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落合参考人 先ほど御
紹介いただきました元
日本弁護士連合会事務総長の
弁護士である
落合修二でございます。私は、
日本弁護士連合会の選出による
法曹三者協議員といたしまして
簡易裁判所の
適正配置問題に携わってまいりましたし、また、先ほど来お話のございました
法制審議会の
委員といたしまして、この問題について
審議に参加いたしていろいろ論議をしてまいりました
関係でございますので、そういう協議ないしは
審議における論議を通じまして、今回のこの
法律案についてどのように考えるかについて私の
意見を述べさせていただきたいと思います。
今回出されております
法律案の主な
内容は、多くの
簡易裁判所を
廃止してこれを統合するということ、それから
簡易裁判所を必要な場所に新設すること、それから
管轄区域を見直しするというあたりが主な
内容でございます。しかし、いずれも
簡易裁判所の本質にかかわる重要な問題を含んでおるわけでございまして、この問題を論ずるに当たりましては、今日存在する、あるいは
法律上制定されておる
簡易裁判所というものが一体何なのかということを十分に理解した上で、あるいはそれをわきまえた上でなければ論じられない問題だ、こんなふうに私
どもは考えておるわけでございます。
簡易裁判所は、御承知のとおり
昭和二十二年に戦後の新しい
司法制度の一環として創設されたものでございます。当時全国に五百五十七カ所、国会
審議等における言葉をかりれば全国津々浦々に存在させよう、こういうことが強く打ち出されておったわけでございます。後に十八カ所ほど新設されまして、
法制上は今日五百七十五庁ということになっておるわけでございます。先ほど
竹下先生のお話がありました戦前の
区裁判所の数のほぼ倍に相当する数でございます。
簡易裁判所は、いろいろな見方がございますけれ
ども、私
ども弁護士としてあるいは在野
法曹として実務に携わりながら考えるところによりますと、比較的少額、軽微な
事件を簡易な手続によって迅速に処理していくということを目的として設置されたものだ、こんなふうに考えておりますが、ただ、その根本的な
理念といたしましては、
区裁判所の
性格とは全く異なる別個な
裁判所、こんなふうに考えなければならない性質のものだと思うわけでございます。
理念的に申し上げますと、一般
国民にとって身近なものとして親しみやすく、そして
国民のだれでもが気軽に利用できる、こういう
裁判所、言うなれば
民衆裁判所あるいはよく言われます駆け込み
裁判所、こういった
性格、
理念のもとに創設されたのだと思います。また、このことは
法律制定の過程において多くの
関係者から極めて強く主張されておるところでございます。またそして、これが戦後の
司法の民主化に寄与できるのだということが望まれ、そのために先ほど言いましたようなたくさんの箇所に
裁判所が設置された。
この
裁判所が今日まで本来の
理念どおりに運営されておるかどうかという点につきましては、先ほど
竹下先生のお話にありますように、必ずしもその
理念どおりに今日運営されているということは、残念ながら私
どもはそれを認めるわけにはまいりません。かなり小型地裁的な様相を呈しておるということも否めないわけでございます。しかしその反面、このような多数の箇所に、そして特に民事調停とかあるいは本人訴訟等によって、
専門的な知識を持たなくても、また代理人を立てなくても、みずからが気軽に利用できるという
裁判所として大きく
機能しておるという一面も、決してこれは忘れてはならないところでございます。私
どもは今回の
簡易裁判所の
適正配置につきまして、このような
理念に基づいてその実現を少しでもできるようにという
観点で対処してまいったわけでございます。
以下、これから、先ほど申しました三者協議あるいは
法制審議会の
審議等を通じて私
どもが考えてきた点をもう少し御
紹介したいと思います。
最高
裁判所は、この問題につきまして、
昭和五十九年一月に
法曹三者協議の
議題とするように提案してまいりました。ここでちょっと三者協議というものを簡単に御
紹介しておきますけれ
ども、これは
昭和四十五年の参議院、四十六年の衆議院におきまして、
法案制定の過程におきまして、最高
裁判所、法務省、
日本弁護士連合会、この
法曹三者は
司法の改善問題について十分協議をしてできるだけ
意見の一致を見るよう努力すべきである、こういう趣旨の附帯決議がなされておるわけでございますが、
裁判所も私
どももこの附帯決議にのっとり、そしてまた、これを契機に
法曹三者で
司法の重要問題を十分協議するようということで、
昭和五十年以来三者協議会を設けて多くの問題を論議してきたわけでございます。
今回のこの問題につきましても、三年前、
昭和五十九年に提案がなされて、最近まで実に三十五回にわたって私
どもは真摯な論議を積み重ねてきたわけでございます。その経過を全部申し上げますと大変な時間を要しますので、詳細な点は省略いたしますが、要するにこの
法曹三者によって、
簡易裁判所の
配置が今日このような状態で適正と言えるのかどうか、適正でないとすればどのように
配置を見直したらいいかというようなところから始まったわけでございますが、果たしてこれを今日の段階で論議することがいいかどうか、つまり
議題にするかどうかということを含めまして、激しい論議を重ねてきたわけでございます。戦後四十年における
社会情勢あるいは交通
事情、もろもろの情勢が著しく変化した今日、四十年前の状態そのままでいいのかどうかという点は、これはやはり深刻に受けとめなければなりませんし、私
どもも今日的な
状況に合った
配置をするべきことは当然これは考えなければならないわけでございまして、何でもかんでも
裁判所を
廃止するということには
反対だというわけにはまいりませんし、できるだけ
簡易裁判所の本質を損なわないようにし、かつまた一般
国民の利用に甚だしく支障を来すようなことのないような方法を三者で十分協議して考えようではないか、こういう視点で私
どももこの協議にこの
議題を取り上げて加わったわけでございます。
裁判所の方では、一定の
事件数あるいは交通
事情の変化による所要時間が少ないというようなところについては
廃止していくということでいろいろな基準が出されましたけれ
ども、私
どもはやはりその地域に密着した存在であり、そしてそれがまた
国民の
裁判を受ける権利に深くかかわるものであるとするならば、このようにたとえ全国的に公平を期するというメリットはあるにしても、一定の
事件数あるいは所要時間によって指標を立て、その基準で画一的にこれを全国に当てはめるというのは余りにも形式的な平等ではないか、もっともっと実質的な
観点から、公平を期しながら、かつ今言ったような要請にこたえていく方法を考えるべきであるということで、先ほど言いましたように三年余、そして三十五回にわたってかんかんがくがく
意見を交換し合い、そして提言をしながら論議をしてきたわけでございます。
この三者協議の経過の途中で、ある程度論議が尽くされつつあるときに
法制審議会にこの問題が諮問されたわけでございます。昨年の二月でございます。その後は三者協議を続けながら、あわせて
法制審議会の
審議に私
どもは加わっておったわけでございます。そういう中で、画一基準による統廃合ということは極力避けるべきである、そして各地域の実情あるいは
意見等も十分これを考慮して実質的な
適正配置、真に適正な
配置をすべきであるということを論議いたしまして、
法案の資料についております
答申が昨年の九月になされたわけでございます。
その要点あるいは経過については先ほどの三ケ月先生のお話で詳しく述べられておりますので、重ねて申し上げませんが、その中で、各地域の実情を十分に勘案するという点や、あるいは
大都市簡裁問題について四
大都市を画一的に一庁にするというような機械的な統廃合は避けるべきであるという趣旨のことも
理念として盛られておりますし、何よりも行政
改革的な統廃合ではなくて、
簡易裁判所の
機能を充実強化するためのものでなければならない、これは
答申の中に明確に打ち出されております。こういったことも私
どもは三者協議におきまして他の二者といろいろ議論を重ね、そしてまたこのことも
法制審議会においても強調いたし、ごらんのような
答申がなされたわけでございます。そういう
意味におきまして、私
どもも三者協議の経過に照らして私
どもとほぼ
考え方が一致するということで
答申に賛成したわけでございます。
答申は、具体的にどこの
裁判所をどうするということは本来
法制審議会ではなじまない事柄だと思いますが、少なくとも基準的なものあるいは基本方針だけは決めようということで、三ケ月
部会長のもとで
全員一致であの
答申がつくられたわけでございます。ただ、問題は、今言ったように
答申は一定の基準を示すだけでございまして、具体的にどの
裁判所をどのようにするかということになりますと、これは
答申を踏まえて
現実にその後の
法案策定作業の過程で考えていかなければならない問題として課題は残されたわけでございます。
法制審議会としてはそれで終わったわけでございますが、私
どもは、この
法制審議会の
答申を踏まえてといいながら、それを本当に踏まえられた
法律案がつくられるのかどうか、これは実務家としては大変関心の高い、また軽視できない重要問題であるということで、その後も引き続いて協議会を精力的に持ってきたわけでございます。特に私
どもが一番痛感いたしますのは、その地域の方方の利便はもちろん大事でありますけれ
ども、どういう
考え方を持っておるか、そして中央ではなかなか把握できない
地方地方の特殊な
事情があるであろう、これを的確に吸い上げるには
地方単位で
関係者が十分協議ないしは
意見の交換をして具体的に妥当な方策を立てるべきではないか、こういうことを強く打ち出しまして、少なくとも
弁護士会関係では、
地方裁判所所長を
中心とする
裁判所側、
弁護士会の会長を
中心とする
弁護士会側、これが
関係都道府県におきまして、全国で昨年の十月から十二月にかけ実に精力的に、また真摯に各地で
意見交換が行われたわけでございます。
裁判所もそういう
意見交換の中で出された
弁護士会その他の
意見の重要なものをかなり取り上げられまして、百四十九庁を
検討対象にしておりながら、その中で四十八庁を存続させる、
地方小規模
簡裁についてはそういう
結論になりました。
しかし、これについては私
どもでは、まだ各地に
裁判所をなくされては困るという地域があるのではないだろうか、あるいはそういう不満もないわけではないというふうに聞いております。しかし、だからといって、この百一庁を
廃止することについて絶対
反対だということは私
どもは申し上げるわけにはいきません。それには一定の条件といいますか、この
適正配置によって今後の
裁判所のあり方をどういうふうにしていくかという別な問題が絡んでおるからでございます。この別な問題がもし実現するならば、あるいは対応できるならば、今回の小規模独簡の百一庁の統廃合、これは決して
国民のためにならないものではないというふうに思うからでございます。
その問題と申しますのは、いろいろございますけれ
ども、三つに一応限定して申し上げますと、今回の
改正による措置が
簡易裁判所の設置当初の
理念を損なうことのないように、
裁判所の建物の構造、レイアウト、人的
配置、その他の諸設備、こういったいわゆるハード面、それからまた
裁判所の運営に関するもろもろのソフト的な面、こういった両面において一層充実を期して、
国民の
裁判を受ける権利を失わしめることのないように努めなければならないという、
一つの強い要請がございます。
また、今後の
事件数の増加や人口の増加等によってその地域に
裁判所を新たに設置する必要がある場合には、
関係者の
意見を十分聞いてこれを実現していくということ。今回の
法案の中にも、埼玉県所沢、東京都かの町田に新しく設置するというのが
一つの重要なことだと思います。そういったことをこれからも全国的に考えていくということ。
三番目には、この
法案の中にも出てまいりますが、
裁判所の設置を事務移転等の形によって、実質的に
法律によらない
裁判所の統廃合に通ずるような措置が出されてきております。二十カ所ほどあるようでございますが、名目的に
法律上
裁判所として残っているだけ、こういったものも今度
法律上消すということになるわけでございますが、そういう国会の
審議を経た
法律改正によらないで
裁判所の統廃合につながるようなことをされては困るということを強く
裁判所に申し上げ、
裁判所もその点については了解されておるようでございますが、私
どもはこういった点を強調し、そしてこれが実現するように
期待するわけでございます。そしてこれが
期待できるならば、この小規模独簡についての
法案についてあえて
反対するものではございません。
時間がございませんのではしょりますが、あと大きな柱としては、
大都市簡裁の集約問題でございます。
これは、小規模独簡の場合とちょっと面が違うわけで、同一には論じられないわけでございます。近代
社会に即応する
裁判所の合理化という点で一定の
評価はできるわけでございますが、例えば、東京二十三区十二の
裁判所を一挙に一個にしてしまう、どうもこれは少し極端ではないかということは言えるわけでございまして、これについて、東京、大阪あるいは名古屋で
弁護士会とも十分今日まで協議を重ねてきております。その中に、各
都市についての実情に応じた対策も立てていくということを前提に私
どもしておりますし、また、協議を続けていくことについては
裁判所当局も了解されておりますので、今後この集約についていろいろな面でまた協議すべきことがございますので、これを継続するということを前提に、今回のこの
法案を制定することについてやむを得ない措置だろう、こういうふうに考えております。
なお、そのほかに、新設とか
管轄区域の見直し等非常に細かく
法案の中に載っておりますけれ
ども、これらについては、新設については積極的に
評価したいと思いますし、その他の区域の見直し等の
法案部分については特に
反対する理由がございませんので賛成をしたい、こんなふうに
結論的に考えております。
時間の
関係で十分意を尽くしたお話ができませんが、
審議の経過を振り返りながら、そして、その中で言われた問題を織り込みながら、簡単でございますけれ
ども、私の
意見とさせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)