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参考人(
長谷山崇彦君)
アジア経済研究所は
国別、
地域別及び
専門テーマ別の多様な
研究を行っております。また
国際交流も非常に活発に行っております。
名前は
アジア経済研究所でございますが、これは設立当初のときの
名前でございまして、現在は第三世界全部を含めて、
英語ではインスティチュート・オブ・デベロッピング・エコノミーズになっておりまして、
開発途上国研究所という
名前が
英語でございます。
本日は、極めて限られた時間に御報告をするために、
研究所の運営、機構その他はお手元に配付した
資料にございまして、後で
質疑応答のときにもし必要がありましたらお話しさせていただくことにしまして、本日は国際問題、それに絡めた
経済協力の問題を
アジア経済研究所の
研究成果の一部を踏まえてプリゼントしまして、先生方の御
意見をお伺いしたいと思います。
お手元に配付した
資料の「発展
途上国の
経済成長と
経済協力-要約」というのと、要約がついていない分がございます。これを本日ここで御報告させていただきたいと思います。要約の方は、統計表その他が添付されております要約のついていない本文のさらの要約でございますので、時間の
関係でこちらに沿ってお話しさせていただきたいと思います。
まず本題に入る前に、我々エコノミストがそれなりに見た八七年、ことしの世界
経済の態様というものをごく短くお話しして、それから
途上国の問題に入らしていただきたいと思います。
一九八七年、つまりことしの世界
経済は、昨年に引き続きまして全般的に余り
活性化されない、大体低調で
推移するんではなかろうかというふうに考えております。世界のGNPの平均実質成長率は二%からせいぜい三%
程度ではないかというふうに見られます。
御承知のように、米国
経済がいわゆる双子の赤字、財政赤字と貿易赤字によりまして低迷から脱出できないということがやはり世界
経済の不活発の最大の原因ということは十分考えられると思います。今後の見通しとしましては、現在のいわゆる三低ですか、ドル安とか原油安それから金利安というものはやはりこのまま
推移する可能性が強いのではなかろうか。
貿易摩擦は、現在
日本とアメリカが焦点に上がっているようでございますけれ
ども、ことしは日米のみならず、日欧、米欧、それからアメリカとアジアのNICSという四つの絡みとなりまして、世界
経済は多極化的に動いていくのではないかというふうに考えております。現在の国際的な貿易不均衡というものは、このように多極的に拡大するか、あるいは現在のままで
推移するか、そういう中で、今問題になっております保護貿易主義の一層の高まりが高進しないだろうかというおそれを我々持っております。
途上国の債務累積問題というものは、また後ほど申しますが、これは非常に解決が難しい。現在、中南米、若干の中東諸国、それから最近とみに債務累積かここ二、三年増大してきたアフリカ諸国というものが非常に難しい国際金融問題を提起するのではなかろうかと見ております。ただ、一つ非常に意欲的な明るい面としては、韓国それから台湾地域、香港、シンガポールというようないわゆるアジアNICSが一層の
経済の成長を遂げて、南南格差といいますか、発展
途上国の中でひときわ目立ちまして、いわゆる準先進国の道を進む可能性がこの世界
経済低迷の中で非常に強い。そういう南南格差の拡大の可能性が八七年には非常に強いというふうに考えております。
そうはありましても、やはり米国というのは、御承知のように世界のGNPの大体四〇%を占めておる。その潜在力はやはり軽視できない。もしアメリカ
経済が大体二から三%
程度の
経済成長を実質的に遂げるならば、やはり世界
経済がこれ以上非常に深刻になるというのは何とか防げるんではなかろうかというふうに考えておりますが、これは先生方どのようにお考えか、後でお伺いできれば非常にありがたいと思います。
このような中で一つ、
アジア経済研究所の
研究成果の中で、
経済協力をどういうふうに考えるかということに焦点を絞りますが、
経済協力は今後、局地、局所的といいますか、例えば特定の国の特定の問題を詰めて、これを押さえて
経済協力を進めるということも非常に大事でございますが、すべて今
途上国の
経済というのは、先進国、中進国、その他いろいろお互い相互にリンケージしている。そういうことで
国別の
経済協力の
あり方、問題点というものを詰めると同時に、並行的にこの
国際経済の中でどういうふうにマクロ的にといいますか、体系的にこの問題を考えるべきかという問題にも我々は集中してやっております。一つの
経済協力のつぼといいますか、この国あるいはこの地域でどういうふうな
形態の
経済協力が必要かということを見る。人間の体で言えばつぼといいますか、これを我々は成長のメカニズム、グロースメカニズムと言いますが、その地域あるいはその国がどのような形の成長メカニズムを持っているかということを分析しております。
つまり一つの地域、国によっていろいろな成長メカニズムがございますが、その成長のメカニズムを持続的に
活性化する、さらに促進するということがその国の
経済成長を高める。ひいてはその他の国とのリンケージを持った相互依存
関係を高めるというふうに考えているわけです。その成長メカニズムがどういう形かということを押さえることで、近年
アジア経済研究所は、まずアジアNICSと
ASEANの国について分析的な
研究を行いまして、その結果の一部でございますが、これから御報告させていただきます。
まず、この要約の一ページに書いてございますが、
日本が今まで
経済協力を集中してきたのは大体アジア地域でございますが、これらのアジア地域というのは、例えば欧米が
経済協力を集中してきたアフリカとかあるいは中南米、こういう国に比べますと明らかに過去二十年間に大きな格差を持って成長してきた。つまり、アジアの
経済成長がほかの第三世界に比べて非常に目覚ましいということは、問題があってもやはり否定できないと思うんです。これは西側の国でございますが、東アジアと八SEAN諸国というものは過去二十年間に他の発展
途上国を引き離して非常に目覚ましい成長を遂げた。いわゆるアジアNICSと言われている国は、単に成長だけではなくて、それが雇用拡大を通じまして所得分配ももたらし、公平が成長を自動的にもたらす、つまり成長と公平がほぼ両立する形で進んでくることができたということは、他の
途上国と比べて非常に大きなフェーバラブルな
特徴ではないかと考えるわけです。
東アジア、
ASEANの国というのは、過去の一連の石油ショックそれから国標通貨のショックというものに非常に根強い抵抗力といいますか、非常に強い順応力を示しております。国際的な
経済あるいは国際的な変動があったときに、一時的には非常に大きな影響を受けて成長率が低下しますが、すぐさまそれを乗り越えて、それに対して粘り強い抵抗力を示す。それでもとに復帰するというふうな
特徴を過去において示してきております。
東アジア、それから
ASEAN諸国がこのような成長を示した仕組みというのはどういうものか、その成長メカニズムはどういうものかということでございますが、これは結論から言えば非常に簡単でございますが、一連のそれなりのデータを踏まえていろいろな分析をした結果、次の二つに要約できると思うんです。
一つは、これらの地域においては投資と輸出、特に製造工業品の輸出というものが非常にリンクしている、投資と輸出の好循環メカニズムがあるということです。これは簡単なようでも、例えば南アジアのインドを例にとりますが、最近のインドはかなりよくなっておりますが、昨今までインドそれからパキスタンも、投資をしても必ずしもそれは輸出拡大というものに結びつかなかった。それは国の
経済政策それから
経済の開放度等いろいろ問題があると思いますが、とにかく必ずしも投資が輸出に結びつぐということではなくて、東アジア、
ASEANの諸国においてはこれが非常に好循環でリンクした。これはかつて一九六〇年代の高度成長を遂げたときの
日本が経験した成長メカニズムに極めて類似しているということでございます。
もう一つは、いわゆる労働集約的な輸出を
目的としている軽工業と、それに原材料を提供します資本集約的な重工業というものが非常に並行的にリンクして発展してきた。これが第二の
特徴ではないかと思われるわけです。よく工業化においては、例えば村落工業から興し、次に労働集約的な軽工業を興す。それから順次重工業化するという戦略も過去にいろいろエコノミストの間に論じられましたが、アジアのNICSの成功例を見ますと、出発点は若干の相違があるとしても、その成長過程においては輸出志向型の軽工業とそれに原材料を提供する輸入代替型の資本集約的な重化学工業というものが非常にうまくリンクして発展した。これが第二の
特徴だと思います。以上、二つの成長メカニズムは必ずしも他の第三世界では見られない成長メカニズムでございます。
我々は、これらの地域のこういう成長メカニズム、グロースメカニズムを今後維持し、
活性化するような
経済協力を行うことができるならば、これらの地域世さらに持続的に、いろんな曲折変動はあるといえ
ども持続的にプラスの
経済成長を遂げていくことができるのではないかというふうに考えておるわけです。
アジア経済研究所は、ちょっと古くなりますが一九八二年に、当時アジア
経済が非常に不振な真っ最中でございましたが、そのときに今申しましたように東アジア、
ASEAN地域が八〇年代以降も引き続いて着実な
経済成長を遂げていけるだろうというふうな予測を報告いたしました。当時、このような意欲的な
研究成果に対しては、たまたま
研究対象地域が非常に
経済不振であったためにいろいろな批判が出されました。
しかしその後、状況は非常に我々の予測どおりたなっていきまして、八三年、四年、五年というふうに種々の問題はありましてもアジア
経済は着実に成長を遂げてきた。ここ一、二年はいろいろな問題がありまして、これらの高成長地域にもかなりの陰りが見えておりますが、しかし我々は依然として長期的な視点からはこれらのアジア
経済、具体的には
ASEAN諸国及びアジアNICSの成長潜在力というものに非常に強い意欲的な見通しを持っております。
ただし、今申しましたアジアNICS及び
ASEANの国の
経済成長にも、次の三つの心配な規制要因が考えられます。
一つは、
国際経済環境。もう一つは中国の工業近代化政策がどのように影響するかということ。具体的には中国の輸出志向型工業が発展した場合、国際市場で中国製品と今のアジアNICS及び
ASEAN諸国の工業製品が国際的な輸出市場でどのような絡みがあるのか。競合するのか、あるいは相互補完
関係があるのか、そういう問題でございます。三番目には食糧問題です。
これらの三つの規制要因がございますが、過去の例からいいますと、今申しましたアジア地域というのは
国際経済の不振といいますか、余り芳しくない状況にも非常に粘り強い抵抗力を示すということ。
それから、
国際経済環境の不振にもう一つのプラスの要因といいますのは、最近アジア
途上国同士の国際貿易というもの、あるいは直接投資というものが非常に活発になってきておる。そうなりますと、今まで対先進国一辺倒の彼らの貿易構造というものはかなり
途上国同士の貿易構造にだんだん変わっていくことができるのではなかろうか、若干楽観的かもしれませんが。そういう要因を含めると、現在の非常に懸念されている
国際経済環境、必ずしもダイレクトにそのまま彼らの心配材料と考えなくてもよろしいんじゃないかというふうに考えておるわけです。
それから二番目の規制要因、中国の工業化の影響でございますが、これは昨年の夏、
アジア経済研究所の中国に対する
調査団の一つに私も参加して、中国の東北地域の工業地域をつぶさに
調査する機会を得たのでございますが、中国の現代の工業近代化といいますか、高度
技術の移転及びその
普及及び定着というものに対する意欲は並み並みならぬものでございます。いろいろな問題、資金不足があり、また若干過熱ぎみな傾向がございますが、これが何年か後に、一九八〇年代に輸出市場に彼らの製品の一部が出るということは十分考えてよろしいのではないかと思うのです。一しかし、それでも我々の結論から申しますと、中国も含めたアジア地域というものは、競合もありますが、お互いに相互補完
関係というものが同時並行的に発展していくであろう。うまく相互にお互いに
協力し合うことによりまして、これらの地域は競合よりもむしろ相互補完
関係という
関係を強めていくことができるのではなかろうか。
最近の例をとりますと、急激な円高で
日本の工業製品というのは、アメリカ市場で例えば韓国、台湾の製品に圧倒されているという事実。しかし韓国、台湾は、特に韓国はアメリカ市場にその工業製品を輸出するために資本財というものを
日本から輸入しなければいけない。したがって、全体として見ると、これらの国は競合もあるけれ
ども相互補完
関係もあるというふうな現象が今顕著に出ております。私たちは、中国も含めて同じような
関係がアジアの比較的低所得国、中進国、それから
日本のような先進国との間に起こり得るのではないかというふうに考える次第です。
それから食糧問題でございますが、食糧問題は、これも結論から申しますとアジア地域は主食に関しては恐らく今世紀それほど深刻な問題は起こらないだろうというふうに考えております。これも昨今まではいろいろ問題があったのでございますけれ
ども、本来、アジアNICSそれから
ASEANの国というのは深刻な食糧問題のある国ではございません。ただ、主食の不足というものがインドネシアとかフィリピンなどで云々されましたが、現在それはいろいろな問題があったといえ
ども、いわゆる農業の
技術革新、ほかの言葉で言えば緑の革命において一応克服したと考えられます。
ただし、一つの心配材料としては、現在これらの地域の肉を含む畜産物の消費量が非常に急激にふえております。したがって、これらの畜産物の消費が今のままで増大したと仮定した場合には、将来これらアジア
途上国の穀類の自給率というものは非常に大幅に低下すると思います、必要ならば後でこれをデータで申し上げますが。これは、一九六〇年代の高度成長以降の
日本が非常に肉の消費量がふえたために穀類の自給率がどんどんと低下した。現在でも一年に二千何百万トンかの穀類を輸入しなければいけない。大
部分はえさのためである。そのために
日本の穀類自給率というものが著しく低下してしまった。それと同じような現象が今後のアジアNICS及びその次の準NICSといいますか、こういう国において徐々に起こるのではなかろうか。
そうなりますと、食糧問題は余り心配ないと申し上げましたが、この状態が一転する可能性は十分にある。率直に言いますと、畜産物を食べなければ問題ないのでございますが、しかし、これらの
途上国の畜産物に対する需要の所得弾性値というのは非常に高いです。具体的な数字を言いますと、〇・七、八、九、場合によっては一・〇、一・二というふうな非常に高い需要の所得弾性値を示しておる。それは今後、これらの地域が
経済成長を遂げ、一人当たりの所得が増大すれば畜産物の消費は急激に増大するということであります。これは何かの政策で規制しない限り、自然にそうなると思います。その問題をどうするかということが今後の一つの不安材料でございます。
さて、アジア地域においては、先ほど申しましたようにそれらの
途上国の工業化につれて競合もありますが、相互依存
関係も同時に発展してきている。これは単なる理想じゃなくて、それなりの分析をしますと、一九七〇年代の中ごろから
日本を含む
ASEAN、特にアジアNICSの間には競合とともに相互依存
関係というものが徐々に徐々に芽生えております。ただ、この相互補完
関係は、まだ最終生産物の貿易よりも中間財の貿易が圧倒的である。最終生産物の市場というのは、やはり欧米先進国に集中している。したがって八〇年代、今後におけるアジア
経済の重要
課題というのは、この輸出市場の
多様化でありまして、そのためには
経済協力による
途上国製品の品質の水準
向上というものも図る必要がある。そうすれば、
日本にも自動的にこれらの
途上国の製品がもっと入ってくるだろう。
日本の消費者の嗜好も
途上国製品へもっと向くだろうというふうに考えておるわけです、
しかし、たまたま最近の
日本の例のように、急激な円高によります生産の
海外シフトということで、今の問題はいや応なしに進んでいるような感触が見られるわけです。
以上は、かなり意欲的な見通しを述べましたアジアNICS及び
ASEAN諸国でございますが、これとは全く逆に非常に心配な発展
途上国のグループが二つございます。
それは、主に中南米、若干の中東を含めたいわゆる中所得国群で、もう一つはアフリカの、殊にサハラ以南の低所得国群でございます。これは私のサマリーの二ページに書いてありますが、これらの中所得国それから低所得国においては、八〇年代どうも
経済成長がだんだん行き詰まってきてしまった。一つは債務累積に直面している主に中南米のこれらのグループの国でございますが、もう一つはやはり飢餓と債務に直面しているアフリカの低所得国群、これを今後どうしたらいいかというのが今後の国際
協力の大きな問題としてクローズアップされるわけです。
私の申したいのは、アジアは――アジアというのは具体的にはアジアNICSと
ASEANですが、余り心配はないだろう。むしろこちらの方が世界
経済から見た場合、大きな心配である。世界銀行はこれらの国に構造調整という処方せんを打ち出しておりますが、今後どういうふうにしてこれらの
経済成長が行き詰まった国に我々として対処すべきかという点が大きな問題点になると思います。
次に、
経済協力を考える場合に、
途上国の限られた資源、また、
援助をする先進国側の資金といえ
どもこれは必ずしもあり余っているわけじゃなくてやはり有限である。限りある先進国及び
途上国の資金、資源をより有効に使うためにはどのような
経済協力を行うべきか。それはやはり各
途上国の発展段階に応じた
開発戦略とそれに絡んだ
経済協力を考える必要があると思うわけです。
まず、発展段階がまだ停滞期から動き出さないし、あるいは停滞期から徐々に徐々に動き出しているような国、アジアでは具体的には南アジアの諸国、それからビルマ、それから中国、まだずっとおくれますがインドシナ半島諸風、それからアフリカの低所得国でございますが、時間の
関係で簡単にポイントを申し上げますが、これらの国においては
経済の成長もそれほど高くなく、また、いわゆる先ほど申しました成長メカニズム、何らかの形の成長メカニズムというものがまだ十分に育っていない。したがって、先進国が例えば輸入増大してやるとか、市場開放体制をとってやるということをしても、それを有効に使うような反応ができない。したがって、これらの発展段階にある国については、先遣国の
経済協力あるいは市場開放体制に対して十分反応できるような市場メカニズムを育成するような
経済協力が必要である。
具体的には、まず生産基盤といいますか、これらの国の供給サイド、生産力を増大するような
協力だと思うわけです。それからもう一つは、まだまだたくさんのいわゆるベーシック・ヒューマン・
ニーズといいますか、基本的な人間の
ニーズを満たされていない人口がおりますから、これらの人口にベーシック・ヒューマン・
ニーズ、具体的には食糧、医療、衣服というふうな人間の最小限生きるために必要な
援助でございますが、こういう面の
援助をしなきゃいけない。これはむしろ救済といいますか、
途上国の困窮している人口に対する救済ということで、先ほど申しました先進国、
途上国の相互依存
関係ではなくて、どちらかといえば一方的な救済の
経済協力が非常に重要であると思うわけです。
次に、もう少し発展段階が進んだ準中進国といいますか、アジアの例では大体シンガポールを除く
ASEANの国がまずこの段階に入るわけでございますが、これらの国ではかなり国際的な
経済の動きに反応する市場メカニズムが育成されている。そこでは先ほど申しました生産基盤、生産力増大の生産基盤に対する
開発戦略及び
経済協力に加えまして生産物をより効率的に流通させる流通基盤といいますか、マーケッティングの基盤の
整備というものが並行的に行われねばならない。それと同時に、生産と流通をより効率的につかさどる
制度的な基盤を育成しなければいけない。最もわかりやすい農業の例でいいますと、生産基盤はまず例えばかんがいなどが生産力を増大する生産基盤である。流通基盤は生産物を市場まで運ぶ
道路とか、あるいは貯蔵設備でございます。
制度的基盤というのは、それらをつかさどる農民組合とか農業信用組合、こういうものでございます。
この第二の発展段階では、もう一つ重要な成長メカニズムをつくるような
協力が必要である。それは先ほど申しました成長メカニズムの複線化でございまして、例えば労働集約的な軽工業と資本集約的な重工業が並行して発展するような成長メカニズムをつくらなきゃいけない。これは一九七〇年代のアジアNICSが経験した成功例でございますが、これを促進するような
経済協力をする。これは具体的には、工業化に対する
技術の、あるいは資本の
協力であり、ハードとソフトの
協力でございます。
三番目に、発展段階が中進工業国
経済である場合、さらに進んだ場合ですね、現在のアジアNICSでございますが、この場合はより高度な
産業の
高度化を図らなきゃいけない。そのための高度
技術の移転というものが最も重要な
経済協力の対象だというふうに考えております。
以上で各発展段階別の
経済協力の考え方というものを我々の
研究の一部をベースにして申し上げたんですが、以上すべてをカバーする
経済協力で必要なものとしては、非常に簡単な表現で恐縮でございますが、やはりこれは
人づくりの
協力である。すべての段階の
経済協力、
技術協力でも、中度のいわゆる中間
技術においても、高度の
技術移転においても、やはり
人づくりに対する
協力というものがこれは非常に重要である。また、いわゆる政治的な絡みその他の問題がなくて、どの国にも長期的には必ず感謝される
協力になるのではなかろうかと思うわけです。
これは正確な数字ではございませんが、例えばアメリカには中国人の留学生が約二万人いるというふうに聞いております。これに対して、これも正確な数字ではございませんが
日本には約二千人の中国人の留学生がいる。将来これらのアメリカの二万人、
日本の二千人が自分の国へ帰って指導的な立場をとった場合に、彼らがどちらの方向を見るか。やはりアメリカの方を見る中国の指導者の数あるいは目の方が多くなるというのは、これは必然的だと思うわけです。
これでいいか悪いかという問題がありますが、例えば昨年私が訪問した東北地域の吉林でございますが、吉林大学ではごく最近まで
日本語を学ぶ中国人の学生の方が
英語を学ぶ中国人の学生より多かった。ところが最近情勢が変わりまして、
英語を学ぶ中国人の学生の方がふえてきた。なぜかといいますと、やはり学生の
受け入れ体制がアメリカの方が非常に開放的といいますか、容易であるし、また、学位も取りやすいという問題があるわけですね。この問題はどういうふうに考えるべきかということ。やはり
日本はアメリカに比べて非常に小さい国とはいえど、将来これらの
途上国が
日本に対して、より親密な目、より
日本と一緒に
経済の
開発を進めようという目、あるいは
日本と一緒に
協力して世界
経済の安定化といいますか、それを目指すための意欲というものは、今のままではむしろ太平洋を越えた米国に向く目が多くて、近隣の
日本を向く目の方が数少なくなるのではなかろうかと恐れますが、これは今後の我々の対策いかんで十分にカバーできるものだと思います。
いずれにしろ私が申し上げたいのは、とにかく小さい国でございますが、もっと多くの留学生を
日本は
受け入れてやるべきであろうということでございます。
次に、もう時間があと一、二分しかないのでございますが、私の要約の五ページと六ページに、「今後の
経済協力の留意点」とありますが、これはポイントだけ申しますと、後で
質疑応答がございましたときに入らせていただきますが、まず債務累積問題、それから一次産品問題、食糧農業
開発問題、それから保護貿易主義に対する問題というもの、それから
経済協力において民間の能力を大いに
活用する、
民間活力をいかにして
活用するかという問題です。
次に、以上のような先進国、
援助供与国、ドナーカントリーですね、これらに対して、それらの
経済協力をより有効に使うにはどうしたらいいかという問題、これは当然
援助を与える国の問題もあると思いますが、
アジア経済研究所は発展
途上国の問題を
研究している
研究所でございますので、我々は発展
途上国の
受け入れ側の問題というものを
研究してきております。
そこで、問題となっている幾つかの点を申し上げますと、私の要約の五ページの下からでありますが、
援助を受ける国の受容能力、アブソープティブ・キャパシティーと申しますが、受容能力がまだ低いんではなかろうか。せっかく
援助を与えてもそれをどこまでそしゃくできるかという問題です。それから
援助を受ける国の
開発行政力の低さですね。これは
技術者とか
人材の不足、それから行政機構の未
整備などの問題、これは
受け入れ国側で大いに改善をやってもらいたい問題だと思います。
それから
開発プロジェクト、例えば
途上国でどういうふうな
開発プロジェクトが、限られた資金を最も有効に使って最も効果を上げるプロジェクトであるかということを発掘する能力がまだ十分でない。これも
現地側の
努力あるいは先進国の
協力によりまして、もっと
開発プロジェクトを適切にピックアップする能力を養ってもらいたいということです。
次に、プロジェクト相互間の連絡性が不十分である。これはやはり
援助を受ける側が、受けた
援助を
国民経済全体の
見地から、より体系的に使うという
計画が十分でないのではなかろうかと考えられるわけです。
それから、完成プロジェクトのアフターケアが不十分の場合が見られるということ。さらに、国によりましては
援助なれによりまして自助
努力が後退してしまう。これはやはり問題である。こういうことがありますと、幾ら
援助をしても、もらうのが当然だと思われては困るのであって、やはりそれを使って自助
努力するということが必要ではないか。敗戦直後の
日本が
各国から
援助を受けても、それをベースとして非常に強い自助
努力で消化したということは、やはり率直に言いまして一つのよい手本、よい例ではないかと考えるわけです。
それからもう一つは、これは
途上国の問題というよりも、いろいろ問題、気の毒なんですが、最近の円高によりまして
日本からの円借款を受けている国の債務が急増する、これは当然でございますが、そういう状態になっている点、これは
受け入れ国側の問題であると同時に、やはり
国際経済情勢の問題であると思いますが、そういう問題が最近大きくなっているということです。
それから最後に、先ほ
どもJICAの
中村理事からもお話がありましたが、私たちは発展
途上国を
研究する
研究機関として、やはり
研究所、
研究をする
人材の拡充という必要性を特に強く申し上げたいわけです。現在、
アジア経済研究所の場合も、内外の
ニーズに応じた
研究の
要請というものは非常に多様に増大しております。また、
アジア経済研究所を訪問する外国の
研究者及びいろいろなグループのミッションというものの訪問が激増しております。去年一年でも約百四十人ぐらいの
海外の方がアジ研へ見えられまして、それに対応する我々、来られた場合、当然
研究所ですから、やはり何時間か時間を割いて彼らとディスカッションをして、またその
要請にこたえるということをやらなければいけませんが、それに対するやはり時間といいますか、エネルギー、国際
協力の
仕事の激増というものは非常なものでございます。
今後、このような
国際交流の増大及び発展
途上国の
経済協力に絡んだ内外の
ニーズに基づいた
研究の増大というものに対処するために、このような
研究所の体制
強化というものにより一層の御
理解をいただければ非常にありがたいと思います。
時間を四分超えて申しわけございませんでした。