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野口参考人 野口でございます。私は、
生物学及び医学を核としました
研究所で新しい医薬品の創製
研究に従事している者でございます。
ライフという英語がございますが、ライフという
言葉を
日本語に訳しますと、生命とか命、あるいは生活、生涯とか一生とかいういろいろな
言葉に変わってまいります。このように、欧米人と
日本人の同じライフというものに対する感覚がかなり異なっております。我々としてもこの
言葉の中での意味をよく考えてみますと、生活ということと生命ということではかなり大きな開きがございます。この開きの中で、ライフ
サイエンスという
言葉がございますけれども、ライフ
サイエンスあるいは
バイオサイエンスという
言葉が、我々の生命あるいは健康維持に関する科学、あるいは生活を豊かにするという科学、あるいはそれに伴う
技術としての問題、こういうような問題とかなり広くかかわり合ってくることと考えております。
そういう意味で、本日御指示されました
バイオテクノロジーの将来という問題についても、我々の生命の問題、特に健康維持という問題、あるいは生活、特にこれからの二十一世紀の長寿化社会へ向けて心豊かに我々が社会の一員として生きていくためにはどうしたらいいだろうかというような科学なり
技術が非常に重要になってくると思います。そういうような問題が全部
バイオテクノロジーあるいは
バイオサイエンスということの中に含められるのではないだろうかと私は考えております。
そこで、去る昭和五十九年四月二十四日に
科学技術会議が内閣総理大臣からの諮問第十号に対しまして、ライフ
サイエンスにおける先導的・
基盤的
技術の
研究開発基本計画を答申しまして、同年八月十日に内閣総理大臣決定ということになりましたが、これが我が国における基礎及び
基盤研究あるいは
技術に関して非常に大きな効果をもたらしていると思います。この秋に幾つかの学会がございまして、例えば一例を申し上げますと
日本生化学会、
日本癌学会あるいは
日本薬学会、
日本発酵工学会、あるいは最近では
分子生物学会、遺伝学会、農芸化学会もありますが、そのほかに昨日から行われています免疫学会という中で、二十代あるいは三十代前半の若い
研究者が非常に活発に論議しております。特にこのような十年前に想像できないような学会の様相といいますか論議のパターンが、ほとんど
遺伝子を中心にした論議でございます。あるいは
分子レベルというか、そういう同じ生命観を見るにしても
物質論を見るにしても、
遺伝子ということが中心になった論議が活発に行われて、むしろ過言をするともう八〇%以上は
遺伝子の問題から出発した論議であるということで、このような
一つの政策決定というものが非常に大きく我が国の
研究レベルの向上に役に立つという
一つの事例ではないかと私は考えております。
そういう意味で、本日私が申し上げますのは、医薬品という前に、生命と医薬品というようなかかわり合いの中での一般的な
お話を踏まえて、これからの産学共同
研究あるいは外国との対応というものについて
お話をしたいと思います。
まず、私たちの体の中を考えてみたいと思います。我々は気がつきませんけれども、日常健康に朝になると目が覚め、夜になると眠くなる、しかも非常にさわやかに一日が生きていけるのは何であろうかと考えますと、これは体の中に、生命、健康を維持するあるいは快適にするような
遺伝子が全部情報として各
細胞の中に入っております。ヒトの
細胞の中には約三十億ビットの遺伝情報が入っておりまして、それに基づくと約一億くらいの
遺伝子があります。実際に活動している
遺伝子は約十万ぐらいでございますが、そういうような
遺伝子の働きによって我々は生命を維持している。例えばがんの発がん
物質が体に入ってくる、あるいは感染菌が体に入ってくるというようなときには、そういう体外からの障害に対して、さらにそれを直ちに防御しようとする機能が働きます。その
一つが、例えばウイルスが入りますと体の中でインターフェロンができる。インターフェロンをつくることによって外敵の侵入やウイルスの侵襲を防ぐ。もともと体の機能というものはそういうふうなものからできております。本日の先生方の中にも御
専門に医学を修めた方もおりますが、わかりやすく言いますと、そういうような問題が我々の中で日常行われているわけです。
そういうような規範となる
遺伝子、我々の生命を守っている
遺伝子を今日では、特に近々約十年くらいのことでございますが、自由に我々が取り扱えるようになった。ましてや人工的に
遺伝子を合成することが
技術的に可能になってきた。これはすばらしい革命なり特に
科学技術の革新ではなかろうかと私は考えます。それに基づくいろいろな生産
技術の改革あるいは革新が行われてきているということは、もとをただすと、生命の維持というだけではなしに、生活に豊かさを与える
技術であるということで、冒頭に申し上げた生活とか生命とかいうものにかかわり合いがある
科学技術であると私は考えております。
さらに驚くべきことは、体の中から、そういう
細胞から
遺伝子を取り出し、その
遺伝子がどういうような構造を持っているのかというような
技術も進歩してまいりました。またその
遺伝子を合成することもできます。さらにそれを人の体の中だけでなしに、先ほどから
参考人の
方々が
お話しになっているように、大腸菌とか酵母とか枯草菌とかいうような
微生物あるいは動
植物細胞につくらせることによって、自由に我々の求めるような、今まで不可能であった、あるいは可能であっても非常に超微量であったものが合成もでき、製造もできあるいは経済的な生産も可能になってきた、そういうようなことが私はこの
バイオテクノロジーが新しい
技術として注目されているゆえんではないかと思います。ましてや二十一世紀における我々の生活が、これから非常に長寿化社会に向かっていくときに、食糧問題もさることながら、やはり生産性を維持するためには、老人の活動といいますか、いわゆる高齢化社会における労働生産性を上げていく、こういうような問題についても
バイオサイエンスなり
バイオテクノロジーということが非常に重要な寄与をするのではないかと思います。そういう意味で、人的資源あるいは社会的な資源の問題からいっても非常に重要かつ今後に期待できる
技術ではないかと考えます。
このようなことでございまして、体の中にはいろいろな生理活性
物質がある、生体の中にはいろいろな体の生命を維持する有効
物質があるということから、生体医薬あるいは生体の中の医薬ということで、
バイオテクノロジーによってそれを取り出し、またそれを同定し、かつそれをつくることができるということから、従来からの合成医薬品、これは本来
人間とは全然縁のないものでございます、いわゆる外来の
物質であって、外来の
物質を使って我々は病気を治したり健康維持を図っておりますが、そういうものと違った新しい次元の医薬品がこれから登場しつつある。先ほどから出ておりますようなインターフェロンでもそうでしょうし、あるいはインシュリンみたいなものでも、糖尿病患者にもこれからは
遺伝子組みかえのインシュリンが投与可能になってきたということによって、大きな経済的な効果あるいは
福祉的な効果ももたらしているわけでございます。そういう意味で新しい
バイオテクノロジー、特に
遺伝子組みかえ
技術あるいは
細胞融合技術というような
技術によってつくられるいわゆるバイオ医薬品、これは通称でございますが、こういうようなものが新たに登場してきたわけでございます。そういう意味で、我々のバイオというものに対する考え方の中で、医薬品の創製
開発及び生産に伴い、どれだけこれから大きなインパクトを与えていくかというようなことは想像以上だと思います。
と同時にもう
一つ大きなことは、病気の原因の
研究、これも
バイオテクノロジーによっていろいろ可能になってまいる。特に
遺伝子操作によって病気の遺伝学的な
研究あるいは病原といいますか病因についての解明も、先ほど言いました諸学会では非常に盛んになってまいりました。それだけ我々のこれからの健康あるいは疾病の治癒、治療というものに対しても大きな効果をもたらすものである。そういうことによって、単なる医薬品だけではなしに、例えば発熱の現象だとか痛みの現象とかいうような本来
人間の健康維持のために体の方が警告をするものの機作、これはまだ不明でございますが、そういうものもわかってきますし、先ほどから出ているようなエイズの問題でも、同じように免疫不全というメカニズムから、どういうような対策あるいは治癒
方法をしたらよろしいかというようなことを考えることも新しい
バイオテクノロジーが威力を発揮する場ではないかと考えます。
こういうようなことを考えたときに、一八六五年にメンデルは遺伝法則を
発想として提案しましたが、世の中ではだれにも認められなかった。ところが、ちょうど今世紀、一九〇〇年にメンデルの遺伝の法則が再認織されたわけでございます。まさに今世紀は
遺伝子の世紀ではないだろうか。ちょうど一九〇〇年に始まったものが、わずか七十年の間にこのように社会あるいは産業に大きなインパクトを与えるまでの
技術に進歩したということは、これは人類の歴史の中で刮目すべき
科学技術の進歩ではないだろうかと私は思います。それを踏まえて、これからの二十一世紀にこの
科学技術をもって我々がどのような対応をしていかなければいけないかということを、企業だけではなしに国民も、もちろん政府も真剣に考えていくことが人類の将来の
福祉にも非常に大きな問題になってくる。もちろんこれはいわゆる国家を超えた全人類の課題として検討すべきことだろうと私は思います。
このように非常に難しい話になりましたので、少しやわらかい話をさせていただきます。
今のメンデルがおりました教会がイタリアにありまして、その百メートルぐらいのそばに大きな池があって、その池であるときに体長数メートルの大きなコイを発見したわけです。それで、これはすごい長寿、長生きのコイであるというので、このイタリアの学者は、そのコイの中の
遺伝子を
研究すれば、いわゆる不老長寿の
遺伝子が見つかるのではないだろうかというようなことで真剣に
研究したわけであります。その
名前をジェロントロゲン、老人学とか長寿学ということをジェロントロジーと言いますけれども、その
遺伝子ですからジェロントロゲンという
言葉までつくりまして、あるときにその
遺伝子の構造を発表したわけです。それを事もあろうに世界で最も権威のある「ネーチャー」という科学雑誌に発表したわけです。私もちょうど四年前でございますけれども、それを読んでびっくり仰天しまして、まさにこれは不老長寿のための
遺伝子が見つかったのか、これを使えば薬がすぐできていくなというような非常に短絡的な
発想もしたわけであります。引用文献の中に
日本の文献もあったのですけれども、その文献が「不老長寿」という雑誌なんですね。ところが、全然そういう雑誌はない。幾ら探しても、国会図書館に行ってもないのです。おかしいと思いまして直接「ネーチャー」の編集長に、先週も会ったのですけれども、会いましたところが、彼は、おまえ「ネーチャー」の発行日を見ているか。発行日をよく見ましたら四月一日なわけです。エープリルフール。権威のある科学雑誌でも時々そういう夢を持たせる。
バイオテクノロジーというものはそのように夢があるんだという記事で、まさに発表形式は完全な論文形式でございましたけれども、そのようなことでこの
研究というものは非常に夢がある。
それは笑い話で終わりましたけれども、現実問題として、実際に体の中には老化を促進する
遺伝子があります。それからまた、これから非常に大きな問題になってくる老人性痴呆、いわゆるアルツハイマー病と称するものも痴呆の
一つでございますが、
アメリカでは百五十万人もおる。
日本でも潜在的に五十万人ぐらいの患者がいるのじゃないか。そういうような人たちがふえてくると、いわゆる保険制度からいうとますます大きな社会的負担になってきて、社会労働生産性は低下するわけでございます。と同時に若年の勤労層がそれだけ負担になってくるということから大きな社会問題になるのじゃないだろうかということで、
アメリカでは脳・神経科学における
バイオテクノロジーの
研究というものが非常に盛んになってまいりました。特に、現在私が兼任しておりますロックフェラー大学では、今までノーベル賞をもらった方たちが十八人ほどいます。今その中の七、八人がまだおりますが、その人たちが声をそろえて言うことには、これからはブレーンの
時代である、脳の
時代だ。脳科学、脳・神経科学というものの
研究がこれから非常に重要になってくる。それは一にぼけ老人あるいはぼけ
人間をできるだけ防止することである。もちろん心臓・循環器系の心不全による死亡率も高いが、そういうようないわゆる
植物人間をできるだけ防止するような社会政策あるいは
研究が非常に重要であろうということで、今まで免疫学者としてノーベル賞をもらった方たちが
アメリカではこの脳・神経の科学へどんどん移行しております。現実にその
研究費もがん
研究と並び称せられるぐらいに重要性を持って、どんどんふえてきている。
日本においてもそういう意味では、これから
科学技術振興政策の中で非常に重要な問題になってくるのではないかと私は思っております。
そういうような
研究の中でも、老化の防止、ぼけの防止、老人性痴呆あるいはアルツハイマー病の解明、遺伝病の解明、こういうものも
バイオテクノロジーが非常に有効な
技術として、あるいは
研究手段として使われるようになってまいりました。それで先ほど申し上げましたように若い
研究者が育ってきて、
分子生物学会でもそうですし、あるいは生化学会でもそうですが、どんどんそういうような
研究が盛んになってきたということは、
一つの国の政策がこれだけ大きく影響してくるという意味では非常に重要なことではないかと私は思う。
同時に、こういう問題を踏まえて、今もう
一つ新しい
技術が第二世代の
バイオテクノロジーとして台頭してまいりました。それはこの「
バイオテクノロジーによる新たなる創造」という中で私ちょっと書いてあると思いますが、アミノ酸の数にしても二十種類でございますが、その組み合わせによっていろいろな有効なたんぱく性の生体の医薬といいますか、そういうものができるわけでございます。この
たんぱく質というものは合成をするのが非常に難しい。人類の長い夢であったわけでございます。その
たんぱく質の合成も
バイオテクノロジーによって非常に自由に、自分の望むような合成が可能になってきた。これはやはり大きな進歩だと思います。そこにプロテインエンジニアリング、
たんぱく質工学という新しいソフト工学が誕生してきたわけでございます。
なぜソフト工学かと申しますと、プロテインエンジニアリングというものは、本来の基礎的な学問ではなしに、いろいろな
基盤、基礎的な学問、
技術を組み合わせた
技術でございます。例えば
遺伝子工学とか
細胞工学、あるいはNMRとかエックス線だとか、あるいはエレクトロニクスによる
コンピューター・エーデッド・デザイン、CADと申しますが、こういうような
技術を組み合わせることによって、
たんぱく質の構造なり
たんぱく質の合成なりということが可能になった。特に、いわゆる人工
遺伝子、合成
遺伝子を使って自由につくるということが可能になってきた。これが先ほどから出ておりますバイオエレクトロニクスというような新しい産業を生む
基盤にもなりつつある。これが例えばバイオチップとかあるいは将来の
バイオコンピューターというような問題にもつながってきて、バイオメカトロニクスというような
言葉もありますので、産業に波及効果といいますか普及効果が非常に大きくなってまいっているわけでございます。もちろんまだ
バイオコンピューター自身は二十一世紀の
技術と言われておりますが、その
研究あるいは基礎的アプローチにしても、脳の
研究、いわゆるブレーンの
サイエンス、
一つの脳・神経ネットワークと称しておりますが、こういうようなものとの関連の中で人工的に
人間のすぐれた機能をいろいろと学び取ろう、それによって新しいエレクトロニクスあるいはメカトロニクスというものを生んでくる。将来は
人間の意思あるいは創造という問題にまで
バイオテクノロジーの
研究が進みつつあります。そういう意味
においては、これが将来二十一世紀
においての新たなる産業の創造でもあり、人類のための
福祉にも非常に重要な貢献をするものであると私は期待しております。
このような問題がこの中に隠されておりまして、これをどのように我々は考えていかなければいけないのか。そういう中で特に医薬品の問題を取り上げますと、先般サンシャインで開かれました、先ほど
鮫島参考人も申されたバイオ86ですか、
アメリカのFDA、フード・アンド・ドラッグ・アドミニストレーションという食品医薬品局フランク・D・ヤング長官がシンポジウムで特別講演をされました。彼は、医薬品の審査は生産物の有効性と安全性をチェックするのが本来の使命であり、どんな手段で製造したかは大した問題ではないということを強調しています。特に、バイオ
技術による医薬品生産のガイドラインは業界とも相談して弾力的に運用したいと米国政府のバイオ実用化に臨む基本方針を明らかにされました。特に、二十一世紀でも
技術大国を目指します強い
アメリカの旗印のもとにレーガン政権が進めております医薬規制の強化から緩和への動きは、一九八一年の
開発研究費税額控除制度に始まって、八四年の後発医薬品承認簡略化、新薬特許期間延長法の施行、八五年新薬承認期間短縮のための規則改定、対日MOSS対象としての医薬品指定、あるいは本年に入りまして医薬品輸出法案などということで、長官のこの発言から、
バイオテクノロジーは医学、生化学、薬学、農学、エレクトロニクスなど非常に広い
科学技術領域にわたる
知識集約型の産業であって、医薬品が米国の重要な戦略産業として位置づけられて、法制、行政、外交各方面で積極的に
開発助成を受けるようになってまいりました。特に
日本というのは、先ほどから両
参考人が述べられているように
微生物技術が最も進んでいる国家であるということで、米国の最大のライバルであるということで注目しております。
そういう意味におきまして、我々は今後このような問題にどう対応していくかということでは、新たなる国家的な摩擦にもなるだろう。その点からも
科学技術の振興というのは非常に重要である。特に、我々が欧米の方たちの訪問を受けるときに、
日本はけしからぬ、我々がせっかく基礎的な
研究をしているとすぐそれを取り上げて応用してしまう、そして
日本がみんなもうける、だから我々は苦しむのだというようなことを口を開くと言います。しかしながら、実情としては必ずしもそれだけとは言えないので、先ほど申し上げましたように
日本もたくさんの若い
研究者が基礎
研究をしておりまして、先ほどの「ネーチャー」という雑誌にも、最も先端的なあるいは基礎的な
研究成果をどんどん発表しております。そういう意味で、我々はその
言葉にくじけずにこれからもやっていけるのではないかと思います。
しかしながら、この問題の中で
バイオテクノロジーをめぐる知的所有権、いわゆる特許の問題がそうでございますが、これが特に重要な問題としていろいろとこれから論議されてくるわけでございます。この知的所有権という問題が、特に今後のバイオ
インダストリーというものを支える上
において非常に重要な政策になってまいります。これに関しましても、欧米各国はいろいろ手をかえ品をかえして
日本を抑えるための知的所有権制度の対応に躍起になりつつあります。こういう問題についても我々は十分にこれから
研究、対応していかなければなりませんし、二十一世紀を生きていくためにも非常に重要な問題に迫られております。このように
バイオテクノロジー、特にライフ
サイエンスを
基盤にした
バイオテクノロジーというものが我々の健康、
福祉の中であるいは生活の中で非常に重要な役割を演じているということが期待できると思います。
そこで、このバイオの振興策に関して、本日の機会を得ましたので二、三私たちが考えております点を申し上げたいと思います。
特に大学、
研究機関と民間との交流促進の問題でございます。その中でも産官学共同
研究の促進で、これは昭和六十一年五月二十日公布の
研究交流促進法の適用拡大でございます。これは対象として国立試験
研究機関、大学、この大学は
研究所が主体であって、いわゆる教育教員を除く大学及び病院の
研究公務員、これが約一万一千人おります。これは外国人を部長クラスまでの
研究公務員に任用する、
研究公務員に学会
出席の道を開く、
研究組合などの
研究に従事するとき休職扱いの不利を除く、受託
研究成果の特許権の取り扱いを改善する。この特許権というのが先ほどの知的所有権です。それから、国際共同
研究成果の特許権は相手国の無償使用とし損害賠償請求権を放棄する、国有試験
研究施設を廉価に使用させる、国際的
研究交流に配慮するということでございますけれども、この中では国立大学教授は対象外にされております。我が国の大学教授という中では非常に重要な役割を、しかも中核的に演じておりますが、実際問題としては、産官学の共同
研究の中では非常にいろいろ行動が制限されております。例えばロックフェラー大学の例を申し上げますと、ロックフェラー大学は、年のうちで約二ヵ月ぐらいは企業と直接コンサルタント契約を結んでおけと。それは
一つには
研究費の確保ということもございますけれども、もう
一つは産業、特に社会の中での産業というものがどういうふうな位置づけで、どういうふうなものを要望しているか、そういうものが学問とどういうふうに結びつくかということで、積極的に大学教授が産業の中に入ってこれるようになっております。それがやはり強い
アメリカの
一つの大きな
基盤になっているのではないか。そういうことで、これは検討を要するのではないか。
それと同時に人的交流の促進でございますが、大学
研究職員の民間企業社員との兼職の一部承認、これもやはりなかなか難しい問題がございます。国家公務員法第百一条の一項には職務に専念する義務というものがございまして、これがなかなか民間企業社員との兼職ということを自由に認めない。同時に、この百三条では私企業からの隔離ということがございまして、営利企業とは一定の隔離をすることということでまた接近を防いでおるわけであります。こういうようなことで承認をするためには、人事院は毎年遅滞なく国会及び内閣に対して報告をするというような問題もあるということが、いろいろと産官学の交流を阻害しておるのではないだろうか。こういう問題を円滑に運営する問題も考えていかなければいけない。
特に、民間企業社員の国公立
研究機関職員への登用ということで特例項目の設置、国家公務員法の特別職についての規定が第二条にあります。が、こういうようなことで特例の中で、
研究公務員
研究法の制定とか、あるいは身分保障、任用の規定、こういうものについてもやはり検討を要する問題である。特に、私どもの
研究所にも諸外国からいわゆる客員
研究員も参っておりますし、もちろん大学にも来ておりますが、これがより一層——かつて終戦後
アメリカに我々の大量の
研究者、
技術者が留学したと同じように、今度は逆に、今までお世話になった外国から我々はたくさんの
研究者も迎えていくことが大事じゃないだろうか。それは必ずしもむだではなしに、むしろ新しい知能の混血ということがより次の
時代への大きな
発展にもなるのではないかという意味で、積極的に外国
研究員の
日本への受け入れ、それのための身分保障とかあるいは保険制度、こういうようなものも含めてお考え願いたいと思います。いろいろと希望もございますけれども、時間の制限もございますので、私の
参考人として申し上げることは以上でございます。(拍手)