○
国務大臣(
後藤田正晴君) 靖国神社のいわゆる公式参拝の問題につきましては、御
承知のとおりに随分長い間遺族会の
皆様方の強い御要望、あるいは地方団体、都道府県、市町村の議会等の決議等も数多く出されておりましたし、あるいはまた世論
調査等を見ましても、国民の多くの方々にやはりこのいわゆる靖国神社への公式参拝を行ってもらいたい、こういう強い御要望があったことは事実でございます。そこらを受けまして、当時自由民主党においても
総務会の決議等をもって公式参拝をやるべし、こういうことになったわけでございますが、
政府はそれらの各方面の強い要望を受けまして一
年間官房長官のもとで靖国懇なる懇談会を開きまして、各方面の学識経験を持っていらっしゃる方々に、この問題をどう考えるのが適当であろうかといったようなことで御
意見の開陳を願っておったわけでございます。
そういった靖国懇の御
意見をも踏まえながら
政府みずからの
判断で、昨年はたまたま戦後四十周年という節目の年でもございますし、
総理大臣の公式参拝ということに踏み切ったわけでございます。
この間
政府としましては、問題はこれは日本の内政問題でございますから諸外国に対して了承を得なければならぬとかいった筋合いのものではございません。ございませんが、やはり問題が問題でございますので、外交当局としては、今回公式参拝をする、しかしそれは日本が特別な、何といいますか、世間で言われるようなことではなくて、あくまでも戦没者を追悼しそして平和を祈念する、こういう
意味合いから、そして同時に、国民の大多数がそういった参拝の場所としては靖国神社を望んでおるといったようなことを背景に実行するものであるということの
説明はしておったわけでございます。
そこで先般、衆議院の
委員会での
質疑も同じようなことがございまして、多少私の舌足らずの答弁であったと思いますが、そういう相手方に日本
政府の真意というものを
説明するという
努力はしたわけでございます。我々としてはそれで実行したわけでございますが、思いのほかに厳しいアジア各国の反応があったわけでございます。その中心は何かと言えば、やはりA級戦犯の合祀問題についての点が一番のネックだと私どもは
理解をしております。といいますのは、あの私の
談話の中にございますように、一緒に合祀してあるからA級戦犯にもお参りをしているのだといったような誤解を生みまして、
政府としては個々の祭神とは関係なしに、靖国神社に合祀せられておる方々一般という
意味において追悼の誠をささげ、平和を祈念する、こういうことでやってきたわけですけれども、その点についてのやや誤解を生んで、ひいてはその結果、国交回復であるとかあるいは平和友好条約であるとかといったような際の、日本側と相手方との合意している過去の大戦についての日本としては反省の上に立って将来の平和国家を築いていくんだといった事柄
自身についてまで、疑念を生ずるおそれが出てきたわけでございます。
こういったようなことを考えますとやはり、何といいますか、あくまでもこれは内政問題ですから何といったって日本人の国民感情、これを大事にしなきゃならぬと私は思っているんです。しかし同時に、そうはいいながら、日本という国もここまで来ますと、過去のそういった国交回復のときの両国間の話し合いとかいろいろな
経緯も当然配慮しなきゃなりませんし、相手方の国民の感情というものも私は
理解をして、これは何も相手方に強制せられて我々がそう考えるのじゃなくて、そういう反応がある以上は、日本の立場においてやっぱりそこらに対する配慮というものを真剣に私は考えないといけない。殊に、相手方の主張を聞いておりますと、四十年たっても現にまだ被害を受けた人間が、国民がおるんですと、こういったような言葉もあるわけでございますね。だから、そこらを慎重に
判断いたしまして、あえてこれは厳しい選択でございました、しかし国益上の
判断に立って本年は
総理大臣のいわゆる公式参拝は見合わさざるを得ない、こういうことで本年は参拝をしなかったわけでございます。
もちろんこのことは、去年からそうでございますけれども、この公式参拝というのは
制度化したものではございませんし、その都度
判断をすべき筋合いのものである、こういう私どもの
見解は依然として存続させておりますし、同時にまた、靖国懇の
意見を受けて、こういうやり方であるならば憲法上なお多少の疑義があるから公式参拝はやらぬのだと
政府が言っておりましたけれども、それは、こういうやり方であれば憲法上の、二十条の問題はクリアできる、こういうことになっておりますから、この憲法上のクリアした昨年の
見解、これはやはりそのまま存続させておきたい。そして今後とも私はこの問題は、粘り強く日本の真意というものをやはり諸外国にあらゆる
機会をとらえましてよく
理解をしてもらうという
努力が必要であろう。もちろん、先ほど言いましたように外交当局のそういった
努力もありましたが、それ以外にも、こういった席で私は一々申しませんけれども、何らかの糸口はないのかということでいろいろなルートを使いまして
理解を求めましたけれども、なかなかことしの八月十五日までに
理解を得るということはできなくて、相変わらず厳しい批判が続いておるということでございます。
そこで、今後どうするかということになりますと、やはり相変わらず
努力を一方でしながら、そして同時に
国内的にも、これは
政府が言うことではありません、
政府が言うことではありませんけれども、みんなでひとつよくお考えをいただいて、大多数のこの靖国神社に合祀せられている方々の御遺族の方々が御満足できるようなやり方を我々としては考えていく必要があるのではないか、かように考えているわけでございます。
やや長くなりましたが、以上が私どもが決断をした理由でございます。