○
岡田元弘君
大阪地方同盟の
岡田元弘でございます。
老人保健法等の一部を
改正する
法律案について、私は原案に
反対する立場から以下申し上げたいと思います。
政府は
老人保健法改正案を提出されました目的として、
一つには、毎年伸び続ける
老人医療費をどう適正化するのか、いま
一つは、その増加する
医療費をどう
国民が公平に
負担するシステムをつくるのか、この二つの問題を基本にして
老人保健制度を総合的に
見直しをすることとし、具体的には
負担の公平という見地からする一部
負担の改定、さらに
加入者按分率の
引き上げ、そしてまた今後増加が予想される寝たきり
老人に対して、新しい施設体系として
老人保健施設の創設などとその目的を説明されているのであります。
老人保健法そのものは、
昭和五十八年二月一日に施行されたものでありますが、
老人保健制度創設の
趣旨は、急速に人口の老齢化が進む中で、
保健事業サービスを総合的に実施すること及び
老人医療費を
国民全体で公平に
負担しようとするものであったと承知をいたしておりますし、基本的にはその
趣旨には異存はございません。しかしながら、
老人保健法施行後三カ年を経過いたしましたが、この間に
保健事業については余り成果が上がったとは認識をいたしておりません。そして本
改正案は、
老人医療費の
負担については、外来診療と入院時の一部
負担の大幅
引き上げと、
加入者按分率を一〇〇%にすることが
負担の公平を図るものであると説明しておりますが、全く理解しがたいものであり、本
改正案に対しましては、明確に
反対であることをまず表明をいたしたいと思います。
以下、
反対の理由について申し上げます。
まず第一に、何といっても一部
負担の
引き上げについてであります。
現在、外来診療の一ヵ月について四百円の一部
負担を十一月から一千円にしようとするものであります。また入院時、現在は一日につき三百円の
負担で二ヵ月を限度としておりますが、これを一日につき五百円とし、さらに限度期間を撤廃しようとするものであります。つまり外来診療におきましては、一挙に二・五倍の
引き上げであります。しかも複数の
医療機関に通う人が少なくありませんから、実際には一千円では済まなくなってくるわけであります。また入院の際、仮に六カ月間として計算をしました場合、現在でありますと二ヵ月が限度でありますから、合計一万八千円で済んだものが、
改正案によりますと九万円必要ということになるのであります。実に五倍の
負担を必要とするのであります。余りにも急激な
負担増となり、これでは
老人が病気になっても簡単に病院に行けなくなるのではないでしょうか。病気は早期発見、早期治療が最も必要と言われておりますが、その道を閉ざすともいうべき今回の
改正案であります。これに対し、現在の
老人一部
負担は実際に要した
医療費の一・六%であり、今度の
改正でも四・五%になるにすぎない、だから真に必要な受診を抑制するとは考えられない、さらに入院中は食事などの生活費が要らないので、家計の
負担はむしろ軽くなるという
意見もあるようであります。
しかし、先ほど来申し上げましたように、本
改正案によって急激な
負担増となるほかに、特に申し上げておかなければなりませんことは、いわゆる
保険外
負担の問題であります。
厚生省が国会に
報告した資料によりましても、お世話料など入院
患者の
保険外
負担は全国平均で一人月額二万七千五百円、首都圏では約五万円の
負担となっていることを示しております。しかも、この二万七千五百円、五万円という金額には、差額ベッド料、付添看護料等は入っておりません。私は、自身の経験からいいましても、
保険外
負担、特に差額ベッド料、そして付添看護料は大変重要な問題であり、早急に対策を講じなければならない緊急な課題であると考えております。
親が、兄弟が病に倒れたとき、子供が、家族が一日も早い回復のために必死になって付き添い、看病することは当然のことではありますけれども、しかしそれにもおのずから限度があります。やがて二カ月、三カ月ともなれば、病人はもとより大変ではありますけれども、付き添う家族もまた疲労こんぱい、そのため看護人が倒れるという事態も決して珍しいことではありません。先ほど三十万円以上になるというお話も出ましたが、付添看護人をお願いすることは多額の費用を要することでもあります。
大阪におきましても、三十万円は一月に必要とされるというのが実態でございます。このような中で、まさに病人を抱えた家庭は悲劇ともいうべき事態を生じておるような実情であります。今
老人の
医療、
保険に関して緊急に対処しなければならないのは、このようなことであって、決して安易な一部
負担の
引き上げではないと私は確信をいたすのであります。
次に、
加入者按分率について申し上げます。
本
改正案では、
加入者按分率を拡大すれば、各
制度の抱える
老人数の差は次第に縮小して、
加入者按分率を一〇〇%にすれば、すべて同数となって
負担は公平となることを前提としているようであります。つまり
昭和六十一年度において、全
制度平均
老人加入率を六・九%と
見込み、加入者千名につき各六十九名分の拠出をすることによって公平な
負担を実現しようというのであります。しかし、現行におきましても
負担の実態は、加入者千人中組合健保は二十九人の加入者で拠出数は四十七人であります。政管健保で加入者四十三人に対して五十五人と、それぞれ実人員以上の拠出をすることによって、
国保の加入者百二十五人を拠出数百人とこれをカバーしているのであります。加えて
国保の拠出金に対して五五%の
国庫負担が導入されておるのでありますから、加入者千人で六十九人の
負担をするとしても、
国庫負担を除けば、実質三十一人分の拠出ということになるわけであります。
このようにして見てきますと、
加入者按分率の拡大に伴い、
国保の拠出金とそれに比例して
国庫負担が削減されることになりますが、その結果として、その削減された金額はそのままサラリーマン、そして企業の
負担増となるのであります。まさに実質的な増税の押しつけというべきであります。政府は本
改正案の提出に当たって、全
制度がひとしく老健法上の
負担をすると美しく言っておりますけれども、実際は、五十九年以降の
国保の財政の悪化、それはもともと弱い
国保の
財政基盤に加えて、政府の
退職者医療制度の見通しの誤りに起因するものでありますが、そのツケをサラリーマンや企業に回し、
国庫負担を削減するという意図以外に何物もないと判断せざるを得ません。そしてまた政管健保や組合健保は現在黒字であり、したがって、多額の赤字を抱える
国保を援助するのは当然であるという
意見のあることも承知をいたしております。しかし、健保組合等におきましては、最近の深刻な不況の中で、
保険料の
引き上げは到底許されることではなく、積極的な健康管理、指導、教育、啓蒙などによって疾病の予防に努めるなど真剣な努力が払われているのであります。その健保組合にいたしましても、本
改正案がもし強行されるならば、六十六年度にはおよそ二分の一が赤字組合になるという推定さえ行われているのであります。また政管健保にいたしましても、六十二年度はかろうじて
保険料を
引き上げずに済むと思われるのでありますが、
負担増が続けば積立金も底をつき、
保険料の
引き上げとなることは目に見えているのであります。
以上、申し上げましたるところに従い、加入者と
医療費の按分率は五対五の現行法どおりとすることを強く主張する次第であります。
第三に、
老人保健施設について申し上げます。
治療を目的とする病院と、
生活サービス、介護サービスなど在宅ではできない面を担当する特別養護
老人ホームとの中間の施設を創設するということでありますが、この点は大変大事なことだと思いますし、今後の推移を考えますとき、必要なことだと思います。したがって、その
趣旨には異を唱えるものではありませんが、一体、具体的にどのような規模、どのような
内容のものなのか、説明をお聞きしても漠然として全く理解できないのであります。このようなことから、本
改正案の一部
負担の
引き上げ、
加入者按分率の拡大に対し
反対の声が強いものでありますから、多少説明しやすいように、納得させやすくするために、この一項がつけ加えられたのではないかと勘ぐりたくさえなるのであります。実行するかたい御決意がありますならば、その
内容が重要でありますから、早急にその実効が上がるような設計図をお示し願いたいと存ずる次第であります。
以上、各項にわたって申し上げてまいりました。本
改正案に
反対であります。しかし、私たちは決して労働組合のエゴイズムで
反対しているわけではありません。
国保の収支の
改善は、
高齢化が進む我が国
医療制度の大きな課題であります。やがて引退し、
国保に加入する将来を考えれば、現役労働者にとっても決して他人事ではありません。それは社会の
高齢化に伴って生ずるコストの
一つとして
国民全体で
負担していくべきものであり、我々もまたそのために応分の
負担は否定しないことを明らかにしてまいりました。しかしながら、一部
負担、
加入者按分率の
引き上げにしても、余りにも大幅であり、急激であります。
老人保健法施行後の三年間にこのように一挙に
引き上げるべき大きな事情の変化があったとはどうしても考えられないのであります。
すなわち、今回の政府案は、当面する
国保の赤字を病身の高齢者とその家族及び現役労働者と企業の肩にしわ寄せして、政府自体の
負担を一方的に軽減しようとするものであり、改悪と呼ぶほか言いようのない
内容であります。しかも、今求められている中間施設についても、項目だけで具体策がないように、
制度全体の整備
改善の方向も明らかにせぬまま
社会保障関係の政府支出を抑えることだけに腐心し、財政面のつじつまを合わせるために起案されたものと言わざるを得ないのであります。
医療制度、
医療保険制度に対して政府が負うべき責任と
負担を放棄した本
改正案は断じて容認できるものではありません。したがって、本
改正案はこれを撤回され、改めて、将来を展望し、
医療と
医療保険制度のあるべき姿、ビジョンについて隔意なき
関係者の御検討を心からお願いを申し上げまして、私の
意見陳述を終わります。
以上です。