○村上正邦君 私は、自由民主党を代表して、ただいま
議題となりました
昭和六十二
年度予算三案に対して
賛成討論を行います。
本論に入る前に一言申し述べます。
私は、今
国会での
衆議院における
予算審議ほど異常な経過に包まれたことはかつてなかったと思います。申すまでもなく、
国会は国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であります。
国会の生命は、
法律案件や国の進路にかかわる諸問題について徹底して
審議することにあります。
審議こそが
国民の負託にこたえる道ではありませんか。しかし、今
国会では、
衆議院予算委員会における
審議は、実質
審議は
公聴会を除きわずか四日間、時間にして十三時間余りでありました。他院のことについてとやかく言及しないしきたりは私もよく承知しております。とはいえ、
予算についてそもそもの先議権を持つ
衆議院での
審議がかくも短い時間であったということは、縦から見ても横から見ても、やはり不正常であったとしか言いようがありません。
かつて
昭和三十五年の安保
国会では、
政府・
自民党と野党との間に立場の違いがあったとはいえ、
予算委員会に加え、安保特別
委員会で実に三十七日間、延べ百三十七時間もの
審議がなされたことを思い起こすのであります。
内外に多くの困難な
課題を抱えている今日、
国会は一日の空白や緩みも許されません。今回の長い
審議拒否あるいは
審議空白に対し、
国民各層からは、一体国
会議員の持つ時計と我々一般市民の持つ時計とでは種類が違うのではないかとの声を聞きました。私は、この批判に謙虚に耳を傾けねばならないと思います。
国会ルールを無視し、
国会の権威を失墜させ、あまつさえ
国民生活に迷惑をかけることは二度と繰り返してはなりません。今
国会のことを教訓として、新たな
国会の運営のために改革と前進を続けていかねばならぬと信ずるものであります。
幸いに、参議院においては、四月二十三日に
予算の送付を受けて以後、
予算委員会の場で各党
委員による熱心な
審議が続けられてまいりました。その間、
中曽根総理のワシントン訪問による
日米首脳会談や
関係閣僚のOECD閣僚理事会出席などがありました。しかし、その間にあっても、本院の
与野党委員は、
我が国が置かれた今日の
国際的立場に深い洞察力を示し、真摯かつ活発、そして濃密な論議を続けてまいりました。このことは国
会議員の責務として当然のこととはいえ、党派を超えて参議院の
機能をよく果たし、良識の府、参議院のあり方を示したものとして喜びにたえません。特に、大所高所に立って見識ある運営に御協力いただきました各党理事に深く敬意を表するものであります。
国民各位が既に御承知のように、
税制改革をめぐるこれからの方向づけは、去る四月二十三日夜の原
衆議院議長の裁定によって示されました。
税制改革問題は、現在における最重要
課題の一つであり、
直間比率の
見直し等、今後できるだけ
早期にこれを実現できるよう各党協調し、最大限の努力を払うことになったのであります。この
議長裁定に対して、野党各党からは、歴史的勝利だ、勝った、勝ったなどとの声が聞かれたが、
税制改革と
国会審議のあるべき姿は、勝った、負けたのスポーツの
世界とはおのずから違うのであります。
思えば、
昭和二十三年五月の第二回
国会において——よく聞いてください、社会党の諸君。今回、事態収拾を図った原
議長は、当時民主自由党代議士として、芦田内閣にあって
日本社会党の加藤勘十国務
大臣に、
衆議院予算委員会の場で、取引高税
導入をめぐる
政府の
態度を追及しております。このとき加藤勘十国務
大臣は、
政府の
財政運営のために
間接税である取引高税
導入が避けられない旨をるる述べ、これが速記録に残されております。立場変われば大変わるといえばそれまででありますが、やはり
政治の
責任ある立場に立つ限り、時に
国民に対してはつらいこともお願いせねばならぬのではないでしょうか。あれから四十年、改めて今昔の感ひとしおのものがあります。
さて、
我が国経済の緊急
課題は、内需を
拡大して
経済の持続的成長を確保するとともに、対外不
均衡の
是正を図ることであります。御案内のように、最近
米国では、包括
貿易法案や
半導体問題などに見られるように保護主義が著しく高まっておりますほか、欧州においても高い失業率を背景にダンピング規制強化の動きがあり、これまで
世界経済の発展を支えてきた自由
貿易体制の枠組みを揺るがす
状況が見られ、
国際経済への調和が強く要請されております。
一方、
我が国経済は、一昨年秋のG5以来、円レートの急騰により生産活動が停滞する中で、特に製造業を初め
中小企業は大きな影響を受けておりますほか、雇用情勢は極めて厳しい事態となっております。六十二
年度予算は、かかる
経済情勢の変化に弾力的に対処するとともに、限られた
財源を
国民生活の安定
向上を図る見地から重点的、効率的に編成しております。
以下、
賛成の主な
理由と国政の重要問題について所見を述べたいと存じます。
第一は、当面の緊急
課題である内需の
拡大に思い切った配慮をしていることであります。
一段と厳しい
財政事情にありましても、一般
公共事業の
事業費については、
財政投融資の活用、民間活力の活用、補助・
負担率の引き下げ等の工夫を行いまして、前
年度に比べて五・二%増額いたしておりますことは評価できるものであります。
第二は、引き続き
財政改革を強力に推進するため
歳出の徹底した
節減合理化が行われていることであります。
六十二
年度予算は、五十八
年度以降五年連続一般
歳出を前
年度以下に圧縮し
財政改革を行っております。公債発行額を四千四百五十億円
減額した結果、公債依存度は特例公債を発行して以来初めて二〇%を割っております。
その他、本
年度予算は、当面急を要する雇用
対策の拡充や産業構造調整の円滑化
対策が講じられているほか、
高齢化社会への対応や恵まれない方々に対する
福祉施策など社会保障の
充実に努めております。また、文教、科学技術、農業、
中小企業などの各分野についても引き続き制度、施策の
充実に努めており、評価いたすものであります。
次は、
世界経済の一割国家として
世界の平和と繁栄に寄与するとともに、西側の一員として防衛
責任を果たしていることであります。
我が国は、平和国家として、
世界経済の発展に貢献するための
経済協力を
国際的責務と考え、これまでその拡充に努めてきましたが、本
年度についても第三次中期
目標に沿って
政府開発援助を増額して、
黒字国家としての
責任を全うしていることは評価できるのであります。
六十二
年度の
防衛費は、中期
防衛力計画の第二
年度目として、立ちおくれの目立つ
練度の
向上や隊員施設等の
後方部門の回復を図るなど必要最小限度の経費を計上した結果、
防衛費が
GNP比一・〇〇四%になりましたが、これはまさしく
所要経費の積み上げによる当然のものであります。
御案内のように、現実、
世界の平和と安定は
米ソの力の
均衡によりこれが保たれており、両国の核軍縮交渉の行方に期待いたしまするが、今後の推移は楽観できるものではないと思います。ソ連は、この十数年来、アジア・太平洋方面において大がかりな軍備増強政策をとっており、これに対処して
アメリカを初めとする西側陣営はあらゆる防衛努力を行っております。
しかるところ
我が国は、五十一年に
防衛計画の
大綱を決定してから十年以上を経過してもいまだその水準に達しないということは、
国際的に果たしてこれでよいのか批判の存するところであると存じます。私は、一昨年九月決定を見た
中期防衛力整備計画の着実な実施は、
我が国の重大な責務であると考えています。
このような背景のもとで、今回一%枠を超えたのでありまするが、これに対し、一部に一%の歯どめ突破は
軍拡路線を歩むものとの批判がありますが、これは全くの的外れであると思います。
政府は新しい歯どめとして、
平和憲法のもと、専守防衛に徹し
軍事大国とならないという
我が国防衛の
基本方針の堅持、
中期防衛力整備計画による
総額明示方式の採用、三年後の見直しの
廃止、
三木内閣決定の精神尊重を決め、これらの新しい歯どめは節度ある
防衛力の
整備の見地から極めて有効適切であると思います。私は、むしろこれらの措置とあわせて、国権の最高機関としての
国会における
充実した
審議こそ一番重い歯どめになると思います。良識、理性の府である我が参議院が健全である限り心配御無用と断言するものでありますが、いかがでしょうか。
最後は、
税制改革であります。
さきにも述べましたが、
税制改革の問題は、原
議長の裁定により
協議機関による
審議にまつこととなりましたが、どうか精力的な
審議で問題点を
整理し
合意が図られることを望むものであります。したがって、今後の
税制改革の方向はこの結果待ちとなりますので、ここでは私が受けとめている
税制の緊急
課題について触れたいと存じます。
御承知のように、現行
税制は産業構造の変化、人口の高齢化、
国際化の進展など
我が国経済社会の著しい変化に十分に対応できておりません。
課税最低限は
世界で最も高いにかかわらず、サラリーマンの重税感、不公平感は強く、さまざまの面でゆがみ、ひずみを抱えて
国民の税に対する不満は高まっております。この際、
税制全般にわたる根本的な見直しを図る必要があります。
そこで、まず行うべきは、働き盛りのサラリーマンに対する
所得税の
減税であります。この年代はまさしく
我が国を支える担い手でありながら、住宅ローンの返済や教育費に追われ、税率の累進構造で税
負担の重荷にあえいでおります。また、法人についてもしかりであります。
経済の
国際化に対応して、
我が国企業活動の活性化を推進するための税率の引き下げが必要であります。さらには、今後二十一世紀に迫りくる超
高齢化社会に対応していくためには、現在のように直接税中心の、特に中堅以上のサラリーマンに偏った
所得税をそのまま維持していくことがいいのか、極めて疑問であります。やがてはその重い
国民負担で先進国病になりかねません。私は、将来における活力ある
日本型
福祉国家を建設するには、すそ野の広い
負担感の少ない
課税主体の
間接税に移行して、安定した
財源を確保すべきだと考えます。
今
国会における
税制改革反対の動きを見ますと、殊さら
売上税にのみ焦点を当てた作戦を展開されたようでありますが、どうか
反対される諸君にあっては、相手への攻撃も結構ですが、みずからはいかなる考えを持っているか、中長期的
展望に立った明確な提言を示してもらいたい。たびたびの四党書記長会談ではいろいろ話し合いがあったようですが、それが新聞発表として
国民の前に明らかにならなかったことは残念至極、遺憾千万であります。
最後に、
政府に要望いたします。
最近における
内需拡大の強い要請に対処して、
政府は本
予算成立後速やかに我が党が提示した
総合経済対策要綱に基づき、
公共事業の前倒し、大型
補正予算の編成など積極的な
財政措置を含む緊急
対策を講ぜられ、もって対外不
均衡の
是正と内需主導型
経済構造への
転換が図られることを期待して、私の
賛成討論を終わります。(
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