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1986-12-16 第107回国会 衆議院 科学技術委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年十二月十六日(火曜日)     午前九時三十分開議  出席委員    委員長 原田昇左右君    理事 塚原 俊平君 理事 平沼 赳夫君    理事 牧野 隆守君 理事 粟山  明君    理事 小澤 克介君 理事 矢追 秀彦君       櫻内 義雄君    竹内 黎一君       村井  仁君    木間  章君       村山 喜一君    安井 吉典君       冬柴 鉄三君    山原健二郎君  出席政府委員         科学技術庁研究         開発局長    長柄喜一郎君  委員外出席者         参  考  人         (東京大学教授         (応用微生物研         究所所長))  斎藤 日向君         参  考  人         (協和メデック         ス株式会社代表         取締役社長         (財団法人発酵         工業協会バイオ         インダストリー         振興事業部運営         委員長))   鮫島 広年君         参  考  人         (サントリー株         式会社常務取締         役(生物医学研         究所長))   野口 照久君         科学技術委員会         調査室長    工藤 成一君     ───────────── 委員の異動 十二月九日  辞任         補欠選任   木間  章君     田口 健二君 同日  辞任         補欠選任   田口 健二君     木間  章君     ───────────── 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  生命科学に関する件(バイオテクノロジーの将来展望と今とるべき施策の問題)      ────◇─────
  2. 原田昇左右

    原田委員長 これより会議を開きます。  生命科学に関する件、特にバイオテクノロジーの将来展望と今とるべき施策の問題について調査を進めます。  この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  本件調査のため、本日、参考人として東京大学教授斎藤日向君、協和メデックス株式会社代表取締役社長鮫島広年君及びサントリー株式会社常務取締役野口照久君の出席を求め、意見を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 原田昇左右

    原田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     ─────────────
  4. 原田昇左右

    原田委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございます。  本日は、バイオテクノロジーの将来展望と今とるべき施策の問題につきまして、忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。  なお、議事の順序でありますが、まず各参考人からそれぞれ四十分程度御意見をお述べいただき、その後委員の質疑に対して御答弁をお願いしたいと存じます。  それでは、斎藤参考人にお願いいたします。
  5. 斎藤日向

    斎藤参考人 どうも私こういうところになれませんものですから、ふだん講義をしておりますような調子で軽くお話をいたしますので、後で失礼の段、平にお許し願いたいと存じます。  バイオテクノロジーということでいろいろお話をしろということでございますが、まず、バイオテクノロジーとは一体何だろうというようなことから話をしようかと思っております。  これは非常に広いのでございまして、先般、私ちょっとおもしろい話を聞いたのでございますが、アメリカアドバンスト・ジェネティックスという会社がある。これもベンチャービジネスで、いわゆるバイオテクノロジーが盛んになりましてから雨後のタケノコのごとく会社ができました。いわゆるガレージインダストリーというような言葉もございますが、車庫のようなところで細々と始める、資本金もほとんど要らぬというようなことで始めました会社がたくさんございます。そのうちの一つアドバンスト・ジェネティックスという会社がございますが、その副社長でございましたか、お話を聞いておりましたら、アメリカで最近スノーマックスという製品を売り出した。スノーというのは雪でございます。これは何かと申しますと、シュードモナスというバクテリア培養いたしまして、それを粉にして売っておるというものでございます。バクテリアの粉を一体何にするのだということでございますが、このバクテリアが実は氷の結晶の核、雪の結晶の核になりますたんぱく質をつくる。御専門の方もおられますので、たんぱく質ぐらいのテクニカルタームはもう御説明の必要はないかと思いますが、氷の結晶の核になりますたんぱく質をつくる。そのバクテリア培養いたしまして粉末にして売っておるというわけです。  何に使うのかと申しますと、一番簡単な使い方は氷の結晶の核でございまして、普通の雪というのは氷点下マイナスの六、七度から八、九度にならないと空気中の水分が氷になりません。雪になりません。ところが、今のたんぱく質がございますと、マイナス〇・五度ぐらい、もう氷点下ちょっとのところですぐ氷の核ができて雪になります。そこで人工スキー場に使おうというのがまず第一の発想でございまして、消防のホースのようなものから水の霧を噴きますが、その中に今のバクテリアの粉をまぜておく、そして噴霧いたしますと、少し気温の低いところ、マイナス〇・五度ぐらいでございますとたちまちそれが雪になって積もりまして、人工スキー場がたちどころにでき上がる。  それからもっとおもしろいのはアイスクリームの中に入れる。アイスクリームも、特に手に持って食べるようなカップに入れたアイスクリームです。これに入れておきますとなかなか解けない。今のように氷点下〇・五度ぐらいで雪ができますから、今度は逆にそれを入れておきますとなかなか解けない。ですから両方で比べてみると大変おもしろいと思うのですが、相手の人には普通のアイスクリームを持たせておいて、私は今のたんぱく質の入ったアイスクリームを持っておる。向こうのはどんどん解けて手がべたべたに汚れるのにこちらは汚れない。こういうふうに大変うまいぐあいになるのじゃないか。その場合には、単にバクテリアといいましても、シュードモナスというのは余りいいにおいのするバクテリアでございませんので、食べ物に入れるわけにいかない。そこで初めて組みかえDNA技術というのが登場いたします。  組みかえDNA技術と申しますのは、今のシュードモナスというバクテリアの中に、氷の核になりますたんぱく質をつくる、たんぱく質設計図になっております遺伝子がございますが、この遺伝子を取り出しまして別のバクテリアの中に入れる。別のバクテリアラクトバチルスと申しまして、牛乳の中にふだんから存在しておるバクテリアでございます。これは牛乳の中にふだんから存在しておるバクテリアでございますから、においも大変よろしくて、食料としても全然無害でぐあいがよろしい。そういうラクトバチルスというバクテリアの中に今の氷の核になるたんぱく質をつくる遺伝子を入れます。これを組みかえDNA技術、要するに遺伝子を組みかえるということで組みかえDNA技術と申しますが、そうしますと、これはアイスクリーム用バクテリアができ上がるということで大変よろしかろう。  それを聞いておりまして私考えましたのは、これは大変重要な問題である。この辺はちょっと速記をしていただくといけないかもしれませんが、例えば北極海で潜水艦がだんだん上がってくる。冷たい海でございますけれどもまだ凍ってはいない。潜水艦が潜望鏡をだんだん上げかけたというときに上から今の粉をぱっとまきますとたちまち氷ができて潜水艦氷漬けになってしまうというわけで、これは兵器としても使えるのじゃないか。そんなことを考えましたが、実に意外なことに利用法がある。  実はこのバクテリアは、先般来アメリカ環境庁の方で問題になったバクテリアでございます。それはジャガイモ畑の霜の害を防ごう。御存じのように農作物は、ちょっと気温が下がりますと早霜というようなことで、霜を受けますと枯れてしまいます。特にジャガイモのようなものは腐ってしまうというようなことで大変な損害を受ける。これは今のバクテリアに影響されておるわけでございまして、氷の核になりますようなたんぱく質をつくるものですから、ちょっと温度が下がっただけでも霜ができてしまう。このたんぱく質の構造を少し変えまして、その変えた設計を持たせた遺伝子、あるいはその遺伝子自体を取り去ってもよろしいのですが、そういう組みかえDNA技術遺伝子を操作いたしましたバクテリアをつくってあらかじめ畑にまいておけば霜の害が防げるだろう、二、三年ほど前からアメリカでこういう研究が始まりまして、既に畑にまこう、こういう問題が起こったわけであります。  そうしましたら待ったがかかった。なぜかと申しますと、御存じのように組みかえDNAというのは生き物性質を変える。今のように霜をつくるという性質を霜をつくらぬようにするということですから、生き物性質を変えるわけです。生き物性質を変えるということは人類にとって大変な冒険だ。あるいは今にアリみたいな小さな生物が大きくなって人間を食い殺すとか、ネズミが象のようになるとかいうようなことが起こって大変なことになるのじゃなかろうか。これをアメリカ人の学者はシナリオと呼んでおりましたけれども、そういう話がいろいろございまして、ともかく組みかえDNAを使った生物は環境中に出さないことにしようじゃないかということで今までやってきておるわけです。そんな危険はこの場合にはありっこないわけですけれども、一応そういう自主規制と申しますかルールで研究を展開してきたものですから、これは今のところ自粛しようということで環境庁も待ったをかけたというようなことで、ごく最近になりましてから、そういう研究を展開してよろしいということになりました。  そういうわけで、このように氷の核をつくるようなバクテリアという非常に単純なものでも、非常に多様な使い方があるということがわかりました。  こういうことがいろいろな面でバイオテクノロジーの基礎になるわけでございまして、生き物多様性と申しますか、生き物の非常に多様な機能を利用して人間利用しよう、こういうのがバイオテクノロジーの本体でございます。  そういうわけで、ごく人間の古い歴史の時代からやっておりますような農業でございますとか水産業でございますとか林業というようなものも、広い意味ではバイオテクノロジーに入る。しかしながら、現在この委員会で問題にされておりますようなバイオテクノロジーというのは少々意味合いが違うかと思います。  それで、一体どういう意味合いが正しいのかということをいろいろ考えてみましたところが、ここに一つ非常にいいサンプルがございます。これは文部省の学術審議会で二月に建議として出しましたものでございまして、「大学等におけるバイオサイエンス研究の推進について」というのがございます。この中に、これはバイオサイエンスでございますが、その定義がございます。それをちょっと数行でございますので読ませていただきますが、「組換えDNA実験技術に触発され、既にあった核移植技術初期胚操作」、胚というのは生物が生まれます一番初めの細胞でございますが、その胚を操作する。特にこれは植物でこのごろよくやっておりまして、皆さんもよくごらんになると思いますが、このごろランであるとかいろいろな高級な花が非常に安く買える。あれはなぜかと申しますと、胚を培養したり、あるいは成長点培養と申しまして、植物の成長する一番トップのところを削り取りましてそこを種のかわりに使いまして植物をふやす、こういう技術が非常に発達してきた。これは何も近ごろのバイオテクノロジーによって起こった技術ではございませんで、かなり古くからあった技術でございます。そういうものが非常にポピュラーに使えるようになったものですから、近ごろ高級な植物やお花が我々の手にも非常に安く入るという時代になったわけでございますが、そういう「初期胚操作技術及び我が国で最初に発見された細胞融合技術等が新しい光の下に飛躍的な発展をみせてきた。そしてこれらの新しい実験技術を土台として、生命科学の中に、DNA基盤とした研究と従来の膨大な知識とを結びつけて生命現象を理解しようとする分野−バイオサイエンス−を確立させることになった。」こういう定義がございます。  つまり、組みかえDNA実験技術というのが一九七二年ごろに初めてできた。先ほど申しましたように、ある生物から遺伝子を取り出しまして、その遺伝子を別の生物に入れるという技術でございます。これが生物利用するためには革命的な技術であるということで、これに触発されて、既にあった核移植技術、この核移植というのは大分前からあったのですが、初期胚操作技術、それから細胞融合技術などが飛躍的な発展を見せた、こういうことでございます。それによりましてDNA基盤とした生命現象を理解しようとするバイオサイエンスというものが生まれた。  バイオテクノロジーと申しますのは、この委員会名前科学技術委員会というお名前のようでございますが、サイエンステクノロジー科学技術ということは車の両輪のような言葉でございまして、バイオサイエンスというものがございますと、このサイエンス人間福祉のために利用しようという技術知識方法、これがすべて技術テクノロジーと呼ばれるものになります。ですから、今定義いたしましたバイオサイエンスというものを人間福祉利用しようということがバイオテクノロジーということになるかと思います。  それで、これは非常に広いわけでございまして、今お手元にお配りいたしました私が昔やりました講演の速記録がございますが、この中でも一番初めにバイオテクノロジー定義を述べております。そのすぐ下の行に「コンピューターのほうにもやがてバイオチップスが導入されるだろう」というようなことが書いてございます。  私もコンピューターの方は全然素人でございますので多分にうそがあるかと思いますが、コンピューターに比較できますのは人間の脳でございます。人間の脳の細胞というのは、いろいろな数え方がございますが、大体百四十億ぐらいの細胞からできております。その脳の容量と申しますか能力と申しますか、それは大体一千億ビットというふうに呼ばれております。コンピューター機械でつくりまして、いろいろなつくり方がございますが、その中で今一番いい性能のものでもせいぜい一千万ビットと呼ばれておりまして、脳に比較いたしますと一万分の一というような非常に貧弱な性能しか持っておりません。人間の脳がいかに優秀なものかということでございます。  それで、結局コンピューターの方もこういう人間の脳をまねしました。そういうものにしたいということがバイオコンピューターという発想になっておりまして、これがバイオテクノロジーの中に入るか入らないか、大変難しい問題でございますが、広く解釈すれば当然入る。将来はバイオコンピューターということになると思いますが、その場合に何を使うかと申しますと、バイオチップスというものを使う。詳しく申し上げておりますと四十分たちまちたってしまいますので申し上げませんが、一種酵素のようなものでございます。  ここに書いてあることでございますが、酵素というのは生物がいろいろな反応をするときに使いますたんぱく質からできておる触媒でございますけれども、その触媒電子を一個あるいは数個動かすようなことで物質をほかのものに変える。一番簡単なのは、我々の体の中に流れております血液の中にヘモグロビンというたんぱく質がございますが、それに酸素分子が数個つくことによって体の中に酸素を運搬するという性能を発揮いたします。そういうことでたんぱく質は非常に小さな電子あるいは分子というようなものをほんの数個つけただけで物の性質が変わる。これを利用しよう。現在のコンピューター電子のクモでございまして、電子を大体千個とか一万というような数を動かしてやっと一つ反応をして見分ける。これは今の数の比較をしていただけばどちらが性能が高いかおのずと明らかでございまして、生物バイオチップスと申しますたんぱく質性の素子をもしうまく使えば、電子を幾つか動かすことで反応として一つとらえることができる。ところが現在使っております電気的な機械では、一千とか一万とかいうことでございますので、当然大きさも大きくなりますし性能も下がるということでございます。そういうバイオコンピューターというようなものが将来はできてくるであろうということでございます。  それから、バイオテクノロジー根幹技術と申しますか、左のページの下の方に書いてございますが、最近通産省で次世代産業基盤技術というのがもうこれで五年目でございましたかになりまして出発しておりますが、そこでバイオテクノロジー要素技術開発ということで柱が三本立ててございます。それの一つが先ほどから申し上げております組みかえDNA技術ということでございますが、あとの二本の一つ細胞大量培養細胞と申しましても、これは主として動物細胞のことでございます。動物細胞を大量に培養いたしますのは大変難しい。なぜかと申しますと、動物細胞培養いたしますのには牛の胎児血清を入れないと生えないということになっております。この牛の胎児血清というのは日本では貴重品でございまして、非常に高価である。そういうものを多量に使うのでは培養はなかなか進みませんので、これを何とか安く大量に培養する方法はないかという技術開発でございます。それからもう一つは、バイオリアクターと申しまして、ただいま申しました酵素たんぱく質性触媒、これをリアクターとして使おう、こういう話でございます。こういう三つの柱が今バイオテクノロジー根幹になっておるということでございます。  バイオリアクターというのは大変おもしろい、これは古い技術でございますけれども、先ほど申しましたように組みかえDNA技術に触発されて改めて発展しつつあるバイオテクノロジー根幹技術でございます。これも十二ページの真ん中のところにバイオリアクターの話が少し出ておりますが、石油化学バイオリアクター利用しよう、こういう話が数年ほど前にございました。これはアメリカにありますベンチャービジネスシータスというところでシータス・プロセスという話が出たわけでございます。これは何かと申しますと、少し専門語を使わないと困るのでありますが、モノマーというのをつくろう。皆さんは、石油製品でいろいろなポリプロピレンであるとかポリエチレンであるとかいうような合成樹脂、あるいはポリマーと申しますか、そういうものの恩恵に我々が非常にあずかっておるということは御存じと思います。これをつくりますのには、それの要素物質でありますモノマー——ポリに対しましてモノでございますから単体と訳したらいいのかもしれませんが、モノマーを重合させてポリマーをつくるわけでございます。そのモノマーをつくりますのに、今までは圧力をかけて触媒を使いまして、高温高圧反応させるというような方法を使っておる。ところが、高温高圧でやりますと勢いそこでエネルギーを消費いたしますのでもったいないということで、酵素バイオリアクターとして使おうということが出てまいりまして、酵素を三種類組み合わせましてモノマーをつくるというプロセスをシータス開発したわけであります。これをいたしますと、非常に温度が低いところで反応ができる。それから、三段階反応を一気にやることができるというようないろいろな利点がございまして、この方法が出ましたときには日本石油化学会社方々が大変びっくりいたしまして、これからは合成化学時代じゃなくて生物化学バイオテクノロジー時代になるのかということで大変驚かれたのですが、幸いにいたしまして石油の値段がまた下がったものですから、こういうことが再びまたもとに戻ったというようなことでございます。  それから培養細胞の方の話では、これは細胞大量培養ということがございますが、近ごろ細胞培養いたしましていろいろな医薬をつくるというようなことが出てまいりました。これは後ほどの参考人方々の御専門でございますので、そういう話はまた後から出てくるかと思いますが、そういうことで私は後の方々と違うところだけをお話ししておこうと思います。  利用はあとまだございまして、これも十三ページの左の方に石油回収にもバクテリアが使えるというような話をちょっと紹介してございます。これはどういうことかと申しますと、石油回収には三段階のステップがあるようでございまして、最初石油がどんどん自噴すると申しますか噴き出してくる。だんだんその噴き出す力がなくなりますと、今度はこれをポンプでくみ上げる。それから、それも少なくなりますと今度は、地下石油がしみております、それを何とか取り出そう。地下石油がしみ込んでおるのは、オイルシェールとかオイルサンドとかいうような形で砂や岩の間にこびりついておるわけでありますが、それを何とか取り出そう。これが三巡目の回収ということになりますが、そのときに水を使って洗い出すというのが一番ポピュラーな方法でございます。その水を使いますのに、これは我々素人考えでもすぐ気がつくのですが、ただの水よりは石けんのようなものを入れておいた方がよかろう。石けんのようなものを入れておけば、これは油ですから洗い流しがよくなるだろうというのはだれでも気がつくのですが、その中で一番適当な石けん微生物、先ほど申しましたバクテリアと同属のバクテリアでございますが、バクテリアがつくりますグリコリピッド糖脂質と呼ばれるようなものが非常にいい石けんになります。それから、もう少し工夫をいたしまして、水の粘度を少し増しておいた方がいいのじゃないかということでふのりのようなものを入れます。このふのりキサンタンガムというものでございまして、キサントモナスというバクテリアのつくるやはり一種の多糖類でございますけれども、そういうものを入れておく。この石けんふのりを入れました水で石油を洗い流しますと非常に効率がよくて、ここにもちょっと試験的な成績が書いてございますが、普通の水で洗い流したよりも四〇%ぐらい多く石油を洗い流して回収することができるということで、大変能率がいいわけでございます。こういうグリコリピッドキサンタンガム両方をつくるようなバクテリアを先ほどのDNA組みかえ技術で人工的につくりまして、それを培養した水を使えばこういう回収ができるわけであります。この場合ちょっと問題がございますのは、バクテリアを入れたままで洗い流そうといたしますと、バクテリア地面の下で目詰まり現象を起こしましてどうもうまくいかないということで、一遍バクテリアを取り出さないといけない、そういう面倒くささはございますが、将来はこういう生物石油回収にも使う時代が来るだろうということでございます。  そういっておりましたら、アメリカの油田では大変地面の下の砂地が粗いので、そういうところではバクテリアがいたままでも大丈夫だ、もっと積極的に——アセトンブタノール菌というバクテリアがございますが、これはいわゆる溶媒と申しまして油を溶かす能力を持った物質でございますが、このアセトンブタノールというようなものを生産するバクテリアがございます。こういうバクテリア地面の下に生やしますと、どんどんアセトンブタノールをつくって石油を溶かし出して、回収に非常に便利じゃないかというような話までございます。  まあいろいろなことはございますが、こういう鉱業の方にバクテリアを使うというのは、これは非常に外国で注目された技術でございます。日本では余り鉱業の方は進んでおりませんが、このページの真ん中の段の一番左の方に書いてございますが、オーストラリアあたりではウランの回収バクテリアを使う。ウランの鉱石を含んでおります地面にウランを溶かすようなものを生産いたしますバクテリアを入れてやります。そういたしますとウランが溶け出しますので、これをくみ出して簡単に回収できるというようなことで、オーストラリアあたりではこういうリーチングというようなことに大変よくバクテリア利用しようとしておるようでございます。  それから、後の参考人の方の御専門でもあるわけですが、先ほどちょっとランとかほかの花のようなことにも利用するということを申しましたが、植物の改良に最近非常にこのバイオテクノロジーが盛んになってきました。この技術は昔からいろいろ工夫されておりまして、既に皆さん御存じのように、例えば農林省で前に開発されましたハクランなんという野菜がございます。あれは白菜とキャベツ、キャベツはカンランでございますから、これを両方合わせた性質のハクランというものをつくっておりますが、最近では細胞融合技術、二種類の植物細胞を融合させる技術が大変進歩したものでございますから、いろいろなものがございます。まるで冗談のような話ですが、例えばミカンとタチバナをくっつけてカンキチというのをつくったり、ポンカンとタチバナをくっつけるとポンキチができたりというように駄じゃれのようなものがいっぱいできておりますけれども、植物の方では大変このバイオテクノロジーが進んでまいりました。  そこで、これは特にきょうは科学技術委員会にお願いと申しますか、植物バイオテクノロジーというのは実は余り企業任せにできない、国がやらなければいけない面がたくさんございます。それを一つだけ最後に申し上げておきたいと思うのです。  日本の農業の一番根本でございます穀類というものも改良しなければいかぬということがございまして、米、麦、大豆というようなものも改良の対象になるわけでございますが、こういうのは割合企業の参入が難しい。と申しますのは、これが余りお金もうけにならないのでございます。一例を申し上げますと、キリンビールという会社は、御存じと思いますが、そこで大麦の改良を盛んにやっておられる。この大麦の改良、近来の新しいバイオテクノロジーだけではなくて古いバイオテクノロジーも使っていろいろ改良をされてきておるわけですが、その開発には非常に長い年月、少なくとも十年ぐらいの年月と莫大な資金がかかる。それで天城二条というような大麦を改良されたわけです。ところが、この改良しましたものが結局お金にならない。最近種苗法という法律ができまして、一種の特許のようなことでその改良いたしました大麦に対しまして多少のお金が出ることになっておりますが、何十万というオーダーでございます。これではどうにもならない。  私はそれの開発にタッチされました久保さんという専務の方に、あなた、こんな開発をやったのによく重役になれましたねという話をしたのです。全然会社のもうけにならないわけです。そうしたら、おもしろいことでございまして、開発の結果、大麦からのエキス分のとれ方がふえるようになりました。御存じのようにビールというのは大麦、ビール麦のエキスでとるわけです。このエキスというのは搾った汁です。その汁の出方がたくさんになりますと少量の大麦でもいいわけです。ところがここで、またこれもちょっと速記をしていただくとまずいかもしれませんが、近ごろ日本では米をふやすとどうも農林省が困る、お国が困るということで作付の転換をやる。そういたしますと、まず大麦をつくろうというのが一つ発想でございまして、日本の農家で大麦をたくさん生産いたしますと、何しろこのごろは我々ぜいたくで麦などは食べませんですから、どうしたらよかろう、仕方がないからこれはビール会社に売りつけようということになるわけです。これをビール会社に売りつけますとビール会社は大変な損をする。何しろヨーロッパから買います麦よりも何倍も高くて、しかもエキスの出方が少ないということで、ビール会社としては大損だ。何十億という損になります。それで大変困るのですが、そのときに今のキリンビールで改良いたしました麦を日本の農家に植えてもらう。そういたしますと良質の麦ができるわけです。良質の麦ができますと、今のようにビール会社が買い入れましても、エキスがたくさんとれますから損害が軽くて済む。高いのは高いのでございますけれども、エキスがたくさん入っているので損害が少なくて済むということで、まあ実際現金として入りますのは年間数十万の権利金しか入りませんが、今のように回り回ってビール会社が何十億という恩恵を受けることができるような発明である、こういうことで麦の改良をなさった方はビール会社の重役になっておられる、こういう次第だそうでございます。  雑駁なお話を申し上げているうちに時間が参りましたので、また後で御質問がございましたらいろいろお答えすることにいたしまして、私のお話をここで終わらせていただきます。(拍手)
  6. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、鮫島参考人にお願いいたします。
  7. 鮫島広年

    鮫島参考人 それでは、私はこれからお配りします袋の中にあります資料のうちの小さな方でお話しさせていただきます。  私がお話ししますのは我が国の企業におけるバイオテクノロジーということで、学会関係のお話ではございません。企業だけに限らせていただきます。  このバイオテクノロジーという言葉は私は多少気になるのです。といいますのは、バイオテクノロジーは大昔から厳然として存在していた技術でございますので、私がこれから言う言葉はニューバイオテクノロジーという言葉でやらせていただきます。このニューバイオテクノロジーの始まりになりましたのは、一九七三年、今を去ること十三年前、アメリカのスタンフォード大学のコーエン、ボイヤーという二人の博士によって見つけられました遺伝子組みかえの技術が創始でございます。約二年後にイギリスのオックスフォード大学のケラー、ミルスタインという二人の博士によりまして、細胞融合技術の中でも特殊なハイブリドーマ技術でモノクローン抗体というものをつくる発明がなされました。この二つの発明が現在のニューバイオテクノロジーの骨格をなしておるわけであります。  なぜ重要かと申しますと、今まで非常に神秘と考えておりました遺伝子、すなわち物質的に言いますとDNAでございますが、その一部を人間がある程度自由に異種の生物間に移しかえて、それらの生命を利用していく非常に画期的な技術でございます。これから派生するいろいろな将来の工業的な面のメリットというものが予見されましたので、今から数年ぐらい前までは日本会社はとにかく立ちおくれておるということで、外国のいろいろなベンチャービジネス等からその技術あるいはその生産物を導入するということに対して狂奔したわけであります。今から考えますとちょっとした技術に、わかりませんけれども、ウン十億と言われておりますものを払っていろいろ技術導入をされたわけであります。  日本にとって非常に幸いでございましたことは、このような先端的技術の領域におきまして外国に行って留学中の日本人の研究者の中にはこれらの技術の初期の発達に非常に大きな貢献をした人がたくさんおるということが間もなくわかってまいりました。そういうことで、その中の一部の方は日本にお戻りにもなりましたし、また、現在外国で活躍中でございますけれども、日本語でそういう情報をどんどん入れることができた、これが一つの幸運でございました。いま一つは、日本には発酵技術あるいは発酵工業、世界に冠たる技術と工業がございます。そこには優秀なる研究者並びに技術者が多数おりました。このような新しい技術に対して吸い取り紙が水を吸うがごとく吸収してそれをそしゃくする、そういう能力があり、事実それは立証されたわけであります。この二つの理由によりまして、日本は驚くべき勢いでこの技術をマスターし、現在少なくとも工業面では世界に伍するところまで持ってきたのではないか、そのように思っております。  そのような事実を数的に裏書きするものといたしましては、特許の出方、学会等に対する報告の出方が一つの客観的な裏づけになると思いますが、次のページにあります表が日本におきます公開特許の数でございます。この数におきましては、遺伝子組みかえの技術あるいは細胞融合技術等におきまして、ついに一九八五年ぐらいを境にしまして、そのいずれにおきましても出願数は欧米諸国から出てくるものよりもふえてまいりました。数がふえたということは決して中身が優秀とは申せませんが、質が高まる前には数がふえるということは非常に重要なことであります。ということは、それだけこの方面を研究しておる研究者の数が非常な勢いでふえておるということを意味しておるからであります。もちろん、いま一つバイオテクノロジーの中の技術でありますバイオリアクター技術、これは日本はこういう問題が起こります前から非常にすぐれた技術を持っておりまして、特に昔から、また現在におきましても外国に劣っておるわけではありません。  さて、ここで一つ申し上げておきたいことは、一昨年の一月にアメリカの国会附属の技術評価局、オフィス・オブ・テクノロジー・アセスメントと申しますが、そこからコマーシャル・バイオテクノロジーという大部の報告書が出されました。これは当時のアメリカが欧州諸国並びに日本を対比いたしまして、将来のバイオテクノロジーの商業化についてどのようになるかということを比較したものでございますけれども、非常に印象的なのはその冒頭にありますエグゼクティブサマリー、全体のサマリーでございますが、その末尾に、将来のアメリカ合衆国のバイオテクノロジーの商業化ということに関して、アメリカ合衆国の最大の強敵になるのは日本であると明言しております。その理由を幾つか挙げております。一つは、日本は伝統のあるバイオプロセスの技術を持っておる。バイオプロセスの技術というのは、私から言わせれば発酵技術であります。第二は、国が産官学を挙げてバイオテクノロジーをナショナルプライオリティー、国家の優先課題であるということで非常に熱心に取り組んでおるということであります。第三には、日本は新しい技術開発するについての資金の調達力並びに将来のマーケットということについてはアメリカに次いでの実力を持っておる。第四番目に、日本人は基礎的な知見を聞いたらたちまち応用し、工業化に持っていく特殊な才能を持っておる。いずれも考えてみれば、よくそういうところを調べたものだと私も思います。現在に至りまして見てみますと、なるほどやはりそのとおりであったし、またそれを見抜いた評価局の人たちはかなり冷静な目で見ておったなということがわかります。  このようにアメリカが第一の理由に挙げました日本の発酵技術及び発酵工業の発展というものは、一朝一夕にできたわけではございません。明治の初めごろ多くの留学生が、特にヨーロッパでありますが、外国に行きました。幸いにも近代的な応用微生物学というものはちょうどそのころに発達いたしました。日本の明治維新はそれに間に合いました。日本人の科学者が応用微生物学の始まりのころから参加できたということは非常に幸運であったと思います。有名な北里柴三郎先生とか秦佐八郎先生とか、病原菌に関する非常に画期的な仕事をなさいました。そのような伝統が続いてはおりましたが、専ら戦前戦後、戦前は主にヨーロッパ、戦後はアメリカ技術を我々は学んできたわけでありますけれども、幸いにもアミノ酸発酵とか核酸発酵とかという特殊な技術日本で発見されまして、それを速やかに工業化し、そのころから日本の発酵工業というものは非常にバラエティーに富み、また質量ともに大きくなったわけであります。  そのようなバックグラウンドがあるところに、先ほどからお話がございました新しいバイオテクノロジーアメリカあるいは英国等で起こったわけであります。この点は、我々多少てんぐになっておった嫌いがありますが、やはり欧米はそれだけの力のある国であるということを改めて知ったわけであります。しかし一たんそれを知れば、それの吸収、消化の速さは日本は独特な力があるということも言えると思います。  これに対しまして民間は直ちに多くの留学生を外国に派遣しましたし、また大学におかれましても急速にその力を伸ばされました。同様に、国におかれましてもこの技術の将来性というものを非常に認識されまして、多くの省庁はそれぞれの領域におきまして施策をおとりになりました。ここにちょっと横文字で書いてございますけれども、これは昭和六十一年度の各省庁のバイオに関する予算でございます。非常に苦しい予算のときでもその方に予算を振り向けていただいておるものと思います。そこでまた国家としてもいろいろおやりになっておりますけれども、民間はそれぞれ独自に自分の力をつけてきておりますが、やはり民間一社だけではできないものがいろいろとございます。例えば後ほどまた政策の問題でも申し上げたいのですけれども、国家としてやっていただかなければならないようなインフラストラクチャー、DNAバンクとかいろいろございますが、そういう面につきましては決して日本は先進国にまさっておりません。アメリカやヨーロッパのおかげをこうむっておりまして、この点まことに先進国日本として恥ずかしい次第でございます。  そういうようなところは官学のお力のほかに、民間相互に協力し合って育てなければならぬものがございます。そういうことから各省庁におかれましては、傘下のいろいろな支援団体をつくるということを非常に要請されまして、また民間側からもその声がございまして、例えば通産省の場合は発酵工業協会という昔からあります財団にバイオインダストリー振興事業部というものをつくりまして、三十四ページにありますけれども、いろいろな仕事をやっております。ごく最近では、本年十月に池袋のサンシャインシティにおきましてバイオフェア東京86という非常に大きな国際的なシンポジウム並びに展示会を催しまして、単に関係の方々にバイオインダストリーというものあるいはバイオテクノロジーというものはどういうものかということを認識していただくのみならず、一般の方々にも認識していただけるように、できるだけ見やすいような展示会を催したわけであります。  さて、若干個々の技術の動向について述べたいと思います。  組みかえDNA技術、別な言葉では遺伝子組みかえ技術とも申しますけれども、この方面では、先ほども言いましたように当初は日本会社はおくれておりましたので、一生懸命に外国からの技術の導入を図ってまいりました。その後比較的短時間のうちに日本会社独自あるいは国内の大学あるいは研究機関と協力されて、日本独自の製品をつくることに成功いたしました。それが三十五ページの表6に示してございます。これらの技術の一部はもう既に欧米の有名なる会社に逆輸出をされたものも若干出てまいりました。  それからいま一つ日本独自の、全く日本でなければできなかったというような技術がございます。日本は現在アミノ酸の生産では世界のほとんどの八、九〇%を独占しておる国でございます。それだけに過去の技術が蓄積されております。多くの微生物の変異株を持っておりまして、そういう利点を生かしまして、アミノ酸生産菌株に関しましては非常に巧妙な組みかえDNAのネットワークをつくっております。それが三十六ページ表7に掲げてあります。  さて、次に細胞融合及び細胞大量培養技術の分野でございますけれども、これは当初は欧米からの技術導入に狂奔したわけでありまして、なお現在でも続いておりますが、この方面におきましても日本独自の技術が出てまいりました。現在この領域は主に臨床診断試薬を中心といたしまして、今後非常に多種多様の品物が出てまいると思います。また当然ながら医薬方面への応用が可能でございます。次に、バイオリアクター技術の分野でございます。バイオリアクターというものの根本は、やはりユニークな酵素反応でございます。この酵素はたんぱくで水に溶けますが、これを水に溶けない、いわゆる固体の触媒に変える技術を固定化技術と申します。それらの技術並びに反応装置の設計技術あるいはそれを最適に運転する技術、そのようなものを合わせたものをバイオリアクター技術と申しますが、この骨格をなしますユニークな酵素反応を見つけ出すその実績は、日本は世界に冠たるものでございます。表10に書いてあるように多数のものが日本開発されました。現在これらがバイオリアクターの形になって、いろいろなところで実用化されております。その数におきましても日本は世界で最も多いと思います。  それから次に、バイオテクノロジーの範疇に入れていいかどうかわかりませんけれども、バイオマス変換技術がございます。これは技術そのものは新しくはないのでございますけれども、ターゲットが新しいということでございます。一九七〇年代に二回の石油ショックを経験いたしまして、石油にかわる代替燃料をつくらなければいかぬということで世界的に努力いたしましたけれども、特に日本は熱心でございました。主に通産省を中心といたしまして、地球上で再生が可能な植物繊維資源を用いまして、これを燃料化しようという研究が年々かなり大がかりで行われてまいりました。現在それの最終的なパイロットプラントの仕上げが行われておりますけれども、幸いにも石油の価格がその後非常に低下いたしましてひとときのおそれはなくなりましたけれども、こういうものは今後のために備えておかなければならないと思っております。  それから次に植物の育種、増殖技術分野におきますバイオテクノロジーでありますけれども、この領域は残念ながら日本は欧米に比べまして非常におくれております。それは、先ほどからもございましたように、農業方面でいろいろな努力をしてもお金にならない。そういうことが一つございますことと、農業におきましてはアメリカとかオーストラリア、カナダあるいはむしろヨーロッパの方が日本よりか大きな農業並びに畜産業を持っておるということで、現在日本の諸会社もこの方面にようやく力を入れるようになりましたけれども、まだまだこれからであろうと思っております。この中で一つつけ加えておきますのは、日本は水産国でございますので、水産領域におきますバイオテクノロジーというものは意外に世界の先端を切っておるということが言えます。  さて、日本におきますバイオインダストリーの将来でございますけれども、現在会社がほとんどの力を注いでおりますのは医薬品と臨床診断薬品、この二つの方法でございます。といいますのは、この領域はできた製品の付加価値が非常に高いということで、同じ努力をするならこの方法ということになったことに一つの理由はあると思います。いま一つは、医薬品や診断薬の領域は、一定のルールをたどっていけば政府の許可が得られる。非常に厳重な試験を経なければなりませんけれども、こうやればこういうぐあいになるという一つの筋道がはっきりしておるということも、この方面に会社が力を注いでおるまた一つの理由ではないかと思います。もう既に医薬におきましては昨年ベータインターフェロン、これは細胞培養でつくったものですけれども許可がとれ、ことしの初めにはインシュリンあるいはヒト成長ホルモンというものも許可されました。これから来年にかけましては、続々とこの領域でニューバイオテクノロジーによる製品が許可されるものと思われます。  また一方、診断薬領域におきましては、組みかえDNA法による人工的な抗原の生産、あるいは先ほど言いました細胞融合法によりますモノクローナル抗体の生産ということで、今までできなかったような診断ができるということになってまいりましたし、またバイオテクノロジーの基礎科学面での進歩によりまして、いろいろな物質と病気との関係がだんだんわかるようになってまいりました。非常に難しいと言われておりましたがんの早期診断というものも現在夢ではございませんし、またエイズとか日本にございます成人T細胞白血病等を容易にはかる方法も出てまいりました。  さて、これからどうなるかということでございますけれども、次に出てくるのは、私は発酵工業あるいは化学工業、食品加工業というところだと思います。それは、ことしの五月でございますけれども、組みかえDNA技術の工業化ガイドラインが制定されたことであります。これによってようやく大型のバイオテクノロジーというものが工業化可能という一つの見込みが出てきたわけであります。それによりまして、恐らくこれから、今言いましたように発酵工業、化学工業あるいは食品加工業という方面での新しい産業が興ってくるものと思っております。  それから次に農業、畜産及び漁業の方面でございますけれども、先ほど言いましたようにいろいろの制約がありまして、この方面に力を入れてもなかなかお金にならないというのを、ようやく農林省等も主要穀物、例えば米等の改良にも民間の力を入れようという機運もございますし、そういうことでこれから伸びるのではないか。ただ、伸びるといいましても、日本の場合は園芸作物とかあるいは花というような観賞用、そういうところからやってくるであろう、やはり主要作物等はもうちょっと後であろうというような気がいたします。それから畜産業におきましては、アメリカ、オーストラリアあるいは欧州等は非常に多くの家畜を持っておりますので、当然これは進んでおります。しかし、これらも日本に導入されてくるでありましょうし、特に漁業におきましては、魚の成長ホルモンは既に三種類日本で新しい方法でつくられておりますし、また、養殖漁業に対する新しいえさ、そういうようなものの開発も逐次行われております。  次に、エネルギー産業でございますけれども、先ほどございましたように石油回収にもいろいろなバイオテクノロジーが使われるし、また現在、非常に基礎的ではございますけれども、光合成の力を使いまして水を水素と酸素に分解する、これは実験室的には可能でありますけれども、そういうものが将来本当に大型で可能になりましたら、もう日本石油の上に浮いておるような国でありまして、周りはただの石油がいっぱいあるというような国になるかもしれません。これは私の生きておる間になると保証はいたしませんけれども、今現実に実験室的に可能であるというのは、いつかは必ずそうなるはずであると私は思っております。  それから環境浄化でございますけれども、現在でも都市排水、食品工業排水はほとんどが微生物の力で浄化されておりますが、現在いろいろ政府、建設省あるいは通産省におきましては、環境浄化にニューバイオというものを取り入れようという計画を既に発足なさっております。それは微生物も改良し、また装置も改良して、非常にコンパクトで省エネ型の環境浄化装置をつくろう、そういうような考えでおやりになっておられます。  その後にまた来ますのは、先ほどもお話がございましたバイオをエレクトロニクス方面にいかに応用できるか。人間の持っておる脳は、今最高のコンピューターよりはるかに高い能力を持っておる。そのような素材が現実にあるものなら、そういう領域にこういう材料が使えるのかと当然考えることでございまして、これもまだまだ先のことかもしれませんけれども、そういう新しい方向への発展が期待されます。  間もなく時間が参りますけれども、ではこの領域において将来一体どのくらい産業として伸びるかといういろいろな調査がございます。最も厳しい評価では二〇〇〇年に一兆だ。今まで一番高いのでは十五兆だというお話がございます。その中間的な五兆、十兆というのがございますので、私はやはりその間をとるようでございますけれども、五兆、十兆ぐらいのところではないかと思います。これはニューバイオテクノロジーに関して起こるというものでございまして、従来のバイオテクノロジーでの自然増というものは別でございます。  それともう一つは、バイオテクノロジーというものは単独で成り立つものではないと思います。この周辺技術、周辺産業とも合体することによってより幅の広い産業が興る。その産業をプロモートする力があるのではないかと思います。そのような周辺産業との協力でどうなるかということになりますと、私どももよくわからないというわけでございます。このバイオテクノロジー自体は、従来のように大量の物質を入れて大量の生産物をつくるというものではございませんで、量としては非常にコンパクトなもの、小さいものになっていくのではないかと思われますが、それには結局は人の力、人の思考力といいますか、そういう力がこれから大事でございます。バイオテクノロジーの展開のためには、どのように人を育てていくかということが今後最大の問題になろうかと思います。  四十分になりましたので、一応ここで終わらせていただきます。(拍手)
  8. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、野口参考人にお願いいたします。
  9. 野口照久

    野口参考人 野口でございます。私は、生物学及び医学を核としました研究所で新しい医薬品の創製研究に従事している者でございます。  ライフという英語がございますが、ライフという言葉日本語に訳しますと、生命とか命、あるいは生活、生涯とか一生とかいういろいろな言葉に変わってまいります。このように、欧米人と日本人の同じライフというものに対する感覚がかなり異なっております。我々としてもこの言葉の中での意味をよく考えてみますと、生活ということと生命ということではかなり大きな開きがございます。この開きの中で、ライフサイエンスという言葉がございますけれども、ライフサイエンスあるいはバイオサイエンスという言葉が、我々の生命あるいは健康維持に関する科学、あるいは生活を豊かにするという科学、あるいはそれに伴う技術としての問題、こういうような問題とかなり広くかかわり合ってくることと考えております。  そういう意味で、本日御指示されましたバイオテクノロジーの将来という問題についても、我々の生命の問題、特に健康維持という問題、あるいは生活、特にこれからの二十一世紀の長寿化社会へ向けて心豊かに我々が社会の一員として生きていくためにはどうしたらいいだろうかというような科学なり技術が非常に重要になってくると思います。そういうような問題が全部バイオテクノロジーあるいはバイオサイエンスということの中に含められるのではないだろうかと私は考えております。  そこで、去る昭和五十九年四月二十四日に科学技術会議が内閣総理大臣からの諮問第十号に対しまして、ライフサイエンスにおける先導的・基盤技術研究開発基本計画を答申しまして、同年八月十日に内閣総理大臣決定ということになりましたが、これが我が国における基礎及び基盤研究あるいは技術に関して非常に大きな効果をもたらしていると思います。この秋に幾つかの学会がございまして、例えば一例を申し上げますと日本生化学会、日本癌学会あるいは日本薬学会、日本発酵工学会、あるいは最近では分子生物学会、遺伝学会、農芸化学会もありますが、そのほかに昨日から行われています免疫学会という中で、二十代あるいは三十代前半の若い研究者が非常に活発に論議しております。特にこのような十年前に想像できないような学会の様相といいますか論議のパターンが、ほとんど遺伝子を中心にした論議でございます。あるいは分子レベルというか、そういう同じ生命観を見るにしても物質論を見るにしても、遺伝子ということが中心になった論議が活発に行われて、むしろ過言をするともう八〇%以上は遺伝子の問題から出発した論議であるということで、このような一つの政策決定というものが非常に大きく我が国の研究レベルの向上に役に立つという一つの事例ではないかと私は考えております。  そういう意味で、本日私が申し上げますのは、医薬品という前に、生命と医薬品というようなかかわり合いの中での一般的なお話を踏まえて、これからの産学共同研究あるいは外国との対応というものについてお話をしたいと思います。  まず、私たちの体の中を考えてみたいと思います。我々は気がつきませんけれども、日常健康に朝になると目が覚め、夜になると眠くなる、しかも非常にさわやかに一日が生きていけるのは何であろうかと考えますと、これは体の中に、生命、健康を維持するあるいは快適にするような遺伝子が全部情報として各細胞の中に入っております。ヒトの細胞の中には約三十億ビットの遺伝情報が入っておりまして、それに基づくと約一億くらいの遺伝子があります。実際に活動している遺伝子は約十万ぐらいでございますが、そういうような遺伝子の働きによって我々は生命を維持している。例えばがんの発がん物質が体に入ってくる、あるいは感染菌が体に入ってくるというようなときには、そういう体外からの障害に対して、さらにそれを直ちに防御しようとする機能が働きます。その一つが、例えばウイルスが入りますと体の中でインターフェロンができる。インターフェロンをつくることによって外敵の侵入やウイルスの侵襲を防ぐ。もともと体の機能というものはそういうふうなものからできております。本日の先生方の中にも御専門に医学を修めた方もおりますが、わかりやすく言いますと、そういうような問題が我々の中で日常行われているわけです。  そういうような規範となる遺伝子、我々の生命を守っている遺伝子を今日では、特に近々約十年くらいのことでございますが、自由に我々が取り扱えるようになった。ましてや人工的に遺伝子を合成することが技術的に可能になってきた。これはすばらしい革命なり特に科学技術の革新ではなかろうかと私は考えます。それに基づくいろいろな生産技術の改革あるいは革新が行われてきているということは、もとをただすと、生命の維持というだけではなしに、生活に豊かさを与える技術であるということで、冒頭に申し上げた生活とか生命とかいうものにかかわり合いがある科学技術であると私は考えております。  さらに驚くべきことは、体の中から、そういう細胞から遺伝子を取り出し、その遺伝子がどういうような構造を持っているのかというような技術も進歩してまいりました。またその遺伝子を合成することもできます。さらにそれを人の体の中だけでなしに、先ほどから参考人方々お話しになっているように、大腸菌とか酵母とか枯草菌とかいうような微生物あるいは動植物細胞につくらせることによって、自由に我々の求めるような、今まで不可能であった、あるいは可能であっても非常に超微量であったものが合成もでき、製造もできあるいは経済的な生産も可能になってきた、そういうようなことが私はこのバイオテクノロジーが新しい技術として注目されているゆえんではないかと思います。ましてや二十一世紀における我々の生活が、これから非常に長寿化社会に向かっていくときに、食糧問題もさることながら、やはり生産性を維持するためには、老人の活動といいますか、いわゆる高齢化社会における労働生産性を上げていく、こういうような問題についてもバイオサイエンスなりバイオテクノロジーということが非常に重要な寄与をするのではないかと思います。そういう意味で、人的資源あるいは社会的な資源の問題からいっても非常に重要かつ今後に期待できる技術ではないかと考えます。  このようなことでございまして、体の中にはいろいろな生理活性物質がある、生体の中にはいろいろな体の生命を維持する有効物質があるということから、生体医薬あるいは生体の中の医薬ということで、バイオテクノロジーによってそれを取り出し、またそれを同定し、かつそれをつくることができるということから、従来からの合成医薬品、これは本来人間とは全然縁のないものでございます、いわゆる外来の物質であって、外来の物質を使って我々は病気を治したり健康維持を図っておりますが、そういうものと違った新しい次元の医薬品がこれから登場しつつある。先ほどから出ておりますようなインターフェロンでもそうでしょうし、あるいはインシュリンみたいなものでも、糖尿病患者にもこれからは遺伝子組みかえのインシュリンが投与可能になってきたということによって、大きな経済的な効果あるいは福祉的な効果ももたらしているわけでございます。そういう意味で新しいバイオテクノロジー、特に遺伝子組みかえ技術あるいは細胞融合技術というような技術によってつくられるいわゆるバイオ医薬品、これは通称でございますが、こういうようなものが新たに登場してきたわけでございます。そういう意味で、我々のバイオというものに対する考え方の中で、医薬品の創製開発及び生産に伴い、どれだけこれから大きなインパクトを与えていくかというようなことは想像以上だと思います。  と同時にもう一つ大きなことは、病気の原因の研究、これもバイオテクノロジーによっていろいろ可能になってまいる。特に遺伝子操作によって病気の遺伝学的な研究あるいは病原といいますか病因についての解明も、先ほど言いました諸学会では非常に盛んになってまいりました。それだけ我々のこれからの健康あるいは疾病の治癒、治療というものに対しても大きな効果をもたらすものである。そういうことによって、単なる医薬品だけではなしに、例えば発熱の現象だとか痛みの現象とかいうような本来人間の健康維持のために体の方が警告をするものの機作、これはまだ不明でございますが、そういうものもわかってきますし、先ほどから出ているようなエイズの問題でも、同じように免疫不全というメカニズムから、どういうような対策あるいは治癒方法をしたらよろしいかというようなことを考えることも新しいバイオテクノロジーが威力を発揮する場ではないかと考えます。  こういうようなことを考えたときに、一八六五年にメンデルは遺伝法則を発想として提案しましたが、世の中ではだれにも認められなかった。ところが、ちょうど今世紀、一九〇〇年にメンデルの遺伝の法則が再認織されたわけでございます。まさに今世紀は遺伝子の世紀ではないだろうか。ちょうど一九〇〇年に始まったものが、わずか七十年の間にこのように社会あるいは産業に大きなインパクトを与えるまでの技術に進歩したということは、これは人類の歴史の中で刮目すべき科学技術の進歩ではないだろうかと私は思います。それを踏まえて、これからの二十一世紀にこの科学技術をもって我々がどのような対応をしていかなければいけないかということを、企業だけではなしに国民も、もちろん政府も真剣に考えていくことが人類の将来の福祉にも非常に大きな問題になってくる。もちろんこれはいわゆる国家を超えた全人類の課題として検討すべきことだろうと私は思います。  このように非常に難しい話になりましたので、少しやわらかい話をさせていただきます。  今のメンデルがおりました教会がイタリアにありまして、その百メートルぐらいのそばに大きな池があって、その池であるときに体長数メートルの大きなコイを発見したわけです。それで、これはすごい長寿、長生きのコイであるというので、このイタリアの学者は、そのコイの中の遺伝子研究すれば、いわゆる不老長寿の遺伝子が見つかるのではないだろうかというようなことで真剣に研究したわけであります。その名前をジェロントロゲン、老人学とか長寿学ということをジェロントロジーと言いますけれども、その遺伝子ですからジェロントロゲンという言葉までつくりまして、あるときにその遺伝子の構造を発表したわけです。それを事もあろうに世界で最も権威のある「ネーチャー」という科学雑誌に発表したわけです。私もちょうど四年前でございますけれども、それを読んでびっくり仰天しまして、まさにこれは不老長寿のための遺伝子が見つかったのか、これを使えば薬がすぐできていくなというような非常に短絡的な発想もしたわけであります。引用文献の中に日本の文献もあったのですけれども、その文献が「不老長寿」という雑誌なんですね。ところが、全然そういう雑誌はない。幾ら探しても、国会図書館に行ってもないのです。おかしいと思いまして直接「ネーチャー」の編集長に、先週も会ったのですけれども、会いましたところが、彼は、おまえ「ネーチャー」の発行日を見ているか。発行日をよく見ましたら四月一日なわけです。エープリルフール。権威のある科学雑誌でも時々そういう夢を持たせる。バイオテクノロジーというものはそのように夢があるんだという記事で、まさに発表形式は完全な論文形式でございましたけれども、そのようなことでこの研究というものは非常に夢がある。  それは笑い話で終わりましたけれども、現実問題として、実際に体の中には老化を促進する遺伝子があります。それからまた、これから非常に大きな問題になってくる老人性痴呆、いわゆるアルツハイマー病と称するものも痴呆の一つでございますが、アメリカでは百五十万人もおる。日本でも潜在的に五十万人ぐらいの患者がいるのじゃないか。そういうような人たちがふえてくると、いわゆる保険制度からいうとますます大きな社会的負担になってきて、社会労働生産性は低下するわけでございます。と同時に若年の勤労層がそれだけ負担になってくるということから大きな社会問題になるのじゃないだろうかということで、アメリカでは脳・神経科学におけるバイオテクノロジー研究というものが非常に盛んになってまいりました。特に、現在私が兼任しておりますロックフェラー大学では、今までノーベル賞をもらった方たちが十八人ほどいます。今その中の七、八人がまだおりますが、その人たちが声をそろえて言うことには、これからはブレーンの時代である、脳の時代だ。脳科学、脳・神経科学というものの研究がこれから非常に重要になってくる。それは一にぼけ老人あるいはぼけ人間をできるだけ防止することである。もちろん心臓・循環器系の心不全による死亡率も高いが、そういうようないわゆる植物人間をできるだけ防止するような社会政策あるいは研究が非常に重要であろうということで、今まで免疫学者としてノーベル賞をもらった方たちがアメリカではこの脳・神経の科学へどんどん移行しております。現実にその研究費もがん研究と並び称せられるぐらいに重要性を持って、どんどんふえてきている。日本においてもそういう意味では、これから科学技術振興政策の中で非常に重要な問題になってくるのではないかと私は思っております。  そういうような研究の中でも、老化の防止、ぼけの防止、老人性痴呆あるいはアルツハイマー病の解明、遺伝病の解明、こういうものもバイオテクノロジーが非常に有効な技術として、あるいは研究手段として使われるようになってまいりました。それで先ほど申し上げましたように若い研究者が育ってきて、分子生物学会でもそうですし、あるいは生化学会でもそうですが、どんどんそういうような研究が盛んになってきたということは、一つの国の政策がこれだけ大きく影響してくるという意味では非常に重要なことではないかと私は思う。  同時に、こういう問題を踏まえて、今もう一つ新しい技術が第二世代のバイオテクノロジーとして台頭してまいりました。それはこの「バイオテクノロジーによる新たなる創造」という中で私ちょっと書いてあると思いますが、アミノ酸の数にしても二十種類でございますが、その組み合わせによっていろいろな有効なたんぱく性の生体の医薬といいますか、そういうものができるわけでございます。このたんぱく質というものは合成をするのが非常に難しい。人類の長い夢であったわけでございます。そのたんぱく質の合成もバイオテクノロジーによって非常に自由に、自分の望むような合成が可能になってきた。これはやはり大きな進歩だと思います。そこにプロテインエンジニアリング、たんぱく質工学という新しいソフト工学が誕生してきたわけでございます。  なぜソフト工学かと申しますと、プロテインエンジニアリングというものは、本来の基礎的な学問ではなしに、いろいろな基盤、基礎的な学問、技術を組み合わせた技術でございます。例えば遺伝子工学とか細胞工学、あるいはNMRとかエックス線だとか、あるいはエレクトロニクスによるコンピューター・エーデッド・デザイン、CADと申しますが、こういうような技術を組み合わせることによって、たんぱく質の構造なりたんぱく質の合成なりということが可能になった。特に、いわゆる人工遺伝子、合成遺伝子を使って自由につくるということが可能になってきた。これが先ほどから出ておりますバイオエレクトロニクスというような新しい産業を生む基盤にもなりつつある。これが例えばバイオチップとかあるいは将来のバイオコンピューターというような問題にもつながってきて、バイオメカトロニクスというような言葉もありますので、産業に波及効果といいますか普及効果が非常に大きくなってまいっているわけでございます。もちろんまだバイオコンピューター自身は二十一世紀の技術と言われておりますが、その研究あるいは基礎的アプローチにしても、脳の研究、いわゆるブレーンのサイエンス一つの脳・神経ネットワークと称しておりますが、こういうようなものとの関連の中で人工的に人間のすぐれた機能をいろいろと学び取ろう、それによって新しいエレクトロニクスあるいはメカトロニクスというものを生んでくる。将来は人間の意思あるいは創造という問題にまでバイオテクノロジー研究が進みつつあります。そういう意味においては、これが将来二十一世紀においての新たなる産業の創造でもあり、人類のための福祉にも非常に重要な貢献をするものであると私は期待しております。  このような問題がこの中に隠されておりまして、これをどのように我々は考えていかなければいけないのか。そういう中で特に医薬品の問題を取り上げますと、先般サンシャインで開かれました、先ほど鮫島参考人も申されたバイオ86ですか、アメリカのFDA、フード・アンド・ドラッグ・アドミニストレーションという食品医薬品局フランク・D・ヤング長官がシンポジウムで特別講演をされました。彼は、医薬品の審査は生産物の有効性と安全性をチェックするのが本来の使命であり、どんな手段で製造したかは大した問題ではないということを強調しています。特に、バイオ技術による医薬品生産のガイドラインは業界とも相談して弾力的に運用したいと米国政府のバイオ実用化に臨む基本方針を明らかにされました。特に、二十一世紀でも技術大国を目指します強いアメリカの旗印のもとにレーガン政権が進めております医薬規制の強化から緩和への動きは、一九八一年の開発研究費税額控除制度に始まって、八四年の後発医薬品承認簡略化、新薬特許期間延長法の施行、八五年新薬承認期間短縮のための規則改定、対日MOSS対象としての医薬品指定、あるいは本年に入りまして医薬品輸出法案などということで、長官のこの発言から、バイオテクノロジーは医学、生化学、薬学、農学、エレクトロニクスなど非常に広い科学技術領域にわたる知識集約型の産業であって、医薬品が米国の重要な戦略産業として位置づけられて、法制、行政、外交各方面で積極的に開発助成を受けるようになってまいりました。特に日本というのは、先ほどから両参考人が述べられているように微生物技術が最も進んでいる国家であるということで、米国の最大のライバルであるということで注目しております。  そういう意味におきまして、我々は今後このような問題にどう対応していくかということでは、新たなる国家的な摩擦にもなるだろう。その点からも科学技術の振興というのは非常に重要である。特に、我々が欧米の方たちの訪問を受けるときに、日本はけしからぬ、我々がせっかく基礎的な研究をしているとすぐそれを取り上げて応用してしまう、そして日本がみんなもうける、だから我々は苦しむのだというようなことを口を開くと言います。しかしながら、実情としては必ずしもそれだけとは言えないので、先ほど申し上げましたように日本もたくさんの若い研究者が基礎研究をしておりまして、先ほどの「ネーチャー」という雑誌にも、最も先端的なあるいは基礎的な研究成果をどんどん発表しております。そういう意味で、我々はその言葉にくじけずにこれからもやっていけるのではないかと思います。  しかしながら、この問題の中でバイオテクノロジーをめぐる知的所有権、いわゆる特許の問題がそうでございますが、これが特に重要な問題としていろいろとこれから論議されてくるわけでございます。この知的所有権という問題が、特に今後のバイオインダストリーというものを支える上において非常に重要な政策になってまいります。これに関しましても、欧米各国はいろいろ手をかえ品をかえして日本を抑えるための知的所有権制度の対応に躍起になりつつあります。こういう問題についても我々は十分にこれから研究、対応していかなければなりませんし、二十一世紀を生きていくためにも非常に重要な問題に迫られております。このようにバイオテクノロジー、特にライフサイエンス基盤にしたバイオテクノロジーというものが我々の健康、福祉の中であるいは生活の中で非常に重要な役割を演じているということが期待できると思います。  そこで、このバイオの振興策に関して、本日の機会を得ましたので二、三私たちが考えております点を申し上げたいと思います。  特に大学、研究機関と民間との交流促進の問題でございます。その中でも産官学共同研究の促進で、これは昭和六十一年五月二十日公布の研究交流促進法の適用拡大でございます。これは対象として国立試験研究機関、大学、この大学は研究所が主体であって、いわゆる教育教員を除く大学及び病院の研究公務員、これが約一万一千人おります。これは外国人を部長クラスまでの研究公務員に任用する、研究公務員に学会出席の道を開く、研究組合などの研究に従事するとき休職扱いの不利を除く、受託研究成果の特許権の取り扱いを改善する。この特許権というのが先ほどの知的所有権です。それから、国際共同研究成果の特許権は相手国の無償使用とし損害賠償請求権を放棄する、国有試験研究施設を廉価に使用させる、国際的研究交流に配慮するということでございますけれども、この中では国立大学教授は対象外にされております。我が国の大学教授という中では非常に重要な役割を、しかも中核的に演じておりますが、実際問題としては、産官学の共同研究の中では非常にいろいろ行動が制限されております。例えばロックフェラー大学の例を申し上げますと、ロックフェラー大学は、年のうちで約二ヵ月ぐらいは企業と直接コンサルタント契約を結んでおけと。それは一つには研究費の確保ということもございますけれども、もう一つは産業、特に社会の中での産業というものがどういうふうな位置づけで、どういうふうなものを要望しているか、そういうものが学問とどういうふうに結びつくかということで、積極的に大学教授が産業の中に入ってこれるようになっております。それがやはり強いアメリカ一つの大きな基盤になっているのではないか。そういうことで、これは検討を要するのではないか。  それと同時に人的交流の促進でございますが、大学研究職員の民間企業社員との兼職の一部承認、これもやはりなかなか難しい問題がございます。国家公務員法第百一条の一項には職務に専念する義務というものがございまして、これがなかなか民間企業社員との兼職ということを自由に認めない。同時に、この百三条では私企業からの隔離ということがございまして、営利企業とは一定の隔離をすることということでまた接近を防いでおるわけであります。こういうようなことで承認をするためには、人事院は毎年遅滞なく国会及び内閣に対して報告をするというような問題もあるということが、いろいろと産官学の交流を阻害しておるのではないだろうか。こういう問題を円滑に運営する問題も考えていかなければいけない。  特に、民間企業社員の国公立研究機関職員への登用ということで特例項目の設置、国家公務員法の特別職についての規定が第二条にあります。が、こういうようなことで特例の中で、研究公務員研究法の制定とか、あるいは身分保障、任用の規定、こういうものについてもやはり検討を要する問題である。特に、私どもの研究所にも諸外国からいわゆる客員研究員も参っておりますし、もちろん大学にも来ておりますが、これがより一層——かつて終戦後アメリカに我々の大量の研究者、技術者が留学したと同じように、今度は逆に、今までお世話になった外国から我々はたくさんの研究者も迎えていくことが大事じゃないだろうか。それは必ずしもむだではなしに、むしろ新しい知能の混血ということがより次の時代への大きな発展にもなるのではないかという意味で、積極的に外国研究員の日本への受け入れ、それのための身分保障とかあるいは保険制度、こういうようなものも含めてお考え願いたいと思います。いろいろと希望もございますけれども、時間の制限もございますので、私の参考人として申し上げることは以上でございます。(拍手)
  10. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。     ─────────────
  11. 原田昇左右

    原田委員長 これより質疑を行います。  この際、委員各位に一言申し上げます。  質疑につきましては、時間が限られておりますので、委員各位の特段の御協力をお願いいたします。  なお、委員長の許可を得て御発言をお願いしたいと思います。
  12. 粟山明

    ○粟山委員 ただいま各参考人の先生方からいろいろお伺いいたしまして、まさにバイオテクノロジーは二十一世紀の科学技術の中心というような感を深くしたわけでございます。例えば今度の六十二年度の予算要求でも、各省庁からもうそろそろ出てまいりますが、各省庁は全部、科学技術の予算の中にはバイオテクノロジーという項目が何かしら出てくるような状況で、逆に言うと非常に心強いのであります。  先ほど斎藤先生から、一番最後にキリンビールの大麦の研究の話を伺いました。今、日本で農業問題、米の問題は本当に大変な状況になっております、生産が過剰であるとかいう話、特に生産費がアメリカあるいは東南アジアの国より五倍から八倍も日本が高いというような話になっております。そういった農業面でもバイオテクノロジー技術アメリカあるいはヨーロッパで随分進んでいるということのようでございますけれども、今いろいろお伺いした中では、日本の農業生産というものに対する組みかえDNAというような技術の問題が余り出てきてないような感じがするのであります。素人考えでございますが、端的に言って、米の生産費を極めて安くしなければ日本の農業は成り立たないということからいきますと、それを解決するのに先ほどのお話のように莫大なお金がかかるのではないか。それに対してわずか数十万円のオーダーしかもらえないというようなこともございましたけれども、今までのやれ新種の花をつくるとか新しいかんきつ類のかけ合わせをしたものをつくるとかいうのでなくて、アメリカで大豆の収穫を三倍にしたとかあるいはヨーロッパで小麦の収穫量が極めて上がったとかいうような事実、今アメリカ石油会社が大量の資本を投下して、これを特許法で保護されて各国に種苗として輸出している、こういうような考え方から、日本の米にこれから莫大な金をかければもう数年後には収穫量が今の品質で倍にもなるような技術というものはやり得るのかどうか。これは大変素人的な質問ですが、その辺はいかがなものでしょうか。
  13. 斎藤日向

    斎藤参考人 大変難しい問題でございますが、まず一番最後の方からお答えいたします。  数年でということでございますが、これはかなり難しいことなんでございます。と申しますのは、主要穀物の米、麦、大豆の中で、米の技術的な改良というのは諸外国では余りやっておらなかったのです、最近になりましてアメリカの方で多収穫の米の生産技術開発されたということがございますが。こういう米の育種というのは、一口に一品種十年というふうに言われております。それは結局おわかりのように、一年に一回しか種がとれない。米の改良をやっておりますのに一年に一回しか改良のチャンスがないということで、今までの技術でございますと少なくとも十年かかる。ところが最近のいろいろな技術で、細胞融合でありますとか遺伝子組みかえとかいうような技術を使えばこの時間をかなり短縮することができる。しかし、これはバクテリアと違いまして、細胞融合技術を使っても一サイクルと申しますか、改良したものが実を結ぶまでにはやはり数カ月の時間がかかるということで、どうしても時間の制約というのは抜け切れない。恐らく時間的には十年を半分に短縮することができればまずいいのではないか、三分の一に短縮することはできるかもしれませんが。そういうわけで、五年で画期的にできるかという今の御質問には、これは大変難しいというお答えをしておかなければなりません。  それからもう一つは、お米の改良ということは従来は日本の国策で、農林省の政策でございますけれども、民間での開発をしておらない。大体農林省の農業技術研究所が主体になりましてお米の改良を進めてきた。私は農技研の技術が低いとは申しませんが、官庁の研究所というのは、これもまた余り議事録に残されては問題が起こるかもしれませんけれども、技術的な体系が老化しやすい。数年前に農林省で直轄研究所の改編ということが問題になりました。その委員も私はやらされたことがございました。その委員会での結論をもとにいたしまして農林省の方はかなり大きな直轄研の再編成がございました。それは農技研と蚕糸試験場と植物ウイルス研究所という三つをつぶしまして、新しく農業生物資源研究所と農業環境技術研究所ですか、私は正確な名前をちょっと記憶しておりませんが、二つに改編をなさった。それで三年ほど前から新しい体制で研究を始めたということで、かつての委員の人たちにも農林水産技術会議の方から御説明のチャンスがございました。そのときに私が非常に気になりましたのは、その当時、三年ほど前でございましたが、私は国立の予防衛生研究所の研究者の平均年齢が四十九歳だということを聞いたのです。それで農林省の方はこの新しい分子生物学、バイオテクノロジーに基づく研究をするのに平均年齢は一体お幾つでございましょうかと伺いましたところが、五十四歳ですというお答えでございました。これは一大事だ。私も年寄りですから年寄りをばかにするというのではございませんが、新しい技術、科学を吸収するのにはやはり若い頭脳が必要なので、これは大変だというふうに申し上げましたところが、あと六年たつと若返りますという御説明でございました。それは何かといいますと、五十四足す六は六十でございまして、定年法が施行されれば、六十歳で研究者が全部定年になるので若返るという意味だということが最近になってわかりました。そういうわけでかなり改善されたけれども、農林省の直轄研究所の技術水準というのはまだ十分ではないというふうに私は考えております。それで、先ほど鮫島参考人からもお話がありましたが、これに民間活力を導入する、こういうことの施策が非常に必要である。しかしながら、民間に任せておいたのでは、余り利益を生まないことはなかなか開発が難しいので、これはぜひ国の施策が必要である、これが技術的な面での危惧でございます。  以上、時間の制約の問題と技術的な制約の問題とございますので、早急な改革といいますか成果というのは、余り期待を持たれると御失望が大きいのではないかと思います。
  14. 村山喜一

    ○村山(喜)委員 鮫島参考人にお尋ねいたしますが、発酵法によりまするアルコール、無水アルコールではなくて工業用アルコールあるいはもっとレベルが低くてもいい、ガソリン等の代用品として使うようななにが今随分新エネ機構のあたりで進んでおるわけですが、これが将来採算性がどういうふうにとられるようなものに発展をしていくであろうかという見通しの問題を御説明いただきたいのです。といいますのは、そこにあります草木でもすべてアルコール原料に転化することができるわけですが、それはやはりコストの関係の問題がありますから、やがてガソリンの値段が上がったらというような、それに対応して今から研究をしておくという意味はわかるのです。しかし今の価格では到底太刀打ちができないのじゃないか。そういうような現状から、将来への見通しの問題を発酵という立場からどのようにとらえていけばいいのか、ちょっと教えていただきたいと思います。
  15. 鮫島広年

    鮫島参考人 私は、通産省傘下でやっております新燃料油研究組合の石油代替燃料の生産という三つのプロジェクトの中の一つのバイオマスからの燃料アルコールの生産、そういう仕事を既に八年ぐらいやってきて、今年度で一つの締めくくりになるわけでございます。現在、総合パイロットプラントは協和発酵の防府工場で動いております。これは単にコストだけではなしに、この機会にいろいろな新しい技術をそこへ組み入れて将来の可能性を探ろうということでやってまいりました。  現状、コストの面でいきますと、当分の間は石油には太刀打ちできないと私は思います。これが発足した時点から逆に石油がもう少し値上がりしてくれれば、あるいはすれすれで成り立ったかもしれませんが、今は完全に逆の方向へ行っております。しかしながら世界を見てみますと、御存じのようにブラジルは一つの国策としてアルコールを生産し、既に一千万キロリッターに及ぶ生産をしております。これはブラジルの国策として、まず外貨を出したくない、これが第一番でございました。そういうことでアルコール自動車を国内でつくり、また化学工業の原料としてアルコールをつくっております。現在ブラジルは既にサトウキビの作付面積が非常に大きくなっておりますので、もう二度と石油へ戻れない。戻したら大変な農業問題を起こします。そういう国策としてやっておる国があるということは現実でございます。  それから、いま一つアメリカでございますけれども、これも意外に燃料用アルコールは徐々ながら伸びております。この伸びておる理由は、直接代替燃料ではございませんで、これをオクタン価改良剤として鉛化合物のかわりに使っておるわけであります。その場合には一応採算が成り立っておりますので、もし我が国で何らかアルコールを使うとすれば、政策的な価格のもとに一部のオクタン価改良剤として使われるならば、あるいは何とかかすかすで採算がとれるくらいの価格でできるのではないかと思っております。
  16. 山原健二郎

    ○山原委員 数ヵ月前の朝日新聞に、フランスのバイオテクノロジーを扱う研究機関において奇病が発生した、数名死者も出たということで、フランス政府としては公の調査を行うということが記事に出ておりましたが、そういう事実関係はあるのか、あるいは安全性の問題について全くそういう不安がないというふうに判断していいのか、その辺どなたでも結構ですが、もし御研究なさっておればちょっとお聞かせいただきたいのです。
  17. 斎藤日向

    斎藤参考人 あったことは事実のようでございます。病気はがんのようでございました。それで一体何が原因なのか、パスツール研究所の方でもいろいろ調査をなさったようでございますが、結局がんビールスの研究者であったということは事実でございます。  がんビールスと申しますのは、名前のとおりがんを引き起こすビールスであるということが明らかでございますので、そういうものをいじっておれば感染の機会は必ずある。ただ、これは感染をしましてから発病して死に至るまで恐らく何十年か、少なくとも十年以上の時間はかかりますので、何が直接の原因であったかということは恐らくわからないであろう。それからそのときに問題になりましたのは、がんビールスだけでなくて、いわゆる変異原とこのごろ申しておりますけれども、変異原をいろいろ操作しておったという事実もあったようでございまして、そのいずれが原因であったかということは、まだ私は結果は聞いておりません。  それから、そのときに新聞記事で問題になりましたのは、そういう病気が起こったのはバイオテクノロジーと申しますか、新しい組みかえDNA技術を中心といたします新しい生物利用技術のせいではないか、こういうことで非常に問題にされたのでございますが、今お話しいたしましたように、いずれも新しい技術ではございませんで、組みかえそのものによって危険なことが起こることはないというのが現在の科学者の常識になっております。ただし組みかえの材料といたしまして今のようにがんビールスを使う、あるいはその材料といたしまして使う生物に変異原を使うとかあるいはビールスを使うとか病原菌を使うというような、素材そのものの危険性ということは当然あるわけでございまして、この点素材そのものによって起こる生物災害を我々は一般的なバイオハザードというふうに総称しております。  これは申し上げていいかどうかまた問題なのですが、日本では病原菌やビールスによって起こります一般的なバイオハザード、新しいバイオテクノロジーではございません、一般的なバイオハザードに対する法律的措置がなされておらない。これは要するに病原菌やビールスをいじるのには、先進国では危険性の程度に応じまして、いじる設備とかいじる人の資格とかということを限定しておりますが、日本ではそういう限定はございません。病原菌は一般にお医者さんがいじれば常識を持っておるからまず大丈夫だろうということでずっとやっております。問題は、今のようにバイオテクノロジーということが盛んになりましたときに、病原菌の知識を持たない人が病原菌をいじるようになることはないか、それが少々問題と言えば問題なところでございます。  そういうことで、組みかえDNA技術そのものの危険性ということを問う前に、病原菌あるいは病原ビールスというものに対する措置というのが恐らく必要であろうというふうに私は思うのです。ただ、これをやりますと大変問題なのは、莫大な予算措置が必要でございまして、日本の全国津々浦々の病院で病原菌をいじるようなところに莫大な予算の措置が必要になるということで、これが踏み切れないでいる。これは私の個人的な見方でございますが、そう思っております。
  18. 冬柴鐵三

    冬柴委員 鮫島先生にお伺いしたいのですが、天然に行われている光合成の方法で水を酸素と水素に分離する技術、これは現在どのような研究段階に達しておるのか、あるいは将来、ずっと先でも結構ですけれども、どの程度の見通しがあるのか、その点についてもう少し詳しく教えていただきたいのです。
  19. 鮫島広年

    鮫島参考人 直接携わっておるわけではありませんけれども、現在は植物等、あるいは光合成を行います微生物あるいは藻のたぐいから光合成に関与する酵素を抽出いたしまして、試験管的な規模で酸素と水素に分かれるということはございます。ただ、いま一つ問題なのは、そういう酵素が非常に不安定でございまして長くそういう作用を続けない。その辺が非常にネックになっておると聞いております。  これを解決するためには、まだ手段はあるのかもしれませんけれども、これは一つ一つそういう欠点を解決していかなければならぬだろうと思います。しかし、人間が手元で何かできるということは必ずいずれかの時代では実用化に持っていける、これは人類の歴史から見ての私の考えでございます。
  20. 小澤克介

    ○小澤(克)委員 委員の小澤でございます。  斎藤先生に御質問したいと思いますが、一つは、先ほどもちょっと問題になりましたけれども、微生物系の場合には有害な微生物が新たにできてしまいはしないか、しかもそれが実験室などから漏れて出る、そういう危険性はないかということが以前から指摘されておるわけです。それともう一つは、実験室あるいはバイオタンクの中ではなくて、フィールドで使うような生物農薬というようなものがいろいろあるようですけれども、これが生態系のバランスに影響を与えはしないかという危険、こんなところが指摘されているようです。特に最近はべクターに枯草菌などを使うということで、これは本当に野や山にありふれた、そこで幾らでも生活でき、繁殖できるものですから、これなどを使うことには非常な危惧が寄せられていると聞いておりますけれども、その辺についてのお考えはどうかということが第一点です。  それからもう一つは、これも斎藤先生でよろしいのでしょうか、今後動物や植物の改良にバイオテクノロジーが貢献するだろうと思うのですけれども、非常に効率のいい栽培用の植物とかあるいは飼育用の動物ができた場合に、それが急速に広がって、クローン技術などによって世界的に広がってしまう、そうすると単一の遺伝形質を持ったものが大量に栽培あるいは飼育されていて、品種が非常に少なくなってしまう。効率は非常に高くなるけれども、品種という概念では、弱体化していった場合に、何か病気であるとかあるいは気象の変化とかいうような異変といいますかアクシデントがあったときに、逆に全部やられてしまうのではないかというふうなことも言えるかと思うのですが、その辺についてはいかがでしょうか。その二点についてお伺いしたいと思います。
  21. 斎藤日向

    斎藤参考人 まず第一点の組みかえ体の危険性という問題でございますけれども、これは実は組みかえ体そのものの危険性というのはもうないというのが今科学者の常識になっております。それじゃなぜ組みかえ体について危険性が云々されるのかといいますと、幾つか原因があると思いますが、まず第一に、生物に対して実験技術者と申しますか科学者の手が及ぶということで漠然たる感情的な不安感と申しますか、そういうものが母体になった危険性、これはちょっとどうにも自然科学者の方から説得する手段がないので、むしろ心理学的な問題かと思うのです。それから、それだけじゃなくて、組みかえそのものに対して危険性が云々されるようになったにはもう一つ理由がございまして、この実験技術開発されてすぐに、アメリカで科学者が中心になりまして自主規制をやろうじゃないかという会議が開かれました。アシロマ会議というアシロマでの会議でございますが、そのときに英語で組みかえ体のリスクということを問題にしたわけです。リスクというのは、これは危険なことがあるかもしれないという可能性だったのでございますが、それが日本語に訳されたときには危険性という言葉に訳されてしまった。アメリカではリスクを考えまして世界じゅうに呼びかけまして、万一にもそのリスクがあるとすれば後で困ったことになる、今その問題は全然考える余地、実験的な根拠が一つもないんだから、それを幾ら議論してもしようがない、それよりもそういう可能性といいますかリスクのあるものは封じ込めておこう、実験室内から外へ逃げないように、外へ出さないようにしておけばいいじゃないかということで、封じ込めということを基本にいたしました実験指針をつくりました。これが世界じゅうに流行しているといいますか、世界じゅうで似たようなことをやっているわけでございます。したがって、これは危険性があるということではないので、あるかないかわからないから一応閉じ込めておこうということで発足した。それ以来もう数年たちまして、その間に組みかえそのものによる危険というのは一つも発生していない。いろいろなアセスメントも行われまして、組みかえそのものによる危険ということはないだろう。そこで、残りますのは素材であります病原菌とかウイルスの危険性を持ち込むことがある。これは当然なので、先ほど申しましたように一般のバイオハザードとして処理しなければなりません。アメリカあたりではそういう一般的な問題として処置がもう済んでおるわけです。したがって、組みかえそのものによる危険性というものは今のところはまずないというふうに世界的な常識がなってきておる。したがいまして、環境散布というようなことが行われた場合、今申しました組みかえ体そのものの危険性でなくて、生態系に及ぼす影響というようなことを考えなければならないかと思います。その場合の問題は、まだアセスメントが進んでおりません。これはむしろケース・バイ・ケースと申しますか個々の問題でございまして、個々の問題でしたら考えることができますが、今のように一般的に組みかえ体を環境に出したときにどうなるんだと言われても、ただいま申しましたように組みかえ体そのものの危険性はないけれども、いろいろな素材の問題の危険性がございますから、そういうことで環境にも及ぶ影響がある場合もあるかもしれないということで、これは恐らく個別に考えなければいけない問題である、こう思います。  それから第二点の御質問の趣旨は、要するにこういうバイオテクノロジーが進むと、農業的な素材といいますか、家畜や作物が純系化すればするほど弱くなるということもございますし、単系化してしまって万一のときに困るのじゃないかという御質問でございますが、確かにそのとおりでございまして、それがないようにしたいのでございますけれども、実は今のバイオテクノロジーの発達を待たずにもう既にそういう事態が起こってしまっているものがたくさんございます。農業作物の中では、優秀な品種がとれたものほど野生種を保存してない。単系化しております。これは一大事だということで先般来、一昨年ぐらいからですか、生物資源の保存ということで議会の方からもいろいろ御助言がありまして、各省ともに、特に農林省あたりでも生物資源の保存ということに非常に力を入れ出した。これは恐らく世界的な傾向でございまして、そういう意味で今の御質問の御疑念のようなことが起こらないように今施策が進行中だというふうにお答えしていいかと思います。  以上でございます。
  22. 原田昇左右

    原田委員長 それでは委員長からひとつ御質問申し上げたいと思います。  先ほど来貴重な御意見をいただいたのですが、バイオテクノロジーの進展いかんによっていろいろな可能性があるという大変夢の多い話を伺ったのですが、例えば農業の場合、細胞融合とかなんかの技術がどんどん発展してくると、新しいすばらしい品種がどしどし出る、あるいは動物にもかなりそういうことが応用されるということになると、新しい農業革命が起こる可能性があるのではないかと言われておるのですけれども、例えば今世界の人口がどんどんふえていって、農業生産が追いつかないのではないかという危惧が出されておりますね。しかし、実際最近は発展途上国のグリーン革命によって生産がかなりふえてきておると思いますけれども、長い将来を見た場合、このバイオテクノロジーの進歩、例えば穀物の生産は同じ面積から倍になるとかいうことが可能だということになっていけば、農地はそんなにふえなくても、あるいは飼育する動物なんかも、非常に効率のいいものができるとか、そういうことによって農業革命が起こる可能性があるということは言えるのですか。それをまず一つ。いかがですか、斎藤先生、鮫島先生。
  23. 斎藤日向

    斎藤参考人 私も余りその知識がございませんが、むしろそれは行政的な問題も多いかと思います。技術的な面では、今の御質問のように、これは先ほど鮫島参考人も申されましたが、必要のあるときには必ず技術の改革ができるというぐらいまで人間の知恵というのは発達しておるのだと私は信じております。  ただいまの農業の問題は、実際は日本ではまだ食糧が足りないという切迫感がないのじゃないか。例えば我々の方でも、研究をやるにしても身が入らぬ。本当に足りないという事態が起これば確実に改善できると思いますが、どうもそこのところがまだ切迫感がない。それから世界的に見ましても、局地的に足りないところがあるわけでございますが、現在のところそれほど不足はしておらない。それで、現在の技術的な改革の水準と現在の世界の人口のふえ方を見ていきますと、まだ百年ぐらいは十分このピッチでいけそうだというような見通しが立ちますので、本当に足りないから早く研究をやれというような切迫感がまだないような気がしております。しかし、食糧だけはなくなってから騒いでも遅いということと、特に日本の国策といたしましては、食糧の自給率が恐らく三〇%ぐらいでございましょうか、こういう状態は国としては非常に不安定な状態であると私は考えますので、そういう面で技術的な開発をどんどん進めて、少なくともヨーロッパ並みに自給率七割、八割ぐらいの線は何とか達成しておく、あるいは達成できる見通しをつけておくことが技術的にも行政的にも必要ではないかと思っております。
  24. 原田昇左右

    原田委員長 斎藤参考人に伺いたいのですが、大変細かいことですが、ノギと稲のかけ合わせ、細胞融合をやって、新しい病虫害に非常に強い多収穫の稲ができる可能性があるというのを新聞で見ましたけれども、どうなんですか。
  25. 斎藤日向

    斎藤参考人 私はそのこと自体は技術的にはよく知らないのでございますけれども、ノギは確かに非常に病虫害に強い。そのかわり収穫性は悪い。明らかにそういう野生種の病虫害に強い遺伝子を導入することによって、栽培植物性能的に改善される、耐病性が増すということは幾つも例がございます。ただ、それによって多収穫が生まれるかという今の御質問ですが、私はそこは余り論理性がないのではないかと思います。そういう細胞融合でかけ合わせをすると作物の改良ができることは確かでございますけれども、この技術はいわゆるハードな工学と違いまして、こういう細胞細胞をかけ合わせたらこういう性質の改善が必ずできるということはまだないのでございます。予想をつけましてかけ合わせをする、あるいは細胞融合をいたしましても、その子供の何十かの中に一つというような確率でいいものが生まれてくる、こういうことを期待するというのが現在の技術の水準でございまして、それが予測されて、そして予測どおりの結果が生まれるということになるためには、まだまだ基礎的な知識が我々は不足しておる、そう考えております。
  26. 原田昇左右

    原田委員長 野口参考人にお聞きしたいのですが、我々、ヒューマン・フロンティア・プログラムというのを来年度あたりから少し調査に入ろうじゃないかということを言い出しておるわけですが、どうでしょうか、脳の研究と生体の研究を通して、これを工場に応用するとか具体的な我々の生活に応用できるかという研究のやり方等について、何か御意見がありましたら伺いたいと思います。
  27. 野口照久

    野口参考人 この問題に関しましてはまだ具体的には固まっていないと思いますが、企画としては非常にすばらしいものだと思います。ただし、これは一国家内でやるものじゃなしに、いわゆる超国家といいますか、非常にグローバルに、多国家間の協調、協力によってなし遂げられるものではないでしょうか。その中で、特に今ヒューマン・フロンティア・サイエンスのメーンとしてブレーンサイエンスの問題がかなり注目されております。これは先ほど私が申し上げましたように、バイオコンピューターという問題の大きな期待もありますし、また、ぼけの問題もあるということで、アメリカでは非常にこの点に力を入れていますが、まだ日本ではその体制が十分ではない。科学技術会議の中で脳・神経系科学技術検討小委員会というのがありまして、私もその委員の一人でございますが、現在そのための立案といいますか原案作成に協力しておるわけであります。そういうような問題が幾つか各国に出てくればかなり具体的な案ができてくるのではないか。そういう意味では私、答えにはなりませんが、大変重要な問題だろうと思います。  ただし、現在のレベルではそれぞれ国での思いが違うわけでございます。特に、バイオテクノロジーを中心にフロンティアサイエンスを考えた場合に、アメリカでは、国家と企業とがダイナミックな協調といいますか、その中でむしろ企業なり民間主体で持っていこうとする、それに国が支援的な予算をつける。それに対してフランスあたりは、国家プロジェクトとしてむしろ政府が前に出て、民間が後からついていくような格好で持っていくとか、あるいは英国の場合でも似たような傾向になっている。日本アメリカ的なところもありますので、それぞれ政府間レベルといいますか国家間レベルでそれを合わせようとすると、若干食い違いが出てくるのじゃないかなというような、これはあくまでも私の個人的な予測でございます。
  28. 原田昇左右

    原田委員長 もう一つお伺いしたいのですが、これはお三方ですが、我々がバイオの振興をやる上で特に心得なければならぬことですね。今研究者の数というか、これはアメリカと比べて日本はどうなんでしょうか。これからのバイオ技術の振興を図るには、これに携わる人間がたくさんいるということが何といったって大切なことだと思うのです。それと研究に要するファンド、資金調達が十分できるかできないかということ、そういうことは非常に大事だと思うのですが、世界各国と比べて日本の現状というのはどんなものか、ぜひひとつお伺いしたいと思います。  それから、先ほどバイオハザードの問題で若干質疑がございましたけれども、扱う人間のプロテクション、これは確かに大事だと思うのです。生態系に対する影響というのは長期的な調査は要ると思いますが、とにかく組みかえ体そのものに危険がないということであれば、当面一番大事なのは、技術者のクォリティーというか資格といったようなものが大事じゃないかな、それからプロテクションの基準というか、そういうものを何かやる必要があるという感じがいたしますが、その点についてもあわせてお伺いさせていただきたいと思います。
  29. 斎藤日向

    斎藤参考人 第一の方の問題は恐らく野口参考人がお詳しいだろうと思うのですが、私の大した根拠のない感想的な問題では、アメリカに比べますと、こういう系統の研究人口は現在日本アメリカの十分の一ではないか。それから予算的にも恐らく十分の一くらいであろう。もう少しふえたかもしれませんが、恐らく五分の一までは伸びていない。しかも困りましたことは、日本は、こういう研究をやりますときの研究の単価と申しますか所要経費が、アメリカの恐らく二倍かかるのです。それは、研究用の器材を輸入したり、あるいは日本で国産をいたしましてもアメリカで購入いたしますものの倍以上。それからいろいろな実験用の素材、例えばラジオアイソトープというふうなものを購入いたしますときに、これはアメリカで買う場合の恐らく三倍ぐらいではないか。それからいわゆる酵素類というようなものも、これはだんだん安くなっておりますが、まだそれでも外国で買います二倍ぐらいの価格がしているというのが実感でございます。そういうことで、お金の額を比べまして仮に三分の一になっておるといたしましても、実際に使用できる効率というのは六分の一以下になるわけでございますから、大変な問題です。これはぜひ施策的にもいろいろお考え願えれば何か改善の余地があるのじゃないかなと思っております。  それから、第二の危険性に対する施策でございますけれども、これは現在実験指針ということで自主規制をやっておりまして、これが非常にうまく行われている。科学者の方も非常にまじめにそういうのを守っておりまして、自分自身に対するプロテクションというのも当然その中に含まれておりまして、私は、現在非常にうまくいっている、これは政策的な法律的な施策ということは今のところ必要ないと思っております。  以上でございます。
  30. 鮫島広年

    鮫島参考人 人の数はまだアメリカに比べて少ないというお話でございましたが、クォリティーの面については日本人は優秀であると思います。十分こなしていけると思います。  ただ、大学その他全部含めまして、その一単位に与えられる予算の額というのは甚だ少ないように思われます。特に、アメリカあたりではかなり若い人が研究費を使う自由度があるわけですが、日本の場合は、組織の面からそうなったと思いますけれども、働き盛りの若い研究員が自由に使える金額というのが甚だ少ない。そういうことで、頭脳流出とまではいきませんけれども、同じ方がアメリカ等へ行かれましたら恐らくより効率の高い仕事をなされるのじゃないか。そういう面で、ひとつお金の配分の仕方等もよくこれから考えていかなければならぬということ。それから、やはりそういうようなことができるような研究所をつくる。これも日本でできなければ日本の金で外国につくってもいいじゃないかというような気もいたします。  それからバイオハザードの件は、当初から非常にお国の規制が厳重ということで、物理的な封じ込めの施設というものは初めから非常にがっちりとつくられておりまして、その範囲内で気をつけてやっておりますし、また健康管理もガイドラインに従ってやっておりますので、これは現在は私はないと思います。むしろ、例えばワクチンの生産などは、昔はバイラスを使うような非常に危険な工程をとっておったのを、このニューバイオテクノロジーのおかげで今は特に工場生産では全く危険のない方法でつくれるというところなども、このバイオテクノロジー一つのメリットじゃないかと思います。  以上です。
  31. 原田昇左右

    原田委員長 今研究所とおっしゃいましたが、バイオテクノロジー研究所ですか。
  32. 鮫島広年

    鮫島参考人 特に遺伝子組みかえの研究です。
  33. 原田昇左右

    原田委員長 細胞融合は。
  34. 鮫島広年

    鮫島参考人 細胞融合には目下のところ規制はございません。組みかえDNAだけについてはガイドラインがございまして、このように菌を外へ漏らさないような部屋でやらなければならぬという施設上の基準がございます。
  35. 原田昇左右

    原田委員長 いや、私が言うのは、研究所をつくれということをおっしゃったので、研究所はどういう研究所かということです。
  36. 鮫島広年

    鮫島参考人 これは今までのシステムと違う、年功序列制のない研究所ということであります。
  37. 原田昇左右

    原田委員長 じゃ、その対象はバイオですか。
  38. 鮫島広年

    鮫島参考人 バイオのみならず、あらゆる先端技術においてはそうあっていいのじゃないかというような気がいたします。
  39. 原田昇左右

    原田委員長 いや、研究所をつくれとおっしゃったその研究所は、どういう内容の研究所であるかということをお聞きしたいのです。
  40. 鮫島広年

    鮫島参考人 今回の場合はバイオですから、バイオの領域におきましてもそのような自由度の高い、その人の能力に応じて予算が配分されるような研究所があったらよいと思います。
  41. 野口照久

    野口参考人 私の個人的な見解でございますが、日本人の研究資質は、特にバイオサイエンスなりバイオテクノロジーの場合には決して欧米のレベルには劣っておらないと思います。むしろレベル的に言うと、個人的にはなるかもしれませんが、かなり高いレベルにあるのではないか。その証拠としましては、アメリカの主要大学のバイオテクノロジーバイオサイエンスの領域ではかなり活躍しております。特に、ノーベル賞に近いような人物も何人かおりまして、今度、来年の医学会の総会にも海外で活躍している日本人を呼ぶことになっております。  そういう中で、個人的には非常にレベルが高いのですが、その人たちが日本に帰ってきたらアメリカなりヨーロッパでやっていた仕事をそのままやれるのかどうか、これはかなり疑問があります。現実に私見ていても、若手の三十代の人には、非常にすばらしい業績を残していながら、日本の大学に戻り、あるいは民間企業も入りますけれども、いつの間にかしぼんでしまっている人がある。その原因は何だろうか。というのは単なる研究費だけの問題なのか、あるいは研究環境だけの問題なのかというと、どうもそれだけではないような感じがします。非常に恵まれた、例えば筑波のようなすばらしい研究環境の中に入れてみても同じだと思います。  では何なんだろうか。一番大きなのは、どうもいわゆるハングリーといいますか、日本人が海外に行ったときには精神的に非常にハングリーなんですね。これがやはりやる気を起こして頑張って行っている。それと同時にもう一つ大きなことは、日本人の発想というのはかなりモノポリーなんですね。みんな同じような発想をする。ところがアメリカだと人類のるつぼみたいなものですから、全然発想が違うわけですね、人種によって。これがいろいろ切磋琢磨する。るつぼの中にあって競争といいますか、あるいは協調も含めた競争と協調ということが非常にうまく結実していることがどうも成果につながっているのじゃないか。私の研究所におります者も、ロックフェラー大学に行きますと、ロックフェラー大学で今まで数年解決できなかった脳の中の神経伝達物質をクローン化するのをたちまち三カ月でやってしまった。向こうではびっくり仰天して、日本のレベルは高いと。それじゃ、その男を私の研究所に戻したら本当にそれをやるだろうかというと、私はまだ疑問なわけですね。それにはそれだけのいろいろな情報が整っているわけです。そういういろいろな情報も含めた環境条件がそろっている。だから、お金を入れれば、コインボックスみたいにぽんと入れればすぐ出てくる、あるいはカードを入れればお金が出てくるというものでは決してなしに、そこにはもっと違った意味の情報的な環境というものもあるのじゃないか。それと資質というものとあって、それにもう一つは資金とか資源とか資材とかというものが入るということで、今後科学技術的な政策を考える上においてもそういう研究環境というのは非常に重要じゃないだろうか。  それでは、特に個人の資質だけじゃなしに、集団としての、いわゆる集団天才といいますか、システムとしての創造性を発揮させる集団をつくるにはどのようにしていったらいいか。この問題は、日本人は大体そういう発想は下手なんですね。だからいろいろなプロジェクトを組んで、先ほどのフロンティアサイエンスの問題でもそれが出てくるだろうと私は思いますが、そういう一つのシステム化をして、個々では大したことのないジニアスであっても集団としてすばらしいジニアスを発揮するようなシステム研究ということも創造力開発においては非常に重要になってくるのじゃないだろうか。そういうようなことが、やはり個々の資質とはまた違った意味での集団資質ということが問われてくる、あるいは開発力というものが問われてくる問題じゃないかと思います。
  42. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、御多用中のところ貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時十七分散会