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国務大臣(
中曽根康弘君)
日米問題が、主として
日本の
貿易黒字の累積によりまして
ドルが非常に安く下落し始めておるということ、それから
日本の
黒字の増大というものは
世界経済に対して必ずしもいい影響を与えていない、そういうような事態を控えまして、
アメリカ議会におきましては、主として
日本を頭に置いた
貿易制限法案、そういうものが
下院において成立されようとしておる。そういうような状況を踏まえまして、時たまたま
レーガン大統領から公式招待をいただきました。秋には
皇太子殿下、妃殿下の御
訪米の予定が実はございましたので、これは夏以前でないといけない。そうしますと連休のとき以外に議会を休ましていただく機会はない。そういうことでこの時期を選はしていただきまして、
公式訪問で参るということになったわけでございます。
内容につきましては、先ほど
福間議員にお答え申し上げたとおりでございますが、私がこの時期にあえて行きたいと思いましたことにつきましては、やはり
レーガン大統領の公式招待というものの重さというものを一つ
考えたわけでございます。私は五回参っておりますが、これは仕事の訪問でありまして、正式訪問ではございません。
レーガン大統領は
日本で正式招待いたしまして、そして宮中の晩さん会とか、しかるべき礼遇をもって我々は御接待申し上げたところであります。皇室におかれましても大変御配慮いただいたところでございます。
レーガン大統領は、そのお返しがまだできてない、そういう
意味におきまして、公式招待の話が春ごろからあったわけでありますが、国会の模様やらそのほかを
考えまして慎重に
考えておったところでございますが、
貿易問題等がこういう状況になりましたのを見まして、私はあえてこの時期に行かなければならないと、そう
考えた次第であります。
日米関係というものは、今や
世界の平和と繁栄の基礎をなしておる最も重大な
関係の一つになりました。特に経済問題に関しましては、
日本と
アメリカの経済が
世界を動かしているとすら言われるぐらいになり、円
ドルの
関係というものが
世界経済に甚大な影響を実は与えておるわけであります。円
ドルの
関係によりまして
アメリカの金利が上がったり下がったりいたします。
アメリカの金利が上がるということは、
アメリカその他から金を借りている
発展途上国が非常に苦しみに遭うわけであります。そういう点を
考えてみますと、
発展途上国が苦しみに遭うということは、
貿易が縮小するという形になりまして、
世界経済全体が不況に入るという原因にもなります。そういう面から、この円
ドル関係を安定させ、しかも
アメリカの金利が余り高くならないようにしておくということは、
日本としても十分
世界経済や途上国を
考えて配慮しなければならぬところでございます。
また、
日本は相当これだけの大きな
黒字の蓄積を持っておりますから、この
黒字を吐き出して、そして困っている南の
発展途上国に資金還流をやって、そして経済を活性化させるということも今やまさにやらなければならぬときであります。
アメリカは第二次
世界大戦が終わりましたときに非常に大きな
貿易黒字になりましたが、そのときはいわゆるマーシャル・プランというのをやりまして、困っている
ヨーロッパや
日本にも対日経済援助や無償援助をやってくれまして、
ヨーロッパや
日本の経済が今日の復活した大きな原動力になったわけであります。また、サウジアラビアもあの石油危機で相当
ドルがたまりましたときにはサウジアラビアみずからが国際的に資金還流の態度に出まして、そして途上国その他にお金を回した経験がございます。今
日本が持っておる
黒字という額は当時の
アメリカに匹敵し、あるいはサウジアラビアは我々の半分ぐらいのものでありましたがそれだけの措置をやった。
そういう
意味で、私は昨年以来、昨年の秋は百億
ドルでございましたが、途上国そのほかに資金を還流するということをやりました。ことしはさらに二百億
ドル、計三百億
ドルをそういうふうに
世界銀行やアジア開発銀行や米州開発銀行、あるいは
日本とその国との直接の話し合い等によりましてこの三百億
ドルの金を回す。で、今回は
ひもつきでなしに、回したお金は、
日本の品物を買わなくてもよろしい、世国じゅうから安い物を買いなさい、そういう
ひもつきでないということにしたこと。それから、国際機関にお金を出しても、それで
日本の株が多くなるからというので発言権を多くしなくても結構です、我々はそういうものを求めません、
世界でお使いくださいと。そういう二つのことを中心にいたしまして約三百億
ドルのお金を差し出して使っていただくようにしたわけでございます。
そういうような措置を
アメリカへ行って
アメリカ大統領との間に話をし、そのためには
世界銀行その他とも協力を求めなければできません。そういうわけで
アメリカ側の了解も求めて、
日本にそれをやらしてもらうということも実際にやり、
アメリカも非常に大歓迎してくれたわけでございます。
そのほか、この
黒字の問題については、これはもう
アメリカに対する
関係以上に
日本国内の景気をよくしなければならぬ、そういうときでございまして、幸い
自民党が
補正予算というものを目途に案を決めてくださいましたので、それを持って安倍特使が
アメリカへ参りまして地ならしをしてくれました。私は本物を持ってまいりまして、そして
自民党の
考えは我々の
考えであり、
予算が成立すれば、これを我々は至急党と相談をして緊急対策として、
予算としてこれを実行していきたい、そういう
意思表示をいたしまして、そして行政の最高責任者として責任ある発言をしてきた。そういうことでありまして、
アメリカ側も多としたというわけでございます。
しかし、それ以外に現下の大きな問題は、一つは
半導体の問題でございましたから、
半導体の問題については随分粘りまして、そして両方の
大統領並びに
総理大臣の
声明の中にはっきりとしたこういう方法でいくという方法を明示してもらいましたし、また円
ドルの安定につきましても、先ほど申し上げましたようなことではっきりとした両国の意思を明示いたしまして、そして
世界各国の協力も求め、
世界経済発展の不安定要因をこれで取り除く、また
日本の円高不況というものに歯どめをつける、そういう
意味のことをやってきた、そういうことでございます。十分なる
成果であるとは申されませんが、精いっぱいやってきたつもりでございます。