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伏見康治君 原子炉の中にはとにかく熱を出すものが入っておりますので、冷やさなくちゃなりませんし、それから放射性のガスもございますので、じわじわと五千トンの砂の間を縫って放射性物質が出てくることだけは確かだと思うのですね。そのほか、地下水が
汚染して、プリピアチという川があって、やがてその川の中に流れ込んで、それがやがてはキエフ大都市の水源にまで流れ込むおそれといったようなものがあって、恐らくソビエトの
科学技術者はそういう水道
汚染ということを極力恐れていろんなことをしているはずだと思うのですが、そういうことについての
情報を得るような手だてを今後もぜひ
考えていただきたいと思います。
しかし、チェルノブイリの教訓の中で、何といっても原子炉の
安全性に関する教訓というものが一番大きいと思いますので、その方について二、三お尋ねしてみたいと思うのですが、この事件で、まず私たちは原子炉の中に何億キュリーといったような非常にたくさんのキュリー数の放射性物質が含まれていること、それが放出された場合には広島型原爆の一発や二発といったようなものよりもはるかに多くの放射性物質を実はまき散らすものであることを教えられたという意味において、非常に教訓が重要だと思うのです。
それから、TMIの
事故に比べまして、格納容器があるかないかということが空気中に放射性物質をまき散らすかまき散らさないかという最後の瀬戸際的な違いを呼び起こすわけでございまして、そういう意味でTMI
事故の場合の格納容器の存在を、今さらながらその
重要性を感ずるわけですが、同時にしかし、チェルノブイリの場合のような爆発的なことが起こった場合に、普通我々が
考えているような格納容器で果たして耐えられるものであるかどうかといったような疑問も出てくるわけです。そういう意味の、原子炉工学的な意味の反省材料というものは非常に出てくると思
うのであります。
しかし、一番大きなのは結局
人間が操作上の
ミスを行ったというところにあると思うのですが、設計上の問題でなくて操作する
人間の
ミスに持っていくということは、実は余りおもしろくないということを申し上げてみたいと思うわけです。
フールプルーフという言葉がございますが、つまり、全然物を知らない人が入っていって何か動かしたときにえらいことにならないようにフールプルーフに装置をつくっておくということが大事ですが、今度の事件を見ますというと、原子炉を実験していたわけですから決して素人が入っていったわけではない。いわばエキスパートが
運転していてやり損なったということになるわけですから、私はフールプルーフという言葉よりも、今後はエキスパートプルーフと、そういう観点で物事を
考えていかなくちゃいけないのではないか。エキスパートプルーフというのは一週間ほど前に近藤次郎さんに教えてもらった言葉ですが、そういう観点も出てくるんではないかと思うのです。
とにかく、そういう
人間の要素がいたずらをしたということが、スリーマイルの場合でもそうでございますが、
人間をできるだけ排除して、しかも
安全性を保つということが極めて大事になっていく。つまり本質的に安全である、あるいは手を加えなくても安全である。例えば現在の原子炉にはECCSというのが加わっておりまして、要するに、いざというときに水をかけて冷やしてやるという装置が必ずくっついているわけですが、そういういわば後からくっつけた機械的な安全装置といったようなものは、その安全装置はもしチェルノブイリの場合のようにスイッチを切ってしまってあるという場合には役に立たないわけですね。
つまり、そういう後からつけ加えた工学的安全装置というものをむしろやめてしまって、それがなくても安全なようにする、英語でインヒアレントリーセーフというと思いますが、そういう本質的に安全なものを
考えるという時期が私は来ているというふうに思うわけです。
そこで、そういう安全な原子炉をつくるというようなことをお
考えになるかどうかということを伺ってみたいのですが、私のボスに当たる菊池正士
先生、
原子力委員をなさった方ですが、その菊池
先生は晩年になりまして原子炉の
安全性ということを非常に心配されまして、菊池
先生が最後に発表された論文は原子炉の
安全性に関する論文でございました。とにかく非常にまじめに
考えますと、何億キュリーという放射性物質が内蔵されている。それを放出させないための手段は今のような状態でいいのだろうかということを少し気遣い始めますといろいろ心配が出てくるわけです。菊池
先生がお亡くなりになる直前まで非常にそのことを心配して
考えておられたことを私は思い出すわけです。
偉い
先生方はアメリカの方でも似たような感じをお持ちになるものとみえまして、例えばオークリッジ
研究所の所長をやっておられたワインバーグさんも、もっと安全な原子炉というものを設計すべきではないかという
考え方を持っておられたようであります。それからもう一人、初代のアメリカの
原子力委員長をなさったリリエンソールはTMIの
事故の後で、もっと安全な原子炉を
考えるべきではないかということを言って、書いておられます。
今いろいろなことが、今までの原子炉の
科学技術的
発展について、歴史的にはそうなってしまったけれども、それで果たしてよかったのだろうかと思われる点がなきにしもあらずですね。例えば
原子力と申しますと、私のような物理屋、物理畑の
人間か、あるいは電力ですから電力系統の方、物理屋と電気屋とが集まって原子炉をつくり上げたと言って差し支えないと思うんですが、今になって
考えてみますというと、もっと本質的に化学屋さんが参加しておるべきではなかったかという感じを受けるわけです。木村健二郎
先生のような化学者も前から
原子力研究所には入っておられましたけれども、木村
先生はいわゆる放射能化学の
先生で、いわゆる化学工学的なセンスを必ずしも持っておられる
先生じゃないわけです。そういう方面の
先生をもっと主体にした原子炉設計というものであるべきであったと今になって思うわけです。
例えば、水を使う原子炉、軽水炉といったようなものをなぜ思いついたかというと、物を冷やすのに水で冷やすというのが一番なれていて、これは非常に、とっさに何か物をつくろうとするときに一番使いやすい物質であるという意味で水が使われたんだと思います。それが高速炉の場合のように、ナトリウムのような液体金属で冷やそうといたしますと、ナトリウムで物を冷やすという実際上の経験がありませんために、それを実際やってみますというと大変な開発
研究が必要なわけです。そのために実際ナトリウムを使わなければならない増殖炉というものは非常に
技術的
発展がおくれているわけです、水を使ったから手早くできたという面は確かにあるんですが。しかし水を使いましたために水金属反応、化学反応というものが必然的に起こる可能性が残されてしまったわけです。
つまり、いささか高温になりますと、水の中に金属を漬けておきますと、水の中の酸素が金属の方に取られまして水素が
発生してまいります。その水素ガスが大量に
発生するということが、その次に爆発を起こすのではないかという恐怖心がございまして、これはTMIの
事故の場合も、それからチェルノブイリの場合にも実際に問題になり、あるいはそれが起こりはしないかということのためにいろんな操作を誤っているという面が非常にたくさんございます。
そういうようなことを
考えますと、私は現在の
日本で使われている原子炉というものは非常に安全だと思いますが、その
安全性は先ほど申しました
人間が加わって安全にしているわけです。
人間が加わって安全なのは、現在の
日本のような信頼できる
技術者がたくさんいる国は大変結構だと思うのですけれども、一たび
日本の原子炉を例えば東南アジアに輸出するといったような場合を
考えますと、その辺の方々は
科学技術的には
日本の方ほど信頼できないと思いますね。
日本の原子炉がそういうところへ輸出されて、そこの方のやり損ないで何か
事故を起こしたときには、これは結果において
日本の責任になってしまうと思うのです。
そういうこともあわせ
考えてみますと、私は、そろそろ次世代の原子炉として、今進行している原子炉はあくまでもそれを安全に
運転するということでよろしいんですが、その次のゼネレーションの原子炉のためにはもっと安全な原子炉をちゃんと用意しておくべきだと、今からそういう
研究を開始すべきだと思うのでございます。
アメリカにはそれに相当する原子炉が既にほとんど完成していると伺っております。DOEがスポンサーになりましてGAという会社でつくっておりますMHTG Rというのがございます。モジュラー・ハイ・テンプラチャー・ガス・リアクターというのがございまして、ほとんどグラファイトの塊のようなもので、その中に燃料というのはごく少量の小さな仁丹の粒のようなものなんですが、ウランの周りをグラファイトの層で覆ったようなものでございます。そういうものをつくって、そして冷却材としてはヘリウムを使っている。これはどう
考えても水金属反応といったようなものが起こり得ない非常に安全な原子炉であると思います。
こういうものに対して、今から
原子力行政としては次世代の原子炉としてそういうものに力を入れて
研究なさるべきだと、この二つの大きな
事故を見てつくづくと
考えるわけであります。
幸いにして、
原子力研究所では高温ガス炉というものの
研究をされております。そして、それをいよいよそろそろ原子炉に仕立て上げるという段階に来ていると思いますので、私は、その高温ガス炉というのはもともとの発想は非常に高温のガスを鉄の精錬のようなものに使う、高温を使うということを目的にして
研究されたものであります
けれども、それは同時に極めて安全なものである、インヒアレントリーセーフなものであるという点から大いに
推進されるべきである、こう思うのです。
どうも私のレクチャーが長過ぎました。
原子力局御
関係の皆様方のその方面の御見解を伺いたいと思います。