○坂上
委員 坂上でございますが、
日本社会党・護憲共同を代表いたしまして、
簡易裁判所設立等に関する
法律改正案について、反対の意見を申し上げたいと思います。
まずその
一つは、本件
法案は
簡易裁判所の理念を放棄したものであると言わなければならないのであります。本来、
民事訴訟法三百五十二条によりますと、
簡易裁判所は迅速かつ簡易に紛争を処理することを
目的とする
裁判所でございまして、従前の
区裁判所とその性格を異にするのであります。でありまするから、
簡易裁判所誕生前の
国会の答弁や司法法制審議会の答弁等を聞いておりますと、当時の
関係者の皆様方は
簡易裁判所の理念を謳歌いたしまして、本当にその夢と希望を、民主主義を
簡易裁判所に託しまして、その
設立と運営に当たろうとしたのであります。
ちょっと申し上げますると、例えば司法法制審議会の第五回第一小
委員会における畔上幹事の意見でございますが、
名前の簡易でなく、
言葉の響きでは民衆
裁判であり、
全国津々浦々の民衆が相寄り民衆が裁く、自分達の手で処理すると言うのであり、単に簡単に処理すると言うことになれば従来の
区裁判所で賄えるので、要は民衆的色彩に重点があるのだと思います。
こういう
ようなことがいっぱい各
委員から言われておるわけであります。
そして、衆議院
裁判所法案
委員会における木村司法大臣の説明は、私たちはこれを銘記すべきであろうと思うのであります。
簡易裁判所、これは直接民衆に接触する第一線に立っていく
裁判所であります。本法の実施後には、五、六百の
簡易裁判所ができるのですが、
裁判の民主化がほんとうに実現できるかできないかということは、この運用いかんによっておると思うのであります。これらの
判事になる人によろしきを得まして、そしてこの
制度の完璧を期したいと考えておる次第であります。
当時の法曹
関係者は、
簡易裁判所の運営いかんが民主主義の発展につながると確信をいたしまして、
簡易裁判所にその精魂を傾けたと言うべきなのであります。でありまするから、私たちは、
簡易裁判所は
区裁判所と違いまして、まさに民衆のための、駆け込みのための町医者的な
裁判所であるというふうに理解をして、その発足を祝ったものなのであります。
さてそこで、その
ようなことであったのでありまするが、先日、竹下
参考人の御意見をお聞きをいたしましたところが、この
ような御意見を開陳をされたわけであります。
この
簡易裁判所の性格あるいは機能というものにつきましては、
簡易裁判所は確かに旧
制度のもとでの
区裁判所というものとは理念を異にしておりますけれども、そうかといって、
アメリカの
少額裁判所というふうに呼ばれている、そういう
裁判所の
意味での純然たる
少額裁判所という性格を与えられているわけでもない、いわばその
双方といいますか、旧
制度における
区裁判所的な役割とそれから
少額裁判所としての役割、この両方の役割を担う
ように位置づけられているのではないかというのがかねてからの私の
考え方でございます。
こう言っているわけであります。
竹下
参考人は、確かに私たちは
少額裁判所、民衆
裁判所を目指したのであるが、その実態は、半分ぐらいは
区裁判所の任務をここに負わせたのではなかろうかということをおっしゃっておるわけであります。まさに
少額裁判所と
区裁判所の両方の任務をその運営の中に、実態の中に与えていたのであります。
また、今回の改正に当たりましては、三ケ月
参考人が申されているのでありまするけれども、大蔵省の役人が法制審議会の中に入っておられた、こう言っているわけであります。一体なぜ入れたかということについて、こう言っております。
確かに
予算の面というふうなものがかかわりますものですから、それは大蔵省の
関係官を抜きにしてやって後でそれが官庁同士の折衝になってつぶされるのはまずいので、あらかじめとにかく大蔵省の方にも引導を渡しておいた方がいいというので入っていただいたというのが本来の趣旨でございましょうし、
こう言っておるわけであります。いかなる理想を言ってもいかなる希望を述べても必ず
予算の制約があってどうにもならないので、あらかじめ大蔵省の役人を呼んで、その
予算の範囲内でこれを決めたのでございますという
ような趣旨をおっしゃっておるわけであります。およそ民衆のための、
国民のための
裁判所としてのいわば理念とは大変なかけ離れなのであります。
さて、具体的に今度各県にどの程度の廃止が行われていたかということを調べてみますと、特に多い廃止県であります。まず栃木県でございますが、四つ削って二つ生かしておるだけでございます。山梨県でございますが、五つ削って二つ生かしているだけでございます。鳥取県でございますが、五つ削って三つ生かしているだけであります。北海道の釧路
地裁管内は、五つ削って四つ生かしております。香川県は三つ削って
一つ生かしておる、こういう状態でございます。まさに、東京、名古屋、大阪に一極集中的な
裁判所をつくるのと同じ
ような現象がこの地域にも起きておるわけでありまして、特にこの県におきまするところの削減率というのは私は高いと言わなければならないのであります。
さて、私の県の新潟県の場合は、巻の
裁判所が
一つ廃止になりますが、新潟へ行くわけでございますが、私は汽車の時間表をけさ起きて調べてみましたら、こういうふうになるわけであります。弥彦の人が新潟へ行くのに、八時二十分に弥彦から汽車に乗るのであります。吉田という町に八時二十八分に着きまして、吉田発が八時三十三分、九時二十分に新潟へ着きまして、駅からバスで
裁判所へ行かなければなりません。
ようよう十時に間に合います。それから今度は終わりまして
裁判所から帰る場合、
裁判所から新潟駅までバス、それで十二時四十分の汽車に乗りまして吉田に十三時三十二分、吉田から乗りかえまして十三時三十八分発で弥彦に十三時四十五分。まず時間的にどれぐらいかかるかといいますと、丸一日つぶすということであります。それから汽車の料金でございますが、汽車賃は片道七百円、バス賞が片道千四百円なんです。
さて、
簡易裁判所は九十万までが
裁判の限度でございますが、この九十万の
裁判をするのにどれぐらい交通費がかかるかといいますると、一日つぶして行くわけであります。訴状を出しに行くわけであります。それから訴状陳述をする日が一日あります。証拠申請もそのときやるかもしれません。
証拠調べがあります。そして終結があります。そして判決があります。大体五回ぐらいが平均的な
裁判だろうと思うわけであります。一日日当一万円と計算をいたしますと大体どれぐらいになるか、あれこれ十万円ぐらいは出るのだろうと私は思うのです。
そうだといたしますと、さっき言いました
ような民衆のための
裁判所あるいは駆け込み
裁判所という概念は全く薄れているのではなかろうかと私は思っておるわけであります。まさに覆水盆に返らずでありまして、一たん廃止をいたしますると、復活の見通しは全くありません。しかも、この
裁判所を
設立するときの地方との協力もあったのだろうと思うのでありますが、
裁判所は、地方自治体は御理解をいただいたとおっしゃいました。だけれども、よくよく追及をしてみますと、もうお上に言ってもどうし
ようもないということで文句を言わないというのが実態なのであります。民衆
裁判所であれば、地方自治体の承認というものは、本当に同意というところまで追及して初めて廃止の可能性が立つのではなかろうかと私は思っておるわけであります。
そこで、自来、発足いたしまして今日に至るまで、
家庭裁判所と
簡易裁判所の場合を考えてみますると、
家庭裁判所の人気というのは結構いいのでございます。
簡易裁判所に相談した結果も、
家庭裁判所に相談に行ってきた、こう言っておるわけであります。
家庭裁判所は、それなりにいわば民衆的な
裁判所を心がけたのだろうと思うのであります。遺憾ながら、
簡易裁判所はそういうことはとかくできるだけの力と機能を与えなかったのではなかろうかと言われております。
予算は
地方裁判所の
所長さんが握っておる、監督も
地方裁判所がなさっておる、
簡易裁判所の
裁判官は何らの
権限も持っておらないわけであります。みずから民衆のための
裁判をやろうと思う、すぐ今でもいらっしゃい、今解決してあげますよという体制をとれる態勢ではありません。こんな
ようなことから、今日までいわば
区裁判所的な任務しか
刑事も
民事もやってこなかったのではなかろうかと私は思っておるわけであります。
時間がありませんので急ぎますが、さて、今後どうあるべきかという問題でございますけれども、
アメリカの
少額裁判所制度について次の
ように竹下さんが言っておるわけでございます。
夜間に開廷をしたり、あるいは私が実際に見た例では、むしろ朝早く八時半ぐらいから開廷をしたりという
ようなことで、一般の勤め人等も利用しやすい
ような形で行われている。
それから、
事件は
先ほども例に挙げました
ような、本当に一般の
国民の日常的な争い事という
ようなものを持ち出してきて、多くの場合にはその日のうちに両方の当事者から言い分を聞いて、必要な証拠等があればみんな持ってきなさいということを事前に指示をいたしまして、そこで両方の言い分を聞いて、ほとんど即決的に、こちら側の言い分が正当だからあなたの方から何ドル支払えという
ような形で
裁判をする。
大変興味のあるお話を実はいただいたわけであります。しかし、そういう理想があっても実施する機能というものを
簡易裁判所に与えなかったのではなかろうかと私は思っておるわけであります。例えば
民事訴訟法の三百五十三条、口頭の訴え、三百五十四条の任意出頭と訴えの提起、あるいは民調法の十七条、調停にかわるべき決定、あるいは民調規則の三条、口頭申し立て、こういう
ようなことを本当に
裁判所にやらせなかった結果が、
事件が少なくなった、交通の便利がよくなった、よって廃止をいたしましょうということであります。憲法三十二条は、
国民が
裁判を受ける
権利を盛っているのであります。まさに私はこの基本的人権の侵害だと
指摘しなければいけないと思っておるわけであります。
かかるがゆえに、私たちはこの
法案に真っ向から反対の意見の表明をいたしたいと思っております。
以上でございます。