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1986-11-06 第107回国会 衆議院 科学技術委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年十一月六日(木曜日)     午前九時三十五分開議  出席委員    委員長 原田昇左右君   理事 小宮山重四郎君 理事 塚原 俊平君    理事 平沼 赳夫君 理事 牧野 隆守君    理事 粟山  明君 理事 小澤 克介君    理事 矢追 秀彦君 理事 小渕 正義君       菊池福治郎君    竹内 黎一君       中山 太郎君    村井  仁君       若林 正俊君    村山 喜一君       大久保直彦君    冬柴 鉄三君       山原健二郎君  出席政府委員         科学技術庁研究         開発局長    長柄喜一郎君  委員外出席者         参  考  人         (株式会社三菱         化成生命科学研         究所所長)   今堀 和友君         参  考  人         (国立がんセン         ター総長)   杉村  隆君         参  考  人         (東京大学医学         部教授東京大         学医学部医用電        子研究施設長)) 渥美 和彦君         科学技術委員会         調査室長    工藤 成一君     ───────────── 委員の異動 十一月四日  辞任         補欠選任   山原健二郎君     不破 哲三君 同月五日  辞任         補欠選任   不破 哲三君     山原健二郎君     ───────────── 本日の会議に付した案件  生命科学に関する件(生命科学の将来展望と今とるべき施策の問題)      ────◇─────
  2. 原田昇左右

    原田委員長 これより会議を開きます。  生命科学に関する件、特に生命科学の将来展望と今とるべき施策の問題について調査を進めます。  本件調査のため、参考人から御意見を聴取いたします。  本日御出席願います参考人は、株式会社三菱化成生命科学研究所所長今堀和友君、国立がんセンター総長杉村隆君及び東京大学医学部教授渥美和彦君であります。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には御多用中のところ本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございます。  本日は、生命科学の将来展望と今とるべき施策の問題につきまして、忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。  なお、議事の順序でありますが、まず各参考人からそれぞれ四十分程度御意見をお述べいただき、その後委員の質疑に対して御答弁をお願いしたいと思います。  それでは、今堀参考人にお願いいたします。
  3. 今堀和友

    今堀参考人 では述べさせていただきます。  本日、科学技術委員会先生方の前で私の考えを述べる機会を得ましたことを大変に光栄に存ずる次第でございます。  ここで私が思い出しますのは、昨年アメリカ合衆国上院に喚問されたことでございます。アメリカ合衆国上院には老化問題の特別委員会、スペシャルコミッティー・オン・エージングというのがございまして、これは常設委員会でございますが、過去二回世界各国から学者を招いて公聴会を行ってまいりました。第一回が一九七七年でございまして、第二回が一九八五年でございます。私は後者に出席しまして、「日本老化研究現状」と題して証言を行ったのでございます。その速記録アメリカ合衆国刊行物として既に出版されておりまして、国会図書館にもあると思いますので本日は省略いたしますけれども、この公聴会の最後に、アメリカ国立老化研究所所長ウィリアムズ博士が次のように申されております。アメリカでは痴呆老人の介護に現在年間八兆四千億円を支出しておりますけれども、十五年後には三十六兆円に達する見込みである。これに対する対策といたしまして彼は三つ提言を行いました。一は、老化防止のための基礎研究を振興することである。第二番目は、老人専門の医師及びケースワーカーを倍増することである。第三は、老人資源と考えまして、老人資源活用方策を樹立することである。この三つの問題を挙げたのでございます。このうちで、特に基礎研究の振興を第一番に挙げられたということは注目に値しますし、私も本日その線でお話を申し上げたいと思います。  本日のテーマは老化制御でございますが、まず老化という言葉定義を明確にしておく必要があろうかと存じます。  老化に相当する英語はエージングでございまして、年齢、エージに進行形のアイ・エヌ・ジーをつけたわけでございますから、当然これは加齢よわいを加えること、あるいはよわいを重ねると訳すこともできまして、事実、加齢老化という言葉は往々同一用語として用いられております。しかし、考えてみますと、幼児が大人になっていく過程もまた加齢であるわけでございますから、老化加齢という言葉同意語に使うのはちょっとおかしいかと思います。それに加えまして、老化という言葉の中には、ちょっと表現が悪うございますが、何となくよぼよぼしているという感じが含まれております。したがいまして、老化定義するに当たりまして、私は、これは加齢に伴う心身機能低下である、体や心の機能低下することを老化ということにいたしたいと思います。したがいまして、老化制御というのは何を意味するかと申しますと、加齢制御することはできませんから、加齢に伴う心身衰え制御するということに定義したいと存じます。  さて、その上で、老化制御必要性を少し述べてみたいと存じます。  私たちは、高齢化社会または長寿者社会の問題を論じます際に、普通平均寿命を用います。確かに一九八五年日本人平均寿命女性が八十・四六歳、男性が七十四・八四歳で、ともに世界一であることは先生方御存じのとおりでございます。ところが、六十五歳以上の老人が全人口に占める割合は一〇・二%にすぎません。もちろん一〇・二%という数は無視できない数字でありまして、例えば市場のシェアでも一〇%というのが一つの目安であるということは存じております。しかし、あえて一〇%にすぎないと申しましたのは、次のような理由からでございます。例えば、スウェーデンという国は男女とも日本人より平均寿命が一歳下回っておりますけれども、老人の占める割合は一七%と日本のほぼ倍に近うございます。イギリス男女とも日本人より約三歳平均年齢は下回っておりますけれども、老人の占める割合は一五・一%と日本の一・五倍になっております。  すなわち、日本人老人の数の相対比スウェーデンイギリスよりずっと低いというのに、平均年齢だけが突出しているというところに特徴がございます。言いかえるならば、日本人スウェーデン人イギリス人に比べて老人の数は比較的少ないのにかかわらず老人の中に超高齢者が非常に多いということを示しております。これが日本長寿者社会パターンでございまして、これは決して望ましい状態ではないのであります。  超高齢者が多いということは、残念ながら寝たきり老人とか痴呆老人が極めて多いということになるわけです。例えば、痴呆老人発生率というものを調べてみますと次のようになっております。年齢が六十五歳から六十九歳の間は、痴呆老人発生率男性で一・六%、女性で一・〇%でございます。七十歳から七十四歳になりますと倍になりまして、男性が三・六%、女性が二・六%でございます。さらに、七十五歳から七十九歳になりますと、男性が三・七%で女性が五・六%でございますが、八十歳から八十四歳になりますと、男性は八・五%、女性は一六・一%とさらに上がりまして、八十五歳以上になりますと、驚くなかれ男性で一八・九%、女性は実に二六・九%、四人に一人以上に痴呆発生してまいります。このように高齢者になると加速度的に発生率が上昇するということになります。したがって、日本は下手をいたしますと痴呆大国とか寝たきり大国ということになりかねないというような状態であります。それだけに、寝たきり痴呆防止するという研究日本で特に重要な研究でなければならない、こういうふうに存ずる次第であります。  いま一つ注目すべきファクターとしては、高齢化のスピードが挙げられます。国連の定義によりますと、六十五歳以上の老人が全人口の七%に達したときにこれを高齢化社会、さらにその倍の一四%に達したときにこれを高齢国家と呼ぶということになっておりますが、ちなみに、フランススウェーデンアメリカ合衆国日本につきまして、それぞれ高齢化社会に達した年、さらに高齢国家に到達した年、あるいは到達するであろう年ということを見てみますと、次のようになっております。  フランスは、一八六五年に既に七%に達しております。そして一九八〇年に一四%に達しておりますから、その間百十五年間かかっております。スウェーデンは、一八九〇年に七%に達しまして、一九七五年に一四%に達しておりますから、その間八十五年を必要としております。アメリカ合衆国は、一九四五年に七%に達しましたが、恐らく一四%に達するのは二〇二〇年と考えられまして、その間七十五年を必要とすると思われます。振り返って日本は、一九七〇年、つい最近七%に達したのですけれども、一九九五年には既に一四%に達しようとしておりまして、その間わずか二十五年でございます。  このため、老人福祉とか老人病治療あるいは老化制御、すべてが後手後手に回っているというのが実情でございまして、その中でも最も基本的な取り組みといたしましての老化制御の確立というのはまさに焦眉の問題である、こういうふうに申してもよろしいかと存じます。このように、加齢に伴う、特に超高齢化に伴う心身衰え防止することは極めて重要なことでございます。  ところで、心身衰えの中で最も大きな割合を占めるのはもちろん病気でございまして、老化の場合に制御すべき第一の問題は当然老人病であると考えられます。  医学がこのように急速に進歩しつつある今日、老人病治療がそんなに困難であろうと思われない向きもあろうかと存じます。事実、脳血管障害心臓病高血圧等老人病に典型的なものの大部分は、いわゆる成人病と共通なものでございまして、成人病治療法進歩によりまして老人病の克服も近い将来に可能になるという考え方もございましょう。  ところが、老人病成人病と異なる点は、まず、老人病は極めて多病的である、多くの病気を同時に持っているというのが特徴でございます。高血圧糖尿病白内障で等々ということがしばしば起こるわけでございますから、極めて治療しにくく、そのすべての病気を同時に治療しようとしますと、世間によく言われますように、老人の薬づけということがどうしても起こりがちになります。  それに加えて老人病は極めて慢性的でございます。私の記憶に間違いがなければ、東京都立の病院のベッドが一人で占められている平均日数は約三十日だったと思いますが、私がもと働いておりましたところのすぐそばにございます東京都の老人医療センターでは六十日となっております。しかも、これは半ば強制的に退院させられての日数でございまして、いかに慢性化しているかということがおわかりいただけるかと思います。  この老年病に見られる多病性慢性化とを起こす根本的な原因を究明することこそ老化制御研究重要課題でございまして、そのためには、後に述べますように基礎的研究が緊急の問題となってまいります。  老人病治療を困難にしておりますいま一つの問題として、薬の投薬量の問題がございます。皆様御存じのように、薬の投薬量というのは、小児の場合を除き、体重を基準にして一キログラム当たり何ミリグラムというふうにして決められます。ところが最近の研究によりますと、薬の種類によっては老人成人とでは薬に対する感受性が著しく異なることが判明してまいりました。例えば、トランキライザーは老人の方がはるかに効きがよく、成人並みにこれを投薬いたしますと、寝てばかりいるとかあるいは転びやすくなるとか、そういった症状が発生するわけでございます。このように老人成人とで効き方が違っているということが調べられているのはほんの数種類の薬にすぎませんで、他は結局、成人並みに投与されております。これは老人病治療におけるところの極めて重大な問題であります。  皆さんも御存じのように、医薬というのは本来経験的に開発されたものでございます。したがって、その投与量も経験的に決められたものでございました。これはなぜかと申しますと、実は薬の作用機構というものがよくわかっておりませんで、また、それを研究する方法もなかったからでございます。しかしながら、近年における生物学医学研究進歩によりまして、薬の作用機構というのが次々と解明されてきました。例えば、アスピリンというのは解熱剤とか鎮痛剤として長い間用いられたものでございますけれども、これがなぜ消炎剤として効くのかというのが判明したのはごく最近のことでございます。したがいまして、老人に対する投薬量を決めるということは、老人成人とで薬の効き方が定量的または定性的にどう異なるかを調べることから始まるわけでございまして、これはやればできる研究ではございますが、ほとんど手がつけられていないのが現状であって、ここにも老化研究緊急性が示されていると思います。  以上述べてまいりましたことは、老化制御のうちでも老人病治療といういわば対症療法的側面についてお話を申し上げてまいりました。老化の予防といった側面については、まだ現在ほど遠いのが現状でございます。老齢者細胞と中年の人の細胞とで薬に対する反応がどう違うのかがわかりますれば、投薬量を決めることはできます。しかし、両者がなぜ違うのかがわからない限り、細胞老化は予防し得ないのであります。したがって、老化制御するということのためには、老化とは何かということを研究しなければならないと思います。  皆様の中には、何という愚問を発するのだ、自動車でも何でも長年使えばがたがくるのは当たり前だし、老化するのは当たり前ではないかと考えられる方々もいらっしゃるかと思います。しかし、ここではっきりさせておく必要があることは、物質老化生物老化とでは根本的に違うということでございます。それは、生物体内ではいわゆる新陳代謝ということが行われておりますし、細胞内の構成成分は、古くなったものはどんどん分解されていきますけれども、そのかわりに新しい合成が行われておりまして、両者の間でバランスがとれています。細胞についても同じでございまして、古い細胞はどんどん捨て去られ、かわりに新しい細胞がつくられてまいります。自動車でも少し古くなった部品を次々と取りかえていきますならば、長年使っても老化しないわけでございます。  そこで問題は、生物における老化というのは一体どういうことなのか、あるいは生物はなぜ老化するのかということになりましょう。  私は前に、老化とは加齢に伴う心身機能低下であるというふうに定義いたしました。この心身機能低下とは俗に老化現象と呼ばれているものでございますが、老化研究を困難にしている原因一つは、老化現象が実に多様でございまして、しかも個体差が激しいということでございます。これは、発生という現象がございます。発生というのは、すなわち、加齢に伴って形態や機能が発現してくる過程のことを示しておりますけれども、これと非常に好対照でございます。例えば、妊娠六カ月と申しますれば、胎児がどういう状態になっているかは百人一様と言えると思います。これは科学的な言葉で申すならば、極めて再現性がいいということでございます。したがって、研究対象となりやすいのであります。ところが、老人の場合、同じ七十歳の老人をとってみましても、その老化度は百人百様でございます。これはいわゆる再現性が悪いということでございまして、研究対象になりにくいという現象なのでございます。しかしこのことは、種々老化現象の間の因果関係について整理がついていないままに論じているからでございまして、少し整理をいたしますと、老化研究の推進の道筋はある程度つけられるということが先生方にもおわかりいただけるかと思います。  まず第一に必要なことは、老化というものを生理的な老化病的老化とに二つに分けることでございます。生理的老化というのは、加齢に伴いまして必然的に起こる心身の衰退でございます。よく、あなたは七十歳ですけれども五十歳の体をしていらっしゃいますとお医者さんに言われましてにこにこされている方がいらっしゃるわけですが、実際は年には勝てないで、七十歳は七十歳並み衰えが見えているのであります。それは医学用語で申しますと、萎縮が進んでいるということでございます。  例えば脳を例に挙げてみましょう。脳には約二百億個の細胞が存在すると言われております。しかし、脳細胞は再生しませんから、どんどん細胞死によって数が減少していくばかりでございます。そして補給されることはありません。一説によれば、四十歳を越しますと毎日十万個から二十万個の脳細胞が死んでいくと言われております。これが脳の萎縮でございます。どんな元気そうに見えている人でも、病人でも、やはり同じように十万個ないし二十万個の細胞が死んでまいります。脳の萎縮心身機能低下をもたらすことは当然でございます。先ほど申しました二百億の脳細胞は互いに絡み合ってネットワークを形成しているわけでございますから、細胞が死にますと、その間に断線とか通電の不良とかいうものが起こります。今聞いたことをすぐ忘れてしまうとか、昔の記憶、人の名前がなかなか出てこないとか、まあ幾人か思い当たる方がいらっしゃるかと思いますが、そういうことが起こってまいります。  しかし、これは大したことではございませんが、脳にはもう一つ重要な機能がございます。それは、例えば自律神経というものを介してホルモン分泌をするという機能でございます。  ホルモンというものには極めて多種類のものがございますが、それらの役割は、総じて言えば環境の変化に応じて体の状態を最適に保たせることでございます。寒いときにはアドレナリンというホルモン分泌されますと血管が拡張いたします。したがって、血流が非常によくなりまして体が温かくなり、体温を保つように働きます。     〔委員長退席平沼委員長代理着席〕 血中の糖分が低過ぎますと、グルカゴンというホルモン分泌されます。グルカゴン肝臓細胞に働き、そこに貯蔵されておりますグリコーゲンを分解して血中にブドウ糖として補給いたします。逆に血中の糖分が多過ぎますと、有名なインシュリン分泌されます。インシュリンは、肝臓に働きかけて血中のブドウ糖を取り込ませ、これをグリコーゲンとして蓄えるようにいたします。すなわち、ストレスとかがかかりまして何かひずみが生じたときに、これをもとに戻そうとする復元力役割を果たしているのがホルモンなのであります。医学用語でこの復元力のことをホメオスタシスと呼んでおりますが、ホルモンはまさにこのホメオスタシスをつかさどるものであります。ところが脳が萎縮いたしますと、ホルモン分泌に異常を来し、復元力は弱くなります。そのため、平常は壮年と全く変わらないほど元気に見えていた人がちょっとしたストレスでがたがたと崩れてしまう。これが生理的老化の結果なのでございます。     〔平沼委員長代理退席委員長着席〕  もう一つ生理的老化の例として胸腺萎縮というものが挙げられるかと思います。  胸腺というのは胸骨のすぐ後ろ側にある小さな器官でございますが、免疫という大事な現象をつかさどっている極めて重要な役割を担っているものでございます。皆様ヌードマウスという言葉をお聞きになったことがあるかと存じます。これは文字どおりヌード、すなわち裸の、毛の生えてないマウスなのでございますが、それより重要なのは、胸腺を持っていないということなのでございます。ヌードマウス胸腺を持っていません。そのために免疫能を持ちません。ですから、例えば臓器移植というものをいたしましても、拒絶反応が起こらないわけでございます。例えば、ヒトのがん組織、次の杉村参考人の御専門でございますがん組織を移植することもできますので、医学研究に極めて重要な役割を果たしております。この重要な役割を果たしておりますのは胸腺がないからでございますから、したがって、胸腺加齢とともに萎縮していくということでございますと、免疫能が同時に低下してまいります。この間まであんなに元気にしていたのに、ちょっと風邪を引いたと思ったらあっという間に亡くなってしまった、これは老人に極めてよく見られるパターンでございますが、これは結局免疫能低下しているからということに基づくわけでございます。肺炎がその主な原因でございますが、免疫能があればこそ抗生物質は効くものでございまして、免疫がなくなってしまいますと、抗生物質も効きませんで、肺炎で亡くなるのでございます。  以上、生理的老化の例として挙げてまいりました二つのケースは、いずれも復元力衰えでございまして、いわゆる老化現象として表向きにはなかなか目に見えないものでございます。しかし、復元力低下こそが前に申し上げました老人病多様性慢性化とを説明するものであります。  我々の体には外的及び内的に種々ストレスがかかっております。このストレスによって生じたひずみが病気でございますが、要するに復元力が全体に減少しておりますと、それぞれのストレスに対してそれぞれの病気発生いたします。したがって多病でございます。しかし、もともとが復元力低下にあるわけですから、復元力を回復しない限り、これらの病気を一度に治すということは初めから困難なことでございます。また、当然でございますが早期に治療することも困難である。これが老人多病化慢性化とを説明する一つの説明であろうかと存じます。  これまで私は復元力低下萎縮に起因するという二つの場合を例にとって申し上げました。したがって、器官萎縮防止さえすれば、生理的老化制御はある程度可能であると申すことができましょう。この器官萎縮研究については、残念ながら現在ほとんど手もつけられていないのが現状であると申せましょう。さきに老化した組織の薬に対する反応性が若い人のものと異なっていると申しましたが、この原因も、あるいは組織萎縮生理的老化に起因しているのかもしれません。いずれにしろ、生理的老化の解明こそが老化制御の大きなかぎであることは確かであります。萎縮防止するためには、萎縮原因を究明することが先決であります。この種の研究は、バイオテクノロジーがこのように発達しました今日、金と力とを注ぎ込めば大きな発展が期待できると申せましょう。  次に、いま一つ老化の問題、すなわち病的老化について御説明申し上げたいと存じます。これにも二つタイプが含まれているかと思います。これは私の全く私見でございます。  その一つは、今まで申しましたいわゆる生理的老化が起こりました結果、復元力低下し、そのために起こる病的老化でございます。例えば、インシュリングルカゴンとのバランスが悪くなって糖尿病発生するといった例でございます。ただ、このタイプ病気で厄介なのは、例えば糖尿病の結果白内障が起こるといったように、相互に因果関係にあるものがたくさんあると思われますのに、その因果関係がほとんどよくわかっていないということが第一番。ところが他方、白内障でも必ずしも糖尿病に起因しない白内障もあり得るといったように、一見同じに見える病気でも原因を異にするものもあり得るということなど非常に関係が複雑であって、これを解きほぐさないと治療法もなかなか確立できないといううらみがあります。  いま一つ病的老化タイプとしては、高齢化とともにある特別の遺伝子が発現してきて、その結果発症するということがあり得ましょう。私自身、これに該当する老年病は何であるかと言われましても、これがそうですということを申し上げられないのが残念でございますし、恐らくは、確かに老化した結果ある遺伝子が発現して、その結果起こったのだという老年病は、そういう証明がついている病気はないのかもしれません。しかし、恐らくそうであろうと思われるものの例として、有名なアルツハイマー型の老人痴呆というものを挙げることができるかと思います。  アルツハイマー型の老人痴呆は、現在のところ原因不明と言われております非常に厄介な病気でございますし、先ほど申し上げましたように、超高齢者になりますと極めて多発いたしますので、非常に重要な問題でございますが、この患者の脳細胞内には、アルツハイマー原線維と呼ばれております不溶性のたんぱく質が沈着しております。この沈着量と痴呆度とが比例いたしておりますので、原線維の生成というものがアルツハイマーの成因と何か関連しているということは皆考えているとおりでございます。  ところが一方、ダウン症候群という病気がございます。この患者は、昔はすぐ亡くなったのでございますが、最近、医療が発達いたしまして割に長生きするようになりました。そうすると、四十歳を越しますとほとんど皆痴呆症状を呈しまして、その脳内には先ほど申しましたアルツハイマ−の原線維がたまっておる、沈着しております。一方、ダウン症候群はなぜ起こるかということはわかっておりまして、これは二十一番目の染色体に異常を来しているからでございます。したがって、この二十一番目の染色体の中にアルツハイマー原線維を形成するための何か遺伝子が含まれているのではないかということが考えられておりまして、この遺伝子の同定をバイオテクノロジーを使って行う研究が欧米各国で今非常に盛んに行われております。日本におきましても、細々ではございますが、私どものグループが現在この遺伝子の同定に全力を注いでいる次第でございます。  これまで御説明申し上げましたことを要約いたしますと、私たちが当面制御しなければならない病的な老化の中には、老化遺伝子とでも呼ぶべきものが高齢期で発現している場合、例えばひょっとしたらアルツハイマーがそうかもしれない。それからもう一つは、生理的老化の結果老年病発生するという二つを申しました。前者の場合には、病的老化の成因そのものを研究すればよろしいわけですし、後者の場合には、まず生理的老化の成因を解明することこそ老化制御の第一歩なのであります。しかも、長々とお話ししましたように、これらの研究は決してやみ夜に鉄砲を撃つようなものではなくて、既に一応の道筋がついているという状態にあるということをぜひ御理解いただきたいと思います。  それにもかかわらず、我が国におきます研究現状は著しく立ちおくれているということでございます。というよりは、むしろほとんど手がついていないと言ってもいいかもしれません。今やこの問題は国のレベルで総合的な研究体制を設定しない限り、研究の推進は不可能に近いと申せると存じます。  以下、我が国におきまして老化研究が進展しない理由を、私見でございますけれども申し上げてみたいと思います。  その第一の理由は、研究者の数が絶対的に不足しているということでございます。  我が国におきまして老化の成因の研究をしておりますグループは、いわゆる日本基礎老化学会と呼ばれている学会を形成しております。この学会の会員数はわずか三百名でございます。しかも、その中で実際に老化成因の研究に従事している人の数は、さらにその数分の一にすぎません。それでは実際に研究するポテンシャリティーがないのかと申しますと、我が国は極めて豊富な研究人材を持っていると思います。結局、優秀な予備軍はごまんといるのに、それらの人々が老化の方を向いていないというところに問題があるわけでございまして、これらの人々をどうして老化研究に向けさせればよいのかということがまず大きな問題でございましょう。  理由の第二は、研究費の不足でございます。  国から支出されております種々研究費のうちで、老化の成因の研究に直接向けられているものは、どんなに多く見積もっても年間十億円を上回ることは絶対ないと思います。一方、アメリカ合衆国の国立老化研究所の予算は、所内研究費及び所外への助成金を含めまして今まで二百二十億円でございましたが、今年度はさらにかなり増額し、しかも、特にアルツハイマー型の老人痴呆症の研究に新たに六十億円を上積みしております。研究者の目を老化の方に向けさせるためにも、研究費は極めて重要な役割を演じていると思います。  第三の理由は、研究の機関に乏しいことでございます。  皆様御存じのように、現在国立の老化研究所は日本にはございません。研究所らしい研究所としては、財団法人東京老人総合研究所があるだけでございます。アメリカには前に申しました国立研究所があるだけでなく、各地の大学の附属あるいはコミュニティーのものとして研究所が随分たくさんございます。さらに、日本には医科大学とか大学の医学部というのは国公私立合わせますと約八十校あるわけでございますが、この中で老人病学科というのを持っているのはわずか十校しかないわけでございます。今後老人専門医の要望は増大していくばかりであると思われるのに、大変に心細い次第であります。  理由の第四は、研究組織がないことであります。  私が今まで申し上げましたことから御推察いただけますと存じますが、老化研究はまさに学際的な研究でございまして、種々専門分野の方々がそれぞれの立場から協力するという組織がなければ、個人プレーではいかんともしがたいものであります。このような大がかりなプロジェクトの例としまして、例えば、文部省の科学研究費助成金の中に、従来特定研究、最近では重点研究と呼ばれているものはございますが、しかし、残念ながら、老化研究は、過去一度も特定研究や重点研究に選ばれたことはございません。最近、厚生省で天皇在位六十年記念としまして長寿科学研究組織の計画が進行中というふうに伺っておりますが、私は、これに非常に期待するとともに、他の省庁におかれましてもそれぞれの立場からこの問題を取り上げていただくことをお願いしたいと存ずる次第でございます。  それに関しましてまた一言つけ加えたいことがございます。  老化制御研究をちょっと拡大解釈いたしまして長寿者社会対応のための研究ということにいたしますと、老化制御よりもっと火急的に必要な研究がございます。それは、申しますれば介助器具あるいは老人が自立するための器具というものの開発でございます。現在開発されておるものは主として病院とかあるいはナーシングホームとか、そういうところで使える器具でございますが、ヨーロッパでは現在ホームから家庭へと老人がUターンをしつつあるのが現状であります。同じことは日本においてもこれから必ず起こり得る。とするならば、介助ができないから今ホームに移そうとしておるのに、もう一遍これを家庭に帰すためには、家庭で介助するに足る器具の開発というのは極めて重要なものでございますし、例えば老人が簡単にかける電話とか引き寄せられる装置、あるいは自立するための器具とかいうものの開発についてもぜひ心を配っていただきたいと存ずる次第でございます。  では、時間が参りましたので、私の御説明をこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
  4. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、杉村参考人にお願いいたします。
  5. 杉村隆

    杉村参考人 がんに関しまして、生命科学の立場からその将来展望と今とるべき施策について意見を述べさせていただきます。  がんは我が国で死亡原因の第一位でございます。がんは高年者のみならず壮年、働き盛り、それからさらに小児をも侵す疾患でございますが、研究、診療の進歩によりまして治癒する例がどんどんふえてまいりました。前はとても三カ月ももたないと思うような白血病が十年もコントロールされるような例がたくさん出てまいりましたけれども、なお悲劇的な運命をたどる方が多いのであります。しかも、がんはその経過において疼痛を伴うことが多く、それから治らないと一遍決まった場合には、あたかも生きながらにして死刑を宣告されたような問題でありまして、がんの告知の問題を含めまして大変社会的に大きな問題でございます。  まず、その将来展望の方を述べさせていただきますが、がんの本体、がんと言っているのは一体何だということから将来展望を五分ほど述べさせていただきます。  私どもの体は約数十兆個の細胞から成っております。その数十兆個の細胞のそれぞれ一つ細胞に遺伝子をコンパクトに詰め込んだ核というものがございますけれども、そこに遺伝子があるわけです。それは十万ぐらいの遺伝子があるのですけれども、その遺伝子が変化してできるのががんであります。よそから病原菌が入ってきて病気になるのではないので、よそからいろいろな化学物質が作用することはありますけれども、それによって本来私どもの持っていた遺伝子が変化してがんになるわけであります。  そのような原因となる物質のことを発がん物質と申しまして、これは環境の中にもございますし、たばこの中にもございますし、それから私たちの体の中でも自然につくられるというようなこともございます。がんをつくる物質というのは非常にたくさんあるのでありますけれども、大分けすると二つになります。一つは、これは長い過程なのですけれども、がんを起こす引き金を引く物質でありまして、DNAに傷をつける物質であります。それから第二のカテゴリーは、がん化の完了をする物質でありまして、これはプロモーターサブスタンスと言われております。恐縮でありますけれども、たばこには両方の物質が含まれておる次第であります。  それで、がんはそういう遺伝子の変化で起こるのでありますけれども、どういう遺伝子が変化するとがんになるかと申しますと、数多くある遺伝子の中でどの遺伝子が変化してもがんになるのではございません。約五十種から百種類の特定の遺伝子が変化するとがんになるので、その特定の遺伝子をがん遺伝子、場合によっては発がん遺伝子と申します。発がん遺伝子が体の中でそういうDNAに傷を起こす物質によって活性化されまして、作用を強めるものであります。そしてがんになる。それで細胞の膜の性質を変えるとか、細胞の骨格、細胞というのはぐにゃぐにゃしたアメーバ−のようなものでありますけれども、ちょうど人間の体と同じようにその中に骨格があるのですね、そういう骨格を変化させるとかいろいろなことがございます。がん遺伝子を生産する物質それ自体が細胞の増殖因子であったり、増殖因子が細胞にくっつく受容体というものがございますけれども、そういうものであったりいたします。そのがん遺伝子を生産する物質によって、先ほど申した細胞膜とか細胞骨格とか染色体とかが変化してがん細胞ができ上がる。  でき上がったがん細胞特徴二つあります。一つは自律的に増殖するということであります。自律的に増殖するというのは、私たちの体の細胞は、体が細胞にふえてほしいときにちゃんとふえるんですね、傷をした後に治るとか。ふえてほしくないときにはふえない、そういう仕掛けになっているのでありますけれども、がん細胞は自分自身で勝手にふえるんですね。そういうのを自律的増殖と申しますが、そういう性質を帯びるのであります。  それから、がん細胞はできたところから飛び火をいたしまして、離れたところへ行ってふえる。それを転移と申します。原発巣は治した、それなのに転移で亡くなられたということに私どもは何遍も泣かされるわけでございます。  こういうわけでありまして、今がん遺伝子の研究がDNAの組みかえ技術の進展をもとにして大変に進歩してまいりましたので、それがどういうものをつくっているか、それをどういうふうにやっつけたらいいかということで、大変大きな将来展望が開けているところであります。  次に、がんという病気は今どういうふうに起こっているのかということに関しまして、その将来展望を申し上げます。  ただいま大体年間約二十万足らずの方が日本がんで亡くなっておられます。大体何人ぐらいの方ががんになられるのかということはなかなか把握が困難なのでありますけれども、大体数十万人の方ががんになっておられると思われますし、それから意外とがんが治って社会復帰しておられる方というのはたくさんおられるのですね。私どもの病院の院長の市川平三郎は、早期胃がん治療いたしましてもうかれこれ七、八年になりますけれども、元気で職務並びにゴルフに精勤しております。  これまで日本では胃がんというのが非常に多かったのですけれども、今減っているがんとふえているがんがございます。男では胃がんが減っておる。しかしながら、ふえているのは大腸がん、それから前立腺がん。これは男だけの不幸な臓器でありますが、前立腺がんがふえておる。それから非常に難問は膵がんのようなものがふえております。女性で言えば子宮がんは減っている、胃がんは減っている。しかしながら乳がん、肺がん等々がふえておりまして、これはライフスタイル、どういう生活をしているかということによるのだろうと思われます。  ただいまのところ、私どもの国立がんセンターの病院では、御来院いただきました方の大体五〇%、五一%か五二%が完全治癒、五年治癒ですけれども、完全治癒に到達しております。早期の胃がん等々におきましては九五%以上が治ります。肺がん等々ですと三〇%ぐらい、膵がんだとどうもまずいというので数%というようなことであります。がんと申しましても四百四病でありまして、どういうがんであるか。同じ胃がんでも治る胃がんと残念ながら治らない胃がんがあるんですね。そういうふうに種類が違っているものであります。  三番目に、現在それに対してどういう対策を講じられているかということからの展望を申し上げますと、まず大切なことは、国民の中に、これまではがんというのは鉄砲玉に当たるようなものだというあきらめムードがあったのですが、そうではありませんで、がんというものはかからないで済む。現に胃がんはどんどん減っておる。それから日本人がハワイあるいはカリフォルニアに移民いたしますと、胃がんがぐっと減るのですね。そういうふうに胃がんなら胃がんにかからないコンディションというものがあるのでありまして、そういうがんにかからないことをもっと考えようというので、これはがんの第一次の予防と申します。結核等の場合には、結核の患者さんを治療すれば感染源がなくなりますから、患者さんが治るとともに新しい患者さんの発生が減ります。がんの場合には、患者さんから次の患者さんにがんがうつっていくわけではないですから、幾ら治してもそれは消防で火を消しているようなものであります。火事が起こるもとを断たなければいかぬのでありまして、がん発生をまず予防するということが考えられる。これが第一次の予防でありまして、これはライフスタイルの改善が一番よろしいことだと思います。  第二番目には、早期診断によってがんを発見して早く治療する。そうするとがんで死なないで済むわけですね。なっても死なないで済むから、これをがんの第二次予防と申します。このためには、子宮がんあるいは胃がん等々は集団検診をやっておりますけれども、肺がん、乳がん等を含めて適切なる早期の診断をすることを大いに進める必要がございます。  三番目には、手術、薬物療法等々をとり行っておりますが、手術ももう行けるところまで行ってしまって、これ以上はインプルーブできないのではないかというような向きもありますけれども、そうでもございませんで、十年前まではほとんど手術をしなかった肝臓がんの手術を果敢に私どもの病院でもとり行いまして、完全に治って社会に復帰しておられる方を見るのは大変な喜びであります。薬物療法は各種のいろいろなものがございます。これもアルキル化剤とか抗生物質、アルカロイド、放射線療法とかホルモン療法とかいろいろなものがあるのですけれども、がんというのは単一な病気ではございませんので、ちょうど感染症にかかると、どういうばい菌にかかったかによってどういう抗生物質を選ぶべきであるということが決まるように、一番適切なる薬をそのがんにぶつけることが大切ということになります。  なお、不幸にしてそういう状況をくぐり抜けてターミナルになられた方につきましては、ターミナルケア、特に精神的な問題あるいは疼痛対策、痛みだけはとるというようなことを真剣に考えている次第であります。  そういうわけで当面のところどういうことが必要かと申しますと、今将来のことを述べておりましたので現在の状況を述べますと、DNAの組みかえ技術によりまして、先ほど申しましたようながん遺伝子あるいはそれの生産物というものが大変わかってまいりましたので、その生産物、だからがん特異な生産物と言っていいと思いますけれども、それを指標にして、そういうものが出ているということでがんを診断するとか、そういうものをノックアウトするような治療法を考えるということで、がんの問題は新しい時代を迎えつつあることは御存じのことと思います。  さらに、エレクトロニクスの進歩が大変著しいものがありますので、例えば内視鏡の先端に小型のテレビカメラをつけまして胃の中を子細に見てしまうというようなこととか、あるいは超音波の発生装置をつくって、内視鏡の先端から超音波を発生して胃の中の微細な変化を見ることであるとか、それからデジタルラジオグラフィ−という非常に巧妙なる機械を使ってエックス線の被曝を少なく、しかも解像力のいいエックス線装置ができるとか、そういうことが進んでおります。これは後ほど渥美先生からお話もあるかもしれませんけれども、特に我が国でそういうエレクトロニクスと医学がカップルしてこういう研究が進んでいるわけであります。  御存じの対がん十カ年戦略というのがございますけれども、この戦略のもとには六課題の重要な研究課題を選んでいただきましてそれをやっておりますし、それからすべて人間が問題ですから、若手の研究者あるいは医師の養成、それから国際的にこちらから人を派遣し向こうから人を招く、あるいは研究資材のサプライというようなことに力が入れられているわけであります。  総じて申し上げますと、よくおまえ何合目の山に登ったのだというふうに言われますが、がんというのは富士山のような一つの山ではないのでして、アルプスのような峰々であります。ある山には既に九合目くらいに登っているんだと思うんですね。胃がんなどはそうだと思います。しかしながら、膵臓がんなどというのはまだ入り口もよくわからないというような状況でありまして、物によっては非常に進展しておるし、物によってはこれからの努力を期待しなければならないわけであります。  当面の問題となる諸条項について述べさせていただきたいと思います。  一番思いますことは、今日の医学の水準によりましてある治療効果が上げられるということが決まっている場合には、どこで診療を受けようと同じ治療日本の津々浦々で受けられるようになることが望ましいと思います。  それから、例えば乳がんのごときは、自分でさわると手おくれにならない程度にはわかることがありますので、そういう一般の国民に対するキャンペーンのようなものが非常に必要だと思われる次第であります。  さらに、ライフスタイルの改善によりがんにかからないということに関しましては、がんにかからないために、かかることを少なくするためにと言うべきでしょうけれども、十二カ条というものをつくりまして、あれは宝くじだったかお年玉だったか、そのお金をいただきましてパンフレットをつくって、銀行、区役所等々を通じて方々に配布していることでありますけれども、こういう広報活動を大変に盛んにすることが必要かと思う次第であります。  次には、どうしてもがんの患者さんの数が多いわけでありますので、医療設備の拡充充実が必要かと思われます。対がん十カ年戦略絡みで九大、阪大、東北大等々に新設の講座ができまして、それは主に基礎研究で、そこを通じて人材も将来輩出してくるというようなことでありますし、がんセンターにも新しい研究部を新設していただきましたけれども、何分患者さんの数が多いことですし、それからがんというものは、一つがんの患者さんがいると、それを診断する人も、治療する人も、内科の人も、外科の人も各方面の知識を集約してこれに当たる必要がありますので、そういうがん専門の医療施設の拡充が必要かと思われます。  ちょっと各論的になりますけれども、私どもの病院には約五百足らずのベッドが築地にございます。しばしば国会の諸先生の御紹介で入院ということがあるのでございますが、診断がついてもお待ちいただかなければならないのです。そのために、早期に診断はしたのだけれども早期に治療が難しいというようなことがございます。このためには関連病院へ御紹介申し上げたりいろいろして、そういう不都合なことが起こらないように努力はしておりますけれども、ほかにも東京のど真ん中にがん専門病院はございますが、患者さんでどうしてもここで治療してほしいという方がおりますと、患者さんの御希望というのはなかなか大切なものでありますので、私どもといたしましてはこういう集約的な治療ができるがん専門病院の充実が大変大切だと思うのです。これは研究者もいて、医師もいて、スピリットが非常に高くて、看護婦さんが心温かく患者さんのことをよく面倒を見る、パラメディカルの人も事務系の人も打って一丸となってそういう診療に当たるというような雰囲気が大切なものでございます。私どもの病院では、外科の諸君などは朝の七時半ぐらいから来て入院患者さんを診て、八時から大きな手術をして、夕方出てくる、それからコンファレンスがあったり勉強もしなければいかぬ、論文も書かなければいかぬ、外国人も来るというふうなことで、十時半、十一時に帰るような人は少し疲労しているようでございます。  がんの問題は、非常に複雑な問題でありますので、中枢神経的に、ただいま今日のところのがん発生状況はどうなんだ、どういうふうにそれが治療されているというような評価をとり行うという参謀本部のようなものが必要だと思うのです。さらに、先ほど申し上げました膵臓がんのようにまだどうしていいかわからないというような問題に関しては、英知を結集して、その原因から診断から治療からそしてターミナルケアに至るまで一貫した、膵臓がんにチャレンジするようなそういう新しい病棟というものを設けてこれに取り向かいたいと思っている次第であります。私どもの築地に二千坪足らずの土地がありまして、それが一坪数千万のところでありますが、今はお金を取らない駐車場になっているところでありますけれども、ダウンタウンの真ん中でありますので、何とかそういうようなところを活用して、私どものエネルギーをそこに結集し、二十一世紀へ向けてがんの診断治療、そういうスピリット、エブリシング世界に抜きん出るようなものをやっていきたい、そういうふうに考えているわけでございます。  このようにがんの問題は着々と進展しておりますけれども、多くの問題を抱えております。がん解明前夜と申しましたけれども、ただいまは夜が過ぎまして明け方ぐらいになってきたと思っていますが、何とぞ国会の諸先生におかれましてもそういう点を御理解いただきまして、御後援を賜ればありがたいと思っている次第であります。  がんの問題は非常に基本的な生物学の問題と関連しておりまして、先ほどのがん遺伝子というものも要らない遺伝子が我々の体の中にあるかというと、そうではなくて、本来は正常で少し働いて、いろいろな細胞が分化したり臓器ができたりするということに必要だったものであることがわかっております。そういう根本的な基礎生物学と関連していますし、さらに先ほど今堀参考人がお述べになりました老化と関連することが非常に多い。例えば、がんにかからないようにいたしますと結局はどういうことが起こるかと申しますと、非常に高齢者になってがんにおなりになる方が多くなることと思います。そういうわけで、今度は高齢者がんというような問題もやがて出てくると思います。例えばつい最近まで七十歳の肺がんはあきらめて手術しなかった。今日随行者として参っております末舛副院長が非常に努力されまして、七十歳以上の肺がん手術をがんセンターで始めたのです。今、日本国じゅうで七十歳以上の肺がんの手術が行われるようになりました。八十歳までやろうというので、今二十六例ほど八十歳以上の肺がんの患者さんを手術をしておりますけれども、こういうふうになりますとやはり老化高齢者という問題にぶつかるのです。したがいまして、老化の問題はがんの問題と密接に関係しておりますので、老化のサイエンスと相並べてお考えいただくと大変ありがたいと思う次第であります。  以上、大変つたないお話を申し上げまして、至らなかったあるいはちょっと抜けたこともございますけれども、後ほど御質問の時間にでもお答え申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
  6. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  次に、渥美参考人にお願いいたします。
  7. 渥美和彦

    渥美参考人 東京大学の医学部の渥美でございます。  本日は、人工臓器を中心としまして、将来展望と今とるべき施策の問題点についてお話したいと思います。実は私が数年前に書いた資料がございましたので皆さんのところにお送りいたしましたが、それを参考にして説明させていただきたいと思います。  まず、医療の目標というのは、病気や外傷に悩む患者の苦脳をいやすということですが、これは医者が完全にできることではございません。むしろ体の中にそういう傷その他のものを回復しようという自然の治癒力というものがございまして、それを医者が助けて補助することで病気、外傷が治るという面がかなり多いというのが実は従来の医学であったわけであります。それが最近、二十世紀の中ごろと言った方がいいかもしれませんが、急速に進みまして、特に外科の問題、麻酔の問題、輸血の問題、いろいろなことでかなり根本的な治療が可能になるということでございます。  その中で特に最近、置換外科と言いますが、つまりだめになった臓器を何らかの形で置きかえてしまう。それには二つございまして、一つは動物あるいは人間の生きた臓器をもって入れかえる、これが今はやりの臓器移植というものです。例えば腎臓がぐあいが悪くなった場合に他人の腎臓をもらって腎臓移植するという問題がございます。それに対しまして機械をもってこれを置きかえようというのが人工臓器というものでございます。  この二つをよく考えてみますと、例えば臓器移植の場合には、これは同じような形で同じような大きさですから体の中に入りますし、もしそれがうまくいきますと、働きも完全ですし、患者さんも自由に行動できる。そんな意味で、患者サイドで言いますと臓器移植は便利なものでございます。しかし、それにはどのようにして臓器を手に入れるか、臓器を保存するかというような問題がございまして、例えば心臓移植の場合には脳死の問題をどう考えるかというような社会的問題が絡んでくるというのが臓器移植の問題点でございます。  そんなことで、臓器移植は世界的に見ますといろいろな臓器に実際に応用されています。しかし、特に我が国を見ますと、腎臓移植はかなり普及しておりますが、その他の臓器移植についてはほとんどおくれているというのが現状ではないかと思います。この大きな問題点は、今私が申し上げました社会的な問題点、つまり脳死の問題、それから臓器を手に入れる、臓器を与えるという社会通念と申しますか、そんな問題がかなり大きな障壁ではないかと考えているわけでございます。そんなことで、もし理想的な人工臓器が開発されますと、これは機械でございますから、どこでも、だれでも、いつでも使うことができるという非常に便利なものであります。しかし、我々の生体の臓器は非常に巧みにできておりまして、そう簡単に機械であるいは人工の材料でつくれるというものではございません。そんな意味で、完全なもので、体の中にある臓器と同じものをつくるということは決して容易なことではないわけで、現在のところでは、人工臓器と臓器移植を比べますと、患者の立場に立ちますと、臓器移植の方がはるかにすぐれているということが言えるかと思います。しかし、人工臓器が材料の開発、いろいろな駆動装置の開発、エネルギーの開発が進みますとどんどんよくなってきて、ひょっとすると将来は生体と同じようなものができるかもしれない。それがこれからの人工臓器の理想といいますか目標でございます。  そんなことで、人工臓器というのは体の全部の臓器を一応目標としておりますが、その中で三つが大体例外ではなかろうかと思います。一つ御存じのように脳でございます。この脳を機械で入れかえるとどういうことになるか。つまり脳以外は患者さんで脳だけが人工の機械というのは、これは人間医療としては考えられません。そんな意味で、人工の脳については一応現在のところは研究対象から離れていますが、しかし最近これに対する研究が始められようとしておることは事実でございます。  二番目は胃でございます。胃というのは、今お話がありましたように、胃がんだとかいろいろなことで手術して取り去ることがありますが、これもうまく手術が行われますとさほど障害がないということで、人工の胃をつくってこれを入れかえるというニーズは余りないということでございます。  それから内分泌器官、これはホルモン器官でございますけれども、男性ホルモンだとか副腎皮質ホルモンだとかいろいろなものがございますが、これは皆さん御存じのように薬で置きかえることができる。これは人工臓器の必要がないというわけで、今のところは脳と胃と内分泌器官三つを除いたほとんどすべての人工臓器が研究され、開発され、その一部が利用されているというのが現状でございます。  次に二十四ページまで行っていただきまして、それでは現在どんな人工臓器が具体的に応用されているかということをお話し申し上げたいと思います。  これにはいろいろな分類がございます。仮に第一群、第二群、第三群、第四群と分けたのが二十四ページの表でございますが、これを簡単に申し上げますと、第一群というのは非常につくりやすい人工臓器と申し上げた方がいいかもしれません。例えば人工の血管とか人工の骨とか人工の弁というものは、形をつくって体に入れかえるということですから、材料がよければ体になじむわけです。そんな意味で、こういう第一群の臓器はほぼ十五年から二十年ぐらい体の中に入ってその用を足しております。  その次に、第二群というのは、少し機能、働きが複雑なもの、例えば心臓とか肺とか腎臓、こういうものは体の外に現在あって、かなり長期の時間使われております。人工腎臓になりますと十三年から十五年というふうな形で使われまして、患者さんを助けまして患者さんが社会復帰しているという意味においてはかなり使われていると言えます。ただ、その機能が複雑で、材料だけではございません、その装置が必要になりますし、エネルギーが必要になるというわけで、これは現在のところは体の外にあるわけですが、これを近代科学技術の進歩によって体の中に入れようというのが第二群でございます。  第三群になりますと、これはさらに機能が難しい。ここには「人工肺」と書いてありますが、これは間違いで人工肝臓でございます。皆さん御存じのように肝臓は非常に複雑な機能をしておりまして、ブドウ糖、たんぱく、脂肪、いろいろな代謝、貯蔵を行っておりまして、もしこれを機械でつくりますと丸ビルぐらいの大きさになると計算をした人がございます。そんな意味で、これにつきましては肝臓の働きを一部助けるというような人工補助肝臓と言った方がいいかもしれませんが、そんなものができております。これはまだ研究開発段階。  第四群というのは、例えば人工子宮。これはどんな働きをしているか、子宮の働きがまだ解明されておりませんので、これについては研究がされ始められましたけれども、まだまだこれからの問題でございます。  こういうふうに考えますと、第四群が一番難しくて、第一群が一番やさしいということになりますが、第四群から第三群、第二群、第一群という形で研究されているすべての人工臓器が第一群になりますと、ここで人工臓器の開発が終わったということになるわけでございます。  二十五ページに人工臓器の歴史が書いてございます。弱った、あるいはだめになった臓器をいろいろなもので置きかえようという考え方は既にギリシャの時代からありましたけれども、これは考え方でございまして、本格的に進んだのは二十世紀に入ってからだと思います。具体的に人間に応用されたというのが二十五ページの下の表に書いてございます。例えば人工骨が一九四〇年ボーマンという人によって実際に人間に使われましたし、日本では一九五一年、十年後に関先生ということになっておりまして、いろいろな人工臓器がこのように一九四〇年から最近にかけて使われたというようなことで、簡単に言いますと、人工臓器の分野は非常に若い分野であるというようなことが言えるかと思います。この歴史を見ていただきますと、最後の方で人工膵臓、人工血液は世界と日本の発表、応用の年代がほとんど同じになっております。ということは、日本のレベルが世界的レベルに達したということでございます。  次の二十七ページに入っていただきますと、それでは人工臓器を研究している学会あるいは国、現況はどうなっているかということですが、今のところ世界的にいろいろな国で学会ができております。日本アメリカ、ドイツ、フランス、ヨーロッパ各地はほとんどできております。その中で最も研究が盛んなのはアメリカ日本、それからヨーロッパ連合という三つの大きな組織であると考えていいと思いますが、それが最近国際的な学会をつくったわけでございます。二十八ページが日本の人工臓器学会、二十九ページが日本アメリカとヨーロッパという世界を代表する学会の研究発表の表でございます。  これを見ますとおわかりだと思いますが、三つ大きな山があって括弧してございます。一つが「人工心臓・補助循環」、これは人工心臓の大きな分類に入るわけです。その次が「人工透析・吸着・濾過」、これは人工腎臓という意味でございます。それからその下の方に「生体材料」、これは高分子材料とか無機材料、金属材料、こういうものを使いまして人工臓器をつくるわけですが、そういう材料を研究するバイオマテリアルという分野でございます。そんな意味で人工心臓の研究、人下腎臓の研究、バイオマテリアルの研究、これは世界的な傾向で、最も盛んなものと考えていいのじゃないかと思います。  それ以外に、最近は人工肝臓とか人工膵臓とかそれから人工神経、人工感覚、いろいろなものが研究されてきましたが、まだまだ研究の初期だと考えていいのじゃないかと思います。  そんなことを考えまして我が国でもこういう人工臓器の研究についていろいろな支援が行われております。一つは、科学技術庁で昭和五十二年からライフサイエンス推進計画というのを行っておりますが、その中で人工臓器の研究を取り上げていただいております。三十ページを見ていただきますと、そこに「人工腎臓の研究の年次計画」、それから「完全人工心臓の研究の年次計画」と二つございますが、これが実は科学技術庁が行いつつある研究でございまして、第一期が五十二年から五十四年、第二期が五十五年から五十七年、第三期が五十八年から六十一年という予定で、そろそろこれが完成の域に達しているということでございます。ここで、この最終目的をどこに置くかということでございますが、上の人工腎臓では、生体の腎臓と同じようなものをつくって体の中へ埋め込んで、そして腎臓移植と同じような形のものをつくろうというのが目標でございますし、人工心臓の方は、心臓と同じ働きをするものを体の中にすべて埋め込むというような形でやってございますが、まだ完全な段階のちょっと手前というところで今研究が進んでいるというのが現状でございます。  それは現在でございますが、さて、今後どういう格好にいくかということが実は三十一ページに書いてございます。つまり、いろいろなコンピューター、それからいろいろな半導体、いろいろなものと同じように第一世代から第二世代に新しい展開をしているというのが人工臓器でございまして、下の方に四つ挙げています。  つまり、人工臓器というのは臓器のかわりをするわけですから、数日間代行すればいいということではございません。できれば何年も体に入っている、できるならばそれが非常に小型で、しかも機能が完全であるというようなことが必要であります。そのためにはいろいろな技術が必要である、これが一つでございます。  それから二番目は、今までの人工血管とか人工の弁とか人工腎臓とか、これはその臓器がないと患者さんが死ぬというようないわば緊急的な救命臓器というぐあいに考えていいと思いますが、最近は非常に進みまして、例えば人工の感覚、目の見えない人に見えるような人工の視覚をつくる、聞こえない人に聞こえるような人工の聴覚をつくる、それから歩けない人に足と同じように歩ける足をつくる、こういうようないわば福祉人工機器と申しますか、そういう人工臓器が進んできているというのが二番目でございます。  それから三番目は、これは最初は患者さんの治療ということで進んだわけでございますが、この人工臓器というのは、例えば腎臓の場合に腎臓と同じ働きのものにするわけですから、腎臓の働きがよくわからないとつくれないわけですね。しかし残念ながら、現代の医学はすべてについてはわかっておりません。そこで、人工の腎臓をつくり上げて、それで腎臓のない動物に入れてみて、いろいろなギャップが出てくることから生物の持っている腎臓の働きはこんなものがあるというようなことがわかるということで、逆に人工臓器を研究することによって新しい医学研究ができる、これがこれからの新しい展開だと思います。  それから四番目は、ちょっと後で述べさせていただきますが、ソシアルアセスメントという問題でございます。臓器移植には御存じのように脳死をめぐっていろいろなソシアルアセスメントがございますが、人工臓器にもあります。  それは、一つは経済的な問題でございます。三十六ページにちょっと出ていると思います。一九七〇年という十五年前の初期には、いわゆる国民医療費に対する人工腎臓の費用の比率というのは〇・一%であったわけですが、八年たちまして七八年にはその比率が二・四%になっております。患者さんが年間に約一千万人日本におると推定されまして、そのうち、現在は人工腎臓が約五万人。ですから〇・五%の患者さんが人工腎臓の治療を受けておられるというわけでございますが、その費用が恐らく現在は三ないし四%ではなかろうか。つまり患者さんの数に対して医療費が非常にかかる、これが今日一つの大きな問題になっている。つまり経済問題でございます。  それから人工心臓の場合でも、やはり心臓を取り出して人工の心臓を入れるというわけでございますので、そこにも恐らくバイオエシックスの問題があるというようなことで、特にアメリカのNIHでは、医者、工学者、それから宗教学者と申すのでしょうか、それから哲学者、そんな人が集まりましてそういう総合的な研究をしているということでございます。  三十八ページに行きまして、「人工心臓の費用」でございます。これはちょっとそのころの米国の推定が安くなっておりますが、やはり実際に行いますとかなり費用がかかったようでございますし、最近は円高・ドル安で少し計算が違っておりますが、もし人工心臓を患者さんに使うとしますと、日本では年間で大体最低四千人、最高一万五千人が人工心臓の対象になるとしますと、ざっとの計算でございますが、もし四千人としますと大体八百から一千億円、それから一万五千人としますと三千億から四千億のお金がかかるということではなかろうかと予想されます。そんなことで三十九ページにその問題点を書いておりますが、人工臓器のソシアルアセスメントというような問題からいきますと、そういう経済問題をどうするか。それから、人工臓器に入れかえると、先ほど脳は入れかえられないと申しましたが、脳だけは仮にその人のだとしまして、脳から以下は全部人工臓器になる可能性があるわけです。そういうときにそういうハイブリッドといいますか、機械と人間との半人間・半機械というのをどういうぐあいに考えるのかというような問題。あるいはそういうときに、心臓がとまらない限りあるいは人工心臓がとまらない限り患者さんは死なないということがあるかもしれません。そうなったときにそういう宗教問題をどのように考えるか。いろいろな問題が出てきます。それから、いろいろな機械が体に入ったときに、それが故障した場合にその法律問題をどうするか。そんな意味で、今こういう人工臓器をめぐって、単に医学以外にいろいろな学際的な研究が必要であるということでございます。  そこで、実は三十九ページの下の方に「人工臓器研究センターの設立」という、これは実は昭和五十二年に科学技術庁の計画が始まったときからこういう計画がなされておりまして、その必要性がそこに書いてございます。  一つが、研究開発をする、応用するときの総合的な調整でございます。というのは、つまり人工臓器というのはかなり学際的な研究であると同時に研究に費用がかかるというわけですから、そういう調整をする必要がある。二番目には、ただ応用だけではなくて基盤的な研究を推進する必要がある。それから非常に重要なことは、人工臓器一つ、例えば心臓をとりますとそのつくる材料の問題がありますし、それから動かすメカニズムといいますか、心臓と同じようなメカニズムであって機械で動かすわけですから、エレクトロニクスで動かす、磁石で動かす、いろいろな方法があります。そういうメカニズムの問題。それからエネルギーも燃料電池の問題、それから原子力の問題、いろいろな問題がございますが、そういうエネルギーをどうするかというようなことを考えますと、医学だけでは研究できません。そこで工学的な人あるいは理学的な人を加えまして学際的研究が必要である。その場がないというのが現在でございます。それから、社会的に人工腎臓それから人工心臓に対してニーズがありますが、それにどのようにこたえるかというような問題。それから研究機関の連携、いろいろな研究機関が日本にばらばらにございますが、それをどのようにして有機的に連絡するか。あるいは研究人材の活用あるいは国際交流、こんなことを考えますと、人工臓器研究センター、特に国立のものが必要ではないかというようなことをもう十五年ほど前から推進し、かなりの研究計画もつくってまいったつもりでございます。  先ほどから両先生からいろいろな問題点が指摘されておりますが、研究者の数ということからいきますと、日本には人工臓器学会というのがございまして三千人というかなりの研究者がおります。この分野はこの十年から五年前まではアメリカが非常に進んでおりましたので、若い研究者がどっとアメリカ研究に行ったわけです。アメリカでこの十年すばらしい研究が開発され発表されましたが、その下積みには若い日本人が何十人、何百人とこれを支えてきたわけですね。そういう人たちが日本へ帰ってきてもそれを研究する場がない。大学へ帰ってきましても大学にはそういう総合的な研究所がない、工学者がいない、いい材料が手に入らないというようなことで、結局残念ながらばらばらになっている。そんな意味でそういう研究者を一堂に集めて、国家で一つあるいは二つでいいと思いますが、そこに全国から集まって、そこで研究プロジェクトを組んで、そしてプロジェクトが終わったらまたもとへ戻る、そういうような研究所がどうしても必要になるだろうというような考えを持っておるわけでございます。  それから、研究費の問題も先ほど出ましたが、これはマスコミなどに今かなり取り上げられているものですから研究費が非常に多いように見えるのですけれども、実は意外に少ない。これは推算でございますが、人工臓器の我が国の年間の研究費は恐らく全部集めて十億以下であると思います。アメリカでは大体二百億くらい。私がよく知っています人工心臓を見ますと、日本で大体年間一億円、アメリカのNIHが大体四十億というわけで、研究費というのはある閾値以上にないと十分に活用されないという問題がございますので、こういう研究費を何とかお願いしたいというわけで重点研究も何件か出しておりますけれども、いまだに受け入れられていないというような現状でございます。そんな意味で、研究のばらばらの人たちを集めるような場が今一番重要ではないかということでございます。  後でまたいろいろと御質問にお答えしたいと思います。(拍手)
  8. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。     ─────────────
  9. 原田昇左右

    原田委員長 これより質疑を行います。  この際、委員各位に一言申し上げます。  質疑につきましては、時間が限られておりますので、委員各位の特段の御協力をお願いいたします。  なお、今堀先生は十一時四十五分に御退席にならなければならぬということでございますので、今堀先生の方に御質問のある方はできるだけ先にお願いしたいと思います。  なお、委員長の許可を得て御発言をお願いしたいと思います。
  10. 小澤克介

    ○小澤(克)委員 今堀参考人にお尋ねいたします。  私、何かで聞きかじったことがあるのですが、老化現象といいますか、加齢に伴う各器官機能低下というのは最初から遺伝子のときに情報として組み込まれているんだ、いわば運命であるというようなことを聞いたことがあるのです。それは事実なんでしょうか。
  11. 今堀和友

    今堀参考人 お答えいたします。  これは俗にプログラム説と呼ばれておりまして、生まれたときからプログラムされているということであります。私も最初に老化というものの定義をちょっと申し上げましたけれども、往々にして老化と混同されやすいのが寿命ということでございまして、例えば先ほど申し上げましたように、日本人平均寿命が延びたからそれじゃ日本人老化防止できたか、制御できたかというと必ずしもそうじゃない。寝たきり老人ばかりふえたのでは、寿命が延びても本当には老化制御できていない。恐らく老化がプログラムされているであろうと考えられる最大の根拠は、各生物の最大寿命、例えば人類で申しますと多分百十五歳くらいだと思いますが、最長寿命が各種ごとに決まっている。それぞれの種類によって決まっているわけですから、恐らくそれは、それぞれの遺伝子の中に、百十五年たったらどんなに元気な人でも、はいさようならというふうにスイッチが働くようになっているのであろうという考えが一番大きな根拠だろうと思います。そのほか、私がちょっと最後に申しましたように、いわゆる高齢になってから発現する遺伝子というものが本当にあるとするならば、まああるかもしれないのですが、それはやはり遺伝子の発現というふうに見ることができる。しかしながら、大部分のものは本当にそういうふうになっているのかどうかは必ずしも証明はございませんし、いわゆる老化遺伝子なるものはまだ証明されてございません。動物によると死遺伝子というのがございまして、これを持ってしまうと必ず短命で死んでしまうということがございますけれども、我々の場合には、とにかく少なくとも老化が遺伝的に完全に決定されているという証拠はございません。しかし、寿命は恐らく決定されている、最長寿命は恐らく決定されているだろう、こういうふうに考えております。
  12. 矢追秀彦

    ○矢追委員 今堀先生にお伺いいたしますけれども、先ほどのいわゆる生理的な老化現象、アトロフィーの場合が多いわけですけれども、いわゆるアルツハイマー型の痴呆老人の予防は、仮にリハビリ等をやりますと本当に痴呆老人になった人でもかなり回復できて、服を着たりするくらいまではできるんだということをちょっと書物で読んだことがあるのです。現在、それは症状によるでしょうけれども、普通ある程度成人に達した段階からかなり気をつけて、もちろん急な病気になった場合は別としまして、普通のまあまあの健康な状態でいった場合どの程度防げるのか、その辺はいかがですか。
  13. 今堀和友

    今堀参考人 まず最初にお断りしておかなければなりませんのは、私はその方面の専門家ではございませんので正確にはお答えできない、あるいは間違っていることもあるかとは存じますが、結局先ほど申しましたように、いわゆる痴呆には二種類ございまして、脳血管性の痴呆とアルツハイマーがございます。脳血管性の痴呆の方は、確かに血圧をコントロールし、動脈硬化をコントロールすればかなり防げることは事実でございますけれども、アルツハイマーの方は何分にも原因不明でございます。ですから、本当に防げるということは、いろいろな本にそういうことが書いてございますけれども、では本当に防げたという証拠があるかというと、多分そういう証拠はないのだと思います。ただ、先ほど脳細胞はどんどん死んでいくと申しましたけれども、アルツハイマーの場合かなり広領域にわたって細胞死が行われて、先生おっしゃるようにアトロフィーが非常に大きく進行いたしますので、その細胞死を引き起こす原因の中に何か予防できるものが現在既に伝承的に伝えられているものの中にあるかもしれない。例えば脳の循環をよくする、脳に栄養を非常によく与える、したがってその細胞死を防ぐというようなことによってアルツハイマーの発現を防ぐというようなことはあり得るかもしれませんし、あるいは先ほど申しましたように、アルツハイマ−原線維というのは非常に架橋されたたんぱくでございますから、架橋の原因がひょっとしたらフリーラジカルと称する遊離基であるとするならば、遊離基をなくしてしまうような薬をずっと与えているとそれを防げるということも可能性はございます。ただ、本当に必ず効くんだ、こうすれば必ず予防ができるということの確たる証拠は現在のところないというのがまず間違ってない事実だと存じます。
  14. 牧野隆守

    ○牧野委員 杉村先生にお伺いしたいのですが、中曽根総理はがん対策を非常に熱心におやりになっていらっしゃるのですが、先生のお立場から、さらにどういう点を気をつけたらいいか、あるいは現状におきまして具体的にどの程度進んでいるか、二点について御意向をちょっと承りたいと思います。
  15. 杉村隆

    杉村参考人 お答え申し上げます。  今二つの御質問がございましたので、後段の方からまずお答えをさせていただきますと、この計画は重点的な研究を推進するということ、それから若手の人材を育成するということと国際協力を盛んにする、この三つがいわば目玉でございますね。  それで研究推進に関しましては、これはまことに十分の成果が出ていると思われます。この対策は厚生省が事務を主管しておりますけれども、実際の研究者の分布は文部省、大学関係、それから厚生省、科技庁というふうに三つに分かれておりまして、三省庁にほぼ等額の金額が分配されております。  その六研究重点課題について述べますと、例えば、がん遺伝子の問題につきましては、胃がんがん遺伝子あるいは肝臓がんがん遺伝子というようなものが発見されてまいりました。これは、この二年のことでございます。それから、ちょっと先ほど申し述べませんでしたけれども、ウイルスにつきましては、これまで動物ではがんウイルスによるがんというのがわかったのですね。それが、人間にもがんウイルスによるがんというものがあるということがわかってまいりまして、特に、日本の九州南部あるいは長崎というようなところに多い特別な白血病は白血病のウイルスで起こるということがわかってまいりました。その感染経路あるいは感染予防、特に輸血ですね、ちょうどエイズのように輸血を経ていくものもありますし、それから母子感染で母乳を経ていくものがあるというようなことがわかってまいりましたし、そういうもののワクチン等々も進んでまいったのであります。  それから肝がんについて申しますと、いわゆる輸血で、ライシャワーさんがかかった肝炎ウイルスですね、肝炎ウイルスの後で肝がんが起こる。だから肝炎ウイルスをノックアウトする、かからないようにするということが非常にいいことでありまして、肝炎ウイルスのDNAが何と私どもの肝臓の、先ほど申しましたDNAの中に入り込むのですね。そして遺伝子の中で悪さをするというようなこともわかってまいりました。それから子宮がん。女の方の子宮がんのあるもの、特に子宮頸部、膣の天井のところでありますけれども、頸部がんにはパピローマウイルスというウイルスが関係していることがわかっておりまして、その遺伝子の構造、あるいはその中でどういう部分がそういうがん化に関係しているかというようなことがわかっている。これは全部対がん十カ年ですね。重点課題が六課題あるのですけれども、今のようなことを六つ述べますとちょっと長くなりますので、その程度にさせていただきます。  そのほか、若手の育成というのは、文部省の管轄下で学術振興会にがんの特別研究生というのができております。それから厚生省ではリサーチレジデントという、研究所で将来がん研究の根幹になるような人材を育てるという意味で、昔から外国でありましたポスト・ドクトラル・フェローに相当するものでありますけれども、そういうシステムができましたので、非常に活性化されて、若い人たちがそこで十分に仕事をしている。業績も上げておる。若い人たちはなかなか今は英語がうまくて、国際交流にもあずかって力があって、中には既に本職員に採用されたような人もございます。  それから国際化につきましては、文部省では対外調査、例えば中国のある地方では大変食道がんが多い、それはどういう理由であるかとか、タイ国のあるところでは石油のかわりにある植物性の油を使って、どうもその中に何か問題があるんじゃないか、皮膚がんが多いんじゃないかとか、そういうようなことを調査いたしましたり、それから外国から人を呼ぶ、人を送る。特にこれまでは、外国人が日本というところ、特に東京には住めない、物価が高くて、あるいはアパートが高くて、子供を連れて奥さんを連れると住めないというような問題がいろいろあったのですけれども、そういうような問題を、厚生省の管轄であります財団法人がん研究振興財団でいろいろ予算をつけていただいたり、あるいは民間のお金をいただいたりしてオペレーションをしているわけであります。特に私がありがたいと思っておりますのは、リースでいいアパートを都内に確保しておきまして、そこに住んでいただいて夜遅くまで一緒に研究しているようになりました。本当に国際交流で、がんの領域では全く様相を異にしたように思っております。  例えば、米国のがん研究所長、今はデビータという人なんですけれども、その前はドクター・アプトンという偉い先生がいるのです。そのお嬢さんが病理学者で、子供がいるのだけれども、今来ております。二年間。それで、保育所に看護婦さんと同じように子供を預けて一生懸命勉強しておる。そういうようなことがもう普通でありまして、大変成果が上がっていると思われます。  最初にどういう問題をさらにフォーティファイすべきであるかという御質問がございましたのでそれにお答え申し上げますと、当面のところ、私どもの内部努力によりましてもう少し効率よく研究をしていこうと思っておりますけれども、何分御存じのとおり、試薬その他研究施設にかかる費用が大変高いのです。この対がん十カ年で、これまで既に文部省並びに厚生省が持っておりました、あるいは科技庁が持っておりました研究費に加えて出していただいているわけでありますけれども、それだけ研究がまた進み、若い人が進み、外国人が来るというようなことでありますと、若干こういう黄色い信号が出ておりますので、そういう点で研究費の増額はもちろんお願いしなければならないと思っているわけでございます。当面のところ非常に粛々と進んでおりますので、特にここで大方針を変更してということはなくてよろしいのではないかというふうに思っておりますけれども、全体のそういう計画の増強というようなことは必要かと思っております。  ただ、これはがんの本体解明を通じてがんの問題の解決に当たるということでございますから、今日、先ほど申し上げましたような、がんセンターに入院しようと思っても入院できない、そういうことでお困りになっておられる患者さんというような方々にはすぐにお役に立たないということはございます。これはしかしながら、この対がん十カ年の当初の枠外の問題というふうに理解しておりますけれども、私のように第一線におりまして、研究者も研究をやっているのを見ている、それから患者さんも待っているのを見ているというと、こちらの方に若干力を注ぐことが、まあすぐとは申しませんけれども、そういう手当てがやはり必要なんじゃないかというふうに感じている次第であります。
  16. 竹内黎一

    ○竹内(黎)委員 お三人の先生方には、きょう貴重な御意見をどうもありがとうございました。  渥美先生にちょっとお伺いしたいわけでございますが、お伺いしたいことは、実は人工臓器の臓器移植の方です。先生も御案内のように、現在は法律的には角膜移植と腎臓移植とが認められているのですが、医学的に見てもこの種の臓器移植はもう何ら心配はないからいわば法律的に追加していいというものがありましたら、御教示をいただきたい。  それから第二は、どの研究もそうなんですが、人工臓器の研究について産学官の連携の体制というものは一体どうなっているのか、その辺について何か私どもにお知らせいただくことがありましたらお願いします。
  17. 渥美和彦

    渥美参考人 お答えいたします。  私、実は人工臓器の専門家ということで人工臓器のことを中心に話をいたしました。今御質問のように、外国では臓器移植はかなり進んでおります。特に最近問題になる難しい手術というのは、肝臓の移植と心臓あるいは心臓と肺を一緒にした心肺移植の二つ、それから膵臓移植、これには幾つかの問題があります。一つは人間同士にやる同種移植でございますね。その場合に、互いにうまくマッチするかどうかというテスト、生体適合といいますか、それは大体完成したのではないかと思っております。それから、その後で起こってくる免疫拒絶反応でございますね。これは最近サイクロスポリンといる薬ができまして、これがかなり心臓移植が世界的にうまくいくようになった原因一つだと思います。そんな意味で、心臓移植、肝臓移植も我が国でやろうと思えばやれる技術的レベルに達していると私は思いますが、問題は、特に心臓の場合の脳死の問題をめぐる、臓器をいかにして手に入れるかが一番大きな問題ではなかろうか。この問題が解決する方向に行けば、我が国でも臓器移植は技術的にも極めて可能で、世界のレベルに達することは容易であろうという判断を持っております。実際に、今心臓移植の患者さんは、世界で約二千人の患者さんがいると思いますし、十三年とか十五年とかいう長期に心臓移植をされてマラソンにも出ている、そんな状態で、もし心臓移植がうまくいけば、これは患者さんにとっても大変恩恵が大きいと思います。  それに対しまして人工心臓の方は、完全に心臓移植と同じような目的で入れられた人工心臓が世界で七例ございますが、今二例を除きまして五例亡くなりました。やはりまだ二年以内の生存という状況でございますので、患者さんにとりましては心臓移植の方が極めて有利ではないか。そんなことで我が国でも今、角膜、腎臓ということになりますが、こういう社会的なアクセプタンスは一体どういう方向に行くのか、これとの兼ね合いによってそういう問題は徐々に解決していくことを私は期待したいと思っております。  それからもう一つは、人工臓器の産学協同の開発ということでございますが、これは実は非常にうまくいっているのがアメリカでございまして、アメリカではNIH、ナショナル・インスティチュート・オブ・ヘルスの中にいわゆる大学の研究所と産業関係研究所、そういうものと一緒に共同で研究するようなシステムを持っていまして、そこに実は非常に大きな研究費が出ておるわけでございます。そんな意味で、アメリカ進歩の一番大きなバックグラウンドはやはり産学協同ではないかと私は思うわけです。特に人工臓器の初期の問題のときには、宇宙開発の技術がございまして、それが実はノーハウをたくさん持っております。それがどんどんと人工臓器に応用された。最近は、お二人の先生が少しお触れになりましたけれどもバイオテクノロジー、例えば細胞培養とか細胞融合とかバイオセンサーというようなものがこれから人工臓器の分野に入ってくるというわけで、これは文字どおりアメリカで産学協同の仕事をやっております。  実は私、五月にボストンのハーバード・メディカルスクールとMITとその周辺にある人工臓器関係の企業との間を見てきましたが、極めて緊密な関連をやっております。我が国でもやっと最近この産学協同の芽が出てきましたけれども、まだ十分ではないというのが問題でございまして、特に、例えば基盤的な研究、それから製造に行く前の中間の研究開発はどうしても産学協同でないと進まないのではないか。そんなことで、通産、文部それから科技庁、いろいろなところでそういうことを図っておられると思いますが、その辺はもう少し我々としても期待したいと思っております。
  18. 矢追秀彦

    ○矢追委員 杉村先生と渥美先生に簡単にお願いいたします。  杉村先生にお伺いしたいのは、先ほどがんのことについては大体お教えいただいたのですが、肉腫について現状がどうなっているのか、それが一つです。  それから、今、国会でも先ほどいらっしゃいました中山太郎先生を中心に脳死の問題を一生懸命研究しておるわけです。うちの方でも高木健太郎先生を中心に勉強会、私もメンバーに入れていただいて、法律までいくかいかないかで今検討しておる最中でございますが、脳死問題について簡単で結構でございますから、先生の御所見、特に法律までいくのか、いけばいいのかどうか、その辺お願いします。
  19. 杉村隆

    杉村参考人 今御質問がありましたことは大変専門的なことでありますけれども、肉腫と申しますのは広い意味でのがんの一種でございます。がんと申しますと二種類あって、一つがん腫、一つは肉腫なんです。それで、何でもかんでも表にある細胞から出たものはがん腫で、内側の方から出たものが肉腫なんです。内側と申しましても、胃の表面というのは外からつながっている表面ですから、あれはやはり表面なんですね。中の管がこうありますけれども、管の表面ですから、いわば体の定義からいえばあれは表面なんです。そういう上皮細胞から出たものはがん腫でありますし、それからもっと体の奥から出たものが肉腫であります。したがって、皮下にできるがん、皮の下から肉腫ができますし、それから例えば筋肉がなると筋肉肉腫とか、脂肪細胞が脂肪細胞肉腫とか、そういうふうに出てくるわけであります。しかし、今日のところは、がん腫も肉腫も出てくる細胞は違っている、もとの細胞は違っておるけれども、その細胞が広い意味でのいわゆるがん、悪性なものになるという過程は大体同じである、そのように私どもは了解しております。もちろん、非常に子細にわたりましては、肉腫の場合にはこういう発がん遺伝子が出ることが多かろうとか、上皮の場合にはこういう発がん遺伝子の増幅、遺伝子の数がふえるのですけれども、そういうことが多かろうとかいろいろございます。けれども、大体は同じように了解してこれに立ち向かっている次第であります。
  20. 矢追秀彦

    ○矢追委員 肉腫の患者さんは……。
  21. 杉村隆

    杉村参考人 肉腫の患者さんの数等々に関しましては、私の了解していますところでは、特にどういう肉腫が今多くなっているとか下がっているとか、そういうことはございませんと思います。ただエイズという病気の場合には、カポシの肉腫という特殊な肉腫が多いとか、そういうことはございますけれども、特にあるタイプの肉腫がふえている、あるタイプの肉腫が減っているというようなことは余りないのじゃないかと思いますが、随行してまいりました末舛副院長が臨床のそういうケースをよく知っておりますので、ちょっと私が聞きましてから御返事申しましょうか。
  22. 原田昇左右

    原田委員長 どうぞ。
  23. 杉村隆

    杉村参考人 御返事申し上げます。  ここに「がんの統計」というのがございまして、後ほどお送り申し上げますけれども、これによりますと、今私が大体の感覚を申し上げたのですけれども、そういう骨並びに結合組織等々の肉腫はふえておらないようでございます。ただ、肉腫の一種でありますけれども、ほくろから出てくる黒色肉腫というのがございますね。あれは皮膚の下にある細胞が出てくるのですけれども、そういうものは若干ふえているようであります。  それから先生のもう一つの御質問は、脳死の問題でございますね。  私どもはがんの患者さんを拝見させていただいているわけでありますので、切実なる問題として脳死の問題は臓器移植等々を御専門とする方に比べまして関係が深いわけではございませんので、ただ一医学者として平生感じていることを申し述べさせていただくことになるとは思いますけれども、一方でとにかく臓器のドナーを大変待たれている方がありまして、そのことによって、臓器の移植によって生命を長らえることができる。一方に脳死の状態ということで、あと心臓がとまるまである限られた時間があるということがはっきりしていて、生前の患者さんの御意思あるいは御家族の御意思等々からそういう場合には医師その他の判断にゆだねるというようなことがはっきりしている場合には、私は脳死の問題は非常にポジティブに考えられてよろしいんじゃないか、そういうふうに考えております。ただ、非常に軽率なる判断で脳死の問題を取り扱うことはいろいろな危険を伴いますから、多くの意味で専門家、それは医師のみならず多くの方々のコンセンサスを得られるようなことが必要だ、そういうふうに大変月並みなお答えを申し上げまして恐縮でございます。
  24. 原田昇左右

    原田委員長 今の脳死の問題について渥美先生に御質問だったと思います。
  25. 渥美和彦

    渥美参考人 お答えいたします。  今杉村先生が発言された内容と同じことになると思います。人工臓器の立場からいいますと、最近五例の人工心臓の患者さんがアメリカで亡くなりましたが、そのときの死の判定はすべて脳死ということになっております。つまり、人工心臓は動いていて血液を送っているという状態であっても、脳が死にましたから脳死と判定して、人工心臓をストップしております。そんな意味で、アメリカではそうなっておりますし、人工臓器ではそうなるだろうと思っております。  一番大きな問題点は、今杉村先生が言われましたように、確実に診断するということだろうと思います。今全国のすべてのお医者さんが脳死を理解されてすべて脳死を確実に診断し得るという状態に達した場合は問題が少ないと思われますが、そうでない場合にはいろいろな段階の問題があろうかと思います。  それから、もちろん今杉村先生言われたような条件がある。なぜならば、脳死の後に心臓がとまって肺がとまるというのは必ず来るわけですから、そこまで待てばだれもが納得できるわけですね。それを先にするためには何らかの理由がなくてはいけない。そこが非常に見解がいろいろ分かれるところだと私は思っております。
  26. 村山喜一

    ○村山(喜)委員 渥美先生に一つだけお尋ねしたいのですが、臓器移植の問題は、今、日本医学界の中で一番大きな関心を持たれているところだと思います。特に、人工透析患者の場合、生体移植の場合は成功例も非常に多いようでございますが、死体になりました後献体の一部として腎バンクに登録をしておいて、そうしてそれを死後何時間かの中で取り出して、それを保存をしておいて移植に使うというのでいろいろ活用しようということになっておるわけでございますが、人間もやはりだんだん老齢化していくわけですから、老化現象が出るような腎臓を若い腎患者に移植をしてみてもそれはうまくいくはずはないのではないだろうか。したがいまして、これはそういうような移植学の立場からいえば、そこには限界があるんじゃないか。むしろそういうような腎バンクをつくってやるということは、そういう移植に対して国民の協力を得られるような、そういう意味における精神的な面が中心になるのではなかろうかなと私は思っているのでございますが、人工透析の現状の中から国民の前にそういうことを徐々に明らかにしていきながら理解を得るといる方式をとらなければ、何でもかんでもいいから登録をしなさい、登録の数がふえたからなかなか理解がよくなってきたよというわけにいかぬのじゃなかろうかなという感じがいたしておりますが、先生の臓器移植の立場から御説明を願いたい。
  27. 原田昇左右

    原田委員長 ちょっと委員長としまして。実は今堀先生がもうじきお帰りにならなければならないものですから、今のお答えをちょっと後にしていただいて、今堀先生に対する御質問がございましたら、それを優先させていただきます。
  28. 山原健二郎

    ○山原委員 三人の先生に関係するのですが、研究費のことを今堀先生が出されましたね、十億円とアメリカ二百億円。この研究費が文部省についたりあるいは科学技術庁についたり通産省についたりしまして、そして研究そのものは各大学の医学部で研究されたりして、何となくばらばらな感じがしているんですね。その辺をどういうふうに考えたらいいのかということが一つです。  それからもう一つ渥美先生ですが、例の人工臓器研究センター、これが緊急の課題であるというふうにお書きになっているのですけれども、十五年間にわたってこのことが出ながらなおかつまだ進んでいないということをどういうふうにこれは克服したらいいのか。その二つをお聞きしたいのですが、最初に今堀先生から。
  29. 今堀和友

    今堀参考人 お答え申し上げます。  先生のおっしゃるとおりでございまして、特に老化学というのは、実はきょう申し上げませんでしたが、社会問題も含んでおります。したがいまして、極めて広い範囲の問題を取り扱う。例えば老人の再就職みたいな問題も老化学に入っております。これは労働省の管轄でございます。ですから、研究費は現在非常にあちこちから出る可能性がございますけれども、やはり本当はどこかで受け皿を一本化してそこから研究に応じて分配し、また、そう言ってはちょっと失言になるかもしれませんが、省の縦割りを超えてもう少し有効的に分配できるようなシステムがあると研究の能率が、これは別に老化と言わずに、一般的にもっと上がるのではないかというふうに私は存じております。
  30. 原田昇左右

    原田委員長 渥美先生、ちょっと待ってください。今堀先生にありますか。  では、私から一つ。先ほど、各国の老化制御についての研究というのは、アメリカが非常に進んでいるということを伺ったのですが、ヨーロッパはどんな状況になっておりますか。  それからもう一つ老化制御が仮にどんどん進んでいった場合、寿命というのはもっと延びると考えていいのですか。
  31. 今堀和友

    今堀参考人 お答え申し上げます。  第一点でございますけれども、先ほど申しましたように、ヨーロッパ諸国はいわゆる高齢化に到達した年代が非常に早うございます。したがって、例えばほとんどすべての国が国立研究所を持っております。そういう意味において、老化研究については日本よりもずっと先にいろいろな経験をしておりますし、研究も進んでいる、こういうふうに申し上げてよろしいかと思います。  それから第二点でございますが、先ほど申しましたようにその理由はよくわからないのでございますけれども、とにかく生物の最大寿命というのは恐らく遺伝的に決まっているものである。したがって、どんなにやっても最大寿命が例えば百十五歳以上に生きられないといたしますと、平均寿命は、今後どのように老化制御が進みましてもせいぜい九十歳がいいところだろうと思います。  私の申し上げます老化制御は、寿命を延ばすのではございませんで、要するに、寿命のある間健康で働いて、寿命が来たらこの世から去っていくというような形に制御するのが本当の意味の老化制御でございまして、そのために生理的老化をどうして防止すればよろしいか、あるいは病的老化の遺伝的な背景をどうして研究すればよろしいかということを申し上げたつもりでございますので、私自身の頭の中にも余り平均寿命を延ばすつもりはございませんし、恐らくそんなに延びないだろうと存じております。
  32. 原田昇左右

    原田委員長 そうすると今の寿命が延びないということですと、老化制御が行われて、突然にぼこっと何かの原因で死んじゃうということになるのですね。どういうように説明したらいいのですか、そこがちょっとわからないのです。私は当然寿命が延びてくるのではないかと思っておったのです。アルツハイマー病などというのは何か新しい遺伝子が働いて寿命を縮めてしまう、それもコントロールするんだということになれば、必然的に寿命は延びるのではないかと思っておったのです。  それともう一つお伺いしたいのは、ヨーロッパもアメリカも進んでおるというなら、日本がこれを大いに追っかけるとすれば、もちろん先ほど御指摘の予算とか研究員の問題もありますが、そういう国から研究者をどんどん連れてくるとか、あるいはそういう国で進んでいるものをどんどん導入するということが大事ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  33. 今堀和友

    今堀参考人 お答え申し上げます。  前者の件につきましては、寿命がなぜ決まっているのかの理由は必ずしも明らかではございませんけれども、例えば先ほど申しましたように、脳細砲が一日に十万個、二十万個死んでいくといういわゆる自然死でございますが、これは多分どうしようもないことだと思います。ですから、そういうことから勘定いたしましても人の寿命がそんなに延びることはほとんど考えられない。すなわち、脳細胞と心臓の細胞、この二つは絶対に再生いたしません。死んでいくばかりであって、増殖いたしません。再生いたしませんから、その点からいっても、どうしても寿命はおのずから限られてしまうであろう。
  34. 原田昇左右

    原田委員長 脳細胞が死んでいくこともコントロールできないのですか。
  35. 今堀和友

    今堀参考人 それは今のところ恐らくできないと思いますし、かなり難しい話だと思います。これは、例えば、脳細胞を培養いたしましてどうしてももう一遍増殖させようという試みは物すごくあるわけでございます、神経細胞で。しかし、これはどうしても増殖いたしません。初めから増殖しないようにどこかで遺伝へのコントロールがかかっておりますから、これを外せば増殖するかもしれません。それはわかりませんけれども、かなり難しい問題だろうと思います。  それから、おっしゃるように国際交流は非常に大事なポイントでございます。ただ、もうちょっとお答えさせていただきますと、結局は、先ほど申しましたように老化研究に手がつき始めるという道筋がついたのはつい最近でございまして、したがって、取り組みは向こうが非常に早うございましたけれども、日本が今から取り組めばやはり水準はすぐに近づくであろう。なぜならば、要するに、日本のバイオテクノロジーのレベルは極めて高いレベルにございます。ですから、それを使って研究ができるというようになったのは最近が初めてでございます。今までは、老化とは何かとか、老化した細胞老化しない細胞とか、老化した動物と老化しない動物の比較検討が主に行われておりまして、やっとこれから道筋がついてきた。そういう意味においては、日本でこれからかなり頑張ってスタートすれば相当いいところまでいけるというふうに私は信じております。
  36. 原田昇左右

    原田委員長 どうもありがとうございました。  それでは渥美先生、先ほどからのことについて。
  37. 渥美和彦

    渥美参考人 幾つかございました。一つは、人工腎臓というのは非常に進んでいるけれども、腎臓移植が日本でもそうはかどっていない、これは一体なぜかというような問題がちょっと出たわけでございますが、統計的に言いますと、外国では、人工腎臓をやって体の状態をよくしまして、それから腎臓のドナーが手に入るということになったときに腎臓移植に移行するというのが大体のルールでございます。ですから、人工腎臓が大体三〇%から五〇%、それから腎臓移植が五〇%から七〇%ぐらいという比率が、大体外国の比率ではないかと思います。それに対して日本の方は、人工腎臓が九八%以上ですね。腎臓移植の方が二%以下。そんな状況で、このギャップは世界的に相当違うというような現状でございます。  そのために腎臓をどのようにして手に入れるかということになりますと、生きた腎臓を手に入れる、これは一番いいことでございますが、なかなか難しい。というわけで、腎臓の場合には心臓と違いまして数時間ぐらいの余裕がございますので、死後できるだけ早い時期にとって保存して送るというような形で、死体腎臓という可能性について研究されてきましたし、実際に今行われていますが、私専門家ではございませんが、やはり実際の臨床へ応用しますと、なかなか尿が出てくる時期が遅くて、はっきり言いまして非常につきが悪いというようなことで、生体の方がいいということになっています。しかし、これからはいろいろと保存の技術も進んできますし、それから、今ちょうど腎センターのネットワークといいますか、そういうのが非常に進みつつありますので、そういう連携もうまくいきますと、この死後の腎臓を利用するというのもかなりこれから進むのではないかと思っております。  問題は、今先生が言われました生体の腎臓を、国民の精神的支持という格好からいくべきではなかろうか。これは本命でございまして、そういう形からもし生体腎臓、特に若い腎臓が手に入れば、これはもう大変な恩恵になると私は思います。先生のおっしゃるとおりだと思います。  ちょっと心臓移植のことでドナーとの関係を見ますと、最近のアメリカの報告でございますが、年間に心臓移植を必要とする患者さんが八万人いる。しかしドナーになるべき脳死の患者さん、それがこの心臓移植に限りますと二万人あるかないかというわけで、やはりドナーが数量的に不足しているというわけで人工心臓をやるべきではなかろうかという意見が実は出てきたというのが、そういう数的なバランス背景でございます。  それでよろしゅうございますか。  それからもう一つの方は、人工臓器は十五年も研究しているのにいまだに進歩しないのはなぜかというようなお話でございますが、実は日本でも大変進歩いたしまして、人工腎臓の場合でもいろいろな透析、ろ過、吸着、最近は血漿交換というような新しい技術ができましたけれども、こういう最新の技術はほとんど日本から出ております。それから、人工腎臓を体に埋め込む前に体に巻きつけて歩く、そういう装置も日本でかなりのものができて、今臨床で試みられております。それから体に埋め込む人工腎臓、これはまだ未来の問題ですが、これも犬の実験で今その実験がやっと始められたというわけで、研究の先端は日本にもかなりあるというような現状でございます。それから、人工心臓のことを申し上げますと、動物実験でございますが、三百四十四日という世界最長記録を我々のところでつくっております。  そんな意味で、研究のレベルのトップは高いのですが、細くて針のようなものだ、これがアメリカとまるで違うところです。アメリカでは材料も駆動装置もエネルギーも応用も全部行われておりまして、研究の層が厚くてしかもレベルが高い。日本は、ある分野ではアメリカを抜いているところがありますが、針のようなもので、その研究グループなりその人材がだめになると研究がつぶれてしまう。そんな意味で、どうしても今ある人材を活用して、特に若い人を今後どのようにして育成するかというのが実は問題で、狭い幅を広くして厚みのあるものにしたいというのが現状でございます。その点が十五年間、確かにアメリカに対しておくれていたところだと思います。それでよろしゅうございますか。
  38. 山原健二郎

    ○山原委員 私が申し上げたのは、一つは人工臓器研究センターの設立というものが、希望がありながらまだできていない。どういうふうにすればこれが克服できるかという問題なんですね、先生方の問題じゃないかもしれませんが。
  39. 渥美和彦

    渥美参考人 それは非常に難しいことで、諸先生が御理解いただいて推進いただくというのが一番いい方法じゃないかと思いますが、残念ながら学会の方としましてもそういうPRが足りなかったということだと思います。それから、若い人もそういう声が小さかったと思いますが、最近外国から帰ってきた人たちの場がないということが非常に大きな問題になってきまして、そこで人工臓器のセンターをつくろうという声が大きくなってきたのだろうと思いますが、今後我々もこの点についてはもう少しいろいろと勉強していきたいと思っております。  これは昭和五十二年でございますか、科学技術庁でかなりのプロジェクトをつくりまして、どれぐらいの費用で、どれぐらいの面積で、どれぐらいの人数で、どういうことをやればいいかということをつくってございましたが、やはりこういう国立の研究所をつくるというのがなかなか難しい状況ではなかったかと私は理解しております。
  40. 冬柴鐵三

    冬柴委員 杉村先生にお伺いしたいのですけれども、産学協同あるいは学際、そういう研究を進めなければならない、そういうものを何か阻むような事情が現在あるのか。あるとすればどのようなものか。それが第一。  もう一つは、研究所あるいは研究センターという場所、そういうものが必要のようですけれども、それは東京を初め首都圏に限られるのか。それ以外の場所でもいいのかどうか。  その二点について伺いたいわけですけれども、お二人から、それぞれ簡単に一言ずつで結構です。
  41. 杉村隆

    杉村参考人 お答え申し上げます。  何か産学協同を拒むようなファクターはあるかという御質問だと思いますけれども、それはあると思うのですね。どういうことかと申しますと、これまでは国の研究機関というのは非常に中正でなければいけないということがございます。これは今でもそうです。したがって、ある研究過程がんの薬として効くだろうというようなものができましたときに、それは研究室のレベルで、あるいは病院のレベルで、あるところまではいきますけれども、それをさらに大きく発展させるために大量に純粋なものをつくるということになりますと、これは当然一つ研究機関の中でできることではございません。したがいまして、それは特定のある企業に協同を申し入れてやらなければいけないのですけれども、実際になかったのかもしれないのですけれども、精神的に、そうすることが特定の企業に肩入れするというような批判を恐れる、あるいは実際にそういうものを公平にとり行うことになれておらなかったと申した方が正しいのかもしれませんけれども、そういうことがあったのだと思います。  それで、研究交流促進法でございましたか、最近の新しいパテントの問題等々を含めまして、官民がもう少し協力できるようにした方がよろしい、あるいは国立研究機関の設備等々を民が効率よく使えるようにした方がよろしいというようなことでそういうものが一つ一つ除かれていくのだろうと思います。ただし、やはり国の機関で公正であるべきものでありますから、しかるべき委員会等々を通じて最も公正に最も能率がよく行われる方がよろしいのだ、そういうふうに考えている次第であります。
  42. 渥美和彦

    渥美参考人 産学協同につきましては今杉村先生が言われたとおりでございますが、一つつけ加えますと、企業の方ではパテントをめぐった秘密性というものがありましてなかなか発表できないわけですね。学者の方はできるだけ早く発表したい、企業の方はできるだけパテントを押さえて、発表をできるだけ遅くしたい、そういうような問題点。それから、やはり目的がいろいろと違う点のギャップがあると思います。大学の方はどちらかといいますと基礎的研究といいますか、それのオリジナルなところを非常に尊重するわけですが、企業の方はむしろそれがどのように応用されるかという点で、基礎的研究よりも応用の方を先に促進するという方向でややギャップがある。そういう大学、企業の特殊性というものがいろいろな意味で妨げてきたと私は考えております。  それから先ほどのセンターでございますが、私申し上げましたように、これは日本全国から、あるいは場合によっては世界から人が集まるというようなことになりますと、交通の便がアクセスしやすいところその他を踏まえますと東京の方がいいと私は考えておりますが、しかし、これも面積も数万坪必要になりますし、いろいろな環境も必要でございますので、この辺は立地条件によっていろいろと違ってくると思いますが、場所については幾つかの選択もあろうかと思います。
  43. 平沼赳夫

    平沼委員 それでは両先生、きょうは大変お忙しいところありがとうございました。  杉村先生にちょっとお尋ねをしたいのですが、先ほどがん撲滅の前夜じゃなくて夜明け前だ、こういう表現でおっしゃいました。さっきのお話で、医薬品の面とか手術の面とかいろいろなアプローチの方法が大分軌道に乗ってきて、まさに夜明け前だ、こういうふうにおっしゃいましたが、今私の選挙区にもあるわけですけれども、新薬が大分出てきてちまたを騒がしておりますね。そういう重立ったものに関して、医薬の面で、がん撲滅に関しては夜明け前というふうにおっしゃいましたけれども、具体的に大体どの程度まで進んでいるかということをお聞かせいただきたい。  それから先ほど、七十歳代の肺がんに関しましては今までは絶対手術はしなかった、それをなさるようになった、こういうことでございます。その七十歳代の肺がんの手術に関してまだ完全治癒、五年間というようなそういう実績はないと思いますが、今までの手術をおやりになった経過の中で七十歳以上ではどの程度うまく進んでいるのか、その辺、具体的にお聞かせいただきたい、こういうふうに思います。  それから、渥美先生に続いてお願いをしたいのですけれども、人工透析に関しましては一九七八年のデータでは二千四百四十八億の総治療費がかかっているわけであります。人工透析は最初のプリミティブな機械から相当進んだ機械になってきているわけで、コストダウンというものが今までどの程度行われてきたか。それから先行き、今三万人以上の患者にそういうことで透析を行っているようですが、これが医療費全体に占める割合というのは大変高いわけで、これからも高くなると思うのですが、コストダウンの可能性ということをちょっとお聞かせいただきたい。例えば、私の地元では透析をやっているお医者さんは非常に繁盛していまして、何かもうかってもうかってしようがないというような感じのところもあるわけですね。ですから、そういうところとコストダウンとの関係なんかは、先生はそういうお立場じゃないと思いますけれども、コストダウンの見通しについて、もし御意見がおありでしたらお聞かせいただきたいと思います。よろしくお願いします。
  44. 杉村隆

    杉村参考人 では、私からお答え申し上げます。  今、新しい薬がどういうふうに出てきそうであるかという御質問でございましたのでお答え申し上げますが、ただいま非常に広くこの二、三年使われるようになった薬に白金の化合物がございます。シスプラチナムという化合物でございますけれども、例えば、睾丸のがんなどの場合にはこれまでは手術をして、それから放射線をかけて、残ったら薬をやるということだったのですね。それが全く逆になりまして、まずシスプラチンで治療する、それでなくならなかったらそこを外科で取ろう、あるいは放射線をかけようというふうになりまして、大変さま変わりしておりますので、こういうものがありますということは多くのものが出てくることを意味していると思います。  それで、アドリアマイシンとかピンクリスチンとかエンドキサンとか、そういうものを併合して使いますと、肺がんの中のあるタイプがん、小細胞がんなどの場合には大変効果を呈することがございます。効果を呈することがございますと申しますのは、効果を呈しないことがあるからそう申し上げておるわけでありまして、どういう場合にでもがんがこの薬で治るようにということが終局の私どもの願いであります。  ただ、これまでの歴史的なことを振り返ってみますと、今のプラチナムの化合物も実はその最初の発見は十年前なんですね。それを丹念に動物実験を行い、丹念に毒性の検査を行い、それから丹念にブラインドで本当に効くか効かないかという検定を行うとやはり七、八年かかるのですね。今十年になっているわけでありますから、何かすぐに簡単に効果が立証できるというものではございませんで、時にがんの患者さんの場合には、先ほどお話がございましたが、完全治癒、少なくとも五年間の経過でそういうものがどうであったとか、本当に寿命が長く延びた、その年限を正確に取り扱うというようなことでありますので、多くのリゾーシス、費用と時間とそれから人間を必要としておるものでございますということを申し述べます。  それからもう一つは、これまでの歴史的なものを振り返りますと、一万検体、一万の物質を調べて、そして最終的に一つ実際に広く患者さんに使えるものができてくるということでございますので、これは大変な仕事だと御理解いただきたい。ただ、これまでのように広く探してみようということではなくて、先ほど申し述べましたように、発がん遺伝子の生産するたんぱく質、そのたんぱく質の機能を抑えるというようなふうにガイデッドになったものを探すこと、そういうことでございますので、これまでよりははるかに効率のいい研究の進め方ができるものというふうに了解しております。  それから、私の了解するところでは、七十歳以上の肺がんの手術では、成功、完全治癒率何%ということは今ちょっと申し上げられませんけれども、完全に治癒した患者さんがおられることは事実であります。ですから、あきらめていたことをあきらめないでやるということが大切だと思います。同じことが肝がん、その他でも申せまして、十年前だったらあきらめるというようなケースが今は治っておられる方がございますので、そういう点では、少しずつではありますけれども確実に進歩しているというふうに申し上げられると思います。
  45. 渥美和彦

    渥美参考人 御質問は、人工透析のコストダウン、医療費に将来どういう影響を与えるか、それを少なくするにはどうしたらいいかというようなことだと思います。  技術というのは大体進むことによってコストダウンができるというのが常識でございまして、コンピューターを見ましても、もう今パソコンということになりまして、機能が非常によくなって、小型になって、しかもコストダウンになったというわけですから、人工腎臓も将来はコストダウンにいくということについては、私はそうなると思います。ただしかし、いろいろ問題があることは事実でございまして、今、人工腎臓センターで利潤を上げているところもあるということでございますが、逆に利潤が上がらなくてつぶれているところもあるわけです。そんな意味で、私は、正当な評価をするようなアセスメントの委員会といいますか、そういうものがやはり必要で、正当なものについては評価をする、不当なものについてはアセスするというようなことが医療の面で必要じゃなかろうか、ただこれは相当難しい問題でございますが、理論的にはそのように考えております。  それから、コストダウンというようなことのみ考えますと、今、入院しないで透析できる装置が徐々に普及しております。これは患者さんに、いわば外来型腹膜灌流というような形でございまして、管をおなかの中に差し込みまして、そして特殊な液体の入ったバッグを持ってきまして、それで朝、おなかの中に液体を入れるわけですね。そして、そこで腹膜灌流により毒物を液体の中へ吸収しまして、そして時間がたったら自分で液体を出す。そしてまた、夕方帰ってきてそういうものを中へ入れるという格好にしますとこれは非常にコストダウンになる。これが世界的にも一つの傾向になっております。ただ、これには個人の患者さんが直接やるといる場合が多いわけでございますので、副作用として例えば腹膜炎を起こすとか癒着を起こすとか、そんなことがありますので、やはりこういうチェックをする研究センターといいますか、あるいはクリニックが必要になってくると思います。  しかし、私は、全体的に考えまして、こういう高度先進医療というものが国民から期待されていて、だんだん高度な医療をだれでもどこでも期待される状況になってきている、こういう医療費の拡大というのは必然的傾向だろうと思うわけです。これは日本に限らず外国でもそうでございますので、極端にすべてのものをコストダウンで抑制するというのがいいかどうか、私は別の意見を持っておりますが、そういう方向に努力する必要があることは事実だと思います。
  46. 平沼赳夫

    平沼委員 どうもありがとうございました。
  47. 原田昇左右

    原田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、御多用中のところ貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  なお、きょう参考人から大変貴重な御意見をいただいたわけでございまして、例えば老化防止研究にもっと研究者と研究費を充実しろとか、あるいは専門の機関をつくったらどうかとか、あるいはがん制圧については十カ年計画、これはうまくいっているけれども、もっともっと増強していく必要があろうとか、あるいは人工心臓の研究センターをつくったらどうかとか、非常に示唆に富む御意見をいただいたと思うのです。当委員会としても、今後こういった問題につきましてぜひとも前向きに検討してまいりたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。  次回は、来る十八日火曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時十二分散会