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中村哲君 これらの問題の文章を見ますと、一貫して四島の
居住者、つまり四島に住んでいた人というような
表現であるのです、四島に実際住んでいたという人もいるけれ
ども。あの四島が相当の漁場でありますからね。殊に今、ソビエトの兵舎と思われるような建物の見える国後、択捉の場合でも、あそこは川があって、そしてサケが戻って上がっていく、そういうことは対岸の
北方隣接地域の人も非常によく知っていて、それであの漁業のトラブルが起こってくる。そして、このごろはどうなっているか知りませんけれ
ども、一時、拿捕されておったのが出てきますね。
そうするとそれは、そこで生活しているといったときには、生活はしているのだけれ
ども、生活の本拠と言えるのか、そこに家があったりする
意味の生活をしているというのじゃなくて、そこの島へ出ていって生活している。つまり漁業。だからこれは法的には漁業権の問題にも絡んでくるのです。それで先ほどから言っております歯舞の諸島が根室市に属しているという
意味が事実上のことなのか法的なことなのか、そういう事実の
関係と法的なことがあると思うのです。それでこの場合には漁業権、つまり漁業に行っているというだけじゃなくて漁業権があるのだ、こういう主張もあるのじゃないかと思うのです。それを協同組合か何かに肩がわりしてきているのか、そこらの問題がありまして、そこらの
北方領土に
関係して生活しているという生活者のことがもっと正確に事実のことと法的なことと、そういうことがもう少し細かに突き詰められることも必要で、大体のことはわかりますけれ
ども、いろいろな問題が実際はあるのだということを私は感じました。
それで、これらについて問題はありますけれ
ども、そういう問題を本当の
意味で
解決されるように前向きに我々としては
努力することだし、こういう提案は社会党は今度提案しているわけじゃなくて、それでこんな意見を述べるような
立場になりました。
一問だけ、二、三分のことでこれはちょっと申しておきたいと思います。
それは、千島に本来住んでおりましたのは千島のアイヌと言われる人たちなのですね。私は個人的なことを申しますと、終戦になって
北海道帝大が
最後の帝国大学になったときの憲法の講義、集中講義をしてくれというので行きまして、そのときにあの当時のアイヌ部落をずっと回りました。そのときはちょうど武田泰淳も文学部の助教授で来ておりまして、彼はアイヌの一揆「森と湖の祭」を書いたのです。あのころアイヌ問題というのは、私はかなり早くから関心を持っているのですが、それでこの千島アイヌのことについて科学的な
調査なんかをしましたのは、明治三十六年に出た鳥居龍藏という
日本の最初の考古学者といっていい人、この人の全集が
朝日新聞社から出ています。その第七巻の中に千島アイヌのことが書いてある。しかもこれは
日本側としては、資料としてはいい資料だと思うのです。
当時、千島列島を鳥居さんは徹底的に
調査をしたのです。そして何というアイヌがいて、そして何をやっているというその
調査をちゃんと出しているのです。
その中でこういうふうに書いてあるわけです。「御承知の如く
北海道に居りますアイヌと国後・択捉までのアイヌとは同じものと見て差支へないのでありまして、
言葉の上、風俗習慣の上から申しても、全く同じものであると考へられる。」。つまりアイヌにもいろいろな系統のものがありますから、だからこれは全く
北海道アイヌの系統の人だということを書いておりまして、「これに反してロシアと
日本とが千島と樺太とを交換しない以前には、北千島の土人は千島の北部の諸島を始終往来して居ったのでありますが、要するに此の千島の人間の生活して居る
区域は、ラサワ島以北カムチャツカ以南、」云々と言いまして、要するに国後、択捉のアイヌというのは
北海道の系統のアイヌの人です。
それで私もこの間現地を見ましたときにも、千島の人の写真を見ますとアイヌ系の人なのですね。原住民はそういう人でありますけれ
ども、これらが
北海道と不可分なアイヌの人なのです。樺太なんかにはツングースの系統があるし、それから鳥居さん
自身がかつて述べられたのには、エスキモーなんかのような小人、これはコロボックルというのですけれ
ども、
日本の
国内にもそういうフキの下に住むコロボックルという小さいのがいたと言っている。鳥居さんのこのちゃんとした
調査によると、千島の少なくともこの四島は
北海道アイヌの人たちが住んでいたということを言っておりまして、そういう
意味からもこの四島は
北海道とは切り離せないということが明治三十四年の実地の
調査、そこに住んでいた人の個人の名前まで出ているのです。
調査に出ておりますので、こういう
意味で、これはシーボルトがかつて幕末に樺太、千島の
調査に
関係しまして国外退去を命ぜられたこともあって、
日本の昔からの関心のあるところなのですが、この鳥居さんのこういう
調査があるということだけ一言申して終わりたいと思います。