運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1987-02-18 第108回国会 参議院 外交・総合安全保障に関する調査会委員打合会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十二年二月十八日(水曜日)    午後一時開会     —————————————   出席者は左のとおり。     会 長         加藤 武徳君     理 事                 杉元 恒雄君                 中西 一郎君                 堀江 正夫君                 志苫  裕君                 和田 教美君                 上田耕一郎君                 関  嘉彦君     委 員                 植木 光教君                 坂元 親男君                 下稲葉耕吉君                 鈴木 貞敏君                 永野 茂門君                 鳩山威一郎君                 林 健太郎君                 林田悠紀夫君                 松浦 孝治君                 大木 正吾君                 村沢  牧君                 山口 哲夫君                 吉岡 吉典君                 田  英夫君                 青島 幸男君    事務局側        第一特別調査室        長        荻本 雄三君    参考人        財団法人日本気        象協会調査役   朝倉  正君        東京大学教授   茅  陽一君        財団法人日本気        象協会相談役   末廣 重二君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○外交総合安全保障に関する調査  (地球規模環境破壊について)     —————————————
  2. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) ただいまから外交総合安全保障に関する調査会委員打合会を開会いたします。  本日は、国際社会問題のうち、地球規模環境破壊について勉強いたす、かようなことで、日本気象協会調査役朝倉正先生東京大学教授茅陽一先生日本気象協会相談役末廣重二先生の三先生参考人としてお出ましをいただいております。  御多用の中をお出ましいただきましてまことにありがとうございました。  私ども調査会は、両院に常任委員会特別委員会がございますけれども、参議院独自の制度といたしまして、昨年七月から、長期的広範な調査をいたそう、かようなことで調査会が誕生いたしました。  私どものこの調査会は、外交総合安全保障に関する調査会でございます。きょうは、三先生からいろいろ御意見をお聞かせいただいて、原則としてお一人三十分程度ということを予定いたしておりますけれども、時間には余り拘泥なさらず、若干の増減のことは結構でございますので、さようなお気持ちで御発言をいただき、その後、委員皆さん方で御質問がございます方は御質問願ってお答えいただく、かようなことで取り運んでまいりたいと思います。  なお、従来は各党会派の持ち時間なるものをセットいたしておりましたが、きょうは勉強会懇談会のような形式でありますから、余り持ち時間などということは頭にお持ち願わずに、御質問の方は御発言をいただく、かようなことで進めてまいりたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いをいたします。  それでは、三先生の御発言をいただきます順序は、まず、日本気象協会調査役朝倉正先生からお願いいたしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
  3. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 朝倉でございます。  私は、二年ほど前まで気象庁におりまして、専ら長期予報あるいは気候変動という問題を担当しておりました。当然そういう長い期間の予報になりますと、地球規模の問題を取り扱う結果になりまして、従前と違いましてかなり十年先あるいは二十年先という地球状態を考えていきますと、従来の自然的な要因だけではどうも問題は解決しないのではないだろうか、人為的な要因が年々増大しているのではないだろうかということが世界的なレベルで大きな問題になってきております。  酔いで申し上げますと、現在地球を取り巻いております大気というのが、あるいは取り巻いております環境というものが、果たして人間の体になぞらえてみますと健康体と言えるだろうかということを考えてみますと、例えば先進国では、高い生活レベルを追求していく末にエネルギー消費がかなりふえておりますし、そこには炭酸ガス増加あるいはフレオンガスによるオゾン層破壊などが起こっております。一方、発展途上国では、人口増加に伴いまして、森林破壊あるいは砂漠化というものが荒々しい気候を、あるいは異常気象をつくる原因になっているのではないだろうかということが、将来の地球を取り巻きます気候を考えますときには非常に重要な問題になってきております。  以前はこういうことがさほど大きな問題にならなかったのに、最近になってからこういうことが問題になったという最も大きな原因となりますのは、まずは人口急増でございます。世界人口が十億になりましたのは十九世紀の初めでございまして、人類発生が百万年前だとしますと、地球上の人口が十億に達するのに百万年かかったという歴史がございますが、その次に十億ふえて二十億になりましたのに百年、最初は百万年かかったのがその次は百年、その次十億ふえましたのが三十年、さらに十億ふえまして四十億になりましたのが一九七五年でございます。これは十五年で済んだということでございまして、まさに人口爆発という名前がつけられるにふさわしい急増ぶりでございます。  こういうような人口爆発は過去にもございまして、第一次の人口爆発と言われておりますけれども、これは主にヨーロッパとかアメリカ中心にして起こりました。ちょうど産業革命後に先進国中心とした爆発でございましたけれども、このときには生産力の増大がございまして、その人口扶養力が非常に高かったということ、それからアメリカ新大陸を発見することによって、そこで食糧を十分生産することができるということがございまして、さほど大きな問題は起きませんでした。  ところが、現在の第二次の人口爆発を考えてみますと、これは産業裏づけ生産力裏づけなしに人口がふえているということが問題になります。例えて申し上げますと、一九五〇年には世界人口は二十五億でございましたけれども、一九八〇年には四十四億にふえております。すなわちこの三十年間には人口が十九億ふえているのでございますけれども、これを先進国開発途上国に分けてみますと、先進国は三億、開発途上国は十六億となりまして、増加人口の八四%は開発途上国ということになっております。  この開発途上国人口がふえている理由としては幾つか挙げられておりますけれども一つには、先進諸国から公衆衛生技術が輸入された。そのおかげで死亡率が一挙に低下したために人口急増した。ところが、これを受け入れるだけの準備が社会的にあるいは経済的に各分野とも整えられていないまま、人口だけがふえていったということが開発途上国にとっては大変大きな重荷になっております。  これは一つには、子供をたくさん産んだ方が労働力になるとか、あるいは日本と違いまして教育水準が低いので親の負担が軽いとか、あるいは大家族主義なので老後の世話は子供に期待することができるので、子供はたくさん産んでいる方がいいというような特殊な事情もあろうかなとは思います。しかし現実には、例えば出生率で考えてみますと、出生率というのは全人口に対した出産数の比率でございますけれども先進国の約一八%に対しまして開発途上国が三六%、特にアフリカ出生率は非常に多くなっておりまして、先進国の約一八%に対しましてアフリカが約四六%というけた違いの増加を示しております。  これだけの人口がふえできますと、当然まずは食糧を何とかしなければならないという問題が起きてきます。例えばアフリカ人口増加率というのは年約三%ですけれども食糧増産でうまくいったとしてもその増加率はたかだか二%である。したがって、このまま人口がふえていけば当然食糧は不足するというのは目に見えている。これを何とかしなければならないという現実的な問題が起こるわけでございますが、一つには焼き畑耕地をふやしていくということがございます。  これは、約三百万平方キロの熱帯雨林に約二億人の人たちが住んでおりまして、この人たち焼き畑生活をいたしております。ところが焼き畑というのは能率がいい。人手だけで大した肥料もやらずに物をとれるということで、非常に能率がいいわけでございますけれども、通常は、一回焼き畑をやりますと次の八年から十二年ぐらいは焼き畑を使わない。土壌生産力が回復するのを待って再び焼き畑をするというのが従来の焼き畑のやり方だったわけでございますけれども、先ほど申し上げました急激な人口増加食糧生産が追いつきませんので、土地を十分休養させる時間を置くことができません。したがって次々と焼き畑をつくっていって、地方が回復しないのにまたそこに物をつくるということをやっております。そのために土壌の物をつくる生産力というのが非常に急速に低下してきまして、急速に低下いたしますと当然そこには荒れ地として残っていく。これがやがて砂漠化というか砂漠に転換していくということが現在起こっております。  それから、焼き畑に関連いたしますけれども一つにはまた森林破壊という問題がございます。人類文明が始まりまして以来、人類森林破壊しながら文明を育て、かつ発展してまいったわけでございますけれども、それにいたしましても森林破壊の現在のスピードというのは、過去のどの時代に比べでも余りにも速過ぎる破壊が進んでいるわけでございます。これは主にアジアアフリカ、ラテンアメリカで特に熱帯林中心といたしまして森林破壊が行われています。  現在の森林面積というのは二十年前に比べますと、二十年前は世界陸地面積の四分の一を占めておりましたけれども、現在はそれは五分の一に減っている。今世紀末になりますとそれは六分の一に減るのではないだろうかというぐあいに見積もられております。ところが、六分の一に減少するといたしましても、それを地域別に比較してみますと、先進国では現在に比べますと九九・五%ということですからほとんど減らない。それに対しまして開発途上国は約六〇%ですから四割は減るということになります。ですから、森林面積が四分の一、五分の一、あるいは今世紀末ですと六分の一になるといっても、それの実態はまさに開発途上国でこれが行われているわけでございます。  なぜ開発途上国でこういうことが起こっているかということを調べてみますと、現在はランドサットという人工衛星でかなり詳しくこれを調べることができておりまして、FAOとUNEPが一九八〇年から八五年の五年間にどのくらいの割合熱帯林減少しているかというのを調べましたところが、これが意外に急速に減少が進んでいるということがわかりました。先ほど申しました一九八〇年から八五年の五年間で見ますと、年平均で千百三十万ヘクタール、大体一年間に日本森林面積の約四五%が消えていっているということでございます。この減少率を見てみますと、熱帯アメリカ、これは中米中心でございますが、〇・六%、熱帯アフリカもやはり〇・六%、熱帯アジアが〇・五%ということで、どの地域をとりましても大体〇・六%から〇・五%ぐらいの割合で年々熱帯林が減っている現象がございます。  こういう熱帯林が減っていく原因といたしましては、先ほど申し上げましたような人口増加により食糧生産、農地拡大しなければならないので焼き畑でやるということがございますけれども、それ以外に現地の、開発途上国の方々の燃料というのがこれがすべて薪炭材ということになっております。例えば、大体十五億人の人たちが炊事と暖房のための燃料というものをすべて森林に依存しておりますので、居住近辺森林をどんどん破壊していっている。特にアフリカ南部サヘール地方というのがございますけれども、その辺でございますと近くの森林は全部燃料のために使い切ってしまいまして、百キロぐらい離れたところまで行かないと煮炊きする燃料が得られないというところまで現在は進んでおります。  それ以外に、先進国開発途上国に行きましていろいろな木材をとることがその熱帯林破壊一つであるというぐあいに言われておりますけれども開発途上国木材生産量を分類いたしますと、用材として伐採されますのが一七%、残りの八三%というのはこれがすべて燃料用に使われているということでございます。したがいまして、ほとんどが生活のために、生きていくためには食べなきゃいけない、あるいは食事をするためには燃料が必要であるというようなことのために森林がどんどん伐採されていくということでございます。  それともう一つは、これは中米で問題になっておりますけれどもアメリカへ安い牛肉を輸出するために森林を伐採して牧場開発を行っている。その牧場開発のために熱帯林破壊されているという特殊な例もございますし、また、国家政策上コーヒーとかパームオイルというような輸出農産物生産を拡大して外貨を得るというために大規模農業開発を進めておりまして、これでもやはり森林が伐採されているということもございまして、この三点についてはその人口増加に伴う森林破壊とは別に、経済的な要因として森林破壊されているという面もございます。  こういうような森林がどんどん減少していきますとどういうことが起こるかといいますと、それは土壌生産力が減退してきます。すなわち荒れ地になってその結果砂漠になっていく。  それからもう一つは、これは土地保水力といいますが、森林がありますと根が張っておりますものですから、雨が降りましても地面の中に水をためておくことができる。あるいは土砂が流れ出すことを抑えることができますけれども森林を伐採してしまいますとそういう地面の中に水分を保存していく能力がございませんし、あるいは土砂をどんどん流してしまう、水害の原因にもなるということがございます。  それからもう一つは、大気中に炭酸ガス増加させるということがございまして、これは後で茅先生からもお話があろうかと思いますけれども、当然森林が減りますと炭酸ガス消費能力減少いたしますし、あるいは森林土壌の有機物を分解促進させまして炭酸ガス発生量がふえる。あるいは焼き州とかまきを燃焼させますと、それによって炭酸ガス増加させることが出てくるというようなことで、大気中に炭酸ガスをふやす一つのソースになるというようなこともございます。  こういうような森林破壊がさらに進みますと、当然ここには砂漠化という現象が起こってまいります。砂漠化というのは、土地生産能力が枯渇する状態砂漠化と、簡単に言えばそういうことでございます。土地生産能力減少して生物的にも何もつくれないということが砂漠化なのですが、現在砂漠化の脅威にさらされている面積というのは意外に多うございまして、地球上の全陸地面積の約三五%、そこで生活している人口というのは世界人口の約二〇%で八億五千万人にも達する。そして一九八〇年以降砂漠化に至らなくても、生産性が低下しておりまして砂漠化の危機に直面しているというところが約二千百万ヘクタールという割合で年々ふえていっております。一九七七年に国連砂漠化防止会議というのが開かれまして、このときの報告によりますと、砂漠化進行速度ですが、これは毎年日本九州と四国の面積を合わせたよりもやや多い、年間に約六万平方キロの放牧地と農地が砂漠化しているという報告がございます。  種類別に申しますと、放牧のためには大体九州ぐらいの面積が、それから穀物ですと大体新潟県の約二倍ぐらいの面積かんがい地ですと大体沖縄本島ぐらいの面積が一年間に砂漠に転化していっている。このまま進みますと世界耕地面積の約三分の一が二〇〇〇年までに失われるという結果が推定されておりまして、砂漠化というのは非常に大きな問題になっております。  具体例で申し上げますと、例えばアフリカのサハラ砂漠の南側ですと、この十七年間に砂漠が約百キロ拡大した、南下したということになっております。あるいは南米チリの北部のアタカマ砂漠では最近十年町にここも百キロぐらい南に広がっているという状況でございます。  こういうような砂漠化が起こっている原因といたしましては、本質的には人口増加ということがございます。人口増加による食べる穀物生産ですが、そのうちの一つかんがい農業がございまして、大体砂漠化を起こしますところは水が余りないところで蒸発の活発なところなのです。そういうところで無理に農業がんがいをいたしますと、蒸発が非常に活発なものですから、泥の中に入っております塩分毛細管現象でもって地面の表面に上がってまいりまして、そして地表面塩分がたくさんたまってしまう、塩分がたくさんたまってしまいますと、ここは幾ら肥料をやりましても物ができない、結局それは放置して捨ててしまうということで、これはもう砂漠に転化していくということがございます。  それからもう一つは、土壌に適切ではないものをつくって農業開発をやるということが一つ挙げでございます。これは、生態系を無視して物をつくりますと、最初はよくとれましても土壌生産力が低下いたしまして土地再生力はゼロになる、再生力が不能という状態を招きまして、このためにその土地がまた砂漠化する。  あるいは、家畜をたくさん放牧しているわけでございますけれども、昔は牧草家畜との間にバランスがとれておりました。要するに、地球が持っております牧草生産力家畜との間にはちょうど収容能力家畜の数が合っていたわけでございます。  ところが最近のように、例えば一九五五年から七六年の約二十年間をとりますと、家畜は約三八%もふえている。特に著しい増加アフリカあるいはアジアで行われておりますけれども牧草の容量以上に家畜放牧したという結果になりますと、牧草を全部食べてしまうわけです。昔ですと、放牧して回ってきますと、また牧草が生えできますのでそこでよかったのですけれども、その次に帰ってきますと、そこにはまだ十分生えていないのにその牧草を食べる。そうしますと根まで牧草を食べてしまうということで根こそぎ草を食べてしまいますからその次は生えてこないということで、放牧し過ぎて砂漠ができるということが原因砂漠化がどんどん広がっていくということがございます。  現在、今日的に非常に重要な問題になっておりますのは、アメリカ干ばつが問題になるかなと思いますが、特に一九七二年から七三年、あるいは一九八二年から八三年の干ばつはかなり厳しい干ばつ発生いたしました。アフリカ干ばつについては国連を舞台といたしましていろいろな方策が立てられたわけでございます。このアフリカ干ばつは、おととし一時、一時的かどうかわかりませんけれども、かなりモンスーンの雨が戻ってまいりまして穀物も十分にとれた。昨年は、一昨年ほどではございませんけれども適当に雨が降りまして、かつてのような大きな干ばつは起きなかった。  干ばつがなぜ起こるかということについては、現在のところはまだはっきりしたことがよくわかっておりませんけれども現実に起こった干ばつを調べてみますと、これは地球を取り巻きます大気海洋との相互作用の結果にどうも影響されているのではないだろうかというぐあいな考え方が今出てきております。  申し上げますのは、例えば東南アフリカ干ばつを調べてみますと、一八七五年から一九七八年の約百十年間に干ばつが起こっておりますが、著しい干ばつが二十回起こりまして、そのうちの十二回はエルニーニョという現象が起こっている。それから百十年間にエルニーニョが二十八回起こっておりますが、その二十八回のうち二十二回がアフリカには干ばつが起こっているということで、そのエルニーニョアフリカ干ばつは関係があるのではないだろうかということが言われております。  エルニーニョというのは、これは東太平洋南米ペルー沖あるいはチリ沖ぐらいの赤道沿いに、いつもですと水温の低い状態が普通なのでございますけれども、数年に一回の割合水温がかなり高くなる状態が起こります。この現象エルニーニョと呼んでおるわけでございますけれども、ことしはエルニーニョ発生しておりますので、再びアフリカにも干ばつが戻る懸念がないというわけではございません。  また、約百年間のインドのモンスーンを調べてみますと、モンスーン活動が不活発だった年は大体エルニーニョの年に多いということがございまして、どうも大規模な千ぱっというのは、地球を取り巻く大規模大気海洋相互作用の結果こういう干ばつが起こるのではないだろうかということが現在の今日的な研究課題になっております。  ところで、森林破壊が起こりますとどういうように地球気象影響するかということについて、最近はバイオジオフィジックスという名前で新しい境界領域の学問が芽生えつつあります。またこれは完成されたものではございませんけれども、植物あるいは地面状態気象というのは大きく影響を受けているという研究でございまして、この研究によりますと、どうも人間活動森林破壊をしたりあるいは砂漠化を進行させると、それはもう取り返しのつかないような影響気候に及ぼしそうであるという計算結果が出ておりますので、それについて、時間がちょっとオーバーするかもしれませんが、二、三分余計時間をいただきましてお話し申し上げたいと思います。  実は、森林というのは地面に根を張っております。そこへ太陽の光が届きますと、森林太陽の光を使いまして、そして地面に張っている根を通りまして地面の中の水分蒸発させることに使います。ですから、私どもが夏など例えば公園のそばへ行きますと割合涼しい感じがいたしますのは、これは森林太陽の熱をとりまして地面からの水分蒸発させているので、熱が直接気温を高めないということで涼しい温和な気候になっておるわけでございますけれども、そういう役割をしております地球上の森林を全部取り払ってしまいますと、現在の地球平均気温が四度から五度ぐらい上がるのではないかという試算があるぐらいでございます。そのくらい森林というのは地球上の気候を温和な気候にするのに非常に大事な役割をしております。  これをちょっと学問的な言葉で申し上げますと、実は森林がございますと太陽の熱を吸収する、一方、砂漠がありますとそこはせっかく来た太陽の熱を反射してしまう。これは反射能とかアルベドという名前を使っておりますけれども、例えば森林の場合ですと、太陽から来た光の反射する割合というのが三%から一〇%ぐらい、一番多く見ても一〇%ぐらい。ところが砂漠ですと、もう三〇%ぐらいは反射してしまうという現象が起こっております。そうしますとどういうことが起こるかといいますと、例えば森林を伐採したとします。伐採したとしますと、もと森林がありましたときには太陽の熱を十分受けて、そしてそこでは地面から水蒸気を出して温度を余り上げないでよかったのですけれども、今度は太陽の光を反射してしまいます。  そうしますと、周りに比べますとそこでは太陽の熱を余りもらわないという結果になりますものですから、そこは上空から下降気流といいまして——低気圧があって上昇気流といいますと雨がるというのと全く逆なことをお考えになっていただければいいのですけれども下降気流が起こりますとせっかくできた雲が消えてしまうという効果がございます。これは計算機によるシミュレーションによりますと、森林を植えたところに低気圧が来ますと、低気圧が次々と発達していって雨を降らすことができる。ところが森林をとってしまいますと、低気圧が砂漠にしたところに来ると、もう低気圧がぱたっと勢力を失って雨を降らさなくなるという効果がございます。  したがいまして、人間森林を伐採して砂漠化をしますと、せっかく雨を降らせようと思った低気圧が勢力を失って雨を降らせないということになるのです。これを逆にして森林を植えておきますと、低気圧が来ますと雨を降らせる、雨を降らせますから今度は森林がよく発達する、発達しますとそこでは太陽の熱を受けて十分水蒸気を出しますから、次に低気圧が来ますとまた発達して雨を降らせますからまた森林がよく育つ、いい方向へいい方向へと行く。ところがそれを逆にしますと、今度は悪い方向へ悪い方向へ行くということが得られます。  現実に、例えば中国の東南端にあります雷州半島で、これは約二十七万ヘクタール造林しましたところが、年間の降水量が四十年前に比べますと三〇%もふえたという観測結果が得られました。これはかつて気象庁が異常気象レポートを出しましたときに、外国の気候学者に、気候の変動とかあるいは異常気象原因は何ですかということをアンケート調査をいたしましたときに出てきて割合数が多うございましたのが、森林破壊、あるいは土壌水分が少なくなっていること、これが世界的な異常気象原因として非常に重要であるということを指摘しておりますので、こういうことからも森林破壊というのが地球全体の気候、あるいは地球を取り巻く大気の健康診断をする上においてはこれは悪い病気に相当するのではないだろうかというぐあいに考える次第でございます。  以上でございます。
  4. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) ありがとうございました。  次に、茅陽一先生、どうぞお願いします。
  5. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 東京大学の茅でございます。  最初にちょっとお断り申し上げたいのですが、私は工学部の電気工学科の人間でございまして、一見エコロジーの問題と無関係のように見えますが、なぜこういう問題を私がお話し申し上げることになったかと申しますと、たまたま今から十数年前になりますが、ローマ・クラブという世界的に環境問題等に提言をしていこうという団体ができまして、それに大来佐武郎さんなどにお誘いを受けまして入りましたのが一つのきっかけでございます。  私がやっております分野は電力とかエネルギーといった分野でございますので、これは実は非常に環境問題と関係がある、いわばこういった分野での活動がいやが応でも環境問題に関連をするというわけでございます。そんなことでこのときをきっかけにいたしまして、特にグローバルな環境問題に個人的にも自分の仕事の上からも興味を持って現在までやってまいりまして、そんないきさつから御説明を申し上げるということになったわけでございます。したがいまして、いわゆる環境科学の専門家という立場からお話し申し上げるのではございませんので、そこだけ御承知をいただければと思います。  先進国中心となって発生していく地球規模環境問題というのは実はいろいろあると思いますけれども、最近よく騒がれておりますのは、先ほど朝倉さんもおっしゃいましたようなフロンによる成層圏のオゾンの破壊の問題、欧米を中心として発生しております酸性雨問題、それから全地球規模炭酸ガスの問題、こういった問題が中心であろうかと思います。ただ、時間もございませんのでこれをすべて申し上げることはやめまして、特に従来から大きく騒がれております酸性雨問題と炭酸ガス問題のみについて申し上げたいと思います。  酸性雨、アーシドレーンという言葉自身はしょっちゅう出てまいる言葉でございますが、これは実は非常に語源は古うございまして、一八七二年と申しますから今から百十年ほど前でございましょうか、イギリスで石炭を非常に使うことから、マンチェスターを中心にその当時でも公害問題が起きましてそのころに出てき在言葉でございます。したがいまして酸性雨という現象自身は決して新しいものではございません。その定義は非常に明確になっているというわけではございませんけれども、ほぼ国際的に合意ができておりますのは、大体pHあるいはペーハーと申しますが、酸性度をあらわす指標でございますが、これが五・六以下というのが普通の定義でございます。ここにいらっしゃる議員の方々も学生時代に画という話をお聞きになったことがあるかと思いますが、要するに七が中性でございまして、それよりゼロに近くなればなるほど酸性度が強くなる。逆に一四に近くなればなるほどアルカリ度が強くなるという指標でございます。ということで五・六というのは酸性の方にやや寄ったということになります。ちなみに我々が、その辺の淡水の湖で普通に見ておりますものは大体六以上、七に極めて近い数字になっているケースが多いようです。  さて、酸性雨問題でございますが、これが問題になってまいりましたのは一九七〇年ころから後のことでございます。参考までに簡単な図をお配りしております。これをちょっとごらんいただけるとありがたいのですが、これはとじ方が逆になっておりまして、後ろのページからになっておりますので、恐縮でございますが最後のページをあけていただきますと、上側に「北ヨーロッパの降水の画の変化」という絵が出ております。これはスカンジナビア諸国の降雨における画の値の分布でございまして、左側は一九五七年、約三十年前でございまして、右側が一九七〇年、それより約十三年後でございます。ごらんになりますとわかるように、明らかに時がたつに従って全体の画の値が小さくなっておりますし、しかも下に寄ってきておる、つまり酸性度の強い雨が降るようになってきたということでございます。現在はほぼヨーロッパでは大体四・五から五・五くらいの画の値を持った雨が降っていると言われておりまして、記録ではスカンジナビアでは二・四、イタリーでは二・六という記録がございます。二・六と言われてもイメージがおわかりにならないと思いますが、酢が大体そのくらいのオーダーでございます。それからオイルアンドビネガーというサラダにかけるドレッシングのビネガーは大体二・九でございますから、それよりももっと酸性度が強いということで、すさまじいものがあるということはおわかりになろうかと思います。  こういう酸性雨というものが降った場合どうなるかという問題でございますが、問題になってまいりましたのは先ほど申し上げましたようにスカンジナビア諸国でございまして、ここではまず湖が非常に多いわけですが、魚が減ってきたということでございます。淡水魚はこういった面バリューには非常に敏感でございまして、一般に六を切った水の中では余りすめない、大部分がすめないと言われております、画自身は酸性度は、先ほど申しましたように、現在でも四・五から五・五とかなり低いというか高いというか、いずれにしても酸性度が強いのですけれども、実際には、これは地面に落ちまして湖に入りますともっと中和されますので、湖の水自身ははるかに酸性度は低いわけです。これは誤解のないように申し上げたいわけです。しかしそういった意味で申しますと、やはり酸性の雨がたくさん降りますとどうしても湖の酸性度が上がりまして、魚がすみにくくなるということになります。その辺からスカンジナビアでいろいろな問題が出てまいりまして、国際的に議論が出て、例の一九七二年のストックホルムの環境会議でその問題が出てきたというのがいきさつでございます。  しかし、それ以上に実は大きな問題となってまいりましたのは、ヨーロッパ、特に中部ヨーロッパを中心といたします森の破壊の問題でございます。これは最近で言った方がよろしいと思いますが、ドイツでございますが、西ドイツを例に挙げますと、一九八二年には森の約七・七%程度が被害を受けていると言われでいたわけです。これでもかなり大きな数字なのです。ですが一九八五年、その三年後には実に五〇%、ほぼ半分が酸性雨の被害を受けていると推定されるようになったわけです。  皆様もよく御承知だと思いますが、西ドイツの一番南の端がシュバルツバルトと言われるちょっと高原になった森林地帯でございまして、これはバーゼルからフランクフルトに行く大きなアウトバーンがございますが、その東側に当たります。これは非常に有名なリゾート地帯で、森が多くて有名なところですが、ここでは実に七五%が被害を受けていると言われている。個人的な体験を申し上げるのはこの場にふさわしくないかもしれませんが、数年前にジュバルツバルトを車で中を走ったときに、私自身もその被害というのを知らないで見まして、何でこんなことが起きているのだろうと思ったことがございますが、それが酸性雨のせいだと聞かされて、実は唖然とした思いがございます。  酸性雨がそれではなぜ森にこういう被害を与えるのかということでございますが、完全に説ができ上がっているというわけではございません。ですが、一般に言われておりますのは、酸性雨が地面に落ちますと、それが燐とかカルシウムという木にとっての養分を溶解してしまう。それから葉の呼吸組織を破壊してしまうという形で、木自身が生育するための養分の吸収、あるいは光合成、あるいは呼吸といった機能を破壊してしまうのでどうしても生きていけなくなるということで、ドイツではバルトシュターベン、つまり森の餓死という言葉で呼んでおりますが、そういった現象が起きるわけです。ごらんになるとおわかりになると思うのですが、最初脱色いたしまして、色が消えてまいりまして、それから枝が脱落して、それからだんだん枝が広がってくると申しますか、万歳をしたような形になりまして、最後に白骨化する。これはごらんになった方があるかと思いますが、見ますと、木が白骨化して群れをなした形になっておることがよくございまして、大変気持ちの悪い現象でございます。  そういう形のものが出てまいりましたので、これはどうも非常に大きな問題であるということになりましたが、原因はどこかと申しますと、言うまでもなく工業生産、あるいはエネルギーの消費から発生いたしますSOx、NOx、俗に言われております亜硫酸ガス、それから酸化窒素でございます。これが酸性雨をつくり出しまして、地面に落ちて被害を与えているということでございます。これにつきましては、これは私の分野というよりはむしろ国会の議員の方々の分野かもしれませんけれども、国際的な対策というのはある程度従来から検討されておりまして、一九七九年には、ECEでは、長距離越境大気汚染条約、LRTAPと略称いたしておりますが、そういった条約ができまして、そういった酸性雨の原因になるような大気汚染物質の移動に関しての監視、それからこれをある程度規制しようという動きが出ております。これは発効いたしましたのが八三年と聞いておりますが、この年には、一九九三年までに汚染物質の排出を三〇%抑制しようという提案がなされまして、これに十数カ国が賛同をしたと言われております。  ただ、具体的に手を打っております国は、現在では西独が一番はっきりしておりまして、これは八三年に大規模燃焼施設規則というものを定めまして、こういった大気汚染物質の発生についてはっきりとした制約を加えるということをやっておりまして、その予定ですと、一九九三年までに亜硫酸ガスの発生を五〇%削減できると言っております。フランスも、そのようなターゲットをつい一年ぐらい前に定めております。  ですが、今度は逆にイギリスのような国は、御承知のように石炭の使用が非常に多いものですから、これを抑えるということ自身が非常な社会不安を招くということもございまして、現在の段階では、まだイギリスではほとんど規制に至っていないというのが現状でございます。ところが、現実にはヨーロッパの場合には、イギリスそれからオランダという西側の国々が大体そういった汚染物質を発生し、それが東側の国々、北欧諸国それから西ドイツ、東ドイツ、チェコスロバキア、それからイタリーといった国々に落ちて、いわば公害汚染物質の輸出、輸入という問題が出てきているわけです。そのためにこれをどのように制限するかというので、常にECの中で議論を闘わせているというのが現状でございます。  我が国の場合、酸性雨は、じゃ、ないかと申しますと、現実には降っている雨そのもののpHの値というのは決して中性ではございません。四・五ぐらいという数値もかなり記録されております。ただ、そうではございますけれども現実の被害としては余り知られておりません。つい最近、中国と我が国との間に酸性雨問題について検討を始めるという記事が出ておりましたけれども、実際の被害というのが確定された例は私の知っている限りではほとんどございません。  この理由はまだよくわからないのですが、一つ原因は、もちろん我が国における環境規制が非常に厳しくて、しかもかなり早い段階に施行されたというのが第一点。それから第二点は、我が国の土壌がかなり酸性雨を中性化する機能を持っているらしい、したがって、川に出るまでに雨はほとんど中性化されてしまっているということが第二点。それから、日本の植生というのは、ヨーロッパなどに比べますと比較的多様でございますので、環境的に割と強いという点が第三点。それから第四点としては、本来雨量自身がヨーロッパその他の国に比べますと多いということがございまして、これが理由ではなかろうかという説もございます。これが第四点。こんな幾つかの理由から、現段階ではまだ酸性雨の影響は余り日本では被害としてあらわれていないということかと思います。  ですが、今後、中国、特に太平洋岸におきます火力発電の立地が進んでまいりますと、そのような状況のままで済むかはやはり問題でございまして、特に中国の場合、御承知のように脱硫、脱硝という公害防除投資に関してはお金を出さないということを言っているケースが多いようでございますので、この問題は今後大きな問題となる可能性もございます。今後長い目で検討が必要かと考えております。  次に、二酸化炭素という問題でございます。お手元にお配りしました資料、実はその大部分は二酸化炭素の説明のために持ってまいった資料でございますが、最後のページをまず見ていただければと思います。  最後のページに「ハワイマウナロア山における大気中CO2濃度の年次変化」というのが出ております。実は地球観測年というのがありましたのが一九五八年でございますが、この年に二酸化炭素の定常観測ということが始まりまして、その一つのアウトプットがそこに出ている例でございます。  これは数字は三一五ppm、つまり百万分の三百十五から、そこに出ている数字ですと一九八〇年ぐらいまでの約三三〇から四〇ぐらいの数字までが出ております。ごらんになるとわかるように、振動しながらだんだん上昇しておりますが、振動しているのは季節の変動でございます。平均値を点線でかいておりますが、これを見ますと単調に増大しております。つまり、大気中の二酸化炭素、炭酸ガスでございますが、この濃度が確実に毎年上昇していっているというのが状況でございます。これは世界の中のどこではかりましてもほほ同様でございまして、数ppmの差はございますけれども、スウェーデンでの計測の結果でもほかのところの計測も変わりません。つまり、二酸化炭素というのは発生いたしましてから比較的速いスピードで地球全体の大気の中に拡散しているというふうに考えられます。したがいまして、この二酸化炭素濃度の上昇というのは、全世界共通の問題であるとお考えいただいてよろしいかと思います。  このように、二酸化炭素がふえてくると何が問題なのかということになりますが、ちょっと基礎的な科学の知識みたいなことで恐縮なのですが、真ん中の二枚目のところに七・一図というのがございまして、「炭酸ガスと水蒸気とによる吸収帯」というのがかいてございます。  これは何の絵かと申しますと、要するに大気の中にこういったガスがございますと、そのガスが光のエネルギーを吸収いたします。その吸収の率が縦軸に出ておりまして、そして横に波長が出ております。実は太陽光線というのは、この左の十から下の方に、左側ということになっておりますが、そこにほほ分布をしているわけでございますが、炭酸ガスというのはかなりこの絵で言うと右の方にございます。これは我々にとってはある意味ではいいことなのでございまして、太陽光線は炭酸ガスがございましても、ほぼ透過して地面に到達するのですが、それが地面である程度波長が長くなって、つまり単純に言いますと、熱波となって、長波となって大気に逆に放射をされる分がございます。つまり、地面から宇宙空間に出ていく波でございますけれども、それが実は今申し上げましたように、もっと波長が長くなりまして右側になってまいります。  それが、炭酸ガスとかほかのガスがあるおかげである程度吸収されまして大気中の温度を上げますので、我々は暖かい大気の中で生活できるということになります。その意味で炭酸ガスは大事でございまして、かつて昔、地球が非常に暖かかった時代は、炭酸ガス大気中濃度は二〇〇〇ppmという、現在の一けた上のオーダーであったと言われております。そういうことで、炭酸ガスはいわば温度を上げる役割をするわけです。したがいまして、炭酸ガス濃度が上昇していくということは、それだけ地球が暖かくなっていくということになります。  どれだけ暖かくなるかということなのですが、これは実は簡単にはすぐ結論は出てまいりません。これについては、二つのやり方で調べる方法が現在やられておりまして、一つは科学的な理論を使いまして、いわば計算機を使ったシミュレーションモデルをつくる、そして、そのモデルでどのぐらいになるかというのを計算してみるというのが一つの方法でございます。もう一つの方法は、過去で温度が上がったという状況のときをとらえまして、そのときに何が起こったかというのを調べるというやり方でございます。  今の吸収帯の下に出ております絵、これは大変変な絵で、北極から見た絵でございますのでちょっと見にくいのですけれども、左側にアメリカ大陸、右側にアジア大陸が出ております。これは過去百年間で温度が〇・六度程度上がったときにどうなったかという結果でございますが、ここに出ているのは実はまず雨を見ておるわけです。これをごらんになると、ぼちぼちとかいた砂漠の印になっているのは、乾いてしまった、つまり、雨が少なくなったケースでございまして、逆に斜線が引いてございますのは雨が多くなった、つまり、より湿潤になったというケースでございます。ごらんになるとおわかりのように、かなりの穀倉地帯、アジアでもそうでございますけれどもアメリカ、ソ連の穀倉地帯で雨が減っていることがおわかりになろうかと思います。  その一つ前の第一ページをごらんいただきたいのですが、第一ページの右側に変な絵が出ております。七・六回というのがございます。ちょっとおわかりになりにくい絵なので恐縮なのですが、これは先ほど申し上げましたような理論を用いた計算機モデルによる結果でございます。これは右側が、つまり横軸が時間でございまして、記号のように見えますが、Jと書いたのはジャニュアリー、つまり一月でございまして、一月からその次の一月まで、つまり、一年をあらわしております。縦軸は緯度でございます。南極から北極までということになります。  そこにいろいろな線が出ておりますが、実はこれは何をあらわしているかと申しますと、二酸化炭素濃度が四倍に上昇したと仮定したときに、温度上昇が何度になるかというのを計算機計算した例でございます。四倍というのは大変な上昇なのでぴんとこないように思われますが、理論的にはこれが半分な場合には、つまり、二酸化炭素濃度の上昇が二倍の場合にはここにある上昇率をまた半分にすればいいということがわかっておりますので、書いてある数字を二で割っていただければ、炭酸ガス濃度が倍になったときの温度上昇の値になります。例えば日本は、大体東京は北緯三十五度ぐらいでございますが、この辺ですとほぼこの数字では点線の五度というところに当たります。ですから、二酸化炭素濃度が二倍に上がりますと、ほぼ二・五度程度平均気温が上昇するというのがここにかいてある絵の結果でございます。  このモデルがどのくらい正しいかということはいろいろ問題がございますが、これは実は日本気象庁にかつておられたと聞いておりますが、眞鍋淑郎さんという、現在アメリカにおられる気象学者が十数年前からやっていらっしゃる研究一つの例でございます。このモデルがどのくらい正しいかというのはまだ議論がございますが、一つの検証例というのを申し上げますと、現在の炭酸ガス濃度、つまり、我々が現在住んでいる地球のほぼ三四〇ppmという二酸化炭素濃度、この状況で地球気温分布というのをこのモデルで計算をしてみるわけです。計算をしてみますと、南半球では海が多いせいもありまして比較的合わないのですが、北半球ではよく合います。つまり、我々自身が現在住んでいる地球気温分布に対しては非常によく適合するモデルになっているわけです。したがいまして、二酸化炭素濃度だけを例えば二倍に上げたというときに、同じモデルを使って計算をしてみた結果は多分がなりよく合うだろうということは想像できるわけです。そんなことで、まだいろいろ問題はございますけれども、このモデルの結果というのは現在は世界的に一番権威のある数字になっております。  なぜこういう温度上昇をするかというのは先ほど申し上げたとおりでございますけれども、これが起きますといろいろな問題が出てまいります。二・五度と先ほど申し上げましたが、これだけの上昇というのは我々が一生の間では経験し得ない温度上昇でございます。過去百年間の温度変化というのはプラス・マイナス〇・五度程度でございまして、二・五度というオーダーからははるかに及ばない。それと、温度上昇というのが実際に起きますと降雨パターンが変化いたします。つまり、雨が変わってくるわけです。  これは私の専門というより、両端のお二人の参考人の方の方が御専門なので、お二人から御説明いただいた方がよろしいかと思いますが、要するに降雨パターンというのは南の海とそれから北との間の一つ大気の循環ができておりまして、そのパターンが今のような温度上昇で変わる。したがって、例えば日本の梅雨が六月に起きる、それから九月に秋雨が降るという状況自身が変わってくるわけです。時期が動いてしまう。また、絶対量も変わるということになります。そういたしますとこれが農業に与える影響は非常に大きゅうございまして、先ほどの例で申し上げましたように、ソ連、アメリカの穀倉地帯はかなり大きな打撃を受けるのではないかということが言われております。  これは気象上の問題でございますが、あと五分ほどいただいてちょっと申し上げますと、二酸化炭素の場合にはまだまだ本当に何が起こるかというのはよくわからない面が多いのですけれども、もう一つ心配されておりますのは、南極の氷といういわばSFのような話でございます。この問題が出ましたのは一九八〇年代になる直前ぐらい、アメリカの「サイエンス」、これは日本の「サイエンス」ではございませんが、そこで発表されたのが初めてでございます。  これはどういうようなことかといいますと、南極の氷というのは御承知のように南極大陸の陸地に約二千八百メーターの厚さで張り詰めているわけです。ですが、端っこの方に参りますとこれは海の方にひさしのように張り出しておりまして、これがいわゆる氷の棚と言われている、アイスシェルフと言われている部分になっております。この辺の構造が非常に弱いわけです。したがいまして、温度上昇が起きてまいりますと氷が解けるといいますよりも、こういった棚の構造自身がかなり弱いものですから、棚が折れてしまって氷が海に落ちるという状況が生じます。これは解けるというよりは落ちると言った方がよろしいかと思います。そういたしますとこれは、氷は解けても解けなくても、アルキメデスの原理で海の中に落ちてしまえば同じで、海面はそれだけ上昇することになります。  地球の三分の二が海だと言われておりますので、海洋の海面の上昇というのはあり得ないことのように思われますが、南極大陸は御承知のように南米大陸に匹敵する非常な大きさのものでございますので、このくらいの氷の崩落というのは大変なインパクトがございまして、何メーター海面が上がるかというのははっきりいたしませんけれども、最終的には数メーターの上昇が考えられるということがよく言われております。これがいつ起きるのか、どのくらいのスピードで起きるのか、それからどのぐらいの危険度があるのかということは、正直なところまだわかっておりませんが、一たん起き出すととめられない、そしてそれが起きた場合には、地球の大都市というのはほぼ海岸に立地しておりますので世界に大変なマイナスの影響を与えるということだけは確かなわけです。したがいまして、温度が上がると氷が解けるという単純な話ではなくて、もう少し氷の崩壊という問題で我々の回りにも二酸化炭素の別の影響があるということは御承知いただけるかと思います。  こんなことで、二酸化炭素問題というのは非常に大きな問題だと思いますけれども、これに対する対策というのはそれでは何かということになります。それにつきましては、公害防除と同じように防除対策があるではないかという議論がございますが、現実にはないに等しいと言えます。ないに等しいと申しますのは、やろうとすると大変なお金がかかるということでございます。  例えば、現在考えられております一番易しい方法といいますのは、発電所のように大きなボイラーがあるところで、排煙のところに一種の化学物質を置きまして二酸化炭素を吸収させる、そしてこれを外して、そしてまた吐き出させて海に捨てるというやり方がございます。  海に捨てるといいましても、表面に捨てますとそのまままた大気に出てしまいますのでだめなものですから、出てこないほど深くに沈めなければいけない。というと大体三千メートルぐらい深海に沈めなければいけない。これも固形でやるか液体化するか、あるいは気体のままでやるかいろいろ説がございますが、一番安いのが気体のままパイプラインで運ぶ方法と言われておりまして、試算によりますと大体現在の発電所の発生する二酸化炭素の半分を今のような形で処理いたしますと、発電コストが大体倍に上昇すると言われております。二倍に上昇するというのは大したことがないように思われますが、現在一番公害コストの高いと言われております脱硝技術一つをとってみましても、トータルの設備コストの二〇%以下でございます。そういうことを考えてみましても、いかにこういうものが膨大なコストを要するかがおわかりかと思います。しかも、これは大規模なボイラーのある発電所という非常にいい条件の場合でございまして、二酸化炭素というのはあらゆるところで発生するということから考えますと、ほとんど現実的には処置は不可能だと言ってよろしいかと思います。  したがいまして、対策はやはりエネルギー源をより有効に使う、さらに非化石燃科に移行するということが一番ポイントになろうかと思いますが、このためにはいろいろな形での抜本的なエネルギーシステムの変革、社会的なシステムの構造変化というものが必要になります。これをどのようにしたらいいかということは我々エネルギー関係をやっております技術者の問題以上に社会全体の問題でございまして、こういった問題についてむしろ社会的な問題として取り上げて議論をするという風潮が最近は多いようでございます。ただ、いずれにいたしましても現在の段階までは全く何の対策もとられておりません。正直言いますと、国際的な舞台で議論をされているのはほとんどが科学的な舞台のみでございまして、つい最近で申しますとやっと今度の国連環境特別委員会でこの問題が取り上げられている程度でございます。  対策ということになりますと、今申し上げましたように全く議論されていないと言ってよろしいかと思います。しかし、これは人類の極めて重要な環境問題でございますし、これをどのように処置するかということはいわば人類の知恵がかけられている問題だと思いますので、私自身としては何らかの形で国ないしは国際的な社会がこれをできるだけ早い機会で取り上げていただきたい、そうすることが我々の子孫に対する一つの務めではないかというふうに考えております。  ちょっと時間をオーバーいたしましたが……。
  6. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) ありがとうございました。  それでは末廣先生、どうぞ。
  7. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 核の冬ということについて説明をするようにということでございますが、核の冬という言葉が最近大変世界的な注目を引きましていろいろの議論がなされております。  ただ、核の冬という言葉自体はやや正確な定義を欠くわけでございまして、ある意味では俗称と言ってもいいかと思いますが、大体意味するところは、万一大規模な核戦争が起こりますと、その結果、大気中に膨大な量のちり、煙あるいは大火災によるすすが放出されます。そういたしますと核戦争の当事国だけではなくてこの影響が広く全地球的に及びまして、このように大気中に放出された物質のために日射が遮られる、したがって地上付近の気温が低下するという可能性がございます。この気温が著しく低下する可能性から核の冬という言葉が出てきたのかと思います。幾つかの研究がなされておりますが、その中では核の冬という言葉は特に用いられておりませんで、大規模核戦争の地球環境に及ぼす影響というふうな言葉遣いがしてございます。  今、その大規模核戦争が起これば、当事国だけではなくて全地球的な影響が起こる可能性が大変あるのだということを申し上げましたが、その一例として、昨年四月に起こりましたチェルノブイリの原子力発電所の大事故がございます。あれは四月二十五日に事故が起こったのでございますが、一週間後の五月二日から三日にかけまして日本土空で放射能が急増いたしました。日本はチェルノブイリの現場から約八千キロ離れておりますが、一週間の間に現実にチェルノブイリ上空の空気が放射能を含んで日本の上空までやってきたということをこれは意味しているわけでございます。さらにこれから一週間たちました五月十圧には、この放射能の増加ということが全北半球に及んだわけでございます。このように地球上の我々を取り囲んでおります大気といいますのは常に大規模に動いておりまして、ある一カ所で多量の物質が空気中に放射されますと、これはほとんど、小規模の場合には全北半球、あるいは大規模の場合には南半球までその影響が及ぶということのいい例でございます。  また、これは一九八二年でございますけれども、メキシコのエルチチョンという火山が大爆発を起こしまして、数千万トンに及ぶ亜硫酸ガスを成層圏に吹き上げました。この成層圏に入りました亜硫酸ガスは硫酸の霧となりましてやはり全北半球へ拡散してまいりまして、直接太陽から地上へ、どこへも途中のちり等にぶつからないで真っすぐ太陽から地球に到達する日射を直達日射量と申しておりますが、これが日本の上空でも二〇%も減少した、これは実際の観測でございます。  ただ、この場合にはいろいろ空気中のちりにぶつかって間接的には結局地上に到達した、つまり全天の日射量はほとんど減らなかったわけでありますが、とにかく直達日射量というものは二〇%も減ったという結果が出ております。  このように地球上のある場所で大変な異変が起こりますと、それはその地域だけにとどまらずに全地球的な現象に発展するというおそれが十分にあるわけでございます。  こういった問題をとらえまして、実は国際学術連合というのがございまして、これは純学術的な世界各国の団体の集まりでございまして、例えば日本ですと日本の学術会議、それから英国ですと王立科学協会、あるいはソ連のアカデミー等が参加しております学者の最高の国際的連合でございますが、そのもとにあります環境問題科学委員会というのが、いわゆる核の冬、つまり大規模な核戦争が起こった場合に地球環境にどのような影響を及ぼす可能性があるかということの調査をいたしました。  こういった調査をいたしますためには、それでは大規模な核戦争というのは一体どういうことなのであるかということをある程度推定して、あるいは仮定してかかりませんと学問的な推定ができないわけであります。ところが、一方我々は、一体大規模な核戦争というのはどの程度の核爆弾をどういうふうに使うのかということに対してほとんど知識がございません。したがいまして、ある意味では相当大胆な仮定をいたしましてこういった推定と申しますか、研究の出発点にしたわけでありますが、そこでは現在超核保有国が保有している核爆弾の総量というのが、これも推定でございますが、一万二千メガトンとしております。ということは、これは広島に落ちました原爆の六十万発分という途方もない量の原水爆の貯蔵量であります。そのうちの約半分の六千メガトンを北緯三十度と北緯七十度との間でお互いにぶつけ合うという、まさに理性を全く失った出来事でありますが、しかもその六千メガトンのうちの千五百メガトンは空中で爆発し、残りは地上へ達して爆発するという推定を出発点としております。  したがいまして、広島の原爆の約三十万発分をお互いに投げ合うということで、これは超核大国の間で万々一こういうことが起こるということを基礎にしているのだと思います。  そういたしますと、煙の粒子、それから大火災が発生いたします。その灰、すす等から風によって十ないし十五キロメートルの高度にこうした物質が吹き上げられて、恐らく数日から数カ月大気中に滞留するであろう。そうしますと、大規模な核戦争では数日のうちに北米、欧州、アジアの大部分を覆う大陸規模の煙の雲が形成される可能性がある。  さらに、もしこのような大規模核戦争が夏季に発生するといたしますと、北半球の数キロメーター以上の高度に大量の煙が注入された場合には、通常の平均気温が、これは種々の条件にもよりますが、数日以内に二十度から四十度C低下する可能性がある。  それから、大体今までの火山爆発であるとかあるいはチェルノブイリから放出されました放射能等は、大体北半球だけにとどまって南半球への拡散というのは余りなかったのでございますが、もし夏場にこういうことが起こりますと、上空に上がりましたすすが太陽光線を受けて大変熱せられる。したがって、煙の南半球への流動性が高くなりまして、一、二週間以内に南半球の中低緯度地域に薄い煙の層があらわれ、南半球においても陸上地域を若干冷却化させる可能性があるということでございます。  さらに、相当部分は、これは我々今まで大規模な火山爆発あるいはチェルノブイリの場合でも経験したのでございますが、ある程度たちますと雨その他によって清められて、掃除をされてしまうわけでございますが、非常に高々度に吹き上げられて、そういった場所に安定化した煙は一年以上滞留するおそれがある、したがって、数カ月から数年にわたって通常の気温を数度低下せしめる可能性がある、こういう研究結果が一応提示されております。  そうしますと、例えば日本でございますが、たとえ直接核攻撃を受けなかったといたしましても、こういった意味で第二次的な災害の中に巻き込まれる可能性があるわけでございまして、恐らく数日から数週間にわたって気温が低下するであろう。もしこれが夏場であれば、稲作への影響が非常に大きい。  それからまた、地上を吹いております風に対してもいろいろな影響が起こりまして、核戦争の時期によっては梅雨のようなものがなくなってしまうかもしれない。  また、日本付近の海流にも影響が考えられまして、そうなりますと寒流、暖流にそれぞれ住んでおります魚が、とれる魚がとれなくなるといったようなことも結果として考えられるわけでございます。  ただ、問題点は、こういった推定をいたしますためには、まず第一の出発点として、一体核戦争が起こったらどういうことをやるのか。これは核超大国はそれぞれある種のシナリオと申しますか、計画なり何なりを持っているのだろうと思いますが、それはもちろん明らかにされておりません。したがいまして、冒頭に申し上げたような、ある意味では非常に乱暴な仮定をして、それを出発点にしたわけでございます。  それから第二は、そういった多量の煙、すす、ちりが空気中に出た場合に、それがどういうふうに全地球上に拡散していくか、というためには、地球を取り囲みます大気の中で一体どういう運動が起こっているかという、これは地球大気大循環モデルといっておりますが、そのモデルに最初の条件を当てはめまして大型の計算機計算をするわけでございますが、現在開発されております地球を取り囲みます大気大循環モデルというのは、これはまだ完全に開発されておりません。したがいまして二点、大変不確かな点がございます。  もう一遍繰り返させていただきますと、そもそも出発点においてどういう現象が起こるのであるかということと、それから、それが地球上に影響を及ぼすための大気中の空気の動きは一体どうなっているのかということもまだ十分に解明されておりません。したがいまして、今、国際学術連合の環境問題科学委員会が出した報告書ということの要約の部分を御紹介いたしまして、大変ショッキングな報告でありますが、この持っております精度というのは大変低うございまして、あくまで可能性があるということでありまして、現実に必ずこういう結果が起こるというところまでの確信は当然ないわけでございます。しかし一方、こうした大規模な核戦争が起これば、当事国だけではなくて、地球上のほとんど人類全体を巻き込む可能性が極めて高いということも、これは我々認識しなければならないところであろうと思います。  こういうことに大体世界的にどう取り組んでいるかということでございますが、実は気象業務と申しますのは、いかに日本の国内だけで各種の観測装置あるいは解析するコンピューター等々が進んでおりましても、これは御案内のとおり、中国の気象条件、あるいは冬場ですとシベリアの高気圧が勢力が強いか弱いかといったようなことで、あした、あさっての日本の天気というのは大きく左右されますので、私ども世界的に気象のデータを交換しませんと、これは俗に気象に国境なしと言われているとおり、どの国も気象業務ということは成り立たないわけでございます。そのために国連の専門機関の一つといたしまして、柄は小さいのでございますが、WHOとかあるいはユネスコと肩を並べる地位にWMO、これは世界気象機関と申しておりますが、これがございまして、世界じゅうの気象業務の調整等を行っております。  ここの場で今まで何回かごの問題が提議されたわけでございまして、最初は一九八三年、昭和五十八年ですが、東ドイツから、核兵器の使用が大気気候に及ぼす影響ということについて、調査グループを設置して、WMOとしてこの問題に取り組むべきであるという提案がなされたのでございます。いろいろ検討いたしました結果、最初に申し上げました、一体出発点としてどういう気象的な現象が起こるのかということが全然わからないために、どうもちょっと取り上げようがない、必ずしもWMOが最適の場所ではないという意見が多うございまして、この年には特にそういった特別な調査グループは設置されませんでした。  さらに、第三十六回のWMOの執行理事会、これは昭和五十九年、翌年でございますが、同じようなことがさらにソ連から提案されまして、この際には小作業グループで検討いたしました結果、WMOというのは政治色のないのを特色とした機関でございますが、政治色を完全に除いて純粋に科学上の問題として取り扱うことという条件をつけまして、このWMOと今申し上げました国際学術連合との合同科学委員会というのがございますが、そこへ委託をしてこの問題に取り組んでもらって、その結果を次回のWMOの、これは毎年開かれておりますが、執行理事会に報告を提出してもらうということになっております。  さらに、第三十七回のWMOの執行理事会、一九八五年、これは一昨年でございますが、このWMOと国際学術連合との合同委員会の委員長から、核の冬に該当する気温低下は起こり得るかもしれないが、その計算根拠としての核爆発のシナリオ、つまり現実にどういうことが起こるかということでございます。そのシナリオ選定と、その際の物理的、化学的条件に関して不明点が多数存在するということが報告されたわけでございます。したがいまして、さらに研究調査を進めまして、第十回の世界気象会議、これは四年にこ遍開かれる会議でございますが、これはことしございます。これに必要な措置を付して報告するように求めたわけでございます。また、WMOの事務局長に対しては、親機関であります国連の第三十九回総会で、こういったいわゆる核の冬に関する研究成果を少なくともきちっとファイルしてとっておくようにという決議がなされておりますので、その一環としてことし提出されるであろう報告国連総長へ提出するというふうに現在勧告されているわけでございます。  こういったわけでございまして、一口に核の名といっても問題が複雑多岐でありまして、非常に深刻な結果を予測なさる方もありますし、逆に、いやそれほどでないというような結果をお考えの方もございますし、その間、大変意見が大幅に分かれておりまして、なかなか結果に対して精度が高いというところまで現在行っていないわけでございます。  ただ、核の冬ということを余り強調いたしますと、これは核戦争の二次災害だけに何か焦点が移ってしまうといった傾向もなきにしもあらずでありまして、万一大規模な核戦争が起これば、当事国は筆舌に尽くしがたい大被害を受けるわけでございます。これは直接、気候地球環境影響がそれほど大きくなくても、もう世界経済というものがほとんど破綻に瀕するわけでありますから、そういった意味で核の冬という、つまり地球環境に及ぼす影響ということも決して忘れてはなりませんけれども、やはり核戦争の災害の全体像ということは正しく理解して、核戦争防止ということに我々は努力すべきであろうと思うわけでございます。
  8. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) 三先生、どうも貴重な御意見をありがとうございました。  それでは、御質問のある方は御発言を願いますが、着席表は三先生には配ってはございますけれども、余りかた苦しくなく、名前をおっしゃっていただいて御質問を始めていただきます。  それでは、どうぞ御質問のある方は。
  9. 中西一郎

    ○中西一郎君 中西一郎です。大変勉強さしていただきましてありがとうございます。  この委員会自身が外交総合安全保障ということになっていますが、まだ一般的にこういった地球規模環境問題を当調査会がやっておるということを知っている議員さんも少ないのじゃないか。あるいは一般的にはマスコミの諸君もまだ知ってない。そんな現況なのですが、我々与野党協力しながら、大きな問題ですから将来に向かって精力的な取り組みをしていかなければならないという使命感を実は持っております。きょう初めて三先生にお見えいただきました。それで国会としてどう動いたらいいのかという問題もあります。いろいろ政党もございます。私は自民党でございますが、それぞれの政党でも考えなきゃいかぬ問題でもございましょう。まあ残念なことに余り政治の表舞台に出てないというのが現状ではないかと思います。  そこで、お三方それぞれにお聞きしたいのは、こういう問題を踏まえまして近代工業文明といいますか、化石エネルギーの話も出ましたが、エネルギーを多様化していく、浪費をする、資源は有限である、環境破壊される、こういった近代工業文明の動きに対して何らかの歯どめといいますか対立した思想体系というのか、産業構造をこう変えていくのだとか生活スタイルをこういうふうに変えなきゃいかぬのじゃないかとか、余り議論されていない部門というものをそれぞれ研究していく必要があるのではなかろうか。  そのためには、国際的な機関がいろいろおありのようでございまするけれども、目的を一本に絞って国際研究機関というようなものをつくる、そしてそれぞれ先進工業国、途上国に適切な産業構造とかあるいは生活のスタイルとかというものの絵をかくという努力がなされなければならないのではなかろうかと思うのです。ある意味では現在の文明に対する反省。今、エコロジーの話も出ましたが、あるいはリサイクルの問題なんかも含めて新しい人類目標に向かっての努力というものに取りかかるべき時期が来ておるのではないか。もう既に始まっておるのかもわかりませんが、不敏にして私は知らないのですが、そんな点について御所見がありましたらお願いをいたしたいと思います。
  10. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 大変に難しい問題で、きょう私を含めまして申し上げた問題点は、どちらかといいますと問題提起をしたというような形で、一体どうしたらいいかということについてはほとんど方策を持ち合わせていない。一般に環境問題ですと、大変だ大変だということをかなり声高く言うことは可能なのですけれども、それじゃどうしたらいいかというように具体的になりますと、かなり声が小さくなるというのがきょうの場合にも言えると思います。  それから、きょうの三人の参考人に共通して言えることは、まだ科学的にサウンドな結論として申し上げるまでには本当は至ってない、人類にとっては非常に大事な問題になり得るのではないかという危惧を表明していますけれども、どの程度大変なのかとかいう量的な問題あるいは地域的な問題については、現在の地球科学の方ではそこまでの実力をまだ持っていないのではないだろうか。それから、当面としてはそういうことの科学的な研究をもっと増進させるための国際的な取り上げ方というのが非常に重要ではないだろうかというぐあいに私は考えます。  以上でございます。
  11. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 今の御質問に対しましては、いろいろお答えしたい問題はあると思うのです。  まず一つは、こういうグローバルな環境問題に対して何か抜本的な対応の考え方はないかという点でございますが、そういう考え方についてはいろいろな議論は出ております。例えば、よく御承知かと思いますが、約十年前にアメリカのエモリー・ロビンズという男が「ソフト・エネルギー・パス」という本を出しましたが、これは単にエネルギーの問題というよりも、人間社会の発展形態が大規模集中型を中心としてきた、こういう形でいいのだろうかということに焦点を当ててそれと違った考え方を示したもので、大変に物議を醸したわけでございます。  その後、実はこれは私も多少関係しておりますが、一九八〇年前後に例の大平総理が私的諮問機関という形で研究会をつくられました。その中に、科学技術の史的展開というグループが私どもの名誉教授の佐々教授を中心につくられまして、私もその一員でございましたが、そこでホロニッタパスという提言をいたしております。これはその後本その他にもなりまして、大分世の中に膾灸されたような気もいたしますが、こういった形で何か違った発展形態自身を考えてみる必要があるのではないかというのが現在世界的にも、また我が国の中でも起こっている議論でございます。  それでは、そういうことを踏まえまして国際機関なりあるいは国の機関でどうなのかということでございますが、今、朝倉さんのお話にもございましたように、まず必要なことは研究調査ではないかというふうに考えております。と申しますのは、例えば二酸化炭素問題一つにいたしましても、実際には発生した二酸化炭素の約半分ぐらいが大気中に残っているという計算になるのですが、あとの半分がどこにどう吸われたのかというのが科学的にまだはっきりとした答えが出ておりません。実際には海であるとかあるいは植生、つまり森林であるとかといったことが考えられるのですが、現在の我々の持っている知識ではちょっとそういう簡単な説明ではできないわけです。したがいまして、やはりこういった地球環境問題についてはかなり大規模調査研究が要るという段階になっておりますので、それをやらなければいけないと我々常に考えていることがございます。  ところが問題は、そういったことをやろうとした場合、どこがやるかということでございます。国際機関というお話がございましたが、実は国際機関がやるのがいいのかどうかという点は私自身まだよくわかりません。というよりか、個人的にはやや疑問を感じております。  と申しますのは、現実に国際機関と申しますと、公的なものはOECDあるいは国連ということになりますが、例えばこういった環境問題でございますと、UNEPという組織が既にストックホルムの環境会議の決議によって発足しております。ところが、現実にこういうところではいろいろなことはいたしますけれども、実際の研究そのものをやる段階まではなかなか至らないということが現状でございまして、本当に研究能力というものをそういった国際機関に付与すべきなのかどうかということが私にはよくわからなくなっております。  また、一見民間でございますが、現実には、各国政府が関与いたしました国際機関で、ウィーンにIIASAという研究所がございます。これはインターナショナル インスティテュート フォーアプライド システムズ アナリシス、つまり応用システム解析研究所というようなのがございまして、これはアメリカ政府とソ連政府の主唱で一九七二年に始まりまして、それに日本も賛同いたしまして、現在十六カ国で運営している機関でございますが、こういうところはまさに今のような問題をやるということで始まったわけでございます。  現実にかなり現在でも力は入れておりますが、その後政治的な状況の変化で、アメリカがレーガン政権になってから脱退いたしまして、合衆国政府としては脱退をしたわけです。したがいまして、財政的な危機に瀕しまして、民間がこれを支えておりますけれども、今もってその後遺症がなかなか抜けないという状態で、ちょっとした政治的な事情の変化によって研究所自身が研究がうまくやれなくなってしまうという状況は、私にとっては大変悲しい事実だという気がしております。その意味で言いますと、むしろ国の機関が、それぞれの国で力を入れてやる、そして協力をするという体制をもっとつくるべきだと感じております。  例えば二酸化炭素問題では、アメリカーのDOE、エネルギー庁がカーボンダイオキサイド・リサーチセンターというのをつくりまして、ここで大規模研究発注を行っております。これは現在の段階ではステート・オブ・ジ・アートの段階の調査でございますけれども、我々が見ましても、現段階では世界で望み得る最高の結果を出しております。日本ではこういった研究というのは実はまだほとんど行われておりませんで、また、各自の研究者は自分一人でやろうとしても手に余る。また、仮にやったとしても業績がなかなか出ないということから、現実には行われていないというのが現状でございます。その意味で、私も文部省などにしばしば働きかけをいたしますけれども、こういった国会の席でお願いするのは妥当かどうかわかりませんが、やはり国がこういった研究に対して少しはインセンティブを出していただきたい、何とか研究者にそれをやるということのバックアップをしていただきたいというのが私のお願いでございます。
  12. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 私は長いこと気象庁でお世話になっておりまして、最後の五、六年は今御紹介申し上げました世界気象機関の年会にも何回か出席したのでございますが、そこでの、人類の将来に対して重大な影響というよりはむしろ危機をはらんだ、既に両先生から御紹介になりましたいろいろな事象があるわけでございます。  それで、私どもの認識としましては、確かに今わからないことがいろいろまだございますけれども、それが全部わかった段階ではもう遅い、その前にやはり何かしなければならないということで、何年か前に世界気象機関が、気象家だけ集まっていてもどうもアピールうまくできない、したがって、政治家の方もあるいは経済の方も実質的にこういった地球環境が一方方向へ悪化しつつあるということをよく訴えて、それに対するわからないことがあればさらに研究を進める援助をいただくし、それから現在置かれている深刻の度合いということをよく御理解いただくような何か世界会議みたいなものを開こうという動きがかつてございました。  しかし、残念ながらそれが実を結ぶまでには至りませんで、立ち消えになってしまったわけでございますが、現在そういった国際機関では世界気候研究計画というものを世界的に取り上げておりまして研究を進めております。やはりこれは来年、再来年の問題ではないのでありますけれども、今繰り返して申し上げますと、すべて気がついたときにはもう遅いという危機をはらんでおりますので、それを広く実際に世界を動かしておられる政治家の方によく御理解いただくような何らかのアピールする場を私は持つべきである。  我々人類が当面しております大きな問題が二つありまして、一つは何と申しましても核戦争の防止あるいは軍縮ということで、特にやろうと思った核戦争でなくても、何らかの偶然の間違いで引き金を引いてしまうということもなきにしもあらずでありまして、非常にそういう危ない状態に我々が置かれているということと、それから何もあした、あさってではないけれども、真綿で首を絞めるように地球が悪い方向へどんどん動いていもというこの二つのことに対しまして、片方につきましては軍縮特別総会というのが国連にありまして、これは何年かに一遍軍縮だけを目標にして設けられておりますが、地球環境につきましても、そこまで最初からいかなくても、やはり国際機関の大きなバックアップということが、茅参考人のおっしゃいましたよりアカデミックなレベルでの研究をさらに促進するということにもなると思いますので、私はそういう方向を望んでおります。
  13. 林健太郎

    ○林健太郎君 茅参考人にちょっとお伺いいたします。  最初にローマ・クラブのことをちょっとおっしゃいましたね。あれは経済成長のリミットというようなことで出発したわけです。ところがそれではおかしいというような議論が出ましたのですけれども、一体あのクラブの考え方というのは今どうなっているのか、それからどういう活動をされているわけですか。
  14. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 昔の先生質問を受けるというのは大変答えにくいのですが、実はローマ・クラブというのは、御承知のように、こういったグローバルな環境を含めまして一九七〇年にスタートいたしまして、一九七〇年代は専らそういったグローバルな自然と人間の社会との相克の問題というのを中心に議論を進めていたわけです。そのこと自身はもちろん今解決されたわけではないのですけれども、そういう意識自身はかなり世界的に広まりまして、そういったことを言う機関もほかに出てきたという考え方から、一九八。年代になりましてから、そういう問題もございますけれども、それ以外に人間の価値の問題であるとか、技術と社会との相克の問題というやや幅広い問題にある程度提言をする形になってきております。実は今から三年ほど前に会長であったペッチェイというイタリーの会長が亡くなりまして、そのためにちょっと全体の流れが少し変わったことは事実でございます。  最近の動きと申しますと、実は今申し上げましたようにグローバルな環境問題そのものというよりはむしろ世界の平和であるとか、あるいはそういった社会との相克の解決という問題に非常に熱意が入っておりまして、最近私が受けました連絡によりますと、昨年末にはキーメンパーがゴルバチョフと三時間ほど会談をいたしまして、そこでかなりレイキャビク会談の結果のゴルバチョフなりの説明を受けた、それで非常に大きな感銘を受けたという話も聞いております。  そういったことで、昔の自由な立場からのグローバルな環境問題、資源問題に対しての発言という立場からややもう少し人間臭くなった行動に現在はなってきている。しかし基本の姿勢は、やはりグローバルな問題を自由な立場から発言し、意見を言って世の中に警鐘を鳴らしていこうという姿勢は変わっていないと思っております。
  15. 志苫裕

    志苫裕君 社会党の志苫ですが、今、先生方の話を伺っていまして、人類というのか人間というのは利口そうなことをしていて、ばかなもので、これはやっぱりだんだん滅びるのかなと、私はそんな印象を強く持ったのです。  朝倉先生にたった一つだけでいいのですが、とどのつまり緑がなくなってしまってさまざまなことが起きていく、それが南の方に集中、象徴的にあらわれているというわけなのですが、結局、南の貧困というところに最大の問題があるのでしょうか。だとすれば解決法、対策、手の打ちようというのは一応出るわけですが、その点はどうなのでしょうか。
  16. 山口哲夫

    ○山口哲夫君 関連して。  今の問題なのですけれども、途上国が随分森林燃料にしてしまうというお話がありまして、そういう問題に対して、国連なら国連として燃料面からの対策というのですか、今、志苫先生の方からもいろいろとお話がありましたけれども、そういう面についての何か対策を講じているものなのかどうなのか、ちょっとお聞きしたいと思います。
  17. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 森林伐採のほとんどがやはり経済的な貧困の上に人口がふえているという悲劇的な、人類が抱えている問題だと思うのです。これは特に食糧問題に関して南北の落差が余りにも大き過ぎる。例えば、今世紀末まで考えますと、食糧については大体生産も需要もバランスしているという計算になっていますけれども、南北で見ますと、先進国は余剰農産物を抱えている、どうしようもない。ところが開発途上国は足りなくて困る。これはグルーバルに考えれば、食糧はバランスしていますけれども、南北の問題で考えますとバランスしておりませんで、そのために森林伐採などが起こりますので、これは全く経済的な問題にイコールされていいのではないかなと思います。  ただ、経済的な問題についても、それは援助すればいいのかとかという単純な問題ではないだろうとは思いますが、本質的にはそういうところに問題があろうかなと思います。  燃料の問題も、やはりこれも経済的な問題で、食糧についても、例えば日本が貧困ならば、外国から食糧を買うお金がなければ、すぐ現状では飢餓に達するところなのですけれども、外国から買うお金があるから我々は飽食でいる。全く同じように、開発途上国に十分なお金があって、先進国と同じように石油あるいは石炭を買うことができるということであれば、これは森林を伐採しないでも済む、私はそういう問題であろうと思います。  ですから、人類全体として、赤十字的な意識でこの問題に対応すればいいと言えば、確かに子供に説明するにはいいのかもしれませんけれども現実の社会としては、これは非常に人類がしょっていかなくちゃならない大変大きな矛盾であって、御質問のような世界的な規模でエネルギーをうまく安くアフリカあるいは開発途上国に提供するシステムがあるかどうかということについては、私は専門外なのでよく存じておりませんので、茅先生御存じでしたらお願いします。
  18. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 今のお話にちょっと関連いたしまして、発展途上国のエネルギーでございますが、これは非常に矛盾した事情でございまして、御承知だと思いますが、アジア諸国のほとんどの国では大体薪がエネルギーの主要な資源でございます。  例えば、数字で申しますと、インドで約六〇%、インドネシアで五五%ぐらいがそういった資源でございまして、石油とか石炭といういわゆる商用エネルギーは半分ぐらいないしそれ以下でございますね。そうした場合、単純に森林伐採をして森林が少なくなるから商用のものに変えると。変えにいったとしますと、お金の問題もさることながら、今度は逆にそれらの国々の商用のエネルギー源の資源の問題、それから貿易問題というのが出てまいりまして、結局はその国の財政問題にまた戻ってしまうわけです。ですから、本来の形とすれば、やはり森林を保全しながら、そういった自然エネルギーを彼らがうまく使えるという方向に持っていけばいいのです。しかし、現在ストーブの改善であるとか、そういった部分的な手は打っておりますが、やはり基本的にはどうしてもお金の問題になってしまうということで、こういった森林の問題というのは、結局は開発問題であるというのが、エネルギー関係だけではなくて、こういった問題をやっている人間のかなり共通の認識ではないかと思っております。
  19. 村沢牧

    ○村沢牧君 社会党の村沢でございますが、朝倉先生にお伺いいたします。  開発途上国食糧問題について、単なる援助だけで済まされる問題でないということは私もよく理解いたしますが、お話がありましたように、森林破壊が大きな原因になっているということはわかるのです。そうすると、やっぱり炭酸ガスの濃度を上昇させる。それがまた異常気象原因にもなってくる。そうしますと、あるいは開発途上国だけではないですが、森林破壊されることによってそういうことになってくる。地球の温室効果を現実のものにするというか、温度が上昇してくる、そういうことは一般的にも言えるでしょうか。  それと、物の本によれば地球の温度が上昇してくるので、北極や南極の氷も解けて、海洋水位が上がってくるというようなことも言われている向きもあるのですが、これから将来地球の温度というのは上がってくるのかどうかということです。  それから、茅先生にお聞きしたいのですが、開発途上国においては、森林破壊ということはよくわかるのですけれども先進国において酸性雨による地球生態系破壊をされてくる。これは必ずしも森林破壊ばかりでないと思うのですけれども、お話がありましたような大気汚染の発生源、これはエネルギー、あるいは原子力か何かについてどのような影響をもたらすでしょうか、お聞きしたいのです。
  20. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 前半の部分について申し上げたいと思います。  開発途上国食糧問題に関連しての森林破壊、あるいはそれに伴う炭酸ガス増加、それが気温を上昇させて異常気象を起こすという一連のシナリオ的な考え方でいいだろうかということにつきましては、すべての異常気象原因がそこに求められるわけではございませんけれども一つのシナリオとしては存在すると私は思います。  では、どうしたらいいのかということにつきましては、例えば先進国食糧問題が現在取り過ぎているというのは、耕地が拡大しているからではなくて肥料をたくさんやっているせいだ。開発途上国でもやはり肥料をたくさんやれば先進国と同じようにたくさん取れるだろうと思いますけれども、そういう肥料をつくる金あるいは買う金がないという同じような問題がございます。  開発途上国食糧問題というのはなかなか難しい。食糧問題と言う以上、これはもう経済の問題そのものであるという考え方でございますが、私の専門外とするところで、どうしたらいいかということについては考えは持っておりません。  もう一つは、将来気温が上がって、あるいは海面の水位が上がるかどうかという見通しなのですが、現在の気候をつくっております要因というのは、いろいろな要因がたくさんございます。火山活動が現在の程度であって、太陽活動も現在と同じ程度であるということを仮定しておりますと、そうしますと、炭酸ガスだけは確実に、化石燃料を使っているとふえていきますから、そういう条件下で物を考えますと、気温は上がる方向に行くと思います。  ただ、上がる方向ですが、どの程度上がるかということについては、大体において一・五度から三度ぐらいの間に上がるのではないかというのが一番確率が高いのではないかという意見が強うございます。ただ、こういう気温が上がって暖かくなるということは、国別に見ますと、非常に利害が一致いたしませんで、例えば先ほど紹介がございました眞鍋教授がカナダへ行って、CO2がふえて気温が上がって大変だという話をしたらば、いや、それはカナダにとっては小麦の作付できる範囲が北に上る、あるいは森林の北限がさらに北に伸びて結構な話であるというように、国によりましては非常に結構な話でありますけれども、国によっては非常に不都合なことであるということで、国際協力というのはなかなか難しいのではないかなというぐあいな感じでございます。
  21. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 今の御質問の後半の部分に対するお答えでございますが、よろしゅうございますか。  一つは、私が先ほど御説明申し上げたことに関連がございますので、朝倉さんに対する御質問ということでございましたがちょっと敷衍させていただきますと、海面水位の上昇というお話でございますが、これは先ほど私のお話の中で申し上げましたように、海面水位の上昇が可能性があるとすれば、一番可能性が高いのは南極の氷の崩落であるということです。北極の氷という場合は、もちろん浮氷は解けても全く無関係でございますので、あり得るとすると、ツンドラ地帯の氷が若干流出するかあるいはグリーンランドの氷が解けて落ちるかなのですが、全体的な影響は正直言ってそれほど大きくはないというふうに言われております。というのは、全体の氷の総量と海の水の量と比較をしてみた場合にそういう結果が出てくるということでございます。  ただ、それに対しまして南極の方は何といっても氷の量が非常に大きくて、先ほどの話で申し上げましたように、一遍崩壊を起こしますと大変大量の氷が大洋の中に落ちてしまうという可能性がございますので、これが一たん起こった場合には相当な水面の上昇が起こり得るというのが現在言われている話でございます。しかし、これがいつ起こるか、どのくらいの確率で起こるかというのは全くわかっておりません。  それから後半の御質問でございますが、現在の酸性雨による森林破壊という問題は、これは確かに欧米で深刻でございますけれども、特にヨーロッパで深刻なわけです。この大きな理由は、やはり使っているのが石炭が多いということが理由なわけです。石炭が多いためにどうしても亜硫酸ガスが出やすい。これはもちろん日本のようにすべてに防除装置の規制を徹底すればかなり抑えられると思いますが、経済低成長の現状でこれを各国に全部普及させるのが非常に難しいわけです。ですから、これは経済との関連で各国がどこまで深刻に考えてくれるかということで、しかも、先ほど申しましたようにイギリスは比較的被害がないにもかかわらずたくさん亜硫酸ガスを発生している、そして余り出していないはずのチェコあたりが逆に非常に影響を受けているという状況をいかに解決するかという、国際間の問題の方が今は大きい問題だろうと思います。ですから原理的に言えば、石炭の使用をある程度抑え、それから排出規制というものを実際に徹底すれば、私は対策としてはあり得る問題なので、むしろ経済の低成長という中で各国がそこにどこまで踏み切るかが今後の課題ではないかと思っております。  それから、原子力との関連でございますが、もちろん原子力がこういった化石燃料に対しての代替物であるということは従来からある考えでございまして、二酸化炭素問題にいたしましても、二酸化炭素が問題であるということを余り強く叫びますと、原子力をおまえはやっているからじゃないかという言い方をされる方がよくおられます。幸いか不幸か私は原子力の工学科には所属しておりませんで、電気工学科なのでそういうことは言われないのですけれども、そういったぐあいに化石燃料の消費を抑えるという議論は直ちに原子力の拡大と等義であるという見方をする方が多いようでございます。そういう面は確かにございますけれども、私自身としては、やはりより大事なのはエネルギーの効率的利用ということでございまして、俗に言う省エネルギーです。昔はいわば石油問題として省エネルギーが出できたのですけれども、今後はむしろ環境問題としての省エネルギー努力というのがはるかに重要な問題ではないかというふうに考えております。
  22. 和田教美

    ○和田教美君 まず茅先生にお尋ねしたいのですけれども、先ほど先生は酸性雨の問題について、日本の場合には非常に環境汚染対策が進んでいるのでまずまず問題がないといろいろ理由も述べられましたけれども、確かにそれほど深刻な問題になってないと思うのです。しかし少し前、四十八年から五十年ぐらいにかけて、関東地方中心に目の痛みだとか皮膚がひりひりするとかという問題が起こったことがあったし、五十六年でしたか、前橋市で画二・八六ぐらいに下がったというような記事も見たことがあるのです。例えば杉の林が日本で枯れるということも、これは酸性雨に関係があるのじゃないかということが言われたこともあったのですけれども、そういう問題は日本の公害対策が進んだために一応解消の方向に向かっていると判断をしていいのか、それが第一点。  それからもう一つ酸性雨については、先ほども先生触れられましたけれども、中国の例えば臨海工業地帯でどんどん石炭を使う工場が建設されるというようなことが起これば、国際的な一つの問題が起こる可能性があるということをおっしゃいましたけれども、例えば朝鮮半島、韓国もどんどん近代化しているわけですが、将来シベリアなんかにもソ連のいろいろな工業ができるというようなことになった場合に、もっとそういう日本を取り巻く国々との国際的な協調というか対策ということを早目にとっていく必要がないかどうか、その二点をお伺いしたい。  それから、やはり酸性雨の問題ですが、これは朝倉先生にお伺いしたいのです。  先ほど開発途上国森林破壊の問題をおっしゃいましたけれども、酸性雨の問題というのは少なくとも開発途上国には今は起こっていないでしょうか。それとも将来、開発途上国もこれからどんどん発展していく可能性があるわけですが、そうすると公害対策なんというのは後回しでということになる可能性が強いと思うのですが、将来の展開としてはどう予想されておるか、その点をお伺いしたい。  それからもう一つ、欲張っておりますけれども、末廣先生にお尋ねしたいのです。  核の冬の問題について、先生が、核の冬の問題はそれだけを非常に重視しても、これは二次的な問題ですから、やはり核による被害そのものは、一次的な問題というのは熱線だとか爆風、放射能、そういう問題がより重要だというふうに思うわけなのですが、その点は私全く同感なのです。しかし、核の冬の問題が提起されたという重要性は、日本が直接核戦争をやらなくても致命的な影響をこうむる可能性があるということの警鐘を国民に与えたと思うのですが、その点について御見解はどういうふうにお考えになるのか。  それともう一つ、国際学術連合の環境問題科学委員会のレポートの要旨をお述べになりましたけれども食糧問題ですね、それの影響、要するに日本の場合には食糧輸入ができなくなって影響を受けるというような問題が相当強調されておったと思うのですけれども、その辺はどうでしょうか。その点をお伺いしたいと思います。
  23. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 今の酸性雨に関する二つの御質問についてお答えしたいと思うのですが、まず第一の現在のSOx、NOx対策、あるいはそのレベルと酸性雨との関連でございますけれども、私の説明があるいはやや不足であったのかもしれませんが、先ほど申し上げましたように、日本の公害規制というものだけで日本に酸性雨の被害が少ないと申し上げたつもりは毛頭ございません。先ほど申しましたように、それプラス三つの気候的、土壌的な理由が大きく働いているのではないか。たしか、議事録を見ていただけるとわかると思いますが、四点申し上げたと思いますが、その第一点として、そういった規制が早くから行われた。これはほかの国に比べて早いことだけは確かでございますので、そういう意味で申し上げたわけでございます。  それから酸性雨は、先ほど申し上げましたように、確かにその二・八六という数字は私は実は残念ながら知りませんけれども、杉林の話であるとか、それから幾つか酸性雨の記録というのは私も知っております。  ただ、申し上げたかったのは、酸性雨が降っただけでは別に直接木に対しては被害にならないので、木は下からと上から、つまり葉っぱとそれから土壌から来るわけです。先ほどの説明で申し上げましたように、土壌からの被害が日本の場合には比較的少ない。それは日本のかなり気候的、土壌的特性によるものではないかというのが私の先ほど申し上げたことでございます。  それから、中国それからソ連、朝鮮半島の問題でございますが、これは全くおっしゃるとおりでございまして、今までよかったからといって今後大丈夫かと言われますと非常に私も不安でございまして、特にヨーロッパの場合にはそれでもまだ話し合いの舞台がございますけれども、中国、ソ連、北朝鮮、それから韓国、日本という対話の場というのはまず私には簡単には起こり得そうにないように思いますので、そういう事態が発生してきた場合には、本当に問題が難しいなということは感じております。たしか来週からですか、国連環境特別委員会の東京会合が始まります。そこでひょっとしたら出るかと思いますが、我々環境庁で地球環境懇談会というのをつくっておりますが、そこで出ました考え方は、そういう問題に対していわば環境隣組のような発想を提唱して何とか世界に広げられないかという議論もいたしております。  以上でございます。
  24. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 私に対する御質問にお答えいたします。  酸性雨に限りませんけれども、公害の問題というのは例えて申し上げますと、自分の家で出たごみをお隣の家の庭へ捨てるというのが一番困った問題だと思います。アフリカの場合でも、森林が実際あるところでは工場はつくらないでしょうけれども、ある特定の国だけが工業を発展させて、しかも脱硫装置をしないでやった場合には、別な国の森林の上で酸性雨が降るということは全く同等に起こるだろうと思います。
  25. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 御質問にお答えいたします。  確かに核の冬ということだけが大規模核戦争の災害の全部ではございませんけれども先生おっしゃいますとおり、たとえ日本が大規模核戦争の当事国でなくて、例えば直接の核攻撃を受けないとしても、少なくとも二次的な影響下から逃れることは極めて難しい、非常に巻き込まれる可能性があるのだということを国民の皆様に認識していただいたという点では、いわゆる核の冬の問題ということはそれなりの、こういう危ないものはやめてもらおうということへ向かっての合意の形成に私は役に立ったと思うわけでございます。  それから、ただいま主に気象的な環境がどう変化する可能性があるかということを申し上げましたけれども、さらにこのリポートは、例えば日本のような国はどのような影響を受けるかということをもうちょっと詳細に、少なくともこれは推定でありますけれども、しているのでありまして、若干紹介させていただきますと、日本は、通常の気温を大幅に下回る可能性のある大陸地域の風下に位置することから来る気温の低下により、戦争後一年以上にわたり日本の農業の生産がない状況が続く可能性がある。また気象影響がそれほど極端でないにしても、輸入エネルギーに高度に依存する現在の日本のエネルギー集約型のシステムは甚大な影響をこうむるであろう。さらにまた、食糧の輸入が停止した場合に影響をこうむりやすい国として日本が挙げられており、日本は国内の食糧生産のみでは最大限人口の五〇%しか維持し得ず、たとえ核戦争の直接の影響気象上の影響を受けない場合でも輸入が停止すれば、国内生産量を飛躍的に高めるか、食糧がなくなる前に人口の半分は他の地域に移転しなければならなくなるであろう。ということが書いてございます。  ただ、これはあくまで前にもお断り申し上げましたとおり、非常に大胆な仮定に基づくある意味では思い切った推定でありますので、精度ということに対しては若干の問題があろうかと思いますが、こういうことも決して荒唐無稽ではないのだということを言っているわけでございます。
  26. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 私、自民党の堀江でございます。  先ほど来大体、委員質問朝倉先生茅先生に集中しておるようでございますので、私は二、三の問題につきまして末廣先生にお尋ねをしてみたいと思います。  御承知のようにこの両三年来、特にスウェーデンの王立アカデミーのアンビオ報告であるとか、あるいはNHKの「核戦争後の地球」という放送であるとか、これらによりまして我々は大きな衝撃を受けたわけでございますが、先生からはICSUの六十年の報告についていろいろとその概要を承らしていただきました。  先生のお話の中でも、またこのICSUの報告の今後の課題という中にも、現在の科学的結論には不確定要素が含まれておるのだというようなことが書かれておるわけでございますが、これらを確実な推定とするためには、私、科学者でも何でもありませんからよくわかりませんが、学術的な研究、推論と同時に実証というものが必要じゃないかと素人なりに思うわけであります。そのようなことを思っておりましたところが、去年の十二月でございますか、ある新聞に、アメリカで核の冬の理論を実証するために千六百平方キロの山林を焼いていろいろと検討したという記事を見たわけでございます。今後こういう問題を検討していかれる中で、やはり実証という問題が大きなウエートを占めてくるのかなというような気もするわけでございますが、今後の検討の中でそういう問題をどのように取り扱おうとしておられるのか、取り扱われるのか、その点をまずお尋ねいたします。
  27. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 堀江先生の御質問最初の部分、現在の技術あるいは我々持っておりますノーハウでの推定の確度がまだ余り高くないというのはおっしゃるとおりでございます。一つこの方法を高めるのは、後半の部分を受け持っております地球を取り巻く大気内での大気大循環の運動が現実にどうなっておるのかというそのモデルがまだ十分に開発されておりませんために、これをさらに開発する必要がございます。このモデルがより現実のものに近くなりつつあるかどうかということは、これは現実に起こる気象あるいは気候現象の変化で検証することができるわけでございます。  二番目の、今度は実際の核戦争の結果起こるであろう災害の二次的なものということは、これは極端なことを申しますと、実際に起こってみなければわからないと申し上げるほかないのでございまして、例えば過去の火山の大爆発等の際の実例が、これはどの程度の灰、どの程度のガスが空中に放出されて、現実に観測結果としてどのようなことが観測されたかということはわかっておるのでございますけれども、恐らく、核戦争の結果大気中に及ぼされる影響と火山爆発の場合は必ずしも同じでない。例えば核戦争の場合には非常に大きな大量のすすが恐らく出るであろう。これは太陽の熱を吸収するわけでございます。一方、火山爆発の場合にはそれほど大量のすすは出ないわけでございまして、これは過去の自然現象の異変からの類推ということも成り立ちにくいというふうに聞いておりますので、なかなか核の冬の推定をより確度を高めるためのその前半の部分、つまり核戦争の実際のシナリオという部分は、少なくとも現在はそういうことを実際にやってみるなどということは到底できないわけでございますから、その辺で大変精度の点で問題があるということは事実でございます。
  28. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 次に、具体的に二つの問題につきまして御見解を承りたいと思います。  一つは、核爆発によりますところの即時的な人的、物的の被害の問題でございますが、アンピオ報告あるいはNHKの放送を見ますと、いろいろと全般的には非常に衝撃的な感じを我々は受けたわけでありますが、どうも素人から見ましてもよくわからない面があるわけであります。例えばアンピオ報告それ自体は可能性のあるシナリオというわけじゃないのだということは書いてありますけれども、それにしてもちょっと我々常識的に考えられないようなシナリオになっているのかなというふうな気もします。例えばこれでは五千七百メガトンが爆発するということになっておるわけでありますが、実際に米ソ両国が核を行使した場合においてその到達率とか命中率とかそういうような問題。特に最近は精度が非常によくなっております。したがって、大都市に対する攻撃といったようなことは、非常に常識的には、仮にあったとしても、考えにくくなっておると考えられるわけであります。しかしこのシナリオでは、例えばインドとかパキスタンまで都市攻撃をやるような想定になっていまして、私はその辺はどうも可能性のあるシナリオじゃないというものの、ちょっと常識外れじゃないかなと思うわけでございます。  もう一つは、これは科学者の推定でございますから私ども常識のない者にはわからないわけですが、このアンピオのバーナビー・グループの報告では五千七百メガトンに対して七億五千万人が死亡するということが出ております。それに対してセーガン・グループでは百メガトンから一万メガトンという想定で世界人口の過半数以上生存だと。あるいはエーリック・グループでは一万メガトンに対して世界人口の五〇%から七五%が生存だと。さらにWMOでも一万メガトンに対して十一億五千万人が死亡すると。それに対してNHKの放送では五千メガトンで三十八億人が死亡するのだと、こんなようなことが出ておりました。根拠が私どもはさっぱりわからないわけでありますが、どうして科学者というものがやってこんなに差ができるのか。特にNHKの放送の場合、そのバーナビー・グループのメガトン数よりも少なくて五倍以上の死亡というものをどうして出したのかなという疑問を持つわけであります。その点が一つでございます。  それからもう一つは、地球環境への影響の問題でございますが、このアンビオ報告を読んで見ますと、核の冬につきましてセーガン教授は、核の冬になるかどうか不明確かもしれない、しかし冬になったからといって人が死ぬわけではないのだと、このように言っておるように私は読んだわけでございます。ところがNHKでは、河川や湖沼だけじゃなくて海も全部凍ってしまって、そして海の中の魚が氷の上にみんな浮き上がる。これはどうも余りにも科学的じゃないのじゃないかという気もするわけでございます。そういう問題につきまして、地球物理学者としての先生の率直な御見解を承らしていただきたいと思います。
  29. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 最初に、いわゆる核の冬ということに対してどういう推定をするかということでございますが、繰り返して申し上げますが、実際、大規模核戦争ということで一体何が行われるのかという、そういった軍事的知識が私ども全然ございませんので、まず出発点において相当大きく狂ってくるということは否めないわけでございます。  それから、御指摘になりました、これはもう二年ぐらい前になりますか、NHKさんの放送なすったことがある意味ではショッキングであり、かつ、いろいろ論議を呼んだということも私承っておりますけれども、科学的な推定をするということは、これは相当正しいことができるのだともしお思いいただきますと、大変ある意味では過大評価をいただいたことになるのでございまして、地球環境というような非常に大きなものを相手にして、まだわからない部分がある場合には、推定の仕方によっては優に十倍ぐらい差が出てくることはもう間々あることでございます。でありますから、その十分の一の方をとるか十倍の方をとるかによりまして話は大きく変わってくるということは、殊に地球物理のような相手が大変規模が大きい、しかも室内実験みたいなことがほとんどできないという現象の場合には大変最初でもって少し方向が狂いますと、先へいけば大きく開いてしまうわけでございますから、そういう点で推定に非常な差が生じてくるということはこれは御了解いただきたいと思います。  ただ、私の率直な感想を述べよという御指名でございますけれども、大体今までのいろいろな起こったことは、非常に極端な推定とあるいは非常に過小評価した場合の大体中間ぐらいの現象が起こっていることが多いのでございます。ただ、この場合には、繰り返して申し上げますけれども、出発点となるための軍事的な知識というのがほとんど皆無と言っていいわけでございます、少なくとも私どもに対してはそういう知識は与えられておりませんので。したがいまして、相当の影響のある可能性があるのだということに、大変ほかした言い方で恐縮でございますけれども、そういった言葉遣いをさしていただく以外にないわけでございます。  ただ、日本は唯一の核の被爆国でございますし、現実には例えば、今、唯一残されております地下核実験の全面禁止といったような方向に努力をいたしまして、直接核戦争そのものをなるべく起こさない方向へ持っていくというのが私は技術者としていささか分に過ぎた発言とは思いますけれども、努力しなければならない方向だと思っておるわけでございます。
  30. 堀江正夫

    ○堀江正夫君 今、先生から率直なお話を伺いまして、私どもももちろん核戦争をどうしてなくするのだ、核を地球からどうしてなくするのだ、これは特に政治の場にある者の最大の責任だという思いでもってこういう問題を考えておるわけでありまして、どうかひとつこの上とも、先生から先ほど御説明いただきました世界の科学者の良識を結集して、こういったような問題について科学的な根拠のある検討というものを今後も精力的に進めていただくことを期待もし、お願いもしまして、私、質問を終わらせていただきます。
  31. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 承りました。
  32. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 三人の参考人の方々のお話をお伺いして、我々が宇宙船地球号の同じ乗組員だということを改めて感じたのですが、お一人に一問ずつ質問をさせていただきます。  まず朝倉先生にお伺いしたいのは、日本が何をなすべきかという問題なのですが、八二年の秋に「緑の地球防衛基金」のシンポジウムが横浜でありまして、国連の関係者や発展途上国の代表なんかも見えて、私も二日ばかり参加したのです。そのときやはり一番問題になったのは、日本の東南アジアからの、インドネシア、フィリピン、マレーシアなどからの木材輸入が非常に問題になりまして、世界最大の木材輸入国だし、割りばしの話まで出まして、これをどうするかということが問題になったのです。  それで、朝日の記者の石弘之さんがこの問題の非常な専門家で、世界じゅう歩いて何冊も本を出されておりますけれども、石さんの「蝕まれる森林」の中にこういうデータを挙げているのです。八二年現在、世界木材、パルプ供給量の中で一〇%を占めている熱帯材の輸入ですが、その五三%が日本だ、三二%がヨーロッパで一五%はアメリカだといって、日本がこういう熱帯材の輸入の半分以上を占めているということを挙げて、西暦二〇〇〇年には世界木材資源供給量の二〇%を熱帯材が占めるだろうということを挙げているのです。  ほかにも石さんは、日本の企業の東南アジア熱帯林の伐採問題を非常に重視して書かれているのですが、先ほど朝倉さんは伐採問題で、先進国の伐採、現地の人々の燃料用伐採、牧畜用の放牧のための伐採、それから輸出農産物のコーヒーなどのための伐採を挙げられたのですが、その中で現地の人々の燃料用伐採が八三%で、先進国の伐採は一七%だとおっしゃっておられたと記憶しているのです。石さんなどの本で見ると、熱帯雨林の崩壊の第一の原因焼き畑農業で、第二の原因としてこういう先進国によるというか、木材の伐採問題を挙げているのです。朝倉さんは一七%という数字をお挙げになったのですが、その中で日本は過半数を占めているとすると、我々がこの問題を、地球の緑を守る、熱帯雨林の崩壊問題を考えるときに、日本の企業の特に東南アジアの伐採問題、またそれは日本の国民の生活ともいろいろつながっているのだけれども、ここら辺の問題で日本としてはどうすべきかという点について御意見をお伺いしたいと思います。
  33. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 二点御質問があろうかと思いますが、科学技術庁資源調査会に「熱帯林開発と保全に関する調査報告」という報告書がございまして、この中でも提言しているのがございますが、この調査報告書をつくる段階においてやはり日本が熱帯材を輸入している、これが熱帯林破壊に手をかしているのではないかということが大分議論になりましたけれども、そのとき語られた中に、そう単純な問題ではないのだという話をお伺いしました。  それはどういうことかと言いますと、確かに日本では輸入するためにボルネオなどで木材を伐採していますけれども木材を伐採するに当たってはその後の植林をするための費用というものを負担している。それを政府間で差し上げているのだけれども一つの政府の中に入るとそれは予算の中に埋もれてしまって、日本としては後始末もちゃんとやっているのに生かされていないのだというような話がございまして、外から見るとそういうことだけれども、中では努力しているのだという話も聞きました。なかなかこれはお金が絡んできますので、表面的に見た木材の出入りだけではどうも解決つかないのではないかというような感じがします。  それから、もう一点何だったですか。失礼しました。
  34. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 結構です、何をなすべきかということは今のお話に入っていると思いますので。
  35. 朝倉正

    参考人朝倉正君) それから、何をなすべきかということについては、これは例えばヨーロッパなどでは、家具ですと、昔から持っている家具を磨いて、そしてそれをお客さんに自慢するというのでしょうか、こんないい家具があると。もうおじいさんの代からあって、それを一生懸命磨いて、夜でも余り明るい光をつけないで、わずかに光っているその光をお客さんに自慢する、そういうところがヨーロッパの方々にあるというのをお聞きしました。それに比べますと、日本割合次々と新しい物を買ってかえてしまうというようなところがありますので、そういう木材というのは非常に貴重なものであって、そうやたらに買いかえるものではないのだという、そういう啓蒙というものもやはり必要ではないだろうかというぐあいに思います。
  36. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 茅先生にお伺いしたいのですが、先生は最後に、酸性雨やCO2の問題はエネルギー関係の科学者の間で非常に問題になっているのだが、まだ社会全体、政治全体の問題になっていなくて対策もとられていない、やっと国連で取り上げられているというお話をされました。日本の国会もまだまだこういう問題で、公害等の委員会では取り上げているかと思いますけれども、有効な対策をとられていないのじゃないかと思うのです。  一つ私、ざっと見たものにアメリカ環境保護局の報告、EPAですね、「炭酸ガス地球が温暖化する」という報告書を見たのですが、これを見るとシナリオを一つ立てていて、二〇四〇年ごろには気温が二度C上昇。先ほど二・五度Cのお話がありましたが、環境保護局のとった基準は二〇四〇年で二度Cというのが中期の基本シナリオを開発して使った、こう書いてあるのです。  それで、この研究はとにかく化石燃料の使用簡限を目指す、それで、今後百二十年以上にわたって気温上昇をおくらせるのに役立つかどうかというような報告書だというのです。これは八四年ごろの報告書だと思うのですが、アメリカがそういう研究報告をやって、ある対策もかなり書いてありますが、これ以後アメリカはこの報告書で何らかの対策を打ち出しているのでしょうか。打ち出したということが例えば日本で参考になって、日本でもこれならやれるというようなことがもしあるのだとしたらお教えいただきたいと思うのですが。
  37. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 今のEPAの報告ですが、これはEPAというよりはEPAの中のある範囲の個人の報告でございます。これはたしか私の記憶では八四年だったと思いますが、アメリカの科学アカデミーと環境保全庁のグループの二つが二週間ぐらいの差で二つ報告を出しておりまして、これが実はかなり内容が違っておるのです。  環境保全庁、EPAの報告は、これは幾つかのシナリオをお読みになられたように出しておりまして、ここでは例えば石炭を全くやめてしまったらどうなるかとか、あるいはオイルシェールを将来使うことにしていたのをやめたらどうなるかとか、そういうのを出してどのぐらいおくれるかというのをやっておるわけです。  ただ、現実の問題として、それをアメリカ政府として実行するという形でそのシナリオを書いたのではなくて、あくまでも個人の見解として私は書いたのだと思います。特に、実はその基礎になっておりますエネルギー消費のモデルは、オークリッジ・ユニバーシティー・アソシェーツという一種のシンクタンクでございますね、そこが開発したモデルでやっておりまして、そのグループは今のようなシナリオを別に学術雑誌にも報告を出しております。ですので、そのシナリオそのものを持ってきたので、そういったいわば学術的な一種のシミュレーションゲームの結果がそこに載っているということで、政府の方針を反映したものでは全くないのであろうと思います。その意味では、おっしゃいますように、アメリカ政府の中にCO2対策をどうのこうのという動きは私はあるとは聞いておりません。ただ、先ほど申しましたように、基礎研究に対しては非常に、非常にと言えるかどうかわかりませんが、少なくともほかの国よりはかなり熱心でございまして、DOEにもそういった恒常的なインスティチュートをつくっておりますし、お金も結構出しているようでございます。
  38. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 末廣参考人に核の冬問題についてお伺いしたいのです。  先ほどから核戦争の被害問題の数字なども問題になっているのですが、核戦争の被害の非常な深刻さというのが国際的にも認識され始めたのはそれほど遠い話じゃなくて、例えばニクソン政権のときにアメリカの国防長官が国会で米ソ核戦争が起きたらアメリカで一万五千ないし二万五千の死傷者が出るという答弁をして大問題になって、その後アメリカの技術評価局などもデータを調べ始めて、アメリカの死者はたしか一億六千万という数字だったと覚えていますけれども、かなり大きな被害が出るということが議会に報告になったということがあるのです。  それで国連でも、先ほどアンビオのお話もありましたけれども、いろいろな核戦争の被害が全人類的な被害だということが次第に明らかにされてきたのです。私は、この核の冬の研究の結果得られた科学的データのこれまでと違う衝撃的な意味は、つまり核戦争には勝利者はいないということが科学的事実で裏づけられたことだと思うのです。今までは先制核攻撃をやれば勝利の可能性はあると言われていたのですが、アメリカ側の有名な天文学者で例のTTAPSの研究中心メンバーだったカール・セーガン博士が、八三年十月三十日のワシントンでの「核戦争後の地球」の討論の中でこういう発言をしているのです。もしA国がB国に対兵力攻撃、つまり都市は攻撃しない対兵力攻撃だけで効果的な第一撃攻撃を仕掛けたとすると、たとえB国が報復のために指一本上げなかったとしてもA国が自殺をすることになる確率は非常に高い、だから、一方だけが核攻撃して完全に相手を破壊しても、そこで舞い上がったちりとすすが一週間か十日ぐらいたつと自分の上へ来てしまって、自分の国の文明そのものも破壊される、そうなると自殺行為だということを述べております。  このセーガンの言葉はソ連側も非常に高く評価していて、ソ連側のベリホフという博士の本にも、セーガンはこういうことを言っている、非常に印象的だということを言っているのです。だから、先制攻撃やろうが何しようが、もう核兵器を使うと使った方も自殺行為になってしまうということが明らかになっている。これは全人類、それから全地球生態系地球環境全体が破壊される結果だということになるわけで、そういう点が非常に衝撃的な新しい研究の意味だったと思うのです。もちろん研究する側は、カール・セーガンにしても、西ドイツのクルツツェン博士にしても、政治的な意味合いは除いて純粋に科学的なということで研究していって、それでクルツツェン博士たちのアンビオの報告に載っている最初のすすの計算にしても、それからTTAPSの研究にしても、それからソ連側の研究にしても、それぞれの国の科学者たちが独立に研究していった結果が、結論についてはほぼ一致したということが私は大きいと思うのです。  末廣参考人は、先ほどシナリオの不確実性とそれから大気循環モデルのまだ未完成のことの二点をお挙げになった。私も確かにそういう面はあると思うのですが、例えばTTAPSの五人の研究は、シナリオを数十取り上げて、さまざまなシナリオを研究しました。それからセーガン博士らの本を見ると、そのときのちり、すすの降下は一次元で縦におりてくるという計算だったそうですが、ソ連側は三次元で計算したそうで、それでもほほ結論は一致しているというのですね。  八三年のアメリカの「核戦争後の地球」の研究会議では、エールリッヒという博士が、核戦争の生物に与える影響について著名な五十人の学者が一致した、学者というのはなかなか一致するのじゃないのに一致したというのは非常に異常なことだということを述べているのです。アメリカの著名な科学者、いろいろな分野も違い、主張も違う科学者、この問題に関心を持った人々が一致する、それからソ連の科学者とも一致する、それから国際学術連合・環境科学委員会、そのシンポジウムが国連大学と一緒に行われたとき私も出席しましてクルツツェン博士に質問なんかしたのですけれども、そこでもほぼ先ほどの報告書のように、絶対ということじゃなくて、ある限定つきですけれども、結果が出たわけです。  それで、アメリカの国防総省もアメリカの国会に報告書を出して科学的事実は認めておりますし、それからおととしの国連総会では核の冬問題について国連総会での決議も行われているわけで、ですから、まだまだ科学の問題で実験は不可能だと。火山の問題、それから六千五百万年前の恐竜その他の絶滅の実例は、これはかなり科学的に最近証明されたというので引用され始めております。核戦争の実験は不可能なのだけれども、今持っている人類の科学的知識で、それぞれ独立した研究、国の違う研究が、特に米ソ超大国の科学者たちの研究が一致しているとすると、確率はかなり高いし、その確率の高さを前提にした上で核戦争は阻止しなきゃならない。勝利者がなければやはり核兵器を全廃することが人類にとって必要だと思っているのです。  話が大分長くなりましたが、そういう私が申し上げたようなこれまでの経過の中で、アメリカの科学者、西ドイツの科学者、ソ連の科学者、それから国際学術連合・環境科学委員会がいろいろなところでシンポジウムをやった。アメリカでもやり、ソ連でもやり、日本でもやったわけですが、相当そういう科学者の意見を総括して発表した報告であり、それが国連総会でも取り上げられ、アメリカでも取り上げられて国防総省も科学者に委託して調査をやり、国防長官も、データはある問題を指摘したというのですけれども、科学的事実そのものは認めた、しかし政策は変えないでいいのだというふうに言ったというのですが、そういう経過全体を考えますと、この核の冬についての科学的な結論はかなりの確率とそれから重みを持って受け取るべきではないかと私は思うのですが、御意見をお伺いしたいと思います。
  39. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) おっしゃいましたとおり、八三年に米国の国防総省が科学アカデミーの下部機関である全米研究会議というところに、核戦争が地球大気に及ぼす影響に関する情報を提出せよという委託を出しまして、それで大体、先ほどざっと御紹介申し上げました国際学術連合の設けましたシナリオとほとんど同じシナリオを出発点といたしましていろいろ検討いたしました結果も、少なくとも可能性としてはかくかくのことが起こり得るということを挙げておりまして、その結果も国際学術連合の出しました結果とそう違わない結果が挙げられております。ただ、先生もおっしゃいましたけれども、不確定要素が幾つかあるために、この制度ということに関しては確かにこうなるといういわば保証みたいなことは与えることはできないけれども、可能性としてこういうことは起こり得るのだということは言っておりますので、私の現在の受け取っております感想といたしましては、いろいろな国において万一核戦争が起これば、当事国だけではなくて全世界を巻き込む可能性があるのだということは十分に認識されていると思いますし、それがある意味では抑止力の一つになっていると私は思っております。
  40. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) 五時ぐらいまではというお願いをいたしておりますので、まだ時間をいただけるようでありますが、御質問の方ございましたらどうぞ御発言をお願いいたします。
  41. 下稲葉耕吉

    下稲葉耕吉君 自民党の下稲葉でございます。  私、先生方のお話を承って大変深い感銘を受けたわけでございますが、マクロに見まして地球規模環境破壊というのが、森林破壊だとか砂漠化の問題だとか酸性雨、あるいは核の問題、いろいろ出たわけでございます。大変な問題だと思いますが、我々は日本の政治家として、こういう問題に今どういうふうに対応していけばいいかというのが私たちの責任だと思うのです。  そこで、人類が生存していく上で、ぎりぎりに、こういうふうな破壊が進んだ場合に、いろいろ国際機関の問題なりあるいはそれぞれの国で研究し何だかんだし、まだ緒についてないというお話でございますけれども、こういう状態がいつごろまで持ちこたえられるだろうかどうかという一つの見通しがあったらお伺いしたいというのが一つ。  それからもう一つは、地球的な規模でお話を承ったわけでございますけれども、例えば特定のどのような地域食糧問題、人口問題、したがって飢餓の問題というものが起きてくるか、したがって、どういうふうな対策をとればいいかという問題です。  それから、日本としては多くの経済協力というものをいろいろな段階でやっているわけでございますけれども、そういう問題についてどこを重点として、どういう問題にもっと取り組んだらいいのじゃないかというお考えがございましたら教えていただきたいと思います。
  42. 朝倉正

    参考人朝倉正君) 非常に難しい問題で、私が担当した問題について、いつまで地球規模のこういう環境破壊について地球が耐えられるかということにつきましては、見方によりましてはもう既に耐えられなくなっているという意見の方もありますし、今世紀末ぐらいになるとそういうものの影響が顕著に出てくるであろうというような見方をする者とかいろいろございまして、科学的な根拠ではっきりいつまで持ちこたえられるかということについてお返事することはなかなか難しい。この種の環境問題は起こってからではもう手おくれであるということが原則になっておりますので、いつまで持ちこたえられるかという御質問に対してはわかりませんけれども、できるだけ現在の環境破壊を早目にとめさせなければいけない、日限は切られる性質のものではないというような感じがいたしております。  それから二番目の、人口の問題などを含めまして、食糧、飢餓の問題が将来起こるとすればどこの国で起こるかというこの問題についてもかなり難しい問題かと思いますが、例えば中国とかインドなどは非常に人口が多くありまして、かつ数年前までは食糧を輸入する国であって、この国が世界食糧事情を緊迫させる一応のマークされた国でございますけれども、現在ではこの両方の国とももう食糧は十分自給して輸出する余力さえ持ってきているということがございますので、その国の政情その他経済的な要件が食糧、飢餓の問題については非常に大きいのではないかなというぐあいに思います。  特に今問題になっておりますアフリカの飢餓の問題につきましても、一昨年モンスーンの雨が非常によく降りましたときに、サヘール地方中心としましてかなり十分な食糧を得て、援助する金があればあり余った食糧を買ってくれという要望が一部の国から出たということを聞いておりますので、食糧の問題というのはかなりそのときの気候によっても大きく支配される。したがいまして、現在特定のどの国に必ず食糧に不足あるいは飢餓が起こるということを特定するということはかなり難しい問題ではないだろうかなというぐあいに思います。ただ、起こりやすい国というのは人口が多くて食糧生産する畑がないところ、これはインドとか中国と非常に違う条件でございますので、そういう点に限って申すならば、これはやはりアフリカ中心とした発展途上国が飢餓が非常に起こりやすいと思います。  それから、経済協力をどこを中心にしてやるべきかという問題につきましては、これはやはり同じような理屈で、人口の多いかつ土地が半乾燥地帯のような国々に対して経済協力をやるのが地球全体から見た場合には望ましいのではないかというぐあいに考えますが、そういう国々に効率的な経済協力を行うというのはこれまた非常に難しいのだという話も片方では聞いておりますので、最も効率よく経済協力を行うにはどこがということについてはなかなか私ははっきりした考えをここで述べることは残念ながらできません。
  43. 茅陽一

    参考人(茅陽一君) 私のきょう扱いました範囲の問題では、恐らく二酸化炭素問題というのがお答えに対応する範囲だと思います。というのは、酸性雨問題は現実に被害が出ておりますので、実際に今協議が行われているという段階で、二酸化炭素問題の方がお答えするには適当なものかと思います。  その意味で言いますとやはり朝倉さんのお答えと同じで、少しでも早くということが答えであることは確かなのでございますが、一番私自身難しいと思いますのは、二酸化炭素問題の場合にはほかの問題と違って、それによって何か影響が出たということはなかなか検出できないわけでございます。検出したという報告は今までも何回か出たことがございますが、これは変な言い方ですが、統計的に見ますと、今例えば気温の変化というのが二酸化炭素によって起こったということは証明できないはずなのです、これは理論的に考えまして。少しいろいろな勘定をやってみますと、どう見てもそういったことが統計的に保証される時期というのは、よほどのことがなければやはり二〇〇〇年以降になるだろうと見られております。また、先ほど申し上げませんでしたが、よくこういった問題を考えます基準として、二酸化炭素濃度が現在の倍ぐらいになるときというのをとりますが、その時期は昔は、昔はといいますか一九七〇年代には二〇二〇年ぐらいと割と近くに思われていたのですが、現在はむしろ二〇五〇年以降というふうにかなりおくれております。これはエネルギーの消費が大分伸びなくなったせいでございます。  こんなこともございますので、アズ・スーン・アズ・ポッシブルという基本の姿勢は変わらないのでございますけれども、私の感じでは二〇〇〇年までぐらいの範囲は少なくとも実際の対策を打つというよりも、どういう対策が一番フィージプルかとか、それから現実に起こっている事象がどういう内容であるかという科学研究といったそういった対策面を含めての研究というのが今一番大事なときじゃないかという気がいたします。  ただ、その場合心配をいたしますのは、この二酸化炭素問題というのは決して今から言い出されたことではございませんで、一番最初に話が出ましたのは一九三八年でございます。もう五十年たっております。そして盛んに言われるようになりましたのが六〇年代後半からでございますが、しょっちゅう言われて何にも外界に変化が見えないということになりますと、やはり世間の方々がオオカミ少年のようにとってしまう。したがって、時々二酸化炭素問題は大事だよと言いましても、またかということで何にもされないままに、ある日突然大変なことになるということになるのが私はむしろ心配なわけでございます。したがって、そうならないためにやはりそういったものを恒常的に研究するような設備なりあるいは組織なりを、何かの形でつくっておかないと対応ができないのではないかというのが、私自身一番気にしている点でございます。  以上でございます。
  44. 末廣重二

    参考人(末廣重二君) 若干私の専門からそれるのでございますけれども、例えば酸性雨の問題で、カナダが昔から酸性雨の被害を受けておりまして、非常に神経をとがらしている。しかも酸性雨の場合は、場合によりますと酸性雨の原因になる場所から酸性雨の被害を受ける場所まで二、三千キロメーター離れているということがございますので、これは当然国際的な問題になり得るわけです。カナダの場合も、アメリカとの間で大分、原因はあなたのところだということでいろいろやり合ってきたようでございます。  先ほども先生のどなたかお触れになりましたけれども、中国が将来もし臨海の日本に近いところで大火力発電所を次々に建てるということになれば、日本は当然、中国から飛んできた黄砂も受けているわけでございますから、これは将来中国に原因のある酸性雨の被害を日本が受ける、日本国内で幾ら一生懸命規制をしてもそれはだめであるということも可能性として起こり得るわけでありまして、そういった場合に、やはり問題が深刻化した後ではなかなか国際解決が難しいということがございますので、何かそういう国際フォーラムみたいな国際の場をつくっておいて、お互いに迷惑をかけないように地球環境を守っていくという場はぜひできるだけ早く必要である、かように思うわけでございます。
  45. 加藤武徳

    ○会長(加藤武徳君) ありがとうございました。  それでは、三先生におかれましては貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。それも国連環境特別委員会の東京会議を目前に控えてのきょうでございましたから、いろいろ御準備等お忙しい中をお出ましいただきましてありがとうございました。  貴重な御意見を国政に反映いたしますよう私ども努めていかなければならぬ、かように存じております。一言もって御礼のごあいさつといたします。ありがとうございました。  それでは、これで散会いたします。    午後四時五分散会