○沼川洋一君 私は、公明党・
国民会議を代表し、ただいま
提案されました
老人保健法等の一部を
改正する
法律案につきまして、
総理並びに関係各大臣に
質問を行うものであります。
まず、本題に入ります前に、さきの
自民党講習会における
総理の発言は、アメリカの各界各層、
国民から厳しい批判を受け、また、国内からもひんしゅくを買ったことは当然のことであります。国際
社会とともに生きていかなければならない我が国が、
総理の発言によって大きく信頼を失墜させたことは極めて重大であり、私は、
日本国民に多大な迷惑をかけた以上、
総理はこの本
会議場において
国民に陳謝すべきであると考えるものでありますが、
総理の御
答弁を求めるものであります。(
拍手)
さて、今や我が国の
高齢化は世界に類を見ない速さで進んでおり、
厚生省の推計でも、老年
人口率は
昭和九十五年には二一・八%となり、まさに世界一の超
高齢化社会を迎えると言われております。既に平均寿命では男女とも世界第一位を誇る我が国が、一方では
国民総健康不安時代などと言われるこの
矛盾をどのように考えるべきなのでありましょうか。このことは、現在の
医療が人間の寿命を延ばし得ても、そのことによって幸せではなく、不安を与えているにすぎないことを示しております。すなわち、長寿化が進むにつれて、今、
国民の間には、果たして長い人生を有意義に過ごせるだろうか、長生きしてよかったと回顧できるだろうかなどの
老後の不安が広がりつつあることは、紛れもない事実であります。したがって、この急速な
高齢化に対応し、今こそ
国民が安心できる充実した
老後を保障することは国政の責務であり、緊急課題であります。
そこで、まず最初に、中曽根
総理に
お尋ねをいたします。
この
老人保健法の
改正案は、さきの
国会で各方面より強い反対を受け、廃案となったものであります。その
内容について厳しい批判と指摘がなされ、改善すべき多くの問題を抱えたこの
法案を、何ら見直すことなく、同じ
内容のまま再
提出されましたことは、まことに無責任な行為であり、まさに
福祉切り捨ての中曽根
政治の
実態を見る
思いがいたします。選挙に勝ったからといって、そのすべてが支持されたわけではありません。
総理、あなたの言葉をおかりすれば、今こそ謙虚に
国民の声に耳を傾けるべきであります。
国民の好まざる
法案を何の反省もなく再
提出された
理由をお聞かせください。
第二には、
老人保健法は、本来は健やかに老い行くための壮年期からのいわば健康対策法であり、疾病予防の充実、
老人医療の質的向上がその目的であります。したがって、これが軌道に乗り
効果が上がれば、増高が心配される
老人医療費もおのずから
解決されるということで、
保健事業の展開に大きな期待が寄せられたのであります。しかしながら、この三
年間の実績を見るとき、質的面で問題が多く、その目玉である健康診査の
受診率は
計画を下回り、国の予算もその
負担割合や健診単価の見積もりの低さなどに問題があり、そのため
自治体のやる気をなくさせる結果になっております。国は本気で取り組む姿勢があるのかと疑いたくなります。この三
年間の
保健事業について、
総理はどう評価されているのか、今後の対応をどうするのか、御
見解をお
伺いいたします。
また、
保健事業の実施主体は市町村であり、その
意味で、この点についての
自治大臣の
見解もお聞かせいただきたいと
思います。
第三には、
改正案の中身は、一部
負担の強化と
加入者按分率の
引き上げだけが突出したもので、明らかにマイナスシーリングに対応するための目先の財政対策であります。しかも、いかにも取りやすいところから取るという発想は、ビジョンのない我が国の
医療政策を如実に物語っています。診療報酬の合理化や
医療機関の指導監査の強化、
保健事業の拡充など、打つべき対策を後回しして、
医療費の帳じり合わせだけが先行するやり方では、根本的
解決にはなりません。これではもはや
老人保健法ではなく、まさに巷間言われるような
老人費用徴収法になってしまうではありませんか。
総理の御所見をお聞かせください。
第四には、これからの
老人保健のあり方を考えるに当たっては、
老後の
生活で最も大切な
保健、
医療、
福祉の
施策を有機的に結合させながら、総合的かつ大胆に拡充していく中での対策でなければなりません。したがって、この
法案の
審議に当たっては、二十一世紀を展望し、安定した
老後保障のための基本方針を明らかにすべきであると考えます。その
意味で、既に我が党では
保健、
医療、
福祉の総合対策を策定しておりますが、
政府にはその考え方と用意があるのかどうか、所信を承りたいと
思います。
第五には、
法案の中身の具体的な点に関し、
厚生大臣に
お尋ねをいたしたいと
思います。
第一点は、
老人医療費の一部
負担金の
引き上げについてであります。
本
法案では、
外来自己負担が現在一カ月四百円であるのを千円に
引き上げ、
入院自己負担については、現在一日三百円で二カ月間だけ支払えばよいものを、今度は
入院全期間にわたって一日五百円にしようというものであります。これは、通院の場合では月二・五倍の大幅
引き上げであり、
入院の場合はさらに厳しく、一
年間の
入院生活では、現在の一万八千円から十八万円と一挙に十倍に
負担がふえることになり、まさに異常としか言いようがありません。
政府の
説明では一カ月千円の
負担は決して重くないと言われますが、
日本医師会の
調査によりますと、
老人の
医療機関
受診は二つ以上の
医療機関に通っている人が七一・七%もおり、千円で済む
老人は少なく、実際には二千円、三千円と支払う人が多くなると述べています。この件に関し、
厚生省では
老人の診療科目は一人平均一・五であると反論をされております。仮に一・五としても平均値で千五百円であり、四倍の値上げになるわけであります。したがって、このような高い一部
負担は、
国民の
医療保障の権利を制限し、初期診療を抑制する結果、
効果的な治療の
機会を失い、かえって
医療費の
増大を招くことになると心配するものであります。
また、
昭和五十九年の
厚生行政基礎
調査によると、
高齢者世帯主は六五%が無職であり、四〇%が年金だけの
生活であります。年老いて収入の道が閉ざされている
老人の
負担については、その
生活実態、特性に対する配慮について十分検討すべきであります。さらに、
入院について二ヵ月限りという
限度を外したことについては、
政府は在宅の
寝たきり老人とのバランスがとれないことなどを
理由に挙げておりますが、在宅
寝たきり老人とのバランスを言うならば、まず一番に訪問看護やホームヘルパーの充実など、在宅の
医療レベルを上げることこそ優先されるべきであります。さらに、
入院の場合は正規の
入院料のほかにお世話料と称する多額の
保険外負担を強いられており、
負担の公平論を盾に一部
負担を求めるのであれば、その前にこの問題の
解決こそ急ぐべきであります。したがって、このようなお年寄りに過酷な
負担を強いる改悪案は
撤回すべきであると考えますが、大臣の所見をお
伺いいたしたいと
思います。
第二点は、
加入者按分率の
引き上げについて
お尋ねいたします。
改正案では、
加入者按分率を現行の四四・七%から二
年間で一〇〇%にしようとするものであります。
老人医療費を国全体で公平に
負担するとの
趣旨そのものは理解できますが、
現状を無視した急激でしかも大幅な
引き上げには問題があり、反対であります。
政府は、
引き上げの
理由として、
医療保険各
制度間の
老人加入率の不均衡を見直し、
老人医療費の公平な
負担を図るためと
説明されておりますが、その本当のねらいは、
赤字の
国民健康保険を黒字の健保組合等の
負担増によって救済させるという財政対策が見え見えであります。
国民健康保険は、多くの
老人を抱え、財政的に困窮しているのは事実でありますが、
国保の財政
赤字をさらに
増大させた要因は、退職者
医療の
見込み違いによる国庫補助の削減であり、明らかに国の失政によるものであります。
国保がみずからの手でその経営を立て直す
努力は当然のことであり、また、外部からの援助の
必要性も認めるものですが、しかし、それを保険
制度間の財政調整のみに求め、
国庫負担を削減するのは論外のことであります。したがって、
加入者按分率の
引き上げを言う前に、退職者
医療制度の
見込み違いについては国が責任を持って
措置すべきであり、また
国保への国庫補助についても、少なくとももとの水準に戻す
努力を行うべきであります。あわせて、今後の
国保の問題をどうするのか、御
見解をお聞かせください。
また、
老人保健制度の
創設の際の経緯を振り返ってみると、一〇〇%の財政調整の適否については、
費用負担に急激な変動が生じ過ぎるとして見送られ、当時の
厚生省の担当
審議官は、
医療費の実績の要素が反映されない按分の仕方は、
保険者の経営
努力を失わせ、逆に
負担の不公平をもたらす結果になると明確に述べています。これが今日において正しくないというのであれば、今回の見直しの根拠となっている
老人保健法附則第四条の「
法律施行後の諸事情の変化」、すなわち
加入者按分率を四四・七%から一挙に一〇〇%に拡大させねばならない「諸事情の変化」とは一体何なのか、納得のいく御
説明をいただきたいと
思います。
第三点は、
老人保健施設、いわゆる中間
施設についてであります。
高齢化社会を迎える中で、
寝たきり老人その他
介護を要する
老人の
増大を考え、新しい
施設体系をつくるという
政府の構想は、我が党として理解できるし、また、その
必要性を認めるものであります。しかしながら、その具体的
内容については極めて不明確であり、
制度化論が先行して、果たしてどういうものができるのか心配されるのであります。
厚生省の整備
計画では、本年は十カ所のモデル
事業を行い、将来構想として二十六万床から三十万床を考えているようですが、その具体的な手順と、
医療費適正化という点でどういう
効果があるのか、明らかにしていただきたいのであります。また、専門家の中から、この発想は、特養ホームを増設するには莫大な公的
費用が必要であることから、その代替
施設をつくるということと、
医療費と
措置費の削減策が絡んで中間
施設を考え出したのではないかという批判がありますが、この点どうお考えになっているのか、あわせて、現在
特別養護老人ホームの待機者が二万人と言われますが、この問題はどう
解決するのか、御意見をお聞かせください。
さらに、
老人保健施設の整備
計画は各県の
医療計画の中にあって、一般病床としてカウントされることになっているようですが、このことは
医療の量的削減と
医療の質の低下につながる問題であります。また、後期高齢
患者の一般病床からの締め出しになるのではないかと懸念されますが、どうお考えになっているのか、お
伺いしたいと
思います。さらにまた、いわゆるぼけ
老人は
老人保健施設では対象外とされているようであります。この問題についてはどう対処するつもりなのか、お
伺いしたいと
思います。
また、最近の
全国社会福祉協議会の在宅痴呆性
老人の
介護実態調査によりますと、在宅
介護は予想以上に厳しく、中でも
介護者の中心は嫁であって、結婚してからずっと
介護している人が六六%もいるという
実態は容易なことではありません。中間
施設での対応もさることながら、当面の緊急課題として、家族の
介護負担を軽減するため、我が党が前々から主張しています在宅
寝たきり老人介護控除
制度を
創設し、大幅な減税を行うべきであります。
日本の
福祉の中で一番おくれているのが
老人福祉だと言われますが、年金課税を検討し、年金積立金の自主運営にブレーキをかける大蔵省は
福祉の心がわからないと言われているときだけに、
大蔵大臣の前向きの誠意ある御
答弁をいただきたいと
思います。
以上、何点かにわたって
質問をいたしましたが、本
法案は、財政対策だけが先行し、抜本的な対策は何もなく、お年寄りに過酷な
負担を押しつけ、
サラリーマンにとっては実質
増税となるものであります。したがって、このような改悪案には我が党は断固として反対であることを強く主張し、私の代表
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕