○黒田
政府委員 まず二見
委員御
指摘の第一の、
アメリカにおきます
特許制度の
改正の問題でございますが、御
指摘のとおり、
アメリカは
世界でわずか三カ国ございます
先発明主義をとっている国の
一つでございます。他の
二つ、
カナダとフィリピンでございますが、
カナダは既に
法律改正をしようというので
国会に法案を提出いたしておりまして、
出願主義、
先願主義に移行しようとしているわけでございます。
アメリカ国内でも、この
先発明主義を維持することにつきましては種々の異論が出ておりまして、特に
先発明主義のもとでは、だれが、いつ、どこで
発明をしたかということを紛争が起こった場合には証明するいわば証明合戦になるわけでございます。これがインターフエアランスという一定の法的手続のもとで争いになるわけですけれども、これには非常に時間もかかればお金もかかるというようなこと、それから他の多くの
外国と
制度が違うことによる各種の不便等から、
アメリカ国内でも、もう
先発明主義を維持すべきではないという意見が出ております。ですが、他方、
先願主義という、出願が早いから
保護するという方式よりも、先に
発明をしたものを
保護すべきであるという考え方の方が哲学的にすぐれているというようなこととか、先願となると例えば地方の個人、地方の中小企業が不利であるというような意見とか、
先発明主義の複雑さのゆえにそこで仕事がふえるという弁護士その他の人たちの反対論もございます。
したがいまして、全体にどうなるかは必ずしもよくわからないのでございますが、
アメリカ特許庁は、既に
WIPOの専門
委員会の席上、
先願主義に移行する意思があるということを
表明いたしておりまして、ただこの場合、
世界各国が一定のスタンダードを満たすことが必要である、それとパッケージである、いわば取引をするのだというようなことを言っておりまして、現在こういうものについては
WIPOで主に国際的な
調和の問題として
議論を進めていくというのが表舞台でございます。ですが、私どもは
日米欧三極
特許庁会議というのを持っておりまして、その機会などにこれまでもしばしば
日本側は、
先発明主義を離脱すべきであるということを言ってきておったわけでございますが、さらに
調和の問題を話し合うことにしておりますので、
推進してまいりたいというふうに考えております。
それから、関税法三三七条でございますが、これは現在でも非常に問題のある規定でございまして、
日本が提訴をされますと、被提訴人に許されている反証の時間が短いとか、疑いを受けまして暫定的に輸入を制限されますと、仮に後でシロだということになってもその被害が救済されないとかいうような問題があるわけでございますが、その上に、今回の
アメリカで
提案されております幾つかの
改正案では、この
期間をさらに短くするとか、産業に被害が必要だという現在の産業被害要件を削るとかいうふうな案になっておりまして、私ども大変遺憾であるというふうに思います。
と申しますのは、現在でもこの三三七条はいわば悪用される向きがあると私どもは感じておりまして、さらにこういった
制度のいわば手直し、私どもから見ると非常に困った
改正が行われますと、一層それに拍車をかける。特に法的正当性からいいましても、疑いがかけられたというだけではまだシロ、クロが決着していないわけでございまして、多くのケースとは言い切れないかもしれませんけれども、シロになるケースも間々あるわけでございます。したがいまして、適正な法的手続という
意味で、現在の三三七条の
改正案につい。では私ども非常に強い懸念を抱いておりまして、機会あるごとに私どもの懸念を米側に伝えております。
ウルグアイ・ラウンドの件でございますが、図式的に申しますと、ウルグアイ・ラウンドは先進国側がLDC側に対しまして
工業所有権制度の
整備を図るという図式になっていると思いますが、私ども
日本の立場から見ますと、
我が国から見た
工業所有権の貿易的側面というのは、単にLDC側にあるのではなくて先進国間にもある。特に、先ほどの関税法三三七条に見られます
アメリカの過剰
保護の問題なども当然にこの国際ラウンドで
議論されてしかるべきである。それから、
先発明主義などによります
制度の違いにつきましても、物によりましては貿易上の制約になる面がございますので、こういったものも考えていかなければならないと思います。もちろん、LDCの
保護不足の問題、それによります不正商品貿易が行われているという実態がございますから、これについても
是正を求めていかなければならないというふうに思います。両面作戦でまいりたいというふうに思っております。
それで、LDCに対して単純に
工業所有権制度の確立を迫るというだけでいいのかという点でございますが、私は迫るべきであると思いますけれども、ただ迫るだけではLDCとしてはうまく
対応できないと思います。
一つには、やはり
我が国がその適例だと思うのですけれども、
工業所有権制度の確立は、それによって
外国を利するのではなくて、当該国の経済
発展あるいは
技術開発、産業
発展の
基盤をつくるという
意味合いがございますから、こういった
意味合いについて
日本は
一つのサンプルとして御理解いただいて、ぜひともその意義に目覚めていただくようなアプローチ、それから、これを導入するにいたしましても、人材の養成から始まりましていろいろな助力が必要でございます。こういったものについて
日本は大いに協力をしていくべきであるというふうに考えております。
経済協力の
必要性については、私どもも、
特許庁という枠からは若干外れると思いますけれども、大いにこれを進めていくべきである、
工業所有権制度の
整備は、逆に言えば、またその裏側として、技術移転を促す基礎的な
制度になり得るというふうに考えております。