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参考人(茅
陽一君) 東京大学の茅でございます。
最初にちょっとお断り申し上げたいのですが、私は工学部の電気工学科の
人間でございまして、一見エコロジーの問題と無関係のように見えますが、なぜこういう問題を私がお話し申し上げることになったかと申しますと、たまたま今から十数年前になりますが、ローマ・クラブという
世界的に
環境問題等に提言をしていこうという団体ができまして、それに大来佐武郎さんなどにお誘いを受けまして入りましたのが
一つのきっかけでございます。
私がやっております分野は電力とかエネルギーといった分野でございますので、これは実は非常に
環境問題と関係がある、いわばこういった分野での
活動がいやが応でも
環境問題に関連をするというわけでございます。そんなことでこのときをきっかけにいたしまして、特にグローバルな
環境問題に個人的にも自分の仕事の上からも興味を持って現在までやってまいりまして、そんないきさつから御説明を申し上げるということになったわけでございます。したがいまして、いわゆる
環境科学の専門家という立場からお話し申し上げるのではございませんので、そこだけ御承知をいただければと思います。
先進国が
中心となって
発生していく
地球規模の
環境問題というのは実はいろいろあると思いますけれ
ども、最近よく騒がれておりますのは、先ほど
朝倉さんもおっしゃいましたようなフロンによる成層圏のオゾンの
破壊の問題、欧米を
中心として
発生しております酸性雨問題、それから全
地球規模の
炭酸ガスの問題、こういった問題が
中心であろうかと思います。ただ、時間もございませんのでこれをすべて申し上げることはやめまして、特に従来から大きく騒がれております酸性雨問題と
炭酸ガス問題のみについて申し上げたいと思います。
酸性雨、アーシドレーンという言葉自身はしょっちゅう出てまいる言葉でございますが、これは実は非常に語源は古うございまして、一八七二年と申しますから今から百十年ほど前でございましょうか、イギリスで石炭を非常に使うことから、マンチェスターを
中心にその当時でも公害問題が起きましてそのころに出てき在言葉でございます。したがいまして酸性雨という
現象自身は決して新しいものではございません。その定義は非常に明確になっているというわけではございませんけれ
ども、ほぼ国際的に合意ができておりますのは、大体pHあるいはペーハーと申しますが、酸性度をあらわす指標でございますが、これが五・六以下というのが普通の定義でございます。ここにいらっしゃる議員の方々も学生時代に画という話をお聞きになったことがあるかと思いますが、要するに七が中性でございまして、それよりゼロに近くなればなるほど酸性度が強くなる。逆に一四に近くなればなるほどアルカリ度が強くなるという指標でございます。ということで五・六というのは酸性の方にやや寄ったということになります。ちなみに我々が、その辺の淡水の湖で普通に見ておりますものは大体六以上、七に極めて近い数字になっているケースが多いようです。
さて、酸性雨問題でございますが、これが問題になってまいりましたのは一九七〇年ころから後のことでございます。参考までに簡単な図をお配りしております。これをちょっとごらんいただけるとありがたいのですが、これはとじ方が逆になっておりまして、後ろのページからになっておりますので、恐縮でございますが最後のページをあけていただきますと、上側に「北ヨーロッパの降水の画の変化」という絵が出ております。これはスカンジナビア諸国の降雨における画の値の分布でございまして、左側は一九五七年、約三十年前でございまして、右側が一九七〇年、それより約十三年後でございます。ごらんになりますとわかるように、明らかに時がたつに従って全体の画の値が小さくなっておりますし、しかも下に寄ってきておる、つまり酸性度の強い雨が降るようになってきたということでございます。現在はほぼヨーロッパでは大体四・五から五・五くらいの画の値を持った雨が降っていると言われておりまして、記録ではスカンジナビアでは二・四、イタリーでは二・六という記録がございます。二・六と言われてもイメージがおわかりにならないと思いますが、酢が大体そのくらいのオーダーでございます。それからオイルアンドビネガーというサラダにかけるドレッシングのビネガーは大体二・九でございますから、それよりももっと酸性度が強いということで、すさまじいものがあるということはおわかりになろうかと思います。
こういう酸性雨というものが降った場合どうなるかという問題でございますが、問題になってまいりましたのは先ほど申し上げましたようにスカンジナビア諸国でございまして、ここではまず湖が非常に多いわけですが、魚が減ってきたということでございます。淡水魚はこういった面バリューには非常に敏感でございまして、一般に六を切った水の中では余りすめない、大部分がすめないと言われております、画自身は酸性度は、先ほど申しましたように、現在でも四・五から五・五とかなり低いというか高いというか、いずれにしても酸性度が強いのですけれ
ども、実際には、これは
地面に落ちまして湖に入りますともっと中和されますので、湖の水自身ははるかに酸性度は低いわけです。これは誤解のないように申し上げたいわけです。しかしそういった意味で申しますと、やはり酸性の雨がたくさん降りますとどうしても湖の酸性度が上がりまして、魚がすみにくくなるということになります。その辺からスカンジナビアでいろいろな問題が出てまいりまして、国際的に議論が出て、例の一九七二年のストックホルムの
環境会議でその問題が出てきたというのがいきさつでございます。
しかし、それ以上に実は大きな問題となってまいりましたのは、ヨーロッパ、特に中部ヨーロッパを
中心といたします森の
破壊の問題でございます。これは最近で言った方がよろしいと思いますが、ドイツでございますが、西ドイツを例に挙げますと、一九八二年には森の約七・七%程度が被害を受けていると言われでいたわけです。これでもかなり大きな数字なのです。ですが一九八五年、その三年後には実に五〇%、ほぼ半分が酸性雨の被害を受けていると推定されるようになったわけです。
皆様もよく御承知だと思いますが、西ドイツの一番南の端がシュバルツバルトと言われるちょっと高原になった
森林地帯でございまして、これはバーゼルからフランクフルトに行く大きなアウトバーンがございますが、その東側に当たります。これは非常に有名なリゾート地帯で、森が多くて有名なところですが、ここでは実に七五%が被害を受けていると言われている。個人的な体験を申し上げるのはこの場にふさわしくないかもしれませんが、数年前にジュバルツバルトを車で中を走ったときに、私自身もその被害というのを知らないで見まして、何でこんなことが起きているのだろうと思ったことがございますが、それが酸性雨のせいだと聞かされて、実は唖然とした思いがございます。
酸性雨がそれではなぜ森にこういう被害を与えるのかということでございますが、完全に説ができ上がっているというわけではございません。ですが、一般に言われておりますのは、酸性雨が
地面に落ちますと、それが燐とかカルシウムという木にとっての養分を溶解してしまう。それから葉の呼吸組織を
破壊してしまうという形で、木自身が生育するための養分の吸収、あるいは光合成、あるいは呼吸といった機能を
破壊してしまうのでどうしても生きていけなくなるということで、ドイツではバルトシュターベン、つまり森の餓死という言葉で呼んでおりますが、そういった
現象が起きるわけです。ごらんになるとおわかりになると思うのですが、
最初脱色いたしまして、色が消えてまいりまして、それから枝が脱落して、それからだんだん枝が広がってくると申しますか、万歳をしたような形になりまして、最後に白骨化する。これはごらんになった方があるかと思いますが、見ますと、木が白骨化して群れをなした形になっておることがよくございまして、大変気持ちの悪い
現象でございます。
そういう形のものが出てまいりましたので、これはどうも非常に大きな問題であるということになりましたが、
原因はどこかと申しますと、言うまでもなく工業
生産、あるいはエネルギーの消費から
発生いたしますSOx、NOx、俗に言われております亜硫酸ガス、それから酸化窒素でございます。これが酸性雨をつくり出しまして、
地面に落ちて被害を与えているということでございます。これにつきましては、これは私の分野というよりはむしろ国会の議員の方々の分野かもしれませんけれ
ども、国際的な対策というのはある程度従来から検討されておりまして、一九七九年には、ECEでは、長距離越境
大気汚染条約、LRTAPと略称いたしておりますが、そういった条約ができまして、そういった酸性雨の
原因になるような
大気汚染物質の移動に関しての監視、それからこれをある程度規制しようという動きが出ております。これは発効いたしましたのが八三年と聞いておりますが、この年には、一九九三年までに汚染物質の排出を三〇%抑制しようという提案がなされまして、これに十数カ国が賛同をしたと言われております。
ただ、具体的に手を打っております国は、現在では西独が一番はっきりしておりまして、これは八三年に大
規模燃焼施設規則というものを定めまして、こういった
大気汚染物質の
発生についてはっきりとした制約を加えるということをやっておりまして、その予定ですと、一九九三年までに亜硫酸ガスの
発生を五〇%削減できると言っております。フランスも、そのようなターゲットをつい一年ぐらい前に定めております。
ですが、今度は逆にイギリスのような国は、御承知のように石炭の使用が非常に多いものですから、これを抑えるということ自身が非常な社会不安を招くということもございまして、現在の段階では、まだイギリスではほとんど規制に至っていないというのが現状でございます。ところが、
現実にはヨーロッパの場合には、イギリスそれからオランダという西側の国々が大体そういった汚染物質を
発生し、それが東側の国々、北欧諸国それから西ドイツ、東ドイツ、チェコスロバキア、それからイタリーといった国々に落ちて、いわば公害汚染物質の輸出、輸入という問題が出てきているわけです。そのためにこれをどのように制限するかというので、常にECの中で議論を闘わせているというのが現状でございます。
我が国の場合、酸性雨は、じゃ、ないかと申しますと、
現実には降っている雨そのもののpHの値というのは決して中性ではございません。四・五ぐらいという数値もかなり記録されております。ただ、そうではございますけれ
ども、
現実の被害としては余り知られておりません。つい最近、中国と我が国との間に酸性雨問題について検討を始めるという記事が出ておりましたけれ
ども、実際の被害というのが確定された例は私の知っている限りではほとんどございません。
この理由はまだよくわからないのですが、
一つの
原因は、もちろん我が国における
環境規制が非常に厳しくて、しかもかなり早い段階に施行されたというのが第一点。それから第二点は、我が国の
土壌がかなり酸性雨を中性化する機能を持っているらしい、したがって、川に出るまでに雨はほとんど中性化されてしまっているということが第二点。それから、
日本の植生というのは、ヨーロッパなどに比べますと比較的多様でございますので、
環境的に割と強いという点が第三点。それから第四点としては、本来雨量自身がヨーロッパその他の国に比べますと多いということがございまして、これが理由ではなかろうかという説もございます。これが第四点。こんな幾つかの理由から、現段階ではまだ酸性雨の
影響は余り
日本では被害としてあらわれていないということかと思います。
ですが、今後、中国、特に太平洋岸におきます火力発電の立地が進んでまいりますと、そのような状況のままで済むかはやはり問題でございまして、特に中国の場合、御承知のように脱硫、脱硝という公害防除投資に関してはお金を出さないということを言っているケースが多いようでございますので、この問題は今後大きな問題となる可能性もございます。今後長い目で検討が必要かと考えております。
次に、二酸化炭素という問題でございます。お手元にお配りしました資料、実はその大部分は二酸化炭素の説明のために持ってまいった資料でございますが、最後のページをまず見ていただければと思います。
最後のページに「ハワイマウナロア山における
大気中CO2濃度の年次変化」というのが出ております。実は
地球観測年というのがありましたのが一九五八年でございますが、この年に二酸化炭素の定常観測ということが始まりまして、その
一つのアウトプットがそこに出ている例でございます。
これは数字は三一五ppm、つまり百万分の三百十五から、そこに出ている数字ですと一九八〇年ぐらいまでの約三三〇から四〇ぐらいの数字までが出ております。ごらんになるとわかるように、振動しながらだんだん上昇しておりますが、振動しているのは季節の変動でございます。平均値を点線でかいておりますが、これを見ますと単調に増大しております。つまり、
大気中の二酸化炭素、
炭酸ガスでございますが、この濃度が確実に毎年上昇していっているというのが状況でございます。これは
世界の中のどこではかりましてもほほ同様でございまして、数ppmの差はございますけれ
ども、スウェーデンでの計測の結果でもほかのところの計測も変わりません。つまり、二酸化炭素というのは
発生いたしましてから比較的速いスピードで
地球全体の
大気の中に拡散しているというふうに考えられます。したがいまして、この二酸化炭素濃度の上昇というのは、全
世界共通の問題であるとお考えいただいてよろしいかと思います。
このように、二酸化炭素がふえてくると何が問題なのかということになりますが、ちょっと基礎的な科学の知識みたいなことで恐縮なのですが、真ん中の二枚目のところに七・一図というのがございまして、「
炭酸ガスと水蒸気とによる吸収帯」というのがかいてございます。
これは何の絵かと申しますと、要するに
大気の中にこういったガスがございますと、そのガスが光のエネルギーを吸収いたします。その吸収の率が縦軸に出ておりまして、そして横に波長が出ております。実は
太陽光線というのは、この左の十から下の方に、左側ということになっておりますが、そこにほほ分布をしているわけでございますが、
炭酸ガスというのはかなりこの絵で言うと右の方にございます。これは我々にとってはある意味ではいいことなのでございまして、
太陽光線は
炭酸ガスがございましても、ほぼ透過して
地面に到達するのですが、それが
地面である程度波長が長くなって、つまり単純に言いますと、熱波となって、長波となって
大気に逆に放射をされる分がございます。つまり、
地面から宇宙空間に出ていく波でございますけれ
ども、それが実は今申し上げましたように、もっと波長が長くなりまして右側になってまいります。
それが、
炭酸ガスとかほかのガスがあるおかげである程度吸収されまして
大気中の温度を上げますので、我々は暖かい
大気の中で
生活できるということになります。その意味で
炭酸ガスは大事でございまして、かつて昔、
地球が非常に暖かかった時代は、
炭酸ガスの
大気中濃度は二〇〇〇ppmという、現在の一けた上のオーダーであったと言われております。そういうことで、
炭酸ガスはいわば温度を上げる
役割をするわけです。したがいまして、
炭酸ガス濃度が上昇していくということは、それだけ
地球が暖かくなっていくということになります。
どれだけ暖かくなるかということなのですが、これは実は簡単にはすぐ結論は出てまいりません。これについては、二つのやり方で調べる方法が現在やられておりまして、
一つは科学的な理論を使いまして、いわば
計算機を使ったシミュレーションモデルをつくる、そして、そのモデルでどのぐらいになるかというのを
計算してみるというのが
一つの方法でございます。もう
一つの方法は、過去で温度が上がったという状況のときをとらえまして、そのときに何が起こったかというのを調べるというやり方でございます。
今の吸収帯の下に出ております絵、これは大変変な絵で、北極から見た絵でございますのでちょっと見にくいのですけれ
ども、左側に
アメリカ大陸、右側に
アジア大陸が出ております。これは過去百年間で温度が〇・六度程度上がったときにどうなったかという結果でございますが、ここに出ているのは実はまず雨を見ておるわけです。これをごらんになると、ぼちぼちとかいた
砂漠の印になっているのは、乾いてしまった、つまり、雨が少なくなったケースでございまして、逆に斜線が引いてございますのは雨が多くなった、つまり、より湿潤になったというケースでございます。ごらんになるとおわかりのように、かなりの穀倉地帯、
アジアでもそうでございますけれ
ども、
アメリカ、ソ連の穀倉地帯で雨が減っていることがおわかりになろうかと思います。
その
一つ前の第一ページをごらんいただきたいのですが、第一ページの右側に変な絵が出ております。七・六回というのがございます。ちょっとおわかりになりにくい絵なので恐縮なのですが、これは先ほど申し上げましたような理論を用いた
計算機モデルによる結果でございます。これは右側が、つまり横軸が時間でございまして、記号のように見えますが、Jと書いたのはジャニュアリー、つまり一月でございまして、一月からその次の一月まで、つまり、一年をあらわしております。縦軸は緯度でございます。南極から北極までということになります。
そこにいろいろな線が出ておりますが、実はこれは何をあらわしているかと申しますと、二酸化炭素濃度が四倍に上昇したと仮定したときに、温度上昇が何度になるかというのを
計算機で
計算した例でございます。四倍というのは大変な上昇なのでぴんとこないように思われますが、理論的にはこれが半分な場合には、つまり、二酸化炭素濃度の上昇が二倍の場合にはここにある上昇率をまた半分にすればいいということがわかっておりますので、書いてある数字を二で割っていただければ、
炭酸ガス濃度が倍になったときの温度上昇の値になります。例えば
日本は、大体東京は北緯三十五度ぐらいでございますが、この辺ですとほぼこの数字では点線の五度というところに当たります。ですから、二酸化炭素濃度が二倍に上がりますと、ほぼ二・五度程度
平均気温が上昇するというのがここにかいてある絵の結果でございます。
このモデルがどのくらい正しいかということはいろいろ問題がございますが、これは実は
日本の
気象庁にかつておられたと聞いておりますが、眞鍋淑郎さんという、現在
アメリカにおられる
気象学者が十数年前からやっていらっしゃる
研究の
一つの例でございます。このモデルがどのくらい正しいかというのはまだ議論がございますが、
一つの検証例というのを申し上げますと、現在の
炭酸ガス濃度、つまり、我々が現在住んでいる
地球のほぼ三四〇ppmという二酸化炭素濃度、この状況で
地球の
気温分布というのをこのモデルで
計算をしてみるわけです。
計算をしてみますと、南半球では海が多いせいもありまして比較的合わないのですが、北半球ではよく合います。つまり、我々自身が現在住んでいる
地球の
気温分布に対しては非常によく適合するモデルになっているわけです。したがいまして、二酸化炭素濃度だけを例えば二倍に上げたというときに、同じモデルを使って
計算をしてみた結果は多分がなりよく合うだろうということは想像できるわけです。そんなことで、まだいろいろ問題はございますけれ
ども、このモデルの結果というのは現在は
世界的に一番権威のある数字になっております。
なぜこういう温度上昇をするかというのは先ほど申し上げたとおりでございますけれ
ども、これが起きますといろいろな問題が出てまいります。二・五度と先ほど申し上げましたが、これだけの上昇というのは我々が一生の間では経験し得ない温度上昇でございます。過去百年間の温度変化というのはプラス・マイナス〇・五度程度でございまして、二・五度というオーダーからははるかに及ばない。それと、温度上昇というのが実際に起きますと降雨パターンが変化いたします。つまり、雨が変わってくるわけです。
これは私の専門というより、両端のお二人の
参考人の方の方が御専門なので、お二人から御説明いただいた方がよろしいかと思いますが、要するに降雨パターンというのは南の海とそれから北との間の
一つの
大気の循環ができておりまして、そのパターンが今のような温度上昇で変わる。したがって、例えば
日本の梅雨が六月に起きる、それから九月に秋雨が降るという状況自身が変わってくるわけです。時期が動いてしまう。また、絶対量も変わるということになります。そういたしますとこれが農業に与える
影響は非常に大きゅうございまして、先ほどの例で申し上げましたように、ソ連、
アメリカの穀倉地帯はかなり大きな打撃を受けるのではないかということが言われております。
これは
気象上の問題でございますが、あと五分ほどいただいてちょっと申し上げますと、二酸化炭素の場合にはまだまだ本当に何が起こるかというのはよくわからない面が多いのですけれ
ども、もう
一つ心配されておりますのは、南極の氷といういわばSFのような話でございます。この問題が出ましたのは一九八〇年代になる直前ぐらい、
アメリカの「サイエンス」、これは
日本の「サイエンス」ではございませんが、そこで発表されたのが初めてでございます。
これはどういうようなことかといいますと、南極の氷というのは御承知のように南極大陸の陸地に約二千八百メーターの厚さで張り詰めているわけです。ですが、端っこの方に参りますとこれは海の方にひさしのように張り出しておりまして、これがいわゆる氷の棚と言われている、アイスシェルフと言われている部分になっております。この辺の構造が非常に弱いわけです。したがいまして、温度上昇が起きてまいりますと氷が解けるといいますよりも、こういった棚の構造自身がかなり弱いものですから、棚が折れてしまって氷が海に落ちるという状況が生じます。これは解けるというよりは落ちると言った方がよろしいかと思います。そういたしますとこれは、氷は解けても解けなくても、アルキメデスの原理で海の中に落ちてしまえば同じで、海面はそれだけ上昇することになります。
地球の三分の二が海だと言われておりますので、
海洋の海面の上昇というのはあり得ないことのように思われますが、南極大陸は御承知のように
南米大陸に匹敵する非常な大きさのものでございますので、このくらいの氷の崩落というのは大変なインパクトがございまして、何メーター海面が上がるかというのははっきりいたしませんけれ
ども、最終的には数メーターの上昇が考えられるということがよく言われております。これがいつ起きるのか、どのくらいのスピードで起きるのか、それからどのぐらいの危険度があるのかということは、正直なところまだわかっておりませんが、一たん起き出すととめられない、そしてそれが起きた場合には、
地球の大都市というのはほぼ海岸に立地しておりますので
世界に大変なマイナスの
影響を与えるということだけは確かなわけです。したがいまして、温度が上がると氷が解けるという単純な話ではなくて、もう少し氷の崩壊という問題で我々の回りにも二酸化炭素の別の
影響があるということは御承知いただけるかと思います。
こんなことで、二酸化炭素問題というのは非常に大きな問題だと思いますけれ
ども、これに対する対策というのはそれでは何かということになります。それにつきましては、公害防除と同じように防除対策があるではないかという議論がございますが、
現実にはないに等しいと言えます。ないに等しいと申しますのは、やろうとすると大変なお金がかかるということでございます。
例えば、現在考えられております一番易しい方法といいますのは、発電所のように大きなボイラーがあるところで、排煙のところに一種の化学物質を置きまして二酸化炭素を吸収させる、そしてこれを外して、そしてまた吐き出させて海に捨てるというやり方がございます。
海に捨てるといいましても、表面に捨てますとそのまままた
大気に出てしまいますのでだめなものですから、出てこないほど深くに沈めなければいけない。というと大体三千メートルぐらい深海に沈めなければいけない。これも固形でやるか液体化するか、あるいは気体のままでやるかいろいろ説がございますが、一番安いのが気体のままパイプラインで運ぶ方法と言われておりまして、試算によりますと大体現在の発電所の
発生する二酸化炭素の半分を今のような形で処理いたしますと、発電コストが大体倍に上昇すると言われております。二倍に上昇するというのは大したことがないように思われますが、現在一番公害コストの高いと言われております脱硝技術
一つをとってみましても、トータルの設備コストの二〇%以下でございます。そういうことを考えてみましても、いかにこういうものが膨大なコストを要するかがおわかりかと思います。しかも、これは大
規模なボイラーのある発電所という非常にいい条件の場合でございまして、二酸化炭素というのはあらゆるところで
発生するということから考えますと、ほとんど
現実的には処置は不可能だと言ってよろしいかと思います。
したがいまして、対策はやはりエネルギー源をより有効に使う、さらに非化石燃科に移行するということが一番ポイントになろうかと思いますが、このためにはいろいろな形での抜本的なエネルギーシステムの変革、社会的なシステムの構造変化というものが必要になります。これをどのようにしたらいいかということは我々エネルギー関係をやっております技術者の問題以上に社会全体の問題でございまして、こういった問題についてむしろ社会的な問題として取り上げて議論をするという風潮が最近は多いようでございます。ただ、いずれにいたしましても現在の段階までは全く何の対策もとられておりません。正直言いますと、国際的な舞台で議論をされているのはほとんどが科学的な舞台のみでございまして、つい最近で申しますとやっと今度の
国連環境特別委員会でこの問題が取り上げられている程度でございます。
対策ということになりますと、今申し上げましたように全く議論されていないと言ってよろしいかと思います。しかし、これは
人類の極めて重要な
環境問題でございますし、これをどのように処置するかということはいわば
人類の知恵がかけられている問題だと思いますので、私自身としては何らかの形で国ないしは国際的な社会がこれをできるだけ早い機会で取り上げていただきたい、そうすることが我々の子孫に対する
一つの務めではないかというふうに考えております。
ちょっと時間をオーバーいたしましたが……。