○原
参考人 原でございます。今回の
所得税法等の一部を
改正する
法律案につきまして、時間も制限されておりますが、三点ばかり
意見を具申したいと思います。
まず第一点でございますが、全般的なこの
法案を通しましての私の
意見でございますけれども、特に名づけますと
税制改革の今回の理念についてということでございます。この法律の第一条にその趣旨が出ておりまして、ざっと読んでみますと、「国税に関する
制度全般にわたる
改革の
必要性にかんがみその一環として、
所得課税の
負担軽減及び合理化とその
財源措置の観点をも踏まえ、内外の
社会経済情勢の変化等に即応して早急に
実施すべき措置を講ずるため、」云々となっておりますので、この趣旨はやはり
税制の
改革ということであるのであって、
昭和二十五年の
シャウプ税制以来しばらく
改革しておりませんので、改めて今言ったような情勢のもとで
改革しようという、かなり思い切った発想なりスタンスに立っているはずのものであると考えております。
しかしながら、その
内容を見ますと、どちらかと申しますと
内容は主として
所得税の
減税、
税率構造の手直しと
利子課税の強化、
中心は
マル優の
改正、これにとどまっている感がいたします。この二つにつきましては、私は根本的に
反対という立場に立つものじゃございません。しかしながら、これでは
税制の
改革という点につきましてはいささかその
内容が矮小化されまして、
税制の調整という
段階にとどまっているのじゃなかろうかという感がしております。それからさらに、その
内容で直間比率の
見直しの問題、これは
税制改革協議会に付託されているはずでございますけれども、その
審議が進んでおりませんし、さらには法人税に対しても先送りになっている現状でございますのでなおその感がいたします。したがって、世上
税制の
改革と言っておりますけれども、今回はどちらかと申しますと
社会経済の内外の変化に対応した一種の
税制の緊急調整、手直しというのが妥当ではなかろうか、こういう感がしております。
それだけに私は、第一点といたしまして、このままで
税制の
改革が落着したと言えませんので、今後引き続きその
改革について
審議を重ねて
内容を詰めていただきたい、このように希望いたします。第二点といたしまして、もし調整ないしは緊急手直しならばもっと思い切った措置がとれないものか。
所得税減税の
規模を初めといたしまして、いろいろ
財源問題もあろうかとは存じますけれども、例えばことしの財政の余剰あるいは
NTT株の処理の仕方いかんによりますと、戻し
減税を含めまして時限立法的なものも考えることはできないであろうか、こういう感がしております。全体としての印象でございますけれども、これが第一点でございます。
次に第二点、その
内容の大きな柱でございます
所得税の
減税についてでございますが、初めに
政府案一兆三千億円ということでございましたけれども、伝えられるところによりますと、これに二千四百億円の上積みがされまして、一兆五千四百億円で一応の
合意が成るうかというような
段階に来ている。もちろん、野党の
反対はございますけれども、そういうふうに聞いております。
財源問題を初め、財政再建の問題も絡みましていろいろ御苦労がございますので、その辺の妥協点、落としどころを求めることは難しいとは存じますけれども、私は大体におきまして、この辺のところまで持ってきた御努力に対しては一応の敬意を表します。しかし、先ほど申しましたように、もしこの先さらに抜本的な
改革が残されているとすれば、今回は
規模についても少々不満がございますし、もう少し思い切ったことはできなかったであろうかということを感じております。
しかし、
所得税の
減税についてどういう点を手直しするかにつきましては、私は大体のところよろしいのじゃないかという感は持っております。どこを手直しするかということにつきましては、まず第一点といたしまして、
生活の難易度を考えて、一番
生活苦の集中する部分に手直しをする。さらに第二点は、垂直的な公平を図っていく。第三点は、水平的な公平を確保する、こういう観点があろうかと存じます。
第一点につきましては、これはもう御承知のことでございますけれども、
日本の年功序列賃金制を前提にいたしまして、三十歳から四十歳までの中堅
勤労者の
生活が、教育あるいは住居ローンを初めといたしましてさまざまの必要経費がかかりますので、非常に
生活苦が加重されておりますから、この辺のところを配慮しなければいけない。さらには、垂直的公平の立場に立ちましても、今申しました年功序列賃金に立ちますと、年がたつに従ってだんだんと賃金が上がっていく、しかもいろいろ経費がかかるわけで、
生活苦が集中する年代に非常に税の
累進度が高まるというような
税率構造になっておりますから、ここを集中的に手直しする必要がある。
しかも、今日におきましても垂直的公平と申しますように、能力のある人間はそれだけ
負担を高くしなければいけないということに立ちますと、高
所得者を優遇するような形で
税率構造の手直しは避けるべきである。ならば当然、この辺のところに集中的に
税率構造の手直しを行うべきであるということになりましょう。
第三点といたしましては水平的公平でございますけれども、特に
税制の
不公平感の
中心になっておりますのはこの点でございまして、ここに資料を持っておりますけれども、三、四十歳それから会社サラリーマンあたりの
中堅層の一番の不満は税の
不公平感、特に俗にクロヨンと言われております点でございまして、この辺の税の徴税の方法に相違があることが非常に不満である。昨年の総理府の調査によりましても、九二%の人が不満だということを述べているわけでございますので、この辺のところを
中心にして是正すべきでございましょう。
今回の
税率構造の手直しは、結果でございますけれども一応
中堅層に手厚い
軽減率になっております。けさの日経新聞によって見るところでも、五百万円の年収層で大体一二%の
軽減率ということになっておりますし、その辺のところはかなりいい
方向で是正に向かっているのじゃなかろうかと私は考えております。
ただ、前
国会で
税率構造の是正につきましては六
段階の是正が行われました。この際は、かなり高
所得層の
軽減率が高いということで批判も出ましたけれども、今回は十三
段階からさらに十二
段階に直されておりますけれども、これでも多うございます。イギリスでは二九%から六〇%の
税率構造で六
段階でございますし、
アメリカは八八年から一五%と二八%、もちろんこれにいろいろの例えば高
所得者層に対しての付加税を加える等の手当てがございますけれども、二
段階に少なくしておりますので、税の簡素化という点から考えましても、この辺のところ、特に中間層を
中心にして税率が急坂にならないように構造を平たんにすべきだということが、もう少しあってしかるべきじゃないかと私は考えております。いずれにいたしましても、この辺を
中心にした
所得税の
減税のねらいということにつきましては、私は賛成でございます。ただ、それに加えてさらに地方税も十四
段階から七
段階というふうに軽くされておりますので、この辺も
方向としてはよろしかろうと存じております。
それから、これは垂直的公平の問題に対する対応ですが、第三番目の水平的公平につきましては、このクロヨンに対する対策というものはまだ不十分だと思います。今回の案におきましても、申告
税制に対する対応ということで
給与所得控除額を超える特定支出の場合には、その超える部分を控除するというような申告の
制度をある程度加えられておりますけれども、これもこれだけでは十分とは言えませんし、また配偶者の特別控除が加えられておりまして、みなし法人との差でございます
主婦に対する
所得の分割ということにつきましての配慮がわずかされているということでございますけれども、これも不満といえば不満の点でございます。もう少し積極的にしていただきたかったと存じておりますけれども、一応の手直しはされている、こういうことでございますので、望むべきところはもう少し思い切ってこれを進めていただければよろしかろうということで、
方向性としては私は賛意を表しておきます。
最後の三番目でございますけれども、これは
利子課税その他についてでございます。
所得税を
中心にして手直しをするということでございますから、
利子所得の
課税は当然根本的に直す必要がございましょう。そういう
意味では
マル優等々を問わず、
利子から生まれた
所得を問わず、その他の
所得につきましては
原則課税するのが適当でございます、妥当でございましょう。この点につきましては、もう少し根本的な
検討をなさっていただきたい。
今回の場合には
マル優の
改正というものだけが一本釣りされたような形で、しかも言葉を悪くして申しますと、今申しましたような
所得税の
減税の
財源措置のために引っ張り上げられているような感なきにしもあらずでございます。といいますのは、そのほかに
キャピタルゲインに対する
課税とか
土地譲渡
所得に対する
課税等々、
所得課税につきましてはバランスよく取り上げるべきものがございますから、これらはバランスよく並行的、公平に取り上げるのが筋というものでございましょう。
財源措置が早急に必要だという事情もございますから、その辺の政治的配慮があったかとは存じますけれども、本来筋からいえばそのようにバランスよく公平の観点から取り上げてほしかった、こういうことでございます。
マル優の
改正につきましてはそういう感がいたしますけれども、この
マル優だけの
改正にとどめておきますと、やがて
財源問題がさらに出てまいります。
貯蓄率がどうなるか、いろいろ疑問がある点がございます。
先ほど、
消費が伸びるかどうかの議論がございましたけれども、これも
アメリカのフェルドシュタインの実証研究を初めといたしましていろいろ出ておりますけれども、問題があります。これはもちろん、
税金によって
貯蓄がどうこうなるかだけではなくて、
福祉政策との兼ね合いの問題でございますから、一方で
福祉政策をさらに充実していただきますならば将来への不安がある程度
軽減されますから、将来の
高齢化のための
貯蓄あるいはその
利子の確保という点の役割は少しく
軽減されてくることでございますので、いろいろ兼ね合いの問題がございます。まだ
日本におきましてこれだという実証研究は、残念ながら出ておりません。したがって、私も確たることは申しませんですけれども、
マル優だけに
財源を頼っているというわけにいかないとなりますと、やはり
間接税を広く
検討するという課題が当然出てくる、こういうことになりましょう。これは今後の課題だと思います。
ともあれ、
マル優につきましてはそういう感がしておりますので、これも
財源といたしますならば
キャピタルゲインにつきましても同様に配慮する必要がある。このたびもある程度配慮はされております。
内容につきまして、年間五十回以上の株の売買を三十回以上に切り下げるとかいろいろ配慮はされておりますけれども、もう少し積極的に配慮すべきであるし、
土地譲渡
税制も、二年以内の保有
土地につきましては非常に高い税率の
課税が配慮されておりますけれども、こういうものも含めまして
検討していただきたい。
特に
土地の
課税につきましては、かつて
昭和四十四年に
土地分離
課税をいたしましたときに、再分配の効果はうんと変わってきたわけでございます。そういう失敗例がございます。下手をしますと、この点で、さっき言った
所得の累進構造をせっかくうまくならしましても、この辺のところで分配の
やり方をまたもとへ返すような動きが出るかもしれませんから、この辺のところは配慮されて、
マル優だけじゃなくてすべてのその他の
所得につきましても、特に
資産所得に対しても配慮していただきたい。今回、
政府が出されました
経済白書にもそのことが指摘されております。
経済白書の最終章に近いところでこう言っております。
税制の
改正につきまして「累進構造を見直すとともに、公平の観点から
資産性
所得等について
課税ベースの
拡大を図っていくことが肝要」だと白書も述べておりますから、この点も十分に配慮されて
審議を進めていただきたい、このように考えています。
以上でございます。(
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