うのですが、じゃ、どうして今言ったようなイギリスのような形では日本ではいけないのですか。どういうふうに理解したらいいのですか、これは。
  12. 黒木忠正

    黒木説明員 外国人登録証明書ないしは身分証明書提示させる目的は、その場においてその外国人身分関係居住関係を知るということが目的であろうかと思います。したがいまして、英国がなぜこのような制度になっているか、その理屈といいますか、理由はちょっと承知しないのでございますけれども、原則的にはやはりその場で提示してもらわなければならないし、もし罰則を科すとするならばやはり罰則を科すというのが普通であろうと思うのです。  ちなみに、ちょっと諸外国の例を見てみますと、イギリスのように四十八時間以内に提示をすればいいという制度はむしろまれでございまして、どの国でもほぼ即座と申しますか、その場で提示義務があり、それに違反する場合は処罰するというような規定になっていると私どもは承知いたしております。イギリスは大変まれな例というふうに考えます。     〔委員長退席井出委員長代理着席
  13. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 イギリスの例がまれかどうかは別として、提示義務はあるのですよ。提示義務はあるけれども、その提示義務をあれしなかったということで直ちに処罰しなきゃならないかどうかということは別の問題ですよ、これは。そういうふうに理解しなきゃいけないのじゃないかと私は思うのですよ。  そこで、もう一つの問題は、これは法務省刑事局ですか、日本法律過失処罰するときにはちゃんと過失処罰するというのが条文の中にあるわけですね。例えば過失傷害だとか過失致死だとかなんとかあるでしょう。過失窃盗というのはないわね。使用窃盗過失窃盗になるのかどうかちょっとわかりませんが、そういうのはないですね。ところが、この外国人登録法の不携帯の場合に、過失処罰するという条文はないでしょう。条文はないのに、一体どうして過失での場合も現実に処罰をしておるのですか。  それは、こういう考え方もあるのですよ。これは取り締まり法規だ、取り締まり法規というのは故意過失とを論じないのだ、これは全部過失も当然含まれておるのだ、それでなければ取り締まり目的を達しないのだから、条文では過失犯処罰するという条文がなくても取り締まり法規の場合にはそれは処罰するのだ、こういう理解の仕方もあるのですが、これはどういうわけですかね。どういうふうに理解したらいいですか。
  14. 岡村泰孝

    岡村政府委員 昭和二十八年三月五日の最高裁決定によりますと、「登録証明書携帯しない者とは、その取り締まる事柄の本質にかんがみ、故意証明書携帯しない者ばかりでなく、過失により携帯しない者をも包含する法意と解するのを相当とする」というふうに述べているところでございまして、実務はこの判例に沿って処理いたしておるところであります。
  15. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは決定ですわね。そうすると、どうしてそういうような形になったのだ、内容的に。今私が言ったようなところですか。一々過失だから処罰しないというふうに、これは本来は罪刑法定主義から言えばそうなんだけれども、そんなことを言ったのじゃ取り締まり目的を達しない、だから当然過失であろうと何であろうとみんな処罰するのだ、こういうふうにその決定理解するのですか。それでないと取り締まり目的を達しない、こういうことですか。しかし、それは本来の刑法あり方、近代的な刑法あり方から見るとおかしいのじゃないですか。過失なら過失処罰するということをちゃんと書かなきゃいけないのじゃないですか。取り締まり便宜罪刑法定主義というものとは別個のものでなければならないですよ。これはおかしいですよ、本当に。これは、学者もそういう意見を言っている人もいるし。取り締まり便宜ということですか、今の決定は。取り締まり便宜のために、取り締まり法規というのは、過失処罰するということが書いてなくても全部入るんだ、こういう理解の仕方ですか。
  16. 岡村泰孝

    岡村政府委員 外国人登録証明書の場合は、法律によりましてその携帯義務並びに提示義務が定められているところでございます。こういった行政目的を達成するためには、故意携帯をしなかった場合のみならず過失によって携帯しなかった場合をも含むと解するのが相当である、こういうことであると思うのであります。
  17. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私が聞いているのは、条文がないでしょうと聞いているのですよ。過失致死だとか過失傷害とか、いろいろ刑法にありますね。全部、過失処罰する場合というのは例外なわけですよね。取り締まり法規というのはそういうことを書かなくても全部できるのですかと、こう聞いているのですよ。ほかのものをみんなそういうふうに理解していいのですか。
  18. 岡村泰孝

    岡村政府委員 外人登録法上、過失犯処罰するという明文規定はございません。ただ、先ほど申し上げましたような趣旨から、外国人登録証明書携帯義務提示義務、こういったものを認めているというような趣旨からして、外人登録証明書につきましては過失犯処罰するというのが判例趣旨であるわけでございます。この判例趣旨から直ちにあらゆる過失犯処罰できるというところまでは言えない面もあろうかと思いますけれども、少なくとも外国人登録証明書につきましては、ただいまの最高裁判例に従いまして過失犯処罰できるものであるというふうに解しているところであります。
  19. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、これは行政犯であるということは認めるわけですか。そうですね。行政犯で、明文がなくても過失処罰できるものとできないものとがある。じゃ、行政犯であって、明文がないから過失の場合には処罰できないという例を二、三挙げていただけますか。
  20. 岡村泰孝

    岡村政府委員 過失犯処罰し得る例といたしましては、いろいろな届け出義務が課せられている場合があろうかと思います。こういった場合は、過失犯処罰できると思います。そうでない場合といいますと余りにも広くなりますけれども、今ちょっと具体的にどういう場合ということはすぐに思い当たりませんけれども、要するに携帯義務とか届け出義務とか、こういったものが課せられている場合には、一般的には過失犯処罰できるというふうに解されるものと思っております。
  21. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから、取り締まり便宜のためにそういうふうに法律を利用してはいかぬのですよ、本来は。私はそう思うのです。今あなたが、過失犯処罰できる例は言われましたね。できない例というのは、余りに多いと言うけれども、さあどうなんですか。よく相談して後で答えてください。二つ三つ例を挙げていただきたい、こう思うのですが。  そこで問題になってくるのは、今まで不携帯の場合に、これはこの前の外登法改正のときに當別當さんが審議官としてここで答弁されましたね。そのときに、東京地検の例を挙げてお答えになっていると思うのですね。そういうわけですな。そこら辺のところはどういうふうになっているか、ひとつお答えを願いたい、こう思うのです。
  22. 岡村泰孝

    岡村政府委員 ただいまの御質問趣旨、ちょっと聞き漏らしましたので、もう一度ちょっと御説明いただきたいと思います。
  23. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 じゃ、こういうふうにお聞きしましょうか。これは不携帯罪処罰についてはどういうふうに地検では扱っておるか、こういうことですよ。さっきの小平の例というか、八王子支部の例は起訴猶予でしたね。だから、どういう場合には起訴猶予なのか。罰金を取るというのは例外だという意味のことを當別當さんはここで答えておられたのではありませんか。そのことをお聞きしているわけです。
  24. 岡村泰孝

    岡村政府委員 當別當さんの答弁はちょっと私、記憶にないところでございます。ただ、検察といたしましては、個々の事案に応じましていろいろな事情を総合いたしまして、起訴、不起訴を選別して処分をいたしているところであります。要するに、事案に応じた適切な処分を行うように努めているところであります。
  25. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 何だって事案に応じて適切に処分するに決まっていますよ。そんなことは当たり前の話でね。おかしいな、當別當さんの答弁を研究しておいてくれといって私は話しておいたんだけれども東京地検の例を挙げて答弁しているはずですよ。あの人は非常にまじめな方だから、言わなくていいことを言ったのかもわかりませんけれども。大体が、初めての場合、二回目の場合は起訴猶予だということを言っておられるのじゃありませんか、五、六年前のここでの答弁の中で。僕もちょっと議事録を持ってとなかったので悪いのですが、終わりまでに調べておいてくださいね。  そうすると、警察にお聞きするのですけれども、不携帯罪は今まではどのくらいあって、そしてそれについて大体今どうなっていますか。半年くらいたつと検察庁から結果の通知があるはずですね。どのくらいかかりますか。大体半年くらい、一年くらいかかる場合もありますけれどもね。処分結果の通知が行くわけですよ。検察庁から所轄の警察へ直接行くのかちょっとわかりませんが、行っていますね。そこで私の聞きたいのは、年間にどのくらいの不携帯罪があって、それはどういうふうに処理されておるのか。起訴猶予がどのくらいで、罰金がどのくらいなのか。これは検察庁から通知が行っているはずです。検察統計には全体の最初の件数は出ているけれども処分結果は出てないわけですけれども、どういうふうになっておりますか。
  26. 国枝英郎

    国枝説明員 不携帯検挙件数でございますが、手元に六十年の統計を持っております。これによりますと、総数で二千八十八件の検挙がございます。検察庁処分につきましては、私ども手元に資料を持っておりません。
  27. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 どれだけの件数があるかということはわかっているのですよ。問題は、それがどういうふうに処理されているかということ、それをお聞きしているわけですよ。これはほとんど起訴猶予なんですよ。起訴猶予なんだけれども、たしか當別當さんの答弁は、議事録を持ってくればわかりますけれども東京地検では一回、二回のときは起訴猶予にするという意味のことを言っていますよ。私、記憶にあるのですから。こんなことまでしゃべっていいのかなと思って聞いていたのですからね。だから、検察庁の扱いは、極めて軽微なことなんですよ。さっきの起訴便宜主義の中でも、事件軽重というのがあるでしょう。軽微なんですよ。それを現行犯逮捕ができるというところにこの不携帯罪の問題があるのですよ。問題は、そこのところをどう理解するかということです。だから、私がさっき聞いているのは、処分結果がどうなっているかということの統計をちゃんと出してください。それから、當別當さんの答弁、これは議事録を見ればわかるのですから、どういう答弁だったか、説明をしてください。それが二つありますね。  そこで私が聞きたいのは、現行犯逮捕条件、これは条文にありますね。それから軽微な事件もありますね。そうすると、この登録証明書の不携帯、これを現行犯逮捕できなくなるようにするためにはどういうふうにしたらいいのですか。もちろん刑罰から解放すればいいので、我々は案を出して刑罰から解放すべきだ、これは近代国家としては当たり前のことなんですよ。そういうふうに言っていますけれども、だから三つに分けて、現行犯逮捕できる場合と、それから微罪といいますか、軽罪といいますか、軽い罪で現行犯逮捕条件が加わっている場合がありますね。それをまた第三段階として全部なくすためには、刑罰をなくせばもちろんですけれども、仮に刑罰があるとしても、どういうふうに条文をしたら現行犯逮捕ができなくなるのですか。
  28. 岡村泰孝

    岡村政府委員 難しい質問でありますが、現行犯は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕できるというふうに規定されているわけであります。したがいまして、まず一つといたしまして、犯罪を犯し、それが現行犯人であれば逮捕できるということになっているわけでございます。ただ、軽微事件につきましては、「犯人住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人逃亡する虞がある場合に限り、」現行犯逮捕ができるという規定になっておるわけです。  この軽微事件とはどういうものをいうかといいますと、刑事訴訟法では「五百円以下の罰金拘留又は科料にあたる罪」ということになっているわけであります。現在のところこの五百円といいますのは、罰金等臨時措置法によりまして、刑法等に掲げる罪につきましては十万円以下、一般の行政罰則につきましては八千円以下の罰金というふうに規定されているところであります。したがいまして、犯罪に当たります以上、軽微事件について一定要件がなければ現行犯逮捕はできないという場合はありますけれども犯罪を構成して、現行犯人であって現行犯逮捕できないという場合はないということになるのだろうと思います。ただ、先ほど申し上げましたように、一定の場合は一定要件が要求されるということになるわけであります。
  29. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今あなたが法定刑を言ったが、八千円というのは行政犯の場合ですか。私もよくわからない。普通の刑事犯の場合十万円ですか。そうすると、それ以下のものであれば現行犯逮捕できなくなるのじゃないのですか。そういうことになりませんか。私もよくわからないところなんですよ。今まで私はそういうふうに聞いていたのですよ。そうすると、登録証明書の不携帯罪というのは行政犯だということになれば、八千円が入るのか、以下だから入るのかな、上限が八千円ならば現行犯逮捕できなくなるのですか、どうなんですか。そこら辺のところ、きちっとした答えをひとつお願いしたいと思うのです。
  30. 岡村泰孝

    岡村政府委員 先ほど申し上げましたように、刑法犯等につきましては十万円以下の罰金、その他の一般的な行政罰則につきましては、八千円以下の罰金あるいは拘留または科料に当たる罪の現行犯につきましては、犯人住居もしくは氏名が明らかでない場合または犯人逃亡するおそれがある場合に限り現行犯逮捕ができるということになっているわけであります。したがいまして、現在問題になっております外国人登録証明書の不携帯法定刑罰金二十万円以下でありますので、この要件の有無にかかわらず現行犯逮捕はできるということになるわけであります。仮に行政罰則につきまして罰金八千円以下の事案につきましては、犯人住居もしくは氏名が明らかでない場合あるいは犯人逃亡するおそれがある場合、こういった場合にはやはり現行犯逮捕はできるというのが刑訴法の規定であります。
  31. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、不携帯はどっちなんですか。刑法犯なんですか。今言った行政犯というか、八千円以下になった場合には、住居氏名が明らかでないとか逃亡のおそれがあるとか、そういう場合に限ってできるということなんですか。そこら辺のところはどうもまだはっきりしませんね。八千円以下なら現行犯逮捕できないという説もあるように私は聞いたのですが、率直に言うと、ちょっと私自身の理解の仕方もここのところは雑なんですけれどもね。どういうふうに理解したらいいですか。そうすると、八千円ということになったときには、氏名が明らかでないとか住居が明らかでないとかいうことで今の軽微な事件に返ってくるのですか、あるいは別の形になるのですか、適用されるということですか。
  32. 岡村泰孝

    岡村政府委員 五百円以下の罰金というものが、先ほど申し上げましたように罰金等臨時措置法で続みかえられるわけでございます。これが十万円以下と読みかえられる罪は、罰金等臨時措置法三条一項の、刑法の罪、暴力行為等処罰に関する法律の罪、経済関係罰則の整備に関する法律の罪、この三つであります。それ以外の罪につきましては、先ほど来申し上げておりますように、罰金等臨時措置法によりまして八千円以下の罰金というふうに読みかえられるわけであります。八千円以下の罰金に処せられる罪であれば、先ほど来申し上げておりますように、住居氏名が明らかでない場合、逃亡のおそれがある場合に限り現行犯逮捕ができるというふうに、現行犯逮捕ができる場合が絞られてくるわけであります。  外国人登録証明書の不携帯につきましては、罰金二十万円以下の罪に当たります。したがいまして、八千円以下の罪ではありませんので、軽微事件についての現行犯逮捕の絞りはかかってこないということになるわけであります。
  33. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはわかっているのですよ。罰金二十万円というのは、前は懲役があったのがこの前の改正罰金二十万円以下になったのですから、それはわかっているので、そこに問題があるということなんですよ。これは、現在の法律では現行犯逮捕ができるようになっているのですよ。それが乱用というか悪用というかあるいは利用というかわかりませんが、されているところに問題があるわけなんです。問題の本質があるのですよ。しかも、それは結果としてはほとんど起訴猶予なんですよ。だから、捕まえることに大きな意義があるというふうに現実には運用されているのですよ。そこに問題があるということは、これは何回となく私どもが指摘しておるところなんです。  そこで、大臣が来られたのでお尋ねをするのですが、この前の小澤さんの質問のとき、ちょうど私は失礼申し上げて聞いていないもので、十分な引き継ぎがないものですからダブってしまうかもわかりませんが、その点はお許し願いたい、こう思うのですが、これは決して入管局長を責めるわけではないのですよ。私と入管局長との間の連絡が不十分だった、私の聞き方が足りなかったからそうなったのですが。  例えば交通検問のときに免許証を出しますね。そうすると外国人だとわかる。そうするとそこで、それじゃ外国人登録証明書を出せと言う。いや忘れました、そこで逮捕できる、こういうことになりますな。今の筋からいうとできるわけでしょう。そこですぐ逮捕したというのは余りないかもわかりませんが、とにかく、あした来い、これからすぐ来い、こういうふうになるのは幾らでもありますわな。そこで、これに関連をして、そういう交通検問のときには運転免許証を出して、そのときに外国人登録証明書提示は求めないという意味の通達を警察庁が出したというふうに最初聞いたわけです。これは、通達という言葉は私も十分に吟味して理解しなかったのであれですが、後でだんだん聞いてみると、通達というのは文書のことですから、どうもそうじゃないらしい。  それで、今度は六十年の五月十四日の閣議で、当時の法務大臣の嶋崎さんが自治大臣に、恐らく古屋さんかな、お話しされた、こういうのですね。よく閣議の席で隣り合わせになって雑談する場合もありますな。いや頼むよと言って、ああなんて言って、それも閣議の席上であることは間違いないわけですな。六十年五月十四日に法務大臣が話をされたというのは、私は聞いてみたら、これは官房長官が閣議の主宰者だ、議長というより主宰者だな。ちゃんと官房長官のあれのもとに正式に提案をして、そうして正式な答えをいただいたというふうにも聞いたわけですね。  そうすると、六十年五月十四日の閣議の模様について、法務大臣が話をしたこと、自治大臣が答えたこと、自治大臣が答えたというのか国家公安委員長が答えたというのか、どっちでもいいですが、これは法務省に記録が残っておるのですか。
  34. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 ただいま御指摘の閣議における発言は、あらかじめ自治省と申しますか警察庁と申しますか、と私どもとの間で事務的に十分協議をして詰めた上で御発言されたことでございます。したがいまして、その御発言のテキストは残っておるわけでございまして、また閣議後、それぞれの大臣から記者団に対して御説明があったというふうにも承知いたしております。したがって、これらの御発言は、いわゆる閣議決定であるとかあるいは閣議了解であるとか閣議申し合わせであるとかいうものではないと承知いたしておりますけれども、閣議における所管大臣の公式発言であるというふうに御了解いただいてよろしいのではないかと思います。したがいまして、それなりの重みを持って関係事務当局において、行政運営上、行政の実施上遵守される性質のものであるということも言えるかと存じます。
  35. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 どうして法務大臣がそういうようなことを発言するようになったのですか。それは法務大臣からお答え願おうかな。
  36. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 これは経緯と申しますか、その背景と申しますと、やはり私どもにおきましてこの問題についての問題意識があった、あるいはこの問題が今後の外国人登録制度、特に常時携帯義務制度の維持について重要であるという意識があったからというふうに申し上げてよろしいかと存じます。言いかえれば、制度の乱用は制度の維持を困難にする、本来必要であり、かつ合理的な説明も可能な制度であっても、これが運用において誤るところがあれば維持が困難になるということもあり得るという意識が、こういう打ち合わせと申しますか、両大臣の御発言ということになったのであるというふうに御了解いただいてよろしいかと存じます。
  37. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 まず一つは、じゃ法務大臣がどういうことをしゃべられたわけですか。議事録というか、法務省に残っているわけでしょう。まず、どういうことをしゃべられたのですか。それから聞かしてくださいよ。
  38. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 嶋崎大臣の御発言は次のとおりであります。   外国人登録証明書の常時携帯制度に関し、警察庁においても、登録証明書提示要求や不携帯事案の取締りについては、事案性格にかんがみ、適正妥当に行われるよう指導されていると承知しているが、その運用については、今後とも常識的かつ柔軟な姿勢で臨むよう指導願いたい。 以上が御発言の内容であります。
  39. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それに対する国家公安委員長というか自治大臣というか、これは古屋さんですか、どなたでしたか、ちょっとあれですが、それはどういうふうな答弁なんですか。
  40. 国枝英郎

    国枝説明員 当時、古屋国家公安委係員長であったかと記憶いたしますが、大臣の発言要旨を申し上げます。   警察は法の執行に当たっては、常に厳正公平、適正妥当を旨としている。   警察庁においても、外国人に対する登録証明書提示要求や不携帯事案の取締りにおいては、外国人との言語、風俗、習慣等の相違に留意しつつ、常識的かつ柔軟な姿勢で、適正妥当に行われるよう指導しているところであるが、今後とも第一線において事案性格に応じて、適正妥当な職務執行が行われるよう指導してまいりたい。 以上でございます。
  41. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今入管局長はそういうふうなものが出るようにというか、法務大臣が発言するといいますか、公式発言するようになった経過についてお話しになりましたけれども、極めて抽象的ですわね。もう少し具体的にみんなにわかるようにお話しいただけませんか。非常に抽象的ですよ、それは。もう少し具体的に話をしてもらわないとわからない、こっちは頭が悪いから。よくわかるように聞かせてください。
  42. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 昭和六十年、すなわち一昨年五月十四日という時点は、委員も御記憶のようにいわゆる大量切りかえの年に当たりまして、まさに大量切りかえがその年の七月から開始されようとしていた時点でございます。それの関係におきまして、当局といたしましても種々対策、これを円滑に実施し得るように対応策を検討していた経緯がございます。そうした中で、関係外国人団体あるいはその他の関係者との間の意見交換あるいは意思の疎通といったような努力もあわせて行った経緯がございます。そうしたアプローチと申しますか、接触を通じて、この常時携帯義務問題につきましても種々要望がございました。その要望の方向は、いずれもこれを緩和する方向で何とか検討してほしいというような要望の表明であったと記憶いたします。  そこで、私どももその時点におきましても、この問題につきまして種々事務当局として検討をしたのでございます。そうした検討の結果、これは先ほども話に出ました各国の法制も含めていろいろと検討は行われたわけでございますけれども、その当時における結論もまた、これを法制上の問題として対応すること、法制上の義務緩和という形で対応することは、事実上、実際上困難であるということでございました。したがって、この問題に対応して現実に円滑な行政の運用を図るというためには、この問題は法制上の問題ではなく運用上の問題で処理をする以外はないということでございました。その結論は当時もそうでありましたし、現在もまたそうでございます。そうした問題意識の中から先ほど御説明申し上げたような両大臣の御発言ということで、実際に運用上の問題をこれによって対応していこうということで合意が行われたということでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは六十年五月十四日ですね。そうすると六十一年の五月十四日、それから一年たった衆議院の法務委員会で、この問題は当時の議員、これは天野議員ですか、取り上げられましたね。一年たっていますよ。その六十年の四月十九日に衆議院の地方行政委員会で取り上げられていますけれども、これはその閣議の前ですから別として、閣議後一年たって取り上げられているけれども、そのことについては一言も答えていないじゃないですか。どういうわけですか、これは。全然答えてないでしょう。議事録を見てください。どういうわけで答えないのですか。聞かなかったから答えないと言えばそれまでかもわからぬけれども、あなたの方は全然答えないじゃないですかこういうことがあったということを。  非公式にいろいろな話の中で、ここだけで余り言うのもあれですけれども、非公式の話の中からこの問題について私も通達があったというふうに聞いて、いろいろ聞いていった中から出てきた問題です。それをあれしなければ、あなたの方はこれを黙って隠しておったのじゃないですか。一年たった五月十四日の衆議院法務委員会天野議員の質問に対して、この閣議のことについて一言も答えていない。どういうわけですか。
  44. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 六十一年五月十四日の委員会での御質問内容あるいはそれに対する答弁内容について今手元にございませんが、私どもといたしましては、少なくともこの両大臣の御発言あるいはその経緯について表に出さないというような意識は全くございませんでした。であればこそ、閣議の直後において大臣から閣議の様子に関する通常の説明と同様に御説明が行われたというわけでございまして、この問題について表に出さずに済ませるというような意識は私どもにはございませんでしたし、警察庁にもなかったと確信いたしております。
  45. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今、六十年の五月十四日閣議でそういうような話があったということ、これはその日記者会見があるわけですね。記者会見で話していますか、これは。私もよくわからぬけれども、新聞に出たのかな。ちょっと私も気がつかなかったのですが、とすればこっちが悪いのですけれども、そこはどういうふうになっておりますか。
  46. 黒木忠正

    黒木説明員 当日新聞にそのことが記事にされたかどうかは記憶がございませんが、私の記憶では、当日閣議後の記者会見で嶋崎法務大臣が記者団に対して今の趣旨説明はいたしております。ただ、先ほども申しましたように、それは記事になったかどうか、ちょっと私は記憶がございません。
  47. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 私の手元に、六十年五月十四日の閣議直後におきます法務大臣記者会見の記録がございます。その記録の中に、先ほど私が読み上げた内容の発言がそのまま記載されておりますので、その記者会見において大臣が御説明になったということは間違いがないところでございます。
  48. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今までずっと出ていないのですね、これが。私どもが知らなかったのが悪いと言えば悪いのですけれども、今六十一年五月十四日の衆議院法務委員会質問を私は取り上げたのですけれども、これは法務省に対する質問じゃないのですよ。警察庁に対する質問だったのですよ、これは。よくあなたの方でこういう議事録をちゃんと検討していなければあれじゃないですか。それに対して当時の外事課長が答えているのですけれども、そのことについて一言も触れていないのですよ。  それはそれとして、そうすると、問題はそういうものが閣議で、正式な言葉は何という言葉が一番いいのですか。閣議で何があったと言ったら一番わかりいいのですか。
  49. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 所管大臣から所管事項についての正式の発言があったということであろうかと存じます。
  50. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 正式な発言があったことが大事だが、それを受けての答弁がまた大事だった、こういうことになるわけでしょう。ところが、私どもが聞いた範囲では、その後警察本部長会議というのをやりますわな。警察庁長官が招集するのでしょうけれども、そこではただ口頭で示達したということをお聞きした程度なんですね。閣議は口頭であったかもわからぬけれども、非常に重要なことですわな。ずっと下部へまで申達させるためには、警察としては一体どういう方法をとったのか、それから法務省としてはまたどういう方法をとったのか、そこはどうですか。
  51. 国枝英郎

    国枝説明員 外国人に対します登録証明書提示要求あるいは不携帯事案取り締まりにつきましては、地理的あるいは時間的な条件でありますとか^被疑者の年齢あるいは違反の態様等を総合的に判断しまして、個々具体的に処理する必要があるわけでございますし、先ほどの大臣の閣議発言にもございますように、常識的かつ柔軟な姿勢で処理する必要があるわけでございます。この意味におきまして、全国的に統一した対処基準を示すというのは困難でございます。別の言い方をいたしますと、通達といういわば全国的な画一した運用基準を示す、こういう形式によりますよりも、口頭による指示の方がその趣旨の徹底を図る上で有効だということを考えた次第であります。その趣旨から、この閣議での大臣の発言を受けました直後の全国会議の場におきまして、第一線に徹底するよう指示したところでございます。
  52. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私の聞いているのは、恐らく警察本部長会議だと思うのですよ。あるいは何課長会議というのか、警備局長会議なのか何なのかよくわかりませんけれども、そういうような会合、会議の中で、では一体いつだれがどういうふうな指示をしたのかということを私はお聞きしているわけですね。そのときに、今言った閣議の内容、公式見解というか、それに対する国家公安委員長答弁がありますね、これまでちゃんと話をしたのですか。それは全然徹底してないのじゃないかと私は思うので、その点を明らかにしていただきたい。もう少し具体的にちゃんと、ぴしっと答えなければいけませんよ。
  53. 国枝英郎

    国枝説明員 全国の、言ってみますれば担当の補佐を集めまして、外事課長から指示、説明をいたしております。
  54. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんなことを聞いてない、いやそれも聞いているんだけれども、いつ幾日にどういう人を集めてどういう話をしたのか、そのときにはこの閣議のいわゆる公式見解、それに対する応答、答えが大事ですよ、そのことをちゃんと話をしたのかどうかと聞いているのですよ。要領を得ないな、話が。
  55. 国枝英郎

    国枝説明員 ちょっと日にちは正確には記憶いたしておりませんが、六十年の六月の時点でございます。国家公安委員長の発言の趣旨説明いたしまして、常識的かつ柔軟な姿勢で対処する旨の指示をいたしております。
  56. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 常識的で柔軟な対応というのは、具体的にどういうことを言っているのですか。
  57. 国枝英郎

    国枝説明員 先ほども申し上げましたとおり、登録証明書提示要求あるいは不携帯事案取り締まりにつきましては、まずもってその外国人との言語の違いあるいは風俗、習慣等の相違に留意する必要がある、さらには、事案の処理に当たりましても、地理的、時間的な条件あるいは被疑者の年齢、境遇、違反態様、こういったものを総合的に判断する必要がある、こういう趣旨でございます。
  58. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、六十年の五月十四日以降に、登録証明書携帯について今言ったような柔軟的な対応ではなかった、適切を欠いていた疑いがあるということで、弁護士会なりあるいはその他の機関なりから申し出なりなんなりが、あるいは告訴もあると思いますが、そういうようなのは現実にあるのですか、ないのですか。
  59. 国枝英郎

    国枝説明員 職務執行に当たりまして警察官の告訴された事案あるいは弁護士会から警告書等が送付された事案は承知いたしております。
  60. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 承知いたしておりますというと、それは具体的にどれをいうのですか、もう少し説明をしてくれませんか。
  61. 国枝英郎

    国枝説明員 具体的にどれかという御質問でありますが、例えば、五十九年四月二日警視庁小岩署で扱いました事件につきまして特別公務員職権乱用罪で東京地検に告訴がなされ、その他、日弁連から警視総監あるいは所轄警察署長に対して勧告書、警告書等が送付されている等の事案を承知いたしております。
  62. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 「等の事案」ではなくて、ちゃんとした、はっきりしたものをつかんで当委員会に報告をしていただきたい、こういうふうに思います。
  63. 国枝英郎

    国枝説明員 今申し上げました事案の内容についての説明をという御趣旨だろうと存じますので、事案の概要につきまして申し上げます。  五十九年四月二日、午前零時二十分ごろでございます。深夜の時間帯でございます。警視庁小岩警察署員が江戸川区内の路上で交通指導の取り締まりに当たっておりましたところ、警察官の姿を見まして急に速度を落とした車両を現認いたしたわけでございます。当該警察官がこれを停止させ職務質問をいたしましたところ、運転していた男の人が酒のにおいが強い、目も赤い、充血しておるというような状況がございまして、一見して飲酒しておると認められる状況であったわけでございます。また、この運転手は外国人でありまして、職業、勤務先等身分関係事項を確認する必要がありましたことから登録証明書提示を求めたわけでありますが、家に置いてきた、とってくるとの発言がございまして、車両を発進させ、逃亡しようとしたわけでございます。  こういう事案でございまして、酒気帯び運転につきましては道交法違反で処理し、登録証明書につきましては不携帯違反で処理いたしております。
  64. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私が聞いておるのはその具体的内容を聞いているのではなくて、あなたがこれこれ等があると言うから、等というのはどれとどれをいうのですか、それを明らかにしてほしい、そういうことを言ったわけです。今ここでわからなければ後でもいいです。  そこで、もう一つお聞きをしたいのは、「外人登録」という雑誌がありますね。これは局長もよく書いているし、黒木さんはよく随筆を書いておられて、いつも読んでいるのですが、いろいろ国会の論議なんかも書いてありますね。今私がこれから言うことについて、この人を、名前は言いませんから、決して責めてはいけないですよ。いいですか。あなた方役人というのは、自分の下の方の人があれするとよくそれを責めたり何かするあれがあるからね。いけませんよ。こういうのですよ、ちょっと読んでみましょうか。  「指紋は終生不変であるにもかかわらず、何回も押させるのは不合理である。」という意見であるが、この意見は一見合理的に見え、登録事務に従事する職員の口からも、「指紋は、一度だけ押させることにすれば良い。」という法改正に関する意見として発せられることがある。しかし、この意見が、外国人に指紋を押させることの必要性を認識した上で発せられたとしたら、いかにも不合理である。なぜならば、前項で述べたように、指紋は、登録の正確性の維持と、登録証明書の正しい携帯を担保するための制度であるからである。登録外国人の同一性の継続を担保するためには、ある期間を置いて二度、三度と押させなければ意味がなく、登録証明書が正しくその名義人によって携帯されることを担保するためには、登録証明書を交付する都度指紋を押させる必要があることは言うまでもないことである。もし、一度だけ押させることとすれば、登録における指紋制度は、その意義を全く失い、外国人に対するいやがらせ以外の何ものでもなくなってしまうのである。あなたの方の登録課の人が書いているのです。これはどういう意味でしょうか。
  65. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 その記事につきましては、私も目にしたことがございます。ただしかし、非常に誤解を招く点がございます。それは記事そのものが誤解を招くという意味じゃございませんで、ただいまの改正法案との関係で誤解を生ずる点があるということでございます。  と申しますのは、その記事が書かれた当時におきましては、現在の改正法のような内容については全く念頭には、あるいは議論にもなっていなかったということでございます。その際の議論の前提は、旧法と申しますか、現行法でございますが、現行法の指紋押捺、五年ごとの指紋押捺というものを何らの手当ても講ずることなしに、そのまま最初の一回だけにするということを前提にして書いたものであると承知いたします。言いかえれば、ただ最初の登録の際に指紋を一回押していただく、その後は何もしない。それに対する、要するに五年ごとの指紋押捺を廃止することに伴う手当てを何ら講ずることなしに、ただ最初の一回だけ押してもらうことにするということであろうかと思います。  とすれば、これをその後いかなる状態が生じても照合するということが前提にならぬわけでありますから、それは単なる気休めにすぎないということにもなり得るわけであります。また、一回限りということになれば、しかも五年ごとの切りかえで新しい登録証明書が交付されるということを前提にするならば、最初の登録証明書には指紋が押捺されることになりましょうけれども、五年ごとに切りかわる新しい登録証明書については全く指紋の表示がなくなるということに当然なるわけであります。そのようなことを前提にして、何らの手当ても講じないのであれば全く意味が失われるという意味であろうと思われます。  しかしながら、現在の改正法におきましては、御承知のように、五年ごとの切りかえにおいて特別の事由があれば、同一性について疑問を生ずる事由があれば、その他の事由があれば、もう一度押していただくということを規定しているわけであります。また、登録証明書についても転写という手段を通じて常に最初に押捺された指紋が表示されるということを前提にしておるわけであります。これだけの手当てを講じて初めて、この五年ごとの二回目以降の指紋押捺を廃止しても指紋制度に伴う最低の機能は確保できるということになるわけでございます。  ただいま委員のお読みになられましたその記事は、こうした手当てを全く前提にしない、単なる旧法におけると申しますか、現行法における五年ごとの押捺を二回目以降はやめるという話でございますので、もしそうであれば、確かにそこにございますように指紋制度は全くその意味を失うということも大いに言わざるを得ないことになろうかと思うわけであります。
  66. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私、答弁がよくわからないのですよ。時間の関係もありますので、この点についてはいずれ今のあなたの答弁の中にどういう本質が隠されておるかということをしっかり見抜かなければいけないと私は聞いていながら思ったのです。  大臣、もう最後ですからお尋ねしたいのは、私どもは、この外国人登録法を抜本的に見直せ、例えば指紋制度をやめる、写真なり署名で十分いいではないか、それから登録証明書の不携帯を刑事罰から解放しろといろいろ主張してまいりましたね。大臣にもお会いしてお話をした。何とか抜本的にこれを改正してほしいという話をしたのですね。そうしたら大臣は、なかなか一遍には無理なんだ、だから漸進的に、そういうふうにひとつ改正ということを考えていきたいのだという意味のことを言われたように今思うわけですね。ですから、その点のことを、抜本的改正ということに対して大臣はどういうふうにお考えなのか。今は無理だけれども、それは徐々にみんなの意見を聞いて改正をしていきたい、こういうふうにお考えであるようにも聞いたのですが、どうでしょうか、そこらの辺のところは。
  67. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 お答え申し上げます。  一般の、一般と申し上げても外国人の方なり、国内でも指紋問題についてはやはり厳しい批判もあります。これを十分私も承知いたしておる。なぜ指紋押捺に対して反対なり疑問なりを持たれるかということは、その人その人の人権、人格、プライドと申しますか、そういうような点もあることだろうし、また、何かその指紋が犯罪捜査なりもろもろに利用されるのではないかというような不信感もあるのではないかな、こう承知をいたしております。先生御承知のとおり、この指紋登録がその面には絶対使われていない、使わせないということは御理解願っておりますけれども、やはり人権の問題、プライドの問題からいうと、できるならば指紋押捺をやめてほしいということが大変な声として私に響いております。また、携帯問題についても、常時携帯ということをやめてほしい、これまた私のところに、先生初めもろもろの方々から強い要請を受けていることも承知をいたしております。  しかし、今の状態で皆さんの要請が、指紋押捺もやらぬ、常時携帯もやらぬというわけにも、にわかにというと、その言葉を何と申し上げたらいいか、改善していくということが、私が法務大臣に就任して手がけてみて、これは大変なことだというような点で、さきに先生がおいでになったときにも申し上げているとおり、まず一歩前進だ、そういうふうな気持ちで、指紋問題も一度だけだ、それもさきに指紋押捺されている方々に対してはその必要がないというような方法でぜひ御理解を願いたいということと、常時携帯の面についても、先ほど先生からお話しのとおり、嶋崎法務大臣のときに閣議で発言をされ、それに国家公安委員長が答えている、その面においての発言は、柔軟な姿勢でということでございますけれども、その閣議発言の前に法務省なり警察庁なりでもろもろ事務的な相談をして、両大臣に発言させ、答えさせたと私は承知をいたしております。  そういうような点で、外国人登録者の方々が嫌がらせ的な登録証提示を求められるというような印象を払拭させたいという考えから、恐らくそのような発言になったと私は承知をいたしております。そういうような点で、今度の提案については、私は、これからの日本の国として、世界の中において国際の日本としてこれでいいかどうかということは、いつでもこれでもういいのだということの考えを持たないで漸進的な進め方で行きたい、こういうような点で先生にお話し申し上げておるということでございまして、常時携帯というのは一体何のためにさせておるか、指紋押捺の問題は何かということになると、登録の正確さを示すためにであって、プライドの問題とか、犯罪捜査やもろもろに悪用するための指紋押捺ではないのだという点を御理解願い、さらにはこれから我我としてもそのような声が高まっているときでもございますので、逐次改善の道に努力していきたい、こういうふうな考えであるということを御理解願いたいと思います。
  68. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 時間が来たのでこれで終わりますが、今までこういう質問をした中で、答えの中で不十分なものがあるのですね。不十分というのは、それは質問者の方から見て不十分というのはしようがないですね、意見の違いや何かあるわけですから。そういう意味じゃなくて、私どもが聞いたことで、そのとき答えられなくて後から当然答えなければならないものがあるわけです。きょうでもたくさんあるわけです。警察の方で二つくらいありましたね。それから、法務省の方でも一つありましたね。そういうふうなものは後でぴしっとしないといけませんよ。今まではそれがみんないいかげんというとおかしいけれども、ルーズにしていますから、これはぴしっと処理するということを最後に私の方からつけ加えまして、私の質問を終わらせていただきます。
  69. 井出正一

    井出委員長代理 冬柴鉄三君。
  70. 冬柴鐵三

    冬柴委員 外国人登録法の一部を改正する法律案につき、主たる論点について順次お尋ねをいたします。  まず、改正案第四条第一項第十四号に「在留資格」とあったのを「在留の資格」と改めた立法理由についてお尋ねをいたします。
  71. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 お答え申し上げます。  現行法では、登録事項であるところの在留資格は、入国管理法に定める在留資格に限られております。我が国では、こうした入管法に定める在留資格を有することなく適法に在留を認められている外国人がいるわけであります。特に、日韓法的地位協定に基づく出入国管理特別法によりまして永住許可を受けている者は全登録外国人の約四割を占めておるわけでございまして、この永住許可を受けた事実は、この特別法第四条第二項に基づきまして登録原票及び登録証明書に記載することとなっておりますけれども、協定永住の許可は入管法に定める在留資格ではございませんので、登録原票及び登録証明書の備考欄に記載するにとどめられておるのであります。  また、昭和二十七年の法律第百二十六号第二条第六項に該当する者も在留資格なしに在留が認められているものでございますが、このいわゆる法一二六−二−六該当者の法的地位については登録原票等に記載すべき法的根拠もございませんので、登録上これらの者の法的地位は明示されていないのでございます。在留外国人の約四割を現在でも占めております協定永住許可者や法一二六−二−六該当者の法的地位が、登録原票及び登録証明書の上で明示されていないということは在留管理上好ましいことではございませんので、この際「在留資格」を「在留の資格」という言葉で置きかえることによりまして、これらの外国人の法的地位をこれに含めるということをいたしました。これによって適法に在留するすべての登録外国人の資格または法的地位が登録上明示されることになるわけであります。
  72. 冬柴鐵三

    冬柴委員 この部分は、入管法上の在留資格に当たらない一二六−二−六と呼ばれる法令に基づく在留資格者及び日韓地位協定に伴う特別法を根拠とする永住者の区別を「在留の資格」として登録原票や登録証明書の所定欄に記載することとし、在日韓国・朝鮮人らいわゆる定住外国人が我が国社会の一具として身分居住関係において日本国民と全く同程度に明らかであるという事実及び半世紀以上に及ぶ彼らの生活実態などを一切捨象し、一般外国人と同一視する扱いを今後も継続、固定化しようとするものであって、政府の考え方は根本的に改めるべきではないか、このように私は考えるわけでございます。  現在の外国人法制において、一般外国人とは独立の定住外国人というカテゴリーを設けて、それらの人々には、生活関係にかかわる権利の享有については原則として日本国民と同一とし、一定の限られた政治的領域についてのみ一般外国人と同一のものとして処遇すべきなどの大沼東京大学教授の説に、私は全面的に左祖するものであります。しかし、今回の改正案中この「在留の資格」と改めた部分は、政府に、定住外国人に対してその生活実態等を直視し、特別立法等で対応しようとする意思がないことを明らかにするものでありまして、まことに残念に思うものでございます。  そこで、一二六—二—六、すなわちポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律第二条六項についてお尋ねいたします。  昭和二十年九月二日、偶然にもきょうから四十二年前の日でありますが、その以前からこの法律施行の日である昭和二十七年四月二十八日まで引き続き本邦に在留し、同日限り日本国籍を離脱させられた人は何名いたのですか、その国籍別人数はそれぞれ何名だったのか、その点についてまずお伺いをいたします。
  73. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 ただいま手元昭和二十二年十二月末現在の外国人登録人員の統計がございますので、これによってお尋ねの点はほぼカバーできるかと存じます。  当時の外国登録人員総数は六十三万九千三百六十八名でありました。その主要国籍別の人員は次のとおりでございます。すなわち韓国及び朝鮮が五十九万八千五百七名で、ただいま申し上げた総数の約九三・六%に上っております。次に中国でございまして三万二千八百八十九名、総数の約五・一%でございます。あと、かなり絶対数は少なくなりますが、米国が二千二百四十九名、ドイツが千七名、カナダが四百七十九名、イギリスが四百六十一名、フランスが三百五十一名、ソビエトが三百十九名、その他三千百六名となっております。
  74. 冬柴鐵三

    冬柴委員 戦後満四十二年を経た今日、このうちいわゆる韓国及び朝鮮人五十九万八千五百七名の方々が現在どのくらい生存して残留しておられるのか、その数がわかればお知らせを願いたい。
  75. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 昨年十二月末現在の登録人口について見ますと、総数が八十六万七千人でございますが、そのうち協定永住者が三十四万二千名、約三九・四%となっております。また、法一二六−二−六該当者数が約二万人、全体の二・三%でございます。したがいまして、パーセンテージはかなり落ちておりますが、この両者が先生お尋ねの人口に該当するかと存じます。
  76. 冬柴鐵三

    冬柴委員 この人たちの子孫でありまして日本で生まれた二世、三世、四世と言われる方々は何名ぐらいいらっしゃいますか。
  77. 黒木忠正

    黒木説明員 ちょっと今手元に資料が出てまいりませんが、在日韓国・朝鮮人の中で日本で生まれた人たち、先ほどの昭和二十二年の時点以降というわけではございませんで、とにかく親ないしはおじいさんが日本に渡来して、それで日本で生まれた人が、登録人員の約九〇%に及んでいるというふうに承知しております。
  78. 冬柴鐵三

    冬柴委員 この方々が私の今後申し上げる定住外国人に当たる方だと思うのですが、この定住外国人の比率は一体外国人登録者総数のうち何%ぐらいを占めることになるのですか。
  79. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 定住外国人として計上できる人々の種類は、先ほどの協定永住許可者、それから法一二六−二−六該当者のほかに、一般永住、四−一−一四と呼んでおります在留資格を得ておられる人々でございますが、これらの人々を総計した数が外国人登録全人口八十六万七千名に占める割合は約七五・五%でございます。実数にいたしまして六十五万五千人でございます。ただ、その中には朝鮮半島出身者以外の一般外国人も含まれておりますので、そのすべてがお尋ねの歴史的な背景を持つ人々ではございませんけれども、複数として念頭に置いていただくためには七五・五%といった割合を考えていただいてよろしいかと存じます。
  80. 冬柴鐵三

    冬柴委員 昭和五十七年四月二十二日のこの衆議院法務委員会で、参考人として大阪市生野区長の山崎仙松さんという方が意見を述べていられます。ちょっと長くなりますが、この定住外国人の実態を示すために、その要所を摘示したいと思います。   当区におきます外国人の登録人員でございますが、約三万九千人で、全国の市区町村中では最も多く、生野区人口の約二二%、これは四・五人に一人となっているわけでございます。なぜ外国人の方が生野区に多く住んでおられるかということでございますが、大正年間に、いま申しました平野川の改修工事が行われ、韓国、朝鮮人の多くの人たちがこの工事に従事され、改修後もこの町に住まわれることになったということが大きな理由一つであると聞いております。   生野区につきまして外国人のほとんど大部分を占める韓国、朝鮮人の方について見ますと、これらの人たちの多くは、二世代あるいは三世代にわたりまして生野区に住まわれています。いわば日本に生まれ、日本人と同じ言葉で話し、日本の子供と同じ学校で学び、遊んで育っています。また、社会保障に関する諸制度も適用されることになり、納税の義務も負っています。そして日本の、また大阪市の、あるいは生野区の生活慣習に溶け込んでいる面もございます。日常生活はもとより、青少年やPTAの活動を初め、各種のコミユニティー活動にも参画、参加されている方も少なくありません。こうして約三万九千人の人たちを含めまして十七万三千人の生野区を形成しているわけでござい  ます。このように述べていられるわけでございます。  このような現状の生活実態において我々と何ら異なることがなく、また一九一〇年、大正年代の日韓併合後、その意思に基づかず、いわば強制的に連行されて半世紀以上我が国に定住して、終生帰国する意思のないこれらの人々、また身体的特徴に関しましても、身長、体型、皮膚、目、髪の色など差異の認められないこれらの人々と、帰国を前提に観光など一定目的のもとにおおむね三年以内には日本を離れる通過外国人あるいは一般外国人と全く同一に扱うこと自体、著しく不合理だと思えてならないのであります。この点について法務省の基本的な考え方を、簡単で結構ですが、お伺いしたいと思います。
  81. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先生御指摘の、いわば元日本人あるいはその元日本人であった人々の子孫、多くは朝鮮半島出身者でありますが、これらの人人の入国管理上あるいは在留管理上の取り扱いにつきましては、一定の範囲で他の外国人とは異なった特別の扱いをいたしている面がございます。  例えば永住許可でございます。協定永住、特例永住あるいは簡易永住といった法制上の制度は、主としてこれらの人々に適用されてきているわけでございます。あるいはまた日韓法的地位協定の定めによりまして、その協定に規定されております退去強制事由の特別な扱いもございます。すなわち、一般的には懲役または禁錮一年以上に処せられた者が退去強制の対象となるのに対しまして、協定永住許可者につきましては、七年以上の懲役または禁錮に処せられた場合に初めて退去強制の対象となるというような取り扱いが行われているわけでございます。これは法的には協定永住許可者に限られるわけでありますが、私どもの在留管理行政上は事実上の措置として朝鮮半島出身者、ただいま先生が御指摘のような歴史的な背景を持った朝鮮半島出身者ないしその子孫につきましては、協定永住許可者であるか否かを問わず、事実上の措置としてこうした特別措置を適用しておるというのが現状でございます。したがいまして、一定の行政上の措置につきましては、これらの人々について特別な扱いは現に行われておるわけであります。  しかしながら、その他広く行政上の諸事項につきまして、一般にこれらの人々について他の外国人と異なる取り扱いをするということは、そのこと自体で新しい問題を生ずる可能性もあるわけでございます。したがいまして、行政目的に照らしてそれぞれ考慮すべき面があるということは、基本的に念頭に置く必要がある点だろうかと思います。  また、さらに言えば、日韓法的地位協定第五条には、この協定に特別に定めることを除いては、対象となる在日韓国民の処遇について、入国あるいは在留上の諸事項について他の外国人と同じ取り扱いをすることが確認されるというふうに明記されておるわけであります。したがいまして、特定の規定を設けられておる事項については既に特別の取り扱いがなされておるけれども、それ以外の点につきましては他の外国人と取り扱いを同じくするということは、韓国との間にも確認されておるというところでございます。
  82. 冬柴鐵三

    冬柴委員 物の本によりますと、遠藤法務大臣は議連の有力なメンバーとして、就任早々から入管局を督励されまして、本案の改正作業を急いで本改正案提案に及んだ、このようなことが書かれております。定住外国人を実態に即して別異に扱う旨の強力な指揮が期待されたわけでございますけれども、その点についての法務大臣の率直な御意見をお伺いしたい、このように思います。
  83. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 今先生の御指摘の点については、戦前から日本においでになる、また戦後といいましょうか、日本においでになってから、一世はもちろんでございますけれども、二世、三世、先般もお話し申し上げたように、日本の国以外によその国を知らないという外国人がある。そういうふうな点を考えると、機械的な制度でいいかどうかということについては、率直な意見をということでございますので申し上げますと、個人的には相当疑問を持っていることは先般も申し上げたとおりでございます。そのような点で、よその国を知らない二世、三世の方々がなぜ指紋を押さなければならぬか、外国人登録証を常時携帯しておらなければならぬかということのその感情その他については、私はひしひしと胸を打つものがございます。  そのような点がございますけれども、いろいろ役所間でも改善策を講じてまいって、遅くとも今度の国会までにぎりぎり間に合うのはここが精いっぱいだということで提案をさせていただいておる。そのような点で、これが延引すれば、また外国人の方々、永住者に対してその都度指紋押捺を求めなければならぬ。また、拒否者がよその国にちょっと行ってきたいといっても、日本に戻ることが云々というような問題が先般も起きております。そういうような点を考えると、とにかくこの法案を通していただいて、理解をもらって、その後に落ちついて、私どもとして、やはり日本人として、日本国として、国際国家日本として、新たに考えていかなければならぬ点がたくさんある、こういうふうに承知をいたしております。
  84. 冬柴鐵三

    冬柴委員 外国人登録法の四条及び九条には、外国人一般に対してその職業とそれから勤務所または事務所の名称及び所在地、このようなものについて登録申請義務、及び変更を生じた場合の変更登録の義務を課しております。しかしながら、先ほど来るる申し上げましたように、日本人と同様に日本社会の恒久的構成員と認められて、その身分居住関係においても日本国民と同程度に明らかになっている韓国、朝鮮人等の定住外国人に対しては、日本人同様その届け出を必要としないのではないか。なぜそういうものを届け出させなければならないのか。日本国民については戸籍法及び住民基本台帳法にはその職業や勤務場所について届け出義務を課しておりません。  職業や職場が変わるたびに登録申請をなさなければならないということは、大変な苦痛であると思われます。例えば、この例が適当かどうかわかりませんけれども、工事件業人夫として働いている人があるとします。転々とその作業場所は変わるはずでございます。変わるたびに勤務場所、その事務所、そういうものを十四日以内に届け出なければならない、この煩雑さは想像に余りあると思います。しかも、その届け出解怠の罰が何と「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金」ということになっております。日本人については、このような部分についての届け出義務はありませんけれども、例えば出生の事実、このようなものの届け出義務解怠は三万円以下の過料でございまして、住民基本台帳法による住所が変わったことによる転入、転出届、これの解怠が五千円以下の過料というのと比較して、余りにも厳罰となっているのではありませんか。  このような点につきまして、憲法十四条は法のもとの平等を高らかに宣言いたしております。合理的な理由がなしにこのような差別扱いをすることは、この憲法の十四条に違反することではないか、このようにも考えます。定住外国人にまで、一般のいわゆる入管法等に基づき在留しておられる外国人の方と同じに扱う、そして職業や勤務先の名称、所在地、そのようなものをその都度届け出させなければならないということの合理的理由はどうしても思いつかないのでありまして、この点について法務省の考え方をお伺いしたいと思います。
  85. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 外国人身分関係ないし居住関係について、日本人に比べてより明確、確実な登録のための手当てを要するという問題の基本的な理由、そこにある基本的な問題点は、一口で申し上げれば日本人と外国人との間の法的な地位の相違にございます。これは、我が国のみに限ったことではございません。いかなる国についても言えることでございますけれども、およそ国民がその国に居住し在留するということは固有の権利でありまして、その国の政府の許可にかかわらしめられているものではございません。これに対して、外国人の一国における居住は、その政治的なあるいは歴史的な背景いかんにかかわらず、その国の政府の許可にかかわらしめているのであります。これらの政府の許可は、その外国人の在留状況、在留期間、在留目的等について一定の制限をすることもできるわけでございます。こうした政府の許可の範囲において在留している者であるということ、すなわち正規在留者であるということを明確にする必要が在留外国人について常に存在するわけでございます。外国人登録制度も、基本的にはその目的に資することで制定されているわけでございます。  別の言葉で申し上げれば、我が国には不正規在留日本人というものは存在いたしません。しかしながら、不正規在留外国人というものは、御存じのように極めて多数存在するわけであります。したがって、我が国に在留する外国人を不正規在留者と正規在留者とに区別する必要というものはそうした法的地位の基本的な相違から由来することでございまして、この目的に沿うために一つの手段として設けられているのが外国人登録法であり、外国人登録法の諸制度の背後にある基本的な理由であります。
  86. 冬柴鐵三

    冬柴委員 非常に教科書を読んでいるように私は思えてならないわけでございまして、大臣、どうでしょうか、我々のように余り転職したり住所を変わったりしない者にとっては忘れがちのことですけれども、私が先ほど挙げたような例のように、仕事の従事場所を転々とする人たちもたくさんいるわけでありまして、この人たちにその都度十四日以内に届け出なさい、そうでなければ懲役または禁錮、このようなことが許されるのかどうか、もう率直な御感想で結構ですから、大臣のお考えをお尋ねしたいと思います。
  87. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 法案を提出している法務大臣として、提出法案をやはり堅持してほしい、御理解願いたいということが常識だ、こう思っております。  しかし、その面について先般も小澤先生から、いろいろ閣議での発言に、自分たちでつくった法案に対して運用の面や何かでいろいろ発言することはおかしいではないかというお話もございましたけれども、先生の今の御発言は発言として私どもとして心に秘めておいて、もろもろ検討させていただきたい、こう思いますので、今日それはまことにそのとおりである、こう申し上げたいのはやまやまでございますけれども、その心情をひとつ御了解願いたいと思います。
  88. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、指紋押捺についてお尋ねをいたします。  法務省の入管局長が東京地裁刑事部に提出されました「回答書」と題する書面中に、このようなことが書かれているようでございます。「指紋制度が必要だというのは、一般的に言って外国人は在留期間が短く、係累も少ないなど、わが国への密着度が乏しいだけに、その同一人性を確認することは容易でなく、そのために確実な方法として、万人不同終生不変の指紋の照合が必要である。」このように書かれているということでございますけれども、入管局長、このような回答をなされた事実がありますか、また、今もこの考え方は維持されておりますか。
  89. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 現在でもそのような考え方でおります。
  90. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私は、指紋押捺についても、単なる一過性といいますか、一時通過者、観光客、そういう一般の在留外国人の場合には、生活実態においても我が国の国民と違うわけでございますから、その権利制限については日本国民と異なる扱いをする合理性が存在すると思うのでございます。その意味において、世界二十四カ国において現に採用されていると言われる外国人に対する指紋押捺制度をこの際一律に廃止すべきであると主張することには、いささからゅうちょを覚えるわけでございます。  しかし、先ほど来るる述べてきました在日韓国  朝鮮人等の定住外国人につきましては、この際指紋押捺一切を廃止すべきであると声を大にして主張したいのでございます。この人たちはひとしく終生その本国へ帰国する意思が認められないのでありまして、出生等の事実も日本人と同様戸籍法二十五条二項で届け出義務が課せられまして、それ以来の経歴も係累も知人も、すべて明らかなのでございます。  国籍法五条一項一号には、帰化の条件一つとして「引き続き五年以上日本に住所を有すること。」このように書かれておりまして、五年日本におられれば身分関係は明らかになるのじゃないか、その立法にはそのような背景があるように思われます。また、入管法による永住以外の在留資格での在留期間は三年が限度と定められております。  このような法の全体の仕組みから考えますと、一世において四十二年以上、いわんやもう日本に生まれ日本に育った二世、三世、四世という定住外国人に対して、日本国籍を有しないという事実のみで指紋押捺を強制するという制度はとるべきではないと私は考えるのですが、この点につきましても、法務省のお考え、特に入管局長の先ほどの回答文に照らして、外国人は一過性で係累等も明らかでない、だから指紋押捺させる必要があるのだというようなお考えに照らしまして、このような四十数年もいられる方と区別するべきではないかという私の考え方についてのお考えをお示し願いたい、このように思います。
  91. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先ほども申し上げましたように、外国人と国民との間の基本的な法的な地位の相違から生ずる一つの現象は、一方には不正規在留者というものが存在し、一方には不正規在留者というものが存在しないという事実があるということでございます。したがって外国人の場合には、正規在留者と不正規在留者を区別する必要がある、これを見きわめる手段を確保する必要があるということでございます。  一口で申し上げますと、不法入国者あるいは不法残留者というものが正規在留者を装う場合に、装う対象として考えるのは、一過性の三十日なり半年なりしか日本に在留しない旅行者であろうかどうかということであります。事実は、経験的には全くそうではないということが知られております。すなわち、これらの在留者がもし可能であれば取ってかわろうあるいは成りかわろうとする相手は、ほとんど例外なく長期在留者あるいは永住者であります。したがって、長期在留者、永住者であればこそその身分関係居住関係を明確にして、こうした不正規在留者が利用する余地を排除する必要があるわけでございます。そのために、例えば米国においても指紋の押捺を求められているのは永住者だけである。これは法的にはその他の部分にも及んでおりますけれども例外なく最も厳しく指紋の押捺を求めているのは永住者であります。というのは、永住者こそ不正規在留者と区別して正規に永住している者であるということを立証する手段を、本人にもあるいは行政側にも確保しておく必要があるということによるわけであります。  したがってその問題の根幹には、その人々の立場とその人々に関する行政上の必要という二つの側面があるわけでございます。この二つの側面の間のバランスをいかにして構築していくかというのが、行政あるいはこれに関する法制度あり方を検討する際に最も重要な基本的な立場であろうかと存じます。今回の法改正あるいは改正法の提案もそうした観点から提案を申し上げているわけでございまして、今後ともその両方のバランスを維持していく、妥当なバランスを求めていくというのが政府としてもとっていくべき道であろうかと承知しているわけであります。
  92. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今アメリカのことを例に挙げられましたけれども日本で生まれた二世、三世、四世という方は、先ほどあなたは九〇%に及ぶとおっしゃいましたが、アメリカでは二世、三世、四世に指紋押捺の制度があるのですか。
  93. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 米国におきましても、二世、三世、四世が引き続き両親の国籍を保持する手続をとれば指紋の対象となります。
  94. 冬柴鐵三

    冬柴委員 原則として生まれたときにアメリカ人になるのじゃないですか。
  95. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 両親の意向によっては、子供が市民権獲得の資格を持っていても両親の本来の国籍を維持する手続をとることは可能でございます。
  96. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私が聞いているのは、原則としてアメリカ人でしょう、そういうふうに例外的に手続をとったときのみ父母の国籍を取得するわけであって、原則は指紋押捺の必要がない人たちでしょう。
  97. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 米国における出生者が米国市民権を獲得するのは、強制ではございません。あくまで本人の意思によってこれを変更することは可能であります。ただ、圧倒的大部分の人々がその市民権の取得について留保の手続をとらないのが現状でございますので、それを原則とおっしゃるのであれば、現象的には、原則として米国で生まれた者は米国の市民権を取得しているという事実が存在するということでございます。
  98. 冬柴鐵三

    冬柴委員 出生地主義という言葉が講学上言われるのですが、あなた、それは認めますか。
  99. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 国籍の取得につきましては、出生地主義と血統主義があることは承知いたしております。
  100. 冬柴鐵三

    冬柴委員 いや、アメリカは出生地主義をとっておるかどうかということを聞いておるわけです。
  101. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 米国は出生地主義をとっておると承知しております。
  102. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、そういう方たちは指紋押捺は要らない、このようなことになると思います。  時間がありませんので、次の質問に移ります。  この指紋押捺というものと憲法あるいは法制度全体との関係について、東京地方裁判所及び横浜地方裁判所でそれぞれ同じような論旨で判示されておりますが、典型的な東京地判五十九年八月二十九日について若干引用させていただきたいと思います。   一般的に考えて、指紋についても、これが個人を識別する身体的特徴であることに照らし、一個のプライバシーとして、何人もみだりにその意に反して指紋を明らかにすることを求められない権利を有するというべきである。すなわち、弁護人ら主張のとおり、国家権力の行使にあたり合理的理由がないのに個人の指紋の押なつを強制することは、私生活上の自由を保障する憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。また、指紋はその特性から犯罪捜査と固く結びつき、社会生活上指紋の押なつを求められるのは犯罪関連しての場合が通常であることから、指紋の押なつを強制されたときは、犯罪捜査とかかわり合いかない場合であっても、その者が不快感−指先に墨を塗られること自体余り愉快なことではない−ないし屈辱感をおぼえ、名誉感情を害されたと感じるのが一般と認められる。してみると、正当な理由も必要もないのに指紋の押なつを強制することは、個人の尊厳を傷つけるという意味でも憲法二二条に違反し、かつまた、その強制の手段ないし方法によっては、国際人権規約B規約七条にいう「品位を傷つける取扱い」に該当する場合もあると考えられる。 このように判断を示しているわけでございます。  したがって、日本国民に対しては、戸籍、住民登録はもとより、旅券の発給、登記、金融、生活保護、年金支給、受験及び入学等々に際しても印鑑の押捺だけでよくて、日本国民と生活実態において何ら径庭のない定住外国人に対しては指紋押捺でなければならないというのはどのような理由によるのか、その不可欠の国家的利益というものは存在するのかどうか、合理的に存在するのかどうか、再々同じことを聞くようでありますけれども、明確に説明をしていただきたいのでございます。
  103. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 多少繰り返しになって恐縮でございますけれども、我が国に在留する外国人身分関係ないし居住関係を把握する必要があるという基本的な理由は、これらの外国人を不正規在留外国人と区別する手段を確保するというところにあるわけでございます。一方、先生が再々御指摘になっておられるような歴史的な背景のある我が国に在留する外国人の心情なり立場というものに関する考慮も存在するわけでございまして、その二つの側面間の妥当なバランスを求めていくというのが制度のあるべき姿であろうと考えるわけでございます。  先生の御質問は、我が国に在留する外国人の正当性と申しますか、法的な正当性というものを確認することが不可欠の国家的な利益であるかということであれば、これは疑いもなく不可欠の国家的な利益であると言わざるを得ないと存じます。それは、より砕いて申し上げれば、外国人登録制度の正確性を維持するということになるわけでございますが、この点の重要性は強調する必要もないほどに明確であろうかと存じます。
  104. 冬柴鐵三

    冬柴委員 指紋は押捺を強制することに意味があるのではなくて、これを照合することによって登録の正確性を維持し、登録証明書の不正発給や偽造、変造防止に役立てるというところに制度目的がある、このように考えるわけでございます。  しかし、現実の実務の上において、現在その指紋の照合というものはなされているのでありましょうか。例えば、先ほど聞きました生野区長山崎仙松さんが当委員会で参考人として供述された中に、このような言葉があります。「実務上、本人かどうかをどう確認しているかというお尋ねでございますが、写真の提出がございまして、すでに発行済みの写真と照合いたしまして本人であるかどうか確認して実務を行っております。」「私どもの事務処理の上で指紋を照合することはできませんし、やっておりません。」法務省の方から指紋の照合、「そういった御指導は受けておりません。」「私どもも本人であるかどうか特定する場合に、従来の経験からしまして写真でできると判断しておるわけでございます。」「原票の指紋の照会は、これはございません。そうして区の」、これは生野区ですが、「行政にこの指紋を鑑定する職員は必要ございませんので、これは配置しておりません。」このようにここで述べていられます。  また、所々の裁判所で指紋押捺拒否を理由とする刑事裁判が係属しておりますが、例えば川崎市の川崎区役所、東京都新宿区役所、神奈川県の大和市役所、京都市の左京区役所、札幌市の北区役所、このようなところの行政担当者が証人として出頭して証言している中にも、本人の同一性確認は写真によって行いまして、指紋を使っていない、このような共通した証言があります。この点についてどう考えられますか。
  105. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 同一人性の確認の手段としては、現在でも指紋のみで行っているわけではございません。第一義的には、写真なりあるいは登録原票に記載されている事項と申請書に記載されている事項の照合、あるいはこれらの点に関する本人についての質問その他を通じて行われているわけでございます。それに補強的に指紋の照合ということも指導しているわけでございます。  先生御指摘の証言において、指紋の照合は専門的な知識あるいは技術がなければ不可能であるかのごとき点がございましたけれども、実際には全くそんなことはでざいません。同じ方法で押印された同じ指の指紋が同一であるか異なっているかということを判断するのは、何らの訓練も要しないことでございます。であればこそ、先生もおっしゃられたように、二十四カ国において、外国人登録の目的で指紋が使用されておるわけでございます。世界のそれらの指紋を取り扱う機関において、鑑識の専門家が配置されているということは全く承知いたしておりません。保それは日本においても同様でございます。一般に指紋の鑑識というのは、犯罪現場に遺留されたとの指のどの部分が残っているかもわからない雑多な指紋と保管してある指紋との照合ということでございますから、これは専門的な知識、技能が必要でございます。しかしながら、先ほども申しましたように、同じ指の同じ部分を同じ方法で押した指紋を照合して、その異同を確認するのは何らの専門的な訓練を要することでもないということがあるわけでございます。  そして、今回の法改正の結果、市町村の窓口におきましては、特にその人物の同一性について疑問が生じた場合に初めて指紋の再押捺を求めて照合するということに改正するわけでございます。現行法のもとにおきましても、もしこれらの市区町村の窓口においてその人物の異同について重大な疑問が生じたときに決め手になるのは何かといえば、これは結局は指紋の照合であります。そして、この点についての本局の判断を求めるというようなことになれば、本局がまず依存するのもまた指紋の照合であります。  現に、我が国に在留する外国人につきましては、しばしば氏名であるとか生年月日であるとかの訂正という申し立てが極めて多数行われております。これらの氏名なり生年月日なりといった基本的な身分事項の訂正が行われる場合に、これらの人物がさきに登録された人物と同一であろうか否かということがまず第一に問題となるわけであります。この場合の人物の同一人性を確認する最終的な手段もまた指紋の照合であるという事実が存在するわけでございます。
  106. 冬柴鐵三

    冬柴委員 しかしながら、ジュリスト等に書かれていることによりますと、当初法務省に送られた指紋原紙は、入管局登録課に設けられた指紋係において、指紋分類規程に基づく万けたの数字への換値分類が行われていたけれども昭和四十五年、七〇年で中止した。当初、一九五七年二十名いた指紋係が、六一年では、そのうち技官十四名、今余り技術とかそういうものは要らないとかおっしゃいましたけれども、技官が十四名いた。ところが、六三年には十名になり、六五年には三名になり、七〇年にはその人たちがゼロになってしまう。そして現在、法務省入管局登録課指紋係は係長と係員の二名だけである、このように伺っているのですが、それは間違いありませんか。
  107. 黒木忠正

    黒木説明員 指紋の換価分類を過去に行っていたという先生の今の御指摘については、そのとおりでございます。ただ、その換価分類方法をやめましたので、当然のことながら、換値分類に必要となる専門家、いわゆる技官というものがいなくなったということでございます。  ちなみに、現在の登録課の指紋係は、係長以下四名おりますけれども、実は、この四名にプラスアルファと申しますか、必要に応じて応援を出しているということでございます。
  108. 冬柴鐵三

    冬柴委員 入管局長に伺いたいのですが、一九五七年から六一年までの間にこの指紋の照合によって発見された不正件数、こういうものは何件あるのですか。
  109. 黒木忠正

    黒木説明員 ちょっと今すぐ手元に資料が出ないのでございますが、この指紋制度を採用したのが三十年の四月でございますが、三十年から三十四、五年にかけまして数十名の二重登録とかをこの指紋の換値分類によりまして発見したというふうに記憶しておりをする。
  110. 冬柴鐵三

    冬柴委員 物の本によりますと、一九五七年から六一年までの五年間に五十六件発見された。五十六件ですよ。今数十件とおっしゃいましたので、多分そのような数字だと思います。このようなために相当な手数と、このような基本的人権にかかわるような、本当に何人もの刑事被告人を出すような制度を維持しなければならないのかどうか本当に考えていただきたい、このように思います。とはいうものの、今回の改正案では指紋押捺を新規登録時の一回限りにするということでありますから、これまでに比べて確かにかなりの負担緩和となることは事実ではあります。  そこで、代替手段との関係について、どうしても指紋を押さなければならないのか。確かに指紋が万人不同、終生変わらないということで本当に確実なものではありますけれども、そうであれば日本人についても戸籍の届け出あるいは運転免許証あるいはパスポート、全部押させたらいい。そうすればこの人たちも、いわゆる韓国、大韓民国でもそのようにしておられるようですから、この日本においては刑事被告人しかそういうものをやらさないところに問題があると思うのでございます。そういうことで、指紋にかわる手段というものがあれば指紋をやめてもいいのではないかということにつながると思うのでございますけれども、現行の冊子型のものから刷り込み式のラミネートカード型のものに改められる。これに関しまして、元法務省入管局の参事官で竹内昭太郎さんという方が、朝日新聞の五十八年十月二十一日の「論壇」という欄で「新規登録者の原簿に自動車運転免許証のように、張り替えのきかない刷り込み写真を利用できれば、指紋はまず不要といえる。」このように述べていられるようですが、これは承知をしておられますか。
  111. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 そのような投稿が行われたということは承知いたしております。
  112. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今日のような技術の進歩に照らしまして、運転免許証におけるようなビニールコーティング、浮き出しプレス、このようなものを用いれば、写真の張りかえということは不可能であります。したがいまして、他人の登録証明書の写真を張りかえるということは不可能になりますから、偽造、変造などを防止することができます。したがいまして、同一人性の確認手段として指紋には劣るかもわかりませんけれども、多くの日本人が例えば大事な運転免許証は写真だけで間に合わせているわけでございますから、十分代替し得るのではないか、このように私は考えます。この点につきまして、果たして指紋を押してもらってそれが役に立つのかどうか、立っているのかどうかということとあわせて、ラミネートカードにして写真を張りかえることができなくなるという事実とあわせてなお指紋押捺を維持する必要性、実効性があるかどうか、その点についてお尋ねしたいと思います。
  113. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先生も御承知のように、昭和二十二年に外国人登録制度が発足した当時においては、指紋制度は存在しなかったわけであります。当時は、同一人性の略記は専ら写真によって行われておったわけでございます。その結果、極めて多数の二重、三重登録あるいは他人の登録証明書の不正使用といった事案が横行したわけでございます。そのために、昭和二十七年の外国人登録法制定の段階に至って指紋制度が導入されたという経緯がございます。  その経緯からも明らかなとおり、写真は確実な手段ではないのであります。先生御自身が今指紋に劣るかもしれないけれどもとおっしゃった、そのとおりでございます。写真はもちろん張りかえといったようなこともございますけれども、張りかえなくても似たような人物の写真、あるいは似たような人物の写真が貼付してある登録証明書の利用ということの余地は常に存在するわけでございます。また、本人の写真であっても容貌というものは年とともに変化いたしますし、あるいは髪形の変更等によって見分けの難しいケースもございます。あるいは、うり二つといったような他人も存在するわけでございます。したがって、問題は科学的に絶対的な確信を持って同一人性を断定する手段とはなり得ないということでございまして、この辺の相違が指紋と写真との最も重大な制度上に意味を持つ相違であると言わざるを得ないと存ずるわけであります。
  114. 冬柴鐵三

    冬柴委員 言わずもがなでございますけれども、それじゃ日本人の運転免許証はなぜ写真だけにしておるのですか、制度は違いますけれども。どうなんですか。
  115. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 私どもは運転免許証の所管官庁ではございませんので、運転免許証に関する指紋の採用云々について検討する立場にはございませんけれども、少なくとも外国人登録制度においては指紋をもって確認あるいは確保する必要があるほどに同一人性確認ということの重要性が大きいということを申し上げるにとどめたいと存じます。
  116. 冬柴鐵三

    冬柴委員 先ほども述べましたように一回限りということで、これは評価しなければならないと思います。しかし、今後も十六歳に達する在日韓国・朝鮮人の子孫はずっと指紋押捺に応じなければならないという点につきましては何ら従来と変わらないわけでございますから、彼らが子供たちには指紋押捺という惨めな思いをさせたくない、このような根源的な願いには今回もこたえなかった。甚だ遺憾であると言わなければなりません。  改正案の十四条五項は、例外事由としてではありますけれども、市町村長に指紋押捺命令を認める規定が置かれることになりました。この命令に対する違反は押捺拒否罪とされますから、一年以下の懲役もしくは禁錮または二十万円以下の罰金に処せられることとなりますが、その同項三号のイに、登録原票及び指紋原紙のいずれもが紛失し、または減失したとき、及び口には、指紋が棄損、汚損により不鮮明となっているときに指紋押捺命令が発せられることとされていますが、これはどういうことなんですか。
  117. 黒木忠正

    黒木説明員 指紋押捺制度のそもそもの目的一つは、まず人物を特定するということ、それから必要があれば人物の同一人性を確認する、こういうことでございますが、この十四条五項第三号で言っておりますのは、市町村が保管いたします登録原票、それから法務省で保管いたします指紋原紙のいずれもが、一方がよければよろしいのですが、いずれもが紛失したり火災、水害等で滅失したような場合、ないしは押されている指紋が不鮮明となった場合、この場合、すなわち人物の特定、同一人性の確認のもとになる部分が失われるわけでございますので、この場合には外国人に再押捺を求める、こういう趣旨でございます。
  118. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今言われましたように登録原票は市町村長が、指紋原紙は法務省が、いずれもその責任のもとに厳重に保管をされているというものだと思いますが、それが両方紛失をしたというようなことが考えられるのかどうかわかりませんけれども、そんな場合には罰則をもってその紛失をされた外国人の方に指紋押捺せいと、こういうことを求める規定なんですね。こんな場合には法務省はやむを得ない場合ですから指紋押捺を求めなければならないのかもわかりませんけれども外国人の方にいわゆる慰謝料を含むある程度の補償というようなことを行う用意があるのですか。また、そういうような法令を制定する用意があってこういう改正をなされるのですか。その点についてはどうでしょうか。
  119. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 そのような場合に、補償の予定あるいは考えはございません。と申しますのは、現在、現行法のもとにおきまして、在留外国人、一年以上我が国に在留する場合には指紋の押捺を求め、かつ五年ごとの切りかえに際して改めて押捺を求めておるわけであります。この制度を緩和して、これからは特定の事由が生じた場合以外は二回目以降の押捺を求めないようにするという緩和の法案を現在御審議いただいているわけでございます。その特定の事由の中に、そうしたやむを得ざる事態、すなわち風水害、火災等による滅失を含む、現在既に保管されている指紋が利用不可能になった事態というものを予定しているわけでございます。したがって、現在既に行われている制度の一部緩和ということの結果そういう事態のみに限定しようとするわけでございますから、そういう事態が生じた際にこれを改めて補償するという事由の生じてくる余地は極めて乏しいと言わざるを得ないわけでございます。
  120. 冬柴鐵三

    冬柴委員 どなたかの質問お答えになったときに、あってはいけないことだけれども、指紋原紙とかその上にインクをこぼしてしまったとか、そういう場合は棄損に当たるんだ、このようなことをお答えになったと思いますが、そのような場合でも、いわゆる役所の過失故意過失でそういうような指紋が失われた場合であっても補償しないのですか。
  121. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先ほどお話にも出ましたように、この指紋がそうした事故等によって不鮮明になり、あるいは利用不可能になって改めて押捺をしていただく事態というのは、市区町村に保管されている登録原票の指紋及び法務省が保管しております指紋原紙の指紋のいずれもが利用不可能になった場合でございます。したがって、たとえ市区町村においてそうした事故で特定の方の指紋が利用不可能になったとしても、法務省において保管されている指紋原紙の同一人の指紋が同様に利用不可能になるということはまず希有の事態であろうかと思いますので、そういうことは起こりがたいのではないかと思います。と同時に、市区町村及び法務省双方において、指紋原紙、登録原票の保管には従来以上に細心の注意を払うよう努力いたしたいと考えている次第でございます。
  122. 冬柴鐵三

    冬柴委員 しつこいようですけれども、その両方が故意で滅失、棄損した場合でも補償しないのですか。
  123. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 補償ということは考えておりません。
  124. 冬柴鐵三

    冬柴委員 これは、同条三号口に気にかかる文言がございます。退色などにより不鮮明となったときというのがそれでございます。退色とはどういうことなんですか。
  125. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 押捺に使用したインクが年月の経過により色あせるということでございます。
  126. 冬柴鐵三

    冬柴委員 周知のように、昭和六十年五月十四日に入管局長通達によって、従来の黒インクによる回転指紋採取の方法を改めて、無色薬液による平面指紋採取の方法をとることにされました。  そこでお尋ねいたしますが、右の無色薬液とは、一体その化学的成分は何なのですか。どのような化学反応によって指紋が採取されるのですか。この五・一四通達以来、この無色薬液によって今日までに採取した指紋は何人に達するのですか。その点についてお尋ねいたします。
  127. 黒木忠正

    黒木説明員 ちょっと化学的なことは資料を持ち合わせがございませんけれども、現在の六十年から採用しております方式は、指につけます薬液とそれから紙にしみ込ませてあります薬液の化学反応によって指紋が浮かび出る、こういう方式をとっております。  それから、その次のお尋ねの昭和六十年の新しい制度をとって以来の指紋押捺数でございますが、昭和六十年の七月からこれは制度として採用したわけでございますが、昭和六十年七月以降で約三十三万件、三十三万二千十六件でございます。六十一年度、これは年度で申しておりますが、六十一年度は約十五万件、すなわち十四万九千八百九十五件という数字になっております。
  128. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ここに退色という言葉を入れられたのは、何かそういう危惧があったのじゃないのですか。法務省はこの無色薬液納入業者から、何年間退色しない、このような保証措置を取りつけておりますか。
  129. 黒木忠正

    黒木説明員 普通の、従来の黒い墨をつけております場合は、あれはカーボンを使っておりますので、百年もつであろうと普通に言われておりますけれども、これもただ実績があるわけじゃございません。ただ、今度の六十年の方式でございますと、業者の話ですと、最低限十年は絶対保証するということでございますが、実際はこれは二十年ないし三十年は十分にもつものであるというふうに承知しております。  それから、ついでながら申し上げますと、今度このような制度改正するということでございますので、業者の方にはさらに長期保存のきく退色のしない薬液と申しますか、これの開発を現在指示しております。
  130. 冬柴鐵三

    冬柴委員 十年もつという保証書をとっているのですか。これはもしアバウト十年ということになりますと、今お聞きしたこの三十三万件、十五万件、合わせて四十八万人の人が、次回は一九九〇年あるいは一九九五年、一斉に退色してしまった場合、あなた方はどうされるのですか。もう一度全員に押さすのですか。
  131. 黒木忠正

    黒木説明員 先ほども申し上げました十年と申しますのは、これが保管の状況、例えば湿度だとか温度だとか日光だとか、いろいろな条件が加味されて退色する場合ということでございまして、十年というのはその最低でございますので、先ほど申し上げましたように二十年、三十年は十分にもつというふうに聞いております。
  132. 冬柴鐵三

    冬柴委員 大臣、大事なことですから、この薬液が何物であるか、そして利害関係のない科学者にきっちり判定をさせて、これが何年間もつかどうか、それをきっちり確かめていただきたい、このように思いますが、大臣の御意見を伺います。
  133. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 ただいま登録課長から御説明申し上げましたように、新しい薬液につきましては最低十年という保証を得ておるわけであります。そして、実際にはそれ以上もつであろうということを期待いたしております。しかしながら、この薬液が採用されました当時におきましては、現行法を前提として採用したわけでございます。現行法によれば、御承知のように五年ごとに押捺が改めて行われるわけでありますから、十年もつということで十分なわけであります。しかしながら、今後これが一回限りということが原則になりますと、一人の外国人の我が国に在留中もたなければ困るわけでございますから、今後のふりすぐれた薬品の開発の必要性といったことは当然起こってくるわけでございます。  しからば、既に現在の薬液で押捺された指紋について今後退色が起こったらどうなのかという御質問でございますが、退色の結果これが使用不可能ということになれば、改めて押捺をお願いする必要は理論的には生じる余地がございます。ただ、ただいま説明がございました四十八万件全部についてそういう必要が生ずるわけではございません。すなわち、四十八万件の大半は既に二回目、三回目、四回目といった方々でございます。したがって、四十八万件のうち初めて押捺をしたという方についてそういう問題が生じる。恐らくその件数は一年について二、三万件から四万件程度だろうかと思いますけれども、その方々については今言ったような問題が潜在的には存在するということは申し上げることができるかと存じます。
  134. 冬柴鐵三

    冬柴委員 このようなことで一斉に退色する場合に再押捺を求めるということは、僕はこれは故意だと思いますよ。そういうことがわかって、そういうことを危惧して、法令の中としては非常に異常な退色というようなことで再押捺を求められる根拠を置いた。こんなこと、どこにも全然説明は書かれてないです。これは今後十分研究をして、再押捺をこのような退色というようなことで求めることがないような薬液の開発といいますか、それより前にもう廃止をしてもらう、こういうふうに重ねてお願いをいたしておきます。  カード式の外国人登録証明書に顔写真と指紋が横並びになる。見たことはありませんけれども、これはいかにもグロテスクな感じがすると思います。こうまでしてカードそのものに指紋を転写しなければならないという行政上の必要、そしてまたその利用目的というのはどこにあるのかわからないのです。御説明願いたいと思います。
  135. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 登録証明書そのものに指紋を表示する必要は、最も重要な点は、証明書の不正使用を事前に抑止するという効果であります。このことは、先ほどもちょっと触れましたように、指紋制度導入の経緯を振り返っても明確に言えることでございまして、指紋制度を導入して以来、指紋の表示されている他人の登録証明書を不正に使用したという案件は、私どもとして一件も把握していないという事実がございます。私どもが処理いたしました密入国案件の中には、他人の登録証明書を不正に入手して使用したという事例が毎年数件発見されておりますけれども、これらはいずれも写真及び指紋の双方とも表示されていない十六歳以下の、以前は十四歳以下でございましたが、子供の登録証明書でございました。言いかえれば、指紋制度が導入されて以来、指紋の表示されている成年の登録証明書が不正に利用、使用されたというのは一件も発見されていないというのが事実でございます。  ということは、この指紋制度の導入によってこうした不正使用、不正行為というものがいかに効果的に抑圧されたかということを裏づけているわけでございます。したがって、この点が今後とも登録証明書に指紋を表示するというまず第一の理由でございます。  第二の理由といたしましては、その登録証明書の所持者がその登録証明書に表示されている人物と同一人であるということを確認する最終的な手段をそこに確保してあるということでございます。もちろんこの点を申し上げれば、登録証明書提示を求めたときに、その時点で強制的に指紋を採取する法的な根拠はないではないかという御質問になろうかと思いますけれども、それはそのとおりでございます。しかし、本人がその人物であるということを立証しようとお思いになれば、自発的に任意に指紋を提供して照合させるということは可能でありますから、本人にとっての確認を立証する、同一性を立証する手段がそこに設けられているということであります。また、その後それに関連いたしまして密入国の容疑等が次第に展開して、刑事訴訟法に基づく手続がとり得るような状況になれば、そこで強制的に指紋の採取も行われますので、所持していたその登録証明書と同一人物であるかということを確認することも可能になるわけであります。
  136. 冬柴鐵三

    冬柴委員 指紋を先ほどの万けたの数字に換値分類して、それをラミネートカードの写真の横に、いわば登録免許証と同じように数字で書かれたらいかがでしょうか。そういうことを前向きに考えてもらえませんか。その点はどうでしょうか。
  137. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 理論的には、そのようなことも将来の問題としては検討の対象となり得る余地があろうかと存しますけれども、恐らくその場合の一つの重要な問題点は、現場においてそれを立証することがなかなか難しくなるということであろうかと思います。すなわち、即時的にその人の指紋を換値分類するということが普通の人にできるわけではございませんし、たとえそれが公安職員であろうとも換値分類を記憶するというのは不可能でございますから、そこで照合ということが全く不可能になってしまうということがございます。  いずれにいたしましても、先生が御懸念の点は私どもも念頭にございますので、現在私どもが考えておりますことは、カード式の登録証明書交付の際に、これを納めるホルダーないしケースのようなものを同時に交付いたしまして、そして指紋に相当する部分は不鮮明と申しますか、不透明にしておいて、一見して指紋が表に目につかないようにするというような検討を現在いたしております。
  138. 冬柴鐵三

    冬柴委員 最後になるかと思いますけれども、常時携帯義務罰則関係についてお尋ねしたいと思います。  入管法第二十三条一項には、「本邦に在留する外国人は、常に旅券又は」云々、このような証明書を「携帯していなければならない。」このように定められまして、同条の二項には、警察官等からその職務の執行上必要だということで提示を求められたときには、「これを呈示しなければならない。」このように定められております。そして、その違反の場合、不携帯と不提示、これを七十六条で罰則を決めているわけでございますが、二十三条一項または二項の規定に違反して旅券等を「携帯せず、又はその呈示を拒んだ者は、十万円以下の罰金に処する。」このように定めております。  これに対比できる外国人登録法規定でございますが、その十三条一項は、外国人登録証明書を常に「携帯していなければならない。」それから同二項には、外国人は、入国審査官等々がその職務の執行上必要ということで「登録証明書提示を求めた場合には、これを提示しなければならない。」このように入管法と全く同じ体裁の規定を置いているわけでございますけれども、その罰則の定め方が全く異なっております。外登法の十八条一項の七号は、「第十三条第二項の規定に違反して登録証明書提示を拒んだ者」は、「一年以下の懲役若しくは禁錮又は二十万円以下の罰金に処する。」となっておりまして、十八条の二の四号では、「第十三条第一項の規定に違反して登録証明書携帯しなかった者」に対しては、「二十万円以下の罰金に処する。」こう二つ分けているわけですね。  政府にお尋ねしたいのですが、入管法と外登法、これをこのように分けて、そして不提示というものに対しては厳罰をもって臨む、体刑をもって臨む、しかも罰金の額においても二倍にする。どういう必要があってこういうことをされたのか、その点についてお尋ねしたいと思います。
  139. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 旅券等の携帯義務づけられますのは、主として在留期間が登録申請期間内の短期在留者ということになろうかと存じます。一方、登録証明書携帯義務づけられているのは、登録を必要としない短期在留者を除く中長期在留者ということになろうかと存じます。  旅券等には、本邦に在留する者の国籍、氏名等の身分関係に関する事項が記載されているわけでございますが、一方登録証明書の方は、旅券等に記載されているのと同じ身分関係に関する事項にとどまらず、職業、勤務先等詳細な身分関係に関する事項及び在留中の居住関係に関する事項が記載されているわけでございます。したがいまして、中長期在留者について短期在留者以上に詳しい身分関係居住関係の確認が必要であるというのは、先ほどの別の御質問に対してお答えしたところに関連すると存じますけれども、中長期在留者であればあるほど不正規在留者との区別の必要というものが増大するという事実に裏づけられることであろうかと存じます。すなわち、短期在留者であれば、これが他人に成りかわる可能性は事の性質上それだけ限られてくるということがあるわけでございまして、一方、中長期在留者あるいは永住者については不正規在留者、不正規入国者との区別を明確にする、あるいは確認を確保する必要性がそれだけ大きいということが、ただいま先生の御指摘の問題点の背後にあろうかと思うわけであります。
  140. 冬柴鐵三

    冬柴委員 時間が来ましたので最後の質問にさせていただきますが、先ほど来私がるる述べましたように、在日韓国・朝鮮人の方々、いわゆる定住外国人、これは外国人登録をしておられる方々の七五%強の人々でございますけれども、このような方々に外国人登録証明書を交付しなければならないとしましても、いわゆる常時、例えばふろ屋に行くにもという比喩はよく出ますけれども、常時携帯をしなければならないような制度については、ぜひ立法上特別措置を講じていただきたい、このように私は切にお願いをいたしまして、できればその点について法務大臣のお答えをいただきまして、私の質問を終わりたいと思います。
  141. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 先生の言われるいろいろの点については私もよく理解をしておるわけでございますけれども、本法案を提出のさなかにいろいろのことを申し上げることはかえって混乱させることにもなると思いますが、常時携帯の面において、これは法務省自体として罰則を適用させたいから厳しくやっているということではないことは先生もおわかりのとおりだろうと思います。そういう点で、さきに嶋崎法務大臣が閣議発言ということになったのもその面からであろう、こう思います。さような点で、今その特例を云々ということは残念ながらここでお話し申し上げるわけにはまいりませんが、運用の面において、先生の意を十分私どもも承知をいたしておりますので、その面で改めて国家公安委員長と協議をしてみたい、何度かこの席でも皆さんからお話しのとおり、何となく取り締まるための常時携帯のような印象を与えないような運用ができたならばなということを感じておりますので、十分意にとめて努力いたしたいと思います。
  142. 冬柴鐵三

    冬柴委員 終わります。
  143. 井出正一

    井出委員長代理 安倍基雄君。
  144. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私は、前回の質問でまず第一に携帯義務の問題、今同僚議員からもお話が出ましたが、それにつきましては弾力的、常識的な運用をするという御回答を得ましたし、また、指紋押捺の年齢につきましても今後検討の余地はあるだろうというようなお話を承ったわけでございます。  その続きでございますが、前回の質問のときに過去のいわゆる押捺拒否者についての取り扱いについても御質問いたしたわけでございますけれども、その際に、これから新法が成立しあるいは施行されるという後に、特に今問題となっておりますのは従来拒否者に対して再入国拒否とか在留期間の短縮、そういったことについて新しい制度になった後見直してくれないかなというようなお話をいたしましたときに、承っておきますというような御答弁をいただきました。この点もう少しはっきりと、承っておきますという意味がどうであるのかということをお聞きしたいと思います。
  145. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先生御指摘の行政上の措置の背後には、一定の見解の表明のためであろうとも現行法に故意に違反する、義務の履行を拒否するという行為を容認し得ないという立場、あるいはこれを重大視するという立場があることは申すまでもないところでございます。その面からの政府当局の考え方については、改正法施行後も全く本質的には変わらないわけでございます。  ただしかし、改正法の施行後におきましては、指紋押捺拒否者のうち既に過去において指紋を押捺したことがある者に対する在留管理上の評価は、現在とは多少異なったものとなる余地もあり得るかと考えられます。しかしながら、実際に、御指摘の諸点、すなわち再入国許可の制限であるとか在留期間の短縮であるとかの措置について具体的にどうなるか、どうするかという点は、改正法施行後における押捺拒否をめぐる情勢の推移等諸般の状況を見きわめた上で判断をしてまいりたいと考えております。
  146. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 判断をするというのは、結局これはあくまでも行政判断でございますからね。弾力的にというか、そういうような判断もあり得るということでございますね。いかがでございますか。
  147. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 ただいま御説明申し上げたような関連情勢の鎮静化ということが明確になっていく場合には、そのように処理する余地も大きくなってこようかと存じます。
  148. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 この点について、法務大臣も御同感でいらっしゃいますか。
  149. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 同感です。
  150. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 同感というか、そういったことで考えていただけるものと私は受け取っておきます。よろしゅうございますね。  そこで、若干手続的な問題でございます。今回の改正でいわゆる外登証の代理受領が認められることになったわけでございますけれども、代理人の範囲はどういうぐあいにお考えなのか。これは何か受領期間というのが決められるようでございますけれども、代理人の範囲と受領期間によっては不便を生じるというか、もちろんこれはこういったものでございますから官の都合もありましょうけれども、受け取る側の事情もございますので、その辺についての御回答というか、御見解を承りたいと思います。
  151. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 現行法上もあるいは改正後におきましても、外国人登録に関連する申請は本人が出頭するということが原則でございますけれども、病気等やむを得ざる事情のある場合には代理の申請そのものが認められております。その代理の申請に当たり得る人の範囲についても、法定されておるわけでございます。  代理受領につきましては、その範囲は申請の場合の代理と同様でございますが、一つ異なりますのは、代理申請の場合に法定されております。その代理者の順序が、受領については指定されていないということでございます。言いかえれば、代理者の範囲と申しますのは、同居している配偶者、子供その他の親族、その他の同居人ということでございます、いずれも十六歳以上であることが前提でございますけれども。そういう範囲でございまして、一口で言えば同居している者が代理受領のために出頭することを認められているということでございます。  また、代理受領にせよ、その他の本人による受領であるにせよ、受領期間の点についての御質問がございましたが、この点は本人の申請の際に指定書を交付いたしまして、その指定書で明記することになっておりますが、ただいまのところ一定の期日から一週間程度、すなわち、その登録証明書関係の市区町村の窓口に戻ってくることが確実であると見られる期日を指定しまして、それから一週間程度を指定することを考えているわけでございます。
  152. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 最初の同居というのは、本人であるということが確認できる人間であればいいという考えでございますか。
  153. 黒木忠正

    黒木説明員 法律要件が同居と定めておりますので、やはりその人がその場所に住んでいるという証明がどうしても必要になると思います。その場合、通常の場合ですと、外国人の家族でございますから登録証明書携帯していると思いますので、登録証明書提示してもらうことによって同居しているということは即刻明らかになるわけでございますので、それで用は足りるだろうと思っております。
  154. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 今の関連でございますけれども、今の期間でございます。じゃ、その期間内に出頭できないような場合も多々あると思いますけれども、そういった場合にはどういうぐあいに運用されるわけでございましょうか。
  155. 黒木忠正

    黒木説明員 この期間内に受領しなければ受領しなかったという効果が出てくるわけでございまして、通常の場合、現在三日の期間を指定する。現在でも同じように期間を指定する場合はあるわけでございますが、この場合は三日間というのを通常指定しておりますけれども、この代理受領に限りましては一週間という、その幅を倍にするという措置を講じておるわけでございますので、この期間内にぜひ受領をしてもらうということを私どもは考えております。
  156. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 何らかの理由というか、いろいろな要素が加わって出頭が難しいという場合もあり得ましょうけれども、そういった場合の弾力的運用ということはあり得るのでございましょうか。していただけるものなんですか。
  157. 黒木忠正

    黒木説明員 ただいま制度を定めよう、こういう時期でございまして、この時点で今から弾力的運用というようなことを申し上げるわけには、ちょっといかがであろうかというふうに考えます。
  158. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 一週間であればどうにかいけるであろうという要素もございましょうけれども、それぞれの都合がございますから、できるだけこの期間は長い方がいいと思いますし、その辺はおっしゃるように、決めるときに最初から弾力的運用ということも言いづらいかもしれません。この点はケース・バイ・ケースの場合もあり得ると思います。例えば運転免許証なんというのは郵送ということもございます。運転免許証とは違うといっても、趣旨からいって弾力的な運用が望ましいと私は考えますけれども、それについて局長の考え方はいかがですか。
  159. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 これは、実際に法の施行という時期が近づく前に検討して定めなければならない点でございますけれども、従来の経験等に照らして、このくらいの期間があればまずそれほどの負担を生ずることなしに受領を確保することが可能であろうというような期間に定めていくことになるわけでございます。そのようなものとして現在一週間ということを考えているわけでございます。また、これを容易ならしめるために、その代理人の範囲も申請に比べれば緩やかに、順序も定めることなしに指定をしているわけでございまして、今後さらに検討を重ねた上で、問題点があれば、この点について別途の処置を考える必要があるかどうかという点は引き続き問題になっていくものと存じます。しかしながら、ともかく受領を確保するということが先決問題、最も重要な点でございますので、これを難しくするような気持ちは全くございません。その点を確保していくためにどういう定め方が最も実際的であるかという観点から、今後とも引き続き検討をいたしたいと考えます。
  160. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 別の問題に移りますけれども、先ほども同僚議員から出てきた話なんですが、いわゆる指紋をカードに転写する問題ですね。これは、それでもって絶対に違反がなくなるというような御発言でございますけれども、先ほど局長も御自身認められておったように、その場で指紋をチェックするということは事実上不可能だし、本人が申し立てればできるかもしれないけれども、それを押せということまでできない。ということになりますと、カードに指紋を転写することについてはそれほどの意味もないのじゃないか。この辺が確かに一番の、原簿にはしておいても、免許証は顔写真を見れば大体わかるような話で、常時携帯カードに指紋を押すことそのものについての意味がどうもちょっと不鮮明なような気がするので、あるいは重複になるかと思いますけれども、その辺に意味が本当にあるのだろうかということについての御説明を願いたいと思います。
  161. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先ほど申しましたように、私どもがこの登録証明書に指紋を表示することについて最も重視しておりますのは登録証明書の不正使用に関する抑止効果でございまして、この点については従来の経験に照らして申し上げるほかないわけでございます。しかしながら、この点は私どもは確信を持って重視している点でございます。  現に、この登録法の改正問題につきましては従来から種々議論のあったところでございまして、かつて二、三年前にも、五年に一回というのを廃して一回限りにするということが政府部内で協議、議論、検討された経緯もございます。しかしながら、その時点において、この問題についてついに合意にと申しますか、結論に達し得なかったのは、一回限りにした場合には二回目以降の切りかえに際して交付される登録証明書から指紋がなくなってしまうではないかということだったわけでございまして、そのことが五年に一回という制度を一回限りにするということに移行することを妨げた非常に大きな原因となったという経緯もございます。事ほどさように、この登録証明書に指紋の表示を確保するということは重視されているわけでございます。その後の機器の開発、材質の改善といったようなことを通じて使用に十分たえ得る転写ということが可能になったということが今回の法改正につながったということも言えるわけでございまして、この点についての私どもの付与しておる重要性といったものは極めて大きいということは申し上げることができるかと思います。
  162. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私も前回の質問の冒頭でお話しいたしましたように、今回の改正が大きな前進であることは認めているわけでございます。その中の一つのあれとして、どうしてもということでこの話が残ったのかと思いますけれども、今後検討の余地があるものと私どもは考えております。  それから、私は二回目の登板でございますから私の聞きたいことは大体網羅したのでございますけれども、基本問題として、私は法務大臣にむしろお聞きしたいのは、この携帯義務の問題あるいは年齢の問題でも至るところで顔を出してきた問題ですけれども、通常の、ぽっと来てしばらく滞在する人間と永住者、特にいろいろな情勢のもとにこちらに永住することになった永住者というものについて一線を画したというか、通常の者と違う扱いをすべきでないかということがいわば大きな問題となった一つだと思うのですけれども、こういう永住者というものについて通常の、ちょっと入国してくる人間とは別に考えるという法的な立場、この辺についてどうお考えになるか。さっきの携帯義務のときも出てきておりますけれども、この辺についてどうお考えになるか、法務当局の御意見を承りたいと思います。
  163. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 本日午前中の答弁で触れた点でもございますので、繰り返しになって恐縮でございますが、同一人性の確認という行政上の必要についてのみ申し上げれば、経験的には明らかなとおり、一時的な極めて短期の滞在者に比べて長期、中期の在留者の同一人性の確認ということの必要性はより大きいわけでございまして、この点は先ほども申しましたように、米国でも永住者のみに指紋の一般的な一律の義務を課しておるということが裏づけているとおりでございます。言いかえれば、その不正規在留者なり不正規入国者なりというものとの区別を必要とするのは、一年以下の短期在留者ではなくて、長期あるいは中期の在留者であるということでございます。この点からいえば、すなわち外国人登録法目的とする登録の正確性の維持という点からのみ申し上げれば、むしろそういう行政上の必要は永住者を含む中長期在留者について大きいということにならざるを得ないのであります。  したがって、先生が念頭に置いておられる我が国に在留する永住者の大多数の人々の政治的な、歴史的な背景というものからの考慮というものとこれとをどう調和させていくかという点に問題が戻ってくるわけでございまして、今回の法改正もそうした両方の観点からぎりぎり詰めた考慮の結果であるというふうに御理解いただきたいのであります。
  164. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 同一性の確認という面ではあるいはそういう見方もあり得るかと思いますけれども、法的な地位というか、本来これはいろいろ各国によって、例えばアメリカあたりはアメリカで生まれると自動的に国籍が生じて二重に持てるという制度があるわけですね。欧州では、フランスやドイツはむしろ血統主義ですけれども、英米法系は生まれた途端に国籍を取得できる、昔の国籍と二重に持っていられるという形であるわけですね。この辺は非常に国家の基本問題にかかわる問題でございますけれども、この辺が基本的に同一性の確認という面では、今おっしゃった短期滞在者よりもいわば永住者の方が確認しづらいという議論もございましょうけれども、また逆に、しょっちゅうそこで生活していればそれなりの確認も十分できるという見方もありますし、こういったいわば権利義務関係について確認という面とはまた別の立場から、永住者というものはある程度法的に意味は違うんだという考え方も理由があり得るのではないか、これは入管の問題というよりはむしろ民事の問題かと思いますけれども、この辺についてのお考えをお聞きしたいと思います。
  165. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 多少舌足らずの点があったのかも存じませんけれども、私が申し上げたのは、永住者の方が短期在留者に比べて確認がしづらいということではございませんで、永住者を含む中長期在留者の方が不正規在留者との区別を確認する必要性が大きいということであります。そのことが一つの側面でありまして、もう一つの側面は、朝鮮半島出身者を含む我が国の大多数の永住者の背後にある背景、また、それに由来するもろもろの必要な考慮というものとの調和、調整をどうするかという問題になるわけでございまして、この点につきましては戦後数十年にわたってさまざまの法改正も加えられて今日に至っておるわけであります。すなわち、特に福祉の面におきましては日本人とほとんど変わらない取り扱いが与えられるようになって今日に至っておるわけでございまして、こうした面でこれらの永住者の方方の処遇全般を概観するならば、先生の念頭にあるような配慮というものは日本国全体として、政府全体としての配慮であった、あるいは考え方の発展であったというえとは言い得るのかと存じます。  ただ、その登録法という問題に立ち返るならば、これに基づく同一人性の確認、同一性の確認という点に絞って言えば、その点については中長期在留者の方が永住者も含めて短期在留者よりもこれを確保する必要性が大きいという問題は依然として残るわけでございまして、この点についての判断がただいま先生のおっしゃられたような考慮によって影響されるということは難しい、それによって対応を変えていくということは困難であろうかと思います。
  166. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 今の問題は入管のみならず、民事局というか、法全体にかかわる問題なわけでございますから、民事局長なり法務大臣なりの御見解を承りたいと思います。
  167. 千種秀夫

    ○千種政府委員 民事局の関係で申しますと国籍取得の問題になろうかと思いますが、国籍取得といいましても、生まれたときに国籍をどうやって取得するかということも含めますといろいろ広い問題になってまいりますが、とりあえず帰化の問題ということが考えられます。  帰化につきましては国籍法でその要件が定められてはおりますが、考え方といたしまして、やはりよそから来て生活しておられる方と、生まれたときから日本にいる、あるいは永住するということで日本にずっといる、こういう建前で生活しておられる方との間にはおのずからその取り扱いも違っております。まず、法律的にいいますと、帰化は五年以上継続して住所を有することを要件にしておりますけれども日本で生まれた人は三年継続して住んでおればよろしいとか、そういう違いがございますし、実際のいろいろな認定といいますか、判定につきましても、日本で生まれ、家族が永住するということで日本語をしゃべり、日本の慣習の中で暮らしておられる方というものに対する判断は、初めてよそから来られた方とはおのずから違ってくるということが考えられますし、実際の運用を見ておりましてもそのように私どもは考えております。  さらに国籍法、出生地主義の御指摘がございましたが、この問題は一つの考え方あるいは制度の利点というようなことは十分考えられることでございますが、国籍法につきましては、これはやはり御指摘のように歴史的ないろいろな背景がございますし、国民性というものもございまして、我が国あるいはアジアの諸国は血統主義をとっております関係もありまして、その血統主義との関係で出生地主義を直ちに採用できるかということは、いろいろな問題が出てこようと思います。ただ、日本の場合に、かなり何代にもわたって日本に生活しておられる方が大勢いらっしゃるということになりますと、これは将来の問題としてそういう実情も考慮して、法改正などの問題が起こるときには検討を要するべき問題だと考えております。
  168. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 今の先生の御質問、入管局はやはり入管局としての答弁になると思うわけでありまして、民事局は民事局としての答えになる、こう思うわけでありますが、先生の御指摘の点は永住者、日本に永住しよう、それに二世、三世の方方というようなそれぞれの立場ということもあるわけでありますし、さきにもお話し申し上げたように、二世、三世の方で日本の国以外知らないという登録者も、永住者もあるわけでございまして、そういうような点を考えると、登録の確認のためには指紋も必要だ、これは御本人のためにもということもあるわけでございますけれども、何となく、私がそういうようなお話をしてはどうかと思いますけれども、役所の便宜主義といいましょうか、そういうような点も登録されている方々には感じられるのではないかな、こう思います。  さような点で永住者に対する、特に二世、三世等に対する今の登録法が果たしてこれでいいかということについて、私として現状としては現在提出しておりますこの方法が最善だ、こう申し上げますけれども、さらに今後とももろもろ改善の面において検討していきたいということをお答え申し上げておきます。
  169. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私も、急に国籍をどうのこうのと動かすわけにはいかない、それならそれなりに、ちょっと入ってきている人間と長くいる人間と、人権の扱いとかそういう面でやはり特別な配慮をすべきではないかということなんです。日本の国の社会ですから、外国からぽっと入ってきた者に全く日本人と同じ権限を、あるいは人権を与えるというのも行き過ぎな、人間というものは世界的なものかもしれませんけれども日本の法体系の中で区別はやむを得ぬ。しかし、国籍法的なものがなかなか動かぬような状況のもとに長く住んでおられる方には人権問題というのは重要視しなければいかぬ、それがまたいろいろ大きな問題になっているゆえんだと思いますけれども、その点について私はもう一度法務大臣のお考えを承りたいということです。
  170. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 総合的にもろもろの点を頭に入れてこれからの研究課題だな、このような点で御理解をちょうだいいたしたいと思います。
  171. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私は、年齢の問題なんかにしても携帯義務の問題なんかにしても、その点を背景に物を考えていただきたいと思います。  最後に、五・一四通達、今まで既に出てきた話題かと思いますけれども、これはいろいろ内容があったところでございますが、今度法改正になったときに当然それは見直すものであろうなと私は理解しておりますけれども、いかがでございますか。
  172. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 五・一四通達は、もちろん現行法を前提としたその執行を確保するための通達でございますから、改正法の施行後には見直しが相当と見るべき点も当然出てこようかと思います。そういうことで、ただいまの法改正が御承認いただけた場合におきましては、施行に先立って改めて見直しを全体的に行いまして、その中で修正すべき点は修正し、新たな通達を行うという必要も生じ得ようかと思います。
  173. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 主としてどういう点を。
  174. 黒木忠正

    黒木説明員 五・一四通達では大変幅広く言っておるわけでございまして、二回目の指紋の照合をしっかりやるようにとかというようなことも入っておりますし、法違反者に対する告発の問題も触れでございます。それから、意向表明者に対する三カ月の説得期間の設定といったようないろいろなことを言っておるわけでございまして、そういった中で今度法改正になれば当然適用のなくなります部分、例えば二回目、三回目の指紋を押してもらっているわけでございますので、その指紋の照合という部分は法律が新しくなれば必要なくなるわけでございます。別の指導が出てくるだろうと思いますので、そういった意味では、今局長が申し上げましたように、全般的に見直しをして、この通達全体を廃止するかないしは部分的な修正を行うかということは今後検討してまいりたい、こういう趣旨でございます。
  175. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 その修正の際に、やはりいろいろ人々の意見をよく聞いてやっていただきたい。もちろんあなた方が出す通達だといたしましても、今までいろいろこれだけの問題が起こってきた案件でございますから、法律段階でいろいろ議論するのみならず、これから実施の段階でこの改正を踏まえてどういうことにするのかという過程におきましては、いわば指紋をとられる側の立場もよく配慮してやっていただきたいと思います。いかがでございますか。
  176. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 今後、現在の改正法案を御承認いただきました上は、この改正法の実施に向けて種々準備の段階に入るわけでございます。その一環として、さらにまた関係外国人団体等との意見交換の機会も当然生じることと思いますので、そうした意見交換、すなわち改正法の実施を前提としたさまざまの準備あるいはその他の配慮すべき点についての意見交換も行われることと思いますので、そうした意思の疎通を通じて新たな通達の発出あるいは五・一四通達の修正の指示あるいは連絡等についての参考となるべき点も出てくることと存じます。特に、新しい通達で明記しなくてはならないのは、先ほどから問題になっておりました二度日の指紋、改めて指紋押捺を求める事態についての指定あるいは取扱要領といったことが含まれるかと思います。そうした点を含めまして、遺漏ないよう十分な準備を進めてまいりたいと存じます。
  177. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 本来は、前のものは一応やめにしてもう一遍新しく考え直すというような形の方が私は適当かと思いますけれども、いかがでございましょう。
  178. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 まだ十分に検討を尽くしておりませんけれども、新しく通達を発出する、すなわち五・一四通達は一応廃止して新しく通達を発出するということも大いにあり得ると存じます。
  179. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 いずれにいたしましても、もう時間もあれでございますから、大臣、この外登法、私は一歩前進であるということは評価しております。ただ、これからせっかくの新しい改正法の運用がおかしくなってはいけないということと、一歩前進であるけれども、これからも検討すべきことは検討していくという、この二つを最後に確認したいと思います。いかがでございますか。
  180. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 今度の改正案は、今先生から点数を一歩前進と言われましたけれども、登録者から言わせるとまだまだ大分辛い点があろうと思います。私もそれを承知をしながら、とにかく幾らかでも前進せしめたい、改善していきたいという気持ちで御審議をちょうだいいたしているという点から考えましても、運用の面やすべてにおいて前進させたい、前進とは何かというと、登録者の方々にいろいろの面において緩和してあげたい、そういうふうな気持ちで努力していきたいと思います。
  181. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 そういったお言葉をいただきまして、私の質問を終わります。
  182. 井出正一

    井出委員長代理 安藤厳君。
  183. 安藤巖

    ○安藤委員 前回、時間がなくなりましたので、最終的に詰めが行われなかったような気がいたしますから、まず最初に、これは質問ではありませんが、強く要望しておきたい。  経過措置の第五項の関係であります。これはあのときも申し上げたのですが、今度の改正案によりますと、切りかえ確認申請のとき指紋の押捺はしなくてもいいことになるわけですね。ということは、拒否も何も問題なくなるわけですが、この経過措置で、この改正案の施行前に指紋押捺を、確認申請、切りかえ交付のときに拒否した者は、刑罰については従前の例によもということになると、確認申請、切りかえ交付のときに指紋の押捺をさせるようにしてある現行法のもとでの指紋押捺を担保するための刑罰だけ残すということで、これは何のためにせっかく改正しようとするのか、意味が全くないということ。それから、先回も申し上げましたが、犯罪を行った後の法令の改正によってその刑罰がなくなったときは起訴をされても免訴になるという刑事法上の大原則からしてもこれはおかしい。大臣は、もう法案を提案して今審議をしていただいているのであるから、いわばこの期に及んでというお話になろうかと思いますが、この経過措置第五項、これは削除すれば足りるのですから、今申し上げましたような趣旨からこれは本当に削除さるべきであるということを強く申し上げておきます。  そこで、きょうはちょっと具体的な例を申し上げたいと思うのですが、京都のカトリックの神父さんでJ・A・ガレロンさん、これはスペイン人の方です。この人が今押捺を拒否してみえておるわけです。この方は、一九七七年、昭和五十二年八月に来日をされてもうずっと見えておるのですが、切りかえ交付のときに指紋押捺を拒否された。そのために、在留更新期間が今までは三年間ずつ認められておったのが三カ月に縮まって、現在もう切れておるはずなんですが、何らかの措置によってまだ在留が認められておるようであります。この人の関係につきましては、やはりカトリック京都司教の京都教区長ライムンド田中健一という方から私あてに書面が来ておるのですけれども、結局「ガレロン神父は外国人登録法日本国憲法や国際人権規約の精神に著しく反するばかりか、在日を余儀なくされた多くの在日韓国・朝鮮人にいわれなき重荷を強いるものとして、法改正を強く求めて指紋押捺を拒否したのです。」こういう趣旨の文面であります。  それからもう一人の方は、上智大学の教授をしておられるビセンテ・ボネットさんであります。この人は、一九六〇年、昭和三十五年に来日をしておられます。そして、この方も同じくスペイン人で、カトリックの神父さんであります。この人も昨年の三月二十日に指紋押捺を拒否して、これまでずっと在留期間は三年間ごとに更新されてきたのですが、指紋押捺を拒否したために三カ月に短縮された、こういうようなことになっておるわけであります。  そこで、このボネットさんの関係につきましては、学生さんから私あてに手紙が来ておりまして、「私達ボネット先生の身近に居る学生にとって、「正直に生きること」が、現実の社会においてこんなにも難しいのかと思い知らされる毎日です」「ボネット先生の拒否がもたらしたものは、ボネット先生個人だけの問題にとどまらず、私達を含めた多くの人々の思いがあります。」こういうようなことで指紋押捺を拒否されておるし、これを支持しておられる方の思いがあるわけであります。  そこでお尋ねしたいのですが、この指紋押捺の問題につきましては、憲法第十三条の自由の問題、それから今私が申し上げました田中健一さんの手紙の中にも「国際人権規約の精神に著しく反する」という指摘がありますけれども、市民的及び政治的権利に関する国際規約が昭和五十四年九月二十一日に発効しております。この第二条は、平等に扱わなければならぬということですね。「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、」等々で差別をしてはならぬ。そして第七条「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い」以下省略しますけれども、そういうようなことは受けないというふうになっておるわけです。日本はこれを批准しております。そうしますと、この指紋の押捺を強制するということはまさに品位を傷つける行為だという認識があるわけなんです。この点については、法務省当局はどのように考えておられますか。
  184. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 私どもは、この指紋押捺を法的に義務づけるということにつきましては、それが合理的な必要性によって裏づけられている限り、国際人権規約B規約に言う「品位を傷つける取扱い」には当たらないと考えておりますし、憲法に定めるその他の自由の侵害にも当たらないと考えております。この点は、今日までに我が国の法廷によって判断されたすべての判例において判示されているところであるのみならず、在日外国人団体等からジュネーブに本拠を置きます国連人権委員会に対する申し立てがその都度作業部会の段階で却下されているという事実によっても、国際的に認められておるというふうに考えております。  いずれにせよ、私どもといたしましては、指紋制度、すなわち外国人登録制度上の指紋押捺義務は、現在の法律の背後にある合理的な必要性によって裏づけられている限り、これらの規約あるいは法規に規定する自由権その他の基本的人権に反するものではないと確信しております。
  185. 安藤巖

    ○安藤委員 今おっしゃったような答弁があるわけでございますけれども、やはり強制的に指紋の押捺をさせるという行為は、その当人にとっては品位を損なわれる行為だという認識を持っている人が圧倒的に多数だということも認識していただく必要があるということを申し上げておきます。  そこで、この外国人登録法と出入国管理法との連動の問題についてお尋ねをしたいのですが、外登法に決められている義務不履行は、指紋押捺拒否というのがその最たるものかと思いますけれども外登法自体によって刑罰に処せられることになっているわけですね。だから、本来外登法違反の場合は外登法の枠内において処理すべきだと思うのです。そして、これまでも長年にわたって外登法の枠内で処理がされてきたと思うのですけれども、それを入管法との連動で、先ほどガレロンさんあるいはボネットさんの例で申し上げましたように、在留期間を今まで三年認められておったのを三カ月にする、一カ月にする、切れたら強制退去、こういうようなやり方というのはおかしいのじゃないかと思うのですが、その点はどうですか。
  186. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 外国人の在留管理上、特に期間の更新等におきまして考慮の対象となる事象といたしましては、在留状況というものがございます。もちろん在留状況に関しましては、入管法に定める退去強制事由に該当するような事案が生じた場合には判断するまでもなく退去強制手続に入るわけでございますけれども、退去強制事由に該当するに至らなくても、その間の素行あるいは行動状況、在留状況というものは判断の対象とする必要があるわけでございます。  また、外国人登録法と出入国管理法との間に直接の関連はないではないかという御質問でございましたけれども、在留状況という観点から考えます場合には、その法律相互間の法的な関係が直接に問題となるわけではございませんで、例えば在留者が税法に違反して脱税をするといったようなことも在留状況の中には当然入ってくるわけでございます。税法と登録法との関係がないとかあるとかいうことは、この際問題にならぬわけであります。これと同じようなことでございまして、この押捺拒否といった行動を、不作為をどのように評価するかということは、当然評価の対象となり得るわけでございます。入国管理当局といたしましては、一定の政治的な目的のために、その政治的な目的が法の改正を要求することであれ法に対する反対を表明することであれ、そうした政治的な目的のために現行法に故意に違反するという行為を容認し得ないという基本的な立場から、この厳しく評価するという結論を導き出したわけでございまして、そうした観点からは在留状況との関連は極めて深いということが申し上げ得るかと存じます。  恐らく、いかなる国におきましても、その国の法律制度に反対であるということを表明し、その修正を求めるために故意にこれに反する行為を行う、法定義務に違反する行為を行うということが安易に黙過されるということは、通常の国家であれば考え得ない点であろうかと思います。
  187. 安藤巖

    ○安藤委員 先ほども言いましたように、長年にわたって外登法違反は外登法違反として処罰するということで、外登法の枠内で処理されてきたという経過もあるわけですね。そういうことから考えて、やはり外登法外登法として違反したら刑罰に処するということで、必要にしてかつ十分であるというふうに思うのです。特に国外強制退去というようなことになってきますと、これは当該の人にとってみれば完全に生活権を脅かされるわけですね。だから、これは外登法に違反したということの処罰に加えて、出入国管理関係でのそういうような国外退去という二重の処罰、制裁としか言いようがないような処罰ではないかと思うのですが、その点は何とも痛痒は感じておられないのですか。
  188. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 先ほど一つ申し忘れましたけれども外国人登録法と出入国管理法との間には極めて密接な関連がございます。たとえ関連がなくても、評価の対象となるということは先ほど申し上げたとおりでございます。しかしながら、外国人登録制度は出入国管理行政にとって不可欠の資料を提供する、あるいは基礎を提供する法律でございます。したがって、外国人登録法の正確性あるいは登録制度の正確性を維持することは、出入国管理行政の適正な執行と不可欠の関係にあるということも言い得るかと存じます。  一方また、特に在留規制等に関連いたしまして、その生活権を奪うような場合にまでこれを短縮するあるいは不許可にするということで生活の場を否定することは余りにも過酷ではないか、あるいは加重された刑罰ではないかというような御発言がございましたけれども、在留規制はあくまで行政上の措置であって刑罰ではございません。また、その運用に当たりましては個々の事案について十分綿密な検討を加えております。したがって、押捺を拒否した人々を一律に退去の手続に持っていくような、在留期間の更新不許可といった措置はとっていないのであります。現在までにそのような措置のとられた人々は主として宣教師でございますけれども、その生活の場が本邦になくても十分に生活をしていけるという人々でございまして、例えば永住外国人の配偶者であるとか日本人の配偶者であるという場合には、在留を拒否するあるいは在留を否定するといった措置はとっていないのであります。
  189. 安藤巖

    ○安藤委員 日本から国外退去を強制されても十分生活していけるとおっしゃるけれども、別に具体的な証拠を握っておられての話ではなくて、宣教師さんならできるだろう、こういう漠然とした認識に基づいておっしゃったにすぎないと思うのですよ。これは行政措置だとおっしゃったのですが、その行政措置が二重の制裁として当人にはかぶさっていく。これは本当に過酷なことになるんだということは十分理解していただく必要があると思うのですね。  そこでもう一つ例を挙げますと、これは新聞にも大きく出ておりましたが、ことしの一月十五日に第三十三回NHK青年の主張全国コンクールに出場した金哲晶さん、御存じだと思うのです。そこで金さんは優秀賞を獲得した。褒美に副賞のカナダ旅行というのがついておったのです。ところが、この人は一度登録証を紛失して、再交付申請をしたときに指紋の押捺を拒否した。だから再入国の許可はしないぞ、こう言われて、いろいろ努力をされた方もあるし、援助をされた方もあるし、御当人も努力をされたのですが、結局はだめになったのですね。だからこれも一般の新聞に「指紋押捺拒む韓国人高校生 カナダ族行を断念」、こういうことになっているわけなんです。  こういうのを見ますと、外登法と出入国管理法との連結、これは当然当たり前な話だということでもって、そして出入国管理の方は行政処分だ、大いに関連があるし、それは刑罰ではないからまた別なんだ、やって当たり前だというようなことがこういう悲劇も生んでおるのですね。だから、こういうことも含めて、本当に過酷なことになるんだということを十分理解をしていただく必要があると思うのです。先ほどおっしゃったように、それは当然だとおっしゃるかもしれぬ。しかし、こういうような結果を招くということも十分考えていただいて、外登法の違反は外登法の違反で、法律がある以上は処罰はやむを得ぬ。しかし、出入国管理法と直ちに連動させて強制退去、再入国不許可というようなことに直ちにいくというのはやはり問題じゃないかと思うのですが、今私が申し上げましたような事例を踏まえて、もう一度どうですか。
  190. 小林俊二

    ○小林(俊)政府委員 御承知のように、再入国許可についての処分であるとか在留に関する規制であるとかといった行政上の諸措置は、指紋押捺拒否という問題が生じた後に自動的に導入されたものではございません。一定の時期に一定の判断のもとに導入されたわけでございます。それは結局、押捺拒否といったような事象が社会的にその規模を大きくして無視し得なくなったというような状況があったということが背後にございます。したがって、今後の動向につきましても、既に他の委員の御質問に対してお答えを申しましたように、今回の改正法施行後における状況の推移に応じて、改めて評価を見直すような状況も生じ得るであろうということでございます。ただいま申し上げたようなことが行政上の措置についての背景でございます。  御指摘の韓国人高校生につきましては、社会党の議員の同行で訪問してこられました際に、私自身、二時間半にわたって詳細に私どもの考えを説明し、説得に努めたという経緯もございます。また、本人の言わんとするところをできる限り事実に即して理解するように努めたということもあるわけでございます。  この少年は、NHKのコンクールにおいて、自分は在日韓国人として生まれた立場に十分思いをいたし、今後は自分の祖国である韓国と日本、その二つの国、二つの祖国の間のかけ橋として尽力していきたいといったような表明をしておるわけでございます。そこで私は、そうした本人の決意が真実のものであるならば、当局としてもその考え方について満腔の同情と敬意を表するものであるということを明らかにして、なおその上で、そうした決意が押捺拒否ということとどのようにして結びつくのか、どのようにしてこのような行為を通じて両国間のかけ橋としての役割を果たしていけるのか、また、押捺するということがそうした本人の決意をどのようにして裏切ることになるのかといった点について言葉を尽くして議論をしたのであります。残念ながら最終的には理解を得ることができず、翌日電話してきた本人は、今回はカナダ旅行はあきらめますと言ったのであります。  しかしながら、本人は自分の考え方についてなお理解をしてほしいので今後直接手紙を出したいけれども返事をしてもらえるかということでございましたから、私としては、それが個人的な返事となるとしても、本人が手紙を書きたいというのであれば喜んでそれを受け取って拝見しよう、そして私としての回答を差し上げようということを約束したという経緯もございます。ともかく二時間半の意見交換というものは、本人との間の意思疎通ということにつきましては決してむだではなかったと現在でも考えております。
  191. 安藤巖

    ○安藤委員 この金さんは、もちろん自分の信念として指紋押捺を拒否してきたということをはっきり表明しておられるわけです。それはやはり、そういう指紋押捺するということがいかに屈辱的なものであるのかということをしっかりと感じ取っておられるからそういう態度をとっておられると思うのです。事ほどさように指紋の押捺というものが非常に大きな影響を与えるものだということをしっかり納得をして、話をしてこうなったとおっしゃるけれども、そういうふうに感じ取っておられるのだということをこういう機会に感じ取っていただきたい、このことを強く要望しておきます。  そこで、改正案の十一条の三項のいわゆる確認申請、切りかえ交付の関係でお尋ねしたいと思いますけれども、今度からこの改正案によると五年ごとというのを五回目の誕生日ごとというふうに変えられるようでありますが、この十一条三項で「第一項に規定する登録(登録後の確認を受けた場合には、最後に受けた確認。以下この項において同じ。)の時に次に掲げる者に該当する外国人については、第一項の申請をしなければならない期間はこれは五年ごとということになるのですが、次に掲げる者に該当する場合には「同項の規定にかかわらず、当該市町村の長が、法務省令で定めるところにより、」「一年以上五年未満の範囲内において指定する日から三十日以内」に指紋押捺、切りかえ申請、確認申請をしなければならぬという規定ですね。そこで、この三項の二号に「第十四条第二項本文に該当することその他の事由により同条の規定による指紋を押していない者」ということになるわけですが、まず最初に、「法務省令で定めるところによりこというふうにあるのですが、法務省令では一年以上五年未満の範囲内でどういうふうにこの期間をお定めになるつもりですか。
  192. 黒木忠正

    黒木説明員 この省令はまだ検討中の段階でございます。
  193. 安藤巖

    ○安藤委員 一年以上五年未満の範囲内ということですから、五年よりも短くなるということは間違いないと思うのですが、どうですか。
  194. 黒木忠正

    黒木説明員 一年、二年、三年、四年というような選択があろうと思います。
  195. 安藤巖

    ○安藤委員 今おっしゃったように、五年よりも短く、一年、二年、三年、四年ということになるわけですが、こういう規定を置いてそういうふうにする趣旨はどういうことですか。
  196. 黒木忠正

    黒木説明員 この第二号にも書いてございますように、指紋押捺されてない登録を持っている人につきましては、最終的なと申しますか、確認の手段が指紋を押した人よりも欠けるわけでございますので、そういった人につきましては確認の期間を、指紋を押した人については五年という定めがあるわけでございますが、そうでない人につきましては確認の機会を多くするということによって正確な登録を維持しよう、こういう趣旨でございます。
  197. 安藤巖

    ○安藤委員 そこで、刑事局長にお尋ねしたいのですが、原則的には五年に一回というのが確認の機会なんですね。ところが、今お答えいただきましたように、一年、二年、三年、四年と一仮に二年だということになりますと、これは一つの例えの話でございますけれども、一回切りかえに出頭して拒否をした。原則的に言えば次に切りかえに出頭するのは五年後になるわけですね。ところが、二年ということになると、二年たったらまた出頭しなければならぬ、こういうことになるわけですね。となると、前に拒否して刑罰を受ける。それから五年の原則ということになれば、また拒否をして刑罰を受ける。これは裁判を受けて刑罰を受けることになるわけですが、その二回目の拒否によって裁判を受けるときに、前の拒否によって受けた刑罰から五年後に刑の言い渡しを受けるというようなことは大いにあり得ることではないかと思うのですが、どうでしょうか。
  198. 岡村泰孝

    岡村政府委員 それはあり得ることだと思われます。
  199. 安藤巖

    ○安藤委員 そうしますと、それが二年ということになると、前の拒否から二年たってまた拒否した、また起訴されて刑罰の言い渡しを受けるということになると、これは五年未満にまた拒否をした、その刑罰の言い渡しを受ける、こういうようなことになるおそれが多分にある、こういうことになりますか。
  200. 岡村泰孝

    岡村政府委員 そういうことになると思います。
  201. 安藤巖

    ○安藤委員 そうなりますと、これは刑法第五十六条にいわゆる再犯の規定というのがあって、前に受けた刑罰の執行を終わってから五年以内にまた判決の言い渡し、刑の言い渡しを受けるときは再犯ということになって、第五十七条では長期の二倍以下の有期懲役を科することができる。長期は二倍になるのですね。こういうようなことになっておるのですが、そうなると、こういう指紋押捺を拒否しておる人に対しては、先ほどの刑事局長のお話によれば、原則五年ということになれば再犯ということで重い刑罰を受ける機会がない場合がある。ところが二年ということになったら、再犯ということで、いわゆる累犯です、重い刑罰を受ける可能性あるいは確率が非常に高くなってくるわけですよ。となると、この規定はやはり指紋押捺拒否者に対して何回かにわたって犯罪を犯すというような機会を与える、というのはおかしいのですが、また犯したまた犯した、また犯したまた犯したと一年刻み、二年刻みでやって、もう犯罪行為をやったやったということで取り囲む、そして今お尋ねをしたようなことで累犯加重、重い刑罰を科すことができる、こういうことになるのですよね。まさにこれこそ指紋押捺を拒否している人に対する特別な制裁をこの条項は考えているのではないかというふうに思うのですが、どうですか。
  202. 岡村泰孝

    岡村政府委員 刑法五十六条の累犯の規定でありますが、「懲役二処セラレタル者其執行ヲ終リ」「タル日ヨリ五年内二夏二罪ヲ犯シ有期懲役二処ス可キトキハ之ヲ再犯トス」と規定いたしているところであります。したがいまして、前科となるべき事案が懲役刑に処せられたものであること、すなわち実刑に処せられたものであるという前提があるわけであります。したがいまして、例えば罰金刑に処せられた者が二年内にさらに罰金刑に処せられるという場合には、この五十六条の規定の適用はないわけであります。実刑に処せられました者を例えば二年内にさらに有期懲役に処すべきときは、この規定の適用があるわけであります。これは、やはり実刑に処せられた者が五年以内にさらに罪を犯して有期懲役に処せられるということは、その犯情もまた悪質でありまして、これを累犯加重で処罰するのが相当であるという考えによるものであると思われるのであります。
  203. 安藤巖

    ○安藤委員 今私がお尋ねしたのは、刑事局長さんにはまた後でお尋ねしますけれども、前にお答えをいただきましたので、お聞きのようにその前提に立って法務大臣もしくは入管局長さんにお尋ねをしたつもりなんですけれども、もちろん前提として、有期懲役に処せられてまた有期懲役に処せられる、そういうことは大いにあり得るのですよ、十四条それから十八条の罰則からすれば。そういう前提でお尋ねをしておるのですが、累犯加重の危険、先ほど刑事局長さんの犯情重き場合、まさに犯情がおまえは重い、だから累犯加重で刑を重くするんだ、指紋押捺拒否しているとこういうことになるんだぞと、これなんか特別に重くするためにこういう規定を置いたとしか思えないのです。だからその点、法務大臣並びに入管局長さんはどういうふうにお考えなのか、お尋ねしているわけです。
  204. 黒木忠正

    黒木説明員 先ほど申し上げましたように、この規定はそういう処罰を前提とする、それを目的とする規定ではございませんで、あくまでも外国人登録の正確性を維持するという趣旨でございます。  それから、この機会に一言申し上げますが、在日外国人の人たちにありましても、法治国家でございますので法規に従って行動していただく、違反が前提となるというようなことでは大変ゆゆしき問題だというふうに考えます。
  205. 安藤巖

    ○安藤委員 違反が前提になるというよりも、先ほど申し上げましたようないろいろな理由で指紋押捺を拒否してみえる方が現実におられるわけです。そして、この第十一条の三項は新設規定なんですね。現行法にはないのですよ。それを改正案と称して三項を新設することによって、今いろいろお話がありましたように、指紋押捺を拒否している人に対しては、原則五年だけれども特にそれを一年、二年、三年、四年と五年未満に期間を縮めて、何回にもわたって指紋押捺を求める、確認申請をさせる、そういうようなこと。そうすると、五年以内の間に、二年だったら二回あるわけですね。何回にもわたった指紋押捺拒否という犯罪行為を犯させる。何回一体やるのだ、こういうことで累犯加重ということもあるし、重い刑罰に処する、こういう構えだとしか言いようがないのです、これはわざわざ新設をしているのですから。これは大問題ですよ。  それからもう一つ、指紋押捺を拒否している場合でも、現在も登録証を渡しておられるわけです、指紋押捺を拒否しているということで。それでも現行法は五年ごとでいいのです。それが先ほどのように一年、二年、三年、四年ということになりましたら、これは一年以下の何々のというのは十八条にありますから、公訴時効は三年ですね。ところが、これはいいか悪いかは別として事実上の問題としてお尋ねするのですが、一回拒否した、そして今度二年たったらまた確認申請に行かなくてはならぬ、また拒否した。あなたはこの前も拒否した、だから今度はきちっと刑事制裁を受けるように措置をとる。これは三年の時効だったら、原則の五年間だとすれば、三年の時効で時効が完成する場合もいい悪いは別にしてあるわけですよ。ところが二年ということになったら、この前のも一緒にということになったら、これは時効を中断されてしまうというようなことで、時効の恩典と言うと語弊があるかもしれませんが、そういう機会もなくなる。これはそういう点でもとんでもない規定ですよ。だから、この点はどうしても大いに考えていただく必要がある。こういう点からしても、指紋の押捺ということは、後でまた申し上げますけれども、どうしてもやめなければおかしいのだというのが出てくるのですよ。どうですか大臣、今私がお尋ねしておったのですが、指紋押捺拒否者に対して特別何回も犯罪する機会、その人が信念に基づいて拒否すると、拒否する機会、刑罰に処せられる機会をたくさんつくって、それで包囲してということになりかねぬのです、これはいかがでしょう。
  206. 遠藤要

    ○遠藤国務大臣 私どもとしては、今まで、かっては三年に一度ずつ指紋押捺をしていただいた、それを五年ということにした。今度は、余りにも指紋に対する皆さん方の考えということから考えると、一度だけということに改善していこうという考えでございまして、先生のお話を聞いていると、何か指紋を押捺しない方の奨励をするような感じにも聞こえるわけなんですがね。私どもとしては、今の法治国家として五年のものを一度だけということに改定していく、そうすれば登録をされる方々にも御理解と御協力を願えるんじゃないか、その方に力点を置いているということで御理解をいただきたいというのでございまして、まじめに法治国家の日本に御協力を願って指紋を押されている方々が大多数であるということをひとつ先生御理解願っておきたい、こう思います。
  207. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が参りましたから今回の分はやめますけれども、現実に信念に基づいて指紋押捺を拒否しておみえになる人がいるのです。その人に対して特別過酷な重罰を科する、何回も罪を犯させる、そういうようなことになるのではないのかということを私はお尋ねしておるのです。その辺を十分御理解をいただきたい。時間が参りましたので、今回はこれで終わります。
  208. 井出正一

    井出委員長代理 午後二時再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午後一時一分休憩      ————◇—————     午後二時一分開議
  209. 大塚雄司

    大塚委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  午前中に引き続き、内閣提出外国人登録法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、本案審査のため、参考人として財団法人入管協会専務理事中市二一君、在日本朝鮮人聯合会中央常任委員会社会局長河昌玉君、東京大学教授大沼保昭君、南山大学教授萩野芳夫君、愛知県立大学教授田中宏君、以上五名の方々に御出席をお願いいたしております。  なお、大沼参考人につきましては、出席が多少おくれるとの連絡をいただいておりますので、御了承願います。  この際、一言ごあいさつ申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ、本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案について、参考人各位には、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。御意見の開陳は、中市参考人、河参考人、萩野参考人、田中参考人、大沼参考人の順序で、お一人十五分以内に取りまとめてお述べいただき、次に、委員からの質問に対しお答えいただきたいと存じます。  それでは、まず中市参考人、お願いいたします。
  210. 中市二一

    ○中市参考人 ただいま御紹介いただきました中市でございます。  近年、国際交流の活発化には大変目覚ましいものがございまして、我が国を訪れる外国人は逐年増加し、また、外国に赴く日本人の数は飛躍的に増加しております。また、これに伴いまして、我が国に在留する外国人も増加するとともに、その在留活動も多様化し、質、量ともに著しい変化を遂げており、秩序ある人の交流が強く求められております。  このような国際化社会を迎える中で、外国人登録制度あり方、さらには指紋押捺制度について各方面において種々論議が行われているのでございますが、このようなときに指紋押捺制度の緩和及び登録証明書のラミネートカード化を前提とする改正法律案提出されておりますので、この法律案について意見を申し述べたいと思います。  前置きが長くなりましたけれども、指紋押捺制度昭和二十七年の外国人登録法において初めて採用されたものであることは御高承のとおりでございますが、この制度が導入された理由としましては、昭和二十二年に制定されました旧外国人登録令におきまして人物の特定、同一性の確認の手段を専ら写真によることとしていたため、多数の不正登録が発生し、これを是正する必要が生じたことにあります。  すなわち、昭和二十二年五月、旧外国人登録令に基づきまして実施された外国人登録は、戦後の混乱期ということもございまして正確な登録とはほど遠いものであり、一人の外国人が二重、三重に登録を行って密入国者に登録証明書を横流ししたり、あるいは食糧等の不正受給を企てて多数の幽霊登録を行う等の不正行為が頻発をしたのでございます。このような事態に対応するため、当時の政府におきましては登録証明書の一斉切りかえを行う等の措置を講じて是正を図ったのでございますが、一斉切りかえを行いますと登録者数が減少し、それ以外の年は登録者数が急増するという不自然な統計が残っております。     〔委員長退席井出委員長代理着席〕  前述のとおり、不正に受給された登録証明書が不法入国してきた人たちに譲り渡されて使用されるという事案が続発したのでございますが、このように不正譲渡された登録証明書を逐次切りかえて現在に至っていると思われる事案は相当数に上ると見られております。最近、法務省に問い合わせましたところ、昭和二十年代、すなわち指紋押捺制度が実施される前に不法入国して他人名義の登録証明書を不正入手して登録上の人物に成り済ましてまいりましたが、真実の氏名を名のる必要に迫られまして、真実の名前で登録することを希望いたしまして、氏名、生年月日等の訂正を申し立てている外国人が、昭和二十年代から三十年以上経過した今日におきましても年間十数名から二十数名に及んでおる由でございまして、不正登録の横行していた当時のありさまをかいま見る思いがするわけでございます。  このような事態を改善するため、平和条約が発効しました昭和二十七年に施行されました現行の外国人登録法において、指紋押捺制度を導入し、正確な登録の実現が図られたことはさきに述べたところでございます。その結果、現在ではおおむね正確な登録が実施され、外国人登録が出入国管理行政を初め各般の行政に有効に利用され、また、外国人自身にとりましても御自分の身分や居住事項を証明する手段として活用されていることは御案内のとおりでございます。  もっとも、指紋押捺制度はスムーズに受け入れられて実施されたわけではございません。昭和二十七年に施行されました外国人登録法のうち指紋押捺に関する部分は、諸準備の都合や在日外国人の反対もございまして、その実施は三年後の昭和三十年となっております。その後も昨今の指紋押捺拒否事案に見られますように、在日外国人の間に不満が見られるのでございます。  改めて申すまでもないところでございますが、指紋は万人不同、終生不変という性質を有するものでございまして、その紋様を照合することによりまして、人物が同じであるかどうかを容易に、しかも明確に判断できるものでございます。したがいまして、指紋がこのような特質を有するため、犯罪捜査の面において積極的に活用され、指紋といえば犯罪捜査を連想するほどであります。とは申しましても、指紋押捺イコール犯罪捜査でないことは当然でございまして、最近では人物特定、同一人であるかどうかの確認の手段としまして、例えば民間の研究所の特殊なエリアヘの立ち入りに際しましてはあらかじめ登録された指紋の人でなければ立ち入りができないというシステムのように、指紋照合の方式が導入されつつあるとも聞いております。高度な情報化社会を迎えようとしている現在、指紋が行政サイドのみならず民間サイドにおいても活用される時代となりつつあるのでございます。  話を本論に戻しますが、外国人登録におきます指紋押捺が、登録される人物を特定しまして登録し、自後登録されている人物と現に在留する人物とが同一人であるか否かを確認する上で極めて有用なものでございまして、指紋押捺制度の導入によって正確な登録を実現し、維持しているその役割は大きいものと考えております。  このたび法務省において、指紋押捺に不快感を抱き制度の緩和を求める外国人の声に耳を傾け、指紋押捺を原則として例外的な場合を除きまして最初の一回限りとするというのがこの改正案の骨子の一つとなっているわけですが、この改正案は在日外国人の心理的負担を軽減することとなり、その点ではかなり評価できるものと思いますが、他方、行政当局にとりましては相当思い切った制度改正ではないかと推測いたしております。  すなわち、現行法のもとでは指紋による人物の同一性確認の手段が確保されており、写真や旅券の照合に加えて指紋を照合することによりましてその同一性を容易に確認でき、最終的には指紋を鑑識に回すことによりまして客観的に人物が同一人であるかどうかを確定することができるのでありますが、今回の改正によりますと、二回目以降は原則として指紋以外の方法によって人物の同一性を確認することとなるため、この事務に携わる人々の負担がふえ、かつ不正登録が増加するおそれなしとしないのでございます。  アメリカ合衆国においては、一たん廃止していました在米外国人に対する指紋押捺制度を一九七九年、すなわち八年前に復活したわけでございますが、その復活の理由としましては、偽造または変造された登録証明書を行使して合法滞在者を装っている数が飛躍的にふえたというようなことで、これを解消するために、先ほど申し上げましたように指紋押捺制度が復活したというふうに聞いております。  私の不安が杞憂に終わることを祈ってやみませんが、いずれにいたしましても、今回の改正案は在留外国人の心情をおもんぱかった適切な措置ではないかと評価いたします。外国人の立場にも理解しつつ、かつ整然とした行政が行われることを期待いたしまして、私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。
  211. 井出正一

    井出委員長代理 中市参考人ありがとうございました。  次に、河参考人にお願いいたします。
  212. 河昌玉

    ○河参考人 本日九月一日は、あの忌まわしい朝鮮人大量虐殺のあった関東大震災六十四周年に当たります。この日に在日朝鮮人取り締まり法規一つである外国人登録法の問題について意見を述べる機会を得ましたことを、私は非常に感慨深く思っております。  私は、まず外国人登録法の一部を改正する法律案について述べたいと思います。  日本法務省当局は、今回の改正案が在日外国人の負担を軽減した最善の法案であると言っています。しかしながら、外国人登録法の適用を受ける在日朝鮮人の立場から見ますと、見解を異にせざるを得ないのであります。  改めて指摘するまでもなく、外国人登録法については、在日朝鮮人はもとより他の外国人も一致してその改正を求めており、千八十二に上る地方議会での改正要求決議に見られるように、広範な日本国民も強くその抜本的改正を求めています。ところが、今国会で審議中の改正案は、そのような世論を考慮したものでもなく、ましてや負担軽減、緩和とはほど遠い内容になっております。  改正案のねらいは、一言で言って、ささいな違反をも懲役一年、罰金二十万円以下に処すという現行法の厳しい罰則規定などには全然手をつけないまま、逆に登録業務に法務省入管当局の直接介入の道を開くことによって、在日外国人、とりわけその圧倒的多数を占める在日朝鮮人に対し管理と取り締まりの強化を図ろうとしている点にあると言わざるを得ないのであります。  私たちが改正案に反対する理由は、第一に、法務省当局の言う指紋押捺軽減が全くのまやかしであるということであります。  改正案は、指紋押捺を十六歳時の一回にするとしていますが、私たちが問題にしているのは回数にあるのではありません。在日朝鮮人を初め在日外国人犯罪人扱いし続ける指紋押捺制度そのものにあるのです。今回の改正案によっても、外国人に指紋押捺を強要し、これを保管、管理するという本質には何ら変更がないのであります。ましてや、手厚い社会的保護とその人権への特別な配慮がされてしかるべき多感な十六歳時に指紋押捺義務を課すというのは、余りにも酷と言うよりほかありません。  さらに、改正案は一回押捺後も押捺義務の生ずる場合の規定を新設しております。すなわち、人物の同一人性に疑いがあるとき、押されている指紋が棄損、汚損、退色などにより不鮮明になった場合などにはいつでも鮮明な指紋をとることができるようになっています。しかも、この指紋押捺命令は地方自治法の職務執行命令の対象になり、したがって、国または都道府県知事の命令に市区町村が従わない場合は、直接命令を出すことができるのであります。この結果、市区町村の指紋を押させる業務は国の直接の指揮管理のもとに置かれるようになります。このように、改正案は指紋押捺の軽減どころか、逆にその強化を策していると言えましょう。  改正案はまた、指紋を押さない者に対しては切りかえ申請期間を短縮する規定を新設するなど、厳しい報復措置を盛り込んでおります。  私たちが改正案に反対する第二の理由は、登録証のカード化を盾に、登録事務に入管を介入させ、在日外国人に対する管理、取り締まり体制を強化しようとしている点にあります。  登録証のカード化は、持ちやすくなることを口実に常時携帯義務の強化をねらったものであります。とりわけカード型登録証の導入は、これまで市町村で行ってきた登録事務の根幹である登録証の作成、発行などの業務を各地の入国管理局へ移管させることをねらったものであります。このことは市区町村における登録事務の形骸化をもたらし、それこそ市区町村は法務省入管の単なる窓口でしかなくなり、かわりに法務省入管による指紋押捺を初め登録業務全般の掌握、外国人管理の一層の強化をもたらすことになります。このことは外国人登録制度の質的転換を意味し、より一層の国家管理の強化を目指すものと言わざるを得ません。  また、登録証のカード化は、コンピューターシステムとの連動とあわせて、法務省入管による在日外国人に対する直接管理を招くものと言わざるを得ません。  このように今回の改正案は負担の軽減とはおよそ縁遠く、その実態は、在日朝鮮人を初め在日外国人に対する管理と取り締まりの一層の強化をねらった改悪以外の何物でもないと断ぜざるを得ないのであります。  次に、私は、今回の改正案を考える前提として、現行外国人登録法が在日朝鮮人を主たるねらいとして、いかに過酷にその人権を侵害し続けているかについて述べたいと思います。なぜなら、このような現実を見ないで外国人登録法改正はないと考えるからであります。  外国人登録法が在日朝鮮人を主たる対象として制定された法律であることは、日本政府当局者の発言や関係当局が発した文書からも明らかであります。例えば、一九四九年九月十六日付で日本外務省が連絡局長名で、法務府法制意見長官、現在の内閣法制局長官あてに出した外国人登録令に関する質問書の中には、当時の法務府民事局第六課の意見として、特に本件外人登録は在日朝鮮人を主として目的とすると指摘しているのであります。外国人登録法の運用の実態を見れば、この法律が在日朝鮮人を主たるねらいとしていることが一層はっきりとしてきます。  日本検察統計年報によれば、一九四七年から一九八五年までの三十九年間に実に五十二万名に達する在日朝鮮人が外国人登録法違反検挙され、不当な取り調べを受け、処罰されているのであります。これは外国人登録法の適用年齢である十六歳以上の推定約五十万人の在日朝鮮人が、例外なく平均一回以上登録法違反で検挙された数となります。日本のある法律学者は、法律の適用対象である人々の絶対多数が守れないような規定は、もはや法律と呼ぶに値しないと述べていますが、まさにこれは、外国人登録法がいかにひどい法律であるかを端的に示すものだと言えます。  実際、日本官憲による外国人登録法違反を口実にした在日朝鮮人に対する人権侵害事件は日常茶飯事のように引き起こされています。時間の制約もありますので、具体的な事例は省きたいと思います。  最後に、私は、外国人登録法の抜本的改正を求める立場から、改正のための主要なポイントについて述べることにいたします。  第一点は、指紋押捺制度を廃止することであります。指紋押捺は、在日朝鮮人を初め在日外国人犯罪人扱いにするもの以外の何物でもありません。軽減ではなく、全廃措置をとるべきであると考えます。  第二点は、外国人登録証明書の常時携帯義務を廃止することであります。在日外国人は常に登録証明書を身につけていなければならず、身につけていなければ不携帯罪、見せなければ不提示罪ということで処罰されることになっています。登録証明書をうっかり自宅に置き忘れてきたと言っても通らないのです。  外国人登録法の違反を態様別に見ても、不携帯事案は全体の五〇%近くを占めており、登録証明書のために、在日朝鮮人は常に、いつ検挙されるかわからないという不安な状況に置かれています。  第三点は、過酷な刑罰制度を廃止してもらいたいということであります。刑罰制度を廃止しなければ、外国人登録法の本質は何も変わらないわけであります。  私たちは、これまで一貫して、外国人登録法の治安立法的性格に照らし、また人権弾圧の過酷な運用の実態に照らし、指紋押捺の廃止、登録証の常時携帯義務の廃止、刑罰の廃止を内容とする外国人登録法の抜本的改正を求めてきました。この要求は思想、信条を超えてすべての在日朝鮮人の一致した願いであります。また、これは他の在日外国人の共通した願いでもあります。私は、日本の法務省を初め関係当局がこのような要求に謙虚に耳を傾けられ、国際人権規約等国際法の精神を十分尊重し、基本的人権を保障する立場に立って改正案を撤回し、外国人登録法の抜本的改正のための措置をとられるよう、本店をおかりして強く要望する次第であります。
  213. 井出正一

    井出委員長代理 河参考人ありがとうございました。  次に、萩野参考人にお願いいたします。
  214. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 萩野でございます。意見陳述の機会を与えられましたことを大変光栄に存じます。  ただいま河参考人の方から御指摘になりましたようないろいろな点が根本的に改正されることを心から待ち望むものでございます。ただ、現在の時点におきましてこの法案をどう評価するかという点の私の見解といたしましては、一歩も二歩も前進であるということを認めなければならないと考えております。  その理由を、時間が余りございませんので、かいつまんで申し上げます。  何よりも、この改正によりまして多くの人たちが指紋を押捺しなくてもよいことになるはずであります。そういったようなこととは別に、法理論的に、とりわけ憲法論的に問題を考えてみたいと思います。     〔井出委員長代理退席、今枝委員長代理着席〕  指紋押捺の問題、外国人登録証明書常時携帯の問題は、極めて深く人権の問題に絡んでおります。そこで、憲法十三条、十四条、三十一条、つまり個人の尊厳、平等、適正手続の保障といったような憲法の規定、それから国際人権規約の七条とか二十六条、品位を傷つける行為の禁止あるいは平等の徹底についての規定との関連を見てまいりたいと思います。  まず、指紋押捺との関連で見てまいりますと、十三条、個人の尊厳の規定が置かれておりますが、この規定は私生活の上での自由の保障を定めるものだという点について、多くの学者の一致するところであります。その中には、プライバシーの権利の保障、名誉、この場合名誉感情と言った方が適切でしょうか、それの保障、それから憲法十八条に言うような人身の自由、例えば奴隷的な拘束とか苦役からの自由、あるいはそれより前の、そこまであからさまに自由が侵害されていないような状態の場合の人身の自由もやはり十三条の保障するところである、こういうふうに考えられております。  そこで、まず第一にプライバシーとの関連で見てまいりますと、指紋というのは万人不同の性質を持つ身体の一部の特徴であります。個人に関する重要な情報であると言うこともできます。このような情報の開示をみだりに強制されるということは、確かにプライバシーの権利を侵害するものだと言わなければなりません。  しかし、考えてみますと、プライバシーに属する情報があらゆる場合に公権力によって把握されることがすべて憲法違反であるかということになりますと、必ずしもそういうことにはならない。今日、公権力は非常に多くの情報を把握しております。そして、その情報は多くの場合、公共の福祉のために利用されております。そのようにして、もしも指紋押捺強制がそのような意味合いでの公共の福祉に適合するものだということになりますと、一概に指紋押捺強制はプライバシー侵害で憲法違反だという断定はできないことになります。そこのところが大変難しいことになると思いますが、抽象的に言えば、公共の福祉のためにどうしても必要である、それからその方法において妥当である、そのような場合にはプライバシー侵害にならない。こういうふうに言うことができようかと思います。  問題は、必要性とは何か、人権侵害しない方法とは何かということになります。ここらあたりが法廷でも随分と論争のある点でございます。一言で申し上げまして、本法、外国人登録法の立法当時におきますような立法事実があるというようなことでありますならば、指紋押捺の制度も憲法に違反するとは断定できない、そんなふうに私は考えております。また、方法という点につきましては、過去にありましたような十指指紋、あるいは黒いインキをべったりと塗りつけて回転指紋をやる、これは係官に指を持って押さえつけてもらうといいますか、押さえつけられて回転しなければとれないような形のものは品位を傷つける行為、そんなふうなことになろうかと思いますので、そのような場合には憲法違反になるだろうが、憲法違反にならない方法というのがないわけではないと考えております。  二番目に名誉であります。  名誉感情を傷つけることは、個人の尊厳を損なうことであるわけでございます。指紋押捺強制がかなり多くの場合にそのような自由を侵すものとして評価せざるを得ないであろうことは、私も理解できます。しかし、これもすべての場合に、あらゆる指紋押捺が名誉感情を損なうのかということになりますと、必ずしもそれも断定できないのではないかと考えます。  私は南山大学というところに所属しておりますが、カトリックの大学でございますので、四十人ほど外国人の教師がおられます。私、片っ端からこの指紋押捺についての印象を語ってもらいました。大抵の場合というよりも、むしろ私がお聞きしたすべての人は、指紋押捺すること自体非常に不愉快なものだとは感じない、そんなふうなお答えでした。ただ、個人の尊厳という点から見ればこのような制度があってはならないということだけは言わなければいけないというのが異口同音の答えであったと言うことができます。  第三番目に、身体の自由との関連でございます。  これは例えば採尿、つまり尿を強制的にとるとか血液を強制的にとるというふうなケースと同じ論理で考えられるであろうと思われます。そこで、どのような場合に、あるいはそのすべての場合に違憲と言わなければならないのか、もしくは、違憲でない場合というのが考えられないだろうかという点で申し上げますと、例えば血液の強制採取というふうな問題で考えてみましても、地震等の災害、交通事故の多発等が非常に一般化していると申しますか、目の前に危険があるような状況のもとにおきましては、すべての人から血液を強制的に採取をしておいて、一朝事あるときに負傷者が出たりした場合に直ちに近くにいる人が適切に輸血をする、そのようなことのために強制採血をするということも許されるだろうと思いますが、それと同じような論理でこの問題を考えることができるのではなかろうかと考えます。  次に、平等の問題として考えてみますと、指紋押捺はいたし方がないと考えるけれども、しかし、これはいわば人々のグループ分けでございます。ああいうグループ分け、こういうグループ分けが可能でありましょうが、それが非常に不適切な場合には、あるグループに属する人には非常に差別感を抱かせることになるだろうと思います。現実問題として、私は大変重要な問題であると考えております。一言だけつけ加えさせていただきますならば、もう長い間、何世代もの人たちが日本人と同じように生活をしている、この人たちに対しては十分な考慮が払われなければならないと考えます。  そこで、そういう問題が一つありますが、また、その方法の問題との関連もあると思います。不快感がほとんどないような形で指紋押捺をさせる、そのような場合には、平等感情あるいは被差別感情も恐らく、少なくとも余り強くは出てこないであろうと考えられます。また、国民にも外国人にもひとしく指紋押捺を求めるというような場合ですと、この平等問題は出てこないであろうと考えます。  この憲法論、人権論を一言で申しますと、私は、以前には存在しなかった指紋押捺強制からの自由という観念が次第に確立しつつあると考えます。しかし、それではもう確立された人権かというと、まだ確立途上の人権であると言わなければならないと思います。時間がもうございませんので、そのようにしまして、指紋押捺制度そのものは憲法に違反する制度だと断定することはできない、そのように考えます。  それから、外国人登録証明書の常時携帯の問題でございますが、法の目的身分関係居住関係を明確ならしめるという点にあります。しかしその実態は、先ほど河昌玉参考人がお話しになられましたような実態があったといたしますならば、これはやはり重大な問題であります。そこで、そのような批判が出されるようなことは避けられなければならないのでありますが、私の見るところ、この携帯義務制度は法の目的とは異なる運用の仕方がされてきたと思われます。私は携帯義務制度は必要であると考えております。その理由づけの時間が十分にございませんので、後でもし時間をいただけましたらそのことを申し上げたいと思います。  以上のように考えますので、私は、この法案は一歩も二歩も前進であるというふうに評価しております。  以上でございます。
  215. 今枝敬雄

    ○今枝委員長代理 萩野参考人ありがとうございました。  次に、田中参考人にお願いをいたします。
  216. 田中宏

    ○田中参考人 田中でございます。  資料をお手元にお配りしてあるかと思いますけれども、時間がございませんので、できるだけ手短に、それをごらんいただきながら御意見を申し上げたいと思います。  私は今は大学の教師をしておりますけれども、十五年前までは、アジアから日本に勉強に来ていた留学生の団体で仕事をしておりました。そこで十年ばかり仕事をしていたのですが、そのときに非常にぶちまけて話をしてくれた学生の一人が、田中さん、日本では外国人というのは字で書くときには外の国の人と書くけれども日本人の内心では国を害する人というように思っているのではないかということを言われたことが非常に強烈な印象として残っていて、この外国人登録法の問題というのは、日本の国際的な評価あるいは日本の社会の体質にかかわる大変根の深い問題を内蔵した問題だということを私はかねがね考えてきたものです。そういう立場から、今回の法案について若干申し上げてみたいと思います。  外国人登録法にはいろいろな問題がありますけれども、今回は、主として指紋問題を中心に議論されてきた経緯がございますので、時間の関係で指紋に限定して申し上げてみたいと思います。  指紋制度につきましては、御承知のように法の制定そのものは、細かくは申し上げる時間がありませんけれども、簡単に一言で申し上げれば、すぐお隣で朝鮮戦争が勃発する、いわば準戦時体制下における極めて特殊な法律として制定をされた、このことをまず大前提に考えていかざるを得ないだろう。現実には指紋の採取を一九五五年から実施し、採取した指紋を、私の調べたのでは二十名からの指紋係によって詳細な換価分類、照合作業を行うという形でスタートしたのですけれども、実際に事を運んでいく上で、外国人登録の不正常な状態というのはほぼ終了している、実際の運用の中からもほとんどそういう問題はなくなったということが次第に明らかになってくるわけです。  実務の上に直接その変化があらわれできますのは、一九七〇年の換価分類の廃止。これをやりませんと、二重登録というのは永久に発見できないわけです。同一人物がAとBの区役所で切りかえを幾らしていっても、同じ人が来るわけですから、幾ら照合しても指紋は食い違いはないわけですね。それを中央で照合して初めて不正が発見できるわけですから、二重登録については基本的に問題がない。     〔今枝委員長代理退席、太田委員長代理     着席〕  さらに、再交付のときに十本の指紋を採取するという制度を実施していたのですが、これも一九七一年に廃止いたします。再交付の場合には、場合によっては他人に譲渡する目的で新たなる登録証の交付を受けるということがあり得るという恐らく観点から、通常と異なって十指の指紋を要求するという制度を運用してきたのですけれども、これも七一年に廃止になって、今では再交付でも一指指紋で済む。  さらに一九七四年になりますと、極めて重要な指紋原紙、法務省に集中管理される指紋原紙については、切りかえ時はもう送付する必要がない。これは大変大胆な措置だと思うのです。法律上には押捺義務がきちっと明文規定されているわけです。しかも、それの不押捺については刑事罰が担保されている。そういう義務をあえて通達でもって省略するということが具体的に実現されたということは、裏側から見れば、それには及ばない、既に現状は完全に安定しているという認識だ。私は、今日ではもう指紋制度というのは導入時とは全く違った状況ですから、その必要性はなくなっている、しかもそれは実務の中で明らかになっているというように考えております。  指紋制度については、具体的な担当者である、現在も入管にお見えになるようですけれども、かつての登録課調査指導係長の小島さんという方が書かれた言葉が、この法案を読むにつけても思い出されるわけです。「もし、一度だけ押させることとすれば、登録における指紋制度は、その意義を全く失い、外国人に対するいやがらせ以外の何ものでもなくなってしまうのである。」私は、今回の法案がまさに嫌がらせだけが残るという点で極めて残念な法案だということを申し上げざるを得ない。  それからさらに、先ほどお話がありましたように、ラミネートカードが導入されるわけですけれども、これも同じく法務省に長くお勤めになって、参事官まで果たされた竹内昭太郎さんという方が指紋問題の議論の中で新聞に投稿された文章の中に、「自動車運転免許証のように、張り替えのきかない刷り込み写真を利用できれば、指紋はまず不要」という意見を述べられた。今回はまさに自動車免許証のようなラミネートカードが盛り込まれているにもかかわらず、なおかつ指紋制度が温存されているという点でも、私は大変不満を表明せざるを得ない。  次に、外国人の指紋制度を考える場合に、ぜひ私たちが考える必要があると思っていますのは、一体日本人の人物の特定なり同一人性の確認というのはいかになっているか。かく言う私が、真実に田中宏であるかどうかというのはいかなる方法で証明できるだろうか。実は私は、第三者に対して、絶対入れかわっていないということを証明する手段方法は持ち合わせておりません。きょうの参考人の中では、河昌玉さんだけが確実に河さんであるということを証明できる。なぜ外国人にだけそういう必要性を要求しなければならないのか。日本では、旅券、運転免許証いずれも他人が使用するというときには極めて好ましくない事態が生ずるわけですけれども、そこまでは要求をしていない。それは、人権にかかわる重要な指紋採取であるからに違いないと思うのですね。  さらに、国際的に考えても、法務省の調査によりますと、日本以外に二十五カ国で外国人一般から指紋を採取しているという調査結果が出ておりますけれども、その二十五カ国の中には日本と同じような国は全くありません。日本はいかなる国かといいますと、自国民には押捺義務がない、そして義務を課せられている外国人は子々孫々永久に指紋をとられ続ける。こういう国は二十五カ国の中にはありません。したがって、現在までの調査の結果では、世界広しといえども我が日本だけである。このことを、この制度を考えるときにいかに考えるべきか。  それから次に申し上げたいのは、指紋の問題というのは日韓関係でさまざまに報道され、議論されてきたと思うのですが、私は大学で中国語を教えたりしている関係もありまして、日中関係と指紋ということについて大変重大な関心を持って調査をし、考えてきた者の一人です。先日、夏休みを利用しまして、かつての満州国、中国東北地区の現地調査に何人かの友人と行ってまいりましたけれども、どうも日本犯罪者以外から広範に指紋をとるという制度は、満州国にルーツがありそうだということが現在の段階では言えると思います。  そしてそこで導入された政策目的は、日本に抵抗する分子を一般民衆から切り離すという、当時使われた匪民分離政策の中で、さまざまな労働者なりに居住証明書を持たせる。現実に長春で博物館を詳細に見てまいりましたら、指紋採取の風景だとか指紋を押してある身分証明書の現物が日本時代のさまざまな政策の一環として陳列されていて、私たちも写真を撮って帰ってきたわけですけれども、大変昔のあしき時代を思い出さざるを得なかった。日中関係では指紋の問題というのは、かつての日中友好交流、とりわけ外交関係のない時代に指紋問題で日中関係が極めて険悪な空気になり、法改正をして辛うじて日中関係を打開したというかつての歴史があり、さらに今日でも中国人と指紋問題についてはいろいろな問題があるわけです。  一つ申し上げますと、かつて日本と北京が外交関係がなかった時代にLT貿易の駐在員が日本に滞在したときには、日本側は指紋については何ら配慮をしなかった。しかし、外交関係がなくなった台湾の出先機関である駐日事務所のスタッフについては、特別に指紋をとらないような措置をとる。日中関係の中でこうした措置が行われていることがこのまま放置されていいかどうか、私は甚だ疑問を感じているわけです。さらに私たちは、調査を終えた後北京で中国外務省の方にお会いして若干の意見交換の機会を持ったわけですけれども、そこでアジア局長がはっきりおっしゃられたのは、我が政府は日本政府に対して指紋制度の撤廃を申し入れてきている。日本ではほとんど報道されてないようですけれども、そういうはっきりした中国政府の意思を私たちは確認することができて、指紋の問題というのは決して日韓関係だけではないということを十分法案を審議する上でお考えいただきたいということを申し上げたいと思います。  最後に、先ほどからいろいろなお話が出ていますけれども、核心は、外国人だけから指紋をとるという制度日本の社会でいかなる機能を果たしているか。これは民族差別を助長する、朝鮮人だからということで就職ができない、朝鮮人だといって本名を名のって学校に行けば子供がいじめられる。こうした恐らく中曽根首相が唱える国際国家日本の現実、これをいかに我々は改めていくか。そのときに、朝鮮人なんだから指紋をとられてもやむを得ないという感情を残すことは私たちの社会の将来のために極めてゆゆしき制度であって、本来ならば長い歴史的な経緯を踏み越えて和解と共存を求めていかなければいけないときに、かえって反目なり差別を助長する制度になっている。このことに思いをいたすことが大事ではないか。  私は、指紋の必要性についていろいろな政府当局の説明を伺いましたけれども、何か指紋を残すということが先にあって、それに都合のいい理由をいろいろ考え出した。それもかなり破綻している。むしろ私は、指紋があることの異常さをまず確認をするということが前提だと思うのです。そういう歴史的な背景をきちっと踏まえるということが一番問われていることではないだろうか。私は、中国東北地区に行ったときに、指紋制度を残して真の日中友好があり得ようかということを、指紋をとられた方々と言葉を交わしながらつぶさに印象づけられて戻ってきたわけです。  国権の最高機関である国会において、私は国会の先生方にぜひお考えいただきたいと思いますのは、この日米貿易摩擦の渦中にあって米議会は、ここ数年の審議を経て、第二次世界大戦中の日系人強制収容問題について政府の公式謝罪と生存者一人二万ドルの補償金を支払うという法案を可決しております。その法案の内容を調べてみますと、これはアメリカの名誉のためにやるんだ、アメリカの民主主義は健在であるということを証明するために私たちはこれをやらなければいけない、また、過去の過ちをきちっと受けとめることが将来に重要な教訓を残すのであるという、極めて高い立場から歴史的な遺産を処理しようとしているわけです。  日本の国会で、かつてのアジア侵略の問題について、あるいは在日朝鮮人の問題についてどれだけ真実の声を聞くということをしてきたか。法案の提案趣旨の冒頭には「外国人の心情を考慮して」と書いてありますけれども、私の知っている限り、十六歳の子供からとられるのをやめさせたい、こういう制度は子々孫々に残したくないと叫んでいる指紋をとられている世代の人たち、この声に対して、十六歳になったら確実にとるぞというのが今回の法案であって、これは全く心情を逆なでするものである。私は、関東大震災のときに多くの朝鮮人がいわれなく殺されたこの日に、この法案の意味をしっかり考える必要があるのではないかと思っております。  以上で私の意見を終わります。
  217. 太田誠一

    ○太田委員長代理 田中参考人ありがとうございました。  次に、大沼参考人にお願いいたします。
  218. 大沼保昭

    ○大沼参考人 大沼でございます。  外国人登録法改正案について、最初に具体的な三点から私の話を始めまして、その評価すべき点、さらにその問題点というものをお話しして、最後に私の本改正法案に対する全体的な評価を申し上げたいと思います。  まず第一に、この改正法案におきまして十六歳以上の外国人が、現行法によりますと外国人登録、切りかえ登録等の申請の際に登録原票と登録証明書及び指紋原紙に指紋を押さなければならないという制度であるのに対して、この改正法案にあっては切りかえ交付、再交付、引きかえ交付などの際に、既に押捺している場合には原則として指紋押捺をする必要はない。つまり、現行法では原則として五年に一度指紋を押さなければならないのが、今度の改正法案では十六歳の新規登録の際に一度指紋を押せばよいということに変わっている。また、その新規登録の際の指紋を押すのも、これまでの三つの指紋を押すのから登録原票と指紋原紙に押せば足りるという点が一つあるわけであります。  さらにまた二番目に、これは非常に微細な点ではあるかもしれませんけれども、新規登録を受けた日あるいは前回確認を受けた日から五年を経過する日の前の三十日以内に登録確認の申請をするという制度になっていたのが、今度の改正法案では、新規登録を受けた日あるいはその後の五回目の誕生日から三十日以内に申請をすればよいというふうに変わっている。  それから第三には、これまでの手帳型のものがラミネートカード化されているという点があるわけであります。  このいずれの点におきましても、客観的にそれが指紋制度あるいは外国人登録における外国人の負担という点から考えますと、負担軽減の意味を含んでいることは事実だろうと思います。それは、先ほど萩野参考人もおっしゃったように、現在の十六歳以上のほとんどすべての外国人はもはやこれ以上指紋を押す必要はなくなったということがまず第一の点に関してはあります。  それから二番目の、誕生日から三十日以内という制度になったことは、人間大体忘れっぽい人も多いわけですから、自分の誕生日から三十日以内ということでならば比較的覚えていやすいわけですけれども、登録した日から五年後の前の三十日ということですと、これは忘れることもあります。そういう点では、これは大変微細なことではありますが、一つの負担軽減、改善であることは間違いないだろうと思います。  また第三に、カード化したということも、やはり手帳から見れば持ち運びが楽でかさばらないという点では改善の要素がないとは言えないというふうに、それぞれについて一定の改善の要素が全くないとは言えないだろうと思います。  しかしながら、改正法案は、これから申し上げるような点でかなり大きな問題性を含んでいるだろうと思います。  その一番大きい点は、外国人の負担を軽減させるという点では実はもっと重要な改善の方法があったはずでありますけれども、それをとらずにいわゆる一回制という制度をとったということが一つでありまして、これはちょっと詳しくお話しする必要があるので、後で申し上げます。  二番目の、例えば誕生日から三十日以内という点への改正でありますけれども、これはそれ自体として確かに改正ではありますけれども、例えばこれに形式的に違反した場合の罰則というものを見てみますと、相も変わらず十八条によって、一年以下の懲役、禁錮または二十万円以下の罰金という形で、その申請が刑罰によって担保されているわけであります。私自身実は大変忘れっぽい人間でありまして、運転免許証を持っていますけれども、実際に忘れて誕生日を過ぎてしまって持っていったことがありますが、そこで私に科せられる制裁というのは、要するにその時点で新たに免許を取得したことになる。つまり、私は十八歳のときに免許を取得しておりましたけれども、それが三十数歳のときに免許を取得したことになるというそれだけのことでありまして、もちろん一年以下の懲役云々ということは考えも及ばないわけであります。このことは、既にこれまで十分言われておりますけれども外国人登録法罰則というものが、それに対応する日本国民の声籍あるいは住民登録といった制度に比べて余りにも過重であるという、その特質が基本的に変わっていないということを物語っているわけであります。  それから第三に、ラミネートカード化した。確かに軽くてかさばらなくはなりましたけれども、しかし、日本におります外国人がこの外国人登録証の常時携帯でこれまで問題にしていましたのは、とにかく登録証を常に持って歩いて、それを持っていないと直ちに交番に連れていかれてしまう、そういうことがいかに日常生活の負担となっているか、それを改善してほしいと言っていたわけでありまして、その常時携帯義務そのものが変わっていない状態でのラミネートカード化というものは、実質的には改善とはほとんど認めがたいというふうに考えられるわけであります。  結局のところ、この外国人登録法というものを特に日本国民の声籍ないし住民登録の制度との関係においてどのようにとらえるかという基本的なところに問題はかかわってくるわけであります。  今日の国際社会というものが、主権を持つ約百七十の独立国から成っておりまして、そういった国々と日本との関係は、もちろん友好的な国もあれば敵対的な国もある。日本に居住する外国人の中にもそういった友好的な国の国民あるいは非友好的な国の国民がいるということは、現在の日本の国際政治上の立場からして客観的な事実であります。そういった、例えば非友好的な国民に対しては、例えばスパイをやるかもしれない、あるいは破壊活動に従事するかもしれないといった不安というものがあることもまた客観的な事実でありまして、そういった要素を重視すれば、外国人管理というのは厳しければ厳しいほどいいということになります。  実は、指紋押捺制度というのは、先ほど田中参考人もおっしゃったように、一般の人が考えているほどには絶対的な制度ではないわけであります。法務省自身、一九七〇年には既に換値分類制度を廃止いたしまして、七一年には再交付の際に必要とされていた十指指紋を廃止している、七四年には指紋原紙を省略してしまった。こういう一九七〇年代の初頭の一連の制度によって、現在の外国人登録法上の指紋というのは、実は政府がこれまで言ってきた絶対的な本人確認力というものを持っていなかったというのが実態だろうと思います。このことは、私自身これまで自分の論文で十分書いてありますので、もし後で御質問があればさらに詳しくお話ししたいと思います。     〔太田委員長代理退席、委員長着席〕  しかし、もちろん指紋制度がそれなりの本人確認力を持っていることは事実でありまして、その点写真よりもすぐれているということは確かに事実であります。その点から、指紋というものをスパイ活動防止とか破壊活動防止に使えないことはないと言うことはできるでしょう。  しかしながら、まず第一に警察外国人登録法上の指紋を使うということは、これは明らかに異なる目的法律を混同して使うことでありまして、我々、日本国憲法のもとで戦後四十二年の間法治主義というものを尊重してきた、その法治主義の原則が破られるということであります。外国人登録法には外国人登録法固有の目的があり、警察関係の法にはその固有の目的がある、それを混同することは許されないだろうと思います。  また第二に、国家というものはその領域内における人々の生活を守るためのものでありまして、人間の生活にかかわる価値というのはさまざまであります。もちろん、スパイ活動防止あるいは破壊活動防止といったものによって守られる社会の安全、国家的な安全というのも一つの価値ではありましょうけれども、それと同時に、我々がまさに戦後四十二年間かかってたどり着いた豊かな生活水準あるいは人権保障さらに諸外国との友好関係というのも極めて重要な価値であります。もしも警察によって守られるスパイ活動防止といったような価値があらゆる価値にまさるというのであれば、これは外国人登録に限らず、日本国民すべてから十指指紋をとり、警察官には極めて強大な権限を与えて、通行人であれだれであれ尋問できるようにし、要するに戦前の日本の体制か、あるいは今日の社会主義諸国あるいは第三世界の諸国の一部に見られるような警察国家をつくればいいわけでありまして、だれも日本でそういうことをやろうとは考えていない。つまり、警察によって守られる国家的安全という価値と並んで、豊かな生活水準なり人権の尊重なり諸外国との友好関係といったもろもろの価値があるんだ、そういったものを立法府としては十分考慮に入れて立法を考えていただきたいと思うわけであります。  指紋押捺制度を、この改正案におきましては原則として一回というやり方で軽減しようとしたということに対して、私の主要な批判であり、かつ提言というものは、この軽減の方法というものは、基本的に定住外国人からは指紋押捺義務を免除するという形で軽減を図るべきである。それはなぜかといいますと、先ほど田中参考人もおっしゃいましたように、日本に二十年、三十年、四十年と暮らしている、あるいは日本に生まれ育った定住外国人日本人との間には、本人の同一性を確認する上で全く差異がないわけであります。私の子供が生まれたときにその子供を区役所に届けるのと、例えばきょう参考人で来ておられる河さんのお子さんが生まれられて区役所に届けるのと、社会的に生まれたての赤ん坊の同一人性を確認するという差異は全くないわけでありまして、その差異がないものに対して人為的に差異をつくっているのが現行の外国人法である。現実は、定住外国人というものは、本人の同一人性確認においては、日本国民とまず九九・九九%変わらない。その〇・〇一%の差異のために、ありとあらゆる警察力を動員するための指紋制度を保持しておくことが必要であるかどうかということを、私は疑問に思っているわけであります。  以上であります。
  219. 大塚雄司

    大塚委員長 大沼参考人ありがとうございました。  以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。     —————————————
  220. 大塚雄司

    大塚委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。今枝敬雄君。
  221. 今枝敬雄

    ○今枝委員 私は、自民党の今枝敬雄でございます。  本日は、公私ども極めて御多忙な諸先生方、御出席を賜りまして本当にありがとうございました。  本日は、時間が限られておりますので、萩野先生と中市先生にお尋ねをいたしたいと存じます。  まず、萩野先生にお尋ねをいたしますが、先生は若いころイタリアに御留学され、その後も各国にお出かけになって御研究をされたと承っております。特に、先生の著書で「米国憲法と移民法」は高く評価されておると承っております。また、名古屋の南山大学で教鞭をおとりになり、御活躍いただいておりますこと、まことに御苦労さまでございます。私も名古屋でございますので、日ごろ先生の御高名を存じ上げております。  時間もありませんので、早速お尋ねをいたします。先生は、各国の外国人登録に対し御研究をなされておりますが、特にアメリカ、ヨーロッパ、アジア及び近隣諸国の指紋制度はどのようになっておりますか、お聞かせをいただきたいと思うわけでございます。  実は、私、本委員会で最近ギリシャに参りました。ギリシャの公安大臣にお目にかかる機会がありまして、ギリシャの指紋制度について直接お話を承りました。ギリシャでは、自国民のみ指紋をとり、外国人からは指紋をとらない、すなわち指紋のないのは外国人ということであります。このような制度を先生はどう思われますか、ひとつお伺いをいたしたいと存じます。
  222. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 ただいまの御質問に対しまして、私、十分にお答えする能力がございません。私、研究者でございますので、広くあちこちの国々の制度を十分にフォローするということがどうも難しゅうございまして、その点に関しましては、むしろ法務省入管局あたりで手に入れておられます法令関係の資料を見せていただくのが関の山でございます。ただ、私、行った先々ではできるだけ調査をするようにはしてきてございます。  ことし、先日までオーストラリアに行っておりましたが、実はオーストラリアのことを、十分に資料が入手できませんで、このような席でいいかげんなことをお話しするのは大変いけないことだと思いますので、恐縮ですが、アメリカのことだけに限らせていただきたいと思います。  アメリカにつきましては、私、去年夏の間滞在いたしまして、この指紋押捺、外国人登録の制度の問題で調査をしてまいりました。それで、調査をしてまいりましたと申し上げましたけれども、実は余りここでお話をするような成果を得ることができませんでした。その理由は、こういうことでございます。  随分と私、登録、レジストレーションという言葉に関連する文献等を集めてみたのでございますけれども、きょうここで御討論になっている問題について、参考になるようなものがほとんどございませんでした。なぜならば、アメリカの外国人登録制度につきましての根本的な問題、いわば人権とのかかわりにつきましては、一九四〇年に出ました最高裁判例によって既にもう片がついておるというふうに考えられておりまして、したがいまして登録の制度あるいは指紋押捺の制度をどう考えるかというふうな形の論文というのは、私の見る限り手に入りませんでした。  そして、一九四〇年に出された判決と申しますのも、憲法とのかかわりでの判決として重要視されておるのでございますが、人権の問題についてはデュー・プロセス・オブ・ロー、適正手続の保障の観点から、適正でなければいけないということを言っておるだけでございまして、あとは連邦の権限と州の権限につきまして論じただけのものでございます。そのようにいたしまして、アメリカの論文とか判例でお役に立つようなものを御紹介することができません。  しかし、ちょっと気になりますのは、先ほど中市先生がお話しになりました指紋押捺制度のところでございますが、私、手元にきょう持ってきました法令集では、まだ改正のことが出ておりませんのです。この合衆国の移民国籍法二百二十一条によりますと、押捺をしなければいかぬという規定がございますが、国務省令あるいは国務省規則によりますと、それを免除するという、規則で免除という形になっておりまして、その後これがどう改正になったのか、それも実はちょっとつかみ得ておりません。大変いいかげんなことで申しわけございません。
  223. 今枝敬雄

    ○今枝委員 次に、外国人登録証の常時携帯提示義務に関してお尋ねをいたしたいと思うわけでございます。  先ほど先生のお話の中で、携帯義務をお説きになりました。例えば交通一斉取り締まりに際し、警察官が運転免許証の提示を求め、外国人だとわかると重ねて外国人登録証提示を求め、その不携帯を厳しくチェックしてきた。本来、外国人が免許証を取得する場合は、外国人登録証の確認をしているので、免許証の提示身分関係が確認できているのにあえて外国人登録証携帯で取り締まる必要はないと思うのでありますが、ひとつ先生の御所見を承りたい。
  224. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 私も結論的にそのように考えております。  そのような結論を持つにつきましては、外国人登録証制度あるいは証明書携帯義務に関する制度を私はこんなふうに考えております。と申しますのは、一つには、今日社会がますます複雑化して、あるいは法律的な行為が多くなってまいりまして、しばしば身分証明を必要とするようになってきていると思います。多くの場合、私どもは運転免許証とか会社、官庁、事業所の身分証明書とかを証明に使っていると思います。  私は、去年アメリカにおりましたときに大変おもしろい経験をいたしました。そこでもいろいろな人に証明として一体どういうものを使っているんだと聞いて回ったのでございますが、向こうの教授の人たち、外国人として教職にある人、それからそれ以外の在留外国人の人たち、皆さんがソーシャル・セキュリティー・カード、これはどう訳せばいいのでしょうか、社会保険証というのでしょうか、いみじくもセキュリティーですから安全保障証というふうに訳してもいい、両方の意味を持っているというのが意味深長だと思いますが、それを持っていらっしゃいます。その意味では、もちろん内容が違いますけれども、市民も外国人も同じようなものを持っているわけです。こういうものを持っていて、契約書を作成するようなときにそれを使う、それから掛け売りと申しますか、掛け買いでもするときにはそれを見せるとか、カードを使うときにソーシャル・セキュリティー・カードを一緒に見せるというようなことをしておりました。  現実に、トーマス・ジェファーソン第三代大統領の住宅を中心とした公園に行きましたときに、私、外国人でございますが、一緒に行った仲間の人、外国人なんですけれども向こうの教職についている人がおりまして、そこの入場料、五ドルでございましたが、彼は払いませんでした。窓口で払わなくていいと言いました。私は五ドル払いました。私の後に来ていた、カリフォルニアから来たアメリカ人は五ドル払いました。これは詳しいことは省きますけれども、そのようにいたしまして、やはりそのような証明書を持つことの意味というのは非常にあるだろうというのが一つです。  もう一つには、先ほど大沼参考人も触れられましたような治安の維持等の問題があるといたしましたならば一治安の維持というのはちょっとまずかったですけれども身分関係居住関係等のためにそれが必要であるということもあろうかと思いますが、それがまたこのごろでは必要性が強くなっているということも言えようかと思います。そのように考えますと、携帯制度というのはむしろ必要になってきている。ただ、これは外国人登録法一定行政目的があるわけであって、身分関係居住関係を明確にするというそのことのために用いられなければいけないので、警察目的に用いられるからややこしいことになってくる、そういうふうに考えております。
  225. 今枝敬雄

    ○今枝委員 ありがとうございました。  続いて、中市先生にお尋ねをいたしたいと思います。  時間がございませんので、はしょらせていただきますが、先生は元大阪入管局長をお務めになって行政の大変なベテランだと承っております。ところで、中市先生は財団法人入管協会の専務理事という肩書を持っていらっしゃいますが、入管協会というのはいつごろから業務を始められ、どんなことをなすっていらっしゃるか、ひとつお教えをいただきたい。  私は時間がございませんので質問を条項的に申し上げますので、簡潔に御答弁をいただきたいと思います。  先ほど、在日外国人の中には、登録当初の経緯から、相当長年月を経過した今日でも基本的身分事項である氏名、生年月日、出生地等、全く異なったものに訂正を申し立てているケースが多いというお話を拝聴いたしました。なぜそのようなことが起こるのか、ひとつ簡潔に御答弁をいただきたいと思います。  それから、先生にもお尋ねしたいのですが、我が国の学問や技術を習得して本国に帰ってこれを役立てるために、情熱的に、まじめに勉強をしている留学生や研修生が多いのでございます。これらの者が単なる不注意で不携帯であった場合、その違反取り締りの運用は柔軟に、かつ弾力的に行うべきであると思うが、中市先生の御見解はいかがでございましょう。簡潔にお願いをしたいと思います。
  226. 中市二一

    ○中市参考人 第一点についてお答えいたします。  入管協会は、去る八月二十日に主務大臣である法務大臣から公益法人の設立許可を受けまして、財団法人として発足したばかりでございまして、その事業としましては、入管協会の会員に対しまして出入国管理行政に関連する統計であるとか関係の法令、手続等についての情報を提供するとともに、当局に対しましては出入国管理に関する提言を行うということでございまして、現在、設立参加者は法人並びに個人を合わせまして七百二十社でございます。  第二点でございますが、なぜ訂正を申し立てているケースが多いかということでございます、  先ほど申し上げましたように、最初の登録は昭和二十二年に実施されたわけでございますが、当時は終戦直後の混乱のさなかでございましたし、これに対応する市区町村の職員の数も十分確保されていなかったというような事情から、一人の代表者によりまして十人ないしは数十人分の申請を一括して受理せざるを得なかったというようなことからこのようなことになったわけでございます。しかし、そのような誤った登録をした外国人が、お子さんやお孫さんが入学するとか結婚するということになりますと、御自分の戸籍に真実が記載されていないということから問題が生じたり、あるいはまた海外旅行をしようと思って旅券を取得しようとしましても、登録証明書身分事項と戸籍上の身分事項が異なっているということのために当該国の政府から旅券の発給を受けられないというような問題が生じてきていることから、現在に至りましてそういう事項の訂正を申し立てるケースが多数に上っているというふうに聞いております。  それから第三番目でございますが、これは萩野先生の御意見と同様でございまして、登録制度の根幹に触れないような事項につきましては、行政庁におきましても柔軟に、弾力的に対応してしかるべきものと考えております。  以上でございます。
  227. 今枝敬雄

    ○今枝委員 どうもありがとうございました。これで終わります。
  228. 大塚雄司

  229. 坂上富男

    坂上委員 坂上富男でございます。社会党・護憲共同を代表いたしまして、御質問を申し上げたいと思います。  参考人の先生方、お忙しいところありがとうございました。先生方に御意見を聞く前に、委員長に要請をしておきたいと思います。  午前中から今にかけまして、外国人登録法案の審議について本日議了し採決することに私たちは強く反対をしていることは、繰り返し私がお訴えをしておるところでございます。しかしながら、うわさによりますと強行採決をせられるというような状況があるやに私の耳に達しておるわけでございます。合せっかく参考人の先生方から慎重審議、そしてまた大変な高説をお聞きいたしているわけでございまして、この質問が終わりましてから熟読玩味させてもらわないと、いかなる部分にいかなる訂正があっていいのか、あるいはまたどのような対応をすべきかというようなものは即答できるわけではありません。しかもまだ、そういうような意味におきまして、おのおのの会派においてこれについて討論をし、検討すべきことでもあるわけであります。これは参考人の先生方の御意見を単に形だけ聞くのでなくして、真実先生方の長い間の御経験と御勉強の成果をお聞きするわけでございまするから、法案審議の中に最も生かされなければならないと私は信じておるわけであります。  でありまするから、委員長にお願いでございますし、また、法務委員会というのは私が時々申しておりまするとおり、社会正義の実現と人権擁護の場であるべきなのであります。したがいまして、我が党だけであるか、あるいは他の政党の方も御反対のところもあるようでございますが、審議について慎重な審議をしていただくこと、本日議了し採決をなされないように、特に私はそういう意味におきまして委員長に要請をしておきたいと思いまするので、特段の御配慮を賜りたいと思います。  先生方、大変恐縮でございますが、今情勢がそのように緊迫をしておるものでございまするから、お願いの時間をいただいたわけでございます。  さて、まず中市先生と田中先生にお聞きをいたしたいと思うのでありますが、外国人登録法関係の本を読んだりあるいは話を聞きますと、政府のお役人の方々が次のような言葉を言っておられるということが書かれておるわけでございます。多分事実なんだろうと思うのでありますが、こういうことについていかなる御所見をお持ちか、お聞きをしたいのであります。  ある人は、煮て食おうと焼いて食おうと自由である、外国人登録についてそう言っておると言っております。それから田中先生でございましたか、おっしゃいましたが、外国人は害国人である。言葉で言うと同じ言葉なんでありますが、後段のガイ国人のガイは害悪の害でございます。外国人は害国人である、指紋がいやなら帰るか、さもなければ帰化すればいい、こういうような言動が吐かれていると言われておるわけでございます。それからまた、指紋一回というのはもう指紋押捺の理由を失ったのであるという説が言われておるわけでありまして、指紋一回限りというのはいわば警察目的のためである、こう言われておるわけでありますが、その点両先生に御見解をお聞きをしたい、こう思っております。
  230. 中市二一

    ○中市参考人 第一点の煮ても焼いてもというようなことでございますが、どういう場面でそういう言葉が出てきたか承知しておりませんけれども、しかし、どのような場面でございましてもそのような失礼な言葉は慎むべきだと私は考えております。  第二点でございますが、先ほど意見陳述で申し上げましたけれども、一回限りということになると今度その後は行政庁の負担になるということを申し上げたわけでございまして、結局登録一回でありましても行政庁の負担において補充されるというふうに私は考えております。  以上であります。
  231. 田中宏

    ○田中参考人 第一点は、私の知っている限りでは、かつて法務省の参事官をなさった池上努という、何か検事でもあられる方のようですけれども、この方が一九六五年に書かれた「法的地位二百の質問」という中に書かれている文言で、先ほど中市参考人もおっしゃいましたけれども、政府の公職にある者の発言としては極めて問題のある発言だ。私は、発言もさることながら、法務省の入管行政の中にそれを地でいくような行政があるということがむしろ大きな問題だと思います。とりわけ指紋不押捺者に国外退去を迫るという、国外退去手続を進めているケースが幾つかありますけれども、これは入管法の中に「外国人登録に関する法令の規定に違反して禁錮以上の刑に処せられた者。ただし、執行猶予の言渡しを受けた者を除く。」と明示されていて、外登法違反で退会に結びつく場合には制限が加えてあるのですね。ところが、現在退去強制手続が進められている何人かの指紋不押捺者についてはいずれもまだ刑罰が確定していない、そういう状態で既に退去強制手続が行われているということは、いわば煮て食おうと焼いて食おうと自由ということを具体的に行政が行っているという点で、言葉だけではない。  それから、指紋がいやなら帰化するか国に帰ればいい、これは大阪府警の富田五郎という外事課長がテレビの全国ネットのニュースでじかに発言した言葉で、これはごく最近で一九八五年のことですね。これも私は大変重大な関心を持っていますのは、言葉だけではなくて、帰化というのは本人が申請しないといかんともしがたいものですから、残されたもう一つの選択肢は日本から追い出すということですね。これがまさに指紋を押さない人の在留期間を打ち切って追い出そうとする手続が進行中であるという点では、いずれも言葉だけの問題じゃなくてそれが現実に行われようとしているということで、より深刻な問題だというように思っております。  それから、一回説につきましては、先ほど意見の中でもちょっと触れましたけれども、かつて登録課の調査指導係長で現在は同じ登録課の補佐官というように伺っていますけれども、小島恭次さんといわれるその道のオーソリティーの方、外国人登録に関する実務書等もお書きになっている方ですが、この方が指紋制度についての説明をされた実務雑誌「外人登録」の上で、一回だけであれば制度趣旨はなくなって残るのはいやがらせだけだ。恐らく個人の御意見だということにはなるのかと思いますけれども、実務をずっと担当してこられて、特に調査指導係というのは私の伺っているところでは都道府県の直接の統括、都道府県に対するいろいろな外国人登録事務の指導にも携わっているような立場の方ですから、そういう方が署名で書かれた文章の中ではっきりそういうふうに言っていらっしゃるので、従来の外国人登録における指紋制度というのは完全に破綻している。残されたのは、すべての外国人の指紋を国家が保管したいという、外国人登録とは全く別個の、外国人の指紋収集制度に生まれ変わったというように思っております。  以上です。
  232. 坂上富男

    坂上委員 次に、大沼先生と萩野先生にお伺いをさせていただきたいと思います。  私たち社会党は、この法律案に対して改正案を提案をいたしております。その要旨の一つの中に、本法改正が成立した場合の政府案の経過措置についてでございますが、指紋押捺義務違反と登録証明書携帯義務違反は、刑の廃止であるから施行後は処罰すべきでないという改正案を出しておるわけでございます。しかし、政府案は御存じのとおり、この法律成立以前に犯した犯罪についてもこれを処罰する、従来の例に準ずる、こう言っておるわけでございます。御存じのとおり、政令二百一号の事件で刑の廃止がありまして、最高裁判所は全部刑の免除か免訴をいたしたという記憶を持っておるわけであります。私も占領目的違反の弁護に当たったものですから、記憶は新しいのでございます。早く裁判が終わった人は処罰を受けたのです。裁判中のものそれからまだ発覚しないものについては、この刑の廃止によりまして処罰を免除とか公訴棄却とか、そういう対応を受けたことを私は記憶しておるわけでございます。  これは委員会におきましても、私は強く、この法案が出される前に、私の言ったような改正がなさるべきである、こういう意見の具申をしたわけであります。法務大臣は、管理でなくして外国人保護の趣旨でやっております、こう言っておるものでございまするから、私は、せめてこの経過措置については私が指摘したような改正がなされるのでなかろうかといささか期待をしたのでありまするが、遺憾ながらそれが裏切られました。学者であります両先生、こういう点についてどのようなお考えか、御所見を賜りたいと思います。
  233. 大沼保昭

    ○大沼参考人 私は専門が国際法でありまして、刑事法関係の専門ではありませんので、この点に関する自分の学術的な研究に基づいた意見というものは十分な自信を持って申し上げることはできませんが、基本的な立場としては、私もこの改正案が仮に成立した場合には、ただいまの御主張のような措置がとられるべきであるというふうに考えております。  それは、私の場合には刑事法的な観点もさることながら、先ほどもちょっと意見陳述の中で申し上げましたように、定住外国人というものを我々の社会の一員としてあくまで考えていくべきである。実は今回の外国人登録法改正に当たりまして、さまざまな要因が改正案をもたらしたものであるわけでありまして、もちろん改正案自身、私が先ほど言いましたような外国人登録義務の軽減の方法という点では不十分なものではあります。しかし、ともあれ一定の軽減の意味を持つ改正法案が提案されたという背後には、やはりここ約三年間ほどのこの問題に対する大変な社会的な関心の高まり、それから現在の外国人登録法における指紋押捺制度を撤廃すべきであるという、社会的に非常に広範な運動があったわけであります。  その運動の担い手の多くは定住外国人でありまして、それを日本国民も支えてきたというわけであります。もちろん、外国人というものは国政レベルでの参政権は認められない。現在の国民主権の原理からすれば、それはそのとおりであります。しかしながら、例えばスウェーデンなどの例に見られますように、既に定住外国人に対して地方自治体レベルでの参政権を認めている、そういう国も現に存在しておりますし、また、西ドイツやフランスなどにおいては同じように定住外国人に対して地方自治体レベルでの参政権を認めるべきではないかという議論が、学界だけではなく政治の世界においても非常に活発に行われている。そういう意味で、今日の国民国家の枠組みというものは定住外国人を社会の一員として抱え込むことによって非常に変わってきているわけであります。  そういう観点から見ますと、確かに指紋押捺を拒否した人々というのは、これは形式的また表面的には法律の違反者であります。しかしながら、これまでかなり多数の国際法学者と憲法学者が主張してきましたように、実は指紋押捺義務自身が憲法十四条に違反する違憲の法律である疑いが強い。そういう状況の中で定住外国人がこの指紋押捺を拒否して、そしてそれが一つの社会的な運動となって今日のような改正法案がもたらされたということは、先ほど言った定住外国人への限定的な参政権付与という現在の動向から見ますと、いわば定住外国人が社会の一員として日本国民とともに一定の参政権的な機能を果たしたんだ、違憲の疑いの強い法律に対して異議申し立てをすることによって、日本人の参政権と参政の義務に対する一つの刺激を与えてきたのだ、そういう積極的な位置づけを与えることができるだろうと思います。そういう観点からしましても、そういう積極的意味を持っていた指紋押捺拒否を含むこの指紋押捺撤廃逆動に対して、いたずらに従前の例によるという刑罰を維持することは疑問ではないかというふうに私は考えております。
  234. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 私も、専攻が憲法でございますので、刑事法上の細かな議論から今の問題にアプローチする能力がございませんので、少し困っておるところでございます。  刑事法上の原則からいたしますならば、処罰の実体規定一定の時点でなくなるわけでございますから、恐らくそれ以後は処罰しないということになる。そういたしますと、そのような法の趣旨というのは、その時点で突然に出てきたというわけではなくて、それ以前にもやはりそれなりの対応あるいは法意識の変化なりというものは考えてもいいのではないかという気はいたします。ただ、そうなりますと、それまで存在する法の適用は厳格にやっていくのが平等という観点からはやはり望ましいことでございましょうから、そこに矛盾が出てくると思います。そこのところをどう考えるかでございますが、具体的にどのような案のものをつくるのが適切なのかここでお答えできませんけれども、希望としては、指紋押捺の強制から免除されるようになるわけでございますから、その少し前の段階においてもその人たちに対して何か一定の特例的な考え方で措置できないものだろうか、そういう気はいたします。そこのところをどう論じればいいのか、大変恐縮ですが……。
  235. 坂上富男

    坂上委員 大変誠実な御答弁をいただいて、私が恐縮をいたしておりますが、両先生は専門ではないけれどもという前提に立っておりまするので、私も御無理にお聞きをしようとは思っておりませんで、確かに今御指摘のとおりがやはり正しいのだろうと私は思っておるわけでございます。  今度は、河さんと田中先生にお聞きをしたいのでありますが、特に河さんは在日朝鮮人の立場におきましていろいろと権利擁護のために頑張っておられるわけでございますが、この改正案は義務年齢を十六歳以上としておるわけでございます。具体的にはどういうことかといいますと、新規登録に当たっての写真の提出、それから引きかえ交付に際しての写真の提出、再交付に際しての写真の提出、本人の出頭義務、それから登録でございます。これは、少年法からいいますと二十未満の諸君は少年法の適用を受けるわけです。十六歳から二十までのいわば未成年の少年の人たちは、犯罪の中でも少年としてできるだけこれを保護しようじゃないか、こうしておるわけでございます。したがって、子供たちの大人への生育のために少年法という特別法ができておるわけでございます。なぜ十六と二十の区別、ここまで来たならば二十までこの義務年齢を延長してくれなかったのか、私は非常に残念に思っておるわけであります。私たちの党の案といたしましては、この義務年齢を二十としたわけでございます。  この点、在日朝鮮人の立場からいたしましてどのようにお考えになっておるか。それからまた田中先生、このことに対する評価をどうしたらいいのか、お聞かせいただきたい。御両人にお願いいたします。
  236. 河昌玉

    ○河参考人 今の先生の御質問に答える前に、━━━━━━━━━━━━━それは外国人登録法の抜本的改正を求める世論というものが非常に高いわけですし、在日朝鮮人はもとより、在日外国人すべてがそれを望んでいるわけであります。どうか慎重な審議をしていただきたいと思います。  そこで、今御質問のありました義務年齢十六歳の問題ですが、十六歳といってもまだ幼い子供です。親権者の保護下にある子供であるわけです。一九八二年の登録法の一部改正前は十四歳以上が義務年齢でありました。そのとき世論の非難が巻き起こり、そして一部改正がなされ、その際に十六歳になったわけです。私も当然に、先生御指摘のように、二十まで少年法の適用を受けるという未成年者に対しては、少年としてその人権を尊重すべきであると考えます。
  237. 田中宏

    ○田中参考人 年齢の問題は、私は何歳が最も適当かということについてしかるべき意見を持っておりませんけれども、私は現在のような改正案では全く解決にならないという立場ですから、私が年齢に関して一つ申し上げたいと思いますのは、例えば、先生おっしゃられるように年齢を二十に引き上げれば、十六歳でとられる人たちが四年先送りになりますので、とりあえず年齢だけを引き上げておいて、その後に、十六歳が二十になって、その二十の人たちがとられるまでには抜本的な改正をして指紋制度をなくするという形での経過的な措置として、一挙になくするということがまだ十分に議せないということであれば、とりあえず年齢だけを引き上げるという修正をしていただいて、その四年後までには抜本的な改正をするというような意味での、年齢についての若干の変更を加えることは意味があるのではないかということを感じております。  ついでに、修正するということで申し上げるとすれば、大沼参考人もちょっとおっしゃられましたけれども、定住外国人、とりわけ期間の定めのない外国人、すなわち在留期間によって管理する対象から除外されている人たちについてはとりあえず指紋制度を廃止して、全体についてどうするかについては再度抜本改正にゆだねるというような選択肢というのもあり得るのではないかと私は思います。  それから立ったついでに恐縮ですけれども、━━━━━━━━━━━━━実は私は大学の授業がきょうから始まりまして、本来ですと今ごろは授業をやっていなければいけない時間なんですね。私は直前に御連絡をいただいたものですから、大学に電話で連絡をして事情を話して、お送りいただいた呼び出し状をファックスで大学に送って休講手続を経て今日ここにお邪魔しているわけで、意見を述べたらその後すぐということであれば、何のために意見を述べたかわからないわけで、そういうことであれば私は本来の職務である大学での授業をすべきだったと思わざるを得ないので、その点については、私が云云というのではなくて、私が意見の段階で申し上げたように、これは日本の名誉にかかわる極めて重要な法案ですから、歴史に恥じないような立法府としてのお取り扱いを切にお願いしたいと思います。
  238. 坂上富男

    坂上委員 大沼先生からは、定住外国人からは指紋をとるべきでない、こういうお話でございました。また中市先生からは、同一性の確認のためには指紋の必要性をおっしゃったようにも理解をしておるわけでございます。私たちの社会党は、指紋の押捺は廃止すべきであるという案を提出しておるわけでございます。  そこで、問題は、何一性の確認ということが議論の対象になっておるようでございます。中市先生は、かつては写真だけでやったのだけれども、二重登録だの、あるいは何枚ももらわれたりというようなことがあって、という御経験のお話でございますが、日本の旅券それから免許証、これはやはり指紋でなくして写真や戸籍等によって同一性を確認しておるわけでございます。そんなようなことからいいましても、私は、特に指紋は犯罪人と同一視されるところに大きな反対の意向があると言われておるわけでございますが、そんな意味で、中市先生、どうしても指紋でなければこの同一性の確認というのはできないのでございましょうか。御経験の中からもう少しお話をいただきたいと思います。
  239. 中市二一

    ○中市参考人 写真は、一般的に申し上げますと、他人のそら似という言葉もございますが、世の中には非常に似た人がいるというようなこともございますし、また、写真の弱点と申しますか、年をとるに従いまして容貌も変化してくるといったようなこともございまして、どうしても決め手にならないのではないかというふうに考えております。同一性を確認する有効な手だてとして、指紋にかわるような何かすばらしいものが出てくればまたこれにこしたことはないと存じますが、現段階においては指紋以外にはないのではないかというふうに考えております。
  240. 坂上富男

    坂上委員 じゃもう一点。先生、日本人の旅券それから免許証、これは写真と顔によって確認をしてやっておるわけでございます。数次の旅券は五年間でございます。免許証も三年でございます。じゃ、日本人と外国人との差別という問題になるのでございませんでしょうか。最高裁判所の判例では、できる限りそのような差別をしてはならない、こういう判例があるわけでございますが、そういう観点から、先生、いかがでございますか。
  241. 中市二一

    ○中市参考人 パスポート等は写真だけだということでございますが、詳しいことは私もわかりませんけれども、しかし旅券につきましては、写真のほかに同一性を確認する書類等が要求されるのではないかと思いますし、そういう点につきまして、ちょっと確信のあるお答えができません。
  242. 坂上富男

    坂上委員 先生をいじめるわけじゃございませんが、御理解をいただきたい、こう思って、しておるわけでございまするので、ひとつよろしく、また我が党の法案も出ておるわけでございまするので、御理解をいただきたいと思っておるわけでございます。  それから、萩野先生あるいは田中先生、どちらでも結構でございますが、在留外国人で、その外国で生まれた子供たちに登録義務がある国はあるでしょうか。これは日本はあるわけでございますが、十六歳以上みずから届け出ろ、こうなっているわけでございます。アメリカは、もちろん先生御存じのとおり、アメリカで生まれますとアメリカの国籍を取得するものですから、要らないのだろうと思うのですが、世界はどういうふうになっておるのでしょうか。生まれた子供、その国に生まれた外国人までとるというのは、登録の必要があるというのは日本だけなんじゃないか、こう思っておりますが、いかがでございましょう。
  243. 田中宏

    ○田中参考人 外国もたくさんあるものですから、なかなかきちっとしたお答えができませんけれども一つ言えることは、日本外国人に関するさまざまな法制度あるいは法律の適用を考えるときに、日本のような血統主義をとっている国では、先ほども申し上げましたけれども、子々孫々にわたって外国人が、いい言葉ではありませんけれども、再生産されるという構造になっているわけですね。そうしますと、日本の社会に完全に定着している人も外国人としてさまざまな適用を排除されるという事態が生じますので、ただ外国人だからこうであるという議論で物事を進めていくことによって極めて重大な不利益なり不合理が生ずる。  その点は外国人登録法の適用についてもそうですけれども、一般的に血統主義国における外国人の処遇については、同じ外国人を一本にするのではなくて、異なった取り扱いをする制度をつくる必要がある。そういう問題点があるということだけ御指摘をして、そのことが、私が申し上げる定住外国人については指紋制度を廃止することにとりあえず踏み切ることにそう大きな問題はないと申し上げる論拠でもあるわけです。  以上です。
  244. 坂上富男

    坂上委員 なおまた、私たちは登録証明書の常時携帯義務の廃止を主張しております。  そこで、河さんからお聞きをしたいのであります。  この委員会でも議論になったのですが、近所の銭湯に行くときも登録証携帯で取り調べられたという話がある、これはひどいじゃないかということが一昨年の衆議院地方行政委員会、四月十九日にありまして、そういうことはありませんという答弁なんでございます。多分、河さんの在日朝鮮人の方がこういう目に遭ったのじゃなかろうかと思っておるわけでございますが、政府答弁はそうなんです。そんなことをした覚えがない、こう言っておるのです。実際にあったのでしょうか、どうでしょうか。
  245. 河昌玉

    ○河参考人 お答えをします。  今先生御指摘のように、一昨年の地方行政委員会警察当局は、そのような事例は過去においても現在においてもないのだというふうに答弁をしております。権威ある日本の国会での答弁で、どうして事実のままに答弁をしないでこのようなごまかしをやるのか、私は納得できないのであります。  たくさんの事例がございますけれども、配付されました具体例の事案の中に二つあります。これをちょっと紹介しておきたいと思います。  一九六七年一月、北海道に居住する鄭任進、当時五十四歳ですけれども、近所のふろ屋へ出かけるところを後ろをつけてきた滝川警察警察官に呼びとめられ、不携帯を口実に逮捕され、強制連行だと思いますが、深夜まで不当な取り調べを受けた、こういう事案がございます。ふろ屋へ行く場合はタオルとか石けんとか、そういうものを持っているわけですね、自宅の近所ですから。それを告げても警察官は承知しないで強引に警察へ連行した上、厳しく取り調べを行った、具体例の一つであります。  それからもう一つは、一九八〇年六月、東京に居住する余裕永、これは十五歳です。先ほど義務年齢の話がいろいろ議論になりましたけれども、これは年齢をどうこう、そういう問題ではなくて、未成年者を取り締まりの対象にしている、その人権を日常的に侵害をしているということが問題になろうかと思いますが、この十五歳、中学三年の男の子がふろへ行っての帰り道、自転車に乗って三河島駅前を走行中、荒川警察警察官に呼びとめられ、不携帯を口実に三河島派出所に連行され、父親が登録証を持ってくるまで不当にそこへ拘束した事例であります。  時間もありませんので、具体的な事例を紹介して、この地方行政委員会での警察当局の答弁は真実とは異なるということを申し上げておきます。
  246. 坂上富男

    坂上委員 田中先生に集中して恐縮でございますが、指紋問題に関連をいたしまして、指紋押捺を拒否された皆さん方は登録を拒否するためにそうなさったのでしょうか、それとも指紋そのものに問題があるから拒否をなさっているのでしょうか、どちらでございましょうか、先生御存じならばお聞かせいただきたいと思います。
  247. 田中宏

    ○田中参考人 私も指紋の押捺を拒否している具体的な何人かの人と話したことがありますけれども、私の知っている限り、登録そのものを拒否するということではなくて、日本におけるさまざまな差別の象徴的なものである指紋制度を廃止するために、具体的な手段として押捺を拒否するという形、そういう道を選んでいると思います。  なお、一部、いわゆる切りかえ申請、これをしていない人があるかと思いますけれども、これは切りかえをすると指紋をとられるので切りかえをしないという形で、結果的に指紋を押さないというのがあります。これは厳密には指紋拒否ではなくて切りかえ拒否という、そういう事例も若干あるということを申し上げておきます。
  248. 坂上富男

    坂上委員 最後でございますが、五人の先生どなたでも結構でございますが、住民基本台帳、これは日本人がするものでございますが、これに相対するものが外国人登録法外国人の在留者だろう、こう思っているわけです。外国人登録法によりますと、外国人そのものを管理する、こういう規定になっているわけでございます。それから日本人を管理するところの住民基本台帳は、日本人そのものを管理するというのじゃないのです。日本人に関する記録を管理する、こう書いてあるわけでございます。  さっき憲法十四条に合憲か違反かの問題が議論されましたが、少なくとも最高裁判所の判例は、外国人日本人は区別してはならない、こうあるわけでございます。しかも、登録義務というのはあくまでも人に対する管理であってはならないのでありまして、私は日本人の住民基本台帳と同じように、その人に関する書類に対する管理なのだろうと思っておるわけでございます。こういう観点から、憲法第十四条に違反する疑いが日本人と外国人の間にあるのじゃなかろうか、こう私は思っておるわけでございます。であるがゆえに、外国人の皆様方に懲役刑をもって臨むという外国人登録法の姿勢だろうと私は思うのであります。  局長さんには大変失礼でございますが、私は、外国人登録法刑罰法規であるはずではない、あくまでも行政目的達成のための登録でなければならない、したがって体刑を持つところの刑罰をもって臨んではならないということを、前に再三申し上げてきたわけでございます。そういう意味で、住民基本台帳との関係において法の前の平等に反するのではなかろうか、かつ体刑の刑罰外国人登録法に盛っておること自体においてさらに憲法十四条に違反するのでなかろうか、行政目的を達するのであるとするならば過料で済むのではなかろうか、こんなことを私は思っておるのでございますが、どうぞ学者の先生方、お考えがありましたらお聞かせいただければ幸いと思います。どなたかございませんでしょうか、代表してでも結構でございますが。
  249. 大沼保昭

    ○大沼参考人 それでは、私の意見を申し上げさせていただきます。  先ほどもちょっと申し上げましたように、外国人登録法日本国民に関する対応物としては、部分的には戸籍法が含まれますけれども、今おっしゃったように住民基本台帳法が出てくるだろうと思います。果たして外国人登録法が、外国人と国民との間の不当な差別を禁止する憲法十四条に違反して違憲であると言えるかどうかという点につきましては、私は一概に、その目的において外国人の管理ということをうたっているがために違憲であるというふうには考えておりません。  と申しますのは、外国人登録法の場合には、もちろんその住民としての把握ということが基本でありまして、「外国人居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」ということでありますから、基本的には住民としてのその居住関係身分関係を明確にさせるという限定がつくわけでありますけれども、しかしその基本として「外国人の公正な管理」ということがうたわれておりまして、またその法律案の体裁、さらにまた諸外国における外国人登録法というものの役割から見ても、全く国民の住民登録と同一であるというふうな観点から論ずることは学問的に難しいだろうというふうに思うわけであります。  ただ、外国人登録法が、事実上日本国民と同一であるほど日本社会における構成員としての地位を持っている者に対して無差別的に、単に外国人であるからという根拠から適用される場合には、それはその限りにおいて違憲となる、これは学問的には適用違憲という形であらわすことができるだろうと思いますが、そういう考え方を持っております。つまり、この外国人登録法は、九十日以内に例えば本邦に入った外国人はしなければならないわけでありますけれども、しかしそれ以上のものは、先ほど田中参考人も強調しておられたように、二世であろうと三世であろうと四世であろうと、現在は四世までの外国人がとりあえず対象になりますが、これからは五世であろうと六世であろうと、とにかく幾ら日本社会の住民としての実質を持っていても、およそ日本国籍を持っていなければ外国人登録法が適用されるということになります。  そうしますと、そういう三世、四世、五世、六世といったような外国人は、明らかに我々社会の一員として、生まれたときから幼稚園、小学校、中学校あるいは就職、近所関係において本人の同一人性、居住関係身分関係というのは十分社会的に明らかであるにもかかわらず、ただ外国人だからという理由で、例えば現在問題になっているような指紋押捺義務が課せられるということになるわけであります。これは法の建前と社会の現実が全く乖離した現象でありまして、憲法は、そういう明らかに社会の現実と乖離した法の適用をも許容するものではないだろうと思います。憲法があくまでもそういう社会の現実と乖離した法の適用を認めるからには、認めるに十分なだけの実質的な理由を、その現実との乖離があるにもかかわらず適用する側が主張、立証しなければならないと思われます。  ところが、これまで外国人指紋押捺義務違反で裁判が何件か争われておりますけれども、そこにおいて国の側はそういう社会的な現実から乖離した法の適用をどうしてもしなければならないという差し迫った理由を十分実質的に立証しているというふうには私には考えられないわけです。その点からいいまして、指紋押捺義務あるいは外登証の常時携帯義務といった義務は、それが完全に日本社会の一員である、例えば先ほど田中参考人もおっしゃった在留期間、在留資格の制限を受けない、つまり永住資格を持つような定住外国人に適用される限りにおいて違憲であると考えております。
  250. 田中宏

    ○田中参考人 先ほどの住民基本台帳との関係ですけれども、このことだけ一言申し上げておきたいと思うのです。  それは、地方自治法の第十三条の二という条項には、「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」というように定められているのです。ところが、その別に定める法律というのが、ほとんどの地方自治法のコンメンタールでは住民基本台帳法であるというように述べられているのですね。なぜか外国人登録法というのは触れられていないというのが現実なんです。しかも、住民基本台帳法には三十九条に、この法律日本の国籍を有しない者については適用しないというようにはっきり排除していますので、そうしますと、自治体の側から住民記録というのはどういう形でつくるのかというように設問すると、外国人については外国人登録法でつくるしかないわけですね。  そうしますと、外国人登録法というのは地方自治法に予定する住民記録であるというように解釈していかざるを得ないと思うのですね。ところが、住民基本台帳法は一条の目的に、少し長くなりますので一つだけ読みますと、そういうものをつくって住民の利便を増進し、要するに住民のサービスに努める、こう書いてあるのですね。ところが、外国人登録法目的は「在留外国人の公正な管理に資する」、これでは外国人は管理だけはされるけれどもその利便は全然受けられない、法律条文だけを眺めますと。そういう問題があるということだけ、御指摘の点に関連して申し上げておきたいと思います。
  251. 坂上富男

    坂上委員 どうも五人の先生方ありがとうございました。また、委員長、時間を超過して大変恐縮でございました。ぜひ先生方の御意見を勉強いたしまして、さらに審議の中に影響させたいと思います。ありがとうございました。
  252. 大塚雄司

    大塚委員長 ただいまの坂上委員質問に対する河参考人、田中参考人の発言中、委員会の運営に関する言辞がありましたので、後刻理事会の協議により、速記録を調査の上、適宜処置いたしたいと存じます。  中村巖君。
  253. 中村巖

    ○中村(巖)委員 公明党の中村巖でございます。  本日は、参考人の先生方にはお忙しいところ御出席をいただきまして、御意見を賜りまして大変ありがとうございます。私どもも、この外国人登録法につきましては、かねて抜本的改正を要求してまいりました。今回出されました改正法案につきましては賛成するわけにはまいらない、こういう立場でおるわけでありますけれども、その立場で順次参考人の先生方にお伺いを申し上げてまいりたいと思っております。  まず最初に、中市参考人にお伺いいたします。  中市参考人の御意見は、指紋が同一人性を確認するために大事な制度であるということを強調されたわけでありますけれども、今日本に在留している外国人、これは先ほど来お話がありますように定住外国人が大変に多いわけでございまして、日本にいる外国人の恐らく四分の三以上は定住している外国人であろうと思うわけでございます。これらの外国人は、日本の国を出たり入ったりするということは余りない、ずっと日本に住んでおられる。日本に生まれて日本で育ったこういう方方、今や二世、三世、四世のこういう時代になっているということ、そしてそういう定住外国人が多くて、一時的に日本に入ってこられて数年滞在されるというような外国人は極めて数が少ない、こういう状況を踏まえた上で、先生はこの問題についてどういうふうに考えられるか。そういうような外国人の状況を考慮しなくていいのだろうか、こういう点はいかがでございましょうか。
  254. 中市二一

    ○中市参考人 定住外国人と一般の外国人を区別しては、区別といいますか、ある程度の取り扱い上の区別といいますか、そういうものを設けてはいかがかという御質疑じゃないかと思いますが、そのように受け取ってよろしゅうございますか。——おっしゃるように、そういう点はあろうかと思いますけれども、先ほど来何度も繰り返して申し上げておりますように、定住外国人であろうとそうでない一般外国人であろうと、現段階におきましては現行方式を踏襲せざるを得ないのではないかと考えております。
  255. 中村巖

    ○中村(巖)委員 次に、河参考人にお伺いいたしますけれども、河参考人の御意見はよくわかるわけてありますが、何点か御質問申し上げたいと思います。  一つは、河参考人のお立場で外国人登録制度そのもの、これは指紋を抜きだというふうに考えましたときに、もし指紋制度を伴わないということである場合に、外国人登録制度というものはどういうふうにお考えになられるかということが一点でございます。  それから常時携帯制度、これは現在の状況ではよくないということはよくわかりますけれども、常時携帯制度を改変するとすればどういうふうにしたらいいのだろうかということ。  それから三番目には、先ほど萩野参考人がおっしゃられるには今回の改正案は一歩も二歩も前進である、こういうふうな評価であるわけでありますし、また大沼参考人におかれましても、外国人の負担軽減という側面を持っているということでありますけれども、今回の改正案について前進的な側面というものを全く認められないのかどうか、その点をお伺いしたいと思います。
  256. 河昌玉

    ○河参考人 お答えします。  外国人登録制度の問題について、まず第一点、どのような制度であればよいのかという趣旨質問だったと思いますが、私ども三つの柱を立てて抜本的改正を求める運動を展開してまいりました。一つは指紋押捺制度の廃止、一つ刑罰による常時携帯義務の廃止、それから罰則の廃止、集約してこういう三つの問題点を挙げて運動を展開してきました。  同一性の確認の問題でありますが、これは日本の旅券あるいは運転免許証でも十分示されているように、指紋がなくても同一性を確認することができるものというふうに私どもは考えます。したがって、いわゆる犯罪捜査に役立てるための指紋登録制度そのものは廃止すべきであるというふうに考えております。  なお、指紋は一回になったから前進ではないかという問題でありますが、これについては、私どもはそのようには解釈しないわけです。指紋は終生不変のものです。一回とれば変わらないわけです。したがって、一回とろうが十回とろうが指紋登録制度そのものは存在するわけで、本質的に何ら変わらないというふうに考えます。  それから、登録制度はどのようなものであればいいのかという問題ですが、これは私の意見陳述でも述べましたけれども、非常に重要な問題は、刑罰制度そのものをなくすべきだと思うのです。先ほどもこの問題についてはいろいろ議論がございましたけれども日本国民の場合は手続違反などについては三千円以下の過料、つまり行政罰なんですね。したがって、警察の捜査権は及ばない、警察官によって取り調べを受けることもないわけです。ところが外国人は、不携帯はもちろんですけれども、手続違反に対しても違反があれば一年以下の懲役、二十万円以下の罰金、非常に重い刑罰でやっているわけです。このように刑罰を重く、つまり刑事罰でいろいろな義務を強制しているのは、そのねらいはいつでも捜査権が発動できる仕組みにするためだと思います。実際また、そのように登録法は運用されてきております。  そういう意味で私どもは、登録制度そのものは日本国民の基本台帳法のようなものであればいいのではないか、居住関係身分関係を明らかにする目的だけのものでいいのではないか、刑事罰は廃止すべきであると考えます。そのように、登録制度そのものについては抜本的な改正をしていただきたいということを私どもは強く求めてきました。
  257. 中村巖

    ○中村(巖)委員 河参考人に重ねてお伺いをいたしますけれども、今回の改正案が指紋制度を存続せしめている、このことに対して、私どもはこれはよくないことであるというふうには考えておりますけれども、指紋制度の存続のさせ方から見るならば、今回の改正案において、十六歳になった者は新規に指紋をとられるわけでありますけれども、過去において好むと好まざるとにかかわらず指紋をとられてしまった人たち、そういう大量の人たちが今後指紋を押させられる義務から免除されるという部分があるわけです。指紋制度自体としてはそのまま存続するけれども、個々の人々にとってはそういう部分が相当広範囲に存在をする、このことを評価されないのかということをお聞きしたいわけでございます。
  258. 河昌玉

    ○河参考人 先ほども申し上げましたけれども、私どもは指紋が一回だからいいとか十回だからだめだとか、そういうことではないわけです。一回とれば一生変わらないものですから、本質的に何ら変わるところはない、指紋制度そのものは何ら変わらないという意味で、今回一回だからいいんじゃないかということについては賛成しかねるわけです。私どもはもう既に何回も繰り返し指紋をとられました。これから十六歳になる者は初めて指紋をとられるわけですけれども、一回とればいいわけですね。それを今までなぜ切りかえるたびごとに指紋をとってきたのか、そのことについても甚だ納得できない、これは合理的な理由はなかったのではないかと考えます。  それで指紋の問題ですけれども、今度の新しい改正案、私は法律専門家じゃありませんから、読んでみてもわからないような規定の仕方をしているわけですね。例外規定を設けて、またある部分については附則へいつて規定をしたり、これは一般的には非常にわかりにくい改正法律案になっていると思うのです。一般的によくわかる改正をするということであれば、なぜわかるような改正法律案をつくれないのかという問題です。指紋が一回だと、こう言うのだけれども、本当に一回なのか。これは法律条文を検討してみた限りにおいては、指紋が鮮明でなくなったときはその都度新しい指紋を要求するというような形になっているわけですね。原則として一回、そういうふうになっているのではないかと思いますが、実際は具体的な事柄については省令で定める。こういう人権にかかわる、つまり外国人登録法の重要な問題にかかわる指紋の問題について、これが果たして一回だけでとどまるのかどうなのかということについても、改正案の条文を検討してみた限りにおいてはよくわかりません。一回でも十回でも本質的に変わりませんから、私どもの要求は一貫して同じですが、指紋制度そのものは廃止されるべきである。そして在日朝鮮人を初め、外国人の基本的人権を保障する方向で今回の改正はなされるべきではないかと考えます。
  259. 中村巖

    ○中村(巖)委員 次いで、大沼参考人にお伺いします。  大沼参考人は意見陳述の中で、指紋制度というものは本人確認のために絶対的な制度ではない、いわば本人確認力を持ってないということが明らかになってきたというような陳述をなされましたけれども、それはどういう意味でございましょうか。その点をまず第一点、お伺いしたい。  第二点といたしましては、さらに負担を軽減する方法としては、定住外国人から指紋をとらない、定住外国人に対して指紋を免除する、こういうことをおっしゃられたのでありますけれども、定住外国人というのは、そういう一般的な漠然とした概念はあるのかもわかりませんけれども、法技術的にどういう人をどういうふうに免除したらいいんだということになるとなかなか難しい話になろうかと思いますが、その点についてお聞かせをいただきたいと思います。
  260. 大沼保昭

    ○大沼参考人 まず第一点でございますけれども、既に私これまで書いた本などでもかなり詳しく述べておりますけれども、例えばきょうの参考人のお話の中にも出できましたが、戦後の混乱期にこの指紋押捺制度というものが導入されて、それが不正登録の発見とその減少に大変役立ったというふうに主張されているわけであります。しかしながら、実際に指紋制度導入当時の不正登録とその減少のグラフをつくってみますと、指紋押捺義務法律規定されたのは一九五二年であります。しかしながら実際には大変反対が強くありまして、五五年から実施されたわけであります。  ところが、当時の不正登録の実態というものを見てみますと、法務省自身の資料によりますと、例えば一九五〇年には五万人の外国人登録人口の減少が見られる。それから五二年の外国人登録の切りかえの際に三万人の人口の減少が見られた。これは恐らく二重登録などの不正登録が減った数だろうと思われるわけですが、この五〇年、五二年というのは明らかに指紋押捺制度が実施される前の時期であるわけでありまして、その指紋押捺制度が実施される前に実は不正登録というものは、その他の、例えば切りかえそれ自体とか、その前にやっておった団体一括登録を個人登録に切りかえるとか、そういう措置によってほとんど不正登録が減少していたわけでありまして、指紋押捺制度というものがこの不正登録を減少させた切り札になったわけでは決してないということが一つあります。  それからもう一つは、指紋押捺制度は確かに換値分類制度を採用いたしまして、専門家を大量に抱えまして、非常に完璧な換価分類制度がなされた指紋を専門家が大量に処理するという限りにおいては、大変有効な本人の同一人性の確認の手段としてあるわけです。ところが、先ほどの意見陳述の際にも申し上げましたように、法務省における外国人登録の際の指紋というものは、一九七〇年代の前半に換値分類制度を廃止して、指紋原紙も法務省に持ってくるのを省略させてしまった。八〇年代には法務省の入管局の登録課における指紋担当官というのは一ないし二名でありまして、しかもこの一ないし二名というのは指紋鑑識技術を持った技官ではなくて、単なる事務官であったわけです。  私の計算によりますと、当時年平均大体十二万の指紋原紙というものを処理しなければならなくて、百五十万ぐらいの累計数の指紋原紙というものが法務省の入管局にはあったはずである。とすると、百五十万の累計の指紋を処理するのに、指紋鑑識技術を持たない事務官が一ないし二名いるだけで一体どれだけの指紋の確認ができるのか。ましてや、今まで行われた裁判の証言では、区役所とか市役所の担当職員というのはだれも指紋鑑識の技術教育を受けていなくて、実際に同一人性確認をやっていたのは顔写真の照合でやっていたにすぎないということでありまして、実際問題としてこの指紋押捺制度というものが本人の同一人性を確認する手段として、これまで政府から説明されていたように絶対的な力があったというふうには到底考えられないというのが私の考えてあります。  実際また、先ほども何回か出てきておりましたように、我々の旅券なり運転免許証なり、あるいはここにおられる皆さんを選挙する際、我々ははがきで通知を受け取ってそれで投票所に行くわけですけれども、そのはがきには指紋はおろか写真すら張られていない。それでも、我々は十分参政権を行使しているわけです。これは社会的に、例えば大沼保昭が大沼保昭として杉並区の永福町に住んでいるということが十分わかっていて、同一人性が写真も何にもないはがき一枚ですら確認できるということをもとにしているわけでありまして、そういう社会的な同一人性の確認のレベルからいえば、国民であろうと定住外国人であろうと変わりはないということであります。  それから第二に、定住外国人というものを定義して、定住外国人から指紋押捺制度を免除するという場合の技術的な困難性ですけれども、これは、それこそ日本の優秀な官僚機構をもってすれば何ら困難はないと私は思っております。  例えば、一つの柱として現在の協定永住資格者ですね、在日韓国人、それから一般永住資格者がおりますね。これは在日朝鮮人のほかにももちろんアメリカ人とかイギリス人とか各国人がおるわけですが、それを柱といたしまして、そのほかに仮にそのカテゴリーに入らない場合でも、日本に生まれて日本に十年間以上居住した者とか、そういう技術的な規定をつくれば定住外国人の範囲を定めるのは法技術的には十分可能なことでありまして、まさに指紋押捺というような本人の同一人性を確かめるという分野こそ、そういう定住外国人は国民と同様に扱うべきであるという理論が最も典型的に妥当する領域だろうというふうに思います。
  261. 中村巖

    ○中村(巖)委員 次に、萩野参考人に伺いますけれども、萩野参考人の憲法論の中で、指紋制度というものが憲法適合性を持つかどうかということの一つの考え方として、指紋制度が創設された当時のような立法事実があるとするならば、それは合憲性を裏づけるものになるだろうというような御発言があったわけでありますけれども、現実問題として、現在の時点で指紋制度を正当化するような立法事実がありとお考えになっておられるのかどうか。いかがですか。
  262. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 私は研究者の端くれでございますので、その点についてはどうとも申し上げることはできません。ただ、例えば裁判所に事例が持ち出されまして審理をされた結果、判決が下されます。その判決文を読んでそのような論証で十分かどうかというような論理構成になるわけでございます。  その点を御理解いただきました上で一言申し上げますと、これまでに出てきました裁判所の判決文では、その点十分に納得できるものがあると言うことはできないと思っております。
  263. 中村巖

    ○中村(巖)委員 最後に、田中参考人にお伺いを申し上げたいわけでありますけれども、田中参考人は、まず指紋制度ありき、まず指紋ありきというのが今回の立法の考え方ではないか、指紋制度そのものというものが、今回のような改正をすることによって、あるいは以前の法務省の指紋制度の実施のやり方によって、今や制度として変質をしてしまったということの御指摘でございました。制度として変質をして、まずとにかく外国人の指紋を集めてしまうのだ、こういうことだけが今残っているのだろうというようなお話でありました。なぜこういうふうに法務省が指紋というものに固執をし、外国人の指紋をただ集めるということに一生懸命だというふうにお考えになられるのか、その辺のお考えをお聞かせいただきたい。
  264. 田中宏

    ○田中参考人 本当の答えは法務省の方からいただくしかないと思いますけれども、私は、やはり外国人をどう見るかという基本的な哲学のところで、法務省には考えるべき非常に大きな問題があるのではないかというように思っています。それは、先ほどちょっと別の機会に触れましたけれども外国人を煮て食おうと焼いて食おうと自由というような形で考えていく、外国人をどう扱うかは全く勝手にやれるのだという思想が結局はそういうものを生み出しているということに結論的には尽きるのではないか。そういう点で、外国人も同じ人間として平等に扱っていくということがまず先にあって、そして、合理的にどうしても必要なものについては取り扱いを異にするということもあり得ないことはないという、本末が転倒していると思うのですね。  外国人は別なんだということが先に来るというところに問題があるので、先ほど来言われますように人物の特定とか同一人性の確認ということが目的であるとすれば、そのことについては外国人日本人との間に差異はないはずだ。特に、日本の場合には身分証明書制度を私たち自身が持っていないわけですから、常時携帯義務にしても、密入国をしてきた人が成りかわると困るということがよく言われるのですけれども、しからば日本人に成りかわったときにどうするのか。そういうことを考えればすぐわかるわけで、日本人が全部持っていて、なおかつ登録した外国人身分証明書を持っているというときであれば、不法に入国ないし滞在をしている人というのは何も持っていないわけですから直ちにそういう者が摘発できる、これは合理的な理由があると思うのですね。そこらあたりに、外国人を見る基本的な思想に大変大きな問題が巣くっている、そこを改革するということがまさに国際国家日本をつくるための基本的な問題ではないかというふうに思っています。
  265. 中村巖

    ○中村(巖)委員 終わります。大変ありがとうございました。
  266. 大塚雄司

    大塚委員長 保安倍基雄君。
  267. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 参考人の諸先生、本当にお忙しいところ、貴重な御意見を拝聴させていただきましてありがとうございました。  同僚議員がいろいろの質問をした後でございますし、私の持ち時間は十五分でございますので、ポイントだけ簡単にお聞きしたいと思います。  私どもの審議の過程で、定住外国人というものについて、日本で生まれた二世、三世などについては別個に考えるべきではないかという意見を私どもは展開してまいりました。私ども民社党は、今回の改正は一応進歩である、だけれどもまだまだ改正すべき点があるという立場をとっておりますけれども、定住外国人につきまして、中市参考人は、区別というような問題は入国管理の問題としてとらえるべきで、差別というか区別するのはどうか、大沼参考人は、どっちかというとこれは全然別だというぐあいに理解していると私は思います。  この点につきまして、萩野参考人あるいは河参考人はどうお考えになっているか、一応別扱いとして考えるべきものとお思いになるかあるいはそうでないかということを、それぞれお聞きしたいと思います。
  268. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 実は私も、最初の陳述のときに触れたのでございますが、外国人一般という考え方は法理論的には正当とは言えないのであって、外国人の中にもさまざまな人たちがある、その事実を踏まえて物を考えなければいけないと考えております。そこで、今定住外国人という言葉が出てきておりますのでその言葉を使わせていただきますが、きょうのお話の中でもある程度イメージができ上がってきておりますけれども、そのような人たちを保護のもとに置いて一定の利益に待遇していくというのは合理的なことだと考えております。
  269. 河昌玉

    ○河参考人 先生も御承知のように、日本には多くの外国人が居住しております。その中で、在日朝鮮人が圧倒的多数を占めているわけです。在日朝鮮人は、御承知のようにかつて日本の植民地時代に徴兵、徴用などで強制連行されてきたか、あるいは本国で生活の手段を奪われて、生きる道を求めて日本に流浪してきた人々であります。それで、いわゆる在日朝鮮人を考える場合には、このような歴史的な特殊性というものを抜きにして外国人登録、なかんずく管理、取り締まり、そういうものがあってはいけないのだというふうに私どもは考えております。そういう意味で、外国人登録法の問題を考える場合にはまず在日朝鮮人のそのような歴史的事情というものを十分に考慮に入れて、しかも外国人であるわけですから国際法などで確認されている人権尊重の理念、そういうものを十分に尊重された処遇があってしかるべきであるというふうに私は考えております。  一言付言しておきたいのでありますが、日本には多くの外国人が居住しております。外国人登録法外国人すべてに平等に適用されているというふうに多く言われております。ところが、そうではないわけです。在日朝鮮人に対しては取り締まりを基本にしておる。一例を挙げますならば……(安倍(基)委員「申しわけないが簡単にしてください、私十五分しかありませんから」と呼ぶ)はい。もしアメリカ人に対して丸裸にして不携帯理由に厳しい取り調べをしたら、これは直ちに大きな国際的な問題に発展するであろうというふうに考えます。そういう意味で、日本に長く住んでいる在日朝鮮人については人権尊重の面でそういう格段の配慮があってしかるべきであるというふうに考えます。
  270. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私が今質問しておるのはもっと理論的な話で、結局定住外国人というものをある程度別扱いで考えるのか、外国人である以上同じレベルで考えるのか、その辺の取り扱いの差を設ける方がベターであるのかどうかについて問題なんです。さっき萩野参考人も冒頭でそういったことも言われましたけれども、その辺ちょっと大沼参考人、これから出入りするのにはいろいろなタイプがございまして、例えばアメリカの場合に指紋押捺が厳しくなったというのは、メキシコから大量のいわば移民が入ってきた、それがちょっと不正があるというようなことで米国における指紋押捺が厳しくなったと私は仄聞しておりますけれども、これから日本においてもそういういろいろの状況も出てくる。そうすると、いわゆる定住外国人とそれ以外の者をある程度分けて考えるということも考えられるので、その辺についての御意見を学者としての大沼参考人と萩野参考人に私はお聞きしたい。それがまず第一点でございます。  第二点は、今までの議論の過程で、英米系は国籍を出生地主義でやっておる。二重国籍も構わない。二重国籍というのは、血統で国籍を付与しておるものと出生地と両方の国籍を持っているケースがあるわけですね。欧州系はどちらかというと血統主義でいっている。私は午前中、日本もそういう出生地主義ということも考えられるかなというのに対しては、そう簡単にいきませんよという答が出てまいりました。それだったら、そう簡単に国籍は取れないグループについて、ちょっと特別の定住者として全くの外国人とは違ったステータスの、国民とパラレルの形の法的資格、いろんな扱いをしてもいいんじゃないかというような議論も出たわけでありますけれども、第一の点と第二の点、それぞれにつきまして、両先生の学者としての考えをお聞きしたいと思います。
  271. 萩野芳夫

    ○萩野参考人 第一点の、外国人の中に区別を持ち込んで法的に取り扱いを異にすることの法理論上の問題ということでございましたが、実は現行法制度のもとでもそうなっておるわけでございます。例えば、先ほど引用されましたが、国籍法におきましても日本の国籍を取ることができる人は何年以上滞在していなければならぬ。それから入管法の規定によりましても、在留資格の規定があって、こういう資格を持つ外国人日本国内でこれだけの活動ができるとか、滞在期間がこれだけあるとか、いろいろ区別があります。外国人の間に区別を設けること自体というのは、これまでも行われてきたところでございます。そこで定住外国人についてどうかという点になりますと、これはやはり日本国民に準ずる地位にあるわけでございますから、法的にもそのように扱われるのが正当な扱いであるというふうに考えます。  第二番目の点も、結局今のことと同じに帰着するかと思います。
  272. 大沼保昭

    ○大沼参考人 第一の点、特に近時の日本において外国人労働者が近隣の諸国から非常に多く入ってきておるわけですけれども、そういう点を踏まえた上でもなおかつというか、むしろますます定住外国人と一般外国人という区別をつくった上で、今萩野参考人も言われましたように、定住外国人に対しては極めて例外的な領域を除いては原則として日本国民と同一の処遇をするという立法の精神で、各法分野について法の改正をなすことが望ましいだろうと思います。  また、現行法の運用におきましても、先ほど私が申しましたように、そういう定住外国人については、この点に関しては日本国民と同じように適用すべきだという観点から適用しないと、むしろその法律が違憲になってしまうという法分野もあろうかと思います。そのことは今言いましたような、具体的には例えば外国人登録法などはその典型例ですけれども、そのほかにも社会経済関係のさまざまな法でありますとか、あるいは民族的な教育をより積極的に保障するために、定住外国人という概念をさらに持ち込むことも必要かと思います。それは在日韓国・朝鮮人のみならず、例えば日本が受け入れている難民の教育などについても考えられることでありますし、また、これからふえてくるそういう新たな入国者が定住者として日本に定着するようになってからも考えられる対応だろうと思います。
  273. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私ども時間が非常に短いので、もうこの辺で質問は打ち切りますけれども、指紋押捺問題を含めまして定住外国人という概念で考えていくのも一つの方法じゃないかなと私は考えています。  簡単ですけれども、私の質問を終わります。
  274. 大塚雄司

    大塚委員長 安藤巌君。
  275. 安藤巖

    ○安藤委員 共産党・革新共同の安藤巌でございます。  先ほどから参考人の先生方からいろいろ貴重な御意見を拝聴さしていただきまして、大分勉強さしていただいております。私なりに二、三お尋ねをしたいと思いますので、よろしくお願いをします。  まず、河さんとそれから大沼先生、田中先生にお尋ねをしたいのですが、指紋の押捺を拒否しておられる方々は、いわば信念に基づいてというふうに言っておられるということを伺っております。それから憲法違反、国際人権規約の問題、それから差別云々というお話もきょうの参考人の先生方のお話の中にも出てまいりましたけれども、これは私も十五分間でございますので、簡明にお答えをいただきたいと思うのですが、押捺を拒否しておられる方々はどういうことを言って拒否しておられるのか、どういうふうにそれを受けとめておられるのか、それをお聞きしたいと思います。まず河さんから、それから大沼先生、田中先生とお願いできればと思います。
  276. 大沼保昭

    ○大沼参考人 私も田中参考人と同じく何人かの指紋押捺拒否者の人を友人に持っておりまして、いろいろ話を聞いております。田中参考人のお話のいわば確認になりますが、一つは、何といっても指紋押捺制度というものが特に在日韓国・朝鮮人の人たちにとっては日本社会におけるさまざまな差別の象徴である、そういう意味があろうかと思います。  実は私、つい先日神戸で法哲学、社会哲学の世界学会がありまして、そこでこの指紋押捺の問題を報告いたしました。そのときに、私もある程度予想していた議論ではありますけれども、これは第三世界の非常に人権弾圧が厳しい国から出てきた議論で、話を聞いていて確かにわかったけれども、それは大変ぜいたくな国のぜいたくな悩みであるという意見が出ました。私は、指紋押捺制度それ自体としては、確かにそういう意見が出るような側面があることは否定はできないだろうと思います。つまり、世界の国々には政治犯は虐殺してしまう、手を切り落としてしまうという国は幾らでもあるわけでありまして、白昼堂々と秘密警察が連れていってしまうという国もあるわけでありまして、そういう極端な人権弾圧をしている国から見れば、指紋程度で騒いでいるのかという側面があることは否定できないだろうと思います。  ただ、私は、指紋というのは、それ自体の重要性もさることながら、何といっても日本社会がこれまで抱え込んできた、先ほど田中参考人がしきりに言っております我々の社会自身が持っている排外的な体質の集約、象徴として受け取られてきて、それがために非常に強い憤激を招いているという側面があるのではないかと理解しております。
  277. 河昌玉

    ○河参考人 在日朝鮮人すべては指紋押捺制度に反対をしているわけです。この指紋の問題については、既に一九五二年指紋制度導入が問題になりました。まさに日本全国の在日朝鮮人が一致してこの指紋制度そのものに反対をいたしました。その結果、三年間実施ができなかったわけですね。そして、一九五五年から実施されることになりました。その後、私どもは機会あるごとに一貫して指紋制度を初めいわゆる人権弾圧のそのような法運用も是正されるべきだ、法律は抜本的に改正されるべきであると主張をしてまいりました。
  278. 田中宏

    ○田中参考人 私の知っていることでいろいろ申し上げることはありますけれども、二つだけ申し上げておきます。  一つは、韓国人なり朝鮮人なり中国人なりというような人たちから聞いたことで非常に印象に残っている拒否理由というような言い方をもしするとすれば、自分たちはやむなく押してきたけれども、これは一体いつまで続くのか、そろそろこういう制度をやめにしたい、私たちは貧しい生活の中で何も子供たちに残してやれない、少なくとも指紋をとられないような子供として、子孫にそれだけの土産は残したい。これは一つの叫び声だと私は思います。  それからもう一つの声は、御存じのように欧米人も何人か拒否をしております。別の言い方をすれば白人ですね。この人たちに共通したものは、いずれも在日韓国人なり朝鮮人なり、日本で差別を受けている人たちに対する連帯の気持ち。私があるフランス人の牧師さんから聞いた言葉で非常に印象に残っておりますのは、これだけ指紋の問題が大きく問題になった今の段階で、自分が切りかえの時期を迎えたときに唯々諾々として指紋を押すということは、あの人たちを苦しめることになる、したがって、私は法に逆らうけれども神の前では恥ずかしくないという決意で指紋の押捺を拒否しました、こういうフランス人の神父の言葉を御紹介しておきたいと思います。  以上です。
  279. 安藤巖

    ○安藤委員 ありがとうございました。  続きまして、大沼先生と田中先生にお尋ねをしたいと思うのですが、ラミネートカード化の問題につきまして、大沼先生は改善とは認めがたいというふうにおっしゃってみえたと思います。法務省の方は、ラミネートカードにして非常に持ち歩きは簡便になる、普通の名刺入れなんかにもちゃっと入るんだ、こういうふうにサービス精神を旺盛に発揮したみたいな話をしておみえになっておるのですが、そういうようなことではないという御意見と拝聴しましたけれども、具体的になぜこれが改善でないのかということを、大沼先生、それから田中先生にもお願いをしたいと思います。
  280. 大沼保昭

    ○大沼参考人 既に意見陳述でも申し上げましたけれども外国人登録証の常時携帯義務がこれまで批判されてきたのは、要するに四六時中持ち歩かなければならなくて、それを持っていないとたちまち刑事罰の強制にさらされる、そういうシステム自体が批判されてきたわけでありまして、その持ち歩くものが手帳の形をしているか、それともカード型をしているかということは、そういう批判の中ではほとんど重要な意味を持っていなかった。ですから、私も申し上げたように、カード化することによってそれは確かに形はスマートになりまして持ち運びやすいという便宜が出たことは事実で、改善が全くないとは申しませんけれども、その改善というのは残念ながら甚だ小さいものでしかないということであります。  私どもがこの法案が出てくる前に指紋押捺制度の是非を議論していた際にカード化ということを主張していたのは、要するに現在のような張る写真ですと張りかえができる、それでは本人の同一人性の確認にとって確かに問題があるだろうから、これをラミネートカード化すれば張りかえができなくなって、現在の免許証のような形で、指紋がなくても本人の同一人性確認にはそれで十分である、ましてや指紋というのは実際にほとんど使われていないではないかということで議論しておったわけです。ですから、指紋押捺制度をたとえ一回であっても維持したままカード化するということであっては、ほとんどそういう議論でのカードのメリットとして主張されていたものは取り入れられていないと考えざるを得ないだろうと思うのです。
  281. 田中宏

    ○田中参考人 大沼参考人がおっしゃられたことと私も同じことを感じておりますので、時間のこともありますからそのことは再び申し上げないことにして、ちょっと別の点で私の疑問点、決してサービスだというわけにはいかないのじゃないかという点を申し上げておきたいと思います。  その一つは、ラミネートカード化することによって、先ほどもお話がありましたようにカードの作成が入国管理局で行われるという、従来の外国人登録事務に重大な変更が生じている。これは御存じのように、かつて行政簡素化に関する法律提出されたときに、これと似たような構造が盛り込まれたために、他の法案は全部通過したのですけれども外国人登録に関する部分だけが削除されて法案が成立したというかつてのいきさつがございます。  この場合にも、従来市区町村で行っていた外国人登録事務の一部を入国管理局で行うということが、私の聞いているところでは最大の問題になって、それは単純に行政簡素化というような法律の中で処理すべき事案ではないということで、外国人登録法改正に関する部分だけが削除されて原案が成立したといういきさつがありますので、機関委任事務という構造で今まで行われてきたところに直接入管局が関与する。しかも、作成のデータは市区町村の窓口から送りますけれども、例えば指紋の鮮明度というようなことについても、恐らく入国管理局に送られれば厳密なチェックが行われて、不十分なものであれば再度市区町村に突き返されるということも容易に想像されますし、むしろ規制が強化されるということの方に重大な問題が含まれているということを、大沼参考人のほかの面として申し上げておきます。
  282. 安藤巖

    ○安藤委員 最後にもう一つ、田中先生にお願いをしたいと思うのですが、ラミネートカードに指紋を転写する、この転写指紋というのがいわゆる指紋情報というような格好でひとり歩きするとか、ほかの方に、例えば治安関係とか警察関係とかという方向に利用されるというような心配があるのじゃないのかという話も聞いておるのですけれども、そういう点については、何か御意見はございますでしょうか。
  283. 田中宏

    ○田中参考人 先ほど時間があればぜひ触れなければいけなかった問題の一つだと思っているのですけれども、実は指紋情報の保護ということが今度の法案には全く出てきてない。私は指紋をやめるべきだという立場ですから、とった指紋をどう保護するかということには本質的には関心がないのですけれども、現実に法案に指紋が残っているとすれば、あれだけ人権にかかわる重要な個人情報について、それを保護する規定が法案に全く盛り込まれてない。従来の裁判等の過程で明らかになりましたように、市区町村役場にある指紋は警察がかなり自由に閲覧、謄写をしていたという事実が、これは裁判の法廷で明らかになっています。市区町村役場の係官の口から裁判長の前で明らかになっているにもかかわらず、全然保護規定が入ってない。  御存じのように、アメリカの指紋に関しては、アメリカの法律の中に、指紋は機密であってはっきりコンフィデンシャルという言葉で保護の対象として明示されているのですね。ところが、これだけ問題になっているにもかかわらず、とられた指紋の保護に関する規定が全く見受けられない。その問題が抜け落ちたまま指紋制度が残っているということも、より重大な不安を持たせる。  しかも、転写システムというのはどういう機械がどのように導入されるのか私よく知りませんけれども、ごく素人的に考えて市区町村の窓口で転写ができるようになるわけですから、その転写したものをどこに持ち出すかというようなことは、従来よりも簡単になるということは、考えられないことではないんじゃないか。しかも、何度も申し上げますが、保護規定が全く入ってないわけですから。しかも、市区町村の担当する住民基本台帳法とか戸籍法の場合には、秘密を漏らした者を処罰する規定がちゃんとあるのです。ところが、外国人登録法にはそういうものも入ってないという点で、個人情報の管理という昨今の関心の高まっている側面から見ても重大な欠陥を残しているということを申し上げておきます。
  284. 安藤巖

    ○安藤委員 どうもありがとうございました。これで終わります。
  285. 大塚雄司

    大塚委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  次回は、来る四日金曜日午前九時理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時二十六分散会