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1987-08-27 第109回国会 衆議院 科学技術委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年八月二十七日(木曜日)     午前九時三十分開議 出席委員   委員長 原田昇左右君    理事 塚原 俊平君 理事 平沼 赳夫君    理事 牧野 隆守君 理事 粟山  明君    理事 小澤 克介君 理事 貝沼 次郎君    理事 小渕 正義君       櫻内 義雄君    竹内 黎一君       中山 太郎君    羽田  孜君       村井  仁君    若林 正俊君       村山 喜一君    安井 吉典君       冬柴 鉄三君    矢島 恒夫君  委員外出席者         参  考  人         (学術情報セン         ター所長)   猪瀬  博君         参  考  人         (科学技術会議         議員)     山下  勇君         参  考  人         (前日本経済新         聞論説委員)  堤  佳辰君         科学技術委員会         調査室長    工藤 成一君     ————————————— 本日の会議に付した案件  科学技術振興基本施策に関する件(今後の科  学技術政策あり方に関する問題)      ————◇—————
  2. 原田昇左右

    ○原田委員長 これより会議を開きます。  科学技術振興基本施策に関する件、特に今後の科学技術政策あり方に関する問題について調査を進めます。  本件調査のため、参考人から御意見を聴取いたします。  本日御出席願っております参考人は、学術情報センター所長猪瀬博君、科学技術会議議員山下勇君及び前日本経済新聞論説委員堤佳辰君であります。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございました。  本日は、今後の科学技術政策あり方に関する問題につきまして、忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。  なお、議事の順序でございますが、まず各参考人からそれぞれ四十分程度御意見をお述べいただき、その後委員の質疑に対し御答弁をお願いいたしたいと存じます。  それでは、まず猪瀬参考人にお願いいたします。
  3. 猪瀬博

    猪瀬参考人 ただいま御紹介いただきました猪瀬でございますが、ほかにもお二方いらっしゃいますものですから、私、実はこの数年間OECD科学技術政策委員会の議長を務めておりまして、どちらかと申しますと国際的と申しますか外とのかかわり合いに中心を置きまして、幾つかの項目につきまして、全く私のプライベートの意見を述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。  要点は大体三つの大きなポイントに絞ってございます。お手元縦長のB4の資料がございますが、それに従いまして御説明させていただきたいと存じます。その他もう一つ英文資料がございますが、これはごく最近の「サイエンス」というアメリカの権威ある雑誌でございますけれども、それに、私これから申し上げます第三番目の国際交流に関しまして、特に最近はシンメトリカルアクセスということでいろいろと問題が発生しておりますが、その記事に非常によく書かれておりますので、御参考までにお手元にお配りいたしました。  まず、B4の縦長の方に従いまして御説明させていただきます。三つの大きなポイントというのはどういうことかと申しますと、一つ構造調整にかかわる問題でございます。第二番目は基礎研究にかかわる問題でございます。第三番目は先ほど申し上げました国際交流に関する問題というようなことで、大体十一ほどのポイントをここではたくさんあるポイントの中からある程度恣意的に選びまして、それにつきまして述べてまいりたいと思います。  第一のポイント構造調整に関して申し上げたいと思いますのは、構造調整という目的のために科学技術をもっと動員すべきであるというふうに私は考えているからでございます。貿易均衡の改善というのが構造調整の大きな目的一つになっておりますけれども、これは輸出を抑える、あるいは輸入をふやすということでない限り、不均衡というのは当然改善されないわけでございまして、やはり日本加工貿易国でございますから、余り極端に輸出を抑えるということは難しい。一方、輸入をふやすということもなかなか難しいということで、両方のバランスをとっていくということが現実的なソリューションではないかと思います。  まず、輸出抑制という面で申し上げたいと思います。  最近、貿易均衡で非常に日本からの輸出額が多いということはアメリカ欧州国々からも批判されておるところでございますが、それらの国々は、輸出の絶対額が多いということを問題にしておるわけでございまして、日本輸出によってどれだけお金をもうけているかということを問題にしているわけではございません。つまり、彼らの言葉で申しますと、ペーパー・シン・プロフィット、紙のように利益の薄いものを世界じゅうにまき散らす、それで世界市場の秩序を乱すことが困るのだということを言っているわけでありまして、日本が金もうけしてはいかぬということはどこの国も言ってないわけです。つまり、私どもから見ますと薄利多売というのは、私ら子供のころには大売り出しのときには必ず商店街にはのぼりが立っておりまして、日本人にとっては大変美徳であったわけです。その美徳がいけない。そんな紙のように薄い利益のものを世界じゅうにまき散らさないでくれ、こういうことを言っているわけでございます。つまり、薄利多売の頭の考え方を、もっと厚利小売といいますか利益が厚くて輸出額の総額としては少ないものを輸出するということが、彼らも期待していることでございますし、また私どもも、構造調整産業構造転換ということでは、究極の目的は、もっと利益の厚い、付加価値の高い、そして世界で抜群の性能を持って、それによりまして価格をリードできるような、そういうものをつくらなければいかぬということになるわけでございます。そのためにはやはり今までのようなコンベンショナルなものをつくっておったのではだめでありまして、独創的な科学技術というものがあって他の追随を許さないような製品ができて初めて利益の厚い品物で生活をしていくことができるということになるわけでございます。したがいましてそのことから見ましても、基礎研究充実ということあるいは独創的科学技術の育成というものが非常に重要であるということは、これは構造調整上からいきましても明らかであろうかというふうに思います。そういう意味でやはり、もちろん基礎研究というのは人類の知見を拡大するということもございましょうけれども日本の当面の最も重要課題であるところの構造調整ということに、特に厚利小売ができるようにするためにも、基礎研究というものが非常に重要であるという認識をできるだけ広い範囲に持っていただくことができれば大変幸せだというふうに思っております。  第二番目に、現地生産の問題でございます。  輸出を名目上減らすために最近日本では現地生産という方法が盛んにとられております。これは確かに地元にとりますと雇用機会がふえるというようなことで、短期的に見ると歓迎されておりますことではございますけれども、私はOECDに過去十年間ほど行っておりまして、この問題というのは米欧間で長いこと論議されたところでございます。その当時は、アメリカの私企業が多国籍企業として欧州に進出していく。欧州側にしてみますと、進出された場合どういうメリットがあるのか。短期的な雇用機会がふえるというようなことはあるけれども、しかし、外国技術を持ってきて外国の規格のものをつくって、そしてただ物を生産するだけであるということが続きますと、何もその国の科学技術能力に寄与するところがない。あるいは、だんだん基幹産業をその国の技術によって侵食されてしまうというようなことが常に言われておりまして、これに対してアメリカ側は盛んに防戦に努めてきたわけでございますけれども、最近は、欧州の人がアメリカに対して言っておったと同じことをアメリカの識者が日本に対して言うようになっております。  ですから、単なる現地生産というようなことでこの問題を乗り切るということは、今後は非常に難しくなってくるだろう。多国籍企業の批判をいたしましても欧州側は、物をつくるだけではなくてそこで研究開発もやってくれるなら、これは地元科学技術能力の向上に寄与することができるのだから大いに認められるというふうなことを言っておりましたが、最近でもそういう議論アメリカで出されております。こういう面でもやはり、現地研究開発を進めまして、技術革新の複雑なプロセスはございますけれども、その全プロセス現地の方々と分かち合う、そのメリット、ベネフィットを分かち合うような姿勢というものが今後必要になるのではないかというふうに思うわけでございます。  二ページ目の方に参りまして、次に輸入拡大でございます。  これも、生産財輸入するということはなかなか難しい。それは、設備投資が停滞しているということが最大の原因だと思います。消費財は既に飽和状態にある。原料といったようなもの、特に農産物を含む一次産品というものの輸入をふやすか、あるいは内需拡大することによって全般的に輸入を促進するという以外に、輸入拡大方法は余りないように思われるわけでございますけれども、それは先生方承知のとおり、日本産業構造転換というのは、二度の石油危機があった関係もございまして非常に省資源、省エネルギーの面での施策が進んでおりまして、今ここで急に資源やエネルギーをたくさん輸入しようと思いましても、もう産業構造転換が先行しておりましてなかなか難しい。したがいまして、円高メリットというものをそういう面でとるということはある程度限度があるという状況になっております。また、食糧等輸入しようということになりますと、構造調整論等を超越したような形で、緊急時の食糧確保というふうな議論が相変わらずされるというふうな一種のジレンマがあるわけでございます。もちろん住宅というようなことも考えられますけれども、現在のように土地が値上がりしておりますと、その投資効果の大部分値上がり部分に食われてしまうというようなことがあるわけでございます。  やはり私は、輸入拡大にも科学技術をもっと積極的に取り入れていただきたいというふうに考えるわけでございます。例えば資源輸入するという場合でも、現在のような鉄とか石油とかいうようなものを輸入するのではなくて、希少金属といったような高価なものを大量に輸入するようなものが必要だというふうに前々から思っておりましたけれども、昨今は例の高温超電導を初めといたしましてこういうふうな新素材というものが現実のものになりつつあるわけでございます。こういう面で輸入は、素材としても希少、高価な素材をたくさん輸入して、それに高い付加価値をつけて他の追随を許さないようなものにして外国に送り出すというふうなことも必要かと思います。  もう一方、先ほどから緊急時の食糧確保の問題がございますが、スイスというような国を見てみますと、あそこの国は食糧を外から輸入しておりますので、大体小麦を二年間分ぐらい備蓄いたしまして、古い小麦からだんだんリリースをしていく、市場に出していくというやり方をしておるわけでございますが、つまりスイス人が二年間食っていける小麦をいつも備蓄しておるわけでございます。そういうことが先例としてあるわけでございますので、日本でも食糧大量備蓄技術というものを確立することができますと、これは緊急時の食糧確保の問題と農業政策の問題あるいは構造調整の問題と切り離して議論することができて、ずっと政策的なオプションがふえてまいります。そういう面でも、技術というものを確立させていただくことができれば非常にいいのではないかというふうに思うわけでございます。  最後に、社会資本充実のための科学技術ということでございます。  私どもの身の回りを見渡しますと、日本の国が非常に栄えているということを申しますけれども、しかし、このままでもって私どもがこの国を子孫に誇りを持って譲り渡すことができるだろうかということを考えますと、実は、地価をとってみましても、本当意味のインフラストラクチャーが何もないというような状況でありまして、そういう意味では、社会資本充実にこの際思い切った投資をしていくということは大変大事だというふうに考えます。しかし、これはなすべきことが余りにも多い。したがいまして、投資効果をできるだけ高めていくということでありませんと、社会資本充実というのはよくよく考えてみますとこの世に極楽を具現することでございますから、無限の金がかかってしまう。そういう意味でもやはり科学技術能力というものを最大限に活用していただきたいというふうに思います。現実に、先生方承知のとおり、救急医療情報システムとか交通管制システムというものが日本の各都道府県でえらい積極的に使われまして、それによりまして、道路の建設とか医療設備への投資が非常に有効に使われているということが国際的にも認められているところでございます。今後も社会資本充実ということで内需拡大を進められる場合には、科学技術能力最大限に活用し、投資効果を有効にしていただきたいというふうに思うわけでございます。  実際に、この国にはたくさんの外貨があるということでございますけれども、その外貨は高金利を求めてほとんど海外に流出してしまっているという状況でございまして、私あたり前にもちょっと新聞にも書いたことがございますけれども足利時代にはたびたび徳政ということが行われまして、その国の社会システムを維持するために、借金をある時期全部パアにしてしまうということによって、足利幕府は財政的な破局を免れて、むしろ経済的な発展がそれから生まれたというようなことも歴史の本に書いてございますが、そういうことが世界的規模でないとはだれも言い切れないと思います。したがいまして、この際にそれだけ蓄えた外貨というものは、ただ金利だけのマネーゲームのために使われていいのかどうか。私ども子孫に誇ることができるような国を建設するということのために使われる方途というものを考えていただきまして、その為金が非常に有効に使えるようにぜひ科学技術能力を動員していただきたいというふうに考えている次第でございます。  次が、第二の大項目に入らしていただきまして、基礎研究の問題でございます。  これは先生方よく御承知のとおりでございまして、我が国では基礎研究というものがどちらかというと軽視をされてきたというふうに、外国からも見られております。まあサッチャー首相基礎研究ただ乗り論というのは大変有名でございまして、これはもうどこへ行きましても、外国でまずこの話になると開口一番やられる話でございます。よくよく聞いておりますと、日本人他人基礎研究成果ただ乗りをして、そして応用研究製品化に専念して世界じゅう市場を独占しているのはけしからぬ、こうおっしゃるわけですが、基礎研究を全然しておりませんような国が他人基礎研究成果ただ乗りできるはずがないのでございます。それはそれなりにやっておるのでございますけれども、余り目立たない。どうして目立たないかといいますと、やはり基礎研究への投資が少なくて、そのための目に見えた業績が、応用研究製品化という面の業績に比べますと出てきてないということによるわけでございます。基礎研究をしてないわけじゃない。みんな一生懸命やっておりますけれども、人もお金も極端に少ないという状況が続いているということになろうかと思います。  また、先ほど申しましたように、日本の国内ではもうそろそろキャッチアップ段階は卒業した、これ以上外国から学ぶところもないので、今度は自分で知識を生み出さなければいけないという御意見もございます。この両方から何とか基礎研究を強化したいというお話をいろいろ聞かされておりますけれども、私をして言わしめますと、基礎研究を強化するための仕組みは既にかなり整っておるのでございますが、その仕組みが実際に動き出していないということが申せるかと思います。それを申し上げるとまたお金の話かとおっしゃいますが、まさにお金の話でございまして、後で申し上げますけれども、いろいろ仕組みがございますけれども、こういうところに何人とか、こういうところに何講座とかいうふうな格好で、全くシンボリック格好で、ただいまお手元にお配りしております英文記事にもございますけれどもアメリカのフランク・プレスというナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスのプレジデントは、私が大分努力いたしまして東京大学に今までに歴史上初めて寄附講座をとってきたのでございますが、そのことを御本人に大いに私が申しまして、今度こういう面でも努力しているんだ、それは大変結構だけれども何しろ四講座ではこれは全くシンボリックですよ、そんなもので日米間の国際交流が飛躍的に高まるというわけではないんだ、あなたのアクションは非常に評価するけれども、こういうものを今後いかに拡充していくかということは日本の政府なり日本人全体の責務ではないか、このような格好シンボリックなものをあちこち見せられてこれでやっておりますと言われたのでは、我々としては納得しないのだということを言われたのでございますが、そういうことがあったわけでございます。  それでまず、私は、一つ経済優先という点を、この際基礎研究を考える場合にはしばらくおきまして、そのしがらみを断ってお考えいただく必要があろうかというふうに考えるわけでございます。その辺が三ページから四ページに書いてございます。何しろ日本ではかなりの楽観論がございます。これだけ今までよくやってきたぞ、これから日本人基礎研究をやろうということになったら本当にやるぞ、だからほっといても大丈夫だというふうなお考えもございますし、もう一方、やはり日本はもうしがない加工貿易商人国家だ、生き延びていくためには金もうけだけやればいいのであって、役に立たないことと金にならないことはやらぬ方がいい、特に基礎研究なんてやりますと、成功の確率が非常に低い、結局は学者ども知的欲求心を満足させて終わってしまう、そんなことはこのような商人国家にとっては全く身分不相応だからやめた方がいいという御意見をいまだに聞くわけであります。  そこで、これは両方ともコンプレックス、非常に自信過剰の面と全く自信喪失の面がごっちゃになって基礎研先の問題が論ぜられる。ところがよくよく考えてみますとその根底には、戦後三十年間、四十年間の経済復興歴史の中で我が国経済優先経済性が高い、効率性が高い、成功率が高いといったようなことを非常に気にしてきたということがあるわけでございます。ところが基礎研究というものは、実はそういうふうな役に立つとか金になるとか成功率が高くなければいけないなんということを考えておりますと実にならないということでございます。やはりこの際そういったような枠をまず外しまして意識改革をしてこの基礎研究に取り組みませんと、一見基礎研究らしい応用研究ばかりが流行してしまいまして、相変わらず外国から見ると日本はこういう面での貢献が非常に足りないという話になってくる。それと、まあ私は、思い切って意識改革をするために、国立ても民間と第三セクターみたいにして大研究所をつくりまして、その研究所の名前をインスティチュート・フォー・ユースレス・リサーチ、無用学研究所ということにしていただいたらどうかということをたびたび御提唱申し上げている次第でございます、  もう一つは、いや、そんなことをしてもだめだ、日本人はもともと独創性がないのだから、いかに金を使っても何してもだめだという御意見もあるわけでございますが、日本人にどれだけ独創性があるかないかということについては、今までまだちゃんとした実験がされていないわけでございます。というのは、明治以後今日までキャッチアップ段階でございましたから、そういう段階日本人本当意味独創性を発揮するというチャンスは比較的少なかった。なぜかと申しますと、そういうキャッチアップというものは、どうしても欧米流の物の考え方をし、その後を追いかけていくわけでございますが、その欧米流の物の考え方というのは非常に論理性の強い物の考え方でございます。一方、日本人というのは非常に感性的な、直観的な面ですぐれている。日本の芸術その他が外国人に高く評価されているのはまさにそこにあるということでございます。せっかく得意の非常にみずみずしい感性を持った日本人が、欧米流デカルト流と申しますか、非常に論理的な物の考え方自分自身を閉じ込めまして追いかけていったということがあるわけでございまして、この際そういった枠を外しまして、そして思い切って日本人の本来のすぐれた性質が最大限に発揮できるような方策を講ずるべきではないか。  私、学生さんを見ておりましても、大体二種類ございまして、一つのグループの人たちは、非常に直観力が強い。しかし物をまとめるのは下手だ。もう一つは、直観力はちょっと劣るけれども非常に論理的に物を詰めていくのがうまい。この両方を持った人というのは天才だと思いますが、大体どちらかしかない。日本人はどちらかというと前者の方で、ヨーロッパの人は後者の方であるというふうな印象を私はずっと持ってきたわけでございますが、後の方でも書いてございますように、戦後の日本教育やり方が若干問題があったのか、どうも前者よりも後者の人がどんどんふえてくる。つまり、問題解決能力のある人は多くなってきたのですけれども問題発見能力あるいは問題形成能力に欠ける人がふえてきた。これは、私も教育者の一人でございますので、私も責任のあるところだと思いますが、これを今後どうしたらいいかということは、やはり基本的に欧米流論理的思考からの脱却という点にまで立ち返って考えていただくことができれば大変幸せだというふうに思っている次第でございます。  次に、五ページにまいりまして、私は大学人間でございますので、大学人間として基礎研究をどう考えるかという御質問が出るかと思いまして若干用意してまいりましたが、大学でまあ言えますことは、戦前は、旧制大学とか旧制高校あるいは旧制専門学校ということで高等教育も非常に多様であったのでございますけれども、戦後は、アメリカが参りまして、こういう学校はすべて同一レベル新制大学になってしまった。そしてそれがアメリカ流のカリキュラムで大体標準的なメニューというような格好になって、その数も四百以上ふえてまいったのでございますけれども、その結果、いわゆる教育民主化という面では非常に業績が上がった。つまり、高度の経済成長産業規模拡大を支えるための良質で大量な要員の供給ということは、これによって実現されたというふうに思うわけでございますが、その反面、高等教育は非常に画一的なものになってしまいました。これは、戦前高等教育の方がはるかに多様でございましたが、画一的になり、数がふえ、しかも、いろいろ経済的な困難もありまして、それらに十分なファイナンスができませんでしたために、資金的あるいは人的な資源が非常にフラグメンテーション、細分化されてしまいまして、そのために、結果的に見ますと海外一流大学に比べますと基礎研究は極端に弱体化してきているというのが現状かと思います。  その面で、これまた長くなりますので簡単にさしていただきますが、大学における基礎研究というのは、これはあくまでも非常に自由な、全く無制約なもとで自由な発想を伸ばしていくという面で基礎研究に大きな役割があるわけでございます。そのために各教官に一人当たり積算校費というものも配分され、あるいは科学研究費というものも配分されてきておりますが、そのいずれをとりましても、どうも外国の研究投資に比べますと大きな格差があるわけでございます。もちろん、巨額の資金が必要となるようないわゆる巨大科学と申しますか、核融合であるとかあるいは高エネルギー物理とか宇宙科学といったような面ではかなり手厚い研究支援がされてはおりますけれども、昨今の高温超電導でごらんになりますように、基礎研究というものの中には、非常に広い範囲にその可能性が分布しておりまして、比較的少額のお金でも、それを継続的に維持してまいりますとある時期突然花が開くというものがたくさんあるわけでございます。ですから、基礎研究イコール巨大科学ではないのであって、むしろ小さなサイエンスとしての基礎研究というものが非常に広い範囲に分布している。これらをサポートしていくという面では、残念ながら欧米に比べますと日本はかなり、極端にと言った方がいいかもしれませんけれども、おくれがございます。そんなような点を見ますと、仕組みとしてはそれぞれに科学研究費があり、教官当たりの積算校費というものはあるのでございますけれども、それが十分なファイナンスをするようにはできていないために機能していないという面が、私から見ますとかなり顕著のように考えるわけでございます。  また、民間との協力関係につきましても、いろいろ難しい点がございますが、この点ではいろいろな面で最近改善が見られております。特に工学の分野では、産業界との密接な協力関係がございませんと、産業界における現実の、本当のリアルな問題というものをつかんでくることができない。つかんでくることができませんと、大学の先生はどうしても基礎的といいますか、非常に抽象的な理論的な面に走っていってしまいまして、工学的なインパクトのある研究ができなくなってくるという問題がございます。最近は民間との共同研究制度というものもできましたし、先ほど申しましたように寄附講座を受け入れることのお許しも得られまして、産業界で非常に熱心にこのことをサポートしていただいておりますので、今後はこういうものが、先ほど申しましたようにシンボリックではなく、実際日本じゅうどこにでも寄附講座がある、あるいは共同研究がやられているというふうな格好に、規模の拡大といいますか、中身をつくっていくということが大変大事であるというふうに思うわけでございます。  その次、ちょっとページが間違っておりまして、六ページがございませんで七ページになっておりますが、カリキュラムの問題等につきましてもやはりいろいろ考えるべき点があろうと思いますし、また、最近は知識の陳腐化というのが非常に激しくなりまして、私が学校を出たころには、知識の半減期と申しまして、学校で習った知識が半分ぐらい役に立つのが何年間ぐらいかということになりますと、大体十年というふうに言われておったのですが、最近私の同僚が同じような質問を学校を出た人たちにいたしましたところが、平均五年、短い人は二、三年というふうに言っております。つまり、五年ないし二、三年たちますと、せっかく習った知識の半分はむだになってしまうという時代でございます。  ところが、今までの大学教育というのは、大学教育も含めまして、非常に頭のフレッシュな若い人たちに社会に出ていく初速度をつけてやるということが教育になっておりまして、その後のいわゆる継続教育という面は、大学はほとんど関与してこなかった。いわゆる受託研究員を受け入れるとかなんとかということで細々やってはおりますけれども、卒業生を一生役に立つ知識のリフレッシュされた専門家として面倒を見るということは今までやられておりませんので、これは私自身非常に反省をしているところでございますが、今後こういう面でも拡充がぜひ必要である。そうしませんと、せっかくお金をつぎ込んでも使い物になるブレーンがないということになってしまってはまた困るだろうというふうにも思うわけでございます。この点につきましては、長くなりますのでここでとめさしていただきます。  最後に、国際交流の問題を申し上げてみたいと存じます。  日本の立場ということを考えますと、最近アメリカ側等から、日本アメリカの知識を恣意的に使って、それで先ほど申しましたようにアメリカ市場を独占しておる、これはけしからぬ、もともと私たちの知識を使ったのだからしかるべくあいさつしろ、こういうふうなこともよく言われておりまして、これは先ほど申しましたシンメトリカルアクセスの議論の発端になっております。しかし、私どもから見ますと、日米間とかいうふうなそういうバイラテラルな問題ではなくて、もっとグローバルにいわゆる自由世界ということを考えてみますと、今までアメリカもドイツも日本も、お互いに自分技術を開示いたしまして、そしてお互いに相手のやっていることを見ながら技術開発をやってきた。そこで初めて、研究開発投資の重複もしませんでしたし、また国際的な工業標準をつくる上でも非常に有効であったわけでございます。  最近アメリカ等でココムにも関連していろいろ話も出ておりますが、ココムだけではございませんで、先端技術というものの中身を見ると、ほとんど全部がいわゆるデュアルユーステクノロジー、軍用にも使えるけれども民間にも使えるということで、みんなミリタリークリティカルだというふうな考え方を、特に科学技術の現場にいらっしゃらない軍人であるとか政治家の方々は考えやすい。そうなってきますと、こういう話というのは、ほとんどすべての先端技術にこれを及ぼしてしまうということになりかねないわけでございます。そういうようなことになりますと、日本技術を囲い込むことになるしドイツも囲い込むことにもなる。西側の世界はそれぞれに非常な研究開発の重複投資に悩まされ、しかもでき上がった技術はそれぞれ違ったものになりますから、国際的な標準化も非常に難しくなってくるいうことで、ひいては西側全体の技術レベルが落ち、経済レベルが落ち、経済成長が落ち、そして政治的不和につながっていきまして、世界の平和にも重大な脅威になるのではないかというふうに私は思いまして、このことは常にアメリカの方々に訴えておるところでございます。一方、アメリカがなぜ戦後、特に一九三〇年の後半から世界に冠たる科学技術国になったかと申しますと、これはアメリカ人の努力にもよると思いますけれども、最大のインパクトは、ヒトラーという人が出てまいりまして大変抑圧的な政治をしてきた。そのためにユダヤ系を中心とする優秀な学者がみんなアメリカへ逃げてしまった。アメリカはその方たちを非常に厚遇をいたしまして、そしてその結果その方たちの研究成果というものが非常に上がりまして、今日のようなアメリカ科学技術面での優位が達成されたわけでございます。  そういうことを考えますと、日本としても、アメリカに次ぐ科学技術大国でございますので、ぜひ世界の、特に自由世界の間での科学技術の人的交流、情報交流というもののレベルを、アメリカの政策がどうであろうとも、もしアメリカの政策が非常に規制的なものになるなら、その分を補完するぐらいにふやしていく、そして自由世界の中での国際交流の総体的なレベルを落とさないようにするということが、これは日本にとっても非常に大事なことでございますが、恐らく今から何十年もたつとアメリカからも非常に感謝されるのではないかというふうに思うわけでございます。そういう意味で、研究者の交流それから情報交流という面で、これも仕組みはあるのでございますけれども、残念ながら非常に規模が小さいということがございますので、ぜひこういう面を拡充強化をしていただきたいと思うわけでございます。  研究者交流について申し上げますと、私もその一人でございますけれども、戦後三十年間、アメリカはフルブライト計画、あるいはドイツではフンボルト財団といったようなものがございまして、非常に大勢の日本人の研究者を招きまして自由な研究の場を提供してくれたわけでございます。私も実はフルブライトから旅費をもらいましてアメリカに参りまして、ペンシルバニア大学、それからベル研究所というところへ行っております。もちろん私も向こうにおります間にディジタル交換の基礎研究を発明してベル研究所に上げたというようなことがございますから、応分のお返しはしておりますけれども、確かにミューチュアリーベネフィシャルの関係があるわけでして、向こう側にもお返しはしましたけれども、私自身も率直に言いましてアメリカのすぐれた研究環境というものを非常に高く評価している次第でございまして、そういうことで大変お世話になっている。  ところが、日本もそれぞれフルブライトのお金を若干出すとかアメリカ大学寄附講座をつくるということで、応分のことをしているとは思うのですが、やはり外国から見ますと、これだけのアメリカやドイツの努力に対して、日本は何もしてくれてないではないかという印象を持たれておるわけでございます。特に、大勢の人を自分の方は受け入れているのに、日本は一向受け入れてくれないではないかと。私どもの方から申しますと、そうはいってもあなた方は最近日本のことに関心を持ったのであって、今までは、日本のことを話してやろうと言ったって話を聞く耳もなかったじゃないの、大体今ごろそんなことを決心してもそうすぐにはできませんよ、日本の社会に来て日本語をしゃべらなくてどうやって生活するんですというようなことをよく言っておりますけれども、向こうは、いや、それはそうかもしれないけれども、ともかく日本は今まで何もしてくれなかったというようなことで、この問題は大分あつれきがふえてきているという状況でございます。  日本お金をどうも応用研究や開発研究にかけて、政府がそちらの方にたくさんお金を出して叱咤激励している。これをいわゆるターゲティング・インダストリアル・ポリシーズと申しまして、そういうことをするのはトレードディストーティングであるというようなことを盛んに言っておりましたが、アメリカ側も、政府のお金を使うにしたってもっと基礎研究お金を使ったらどうか、基礎研究お金を使って人類の知見をふやしてもらうということについては、アメリカ側は反対どころか大賛成なので、ぜひそういうふうにしてくれというようなことを言っている。これはヨーロッパでもみんなそうでございます。  したがいまして、先ほど申しました、アメリカがユダヤ人を初めとする欧州のすぐれた学者をたくさん受け入れてアメリカ科学技術能力を格段に高めだということを考えますと、もしも現在のように若干アメリカ側外国人を規制するというような方向に向かっていくなら、それを補完するような努力を日本側でしたらどうだろうか。  今まで日本は単一民族国家ということを言われておりますけれども、よくよく考えてみますと、日本が大きな発展を遂げたときには必ず外国の血が入ってきております。特に、第七世紀、八世紀ごろの、それまで日本は全く部族の集団であったのが初めて国家らしい体制を整えた時期には、非常にすぐれた外国人たちが大勢入ってきている。例えばあのころ最もすぐれた天皇であられた桓武天皇のお母さんは帰化人であるということは、歴史でもはっきり書かれております。それほどに日本は、当時には外国の血というものを入れまして、そしてそれをてこにしまして発展をしてきたということを考えますと、この際日本にも大勢の人が入ってきていただくということが大事なのではないかと思います。  私も、東京大学工学部長をいたしておりますときに、そういうことも考えまして、国際的にオープンになった先端科学技術研究センターというものをつくらしていただきたいということで、これをお認めをいただきまして、そこへ先ほど申しました寄附部門もつけまして、その寄附部門は、企業からお金をいただきまして部門をつくりまして、その部門の教授は外国から来ていただくということで現在交渉中でございますが、大変すぐれた、アメリカの工学アカデミーのメンバーをしております、光通信の第一人者の方にまず第一号として来ていただけるように話が進んでおるところでございます。向こうも、日本へ行きますとなかなか暮らしが大変だ、何しろドルが安いんだからとか住居が狭いとか、さらに、奥さんが大体仕事を持っておられますので、アメリカの仕事と同じような仕事を日本で探してくれと、こう言われたところでなかなかないわけでございます。  そういうことで大変難しいのでございますけれども、一度こういうことがうまくまいりますと、アメリカ先生方も言われているのですけれども、爆発的に日本へ行きたいという人数がふえていくだろうというふうに言っております。そうなりますと先ほどのように受け入れの枠をしっかりつくっておかなければいけないということになろうかと思います。ここにも書いてございますように、日本には一億二千万人も人間がいるのだからもう外国から人が入ってくるのはだめだというのが一般的な意見でございますけれども、私は、もう一億二千万人もいるのだから十万人ぐらいいい人が入ってきても別にどうということはないのじゃないかというふうに思う次第でございます。  次に、最後でございますが、九ページに参りまして、科学技術情報交流ということもこのごろ盛んに外国からやかましく言われております。ところが日本は、御承知のとおりフロー関係は非常に熱心なのでございますけれども、ストックにはほとんど関心がない。情報につきましても同じでございまして、情報ストックというものについての関心が非常に低かったために、現在までデータベース等が非常におくれをとっております。私どもはこういう関係をやっておりますものですから、過去十年間、油断というのと同じで、情報が断たれたら困るというので、油断のかわりに情断キャンペーンというのをテレビ、ラジオ等を使わしていただいてやってまいりましたけれども、なかなかうまくいかないわけでございます。  最近アメリカでは、日本にたくさん情報を提供してやっている、その情報に見合った情報を日本が出さないようだと今後情報はやらぬかもしれぬよというふうなことも言われておるわけでございまして、いわゆるシンメトリカルアクセスの中には情報交流も入っていく。そこで私としては、やはり日本から発生する情報ぐらいはせめて我々の手でちゃんとデータベースの確保をして出す、あるいはさらに外国の情報も含めて我々独自のいいデータベースをつくって外国に情報を提供していくというようなことが必要なのではないかというふうに思いまして、私自身もこの二、三年間、学術情報センターということで、大学等の図書館の持っております膨大な図書や雑誌の活用を図るための目録情報システムをつくるとか、あるいは学問のために必要な二次情報データベースをつくるとか、さらには、そういうことを利用していただくための全国的なネットワークをつくるというようなことを一生懸命やってきてはおりますが、なかなか資金、人員等も、対応するアメリカのそういう機関に比べますと弱体でございます。  例えば図書の目録でも、アメリカにはOCLCというのとRLGと二つ大きなところがございますが、例えばOCLCをとってみますと、八百人ほどの人がおります。私のところは四十四人でございます。さらに、私どもの方はこれ以外にもやっておりますのが二次情報のデータベースをつくることでございますが、これは例えばケミカル・アブストラクト、化学関係のところでございますと、千人の人が働いております。私どもは先ほどの四十四人の人間が、図書館のこともやりながらこういうこともやるというふうな状況でございまして、自分のところを申し上げてまことに申しわけございませんが、全般的に申しまして、データベースに対する国家の投資というのは、一番最盛期アメリカが非常に頑張っておりました時期には、円にいたしますと年間千四百億ぐらいのお金をつぎ込んでおります。日本では全部合わせても五十億ぐらいでございます。現在やっと百億を超える状況になっているということであります。こういう面の投資を思い切ってしていただくことが非常に大事であります。  科学技術庁さんの下には特殊法人JICSTというのがございます。文部省の大学関係には私どもの組織がございますし、各省庁それぞれ組織を持っておられますが、お考えはいいのでしょうけれどもどれも非常に規模が小さい。予算も非常に限定されているというような状況でございます。シンメトリカルアクセスということでいろいろ言われておりますけれども人間の交流というのは、先ほど申しましたように奥さんの仕事まで見つけてやらなければなりませんので、なかなか大変なんでございますが、情報交流というのは、これは奥さんが来るわけじゃございませんので、人とお金を思い切ってつぎ込めば、比較的早くアメリカ側もやるよというようなことができるわけでございます。そういう面の投資もぜひよろしくお願いいたしたいと思います。  これと並行しまして、最近は知的所有権の保護という問題がございます。いわゆる科学技術情報の国際交流のための国際的なルールづくりというものがある。これは日本も基本的には賛成しているところでございますし、アメリカも非常にこの問題を推進しておる。特に、中にはいろいろ機微な問題も含まれておりますけれども、やはりこういうもののルールが確立しておりませんと、日米間と日欧間だけではなくて、日本とNICSとの間でも将来こういう問題は必ず起きてくる。そういう問題を一方では固めながら、情報の国際交流を推進していくということが大変必要ではないかと思います。  ちょうど時間でございますので、これをもちまして終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
  4. 原田昇左右

    ○原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、山下参考人にお願いいたします。
  5. 山下勇

    山下参考人 山下でございます。きょう私は三つポイントについてお話をして、最後にちょっと別のことも申し上げたいと思いますが、基本的には科学技術政策の問題、それに関連いたします問題について、政策的な面について主としてお話を申し上げたいと思うわけでございます。  まず、科学技術政策大綱というのが昨年できまして、それに従いまして基本的な我が国科学技術政策というものについては大きな方針が決められているわけでございます。その中で一つ大事なことは、科学技術政策そのものの研究の重要性という問題を指摘したいと思うわけでございます。従来は、科学技術の研究は行っておりましたけれども科学技術政策自身の研究という問題が行われてなかったんじゃないか。これはいろいろの科学技術政策というものを国として企画、立案していく上で、やはり理論的なあるいは実証的な根拠になるような裏づけを与えるものであると思います。  実は私、臨時行政改革推進審議会の科学技術政策委員会の主査を務めさせていただきまして、一昨年七月に答申を出したわけでございますが、その際の議論といたしましてし我が国全体を見回した科学技術政策を企画、立案していく機能を今後充実させていくことが非常に重要ではないかという指摘をしたわけでございます。そのために、答申の中では、先生方御存じのとおり、科学技術会議の中に政策委員会というものを設けてやっていく。それから、会議の政策分析機能の充実のためのシンクタンク的な組織の検討をやる。そういう組織の検討を初めとした科学技術会議自身の強化の問題、それから全体としての政策の総合調整機能の整序、活性化を図るための内部組織の再編成という提言をしたわけでございます。  こうした提言をいたしました時代認識というのが三つございまして、第一点は、今猪瀬先生からもお話がございましたように、欧米諸国から技術を導入してこれを改良改善するという追いつき型の発展であったものが、我が国としてはレベルが欧州の水準に達したことでもあり、これからはある意味で見習う手本がなくなってきて、自分でかじ取りを進めなければいけないという大きな転換期に来ているという一つの認識。  もう一つは、現実の事態として科学技術と経済、社会、人間との関係が非常に深まってまいりまして、日本の産業の中でも重厚長大産業中心から軽薄短小、いわゆるソフト化、情報化と言われるような産業中心に移ってきているというような時代認識、そして当然のこととして、情報技術だとかエレクトロニクス技術という先端の科学技術経済成長の中で相当大きな物を言うことになってきている。また、ライフサイエンスというふうな新しい科学の進展が医療とか農業、工業等の分野で幅広く役立つようになってきている。また一方では、遺伝子組みかえ等による人間の倫理の問題への影響が出てくるというように、科学技術と我々自身の生活のかかわり合いというものが非常に強くなってまいりまして、科学技術を適切に活用することの重要性ということの認識が非常に強くなってきている。  三番目は、御存じのSDI計画の問題とかあるいは欧州諸国におけるユーレカ計画の問題、また最近でいいますとレーガンが超電導開発計画を発表したというように、国際的な面における先端技術の取り上げの問題が非常に出てまいっているわけでございます。御存じのサミットからつながっております例の十八のプロジェクトに対する研究協力、あるいは宇宙ステーションの問題というようなことで、大規模な資金を要すると同時に、各国の持っている力を効率的に使ってやるという必要性が認識されてまいりまして、研究協力という問題も非常に数が多くなってきている。こういう中で我が国がどういうふうに国際的な協調を図りながら科学技術政策というものをはっきり進めていくかということが一つの問題になっている。  こういうような時代背景で科学技術政策を進めていかなければいけないわけですが、そこでどういうような勉強をしなければいけないのかということでございます。  まず第一番目に、政策研究として勉強しなければいけないことは、科学技術指標というものがまだ開発整備されていない。要するに、経済分野では国民総生産とか国民所得とかというような経済指標が整備されておりますが、また、それに基づいてある程度経済運営がされておりますが、科学技術について考えてみますと、例えば重要な問題になっている基礎的研究がどうだというようなこともいろいろ出ていますが、一体、基礎的研究というのは何なんだという問題になってまいりますと、もともとのデフィニションというものがわかっていない。研究者といいましても、どこまでが基礎の研究者であって、どこまでがいわゆる開発の研究者であるか、そういう一番大事なベーシックな指標という問題が整備されていない。例えば総務庁がやっております科学技術研究調査報告で一部数字が出ていますが、しかし、材料分野のこういうところで幾人人がいるのか、ライフサイエンスでどういうふうになっているかという個別分野になりますと、そういうベーシックデータというものがないわけでございます。したがって、科学技術全体の活動が体系的にわかるものがないわけでございまして、また、同じ研究者といいましても、アメリカで言われている研究者のレベルと日本で言われている研究者のレベルとレベルが違う。したがって、アメリカに何人いて日本に何人いるという数字を比較しましても、その数字は現実の問題としてそういう比較の意味があるかどうか。先ほど先生のお話にもありましたけれども、例えば大学において研究者の養成をしていくというような段階の中でも、そのレベルの問題が違ってくると国際的な話し合いができない。あるいは交換をするというようなことをやるにしましても、やはりレベルの問題が違ってくる。結局、そういった一番政策を立てる段階での基礎的データ、民間会社で基礎研究に幾らお金使っているというような話がございましても、その基礎研究というのは一体本当基礎研究なのかどうかもわからないというようなことで、先ほど技術的なデータベースのお話がございましたけれども、そういった政策をやっていくためのデータベースというものができていない。  それから、第二番目といたしましては、今度は科学技術の経済社会に対する影響という問題が出てくるわけであります。産業においては、例えば投資効果分析というような問題があって、産業連関表がつくられまして、結局、鉄鋼業にどれだけ投資すればどのくらいの波及効果があるというような、そういう一つ投資効果というものについてのインパクトというものが、経済的な推定ができるようなシステムというものがあるわけですが、研究開発については、ある投資が具体的にどれだけの需要創出効果を出すかというようなことは大変難しいことですけれども、そういうことによって、例えば政策を決めていく段階の中で、どういうような需要創出効果があり、またどれくらいの経済成長が見込まれるのかということは、非常に難しい問題でありますけれども、これがこれからの我が国の政策決定の段階の中では非常に重要な問題で、これは技術屋はかりじゃなくて、人文科学、経済の方たちも協力して、そういうシステムをつくり上げていかなければいけないんじゃないだろうか。要するに、政策決定のための一つの重要な研究の第二のポイント。  第三番目は国際対応でございまして、これも国際比較をやっていろんなことをやるわけでございますが、どういうふうに外国との間の人間的な交流をやるかという問題、それにつきましてもやはり相当のデータベースが要る。日本として科学技術政策を立案する、その前提となる政策の分析機能の充実のためのシンクタンクというような組織をつくったらいい。私が主査をした行革審における答申で、政策分析機能の充実のためのシンクタンク的組織をつくれという委員会の最終的なあれが出たわけでございますが、その意味はそういうことでございまして、現在どうしてもこういった科学技術政策研究という問題が大事になってきているんじゃないか、そういう一つのシンクタンク的なものを活用して、そして科学技術政策を立案、決定していく参考にする必要があるということがきょうお話し申し上げたい第一のポイントでございます。この点につきましては、現在科学技術庁の方で具体的な構想を何か進められているというふうに聞いておりますけれども、私としてはぜひそういう方向で進めていただきたいというふうに考えておるわけでございます。  第二のポイントは、先端科学技術の開発推進の進め方の基本的な考え方でございまして、どういうふうな形でこの研究が進めていかれるかという形を、先般研究交流促進法というような形ができて進められるようになり、先ほど大学の問題につきましても猪瀬さんからもお話がございました。基本的な方向としては、日本の研究というものが基礎的研究の方にオリエンテーションが向いていかなければいけないという基本認識については、今や我々は議論の余地がないのじゃないかと思います。  ただ、その段階の中で、今も御説明がありましたようないろいろな研究交流をやっていくための問題点がまだ大分残っております。これをやはり一つ一つ詰めていかなければいけないんじゃないかというふうに考えておりまして、その点について積極的な研究交流促進法をベースとした国際交流という問題が行われつつ基礎的研究が進められることを期待するわけでございます。  ただ、一つここで申し上げておきたいのは、研究開発基盤の問題でございまして、先ほどお話のありました技術情報というような大事な研究基盤の問題もございます。同時に、研究をバックアップするためのいろいろな設備あるいは機器という、いわゆる研究開発の道具立てでございますが、これらの点につきましてやはり日本は特段の努力をしなければいけない段階に来ているんじゃないか。  まことに卑近な例を申し上げて申しわけありませんが、私の息子が医者でがんの研究をやっておりますが、東京の大学におりまして使っておりましたネズミが、アメリカに参りましてボストンのゼネラルホスピタルヘ行きましてネズミを使わしてもらったら、恐らく日本大学にいたら一生かかって使わしてもらうだけのネズミを一年間に使うことができて、成果を上げて帰ってきてPh.D.をもらったわけでございますが、そういう研究をやるための基盤というのは日本アメリカとではけた違いなものがあるんじゃないか。  その点がやはり非常に問題でございまして、後ほど申し上げます国立研究所の問題につきましても、表面上の研究者であるとかそれに対するものは順次整備されてきておりますが、逆に言いますと、研究のサポーターであるとかいうものは、むしろ予算的に言ってどんどん減ってきている。幾ら優秀な研究者がいても、それをサポートする設備あるいはそれを補佐するサポーターというものが十分でなければ、幾らすばらしい能力のある研究者でも、実質的な、効果的な研究というのはできないわけでございます。とかくその点が日本ではおくれてきている。いわゆるサポーティングの設備というものをやらなければいけないという議論は何回も何回も出るわけでございますけれども、インター・ミストリーな各省庁にわたる問題が多いものでございますので、この問題は日本としてどうしてもおくれがちになってくるということでございます。この研究開発基盤の整備という問題は、日本として今一番大きな基礎研究のテーマであるということでございまして、これをどういうふうに組み立てていくか、それには前のデータベースというものがあって、こんな貧弱なものでございますということを政策研究の段階で皆さんに知っていただくということが前提になってまいりまして、そういう政策を決定する前の段階の、データベースというものを外国と比較してみて、こんなに貧弱である、ここを整備しなければいけないということがはっきりわかるんではないかということで、前のいわゆる政策研究という問題が重要度の第一だというふうに私は見ておるわけでございます。  第三番目に申し上げたいのは、国立試験研究機関の活性化の問題でございまして、本件に関しましては科学技術会議で第十二号諮問が出ておりまして、私が主査として、国立試験研究機関の活性化について勉強してきているわけでございます。国立試験研究機関が全体として日本の研究の中で果たしている役割という問題、これについてはいろいろな御批判もあると思います。現実の問題として、この試験研究機関のあり方について評議員会で議論した段階の中では、随分極端な議論もございまして、もっとオープンな、いわゆる国の試験研究機関というところから飛び出してやらなければだめだというような御意見の方もございました。しかし、基本的には国立試験研究機関というものは存在の理由がある。要するに、行政のニーズに対応して、公益的見地から国立試験研究機関の存在というものは現在においてもまだ有用であり、また有効に活用していかなければいけないというふうな基本的な考え方に立ちまして、そこで活性化の問題をいろいろ議論したわけでございます。やはり先ほど来猪瀬先生からもお話がございました、国際的な情勢の中から見て、次の二つの点が国立試験研究機関に求められているんではないか。  第一点としては、どうしても国立試験研究機関は世界の研究をリードするようになってもらいたい。先ほど来お話がありますうに、キャッチアップの時代ではない。だから、どうしても我が国科学技術を発展させるもとになると同時に、国際的にも貢献するような研究推進をし、そして次の時代のフロンティアを開いていくというような、そういう推進が大事だ。基本的には、行政官庁にそれぞれに属しているために、行政のニーズという問題が先行する形にどうしてもなるわけでございますけれども、それを超えて、今の段階では、国立試験研究機関はそういう国際的にも貢献するような、次代の科学技術のフロンティアを開くような仕事をするということが大事じゃないか。  第二のポイントは、民間の方の研究開発能力が非常に上がってきているわけでございますから、国立試験研究機関は従来ともすれば行政のニーズに基づいてやってきている、そういう形はよほど考えないといけないのじゃないか。民間に任せられるものは民間に任せて、民間に期待しがたいものを国立機関がやるということに基本的な方向が変わっていくべきではないだろうか。そして、民間に任せた余力というものを挙げて基礎的、先導的な強化に回すというような基本的な考え方がいいんじゃないかなというふうに我々は見たわけでございます。  そういった従来の各省の行政上のニーズに基づく役割というものがあるわけでございますから、それが今言ったような形の中で移っていく段階の中では、当然のこととして役割なり業務内容なりが変わるわけでございますから、組織を見直すということも忘れてはならないということで、組織の見直しが必要になってくる。  そういう形の中で、組織あるいは役割を適正にした上で今後どうするかということになりますと、第一番に、個々の国立試験研究機関というものが省庁の枠を超えたような研究をすべきであるという、いわゆる基礎的、先導的な研究にシフトするということ。そういう点になりますと、研究者自身を積極的に交流をさすべきであるという点が出てまいります。この辺のところになりますと、臨調でやりました、結局、全体としての公務員の人事政策という問題も一応議論の中には出てまいりました。研究公務員というもののあり方教育公務員との関連、さらには一般公務員との関連というような問題も当然出てまいりました。この辺のところにおける流動性という問題も、研究交流促進法の中である程度の重要性は認められてまいっておりまして、民間との交流等についてもできるような形が漸次出てまいりましたけれども、基本的に研究公務員のあり方という問題につきましては、やはり国の人事政策の上で非常に重要なポイントとして依然残っているということは指摘しておきたいと思います。  第二のポイントは、国際的に開かれたものにするという点からいいまして、外国人を積極的に自立試験研究機関に受け入れようということが当然のこととなります。同時に、海外との共同研究を推進するというようなことも重要になっておるわけでございます。これは、行政のニーズに基づく試験研究から、よりベーシックな、基礎的な、先導的な国際的に通用する研究をするという段階になってくれば当然こういった外国人が入ってくるということ、さらには海外との共同研究を推進するということが日常的な問題になってくるということが第二のポイントでございます。  第三番目は、先ほどもちょっと触れましたが、人の問題でございまして、これは優秀な研究者を得るということ、特に研究所長というような、有能な管理者を得るということが非常に重要なポイントでございます。これも、先ほど大学の例でございましたけれども、国内で広く人材を求めるということと同時に、やはり海外の人材にも来てもらえるということが大事でございます。  もう一つは、現在の国立研究所の全体としての研究者の老齢化の問題でございまして、現在のところ、国立研究所の研究者の平均年齢は四十三歳だったと思います。研究者というのは年だけで言えることではございませんけれども、一般の常識からいいまして、研究者の平均年齢が四十三歳であるというのは、これは明らかに高齢化と言わざるを得ないわけであります。それに先ほど申し上げました研究補助者という問題を含めて考えてみますと、我が国の研究体制は、人の面でも一つの危機状態が近づきつつあるとあえて私は申し上げておきたいと思います。どういうふうにして若手の研究者を確保するかということが一つの大きな問題であると同時に、かつて有能であったそうした研究者をどういうふうに処遇するかということも一つの重要なポイントになってくるんじゃないだろうか。それ以外にマネージメントあるいは評価等の問題がございまして、国立研究機関というものを活性化し、そして新しい面から存在の理由を求めていくという非常に重要な時期に来ているんではないかというふうに私は考えておりまして、先生方にこの問題についての格別な御関心をお願いしたいわけでございます。  研究開発の方の問題につきましては、今の政策の問題と国立研究所の問題、それからもう一つは、どういうふうにして政策を具体化するかという問題でございましたが、実は私、昨年の一月に、日本人として初めてスイスのジュネーブにございますISO、国際標準化機構の第十四代会長に就任いたしました。三年間の任期で会長をやっているわけでございます。このISOというのは、一九四七年に発足いたしまして、現在九十カ国の標準化機関が加盟しておりまして、日本も常任理事国であると同時に、標準化協会というのが加盟メンバーになっているわけでございます。いわゆるJISがこの加盟団体になっている。これは国際機構でございますけれども、そういった加盟団体はそれぞれの国の標準を取り扱っております機構でございまして、ドイツで言えばDIN、アメリカで言えばANSIというような、それぞれの規格協会が加入メンバーになっているわけでございます。専門委員会の数が現在百六十五動いておりまして、現在ございます規格の数が六千四百でございます。先般来、スキーの規格の問題で初めて新聞にISOというのが出てまいったわけでございます。  ISOはそういったような国際団体でございますが、規約によりますと、ISOの目的は、財やサービスの国際貿易を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的な活動分野において国際間の協力を助長するために、世界的に規格の審議制定の促進を図ることということになっているわけでございます。したがいまして、品質や性能を評価する物差しを各係国共通のものとすることによりまして、貿易上のいわゆるノンタリフバリア、非関税障壁を低減させ、自由な国際貿易をより一層促進し、グローバルマーケットを育成していくことが国際規格の役割であって、貿易と国際規格とが国際のフレームの中で車の両輪のごとく協調し合っていくということが目的である。それによって世界経済の健全な発展が図れるということで、日本も加盟しておるわけでございます。  こういった標準化が我々日常生活の中でISOでもってどんなものがあるかという例が、一番はっきりしているのが心臓に入っておりますペースメーカーでございます。心臓に入っておりますペースメーカーは、ISOの基準でございますから、どこの国へおいでになってペースメーカーが故障を起こしても、間違いなく国際共通になっております。骨をつなぎますネジが全部、人工関節が全部規格になっております。そういうものから始まりまして、現在は、一番大事なコンピューターの相互接続のところまで話が来ているわけでございます。  ISOというのは、こういったこれまでの技術を国際的に普及する、要するに標準でございますから、ある技術というものが進歩していく、その国際的に進歩していく段階の中で、ある一定のレベル以下のものを排除して、ある一定のレベル以上に技術水準を上げていくという効果が一つあるわけでございます。これは非常に重要な効果があるわけでございますが、一方で言いますと、それをつくることによってそれ以上技術進歩にストップをかけるという問題があるわけでございまして、その辺が標準化運動というものに対して絶えず加えられております一つの批判でございます。しかし、今非常に大事になってまいりましたのは、新しい技術が出てまいりまして、それに対する測定方法の標準化というような問題が非常に大きなテーマになってきているわけでございます。  もう一つは、先ほどちょっと触れましたが、情報化社会の基盤になります異種コンピューターの接続を公開されたインターフェースでもって自由にできるようにするというシステム、いわゆるOSIと称しておりますが、開放型システム間相互接続というものの標準化、あるいは最近は超電導材料とか光ファイバー、高性能のプラスチックスあるいは新しい合金、こういったような新しい素材の試験、評価方法の標準化というのが今非常に大きなポイントになってきているわけでございます。  さて、日本でございますが、百六十四ある専門委員会の中で、幹事国を引き受けているのはたった三つしかございません。二%しかやっておりません。その二%というのは鉄と造船でございます。この百六十四あります委員会の中で、一番今日本でおくれてしまったと言われる鉄と造船の専門委員会だけが、日本が幹事国を引き受けている。新しい分野では日本は全然幹事国はやってない。いわゆるGNPの一割であるとか、先ほど来も申し上げているような科学技術、先端的分野における国際的貢献というようなことを申しておりましても、こうした新しい分野、先ほど申し上げましたような例えばOSIであるとか情報関係であるとか、あるいは新材料分野におけるいろいろな新しい測定方式というものを決めていく、そういう技術委員会の専門委員会の幹事を日本が積極的に引き受けるという状態でないと、実は一方でいろいろなことを言いながら、こういう団体の中で日本の姿勢が問われているわけでございます。  また一方、アジア諸国でございますが、御存じのとおり、戦後日本がJISを伸ばしていきまして、近隣諸国に日本のJISを広げていくことによって発展途上国の工業の水準を上げたということは間違いないことだと思いますが、現在例えばお隣の中国へ参りますと、私はISOの会長として二回ばかり中国へ行ってまいりましたが、中国ではもういきなりISOの規格をそのまま使おう、要するに中国はいろいろな国から物を買いますから、JISであるとかソビエト規格であるとかアメリカの規格であるとかいうことではやり切れないというので、あの国には一万五千規格がございますが、その半分を急速にISO化するということを言っておるわけでございます。近所の国々もやはりそういう意味でJISという段階を飛び越えてISOの国際規格という形の中に進みつつあります。  そういう意味で、日本でも近隣諸国における標準化に対しては努力をして、センターをつくってあげるとか、あるいは研修生の受け入れをやるとかいうようなことを現実に進めているわけでありますが、ドイツのDINは中国に参りまして、中国も現在ISOでやることになっておりますけれども、印刷から配付から新しくつくり上げていくシステムは全部DINのシステムを入れることに決定しているわけであります。  こういう意味で、標準化という問題について相当これから日本が努力をして国際的な貢献をしていかなければいけないし、特に最近になりますと、ECの内部における標準化というのは非常に強い運動になってまいりました。御存じのとおり、標準化の運動というものはもともとドイツのDIN、フランス、イギリスの三つの国がヨーロッパで強力に進めているわけでございますが、これがECという形の中で標準を一本にしようという運動が最近非常に強くなってきております。そういう面から見まして、この標準化運動というものに対して、特にアジア地域における標準化という問題について我々は非常に大きな責任を持っているのではないだろうか。よほど気をつけないと日本は標準化運動の中からはみ出されてくる可能性があるのではないかということを恐れているわけでございます。  標準化運動に対する協力というものは、従来比較的貿易とか経済協力とかいう形の外に外れていたのではないか。そういう意味で、科学技術協力の一つの分野としてこの問題について積極的な努力が行われることを期待したいわけでございますが、何分私はISOの会長でございますので、ちょっと特定の国に対して申し上げるのはまずいわけでございますが、そういうことを参考として申し上げて、私のお話を終わりたいと思います。(拍手)
  6. 原田昇左右

    ○原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、堤参考人にお願いいたします。
  7. 堤佳辰

    ○堤参考人 堤でございます。四月まで三十七年間日本経済新聞におりまして、五月から日経事業出版の編集委員をしております。その間一貫して科学技術報道、論評に携わってまいりましたけれども、国政の第一線で科学技術政策の形成と意思決定に当たっておられる先生方に直接お話を申し上げる機会は初めてでございます。大変緊張し、また、光栄に存じております。  お手元にお配りしました資料は、私が論説委員のころ、ことしの四月と一月に書いた社説でございます。私がきょうお話し申し上げようと考えているのは三つございますが、その一つとして日米に代表される技術摩擦、これは今日かなり激しいものでありますけれども、まだ序の口でありまして、このまま放置しますともっともっと全面的に深刻、激しくなるのではないか、そういう感触を持っておりますのでこれを最初に取り上げさせていただきました。  確かに、ハイテクをめぐる日米両国間の技術摩擦というものは日増しに深刻になっております。例の超LSIなど半導体につきましては、先般のサミットで部分解除ということになったわけでありますけれども、そのほかスーパーコンピューターとか光通信、バイオテクノロジー、新素材、産業用ロボット、それに最近フィーバーになっております超電導、そういった先端技術で全面的に日米の衝突が起こりかねないという状態になっております。そういう意味では事態は非常に重大でありまして、この点、科学技術政策の面で日米あるいは日欧への波及は必至であります。そういった国際摩擦にどう対処するかということが今後皆様方の非常に大切な課題になってくるであろうと考えております。確かにアメリカの官民の反応というものは過剰反応のように見えるわけでありますが、これはもう単純な国家威信の段階を通り過ぎて、ヘゲモニーというものが問題になっております。  これは参考までに申し上げますと、ことしの四月に外務省が発表したアメリカにおける対日世論調査というのがございます。これはことしの一月、有名な世論調査機関であるギャラップ社に委託して調べたものでございますけれども、一般の部と有識者の部に分かれておりまして、調査項目でいいますと、中を見るとかなり深刻になっております。一般国民の世論でありますけれども日本は米国にとって果たして信頼できる友邦国がという問いに対して、信頼できると答えた者は五四%、半分でありまして、信頼できないというふうに答えた者は二四%、もはや米国民の四人に一人は、日本はもう信頼できないという印象を持っているわけであります。  それと今度は有識者の部でありますけれども、アジア・太平洋地域の将来の発展と安定にとり、アメリカにとって最も重要な国はどこかという問いに対して、有識者の答えは、中国と答えた者が四一%、日本と答えた者は四一%と同じウエートに立っております。また同じく有識者でありますが、日本は将来核を保有するかという問いに対して、四六%が保有すると答えています。保有すると思わないという者が三六%、もはや少数派になっているわけです。それと同じように、日本の経済大国としての台頭は米国にとり利益か脅威かという問いに対して、有識者は利益であると答えた者が五二%、辛うじて半ばでありますが、脅威であると答えた者が三七%、五対四、あとの一は不明ということですが、そういうところまで日本の脅威というものを身近に感じているわけです。  特にその中で、日本の先端技術、ハイテクは、同じ分野における米国の指導的地位に対して深刻な挑戦であると思うかという問いに対しては、有識者七五%がそう思うと答えている。思わないと答えている者は二〇%にすぎない。これはたまたまそういう事例を報告したわけでありますけれども、一般的な印象でそうなっておるわけでありますから、個々の分野では今後ますます深刻になってくるであろう。今日の時点ではまだまだ誤解に基づく点が多いわけでありまして、本当日本の実力というものを十分に理解した暁には、誤解の部分はなくなって正解の部分だけが残る、そうするともはや言いわけはきかない、そういうゆゆしい事態に至りかねない。今のままで何もしない、今のようなやり方を続けていけば、早晩そういうことが起こらざるを得ないであろう。  この理由としましては、日本は近代国家として登場して以来貿易立国、それからまたその一環としての技術立国、これを国是、スローガンとしてまいりました。世界五十位の小国土に一億二千万の巨大人口を抱えて、エネルギーも原材料もないない尽くし、資源もないない尽くし、そういう国情では当然であったわけでありますけれども戦前のように規模の小さいうちでも国際摩擦で戦争に追い込まれたわけであります。戦前は英国をお手本に、戦後は米国をお手本にして世界の工場を指向し、追いつき追い越せというふうに国際競争力の強化と自主技術培養に努力してきたわけであります。その努力が見事に成功したために今日の問題が新たな課題として起きてきた。  太平洋戦争が起きたころ、日本のGNP、国民総生産は米国の十一分の一でありました。十一分の一でアメリカと英国とその他の国々を相手に回したのですから大変なばくちを打ったわけで、もちろん破産、敗戦を迎えたわけであります。今日はもはや米国の半ばを超える経済規模になっている。これは記録に残るのは都合が悪いのでありますけれども、私の家内にそれを話しましたら、今なら多少勝ち目があったかもと大変物騒なことを申しております。もちろん経済力と軍事力は大変な違いがありますから、日本の軍事力はとても及びませんけれども日本の経済力、それから技術力、これが非常に大きくなってきたという事実を忘れますと、この問題はなかなか解決が難しい。  それから、経済的な面を参考までに申し上げますと、日本は今GNPが三百兆を超えております。八五年に三百兆を初めて超えたわけであります、その後もふえ続けております。三百兆というものをドル換算しますと一兆数千億になります。八五年でも既に一兆三千五百億ドルになっておるわけでありますけれども、米国はそのときに四兆ドル近かったわけでありますけれども、今の百四十円前後の為替相場で換算しますと、日本の今日の経済規模はアメリカの六割から七割くらいの大きさになってしまいます、これは計算上の結果ではありますけれども。人口は一億二千一百万人、アメリカの二億三千七百万人の半分でありますが、一方、GNPは国民一人当たりではもはやアメリカを抜きます、世界一の水準になるわけであります。そして、実際に貿易収支の面では日本が大変な黒字を出しまして、アメリカが事あるごとに文句を言うという状態になっております。  その日本が相変わらず倍の生産高を上げて、内需の二倍量産して、半分をアメリカ及びヨーロッパに輸出しておるといたしますと、これはヨーロッパにしましてもアメリカにしましてももう悲鳴を上げるのは当然です。今のようなやり方が無限持続するという考え方は、もうアメリカにしましてもヨーロッパにしましてもとても受け入れられない。したがって、日本は今までのようなやり方を早晩変えざるを得ない。もう既に天井にぶつかっているという事態であります。  これは同じように技術面で申しますと、日本は今や米ソ両超大国とのみ肩を並べる世界有数、第三の研究大国であります。英国、フランス、西独、イタリアなど西欧諸国は、もう単独では絶対に日本に研究投資の面ではかなわない。EC諸国が束になってやっと対抗し得る程度の規模でありまして、これはお金と物と人、この入力、インプットを比べた場合には、もう日本は単独で本当に米ソに拮抗し得る実力を身につけている。これは一つは軍事的な負担が少ない、民生に全力投球しているということもございますが、具体的な数字としましては、一番新しいのは昭和六十一年の科学技術研究調査で、これは昨年の末に総務庁の統計局が発表した数字であります。六十年度の日本の研究投資総額は、この数字ですと八兆八千九百三億円になっております。これは自然科学ばかりでなくて、社会科学の分が八・七%入っておりますが、前年度に比べた年間の伸び率は一二・六%、実質でも一一・〇%、経済成長率は実質四%前後でありますから、その三倍ぐらいの伸び率であります。この伸び率で計算しますと、恐らく六十一年の数字は十兆円を突破したはずであります。日本は年間十兆円の研究投資を今行っていることになります。  アメリカが今もちろん世界一なわけでありますけれども、八五年で千八十八億ドル、八六年で千百八十六億ドル、これはもし今の一ドル百四十円台の為替レートで計算しますと十六兆円前後。日本は十兆円研究投資をしている。しかも軍事負担がはるかに少ないことになりますと、これはやはり相当な脅威として受け取るのは当然であろうと思います。ソ連は八四年に既に日本に追い越されております。あれだけの軍事力を抱え、軍事優先であります。そういったことをやっておるわけであります。もはや研究投資では日本より少ない。西独は日本の半分以下の研究投資であります。フランスは日本の三分の一です。英国もやはり三分の一。  そうして、GNPに占める日本の研究投資の比率、これは科学技術会議が目標を掲げましてどんどん上げろということで努力してこられましたけれども、今や見事に成功しまして、八五年に二・七七%の史上最高記録になりました。同じ年のアメリカは二・七二%でありましたから、GNPに対する研究投資の比率でももはやアメリカを抜いたわけであります。  研究人口、マンパワーの方で比較いたしますと、昨年の四月一日現在で研究関係の従事者総数、これは国、公、民間全部含めて七十九万五千九百人、これだけの人が、ざっと八十万人が研究開発に従事しておるわけであります。これはもう一つの産業部門と言ってもよいくらいであります。補助者とか技能者、事務関係を除きました研究専任研究者だけでも五十一万人日本におる。六十一年版の科学技術白書で自然科学部門だけで各国との国際比較をしますと、ソ連が一番多くて百四十六万四千人、日本のざっと四倍近いわけでありますけれどもアメリカでも日本の二倍ぐらい。ただし、人口はソ連、アメリカ日本の二倍以上であります。要するに研究の負担が大きい。  アメリカは、金額におきましては、八五年で二六%、四分の一は国防研究費であるというふうに言われております。そうすると、民生中心に全力投球できる日本よりは今でも非常に大きなハンディキャップがある。そして、この形で行きますと、どんどんこの格差は広がってきます。そういう見通してあります。  具体例を挙げましても、半導体六四Kと申しますけれども、そのDRAMメモリーで、世界の六割のシェアであります。次の二五六Kでは世界の九割のシェアを占めております、どんどん値下がりしまして、今や一メガはほとんど量産に入っております。四メガも生産に入りました。一六メガの開発も進んでいる。次から次へと日本はもう先へ先へと進んでまいります。NC工作機械でも、日本の高い輸出シェアというものが西欧諸国で問題になっております。  自由競争というものは、すぐれたものが勝ち、劣ったものが負ける、弱肉強食ということでありますが、自由競争を主張するのは強者の論理であります。日本は今や強者の立場になりましたので、自由競争が一番よいわけでありますけれども、これはもう追い越される側、それから負ける側にとっては大変な苦痛を伴う。こういう点で考えますと、日本は袋だたき、ジャパンバッシッングだと言っておるわけでありますけれどもアメリカやヨーロッパの方は殴り込みだというふうに受け取らざるを得ない。この彼我のすれ違い、これはもう根本原因はここにあるわけでありまして、お互いに感情的な対立とか理解の不足というものがありますけれども、こういった誤解が完全に解けてしまって、お互いに実態だけを見た場合には、これはもうどうにもできない、幾ら言いわけしても相手が説得されない、説得不能な摩擦が正解として厳然として残るのじゃないか。現象の背後にはやはり実態があるわけであります。その核心をやはり洞察して、対策を考えるということがここにおいでの皆様方の科学技術政策のこれからの大事な課題になるのであろうと思います。  日米技術戦争、全面激突というものは、これは何としても回避せねばなりません。そうはいいましても、ハイテクというものは次世代の日本の生き残る道、経済と産業のニューフロンティアを開くかぎでありますから、技術開発を譲ったり怠ったりというわけにはいかない。ひたすらに一本道をしゃにむに前進しますと、全面衝突という危機が控えております。技術開発、研究投資というものは経済と産業に先行するものでありますから、その先行している時点でやはり流れを変えていくという努力が必要になってくるだろうと思います。  これまで科学技術政策というものは、いわば日本にとりましては経済政策、産業政策のサブシステムというふうにとらえられておりました。まず経済政策、産業政策の方がより重要だというふうに考えられておりましたけれども、今では科学技術政策というものを、これは先手、先行投資でありますから、これを変えていかないと、経済摩擦、貿易摩擦というものは変わらないという事態になりました。その意味では、今までの日本科学技術政策は余りにも成功し過ぎた。しかも、そのやり方を見ておりますと、一般におきまして民間主導型であるということは、かなり自由放任に近いわけであります。レッセフェール、それで大変うまく調和がとれて成功してきたわけでありますけれども、これからは手放し運転ですとますます国際摩擦は激しくなるだろう。これをどのように誘導していくか。先手をとって、未来を洞察しながら進めていく、こういったことが必要になる時期であろうと思います。  といいますのは、かつてサミット、例のフランスのミッテラン大統領が、ハイテク先端技術で国際協力をしようということを提唱いたしました。それで、各国から専門家が出まして、プロジェクトを選んで協力テーマを選んだわけですけれども、このとき二十二のテーマが選ばれました。そして、その二十二のテーマにそれぞれ主幹事国と副幹事国を決めようということになりました。このとき日本がそのテーマを調べてみましたら、そのうち十九ぐらいはどうしても日本が主幹事国か副幹事国にならざるを得ない。残りの三つも実際は関係があったわけでありますけれども、余りに多過ぎる、それと、日本にとっては余り好ましいテーマではなかったので辞退したということであります。そういった例から見ましても、日本はハイテクに全面的に突入し、官民総力を挙げて全力投球している。  一口にハイテクといいますが、私は便宜上、その中身を五グループぐらいに分けております。  その第一のグループは、エネルギー関係のハイテクであります。核融合とか高速増殖炉、それから、チェルノブイリの事故が起きまして問題になりました超安全炉、固有安全炉、あとは太陽電池、燃料電池、石炭の液化・ガス化、こういったものが挙げられると思います。  それから第二の分野は、主にマテリアル、材料関係の分野であります。高次にはデバイスと言われる素子も入るわけでありますけれども、いわゆる超LSI、それから光ファイバー、レーザー、超合金、ニューガラス、ファインセラミックス、ファインケミカルズ、こういったグループがございます。  それから第三のグループは、プロセス関係のハイテクでありまして、これはバイオテクノロジーの分野のバイオリアクターとか産業用ロボット、こういったものがございます。  それから第四のグループは、情報通信、インフォメーションとコミュニケーションの分野でありますが、光通信であるとか宇宙通信、第五世代のコンピューター、光コンピューター、バイオチップ、人工知能、ニューメディア、こういったようなものがあります。  それから第五の分野は、トランスポートが主であります。輸送の関係であります。リニアモーターカー、SST(超音速旅客機)VSTOL(垂直短距離離着陸機)、宇宙往還機、こういったものがございます。  この五グループで日本がやっていないものはほとんどない。今までSSTとスペースシャトルぐらいだったのですけれども、スペースシャトルも最近、日本の文部省の宇宙科学研究所科学技術庁の宇宙開発事業団の方でも、有人シャトル計画、これらの研究がそろそろ始められております。  そして、この五グループのほかに、最近は超電導、これは今までのグループ分けではとてもくくれない、ニューフェースであります。それで、この超電導につきましても、先月末、ワシントンで米政府が主催して開きました超電導の会議では、日本はもちろん外国の研究者を一切締め出して、レーガン大統領は日本を名指しで、米国がこの分野でおくれをとってはならないと強調したということがあります。  こういった事例がますますふえることになるだろうと思います。が、その点では、ハイテクの研究開発そのもので日本は攻める立場でありますけれども、政治外交的にはこれからは守る立場にならざるを得ない、専守防衛、守る一方ではだんだん不利になるわけでありますから、科学技術政策の面でもパブリックリレーションズあるいはガバメントリレーションズ、こういったものが不可欠な時期にかかっております。いつも後手後手に回って終始言いわけに追われるのではなくて、先手を打って十分に事前説明し、疑心暗鬼の誤解を解いて未然防止する。フェアプレーの反対はファールプレーになります。日本では、アンフェアと言われても日本人はそれほど感じないわけでありますけれども、ファールプレーというのは不正行為、卑劣行為というような意味でありますから、アンフェアという非難は、日本人一般が予想している以上に強い非難の話感であります。  そういった意味で、これからこの対策を考えていく場合には、やはり科学技術政策の面でこの摩擦解消ということを正面に据えていかなければならないわけであります。このためには恐らく、国際協力、共同開発、何でも自分で単独でやるというやり方は次第に通用しにくくなってくるであろう、それは摩擦を拡大するばかりということになるのではないかと思います。  それともう一つやり方としましては、これだけ日本が全力投球して大きなプラスを生みつつある、将来への投資であるハイテクの研究開発、これを輸出増強ばかりに向けるのではなくて、やはり内需拡大の方に使っていく、こういった努力をしなければならない。ただこの場合、ハイテクを内需に用いようとしますと、これは国内にも摩擦が起こらざるを得ないわけであります。といいますのは、ハイテクには幾つかの問題点があるわけでありまして、確かにハイテクは巨大市場を生む可能性があるわけでありますけれども、民間の研究では、恐らく将来GNPに占める比率で一〇%、金額で百二十兆円になるだろうという予想がありましたが、その後、通産省の二十一世紀ビジョンの方は、二〇〇〇年で二百三十兆円の市場を生むであろうという予測があります。  大変大きな夢を持っているわけでありますけれども、ここで問題になりますのは、新製品というものは必ず在来製品を圧迫し、それを代替するという形で生まれてくるわけであります。過去の新技術はみんなそうでありまして、絹に対するナイロン、石炭に対する石油あるいは石油に対する原子力、技術革新というものは必ず他分野へ、既存の産業分野へ大きなインパクトを与えざるを得ない。特にハイテクの場合には鋭いインパクトを与えるわけであります。といいますのは、ハイテクは、これまでの原子力、宇宙、海洋、こういうビッグサイエンス、ビッグテクノロジーと違いまして、非常に基本的な、基礎的な分野であるという意味では、どの産業分野にも入っていく。それゆえにハイテクは重要なわけでありますけれども、代替能力、ほかのものを置きかえる、圧迫するというインパクトも非常に強いということは言えるわけでございます。  それともう一つは、ハイテクの場合は原材料の量が非常に少ない。例えば一メガビットの超LSI、これは二百二十五万個の真空管やトランジスタを代替するわけであります。それが量産される。光ファイバーは髪の毛より細い一本のガラス繊維でありますけれども、これで電話一千回線を送れるということは、今までの銅金属の電話線ですと二千本を代替するということになるわけであります。通信衛星をアメリカから買え、買えという圧力があって、これは実際に買うわけでありますけれども、今のものは一個で大体四万回線ぐらい電話の代替になる。これは間もなく十万回線ぐらいになるだろうと言われている。このように、非常にハイテクは既存産業に対して代替能力を持っているということであります。  それともう一つ、ハイテクは雇用がふえないという面を持っております。具体的に雇用を減らすものがございます。産業用ロボット、これは実際に雇用を代替するわけであります。オフィスオートメーション、これもサービス面での雇用を代替し、減らす可能性が出てくる。それともう一つは、プロセスが変わる。ハイテクでは、プロセスが変わりますと雇用というものは減ってまいります。トランジスタをつくるときには手先の器用な日本の雇用というものが非常に大きな役割を果たしたわけでありますけれども、超LSIになりますと、数ミリ角のチップに二百万個近い素子を詰め込む、そしてサブミクロン、千分の一ミリよりももっと小さい幅で線を引くということは、そこに日本人の手の器用さも、米粒に字を書くような腕前でももう通用いたしませんから、完全にこれは機械、コンピューターで管理しました設計管理、完全な自動化、機械化になります。それからもう一つ、超LSIとかこういった分野では、かなり有害なガスを使うということであります。それからまたクリーンな工程が要求される、湿気とかごみのもとである人間はいない方がよいということで、やはりこれは無人化ということになります。それからバイオテクノロジーの分野でも、雑菌が入りますと有用物質の増殖というものがだめになるということで、人間がだんだんいなくなる。光ファイバーの場合ももともと手作業ではやれないということで、生産の現場からだんだん人間が消えていくということになります。  日本は若年労働力が恒常的に不足し、そして産業規模がどんどん大きくなっている。これは日本のような人口構造または産業構造では今までは適していたわけでありますけれども、先行き大きな問題が出てくるであろう。ヨーロッパは既に一割を超える失業率でありまして、アメリカもこの間九%ぐらい。そうすると、日本にとりましても、これから高齢化社会というものを迎えていくわけでありますから、ハイテクが雇用面に及ぼす影響というものをこれから十分に考えていかなければならないだろう。内需にハイテクを使うことはこれから不可欠の課題でありますけれども、そのハイテクにさまざまの問題点があるということをしっかり意識しながら科学技術政策というものを今後展開していかなければならない。  もう一つ、ハイテクというものは日本輸出入の量というものを減らす、少なくともふやさないという傾向があります。かつて日本は年間七億トンの物資を輸入し、七千万程度のものを輸出した、これは十年前の話です。十年たった今、それじゃこの輸出入の絶対量がふえたかというとふえておりません。付加価値の方ははるかに高くなっている。世界の黒字を一国で集めるような状態になっておりますけれども輸入量は絶対量としてはふえない。経済の規模がどんどん成長しているのに原材料の輸入量はふえていない。ここに山下さんがいらっしゃるわけでありますけれども、かつて日本世界一の造船国、今でもそうでありますけれども、それから世界一の海運国でありましたけれども、これが苦境に立った一つの理由でもあるわけであります。それが海運不況を招き、あるいは貿易摩擦の原因になっているということがあるわけであります。日本輸入をふやせと言われますけれども、ハイテク化をどんどん進めていきますと、これを仮に内需拡大の方に進めていきましても、原材料の輸入量というものはなかなかふえない。そういう傾向がハイテク社会では強まってくるということが言われております。  それともう一つの問題は投資サイクルでありまして、新技術や新工程をせっかく開発しましても、実際に生産に取り入れ、投資をして、それが消費あるいはサービスに提供されて市場を獲得していかなければならないわけでありますけれども、この場合に、新しい市場は形成されるけれども、既存の市場がどんどん圧迫されていく。しかもこの投資サイクルで、例えば六四Kで世界の六割のシェアを持っても、これが五年もたない。それで次の二五六へいく。二五六の場合には三年ぐらいしかもたない。それでもう今は一メガへきている。そうすると、どんどん投資サイクルが早くなってくる。これは実際に企業にとっても非常に大きな負担になってくるわけです。  日本は今日、家電でもあるいは自動車でも、そろそろ成熟産業になりまして飽和商品になっている。それだけにハイテクの方へ全部の目が向かっているわけでありますけれども、この場合にだんだん投資サイクルが加速されていく、大体早くなってくると、これは確かになかなか難しい問題を抱えているということは言えると思います。  とはいいながらも、今日のハイテクがあすの飯の種でありますから、これを活用しなければならない。その場合に、ではどういったような可能性があるか。これは今申しましたように、新しい未来をハイテクで開くにはさまざまなハードルを越えなければならないわけでありますけれども、幾つかの方向として考えられるものがあります。  といいますのは、例えば日本列島の改造だとか新産業都市だとかテクノポリス、テレトピア、さまざまな構想、計画があります。こういった意味で、一つは、今までの研究開発というものを単に研究所ということではなくて、日本全体の産業を研究コンビナートというような考え方にしていく。そのためには筑波というものが一つのモデルになるわけです。今関西の文化学術研究都市というものを計画しておりますが、あるいは地方の地域の活性化ということにも研究コンビナートというものを導入していくことが一つの課題になるのではないかと考えます。重化学工業の場合のように海岸立地、一点集中ではなくて、内陸立地、分散配置のネットワークが可能であります。それから、若年労働力の知的水準を向上させ、雇用機会を増大させ、付加価値生産性を引き上げることができます。こういった意味で経済のソフト化、サービス化に対応しまして内需の方へこれを取り入れていく、あるいは、公共投資というものも、単に橋をかける、道路をつくるということばかりでなくて、ここにハイテクをどんどん導入していくことによって非常に効率を上げていく可能性があるわけであります。  それから、高齢化社会の進行する日本では、成人病、老人病の対策、あるいはエイズ、こういったものに対しても大いにハイテクというものを必要とするわけであります。それから、三原山噴火だとか、最近富士山の噴火活動とかそんな話も出ておりますが、予知科学の推進、防災技術の開発、あるいは自動車だけでも年間九千人が死ぬわけでありますから、そういった意味で防災、あるいは火災、こういった方面につきましてもハイテクを活用する。そうしますと、ハイテクが非常に有用であるということの立証になるわけです。豊かな時代の豊かな社会の日本でありますけれども、ウサギ小屋に住んで家具の山に埋まって暮らすのではなくて、ハイテクを生かして本当に文化的で豊かな生活というものを目指していく、これがこれからの科学技術の課題になるだろう。  時間になりましたので、大変失礼いたしました。
  8. 原田昇左右

    ○原田委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人からの御意見の開陳は終わりました。     —————————————
  9. 原田昇左右

    ○原田委員長 これより質疑を行います。  この際、委員各位に申し上げますが、質疑につきましては、時間が限られておりますので、特段の御協力をお願いいたします。  また、御発言の際は必ず委員長の許可を得てお願いしたいと存じます。
  10. 中山太郎

    ○中山(太)委員 猪瀬先生、大変いいお話をちょうだいいたしましたが、先生大学にいらっしゃって随分立派な研究をされてこられたわけですが、外国大学教授の評価、研究実態と日本とでは相当な差があるわけですね。日本にも優秀な大学教授、先生方は随分いらっしゃいますけれども、中には教授になったら定年まで新しい研究をどんどんやっていかないという先生も現実にはおるというのを私ども知っておるわけですが、残念ながら国家公務員ですから途中解任するということはできないわけですね。大学の象牙の塔の中で学問の自由というものと定年制で、優秀な先生と優秀でない先生との差をつける、評価するシステムというものは今の日本の行政の中にはない。これをどうしたらいいのか。大学教授の評価制度をこれからどう考えるべきか。あるいは大学教授は契約制でいくべきではないかという意見もございますが、そういう点、研究員の高齢化の問題も先ほど山下参考人からも御指摘ございましたが、この点についての先生の長い間の御経験から率直な御意見をちょうだいしたいと思います。
  11. 猪瀬博

    猪瀬参考人 私もアメリカに行ったことがございますが、いた大学一流大学なものでございますからすべての大学状況は知らないのですけれどもアメリカ人の話によると、アメリカにおける大学の内容というのはピンからキリという非常に幅が広いようでございまして、場合によったら日本よりかさらに広いということはあるようでございます。もちろん日本も、今先生御指摘のように、先ほど私は新制大学というのはある一定の大学設置基準のもとでつくられて非常に画一化しているということを申し上げましたけれども、中身によりまして、もちろん先生方の研究能力その他を見るとかなり大幅な違いがあると私は見ております。したがいまして、今後そういう違いがあるということを念頭に置きまして、研究能力の高い大学に対して、あるいは研究能力の高い先生方の集団に対して、できるだけ有効な研究投資をしていくということは必要だと思います。  アメリカのようなところはすべてがいわゆるアングロサクソン的な文化でございますから、上からこういうものだと決めて枠にはめるよりも、自然発生的にそういうものができてくるということでございますから、決して国がこれはリサーチユニバーシティーだということを定義づけませんでも、大学間でもあればリサーチユニバーシティーだ、これはそうではないということは当然定着している感じでございます。それはリサーチユニバーシティーにおいては教官は研究と教育というものを、一般の教育中心の大学に比べますと研究というもののウエートを非常に高めているということでございます。  そういう中で、日本の場合ですと制度がありまして、制度によって新制大学が皆同じ大学であるということで、これはリサーチユニバーシティーであるということを言うことは非常に難しいことだというような社会環境の中で、一体どういうふうにしたら研究投資というものを有効にしていけるかということに尽きるのではないかと思います。先ほどもちょっと申し上げました、原稿にも書いておきましたが、例えば科学研究費というようなものにつきましては、これはかなりその先生の研究業績あるいは今後の研究能力ということを研究者同士が判断していく、そういうできるだけ有能な方にたくさんお金がいくようなことをやってはきておるわけです。  一方もう一つ、先ほど申しましたように、教官当たりの積算校費というものが国立大学にございます。これは外国からは最近非常に高く評価されておりまして、英国あるいはアメリカのNSF等も、こういう無目的な研究費というものが研究者に配られて初めて全く思いもつかないような新しいものが発生してくるんだということで評価はされておるのですが、実は中身を見ると大変額が少ない。これでは、そうはいっても先生は何もできないでしょうということを外国で言われるわけです。したがって、そういうものを増額していくことは非常に大事だと思うのですが、それと同時に、それではそういう積算当たり校費というものをその先生方のおのおのに一生かかっていつも差し上げなければいけないものかどうかということについては、私、全く個人的ですけれども異論があるわけです。  と申しますのは、私自身の経験から申しましても、大学の教授という商売を始めまして、初めの十年間ぐらいは一番きついのでございます。その間はだれにも知られておりませんし、こちらは一番研究能力が高い、意欲もあるのですが、そのときはお金がない。そういう方々に傾斜的にお金を差し上げていくというふうなシステムにならないだろうか。これは、大学によりましてはプールをいたしまして、古い先生はもう要らない、若い先生に上げるという行き方をしておりますけれども、私はそれをさらに一歩進めて、全体のパイを大きくすると同時に、若い方に傾斜的にいくような方向、例えば十年間そのお金をおもらいになった結果大変な業績が上がれば、もうその後はプロジェクト研究なり科学研究費なりをもらえるわけでございます。十年間かかっても残念ながら芽が出なかった方には、もうそういうお金を差し上げないで、むしろ先生は研究よりも教育を一生懸命やっていただきたいというふうな方向づけをするのも一案でございます。  そうでございませんと、やはり先ほど先生がおっしゃいましたような任期制その他いろいろ考えられますけれども、場合によっては任期制を置くということについての弊害というのは、アメリカでは最近非常に言われております。と申しますのは、これは研究分野、学問分野にもよると思いますけれども、工学系では超一流の大学といえどもテニュアを与えませんといい先生が大学に来てくれなくなってしまう。産業界が非常にいいわけでございます。私どもの分野でございますが、一般に先端技術の分野は皆そうでございまして、かつては一流の大学は教授にしかテニュアを与えなかった。いわゆる終身雇用に近かった。それはアソシエートプロフェッサーをほとんど与えております。最近は、非常にすぐれたアソシエートプロフェッサーにはテニュアを与えるとか、あるいはすぐにアソシエートプロフェッサーに昇任させると言っておきませんと、みんな逃げていってしまうという状況になっておるわけであります。日本はまだ終身雇用制ということを、逆に言えばそういう研究者にある程度評価を甘くしてロイヤリティーを要求しているという面もございますので、その辺のことはよほどうまく考えませんと、実際、私どもの分野でも、産業界で最近特に研究開発が盛んになってまいりましたし、国立の研究所等でも、基礎研究をやるためにいい人が欲しいという会社はたくさんございますので、もと私のおりました大学などでも、東京大学である、だからいい人が来るんだなどということを思っていたら、それは非常に危険ではないかという兆候があらわれてきているというのも事実でございます。その辺は全般的に考えて広く見ていく必要がございますけれども、先生御指摘の点は、我々教官自身の意識改革が最も基本ではないかなというふうに思っておりますので、そういう意味では繰り返し叱咤激励していただくということが一番いいのではないかと思います。
  12. 竹内黎一

    ○竹内(黎)委員 今の日米間の技術摩擦といいますか技術戦争が全面破局的な事態にならないように、私も政治家の一人として大変懸念するわけですが、この点については、猪瀬先生、堤参考人から触れられたけれども山下先生はこれについてのお話がなかったものですから、山下参考人、今の日米間の技術摩擦、戦争について、何か御意見がありましたらお聞かせいただけませんか。
  13. 山下勇

    山下参考人 あえて触れなかったわけでございますけれども、お話がございましたので。  先ほど堤さんから日本脅威論が出てきたのですけれども、基本的に言いましてベーシックなリサーチというのは大分日本で進んでまいりまして、新しい技術の分野では日本がいろいろな面で相当国際的なレベルでの貢献をしつつあるということは間違いない事実だと思うのですが、現実貿易段階で行われているものは、基本的にいいますとまだ欧米の技術というものを日本は開発して製品化していったその製品輸出という形で流れているわけでございまして、その点で二つのポイントがあると思うのです。現在既に、我が造船、鉄鋼、繊維というような例が前にありまして、その次は今、自動車と家電というような問題があるわけです。造船、鉄鋼というものは全体の流れの中で、ある意味では日本の方が減っていって、そしてそれがよそへ流れていくという形の中で、鉄鋼の場合もそうですけれども、ある調整ができたわけでございますが、問題は、今現実に流れている問題の調整というのが一つと、それから次に出てくる新しい製品に対してこれからどういうふうな基本方針を立てていくかという二つの問題に私は分けて考えていっていいのではないか。  我々の方、実際産業界の方から見ますとそこに非常に重要な議論がございまして、現在非常に大きなサープラスを生み出している産業における自粛という問題が一つあるわけです。  もう一つは、これからエマージングの産業においてこれからのビヘービアをどうするかという問題があるわけでございますが、やはり第一の現在の問題というのは、堤さんからもいろいろありましたけれども、基本的には現地生産というものに移っていくという形をとらざるを得ないのじゃないかというのが産業界としての基本的な考え方で、自粛という形も一つの回答でありますけれども、実際的には現地進出という形、しかもその中に相当の条件を課されて、現地生産というものの現地における部品購買の比率をより高くさせられるとか、あるいは労働条件の問題についてもいろいろと現地の情勢等に合わせていくというような形の中で調整をしていくというやり方しか、現実の問題としては出てこないのじゃないか。  新しい分野の問題については、やはり基本的に言って日米あるいは日欧間で協調してやっていくという形、そういう形をとっていかざるを得ないのではないか、今それぞれの業界ベースで相当シリアスな勉強をされておられるようでございますが、大きな流れとしてはそういう方向しかないのじゃないかというふうに私は見ております。
  14. 竹内黎一

    ○竹内(黎)委員 どうもありがとうございました。
  15. 牧野隆守

    ○牧野委員 山下先生にちょっとお伺いしたいのですが、技術の開発それ自身はどちらかといいますと個人に所属いたします。だから、学界の交流等におきましてはそれでいいわけですが、現実にそれが生産ということに結びついていきますと、これはもうどうしようもないわけですね、企業としてはどんどん生産をいたしますから。しかし、余り妥協しますと鉄鋼だとか造船みたいに結局やられてしまうわけですね。じゃアメリカはどうかというと、IBMなんかがやっているのは、ヨーロッパにしろどこにしろ結局IBMが全部支配して、ヨーロッパではコンピューターメーカーはもう永続していない。やろうとした芽が全部つぶされてしまう。  こういうことを考えますと、やはり日本としては技術振興、これは食うために全力投球しなければならないわけで、そうなってきますと、貿易摩擦という観点から技術を見ますと、技術開発それ自身じゃなくて、いわゆる経営者自身がどう考えるか、どうもそこに行き着くのではないかな。  そういう点で、今おっしゃったように確かに工業生産の段階に入れば、今の状態から見ますと現地生産、合弁という形でやらなければならないわけですが、そこで一つお伺いしたいのは、例えば日本の企業がアメリカへ出ていった場合に一〇〇%の現地会社をつくるのか、それとも日本の資本は四九%、アメリカは五一%、実質は技術と工場の生産管理と申しますか企業経営能力を持っていく、こういうことになれば、アメリカにしろヨーロッパにしろ文句を言わないと思いますが、日本の経営者としてはそこまで踏み切れるのかどうなのか。  それから、新技術がどんどん出てくるわけですが、今度の超電導にしましても、最初からアメリカは我が方だけでやろう、こう言っているわけですが、国際交流、学界交流は結構ですが、そこまでとことんまで技術交流というのをやらせなければいけないものなのかどうなのか。その辺非常に迷うわけですが、その二点について、片方は現実的な現地合弁会社のあり方アメリカみたいに入ってきて一〇〇%とか五五%とかということじゃなくて、五〇%以下でやれば問題は起きないと思いますが、そういうことは日本の経営者として考えていただけるのかどうなのか、これが第一点。第二点は、今の超電導の研究のあり方ですね。
  16. 山下勇

    山下参考人 第一の問題で、やはり我々がアメリカと風土として違うのは、例のMアンドAと言われているマージャーとアクイジションの問題ですね。アメリカの企業ではマージャーするとかあるいは企業をとるというアクイジションの問題というのはそう不思議な形ではないわけですね。だから日本の場合は、日本の国内においてマージャーとか合併するとかあるいはアクイジションをやるというような形は余り普通の慣行ではない、普通のビジネスの慣行でない。ああいうふうにマージャーして一緒になったりあるいは株式を取得して企業をとってしまうというような形は何かちょっと異例であるという感覚があるわけですね。そこは非常に重要なポイント一つになるのじゃないかと思うのです。だから、日本人の感覚でいうとそういうふうに合併したりあるいは企業を獲得するという形、支配するというような形というのは、日本自身の中にいわゆる持ち株会社という思想が現在ございませんね。そういう形が許されていないという意味で、我々経営者としてはその感覚に対してちょっと異質な感じというのですか、なれてない感じがするわけです。結局企業支配という問題が、日本段階でいいますと、そういう形ではなくて、日本は株主というものを保護して、そして株主権というものを大事にしているわけですね。したがって、ホールディングカンパニーというような形の中で経営者と株主とがうまく日本の中ではやっていくということが企業がうまく伸びていくための非常に大事な一つの方針であって、株主と経営者と従業員、それが三位一体になって企業を発展させるのだという基本的な経営理念というのですか、古いのかもしれませんけれども、我々はそういう経営理念を持っているわけです。  だから、アメリカの場合でいいますと、ホールディングカンパニーというのがあって、しかも大部分のシェアというのは、御存じのとおり年金というのが非常に大きなシェアを持っているわけですね、株主としてのシェアを。そういうのがいい企業、よりベターな企業というものを絶えず探しているわけですから、よければアクイジションもやる、それからある企業同士をくっつけるという方がいいと思えばマージャーもやるという形になって、したがって経営者の方の感覚から見ますと、ある預かった期間の中において業績を上げればいいのだという形ですね。これは日本の経営者のように株主と従業員と一体になって一つの企業というものを長期的にわたって育てていくのだという、そういう経営理念がないのじゃないかと思うのです。ところが、そのないアメリカ側日本側とが今度は合弁して何かをやるという段階になりますと、その辺のところで対株主の問題、対組合の問題というところに絶えず問題を残していくのじゃないか。  したがって、今の御質問の前の段階の方については、私はまだまだこれからいろいろやっていきまして問題が残ってくるし、また新たに発生する可能性もあるのじゃないか。しかし、それはどうしても越えなきゃいけない一つのステップじゃないか、一歩じゃないかというふうに前の方は見ております。  後の問題の、新技術の交流という問題については、これはやはり評価の問題だと思います。向こう側が我々の技術をどの程度本当に評価するのか。相変わらず、日本と一緒にやっても日本にとられてしまうと評価するのか。日本と一緒になったら、もう今の時代になると入ってくるぞと向こうが見るか。まだこれからの問題であって、しかしこれも依然として問題になってきております。  最近、私どもは三井造船として、小さい会社ですけれどもいろいろな会社が、こっちの技術と向こうの技術と、こうありますと、大体向こうがこっちの技術が相当いいと思えばそれに相当乗っかって、自分があるところまで進んでいても、開発ポテンシャルは相手方の方があると思えば大体対等で話をするというような形で、大分いろいろな新しいプロジェクトが今動き出しております。だからこれも一般論では言えなくて、それぞれのケースで、相手とこちら側との力関係というのですか、そういう形の中で決められていくのであって、全体として、先ほど堤さんお話しの対日脅威というような形の中で日本から離れていくということはむしろなくて、相当注目しながら日本の動きを見ているのではないかというふうに私は考えております。
  17. 牧野隆守

    ○牧野委員 ありがとうございました。
  18. 貝沼次郎

    貝沼委員 三点お尋ねしたいと思います。まず、堤参考人に二点お願いいたします。  その一つは、科学という言葉、それから科学技術という言葉、これがわかったようでなかなかわからないのですけれども、私たち、科学というのは何となく輸入した感じがございます。例えば科学を習い始めて小学校へ行ったときから、塩酸とか硫酸とかそういったものは実験室にあって、自然とはちょっと離れた感じのところから大体出発するという感じもあるのだと思いますが、とにかく科学は、科学技術というようなものが国民とぴたっと合わない点が何となくあるのですね。おとといも宇宙開発の問題で質問をしたわけですが、なぜ宇宙開発をやらなければならないのかということが国民の側から見るとぴたっとこない。キャッチフレーズみたいなものがない。こういうようなことでは、科学というのは本当に国民の協賛を得なければ困るのじゃないかと思うのですけれども、この点をどう考えたらいいのか、これが一点。  それからもう一点は、先ほどアメリカの方でアンフェアという言葉のこともございました。そのためには先手を打って説明をする必要があるというお話もあったと思いますが、その陰に何となく日本科学技術は不気味さがある、何となくそこに危惧があるというようなことを彼らは感じ取っているのではないか。そこに、先ほどの有識者の統計のところからもちょっと出ておりましたけれども、どうもそういう不気味さを感じ取っておるような面があると思いますので、これではぐあいが悪いので、日本としてはどういうふうにこれを説明すべきなのか。そういう方法というのはあるのかどうか、この二点をお願いしたいと思います。  それからまとめてお尋ねいたしますが、山下参考人の方には、先ほど言いましたように、科学あるいは科学技術というものについてどう私たちは受け取っていったらいいのか、この辺のところがはっきりいたしませんので、お考えをお聞かせ願いたいと思います。
  19. 堤佳辰

    ○堤参考人 第一の、科学と技術なのか科学技術なのか、これは私どもの受け取り方もそうでありまして、確かに区別して考えるわけでありますけれども、実際にはこれはつながっております。  それから、例えば大学の工学部の先生方技術者と言われるのを嫌って工学者という言葉を使います。そうすると工学という場合に、これはかなり科学に近い色彩を持ってまいります。その意味で、確かに語感としてこのあたりがなれていないという点はございます。ただ、これは別の面から見ますと、どんな分野にも、科学でも工学でも技術でも必ず研究と開発と応用という段階があるわけでありまして、そういう面から見ますと、今申しました科学でも工学でも技術でもやはり同じような切り方ができる。むしろそういうプロセスで分ける方がはっきりするのではないか。  先ほど宇宙のお話が出たところでございますけれども、かつての東大、今文部省の方で宇宙科学研究所と言っておられますが、実際には技術を大いに活用しておられる。科学衛星といいましても、実際にはハレーすい星の探査も含まれる。これは実用でないというだけでありまして、科学的といいましても実際には工学、技術をフルに使っておられるわけです。ですから、宇宙という分野で見ますと、これは科学といいながらも、かなりの部分で非常に広がりを持っているという事実がございます。ですから、そういう面では研究、開発、応用、実用、そういうとらえ方をする方がむしろこの問題についてははっきりするのではないかと思います。  同じように宇宙開発事業団、これはミニシャトル等いろいろやっています。かなり手前の方になってきますと科学に近い基礎研究部分が随分あるわけでございますから、その意味では今のように科学と技術に画然と分けるのはかなり無理があるという御意見はそのとおりであると思います。ただ、これは国民にどのようになじませていくかがなかなか難しい問題になってくると思います。  それからもう一つ、アンフェアの問題でございますけれども、これはおっしゃるように、単なる研究あるいは技術の問題ではなくて、カルチャーの問題がかなり絡んでいるということも確かです。そこで、こういった問題については解釈を考えなければいけないわけでありますけれども一つ考え方としまして、現実にはどのような対策があるか、やはり言挙げをしないということではなくて十分に説明をするという努力が必要になってくるのであろうと思います。その場合には、先ほど私はガバメントリレーションと申しましたけれども、政府間で交渉するばかりでなく、例えば現実には科学技術外交ということになりますと、協定を結ぶ、米ソの間でもあれだけ対立しておりましても科学技術協定を結ぶ、そこで人事交流を始めるといったやり方が外交の入口であるわけでありますから、そういった意味で外交の面で積極的に考えていく。  それと、現実に科学アタッシェが各国にいるわけでありますから、相手の情報を収集することはかりでなくて、こちらの情報を大いに説明する。それから、誤解の起こる前に未然に先手を打って説明しておく、正しい知識を与えておくというような双方向の交流が情報の面でも必要になってくるでありましょうし、それから議員先生方、これは国際議員連盟もありまして盛んに交流があるわけでありますから、向こうの議員たちあるいはこちらからお出かけになるときにもやはり腹蔵なく話し合う機会を持つ、たくさんのチャネルを持って誤解を解いていかなければならない、そういったことが考えられます。  それと、具体的に国際協力ということを本気で考えなければいけないわけでありまして、誤解を解くというのは確かに言葉で説明したのではだめでありまして、現実に国際協力、それから共同開発ということを考えていく必要があるだろうと思います。現実に例としまして、これはかなり産業に近いわけでありますが、日本は航空産業というものが戦後禁止されて十分に育っておりません。部分部分でよい技術ができているわけでありますけれども、産業としては見るべきものがない。ただし、これに対してはヨーロッパは別でありまして、ヨーロッパでは共同開発した。エアバスなどは見事に成功している。アメリカの単独のボーイングだとかマクダネルというところはもう押されている。しかもハイテクがどんどん導入されている、そういう実情がございます。そういう意味では、共同開発ということは日本にとってもメリットの面があるわけでありまして、もっと日本の方からテーマを挙げ、プロジェクトを挙げて積極的に提案していく必要があるのではないか。  具体的に日本の方で提案した方がよいのではないかと思われる国際協力の例としましては、例えば巨大加速器などはアメリカの方からも協力してくれと言っておりますけれども、これは日本ではトリスタンなど大変よいものができておりますが、何分にも土地の問題がございます。今後の巨大加速器というものは山の手線ぐらいの広さの土地が要るわけでありまして、これは日本ではなかなか難しい。そうしますと、そういう土地が十分にある国に対してこちらこそイコールアクセスでやっていく。そしてさらに共同開発をしますと、いろいろなアイデア、日本のような単一民族ばかりではなくいろいろな民族が、しかもえりすぐったエリートたちがこれに参加しますと非常にすぐれたものが出てまいります。具体的に言いますと、大分先になりますけれども火星の有人探険だとかあるいは超高速、超大型のシンクロトロン、核融合であるとか、増殖炉は今アメリカはやめてしまって日本のものは大変進んでいるわけですから、アメリカが積極的にこれに協力する可能性もあるわけであります。そういったようなものを日本の方がむしろ積極的に提示していく必要があるのではないか。何でもかんでも自分だけでやるというのは、何か隠しているのではないか、後ろめたいところがあるのではないかというふうに言われますのでオープンにする。  それから、確かにドルが安いわけでありますから、外国で調達した方が安いものがある。最新のノーハウ、最新の機器、特に科学技術の基礎分野ではそういったものを向こうも持っているわけでありますので、それを買って利用することもできるわけで、こういったことを今後大いに考えていけば今のような後ろめたさというものはかなり変わってくる。要するにチャンスをオープンにすればよいわけでありまして、必ずしも半分向こうのものを買わなければならないということでは決してないと思います。
  20. 山下勇

    山下参考人 今の科学と技術との問題ですが、基本的には皆様御存じのとおり、科学というのは基本的には原理、理論というものを追求していくわけでございまして、技術というのは原理のアプリケーションであるということは依然として変わらない問題なのでございます。ただ、現在のような状態になってまいりますと、サイエンスのリサーチをやっていく段階で、例えば湯川さんがお考えになったころは、湯川さんは何も実験道具を使わないで全く理論で中性子の存在を確認されたわけですね。その中にはテクノロジーは要らないわけなんです。ところが、今やってまいります核融合という問題になりますと、その段階ではテクノロジーというものが入ってきて、JT60なら60というものをやっていかない限り、テクノロジーの助けをかりない限りは、サイエンスのもう一つ進んだ理論が展開されていかない。これはもちろん核物理ばかりではなくて、例えば遺伝子工学なんかでも新しい理論の展開をしていく段階の中で、コンピューターであるとかあるいは画像処理であるとか、いろいろな新しいテクノロジーがくっついていきましてサイエンスが伸びていく。今や、科学者が純粋科学を勉強する段階の中でもアドバンストテクノロジーというものを絶えず入れていかなければサイエンスの方の理論展開ができないという条件が一方にあるわけでございます。  そういう段階になりますと、サイエンスであるのかハイテクノロジーであるのかという区分は非常につけにくくなっているのではないかと思います。そういう意味では、サイエンティストと称する人も、サイエンスの理論ばかりではなくてテクノロジーに対するノリッジがなければできない。それからまた、我々技術屋の方から見ても、サイエンスの原理というものをかりなければテクノロジーのもう一つの進歩ができないという形の中で、現実サイエンスとテクノロジーは厳然として差があるけれども、しかし現実科学技術の研究というのは、その区分ができない程度に密接になってきちゃっているというのが現状じゃないか。そういうことで、一般の方が科学というのは何ですか、技術というのは何ですかというディフィニションを求められると非常に困難な状態になってきているというのは、御質問のとおりだと思います。現実の事態というのは、そういうふうに前は紙と鉛筆でもってサイエンスができたのが、そういう事態はもうほとんどあり得ないという形で理論解析、その理論も、従来ならば紙でやれたのがやはりコンピューターを使ってやらなければいけないというような形になりますと、そこにテクノロジーを使わなければいけないという形で、サイエンティストも自分サイエンスに関係のあるテクノロジーから独立してサイエンスの研究もできないし、テクノロジーをやっている人間もサイエンティフィックな、科学的な基礎がなければできないという状態になって、実は科学と技術の区分が非常に難しくなってきて、そういうことで科学技術庁なんというのも、やはりわけのわからぬ名前にならざるを得ないのじゃないか、非常に区分が難しくなってきているのじゃないかと思います。
  21. 原田昇左右

    ○原田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、御多用中のところ貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  次回は、来る九月一日火曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時十二分散会