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1986-10-23 第107回国会 参議院 法務委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年十月二十三日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員氏名     委員長         太田 淳夫君     理 事         林  ゆう君     理 事         猪熊 重二君     理 事         諫山  博君                 梶木 又三君                 斎藤 十朗君                 下稲葉耕吉君                 鈴木 省吾君                 土屋 義彦君                 徳永 正利君                 名尾 良孝君                 中西 一郎君                 長谷川 信君                 秋山 長造君                 安永 英雄君                 宮本 顕治君                 関  嘉彦君                 瀬谷 英行君                 西川  潔君                 藤田 正明君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         太田 淳夫君     理 事                 名尾 良孝君                 林  ゆう君                 猪熊 重二君                 諫山  博君     委 員                 梶木 又三君                 下稲葉耕吉君                 土屋 義彦君                 中西 一郎君                 長谷川 信君                 秋山 長造君                 関  嘉彦君                 瀬谷 英行君                 西川  潔君    国務大臣        法 務 大 臣  遠藤  要君    政府委員        北海道開発庁計        画監理官     大串 国弘君        法務政務次官   工藤砂美君        法務大臣官房長  根來 泰周君        法務大臣官房司        法法制調査部長  清水  湛君        法務省民事局長  千種 秀夫君        法務省刑事局長  岡村 泰孝君        法務省矯正局長  敷田  稔君        法務省保護局長  俵谷 利幸君        法務省人権擁護        局長       野崎 幸雄君        法務省入国管理        局長       小林 俊二君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局総務局長   山口  繁君        最高裁判所事務        総局人事局長   櫻井 文夫君        最高裁判所事務        総局民事局長        兼最高裁判所事        務総局行政局長  上谷  清君        最高裁判所事務        総局刑事局長   吉丸  眞君    事務局側        常任委員会専門        員        片岡 定彦君    説明員       警察庁警備局公       安第一課長    小田垣祥一郎君        外務省国際連合        局審議官     林  貞行君        厚生省社会局保        護課長      萩原  昇君        建設大臣官房会        計課長      市川 一朗君        建設省河川局海        岸課長      矢野洋一郎君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○国政調査に関する件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (派遣委員報告)  (外国人登録法に基づく指紋押捺制度改正に関する件)  (北海道土人保護法ウタリ対策に関する件)  (プライベート・ビーチに関する件)  (いわゆるプライバシーの権利保護写真週刊誌の表現の自由に関する件)  (簡易裁判所の統廃合に関する件)  (捜索・差押令状押収物の範囲に関する件)     ─────────────
  2. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る七月二十四日、石井一二君が、九月十日、平井卓志君が委員を辞任され、その補欠として梶木又三君、名尾良孝君がそれぞれ委員選任されました。     ─────────────
  3. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 次に、委員異動に伴い、現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事名尾良孝君を指名いたします。     ─────────────
  5. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 次に、国政調査に関する件についてお諮りいたします。  本委員会は、今期国会におきましても、検察及び裁判運営等に関する調査を行いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 次に、遠藤法務大臣及び工藤法務政務次官から発言を求められておりますので、順次これを許します。遠藤法務大臣
  8. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) 一言ごあいさつを申し上げます。  私、法務大臣に就任いたしまして、法務行政を担当することになりました。参議院法務委員会皆さん方にごあいさつの機会を得ず、今日まで延引いたしましたことに対して、心からおわびを申し上げたいと思います。  内外にわたり極めて困難な問題が山積しておりますので、このときに当たり、その職責の重大であることを痛感いたしております。  私は、法務行政に課せられております使命は、法秩序の維持と国民権利の保全にあると考えております。国民生活の安定を確保し、国家社会の平和と繁栄を図るためには、その基盤とも言うべき法の秩序が揺るぎなく確立され、国民権利がよく保全されていることが極めて肝要であると存ずる次第でございます。  私は、こうした認識のもとに、法務行政の各分野にわたり、一層の充実を図り、時代の要請に応じた適切な諸施策を講じ、真に国民の期待する法務行政の遂行に万全を期してまいりたいと存じます。  もとより、これらのことは、委員長を初め委員各位皆さん方の御理解、御協力なくしては到底果たし得ないものでございます。どうかよろしく御支援、御鞭撻のほどを心からお願い申し上げ、以上、簡単でございますけれども、所信の一端を申し上げてごあいさつといたします。(拍手
  9. 太田淳夫

  10. 工藤万砂美

    政府委員工藤砂美君) このたび法務政務次官に就任いたしました工藤砂美でございます。  時局柄、大任ではございまするが、遠藤法務大臣のもとに、よき補佐役として、時代に即応した法務行政の推進のため、微力ではありますが最善を尽くしてまいりたいと存じます。何とぞよろしく御指導、御鞭撻のほどお願い申し上げる次第でございます。  簡単ではございまするが、ごあいさつといたします。ありがとうございました。(拍手)     ─────────────
  11. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) では、検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  まず、去る九月一日から三日まで当委員会が行いました委員派遣につきまして、派遣委員報告を聴取いたします。  それでは、御報告を願います。林ゆう君。
  12. 林ゆう

    林ゆう君 去る九月一日から三日までの三日間、太田委員長猪熊理事諫山理事秋山委員西川委員と私、林の六名は、検察及び裁判運営に関する調査の一環として、最近における司法行政及び法務行政に関する実情等につき調査のため、北海道に行ってまいりました。  派遣日程の第一日目は、札幌高等裁判所において、札幌高等裁判所札幌高等検察庁札幌地方裁判所札幌家庭裁判所札幌地方検察庁札幌法務局札幌矯正管区札幌刑務所札幌少年鑑別所北海道地方更生保護委員会札幌保護観察所及び札幌入国管理局の各機関から管内概況につき説明を聞き、懇談を行い、第二日目は、札幌刑務所実情を視察し、第三日目は、函館地方裁判所において、函館地方裁判所函館家庭裁判所函館地方検察庁函館地方法務局函館少年刑務所函館少年鑑別所函館保護観察所等の各機関から管内概況につき説明を聞き、懇談を行った次第であります。  今回の委員派遣におきましては、第一に、司法行政及び法務行政に関する管内概況、第二に、裁判所及び法務省関係庁舎施設及び宿舎営繕状況、第三に、委員会に対する要望事項及びその他参考になる事項を主要な調査項目といたしました。  以下、その概要を御報告いたします。  まず第一に、司法行政及び法務行政に関する管内概況についてであります。  裁判所関係では、民事行政事件について札幌釧路地裁増加を示しているところもありますが、全般的には減少ないし横ばいの状況にあります。また、管内地裁、簡裁を通じて、昭和五十九年、六十年と、破産事件執行事件督促事件が急増しております。これはサラ金、クレジット関係及びこれらに起因する自己破産等によるものであります。その他、管内簡易裁判所の統合問題を抱えていること、裁判官その他の職員は二年ないし三、四年のローテーションのもとに活発に仕事に励んでいること、また、経済不況のため競売の未済事件増加していることなどの状況であります。  次に、検察庁関係につきましては、札幌高等検察庁管内における受理、処理件数は各庁とも逐年増加しております。犯罪の動向としては、全般的には平穏に推移しているものの、依然として凶悪事件が後を絶たず、暴力団を初め、覚醒剤少年交通等にかかわる犯罪増加の傾向にあり、楽観を許さない状況にあると言えます。  次に、法務局関係でありますが、広い地域小規模分散の機構となっており、その整理統合が問題となっております。北海道における登記事件数は、その開発と経済発展成長に伴って増加してまいりました。ちなみに、昭和四十年と昭和六十年の登記事件数を比較しますと、甲号事件数で約一・六倍、乙号事件数で約四・二倍となっております。加えて、一般人の登記申請及び相談事件増加、今後の国鉄のあり方の変化に伴う登記事件数増加を考えますと、登記事務処理体制充実は急務であります。  また、人権擁護関係におきましては、いじめ問題はもちろん、北海道特有の問題であるウタリに対する差別解消のためにも積極的な努力がなされております。  次に、矯正施設関係でありますが、矯正管区の定めた重点施策に基づいて、各刑務所ともにそれぞれ施設運営方針を定め、刑務作業及び被収容者教育等を行っております。  札幌刑務所の被収容者には再入者が多く、しかも暴力団組員覚醒剤麻薬患者等が相当数占めており、これらの者の改善更正は困難をきわめ、このため刑務所職員の日々の勤務は多大な負担を強いられているのが現状であります。しかも、職員世代交代期に当たり、平均年齢三十六歳でありますが、活発な意欲で経験の不足を補っておるとのことであります。なお、経済不況に当面して、刑務作業は困難な問題を抱えておりますが、鋭意克服に努力しています。  次に、地方更正保護委員会及び保護観察所でありますが、最近の保護観察対象者には、犯罪非行罪質等が複雑、多様化しており、これらの処遇困難者に対しては、保護観察官の直接関与を強めるとともに、分類処遇集団処遇の実施に力を注いでおります。  また、保護観察官仕事に対する民間側協力体制としましては、保護司、更正保護会更正保護婦人会BBS会等の組織がありまして、保護対象者更正援助地域における非行犯罪防止活動更生保護会収容者に対する慰問、激励等に多大な御努力がなされております。  第二に、裁判所及び法務省関係庁舎施設及び宿舎営繕状況について述べます。  まず、庁舎施設でありますが、裁判所関係は全体として整備された状況になっておりますが、札幌管内倶知安簡易裁判所函館管内の森、八雲簡易裁判所は、昭和二十年代に建築されたれんがづくり建物であり、今後もこれらの裁判所が存置されるとするならば、改善検討が必要かと思われます。  検察庁庁舎施設につきましても、おおむね整備されております。  次に、法務局庁舎施設でありますが、逐年整備されつつあるとはいえ、なお、北海道積雪寒冷地のため建物損耗度が高く、老朽化した庁舎登記事件数等の増大に伴う事務量増大能率機器の導入により狭隘となっている庁舎があり、早急な解決が望まれています。特に、函館管内では、早急に新営で対処すべき庁として、寿都支局森出張所が挙げられております。  また、北海道地方更生保護委員会管内更生保護官署庁舎におきましても、事務室狭隘面接室不足のところが認められ、早急な解決が望まれます。  次に、宿舎営繕状況でありますが、一般に宿舎事情は安定しているものの、法務局においては、交通事情が悪く、支局出張所間の距離が離れているものが多く、宿舎の増設が望まれるところであります。  第三は、本委員会に対する要望事項及びその他参考になる事項についてでありますが、裁判所検察庁矯正管区地方更生保護委員会入国管理局等からは特段の要望事項はありませんでした。  ただ、札幌法務局及び函館地方法務局からは、人員、施設宿舎等について要望が出されております。すなわち、一、登記事務量増大に対処するため、また、職員健康管理からも法務局職員の増員を図る。二、事務室狭隘化駐車場不足積雪等による利用者の不便を解消するため、庁舎施設整備拡充を図る。三、遠隔地職員のための宿舎確保を図る等であります。いずれも相当な要望であると思料いたします。  さて、以上、今回の視察の概要を申し上げましたが、私ども親しく現地に臨み、関係部局職員がそれぞれの持ち場におきまして、日夜多大な御苦労を重ねられ、特に矯正関係職員方々にあっては、一人当たり数十人に及ぶ受刑者を受け持って、人間的な信頼関係を基礎として矯正努力されている姿に接し、いたく感銘した次第であります。なお一層の御健勝、御発展を願ってやみません。また、調査に当たり、現地の各関係機関等から終始懇切丁寧な御協力を賜りましたこと、並びに最高裁判所及び法務省から種々の御便宜をお取り計らいくだされたことを厚く感謝申し上げる次第でございます。  以上御報告申し上げます。
  13. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 以上で派遣委員報告は終了いたしました。  次に、ただいまの報告に関し、法務省及び最高裁判所側から発言を求められておりますので、これを許します。遠藤法務大臣
  14. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) このたびは、北海道札幌函館管内法務省所管各庁を視察され、ただいま林委員からその結果について報告を拝聴いたしましたが、法務省所管各庁の業務及び職員に対し温かい御理解をいただき、心から御礼を申し上げる次第であります。  私も、ただいま御報告されました数々の問題については、今後とも必要な処置を講じてまいりたいと考えておりますので、よろしく御指導、御支援をお願いいたします。  ありがとうこざいました。
  15. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) このたびは、札幌及び函館の各裁判所を親しく御視察いただきまして、まことにありがとうございました。  ただいまは林委員から詳細な御報告種々の御指摘を承ったわけでございますが、御報告にもございましたように、札幌及び函館裁判所におきましては、御指摘のございました事件の変動の中で適正迅速な裁判の実現のため努力しているところでございます。  私ども司法行政を担当する者といたしましては、ただいまの御指摘十分念頭に置きまして、今後とも裁判の円滑な運営のために一層努めてまいりたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。  ありがとうございました。     ─────────────
  16. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 次に、本調査につきまして質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  17. 猪熊重二

    猪熊重二君 公明党猪熊と申します。  今回、初めて参議院議員になりまして、質問も初めてでございますのでどのようにやったらいいのかよくわかりませんけれども、ひとつよろしくお願いしたいと思います。質問内容とか仕方とか、いろいろ従前の慣行等に反するようなことがありましても、ふなれのせいですので、どうぞ御勘弁願って進めていっていただきたいと思います。よろしくお願いします。  本日は、約九十分の時間について三点にわたって伺いたいと思います。第一点は、外国人登録法の問題。第二点は、いわゆるアイヌの差別的処置の問題。第三点は、国有財産である海岸がプライベートビーチ化しているということでその是正策について。このように三点について伺いたいと思います。  まず最初に、外国人登録法の問題についてお伺いします。外国人登録法と申しましても、その中の指紋押捺制度外国人登録証明書携帯義務の問題についてお伺いいたします。  この指紋押捺制度については、現在でも外国人日本国民と違った取り扱いをする、差別的取り扱いをするというふうな批判、あるいは国際人権規約に違反する処置であるというふうな見解が諸方で起こっております。この件に関して、私の所属する公明党においては、昭和六十年六月十八日、政策審議会法務部会長名にて法務大臣に対し、大要一、指紋押捺制度を廃止すること。二、永住権取得者については外国人登録証明書の常時携帯義務を緩和することの二点について申し入れをしております。このような観点に立って指紋押捺制度及び携帯義務についてお伺いします。  まず、この問題に関して、去る九月二十三日、中曽根総理アジア大会参観に伴う全斗煥大統領との会談で指紋問題の改善策について同大統領に伝えた、そしてその同じ提案内容に基づいて法改正法務省の万に指示したというふうな新聞報道がなされております。  そこで、法務当局にお伺いしたい。  中曽根総理から法務当局の方に指示のあった指紋押捺制度に関する改善策内容はどういうことであるか。その改善策指示に従って現在、法改正の準備をしているのか。そうとした場合、法案の提出時期はいつごろになるのか。このような点についてお伺いしたい。
  18. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 委員から御指摘のように、現在、外国人登録法改正法案作成作業が進行中でございます。また、その根幹には総理からの御指示があったということも事実でございます。ただ、総理からの御指示は、この問題についての従来の経緯を踏まえてその解決に早急に努力をしてほしいということでございます。したがいまして、その法案内容にわたってどのような改正が行われるべきかということについての御指示をいただいたということではございません。早急に解決方向努力を進めるようにという御指示でございました。また、可能であるならば次期通常国会をめどとするようにという御指摘もございました。私どもはその線に沿って作業を進めておるところでございます。  この外国人登録法改正内容につきましては従来から種々経緯がございまして、法務省といたしましても実務の観点からの見解をもとにいたしまして種々検討が続けられておったのでございます。したがいまして、総理の御指示によってその結論を得べき時期について一定の御判断をいただいて、これに添って努力をさらに重ねてきておるというのが現況でございます。  先般の御訪韓の際に、総理から韓国大統領に対して説明をされましたとおり、現在、改正法案として検討中の骨子は二つございます。  その第一点は、指紋押捺を従来切りかえごとに求めておったのを改善緩和いたしまして、最初押捺義務が生じた際における押捺をもって、その後は原則として繰り返して押捺を求めることをしないという点でございます。  もう一点は、永住者対象といたしまして、現在の冊子式登録証明書の態様を改善いたしましてカード式のものに切りかえる、これによって携帯の便に資するという方向検討を、作業を進めておる、この二点が改正の主要な骨子でございます。  なお、これに関連する諸点についてさらに詳細を詰めつつあるというのが現況でございます。
  19. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、現在の改正作業の要点のうち、最初の第一点である切りかえのときに指紋押捺を求めない、こういうことでございますが、それ以外に、現行法のもとにおいては、汚損あるいは棄損した場合に引きかえ交付をする際にも指紋押捺するように、あるいは紛失等による再交付のときにも指紋押捺するようにという規定になっておりますが、この引きかえ交付及び再交付の場合の指紋押捺はどうなることを予定しておるわけでしょうか。
  20. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) その点も現在なお詰めつつある点の一つでございます。しかしながら、私どもの考え方といたしましては、また現在の協議の成り行きからいたしますと、恐らく再交付あるいは引きかえ交付の際には改めて指紋押捺を求めないで、既に押捺してある指紋の転写を利用することによって処理するという方向になろうかと考えております。  なお、この点についてはさらに結論を詰める必要がある点ではございますが、現在の見込みではそういうことになるのではないかと考えております。
  21. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、当初に一回指紋押捺させれば、その後切りかえ交付、再交付もしくは更新というか書きかえの交付、このときには原則として指紋押捺させることはないというふうな方向検討している、こう伺ってよろしいでしょうか。
  22. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) そのように了解いただいてよろしゅうございます。
  23. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、一回限りといった場合に、現在既に入国していて外国人登録をしていて指紋押捺している人は、今後再び指紋押捺させられるという事態はないと考えてよろしいわけですか。
  24. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) この点は、総理から韓国大統領にも御説明されたとおり、特に必要が生じない限り一回の押捺で足りるということでございます。したがって、法改正前に既に登録を済ませ、かつ押捺義務に応じておられる方々については、改正後に改めて求めるということは原則としてないということでございます。
  25. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、まだ法案作成中で法律が成立したわけではございませんが、現行法のもとにおいて指紋押捺拒否犯罪類型として先ほど申し上げた各場合にそれぞれ指紋押捺しなかったことが犯罪になることになっております。しかし、仮に、改正法のもとにおいては、当初の指紋押捺は別にして、それ以降に指紋押捺させるということがないわけですから、したがって、指紋押捺拒否による罰則規定である外国人登録法十八条一項八号の中身も変わってくるということになると思います。そして、そのことは結局は現在の切りかえ交付における指紋押捺拒否者犯罪性というものが自後の法律によって刑が廃止された場合に当たるということになると思いますが、いかがでしょうか。
  26. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) この点は法の改正に伴う経過措置の問題につながる点であろうかと存じます。この点についての誤解をなくするために、通常この種の法改正の際には何らかの経過規定が置かれることになっておりますので、この点もさらに法案を詰める際に詰める必要のある点であろうかと思います。何らかの措置を講ずることになろうかと思います。  しかしながら、基本的な考え方といたしましては、法改正後におきましても指紋制度そのものは維持されるわけでございますし、また指紋制度そのものの外国人登録法上における重要性あるいは必要性については何ら変わることはないわけでございます。しかも、ただいま委員から御指摘のございましたいわゆる指紋押捺拒否と申しますのは、一定の政治的な目的を達成するために意図的かつ公然と法に違反する行為を行ったということでございます。この二つの点を考え合わせますと、私どもといたしましては、法改正後におきましても法改正前に起こされたこれらの違法行為についてこれを不問に付するということは適当ではないと考えておる、これが基本的な考え方でございます。
  27. 猪熊重二

    猪熊重二君 大体、現在の指紋押捺制度が不適当だからこれを是正しよう、これを改正して切りかえ交付等のときに指紋押捺をさせないことにしよう、指紋押捺を不必要にしよう、こういうことで法を改正しようとしているわけなんです。現在、確かに現行法のもとにおいては切りかえ交付の際の指紋押捺拒否者犯罪として処罰される、これはやむを得ない。  しかし、せっかくそのように法改正するんだとしたら、そのような従前の行為に対しても処罰するなんという経過規定など置かないで、むしろ通常の刑の廃止に従って、犯罪後の法令によって刑が廃止されたと、それだけの一般的な処置をすればそれで十分じゃないか。もし法改正後においてもなおかつ従前の指紋押捺拒否者に対する処罰規定をどうしても存続させなければならぬ、あるいは経過規定を層かなきゃならないというふうなことはないんじゃないか、私はそのように考えますが、そのような観点から、既になされている指紋押捺拒否者に対する刑事処罰の問題等はぜひ善処していただきたい、このように思います。  これに関連して、法務省は九月二十五日、全国都道府県知事に対して入国管理局長名で、現在の指紋押捺拒否者に対する処置として、一口に言えばしっかり地方団体に告発等の事務をやれというふうな、犯罪告発、処罰に通ずるような通達を出している。せっかく法を改正しようということでいくならば、そんなことをするよりも、早く法改正して、従前の指紋押捺拒否者に対する処罰規定も実質的に効果がないような形にするべきだと思う。そのような観点法改正を進めていただきたい、このように思います。これは私の要望でございます。  ところで、先ほどの御答弁の中に、必要がない限り一回である、一回の押捺で済むというふうに言われたと思いますが、必要がある場合には再度の指紋押捺ということもあり得るということなんでしょうか、お伺いします。
  28. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) そのとおりでございます。  しからば、必要の場合とはどういう場合かという御質問かと存じますが、例えば、登録あるいは切りかえのため出頭した人間が既に登録してある人物と入れかわっている可能性、疑いがある、人物の入れかわりの疑いがあるといった場合、すなわち同一人性について疑問が生じた場合、その場合が一つこれに該当いたします。  また、既に指紋押捺してある指が欠損したような場合、この場合には改めて一定の規定に従って、あるいは規定された順序に従って別の指の指紋押捺を求めるということになります。  また、あるいは既に押捺して保存されている指紋が汚損あるいは退色等によって鮮明度を著しく欠くに至った場合、そのような場合に改めて押捺を求めるということも必要と判断される場合があろうかと存じます。  こうした場合が現在考えられておる改めて押捺を求める必要のある場合ということでございます。
  29. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、今言われたような類型的に三つぐらいの場合について、その必要性を判断し、その判断に基づいて指紋押捺を要請する主体はだれになるんでしょうか。
  30. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) これは直接窓口において登録事務に当たっております市区町村の長ということを考えております。
  31. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、外国人登録法十三条二項列挙の例えば入国審査官、入国警備官あるいは警察官あるいは海上保安官、このような方がそのような必要性を判断しあるいは指紋押捺を求めるというふうなことは考えていないということでしょうか。
  32. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) ただいまの御指摘は、外国人登録証の提示を求めることができるという権限に伴う規定であろうかと存じますが、外国人登録法に基づく押捺を求める権限をこれらの職務を有する人々に与えるということは現在考えられておりません。
  33. 猪熊重二

    猪熊重二君 先ほどの、必要性がある場合にはさらに再度の押捺を求めるという中の後ろの二つの問題、要するに、押捺した指が欠損した場合とかあるいは指紋原紙の不鮮明とか、こういうふうなことについてはなるほどそういうことも、現在の一回でも指紋押捺するという制度を前提にする限りは理解できますが、同一性について疑問があり、再度指紋押捺を求めるといったときに、どうもおかしい、もう一丁やってくれということになったら、一回限りだという原則を立てながら、同一性が不明確だというふうなことを担当職員に全面的に任せたら、同一性がどうもはっきりせぬ、どうもおかしい、別人じゃなかろうかというふうなそんな主観的なことで再度必要があるんだ、再度指紋押捺させるんだということになったら、現行法と法の運用において実質的に大差ないような状況になる可能性が非常に多いと思いますが、その点いかがですか。
  34. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) この点につきましては、さらに詳細に具体的に押捺を求めるべき実情、事情、要件につき通達等で改めて指示を行う必要はあろうかと思います。しかしながら、いずれにせよ私どもとしてはこれらの条項が乱用されるということがないように、なすべき措置は講ずる所存でおります。
  35. 猪熊重二

    猪熊重二君 いずれにせよ今の問題は非常に重要な問題でございまして、そこでどれだけ絞りをかけるかかけないかによって、一回限りという表題を掲げながら実質的に今と同じような状況が現出されるとしたら、これは単に国内の問題だけでなくして、総理全斗煥大統領に対する約束、原則的に一回限りにしますと言ったその原則と例外がひっくり返る可能性が非常に多い、その辺のことを十分考慮して法案の作成に当たっていただかないと、国際信義に違反するような愚かしい結果にもなりかねない。十分に注意していただきたいと思います。  ただいままでの私の質問は、現在の法制度というものを前提にしてお伺いしたわけです。  今度、改善策、一回限りという法改正の方法は、私から見ると論理的に非常に矛盾している、このように思います。というのは、従前、法務省外国人指紋押捺させる理由として言っていたことはこういうことだと思います。指紋は万人不同である、だれも同じ人はいない、しかも終生不変である、一生変わらないんだ、指紋は万人不同、終生不変の身体的特徴であって人の同一性を判断するにはこれが一番確実な方法なんだ、外国人の同一性を判断することは必要不可欠のことだ、だから指紋押捺させるんだということ、これが従前、指紋押捺制度を必要とする理由として法務省が述べてきたことなんです。  この法務省見解によれば、当然に二つの指紋が存在することを前提にしているんです。同一性を判断するということは、AとBがあって、BがAと同じか違うか、これが同一性の判断。Aだけだったら、もしくはBだけだったら、同一か同一でないかという論理は成り立たないはずなんです。ですから、最初に押した指紋がある、これがAの指紋です。次の機会に押した指紋がある、これがBの指紋なんです。このBの指紋がAの指紋と一致するかせぬかということの問題として指紋押捺が必要だということが法務省見解だったはずです。もしこの見解が違うなら違うとおっしゃってください。そうだとすれば、一回限り指紋を押させるということは指紋の同一性という問題とは無関係になってくる。  申し上げていることは、要するに、一回押しただけで二度目に押させないんだったら、二回目のものが一回目と同じかどうかという同一性の判断の資料にはならない、このように考えますが、いかがでしょうか。
  36. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 同一人性の判断を指紋のみによって行うとすれば、確かにそのようなことが言えるわけでございます。しかしながら、同一人性の判断は、現在の法体制のもとにおきましても指紋のみによって行っているわけではございません。まず第一に写真がございます。それから登録事項がございます。登録事項についての質疑がございます。こうした手段によって切りかえ登録の際に同一人性の確認ができた場合におきましては、それ以上指紋によって確認を行うには及ばないということになるわけでございます。しかし、これらの資料によって同一人性に疑いがあるという場合には、改めて市区町村の長の判断によって指紋押捺を求めるということになるわけでございます。この点は先ほど御答弁申し上げたとおりでございまして、そこで照合をして、最終的に同一人性が確認されるかされないかということになるわけでございますから、最初指紋が確保されておるということは、同一人性を確認する最終的な手段が確保されるということを意味するわけでございまして、それが確保されているということの意味は一向に衰えない、傷つけられない、害されないということになるわけでございます。  また、現在、指紋の果たしております重要な役割の一つは、外国人登録証明書指紋が載せられておって、そのことによって外国人登録証明書の不正使用、すなわち他人の証明書を携帯して合法的な在留者であることを装うといったようなことのないように、それを抑止する効果を極めて効果的に果たしておるということがございます。この点は、指紋を一回限りにいたしましても、二回目以降の外国人登録証明害にも転写によって最初押捺された指紋がそのまま載せられることになりますので、登録証明書の不正利用に対する抑止的な効果という重要な機能は改正後におきましても引き続き果たされるということになるわけでございます。したがって、一回限りの指紋の重要性ということは、その意義においていささかも減ずるものではないと私どもは考えるのでございます。
  37. 猪熊重二

    猪熊重二君 結局、今の御答弁によれば、何万人だか何十万人かの外国人登録に際し、指紋を押させるようなことは差別的待遇だと言う大勢の人方に対して全部指紋押捺させておいて、そしてたまたま、どうしても同一人を判別しにくいというどく例外的な、あるいはないかもしれないそのような事態、先ほど局長が御答弁になった必要性がある——指が欠損してしまったとか、あるいは指紋原紙が汚損してしまったとか、そんな特殊的な、例外的な場合にもう一度指紋が必要なんだと、こういうまことにあり得るかあり得ないかわからないことのために、何ゆえに何万、何十万という外国人に対して指紋押捺させるのか。今、まさに局長がおっしゃったように、人の同一性は写真や登録事項や、その人の言動だとか、そういうもので判断できるんです、原則はそれでできると言っているんです。どうしてもおかしい人のときに指紋があれば都合がいい、これだけのことなんです。そんな例外的なことによってでは、指紋押捺は差別だと言っておられる方々に対して納得させる理屈とはならないと私は思う。  要は、一回指紋を押させるということは、人の同一性の判断にとっては一般論として何ら論理的意味がない。今、局長がおっしゃったのは、たまたま例外的な、あるかないかわからぬことのために、そのために全員に押させるということになる。指紋押捺制度は従前の法務省の論理であるならば一応の理屈はあるけれども、今のような論理では、あるかないかわからぬことの理由に基づいて全員に指紋を押させるというようなことで、まことに非合理的な法改正だと思いますが、もう一度御答弁願いたい。
  38. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 外国人登録法が制定されましたのは昭和二十七年でございます。外国人登録法の以前におきましては外国人登録令が外国人登録制度の基本となっておりました。外国人登録令の時代におきましては、指紋押捺制度というのはなかったのであります。その時点におきましては、おっしゃいますように写真とその他の事項によって同一人性の確認の手段とされておったのであります。しかしながら、昭和二十二年に外国人登録令が制定されましてから昭和二十七年に外国人登録法が制定される間五年間に起きましたことは、多数の密入国者に対する外国人登録証の横流しということのために行われた二重、三重登録、あるいは外国人登録証明書の広範な不正利用であったわけであります。こういった目に余る事態に対処するために、昭和二十七年に外国人登録法が制定されました際に初めて指紋制度というものが導入され、そして昭和三十年にこれが実施されて以降、外国人登録証明書の不正利用ということは影を潜めたのであります。  現在でも、私どもが摘発いたします密入国者その他の例を見ますと、外国人登録証明書の不正利用という事例は散見されます。しかしながら、これらの事例は、いずれも十六歳以下、あるいは従前は十四歳以下の未成年者が学校に入学するために他人の登録証明書を不正に利用したというケースでございます。なぜ未成年者のみについてこういう事例が発見されるかと言えば、未成年者の外国人登録証明書には写真もなければ指紋もないという事実があるからであります。言いかえれば、指紋制度が昭和三十年に実施に移されて以降今日まで、成年者、すなわち指紋を要する外国人登録証明書が他人によって不正に利用されたということは一件も発見されていない。  事ほどさように、指紋制度というものは、外国人登録証明書の適正な利用を確保する上に絶大な効果を発揮して今日に至ったという事実があるわけでございます。もちろんそのために、例外的な不正入国者あるいは不法残留者が存在するために多数の人間が一定の義務をこうむるということは事実でございます。しかしながら、かかる例は世の中に極めて広範に存在するわけでございます。  例えば、鉄道を利用する場合に、多くの人間が定期券あるいは乗車券をわざわざ所持してこれを提示する義務を持つのはなぜであるか。それは、極めて少数の不心得者が、あるいはきせるを行う、あるいは不正乗車を行うといったことを防止するために多数の善良なる乗客が切符を所持し、提示する義務を負うということになっておるわけでございまして、こうした事例は極めて多いと存じます。もちろん、そのこと自体を取り上げれば望ましいこととは言えないと存じます。しかしながら、全体的な法秩序を維持するためにはやむを得ない制度であるとして受け入れられて今日に至っておるというこの論理が、この外国人登録法に基づく指紋押捺要件についても言えるかと存じます。
  39. 猪熊重二

    猪熊重二君 ただいまの答弁の中で、揚げ足取りをするわけではありませんが、登録証明書を定期券と比較することはまことに不適当、不穏当と私は思います。定期券を所持するのは、運送契約を結んで、私が東京から名古屋まで乗っていきますという証明なんです。こんなものを持っているのは当たり前のことです。定期券——乗車券でも同じですけれども、定期券を持っていることと外国人登録証明書を持っていることと同一視するとしたら発想方法が非常におかしい。言葉は悪いけれども、間違っている、転倒していると私は思います。定期券は、金を払ってそこまで運搬、運送してもらう人が持っている運送証券なんです。権利を化体した証券なんです。外国人はふろ屋へ行くのにも何ゆえに登録証明書を持たなければならないかというこの問題を考えるについて、局長がそのような考え方をお持ちだということは驚き入ることです。外国人登録証明書を、定期券を所持するのと同じような意味において所持が必要だというあなたの見解を今でも維持されますか。
  40. 小林俊二

    政府委員小林俊二君) 私は、乗車用の定期券が外国人登録証明書と同じ意味を持つと申し上げたのではございません。私は、一部の不心得者のために、一部の不正行為者のために多数の者が多かれ少なかれ負担をこうむるという事例は世の中にたくさんあるということの、その側面の事例として申し上げたにすぎないのであります。
  41. 猪熊重二

    猪熊重二君 この問題はこのくらいにしておかぬと、時間がないから進めることにします。  東京高裁で、去る八月二十五日に、在日韓国人に対する指紋押捺制度は必要かつ合理的な制度として認められるという判決が出たんです。今、局長が言われたような観点に立って東京高裁はこのような判決を出している。しかし、この東京高裁の判決は、指紋押捺制度原則として憲法十三条の「すべて国民は、個人として尊重される。」というこの条項に違反する。しかし、正当な、合理的な行政目的がある限りにおいて公共の福祉によって制限されることはやむを得ない。現在の指紋押捺制度は、人の同一性を判断するにつき不可欠のことだから、だから合理的な制限なんだというだけでこの判決は外国人登録法に基づく指紋押捺拒否者に対する罰金一万円を認めているんです。  ところが、今の局長の御答弁だと、この裁判所が前段階で言っている指紋押捺原則として憲法十三条に違反する、あるいは見万によっては憲法十四条に違反する、このような論理を全然無視して、あるかないかわからないことのために全員に指紋押捺させるということを考えている立法であり、方策である。一度だけの指紋押捺というふうなことであったならば、指紋押捺制度はぜひ全廃するようにしていただきたい、そのような方向検討していただきたい、こう考えます。  なお、登録証明書携帯に関しましても、なぜ登録証明書携帯が必要なのか、どういう場合があるのか、法改正に当たって厳密に御検討いただきたい。その上でまた法案が出た際に詳しくお伺いさせていただくつもりでおります。  さらに、もう一つ最後に、永住者に対して単に登録証明書をカードにする、定期券みたいなカードにするというふうなことだけでなくして、永住者に対して抜本的に指紋押捺及び携帯義務の双方について検討した法改正をされるようにお願いしたいと思います。  以上で外国人登録法の問題についての質問を終わりたいと思います。  続いて、第二番目の質問に入らせていただきます。  第二番目の問題は、いわゆるアイヌに関する問題でございます。  このアイヌという呼称が妥当であるのか、ウタリという呼称が妥当であるのか、その辺いろいろ御見解もあると思いますが、従前の慣行に従ってアイヌという用語で質問させていただきます。  北海道土人保護法という法律があるのは法務当局御承知のとおりであります。この法律は明治三十二年三月二日に成立した法律であります。  そこでお伺いしたい。北海道旧土人というのはだれのことですか。
  42. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) アイヌの方々を示していると理解されていると思います。
  43. 猪熊重二

    猪熊重二君 アイヌの人を北海道旧土人と呼ぶ呼び方が、明治三十二年の当時においては、呼ぶ方も呼ばれる方もそれが仮に通常の呼称であると思っていたのかもしれませんが、現在において、アイヌの人を指称する言葉として北海道旧土人という呼び方について法務大臣の所見を伺いたい。
  44. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) ただいまの問題については、今、厚生省において検討されておると聞いておりますが、さらに、私どもとしても今の先生のお話を参考として厚生省と十分連絡をとっていきたい、こう思っております。
  45. 猪熊重二

    猪熊重二君 私がお伺いしたのは、この法改正ということの前に、北海道旧土人という名称が私の考え方からすればまことに人を侮べつした呼称である、こう私は考えるわけなんです。  土人という言葉は日本人においてどのように理解されているか。私に言わせれば、何か知能程度の低い、裸で飛び回っているようなイメージがあるわけです。ですから、アイヌの人を北海道旧土人と呼ぶような呼び方自体が現在において差別的な用語であるとお考えになるかどうかについて法務大臣の所見を伺いたいと申し上げたわけです。
  46. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) いささか不適当だと、こう感じております。
  47. 猪熊重二

    猪熊重二君 それでは、この北海道土人保護法という前世紀の遺物のような法律の中身について少し伺いたい。  まず、この法律は第一条において「北海道旧土人ニシテ農業ニ従事スル者」に対しては「土地一万五千坪以内ヲ」「無償下付スル」というふうな規定内容になっております。  そこで、法成立以降現在までの北海道旧土人に対する無償交付の件数と土地の面積についてお伺いしたい。
  48. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) 昭和五十三年に行われました北海道庁の実施によりますウタリ給与地実態調査というのがございまして、その結果によりますと、下付面積のトータルは九千六十一ヘクタールでございます。昭和十年まで実績がございまして、その後は記録がございません。
  49. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、最後にこの条項に基づいて下付されたのは昭和十年である、それ以降は下付はされていない、こうお伺いしてよろしいわけですか。
  50. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) さようでございます。
  51. 猪熊重二

    猪熊重二君 昭和十年以降土地が下付されていないのは、下付される土地がないからか、あるいはもう下付しようとしないからなのか。どういう理由で昭和十年を最後にしてそれ以降土地が下付されていないんでしょうか。
  52. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) この下付というのは、過去の記録によりますと北海道における国有地払い下げ規則というものと連動といいますか、それの適用もあり、北海道土人保護法という法律の適用もあるということで、未開の開墾地について下付するということであったと伺っておりまして、昭和十年以降そういうものがなかったのではないかというふうに推測するわけでございます。
  53. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、昭和十年以降ないとすればもう五十年間何ら下付されていないんですから、この法一条はほとんどあってもなきに等しい規定であると思います。  次に、二条、三条について要約すれば、アイヌに下付された土地は十五年間いかなる処分もしてはいけない、しかも十五年を経過したその後であっても、いわば現在においても北海道知事の許可がなければ譲渡または物権を設定できない、このような規定になっています。このような規定の趣旨はどこにあるわけでしょうか。そして、現在でも北海道知事の許可がなければ譲渡または物権の設定はできないというこの法文のとおりに運用されているのでしょうか。お伺いしたい。
  54. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) 立法当時におきましては、この北海道知事の許可にかからしめた趣旨は、先生のおっしゃるとおり、いわゆるアイヌの方々が不正な手段などで土地を奪われる、土地の譲渡等を余儀なくされるというようなことを防止する、そのことによって利益を守ろうという趣旨から出たものであることは間違いございませんが、現在においてはその趣旨はかなり減退しておるということはまた間違いないところでございます。現在、北海道庁によりまして許可というものが実際には実施されております。実効ある規定として動いておりますが、許可をしないという事例はないというふうに聞いております。
  55. 猪熊重二

    猪熊重二君 この二条、三条が制定の当初においては、仮にせっかく土地を下付したにもかかわらずアイヌの人が土地をだまし取られたりなんかしたら困るという保護規定であったという趣旨は私も理解できるのです。しかし、この法ができて明治三十二年に仮に下付を受けた、払い下げを受けたという人にとってはもう八十七年を経過している。昭和十年に払い下げを受けた人が一番最後だと言えば、それからでももう五十一年を経過しているんです。そうだとすれば、これだけの時間が経過したにもかかわらず、なおかつ土地所有権に対する北海道知事の許可であるとか、あるいは担保設定に対する北海道知事の許可だとか、このような制限を加えることは合理的な制限とは言えない、アイヌの人の土地所有権に対する差別的制限である、このようにも考えられると思いますが、法務大臣いかがでしょうか。もう五十年、八十年たってもまだ自分の物に、ちゃんと自分の物らしく売り買いもできないというこの状況に対して、人権保障の府庁である法務省の大臣としての法務大臣の御意見を向いたい。
  56. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) この問題については、先ほども申し上げたように今、検討されておりますので、その点はひとつ御期待願いたいと思っております。
  57. 猪熊重二

    猪熊重二君 次に、第七条、八条、十条について、この法条の趣旨はアイヌの共有財産は北海道知事が管理し、処分し得ると書いてある。そして、北海道知事が管理する共有財産の収益によってアイヌの保護施設をつくる。最後に、この施設の費用が不足したときは国庫から支出する、こう書いてあるのです。アイヌの人にとって共有財産の収益による保護施設ができないときに国庫から支出する。この点は非常にありがたいことかもしれませんけれども、なぜ北海道知事がこのようなアイヌの共有財産を現在においても管理しなければならないのか、その必要性についてお伺いしたい。
  58. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) この共有財産の管理についての規定も、土地の所有権の規定と同様の趣旨でウタリ方々、先生の言われるいわゆるアイヌの方々の利益のために存在しているものというふうに考えております。立法当初の考えでございますと、アイヌの方々の共有財産がアイヌの方々以外の方々による不正の手段等による侵害というようなことを防ぐための規定であるというふうに理解されておるわけでございます。そういう意味で、先ほどの土地所有権についての規定と同様この条項も立法当初に比べればその存在意義は大いにもう減退しているものというふうに考えるわけでございます。
  59. 猪熊重二

    猪熊重二君 北海道知事が他人のアイヌの共有財産を管理するなどということは現行法のもとにおいては越権行為も甚だしい、アイヌに対する差別であると私は考えます。  以上、北海道旧士人保護法という法律は名称からも内容からも違憲立法と考えるべき法律、違憲と言わないとしても内容的に空虚な法律であります。直ちにこのような差別的法規は廃止すべきだと思います。このような観点で厚生省あるいは法務省検討していただきたい。  次に、アイヌの問題に関連して、アイヌが少数民族であるかどうかということについてお伺いしたい。  市民的及び政治的権利に関する国際規約、いわゆる国際人権規約B規約、この規約二十七条によれば、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、」は差別などのないようにと、こういうふうな規定があります。そして同規約四十条によって、「この規約が効力を生ずる時から一年以内に、」どのような措置をとったかについて加盟国は報告するべきである。こういうことになっています。この規定に基づいて外務省から国連事務総長に対し、昭和五十五年十月、B規約に関する報告書が出された。その報告書の中において二十七条に関する報告内容説明していただきたい。
  60. 林貞行

    説明員(林貞行君) お答えいたします。  先生御指摘のとおり、私ども昭和五十五年十月にこの報告書を出しておりますが、この二十七条に関しましては、「本規約に規定する意味での少数民族はわが国に存在しない。」と、こういうことを報告書に書いてございます。
  61. 猪熊重二

    猪熊重二君 「本規約に規定する意味での少数民族はわが国に存在しない。」というこの報告内容は、現在においても外務省としては正しいとお考えでしょうか。
  62. 林貞行

    説明員(林貞行君) 現段階の考え方を御説明する前に、この時点の私どもの考え方をちょっと補足させていただきたいと思います。  御指摘のB規約第二十七条にいう「少数民族」とは、種族、宗教または言語を異にし、歴史的、社会的、文化的観点から他と明確に区別し得る少数民族をいうと解し、かかる観点から「少数民族はわが国に存在しない。」と判断したわけでございます。  現段階、この報告書は今後五年に一度出すことになっておりまして、近くまた第二回の報告書を出すわけでございますが、この報告書の内容については現在関係各省において検討中でございます。
  63. 猪熊重二

    猪熊重二君 このB規約二十七条には、そんな文化的がどうだとか、社会的がどうだとかなんということは書いてない。「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する」場合にはとしか書いてない。何もそこに社会的にアイヌも同化しているとか、文化的に同一の文化を享有している状況が強いとか弱いとか、そんなことの問題じゃないんです。「種族的、宗教的又は言語的少数民族」が存在するかせぬかということを聞いているんです。聞いているというよりも、そういう少数民族の問題として二十七条は規定しているんです。  そうすると、今の外務省の見解だと、アイヌは種族的に日本人と全く同じである、宗教的に日本人と全く同じである、言語的に全く同一民族であると、こういう見解に立っているということになるでしょうか。お伺いします。
  64. 林貞行

    説明員(林貞行君) このB規約は、国連の人権委員会で審議されましたが、その人権委員会が草案を総会に送りましたときに、審議の過程を記したアノテーションと申しますか、注釈がついております。これはその審議の過程においてどういう議論があったかということを書いておるわけでございますが、本条の審議において、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、」という意味の解釈に関し、本条項がカバーするのは、その国の領域内において明確に区別され、長期にわたって確立され、別個または独自の集団のみを対象とすることが合意されたというふうにこの解釈には書いてございまして、その点を踏まえて全体として解釈した次第でございます。
  65. 猪熊重二

    猪熊重二君 私がこの点を特に申し上げるのは、現在の総理の各種発言にあるように、要するに、アイヌは日本人と文化的に同じなんだ、同化しているんだ、だから少数民族でも何でもないんだと、こういう支配者の側の、多数者の側からの論理で物事を解決することは間違っているだろうということを申し上げたいからなんです。少数民族の側において、私たちは少数民族じゃない、私たちは日本人と同じなんだとそちらが言うのならばいいけれども、現に種族的にも、宗教的にも、言語的にも違っているアイヌ少数民族という存在を前提としながら、日本人の側において、一口に言えば多数者の側において同じだ同じだと言うのは論理的におかしい。また、そのような考え方をしたら、差別あるいは少数者保護というふうなことが実質的にゼロになっていってしまうじゃないか、こういう観点から申し上げているのです。  ですから、本年度の外務省の国連事務総長に対する報告においては、前回と異なって、きちんと事実をわきまえた上で、そして、またそれ以上に少数者自身の意見を、見解をよく酌み取った上で調査報告をしていただきたい。要望でございます。  次に、現在、海岸が大企業によってプライベートビーチ化されている問題についてお伺いしたい。  海岸は、本来国有財産として国民が自由に利用し、海水浴をし、あるいは魚釣りをする、こういうところであったし、あるべきはずのものだと思います。ここで私が海岸と申し上げますのは、道路だとか、あるいは私有地だとか、こういうところと波打ち際までの間の、一口に言えば砂浜あるいは草の生えている平地だとか、雑草地だとか、こういうふうなことを意味して質問したいと思います。  この意味の海岸は、民法上は不動産であるし、私的所有権の対象ともなるし、国の所有権の対象となる、こう考えますが、民事局長、いかがでしょうか。
  66. 千種秀夫

    政府委員(千種秀夫君) ただいま仰せのとおりと考えます。
  67. 猪熊重二

    猪熊重二君 このような海岸の中に港湾法だとか、海岸法だとか、そのような特別の法律によって規制、管理されている部分と、このような規制、管理が全くない、いわゆる単なる普通の海岸というふうなものがありまして、この後者の方は通常法定外公共物と言われているわけです。この法定外公共物としての海岸は、国においてだれが管理の主体なんでしょうか。お伺いしたい。
  68. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) ただいま御指摘がありました法定外公共物の国有財産法に基づく財産管理につきましては、その財産が所在する都道府県知事が行っております。
  69. 猪熊重二

    猪熊重二君 そうすると、国有財産だけれども、国で管理する機関というものは国には存在しないということでしょうか。
  70. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 法定外公共用財産は、通常自然公物的なものでございますが、建設省が所管しておるものにつきましては、一応、一義的には建設省所管となりますが、それをそれぞれの都道府県知事に機関委任をしておる、そういう関係になっております。
  71. 猪熊重二

    猪熊重二君 要するに、あなたは、今最初に、都道府県が管理している、しかしそれは機関委任しているから都道府県が、あるいは場合によって市町村が管理しているのであって、その機関委任をする委任者である国の主体としては建設省だということですね。いかがですか。
  72. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 御指摘のとおりでございます。
  73. 猪熊重二

    猪熊重二君 この建設省と機関委任されている都道府県との権限なりあるいは管理に関する仕組みというか、指揮監督的な側面とか、建設省と都道府県との間の関係について御説明いただきたいと思います。
  74. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 機関委任事務でございますので、地方自治法に基づく一般的な機関委任事務関係、つまり、国と各地方公共団体の長との関係以上のものは出ていないわけでございます。したがいまして、都道府県知事は国からの機関委任を受けましたその範囲内において管理をいたしますし、国は一般的にはその機関委任をした都道府県知事に管理をすべて任せておるわけでございますが、基本的には機関委任者として指導監督の立場にあると理解しております。
  75. 猪熊重二

    猪熊重二君 具体的なプライベートビーチの問題についてお伺いしたいと思います。  熱海市に曽我浦という海岸がございまして、相模湾に面した海水浴に良好な海岸でございました。新聞報道等によると、海岸は波打ち際から幅が約十五メートルもある、そして長さが五百メートルにわたる砂浜なんです。立派な海水浴場です。この自我浦海岸は、従前、熱海市が海水浴場として設営し、市民はもちろん、すべての人が自由に出入りできる海水浴場だった。ところが、この曽我浦海岸は現在どのような状況になっているか、所管の建設省からお伺いしたい。
  76. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 私ども理解では、私企業が遊泳施設等を設置いたしまして、入園料その他の施設使用料として料金を徴収していると理解しております。
  77. 猪熊重二

    猪熊重二君 これは私が調べたわけでもなしに、去年の夏の日刊各紙、それからことしの夏の日刊紙等を見れば新聞に大きな問題として取り上げられていることですが、要するに、この曽我浦海岸は今申し上げた幅が十五メートルもあって長さが五百メートルもある立派な海岸である。この海岸の上に私的所有地である傾斜地がある。その上に国道百三十五号線がある。ところが、この私的所有地である傾斜地の企業が国道と傾斜地との間に全部さくをつくって、そのさくを一カ所からしかその傾斜地におりられないようにした。そして傾斜地の一番海側、海岸寄りのところには高さ三、四メートルのやはり擁壁をつくって、そしてこの擁壁の二カ所から国有地である海岸に階段をつけておる、こういう状況になっている。この私企業の所有する傾斜地の私的所有地を海洋公園「ビーチリゾート曽我浦」と名前をつけているわけです、その企業が。ここに入らなければ海岸に行けない状況になっている。しかも、この海洋公園に入るには大人が二千円、子供が千円の入園料を払わないと入れない。こういう現在の状況になっている。  結局、私から言わせれば、たまたま後背地の私的所有者が道路と海岸との間に施設をつくってしまった。その両端はがけで全然海岸におりられないから、結局、この海岸におりるためには二千円払っていかなければ行けない。こういう状況にしたのは、私企業の海岸独占、プライベートビーチ化で、非常に重大な問題だと思う。これに対して、新聞報道によると、建設省の海岸課長は、海岸に至る通路が私有地でふさがれても、現行の海岸法では、これをやめさせて、市民の海への通行を保護できるような条文規定はない、このように述べたというふうなことが報道されていますが、このような見解昭和六十一年八月十三日の新聞に出ているんですが、述べたことはありますか。
  78. 矢野洋一郎

    説明員矢野洋一郎君) お答えいたします。  海岸法には、海への通行権を確保するという趣旨の条文規定はございませず、現在においてもその見解には変わりはございません。
  79. 猪熊重二

    猪熊重二君 海岸法に基づいて、海岸法の中に通行する規定があるかないかというふうなことを市民なりマスコミから聞かれたからあなたは答えたんですか。そうじゃないでしょう。市民が言っているのは、海岸法がどうだとか港湾法がどうだとか、そんなことを聞いているはずじゃない。市民が言っているのは、なぜ国の所有である海岸に自由に行けなくなったんだ、何らかの行政措置をとれ、こういう意見なんだ。海岸法の解釈を聞いているわけじゃないでしょう。いかがですか。
  80. 矢野洋一郎

    説明員矢野洋一郎君) お答えいたします。  私どものところは海岸課でございますが、海岸法に基づいて海岸の管理を行うという立場にございますので、海岸法上の見解を申し述べたということでございます。
  81. 猪熊重二

    猪熊重二君 ところで、私が考えるところ、国有地である海岸にこの企業が設置した海岸におりる階段は、国有地である海岸に対する不法設置物である。それゆえに、このような不法設置物は、国の所有権に基づいて妨害排除請求として除去請求ができると私は考えますが、いかがでしょうか。
  82. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 国有財産にそういう設置物を設けました場合に、国有財産の管理上支障が生ずる場合はそれを排除することはできると思います。もともとそういったものは、国の許可なくして——この場合は機関委任事務されている知事でございますが、知事の許可なくして設置できないと理解しておりますが、先生御指摘の階段は、私の理解では、その土地の背後地の所有者である企業が持っている土地に設置されたものであるというふうに理解しております。
  83. 猪熊重二

    猪熊重二君 私はその辺の事実関係を調べていないで、新聞報道によるだけですが、新聞各紙によれば、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞すべてに、自分の所有地を越えて海岸に階段をつけた、こう書いてあるんですが、もし今お答えのようなことならば、さらにもう一度調査してみておいていただきたいと思います。  いずれにせよ、この階段の設置については、その後静岡県知事は使用許可等をやっているようなので、現時点においてはやむを得ないことですけれども、私が聞いたのは一般論として聞いたわけなんです。  さらに次に、この曽我浦海岸は民法上いわゆる袋地である。要するに、他人の土地を通らなければ公路に通じない準袋地なんだ。前面が海なんです。だから公路からこの土地へ行くためにはこの私有地を通らなければ自由に出入りすることは全くできない。このような袋地に対して民法上袋地所有者の囲繞地通行権というものが規定されている。海岸であっても、この袋地になっている曽我浦海岸においては企業の所有しているこの傾斜地、これが囲繞地に対する通行権があると思いますが、いかがでしょうか。
  84. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 国有財産管理者として財産管理上必要な場合にその私有地を通らなければいけないといった場合には、その私有地を通ることは認められるべきものであるというふうに理解しておりますが、今御指摘がありました付近住民の方とか、そういった一般の方が海浜地で海水浴をする場合にその私有地を通らないと行けないという場合について、その私有地を通る権利があるということにつきましては私どもとしてはそういう理解はしていないわけでございます。  法律上の問題としてではなくて、事実上の問題としての御質問でございましょうか。
  85. 猪熊重二

    猪熊重二君 国民が、市民が自由に通れないんです。これは法的に言っていっても通れないんだ。  私が言っているのは、海岸の土地所有者として所有権に基づいて国がこの傾斜地に対して囲繞地通行権を主張したらいかがなんだ、そしてまた主張し得るだろうと私は思うと。もしこれが海岸であるからだめなんだとか、国有地であるからだめなんだとか、こういうならこういうで別だけれども、私の理解する限りは、国有地である海岸がある、この海岸が袋地になってしまって自由に通行できないとしたら国が囲繞地通行権を主張できると思うし、主張すべきだと思うんだが、その点いかがでしょうかと、こう聞いているわけです。
  86. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 法定外公共用財産と申しますのは、自然公物が一般的なイメージでございますが、それにつきまして冒頭に先生も御指摘ありましたように、道路法とか河川法とか、そういう特別の法律をもって管理する必要がある場合はそういう特別法を制定して、それを適用しあるいは準用して管理しているわけでございますが、法定外公共用財産はそういった特別法の適用とか準用とかというものはない財産でございますので、一般的にはそれを財産として国が管理する場合にはそれを何かある目的に供して、それに積極的に利用できるようにというような形での財産管理は行っていないわけでございまして、もしそういうことをやろうとする場合には、やはり何らかの特別法できちっと位置づけないと難しいのではないかと私どもは考えております。  したがいまして、国有財産がいわゆる財産権として侵されるような状況、例えば、先ほど御指摘ありましたように、そこに無断で、その財産の上に、その土地の上にある施設が設置されるというような場合にはそれを排除したりするようなことはできるわけでございますが、一般的には自然の状況のままで一般の利用に供しているという状況でございますから、積極的に権利としてその利用を認めているという考え方ではなくて、国が国有財産ではあるが、自然の状況のままで一般的に利用されることについては特に禁止していないという反射的な効果として利用ができておるという範囲と理解しておりますので、そういう囲繞地通行権的な問題は、財産管理者である管理者の立場の者の問題というふうに私どもは従前理解しております。
  87. 猪熊重二

    猪熊重二君 あなたが今おっしゃったのは私も理解できるのです。理解できるというのは、そのような特別法を制定してあれば、その特別法に基づいて管理の主体であるとか、管理の方法だとかそういうものが明確になっている。だからそれはそれでいい。私は一番最初その問題じゃないと言ったんだ。そうじゃなくて、そういう特別法がない、そこら辺の九十九里浜海岸だとかどこどこ海岸だとか、この海岸について聞いたんです。そしてこの海岸の所管庁はどこだ、建設省だ。建設省が機関委任事務として都道府県に委任している、こう言うから建設省にも本来的には管理権があると同時に管理義務があるでしょう、こういうことを申し上げている。  そして、特別法がなければ自然公物としての海岸はほうりっ放しでいいんだなんということはあり得ない。財政法九条二項にはちゃんと書いてあるじゃないですか。法定外公共物は除くとか除かぬとか書いてありはせぬです。「国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も効率的に、これを運用しなければならない。」と書いてある。だから、海岸を特別法がないからわしは知らぬというんだったら、海岸を侵奪し、現にこのようにプライベートビーチ化しているにもかかわらず、国は国有財産のこのような侵奪、簒奪に対して何ら打つ手がない、こういうことになるのですか。いかがですか。
  88. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 国有財産法上、財産管理者としての管理はきちっとやっておるわけでございまして、それが阻害されるような状況が生じた場合には直ちに行動に移るということも現在やっておるわけでございます。  ただいま御指摘のような問題につきまして、その背後地の土地を持っている方がその自分の土地の利用につきましていろいろな制約を設けた場合に、それを国有財産法の管理者としてその土地利用はおかしいとか、排除するとかということは現在の国有財産法上の考え方からしてはできないというふうに私ども理解しておるわけでございます。
  89. 猪熊重二

    猪熊重二君 できないということになると、建設省は所管していながら日本全国の海岸が不法侵奪者によって侵奪されてプライベートビーチ化されて、国民が銭を払わなければ入れないような状況になるのもやむを得ぬことだ、こうお考えだということになりますか、結論的には。
  90. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) 日本じゅうの海岸がそういう状況になることをやむを得ないというふうには理解しておりません。そういったことは必ずしも好ましいことではない場合が多いのではないかと理解しておりますが、その辺の問題につきましては具体のケースごとの問題であろうかというふうに理解しております。
  91. 猪熊重二

    猪熊重二君 私は、何もわざわざ問題にしているんじゃないのです。仮に、そういう方法があったけれども、あるいはそういう方法がとり得るかもしれぬというのだったら、建設省であろうが何省であろうが何とか国民の便益のために努力する。法務省とも相談してどういう方法があるだろうか、こういうふうにして国民が自由に海岸を使えるような状況にするべきが行政の義務だろう、こう申し上げているのです。私は今までのことをどうだこうだ言ったってしようがないんだ。しかし、今からでも是正の方策があるとすれば幾らでもこの企業に交渉し、企業が承知しなければ裁判所へ持っていってでも囲繞地通行権として市民のために道路を開設しなさい。  このように、厚生省もしくは建設省でなかなか数字を言われないから私の方で申し上げれば、昭和六十年七月九日の毎日新聞によれば、昨年も約七万三千人の海水浴客がここへ来た、こう書いてあるんです。昨年というのは五十九年のことです。この新聞報道が正しいとすれば昭和五十九年に七万三千人もの市民なり国民がこの海岸にただで来ていたんです。それが六十年になったら二千円銭を払わなければ入れなくなってしまった。それなのに現行海岸法上何もできませんと言う。建設省は国有財産の所管庁として何やっているんだと私は言いたいのです。しかも、たまたま熱海の曽我浦海岸のことを取り上げたけれども新聞報道等によれば、このような企業の海岸取り込みは全国にわたって行われている。この辺の全国の状況について建設省は調査した結果でもありますか。あったら伺いたい。
  92. 市川一朗

    説明員(市川一朗君) その前に曽我浦海岸の利用状況につきましてちょっと調べておりますのでお話ししたいと思います。  曽我浦海岸につきましては、以前、熱海市が市営海水浴場として管理しておった時期がございました。このときは市がその土地にいろいろ施設を設ける等につきまして土地所有者から権利を借りまして、それで市営海水浴場としてやっておったわけでございますが、昭和六十年度になりまして熱海市の「お宮の松」の周辺に人工海水浴場を新たに設置いたしまして、市はそちらの方に海水浴場の開設をいたしました結果、昭和六十一年度ではその新しくできました人工海水浴場の入場者が十四万五千人に達しておるというところから、熱海市といたしましては市民のための海水浴場としてはこれで一応の目的は達しておるという理解のもとに、曽我浦の海岸につきましては市営の問題として管理するというようなことはやめたというふうに報告を受けております。  それから、全国につきましては、実は完全な調査はできておりません。例えば、先生から以前御指摘がありました沖縄等については似たようなところが九カ所ほどございまして、そのうちの二カ所が私どもが管理しております法定外公共用財産がかかわっているところであるというような調査はしてございます。
  93. 猪熊重二

    猪熊重二君 熱海市がそれだけの銭をかけて熱海湾の方に市の海水浴場を、しかも人工海水浴場をつくらなければならなかったのは曽我浦海岸が閉鎖されてしまったからなんです。だから新聞にも書いてある。私たち貧乏人は人工海岸でぺちゃぺちゃ泳がにゃならぬ、金持ちだけがなぜ二千円払って自然の海岸で、自然の砂浜で泳げるんだと、こう書いてある。熱海市がつくったからあっちはいいんだという問題じゃないんです。あっちは入れないと言うから、そして熱海市も静岡県もそして建設省も何もそれについて処置を講じないからやむを得ずこっちに銭を出して、市民の、県民の、国民の銭を出してつくったんです。むだな銭だ。そしてこんな人工海岸で泳がなきゃならない。片方は銭は払わされるけれども自然海岸だ。こういう状況をこのままでいいのかということを私は申し上げたいんです。  そして、沖縄等にもそういう問題がある。私がきょう申し上げたことを一つの示唆というか、ああいう考え方をする者もいると、こうお考えになった上で、建設省を中心にして法務省とも各省庁でよく検討してこのような状況を是正するために頑張っていただきたい、これが私の本心なんです。国民の共有財産である海岸が企業のために破壊されて使用できなくなる。海岸というのは人間が生まれてから今日までそういうことでみんなが使ってきたんです。これを企業の利益のためだけに独占するなど不届き千万だ。だから何とか国として建設省が中心で、どこが中心でもいいですけれども国民のために行政として一生懸命頑張って回復の道を、改善の道を講じていただきたい、これが私の希望なんです。  以上でございます。
  94. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 午前の質疑はこの程度とし、午後一時まで休憩いたします。    午前十一時四十五分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  95. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  96. 諫山博

    諫山博君 簡易裁判所の適正配置に関して、まず法務大臣にお聞きします。  ことしの九月十九日、法務大臣の諮問機関である法制審議会が適正配置に関する答申を出しました。これは法務大臣あての答申であると同時に一般に公表されました。私は何回読んでも理解しがたい点がありますから、法務大臣がどう読まれたのかお聞きします。  この答申には表がつけられています。「事件数と所要時間による相関表」、この中の一例ですけれども、縦書きの「所要時間」で九十一から百二十分、「事件数」で四十一から五十の欄に「夕張」というところがあります。事務の方、できれば指示してください。この所要時間についてはすぐわかりますけれども事件数が四十一から五十と書かれています。これは答申の本文と照らし合わせますと、夕張簡易裁判所が取り扱った刑事事件民事事件、調停事件の合計数の五年間の平均数字のように読めますけれども、そのように読まれましたか。
  97. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) ただいまお尋ねのとおりと読んでおります。
  98. 諫山博

    諫山博君 もっとわかりやすく言いますと、夕張簡易裁判所では一年間に四十一件から五十件程度しか事件を処理していない。一カ月の処理は平均すると四件程度だというふうに読めますけれども、そのように読まれましたか。
  99. 清水湛

    政府委員(清水湛君) 私の手元に夕張簡易裁判所の具体的な事件の統計資料はございませんが、民事訴訟事件、刑事訴訟事件、調停事件の三種の事件数については仰せのとおりであるというふうに考えているわけでございます。もちろん……
  100. 諫山博

    諫山博君 ちょっと待ってください。それから先は私は法務大臣にお聞きしたいと思います。
  101. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) 今お尋ねのとおりだと思います。
  102. 諫山博

    諫山博君 この間、法務委員会札幌地方裁判所に行きまして、いろんな資料をいただきました。その資料の中に、夕張簡易裁判所で過去三年間どれだけの事件を処理したかという表がありますけれども、これを見てください。(資料を手渡す)これを見ると、夕張簡易裁判所で処理した件数は、まず民事事件昭和五十八年四百八十三件、五十九年六百四十五件、六十年五百二十六件、平均すると五百五十一件。刑事事件は、五十八年五百九十七件、五十九年五百七十八件、六十年五百九十六件、平均すると五百九十件。民事事件、刑事事件を合計しますと、三年間の平均は夕張簡易裁判所で千百四十一件になります。そのように理解していいでしょうか。
  103. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) この表で見る限りはそのとおりだと思います。
  104. 諫山博

    諫山博君 私が相関表を見て理解できないと言ったのはこの点です。一般に公表された資料によりますと、夕張簡易裁判所は一年間に四十一件から五十件しか処理されていない。だから簡易裁判所は廃止しても仕方がないではないかという議論になっております。この間私たちが北海道に出張していただいた資料では、同じ夕張簡易裁判所で、年度は幾らか違いますけれども、大体一年間に千百四十一件処理している。どうしてこんな大きな開きが出てきたのかということですけれども、こういう開きがあることを法務大臣きょうまで御承知だったでしょうか。
  105. 清水湛

    政府委員(清水湛君) お答えいたします。  先ほど申し上げましたとおり、この相関表の事件数につきましては、民事訴訟事件、刑事訴訟事件、調停事件の三種の事件数の合計を平均したものでございます。先生仰せのこの過去三年間の簡裁別民事事件数あるいは簡裁別刑事事件数につきましては、これは簡裁の所掌する督促事件とか、あるいは略式手続によって処理される刑事事件等を含んでおるという、そういう総計の数字であるというふうに考えております。もちろん、こういう事件数全体につきましては、法制審議会の審議の過程におきましても、いわゆる当事者の出頭を要する民訴事件、刑訴事件、調停事件の三種の事件数のほかに、督促事件、略式事件についても、すべての簡易裁判所ごとにその事件数を法制審議会に資料として最高裁から御提出いただいたところでございます。  そういうような全体の事件数の中で何を基準にするかというようなことが議論になったわけでございまして、いろんな議論を経た結果、最終的にはこういう督促事件とか略式事件を除いた民事訴訟事件、刑事訴訟事件、調停事件の三種の事件数を基準として相関表の事件数とすべきである、こういうふうに結論づけられた、こういうふうに考えているわけでございます。
  106. 諫山博

    諫山博君 まず、幾つかの簡易裁判所で数字だけを明らかにします。  相関表によりますと、私の地元である宗像簡易裁判所、これは事件数が一年間百十一件から百二十件となっております。ところが、福岡地方裁判所でいただいた資料は全く別です。福岡地方裁判所でいただいた資料によりますと、宗像簡易裁判所で扱った事件数は二千九百六十四件。この点は裁判所にあらかじめ調査していただくように要望しましたけれども、この数字は間違いありませんか。
  107. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 数字には間違いございません。
  108. 諫山博

    諫山博君 前原簡易裁判所を調べてみてください。相関表によりますと、一年間の処理事件は九十一件から百件。ところが、福岡地方裁判所でいただいた資料によりますと、同じ年度で一年間二千四百四十四件、こういう数字であることは間違いありませんか。
  109. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) その点も間違いございません。
  110. 諫山博

    諫山博君 もう一つ、豊前の簡易裁判所は、相関表によれば一年間八十一件から九十件、福岡地方裁判所の資料によれば二千百六十四件、間違いありませんか。
  111. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) その点も間違いございません。
  112. 諫山博

    諫山博君 相関表に記載している数字というのは、当事者が裁判所に出頭を要件とする事件だというふうに聞いていいでしょうか。
  113. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 裁判所を利用いたしますについて当事者が出頭しなければならない事件というふうに御理解いただいて間違いないと思います。
  114. 諫山博

    諫山博君 それではお聞きします。  福岡地方裁判所の作成した資料の中で件数が一番多いのは刑事事件では略式、交通即決です。交通即決は本人が裁判所に出頭するのじゃありませんか。
  115. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 諫山委員よく御承知のとおり、交通即決処理と申しますのは、警察と検察庁裁判所が一堂に会しまして、当事者を召喚いたしまして流れ作業で処理をするという方式でございまして、現在は裁判所におきましてそれをやっておりますので、当事者は裁判所に出頭するということでございます。
  116. 諫山博

    諫山博君 簡易裁判所がなくなったら最寄りの簡易裁判所に行くことになるのじゃありませんか。
  117. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 交通即決処理につきましては、簡易裁判所が統合されました場合に最寄りの簡易裁判所でやる場合も考えられますし、件数いかんによりまして、警察、検察庁と御相談し、地元の御意向も承りながら、場合によりまして地元の警察の方に裁判所検察庁が出向きまして、そこで即日処理をするという方式も考えられるわけでございます。
  118. 諫山博

    諫山博君 簡易裁判所が廃止されるとそれに対応する区検察庁も自動的に廃止になるのじゃないでしょうか。
  119. 清水湛

    政府委員(清水湛君) そのとおりでございます。
  120. 諫山博

    諫山博君 そうすると、簡易裁判所が廃止されればそれに対応する区検察庁も廃止されるから、交通即決だけではなくて、略式命令も従来の簡易裁判所ではなくて別の新しい簡易裁判所まで行かなければならないということになるはずですけれども、どうですか。
  121. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 交通即決につきましては先ほども申し上げましたとおりでございまして、その余の略式事件につきましては仰せのとおりでございます。
  122. 諫山博

    諫山博君 いずれにいたしましても、答申の示した数字は欺瞞だと思います。例えば、夕張簡易裁判所を例にとりましたけれども、夕張簡易裁判所で一年間に四十一件から五十件程度しか事件を処理していないという数字を聞けば、簡易裁判所が余り大きな役割を果たしていないように見えます。しかし、実際私たちが札幌でいただいた資料によりますと、一年間に千百四十一件も処理している。この数字が答申の中にあらわれていたらこの答申の読み方というのは一般的には全く異なると思います。なぜすべての事件数を挙げませんでしたか。私が推察するに、なるべく簡易裁判所事件数を少なく発表したというふうにしか思えませんが、どうですか。
  123. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 簡易裁判所の配置の見直しを考える場合に、一体何を基準とするかということが問題になるわけでございます。私どもの考え方といたしましては、現にある簡易裁判所が管轄区域内の住民からどのように利用されているかということとか、それが統合されました場合、その管轄区域内の住民の方々の利用の便にどのような影響を与えるか、ここら辺を考えていかなければならないと考えたわけでございます。そのような考え方に立ちますと、管内の住民の方々がある簡易裁判所を利用するために裁判所に出向かなければならない基本的な事件、これが先ほど申しました民事訴訟、刑事訴訟、調停でございます。これをやはり基本的な指標として考えるべきではないかと考えたわけでございます。  裁判所の絶対的事務量を配置の見直しの基準としなければならないということになりますと、諫山委員指摘の督促とか略式なんかもカウントしなければならないとは思いますけれども、例えば極端な例を申しますと、管内住民がほとんど利用しないでおいて管外の方々ばかりが利用しているというような簡裁があるといたしますと、その簡易裁判所は現在の位置に置いておく必要はないわけでございます。先ほど御指摘のございました督促事件でございますが、これは件数は多うございます。たしか夕張におきましても、督促事件は二百六十とか三百三十七とか事件数はございますが、実はこの督促事件の九五%は管外の方の申し立てでございます。管内の利用者は数%ということにとどまっているわけでございます。したがいまして、管内の住民の裁判所の利用の度合いをはかる尺度といたしましては、督促事件をカウントするのは利用の実態を示すことにはならないであろう、こういうふうに考えたわけでございます。  それから、その次に略式命令でございますが、先ほど申しましたように、交通即決処理におきましては現に隣接の簡裁で処理されているところもございます。それから、先ほど申しましたように、統合検討となる庁において交通即日処理が行われております場合、管内住民の利用の便を考えまして、場合によれば出張して交通即日処理をすることも検討できるわけでございまして、この辺のところは検察庁、警察等とも十分お打ち合わせをいたしました上で個別事情として考慮できるわけでございます。  その余の略式命令の処理につきましても、例えば、被疑者というのは地元で取り調べられるのを嫌がる傾向がございます。そういうふうなさまざまな事情から対応区検ではなくてよそのところで取り調べられているということもございます。そういうような観点からいたしますと、略式事件もカウントいたしますことは、管内の住民の簡易裁判所の利用度合いを示す尺度としては必ずしも適切でないだろう、こういうふうに考えまして、先ほど申しました民訴、刑訴、調停の三種の基本的な事件を基本的な指標というふうに考えたわけでございます。  この考え方につきましては、日弁連それから法務省、最高裁でやっておりました三者協議会におきましても、最終的には日弁連も御異論がなかったわけでございますし、法制審におきましてもこの考え方を御採択いただいて今回の答申内容になっているわけでございます。
  124. 諫山博

    諫山博君 簡易裁判所事件で一番大きいのは交通即決と略式命令ですね。この二つが数としては一番大きい。もし簡易裁判所が廃止されればそれに対応して区検察庁も廃止される。そうすると、一番たくさんの人が裁判所に出向いている問題についてすべて遠い新しい簡易裁判所に出向かなければならないということになるわけですけれども、違いますか。
  125. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 先ほど申しましたように、交通即決処理によりましては、場合によって出張して処理をすることも考えられますし、現在の実態におきましても、現在置かれている簡易裁判所あるいは区検ではなくて他のところで取り調べを受けているという実態もあるようでございますので、必ずしも全部が全部遠く不便になるというふうには考えておりません。
  126. 諫山博

    諫山博君 他のところで取り調べを受けているというようなことを理由にするのは管轄の制度を無視することになりますよ。今の裁判所の管轄制度というのは、その管轄内で民事訴訟を提起するし、その管轄内で略式命令の手続も受ける。そのために管轄が決まっているのでしょう。その点どうですか。
  127. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) その点は仰せのとおりだと思います。
  128. 諫山博

    諫山博君 もう一つお聞きします。  全司法の労働組合に聞きますと、最高裁判所がいろいろな自治体とか団体を回って簡易裁判所の統廃合について説得活動を行っているそうですが、そうですか。
  129. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 実は、この簡易裁判所の適正配置問題を提起いたしましたのは五十九年の一月でございまして、三者協議会でいろいろ議論を進めてきたわけでございます。昨年の四月、五月の段階におきまして、実は今回の基準のたたき台になるようなものを三者協議会にお出ししたわけでございますが、それが三者協議会以外に漏れまして、マスコミあたりで非常に取り上げて報道されるようになった。そうなりますと、地元の方々はいろいろ御心配になるわけでございます。かたがた、この問題を議論いたしますためには地元の御意向、反応というものも十分把握しておかなければなりませんので、昨年の五月、六月、七月の段階でかなり多数の市町村にそれぞれ裁判所の関係者が出向きまして、それぞれの裁判所の抱えている問題状況、三者協議会における議論の進捗状況等を御説明申し上げまして、あわせて地元の御意向等も伺ったわけでございます。これは御説明でございます。  それから、本年の三月法制審議会が開かれる段階になりまして、前回お伺いいたしましたときに、節目、節目にはまたお伺いしていろいろ申し上げるというふうに言っておりましたので、今回法制審移行の段階におきましても地元の市町村をお回りいたしまして、法制審が開かれることになったということをまた御説明いたしております。今回、法制審の御答申をいただきましたので、その御答申の線に沿いまして、現在地元の市町村等にお伺いいたしましてこれまでの経緯を御説明申し上げますとともに、裁判所の方で考えておりますような考え方も示しながら御理解をいただくという作業を現在進めております。
  130. 諫山博

    諫山博君 その場合に、簡易裁判所がどの程度利用されているかということが問題になるはずですけれども、その場合は答申書に添付されている相関表以外の数字、例えば、前原簡易裁判所では一年間に二千四百四十四件処理していますということも話していますか。それとも答申書についている相関表だけで説明をしていますか。
  131. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) これはそのときの話の状況次第で、どういう話をなさっているか必ずしも明確に把握しておりませんけれども、地元にお伺いいたしますときには、民訴、刑訴、調停の年間の利用件数はこうであるということは申しておりますし、略式等について御質問のございます場合には、それにお答えできるような資料を十分持ってまいりましてそれで御説明申し上げております。これは一概にどういう方法でやっているかということはちょっと正確には把握しておりませんけれども、特にその略式とか支払い命令を隠してお話しているということはないと思っております。
  132. 諫山博

    諫山博君 私がこの答申を見て一番驚いたのは、簡易裁判所の件数が非常に少ないということです。私たちの経験ではこんなに少ないはずはないと思ったから実態を調べてみたところが、大変膨大な数字が隠されていたということになります。そして答申を受けられた法務大臣もこの点はお気づきでなかったのではなかろうかと思います。  私は、最高裁判所にお願いしますけれども、私が計算したような数字で、統廃合の対象になっている簡易裁判所でどれだけの事件を扱っているのか、各事件ごとの数字を後日示してもらえないでしょうか。私は簡易裁判所の統廃合に反対という立場から具体的な問題を提起しようと思っておりましたけれども、前提となる数字がどうもこれでは不明確なので各論に入る準備をしませんでした。夕張簡易裁判所あるいは宗像簡易裁判所、前原簡易裁判所でいただいたような数字をぜひ私なり当委員会に示していただきたいと思いますが、どうでしょうか。答申に出ている数字というのはすべての事件の中の極めて一部分しか載っていませんからわかりません。どうでしょうか。
  133. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 先ほど司法法制調査部長から御答弁ございましたように、法制審議会におきましても督促事件、略式命令の事件数は出しております。三者協議会におきましてもそれをちゃんと出して説明しておりますので、諫山委員の御要望におこたえして後日諫山委員の方にお届けするようにいたします。
  134. 諫山博

    諫山博君 できれば、私だけじゃなくて、当委員会全部にお渡しできませんか。
  135. 山口繁

    最高裁判所長官代理者山口繁君) 委員長の方のお許しがいただけますればそのようにいたします。
  136. 諫山博

    諫山博君 後で検討してください。
  137. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 理事会で検討いたします。
  138. 諫山博

    諫山博君 簡易裁判所の問題は、その資料をいただいた上で改めて私は質問いたします。  次は、アイヌの問題です。アイヌに対して日本の法律の中で特別な立法がされているということは午前中の審議で明らかになりました。立法面だけではなくて行政面でも特別な取り扱いがされていると思いますけれども、どうでしょうか。
  139. 大串国弘

    政府委員(大串国弘君) お答えいたします。  北海道ウタリ対策につきまして昭和四十九年に関係省庁の連絡会というものが設けられまして、その窓口ということで北海道開発庁が当てられております。この北海道ウタリ対策といいますのは、北海道庁がウタリ方々の生活水準の向上を図るということを基本目的としまして北海道ウタリ福祉対策というものを始めておりますけれども、これを国の立場から支援していこうということで進めておるわけでございます。  そのウタリ対策事業の内容につきましては、生活環境の改善とか就労の安定、教育の奨励、生活基盤の整備、こういう内容になっております。  なお、昭和六十一年度の予算につきましては、財政事情厳しい中にも十二億五千七百万の国費が充てられているわけでございます。そういうことになっています。
  140. 諫山博

    諫山博君 今の問題に関しまして日本共産党は、就職、教育、結婚、その他社会生活のすべての面での不当な差別を直ちにやめるべきだという主張をしておりますけれども、こういう差別というのは現在残っていましょうか。
  141. 大串国弘

    政府委員(大串国弘君) 私ども北海道開発庁といたしましては、ただいま申し上げましたようなウタリ対策事業ということで、事業の内容も申し上げましたとおりでございまして、その辺の問題につきましてはほとんど我々の所掌事務の中に入ってきておりませんものですからお答えできかねますので、御理解いただきたいと思います。
  142. 諫山博

    諫山博君 本年度北海道ウタリ対策予算としてどのくらいの金が計上されておりますか。
  143. 大串国弘

    政府委員(大串国弘君) 先ほど申し上げましたけれども、事業の中身が広範にわたっておりまして、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、労働省、建設省等々含めまして六十一年度の予算額が十二億五千七百一万三千円ということになっております。
  144. 諫山博

    諫山博君 生活保護の受給率などは、そうでないところに比べてどうでしょうか。
  145. 萩原昇

    説明員(萩原昇君) 昭和五十四年の北海道調査によりますウタリ生活実態調査というものによりますと、ウタリ方々二万四千人ばかりいらっしゃるそうでございますが、保護率というのが道全体が一九・六パーミル、すなわち千人当たり十九・六人が生活保護を受けておるという状態に対しまして、ウタリ方々の生活保護率は六八・六パーミル、約三倍強でございます。ちなみにその当時におきます全国の生活保護率は一二・三パーミルという状況でございました。
  146. 諫山博

    諫山博君 ウタリ対策の予算の中には進学奨励費補助とか教育に関する予算がありますね。進学率はそうでないところに比べてどうですか。
  147. 大串国弘

    政府委員(大串国弘君) これも先ほど厚生省の方からお話がありましたとおり、五十四年道庁の方で調査したものでございますが、五十三年三月三十一日現在で、全道的には、中卒の人がいわゆる高校に進学される率が九〇・二%、ウタリ関係につきましては六九・三%、このようになっております。また、大学に進まれる率につきましては、全道平均で二八・一%、ウタリ関係で八・八%、こういうふうになっております。
  148. 諫山博

    諫山博君 この一年間十二億余の予算というのは、ウタリの人たちだけに対する特別の予算で、そうでない国民にはない予算ということになりますか。
  149. 大串国弘

    政府委員(大串国弘君) 一般的にはそのようになっております。ただ、農業基盤の整備の関係につきましては、これは集落といいますかグループごとでやっておりまして、その中にはウタリの関係者でない方も入っておられまして、そういうことでは必ずしもウタリ関係者だけに措置されている事業ということではないかもしれません。
  150. 諫山博

    諫山博君 そうすると、アイヌに対して法律的にも特別な措置がされているし、行政的にも特別な措置がされているということになります。  法務省の人権擁護局長にお聞きします。アイヌ差別というのが今なおなくなっていないということがきのうの衆議院法務委員会指摘されたそうですけれども、その実態をお聞きしたいと思います。
  151. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 私ども法務省の人権擁護機関は、あらゆる差別は人権侵害であるという見地に立ちまして、その啓発と具体的に生じました人権侵犯事件を処理しておるわけでございますが、最近処理されました事件といたしましては、昭和五十五年の五月に北海道札幌のある高等学校におきまして、先生が授業中に、アイヌを見たことがあるか、見分けがつかなかったら大変だぞ、間違って結婚することもあるんだぞといったような差別発言をいたした事件がございます。この事件につきましては、札幌法務局の方で調査をいたしまして、明らかに人権侵害であるということで当該先生に対しましてその誤りをじゅんじゅんと説きまして、その姿勢を改めてもらうというための説示処分をいたしました。同時に、再発を防止いたしますために、道の教育委員会に対しましても事件内容報告いたしまして善処方を要望いたしております。  それから、昭和六十年の初めごろに、ウタリの出身者が息子の結婚問題につきまして相手方の家族に結婚の承諾を求めましたところ、相手方家族がウタリ出身者との結婚は認めないということで拒否いたしました。このことを法務局が知るに至りましたので、結婚差別事件として立件の上、調査をいたしました。事件については間違いがないという確証を得ましたので、双方から得ました証拠に基づきましてこの差別を行った者に対し、ウタリであるということを理由に結婚差別をすることは間違っておるということの啓発をいたし、先ほどと同様の説示処分に付しました。後にこの二人は結婚されたというふうに伺っております。
  152. 諫山博

    諫山博君 二つとも大変ショッキングな差別事件ですけれども、こういう差別事件が起こらないように法務省なり北海道庁としては何らかの措置をとっておりますか。
  153. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) ただいま申し上げましたような差別事件がなお発生いたしておりますのは、ウタリ出身者に対する根強い差別感情というものがあるからであると考えます。私どもは、同和問題と同様に、そういった差別の土壌というものを根本的に改めない限り差別というものはなくならないという考えに立っておりますので、この事件が発生しましたときには、その差別をした人に対して啓発を行う、同時に、周辺地域に対しましても、アイヌ差別、ウタリ差別というものがいかに根拠のないものであるか、それが人権をいかに傷つけるものであるかということを啓発してまいっております。同時に、一般的な啓発といたしまして、あらゆる機会を通じまして、講演会、シンポジウムその他もろもろの場合に、人権機関職員あるいは人権擁護委員が赴きましていろいろ啓発活動を行うことにいたしておりますが、北海道地方におきます差別の主なものはこのウタリ問題でございますので、特に居住者の多い地方におきましてはその点に重点を置いた啓発活動を展開しておるという次第でございます。
  154. 諫山博

    諫山博君 今の御説明で、生活保護受給率も非常に高いし、進学率は高等学校も大学も非常に低い。そして、人権擁護局長の言葉によれば根強い差別意識があるということのようですけれども、どうもこれが肝心の総理大臣に理解されていないような気がしてしようがないんですよ。  きょうは総理大臣おられませんから、法務大臣を通じて伝えていただくしかないんです。あの人はよく日本民族は灘の生一本だ、合成酒じゃない、こういう言い方をするんですよ。そして、差別なんかあるはずないというように本気で思っているらしいんですね。ところが、現に法律的に特別な措置がとられているし、行政の面でも特別な施策がとられている。そして、法務省がこれほど苦労しているのに肝心の親分が何も知らぬというのは不見識だと思いますから、ぜひ今の実態を伝えていただいて、認識を改めるように努力してください。お願いします。
  155. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) きのうも衆議院においていろいろお話がございました。私もまだ就任早々でございまして勉強不足な点がたくさんございますけれども、私自身差別がないというようなことで感じておったわけでございますが、ただいまの人権擁護局長からのお話で、個々にはあるのだなと。しかし、行政の面や法的には、差別というよりもむしろ僻地に対する対策といいましょうか、そういうような面でいろいろ心配をしているというような御理解を願いたいなと私は思っております。少数民族とか何かということではございませんので、私は日本国には少数民族はないというように自分自身理解しておったわけですが、いろいろの御意見を聞いてこれからもっと勉強してみよう、こう思っております。差別的な行政ということに理解をしていただかないで、やはり僻地なり何かに対して、僻地振興のために今、予算措置や何かも講じているというような点で御理解を願った方がむしろその人たちの幸せを導くことではないか、そういうような点で御理解を願っておきたいと思います。
  156. 諫山博

    諫山博君 私、アイヌの問題では質問を打ち切ろうと思っておりましたけれども、そういう答弁をされると打ち切るわけにいきません。ウタリ対策というのは、これ僻地対策でやられているんですか。私は全然性格が違うと思います。例えば、同和事業というのは、これやられていますけれども、僻地対策と違うでしょう。やはりウタリに対して特別な行政措置がされているとすれば、それは僻地対策ではなくて、歴史的、社会的にいろいろ差別されているというような中から出てきた生活環境の不十分な条件を改めるというための行政じゃないんですか。僻地対策と言われると、それは間違いだと私思うんですが、いかがですか。
  157. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) これは僻地対策ではございませんですが、そのようなお気持ちで御理解を願いたいということでございます。そうでないと、いつまでたっても差別、差別というようなイメージをむしろ政府自体が押しつけているという姿勢であってはならぬ、こう感じております。これから私どもも十分検討してまいりたいと思いますけれども、そういうふうなお気持ちでひとつ御理解を願いたいということでございます。
  158. 諫山博

    諫山博君 僻地対策ではないということですから、私、もうそれで結構です。  この問題では、私たちの党は旧土人保護法にかわって新しい法律をつくるべきだと主張しております。その新しい法律というのは、アイヌの権利を保障する民主的な法律でなければならない、生活の安定向上、民族的文化の保護発展、教育向上などの諸権利を保障するような法律でなければならないという主張をしていることをこの際御理解ください。  そこで、次の問題に移ります。法務省の人権擁護局長にお伺いします。  今月二十四日号のフライデーについて勧告をされましたね。私は勧告の要旨をいただきましたけれども、簡単にどういう内容の勧告だったのか御説明ください。
  159. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) フライデーという雑誌が今月二十四日号に「別れた「夫人」もすすめた「いい関係」井上ひさし氏が語った「噂の女性」との真実」と題し、この問題の女性の写真入り記事を掲載いたしました。  この女性との問題につきましては、ことしの九月二十一日にスポーツニッポン紙上に、井上ひさしさんの結婚相手ということで報道をされまして以来、報道関係者が執拗な取材攻勢をかけていたのでありますが、この女性は一貫してこの取材を拒否してまいりました。しかるに、台所で炊事中のこの女性の写真が何らの承諾もなく撮影されて、そしてその写真を掲載したいという申し出があったようでございます。そこで、この女性の方では、そういうことをやってもらっては困る、自分の肖像権、名誉権にかかわることであるので、断じてそういうことはしてくれるなということを申し出たのでありますが、どうも一方的に掲載されそうであるということで、東京法務局の方に人権侵犯ではないかという申告がなされたわけであります。  法務局の方では、既に発行前から多少この発行機関と接触を持っておったのでありますが、この写真及びその記事というものは、今申し上げましたように今月の二十四日号として公刊されるに至りました。そこで、東京法務局ではいろいろ調査をいたしました結果、掲載に当たっては、この女性の承諾は全く得られていないし、それを掲載する正当な理由もない。したがって、これはみだりに容貌、姿態というものを公開されない自由を侵害したものであって、人権擁護の観点上到底放置することはできないということで、今月の二十一日に講談社を呼びまして、その旨の勧告をして、今後こういうことのないように特段の配慮をなされたいということを申し入れたわけでございます。
  160. 諫山博

    諫山博君 二つお聞きします。カメラマンは講談社の社員でしょうか。もう一つは、どういう方法でこの写真は撮影されたのでしょうか。
  161. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 人権侵犯事件の処理につきましては、非公開の建前をとっておるのでありまして、私どもは多くの事件を処理し、またそれに対しまして説示処分あるいは勧告処分といった処分をしてまいっておりますが、その内容等につきましては公開をしないという原則に立っております。  ただ、問題によりましては、非常に影響するところが大きいというものにつきまして幾つか主要な点は伏せてその要旨を公開するという方法をとっておりまして、本件につきましてはまさにそういう事件に当たるということで勧告の要旨だけを公表したわけであります。したがいまして、ただいまお尋ねになりました事情につきましては、具体的な調査内容にもかかわることでございますので、発言を差し控えさせていただきたいと考えます。
  162. 諫山博

    諫山博君 フライデーの写真を見る限り盗み撮りですね。そして、本人の承諾を得ていないということもあります。私は友人の弁護士を通じてこの家の周辺の写真などを見せていただきました。大体弁護士の推定によれば、一メートル七十五の高い塀を、よじ登ったのではないでしょうけれども、何か踏み台のようなもので乗り越えて、その塀越しに炊事をしている女性の横顔を写したというふうに見えますけれども、違いますか。
  163. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) この女性がお住みになっている家の状況など私は承知しておりませんので、どうであるかちょっとお答えいたしかねるところでございます。
  164. 諫山博

    諫山博君 これは、公表したこと自体はけしからぬですけれども、同時に、正当な方法で撮った写真ではない。明らかに法律に違反する方法で撮影したと思われますけれども、その点はどうですか。
  165. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 東京法務局では、マスコミがこういう写真入りの記事を公表して、そしてそれを世人の目にさらすということが大きな人権侵害であるということで、そこに重点を置きましてこの勧告を行ったものであるというふうに理解をいたしております。  これは、いろいろ事件の処理につきましては、刑事事件などでも一連のもののどこで押さえるかということがあるわけでございますが、こういう事件はやはり公表したというところが一番の大きな名誉侵害になるわけで、その点があったからこそこの事件はその要旨を公開してでも啓発すべきであるという事案と私どもとしては考えたわけでございまして、その点をとらえましたことにつきましては、私どもは相当であったのではないかというふうに考えておるところであります。
  166. 諫山博

    諫山博君 この問題が各新聞に報道されていますけれども、講談社側は、わかりました、恐れ入りましたとは言っていないようですね。どうも勧告に不服のようです。  どういうことを言っているかというと、例えば、朝日新聞は、「井上ひさしという有名人の離婚から派生した問題で、公共性があるうえ、女性も必ずしも私人といえないことなどを法務局説明した。」と書いてあります。いかにも有名人であれば、あるいは必ずしも私人と言えないような人であればこんなことをされても構わぬのだというふうなのが講談社側の反論だと思います。この点、本当は西川委員あたりから追及してもらえば大変適当だと思いますけれども、どうですか、そういう見解で出したのですか。
  167. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) この事件調査に当たりましては、雑誌社側からもちろん編集長及びその弁護士が調査の段階から参加されまして、正当であると考える理由というものをるる述べてこられました。しかし、私どもはそれとは違った考えに立ってこの勧告を出したわけでございます。  御承知のように、裁判事例などでは、公的な立場にある人についてはプライバシーがやや制限されるんじゃないかといったことが言われております。また、世上、有名人についてはその範囲が狭いのだといったことも主張されておるところでございます。仮にそういった考えに立つといたしましても、私どもはそのために全く自分の私生活を公開されても仕方がないことになるということは考えておらないわけであります。  特に、この事件ではこの女性の方はそういった公的存在でもなければ、本件写真の掲載というものが公共の利益に資するために出されたものとも全く考えられない。だから、どこから見ても正当な理由がないのだということでこういった言葉を使っておるのであるということを御理解いただきたいと考えます。
  168. 諫山博

    諫山博君 マスコミの報道を見ますと、これは異例の勧告だというふうに書いてありますけれども、今までこういうことはなかったのですか。
  169. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) かつて、こと一年前だったと思いますが、少年につきましてその顔がはっきりしている写真を掲載した事件がございます。これは刑事事件に関連しておるわけでございますが、この事件につきましても少年法の精神から、こういったことは好ましくないということで勧告をいたした事例がございます。
  170. 諫山博

    諫山博君 人権擁護局長要望ですけれども、私たちは言論の自由、表現の自由は守らなければならないと思います。これはどんなことがあっても守るべきだと思います。しかし、近ごろはこれを隠れみのにしながら営利手段に利用している、最近の写真の週刊誌というのが大変問題になっていますから、今度の東京法務局の勧告というのは大変歓迎されているわけですね。やはり、行き過ぎた問題については厳正に処理するということを要望したいと思いますが、いかがですか。
  171. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) この問題は、報道の自由というものとそれから個人のプライバシーの保護といった二つの法益というものが真正面から衝突する問題でございまして、これを行政機関としてどう扱っていくかということにつきましては実はなかなか苦労のあるところでございます。  もちろん、私どもも、最近の写真週刊誌というもののやり方はちょっと行き過ぎてないかという強い批判があることも承知をいたしておるところであります。しかし、こういった問題は、できればマスコミの内部においてよく検討されて、自主的な規律をつくられて、それに従って問題なきを期していただくのが一番相当であるということで、これまでも私どもはマスコミ倫理懇談会を通じましてマスコミにもう少し明確な基準をつくってもらえないかということで働きかけをしてまいりましたし、この事件につきましても勧告を出しましたと同時に、マス倫懇の方にその内容を伝えまして、ぜひひとつ全体の問題として考え直してほしいということを申し上げてまいりました。  しかし、そういったものが確立される過程におきまして、今後ともこういった人権侵害と思われるような事件が出てくることが予想されます。私どもといたしましては、そういった場合には人権擁護の立場から厳正に対処してまいりたい、かように考えておるところであります。
  172. 諫山博

    諫山博君 別な問題に移ります。  警察庁からお見えですか。——昭和五十八年の十二月十七日に公職選挙法違反で江戸川簡易裁判所裁判官が捜索差し押さえ許可状を出しました。同年十二月十八日に警察が証拠物の押収処分を行いました。同年十二月二十六日に準抗告の申し立てをしました。同年十二月二十七日に江戸川簡易裁判所の水谷裁判官が差し押さえ処分の取り消し決定を行いました。そういう事件がありましたか。
  173. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) お答えいたします。  そうした事案があったことは承知いたしております。
  174. 諫山博

    諫山博君 これは、公職選挙の前に商店街の人たちに文書を配った。これが事前運動と法定外文書頒布ということで問題になった事件ですか。
  175. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) そのように承知しております。
  176. 諫山博

    諫山博君 そのときに、江戸川簡易裁判所の水谷裁判官によって取り消し処分を受けた証拠物にどういうものがあったかわかりますか。
  177. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) お答えをいたします。  取り消し処分を受けた証拠物につきましては、捜査の具体的内容にわたりますので答弁を差し控えさせていただきたい、かように思います。
  178. 諫山博

    諫山博君 六十余名の党員証を押収しましたね。そして六十余名の党員証は押収してはいけないといって取り消し処分がなされたでしょう。いかがですか。
  179. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 本事案につきましては、裁判所から捜索差し押さえ令状の発付を得まして、適法かつ妥当に捜索差し押さえを行ったものでございます。
  180. 諫山博

    諫山博君 そんな総理大臣みたいなとぼけた答えしちゃいけませんよ。私が聞いているのは、六十余名分の党員証を押収したか。そしてこれが裁判所の命令で還付させられたかと聞いているのです。
  181. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 捜索差し押さえいたしましたものにつきましては、準抗告によりまして一部について取り消し決定がなされておることは承知をいたしておりますが、その具体的なものにつきまくてはお答えを差し控えさせていただきたいと思います。
  182. 諫山博

    諫山博君 この決定書は秘密の書類ではないでしょう。決定書の中にどういう物件が取り消されたか列記されているでしょう。あなた決定書持っていますか。持っているかどうか答えてください。
  183. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) この時点では携帯をいたしておりません。
  184. 諫山博

    諫山博君 持たなければ見せますけれども、六十余名の党員証を持っていって、そんなもの持っちゃいかぬから返還しなさいと言われたでしょう。それに対する答えはどうですか。  私は、この問題を質問するということは前から警察には言ってあります。
  185. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 一部につきまして取り消し決定がなされておるということでございますが、警察の立場といたしましては、その具体的内容につきましてはお答えを差し控えさせていただきたいということでございます。
  186. 諫山博

    諫山博君 法務省の刑事局から来ておられますか。——この事件検察庁に来てどうなりましたか。起訴されたか。不起訴になりましたか。
  187. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 本件につきましては、昭和五十八年の一月二十日に検察庁が送致を受けまして、三月の六日に不起訴処分にいたしております。
  188. 諫山博

    諫山博君 検察庁も当然裁判所の命令で警察が違法に押収した証拠物が還付させられたということは御存じのはずです。還付させられた証拠物の中に党員証がありましたか。
  189. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 江戸川簡易裁判所の準抗告の決定書によりますると、そういうものがございます。
  190. 諫山博

    諫山博君 六十余名分の党員証を警察が持っていって、後で裁判所の命令で返還したという経過になっていますね。そうでしょう。
  191. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 決定書によりますと、そのとおりでございます。
  192. 諫山博

    諫山博君 検察庁は決定書に基づいて経過を説明されましたけれども、警察はそれでも説明しませんか。改めてもう一回質問します。
  193. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 警察の立場といたしましては、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
  194. 諫山博

    諫山博君 それでは、法務省の方にもう一回お聞きします。  返還させられた証拠物の中に七十四枚の経費明細書、三十六枚の金銭出納帳、さらに都委員会宣伝部のビラなどが含まれていたはずですけれども、どうでしょうか。
  195. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 決定書によりますと、そのとおりでございます。
  196. 諫山博

    諫山博君 私は、法務省にこの証拠物を押収するための捜索差し押さえ令状を持ってきてもらいたいとお願いしましたけれども、持ってきてありますか。
  197. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 本件は不起訴記録の一部になっているのでございまして、捜索差し押さえの許可状等につきましてこれを公にすることはいたしかねるのでございます。
  198. 諫山博

    諫山博君 私は、きょうまでに令状の写しを見せていただきたい、できれば写しを交付してもらいたい、令状の写しを全部交付することができなければ、物件目録だけを交付してもらいたい、物件目録を交付することができなければ、物件目録を見せていただきたいというふうにお願いしましたけれども、そういう経過は伝わっていますか。
  199. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 聞いております。
  200. 諫山博

    諫山博君 なぜ私が令状を知りたいかと言いますと、警察は押収してはいけないものを押収したわけです。しかもその中には党員証があります。これは警察が一番欲しがっている物件のはずです。後で返しても、党員証を何日間か警察官がとめ置いたという事実は消えません。この違法行為は裁判所が発付した令状に責任があるのか、令状を悪用した警察に責任があるのか、この点を知りたかったのです。  そういう観点から法務省にお聞きします。  党員証を押収していいという令状になっておりましたか。
  201. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 先ほど来申し上げましたように、本件捜索差し押さえの許可状を含めまして、本件は不起訴事件の記録となっておるわけでございまして、これにつきましては捜査の秘密等の問題もございまして公にすることができないのでございます。
  202. 諫山博

    諫山博君 この委員会は、検察とか裁判法律どおり行われているかどうか、それを審議するところですよ。今の問題で明らかになったのは、押収してはならないものを押収した。そのことはもう既に裁判所によって決定づけられている。その責任が警察にあるのか検察庁にあるのか、裁判所にあるのか、この問題を明らかにするのは当委員会の責任じゃありませんか。  警察にお聞きします。党員証を押収した根拠は何ですか。
  203. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 差し押さえをいたしました物件につきましては、捜索差し押さえ令状にあります差し押さえるべきものの範囲内で差し押さえたものでございます。個々の具体的な押収物件について、犯罪の立証上どのような関係があるかということにつきましては、捜査の個々の具体的な内容にわたることになりますので、答弁を差し控えさせていただきたいと思います。
  204. 諫山博

    諫山博君 令状には目録がついているでしょう。その目録の中に党員証を押さえていいというようなことが書かれていたかどうかを聞いているのです。そういうことが書かれておったとすれば私は裁判所の責任を追及します。そういうことが書かれていないのに警察が押収したのだとすれば警察の責任は重大です。答えてください。
  205. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 捜索をいたしました物件は、事件の立証上必要なものについて差し押さえをすべきものの範囲内であると判断して、捜査官が必要を認めて差し押さえをしたものでございます。
  206. 諫山博

    諫山博君 警察が幾ら判断しても、裁判所の令状が出なければ押収できないでしょう。令状の中に党員証を押収していいということが書いてあったかということを聞くけれども、あなたは最後まで答えませんね。  次の問題に移ります。  その場合に、一冊の書類の中であなたたちがどれかが必要だと思った場合に、その一枚だけを取らずに書類ごと押収していきましたね。このことが裁判所で問題になったでしょう。法務省、どうですか。
  207. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) ただいま問題として指摘されております事件の関係の決定書を見る限り、その辺のところは何とも記載してございませんので、その決定書に基づきましてどうのこうのということはちょっとお答えいたしがたいのでございます。
  208. 諫山博

    諫山博君 そうしたら、別の事件について聞きます。  昭和五十八年五月十八日に東京地方裁判所が捜索差し押さえ許可状を出しました。同二十日に司法警察員が差し押さえ処分をしました。二十一日に準抗告の申し立てがありました。六月一日に東京地方裁判所が差し押さえ処分の一部を取り消すという決定をしました。  この被疑事件は、昭和五十八年の東京都知事選挙のときに、貯金局で働いている国家公務員が勤務時間外に公営の掲示板に松岡候補の選挙ポスターを張ったというだけの事件です。公営掲示板に選挙ポスターを張ったところが、たまたまその人が郵便局の職員であったという被疑事件。その事件は御存じだと思いますけれども検察庁事件処理はどうなりましたか。
  209. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 国家公務員法違反の事件でございますですね。
  210. 諫山博

    諫山博君 そうです。
  211. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) これにつきましては、昭和五十八年の五月の二十一日に二名につきまして身柄づきで送致を受けまして、翌二十二日に勾留請求いたしまして、勾留状の発付を得ました。その後、身柄を勾留いたしまして、六月の七日に釈放いたしております。  この事件につきましては、さらにそのほか四名につきまして在宅で送致を受けておりますが、合わせて六名につきまして十一月十一日に不起訴処分に付しております。
  212. 諫山博

    諫山博君 この事件でも膨大な証拠書類を押収して、その一部に裁判所によって還付命令が出ております。還付させられた書類の中に地区委員会構成名簿というのがありますし、それから経歴報告書という書類もあります。間違いありませんか。
  213. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) この件に関します準抗告の決定書によりますと、経歴名簿、それから地区委員経歴書等について差し押さえ処分を取り消すということになっております。
  214. 諫山博

    諫山博君 地区委員会構成名簿とか経歴報告書というのは、これは共産党の内部資料です。警察が一番欲しがっている警備情報資料です。それを、公営掲示板にポスターを一枚張ったという程度の事件で逮捕しながら、押収してはいかぬ書類を押収していったわけです。そういう経過になっていることは警察は御存じですか。
  215. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) ただいまの経過については承知はいたしております。  本件につきましては、組織性の認められる事犯ということで、令状で許可された範囲内で捜査官が証拠物であると判断をして差し押さえをしたものでございます。
  216. 諫山博

    諫山博君 そうすると、私が読み上げたような証拠書類の差し押さえが違法だということはもう確定しておりますけれども、それは令状の責任だ、警察には責任はない、こういう立場ですか。答えてください。
  217. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 警察といたしましては、捜索差し押さえ令状で許可された差し押さえるべきものの範囲内で差し押さえたということでございます。
  218. 諫山博

    諫山博君 最高裁の刑事局からお見えですか。——私は、違法な差し押さえをした責任は裁判所にあるのか、警察にあるのか、あるいは両方にあるのかということを知りたいわけですよ。警察側の説明では、みんな令状の範囲内でやったんだから警察には責任ない。言葉をかえれば、令状の責任だというふうに聞こえますけれども、あなたはその発言を甘受いたしますか。
  219. 吉丸眞

    最高裁判所長官代理者(吉丸眞君) 今、問題になりましたのは具体的な事件でございまして、私ども、その事件について発付せられた捜索差し押さえ許可状を見ておりません。そういうことで、今の御質問の点については何ともお答えいたしかねる状況でございます。
  220. 諫山博

    諫山博君 結局、警察も裁判所も、恐らく検察庁もうちの責任ではないと言いたいようですね。しかし、この差し押さえが違法であったということはもう裁判所で確認されております。私は、この問題を明らかにするためには、裁判所がどういう令状を出したのか、この令状に基づいて警察がどのような差し押さえをしたのか、これを突き合わせることが必要だと思います。私はその作業を今指摘した事件についてぜひやりたいと思いますが、裁判所はどうですか、その作業協力してくれませんか。裁判所、警察、検察庁、どこの責任かということを明らかにしようじゃありませんか。それを明らかにして、こういうことが再び起こらないようにするのがこの委員会の責任だからです。
  221. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 決定書によりますと、例えば、経歴名簿につきましては、そのうち十八葉につきましては差し押さえは合法である、こういうことであると思うのでございます。全体を一冊の簿冊として、差し押さえた点について、これは各一枚ごとに一冊であるという趣旨から個々的に関連性なり必要性を判断する、こういうのが決定の趣旨でございます。したがいまして、名簿の差し押さえが全面的に違法である、こういうことではないのでございます、決定書を読みます限りにおきましては。
  222. 諫山博

    諫山博君 そうしたら、裁判所はどこが違法だと言っているのですか。答えてください。
  223. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 先ほど申しましたように、経歴名簿ということで形態上一冊になっておる、この一冊を差し押さえた。この一冊のうち。形態上一冊にはなっておるけれどもいろいろな状況から見るとそれぞれが独立の文書である、したがって、一枚一枚について必要性なり関連性を判断すべきである、その結果、十八枚については差し押さえの取り消しは行わない、十八枚を除いたものについて差し押さえを取り消す、こういう決定になっておるわけでございます。
  224. 諫山博

    諫山博君 その前提として一枚一枚が独立した証拠物だとなっているでしょう。その解釈は検察庁は納得しますか。つまり、つづられた証拠書類を押収するときは一括して押収するのじゃなくて、一枚一枚について押収の関連性とか必要性を、判断しなければならないというのが裁判所の決定だと思います。それは検察庁、納得しますか。
  225. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) それは状況によるわけでございまして、本件につきましては私もこの決定書を見ているだけの範囲でのお答えでございますけれども、とじひもでつづり合わせたものであり、形態上一冊をなしておる、こういう状況にあることはこの決定書も認めておるところでございます。ただ、いろんな状況からして一枚一枚が独立の文書だという言い方をしておるわけでございます。したがいまして、この決定書を見る限りにおきましては、形態上は一冊だけれども一枚一枚が独立と、こういうような解釈を示しておるということになります。
  226. 諫山博

    諫山博君 もう一つの別な事件。  昭和五十八年十一月二十三日に東京地方裁判所八王子支部の裁判官が捜索差し押さえの許可状を出しました。五十八年十一月二十四日に準抗告の申し立てをし、五十八年十一月二十五日に東京地方裁判所八王子支部の刑事第二部が差し押さえた一部を取り消し決定しております。事件は軽犯罪法違反です。建設省が管理している堤防にたった二枚ポスターを張ったという事件です、被疑者は逮捕されましたけれども。これで「六中総の具体化方針、(四枚綴)」、「六中総の具体化による諸課題の節について」、「衆議院選公示日までのとりくみ計画について」、これは表題で明らかなように共産党の内部文書です。これを警察が押収して、そんなものは押収しちゃいかぬといって裁判所が返還を命じたでしょう。そういう事実がありましたか。警察どうですか。
  227. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) この事件があったことは承知いたしております。
  228. 諫山博

    諫山博君 私は、三つの事件指摘しましたけれども、警察がやったことは違法だと言われていますよ。場合によったら令状が違法だったのかもしれません。警察は差し押さえてはいけないものを差し押えた、後で返したけれども、これは当然コピーをとっているはずです。共産党の内部資料を違法に差し押さえた。返したら済むというものではありません。どう考えておりますか。私は日本共産党の一員ですけれども、謝罪しなさい。警察に謝罪を要求します。
  229. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) ただいま先生御指摘の八王子におきます軽犯罪法違反事件につきましても捜索差し押さえ令状にのっとりまして差し押さえをいたし、厳正公平な観点から捜査をいたしたものでございます。
  230. 諫山博

    諫山博君 あなたは令状にのっとり厳正公平と言いますけれども、この差し押さえが違法だということは裁判所が認めたでしょう。そうである以上、警察のやったことは間違ってやった、こういう立場に立って謝罪するのは当然じゃありませんか。共産党の一員である私に謝罪を要求します。はっきりしなさい。
  231. 小田垣祥一郎

    説明員小田垣祥一郎君) 警察は違法行為に対しましては不偏不党、厳正公平な立場でその取り締まりに当たるという方針を堅持してまいりましたし、今後とも堅持してまいるつもりでございます。その際、捜査の適正、妥当性、この担保についても引き続き最善を尽くしてまいる、こういう方針に変わりはございません。
  232. 諫山博

    諫山博君 法務省の刑事局長にお聞きします。  警察がやったことは間違っていたということが裁判所という公的機関で確認されたわけでしょう。そして間違って押収した書類は現に返しましたね。こういう場合、警察は間違いを認めておりません。まして謝罪をしようともしません。一般的に警察の捜査を指示できる検察庁としてどう考えますか。
  233. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) この決定書によりますと、要するに、差し押さえたこと自体あるいは差し押さえの物件全体について違法であるから差し押さえ処分を取り消すということではないようでございまして、そのうちのあるものにつきまして差し押さえの必要性がないとか関連性がない、あるいは先ほど来申し上げましたように、それは一つの文書であるから個々的に関連性なり必要性を判断すべきだ、こういうことで差し押さえ処分の一部が取り消されたわけでございまして、そういう意味では差し押さえの必要性といったことにつきまして捜査当局と裁判官の判断に違いが出た事案である、かように思うわけでございます。  ただ、いずれにいたしましても、捜査が適正に行われなければならないことは申すまでもないところでございまして、私どもといたしましても裁判所の考え方、こういったものはやはり十分尊重いたしまして捜査の適正を期さなけばいけない、かように思っておるところでございます。
  234. 諫山博

    諫山博君 検察庁としては謝罪はしませんか。
  235. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 差し押さえの処分を検察庁がしたものでもないわけでございます。
  236. 諫山博

    諫山博君 あなたの方は指導する責任があるでしょう。しかし、どうも検察庁も謝罪する気持ちはないようですから、最後に裁判所に聞きます。  警察の説明を聞いても、検察庁説明を聞いてもどうも原因は令状にあるということのようです。私もそういうことはあり得ると思うのです、令状の発付が極めてずさんにやられているということがいろいろ批判されておりますから。ですから、絶対に乱用の余地がないような令状を発付すべきである。例えば、差し押さえる物件などについても抽象的なことを書くのではなくて、警察が乱用する余地がないような令状発付を指導すべきだと私は思います。警察というのは共産党の情報を探りたくてしようがないんですよ。たった二枚ビラを張った事件で膨大な資料を押収するのが警察だということを前提にしながら、令状の発付というのはもっともっと厳正でなければならないと思いますけれども最高裁判所としてはそういう指導をされますか。私は最高裁には謝罪までは求めませんが、そのことを要望します。どうでしょうか。
  237. 岡村泰孝

    政府委員(岡村泰孝君) 私の発言から何か令状の記載に問題がある趣旨のことを今、委員がおっしゃったと思うのでございますが、私そういう趣旨の発言をした記憶はございませんので、念のため申し上げておきたいと思います。
  238. 吉丸眞

    最高裁判所長官代理者(吉丸眞君) この特定の事件につきましては、実際の状況が判明いたしませんので何とも申し上げにくいのでございます。  ただ、一般的な問題といたしましては、令状発付に当たって差し押さえるべきものをどのように特定するかということが問題になろうかと思うわけでございます。実際上、差し押さえるべきものを個別的に名称、形状等によって具体的に示すことができる場合にはもちろんそれによるべきでございます。  ただ問題は、差し押さえの目的物にはそのような明確な特定が困難なものもございます。特に捜査の初期の段階における捜索差し押さえにおきましては、目的物の存在ははっきりしているけれども、その具体的な名称、内容等まではわからないというような場合もございます。このような場合の特定の方法につきましては、既に御承知のとおり、昭和三十三年の最高裁の大法廷決定がございます。この決定は、「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」その他「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」という記載につきまして、「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」とあっても、これはその前に記載されている具体的な例示に付加されたものであり、捜索差し押さえ許可状に記載された被疑事件に関係があり、かつ右例示の物件に準じられるような文書、物件を指すことが明らかであるから、物の明示に欠けるところはないというふうに判示したものでございます。  実務の体制といたしましては、先ほど申しましたように、名称、形状等で具体的に明示できるものについてはそのような特定の方法をとり、それができないような事案につきましてはこの判例に示されたような方法をとっているところが多いのではないかと思います。この令状の物の特定は重要な問題でございますので、私どもとしても今後さらにいろいろ検討してまいりたいというふうに考えております。
  239. 諫山博

    諫山博君 終わります。
  240. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 私、今度初めて法務委員になったのですけれども法律の問題については全くの素人であります。六法全書を読んだだけで頭が痛くなるようなぐあいで、法律の問題については詳しくございません。私が質問しますことも専門家の間では当然のことであるかもしれませんし、また、私が使います言葉でも法律の専門用語から見るとおかしい用語例なんかがあるかもしれませんけれども、一般の素人の立場から、一般の国民の立場から質問したいと思いますので、その点御了承願いたいと思います。  三つほど質問通告を出しておきましたけれども、第一の指紋押捺の問題につきましては、けさ猪熊委員から詳細に質問されました。私の質問したいことはもうほとんど全部言われましたので、私同じことの繰り返しの質問をしない方針でございますから、この質問は省略いたします。関係の政府委員の方がおられましたならば、必要ございませんから御退席願って結構でございます。  二番目に、表現の自由とプライバシーの問題について質問する予定でしたけれども、これも具体的な問題としましては、今さき諫山委員からフライデー問題について御質問がございました。私、共産党とは多くの点で意見を異にする点が多いのでございますけれども、この問題に関する限りはただいまの諫山委員の意見に大体において賛成でございます。したがいまして、フライデー事件そのものについて同じことを繰り返して質問しても仕方がありませんので、むしろ一般的な形で、表現の自由とプライバシーの権利の関係について質問したいというふうに考えております。  私、大学にいたときにいわゆる大学紛争、昭和四十四年の大学紛争を経験したんですけれども、そのときに痛感しましたことは、表現の自由なり学問の自由は極めて重要な人権でございますけれども、これを侵害するのは国家権力であるというふうな受け取り方が非常に強くして、それで国家権力からそういった自由を守るのに対して一生懸命になっている。私はそのことは結構だと思うのですけれども、その余りに、いわゆる暴力学生が大学を占拠して学問の自由を侵害しているというふうな面についての大学関係者の認識が非常に少なかったように思う。  そういう経験から申しまして、人権を侵害するのは国家権力だけであるというふうな受け取り方をしている人が日本では間々あるように思うのです。確かに表現の自由、言論の自由の歴史を見ますと、今までそういう自由を侵害してきたのは国家権力でございましたから、そういうのを警戒するのは当然ですけれども、ジョン・スチュアート・ミルが「自由論」という本の中で述べておりますように、工業化社会になってきてだんだん社会が大衆化してくると、国家権力以外に社会的な力、例えば、資本家の経済力であるとか、あるいは世論、そういったものが個人の自由を侵害する危険がある。それに対して個人を守るのは国家であるということを述べているのですが、現在の社会においてはそれ以外にいわゆるマスコミの力、これをつけ加えていいのじゃないか。つまり、個人の自由を侵害するおそれがあるものとしてつけ加えていいのではないかというふうに考えております。    〔委員長退席、理事林ゆう君着席〕  そういう場合には、そういった社会的な力から個人の自由を守るのはやはり国家権力、いわゆる人権擁護局の任務だろうと思うので、そういう問題については、もちろん権力の乱用があってはいけませんけれども、積極的に個人の自由を守るためにやっていただきたいと思うのであります。  ただ、どうも日本ではいわゆるプライバシーの権利——第一、プライバシーと片仮名書きで書くぐらいで、どうもプライバシーの権利というものが十分に確立していないのじゃないか、尊重されていないのじゃないかということを感ずるのですけれども、まず最初に、法務省はプライバシーの権利というのをどういうふうに認識しておられるのか。第一、プライバシーというのを日本語でいうとどういうふうに訳していいのか、それも私にはよくわからないんですけれども、それからどういうふうに認識しておられるのか、そのことをまずお聞きしたいと思います。
  241. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) プライバシーの権利とは何かという御質問でございますが、これはまことに難しい御質問でございまして、なかなか的確にお答えできないのが現状であろうかと思います。  と申しますのは、プライバシーの権利は何かということに関しましては、我が国はもとより外国におきましてもいろんな主張がなされておるわけでありまして、その外延というものがかなり主張者によって違ってくるわけであります。そういったこともありまして、外国ではプライバシーの権利というのはどん欲な権利であるとか、あるいは皮肉を込めて言う方は、プライバシーの権利は何かお菓子袋のようなものである、あるいはキャッチフレーズみたいなものなんだということを言われるようなことであります。しかし、プライバシーは何であるかということにつきましては、国の内外におきましていろんな定義がなされてきておりますが、残念ながらそれが定説となっておらないわけでありまして、裁判例におきましても、プライバシーに関する訴訟がこれまでいろいろ提出されまして激しく争われました。しかし、最高裁判所におきましても、まだそのプライバシーの権利というものについて直接触れたものはないという状況でございます。  私どもは、一般的に、プライバシーというのは私生活をみだりにのぞかれない権利だ、公開されない権利だというふうに理解しておるわけでございますけれども、ただいまも申し上げましたような状況でございまして、裁判例としましては、かつて「宴のあと」という小説をめぐりまして、ある政治家のプライバシーというものが問題になったことがございます。この事件で東京地方裁判所が判決をいたしておりますが、この事件ではプライバシーという権利について正面から取り上げております。ただ、これはまだ下級番の一判決であるというふうにお考えいただきたいと考えております。
  242. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 私もちょっと調べてみたんですけれども、いわゆる三島由紀夫の「宴のあと」以外には余り裁判判例がないように聞いているのです。    〔理事林ゆう君退席、委員長着席〕 したがって、裁判所の確定的な意見というのはよくわからないんですけれども、その「宴のあと」、地方裁でしたかね。それで第一は、つまりプライバシーの権利をどのように判例では定義しているかということ。それから、プライバシーの権利というのは日本の憲法の規定している人権に属するものとして考えているのか。それから第三番目に、その権利が侵害された場合に法的な救済が与えられるためにはどういった要件が必要であるか、どういう要件を満たした場合に法的な救済が与えられるのか。それから第四番目に、表現の自由、これも重要な権利でございますが、この表現の自由の法益とプライバシーの権利の法益、その調和をどういうふうに図っているかということを素人の私にもわかりやすいように説明していただきたいと思います。
  243. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) ただいま御質問のありましたいわゆる「宴のあと」事件と言われるものは、東京地方裁判所昭和三十九年九月二十八日に損害賠償請求事件につきまして下した判決でございます。ここで先ほど申し上げましたプライバシーの権利なるものがいろいろ議論されております。せっかくのお尋ねでございますので、この判決ではプライバシーというものをどういうふうに考え、またその他の要件についてどのように言っているかということを簡単に御説明申し上げたいと思います。  この判決では、「プライバシー権は私生活をみだりに公開されないという法的保障ないしは権利」であるというふうに定義をいたしております。そうしまして、その以下、今の憲法とどういう関係にあるのかということにつきましては、「近代法の根本理念の一つであり、また日本国憲法のよつて立つところでもある個人の尊厳という思想は、相互の人格が尊重され、不当な干渉から自我が保護されることによつてはじめて確実なものとなるのであって、そのためには、正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならないことは言うまでもないところである。」ということを言っております。  そうして、この判決では、では一体どうしたときにプライバシーの侵害になるのか、そして法的救済が与えられるのかということにつきまして、「公開された内容が」まず第一に、「私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、」、二番目に、「一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること、」、三番目に、「一般の人々に未だ知られていないことがらであること」という要件を述べまして、このような事柄が公開されることによって、「当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする」ということを言っております。  それから、この権利は当然のことながら表現の自由との関係でなかなか難しい問題を含んでおるのでありますが、この点に関しましては、「元来、言論、表現等の自由の保障とプライバシーの保障とは一般的にはいずれが優先するという性質のものではなく、言論、表現等は他の法益すなわち名誉、信用などを侵害しないかぎりでその自由が保障されているものである。」という理論を述べておるのであります。
  244. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 私は、法律の専門家ではないのですけれども、ヨーロッパの思想史を講義していた関係上、いわゆるヨーロッパの個人主義の思想が生まれてきた根底には、やはりプライバシーの問題、これから来ている。その背景には、個人の尊厳といいますか、個人が尊厳であるのは個人が人格を持っているんだ、単なる物権とは違うんだ。馬や猫とは違うんだ。馬や猫が聞いたら怒るかもしれませんけれども、馬や猫とは違うんだ、人格を持っているんだ。その人格から直接に出てくるのが、他人から私生活をのぞき見されない、公開されないという非常に基本的な権利じゃないかというふうに私は思っております。私は仮に、私事権というふうに訳して学生には説明したことがあるのです。  その場合に、表現の自由、言論の自由というのは、これは非常に重要な権利ですけれども、人格の完成を図るための一つの手段——不可欠な手段でありますけれども、これは手段的な価値のものじゃないか。したがって、表現の自由、言論の自由といっても決して無制限ではないわけです。  その意味から言いますと、どうもあの「宴のあと」の判例の法理論というのは、私は素人で全然わかりませんけれども、個人のプライバシーの権利というものを最優先して守るべきじゃないか。どうも日本ではそういう考え方が非常に薄いのじゃないか。  殊に、今度のフライデーの写真の盗み撮り事件なんかは、先ほど諫山委員も言われましたけれども、全く個人の家をのぞき見しているわけですね。個人の家というのは、向こうの言葉で言えば一種の城、シャトーであって、これはだれでも勝手に入ることはできない、警察官でも勝手に入ることはできない、のぞき見もしてはならない。そういう考え方がどうも日本に定着していない。したがって、裁判になった例も少ない。  私は、芸能人であるとか、スポーツの有名人が週刊誌なんかにしばしば出ておりますけれども、何でああいった人たちの私生活を暴き出す必要があるのか、公の生活でやっている場合にはこれは別ですけれども、その個人の家庭に入り込むとかなんとかして個人が見られたくないようなところを撮る必要があるのか、そういうことを常に非常に不満に思っております。マスコミの方に言わせると、これは国民の知る権利に奉仕するんだというふうに言っておりますけれども、知る権利といってもいろいろ知る権利があると思うのです。これは全くのぞき見趣味に迎合しているにすぎない。  ちょうど、市場経済において、消費者主権だというふうに言われているけれども、実際には企業がいろんな物をつくって需要を喚起して、そしてその需要に応じてまた企業が物をつくるというふうに、そういう相互関係だと思うのですけれども、マスコミの方がむしろそういった普通の人たちののぞき見を喚起しているんじゃないか。そういう点からいいまして、私は、このマスコミの人たちに大いに反省してもらいたい。  個人ののぞき見だけではなしに、私が見て非常に不愉快に感じたのは、去年の日航機墜落事件のときですね。あれは死体、しかもちぎれた死体なんかも写しておりましたし、けがをした人たちを病院に運ぶのに、一刻を争う病人の写真を、けがをしているところの写真を無理やりに写している、これは少し行き過ぎではないか。そういったふうな一般的な問題についてはまた何か機会があったときに取り上げますけれども、今度の問題に関する限りはマスコミは非常に行き過ぎている。  こういったことが横行しますと、今度は逆に、もっと言論の自由を制限しろというふうな国民の意見が興ってきて、かえって逆効果、マスコミにとっては墓穴を掘るようなことになるのではないか。その意味において、今度東京法務局が勧告されたことを私は歓迎するのですけれども法務局が勧告された以上は、どこまでは許されるんだ、どこまでは許されないんだという一定の基準があったに違いないと思うし、また、判例は非常に少ないので確定していないけれども法務局としてもプライバシーの権利ということについて何らかのお考えがあってやられたんだろうと思うのです。その問題について人権擁護局のお考えをお伺いしたいと思います。
  245. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 実際の事件が人権侵害事件として問題になる、あるいは裁判で問題になりますときに、新しい権利の侵害であるといった形で問題が提出されますと、とかく法律実務家は慎重になるものでございます。  と申しますのは、新しい権利というものを裁判上認めていくということにつきましては、これはいろんな議論も呼ぶし、また大変な勇気も要ることでありまして、できれば既存の権利侵害であるというふうに構成することによって同じ結果を得られればそうしたいという考えがなくはないわけであります。これが、例えば、戦後、環境権であるとか、またプライバシーの権利であるとかいろいろなものが主張をされておるわけでございますけれども、実際の裁判におきましては既存のいろいろな権利、例えば、人格権でありますとか、肖像権でございますとか、また人格権という概念そのものがかなり新しいのだという批判もあるわけでございますが、既存の権利を使うことによって同じ結果が得られるならばできるだけそういうことにしたいという努力をしてまいっておるわけであります。  この問題につきましてもこの「要旨」をごらんいただければおわかりいただけますように、私どもはこれは俗にプライバシーの問題であると言っておりますけれども、「肖像権・名誉権」あるいは「みだりに容ぼう・姿態を公開されない自由」といった言葉を使っておるのは、先ほど申し上げましたような考えがあらわれておるのだというふうにお考えいただければ結構なのでございます。しかし、だからといって私どもは個人の私的な関係というものが容赦なく公にされることが許されていいというふうに考えておるわけではないのでありまして、最近、写真雑誌というものが個人のプライバシーをのぞき見過ぎるじゃないかという厳しい批判があること、にもかかわらず、それが非常に読者数をふやしまして、最近ではまた何誌かふえようとしているといったことについて決して関心がないわけではないわけであります。  ただ、先ほども諫山委員の御質問に対して申し上げましたように、憲法の保障する自由の問題につきまして行政、国家権力が介入して事をおさめるという形はできるだけ避けるのが望ましいわけであります。そういった観点に立ちまして、私どもは従来からマスコミ倫理懇談会等を通しまして、もう少しマスコミ界において自主的な規制がなされないものかということを強く呼びかけてまいりましたし、今後ともそういった呼びかけをしてまいりたいと思っております。  しかし、現実にこういった種類の記事が掲載されることによりまして人権侵害が明白であるという事態が発生しましたときは、これはもはやマスコミの自主的な解決に任せることはできないわけでありますから、私どもといたしましても、それは間違っておる、明らかに人権を侵害しておるということを明らかにすることによりまして今後そういった事態の発生することを阻止し、またマスコミ界におきましてもそういったことが機縁となって、さらに自主的な規律の確立のためにより一層の努力をしてもらうきっかけにしたいと考えてこれまで事件を処理してまいりましたし、今後ともそういう方向で臨みたい、かように考えておるところであります。
  246. 関嘉彦

    ○関嘉彦君 時間がなくなりましたので、もう一つの質問にわたっていると時間が足りませんので、いずれまた決算委員会で近く法務省にお目にかかると思いますから、第三の質問はそのときに譲ります。  あと残り時間を利用しまして、「宴のあと」の判決の注釈書であったか、あるいは一般的に書いた本であったか記憶がないのですけれども、つまり、プライバシーの権利でも、公人の場合、それからそれが公共の利益に合致する場合はプライバシーの権利よりも表現の自由の方が優先するのだというふうな意見を見たことがあります。  一般的にはそうだろうと私は思いますけれども、例えば、政治家は公人であります。政治家の場合であっても家庭の中に今度のような事件でもしカメラが入り込んで撮影するとすると、これはやはり私は行き過ぎではないか。いわんや芸能人、スポーツの人たちにとってはなおさらのことであります。その公人であるかどうかということについて法務省はどういう見解を持っておられるか。  それから、公共の利益、それを公表することが公共の利益、これも拡大解釈すれば幾らでも拡大解釈できるような問題だと思うのですけれども、それについて人権擁護局はどういう御意見ですか。それを聞いて私の質問を終わりにしたいと思います。
  247. 野崎幸雄

    政府委員(野崎幸雄君) 御承知のように、刑法は二百三十条で名誉毀損について処罰をする規定を設けておりまして、公然事実を摘示して人の名誉を毀損した者は三年以下の懲役または禁錮または千円以下の罰金に処せられるということになっております。しかし、この行為につきましても、その「第一項ノ行為公共ノ利害ニ関スル事実ニ係リ其目的専ラ公益ヲ図ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事実ノ真否ヲ判断シ真実ナルコトノ証明アリタルトキハ之ヲ罰セス」ということを定めておるのであります。このことはプライバシーにつきましても同じであろうというふうに言われております。  また、公人でございますとか、あるいはタレントであります場合には一般の、通常の私人よりもプライバシーの保障される範囲が狭いのじゃないかという議論がございます。恐らくそういうことはあり得るのであろうと思われますけれども、しかし、だからといって政治家であるためにすべての私生活がのぞかれてもいいとか、タレントであるためにすべての私生活がのぞかれていいということにはならないわけでありまして、このたびの勧告に対しましても、問題となった女性がいろいろなところで執筆したものを発表しておられるから公的存在である、だからこういったものを発表されても仕方がないのだというような考えを雑誌側では述べておられるわけでありますけれども、私どもはそういった弁解に対しても十分耳を傾けましたけれども、しかし、この女性がそういった存在とは考えられないじゃないかということでこういった勧告をしたわけであります。  また、たとえ公的存在と考えられる場合におきましても、一体どの範囲までプライバシーというものは制約されるかということを個々の事件に当たり具体的に判断をして、その上で人権侵害に当たるかどうかということを決定してまいりたい、かように考えております。
  248. 林ゆう

    林ゆう君 質問の予定をしておりませんでしたが、委員長理事委員の先生方のお許しを得ましたので、法務大臣に二つのことについてお尋ねをいたしたいと思います。  本日、同僚委員質問にもありましたけれども中曽根総理が去る二十一日の衆議院本会議におきまして、日本には少数民族はない。私にもアイヌの血がまじっているなどと述べられたとの報道がなされまして、この発言が問題になっているわけでございますが、これに関連してお伺いをしたいと思うのでございます。  国際人権規約、B規約第四十条に基づく政府の第一回報告におきまして、本規約に規定する意味での少数民族は我が国には存在しないとされていることについて法務大臣はどういうお考えであるかお伺いしたいと思います。  それから、北海道土人保護法という土人という用語につきまして大臣はどのようなお考えをお持ちであるか。この二点についてお伺いをしたいと思います。以上でございます。
  249. 遠藤要

    国務大臣遠藤要君) 私は、日本に国籍を有する国民に少数民族というのはないと、こう考えております。さらに、いろいろの先生方や何かの御意見等もお聞きをして、また私としても、皆さん御承知のとおり日も浅いものでございますので、今後私なりに勉強してみたいなと、こういうふうな感じを持っております。  それから、総理発言の中に、まゆ毛が濃いとかなにとかというようなお話があったということが、それが差別につながるかということになると、そういうふうなものが差別とは私は感じておりません。例えば、自分は御承知のとおり東北出身でずうずう弁だと、こういうふうなお話をちょうだいしているわけですが、これも差別かなとも思いますけれども、また一面、東北の言葉というのは非常に親しみを感じていただいておるというような点も考えますると、そういうような点が、私は自分自身も頭の毛は年の割合には薄い方ではないのでございますが、そういうような点での差別という印象は私は持っておらないということを申し上げておき、かつまた今、北海道土人保護法については、これは厚生省所管の問題でございますけれども、厚生省自体も今お考えになっておられると、こう承知をいたしております。  そういうふうな言葉がややもすると誤解を受ける印象が強いというような点で、私の方からも検討をお願いしたい、こういうふうな考えを持っておるわけでございまして、中身自体は、私はむしろ保護的なといいましょうか、先ほどおしかりをちょうだいしましたけれども、やはり政治的にもっと面倒を見てやらなければならぬと、こういうような点であると思います。差別だと言えば北海道開発法も沖縄開発も差別のようなイメージを持たれては大変だと、こう思っておりますが、そういうふうな方法だということで御理解をちょうだいいたしたい。  日本国には国籍を有する国民に少数民族はないと私は重ねて申し上げてお答えにかえたいと思います。
  250. 太田淳夫

    委員長太田淳夫君) 本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後三時七分散会