○加藤国務大臣
農林水産委員会におきまして、私の所信の一端を申し上げます。
現下の我が国
農林水産業を取り巻く内外の諸情勢について見ますと、我が国の社会経済が広範かつ多様な変化を遂げてきている中で行
財政改革の推進が求められるとともに、国際収支面での経常収支不
均衡を契機として国際協調型経済構造への変革が要請されてきております。
こうした中で、我が国
農林水産業は、経営規模拡大の停滞、生産性向上の立ちおくれ、
農産物需給の不
均衡などの諸問題に直面し、また、内外価格差の是正、
農業保護のあり方等につき、内外から強い関心が寄せられております。
申すまでもなく、我が国
農林水産業は、
国民のニーズに即した食料の安定供給、活力ある地域社会の維持、国土・自然環境の保全とその調和ある活用など我が国経済社会の発展や
国民生活の安定のため、重要な役割を果たしております。
今後の
農林水産行政を推進するに当たっては、このような
農林水産業の持つ
基本的かつ多面的な役割を踏まえつつ、国際化、高齢化、大都市の過密と一部農山漁村における過疎化の進行、技術の高度化等今後の
社会経済情勢の変化に的確に対応していく必要があります。
とりわけ、昨年十一月には農政
審議会から「二十一世紀へ向けての農政の
基本方向」が報告され、国内の供給力の確保を図りつつ、
国民の納得し得る価格での食料の安定供給に努めることを
基本として、与えられた国土条件等の制約の下で
最大限の生産性向上を図る必要があり、これに焦点を合わせて諸施策を
運営すべきである旨の提言が行われたところであります。本年は、報告の指し示す方向に向かって現実の歩みが始まる重要な幕あけの年であり、
国民のニーズの変化等新しい時代の流れを積極的に酌み取りつつ、各方面の声にも十分耳を傾けながら、
国民の合意形成の上に立って各般にわたる施策を推進してまいりたいと考えております。
以下、
昭和六十二年度における主要な農林水産施策について申し上げます。
まず
農業の
振興についてであります。
第一は、水田
農業を初めとする土地利用型
農業の体質強化の推進であります。
水田は我が国
農業生産力の基幹であり、我が国
農業の長期的な発展の基盤を
確立するためには、生産性の高い水田
農業を
確立することが極めて重要であります。
このため、稲作・転作を通ずる生産性の向上、地域輪作農法の
確立といった水田
農業の体質強化や需要の動向に応じた米の計画生産を図ることを主旨とする水田
農業確立対策を生産者、生産者
団体の主体的責任を持った取り組みを
基礎に、生産者
団体と行政とが一体となって、着実に推進してまいります。
あわせて、
食糧管理制度については、
国民生活の安定を図る上での重要性を
認識し、
制度の
基本は今後とも維持しつつ、各面にわたり
事情の変化に即応して必要な
運営改善を着実に重ね、
国民の
理解が得られるよう努めてまいります。
さらに、
農業生産基盤の整備を第三次土地改良長期計画に即して着実に実施してまいります。また、農地の利用権の集積や作業受委託を促進することにより、中核農家や生産組織の経営規模や作業規模の拡大を地域の実情に即して進めるほか、新規就農者を含め、次代の
農業を担う技術・経営能力にすぐれた意欲的な
農業者の育成確保にも努めてまいります。
第二は、需要の動向に応じた生産性の高い
農業の展開であります。
需要の動向に適切に対応しつつ、産業として自立し得る
農業の
確立に資するため、水田
農業確立対策の推進とも呼応した合理的な土地利用
方式を実現するとともに、水稲、麦、大豆、特産農作物等の生産性の高い主産地を育成することを目指して総合的な
農業生産対策を推進してまいります。また、肉用牛生産の低コスト化と肉用牛資源の拡大の重要性にかんがみ、肉用牛対策に重点を置いて畜産総合対策の
充実を図ってまいります。
第三に、バイオテクノロジー等先端技術の開発・普及とニューメディアを活用した情報システムの整備であります。
今後、
農業、食品産業等の生産性の飛躍的向上、新しい食品素材の開発、農山漁村の活性化等を図る上で、これらの先端的技術は極めて重要な役割を果たしていくことが期待されております。
このため、産・学・官の連携強化により総合的にバイオテクノロジー等の先端技術の開発を図ることとし、二十一世紀を見通したハイテク育種や民間活力を生かした先端技術の研究開発を推進してまいります。また、あわせて、技術開発の成果の早急な現場への普及等を図るため、所要の
措置を講じてまいります。
このほか、農山漁村地域における情報システム化構想を推進するとともに、各分野におけるソフトウエア開発等情報システム化の促進、
農業に係る情報の的確かつ効果的な提供等を実施してまいります。
第四は活力あるむらづくりであります。
農山漁村社会の高齢化、混住化等の問題に対処しつつ、経済社会の変化にも即応して農林漁業に携わる人々が意欲と生きがいを持てる新しい地域社会を目指し、農林漁業の
振興とあわせた農村集落の整備、地場産業の育成、都市と農山漁村の交流の促進、リゾート地域の整備等により、活力あるむらづくりを進めてまいります。
第五は、健康的で豊かな食生活の保障と
農産物の価格の安定であります。
健康的で豊かな食生活の保障という観点から日本型食生活の定着促進を図ること等を
基本として、各種の食生活、消費者対策を
充実するとともに、
農産物の消費拡大に努めてまいります。
また、価格政策の運用においても、構造政策を助長し、
農業の生産性向上の促進に資するとともに、対象とする
農産物の需給
均衡の確保に資するといった観点も踏まえ、
国民の
理解と納得が得られるよう適正な運用を期してまいります。
さらに、
国民に対する安定的な食料の供給を図る上で重要な役割を果たしている食品産業につきましても、中長期的展望に立って、その体質と経営基盤の強化を総合的に推進してまいります。
以上、申し上げました各般の施策のほか、各種
制度資金について、その内容の
充実整備を図るほか、
農業災害補償
制度の円滑な
運営を図ってまいります。
また、開発途上地域の
農林水産業生産力の向上等を通じ、これら諸国の経済社会の発展に寄与するため、国際協力に努めてまいります。
林業につきましては、林業生産活動の活性化を図りつつ、
国民の多様な要請に対応できる森林の整備を進めていくことが大きな課題となっております。しかしながら、ここ数年にわたる木材価格の動向や林業経営費の増加傾向等が
影響して林業生産活動が停滞し、森林管理意欲が低下する等の
状況が見られるに至っております。
このため、森林・林業、木材産業活力回復五カ年計画に基づく木材需要拡大対策などの緊急対策を初め、林業生産基盤の整備、林業構造の改善等の各般にわたる対策を講じてまいります。
また、
森林資源基本計画及び木材需給の長期見通しを
改定するほか、
昭和六十二年度を初年度とする第七次治山
事業五箇年計画の策定、森林組合の経営基盤の強化等を行うための
制度改正に取り組んでまいります。
このほか、経営改善を行うことが緊要の課題となっております国有林野
事業につきましては、林政
審議会の答申に即して、経営改善計画を改訂・強化し、難局打開のため全力を傾注してまいります。
水産業につきましては、
国民の必要とする動物性たんぱく質の約半分を供給し、健康的で豊かな日本型食生活の一翼を担う重要な産業でありますが、二百海里体制の本格的定着、水産物需要の伸び悩み等厳しい環境のもとで新しい時代に即応した水産業を
確立することが急務となっております。
このため、漁港等漁業生産基盤の整備を計画的に進めるとともに、つくり育てる漁業の推進、先進的技術の開発等我が国周辺水域の漁業
振興に努めてまいります。
また、厳しい
状況にある漁業経営の安定・合理化を図るため、減船等漁業生産構造の再編整備、低コスト化の推進等経営対策の
充実強化を図ってまいります。
さらに、消費者ニーズを十分に踏まえつつ、水産物の消費、価格、流通・加工対策を推進してまいります。
このほか、遠洋漁業等の新たな展開に資するため、新資源、新漁場の開発を推進するとともに、粘り強い漁業交渉の展開、海外漁業協力の推進等により海外漁場の確保を図ってまいります。
以上のような農林水産施策を推進するため、厳しい
財政事情のもとではありますが、各種施策について優先順位の選択を行いつつ、我が国
農林水産業に新たな展望を切り開いていけるよう、必要な予算の確保を図ったところであります。
また、施策の展開に伴い必要となる法制の整備につきましては、今後とも、当
委員会の場におきまして、よろしく御
審議のほどをお願い申し上げます。
なお、農林水産物貿易をめぐる問題につきましては、需給動向等を踏まえ我が国
農林水産業の健全な発展との調和を図ることを
基本に、ガットにおける新しい
農産物貿易ルールづくりとの関連を
十分考慮しつつ、適切な対応を図ってまいりたいと考えております。
以上、所信の一端を申し上げましたが、
国民各界各層の深い関心の中で、
国民の合意形成の上に立って我が国
農林水産業の未来を切り開いて行くため、今後とも全力を傾注してまいりたいと考えております。
委員各位におかれましては、
農林水産行政推進のため、一層の御支援、御協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
次に、OECD閣僚
理事会出席に対する報告をさせていただきます。
私は、去る十二日及び十三日の二日間パリで開催されたOECD閣僚
理事会に我が国の
農林水産大臣としては初めて出席し、本日、先ほど帰国いたしました。
今回の閣僚
理事会におきましては、
農業問題が主要議題の一つとして討議されましたが、これは、
昭和五十七年の閣僚
理事会の決定に基づき進められてきました各国の
農業政策と貿易の
関係についてのスタディーの結果を取りまとめた総合報告書が提出されたことに加えまして、現在の世界的な
農産物市場の悪化、混乱を背景に、
農業政策の
見直しの気運が国際的に大きな高まりを見せていること等の
事情によるものであります。
今次会合におきましては、さきに申し述べました総合報告書が承認されたほか、各国閣僚の意見陳述、討議が行われ、コミュニケを採択して終了いたしました。
今回採択されましたコミュニケの
農業部分についての概要は、次のとおりであります。
第一は、長期的な各国の
農業政策の方向づけについてであります。この点については、各国が協調してできるだけ市場原則に沿った
農業生産や
農業助成の削減を目指して努力すべきこと等が指摘されております。
第二は、ウルグアイ・ラウンドとの関連についてであります。
農業改革に必要な方策もその多くはウルグアイ・ラウンドで交渉されるとの
認識のもとに、ウルグアイ・ラウンドの場においては他の交渉分野と並行して
農産物交渉の円滑な推進が図られるべきことが指摘されております。
第三は、短期的
措置についてであります。この点については、過剰生産の防止、在庫処理の適正化、対立的で安定を損なう貿易慣行の自粛等が必要であるとしております。
私は、今回の
会議を通じまして、食料自給率の低い
農産物輸入国としての我が国の立場について各国の
理解を得るように努力し、食料の安定供給の確保等の経済性以外の側面についての配慮の必要性を訴えるとともに、各国の立場に応じて
均衡のとれた対応が必要であり、各国に政策選択の弾力性が認められるべきこと等を主張し、これらの点がコミュニケにも反映されるよう努めたところであります。
これらの点を含め、
会議ではさまざまな意見の相違、対立がありましたが、最終的には我が国の立場はコミュニケにも十分反映されたものと考えております。
なお、今回のOECD閣僚
理事会出席の機会に、リン米国農務長官、ギョーム・フランス
農業大臣、アンドリーゼンEC副
委員長、ペイユOECD事務総長及びダンケル・ガット事務
局長と会談し、今次
理事会における我が国の立場につき
理解を求める等意見の交換を行いました。
以上、御報告を申し上げる次第であります。(拍手)
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