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1986-11-14 第107回国会 参議院 日本国有鉄道改革に関する特別委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年十一月十四日(金曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  十一月十三日     辞任         補欠選任      木宮 和彦君     鈴木 貞敏君      宮崎 秀樹君     山崎 竜男君  十一月十四日     辞任         補欠選任      野末 陳平君     秋山  肇君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         山内 一郎君     理 事                 伊江 朝雄君                 浦田  勝君                 江島  淳君                 亀長 友義君                 赤桐  操君                 安恒 良一君                 矢原 秀男君     委 員                 大島 友治君                 梶原  清君                 倉田 寛之君                 坂元 親男君                 鈴木 貞敏君                 田代由紀男君                 野沢 太三君                 真鍋 賢二君                 増岡 康治君                 森田 重郎君                 山崎 竜男君                 吉川 芳男君                 吉村 眞事君                 青木 薪次君                 穐山  篤君                 田渕 勲二君                 渡辺 四郎君                 鶴岡  洋君                 中野  明君                 三木 忠雄君                 市川 正一君                 内藤  功君                 田渕 哲也君                 柳澤 錬造君                 秋山  肇君    政府委員        運輸大臣官房長  服部 経治君        運輸大臣官房審        議官       井山 嗣夫君        運輸大臣官房国        有鉄道部長    丹羽  晟君    事務局側        常任委員会専門        員        多田  稔君    公述人        明治大学教授   吉田 忠雄君        早稲田大学教授  中山 和久君        慶應義塾大学教        授        藤井弥太郎君        明治大学教授   山口  孝君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○日本国有鉄道改革法案内閣提出衆議院送付) ○旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律案内閣提出衆議院送付) ○新幹線鉄道保有機構法案内閣提出衆議院送付) ○日本国有鉄道清算事業団法案内閣提出衆議院送付) ○日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進に関する特別措置法案内閣提出衆議院送付) ○鉄道事業法案内閣提出衆議院送付) ○日本国有鉄道改革法等施行法案内閣提出衆議院送付) ○地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付) ○日本鉄道株式会社法案村沢牧君外五名発議) ○日本国有鉄道解散及び特定長期債務処理に関する法律案村沢牧君外五名発議) ○日本鉄道株式会社退職希望職員等雇用対策特別措置法案村沢牧君外五名発議)     ─────────────
  2. 山内一郎

    委員長山内一郎君) ただいまから日本国有鉄道改革に関する特別委員会公聴会を開会いたします。  日本国有鉄道改革法案旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律案新幹線鉄道保有機構法案日本国有鉄道清算事業団法案日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進に関する特別措置法案鉄道事業法案日本国有鉄道改革法等施行法案地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律案並びに日本鉄道株式会社法案日本国有鉄道解散及び特定長期債務処理に関する法律案及び日本鉄道株式会社退職希望職員等雇用対策特別措置法案の各案を一括して議題といたします。  本日は、各案につきまして、お手元の名簿の四名の公述人の方から御意見を拝聴いたします。  一言ごあいさつを申し上げたいと思います。  吉田公述人中山公述人におかれましては、御多用中にもかかわりませず、本委員会のために御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会代表いたしまして心から厚く御礼を申し上げます。  本日は、忌憚のない御意見を賜りまして、今後の審査の参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いを申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度の御意見を順次お述べいただきまして、その後で委員の質疑にお答えをいただきたいと存じます。  それでは、順次御意見を賜りたいと存じます。  まず、吉田公述人お願いを申し上げます。
  3. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 国鉄問題はここ一年間で大きくさま変わりしたと思うのであります。私、昨年の四月十六日に本参議院運輸委員会参考人として意見を申し上げる機会を与えられたのであります。そのときから今日に至るまで、国鉄問題は国民の多くの支持を得まして、分割民営化方向に大きく前進してきたということを強く感じてまいりました。それに加えまして、国鉄人もこの民営化を前に、意欲的に国鉄内部がかなり活性化しているということを至るところで感じてまいりました。そうした中で、この国鉄分割民営化につきまして、国会で慎重に審議され、そして来年の四月の発足に当たりまして、順調に、そして健やかに国鉄が蘇生することを願っているものであります。  さて、私自身は、社会科学を長年研究してまいりまして、常に胸に刻んでまいりましたものは、イギリスのエコノミストでありますアルフレッド・マーシャルが、社会科学を学ぶ者として冷静な頭脳と温かなハートということを教えてくれたのであります。この国鉄問題という日本の根幹にかかわる大きな問題を見る場合でも、冷静な頭脳と温かなハートが必要だと信じております。特に、この冷静な頭脳という点では、合理的な物の見方考え方、まずこれを行い、そして具体的な政策を進めるに当たって温かなハートで臨んでいただきたいということであります。  ところが、国鉄問題を私は見てまいりまして、合理的な物の見方考え方が随分損なわれた歴史が続いてきたと思うのであります。昭和三十九年に国鉄赤字に転落いたしました後のことから取り上げてまいりたいと思うのであります。  昭和四十七年十月二十五日、国鉄労働組合中央執行委員長中川新一さんは次のような合理化反対指令を下しているのであります。「先に当局側から提案してきている昭和四十七年度合理化事案二十一項目については大会決定の反合方針にもとづき、九月反合闘争を通じて先送りさせてきた」「当局は強硬な態度をとりつつあるので、本部はこれに対して引き延ばしをはかりこの合理化事案を実質的につぶすべく努力中である」、このように指令を出しまして、具体的なものといたしましては「各地方本部はそれぞれの工場支部に対し、業務切り捨て順法闘争とくに最近工作労働者自発性にもとづく減産闘争」、生産性を上げる、それを減らすという「減産闘争等に積極的にとりくみ、持続的な職場闘争を発展させること。」という指令を出しているのであります。大変私は悲しい指令であったと思うのであります。合理的なものを進めていってほしい、その時代的な背景の中で、合理的なものに正面から反対するこの指令を私は悲しい思いで見詰めてまいりました。  その後、多くの方々から私のところにいろいろな御希望なり御意見が寄せられたのであります。その一つは、昭和四十九年十二月二十一日に国鉄ダイヤ混乱防止利用者会議というところからの要望であります。こんな公文書をいただきました。「経済生活の大動脈ともいえる日本国有鉄道列車ダイヤ混乱を重ねることは、物資供給を著しく阻害するだけではなく、社会的、経済的にも不安を増大させる要因となり、国民全体の損失であろうと考えられます。」、そして「国労動労はじめ国鉄当局及び関係機関責任において「列車ダイヤ混乱を回避」し、経済・社会不安を解消されるよう要望致します。」、これが昭和四十九年に出されたのであります。このときに、もしも貨物輸送その他の点で荷主の要望を先取りいたしましたならば、今日の国鉄の衰退はなかったかと思うのであります。  私たち国鉄に関心を持っている、外部人々だけでありますが、そうした中で国鉄国民会議というものを結成いたしました。私も発起人の一人であり、宣言の草案を書いた一人として次のように書きました。「現在の国鉄は荒廃の中にある。その真因は、一方において積年にわたる政治的・経営的・財政的破綻に求めることができると同時に、労使双方自主性のなさ、職場秩序の破壊、暴力の横行、勤労意欲の喪失など、内部要因も見のがすことはできない。」、このような宣言昭和五十年三月四日に出したのであります。この前後、我が家にいろいろな抗議文抗議電報が参りました。電話もありますが、これは出所がよくわかりませんので、証拠のあるものだけを本日持ってまいったのであります。その中で一つだけ御紹介申し上げたいと思います。消印は水戸からで、一九七五年一月三日になっております。国鉄労働組合水戸信号通信区分会から「貴殿が世話人として設立を準備している新しい国鉄をめざす国鉄国民会議」、これは「大企業奉仕国民無視当局責任現業労働者に転嫁することは絶対に許せない。もし我々の抗議を無視し発会式を強行するような場合は、われわれは重大な決意をもって対処する。」、こんなふうに手紙をいただきました。私の家に来た手紙の一部分でございます。  私たち決起集会のときに、国労動労代表の方がいらっしゃって、私がその抗議文を受け取ったのであります。そして、こうした「国鉄の今日の窮状は、政府公共性を無視した国鉄経営政策の矛盾に起因するものであって、その根本を正すことなくして、あたかもその原因が労働組合のあり方と、職員社会的責任欠除のもとでの怠惰にあるとする批判を受することはできない。」、多分、甘受することはできないという印刷ミスではないかと思いますが、そのような抗議文を私がいただきました。間もなく、国鉄新聞の中でこんなふうに出ているのであります。この結成総会では、世話人に名を連ねていた五人——名前は出ておりますが、ここでは省きたいと思います。五人は「国労動労のするどい抗議電報抗議ハガキなどにより、理事からはずれたが、政府当局が意図してつくったことは明らかである。」、このような記述がなされているのであります。  私は責任者の一人として申し上げますが、政府当局から依頼されたことは全くございません。多くの国民代表の方、いろいろな組織方々から要望を受けたということでありますが、ただここで書いておる「するどい抗議電報抗議ハガキ」、これは事実であります。そして、代表者がやめていったことも事実であります。  こうした悲しい過去の合理的な発想に対する悲劇的な歴史を振り返ってみまして、ここ一年間、本当に国鉄問題よくぞここまで来たという実感を強く持つものであります。外部からの要望批判をほとんど受け付けず、国鉄内部労使双方が互いに足を引っ張り合うかのような形で国鉄は今日の惨たんたる状況をたどっていったと思うのであります。そして、巨額な赤字国民に負担させたまま公共性を口にして、それを免罪符としていたようであります。しかし私は、この年間二兆円前後の巨額のものが毎年国鉄に投資された、このことにつきまして、もしもその巨額なものを勤労者の住宅や、生活が苦しい方々に対する社会保障その他の手厚く報いる方向で使っていただくことがはるかに公共性に貢献するものだと思うのであります。その点でも国鉄ができる限り自力で歩む方向合理化を進めていただきたいと思いますし、今回ここで審議されているものも、国鉄が蘇生する最後の、しかも最善の方策であろうと思うのであります。  御承知のとおり、日本民間企業は世界のトップを進んでおります。同じ日本人でありながら、民間企業ではトップへ行き、そして国鉄の場合には国民の大きな負担になっているこの状況をどのようにしたら国鉄は蘇生できるのか、このことに思いをいたしますと、私は民間企業がこれまで成長した要因というものは三つあると考えているものであります。第一は経営者のすぐれた決断でありました。第二は労働者の汗の結晶でありました。第三は信頼関係のある労使であります。この三つが結ばれたところの産業分野企業は大きく飛躍していると思うのであります。そして、いずれもこれらは下からの協力によってでき上がっているのであります。そして、機能的に見ますと、私は次の三つのものを実施してきたならば組織は活性化し、蘇生するということを観察してまいりました。  一つは、提案制度であります。下から盛り上がる創意工夫その他、提案制度を大々的に取り上げる。例えば、私が調べましたところでは、トヨタ自動車の提案制度年間およそ二百万件を数えるのであります。そして、採用率は九〇%以上ということであります。  第二は、多能職化であります。一人の人間が幾つかの仕事をこなしていく。忙しいとき他から援助を求める、そして暇なときには忙しいところにお手伝いに行く。従来、国鉄の場合には縦割りでありました。可能な限り横割りにしていく。そして、いろいろな職業訓練をなすことであります。  第三は、適材適所ということであります。本人の能力を発揮するためにも、社会的な役割を果たすためにも、適材適所、これには転勤ということ、例えば広域異動ということも含まれるものであります。この三つを行ったならば、私は国鉄は蘇生すると思うのであります。  その具体的な案は、今回政府が出しておりますもので、私は若干の異論がないではありませんが、基本的には賛成であります。そして、この私が今申し上げました三つの具体的なものを実施するためには分割民営化が最も適切だということであります。もしこの分割民営化軌道に乗せました場合には、提案制度も吸収できます。人事労務管理十分実情を考えて行うことができ、特に多能職方向を打ち出すことができるのであります。そして、働く人々にとって、自分の汗した結果を目の当たりにすることもできるのであります。  このように考えまして、いろいろな具体的な解決案が今俎上に上っているわけでありますが、新しく出発しようとするこの国鉄につきまして、この本委員会でもあるいは参議院でもぜひこの案を成立させ、国鉄人が冷静な頭脳と温かなハートで働いていけるようぜひ御協力いただきたい。そして、私自身はこの案につきまして、分割民営化について、若干の部分について意見がないわけではありませんが、そのことはむしろ軌道に乗った段階で若干の軌道修正はあるかと思いますが、基本的にこの案に賛成だということを申し上げたいと思うものであります。  終わります。
  4. 山内一郎

    委員長山内一郎君) ありがとうございました。  次に、中山公述人お願いを申し上げます。
  5. 中山和久

    公述人中山和久君) 御紹介いただきました中山でございます。  私は、国鉄分割民営化法案反対立場から意見を述べさせていただきます。  私がこの分割民営化法案反対いたします理由はいろいろございます。  まず、赤字根拠について、これが一番問題の中心だというふうに考えておりますが、その赤字になった根拠公社形態であり、あるいは労使関係にあるということが唯一最大理由であるとは到底私には考えられないからであります。それからさらに、国民交通権を確保するという考え方前提にいたしましても、今回の分割民営化法案には反対せざるを得ないというふうに考えております。しかし、本日私が公述人として出席させていただきましたのは、むしろ労働法を専攻している者としての意見を述べる機会を与えていただいたと考えますので、労働法立場から、それも二つの問題に絞って私の意見を申し述べさせていただきたいと思います。  国鉄改革法案の第一条が規定しておりますように、国鉄経営破綻しているということであるならば、それに伴って何らかの企業整備が不可欠であるというのは当然ということになりましょう。ただ、果たして国鉄経営が真に破綻していると言えるかどうかという点については議論がありますし、私も必ずしも破綻しているとは言えないというふうに考えておりますが、一応破綻しているということを前提にして考えてまいりますと、破綻した企業の再建のためには、従業員雇用労働条件に大変化を生ずるのはこれは避けがたいことであると考えます。民間企業においても、企業整備が相次ぎ、労働条件切り下げ解雇などによる人員削減が毎日のように報道されている今日ですから、したがって国鉄においても、破綻に瀕しているならば何らかの企業整備労働条件切り下げ人員削減をもたらすということ自体は、労働法から見て直ちに違法という理由はないと言わなければなりません。  しかし、改革法案による労働条件切り下げ人員削減などには、労働法の観点から申しまして、どうしても反対と言わざるを得ない違法な措置が含まれていると考えております。  その点を二つに分けてお話をしたいと思いますが、第一は労働条件切り下げあるいは変更の問題、それから第二は雇用変動の問題ということになります。  まず第一の労働条件切り下げあるいは変更の問題についてですが、改革法案によりますと承継法人、新会社というように呼ばしていただきますが、新会社職員労働条件設立委員国鉄を通じて国鉄職員に対して提示するということになっております。この場合、提示される労働条件が現在の労働条件と同等であるか、あるいはそれよりもすぐれたものであるという場合であれば格別問題にすべきことはないということになりますけれども、恐らくは現在の労働条件を下回るものが提示されると考えなければならないと思います。  確かに、設立委員の側が提示する労働条件は、労働者募集に当たって労働基準法の第十五条が要求しております労働条件の明示という要件に従って提示されることになりましょう。その場合に設立委員がどういう労働条件を定めるかは、新会社の将来を考えて適切と考える条件を設定し提示するという側面があることはこれは疑いのない事実だと思います。しかし、そのことは設立委員の側の側面の問題であって、同時にその事実のもう一つ側面は、国鉄職員の現在の労働条件変更される、とりわけ切り下げられるという事実であるわけです。この場合、一つの行為が二つ側面を持っていますから、したがって設立委員募集するに当たって、労働条件を設定する自由という側面だけを強調して、労働者の側にとっては労働条件の重大な変化を生ずるという側面を無視することは、これは労働法の側から言って許されないことであると言わざるを得ません。  そして、労働条件の一方的な変更、とりわけ切り下げについては最高裁判所判例があります。就業規則変更に関するものですけれども、秋北バス事件最高裁判所法廷判決は、労働条件の一方的な切り下げは原則として許されないということを判決文の中で明示しているわけであります。したがって、労働条件変更が不可避的なものである場合には、少なくとも労働者の集団的な意思を問うこと、つまり団体交渉を尽くすということが、労働条件の一方的変更が適法であり有効であるための、とりわけ労働条件切り下げが適法であり有効であるための前提条件であると言うことができるわけです。  ところが、この改革法案等をめぐる衆議院段階での政府の御答弁を拝見しておりますと、設立委員はいまだ職員との間に労働関係が成立していない、したがって団体交渉余地は全く存在しないという見解を採用しておられる。したがって、さきにお話しいたしました、設立委員の側が労働条件を自由に設定し提示するという一つ側面だけしかとらえていないと言わざるを得ないわけです。しかし、設立委員が受け入れますのは現在の国鉄職員であって、その将来の使用者設立委員がなることはこれは疑いのない事実であります。したがって設立委員は、現在の国鉄職員の将来の使用者として団体交渉に応じなければならない立場にあるということは、労働法上は明らかであるというふうに考えます。  確かに、会社を新たに設立するという場合に、不特定労働者対象として募集するというのであれば、不特定労働者対象とする団体交渉は不可能であるということは言えないわけではないと思います。しかし、今回の国鉄改革法案で行われる承継法人の場合は、こうした不特定労働者に対する募集とは決定的に異なっているというところが問題だと思うわけです。なぜなら、職員の側にとってみますと、現在の国鉄職員組織しております労働組合のほとんどすべてが、新会社にやがて採用されることになる職員組合員としているわけです。したがって、それらの組合員のために、現在の国鉄労働組合が、将来の使用者であるあるいは採用先である設立委員を相手方とする団体交渉当事者適格を有するということは疑問の余地がないと言っていいと思うからであります。もしそうでないとするならば、移籍される国鉄職員団体交渉権は来年の四月一日まで行使することのできない権利であるということになってしまいます。そういった法律の解釈、運用は基本権である団体交渉権を侵害するものであるというほかはないと考えるのであります。  他方、清算事業団に移行する国鉄職員について見ますと、これは現在の労働条件がそのまま維持されるということになります。もし、清算事業団の中での労働内容が異なることを理由にして労働条件切り下げる必要があるのであれば、それは団体交渉によらなければならないのであって、一方的に八〇%に切り下げるなどということが許されるわけでないことは最高裁判例の示すとおりであります。国鉄は全力を挙げて職員団体団体交渉を尽くさなければならない義務が依然として存在します。仮に国鉄破綻しているということを口実にしてもこの義務を免れることはできないわけであります。  こうして、労働条件切り下げあるいは変動につきましては、新会社に移籍する職員についても、清算事業団に移行する職員についても団体交渉を尽くさなければならず、改革法案の審議が団体交渉権を無視する見解のもとに進められているということは、労働法から見て職員労働基本権を侵害する違法な内容を持つものであると言わざるを得ないと考えます。  それから第二の問題であります雇用変動にかかわって申し上げたいのですが、現在の国鉄職員は一人残らず現在の国鉄を離れて新会社かあるいは清算事業団に移籍または移行することになります。直接、直ちに解雇されることはないとは言っても、こうして振り分けを受けるということ自体は、労働条件上あるいは雇用上の大変革であるということは疑いないわけです。念のためにつけ加えますと、解雇労働条件上の大変動一つであることは言うまでもありません。国鉄職員のそれぞれについて行われる新会社あるいは清算事業団選別は、こうした労働条件の大変動を伴う選別でありますから、したがってそれなりに十分慎重な手続を経なければならないと言うことができます。  労働法の領域でこれまで経験してまいりました最も徹底した労働条件変動を伴う選別は、いわゆる企業整理に伴う整理解雇があります。この場合、整理解雇による労働者労働権との調整を図るために、四つあるいは五つの前提条件を満たさなければ整理解雇は有効でないということが学説上主張されてまいりました。例えば、一つには、人員整理のための選別の基準を立てるに当たってはその基準は明確であり客観的でなければならない。そして二つ目には、その基準を具体的に個々の職員に当てはめるに当たっても客観的で公正でなければならない。それから三つ目に、このすべての過程において団体交渉を尽くすということが整理解雇が有効であるための条件として主張されてまいりました。そして、大部分の裁判例においてもこうした条件が承認されてまいりました。国鉄改革に伴う職員の振り分けは整理解雇そのものではありません。しかし、労働条件の相当な変化を伴うということを考えれば、整理解雇について要求される前提条件に近いようなものが要求されると考えなければならないと思います。  ところが、改革法案によりますと、新会社の採用基準は設立委員国鉄を通じてその職員に提示するということとなっております。この採用基準の客観性、公平性、適法性を担保するのは結局設立委員の善意と良識以外にはないという構造をとっているわけです。そして、設立委員が四月一日までは団体交渉の相手方とならないという衆議院段階での政府見解があることは労働条件切り下げの点で申し上げたとおりですから、したがって団体交渉を尽くして採用基準の客観性、公平性を担保する方法は存在しないと言わざるを得ないわけです。  そして、衆議院段階での運輸大臣の御答弁によりますと、採用基準の中には年齢、健康、適性が問われるということになっております。確かに年齢や健康はまさに客観的な基準ということになりましょうし、また適性についても客観的なものにする方法は十分にあると言うことができると思います。しかし、国鉄総裁の御答弁によりますと、現在の国鉄当局が作成しております職員管理調書を活用するということが答弁されております。この現在の国鉄当局が作成した管理調書を基準にするということは、労働法の側から申しますと、客観性、公平性を担保し得ないものと言わざるを得ません。というのは、職員管理調書の立案も作成も団体交渉を経たものではありませんし、また職員管理調書における評点はあくまでも使用者側の評価にすぎない、使用者側の内部資料にすぎないものであるからであります。したがって、職員管理調書を採用基準の中に組み入れるということ自体が、採用基準に要求される客観性、公平性を損なうものであると言わざるを得ないわけです。したがって、この第二の問題、つまり職員選別の問題につきましても団体交渉権を無視する構造になっていて、労働法の視点からは違法なものと言わざるを得ないと考えております。  労働法は、労働者の自由な意思を尊重するということを基本原則としております。労働者一人一人では自由にその意思を表明することができないので、労働者団体、つまり労働組合を結成し、労働組合代表を通じて初めて使用者と対等な立場で意思を述べ、使用者と交渉することができるのであって、労働組合の結成、団体交渉促進ということは労働組合法の立法目的であると労働組合法第一条自身が規定をしております。現在の国鉄の改革問題のように、労働者労働条件雇用とが引き下げられ不安定になるこの時点において、この原則は最も尊重されなければならない原則であるというふうに考えております。  以上の理由から、私は国鉄改革法案団体交渉権無視の構造について反対であるという意見を申し述べさせていただきました。
  6. 山内一郎

    委員長山内一郎君) ありがとうございました。  以上で公述人各位の御意見の陳述は終わりました。  これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言をお願い申し上げます。
  7. 安恒良一

    ○安恒良一君 本日は大変お忙しいところを吉田先生、中山先生に御公述いただきまして、ありがとうございました。  私の持ち時間が三十四分、これも往復でございますので、一人の先生に大体私十七分ずつぐらい、これは私がしゃべりますことを含めてでございますから、よろしくお願いをしたいと思います。  まず私、中山先生に少しお伺いしたいのですが、労組法、労働法の専門的な立場からいろいろ御開陳がございまして、分割・民営には反対だという立場の上で御開陳があったんですが、また先生が最近お書きになりました二、三の論文も読まさしていただいています。そういう上で次のようなことを御質問したいと思います。  まず、私ども、今審議している案では新会社に行く者と清算事業団に行く者に振り分けられる。雇用労働条件について、労働組合の交渉の相手としては、そういう場合に私はやはり国鉄当局設立委員会が考えられると思いますが、問題は、三月三十一日まで公労法、四月一日から労組法と、こういう大変難しい状況になる。そこで、公労法下の交渉と労働組合法下の交渉が同時に行われるということになるのかどうか。その際の第三者機関は先生御承知のように公労委か中労委かという問題がございますね。この点についてと、それから公労法下の団交と労働組合法下の団交との相関関係、相違点についてひとつ先生のお考えを聞かしていただきたい。  第二番目には、先生も今触れられましたが、清算事業団に行く者は雇用が継承される、解雇でない、こういう政府の答弁が我々の審議の中であるんですが、他企業へ転職されることを前提にしてそれまでの仕事から外す、すなわち職業訓練をやると、こう言っているわけです。ですから、私は結果的には解雇ではないか。解雇であるとするならば、現在の使用者である国鉄の法的責任はどうなるのか。それから整理解雇における使用者責任国鉄の責務についてひとつ御意見を伺いたい。  それから第三番目には、これは去年からことしへかけての出来事でありますが、協約締結の条件としてまず分割・民営を認めろと、これに賛成することを持ち出しています。国鉄の改革に賛成することを団体交渉を展開するための条件としている。このことが法的に許されるのかどうか。もちろん私ども社会党は党の方針を持っておりまして、民営的な手法はとらなきゃならぬ、分割には反対と、こういう方針は持っています。しかしそのこととは別に、当局側がこういうことを持ち出しておりますので、先生の専門的な立場からひとつお教えを願いたいと思います。  それから吉田先生には二つのことをお伺いをしたいのでありますが、吉田先生の御意見を聞いておりますと、今日国鉄がこんなに行き詰まった最大の原因が、まあ最大というお言葉はお使いになりませんでしたが、どうも御主張は、いろいろまたこれも先生の公述なり論文なりを読まさしていただきますと、労使関係にあるんだと。それからいま一つは、いわゆる縦割りにあるんだと、こういう御主張のように聞き取れますが、果たしてそういうことなんだろうか。例えば私、例を挙げますと、初めから不採算とわかっている路線を次から次に国鉄当局の意思を無視してつくらした政府・自民党ですね。また住民側からも、不採算とわかっておってもここには鉄道を敷いてもらいたいという住民のニーズがあって、それに従ってたくさんの線路をつくってきていますね、特に鉄建公団が誕生してから。そういうものをすべて国鉄の負債ということでやらしている。ここに僕は一番大きい原因が一つありはしないか。この点を先生が全然お触れにならなかったのは、冷静な頭脳、温かいハートと先生まずはおっしゃいましたんですが、本当にそういうことになるんだろうかなという感じが私はいたします。この点について、国鉄赤字の最大の原因の中にその点がなかったのかどうか、この点についてお聞かせを願いたい。  それから第二番目に、トヨタ自動車なり民間の労使関係のあり方を言われた。私も民間出身なんですね。そうすると、今度のような場合、民間はどんなやり方をするだろうといいますと、いわゆる倒産会社ではないと言っているわけですね、事業を継承するという。事業を継承しますと、新しい経営者はまず事業を継承をされた後、当該の労働組合との間に、事業を継承したが今の人員ではやっていけない、だからひとつこれだけ人を減らしてくれないかと、こういう交渉を持ち出すわけです。そこで労使が交渉して、なるほどと、新事業会社は今までと違ってこれじゃやっていけないから、じゃ希望退職をどうしようかとか、こういう労使が十分話し合いをしてやる、そのことが新しい事業会社が非常にうまくいくことだと思う。私は民間で長い間そういう経験をしてきました。今回の場合は全然それがないわけですね。それで先生がおっしゃるように本当に国民希望する国鉄に再生できるんだろうか。やはりこの事業を継承したら継承した方が団体交渉を持って、どうしても人員が多過ぎるならこれだけはひとつやめてもらえないかと合理化提案をし、そのかわり再就職については保障する、こういう普通きちっとしたやり方をして、勤労意欲を持って行き詰まった会社を発展させるという事例は民間ではたくさんあるわけですね。そういう点についてのどうも先生のお考えがはっきりいたしませんのでお伺いをしたい。  以上です。
  8. 中山和久

    公述人中山和久君) ただいまの御質問三点ございましたが、そのうちのまず第一番目からお答えをさせていただきたいと思います。  つまり、この分割民営化法案が実行に移されるという過程で、団体交渉法律上どのような関係に立つのかという点が御質問の中心だと思います。  言うまでもなく、現在の国鉄職員は公労法、公共企業体等労働関係法の適用のもとにあります。公労法は労働組合法の特別法という形式をとっておりますから、したがって公労法上の特別の制度が現在の国鉄職員及びその団体に対しては適用になっているということになります。その公労法は何を中心にして構成されているかと申しますと、国民の利益を守るために公共企業体においては争議行為は許されない。そのために、争議行為を禁止することの代償として、公労委などによる特別のあっせん、調停、仲裁のシステムをつくるということを軸として公労法は構成されているわけであります。したがって、公労法が適用されている限り、つまり法案が成立したとしても、来年の四月一日までの間は現在の国鉄職員はこの公労法の適用を受けストライキを禁止されているという法律上の状態を続けることになります。それに対して承継法人、新会社の方はこれは完全な民間企業ということになりますから、そうすると新会社労使関係については労働組合法が適用になる。したがって、政府答弁にございますように、来年の四月一日以降は労働組合法、労働関係調整法が全面的に現在の国鉄職員に対して適用になってくるということになります。  問題は、この改革法が成立して四月一日までの間で、先ほど申し上げましたように、設立委員等を相手方とする団体交渉が行われるということになったときに、その団体交渉労働組合法上の団体交渉であるのか、それとも公労法上の団体交渉であるのかという点に絞られてくるということになります。設立委員は民間の使用者でありますから、そしてそこにやがては民間の労働者労働組合法適用労働者になる者を雇い入れるに当たって労働条件を設定し、採用基準を定めるということでありますので、したがって設立委員を相手方とする団体交渉労働組合法の適用を受ける団体交渉であることは疑いないところと言えるわけです。こういう将来の使用者を相手方とする団体交渉につきましては、労働法の中ではたくさんの判例、実例があります。そして将来の使用者が団交応諾義務を負うということは、例えば事案は相当異なりますけれども、日産自動車とプリンス自工の合併の際の労働委員会の命令や最高裁判所の判断などに示されているとおりであります。したがって、将来の労働条件をめぐる設立委員との交渉は労働組合法上の団体交渉である。したがって、それについてもし団交拒否が行われ、あるいは調停、仲裁を必要とする場合には、これは労働委員会がその任に当たるということになります。  それに対して、現在の国鉄当局は、先ほど申し上げましたように、設立委員が設定する労働条件や採用基準について国鉄は全く第三者であることはできないのですから、したがって国鉄当局を相手方とする団体交渉というのが公労法のもとで行われることは異論のないところであります。この場合、その団体交渉については公労委が紛争を担当する機関ということになってまいります。したがって、団体交渉がもし二重に行われる、設立委員を相手方として行われ、同時に国鉄当局を相手方として行われるという場合には、今申し上げた法律関係が二重に適用になってくるということになろうかと思います。  問題の中心は、四月一日までの間に労働組合法上の団体交渉を行うに際して、その団交が行き詰まったときに団交打開のための争議行為ができるかどうかという問題になってまいります。これは意見が分かれるところですけれども、私どもはその場合には当該争議行為は正当性を取得するというふうに考えております。これは将来の仮定の問題ですけれども、労働組合法適用ということを前提にして考えれば、その団体交渉促進するための争議行為もまた正当性を認められるというふうに考えます。  それから第二の御質問は、清算法人に移行する現在の国鉄職員は、清算法人ではせいぜい三年間しかとどまることはできないので、その間教育訓練を受け民間企業等に振り分けられていく、したがってそうなるとそれは一種の解雇ではないのか。解雇であるとすれば、むしろ整理解雇に当たって使用者が必要とする、先ほど申し上げました四つあるいは五つの条件というものを国鉄当局は充足しなければならないということにならないかという御質問であったと思います。  清算事業団への移行が解雇そのものであるかどうかということになってまいりますと、これは法律的に言えば必ずしも解雇そのものではないと言わざるを得ないわけです。というのは、雇用は継続するという形態を持っております。しかし、継続はするけれども、その雇用は極めて不安定であって、三年後の清算事業団の業務の主たる部分が終了したときにどうなるかということは、法律の上では全く不明確と言わざるを得ないわけです。その意味では、清算事業団に移行する国鉄職員の身分が非常に不安定なものになってくるということは疑いのないところでありまして、その点に着目すれば、それは解雇に近い法的性質を持つではないかという立論は可能であるというふうに考えます。私先ほど、雇用上の変動について整理解雇の場合に近い誠実交渉義務国鉄が負担しているんだということを申し上げましたけれども、それは今申し上げたような清算事業団に移行することが雇用を極端に不安定な状態に置くということを前提として申し上げたつもりであります。  それから第三の御質問は、現在の国鉄国鉄労働組合との間の団体交渉が、国鉄労働組合労使共同宣言に署名するかしないかということをめぐっていわばデッドロックの状態にあるということを前提にし、それが団交を再開する、あるいは団体交渉促進するための前提条件とすることが許されるかどうかという御質問であったと思います。  この問題を考える場合の大前提は、労働組合がみずからの政策を立て、あるいはみずからの方針を樹立することはこれは労働組合の自由であって、国家も使用者も一切の干渉をすることは許されないという大原則であります。これは日本が批准しておりますILOの八十七号条約の中でもはっきり規定されていることでありまして、労働組合政策を立て運動の方針を樹立することについていかなる者も干渉することは許されない。これは日本国がILO条約を批准して負担している国際法上の義務であると言うことができます。国内法上考えてみましても、憲法が保障しております団結権の具体的内容は、団結の内容に対する国あるいは使用者の干渉を許さないというものであることは、例えば労働組合法七条三号が使用者労働組合組織運営に対する干渉を不当労働行為として禁止しているということを見ても明らかであります。  そのことを前提にして考えますと、国鉄労働組合国鉄分割・民営に賛成するか反対するかということは国鉄労働組合自身が決定をする問題であって、それがいいとか悪いとか、あるいはそれを変更して国鉄分割・民営に賛成しろというふうに要求することは労働組合内部運営に対する干渉であると言わざるを得ないわけです。したがって、国鉄当局団体交渉を再開するための条件として国鉄改革に協力するということを主張なさるというのは、私に言わせれば労働組合内部運営に対する干渉であって、労働組合法七条三号、支配、介入に該当することになると言わざるを得ないわけです。  この種の問題は、最近最高裁判所の判決の中で明白な判断を示されております。御承知かと思いますけれども、最高裁判所のメール・オーダー事件判決は、会社側が生産性向上に協力するということを条件といたしまして、その条件をのまなければ一時金の支払いをしないという方針をとって、この条件賛成した組合の組合員及び非組合員に対しては一時金を支払うけれども、しかしこの条件を受け入れない組合の組合員に対しては一時金を支払わなかった。それが労働組合法七条一号、反組合的差別待遇に当たるか、それから七条三号、労働組合の運営に対する支配、介入に当たるかということが争われた事件であります。これに対して最高裁判所は、会社側が生産性の向上に協力するという内容が不明確な条件に固執して、しかもこの条件反対することがあらかじめわかっているにもかかわらず、それを前提条件として団体交渉を実質的に展開しないで、そして組合が拒否しているから一時金を払わないということは、七条一号ないし三号に該当する不当労働行為であるという判断を最高裁判所は下されたわけであります。  その後も最高裁判所は、これまた有名な日産自動車における残業差別事件といわれるものにつきまして、交代制勤務の制度を採用することに反対しておりました労働組合組合員に対しては一切残業をさせないという会社側の方針が不当労働行為になるという判断を下されたわけであります。その場合に、交代制勤務に賛成するか賛成しないかというのは労働組合の自由である、そしてその交代制勤務に賛成しない者に対しては一切の残業を与えないということは、これまでの労使関係の経緯からいうと、交代制勤務に反対している労働組合が絶対に応ずるはずがないということを十分承知の上で、それをのまないということを理由に残業上の差別を行っているのであって、これは七条一号、三号に該当するんだという判断を下されているわけであります。  したがって、そういう最高裁判所の判断の延長線上で考えてまいりますと、国鉄労働組合分割・民営に反対である、国鉄改革に反対であるという態度をとっているからといって団体交渉を実質的に展開しないとすれば、それは労働組合法の七条二号、正当な理由のない団体交渉拒否に該当すると言わざるを得ないと考えております。
  9. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) この世の組織や人間に神のように無謬のものはないと私は信じます。どのような組織でも人間でも過ちを犯す可能性があろうと思います。  今日、国鉄が病める巨象であるという認識は、恐らく国民の圧倒的多数は同じ認識を持っていると思うのであります。その原因につきましては、非常にふくそうしておりまして、一つだけに限定することは間違いだと思います。例えば、私があたかも労使関係にあるかのように述べたとするならば、私は労使関係も大きな原因であるということを申し上げたのでありまして、唯一絶対の国鉄の病める原因がそれだと申し上げたつもりは毛頭ございません。そのことを私はこれまで述べてまいりましたし、国鉄に関する私の著述におきましても、そのことはいろいろ複雑な原因である、そして政府も反省してほしい、あるいはそれをつくらせた住民も反省してほしい、けれども全部政治が悪いと言ってもたれかかっている国鉄当局もあるいは労働組合も反省してほしいという趣旨でここで申し上げたつもりでございます。ですから、自分たちだけが正しい、その批判は許さないということをもしもある組織が言ったとするならば、そこにも原因があるということを私は強く申し上げたいということでございます。  だからこそ今日、国鉄を蘇生させようとすることで政府責任を持っていろいろな点で負担してほしいという今日の法案になっておりますし、同時にまた、労使関係も私は相互に信頼できるものとして鉄道を蘇生していってほしいという趣旨できょう申し上げたつもりでございます。ですから、繰り返して申しますと、ある労働組合だけがやったというふうには毛頭考えておりません。けれども、その労働組合にも重大な責任があったということだけは申し上げたいと思うのであります。  第二点でございます。民間ならばどうなのかということであります。今、鉄鋼あるいは造船関係は大変な不況で、働く人々は苦しんでいるのであります。そのときに鉄鋼、造船の例は他社に出向しております。そして雇用を守り、労働条件を守り、家族の生活を守りながら今働いているのであります。国鉄全体につきましては地域的な大きな偏りがありまして、全体から見るならば人々が多いということは、私はそう考えておりますし、政府の案もそのような考え方で貫かれているのであります。ただ私はここで、余剰人員という言葉は大変嫌でありまして、働く人々に対して余剰という、生きていることをあたかも抹殺されかねないような言い方はやめてほしい、そしてそのような対策でやらないでほしいという思いであります。  さて、国鉄内部で人が多いということ、このことは私は率直に感じておりました。その一つ解決案として広域異動がございます。民間部門では国鉄で言う広域異動をやってまいりましたし、今もやっております。時には自分たちの企業とは違った会社に出向して働いてもおります。そしてグループごとで助け合い、あるいは関連するところへ出向して一時期そこで働いてもらおう、やがて自分の会社雇用を拡大できるならば戻ってもらおうということで苦労しているのであります。国鉄につきましてもほぼこれと同じようなもの、これを私はまず第一に望むものであります。  残念ながら広域異動につきましては、例えばこの東京周辺、都市周辺についてはほぼ予定した数が応募されなかったのであります。政府のいろいろな試算がなされておりますが、比較的人が多くいるのは北海道あるいは九州、こうしたものを例に挙げることができると思いますが、こうしたところから、九州から関西へあるいは北海道から東京へと、もし労働条件が下がらない限り、そして自分の能力を発揮する職場がある限り、鉄道を愛するならばこのような異動もやむを得ないと思います。ただし正当な理由で、例えば家族の病気とかその他で動き得ない、こうした人々は、もちろん応募しなくとも、その地域で職のあっせん、こうしたものをやっていく必要があろうかと思いますが、しかしかなり多数の方々広域異動余地はこれまでありました。既にそのことは国鉄当局によって打ち切られたといわれておりますが、最後の最後までこの広域異動については国鉄当局は努力していただきたいと私は思っております。  そうした中で、この異動ということをまず考えまして、あと全体の数といたしましては、私はやはり国鉄は余りにもこれまで人を採用し過ぎ、そして能力を十分発揮できる職場を確保できなかった、こうしたことでやや誤解を受ける可能性があるかと思いますけれども、国鉄の蘇生のためにある人数は縮小せざるを得ない、こう考えております。ただその方法は、一時的にもたらすのではなしに、例えば国鉄から地方自治体その他にできる限り吸収していただく、あるいは民間企業でも吸収していただく。民間企業でやっている手法を国鉄にもある程度とっていただきたいということであります。そして、あと清算事業団という、一定期間生活を保障し、職業訓練を行い、新しい職場を開拓する余地をさらにつくっていく。こうして内部からの努力と外からの協力とによって国鉄人員問題を円滑に解決していってほしい、これが私の考え方でございます。
  10. 安恒良一

    ○安恒良一君 私の時間は十一時九分までですから、今お二人の先生からお答えいただいたんですが、ちょっと吉田先生は私の二問目のとり方を、私のしゃべり方が下手だったのかどうか、先生とり違えられた。  私はこういうことをお聞きしたわけです。民間会社で事業が行き詰まる、そこで新しい事業体なり新しい経営者が引き継ぐ。そのときの手法としては、もちろん負債から新事業から引き継ぎまして、そして引き継いだ上で、そこでどうしてもやはり適正人員でないという場合には、その時点において、労使協議によって、実は自分が新しくやることになった、しかしどうしても今の数ではうまくいかないので、こういうふうに希望退職を募りたいというやり方が普通のやり方ではないだろうかと。私も国会議員になる前、もう三十何年ずっと民間で仕事してきていますから、いろいろな民間のやり方を承知しております。そのようなやり方が普通的な、そうやることが今度新しく事業を引き継がれ、またそこにとどまってやられる皆さん方にも非常に一生懸命やろうという気持ちを持たすことになるんじゃないだろうか。そういう引き継ぎのやり方、手法について労使のあり方、あなたがおっしゃっている労使信頼関係のあり方についてお聞きをしたわけですから、そこのところ、時間が若干ございますので、お考えがございましたら聞かせてください。
  11. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 私も少し思い違いをしていた点ございますが、ただ私は、新会社になるときには新しい形でなるよう、その期間に人員問題を解決していただきたいということを申し上げまして、御質問の趣旨と若干回答が、私、勘違いいたしまして異なったようでございます。  ですから、新しく出発したところで新たに交渉すると、さらに私は労使関係が悪化していくと思うのであります。そこへ行くまで、四月一日までに解決していただきたい。それに最善を尽くしていただきたい。そしてもし、じゃ解決できずにそこへ行った場合にどうなるのか。この点についてはちょっと私は発言する資格はないようであります。しばらく冷却期間を設けていくという方法もございましょうし、あるいは直ちに強引と思われるような方法で出す方法もあろうかと思いますが、私は、もし新しい発足の段階でなお人員の、ずばり申しますと、人員整理の問題があるということは悲劇でありますが、その問題があった場合にはしばらくの間冷却期間を設けてほしい、こんなふうに私は考えております。
  12. 安恒良一

    ○安恒良一君 終わります。
  13. 田代由紀男

    田代由紀男君 本日は、公述人の皆さん方にはそれぞれ貴重な御意見を御開陳いただきまして、ありがとうございました。皆さん方の御意見は大変有意義なものでありますので、十分に参考にさせていただきたいと思っております。  なお、理解を深めるために若干の質問をさせていただきます。  この特別委員会には、伊江委員、江島委員、野沢委員、青木委員、市川委員と、国鉄出身の先輩が大変多うございまして、総括で質問をお聞きしまして大変感激したわけでありますが、私も場所は違いますが、学校を出てから満鉄におりまして、二年間ぐらい、短い期間でありましたが現場に、しかも列車区は、駅は新京、今の長春、そして運転、乗車車掌は奉天、それから運転車掌は吉林ということで、吉林で助役になって、ノモンハンの硝煙消えやらぬハイラルの軍隊に行ったわけでありますが、そういう経験からいたしまして、ひとつ今度の改革というものは本当に大変だなと思っております。  そこで、私のそういう短い体験も中に入れまして御質問をしますが、私の持ち時間は往復十六分でありますので、簡潔に御答弁をいただきたいと思います。御指導をいただきたいと思います。  まず第一に、国鉄の現状についての基本認識でありますが、吉田公述人の御意見はよくわかりましたが、中山公述人の御意見は、そういう問題を、仮定を前提としてという御発言がありまして、そういうところが共通認識において欠けておるように思ったわけでありまして、昭和六十年度で一兆九千五百億もの巨額の赤字でありますし長期債務は二十三兆でありますから、これは何とかして、このまま放置はできないことは皆さんお話しのとおりでありますが、これには政府の助成、国民の負担を増すことだけではどうにもならぬわけでありまして、抜本的な経営改善態度に徹底するということは大事なことであります。そういう認識につきましてもう一回先生方の御意見を拝聴したいと思います。  次には、時間がありませんから、改革の方向についてでありますが、国鉄の行う鉄道事業は今日においても国民生活に大きな寄与をいたしております。また、経営の活力さえ取り戻せば、まだ国民生活の充実に重要な手段であることは申すまでもありません。そのためには、まず第一に経営自体が健全であることが前提でありまして、今日の国鉄の調達資金がほとんど利払いや債務の償還に使われておるようでは事業活動はできないわけでありますから、この経営の大きい部分を国に依存することではやはり活力は出てきませんので、健全体制の確立が必要でありますし、自立できる体制をつくることが必要であると思います。この点についてまず御意見をいただきたいと思います。  第二は、努力する者が報われるという仕組みでありまして、吉田公述人がおっしゃったように多様性、それから意見の具申といいますか、我々のときには意見の具申というのが出ていましたが、そういう仕組み、能率主義、そういうものを多様に取り入れました、役職員がやる気を起こし活力のもととなるような制度、これは現在の公社制度では制約を受けて無理でありますから、やっぱり改革に当たっては経営自主性を持った民営化という方向が必要であると思います。その点、御意見をいただきたいと思います。  第三は、競争であります。今、中国でもソ連でも競争原理を取り入れつつあるわけでありまして、特に中国では、今、吉田公述人がおっしゃったように、今までは縦割りであったのを横断経済といいまして、こういう経済を取り入れつつありますが、こういう巨大な競争でありますが、今のような巨大な組織で、ぬるま湯につかっておるような状態では企業自体がだんだん腐敗していく。そこで企業自体が切磋琢磨して競い合うということが大事であろうと思います。そこに分割の問題が出てくると思いますが、これに対する御意見をいただきたいと思います。  第四は、地域との対話、利用者との対話であります。鉄道は人と人とのの触れ合いを大事にしなければなりませんし、またサービス産業である、そのことが大事であります。人はいろいろな価値観や欲求を持っておりますから、これを適切に酌み取って経営に生かしていくこと、また地域のニーズを把握して現場から経営に生かしていくということがまた経営に活力を高めるために必要であります。そのことが実現されるためには、現場と経営とが一体性を持ったもので、かつ現場を重視し地域に目を向けた経営でなければならないと思っております。  以上の点を、現在提案されておる分割方向、すなわち数社が互いに競い合って経営規模としても適正な規模に持っていくこの方向が、我々としては、従来の全国一元の巨大組織からよりコンパクトな能率的な体制、こういう方向がいいと思うわけでありますが、こういう問題につきまして先生方の御意見をお聞かせ願えれば幸いと存じます。
  14. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) まず、国鉄の今日の原因につきましては、私は、先ほど申し上げましたさまざまの原因があって、それぞれ原因があるということでございます。  第一の御質問の経営依存、どのようにしたらいいかと申しますと、私は国鉄では今、自立していくためにはコストの低減を図ることだと思います。今国鉄では収入の増加を図ろうとしておりますが、もちろんこれも必要でありますけれども、コストの低減が企業を健全化するポイントだと思います。一、二の例を申し上げます。ある駅を開設しようということでこの駅の工事費の見積もりを地元で用意いたしました。ところが、国鉄関係の工事会社で見積もった金額はそれをはるかに上回る金額、倍くらいだったと聞いておりますが、そのような案が出て地元の方々を驚かしたということを私は聞いております。小さなことですが、もう一つございます。ある国鉄の職場の方から聞いたのでありますが、職場で暑いのでクーラーを入れる。二十万円くらいのクーラーでありますが、それを設置する。ところが、あるところからこれは国鉄関係の工事会社に頼めということで、その見積もりが百万円近くの工事費。ところが、民間の人に聞きましたら、いや十万円でやれる、あるいは五万円でやれるということでありまして、従来のやり方ではコストの低減を図ることがいかに必要かということをこの二つの事例、私が聞いたものでございますけれども、そうしたことで、国鉄で今経営自立のために必要なものはコストの低減に重点を置くべきだという事例として申し上げたいと思うのであります。  第二点で、意見具申ということであります。私は創意工夫と申し上げたわけでありますが、そのためにも民間の知恵をかりる、そのために新しい会社には要所要所に民間の知恵者をぜひ集めていただきたいということでございます。  次いで、競争原理ということでございます。地域との関係ございますが、私は現在の世界のどの社会でも国有化は死滅したと思います。国有化産業で成功した例は私は寡分にして知りません。やはり資源を有効活用するためには市場原理は不可欠であります。そうした点で、国鉄はこれまで市場原理を無視してきたために貨物で大きくおくれをとり、そして旅客部門で今最後の生き残りの競争をやっている。しかし、国鉄にはすぐれた方々がおります。エンジニアは世界最高のレベルでありますし、事務系の方々も現場の方々もすぐれた人材は少なくないのであります。私はすぐれた方々の知恵と努力、特に提案制度によって必ず再生できると信じております。そのためには市場原理の中で競争し生き残っていくということでございます。  以上、御質問にお答えいたしました。
  15. 中山和久

    公述人中山和久君) 御質問いただきました点につきましてお答えをしたいと思います。  まず、国鉄の現況についての認識の問題でありますが、私も吉田公述人と同じように、国鉄の現状をもたらしている要因は非常に多様なものがあるという点では認識は共通していると思います。ただ問題は、その多様な要因のうちのそれぞれについて、どういう比重を置いて将来の改革を考えていくかという点にあるのでありまして、その比重の置き方では吉田公述人と私の間には大きな違いがあるというふうに考えます。  私は、最初に申し上げましたように、国鉄の現在膨大な赤字を抱えているその赤字のよって来たる原因がどこにあるかということについての見解がそもそも分かれておりまして、私は必ずしもそれが国鉄労使関係にあるといったような、あるいはそれが大きな理由一つであるといったような考え方をとりませんので、その意味では認識に大きな違いがあると申し上げざるを得ないわけです。  それから最後の御質問にありました市場原理を取り入れる必要があるかどうかという問題になりますと、これは私の専門外でありますので何とも申し上げようがありませんけれども、ある程度の市場原理が必要であるということは私も否定をしないつもりでおります。ただ、その市場原理を取り入れることが公社形態をとっている限りは不可能であるのかどうかという点になりますと、私は今までの公社形態が市場原理に対応することを不可能にしていたとは必ずしも考えないのです。  それは同様に、最後の御質問にございました地域あるいは人との対話が必要である、それを適切に酌み取る必要があるという、これは私も全く賛成考え方でありまして、国鉄経営について地域、それからとりわけ国鉄で働いている人たちの意見というものが大幅に反映できるような仕組みが必要であったのであって、それは公社制度のもとでも決して不可能ではなかったというように考えております。むしろ、公労法第八条によって公社の管理運営に関する事項は団体交渉対象にできないというように除外をしてしまいました。その結果、国鉄で働いている人たちが、先ほどお話しになっておりますようないろいろな提案があり、経営改善についての考え方があり組合の方針があったとしても、それを国鉄当局との間で団体交渉ないし協議の議題として取り上げるについて、公労法八条の管理運営事項は交渉の対象にできないという制度が阻害要因になってきていたというふうに考えております。  したがって、公社制度を仮に持続するとしても、その公社のあり方についていろいろな細工を考えることは可能であって、例えばヨーロッパの国々で非常に広範に採用しておりますように、経営それ自体についての労働者の参加あるいは地域住民の参加という方式を考える余地は仮に公社形態を持続したとしても十分にあるのではないかというふうに考えております。もし今までの公社形態がそれを阻害していたとするならば、それを克服することをまず考える必要があるのであって、唯一解決する道が分割民営化であるというふうには私は到底考えられないという立場でお答えを申し上げたつもりでおります。
  16. 田代由紀男

    田代由紀男君 今、両公述人の御意見をいただきまして大変感銘しておりますが、私は終戦直後、当時私たちのときには満鉄は五万人と言っていましたが、もっと終戦時は多かったろうと思いますが、満鉄、華北交通、華中交通、鮮鉄というところから大勢仲間が引き揚げてきて国鉄に抱擁していただきまして、終戦直後の生活を保障してもらいました。そういうのも一つ赤字の原因になっておるのではないかと思うと身が切られるような思いがします。両公述人がおっしゃったように、今度の民営・分割によってよりよい効果が生まれますようにさらに御指導をいただきたい。また、中山先生の「国鉄労働問題」というのも「法律時報」で拝読しまして、そういう心配がないように私は対処ができると思っておりますので、この面でもさらに御指導と御鞭撻をいただきたいと思います。  以上で終わります。
  17. 野沢太三

    ○野沢太三君 野沢太三でございます。  吉田先生、中山先生におかれましては、お忙しいところ貴重な御意見を賜り、まことにありがとうございます。  私は、この七月の選挙におきまして、これまで三十年近く勤めました国有鉄道の職員から本議席をちょうだいした者でございます。そして、ただいま政府提案の分割・民営の法律こそこの我が愛する鉄道を蘇生させる唯一の方法と考えて現在働いておるものでございますが、そこで両先生にお伺いいたしますのは、公共企業体という制度の問題点、これが私ども中におりましたときにも、思うことがなかなかできない、やりたくてもいろいろと束縛がある、非常に制約が多くて自由な意思で決められない、こういう悩みを持ってまいりました。そして今回、それを克服しようと議論を重ねておるものでございますが、これを民営・分割という形で蘇生させるということのメリット、あるいは反対でございましたらその反対の御理由、これについて御意見をまずちょうだいいたしたいと思います。
  18. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) ただいまの御質問にまずお答え申し上げたい点は、分割民営化をやりますと、従来国鉄で制約されましたさまざまな事業に国鉄は手を出すことが、もう国鉄じゃなくなるわけでありますが、手を出すことができるということでございます。今日の私鉄が、鉄道事業では苦しくても関連事業で蘇生しているところも少なくございません。ただ、国鉄が出ますと、関連する商店街その他いろいろ圧力を受けて困るというふうな意見もないわけではありませんが、国鉄も周辺の民間企業もそこで競争していただきたい。その意味で、民営化国鉄の事業を拡大させる一つの大きなステップになろうかと思います。
  19. 中山和久

    公述人中山和久君) 今までの公社形態をとっておりました国鉄がいろいろ活動しにくい状態にあったということは、おっしゃるとおりであります。ただ、それが一体公社形態をとっているために活動ができなかったのかと申しますと、私は、必ずしもそうではなくて、国鉄が公社であるということのみならず、それ以外のいろんな法規、規則等々によりまして国鉄の活動領域についてのいわばがんじがらめの制約が行われていた、それは仮に公社形態を持続してもがんじがらめの制約を解除することによって、あるいは緩和することによって十分克服することができるというふうに考えておりまして、したがって分割・民営が唯一の方法であるという御意見には私は賛成できないとお答えする以外はありません。
  20. 野沢太三

    ○野沢太三君 国鉄が今日の困難な事態に至りました原因について、いろんな原因があるということで両先生とも御指摘をちょうだいしておりますが、その中で一つ共通しておられるのは、内部的にいろいろ問題を抱えておった、特に経営者並びにそこに働く職員、この関係をより望ましい方向に変えていくことによって蘇生ができるのではないか、こういう点では共通の御意見があろうかと思います。ただ、その方法あるいは考え方において両先生の間に御意見の違いがございますが、私は、公共性を持った鉄道といいましても、経済合理性の範囲を超えた形で労使関係というものは存在し得ないのではないか、これをこれまでの歴史は教えていると考えるわけでございます。  そこで、これまでの国鉄労使関係を考えてみますると、何としてもトラック、船、飛行機、あるいは同業他社である鉄道企業者としての私鉄と比べましても、大変に生産性が落ちた、働きが落ちた、そしてコストにおける競争で敗れた、これが大きな原因ではないかと思うわけでございます。これにつきまして、どのように努力することによってここを脱却することができるか。そして、その中で必要な労働条件基本権はまた守る道があるのではないかと考えるわけでございます。会社が滅びても労働基本権だけ残ったということでは飯が食えないわけでありますので、その点につきましてもひとつ御意見を賜りたいと思います。
  21. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) ただいまの野沢先生の御意見、私は基本的に全く同じ意見でございます。  それを、基本的な立場を申し上げて、具体的に申し上げますと、やはり経済合理主義をこれまで国鉄に貫かせなかった要因一つといたしまして、政治の大きな壁があったと思います。今回この法案を通していただくことによって政治主義から脱却していただく、そして国鉄人が自由に経済的に活動できるような形をつくっていっていただきたい、これが今回の法案の最大のポイントになっていると思うのであります。しかし、にもかかわらず、組織を動かすのは人間でございます。形骸だけができ上がっても、中身を活性化し血を通わすのは人間である。そこには民間の知恵をかりた経営者もおりましょうが、働く側でも、過去においては自分たちにも責任があった、これから協力してやろうというこの姿勢が国鉄を活性化することになろうかと思うのであります。  ところがこうした中で、大枠はこの法案で審議されておりますが、細かな点ではやっていくことによって初めて問題点が出てくる場合が多いと思うのでありす。大筋においては私は分割民営化以外に救いはないと思いますが、やってみて微調整が必要なものが次々と出てくると思うのであります。そのために、例えば私が一番恐れておりますのは本州の分割三つでいいのかどうか。私は今の段階では今の法案でぜひ通していただきたい。しかし進めていった後、やはり大き過ぎて経済合理性を貫く点では若干不都合ではないかというふうな点でやがて数年後これらを再検討する時期が来るかと思うんですが、そうした問題点と同時に、今度は具体的な職場の内容で、このように改善したらいいというふうな具体案がさまざまあるはずであります。  この十一月一日からのダイヤを見まして、かなりよくなってまいりました。現場の人々創意工夫が実っている一つでもあります。これらを積み重ねることによって、私はでき上がった形に血が通っていくと思うのであります。そのためには労使関係も重要な要因一つであるということで、外の殻と中の血の通ったものを血みどろになって自分たちでつくっていく、それが国鉄を新しい鉄道として再生させる道だろう、こう思うのであります。ですから、民間の知恵をかりた創意工夫制度をフルに生かす、これでございます。
  22. 中山和久

    公述人中山和久君) 御質問にございましたコストにおける競争で国鉄が敗れたということが果たして当たっているかどうかという問題につきまして、私はお答えをする資格がないと申し上げざるを得ません。ただ、労使関係が望ましい方向に向かっていくということが望まれるという点については私も全く同意見でありまして、そして労使関係を望ましい方向にリードしていくために何が必要であるかということで恐らく考え方に若干の違いが生じている、その点が一番中心の問題ではないかというように考えるわけです。  私も決して、会社が滅びても労働基本権だけが生き残ればそれでいいんだなんということを言っているつもりはありませんで、労働者も、働いて収入を得て自分の生活を維持していく。そして、その労働者が働く意欲が出るかどうかというのは、自分が働いているその労働について、どれだけ自分の意思が尊重されているか、自分が人間としてどれだけ尊重されているかということによって労働者勤労意欲が高まりもするし低下もしてくるという点は、おっしゃるとおり私も恐らく全く同じ考え方をとっているように承りました。  ただ、そうやって労働者が自分の労働について誇りを持ち、責任を持ち、そして満足感を持つというために何が必要であるかと申しますと、それは結局、働く者の意見国鉄経営や運営に対してどれだけ反映されているか、あるいは反映される道がどのように開かれているかというところに大きなポイントが存在するわけでありまして、私は、過去における国鉄労使関係がそれほどひどいものではなかったというふうに考えております。むしろ、日本の多くの民間の労使関係を中心に私は研究をしてまいりましたけれども、そういった民間の労使関係に比べてみて、国鉄の従来の労使関係が特に間違っていた、あるいは悪いものであったという評価は私はしておらないわけです。  しかし、現在こうやって国鉄改革が具体的な問題になってきまして、その結果、国鉄職員雇用の面でも労働条件の面でも大変な変動にさらされるようになった。そのときに国鉄労働者の意思が全く聞かれない形で、とりわけ、その集団的な意見が全く聞かれない形で国鉄の改革が実行されるということになれば、それが一体労働者勤労意欲をかき立てる条件を形成することになるだろうかというと、私はその点は大いに疑問がありまして、先ほど吉田公述人が四月一日以降に持ち越してはならない、現在のこの時点でこそ基本的な解決を図るべきであるという御意見を出されておりましたが、私もその点全く同様で、四月一日以降に持ち越せばこれはストライキ禁止が解除されることになるし、また労働組合が多数存在し相互に競争し合うということになってきます。そうなればなるだけ四月一日以降の労使関係というのは非常に難しいものになってしまう。そうしないために何ができるかというと、現在のこの国鉄改革の途上で徹底的な団体交渉を尽くすことである。つまり、労働者の集団的な意見を聞いてその意見を尊重するということによって初めて将来の国鉄あるいは新会社労使関係というものの良好さが担保されるというふうに考えているわけであります。
  23. 野沢太三

    ○野沢太三君 私は元国鉄職員の一人として身びいきで言うわけではございませんが、国鉄職員の一人一人はそれぞれ資質もあり努力もしそれなりの働きをしてきたと誇りを持って申し上げられると思います。しかし、公社制を初めとする一連の仕組み、あるいは各種の労働協約その他に基づく就業のルール、こういった仕組みのために能力を十分発揮できないという立場に置かれた結果がこのような事態をもたらした最大の原因ではないかと、かように考えるものでございます。  そこで、今大変な移り変わりの変革のときでございます。先ほど中山先生も団体交渉をすることが解決につながるとおっしゃいましたが、ただいまの国鉄当局はある意味で当事者能力がない、すべてこれは今後出てまいります設立委員会あるいは新しい会社の当事者によらなければ新しい条件は決められないと。いわば、当事者能力のない者が集まって団体交渉をしてもやむを得ないのではないかと思いますが、中山先生にその点について御意見を賜れば幸いでございます。
  24. 中山和久

    公述人中山和久君) 団体交渉における当事者能力の問題は、これはもう御承知のとおり随分長いこと前から議論されてまいりました。例えば、基本的な労働条件である賃金の決定について、公社である国鉄団体交渉においてそれを決定する当事者能力がない。そのために長い間有額回答ができないという状態が続いてまいりました。そういう当事者能力のない状態に置かれていれば、団体交渉を幾らしてもそれは前進しないことは明らかでありまして、団体交渉の権利を尊重するという以上は、当局の側でそれに見合った当事者能力というものを備えなければならないということはおっしゃるとおりであるというふうに考えております。  その当事者能力の欠如が、今こういう大改革を直前にしてもなおかつ当事者能力がない。むしろ従来は持っておりました個別の労働条件処理についての能力すら設立委員等々にゆだねられることによって国鉄が当事者能力を失ってしまっているとするならば、それはまさに重大問題でありまして、私は、そのことの結果、国鉄職員団体交渉権が全く空洞化してしまうということは許されるべきではないというふうに考えます。というのは、団体交渉をする権利は、国鉄労働者にとってみれば基本的人権そのものですから、したがって、使用者側の都合によって労働者の基本的人権が丸ごと空洞化されてしまうということが許されるはずはないと考えるからであります。  そうなってまいりますと、一体どういう形で団体交渉組織すれば当事者能力を発揮することができるかということが現在の中心問題ということになろうかと思います。これはいろんな方法が考えられるわけでありまして、私ども労働法研究者といたしましても、もうことしのずっと早い段階から、従来の団体交渉の枠組みの中では解決できないというのであれば新たな協議制度というものを設けるべきである。その協議制度の中には運輸省も入るし国鉄当局も入るといったように、もっと規模あるいは内容、構造を新たにした労使の接触の場というものを至急に設けるべきである。そうでないと国鉄労使関係というのは団体交渉権を空洞化したまま改革に移行してしまうことになるだろうということを、私ども研究者の間では何度かの声明の中で希望を申し上げてきたわけであります。  その考え方はこの段階になっても全く同様でありまして、先ほど設立委員に対する交渉と国鉄当局に対する交渉というふうに分けて申し上げましたが、実際の交渉のやり方として見れば、これは運輸大臣の衆議院での御答弁の中にありましたように、国鉄はむしろ設立法人に対する補助者の地位に立っているということは明らかであります。そうであれば、設立法人に国鉄を加えたものを相手方とする団体交渉という方式を考えなければ、国鉄職員が憲法によって保障されております団体交渉権は空洞化してしまうことになるだろう、こういうふうに考えるわけであります。  したがって、最低限度設立委員プラス国鉄当局という形で当事者能力を形成する。もし、運輸省自身も例えば各新会社人員等々について細かい事項についての大きな権限を持っておられますから、そうすると運輸省自体もまたその交渉の場には参加する必要が出てくるわけでありまして、そうなれば運輸省、設立委員、そして国鉄当局という三者を統合した形での相手方を前提とする国鉄労働者との間の団体交渉あるいは労使協議というものが促進されなければならない。これはもう至急にそれを実現しなければ団体交渉権の権利の空洞化ということを避けることはできないだろう、こういうふうに考えております。
  25. 野沢太三

    ○野沢太三君 最後に、我々の今やっております仕事は、いわば枠組みづくり、仕組みづくりでございます。しかし、そこで中身が最も大事。そこで働く人たちの意欲が向上する、能力が上がる、これが最も大切と思います。先ほど吉田先生は、そのために必要なことは提案制度であり、多能職化であり、適材適所というふうに御指摘をちょうだいいたしました。まことにさようでございますが、さらに加えまして、教育訓練、鉄道の技術あるいは業務の知識というものはなかなか文部省では教えてくれない。我々は先輩から見よう見まねでこれを習い、また部内の職場教育で習ってまいりました。この点につきまして先生の御意見を一言お伺いしまして、私の質問を終わります。
  26. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 現在の国鉄にはいろいろな教育機関がございます。私も過去ここで講義を若干担当してまいりました。ただ、職場が荒廃してから随分閑散たる状況でございまして、形だけで、中身に血を通わすようなことは過去においてはなかなか難しかったのであります。内部にいる方々が、自分たちがやるんだというその教育、そしてそれにこたえて新しい経営者方々が教育訓練をやっていただきたい、そして今からその準備を速やかに進めていっていただきたい、こう思っております。
  27. 野沢太三

    ○野沢太三君 ありがとうございました。
  28. 矢原秀男

    ○矢原秀男君 まず、吉田先生にお伺いをしたいと思います。御苦労さまでございます。  今吉田先生のお話を伺っておりまして、二点ほどお伺いをしてみたいと思います。  国鉄のこの巨大な債務に対して、長い歴史の中で貢献とマイナス点がございますけれども、四つの問題点というものを監理委員会でも痛切に指摘いたしておりました。衆参の中でもそういう問題については責任論というものが非常に明確に浮き上がっておりますが、今後の問題といたしまして、先生がおっしゃいました民間会社に移行するこの六つの会社が自力でやってほしいと、こういう観点の中で三つの点を述べられました。蘇生の要件として、民間活力の経験という中から、一つ経営者の英断、二番目には労働者の汗と勤労、三番目は労使双方の協調、こういうふうに端的に述べておられるわけでございます。  この中で経営者の英断という立場一つとして、今まで国会でも論議をされました一つに、将来の方向として二十一世紀に対する交通政策の総合的なものがなぜできなかったのかということで政府当局に非常にお互いの質疑があったわけでございますけれども、なかなか現在まで、こういうふうにやるべきであるという決断は出ておりません。国内の輸送機関の件にいたしましても、国鉄の客輸送というものは、四十五年に三二・三%、五十九年には二三・三%に低下をいたしております。貨物については、四十五年一七・三%のものが五十九年には五・二%と惨たんたる状況でございました。まさしく私は、今後経営者の英断というものが非常にこれは大事になっていく。そういうことで、二十一世紀を志向する場合に、民間会社として自力でやっていく、そういう立場の中で交通総合政策に似たようなプランというものを明示すべき点もまた経営者に必要ではないかと思いますけれども、そういう点でこうすべきであるというふうな指針がございましたら一点伺いたいと思います。  それからもう一つは、私も確かめておりませんけれども、きょうの報道機関のニュースを見させていただきますと、今民間会社は六十歳定年に努力をしている。あるところでは六十五歳まで保険制度との連携で努力をしている。ところが新会社は五十五歳定年を働きかけねばいけないという厳しい報道のニュースもきょうは見受けているわけでございますけれども、労使関係の双方協調という立場の中でこういうものがまたどういうところに発展をしていくのかという心配も私はしているわけでございますが、その二点をお伺いしたいと思います。  中山先生にお伺いしたい点は、労働法の専攻のお立場労働者の権利を守るという立場のお言葉をいただいておりまして、私も本当に敬意を払っているわけでございます。私自身会社へ勤めましたときに、戦後三十年時代でございますが、鉄鋼労働争議の渦中に会社勤めをいたしました。そこでは争議の中で血を流し、失職をして、そうして再就職もできない、そういう私自身非常な傷を持っている一人でございますけれども、今私が考えておりますのは、何とかして新会社で働く人たちが安心をしてやっていけるような希望の職場であってほしい、こういうふうに懸念、心配をいたしております。  先生の、雇用条件変化人員削減、こういうふうな非常な心配の中で団体交渉権というものが労働者の権利を守る大きな前提であることのお話を今伺ったわけでございますが、具体的な面から一つは伺いたいわけでございます。きょうの報道で、国労の静岡地本の、労使正常化という形で三点のいろんなお話というものが前向きで進められているように報道されております。一つは、労使信頼関係を基本に当面する課題を積極的に推進する。二番目には、諸法規を遵守し一致協力して安全輸送に当たる。三番目は、新事業体の基盤確立へ向け企業としての自覚を基本に労使一体で取り組む、こういうふうなことでございますが、私自身該当の方々にお声を伺っておりませんのでこれ以上の論評は避けたいと思いますけれども、先生の専門の立場から、こういう形の三つのことを申し上げましたけれども、こういう点が懸念をされるから組合としては注意をすべきであるというふうなことがもしございましたらお伺いをしたいことが一点と、今吉田先生にお伺いいたしました新会社の五十五歳定年の方に働きかけの動きというものも報道されておりますけれども、この点中山先生のお立場からどういうような見解がございますか、それぞれお伺いをしてみたいと思います。よろしくお願いします。
  29. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 第一点の、経営者に対する指針であります。  私は、新会社発足に当たりまして、最高経営陣の中に従来の国鉄の指導者とともに民間からのすぐれた方々をお招きしましてその知恵をかりていく、そのような経営姿勢であってほしいと思うのであります。そうした中で幾つか国鉄が新しく蘇生できるような余地があろうかと思います。例えば、まず惨たんたる状況の貨物であります。貨物はトラック便並びに宅配によって国鉄は滅びてまいりました。国鉄に勤めている方々も、ふるさとに物を送るときに従来チッキがありましても宅配を使っているような状況ですから、自分たちの職場のものを愛さないような状況では残念ながら衰退せざるを得ないのであります。けれども、私は貨物につきまして、遠距離の貨物については国鉄は工夫できないかどうか、こう思うのであります。  九州から冷凍のトラックが東京までやってまいります。あるいは新潟から夜中にトラックが高速道路をどんどん飛ばしているのであります。私はあれは資源のむだだと思うのであります。鉄道にしたならばエネルギーも資源もかなり有効活用できるのにという、こういう思いであります。ただ、競争する上では、国鉄が余りにもひどかったので、悪かったので競争し得ない状態になりましたが、例えば鉄道に貨物自動車を載せるような、小型トラックを載せるような方法、一部分これに似たようなことが考えられ試験段階でなされているようでありますが、私は例えば貨物については、これが一つの蘇生できるポイントになるのではないかと思うのであります。新幹線を利用する、あるいは長距離列車にこの貨物自動車を載せ、そしてトラックの運転手は始めと終わりだけ、場合によってはこの貨物の列車の中に乗り込んで、着いてからまた運転するということもありましょうが、このようなトラック輸送の行き過ぎを救う点でも国鉄の活躍する余地はあろうかと思うのであります。  旅客につきましても、鉄道のよさ、私は日本でそのよさという点では最高の力を発揮していると思うのであります。それは大量輸送をしているということであります。東京という都市圏で国鉄があるからこそ勤務時間前に人々が集まることができ、やがて帰宅することもできるような状況でありまして、これほど国鉄が活性化している国は他の国と比べてほとんどない状況だということは、私は敬意を持って国鉄を見ているつもりでおります。  けれども、全国一律にやっているために、とりわけローカル線に大きな赤字が出ているのであります。その点で、例えばレールの上を走る軽量のバスであります。試作段階で着手されているとこう聞いておりますけれども、例えばローカル線の場合に、三両くらいの大きな列車でお客さんが数人しか乗っていないというふうな状況が間々全国で見られているのであります。これを小型のレールバスで、そして間隔を縮めまして十分か十五分に一本、三両の大きなものを二時間に一本ではなしに十分か十五分で一本レールバスを走らすことによって、私は、鉄道も再生するし同時にまた地域の方々にも喜ばれ、同時にこれまで車でやっていたいろいろなエネルギーの消費その他を節約できる面もあろうかと思うのであります。考えてみますと、このように旅客、貨物分野で鉄道が果たす役割はあると思います。それらを地元に合うような形で創意工夫をやってほしいということでございます。  第二点の御質問は、今六十歳から六十五歳、高齢化社会を迎えてそのような状況の中で、国鉄の五十五歳は余りにも酷ではないかという御質問ではなかろうかと思うのであります。  私も五十五歳定年を胸痛む思いで見詰めております。しかし、かつて国鉄では定年退職のときに三月三十一日付ではなしに四月一日付で退職をし、そうすると号俸が一号俸上がるとかいろいろなことをやっていたようであります。私は、民間では三月三十一日、そうでないところでは四月一日ということでは不公平であります。そして、今も国鉄では年金を受けることができるのであります。五十五歳の年金は不可能であります。全国民に適用する場合には、これは高齢化社会が激化する中で全く不可能なことをやっている。そうしたことを考えますと、五十五歳定年は、本当にお気の毒でありますがこうした最小限の保障措置があるので、国鉄が再生できるまで忍んでいってほしい、五十五歳定年やむを得ないということでございます。  では、長期的に見ましてこの雇用をどうしたらいいのか。私は、民間も官庁も行く行くは六十五歳定年で、そして年金を六十五歳ということで、社会保障の整合性を持つ政策日本は採用しなきゃならないと思います。今は官公庁だけが恩恵に浴して国民はその恩恵に浴していない。官民の格差が大きいのであります。喜びも苦しみもともに分かち合うような国づくりを進めていく上で六十五歳が行く行くは目標となりましょう。しかし民間企業では、これから高齢化が深刻化する二十年以内に、一年刻みで六十歳定年から六十一歳、そして五年後には六十二歳というふうに延ばしていく。こうした努力を進めていく。  しかし、国鉄の場合には、今五十五歳でいろいろな機関に就職あっせんをやっていくことがまず当面の処方せんとして考えられるのでありますが、いま一つ大きな流れとしましては、労働時間の短縮ということが雇用の拡大につながるわけであります。これは国鉄だけではございません。民間企業の方が労働時間、国鉄よりちょっと長いように統計上出ておりますけれども、民間企業ではこれからベースアップよりも、お金で取るよりも労働時間の短縮で実質賃金の向上を図っていく、これが私は大きな流れとして社会的に問題になっていくんじゃなかろうか。それには、国民にあるいは勤労者に理解していただくためには、しばらくの間、若干の時間が必要でありましょうが、労働時間の短縮によって労働条件を高めていく、これによって雇用を拡大していく、これが日本の生きる道ではなかろうか。その中に国鉄、過渡期においては若干の苦しみがあろうと思いますが、せめて年金で補いながら生活を確立していっていただきたい、こんな思いでおります。
  30. 中山和久

    公述人中山和久君) 御質問の第一点でございますが、国労の静岡地本が三つ条件について交渉を促進しようとしているというお話。それについて組合として注意すべき点は何であるかという御質問であったと思います。  先ほど申し上げましたように、組合がどういう方針を立てるかということは、これは組合自身決定すべき問題でありまして、第三者があれこれ言うということ自体好ましいことではないというふうに私は考えております。とりわけこれほどのせっぱ詰まった状況の中で、静岡地本がそういう方針をおとりになったということには恐らくいろいろな理由があるに違いないと思われますので、現場に直接行くかあるいは直接具体的な事実関係をお聞きした上でそれは私の意見を申し上げることもできるかと思いますけれども、今の御質問のようなその事実関係だけでは、どうも私の意見を申し上げるには適切でなかろうという気がいたします。  ただ、一つだけこれは間違いなく申し上げることができると思われますのは、最近外国の人たちと会って話をすると、どうも日本には労働組合というのが存在しなくなったのではないかという、そういう評価をされるわけです。なぜ外国の人たちがそういう評価をするかと申しますと、これは労働法の基本でもありますけれども、労働者経営者というのは全く立場が対立するものである、したがって労働者考え方経営者考え方というのは対立するものだということを前提にして労働法は出発しておりますし、また多くの国の労働組合はそれを基本として活動をしている。つまり、両方の立場が違い両方の言い分が違うということが前提になっているというわけです。  ところが、日本の現在の労働組合の中には、どうもその基本自体がゆるがせになってきて、労使協調ということがいわば至上命題になってくる。そうなると、基本自体がゆるがせになっているのではないかということが外国の人たちの言う、日本には労働組合がなくなってきつつあるのではないかという指摘の中心点だと思うわけです。  静岡地本の問題について申し上げますと、私は、やはり中心は組合の立場というものを放棄しないということが基本であって、その上であればそれぞれの事実関係、情勢に応じていろんな対応の仕方というのは可能性があるだろう。基本として、組合の立場を忘れないということだけが私が今申し上げることができるただ一つの点であるということになろうかと思います。  それから第二の五十五歳定年制の問題ですが、これは二つ考えなければならない問題点があろうかと思います。  一つは、現在の国鉄職員の定年がどうなっているかということとのかかわりにあります。もし、現在の国鉄職員の定年が新会社における五十五歳定年によって引き下げられてしまうということになってまいりますと、先ほど申し上げましたように、労働条件の一方的な引き下げが許されるかどうかという、最高裁判決が問題にいたしました基本問題がこの場合にも問われるわけであります。秋北バス事件判決自体定年制をめぐる判決でありましたし、またその後の下級審、多くの裁判所の判断は、定年制の変更について、多くは合理性のない一方的な変更であって無効であるという判断をしております。国鉄の場合、新会社に移行するというところで一つのクッションが入りますから、したがって一つ会社が直接に定年を引き下げるという措置とは基本的に性質が違いますので全く同じというわけにはいきませんけれども、先ほど申し上げたように、労働条件変更という考え方に立ってみれば、今お話ししたように、五十五歳定年制を施行することが一体どれだけ社会的に見て合理性を主張することができるものであるかという点が、問われるべき第一の点だと考えます。  それから第二の点は、その社会的に見て合理的という判断の基準にもなりますけれども、ことしの十月の一日から中高年の雇用促進に関する法律の改正が実施されました。それによると、企業が定年制を採用する場合には六十歳とするよう努めることが要求されております。ですから、六十歳定年制というのは、現在の日本の法体系の中では官民を問わず、官の場合は法律で決まっていますし、民の場合は法律によって努力義務として課せられている、いわば日本全体を共通する原理になっていると言うことができると思います。そうだとすれば、新会社が、六十歳定年を努力義務として課されているにもかかわらずあえて五十五歳を採択しなければならない社会的な合理性が果たしてあるのかどうかというところに問題の焦点が絞られてくるわけでありまして、私は、その第一の点及び第二の点で五十五歳定年については慎重な取り扱いを必要とするというふうに考えております。
  31. 矢原秀男

    ○矢原秀男君 どうもありがとうございました。
  32. 内藤功

    ○内藤功君 両先生のお話、また、いろいろなお書きになったものを拝見いたしましていろいろなことをお聞きしたいと思うんですが、私に与えられました時間が少ないので、中山先生に一問、大きな問題ですがお伺いをしたいと思います。  現在の国鉄の大きな額の長期債務、これを生んだ責任は、私は率直に言って政府政策、特に借金をつぎ込んで膨大な設備投資をやったという問題に基本的なものがあると考えておるんですが、それなるがゆえに国鉄労働者に対するいろんな人権の侵害というものは私は非常に許せないことだと思っております。そこで御質問は、いわゆる人材活用センターについてであります。  本年の七月以降各地に設置をされて、全国で約一万七千人の方がここに配置をされていると言われております。中でも組合の中で、全体の中で五割を割ったと言われる国鉄労働組合の特に活動家、幹部が全体の八割を超えておるという事態であります。私は幾つかの人材活用センターを自分のこの目で見てまいりました。また、そこに入っている方々の切実ないろんな訴え、家族の話も聞いてきましたが、私は非常に問題だと思うのは、次の五点ぐらいに整理されるかと思うんですね。  一つは選定基準、これは一体何をもって選定基準とするか。特に、組合の活動や組合所属が選定基準にされていることは問題じゃないか。二つ目は選定方法ですね。その人がある日突然呼ばれて、あなたはあそこへ行ってくれ、こう言われるケースがほとんど全部である。ここにいわゆる団体交渉余地がないというのは問題だ。三点目は、職場で非常に有能な、運転、検修、駅ホーム要員が後が非常に困るのに人材活用センターにやられている。中には電話をわざわざ人材活用センターにかけてきて、あの検査はどうやったらいいんだ、修繕はどうやったらいいんだ。これじゃ過剰要員じゃないじゃありませんか。四点目は、職場と仲間から物理的に隔離するということが労働法上どういう問題があるのか。五点目は、派遣された人が、窓ふきとか掃除とか床のガムはがしとか文鎮づくりとか、およそ人材活用の名に値しないことをやらされていて、これでいいのか。  私は、ざっと思い当たるところでもこういう点があります。御専門の労働法の見地からどうとらえられるのであろうかということをお話しいただけないかと思うのであります。結論的に、こういう人材活用センターは労使関係の正常な運営に反するし、解散して、ここに入っている人はもとの職場で働かせてあげるべきだ、私は強くそういうふうに思うわけなんであります。この人材活用センターには例外もあるんだろうと思いますけれども、特に見せしめ的、懲罰的な形のセンターに一方的に送り込む、そういう業務命令を正当化する理論が労働法上あるんでしょうか。私は考えられないと思うんですが、お教えいただきたい。特に、先生の御専門の判例や命令例などから見てどうかということもお答えいただきたい。  時間が短いですから、私はこの一問だけ先生にお伺いするにとどめておきます。
  33. 中山和久

    公述人中山和久君) 御質問のありました人活センターについては、私も調査に伺ったことがあります。ただ、残念ながら当局の方で立ち入りを断られましたので現場に入って人活センターの内容を直接に調査することはできませんでした。ただ、人活センターに入っている職員の人たちからのいろんな意見や事実についてはお伺いをし、今御質問が五点ばかりありましたが、その点についてはほぼ同様な印象を私も受けております。  私は、人活センターの最大の問題点は、人活センターに送り込まれるということが労働内容についての一番大きな変化であるという点だと思います。とりわけそれが見せしめであり懲罰的であるということになりますと、これはもう労働の名に値しないことになりまして、例えば全く無価値な労働をさせられるというのは、これは労働変化どころじゃない、むしろそれ自体一つの懲罰であって、労働法的に申しますと、使用者が懲戒権を持っておるけれどもその懲戒権の行使というのはあくまで合理性の範囲内にとどまらなければならない、その範囲をはるかに超えて事実上の見せしめ的な人活センター送りが行われるということは、労働法の側からは許されるべきことではないというふうに考えております。  そして、人活センター送り込みが労働内容変化であるというところにとどまるといたしましてもなおかつ問題なのは、その労働内容変化使用者側の一片の業務命令によって行うことができるかという問題です。例えば労働法の中では、配置転換、転勤、出向等々といったような労働内容変更を伴う使用者の業務命令の正当性、合法性というものが争われてきたたくさんの事件があります。そういう事件を処理するときの基本的な視点は、当該業務の変更をしなければならない業務上の必要性がどれだけあるか、それに対して、当該職務の変更によって労働者がこうむる不利益の程度がどれだけあるかということをはかりにかけまして、そのはかりがバランスがとれていれば当該業務命令は正当性がある、しかし、そのはかりが労働者の方に大きな不利益を課しながら業務上の必要性は非常に小さいということであるならば当該配転、転勤、出向の業務命令は無効であるとするのが、これまでの判例あるいは学説の一般的な考え方であったと言うことができると思います。したがって、人活センターへの業務命令というものが、正当性が主張できる条件というものが果たしてどれだけあるかということが個別に点検されなければならないということになります。  そして、さらにもう一つ問題なのは、こうやって労働条件変更が行われるについては当該労働者代表しております労働組合との団体交渉を回避することは許されないという、先ほど公述申し上げました団体交渉権についての基本原則とのかかわりがあります。その点にかかわって申しますと、人活センターにおいてどのような労働をさせるか、それからそのための労働者の選抜をどのようにするかということ一切を含めてこれは団体交渉事項であることは間違いないことでありまして、団体交渉を経ないで人活センターを設置し、そこに恣意的な選定基準に基づいて労働者を選抜し業務命令によって送り込んでいくということになれば、それは労働法から見て違法な措置であると言わざるを得ないというふうに考えております。  以上です。
  34. 内藤功

    ○内藤功君 それに関連して、例えば人材活用センターに配置をされる、その場合に、賃金はちゃんと与えているんだ、経済的には不利益を与えていない、だからいいじゃないかと、こういうことを言う人もいるんですね。それについて、経済的な不利益がないけれども自分は本来鉄道に、運転をやりたくてあるいは検査をやりたくて、修繕をやりたくてあるいは駅の営業の仕事をやりたくて入ったんだ、鉄道が好きなんだという人に対して、あるいは草取りをやらせ窓ふきをやらせ、あるいは駅の清掃をやらせるということが恒常化している。しかし賃金は同じだからいいじゃないか、こういう理屈が労働法では通るものでしょうか、どうなんでしょうか。
  35. 中山和久

    公述人中山和久君) ただいまの御質問は、労働組合法七条一号の「不利益な取扱」という規定の、その不利益性の内容にかかわる部分が大部分であるというふうに承りましたが、労働組合法の七条一号が組合所属や組合活動を理由として不利益な取り扱いをしてはならないと言う場合のその不利益という概念は、単に経済的な不利益だけでなくて、精神的な不利益を含むものである。それからさらに、それだけではなくて、組合活動をする利益が奪われる場合、例えば立候補の自由が侵害されるというような配置転換などについては、組合活動をする利益もまたこの七条一号で禁止している不利益取り扱いで保護する利益に該当するんだということは、これは学説上も判例法上もほぼ完全に一致しているところであると言うことができると思います。  したがって、人活センター送りになるということが経済的には不利益にならない、賃金の面でマイナスにならないからといって組合法七条一号で言うところの不利益取り扱いにならないかというと、決してそうはならない。精神的な、つまり従来自分がやっておった仕事ができない、そしてむしろ無価値に近い仕事をさせられるというのは精神的苦痛そのものですから、それは不利益に該当するということがこれは労働法で言えば恐らく常識的なお答えになろうかと考えております。
  36. 田渕哲也

    田渕哲也君 まず、吉田中山両先生に対しましてひとつお伺いしたいと思いますことは、公共性経済合理性の関係についてであります。  私は公共性経済合理性というものは決して矛盾するものではないと思うんです。むしろ、公共事業だから経済合理性を無視してもいいというのは間違いであって、経済合理性を追求することがよりよく公共的な使命を果たせることになる、こう思うのであります。しかしながら、シビルミニマムとかそういう観点から経済合理性に必ずしもマッチしないこともやらざるを得ない場合がある。ただその場合に、余り費用と効果の罪離というものが大きくなるとそれは国民のコンセンサスが得られなくなる。コンセンサスが得られなくなれば、それはもはや公共性を失いつつあると見なければならないと思うんです。国鉄の場合はもう既にそういう状態に入りつつある、そしてその原因がどこにあるかというのが非常に問題でありますけれども、私はやっぱり政治の介入というものがそういう乖離をどんどん大きくしたのではないかという気がするわけであります。  そして、この点について特に中山先生にお伺いしたいことは、公社制でもやっていけると言われますけれども、政治というものは必ずしもきれいごとだけでいく社会ではない、非常にどろどろした面を持っておるわけでありますから、公社制とかそういうことでやりますと、政治のそういう仕組みから見た場合に、必要以上の介入というものを遮断できないのではないか。中山先生も、国鉄赤字の原因の大きな部分として採算無視の負担を国鉄が押しつけられたと言われておりますけれども、私は、政治とのそういう関係というものを整理しないと国鉄の再建というのは不可能ではないか、こういう気がするわけですけれども、この点は中山先生にお伺いをしたいと思います。  それから第二点は、吉田先生に対してでありますけれども、そういう意味で私は分割・民営という基本的な方針には賛成しますけれども、しかし今回の政府の進めておる分割・民営によっても本当にそういう政治との遮断ができるかどうか。私はやはり鉄道事業という性格から見て政治の介入が全く不必要というわけにはまいらないと思いますけれども、必要以上の政治の介入が今後行われないだろうかというと、若干危惧を持つわけであります。特に、整備新幹線の現在進めつつある状況を見ますと、まだ新会社ができる前に着工を始めてしまおうというような動きが政治の場からは起こっておる。そういう危惧を持つ者でありますけれども、こういう点について吉田先生の御意見をお伺いしたいと思います。  それから第三点は、吉田先生はこの分割・民営には賛成だけれども若干の意見を持っておられる。一つの点は、先ほど触れられました本州の分割の問題であります。そのほかにももし差し支えなければ御意見をお伺いしておきますと今後の審議にも非常に参考になるのではないかと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。  以上です。
  37. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) まず、整備新幹線についてでございます。  私は現在着工することについて反対でございます。少なくとも新しい鉄道が再生し軌道に乗るまで整備新幹線に着手してはならないと思いますし、再びこれが鉄道に対する政治介入ということで鉄道の未来にとって暗いものを落とさざるを得ません。参議院の良識でもってこれらを阻止していただきたいというのが私の偽らざる率直な気持ちでございます。確かに地元では整備新幹線の要望が強いと思いますが、例えば高崎から富山へ出るこのルート、従来の線でもいろいろ整備しますと若干のスピードアップができるかと思います。それを従来の線をほとんど犠牲にして新しい新幹線をつくるということは、必ずしも賢明な選択ではないし、経済的な合理性という点で私はこれには反対であります。少なくとも数年間、新しい鉄道が蘇生するまでこの整備新幹線は着手しないでいただきたいということでございます。  第二点で、新しく鉄道が発足するに当たっていろいろ問題点というふうな点で、私も細かな点を考えていないわけではございません。そこで先ほど、本州の分割を今は今の原案どおりやりまして、数年後もう一度再検討していただきたい、こう申し上げたのでありますが、いま一つ懸念いたしますのは、従来の新幹線会社のリース方式がここだけ肥大化しないかどうか、ここだけが官僚化しないかどうか、これも大きな疑点を抱いている一つでございます。  それ以外に小さな点はございますが、大きな点で今新しく追加いたしましたこの点をつけ加えたいと思います。
  38. 中山和久

    公述人中山和久君) 私に対する御質問は、国鉄の現在の危機を招いたのは政治の介入に主としてある、その点は私も同意見と申し上げてよろしいかと思います。そして、その原因が公社制度にあるのかどうかというところが御質問の中心点だったと思います。  御承知のように、国鉄が公社の形態をとりましたのは昭和二十三年のことでありまして、私は国鉄を公社化したことは必ずしも必然性がなかったというように考えております。当時の占領軍当局の意向等々があって、そしてとりわけ労使関係というものを国家公務員とも違うし民間の労働者とも違う第三の形態に移行するための措置としていわば公社化ということが行われ、その結果公社というものの経営における独自性、自律性というものをどう担保するかという点については、私は必ずしも十分な議論が尽くされてはこなかったというふうに思います。  日本でいわゆる公共部門の企業体というのは実に多様にありまして、直接の国営企業の形態をとり、あるいは地方公営企業の形態をとるところもあれば、公社の形式をとっていたところもあれば、さらには公団の形をとり、あるいは全額政府出資あるいは部分的政府出資の形態をとる企業体もあるというように、およそ多様な形態を日本における公共部門は採用しているわけです。そのうちの一つである公社形態が一体公社における政治的介入を不可避のものとするようなものであるのかどうかということになりますと、私は公社の形態が必ずしも必然的に政治的介入を排除できないものではなかろうというふうに考えております。逆に申しますと、仮に民営化したとしてもその民営化された企業が政治的介入を排除できないという場合も恐らく残るに違いないわけで、今でき上がろうとしております新会社の場合も清算事業団の場合も、恐らくは依然として政治的介入というものを完全にシャットアウトすることはできないのではないかという気がしてしようがないわけです。  したがって、政治的介入あるいは行政的介入というものをどうやって防止するかという観点に立ちますと、私は公社制度のままであってもそれを排除しあるいは緩和する方法というのは十分あるのであって、それを考えることが先決であって、分割民営化すれば政治的介入が解消してしまうというわけにはいかないだろうというふうに考えておるわけであります。
  39. 秋山肇

    秋山肇君 吉田中山両先生から御意見をお聞きしたわけですが、私は思っている疑問を率直に両先生に申し上げて、お答えをいただきたいと思うわけであります。  累積赤字の原因というのはいろいろあろうと思いますが、この中で一番欠如していたというのは内部努力を怠ってきたということだと思うわけであります。先ほど吉田先生のお話の中に、職場の広域異動のお話もあったと思います。これから分割をされた後、それぞれの会社にそれぞれの地域の人たちがそのまま移られるということで果たして国民の納得のいく民営として効率が上がることなのかどうか。今までの内部努力の徹底がされていない経営吉田先生は先ほど民間の経営者をというお話もありましたけれども、その点も含めましてぜひひとつ、そういう効率ある経営のできる会社になっていくのかどうか。やはりこの辺が、労働問題も含めまして、それでお勤めをいただいている方が遠くに移るというのも大変なことでしょうし、いろいろあると思いますが、両先生の御意見をお聞きしたいと思います。
  40. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 今分割民営化の中で国鉄は大きく揺らいでおりますが、私は国鉄人を信頼いたします。中にひどい人物もいるかと思います、ひどい組織もあるかもしれませんが、しかし一つでしたら全部よくあるいは全部悪くなるということでありますが、今回は幾つかの会社で競争し合います。生き延び得るものとだめになるものが出るかもしれません。私は内部努力だけで解決するとは思いませんが、内部努力なしには解決しないと思います。その意味で、内部努力をするかどうか、国鉄人をまず信頼しやってもらう。その結果どうなるのか。大部分は蘇生すると思います。蘇生し得ないものがあるならば、もう一度その原因を点検して、どうするのか、最終的な案が出ようかと思います。私は、そうした点でまず国鉄人、異常な人もいないわけではない、こう思いますけれども、基本的には信頼したい、これが結論でございます。
  41. 中山和久

    公述人中山和久君) 私は内部努力が必要であるという点は全く賛成ですが、その内部努力をするための前提条件は、働く者の意見が当該事業体の運営について反映できるというルートが確立されていることであるというふうに考えております。それがなければ効率ある経営というものを期待することはできないわけで、その意味で、新しい会社がもしできるということになりますならば、その会社においては従業員である人たちの個別及び集団的な意思というものを経営の上に十分に取り込んでいくという方針があるいは制度がつくられなければならないのであって、それに、先ほどの御質問でお答えしましたように、地域の意向もまた反映できるようなルートを考えるべきであって、そうすることによって国民や住民の期待する鉄道事業の効率ある運営というものが初めて確保できるのではなかろうかというふうに考えております。
  42. 秋山肇

    秋山肇君 吉田先生、そう期待をされる、私も当然その気持ちは先生と一緒なんですが、そういう中で、先ほど先生がちょっとおっしゃっていられた広域異動ではないんですが、それぞれの人的配置という問題については、今の分割でそのまま、何というんでしょうか、各地域で持ち上がっていっていいとお思いなんでしょうか、どうでしょうか。
  43. 吉田忠雄

    公述人吉田忠雄君) 組織にはいろいろなメカニズムが動いております。そして、私、国鉄が果たして全部が全部完璧に協力体制で動くかというと、そうでない不協和音も出ることは若干予想できると思うのであります。その場合にどうするのかということでございますが、私は、組織としてやっぱり不協和音は時にはあるけれども、圧倒的多数の人々がそれらを乗り越えていくならば鉄道は蘇生すると思います。逆に、異常なそうした少数の人々に対して、あのようになってはならないという偉大な教訓を多くの方々に与えまして健やかに伸びていくこともある。現代の国鉄人によって現在の鉄道を蘇生させていってほしい。そして、経営陣に対しては外部から少し入りましてお手伝いすることもあろうかと思いますが、自力でやっていくことを基本にしながら、私はそれを国鉄人の多くの方々にかけたいと思います。ぜひこの参議院でも御賛同を得て、国鉄人に期待していただきたい、こういう思いでございます。
  44. 山内一郎

    委員長山内一郎君) 以上で公述人に対する質疑は終わりました。  公述人方々に一言お礼を申し上げます。  公述人の皆様には長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会代表し、厚くお礼を申し上げます。  午後一時三十分から公聴会を再開することとし、これにて休憩いたします。    午後零時二十九分休憩      ─────・─────    午後一時三十二分開会
  45. 山内一郎

    委員長山内一郎君) 日本国有鉄道改革に関する特別委員会公聴会を再開いたします。  休憩前に引き続き、各案について公述人方々から御意見を拝聴いたします。  一言ごあいさつ申し上げます。  藤井公述人、山口公述人におかれましては、御多用中にもかかわりませず、本委員会のために御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員会代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日は、忌憚のない御意見を賜りまして、今後の審査の参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いを申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度の御意見を順次お述べいただきまして、その後で委員の質疑にお答えをいただきたいと存じます。  それでは、順次御意見を承りたいと存じます。  まず、藤井公述人お願いをいたします。
  46. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) 御紹介いただきました慶應義塾大学の藤井弥太郎でございます。交通経済論を専攻しております。  私は、国鉄の改革について分割民営化賛成立場意見を述べさせていただきたいと思います。  現在、鉄道は激しい競争下に置かれているわけですが、今後の交通市場において一層厳しい競争にさらされると予想されます。国鉄改革は鉄道再生の問題としてとらえるべきで、鉄道が競合交通手段の発達に対抗して今後の社会において生き残り、役割を果たすために、鉄道の特性を最もよく発揮できる組織に改革される必要があると思います。  まず、民営についてですが、交通事業において私企業でなく国鉄のような公企業が存在いたします理由は、私的独占による弊害の回避であるとか、巨額の公的な補助が行われる際の受け皿としての適合性であるとか、あるいは大規模な内部補助の手段としての機能などにあると思われますが、国鉄の公企業方式といいますのは歴史的な役割を果たしてまいりましたけれども、現在の交通市場におきましては、鉄道はこれらの要件を大部分失っております。既に鉄道は独占状態になく、また競争により大規模な内部補助も不可能になっております。競争下では、政策経営責任分離を明確にして市場変化に弾力的に対応し、特性を柔軟に発揮し得る経営形態が必要であります。特に我が国の場合には、公という名前がつきますと、利用者も経営者職員の方も一般社会も、すべてに甘えが生ずることが避けがたい傾向があります。現段階では、鉄道の特性を有効に展開するには民営化が適切な措置と考えます。  次に、分割、特に地域分割についてでございますが、地域分割には本質的に異なる二つの観点があるように思います。ここではそれを仮に私なりに絶対論と相対論というふうに整理いたしますと、絶対論と申しますのは、国家社会の一体性を保持するために鉄道の全国一体的な経営が不可欠であるという見方で、鉄道の一体的経営が無条件前提とされるわけです。一方、相対論は、鉄道の経営規模を時の社会経済の発展段階での交通市場における特性の発揮という効率の観点から判断しようとする見方であります。かつての鉄道が唯一の陸上交通手段であった時代と異なりまして、今日の社会では多数の交通手段が利用可能でありますので、社会の一体性を鉄道だけによって維持せねばならぬと先験的に想定する絶対論の状況は、私はもう過去のものとなっているのではないかというふうに思います。  したがって、鉄道の経営規模は鉄道の特性、機能から判断すべきであるように思います。この点で、鉄道の全国一体の経営が主張される場合でも、競争力の上からそれが鉄道にとって有利であると主張されるのであれば、それは内容において効率論、相対論でありまして、絶対論からの一体的経営の主張とは本質的に異なるということを注意しておく必要があるのではないかと思うわけです。  効率論、相対論として鉄道特性の効果的な発揮という観点から見ましたとき、地域分割の主なメリットは、第一に需要への対応の上から、第二に組織の運営管理ということの上から、市場に密着した柔軟な経営が容易となる点にあります。その点からすれば経営規模は小さい方がよいと言えるかと思います。経営規模が小さければ、市場に密着したサービスを提供し、また市場の実情に即したコストの実現とか、それを反映する運賃を設定することが可能になります。  一方、一つには規模の経済性あるいは二つにはネットワークの効果という点から見ますと、経営規模は大きい方が効果的であります。ネットワークの分割は直通サービスの協定を必要とさせますし、そのために事業者間に取引コストを発生させます。また、コストの上での規模の経済性を減少させる、あるいはネットワーク規模の大きいことは販売上、集客力の上で非常に有利でありますので、その点が失われるということにもなります。  これら分割のメリット・デメリットの双方を相対的に秤量して鉄道の最適な経営規模が判断されねばならないわけですが、この場合、判断の上での決定的に重要な要因は、現在あるいは今後の社会において鉄道特性を発揮できる市場の大きさであろうと思います。交通流動の実態から、鉄道に競争力があり、その特性を最も発揮できる市場、そのような市場の規模に対応した経営規模が求められる必要があります。  現状で鉄道の規模が、特性が発揮でき、したがって最も競争力を持ち得る市場は、中距離以下の需要の高密なる市場というふうに常識的に言えるかと思います。かつて、臨調の七分割のベースで議論されておりましたときに、私は、本州内の分割はもっと少ない方がよいというふうに述べたことがあります。当時は不十分な資料のもとでの大ざっぱな議論であったのですが、その後公表されたトリップ完結率の実態その他から見ますと、提案されております六分割、本州内三分割といいますのは、三百キロないし七百キロ程度の市場に経営資源を集中することになりますので、鉄道の特性の発揮に適切と私は考えます。しばしば問題にされます直通サービスの分断ということは、各社間の契約あるいは協定でかなり避けることができる。各社が経営に意欲的であるほど、真に需要のある直通サービスは協定の対象になるだろうというふうに私は考えるわけでありまして、そのようなサービスは残るはずである、あるいはそのような努力が払われるべきであるというふうに私は考えます。必要ならばその場合政府の関与も配慮があってよろしいかと思うわけです。  非分割論の場合、通常、徹底した分権化ということが言われるんですが、分権化が徹底すればするほど、それが有効であればあるほど、ネットワークの効果の分断とか内部取引コストの増加という問題は分割の場合と同様に発生するはずであります。  分割のいま一つの問題点としまして、ローカル線問題がございます。民営化でローカル線の廃止が進むということがよく言われますが、これは分割の問題点というよりは民営化の問題点であるわけですけれども、これにはなぜ民営でなく公社なら赤字線を維持できるのか、その納得できる説明が必要になります。それはさておきまして、ローカル線問題と地域分割の問題との関連は、地域分割により各社の幹線の収益力が違うわけですので、内部補助が可能な程度が相違する。したがって、赤字線の維持水準が各社で違うかもしれない、そういう点にあるわけです。もし鉄道の維持に絶対論の立場をとりますならば、つまり交通のミニマム確保の役割を鉄道だけに期待すべきだということであれば、全国で路線維持の基準が相違することは余り好ましいことではありません。しかし、現状で過疎地域における交通のミニマムをしょっているのは、私の考えでは、主として鉄道よりはいわゆる過疎バスであります。  輸送密度二千人以下の特定地方交通線のバス転換は、その意味でミニマムの足を奪うものでは私はないというふうに考えます。むしろ、実際には国鉄赤字線があるために地方バスの採算に影響して、バスにおける内部補助の機会がなくなり、結果として鉄道から離れた山村において最後の足である過疎バス路線が廃止に追いやられる、そういう誘因が出ているのも事実であります。そのような地域交通体系の攪乱要因となるおそれもあると思います。  特定地方交通線以外の地方交通線につきましては、輸送密度が二千人から四千人以下の地方交通線は鉄道として存続できるかどうかの境目にあるわけです。まず各旅客会社経営努力が期待されるわけですが、実際に廃止のケースが多発するとは私には余り考えられません。しかし、その可能性が全くないとも言えないわけですし、その場合には、地域社会として維持が必要なら、各社と県、その他の自治体との間のサービス供給契約が行われるべきだろうというふうに思います。鉄道だけを切り離して考えるのではなくて、他の利用可能な交通手段とあわせて地域が選択の権限を行使し、かつ責任を負うのが経営と政治の分離だというふうに思うわけです。もともと公共性の確保ということに基本的に責任があるのは、選挙で選ばれた政府や自治体であると、経営側にあるのではないというふうに私は考えるわけです。経営側としては、政府や自治体の与えた社会的な目的に対して最もよく効率を発揮することが結果として公共性を全うすることだというふうに私自身は考えております。  また、近年道路整備の進捗によりまして都市間バスが発達しておりますので、輸送密度の比較的小さい市場におきましてはかなり鉄道にかわるサービスが提供されるのではないか。監理委員会の御意見では、国鉄のバス部門は原則として鉄道から分離されることになっておりますけれども、北海道、四国、九州などでは鉄道と相互に補完し合うものとして一体的に経営することが望ましいのではないかというふうに考えます。それから輸送密度四千人以上の地方交通線、これは私鉄並みの経営であれば鉄道として維持が可能な領域というふうに分類されている路線でありますので、問題は経営努力のあり方にあると思います。  いずれにしましても、監理委員会の御意見では民営化に際してすべての地方交通線が一応維持されるということになっておりますので、問題は今後各社がどれだけ創意を発揮して効率的で地域に密着した経営に成功するか、そこがポイントであると思います。しかし、三島におきましては経営努力にも限度があり、鉄道の主要ネットワークの維持さえ困難な事態が予想されるわけです。そのために経営安定の基金を設けることは適切な措置であるというふうに考えます。基金は一つの前渡し補助でありまして、発生した赤字に対する通常の事後的補助よりも経営効率改善の誘因を与えることができますので、補助の方式としてはすぐれていると思うわけです。  次に、改革案では新幹線の長期的構想が必ずしも明確になっておりません。鉄道分野についての長期的な展望が現在必要であると思われますが、新幹線は今後の鉄道にとって言うまでもなく戦略的に最も重要な手段であり、長期的な展望が必要でないかというふうに考えます。これにつきましては、一方でこれ以上の整備は浪費であるという見方と、他方で、整備のタイミングの問題はともかくとして、ある程度のネットワークの整備はなお必要だという見方があって、今後の社会における鉄道の果たすべき役割からどうその整備を進めるか、それについて国民的な合意が必要のように思います。  改革案では、新幹線につきまして保有機構の制度が提案されているわけですが、保有機構は収支調整、内部補助のシステムとして機能を与えられているわけです。新幹線の下部構造につきましては、保有と利用を分けるいわゆる上下分離のシステムとしての機能もそこには追加して認められるのではないか。私自身かつて新幹線の上下分離を提案したことがございまして、下部構造の上下分離というのは、実は鉄道以外の交通手段では整備維持のために普遍的にとられている方策であります。例えば高速道路や国道は道路公団や国、自治体によって整備され所有運営されておりますが、その上を利用する車は個々の企業や家計の車であります。航空でも、空港は国や自治体などによって整備運営され、利用はエアラインがしているわけです。その意味で、鉄道における上下分離はこれらほかの交通手段との競争上で一つのイコールフッティングに近づける機能があるというふうにも考えられます。  現在の案では、保有機構は既存の新幹線の償還のための内部補助システムということがきちっとして機能として考えられているわけですけれども、さらに進めて新幹線の整備について、これら高速道路やその他の交通手段の整備方式、つまり新幹線ネットワークについての償還主義であるとか、プール制の方式ということも検討されてよいのではないかと考えるわけです。このような上下分離は、巨額の投資による資本費負担を分散して旅客会社経営に及ぶ影響を回避する方策であるわけです。  この場合に重要な点は、申すまでもなく、どのような資金調達にしましても当面の負担軽減になりますので、計画の採択がルーズになるおそれがあります。したがって歯どめが重要であります。基本的には三十年から四十年程度の償還期間内に利用者負担により償還が可能な線区の範囲にとどめる必要があるのではないか、私はそういうふうに思うわけです。公共補助はその間の資金フロー確保の役割を受け持つということが考えられるわけです。  さきに述べました今後の新幹線整備の可否につきましては、既に整備新幹線は法定化されておりますし、これからの鉄道網として新幹線ネットワークが現在程度でよいという見解は比較的少ないのではないかと思います。見解が分かれるのは主に整備のタイミングの問題です。一方で、国の財政の現状や鉄道改革の経営基盤をまず固める必要がありますし、他方では、来るべき高齢化社会、大体二〇〇〇年前後で西欧並みの老人人口比率あるいは扶養家族比率、二〇二〇年で西欧の水準をはるかに抜く老人比率になるわけですが、そういうような来るべき高齢化社会で成長を維持するために、労働力人口比率が低下する前に時間のかかる整備を済ませておくべきだという要請もあるわけです。実は私もその一人なんですが、その意味で整備の方式につきまして早い時期に合意に達する必要があるのではないか、そういうように思うわけです。  また、分割民営化が目指す鉄道の経営特性発揮のためには、経営に対する規制は独禁法の趣旨の範囲内でできるだけ緩和する必要があるのではないかと思います。今回の新事業法では事業分野の自由化や運賃割引の弾力化が規定されていて適切な措置だと思いますけれども、実際の規制は運用に依存するところが非常に大きいわけで、運用がぜひ今回の改革の趣旨に沿って行われることを望むわけです。  最後に、どの業種にしましても構造調整というものには短期の対策と長期の対策があるわけです。短期の対策にはいろいろ困難があるとしましても、そのことで長期の対策の機会を逸してはならないというふうに思います。手術が痛いからといって鎮痛剤を与えて抜本的な手術を延ばしてしまえば、時期を逃して結局は命を失うことになりかねないわけです。国鉄改革のような構造調整には経過的に厳しい問題が多くて、特に職を失う方々の問題は心が痛むものがあるわけですが、今後の社会で鉄道が生き残ることができ、鉄道が果たし得る役割を最もよく達成する経営形態は何かという観点から長期の対策に踏み切るべき時期だというふうに私は思います。  ちょっとお聞き苦しい、早口で申し上げたと思いますが、以上が私の意見でございます。ありがとうございました。
  47. 山内一郎

    委員長山内一郎君) ありがとうございました。  次に、山口公述人お願いを申し上げます。
  48. 山口孝

    公述人(山口孝君) 明治大学の山口であります。  私は、大学の方で会計学と経営分析論というような講義を担当して研究しております。そのような立場から国鉄問題を勉強しておりますけれども、この分割・民営には賛成することができません。  まず、本題に入る前に一言申し上げたいことがあるわけであります。それは、中曽根内閣が来年の四月一日を期して新会社を発足させたいということで現在審議を進めておられますけれども、衆議院段階における審議の内容を仄聞しますとかなり不十分であります。一つ経営体が、今回、はっきりしませんけれども、二十四ぐらいになると当初言われておりました。こういうような経営手法をとるということは経営の根幹にかかわる大問題でありまして、私が今思い出すことができるのは、第二次世界大戦が終わりました当初、財閥解体が行われまして、御承知の三井物産あるいは三菱商事というような会社がずたずたに解体されました。これ以外に私は思い出すことはできません。  御承知のように、商法の二百四十五条で、「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」あるいは「営業全部ノ賃貸、其ノ経営ノ委任、」というようなことを行う場合には株主総会の特別決議を必要とします。株主の過半数が出まして、三分の二の賛同を必要とすると、こうなっております。このことからわかりますように、一つ経営体を分割するか否かというような案件は、先ほども申し上げましたように経営の根幹にかかわる最重要問題でありまして、慎重な審議と圧倒的多数の支持がなければ行うことが許されないわけであります。さらに、国鉄の場合には分割だけでありませんで、これに対して民営化というような経営形態を根本的に異にするものに変えようとしているわけでありますから一層の慎重審議が必要だと、こういうふうに考えております。  そこで、こういう審議をする場合には、普通、直近の、一番近い国鉄経営に関する資料を求めて、刻々と国鉄経営状態がどうなっているかを調べる必要があります。例えば現在ですと、九月三十日に終わりました中間決算の結果がどうなっているのか、あるいは現在十一月でありますから既に出ていると思います、十月における国鉄の営業状態が前年同月に比べてふえているか減っているか、こういうことも含めて慎重に審議をしていただく必要があると、こう考えるわけでありますが、いかがなのでしょうか。  さらに、私は国鉄の九法案をつぶさに拝見しましたけれども、これに目を通してみると、率直に申し上げまして実に雑駁で非常識で不明な点が多いわけであります。このことについて一々触れるわけにいきませんけれども、例えば改革法案第一条において公共性原則を全く捨ててしまって、輸送需要に対する対応の原則と効率性の原則を持ってきた理由は何か。あるいは、同じく二十三条における国鉄職員の全員解雇を思わせるような条文があります。これについても大いに疑義があります。さらに旅客鉄道会社法の附則第四条二項における、限りなく資本を過小にできるような非常識な条文があります。一般的に商法では、必ず資本総額のうち二分の一は資本に入れなければならないと、こういうふうになっているわけでありますが、国鉄法案では「二分の一を超える額を資本に組み入れないことができる。」、こういうような条文の意図は一体何か。あるいは、新幹線鉄道保有機構法案における第一条目的の条文、清算事業団法案第三十八条の財務諸表における財産目録を掲記する必要があることの理由など、私が質問できたらぜひお聞きしたいような疑問が満ちているわけであります。ぜひ参議院では逐条審議に基づいて国民にその内容を明らかにして国民の審判を待つべきだと考えるわけであります。  内容に入らしていただきますが、国鉄改革法案の第一条に、御承知のとおり、国鉄破綻したと、こういうことが書かれております。先ほど申し上げたような理由で解体をするんだと、こうなっておりますが、国鉄赤字になった真の理由は一体何であるかと、これが問題であります。  私の経営分析によれば、この赤字の原因を分析する手法としては、御承知のとおり、昭和三十八年までは国鉄は黒字でありました。国鉄はことしで百五十年目を迎えておりますけれども、ほぼ一貫して昭和三十八年、一九六三年までは黒字だったわけであります。そして、その翌年から純損失を計上し今日に至っておりますから、いわば三十八年の黒字の最終の年とそして現時点における財政状態を比較して分析をすれば、その赤字の原因が明らかになるわけであります。  この期間における営業収入は、三十八年における五千六百八十七億円から、六十年、直近の財務諸表によれば三兆五千五百二十八億円へ六・二四倍に増加しております。六・二四倍であります。これに対して費用は五千百四十四億円から五兆五千七百二十八億円ですから、十・八三倍にも増加しております。この収入増加を上回る費用の増加が赤字の原因であることは当然であります。  では、一体どのような費用が増加しているでしょうか。費用の一つの分類方法としてこれを経常経費と資本経費に分けることができるのは御承知のとおりだと思います。経常経費はいわゆるランニングコストでありまして、経常的、日常的に発生します人件費、動力費、修繕費等々の費用であります。従業員の営業活動から生じます費用がランニングコストであります。これに対して、資本費というのは借入金の利子と減価償却費から成っております。これは投資の結果から生じた費用でありまして、これは全面的に経営者の投資の意思決定、投資戦略から生じたものでありますから、経営者責任に帰することは明らかであります。  今この双方の伸び率を見ますと、経常費の伸びが九・二二倍であるのに対し、資本コストの伸びは実に十七・〇三倍にもなっているわけであります。とりわけ、御承知の支払い利息は三十八年度の二百五十二億円から六十年度の一兆二千百九十九億円へ実に四十八・四一倍にも増加しております。他方、経常費の中の人件費が問題になりますが、特定人件費を含めても、これは三十八年に比べて十・〇四倍にしかなっておりません。このうち臨時例外的な人件費であります特定人件費を除いた人件費の増加率は五・一六倍と、営業収入の増加率を下回っているわけであります。  このような比率を申し上げると、伸び率などというのは当てにならないんじゃないかと。例えば、基準になった年の金額が小さければ倍率は高くなると、こういう考え方もあるわけでありますから、そこで六十年度の営業収入を一〇〇として、これを私鉄大手十四社と比較してみました。すると、まず先ほど申し上げました支払い利息の営業収益比はどうなっているかといいますと、国鉄は実に三四・三五%であります。つまり営業収益に対する三分の一以上が経費としていわば落とされてしまう、こういうことでありますが、これに対して私鉄は一五・一八%でありますから、利子の支払いは半分以下にすぎません。半分以下であります。それから減価償却費は、これは国鉄が一六・五八%であるのに対して、私鉄は九・三九%でありますから、減価償却負担も国鉄は極めて多いわけであります。御承知の、国鉄は人が多くて人件費がかかり過ぎると言われておりますが、一般人件費の対営業収入比率は国鉄が三三・三四%であるのに対して大手私鉄は三五%と、国鉄よりも高くなっているわけであります。決して国鉄経営上の人件費が高いということはないわけであります。  以上から、国鉄経営を圧迫した要因は明らかにこの資本費にあり、借金による設備投資による利子負担と償却負担にあることは明々白々たるものでありますし、その責任政府国鉄当局にあることもまた明々白々たるものであります。しかも問題は、この償却前赤字となったのが昭和四十六年であります。償却前赤字になったというときには何らかの経営的な対策がとられなければいけませんけれども、それ以後むしろ急激に設備投資額が増加していくわけであります。これは経営の通念に反するいわば非常識な経営が行われたと言わざるを得ないわけであります。実際に私が今申し上げた赤字になりました昭和三十九年以後六十年までの国鉄投資を累計しますと十三・七兆円にも達しており、ピーク時である五十三年度から五十六年度ですね、このときはまた赤字も非常にふえている時期でありますけれども、この時期に国鉄のみで毎年一兆円の投資が行われておりますし、鉄建公団を含めれば一兆五千億という巨額な投資が五十三年から五十四年という二年度には実施されているわけであります。御承知のとおり、このことにつきまして経営改善計画では、このようないわば資本費、特に支払い利息あるいは特定人件費を除いて計算をしますと一般営業損益では大幅な黒字になっているということを明らかにしていることは十分御承知のとおりだと思います。  さて、ではこのように明らかに経営の一般的な営業損益は黒字基調になっておる、こういう状況の中で、いわば資本費負担で赤字になっていることを理由にしてなぜ分割民営化しなければならないのか、それはどういう理由だろうか、これを考えてみました。私にはそれは三つあると、こういうふうに考えられます。その一つは、これは国鉄分割しまして、新会社を収益主義的につくり上げて、そして速やかに一割配当できる会社にして株式公開で膨大な資本利得、プレミアムを稼ぐようにしたい、こういう政府の要請があると、これを考えるわけであります。第二は、分割民営化によって財界に巨額の利益の取得の機会を与える、このことであります。第三は、国鉄に働く革新的で階級的な労働者に対して思想の転向を迫って、あるいはこの人たちを新会社から追い出そうとしていることであります。この三つの点につきまして多少申し述べたいわけであります。  第一の一割配当を速やかに可能にするような会社をつくるということで、政府は次の手順を考えているようであります。  第一に、鉄建公団を含めた長期債務総額のうち約三分の一のみを新会社に負担させて残りを清算事業団に移しかえてしまう、これが一つ。特にその際、三島の旅客鉄道会社に対しては退職給与引当金以外の長期債務をゼロにします。そして、先ほど申し上げたようなことで資本準備金なるものを膨大にして、資本金を限りなく小さくしているわけであります。さらにその上、御承知のとおり三島に対しては一兆一千何百億円というような基金をつくり、そこからの利息を与える、こういう方策をとっております。さらに、資産は原則として帳簿価格でこれを分割をし、膨大な含み資産を保持させることにしました。その上、御承知のとおりほぼ三人に一人というような国鉄労働者削減を行い人件費の圧縮を図るわけであります。  以上のようなことを行いながら、分割をした後は収益重視の立場から運賃の値上げ、ローカル線の撤去、関連事業の拡大、土地売却による利益を得ると、こういうことによってこの一割配当を可能にするいわば会社をつくり上げて株式を公開し、そしてそこから膨大な資本利得を得ようと、こう考えていることは間違いないわけであります。  第二番目に、分割民営化によって財界に巨額の利益取得の機会を与えようとしている点であります。  御承知のとおり、日本経済は第一次、第二次石油ショックを経まして低成長期に入っておりますし、まして昨年からは、御承知のとおり五カ国蔵相あるいは国立銀行会議が開かれまして、円高基調に入って経済界が不況に悩んでいるということは事実であります。したがって、この際財界は内需を拡大し大企業中心に多くのもうけの機会をつくり出さなければならないと考えているわけであります。国鉄分割民営化はこうした状況のもとで財界に大きな利益を与えることになります。  この点についてまず第一に、皆さん御承知のとおりでありますけれども、国鉄の所有する土地については三つの点で膨大な利益を保証するわけであります。第一に、このいわば五・八兆円というようなものを売却する、こういう中には大都市周辺の非事業用地が多数含まれておりまして、これを買い受けることによって大もうけをするということであります。第二番目に、民営化した鉄道の駅をこれを駅ビル化する、あるいは路線の上空を利用すると、こういうようなことから事業を拡大するわけであります。さらに第三番目には、今のところはっきりしませんけれども、三年経過後ということが言われておりますが、の非採算路線を撤去してそしてその跡地を利用すると、こんなような形で、三つの形態で国鉄の非事業用地あるいはローカル線を撤去した用地を利用できるわけであります。  次に、財界はこうした会社の役員の人事を占めることによりまして機材の購入、土地の売却、関連事業の開発などで大きな利権を得ることができるわけでありまして、先ごろ私はNTTの有価証券報告書を見ましたら、そこには、石川島播磨重工の社長でありました真藤氏が社長になっていることは御承知のとおりでありますが、同時にまた、臨調委員でもあった瀬島龍三氏や日経連会長の大槻文平氏が取締役、相談役で入っております。こういうことが行われてはならないと私は考えているわけであります。  第三番目の問題でありますが、これは国鉄労働者に対する思想転向の強制と人減らしの点でぜひ申し上げたいわけでありますが、それは、現在それが行われる根拠は余剰人員だ、余剰人員があるのだということでありますが、私が経済学的に考えた場合に、この余剰人員というのは絶対的余剰人員ではございませんで、これはもうけるための余剰人員であります。つまり、もうけるための人員削減であり、それから国労、全動労の革新的な労働者をつぶすための人減らしであると、こう考えざるを得ないわけであります。  御承知の国鉄監理委員会の答申によれば、国鉄職員はこれは二十一万五千人まで減らされて六万一千人が余剰人員とされております。このうちで、御承知の北海道では一万三千人も減らされます。削減率は実に四六・四三%であります。九州が四〇・七四%というような形で、半分ぐらいの人員が減らされるわけでありまして、これで例えば北海道、九州では国鉄が本当に動くだろうかということが大変問題になっております。それから御承知の東京周辺でも、ホーム要員が二人のうち一人が削減されるとか、あるいは夜の八時以後はせっかくこれまであいておりました改札口が閉ざされるというような合理化が行われております。これは乗客の安全や利便が軽視されている証拠であります。飯田橋では御承知のようにホームが大きく湾曲をしておりまして、しかも島状になりまして壁がありません。非常に危険なホームであります。この危険な飯田橋でさえ二人のホーム要員が一人に減らされておりまして、このことについて乗客から訴えがなされているのが現状であります。  以上から見ても、この余剰人員というのが収益主義的余剰人員であることは明らかでありますし、それから御承知の余剰人員国労、全動労をつぶすためのものである。これは人活センターというのをつくってそこに活動家を集めている、こういうようなことからもおわかりのとおりであります。  結論を申し上げたいわけでありますが、このような中で私は全国一元の鉄道をどうしても守っていきたい、そう思うわけであります。私は最近、六十二年度の運輸省国有鉄道部の概算要求を見ましたら、これで概算要求は五兆百二十四億円にも達しているというのを見てびっくりしました。そうして、特に清算事業団では二兆八千三百三億円のうち収益的収入は、つまり後で払わなくてもいい収入は五千九百六十九億円、六千億円しかなく約二兆二千億円の資金が必要である。今のところ、これに対して一兆七百四十一億円のみが決められて、残りの一兆二千億は資金手当てがついてない、こういう状況であります。これはひとり清算事業団だけではありませんで、それ以外のところでも意外に金を食います。しかも、金を食うのが国有鉄道が金を食うのではなく、民営化される中で金を食う。何のために金を食うのか、捨て金ではないか、こういうような新聞での報道もなされているのは御承知のとおりであります。このようないわばむだに金を使うのではなく、ぜひ私は、今一般営業損益では黒字基調になっているわけでありますから、何とか全国一元の国有鉄道を守る中で国鉄の再生をする、それは十分可能な時期に来ているので適切な措置をとっていただきたい、このことを心からお願いするわけであります。  最後に申しておきたいことがあるわけであります。  御承知のとおり、国鉄には二十七万人の職員がおりまして、彼らは極めてすぐれた技能を持った運転手であり補修工でありあるいは営業の人たちでありまして、彼らは一刻もおくれることなく列車を運行させているわけであります。また、新幹線とか通信等におけるすばらしい技術もあるわけでありますし、それから御承知のとおり、国鉄の保有するいわば含み資産は巨大なものでありまして、これは政府答弁でも数年前七十兆円と言われておりましたし、現在は二百兆を超すだろう、こう言われております。これらはすべて国民の蓄積した大きな財産であります。  これら、つまりすぐれた人材、すぐれた技術、そして膨大な財産が今分割民営化の危機にさらされているわけでありまして、私はこのことをどうしても見過ごすことはできないわけであります。私にとって国鉄はトータルな意味では、決してそこの人材あるいはそこの技術あるいはそこの膨大な財産だけではありません、それ以上のものであります。つまり、これは百十五年という長い伝統の中でつくられた財産でありまして、この財産は決して物ではありません。そこに含まれている人間の生活様式、つまり文化であります。この文化を今解体するというのは非常に残念でありまして、つまり日本は文化国家だ、こう言われている時期にあえてなぜ我々のひいおじいさん、おじいさん、我々に長く継承されて、それを愛しそれを育ててきた国鉄分割しなければならないのか、この点についていわゆる文化国家を標模する日本の政党の皆さんにぜひ反省を求め、この全国一元の国鉄を守っていただくことを願って、私の公述にさせていただきます。  以上であります。
  49. 山内一郎

    委員長山内一郎君) ありがとうございました。  以上で公述人各位の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  50. 安恒良一

    ○安恒良一君 まず藤井先生、山口先生、大変お忙しい中、私たちの審議の参考のために貴重な意見を述べていただきましてありがとうございました。  私の持ち時間は三十四分でございまして、しかもこれは往復なのでございます。そういう角度からひとつお答えを願いたいと思います。  まず、藤井先生に何点か御質問をしたいのでありますが、先生、交通経済論の立場からいろいろ言われましたのですが、私は、先生がおっしゃいましたように、まず今やらなきゃならぬことは、二十一世紀に向けて我が国の交通の総合体系というのをやはりどうしても立てなきゃならぬ。今日国鉄がいろいろ先生から御指摘があったようなことで衰退してきたことは、やはり政府みずからが鉄道の分野、航空機の分野それから貨物のトラック輸送とか船舶とか総合的な交通のあり方ということをきちっとしないまま、ある場合には道に物すごい投資が進む、ある場合には鉄道にも投資が進む、いわばやや場当たり的なところがあったんじゃないだろうか。ですから、先生がおっしゃったように、先生は分割・民営賛成と言われておるのでありますが、私は、それをやるにしても、総合交通政策というものをきちっとしないでこれから分割・民営されて本当に国鉄が生き残っていけるんだろうかどうか、ここの点を大変疑問に思います。先生の御説明の中でその点もある程度触れられたかと思いますが、少し考え方を聞かしていただきたいと思います。  それから少し具体的なことになるんですが、二、三日前、御承知のように新幹線が架線摩滅のために事故を起こしたわけですね。今度あれが分割をされますと、例えば故障した場所は中部なら中部で起きたと、ところが東京駅まで運んでこなければならない、東京駅へ運んでまいりますと東京駅からこれをさらにそれぞれのお客様のニーズにこたえて各地域に運ばなきゃならぬ、こんな事故が起こってくるんですが、今は国鉄一元化をしておりますから、例えばいわゆる切符の精算から、それから必要に応じていわゆる臨時増発等々できるだけお客さんを目的地に運ぶべく努力する。これが分割されてまいりますと、自分のところの会社責任じゃない、たまたま架線が途中で切れるわけです、それぞれエリアが決まるわけですから。そのときなんか、私は大変なこれは分割のデメリットの一つの問題だと。  それからいま一つは、貨物会社というのは、今のような分割された中で貨物会社が一会社で本当に貨物会社自体が黒字になっていくんだろうかどうか。分割されますと、自分のところの旅客優先のダイヤがどうしてもこれは引かれることになる。ところが貨物会社だけは一元ですから、そういう点で、先生御指摘になったようなところで、私は貨物会社なんかというのは黒字になんかならないで大変なことになりはしないかと思うんですが、そこのところをどう考えられるか。  それから先生のお話の中で新幹線保有機構と新幹線の必要性についていろいろ交通経済学論から言われておったんですが、そのことと、これから行われようとしている新幹線の建設と国鉄の今回の再建案についてはどういうふうに考えられるか。整備新幹線というものについて、やはり先生のお言葉をかりると二十一世紀に向けての交通のニーズということになりますね、これは率直に。それと今度のいわゆるこの法案との関係においてどのようなお考えをお持ちなのであろうか。それと同時に、これもちょっとそれと関係しますが、例えば青函トンネルとか本四架橋、これと今度の国鉄の再建について、先生自体としては、先生の交通経済論からどういうお考えをお持ちでしょうか。本四架橋、今建設中でありますね、青函トンネルはほぼでき上がったんですが、これをどういうふうに効率的に使うようにお考えになるのかということをひとつ聞かしてください。  それから最後に、私もやはり交通出身なんですが、交通というのは人の生命を預かっておりますし、一分一秒と違いなくやっていかなきゃならぬのがこれは交通の使命なんですよね。国鉄はそれを果たしてきていますし、私は私鉄の出身でありますが、どこでもそれをやっているんですが、そういう場合に一番必要なことは、先生は全然そこのところに触れられませんでしたが、国鉄職員は、いわゆる新事業体ができましたら新事業体が全部まず引き継ぐべきじゃないか。そして、その後、新事業体として適正要員を考えた場合に、適正要員から言うと若干のオーバーがあるということが出る場合になったら、それは労使団体交渉の中で協議すべきじゃないか。普通民間企業がやりますのは希望退職を募るという方法を労使合意の上でやっていって適正に持っていくんですが、今回のやり方は全くこれはもうそういう余地はないわけですね。  そういう中において、本当に先生がおっしゃったように、分割をした場合、民営化した場合こういう非常にメリットがある、そのことが国鉄が生き残れる唯一の道だと、唯一とおっしゃいませんでしたが、ほぼその方向で言われたんですが、それを運営する今度の労使の信頼がないと、これはどの産業でも同じでありますが、特に交通産業ということで、ちょっとの誤りは多くの乗客の生命に関するという場合、どうしても労使信頼関係の中でやっていかなきゃならぬとき、今回のこの法案のいわゆる国鉄人員の扱い方について、私なんかも民間から出ておりましてとても常識的に考えられないのですが、そういう点についてどのようにお考えなのかと。  それから山口先生には会計学、経済分析論を中心にしながら広範な御意見を賜ったわけでありますが、問題は、先生は分割反対、民営も反対、今のいわば公社でということだと思いますね。その場合に、御承知のようにやはり資本費の投資ということは今までも必要だったしこれからも必要なんですね。この資本費というのは、現状維持をしていくための補修関係、それから新しいいわゆる設備投資とこれ率直に言って両方ございますね。そういうものの投下がされてきて、そしてある段階から減価償却自体がもう不足をしてきた、こういう事態になった。そうしますと、こういう場合に、先生はそこまではおっしゃられなかったんですが、例えばヨーロッパのドイツ、フランス、イギリス等々の鉄道の会計のあり方、単年度ないし一、二年の会計でいわゆる設備投資、資本費が非常に膨大でそれが赤字をつくったというところまで言われたんですが、それならばそれをどういうふうに処理していっていわゆる公社形態をしながら国民のニーズにこたえられるのか、そこのところの御説明が先生の御意見になかったものですから、ございましたら、どういうふうに今申し上げたようなことについて対処をされようとされているのかと。  それから先生のお言葉をかりると人はもう全然余ってないんだからということで、私の質問についてはあれだろうと思いますが、ただ御承知のように、モータリゼーションが進む中において、どうしてもやはり現在規模よりも人が多いという場合が起こってくるわけであります。例えば、私は九州の西鉄というところに勤めておったんですが、かつては一万八千人おりましたけれども現在は一万人。これはあくまでも労使協議の中で、モータリゼーションの進行の中で漸次人を減らして、なだらかにこれは減らしてきているんですが、こういう場合のことについて、私は少なくとも今回の場合は国鉄職員はすべて新事業体がまず引き継ぐ、そしてそこで労使団体交渉のルールに応じて適正要員について話し合う、このことが極めて必要ではないかと、こういうふうに思いますが、先生の場合はもう現状の人員でということだったからそこのところがなかったんですが、先生もいわゆる経営学をやっておられるわけですから、その意味から言うと、モータリゼーションが進んで鉄道の持つ分野、貨物の持つ分野、自動車、飛行機の分野が変わってきていることはこれは事実なんですから、そこらについてお考えを聞かせてください。  以上です。
  51. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答え申し上げます。  大分たくさんの御質問をちょうだいいたしましたので、適切にうまく全部お答えできるかちょっと疑問があるのですが、最初の御質問は総合交通体系の御質問であったというふうに思います。  私は、現在総合交通体系は理念としては既に公に確立されているというふうに考えております。昭和四十六年の運輸政策審議会の答申においては、原則として交通産業のあり方は市場原理をもとにする。ただし、二つばかりそのときに条件がついておりまして、一つはミニマムの問題は市場原理では処理できない。第二に開発利益その他の外部効果の問題も処理できない。この二つの問題について適切な措置をとった上で市場原理を有効に活用すべきであるというような、これは序文にたしか書いてありまして、あるいは序論の部分に書いてありまして、後の方の部分と若干整合しなかったというのが問題点でありますけれども、理念としてはそういう問題で考えられてきたと思います。それから昭和五十六年の運輸政策審議会の答申におきましてもその考え方は受け継がれていると思います。  したがって、あとはこの理念をどのように展開するか、その問題で、これは従来の考え方にもあるいは市場の組織の仕方にも、いろいろそれぞれのいきさつによってできているわけですので、徐々に時間をかけてその方向に持っていくということであろうかと思います。その点で、先ほどちょっと申し上げました過疎地域におけるバスに対する補助金が、このごろ財政赤字にもかかわらず、行政当局の御努力やあるいは議員の先生方の御努力があって幸い維持されているという点を私は大変に評価したいと思っておるところであります。ただ、問題点は一つ、いわゆる通路の整備の仕方において、高速道路の整備の仕方と新幹線の整備の仕方は若干まだ整合がとれていない点がございます。この点を私は、先ほど新幹線のあり方もほかの通路施設のあり方と同じように徐々に直していったらいかがだろうか、そういうふうに申し上げたわけです。  それから第二の点、これは分割の場合の各社間の連絡が一体的な経営の場合よりもうまくいかないのではないかという御質問かと思います。私は技術的な問題は詳しく知りませんけれども、各社がもしもお客さんに対して非常にセンシティブといいますか、ビジネスオリエンテッドであれば、お客様の有利になるようなことであれば明らかにやるはずだというふうに考えております。したがいまして必要があれば、政府が御調整になるのは十分必要な場合であるかと思いますけれども、一般的には私はまず経営がどのような対応をするか、それを見てもよろしいのではないかと思います。若干ちょっとこれはきつい言い方ですが、英国で言われたことを引用いたしますと、英国では公的独占は私的独占よりも世論に対して鈍感であるというふうに言われております。私は民間企業の方がお客様のことはセンシティブに考えるのではないかというふうに思っております。  それから三番目に貨物の問題ですけれども、貨物は御案内のように汎用性を失っておりまして、先生の御指摘のように採算の問題でもなかなか難しい分野だなというふうに私も考えます。今申し上げることができるのは、特性分野への特化と、それからいわゆる回避可能費用による価格決定がどこまでうまくいくか。旅客会社、貨物会社それぞれの経営のインセンティブがどのように働くか、それ次第だというふうに考えているわけです。ですから、これも経営のあり方にむしろ最終のところは帰するのではないかというふうに考えるわけです。同じような形態の、イギリスの場合に同じようなナショナル・フレート・コーポレーションという会社がブリティッシュレールと別にあったわけですけれども、なかなかこれは公社の間でもうまくいかなかったというのが現状ではないかと思います。  それから四番目に整備新幹線の問題ですが、これは先ほど申し上げましたように、私には私の提案がございましたが、現在の提案ももちろんそれはいろいろな提案がなされていて、それぞれに論拠をお持ちなわけで、これらについてできるだけ早く合意を取りつけたいものだというのが私が先ほど申し上げた点でございます。  それから、いま一つ関連すると思いますが、青函トンネルあるいは本四連絡橋でございましたか、本四連絡橋の問題につきましては、私は青函や本四、あるいはそのほか建設公団が建設しておりますCD線にしましても、いずれはやはり鉄道が使うことになると思います。したがって、鉄道の問題でありますし、率直に申しますと、青函トンネルなんかは非常に大きな事業でございますので、経済成長の時期にあれをつくっておいたのが私はむしろよかったのではないかというふうに、非常識と言われるかもしれませんけれども、そういうふうに思っているわけです。長い目で見たときにどうかという点では、国鉄の問題というよりは、それらも含めて鉄道の問題として効率的にそれをどう使うか、それが現在の問題であろうというふうに私は考えております。  それから最後に御指摘いただきました人員の問題ですけれども、実は私はこの分野については知識がございません。私自身が申し上げられるのは、労使の間で適正、公正な処置が行われて、できる限り摩擦を少なく、雇用が継続されるようにというふうに考えているだけでございます。  以上でございます。
  52. 山口孝

    公述人(山口孝君) 安恒さんから二つの御質問を受けまして、一つは資本費の問題ですね。今後国鉄を再生させていく上でも、どうしても設備投資は必要じゃないか、これは一体どうしたらいいか、こういうことだと思います。  その点についてお答えする前に、なぜこんなに過大な設備投資と利子になってしまったかは、安恒さんも御承知のとおり、田中角榮さんが内閣総理大臣のときですけれども、ちょうど昭和四十七年七月七日になられたんですが、あれが高度成長の一番最後のところですね。御承知のとおり、あれまでは毎年売り上げが大企業二〇%もふえるということで物すごい高度成長で、その時点で判断をして、どうしても今後そういう物流あるいは人の動きを予測した場合、国鉄ももっともっと投資しなきゃいけない、それから道路もつくるし、パイプラインも引くんだ、こういう構想を立てられた。これは率直に言えば多くの人があの時点で間違えたけれども、需要予測の大きな間違いを犯されて、そして過大投資をした、こういう点があります。それ以外にいろんな問題があったと思いますが、少なくともその点がありまして、あのような過ちをもう犯すことはできない、そういうふうに考えております。  あれはあのときの事情でありましたが、低成長期には、今後設備投資をするのは本当に国民に最低限必要な設備投資を衆知を集めてやっていく、こういうことにならざるを得ない、そういうふうに私は考えておりまして、しかもその部分については本当に国民要望する設備投資であれば国家が出資をする、こういう状態ですね。少なくとも基礎施設には全額出資をし、上物については半分ぐらい補助をするというようなことで節約しながら投資をやり、そしてその後減価償却ができるようになれば、その減価償却費を有力な再投資資金にして使っていくというようなやり方でやったらどうだろうかと。この点につきまして、安恒さんも御承知のとおり、西ドイツでは区分会計というのをやっておりまして、道路その他は国家的領域でやる、こういうことですね。そして、公共的領域は補助金を出す、こういう方法も一案かと思うわけであります。  それから第二番目の、モータリゼーション化が進んでいる、これは確かに無視できませんですね。このモータリゼーション化の進行の中で国鉄の需要が相対的に減少した、絶対的にはそう減っていないけれども、これも否定できないわけであります。ただ、一つはトラック規制というのはかなり重要ではないか、公害とか、御承知のトラックの労働者労働条件というのは大変厳しいものでありますから、ここのところを規制していく。全体的に言えば、ある程度総合交通政策のようなものを判断に入れながらモータリゼーション化の間違った発展を抑えていく、こういうことが一方で必要だと、こう考えるわけであります。  それならば、そのことで国鉄の余剰人員は出ないか、こういうことなんですが、私は余剰人員ではないと思いますが、ただこういうことを四、五年前から考えておりました。御承知のとおり、国鉄の場合にだんだんと高年齢者層がずうっとふえてまいりまして、この方たちはいずれもう退職が迫っているんだ、こういう方がかなり多い。だから、そういう要員不補充政策で何かここの数年あるいは十年ぐらいを過ごせないだろうか、ここのところを長期的な観点で雇用政策人員政策をやればうまくいくんじゃないかと、そう私は考えておりましたけれども、国会の方ではかなりドラスチックな人員削減計画をやっている。これは人を切るというのは生身ですから、なるべくやめる人の補充を少なくするという形でやっていただければ非常によかったと、こんなふうに私は考えているわけでございます。
  53. 安恒良一

    ○安恒良一君 まだちょっと私の持ち時間がございますから、そこで重ねて藤井先生にお聞きをしておきたいんです。  ミニマムの問題で、藤井先生は過疎バスを言われておりますが、先生御実態を御承知かどうか。私たちも一生懸命過疎バスを守りたいと思ってやっていますけれども、今国から出ている補助金は百億切れているわけです。地方自治体合わせて二百億切っている。そこで、どんどんミニマムであるはずのところの過疎バスが毎年毎年切られているんです。これはもう大変な努力をしているんですがね。ですから交通ミニマムのことについて考えなきゃならないのは、いかにモータリゼーションになっても、お年寄りとか子供は自動車の免許をとれませんし、それから北海道のような積雪地域では自動車は過疎バスでもどうにもならぬわけですね。長大路線がございます。  そういう意味から言うと、先生の御指摘は、いわゆる鉄道よりもバスでと、そしてバスの場合にはミニマムだから、過疎バスについては国が補助金を維持しながらやっていけばミニマムはもう守れていくんじゃないかという御主張ですが、現実は残念ながらどんどん路線廃止、どうしてもやっていけない。そこで、今度地方自治体自体経営せよというと、地方自治体もやりきれないということで、これはもう毎年毎年残念ながら第三種路線と言われるものがどんどん減っていっているんですね。これが今日の実態ですから、そこのところはそういう実態を御承知の上で藤井先生はミニマムとしては鉄道よりもバスがあるじゃないかと、そしてそれは過疎バス地域に対する地方自治体の助成でやっていけるじゃないかという御主張でしたが、これはかなり現実とかけ離れておりますので、そこのところはどういうふうにお考えでしょうか。
  54. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答えをいたします。  私は実は、交通経済論というものをやりましたのは、どちらかというと乗り物が好きでこんなことになってしまいましたので、全国の国鉄はほとんど乗っておりますし、過疎バスも北から南までかなり乗っているつもりでございます。現在も国土庁の方の関係で過疎地域の見直し、過疎法の見直しの時期になっておりますので、過疎バスの調査で先週も行ってきたばかりでございます。かなりよく知っておるつもりでおります。  私の申し上げましたのは、一つは、公共用の交通のミニマムを守るというのは既存の公共用交通事業者を守るということと同じではないという点が一つです。問題は公共用交通、みんなの足を守ることなのであって、既存の公共用の事業者以外のやり方があればそれも大いに開発されるべきじゃないかというふうに考えているわけです。  過疎バスにつきまして、確かに今先生御指摘のように随分廃止が行われているわけですが、私がより問題としたいのは、元来バスも走っていないようなところでは人々はどうやっていたのか、それについては全く調査がないし、全く政策がなかったわけです。昭和五十六年の運輸政策審議会のときには、それで自家用車の準公共用利用という点を提案いたしました。それに対して行政当局も種々お考えがおありでしたが、結局それは成立しなかったわけです。  私はそれを非常に残念に思っている一人ですが、鉄道の場合には、長距離の路線といいますのは、あるいは積雪あるいは道路について条件が悪い場合には御案内のように特定地方交通線からは除かれているわけです。したがって、今先生の御指摘の部分は既に措置がされていると私は思っております。これについては御意見と違うのかもしれません。私自身はそういうような条件があると思っておりますし、各地へ参りましても、問題はむしろ今申し上げましたような現在事業者がいない部分でミニマムをどうやって守るか、私はそこのところが現在自分の一番の関心の点であります。  過疎バスの問題について、それが重要だというのは今のお話のとおりでございまして、私が特に申し上げましたのは、鉄道の内部補助がバスの内部補助の機会を奪ってしまっている。その点を御指摘申し上げたかったわけでございます。
  55. 安恒良一

    ○安恒良一君 結構です。
  56. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 本日は、藤井、山口両公述人、大変ありがとうございました。貴重な御意見を伺わせていただきまして大変参考にさせていただきました。  さて、最初に山口先生にひとつ伺っておきたいことがございますが、先ほど、経常収支はもう既に黒字基調になっておるように会計学上の分析をすれば見られると。であるならば、全国一本の国鉄というものを守っていくという、そういう強い御希望をお持ちだと、こういうふうにおっしゃったと思います。そして、黒字基調であるから全国一本で今のままでもやれるじゃないかという御趣旨はそれでわかりました。そして、それじゃ全国一本でなければいけない理由について、その後私が承ったところでは、国鉄の現在のものは長い歴史の産物であり一つの文化だ、これを分割、破壊をするのはよくないという御趣旨であったかと思うんですが、その文化の破壊ということだけでございましょうか、それとも別に積極的な理由をお持ちでございましょうか。
  57. 山口孝

    公述人(山口孝君) 私の言葉が足りませんでしたら訂正いたしますが、私が申し上げたのは、経常収支というよりも、あそこでは一般営業損益と、こういう形で改善計画に出ておりまして、これが黒字になっている、そういうことでありまして、一般営業損益といいまして、これは御承知のとおりいわゆる営業収入の中から経常経費を差し引くという形で、いわゆる資本経費とそれから特定人件費を除いております、これを除くと黒字だと、こういうことでございますね。したがって、いわば特定人件費とそれから資本利子に関して、言うならばそのもとである長期債務については政府が別個に手当てをしろ、こういう条件でもう既に黒字基調だと、こういうことを申し上げたわけであります。  同時に私、全国一本、一元の国有鉄道を維持すべきだ、こういうふうに申し上げたのは、文化ということをちょっと強調し過ぎたわけでありますが、やはり私の文化というのはいわゆる人間の物質的あるいは精神的な生活様式、こういうことで物的面、つまり経済的な面も含んでいるわけでありますが、私は経済的に見ましても全国一元が望ましい、こんなふうに考えておりまして、これは、今突然の御質問できれいにまとまっておりませんけれども、やはり日本の場合には御承知のとおりこういう狭い国土の中に比較的人口が稠密に住んでおりまして、この人たちがいわゆる物を移動させ、人間が移動する、こういうようなことを滞りなくやっていくということのためには、やはり料金も一律料金であることが望ましい、こういうふうに思いますね。と同時に、むだな、途中で乗りかえとか乗り継ぎとか、そういうことなしにやはり一本で九州から北海道まで行ける、こういう体系をむしろなぜここで分割しなければならないのか。こういう私の申し上げ方は、いわゆる現在の一元鉄道というのが、いわば日本のような狭い国土で比較的人口稠密な地帯では最も望ましい方法である、むだにそういう摩擦を起こす必要はないのではないだろうかと、こういうことだと思います。
  58. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 一律料金の問題、つまり先ほど来割合話題に出ておりますが、国鉄内部ではいわゆる内部補助の格好で一律料金が行われておる。先ほどの一般経常営業収支損益の問題と、それから人件費の私鉄との比較のお話をさっき先生から伺いましたけれども、御存じのように東京のいわゆる国鉄の電車区間の運賃料金は、これは私鉄と比べると極めて高額になっております。こういう高額な料金の部分が非常に大きな部分を占めておりますからそういう形になるのではないかと思われる点もございます。これが全国一律料金という内部補助が今の国鉄のようにほぼ完全な格好で行われておらなければ、先ほど先生がその前提としておっしゃった点が若干変わるのじゃないかという気がいたしますが、その点についてはいかがでしょうか。
  59. 山口孝

    公述人(山口孝君) 必ずしも十分質問の意図がわかりませんでしたけれども、要するに吉村さんのおっしゃるのは、今大都市周辺の運賃は私鉄運賃に比べて随分高くなっているじゃないか、こういう問題ですね。そういうことが起こったのは結局内部補助の機構の中でそういうことが起こったので、分割民営化すればそういういわば高いところを値下げできるんじゃないか、私鉄並みにと、こういうお話だろうと、そういう感じがしたわけなんですけれども、そこはちょっと違いましょうか。
  60. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 損益が均衡することに内部補助で高いところで得たものを回しておるから、国鉄全体として損益がバランスしているのではないだろうかということを申し上げた。
  61. 山口孝

    公述人(山口孝君) 高いところから回しているから全体がそうなっているのではないか、こうおっしゃるわけなんですけれども、やはり私としては、全国一元鉄道の中でぜひ料金を維持していく。その場合、確かに私鉄料金に比べて大都市周辺の国鉄料金は非常に高くなっている、こういう問題が起こりまして、そこのところについてはやはり十分な配慮が必要になってきていると私は考えておりまして、決して高いのがいいということを考えておりません。  むしろ私が心配しておりますのは、最近聞くところによれば、国鉄分割民営化すれば逆に私鉄はもうかる。それによって今度は国鉄に自由に料金を合わせることができる、そうすればもうかる。だから、むしろ全体として値上げの風潮になると。ですから私は、むしろ現状を維持しながら大都市周辺の非常に高くなっている料金を下げるように当然努力をする、このことが必要であります。これは政策的にやらなければならない問題で、今まで放置されているところが問題だ。  私はやはり、人が乗るということが基本で、その増収を図るためにどうしても必要な運輸手段に対して高い料金を吹っかけてしまったという最近の料金政策ですね、これは間違ったと、こういうふうに考えているんですが、いかがでしょうか。
  62. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 私は、今先生がおっしゃいましたように、都市周辺の運賃料金が非常に高過ぎるということは困る。私鉄がその程度でやれるなら本来国鉄もその程度であるべきなんだが、今高くなっているのは今後の問題として直さなきゃいかぬ。そうすると、それを直していきますために、先生は先ほど来別に民営も分割も必要はない、今のままで黒字基調になっているじゃないかというお話であったものですから、それはそこのところを是正しようと思えば今の黒字基調ではなくなる、つまりもう少しほかの方法が要るんじゃないかということをちょっと申し上げたかったのでございます。
  63. 山口孝

    公述人(山口孝君) その点については、通勤政策として現在のような比較的——今補助金がどのくらいになりましたでしょうか、六十年六千億で現在三千億ぐらいでしょうかね、これをやっぱりふやして勤労者に報いる、こういうことは当然やっていただきたい、むしろその点についてこそ補助金を十分出していいと、こう考えているわけです。
  64. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 よくわかりました。  その辺を最初に伺っておきまして、ひとつ新幹線の問題が先ほどから質問の中にも大変出ておりますし、先生もお触れになっておりますが、現在新幹線が既に三線動いております。それからさらに整備新幹線が現在問題になっておるわけで、整備新幹線の問題につきましては既にもうここ数次の全国総合開発計画で整備をするという方針が明らかにされておるわけでございます。その方針に基づいて、既に三本の新幹線ができておりますが、藤井先生の御意見は、現在できておる新幹線は当然もちろん必要であって、その必要を満たしておるし、将来のものについても必要だという御趣旨の御陳述があったように思います。山口先生は、先ほど過大投資のところで、需要予測の誤りがあって新幹線が資本費の膨大を来したという御陳述でありましたが、そうしますと現在あります新幹線も時期尚早であったというお考えでございましょうか。
  65. 山口孝

    公述人(山口孝君) 現在あります少なくとも東北・上越新幹線の問題なんですけれども、現在の上越新幹線はもう御承知のとおり永久に赤字基調である、こういうふうに言われておりますし、東北新幹線も資本費が非常に多くかかりまして赤字である、こういうことでありますね。ですから、ああいうような巨大なプロジェクトを組む場合にはやはり慎重な需要予測が必要であった、こう思いますし、それから並行線の在来線との関係をどう調整するかとか、こういうような問題について必ずしも十分ではなかった、こう考えておりまして、やはりその点については慎重な討議とあるいは資金に対する手当て、例えばこのものにつきましても借金でやるという形になって、そうなるとまた利子がふえるということになります、国家財政が大きな危機になるということがあるけれども、私はあれだけのどうしても必要なプロジェクト、あれだけのものをやるのでしたら国がせめて基盤ぐらいは金を出すという形でやればよかった、それを全部借金でやらせてしまった。そこに大きな問題がありましたし、それからやはり慎重ないわば在来線との関係とか需要予測もやるべきではなかったか、こんなふうに考えているわけでございます。
  66. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 需要予測をすれば、今先生御指摘のようにある種の線区は私は、未来永劫ということはないと思いますけれども、相当長期にわたって採算がとれないという路線は整備新幹線の中にはあると思います。しかし、整備新幹線を建設してほしいという全国各地の強い要望とか、それをくみ上げるといいますか受けとめて全国に高速交通網をつくっていくという考え方は、必ずしも近い将来に採算がとれなくてもこれはやらなきゃいけないという判断が私はあってのことだと思います。  今先生のお話の中でややそれに近いようなお考えがございましたので、必ずしもそれはやるべきではないと言っているんじゃないというようなふうに受け取れましたのでもう重ねてお聞きしなくてもいいと思いますが、そういう採算的にはかなり遠い将来まで無理があるものでも、必要がある場合、現実の新幹線の今ある部分とか、予定されている部分のうちにはやらなきゃならないものがあるとお考えでしょうか。
  67. 山口孝

    公述人(山口孝君) どうも失礼しました。先ほどはいわゆる既存の新幹線の問題しか触れませんで、今後の整備新幹線の問題については申し上げませんでしたが、私は住民の要望で悲願ともなっているような御承知の今の盛岡から青森、札幌というような線ですね、あるいは九州あるいは北陸新幹線、こういうようなものにつきましてはやはり十分審議を尽くして、本当に住民が必要だという要望であればこれを手がけていくのがいいだろうとこう考えますが、ただしその場合には従来の轍を踏まないように、また借金による利子がふえる、こういうことでは困るわけで、そこのところをきちんとした上でやっていただく。そのためには建設費も本当に節約をしていただかないといけませんね、本当に節約する。そしてその資金は私はやはり国家予算でやるのが一番いいと思っているんですけれども、そういうような形で必要ならばやるべきだ、こう考えております。
  68. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 どうもありがとうございました。大変はっきりわかりました。  それから貨物の問題がこれまた先ほど来かなり話題に上っておりますが、私は国鉄といいますか鉄道の貨物輸送については、現在の姿というのは、一つの原因によって非常に顕著な影響を受けたんじゃないかとかねがね思っておるわけでございます。と申しますのは、いわゆる貨物の立て直しを国鉄が考えて、そしてコンテナを活用することによって、そしてまたその特性を生かし得る路線を十分に増強することによって将来の活路を見出そうとしたことがございます。その結果かなりな成果が上がって、貨物の輸送量が年々相当に、特にコンテナの輸送量がかなり顕著に伸びておったときにたまたま長期のストがございました。  このストの結果、当時国鉄の貨物を利用していた顧客が大変大幅にいわゆる国鉄離れを起こしたという事態がございます。それが非常に大きな現在の国鉄貨物の衰退の引き金になったというふうに私は思っておりますけれども、両先生のお考えを伺いたいと存じます。
  69. 山口孝

    公述人(山口孝君) 貨物輸送問題なんですけれども、これは御承知のとおり、国鉄は一時ヤードを物すごく近代化しまして物すごい投資をしたわけなんですね。ところが、ヤード輸送というのが現在の非常にスピードアップした貨物輸送に適応できないというようなことから、御承知のとおりコンテナ輸送にかわってかなりその面では収益を上げてきた、こういうふうに承知をしておりまして、だからやはりヤードでやるというやり方を十分生かし切れないうちにコンテナ輸送というふうにかわった。その辺のところをやはり考えなければいけないな、そんなふうに私は考えております。もっとも、そのヤードが膨大な含み資産になっておるようでありますけれども、それは別として、そういう問題が一つあったわけであります。  それから先ほどおっしゃいましたストというのは、たしかあれは五十年の十一月二十六日ごろから一週間にわたってあった。これが非常に貨物離れの原因になったんじゃないか、こういうふうにおっしゃっているわけでありますが、その問題について基本的に言えば、日本のいわば公共企業体の労働者がスト権を剥奪されているというそういう根深い問題がありましてああいう事態になってしまった。そこの是非から論じなければならない、そんなふうに私は考えております。同時に、そういう言われ方をしておりますけれども、むしろやはり私はそれよりも、モータリゼーション化、トラック輸送が安くて便利だからこれにとられていったわけで、一時的なストによってもう懲りたというふうに言われているものではないだろうと私は考えているわけです。
  70. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) ちょっとぼんやりしていましてどこの部分の……
  71. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 貨物が現在非常に衰退しておりますが、私はその大きな原因、私は転換点がストによって顧客の信頼を失ったことにあるのではないかという考え方を持っておりますが、それについていかがでございますか。
  72. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) 大変失礼しました。  今吉村先生のおっしゃった点が非常に大きな転換点だったというふうにも思います。ただ、私は山口先生と若干意見が違いまして、全体的な流れは、軽薄短小というような言葉にあらわされますように、鉄道の特性よりはむしろトラックの特性に合ったようなそういったような産業構造になってきてしまっている、そのことはやはり基調としてはあったと思います。それがある意味で激変の形であらわれたのは先生の御指摘の点があったかと思いますけれども、その程度でよろしいでございましょうか。
  73. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 わかりました。  貨物問題は、今後の国鉄問題にとっては私も一番重要な問題の一つだと思うわけでございます。それで、私個人の意見としては、鉄道貨物が生き残り得る分野というのはまだかなり残っておるという気がいたします。しかし、そのためにはやはりどうしても顧客の信頼を再び取り戻すということがぜひ必要だという気がするわけでございまして、その顧客の信頼を取り戻すということのためには、先ほど山口先生も若干お触れになりましたが、今の公労法の問題からよって来る深い根がある問題ではありますが、やはり私は、公企業体として労使ともに甘えがあったということ、顧客の信頼を失うということの重要性よりもそれぞれの主張を通すことの方にあったという、そのいわゆる公企業体の甘えにあったのではないかという気がいたしますが、この点については両先生どうお考えでございましょうか。
  74. 山口孝

    公述人(山口孝君) 今おっしゃいました貨物輸送の問題につきましては、少し意見を申し上げたいんですけれども、新会社になりまして新しい貨物鉄道についてというような運輸省の試算も出ているわけでありますが、あれは非常に不思議でありまして、たしか七月か八月の臨調答申では貨物問題については抽象論で何も数字が出ませんで、そして十一月に運輸省で出せということで、しかもそれも運輸省で十一月末までに出ませんで、十二月の二日ごろに出た。十二月ですね、かなりおくれましたよね。そして、その内容も極めてあれ無理して一千二百万ぐらいの黒字をつくっているという感じですね。しかもそれは、先ほどちょっと藤井公述人もおっしゃいましたように、今の既存の国鉄でやっていない方式ですね。つまりアボイダブルコストという、今四人家族の中で一人が外へ出ていった場合に減る費用が貨物の費用だと、こういうやり方をするわけですね。だから、極めてわずかな共通費しかこの別会社である貨物会社に負担させないという方法を考案しまして、まあイギリスのやり方のようでありますが、そうして辛うじて黒字をつくっているけれども、果たして黒字になるかどうかわかりません。  その点については、吉村さんおっしゃるとおり、貨物については抜本的な方策を考えなければいけないと、そういうことでありますね。そして、その抜本的な方策を考えるという場合に労使協調でなければいけない、こういうことで、ストをやっちゃいけない、こういうふうなところに結論を持っていかれましたけれども、もうその次元ではないところでこれはやはり抜本的に考えなければいけないだろうと、私はそう考えております。
  75. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 藤井先生はどうお考えですか。
  76. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) 私ども、貨物の問題についてはなかなか難しいだろうと思いますが、確かに今先生言われましたように、特性を非常に発揮して行えば、例えば現在のところトラックの輸送量が幹線で非常に多いわけですけれども、もっと利用運送をインセンティブを与えるようなやり方があるのではないかというふうには、これは吉村先生の御本なんかも拝見しているわけですが、私もそういうふうに思ってはおります。  ですから、どこら辺までインセンティブを働かせることができるか。一つには、なるべく規制は緩やかにしてもらいたい、経営の人のなるべく自由なインセンティブを働かせるように。ただ当面は、どちらかというと、言葉は悪いんですが、運び屋的なところに徹する方が、まだ外へ行ってマーケットを確保するだけの人材がなかなか育つかといいますと、先ほどからお話しのように、長い間の公社の生活でございますので、ある程度時期が必要なんじゃないか。その育つのを待ちながら総合物流的なところまで拡大していくのがよろしいのではないか、そういうふうに考えております。
  77. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 それでは最後の問題といたしまして、いわゆる公共性と言われる問題のうちの、地交線といいますか地方交通問題、これにおきます内部補助問題でございますね。先ほど来お話を伺っておりまして、山口公述人は全国一本で国全体で内部補助をやって平等にやれ、こういう御趣旨のようでございます。藤井先生の方は、先ほど来伺っておりますが、この分割をした範囲での内部補助、これはやはり必要だとお考えになりますか。
  78. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答えを申し上げます。  私は、元来は線区別な運賃が可能ならばそれが望ましいと思っております。コストに見合わない運賃といいますのは、それを主張することは間接的にほかの人が負担しろと主張しているわけです。私は、そういうような主張というのは不公平ですし、それから非効率であるというふうに考えております。ただ、現実の問題として、一つ一つの線区に違う運賃というのは、これはなかなかつきません。ですから、実際の問題としてはある程度平均化された運賃にならざるを得ない。したがって、その範囲において内部補助というものも存在するでしょうし、あるいは赤字線と申しますけれども、これは山口先生おられてなにですけれども、私ども経済学の方で言う完全配賦費用という概念から出てくる赤字線でありまして、共通費とか培養効果を一切考えていないわけです。それらを考えますと、実は放置しておいても赤字線でありながら企業が維持する場合があり得るわけです。その範囲を超える内部補助というのは、私は元来は望ましくない。ただ、実行上の問題としてはかなり平均化されることはあり得るだろうと、そういうふうに考えております。
  79. 吉村眞事

    ○吉村眞事君 両先生、大変ありがとうございました。大変参考になりました。参考にさせていただいて慎重に審議をしたいと思います。
  80. 矢原秀男

    ○矢原秀男君 御苦労さまでございます。時間の制限がございますので、端的に質問してみたいと思います。  藤井先生は交通の専門家でございますので、まず一つは、将来といたしまして二十一世紀にわたる新幹線というものはどうなのかという問題でございますが、順序といたしましては、この国鉄の改革が万全でなければいけない。第二番目に検討されるのは、きのうも議題になっておりましたが、整備新幹線、これは財源の問題、地方線に与える影響、いろんな問題があると思います。しかし、年月は人を待たずに行くわけでございますけれども、収支の黒字、赤字という段階から見たときに、私は、我々運輸委員会で中央新幹線という陳情を名古屋から奥に入るときに承りました。それはリニアモーターカーを使えば、現在五百キロの時速でございますけれども、実用化の段階では四百キロで、東海道の新幹線を東京から大阪まで使うときには一時間三十分近くになるであろう。こういうふうな問題が中央新幹線という形のところに提起されたときに、一時間半で大阪まで行く。観光の面からも経済の面からも、いろんな面からも恐らくこれは将来黒字基調になると思います。しかし、整備新幹線というものがもしできたとすれば、これはさらなる赤字に転落するかもわかりません、関係する中では。  そういう意味で藤井先生、二十一世紀、このリニアモーターカーというすばらしい鉄道の技術が日本の中で活用できる時期、実施する営業の段階としてそれはいつごろなのかということを、簡単で結構ですからまず一点お願いします。  第二点は、先生もいろいろ御心配されていらっしゃいますけれども、六分割に分かれた場合に、三島は不採算の路線であるということで維持のための基金、これはもう明らかだと思うわけでございます。先生はその中で、前渡し補助の制度の意味もあるなとおっしゃっていますし、事後的な欠損補てんよりも経営改善の意味があるというふうな中で、額が十分であるか、そしてまたインフレに対応できるかというふうな御懸念もされているわけでございます。そういう中で国会の論議は、北海道、四国、九州は、監理委員会意見に対して、後に入ります国会審議では、それぞれちょっと心配であると額が上乗せになりました。こういう問題について、これでもういいのかどうかという、他要件を分析した場合に私も懸念をしておるわけでございますけれども、先生の御意見を伺いたいこと。  そして、今お話がございました貨物会社でございますけれども、特性を発揮するとしても、現在の貨物のトンキロベースを見ておりますと五十九年五・二%になっておりまして、その将来を非常に私も懸念しておりますけれども、三島基金と同じようなものが思い切って貨物会社にも必要ではないかと私思うのでございますけれども、先生はいかがでございましょうか。  それから最後の一点でございますけれども、先生も、特定地交線の問題、これをきのうも議題にしておりましたのですけれども、過疎バス転換の場合に学生の割引が三倍から四倍になっている。そして交付金で、種目は三点に分かれておりますけれども、定期に対する補助は在学生には見てあげましょう、しかしもし議論が沸騰すれば五年ぐらいは延ばして検討をしたいというふうな形でございますけれども、新入生は地続きでずっと来るわけでございますがこれに対する交付金という体制は完全に壊れてくるわけでございます。そうすると、教育の機会均等とか、こういう特定地交線の展開する教育環境とか、今八十線少しが決定をして四十五が実施されておりますが、こういうことになりますと、その沿線の子供たちの将来に対して、家庭の破綻、そして非常に毎月そういうふうに、きのうも言いましたけれども、定期は六千円のものが二万五千円ぐらいになってくる。大変な様相でございますけれども、これらの将来に対する参考の御意見を伺いたいと思います。  それから山口先生にお伺いをしたいのでございますが、先生は会計学、経営分析論の御専門でございますので、私も、昭和二十年から今日までの国鉄の財政の推移、そういうような問題を見させていただいているわけでございますが、先生のお考えの一端は、国鉄のいろんな諸問題の、経営計画の特徴というものについて数点に分けて述べていらっしゃいます。  一つは、設備投資先導型であった。利益計画よりも投資計画が先行し、国鉄工事に伴う膨大な需要を独占資本に与えた。二番目には、暫定的性格であった。いつも計画を完遂する前に挫折をする。その原因は、無理な需要予測、インフレーション、金利、そして減価償却費などの増大による。三番目には、負債依存型である。計画に伴う設備投資の多くは政府出資によらず、借入金に依存する。四点目には、運賃値上げの必然性。計画遂行のためと称して運賃値上げが必ず織り込まれている。  こういうふうな数点を私今申し上げましたが、この中で一点だけ、こういう形の中で先生に伺ってみたいと思うのです。運賃値上げの問題でございますけれども、民間に移行をするわけでございますので、収支のバランス、経営の効率化の中でどうしてもこれが先行すると思います。そういう中で、運賃の認可と規制というところでございますけれども、今度の鉄道事業法案の、今審議をするわけでございますが、十六条に運輸大臣の許認可という一つのものがあるだけでございます。そういう中で、最高運賃の規制というか天井と、そうして家庭経済という、そういうバランスというものは必ず私は上限というものはある程度は決まっておらなければいけないなということを、それは年々上がってくるでしょうけれども、決断を下すときが必要だなと思っているわけでございます。そういうことでございますので、先生の専門の立場から見て、そういう最高の上限はこれが限度ですよということが学問上、また先生の経験上、もしございますれば参考の上で聞かしていただきたいと思います。
  81. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答えいたします。  最初の問題は新幹線の問題でありまして、現在の整備新幹線が全部建設される方がいいかどうかというのは私はかなり疑問に思っています。先ほど申し上げましたのは、歯どめ、例えば私が考えておりますのは、三十年とか四十年、現在上越新幹線の鉄建公団の償却が四十年でございますが、その程度の範囲内で、利用者負担で償還が可能な歯どめというのが一つ考えられるのではないかというふうに申し上げたので、その点からいきますと、整備新幹線のうちどの程度がのってくるか、それに入るかどうかは、全部が入るというふうには私には考えられませんので、その点はちょっと補足して御説明申し上げたいと思います。  それで、先生の中心となるお話はリニアモーターの新幹線ということでございますが、あいにく私はまだリニアモーターについて詳しい知識がございません。確かに技術研究所あたりへ伺いまして一応の御説明を伺いましたけれども、何しろ実際に人を乗せるのは、これからモデルをつくる段階でございますから技術的な予測が不可能な部分がまだかなりあるように思います。現在の段階でそれが収支が合うかどうかというようなところまではまだ結論ができないのではないだろうか。もう少し技術が安定して諸元がわかってから先生の御質問にお答えする私の能力ができるかなと、そういうふうに考えております。  それから二番目に三島の基金の問題でございますが、これも先ほど先生、私の意見として額が十分か、インフレに対応し得るかというふうに言われまして、確かに私はそういうふうに書いたことがございますし今でもそう思っておりますが、これはどちらかといいますとむしろ、まあこの議論自身が額が増額される前でございましたというのも一つあるわけです。インフレに対応するかどうかというのは、元来はその基金を運用して対応していくべきものであります。ただ、その点で、運用に当たって、リスクを冒すような運用の仕方が許されるかどうか、これはかなり問題がありますので、その点でインフレ対応に必ずしも十分でない条件が起ってくるかもしれないという危険は私は感じております。ただ、その場合は、むしろ個々にケースとして処理した方がいいのではないだろうか、今ここで一律の基準で処理するというのはなかなか難しいのではないかというふうに考えております。  それから三番目に、貨物についても三島基金と同じような基金を設けたらどうだろうというお話でありますが、私は、三島基金の場合には、先ほど安恒先生のお話でちょっと言い過ぎたかもしれませんけれども、鉄道にもやはりミニマムの部分というのはあるわけです。先ほど申し上げましたように、特定地方交通線の中から除外されているような線区もあるわけでして、この三島基金というのは基本的にはミニマムの援助のための基金であろうというふうに思います。貨物の場合は、私はその特性を生かしてむしろ経営努力によって生き残るべき部分であろうかと思います。したがって貨物については、基金というような先生の御提案でもありますけれども、私はむしろ自主的な経営にまちたいというふうに思っております。  それから四番目に、バス転換、学生の問題でございますけれども、確かにお話しのとおりバスに転換いたしますと通学定期が約三倍ぐらいになる。これは、一つには国鉄の賃率が全国画一賃率でバスよりも低い賃率になっていること、いま一つには国鉄の通学定期の割引率が七五%だったわけなんですが、バスの場合には一般に四〇%の割引になっています。その両方が効いてしまってバスに転換すると非常に高い通学定期になる、それはそのとおりなんでありますが、お考えいただきたいのは、ほかのバスの学生は高いバスの定期で通っているわけです。したがいまして、一般的にこれは教育の問題として措置されるべきで、転換の問題というのはその転換の期間に限って措置されてしかるべきでないかというふうに私は思っております。総理府の統計で調べますと、鉄道を利用する通学生よりはバスを利用して通学する者の方が平均的な所得水準が低いという結果が出ておりますので、バスの通学定期を何とかもう少し、例えば高校生について大幅な割引ができないかというのは私もそう思いますけれども、それは国鉄のバス転換ということではなくて教育の問題として考えていただきたいと先生方にお願いしたいと思います。  以上でございます。
  82. 山口孝

    公述人(山口孝君) 運賃規制の問題なんですけれども、その前に私の「激動の中の国鉄」というのをよく読んでいただいて御理解いただいていて非常にありがたく思うわけでありますが、現在御承知のとおり運賃問題が大変な問題になっておりまして、先ほどもちょっとお話が出ましたように、第三セクターになりますと運賃が三、四〇%値上がりしますですね。それからバスになると二、三倍上がるということで、これはやはり分割民営化は困る、そういうことを一層強く考えるわけであります。  ところで、運賃に歯どめをかけたいというようなことを私も考えるわけでありまして、運賃に歯どめをかけるにはどうしたらいいかという基準があるだろうかということなんですけれども、私の今まで書きましたものから結論を申し上げれば、一つはやはり、先ほどおっしゃいましたように、今まで設備投資を先行させながらしかも借金でやっていくという形で金利負担がふえる、こういうようなものを今までは運賃で負担していく、つまり運賃の中には資本コストが入るんだという造成資本説の考え方がありましたね。これはやはりやめるべきであろう。  やはり運賃というのはこれはまさにランニングコストを一つの基準として決めるべきであって、そういう資本コストまでも負担するには耐えられないだろう、これが一つあるわけであります。したがって私は、運賃決定はランニングコストを一つの基準にすべきであって、資本コストを含むべきでない。したがって、その面から言えば、いわばランニングコストの上昇の範囲というものがぎりぎり運賃を上げる範囲である、こう考えますし、別の言葉で言えば、そういう長期経営計画の投資計画というのがあればこの分は別個のものとしてよほど慎重に考えていただかなければ困るだろう、こんなふうにちょっと考えているわけです。
  83. 内藤功

    ○内藤功君 両先生には非常に貴重なお話をいただきまして、また今までお書きになったいろんな論文、文献等を拝見させていただいております。時間の関係で山口孝先生に三点ほど御質問申し上げたいと思います。  第一点としましては、今日国鉄は列車を走らせることによって一日六十七億円の赤字が出るんだ、だから一日も早く民営・分割化にしなきゃいかぬと盛んにこういうふうに急ぐ意見がちまたにございます。一体、この実態はどうなんでございましょうか。特に昭和六十年度の営業収支は三千百八十九億円の黒字であるということもまた一面言われております。会計学御専攻の立場からもしこの問題についての御試算があればぜひそれもあわせてお示しの上お考えを伺いたいというのが第一点でございます。  質問を先に申しますが、二点目はヨーロッパの先進諸外国の鉄道制度の問題をお聞かせいただきたいのです。それは私どもいろいろと調べてみます中に、例えば西ドイツの区分会計制度ということが言われ、またフランスの法律制度では交通権というものが最近規定をされているということを知りました。そういう交通権というものの思想、これなどについてヨーロッパの鉄道制度の事情についてお聞かせいただけないか、これが第二点でございます。  それから三点目でございますが、お話の冒頭の部分で、今度出された関連法案は法案として見た場合に非常に雑駁で非常識であるということで幾つかの条文をずらずらとお挙げになったわけでございますが、できましたら、その中のどれでも結構ですが、一つあるいは二つにつきまして具体的に、こういう点が法案として非常識とお考えになるのだということの御説明をあわせていただければと思いますが、以上三点についてお願いをいたします。
  84. 山口孝

    公述人(山口孝君) 内藤さんから三つの質問がありました。  一つは、六十七億円毎日赤字が発生しているんだと、したがって早く分割民営化しなければとめどなく赤字がふえるんだ、こういうことであります。この内容は一体何だろうかというので私も非常に気になっておりました。例えば、この六十七億円という試算そのものも、御承知のとおり六十年度の全体の赤字が一兆八千四百七十八億円でありまして、それ以外に例の特別措置での利子の支払いが三千四百五十七億円ございます。これを足しますと二兆一千九百三十五億円、それを三百六十五日で割ってみたわけでありますが、こうしますと一日六十・一億円になりますので、七億円足りないんで、これは一体どうなっているんだろうかと。これはこういうときに直近の赤字を入れているのかな、中間決算までのところでやったのかな、そういう感じがするんですが、私の計算ではどうも六十億円というようなことになるわけであります。じゃこの赤字は何から発生しているか、これは非常に難しいわけでありますが、私は一つの基準として先ほど例に挙げました大手の私鉄十四社と比較をしてみまして、特にコストの中で飛び抜けて大きいものがございます。それが三つありました。  一つは、例の利子であります。利子が非常に大きくかかっている、これは先ほど申したとおりであります。これが私鉄その他に比べますと一九・一七%も多いわけであります。それから減価償却費も非常に多いわけであります、これが七・一九%。それから特定人件費が非常に多い。この多い分を六十・一という形で配分をしますと、結局利子の異常高から生じている部分が二十億円であります。それから償却部分が八億円であります。それから特定人件費が三十三億円ということになります。ですから、言うなれば過大な利子とそれから過大な償却とそれから例の非常に六十年度に退職者がふえたということも含めた特定人件費の激増、この分を含めましてこれが三十三億円で六十一億円になる、こんなふうな計算ができると思います。  時間が余りないようでありますが、二番目に、ヨーロッパの先進諸国でどうなっているのかということでありますけれども、御承知のとおり、西ドイツでは区分会計というのをやっておりますね。これはいわゆる鉄道会計を三つに分けまして、その一つ企業的領域、こういうふうに言われる部分でありまして、さしずめ日本で言えば、今どのくらいですか、二万一千キロか二万キロぐらいになりましたか、そのうちの一万一千キロが幹線鉄道ですね、これは企業的領域と、こういうふうに言っていいと思います。それから、あとの一万キロか九千キロでしょうか、この辺が地方交通線でありまして、これが公共的領域と、こういうふうになりますね。企業的領域、公共的領域、それからもう一つは国家的領域、これを通路と書いてあるわけでありますが、こう三つに分けるわけであります。  そしてもちろん、国家的領域というところでは道路と同じような形でそこで投資をやっていく、こういうことをやる。そして企業的領域では私鉄と競争していく。そして地交線と言われる部分については、これだけ一生懸命やっても赤字が出た、これについては補助を出すと。企業的領域は、企業として合理的な経営をやれ。地交線に対しては補助金を出す。それから国家的領域については全部国が出資ないし投資をする。こういうやり方をして、そこで働く経営者やあるいは従業員の役割分担が明確になったということで非常に評判がよろしい、こういうことを聞いているわけであります。  それからもう一つは、フランスではいわゆる交通基本法というのがミッテラン政権のもとでできまして、ここでは、要するにいわゆる全体の総合交通体系をつくっていく、こういう中でのいわば国鉄の役割を明確にすると。その基礎は言うまでもなく、いわば人には、自由に移動をし、そして情報を自由に通じ合う、それを安く行う、しかもその交通に関する情報もできるだけ多く取得できるという権利が基本的に与えられなければいけない、こういう発想に基づきましてそのような交通基本法ができまして、その中で今まで廃線化されましたような地方交通鉄道も復活をさせる、こういうような政策もとられている、こういうことはあるいは御承知だろうと思います。  その中で、一つはサッチャーのイギリスでは、いわゆる合理化ということで地方交通線をかなり切っていく、こういうやり方をしていることも御承知のとおりだと思いますが、けれども、サッチャーといえども国鉄全体を民営化するという発想はないんですね。その赤字のものを切るというところであります。したがって、御承知のとおり、イギリスでは全体の営業収入に対して五四・六%の補助をしております。それからドイツでは七四・三%の補助をする、フランスはもっと多くて八七・五%。これに対して日本では現在六十年度で六千一億円、営業収入に対して一八・八一%しか補助をしない、こういうようなことになっておりますので、やはり国鉄に対してはもうちょっと補助をふやしながら経営の改善をしていけばすばらしい全国一元の国鉄が維持できるのではないだろうか、こんなふうに考えております。  それから時間がありませんので、法案の中の不十分な点、まあちょっと極端な表現で、ずさんなもの、非常識なもの、こういうふうに考えたものがあるわけでありまして、例えばたしか特殊法人になります清算事業団とかその他については、財務諸表というところに貸借対照表、損益計算書、財産目録というのがついているわけですが、あの財産目録とは一体何かというのはどうも解明されないですね。  なぜかといいますと、純粋な意味の財産目録は財産の清算価値による評価ですね、リストアップであります、これをやってくれれば大変すばらしい、そう思います。実は私は、これを今からもう二十年前からやっていればやはり国鉄に対する認識が変わったと思います。つまり、一方では赤字があるけれども他方で時価評価すればこれだけの財産があるんだということが明確になれば認識が変わったと思いますが、果たして今度清算事業団その他に適用される財産目録なるものが、今申し上げた時価評価による財産価値を表示するものなのか、あるいは単純に貸借対照表から資本の部分を除いたものだけなのか、この辺ははっきりしない、こういう問題がございます。  それから先ほどちょっと申し上げました、いわば新しい会社についての新たな資本金額については限りなく資本金を小さくできる、これも非常識でありまして、一般の商法では、できるだけ資本金をふやすという発想で商法改正が行われたばかりであります。五十七年に、商法改正に基づいてプレミアムを全部資本準備金へ入れないで発行総額のうち二分の一は必ず資本金へ入れなさいという規定ができたのに、なぜか国鉄では二分の一を超えて資本金に入れないことができるという、こう逆の条文が入っているわけですが、これはやっぱり非常識だというふうに私は言わざるを得ないわけでありまして、その他幾つかありますけれども、まだ時間がございますでしょうか。  もう一つ申し上げれば、新幹線保有法の中にいわゆる国土の均衡ある発展を趣旨として新幹線保有機構をつくるんだと書いてありますけれども、それならば、地方交通線も含めて国土の均衡ある発展ということを言うべきであって、現在の新幹線だけで国土の均衡のある発展を期すということは無理ではないか、こういうような点も御意見を伺いたいと思いますし、その他いろいろとありますけれども、以上にとどめておきたいと思います。
  85. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 藤井先生、山口先生、本当に貴重な御意見を聞かせていただきましてありがとうございました。藤井先生の方に新幹線の保有機構ということについてちょっとお聞きをしていきたいんです。  改革法をごらんになっておわかりになっていると思うんですが、いわゆる国鉄は全国一元的に経営をしてきたからだめになっちゃったといって、こう分割をと、こういうようになったわけなんです。ところが新幹線の方では、利用者の利便を考えて一つにしておくのだといってこの保有機構をつくる、こういうようになっているわけなんです。その辺のところに矛盾をお感じにならないかどうかということが一点です。  それからもう一点は、先生は新幹線保有機構に新幹線だけではなくて高速道路も含めてやったらどうかというように先ほどお話があったんですから、一つのアイデアだなと思ってお聞きはしておりましたんです。ところが、高速道路を走っているのは当然通行料を払っているわけだけれども、あの高速道路の建設というのについては、自動車のガソリン税だとか重量税だとかいろいろほとんどユーザーが負担しているのがかなりのウエートを占めているわけなんです。したがいまして、もしそういうことになると、高速道路を走る人は当然これは通行料を払うべきだけれども、一般のいわゆるガソリン税やそういうものはずっと減らしちゃってよろしいという、そういうお考えにつながるのかどうか。  その二点をお聞かせいただきたいと思うんです。
  86. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答えいたします。  最初の件で保有機構のことでございますけれども、保有機構は実際の運用、利用に当たる機関ではなくて、収支調整の機構になっているわけです。したがいまして、これは新幹線については巨額の資本投資が必要で、その資本投資を調整する機関としてつくられているわけでありまして、私はこれが全国一本の形というのは、お話しのところは、利用も全国一本ということと全体的な収支調整ということとはやはり違うのではないかというふうに考えております。  例えば、先ほどこれは山口先生の、先輩でいらっしゃるので大変失礼ですけれども、学問上のことでお許しいただきますが、例えば東北・上越新幹線につきましても、上野へ開業してからまだ一年か二年しかたっておりません。そのときに赤字であるのはこれは当然でありまして、初期においては償却の資本、償還の資本、利子の資本が非常に莫大にかかります。したがって、三十年、四十年というような長い間にわたって評価されるべき投資につきましては機構を変えるというのが保有機構の考え方ではないかと思うんです。そういう意味で、私はむしろ巨額の資本投資が必要だということの場合、単年度主義でやりますとこれは非常に巨額な資本投資が初期に出てまいりますので、それを避けるために保有機構というものがつくられる、私はそういうふうに理解しております。  それから、いま一つの点で高速道路のことを言われましたが、ちょっと私言葉が足りなくて先生の誤解をお招きしたかと思いますけれども、私は高速道路もその中に含めてというのではなくて、高速道路の方式と同じような方式を鉄道でとる場合に保有機構というシステムが利用できないか、そういう意味で申し上げたわけです。つまり、道路公団のような機構として考えることはできないだろうか、そういう形で申し上げたわけです。御案内のように、道路公団の場合には償還方式をとっているわけです。したがって、単年度決算ではなくて、後の利用量が多くなった人にも負担してもらうという形で、これは空港整備特別会計が借入金をやったのと同じ考え方がとられているわけです。そういうようなシステムを高速鉄道の整備にも考えたらいかがでしょうかということで、保有機構というものを高速道路方式を適用したらというふうに申し上げたので、高速道路も保有機構でやれということを申し上げたつもりではございませんので、その点は御訂正をいただきたいと思います。
  87. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 ありがとうございました。  道路公団の方は、また私なりの意見もあるんですけれども、それはもう先生のお話だけお聞かせをいただいて終わりたいと思います。  それから山口先生の方にお聞きしたいのは、今藤井先生もちょっと触れられたんですが、先ほど東北新幹線はもう永久に黒字にならないとおっしゃられたと思うんです。これは私も藤井先生と同じように、かなりの資本費の負担の中にいわゆる東北新幹線の開通というものが大幅におくれたんです。その大幅におくれたのが全部資本費へかかっていってにっちもさっちもいかなくて、わかりやすく言うと、私なりの言い方をさせていただきますと、国鉄が今日のような破綻を来す大きな要因の中の一つというのは、コスト意識というものがないんです。民間の企業ならそんなことはないんですけれども、そこのところが公共企業体といういわゆる国営でやってきたがゆえにそういうコスト意識を持たないでずっと来た。  したがって、今度のこの法案の中でもそうなんですが、今希望退職二万人を募っているわけなんです。きのうの話で、ほぼ一万八千人に達したというわけでいくんですが、この法案審議をしているときは五月だった。そのときに、これは答弁するのは運輸省の方ですが、私が言ったことは、来年の三月三十一日までに希望退職を申し出ればその人たちには退職金の上に十カ月加算をして差し上げるということでしょう。考えてみていただきたい、今五月ですよと。こうした合理化をするというならば、私なりに考えるならば、九月末までに申し出ていただければその方には半年分の給料を払わないで済むんだから、じゃ十カ月じゃなくてそこへもう二カ月上積みして、十二カ月の退職金の上積みをして差し上げましょう。そして、そういうふうに希望する方はできるだけ早く希望を申し出ていただいて、そのかわりそれだけ余分にそういう退職金をふやしてあげて、それで就職口も探してやるということ、それが本来の姿ではないんですかと言ったんですけれども、運輸省からの答弁は、いえ、来年の三月三十一日までいいんです。十カ月をふやすわけにはいきませんと言う。  私のようなやり方をすれば、十カ月を十二カ月間に上積みした退職金の加算を払っても、これは概算ですけれども、私がそのときにこうやりながらあれしていって約四百億ぐらい国鉄の経費は浮くんです。ところが、それでもそういうやり方をしないというか、考えないというか、その辺のやっぱりコスト意識。ですから、そういう状態にあるということを御理解いただいても、現状のままでよろしい、従来どおりの公共企業体のままでしておけ、全国一本にしておけというお考えなんですかということをお聞きしたいのです。
  88. 山口孝

    公述人(山口孝君) 先ほど私が申し上げました東北・上越新幹線で多分永久に赤字と申し上げたのは、上越新幹線の方ではなかったかと、そう思います。あちらは永久に赤字だと、こういうふうに言われています。  そこで、東北・上越新幹線がなぜ相当期間赤字になるか。これは結局建設期間が長引いた、こういうふうにおっしゃったのですけれども、私は建設期間が長引いたということよりも、建設費が随分ふえた、これはもう十分御承知のとおりですね。たしか八千億円が一兆八千億円になりましたね、あれは東北新幹線の方でした。そういう形で上越新幹線も随分当初のいわゆるあの投資額を大きく外れたもの、これは期間が長引いたからそうなったという点もありますが、当初の予算がずさんに立てられている、ここがあったと思います。と同時に、私の持論になりますけれども、それをいわゆる全部借金でやらせたというところに大きな赤字の原因がありまして、今柳澤さんがおっしゃった、やっぱり官僚主義でタイミングが悪いぞと。こういうこともわからないわけではないわけでありますが、私は主要な原因はそこのタイミングのことよりも、当初の投資計画のずさんさと、それからやはり借金によってそれをやったこと、こう考えざるを得ません。  それから、あとの退職金の勧奨の問題、これについては御意見を承るということにしておきたいと思います。
  89. 秋山肇

    秋山肇君 藤井、山口両先生から貴重な御意見をお伺いしたわけでありますが、まず最初に藤井先生にお伺いをいたしたいと思います。  国民は知らないうちに国鉄にこれだけの大きな累積赤字があったというふうに思っているわけですが、その中で、先生は先ほど全国ほとんどローカルのところまで乗った経験がおありになるということであります。いろいろな観点からほかの先生方からも質問がありましたので、私は、私鉄にお乗りになった場合と国鉄にお乗りになった場合、先生のお感じになったそのサービスに対する比較をお述べいただきたいと思います。
  90. 藤井弥太郎

    公述人藤井弥太郎君) お答えいたします。  これは大変私の主観になってしまうのですが、私が感じましたことは、一点ございましたのが、なぜ国鉄の運転士さんたちは運転台の後ろのカーテンを引くのであろうかという点です。これは私は乗り物が好きなものですから必ず前へ行って外を見るのですけれども、今ではそうではありませんけれども、前までは運転台の後ろのカーテンをお閉めになる。それはどういうようなことなんだろうかという点を非常に感じたことがあります。お客と自分たちを切り離すという考え方がおありなんだろうかどうか。私はむしろカーテンをあけていただいて、車内がどうなっているのか運転士さんにもときどき見ていただく、あるいは車掌さんにも見ていただく、あるいは乗客の方でも、私なんかは子供を連れて前を見せますと子供は非常に喜びますので、なぜそういうような発想が出なかったのだろう、その点を非常に感じたことがございます。  それからもう一つは、国鉄の気動車の色はなぜあんなに汚いかという点でありまして、このごろ、最近は非常に明るい色になりましたけれども、確かに赤の一色というローカルの気動車の色は供給上は非常に安く整備ができるだろうと思いますが、余りにも供給者側の発想が強過ぎるのではないかというふうに私は思っておりました。私鉄の場合には御案内のようにちょっと色の洪水ぐらいに勝手な色を塗りますので、これもいささかどうかと思いますけれども、感じました点を申し上げれば、今思いつく点はそういうようなことでございます。
  91. 秋山肇

    秋山肇君 利用される方々も当然今の先生のお考えと同じような感じ方をされると思うんですね。それで、これは民営化になった場合に、そういう今の運転席を仮に仕切っているというような姿勢、これはぜひ直していかなきゃいけないと思うんです。  続きまして、山口先生にちょっとお伺いをいたしますが、先生は先ほど鉄道が日本の文化であるというお話がございました。確かに百十四年、五年になんなんとする歴史を持っているわけですし、日本の新幹線からまたローカルのところまで隅々まであるわけですが、その辺逆に、今藤井先生のお話にありますように、どちらかというと、乗せてやるんだと。乗っていただくんだという姿勢が欠けていたというふうに私は思うわけです。先生から、全国一本化でいい、今のままで十分再建ができるというお話がありましたけれども、この点についてやはりなかなか国民の皆さんはそういうふうに思っておられないと思いますので、これは私見で結構ですから、ぜひひとつ御参考意見をお聞かせいただきたいと思います。
  92. 山口孝

    公述人(山口孝君) 私は、実はきょう五時から明治大学の方の教職員国鉄問題で話をするわけでありまして、そのポスターを持って大学の職員のところに行きましたら、女性が言うわけです。きょうは先生ばっかりか、国鉄職員は来ないかと、こう言いますので、いや、一人来るよと。私は国鉄職員にあこがれていた、あの制服がすごくいいんだと言うんですね。私は国鉄職員と結婚したかったと、こういうふうに言います。  先生がおっしゃるような側面もありますが、同時に反面、国鉄職員というのは、やはりそれ自身生きがいを持ち、誇りを持ち、その誇りと生きがいで日本国鉄を一分もたがわずに運転をしてきた、こういう側面がありまして、そして私の大学の女性職員もかつてはあこがれていた。今もあこがれているようですけれども、非常に残念だ、こういうところがありますので、やはりにこやかに人と接触するという、私から言えば商業主義的なところがありませんけれども、それはやっぱりきちんと本務を守り、責任を守ってこれまで運転をしてきた、こういう側面をぜひひとつ理解をしてやってほしい。もちろん、そういう職員も今後は全国一元化の鉄道が守れればまた別の側面も兼ね備えていくに違いないと思いますけれども、私は、前者の面で今日までしっかりやってきたというところを評価していただきたいと心から願っているわけであります。
  93. 秋山肇

    秋山肇君 今の先生のお考え、これは民営になった後でも基本としてぜひ守っていただかなければいけないことですし、先生のお立場で私どもも十分これから論議をいたしますし、その後もお互いに注目をし合い、監視をし合うというと言葉は悪いんですが、国民立場で見ていかなければいけないと思いますけれども、先生のお立場でぜひとも今のお考えを強く通していただきますことをお願い申し上げまして、終わります。
  94. 山内一郎

    委員長山内一郎君) 以上で公述人に対する質疑は終わりました。公述人方々に一言お礼を申し上げます。  公述人の皆様には長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。  これをもって公聴会を散会いたします。    午後三時五十三分散会