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政府委員(瀬木
博基君)
防衛庁の国際担当参事官を務めております瀬木でございます。
防衛庁に与えられました
テーマは、国際
軍事情勢の
現状と
問題点というものであります。順次お手元に配布いたしました資料に即しまして、
項目を追って御
説明申し上げたいと存じます。
第一は、米、ソ、中三カ国の
軍事政策について申し上げます。
まず、
米国の
軍事政策についてであります。
米国は、自由と
民主主義等の諸価値を守るという
立場から自由主義諸国を防衛し、
世界の平和と安定の維持に寄与しようとしております。このため、
米国は抑止戦略を一貫してとっており、核戦力から通常戦力に至る多様な戦力を保持することにより、いかなる侵略であれこれを未然に防止し、紛争が生起した場合にはこれに有効に対処し得る態勢の確保に努めております。
さらに、
米国の国防
政策の核心を構成する抑止は、次の四つの
基本的
政策を通じて実施されてきております。
すなわち、第一に、十分な戦力バランス、能力を維持しなければならないということであります。第二に、
民主主義的価値観を共有する欧州、
アジア及び米州の諸国との間における同盟は、
米国の戦略の極めて重要な要素であるということであります。第三に、
米国の前方展開兵力は、共同防衛に対する
米国のコミットメントを明示するとともに、共同防衛能力を向上させるものであるということであります。第四に、あらゆる形態の脅威に対応するため柔軟性を持つということであります。
米国はこのように一貫して抑止を国防
政策の
基本としておりますが、特に一九七九年末の
ソ連によるアフガニスタンへの
軍事介入を
一つの契機として、
米国自身の国防努力の一層の強化に乗り出すとともに、同盟諸国に対しても、自由主義諸国の一員として応分の努力をするよう強く期待しております。
一九八一年に登場した
レーガン政権は、他の同盟国と同様困難な財政
状況のもと、議会と協議しつつ、核戦力及び通常戦力の全般的な整備、近代化を進めてきております。
他方、
レーガン政権は、このような国防努力を背景として、より低いレベルでの
軍事力の均衡を求めて、
ソ連との間で実質的かつ公正で検証可能な
軍備管理・
軍縮の達成に努めております。
核戦力の分野では、
米国は、いかなる
規模態様の核攻撃に対してもこれに対応し得る能力と意志を明確に示すことによりすべての核攻撃の発生を抑止することを核戦略の
基本としております。
また通常戦力の分野では、
米国は、
ソ連がグローバルな
規模の通常戦力の増強により既に複数の正面で同時に作戦を行い得るに至ったとして、通常戦力の増強が以前にも増して重要になっていると
認識し、幾つかの重要な正面で長期にわたって同時に対処し得る態勢の整備に努めております。
このほか、
米国は、非核の防衛的手段により弾道ミサイルを無力化し、究極的には核兵器の廃絶を目指すものとして
SDI研究計画を進めております。
次に、
ソ連の国防
政策について申し上げます。
ソ連は、
軍事力の増強を国策の最
優先課題の
一つとしてきております。第二次大戦後、
ソ連は、自国を防衛し、東欧圏を維持しつつ、勢力伸長を図ってきましたが、特にキューバ危機において、とりわけ核戦力及び海上戦力の劣勢によって後退を余儀なくされた苦い経験を
一つの大きな契機として大幅な
軍事力の増強を開始しました。また、
ソ連は、一九五六年のハンガリー動乱、一九六八年のチェコスロバキアへの
軍事介入に見られるように
ソ連圏の内部結束を強めていきました。そしていわゆるデタントが最高潮に達し、また
ベトナム戦争やその影響等により、
米国の国防努力が抑制されていた一九七〇年代前半においても中断することなく
軍事力増強を継続してきました。その蓄積効果には近年特に顕著なものがあり、その結果、
ソ連は核戦力及び通常戦力のいずれの分野においても
米国に十分対抗し得る戦力を築き上げるに至りました。
今日、
ソ連は、強力な
戦略核、中距離核等の核戦力を保持するとともに、ヨーロッパから極東に至る自国領土、東欧諸国等に膨大な地上戦力及び航空戦力を配置しているほか、自国周辺の海域はもとより、
アメリカ近海、太平洋、大西洋、インド洋、南シナ海、地中海などの遠隔地にまで海上戦力を展開させております。
ソ連は、最近の構造的な
経済困難にもかかわらず、依然として
軍事力増強を継続しております。
ソ連は、グローバルな
規模な通常戦力の増強により、既に複数の正面で同時に作戦を行い得るに至ったものと見られており、一九七〇年代後半以降、極東、欧州及び南部地帯に数個の軍管区等を統括する戦域司令部を設置し、それぞれの方面において即応性を高めるとともに独立して作戦し得る態勢を整備しております。
また、
ソ連は、このような
軍事力をその対外
政策遂行の不可欠の手段としており、巨大な
軍事力を背景に
政治的影響力の増大に努めております。
次に、
中国の国防
政策について申し上げます。
中国は、現在、四つの
近代化政策の
推進により国力の充実強化を図ってきておりますが、その
一つに国防の近代化が挙げられております。
中国は、依然
ソ連を
最大の
軍事的脅威と
認識していると見られ、圧倒的な火力、機動力を有する
ソ連軍と対抗するため、広大な国土と膨大な人口を利用する人民戦争に依拠しつつも、従来の
ゲリラ戦主体の戦略から、各軍、各兵種の共同運用による統合作戦能力と即応能力を重視する戦略に移行しつつあります。
中国は、こうしたことから装備の近代化に努めておりますが、当面、
経済建設が最
優先課題とされており、国防支出には制約があり、早急な近代化は困難な
状況にあります。このため、大幅な人員
削減及び組織、機構の簡素化を進めることにより、編成、運用の効率化を図るとともに、装備の研究開発により多くの予算を振り向けようとしております。なお、装備の近代化については、自力更生を
基本としつつも、自由主義諸国を含む外国からの技術導入も図っております。
さらに、軍の組織性、規律性を強化するため、近く階級制度の復活を
予定しているほか、予備役師団を設立し大学等の学生に
軍事訓練義務を課すなど、有事における動員体制の確立も進めております。
中国は、抑止と国威発揚という観点から、一九五〇年代半ばから独自の核戦力の開発努力を続け、現在では
ソ連及び
米国を射程におさめるICBMを保有しているほか、SLBMの開発も進めております。また、このSLBMを搭載すると見られる原子力潜水艦については、既に一隻が進水しております。さらに、戦術核の保有も伝えられるなど、核戦力の充実及び多様化に努めております。
第二に、
米国及び
ソ連の
軍事バランスについて御
説明申し上げます。
まず、
ソ連の
軍事力増強について申し上げます。
戦略核戦力については、
ソ連はこれまで、特にICBM及びSLBMを重視してその増強に努めた結果、一九六〇年代末にはICBMの、また一九七〇年代前半にはSLBMの発射基数において
米国を上回るに至りました。近年に至って、
ソ連は、
戦略核戦力の量的優位に加え、ICBMの命中精度の大幅な向上、多目標弾頭化及びSLBMの射程の伸長、MIRV化等、質的
改善の面でも顕著な向上を見せております。この結果、
ソ連は、理論的にはSS18及びSS19の弾頭の一部による先制攻撃によっても
米国の大部分の現有ICBMのサイロを破壊し得る能力を有するに至っており、
米国のICBMの脆弱化が問題となっております。
ソ連は、最近においてもSS25、SSN20等の新型ミサイルの配備を進めております。
このほか、
ソ連は従来から弾道ミサイル防御、衛星攻撃の分野において活発な研究開発を行っております。弾道ミサイル防御兵器については、モスクワ周辺に
世界で唯一のABMシステムを配備しているほか、衛星攻撃能力も保有し、引き続きこれらの分野の研究開発を進めていると言われております。
非
戦略核戦力については、
ソ連は、一九七〇年代後半にSS20及びTU22Mいわゆるバックファイアの配備を開始して以来、着々とその増強を進め、
ソ連各地にこれらを分散配備しております。
地上戦力については、
ソ連は多数の国と
国境を接する大陸国家として、伝統的に大
規模な地上軍を擁しており、現在では、自国領土、東独、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリー、
モンゴル、アフガニスタン等に総計二百一個師団、約百九十四万人、戦車約五万七千両を配備しております。近年では、量的な増強に加え、戦車、装甲歩兵戦闘車、自走砲等による火力、機動力の向上及び地対空ミサイル等による戦場防空能力の向上等、質的な向上にも著しいものがあります。
ソ連の航空戦力は、作戦機約九千六十機から成り、大
規模かつ多様であります。航空機の増強は、質的側面において顕著であり、航続能力、機動性、低高度高速侵攻能力、搭載能力及び電子戦能力にすぐれたミグ31フォックスハウンド、ミグ23及び27フロッガー、SU24フェンサー、SU25フロッグフット、TU22Mバックファイア等の戦闘機及び爆撃機の増強により、航空優勢獲得能力及び対地・対艦攻撃能力等が著しく向上しております。また、ミグ29フルクラム、SU27フランカーといったルックダウン、シュートダウンという能力に特にすぐれた新鋭戦闘機の配備を
推進しております。
海軍勢力については、過去二十年間における一貫した増強の結果、沿岸防衛型の海軍から外洋型の海軍へと
成長を遂げ、その勢力は、艦艇約二千九百十隻、六百八十一万トンに達しております。
ソ連は、近く四隻目のキエフ級空母を就役させるものと見られているほか、黒海沿岸のニコラエフ造船所では、多数の航空機を搭載可能な大型の
ソ連初の原子力空母を建造中であり、一九八〇年代末には海上試験を開始すると見られております。さらに、
ソ連初の原子力
推進戦闘艦であるキーロフ級ミサイル巡洋艦等の水上艦艇、オスカー級原子力潜水艦等の新鋭艦の建造が相次ぎ、水上艦艇の近代化と潜水艦戦力の増強を図っております。
このほか、
ソ連海軍は、約一万六千名に達する海軍歩兵部隊を保有しております。
次に、
米国の対応努力について申し上げます。
レーガン政権は、
戦略核戦力の三本柱であるICBM、SLBM及び戦略爆撃機戦力の近代化と、これらを支える指揮、統制、通信、情報能力の向上を
内容とする
戦略核戦力の近代化を
推進しております。
ICBM戦力では、ピースキーパーの開発配備と小型ICBMの開発計画が進められております。
SLBM戦力としては、オハイオ級原子力潜水艦の建造と、将来これに搭載
予定のトライデントII型のSLBMの開発が継続中であり、戦略爆撃機戦力の近代化としては、B1B爆撃機の生産配備、B52への空中発射巡航ミサイルの搭載計画が
推進されております。
非
戦略核戦力の分野では、
ソ連のSS20の脅威に対抗し、
抑止力の信頼性を維持強化するため、一九八三年末から西欧へのパーシングII中距離ミサイル及び地上発射巡航ミサイルの配備を行っております。また、一部艦艇においては対地用核弾頭搭載トマホーク巡航ミサイルが運用可能となっております。
次に、通常戦力について御
説明いたします。
米国は、
ソ連がグローバルな
規模の通常戦力の増強により、既に複数の正面で同時に作戦を行い得るに至ったとして、通常戦力の増強が以前にも増して重要になっていると
認識しております。このような
認識に立って
レーガン政権は、即応能力継戦能力の向上及び装備の近代化により、幾つかの重要な正面で長期にわたって同時に対処し得る能力の整備に努めております。
特に、海上戦力については、十五個空母戦闘グループ及び四個戦艦戦闘グループを基幹とする六百隻海軍の建造計画を一九八〇年代末を目途に
推進するとともに、海上戦力の展開に一層の柔軟性を与えるため、柔軟運用計画を実施しております。
地上戦力については、現在十八個師団、約七十八万人を有しており、特にNATO正面に展開している部隊を
中心に対機甲能力と戦場機動能力の強化を重視して戦闘力の向上を図っております。
航空戦力については、作戦機約四千七百七十機を保有し、航空優勢が空中、海上及び地上の戦闘の重要な要素であるという
認識から、この分野での質的優位を維持するために、F15、F16など高性能戦闘機の展開を
推進しております。
このほか、
米国の前方展開戦略を支える不可欠な手段として海空輸送能力の強化が図られており、さらにこれを補完するものとして、紛争が予想される
地域に重装備等を事前に集積する措置もとられております。
このように、
米国は
抑止力の維持強化を図るため、戦力の全般的な近代化と能力の強化に努めており、その効果も徐々にあらわれております。
米ソのグローバルな
軍事力バランスは、兵力の量及び質のみならず、戦略、任務、展開、同盟国の
軍事力、海外拠点等を総合的に勘案して評価すべきであり、一概に述べることは困難であります。
しかしながら、以上述べましたところを概括的に申し上げるならば、双方の兵力の量及び質を概観すれば次のとおりであります。
戦略核戦力については、一九六〇年代以降における
ソ連の大幅な増強に対し、
米国もその近代化に努めており、
米国の
抑止力は維持されていると考えられます。
陸上戦力については、大陸国家である
ソ連の方が従来から数的には大幅に上回っておりますが、近年、
ソ連は機動力及び火力の増大等質的にも顕著な向上を図っております。
米陸軍は、装備資機材の海外事前備蓄等により、緊急展開能力の向上に努めるとともに、すぐれた機動力と各種戦術核兵機の保有等により、数的劣勢のカバーを図っております。
海上戦力については、
ソ連海軍は潜水舵、航空部隊を
中心としておりますが、近年の質量両面における増強ぶりには目覚ましいものがあります。米海軍は、質的向上を重視し、艦艇の隻数、トン数とも低下傾向にありましたが、最近は質量両面の増強を図りつつあり、空母機動部隊等による打撃力、対潜能力、即応能力においては依然としてすぐれているものと見られます。
航空戦力については、
ソ連は航空機の機数において
米国を上回っており、質的にも顕著な向上を図っております。
米国は、搭載兵器、運動性能、電子戦能力、ペイロード等、性能的にすぐれた航空機を保有しておりますが、その質的格差は縮小していると見られます。
以上、概観したように、
ソ連の過去二十年における質量両面にわたる増強の蓄積効果は近年顕著になってきておりますが、
米国も、
ソ連によるアフガニスタンへの
軍事介入を
一つの契機として国防努力の一層の強化に乗り出した効果も徐々にあらわれており、核戦力から通常戦力にわたる
米国の全般的な
抑止力は維持されていると考えられます。
第三に、
アジア・太平洋
地域の
軍事環境について御
説明申し上げます。
まず、我が国周辺の
地域について申し上げます。
我が国周辺
地域は、
ソ連の大陸部、
中国大陸部、カムチャッカ半島、
朝鮮半島、我が国を含む大小多数の島々、これらに囲まれた
日本海、オホーツク海等の海域及びこれらの海域から太平洋に通ずる海峡等さまざまな地形が交錯しております。
この地形においては、
米ソ両国の対峙の
関係に加え、広大な国土と十億以上の人口を背景とした大兵力と独自の核戦力を有する
中国が存在し、米、ソ、中の三カ国が複雑な対立と協調の
関係をつくり出しております。また、
朝鮮半島においては、依然として大
規模な地上軍が非武装地帯を挟んで対峙しており、
軍事的
緊張が続いております。
この
地域にあっては、極東
ソ連軍の増強には著しいものがあります。
ソ連は、ヨーロッパ正面とともに一貫して極東正面を重視しておりますが、特に一九六〇年代中期から極東地帯に所在するすべての軍種の顕著な増強、近代化に着手し、今日では
ソ連全体の四分の一から三分の一に相当する
軍事力をこの地帯に配備し、引き続き質量両面にわたる増強を行っております。例えばこの
地域では、現在、
ソ連が就役させている三隻の空母のうち二隻が配備され、また最近、原子力ミサイル巡洋艦フルンゼ等の大型新鋭艦が次々に配備されるなど、
ソ連海軍
最大の太平洋艦隊はその能力を一層向上させております。
さらに、地上兵力及び航空兵力の増強、近代化も着々と進められているほか、中距離弾道ミサイルSS20及びバックファイア爆撃機もここ数年急速に増強されております。
また、
ソ連は、一九七八年以降、我が国固有の領土である北方領土に地上軍部隊を再配備し、現在では師団
規模と推定される地上軍部隊や約四十機のミグ23戦闘機を配備しております。
ソ連は、このような
軍事力増強に伴い、我が国周辺における艦艇及び航空機の行動を活発化させており、このような事実はこの
地域の
軍事情勢を厳しくしており、我が国に対する潜在的脅威を増大させることにもなっております。
米国は、従来から我が国を初めとする
アジア・太平洋
地域の平和と安全の維持のため大きな努力を払っておりますが、近年
米国とこの
地域との
関係が多くの面で緊密度を加えていることもあって、この
地域の動静に大きな関心を払っております。
米国は、ハワイに司令部を置く太平洋軍隷下の海空軍を主体とする戦力の一部を西太平洋、インド洋に前方展開させ、
アジア・太平洋
地域の同盟諸国との間の
安全保障取り決めのもとに、この
地域における紛争を抑止し、
米国及び同盟諸国の利益を守る
政策をとってきております。さらに、必要に応じ所要の兵力をハワイ及び米本土から増援する態勢をとってきております。西太平洋
地域における米軍の展開
状況は、地上兵力は二個師団、約五万八千名、海上兵力は約七十隻、約七十万トン、航空兵力は作戦機約六百二十機となっております。
米国は、特に最近の極東
ソ連軍の増強とその行動の活発化に対応し、兵力の増強と近代化及び兵力の柔軟な運用を通じ、この
地域における
軍事バランスを維持し、
抑止力の維持強化を図っております。
中国の
軍事力は、核戦力のほか、陸、海、空軍から成る人民解放軍と人民武装警察部隊、各種民兵から成っております。
核戦力につきましては先ほど御
説明申し上げましたが、陸軍は、総兵力は約二百九十七万名と
規模的には
世界最大であり、改編や再編成が行われておりますが、総じて火力、機動力が不足しております。海軍は、
基本的には沿岸防衛型海軍でありますが、護衛艦の建造が伝えられるなど艦艇の近代化や外洋での活動も見られます。空軍は、作戦機の主力は
ソ連の第二世代の航空機をモデルにしたものでありますが、最近では新型機の開発も行われております。
中国軍の重要正面は中
ソ国境、次いで中越
国境であります。中ソ間では、国家
関係改善に向けての動きが継続しており、また最近
ゴルバチョフ書記長がウラジオストクにおいて中
ソ関係改善に対する強い意欲を表明する
演説を行ったところであります。しかしながら、中
ソ国境付近には
ソ連軍五十三個師団、約四十七万人に対し、
中国軍は六十八個師団、百五十万人以上を配備しており、中ソ両国の
軍事的対峙には
変化は見られません。一方、米中間では
米国による
中国の軍近代化に対する協力に関する
話し合い、人的交流等の
軍事関係の分野でも交流が
進展しております。
朝鮮半島においては、依然として百二十万人を超える地上軍が非武装地帯を挟んで対峙しており、
軍事的
緊張が続いております。
北朝鮮の
軍事力増強は、四大
軍事路線に基づき、特に一九七〇年代以降顕著なものがあり、既に外国の支援を受けることなく単独で
一定期間戦争を遂行し得る能力を獲得するに至ったと見られております。北朝鮮は、さらに陸上兵力の機甲化、機械化と前方配備を進めるなど、
軍事力の増強、近代化を図っております。また、
ソ連との間では、
軍事交流、ミグ23の供与、
ソ連軍用機による領空通過など、
軍事面での協力
関係の強化が注目されます。
これに対し
韓国は、北朝鮮の
軍事力増強を深刻な脅威と受けとめ、一九八二年から第二次戦力増強五カ年計画を実施しており、また
米国も米韓相互防衛条約に基づき、現在兵力約四万三千名及び作戦機百機を
韓国に配備し、その装備の近代化に努めているところであります。このような在韓米軍の存在と
米国の確固たる
韓国防衛意欲が
韓国自身の国防努力と相まって、
朝鮮半島における大
規模な武力紛争を抑止しているところであります。
東南
アジア地域は、太平洋とインド洋を結ぶ交通の要衝を占めております。この
地域においては
ソ連に支援された
ベトナムが、国連等におけるカンボジアからの
撤退要求にもかかわらず、カンボジアに約十八万名の兵力を駐留させております。
また、中越
国境には
中国軍約二十個師団基幹約三十万人と、
ベトナム軍約三十個師団基幹約三十万名が対峙しており、一九七九年の二月から三月にかけての
軍事衝突以来、小
規模な武力衝突が続いております。
ソ連は、
ベトナムのカムラン湾を海外における重要な拠点として利用し、TU95、142ベア等の航空機により、南シナ海を
中心に東シナ海、シャム湾を含む海域で偵察、哨戒活動を実施するとともに、南シナ海に約二十隻の艦艇のプレゼンスを維持しております。
このような
状況にあって
ASEAN諸国は、それぞれ自国の国防努力を継続し、域内の防衛協力を進めるとともに、
経済協力等を通じて域内の結束強化、先進
民主主義諸国との協力
関係の増進に努めております。
また
米国は、
ベトナム撤退以降、
フィリピンを除きこの
地域に兵力を駐留させておらず、
ASEAN諸国との協力、
友好関係を深め、
軍事援助、
経済援助等により
地域的安定の維持に努めるとともに、
フィリピンにおける海空軍基地の維持、西太平洋及びインド洋における空母戦闘グループのプレゼンス等によりこの
地域の安定を図っております。
フィリピンにおいては、本年二月
アキノ政権が誕生し、
政治改革、
経済問題への対処等に取り組んでいるところであります。
同国は、太平洋から中東に至る石油等の重要物資の海上輸送路を扼する地理的位置にあり、
米国の海空軍基地の存在、南シナ海を隔てて対面する
ベトナムのカムラン湾に拠点を置く
ソ連の
軍事力のプレゼンスの強化にもかんがみ、今後の
情勢は
アジア全般の平和と安定に影響を及ぼすものと見られております。
以上をもって、
説明を終わらしていただきます。