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公述人(山口孝君) 明治大学の山口であります。
私は、大学の方で会計学と
経営分析論というような講義を担当して研究しております。そのような
立場から
国鉄問題を勉強しておりますけれども、この
分割・民営には
賛成することができません。
まず、本題に入る前に一言申し上げたいことがあるわけであります。それは、中曽根内閣が来年の四月一日を期して新
会社を発足させたいということで現在審議を進めておられますけれども、
衆議院段階における審議の
内容を仄聞しますとかなり不十分であります。
一つの
経営体が、今回、はっきりしませんけれども、二十四ぐらいになると当初言われておりました。こういうような
経営手法をとるということは
経営の根幹にかかわる大問題でありまして、私が今
思い出すことができるのは、第二次世界大戦が終わりました当初、財閥解体が行われまして、御承知の三井物産あるいは三菱商事というような
会社がずたずたに解体されました。これ以外に私は
思い出すことはできません。
御承知のように、商法の二百四十五条で、「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」あるいは「営業全部ノ賃貸、其ノ
経営ノ委任、」というようなことを行う場合には株主総会の特別決議を必要とします。株主の過半数が出まして、三分の二の賛同を必要とすると、こうなっております。このことからわかりますように、
一つの
経営体を
分割するか否かというような案件は、先ほども申し上げましたように
経営の根幹にかかわる最重要問題でありまして、慎重な審議と圧倒的多数の支持がなければ行うことが許されないわけであります。さらに、
国鉄の場合には
分割だけでありませんで、これに対して
民営化というような
経営形態を根本的に異にするものに変えようとしているわけでありますから一層の慎重審議が必要だと、こういうふうに考えております。
そこで、こういう審議をする場合には、普通、直近の、一番近い
国鉄経営に関する資料を求めて、刻々と
国鉄の
経営状態がどうなっているかを調べる必要があります。例えば現在ですと、九月三十日に終わりました中間決算の結果がどうなっているのか、あるいは現在十一月でありますから既に出ていると
思います、十月における
国鉄の営業状態が前年同月に比べてふえているか減っているか、こういうことも含めて慎重に審議をしていただく必要があると、こう考えるわけでありますが、いかがなのでしょうか。
さらに、私は
国鉄の九法案をつぶさに拝見しましたけれども、これに目を通してみると、率直に申し上げまして実に雑駁で非常識で不明な点が多いわけであります。このことについて一々触れるわけにいきませんけれども、例えば
改革法案第一条において
公共性原則を全く捨ててしまって、輸送需要に対する対応の原則と効率性の原則を持ってきた
理由は何か。あるいは、同じく二十三条における
国鉄職員の全員
解雇を思わせるような条文があります。これについても大いに疑義があります。さらに旅客鉄道
会社法の附則第四条二項における、限りなく資本を過小にできるような非常識な条文があります。一般的に商法では、必ず資本総額のうち二分の一は資本に入れなければならないと、こういうふうになっているわけでありますが、
国鉄法案では「二分の一を超える額を資本に組み入れないことができる。」、こういうような条文の意図は一体何か。あるいは、
新幹線鉄道保有機構法案における第一条目的の条文、
清算事業団法案第三十八条の財務諸表における財産目録を掲記する必要があることの
理由など、私が質問できたらぜひお聞きしたいような疑問が満ちているわけであります。ぜひ
参議院では逐条審議に基づいて
国民にその
内容を明らかにして
国民の審判を待つべきだと考えるわけであります。
内容に入らしていただきますが、
国鉄改革法案の第一条に、御承知のとおり、
国鉄が
破綻したと、こういうことが書かれております。先ほど申し上げたような
理由で解体をするんだと、こうなっておりますが、
国鉄が
赤字になった真の
理由は一体何であるかと、これが問題であります。
私の
経営分析によれば、この
赤字の原因を分析する手法としては、御承知のとおり、
昭和三十八年までは
国鉄は黒字でありました。
国鉄はことしで百五十年目を迎えておりますけれども、ほぼ一貫して
昭和三十八年、一九六三年までは黒字だったわけであります。そして、その翌年から純損失を計上し今日に至っておりますから、いわば三十八年の黒字の最終の年とそして現時点における財政状態を比較して分析をすれば、その
赤字の原因が明らかになるわけであります。
この期間における営業収入は、三十八年における五千六百八十七億円から、六十年、直近の財務諸表によれば三兆五千五百二十八億円へ六・二四倍に増加しております。六・二四倍であります。これに対して費用は五千百四十四億円から五兆五千七百二十八億円ですから、十・八三倍にも増加しております。この収入増加を上回る費用の増加が
赤字の原因であることは当然であります。
では、一体どのような費用が増加しているでしょうか。費用の
一つの分類方法としてこれを経常経費と資本経費に分けることができるのは御承知のとおりだと
思います。経常経費はいわゆるランニングコストでありまして、経常的、日常的に発生します人件費、動力費、修繕費等々の費用であります。
従業員の営業活動から生じます費用がランニングコストであります。これに対して、資本費というのは借入金の利子と減価償却費から成っております。これは投資の結果から生じた費用でありまして、これは全面的に
経営者の投資の意思決定、投資戦略から生じたものでありますから、
経営者の
責任に帰することは明らかであります。
今この双方の伸び率を見ますと、経常費の伸びが九・二二倍であるのに対し、資本コストの伸びは実に十七・〇三倍にもなっているわけであります。とりわけ、御承知の支払い利息は三十八年度の二百五十二億円から六十年度の一兆二千百九十九億円へ実に四十八・四一倍にも増加しております。他方、経常費の中の人件費が問題になりますが、
特定人件費を含めても、これは三十八年に比べて十・〇四倍にしかなっておりません。このうち臨時例外的な人件費であります
特定人件費を除いた人件費の増加率は五・一六倍と、営業収入の増加率を下回っているわけであります。
このような比率を申し上げると、伸び率などというのは当てにならないんじゃないかと。例えば、基準になった年の金額が小さければ倍率は高くなると、こういう
考え方もあるわけでありますから、そこで六十年度の営業収入を一〇〇として、これを私鉄大手十四社と比較してみました。すると、まず先ほど申し上げました支払い利息の営業収益比はどうなっているかといいますと、
国鉄は実に三四・三五%であります。つまり営業収益に対する三分の一以上が経費としていわば落とされてしまう、こういうことでありますが、これに対して私鉄は一五・一八%でありますから、利子の支払いは半分以下にすぎません。半分以下であります。それから減価償却費は、これは
国鉄が一六・五八%であるのに対して、私鉄は九・三九%でありますから、減価償却負担も
国鉄は極めて多いわけであります。御承知の、
国鉄は人が多くて人件費がかかり過ぎると言われておりますが、一般人件費の対営業収入比率は
国鉄が三三・三四%であるのに対して大手私鉄は三五%と、
国鉄よりも高くなっているわけであります。決して
国鉄の
経営上の人件費が高いということはないわけであります。
以上から、
国鉄の
経営を圧迫した
要因は明らかにこの資本費にあり、借金による設備投資による利子負担と償却負担にあることは明々白々たるものでありますし、その
責任が
政府、
国鉄当局にあることもまた明々白々たるものであります。しかも問題は、この償却前
赤字となったのが
昭和四十六年であります。償却前
赤字になったというときには何らかの
経営的な対策がとられなければいけませんけれども、それ以後むしろ急激に設備投資額が増加していくわけであります。これは
経営の通念に反するいわば非常識な
経営が行われたと言わざるを得ないわけであります。実際に私が今申し上げた
赤字になりました
昭和三十九年以後六十年までの
国鉄投資を累計しますと十三・七兆円にも達しており、ピーク時である五十三年度から五十六年度ですね、このときはまた
赤字も非常にふえている時期でありますけれども、この時期に
国鉄のみで毎年一兆円の投資が行われておりますし、鉄建公団を含めれば一兆五千億という巨額な投資が五十三年から五十四年という二年度には実施されているわけであります。御承知のとおり、このことにつきまして
経営改善計画では、このようないわば資本費、特に支払い利息あるいは
特定人件費を除いて計算をしますと一般営業損益では大幅な黒字になっているということを明らかにしていることは十分御承知のとおりだと
思います。
さて、ではこのように明らかに
経営の一般的な営業損益は黒字基調になっておる、こういう
状況の中で、いわば資本費負担で
赤字になっていることを
理由にしてなぜ
分割・
民営化しなければならないのか、それはどういう
理由だろうか、これを考えてみました。私にはそれは
三つあると、こういうふうに考えられます。その
一つは、これは
国鉄を
分割しまして、新
会社を収益主義的につくり上げて、そして速やかに一割配当できる
会社にして株式公開で膨大な資本利得、プレミアムを稼ぐようにしたい、こういう
政府の要請があると、これを考えるわけであります。第二は、
分割・
民営化によって財界に巨額の利益の取得の
機会を与える、このことであります。第三は、
国鉄に働く革新的で階級的な
労働者に対して思想の転向を迫って、あるいはこの人たちを新
会社から追い出そうとしていることであります。この
三つの点につきまして多少申し述べたいわけであります。
第一の一割配当を速やかに可能にするような
会社をつくるということで、
政府は次の手順を考えているようであります。
第一に、鉄建公団を含めた長期債務総額のうち約三分の一のみを新
会社に負担させて残りを
清算事業団に移しかえてしまう、これが
一つ。特にその際、三島の旅客鉄道
会社に対しては退職給与引当金以外の長期債務をゼロにします。そして、先ほど申し上げたようなことで資本準備金なるものを膨大にして、資本金を限りなく小さくしているわけであります。さらにその上、御承知のとおり三島に対しては一兆一千何百億円というような基金をつくり、そこからの利息を与える、こういう方策をとっております。さらに、資産は原則として帳簿価格でこれを
分割をし、膨大な含み資産を保持させることにしました。その上、御承知のとおりほぼ三人に一人というような
国鉄労働者の
削減を行い人件費の圧縮を図るわけであります。
以上のようなことを行いながら、
分割をした後は収益重視の
立場から運賃の値上げ、ローカル線の撤去、関連事業の拡大、土地売却による利益を得ると、こういうことによってこの一割配当を可能にするいわば
会社をつくり上げて株式を公開し、そしてそこから膨大な資本利得を得ようと、こう考えていることは間違いないわけであります。
第二番目に、
分割・
民営化によって財界に巨額の利益取得の
機会を与えようとしている点であります。
御承知のとおり、
日本経済は第一次、第二次石油ショックを経まして低成長期に入っておりますし、まして昨年からは、御承知のとおり五カ国蔵相あるいは国立銀行
会議が開かれまして、円高基調に入って
経済界が不況に悩んでいるということは事実であります。したがって、この際財界は内需を拡大し大
企業中心に多くのもうけの
機会をつくり出さなければならないと考えているわけであります。
国鉄分割・
民営化はこうした
状況のもとで財界に大きな利益を与えることになります。
この点についてまず第一に、皆さん御承知のとおりでありますけれども、
国鉄の所有する土地については
三つの点で膨大な利益を保証するわけであります。第一に、このいわば五・八兆円というようなものを売却する、こういう中には大都市周辺の非事業用地が多数含まれておりまして、これを買い受けることによって大もうけをするということであります。第二番目に、
民営化した鉄道の駅をこれを駅ビル化する、あるいは路線の上空を利用すると、こういうようなことから事業を拡大するわけであります。さらに第三番目には、今のところはっきりしませんけれども、三年経過後ということが言われておりますが、の非採算路線を撤去してそしてその跡地を利用すると、こんなような形で、
三つの形態で
国鉄の非事業用地あるいはローカル線を撤去した用地を利用できるわけであります。
次に、財界はこうした
会社の役員の人事を占めることによりまして機材の購入、土地の売却、関連事業の開発などで大きな利権を得ることができるわけでありまして、先ごろ私はNTTの有価証券報告書を見ましたら、そこには、石川島播磨重工の社長でありました真藤氏が社長になっていることは御承知のとおりでありますが、同時にまた、臨調
委員でもあった瀬島龍三氏や日経連会長の大槻文平氏が取締役、相談役で入っております。こういうことが行われてはならないと私は考えているわけであります。
第三番目の問題でありますが、これは
国鉄労働者に対する思想転向の強制と人減らしの点でぜひ申し上げたいわけでありますが、それは、現在それが行われる
根拠は余剰
人員だ、余剰
人員があるのだということでありますが、私が
経済学的に考えた場合に、この余剰
人員というのは絶対的余剰
人員ではございませんで、これはもうけるための余剰
人員であります。つまり、もうけるための
人員削減であり、それから
国労、全
動労の革新的な
労働者をつぶすための人減らしであると、こう考えざるを得ないわけであります。
御承知の
国鉄監理
委員会の答申によれば、
国鉄職員はこれは二十一万五千人まで減らされて六万一千人が余剰
人員とされております。このうちで、御承知の北海道では一万三千人も減らされます。
削減率は実に四六・四三%であります。九州が四〇・七四%というような形で、半分ぐらいの
人員が減らされるわけでありまして、これで例えば北海道、九州では
国鉄が本当に動くだろうかということが大変問題になっております。それから御承知の東京周辺でも、ホーム要員が二人のうち一人が
削減されるとか、あるいは夜の八時以後はせっかくこれまであいておりました改札口が閉ざされるというような
合理化が行われております。これは乗客の安全や利便が軽視されている証拠であります。飯田橋では御承知のようにホームが大きく湾曲をしておりまして、しかも島状になりまして壁がありません。非常に危険なホームであります。この危険な飯田橋でさえ二人のホーム要員が一人に減らされておりまして、このことについて乗客から訴えがなされているのが現状であります。
以上から見ても、この余剰
人員というのが収益主義的余剰
人員であることは明らかでありますし、それから御承知の余剰
人員が
国労、全
動労をつぶすためのものである。これは人活センターというのをつくってそこに活動家を集めている、こういうようなことからもおわかりのとおりであります。
結論を申し上げたいわけでありますが、このような中で私は全国一元の鉄道をどうしても守っていきたい、そう思うわけであります。私は最近、六十二年度の運輸省国有鉄道部の概算要求を見ましたら、これで概算要求は五兆百二十四億円にも達しているというのを見てびっくりしました。そうして、特に
清算事業団では二兆八千三百三億円のうち収益的収入は、つまり後で払わなくてもいい収入は五千九百六十九億円、六千億円しかなく約二兆二千億円の資金が必要である。今のところ、これに対して一兆七百四十一億円のみが決められて、残りの一兆二千億は資金手当てがついてない、こういう
状況であります。これはひとり
清算事業団だけではありませんで、それ以外のところでも意外に金を食います。しかも、金を食うのが国有鉄道が金を食うのではなく、
民営化される中で金を食う。何のために金を食うのか、捨て金ではないか、こういうような新聞での報道もなされているのは御承知のとおりであります。このようないわばむだに金を使うのではなく、ぜひ私は、今一般営業損益では黒字基調になっているわけでありますから、何とか全国一元の国有鉄道を守る中で
国鉄の再生をする、それは十分可能な時期に来ているので適切な
措置をとっていただきたい、このことを心から
お願いするわけであります。
最後に申しておきたいことがあるわけであります。
御承知のとおり、
国鉄には二十七万人の
職員がおりまして、彼らは極めてすぐれた技能を持った運転手であり補修工でありあるいは営業の人たちでありまして、彼らは一刻もおくれることなく列車を運行させているわけであります。また、新幹線とか通信等におけるすばらしい技術もあるわけでありますし、それから御承知のとおり、
国鉄の保有するいわば含み資産は巨大なものでありまして、これは
政府答弁でも数年前七十兆円と言われておりましたし、現在は二百兆を超すだろう、こう言われております。これらはすべて
国民の蓄積した大きな財産であります。
これら、つまりすぐれた人材、すぐれた技術、そして膨大な財産が今
分割・
民営化の危機にさらされているわけでありまして、私はこのことをどうしても見過ごすことはできないわけであります。私にとって
国鉄はトータルな意味では、決してそこの人材あるいはそこの技術あるいはそこの膨大な財産だけではありません、それ以上のものであります。つまり、これは百十五年という長い伝統の中でつくられた財産でありまして、この財産は決して物ではありません。そこに含まれている人間の
生活様式、つまり文化であります。この文化を今解体するというのは非常に残念でありまして、つまり
日本は文化国家だ、こう言われている時期にあえてなぜ我々のひいおじいさん、おじいさん、我々に長く継承されて、それを愛しそれを育ててきた
国鉄を
分割しなければならないのか、この点についていわゆる文化国家を標模する
日本の政党の皆さんにぜひ反省を求め、この全国一元の
国鉄を守っていただくことを願って、私の公述にさせていただきます。
以上であります。