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1986-02-26 第104回国会 参議院 予算委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年二月二十六日(水曜日)    午前十時開会     —————————————    委員の異動  二月二十五日     辞任         補欠選任      関  嘉彦君     抜山 映子君      田  英夫君     野末 陳平君  二月二十六日     辞任         補欠選任      下村  泰君     青島 幸男君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         安田 隆明君     理 事                 遠藤 政夫君                 志村 哲良君                 桧垣徳太郎君                 降矢 敬義君                 水谷  力君                 和田 静夫君                 太田 淳夫君                 佐藤 昭夫君                 井上  計君     委 員                 安孫子藤吉君                 石本  茂君                 長田 裕二君                 海江田鶴造君                 梶木 又三君                 金丸 三郎君                 北  修二君                 坂元 親男君                 竹山  裕君                 秦野  章君                 林 健太郎君                 真鍋 賢二君                 宮澤  弘君                 宮島  滉君                 柳川 覺治君                 稲村 稔夫君                 粕谷 照美君                 久保田真苗君                 高杉 廸忠君                 安恒 良一君                 大川 清幸君                 刈田 貞子君                 高桑 栄松君                 中野 鉄造君                 近藤 忠孝君                 抜山 映子君                 野末 陳平君                 青島 幸男君    政府委員        大蔵政務次官   梶原  清君    事務局側        常任委員会専門        員        桐澤  猛君    参考人        経済評論家    廣瀬 嘉夫君        東京大学教授   佐藤  進君        東京工業大学教        授        香西  泰君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和六十一年度一般会計予算内閣送付予備  審査) ○昭和六十一年度特別会計予算内閣送付予備  審査) ○昭和六十一年度政府関係機関予算内閣送付、  予備審査)     —————————————
  2. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 予算委員会を開会いたします。  昭和六十一年度一般会計予算昭和六十一年度特別会計予算昭和六十一年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  本日は、中期展望に立った財政税制改革問題について、お手元に配付いたしております要領で三名の参考人の方々から順次御意見を拝聴してまいりたいと存じます。  廣瀬嘉夫参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  大変お忙しい中、貴重な時間をお割きいただき、本委員会のために御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして心から厚くお礼を申し上げます。  本日は、忌憚のない御意見を承りまして、今後の審査参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いを申し上げます。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただくと、こういう要領で行いたいと存じております。  それでは、廣瀬参考人お願いいたします。
  3. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) ただいま御紹介いただきました廣瀬でございます。きょうは財政改革税制改革につきまして意見を述べるという御下命でございますから、日ごろ私が考えておりますところを率直に申し上げたいと思います。  我が国財政が危機的な状況にあることは御存じのとおりであります。六十一年度予算案で見ますと、国債費が十一兆三千二百億円と国債発行額を上回って歳出総額の二〇・九%に達していることや国債費社会保障費などの主要経費の中で最大歳出項目として突出していること、そして六十一年度末になりますと国債発行残高が百四十三兆円に達することなどを見ますと、もはや現状を放置しておくことは許されません。大蔵省試算によりますと、昭和七十年代に入りますと国債利払い費だけでも毎年十二兆円余りの財源が必要になりますが、借金利払いのために現在の防衛費のざっと四倍、公共事業費の二倍といった金を使っていたのでは、財政は本来の仕事ができなくなってしまいます。ですから、財政再建はお題目ではなく、どうしても実現しなければならない課題であります。  日本経済は外国がまねのできないすぐれた特質を幾つか持っております。ざっと考えてみましても、日本人の勤勉性世界一高い貯蓄率石油危機を見事に乗り越えたこの成長力、さらに世界一安定した物価、それから原燃料をすべて輸入に頼りながら世界一の黒字を生み出す国際収支構造、そして今や世界最大資本輸出国にもなっている。さらに、日本には世界一新しい機械設備があり、経営者技術革新に余念がありません。また雇用も安定し、失業率先進諸国の中で一番低くなっております。しかも治安は安定しておりまして、租税負担率主要先進国の中では最も低い。財政を除けば世界のどこの国にも負けないすぐれたパフォーマンスを持っているわけであります。  しかし、国の財政だけは主要国の中で最もひどいものでございます。例えばGNPに対する長期債務残高割合を見ますと、日本は五〇%で、アメリカの三六・五%、西ドイツの二〇・三%と比べましても飛び抜けて高くなっております。また、歳出総額に占める利払い費割合を見ましても、日本は六十一年度予算案で一九・六%となっておりますが、アメリカは一四・九%、西ドイツは一一・五%、イギリスは七・一%でありますか ら、主要先進国の中では日本財政体質が最も悪いということが言えます。経済パフォーマンスは全体として良好なのに、なぜ財政体質だけが著しく悪いのか。この点はよくよく考えてみる必要があるように思います。  私は、高度成長期財源の豊かなときにでき上がった制度がさまざまな財政支出膨張要因となって積み上げられ、安定成長期になって収入が伸びない今日に至っても、それが既得権として残っているところに基本的な問題があるように思いますが、これを容認してきた政治責任もまた大きいと思います。  さて、政府昭和六十五年度までに赤字国債発行をゼロにするとともに、毎年度国債依存度の引き下げに努めるという財政再建目標を決めております。御承知のとおり、六十一年度予算案における国債の減額は七千三百四十億円にとどまりまして、一兆円余り減額するという当初の目標は残念ながら挫折いたしました。六十五年度までに赤字国債発行をゼロにするためには、六十二年度以降毎年一兆三千百億円ずつ減らしていく必要がありますが、これは事実上困難になったと言うべきでしょう。恐らく政府としては、六十二年度の税制抜本改正とあわせて財政再建目標を見直すことになると思いますけれども、私は六十五年度赤字国債脱却目標は軽々に外すべきではないと考えております。この目標を外せば歳出削減努力が薄れて、たがが緩んでしまいます。防衛費GNP比一%枠と同様に、あくまで堅持していく姿勢が必要だと思います。  大蔵省試算した財政中期展望によりますと、税収伸びを七・二%と見込み、六十一年度予算制度施策をそのまま延長していくことを前提に試算しますと、六十二年度には三兆四千三百億円の財源が不足し、以後財源不足額は、六十三年度が四兆三千八百億円、六十四年度が六兆八百億円に拡大するという見通しになっております。このような財源不足に対処する第一の方途は歳出削減です。財政守備範囲はもちろんのこと、受益と負担との対応関係あるいは費用対効果など、あらゆる角度から既存の制度見直して、徹底した歳出削減合理化を進める必要があります。  ただし、ここで注意しなければならないことは、五十八年度予算以来、一般歳出伸び率ゼロという政策が連続して四年間も続けられてまいりました結果、国民所得に対する一般歳出割合が五十四年度予算の一六・一%から六十一年度予算では一二・三%に低下してきていることです。このまま一般歳出伸び率ゼロという政策を続けていきますと、六十五年度の国民所得に対する一般歳出割合は一〇%を割って九・六%に低下する見通してあります。我慢の哲学も結構でありますけれども、これでは財政経済社会構造変化に十分対処できないばかりか、国際的な責任も果たせないということになり、じり貧状態に落ち込んでしまうのではないかと思われます。  社会の停滞と無力化を防ぐためには、財政最低限の対応力があり政治施策選択権がなければならないと思います。アメリカ財政再建の切り札とされた財政均衡法中枢部分であります強制的な一律予算削減過程に対しまして、ワシントン連邦地裁から違憲判決が出たのは、議会の機能を考える上で極めて示唆に富む出来事だったと私は考えております。要するに、緊縮政策一本やりでは財政危機は解決しないということであります。  さて、この当面の内需拡大策に関連いたしまして、政府と与野党の間で公共事業追加措置などが検討されております。最近の円高デフレの浸透や貿易摩擦を考えますと、私も公共的事業追加はぜひ必要だと考えております。  私は仕事柄よく地方などに出かけますけれども、地方の景況は輸出依存度の高い産業を中心に極めて深刻でございます。円高が間もなく円安方向に逆戻りするということならば大して心配は要らないわけでございますが、私はこれからやはり相当長期にわたって円高基調が続いていくというふうに見ております。  その根拠は五つございます。きょうは時間の関係項目だけしか申し上げませんが、一つアメリカ景気拡大テンポが落ちてまいりました。昨年の第四・四半期、十−十二月期のアメリカ成長率年率換算わずかに一・二%であります。かつてのような高い成長力を失った国の通貨が強くなるはずはございませんから、アメリカ実体経済に照らしてもこれからドルは弱くなると見なければなりません。  第二点は、アメリカ国際収支赤字が依然として続き、逆に日本国際収支黒字が依然として拡大基調にある。特に、最近原油を初めとして国際商品相場が大暴落をしておりますから、金額ベースで計算いたしますと、輸入の落ち込みが非常に大きく出るわけでございます。円高の結果、輸出が抑えられて、輸出が減ってきましてもそれ以上に輸入が減ります結果、結果として経常黒字はふえてしまうということに相なります。経済学の教科書をひもとくまでもなく、黒字国通貨は上昇し赤字国通貨は下落するのでありますから、この面から見ても円はさらに強くなる可能性があります。  三番目には、先般レーガン大統領予算教書の中で、財務長官に対して来年の適当な時期に国際通貨会議を招集するように指示したという点が明らかになっておりますが、恐らくアメリカが意図しているものは、あのニクソン政権下スミソニアン調整というものをやりましたが、あれから既に十五年を経過いたしまして、この間に主要国経済力格差が非常に大きくなっておりますので、その今各国が持っております基礎的条件を加味した上で第二次スミソニアン調整とも言うべき多国間の通貨調整を意図しているのではないかと考えられます。もしそのようなグランドデザインができ上がっているとするならば、日本は今日世界の中で最大黒字国でございますから、当然円に対してはさらに切り上げ圧力がかかってくる、このように考えなければならないだろうと思います。  四番目には、国際的にデタントが進展しております。昨年の十一月の米ソ首脳会談で、米ソ核不戦の誓いをいたしました。そしてその後、ソビエトのゴルバチョフ書記長から今世紀中に地球上の核兵器をすべて廃絶しようじゃないかというような革命的な提案がなされていることは御承知のとおりでありますが、世界が平和の方向へ、軍縮方向に大きく動き出しているということは紛れもなくドルは弱くなるということであります。逆に申し上げますと、もし戦争のにおいが色濃くなって世界にきな臭いにおいが立ち込めてまいりますれば、いかにアメリカが大きな国際収支赤字を抱えていようとも、軍事力によって、安全保障能力によってどうしても有事に強いドルということでドルが買われていきますが、これから平和だ、軍縮方向に動くんだということになりますれば、当然ドルは弱くなる。それはヨーロッパ通貨ドルに対して一斉に切り上がっている事実からも明らかになっているわけであります。  それから五番目に、これは経済的な要因ではありませんけれども、レーガン大統領御存じのとおりがんによってむしばまれております。既に七十五歳の高齢でありますが、この大統領があと三年の任期をこのまま全うすることができるかどうか、みんなアメリカの人々が心配しておりますが、このレーガン大統領の健康不安がドル安の底流にあるということを認めなければなりません。私は、世上言われているドル暴落の引き金は、レーガン大統領の再入院、再手術というふうなことがもし起きますと、そこでさらに大きくドルが崩れる、これが最も大きな衝撃になるのだろうというふうに考えております。  以上申し上げました五つの要素から見ましても、恐らく円は弱くはならない、これからも基調として円高が続いていくということが考えられるわけでございまして、このような円高基調の継続ということを考えますと、ここでやはり景気対策を真剣に考えなければならないと思います。しかし、やるならば最低三兆円以上の追加でなければ効果はないだろうと思います。私は五、六千億円の追加ならやめた方がいいだろうと思います。  大蔵省試算によりますと、一兆円の公共投資を行った場合の輸入拡大効果はわずかに年間およそ四億ドル、対GNP効果は初年度一兆一千七百六十億円でありますから、名目成長率を〇・三五%押し上げる効果しかありません。したがって、この試算によれば三兆円の公共投資をやってようやく成長率を一%引き上げることができるわけでありますから、公共投資追加をするならば最低三兆円の追加が必要だと、こういうふうに申し上げたいわけであります。三兆円の追加といいますと、そんな金はないとおっしゃるかもしれませんが、私は次のような方法で十分可能だと考えております。  第一は、財政投融資計画公共事業実施機関事業費を一兆円思い切って追加し、第二には地方債を一兆円増発して地方単独事業をふやします。現在、金融は十分に緩んでおりますから、政府保証債地方債の消化に不安はありません。また国の公債依存度は二〇・二%でありますけれども。地方公債依存度は八・四%でありますから、地方債を多少増発しても財政運営に支障を来すことはありません。第三には、原油の値下がりと円高によって電力・ガス業界に発生いたします差益およそ一兆円を通産省の指導と監督のもとに設備投資に振り向けることであります。こうすれば合わせて三兆円の公共的投資追加は十分可能でありますから、内需拡大臨時異例措置として踏み切ってはどうかと提案したいわけです。  ただし、私は公共投資追加財源建設国債の増発に求めるのは反対であります。その理由は、冒頭にも述べましたような財政危機現状を踏まえますと、これ以上財政体質を悪化させてはならないと考えているからであります。建設国債といえども借金に変わりありませんし、我々の子供や孫たちにこれ以上借金を残すわけにはいかないからであります。国際的に見ましても、財政赤字削減していこうというのが各国共通の認識になっておりまして、財政体質を悪化させてまで拡張的な財政政策をとれという国はどこにもないことに留意すべきであろうと思います。  アメリカでは、第一期レーガン政権のもとで二千八百億ドル、これはただいまの為替レートで換算いたしますと約五十兆円になりますけれども、日本のお金に換算して五十兆円にも上る大減税国防費中心とした大盤振る舞いをした結果、今や双子の赤字に苦しみ、ドル切り下げを余儀なくされていることは御存じのとおりでありますが、このようなアメリカの轍を踏んではいけないと思うわけです。宴の後に何が残るのかをよくよく考えてみる必要があろうと思います。  さて、財政中期展望で示された将来の財源不足を一体どう乗り越えていくのか、これがこれからの課題になります。  中曽根総理は、六十二年度に行う税制抜本改正では増減収ゼロを目指すと言っております。しかし、増税なしでどうして財政再建ができるのか、私には理解できません。アメリカでも、同じ問題でレーガン政権と民主党との間で論争が行われておりますけれども、増税と言いますと国民の反発を買うので、政治家がこれをタブー視して、まじめな議論を避けたりあるいはできもしない原則論を振りかざす傾向がありますけれども、これでは進歩はありません。  私は、日本でも与党と野党が増税について腹をくくって議論をする、いや、しなければならない時期がもう来ていると考えております。もちろん、税制改正に当たっては、初めから増収策を意図した改正は適当ではありません。しかし、将来予想される国民負担増をどのような税制で支えていくのかということを考えるのが政治責任だと思います。特に今後の高齢化社会への移行を考えますと、国民がその能力に応じて広く負担を分かち合っていくという負担分任の思想を広めていくことが必要だろうと思いますので、国会は、いわゆる増税につきましても逃げ腰にならないで議論をしてほしいと思います。  自民党の村山調査会中間報告を見ますと、六十二年度の税制改正に当たっては、増減税同時同額実施という方式を主張しております。しかし、増税による増収分を丸々減税財源に振り当てたのでは、六十二年度で三兆四千三百億円にも上るという歳入不足は埋まりません。これを一体どうするのかという基本問題が残るわけであります。そこで私は、税制改正一つ目標財政再建にあるのだということをこの際正直に国民に説明する必要があるのではないかと思います。この点を詰めていきますと、増税なき財政再建は理想の姿なんだけれども、実は本当のところはできないんだという、この本音部分が次第に明らかになってくると思うんです。国会ではもっと本音議論をやってほしいと切望しておきましょう。  中曽根総理は、六十二年度に行う税制抜本改正に当たっては、公平、公正、簡素、選択、活力の五原則を理念として取り組むと言っておりますが、この中で一番大事なことは公平の原則を貫くということだと思います。日本国民所得に対する租税負担率は国際的に見て低いのに、多くの勤労者重税感を持っております。これは所得税累進度がきついという税率構造にも問題がありますけれども、やはり公平感が薄いからだと思います。例えば政府税制調査会は、昨年の答申におきまして、社会保険診療報酬に対する事業税非課税特例措置を直ちにやめるよう答申しましたが、廃止は結局見送られました。なぜ医師だけをかくも優遇しなければならないのか理解に苦しむところであります。これはほんの一例にすぎませんけれども、税制改正に当たっては、まずこうした不公平の是正から手をつけなければならないと思います。  私が主張する公平という概念は、税引き後の所得を等しくせよと言っているのではありません。ですから、税金は金持ちから取ればいいという考えは間違いであります。公平とは、同じ所得を得た者あるいは等しい経済状態にある者には税制上の取り扱いを等しくするということなんです。ですから医者だけを優遇するのは間違いであります。このようなわかり切ったことが直せないならば、税制に対する国民の信頼は崩れ、不満はいつまでたっても解消しないだろうと思います。  次に、税制改正に当たっての私見を二、三申し上げてみたいと思います。  私は、この現行の直接税中心主義税体系では将来必要な税収は貯えませんし、また直接税偏重税制国民重税感を助長している面もあると思います。したがって、今後の税制改正に当たりましては、所得、資産、消費にわたってバランスのとれた税制をつくる必要があり、その過程直間比率見直しは避けて通れないと考えております。私は、これだけの財政危機を乗り越えて財政対応力を回復するためには、課税ベースの広い大型間接税導入する以外にはなかろうと思います。  現在の我が国間接税制度は、物品税や酒税といった個別消費税中心とした体系になっておりますけれども、例えば最近の経済ソフト化あるいはサービス化の進展にもかかわらず、サービス原則として課税対象から漏れているといった欠陥を持っておりまして、既に時代おくれになっていると思います。課税ベースの広い間接税は大きな税収ポテンシャルを持っておりますから、これを導入すれば、赤字国債に依存することなく所得税法人税大幅減税を行うことができる展望が開けてまいります。そして、所得税におけるクロヨン現象の結果として課税漏れになった所得に対して消費の段階で課税することができますから、不公平の是正にも役立つはずであります。また制度の立て方によりましては、直接税の分野における脱税の防止にも役立つのではないかと思います。  もっとも、大型間接税に対しましては、これが導入されますと仕入れや売り上げなど取引の中身がすべて税務当局に把握されてしまう、その結果所得税法人税の計算までが透明になってしまうという恐怖感が一部に根強くありますので、納税者が安心してこの税を受け入れるような仕組みを工夫しなければならないことは言うまでもありません。広く納税者に受け入れられるためには、税負担が必ず確実に最終消費者へ転嫁できる仕組みにする必要があり、また税負担逆進性を防止するために、食料品医療サービスなど基礎的な生活物資サービス課税対象から除外する必要がありましょう。  ただ、税体系を抜本的に改正し新税を創設することに対しましては、さまざまな社会的な抵抗が予想されます。私は、六十二年度の税制改正に当たっては、マル優制度廃止して一律分離課税導入し、これで得た財源を丸々所得税法人税及び相続税減税財源に充て、他方、大型間接税導入による増収分国債費などの財政再建資金に充てたらよいと考えております。もし非課税貯蓄制度廃止大型間接税導入を同時に行うことが政治的に無理だというのであれば、まず非課税貯蓄制度廃止だけを先行させ、大型間接税は十分な準備期間を置いて六十三年度以降に導入するといった方法一つ方法ではなかろうかと考えております。要するに、大型間接税導入を柱とした直間比率見直しに着手しなければ、現実に財政再建展望は開けないんではないかというのが私の意見であります。  次に、所得税改正に当たりましては、最高税率現行の七〇%から五〇%程度に引き下げる必要があると思います。現在、地方税を含めた最高限界税率は八八%、実際には賦課制限がありますので七八%となっておりますが、日本と同様に直接税偏重の税体系をとっているアメリカでさえ地方税を加えた最高税率は五五%ですから、日本は明らかに高過ぎます。所得税の実効税率で見ますと、年収四千五百十二万円以上の人は世界で最も高い税金を払っているということになっておりますが、最高税率はほどほどに引き下げて、税率区分も現行の十五段階の刻みからイギリス並みの六段階くらいに改めて、累進度を緩和する必要があると思います。これに関連いたしまして、最低税率は現在一〇・五%となっておりますが、政府税制調査会は五十九年度の改正に当たってアメリカと同じ一一%に引き上げるよう答申した経緯がありますので、一一%ないし一二%に引き上げてもよいんではなかろうかと思います。  シャウプ税制のターゲットは貧しい人々でございましたけれども、今の日本は多くの人々が中流意識を持ち、極端な貧富の差もなくなっておりますので、所得の低い人たちにも応分の負担を求めてしかるべきだろうと思います。税率調整を行う場合には、当然課税最低限の見直しも行う必要が出てまいりますが、日本所得税の課税最低限は、夫婦と子供二人の給与所得者の場合で二百三十五万七千円となっておりまして、主要先進国の中では一番高くなっております。したがって、課税最低限を大幅に引き上げる余地は少ないんではなかろうかと思います。  なお、所得税改正に当たりましては、このほか課税単位をどうするかという問題がございます。現在、我が国では稼得者単位課税となっておりますが、最近これを夫婦単位にして、アメリカのような二分二乗方式を採用してはどうかという意見が出ております。しかし、二分二乗方式を採用いたしますと高額所得者ほど有利になるとか、あるいは共稼ぎ世帯が不利になるといった問題点が出てまいりますので、二分二乗方式を採用するよりは、配偶者控除を引き上げるとかあるいは専業主婦向けの特別控除制度を設ける方が、私は現実的なんではなかろうかと考えております。実は、政府税制調査会の第二特別部会が昨日開かれまして、この問題を議論したのでございますが、大勢的な意見はそのような意見であったということを御報告しておきたいと思います。  次に、法人税でありますが、我が国法人税の実効税率は五二・九%で、主要先進国の中では西ドイツに続いて高くなっております。したがって、さしあたり一・三%の臨時増徴分を廃止して、表面税率を四二%に戻すべきだと思います。アメリカレーガン大統領税制改正案では、現行の五段階最高四六%の基本税率を四段階最高三三%に引き下げる案が提案されておりますけれども、日本でも租税特別措置の抜本的整理を条件に、基本税率をできれば四〇%程度まで引き下げてよいのではないかと思います。いずれにしても、この法人税の税率問題は、政策税制の整理とワンパッケージにして税率の引き下げを図るべきだと思います。  最後に、個々の税目の見直しをこれから進めていかなければならなくなるわけでございますけれども、その際の統一的な視点をどこに求めるべきかという点について、一言付言しておきます。  今回のこの税制改正が満たすべき要請は、将来の高齢化社会への移行に対応して、十年あるいは二十年と長期にわたって耐え得る税制でなければならぬということです。一年、二年でまた変えていくということではいけないだろうと思います。そしてもう一つは、何と申しましても財政再建に役立つ改革でなければならないと思います。しかし、そうした税制を構築するためには、第一に負担の公平を期し国民の信頼を得ることが何よりも大切であります。そして第二には、経済活動にゆがみを与えたり民間の活力を阻害するものであっては絶対にならないということであります。要するに、私の言いたいのは無理があってはいけないということでありますから、国民の理解と同意を得つつ税制の改革を進めていってもらいたい、このように考えるわけでございます。  以上で私の公述を終わります。
  4. 安田隆明

    委員長安田隆明君) どうもありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  5. 粕谷照美

    ○粕谷照美君 ただいまは大変有益な御意見をありがとうございました。  今の御意見の中で、円高は相当長期間にわたって続くのではないか、そしてその理由を五点ほど挙げられました。時間の関係で短縮をされたということもございますので、その面をもう少し補足をしていただきたいという意味も込めまして、最初に円高が行き過ぎではないだろうか、今の時点でこのことの参考人の御意見を伺いたいと思うのです。  それで、参考人も随分地方を回っていらっしゃるようでありますので、その実態は十分に御存じだと思いますけれども、経企庁の調査報告を見ましても、輸出型産地、特に中小企業への打撃が非常に大きくて倒産がふえているわけであります。この円高不況がどちらかといいますと地方ないし地方経済に与える影響が大きいわけでございますが、廣瀬参考人はこの円高不況にどのような対策を実施したらいいか、この点についてまず最初にお伺いいたします。
  6. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 今の円相場の水準、大体一ドル百八十円を中心にいたしまして小刻みに変動しているわけでございまして、この水準は行き過ぎているのではないかという御指摘でございますが、私もそのとおりだと思っております。ただ、その行き過ぎているか適正かという判断基準をどこに求めるかという尺度が問題になりますけれども、極端なことを申し上げますと、要するに、どこまで耐えられるかということは個別企業によって全部違うわけでございます。  しかしながら、一ドル百八十円というような今日のこの相場水準のもとでは、例えば日本で最も競争力が強いとされるトヨタ自動車ですらも大幅な減益にならざるを得ない。あるいは富士通のような会社の減益幅が六五%である。きょうの新聞にも報道されておりますが、東芝の減益幅は四五%、つまりもうけが半分に少なくなるというような状況。日本の超一流企業というようなビッグビジネスでさえもとにかく利益が激減するというような状況でございますから、その末端の中小企業とか零細企業というのはもう軒並みに赤字にさらされる。こういうことでございまして、いろいろ議論がございますが、私は日本の産業が一方で相当な合理化努力をするということを前提に考えましても、大体耐えられる限界は一ドル二百円程度ではなかろうかと思います。そういうところから見ますと、今の一ドル百八十円はもう明らかに行き過ぎであります。  したがって、これを何とか是正したいところでございますけれども、為替相場ばかりは一方、つまり日本だけではどうにもならないことでございまして、特にアメリカ経済日本経済との兼ね合いというものを考えますと、残念ですけれども、これからも当分の間円高基調で推移する、先ほどは申し上げませんでしたけれども、前回の五十三年のときの高値が百七十五円五十銭という相場が出ておりますが、恐らく百七十五円を超える局面もあり得るんではなかろうかと、私はそういうふうに考えております。いずれにしても変動相場ですから、そのときどきのいろんな条件、これは経済的条件だけではないので、この世の中の森羅万象ごとごとく織り込まれていくわけでございますけれども、恐らく一ドル百七十五円から百八十円ぐらいの幅の中で動いていく可能性がある、これは日本の産業界にとって耐えがたい、しかも輸出依存度の高い中小企業に対しては破壊的な影響を与える可能性が十分あると私は見ております。  そして、第二の御質問になりますが、その影響をどう見るかということでありますが、実は、政府がつくっております政府経済見通しによりますと、六十一年度の輸出は、円の手取力で見まして三十七兆五千億円になる、前年度に比べて二兆六千億円減る、その減少率は六・五%であると書いてございます。しかしながら、これは一ドル二百四円を前提にして試算したものでありますから、こんなものではとても済まぬ。目の子算でございますが、私は、この百七十五円から百八十円というような為替レートが続いていけば、恐らく円ベースで見て五兆円近い輸出の落ち込みが起こり得るというふうに考えております。そして現実に、先生方もよく御存じだと思いますが、どこの県へ行きましても輸出型産地というものが形成されておりますが、ほとんどとにかく輸出成約が今ストップした状況でございます。要するに、もう輸出が減るなんという問題じゃなくて、完全に商談ができないというような状況でございます。ですから、恐らく統計面にはおくれて出てきますから、例えば信用状統計のような先行指標でもなかなかっかみにくいのでございますが、あと二、三カ月したら日本輸出が激減するという局面が私は来るんではなかろうかと非常に憂慮しているわけでございます。  そこで三番目の、そのような事態に対して一体どうしたらいいかという御質問でございます。  いずれにしても、この対応を早急に考えなきゃいけないわけでございます。少なくとも需要を構成するものは輸出だけではございませんで、例えば民間の設備投資あるいは個人消費あるいは財政支出とかいろいろございますけれども、輸出の落ち込みを最低限何かで埋めていくという努力が必要なわけでございます。それで実は大変に困った問題は、輸出の落ち込みによって一挙に不景気になってしまう。そうしますと、当然企業の投資意欲が著しく減退するわけであります。もう既に、トヨタ自動車のような企業が予定していた設備投資を三百億円も減額するという方針を決めました。御存じのとおり、例えばトヨタという核が設備投資を下方修正いたしますと、そのトヨタの系列にあります、あるいは周りにあります日本電装以下の同じ系列企業が一斉に同じように設備投資を減額するわけでございます。  ですから、設備投資につきましても政府経済見通しては六十一年度の設備投資伸びを七・五%と見ておりますが、私はこんな高い伸びにはならないだろうと思います。つまりよくてせいぜい三%くらい、電力の設備投資を除けばほとんどゼロもしくは若干のマイナスになる。そうしますと、双発のニンジンの飛行機を考えていただけばわかりいいかと思いますけれども、要するに輸出というエンジンと設備投資というエンジンがうまく回らなくなるということになりますと、この飛行機は失速する危険性があるということでございます。  ですから、輸出の落ち込みと設備投資の落ち込みを何かの需要で埋めるという方策が必要になってくるわけです。何で埋めるかということでありますが、昔ですと公共投資を思い切って積み増すということをやるわけでございますが、財政状況については先ほど細かく申し上げたとおりでございますので、私は一般会計の負担をふやす形では政府もなかなか踏み切りにくいだろうと思います。ですから、その代案として先ほど私は具体的な提案を申し上げたわけですが、一つ財政投融資の積極的活用、もう一つ地方の単独事業を充実する。  私の体験から申しますと、地方へ行きますと、市役所だけはもう宮殿のような市役所が田んぼの中にでき上がっておりますが、そこに住む住民はどういう状況にあるかといいますと、ちょっと大雨が降りますと浸水してしまうとか、下水道は全く完備していないとかというような状況でございまして、これはもう逆じゃなかろうかと思いますが、地方で住民福祉を向上する意味でやるべき仕事はたくさんあるわけでございますから、それを大いにやってもらう。国は国、地方地方という形ではなくて、こういう事態のもとでは地方自治体も景気対策に対して一翼を担うということがぜひ必要なんじゃなかろうか。それに、とにかくこの円高によって利益が出るところがあるわけですから、一方では円高によって泣いている、相当倒産も出るだろうと思います。それを平準化するためには、かなりの差益が生ずる電力、ガスにこれを緩和する役割を担ってもらうというのは当然のことではなかろうかと私は考えているわけであります。  それから、もう一点は、金融政策でという考え方が出てくるわけでございますが、現に日銀は先月の三十日から公定歩合を〇・五%下げました。しかし、経済企画庁が試算しておりますように、公定歩合の〇・五%の引き下げでは対GNP効果はわずかに成長率を〇・一%しか上げる力がない。ですから、ほとんど影響がないということでございます。恐らく三月の末ごろに公定歩合の再度の引き下げということになろうかと思いますけれども、金融が詰まっているとき、そして資金需要があるときに金利を下げると有効なんでございますが、今のように金融がだぶだぶのときに金利を多少下げましても、産業界自体が投資意欲を失なっておりますから、例えば、長期金利を今度のように〇・三%ぐらい下げてみても投資はそれによって刺激されないということでございます。  金融政策の有効性が昔と比べてかなり落ちているということでございまして、財政の方に力がないものですから金融の出番だ、頑張ってくれということになるんですけれども、どうもこれだけでは不十分だ。つまり公定歩合の引き下げだけでこの円高デフレを乗り越えるということは難しい。したがって、先ほど申しましたような公共投資の三兆円規模の追加がぜひ必要だと、こういうふうに申し上げたわけでございます。
  7. 粕谷照美

    ○粕谷照美君 どうもありがとうございました。  私の持ち時間が五十八分までですので、もう一点だけ質問をいたします。  きょうの新聞に、急激な円高対策として、中小企業向けの特別融資などの対策がガットで禁止されている輸出補助金の疑いがあるとアメリカのヤイター通商代表からクレームがついていることが大きく報道をされております。もともとこの法律は国会も絡んでいるわけですね。G5以降の円高対策として練られていて、ことしに入って円高が一段と進行したことから法案化を急いで、そしてスピード審議で二十五日から施行ということになっているわけであります。カットに通産省も通告をして受けて立つという方針を出したようでありますけれども、アメリカ側が言うには、G5での通貨調整策の効果も減殺をする、こういうことを言っているわけでありますが、これに対する参考人の御意見をお伺いいたします。
  8. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 私は、その報道を実は確認しておりませんので、ヤイター通商代表がどういう意味でそういうことを言っているのかわかりませんけれども、円高の進行に伴って、日本国内でかつてないんですから、これほどの短期間に急激かつ大幅に、三五%近く円が切り上がるということはないんですけれども、それに伴ういろんな摩擦に対して国内的措置をとることがどうしてガット違反になるんでしょうか。むしろこちらから聞きたいくらいでございまして、これはアメリカの言っていることが恐らくおかしいのだと思います。アメリカにもいろんなことを言う人がおりますけれども、余り気にしない方がいいのじゃないかという感じがいたしますし、当然そういう間違った議論に対しては外交チャネルを使いまして堂堂と反論していったらよろしいのだと思います。  実は私、よくその中身を見ておりませんので、十分なお答えができないので恐縮でございます。
  9. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 私は、廣瀬参考人の「新しい成長への課題日本経済のあすをみつめて—」という論文も読ませていただきましたけれども、その論文の中で、日本はこれまで世界の自由貿易体制を最大限に利用し今日の地位を築いてきた。しかし、今日ではその自由貿易体制そのものが欧米の対日非難の大合唱や、各国における保護主義の高まり等に見られるように、戦後最大の試練に直面していると、このように述べられております。  ところが、一方では、今日の自由主義経済下ではどこがどれだけの貿易黒字になっても決しておかしくない、統制経済でない限りそれをコントロールのしようがない、また内需拡大輸入増加で貿易のインバランスを是正しようとしても、戦後の物不足時代の日本であればいざ知らず、すべてが事足りている今の日本ではそれはもう不可能だと、こういったような経団連のいわゆる稲山論法もあるようでございます。  確かにそうかもしれませんけれども、そうばかりも言っていられないし、さりとてこうすればいいという即効性のある切り札もないのが現実ですが、その中で、このアンバランスの調整を相互の産業構造を類似させるということによって解決の方途を見出そうとしております。すなわち、現在の米国国内産業の空洞化に対して日本の自動車、家電等をアメリカに移転し、逆にアメリカで発展しているハイテクだとか情報サービス日本に移転してくる、このような産業移転はことしあたりから非常に本格化していくようなふうにも思われますけれども、そういうことになると我が国の第三次産業の部門は、これはもういや応なしに抜本的な再構築の段階に入るというように思われますけれども、その辺の見通しと、アンバランス調整に対するその寄与度をどのように見られるのか。それとこれに伴って考えられるリスクというものがあれば、その辺もお尋ねしたいと思います。  それと、ただいまもいろいろ論議が交わされました円高及び原油価格の下落についてお尋ねしますけれども、円高について我が国は過去二回の経験がございます。二回の円高の時期がありましたけれども、この二回とも円高デフレを懸念されながらも、景気はむしろインフレを加速しつつ上昇に向かったと思います。  その理由としては、円高がデフレの底で生じたこと、あるいは財政金融政策景気の拡大に積極的に働く体制をとり得たこと、あるいはまた、同時に世界の為替市場が不完全ながらも裁定機能を持っていたこと、それと石油価格上昇のインフレの進展でデフレ効果が吸収されたことといったようなことが挙げられるんじゃないかと思います。  ところが、今回は過去二回の円高とは異なって、円高と石油価格の下落ということでありまして、しかもそれが世界的なデフレの中で生じておるという、そういう違いがあるかと思います。そのために、ことしの経済の動向についていろいろ取りざたされているようでございますが、すなわち円高、石油価格の下落の利益によって素材部門ではもうかなり厳しい試練を迎えるであろうけれども、しかし、その川下の加工部門は予想外に高収益を持続できるんじゃないかとか、あるいはまた、特に石油価格では国際競争力を回復することができるんじゃないか、こういうような楽観論もあるようですけれども、この辺の見通しについてお尋ねいたします。
  10. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 第一の日米間の産業調整問題につきまして、私はこうなるであろうという確信を持ったお答えができません。実は、これは非常に大きな問題でございまして、今、中曽根総理大臣のもとで前の日銀総裁の前川さんを座長に研究しております研究会で、まさにこの問題を検討しているわけでございます。  ただ、私のまとまった考えではございませんけれども、世界のマーケットというのは単一市場の方向に動いている。具体的に言えば、人と物と金を含めた国際間の移動というものが完全に自由になってきておりまして、経済的な国境というものはなくなりつつあるということでございまして、この流れは、今日のガット並びにIMF体制というものが否定されない限り方向としては変わらないだろうと思います。  そうなりますと、世界が単一市場になるということになりますと、強いものが勝つわけでございます。そこにいろんな摩擦現象が起きるわけでございまして、現実に、例えば自動車問題を見ましても、年間輸出量を二百三十万台に抑える、この自主規制措置というものをさらにまた延長していかなければならぬ、こういうことになるわけでございますが、その場合に、実はもう日本でつくった物を持ち込むということがなかなか難しくなるものですから、現に向こうへ行って生産をやるということになりますと、恐らくそれに関連するいろんな部品会社までが対米進出をするということになるわけですが実は、初めは州によって大分違いまして、例えばアメリカのオハイオ州あたりですと、本田なら本田技研とそれから本田の系列下にあるいろんな部品会社が入ってきて、そしてアメリカでいろんな物をつくるということを初期段階では実は歓迎しておったのでございます。私もその調査に行ったことがありますが、それは雇用の吸収に役立つというふうに歓迎しておったのですが、今はどうもちょっと変わってきているようでございまして、そういう状態がどんどん進んでいきますと、むしろ先生御指摘の空洞化現象というか、そういうものをかえって拡大していく危険性があるということで余り歓迎しないという空気に変わってきておりますので、なかなか産業調整問題というのは難しいなという感じを私は持っております。  ただ、御承知のとおり、日本世界一の金持ちになってきておりまして、とにかく長期資本収支で見まして年間五百億ドルを上回る金が海外に出ているわけでございまして、この貯蓄超過が続く限り海外投資をしていかなければならぬ。また国際的に見ると、その要請を強く受けて日本はそういう責任も負っていかなきゃならぬということを考えますと、日本の企業の進出をなかなかとめるというわけにはいかないというふうに考えられるわけです。しかし、日本からどんどん企業が進出していきますと、現実に今度は新たに貿易摩擦と同じような摩擦問題が持ち上がるということでございますが、そこをどうやってうまく調整していったらいいかというのがなかなか難しいところだろうと思います。  全体として、例えば日本の企業がアメリカに出て行って仕事をするということがアメリカ経済にとって、抽象的ですけれどもマイナスになるということは私はあり得ないと思うのです。ですから、摩擦防止のためには、例えば日本側が現地法人をつくってやるという姿よりは、あるいは合弁方式をやるとかいろんな解決方式はあるのですけれども、それぞれの業態に応じて、あるいはその地域によって違いますから、多様な方式を駆使する必要があろうと思いますが、どういう姿でこの日米間の産業調整をやっていったらいいか、私はまだ考えが固まっていないという状況でございます。  それから、二番目の御質問は、過去にも円高不況を乗り越えた経験があるということでございますが、何せ五十三年に私どもが経験した円高というのは一時的なものでございましたから、今度は一時的なものではない、極めて長期的なものであるというふうに覚悟しなければならない。そうしますと、当然影響も違ってくるわけでございます。  その際に、一方で確かに円高が進んで輸出産業を中心に相当打撃を受けるが、一方で原油価格が下がったじゃないか、このメリットがあるんじゃないかということで、政府、日銀はデメリットばかりを拾わないで、こっちのメリットの方も勘定してくださいよということをおっしゃるのですが、現実に原油が下がるメリットがないわけじゃない。ただ、私はそれが特定の企業、特定の業界の中で遮断されるということがあろうと思います。つまり円高のメリットもそうですが、原油値下がりのメリットがある段階で遮断されて最終製品にほとんど及ばない、そういうメカニズムになっているということであります。  だから、円高になったら間違いなく最終製品が下がるのだ、あるいは原油が下がったらもうたちどころに最終製品が下がるというメカニズムが正常に働くことを前提にすれば、さっき言った議論が通るのです。きのう、こちらの委員会で出たそうですけれども、スコッチウイスキーを見ましても、ジョニ黒なんというのはいつまでたっても一万円でございまして、全く変化がないわけでございますので、むしろこういうものの国民運動と申しますか、円高原油価格の低下のメリットを最大限に生かそうじゃないかという、これはやっぱり私は大きな経済政策になると思います。差益が出るけれどもどうも差益がどこかへ消えてしまう、不透明だということで、この市場の不透明性というのは何らかの形で打開していく必要があるんじゃないかという感じがしているわけです。  それから、原油価格の低落、暴落と言ってもいいと思いますが、そのメリットは確かにあるのです。今言ったように、一つの問題点は、特定の企業、特定の業界、団体にたまってしまって、それが最終過程まで波及してこない、遮断されているという一つの大きな問題点がある。もう一つは、原油が下がることがすべて結構かというと、マイナスの効果もあるわけでございまして、油というものが過去十年来といいますか、四十八年の石油ショック以来そうですけれども、世界国際商品相場の真ん中に座っていたものですから、その原油が急落をしたものですから全部国際商品相場が大暴落を今しているわけでございます。  金、銀、白金、非鉄金属、これは調べてみますと、金は一グラム大体二千円ちょっとです。高値は六千四百五十円までいったわけですから、三分の一ぐらいに落ちてしまっている。銀は七年ぶりの安値でございます。銅は二十一年半ぶりの安値でございます。すずは史上最低でございます。何でもそうです。しかも農産物もそうですね。大豆なんかも十年来の安値。世界の中で上がっている物というのはコーヒーしかないというふうな状況でございまして、これはやはり全体として特に発展途上国に重大な圧力をかけているわけでございます。要するに、世界の百七十の国の中で先進国は二十四、五しかないわけでして、あとはほとんどが中進国もしくは発展途上国で、そういう国々が石油を中心とした一次産品市況の大暴落によって非常に大きな打撃を受けて、彼らの輸入力が落ちているわけでして、これがやっぱりはね返ってくるということが一つ。  それからもう一つは、累積債務問題というのがございまして、これは今のところ小康状態を保っております。しかしながら、メキシコを見ましてもあるいはフィリピンを見ましても、これから大きな問題になってくるだろうと思いますので、確かに原油価格が下がっていくプラスの面はあるんですが、マイナスの効果もあって、やはり卸売物価が下がり過ぎだと私は思います。それだけ卸売物価が大暴落すると、軒並みにいまだかつてないような値下がりが起こるということになりますと、それだけ売り上げが縮小し、したがって利益も飛んでしまうわけでございまして、例えば鉄鋼なんかを見ましても、建築用の丸棒が今や四万三千円くらいでございまして、もうどうにもならないというような状況でございます。新日鐵の平均操業率が今六〇%でございまして、四割はとまっているという、したがって中小の電炉メーカーなんというのは実に深刻な状況でございますので、これもやっぱり国際商品相場暴落の影響が出ているわけでございますので、原油だけ下がってそのメリットを計算するのも結構なんですが、それに付随した問題が起こるということが問題じゃないか。  今回の円高不況というものは原油価格の低落では吸収し切れない、私はそういうふうに見ているわけです。
  11. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 三点質問いたします。  まず、経済摩擦の日本側の要因についてでありますが、日本の産業構造が輸出優先型生産構造になっているんじゃないかという問題。例えば日本輸出の三割が上位十社、四割が上位二十社、五割が上位三十社で占められているわけで、ここに輸出急増が起きてきたということだと思うんですね。先ほど来お話しのとおり、円高の状況がこのまま進みますとまさに中小企業は壊滅的打撃で、しかも長期であるということになりますと、今申し上げたこの構造に一層の拍車がかかってくるんじゃないか、そのことの日本経済への影響であります。これが第一点。  それから第二点は、三兆円の追加投資の一つとして、電力、ガスの円高差益、これを一兆円投資の方へということですが、これは料金引き下げで還元せよ、その分はやめて投資へという意味なのかどうかですね。その点が第二点です。  それから第三点は、大蔵省の仮定計算によりまして一般の歳出伸びを五%と計算して、来年度が三兆九千億円の要調整額、年々ふえて、昭和六十五年には約七兆円の要調整額ですね。伸びをゼロにした場合に、六十五年にしてやっとゼロになるという、こういうことなんですが、先ほどの廣瀬参考人のお話でも、一般歳出GNP比率でも余り少なくなってはまずいということですから、やっぱり一定の伸びは考えなきゃいけませんですね、何%かは別として。一方、先ほどのお話では、マル優廃止減税へ、それから大型間接税国債発行減へということですが、しかし仮に大型間接税にしましてもこれはやっぱり要調整額を埋めるのに消えてしまうんではなかろうかと思うんですね。必ず出てきますから。しかも大蔵省の計算ではずっと国債残高がふえ続けてピークはわからない、昭和七十四年には約二百兆円にも達するというんですね。この傾向は先ほどの廣瀬参考人のようなお考えでも消えないんじゃないか、変わらないのじゃないかと思うんですが、以上お答えいただきたいと思います。
  12. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 御質問の第一点でありますが、日本が戦後一貫して輸出主導型の経済運営を続けてきたというのは御指摘のとおりだと思います。それは、資源を持たない日本一つ選択であったと思います。ですから私は、世界の自由貿易体制を日本が十二分に活用してきた、日本はそういう意味で世界一の波乗り名人であるというふうに考えておりまして、それは必ずしも悪いことではなかったということです。  ただ問題は、程度の問題でございまして、例えば日米間の貿易を見ましても、アメリカが去年一年間に千五百億ドル近い貿易赤字を出しましたが、そのうちのほぼ五百億ドルというものは対日貿易でつくられた赤字であるということになりますと、アメリカも黙ってはいないということであります。そして現に日本輸出一本で、輸出主導の経済運営をこれから続けていこうと仮に考えましても、もはやそれに対して国際的に待ったがかかってきたわけでございますから、当然今までのような政策を継続することはできない、これも事実でございますので、日本経済の進路を今、大きな転進を余儀なくされていることは事実です。ただ、そうは言ってもそう簡単にうまい施策がない。非常にとり得る選択肢が少ないということが悩みの種になっているわけでございますから、これからやろうと思ったってできないのでございますから、やはり輸出依存の経済運営は内需依存の経済運営に切りかえていかなければならないということは御指摘のとおりだと思います。  それから、第二の電力、ガスの為替差益の扱いでございますが、私はできれば全額設備投資に振り向けることが国家、国民のためになる、少なくとも国民経済的には有効だと考えております。私は、今日日本人が生み出すエネルギーを分散する方向は間違いでございまして、むしろ我々のエネルギーというものは統合をする方向に使うべきだと思います。経済政策もそういう方向が望ましいと思います。これだけの不景気で、現に中小企業とかあるいはそこに働く人々がみんな苦労しているわけでございますから、そういう人々が泣かないように一定の需要をつくるということは、非常に私は崇高なものなんだというふうに考えるわけでございまして、もうけが出たら全部分けちまえということで、仮に一人八百円とか千円配ってもコーヒー一、二杯、ビールを何杯か飲んだら終わりということば余りにも悲しいじゃないかと私は思うわけでございまして、できればまとめて設備投資に振り向けた方がいい、こういう考え方であります。  それから、三番目の御質問は、大型間接税導入してもなかなか財政赤字が消えないのじゃないかという御質問でございますが、これはやり方だというふうに思います。なるほど国債発行残高というのは累増していきまして、たしか七十三年になりますと発行残高は百九十三兆でしたか、二百兆近くに膨れていくわけですが、じゃ残高が二百兆近くに膨れるから国債費は年間二十兆ぐらい要るかといいますとそうではなしに、大体十二兆ぐらいで頭を打つということになるわけでして、借りかえ借りかえでいきまして、その間に何といいますか、金利が下がってくるという、そういう計算をいたしますと、無限にふえるわけじゃございませんから、時間はかかっても必ず赤字は解消できるはずでございます。問題は、これを短期間に実現しようとするか、あるいはかなり時間をかけてゆっくりいくかというのはそれこそ国民選択だろう、かように考えております。
  13. 井上計

    ○井上計君 大変有益なお話をお聞かせをいただきましてありがとうございます。時間が限られておりますから数点に絞ってお尋ねをいたしたい、こう思います。  税制の問題でございますけれども、先ほど参考人のお話の中で、不公平税制見直しということについてかなり力点が置かれました。その一つ、医師優遇税制見直しについてのお話をいただきましたが、これについての私の意見は差し控えますが、あわせてお伺いいたしたいのは、学校法人あるいは宗教法人等に対する優遇税制が現在行われておるわけで、かなり問題化されつつありますけれども、それについてどのような御意見をお持ちでありますかどうか、お差し支えなければまずお伺いをいたしたい、これが第一点です。  第二点は、マル優の非課税撤廃についてのお話がございました。マル優の問題等についてはいろんな論議がありますし、マル優制度廃止することについても、またこれが当然だという論議もあります。しかし現実には、やはり政治の場としてなかなか困難であるということは、これは事実であるわけであります。  そこで、私の個人的な意見、数年前から私言っておるわけでありますが、一応金融機関の利子支払いの窓口で全部課税をする。分離課税。その場合、郵貯の問題もありますけれども、全部課税をして、そうして後マル優該当者については還付請求を行って還付するということであれば、不正なマル優貯蓄が排除できるんではなかろうか。同時にまた、現在、約二百五十兆円になんなんとしておる非課税貯蓄が完全掌握できるんではなかろうか、こんなふうに考えておりますが、その方法と先生言われたマル優の制度の撤廃ということについてどういうお考えでございましょうか、お伺いいたします。  それから、税の第三番目でありますけれども、民間の活力をさらに増進をする政策をとっていかなくちゃなりません。しかし、最近は財源不足を理由に受益者負担という形、そのための目的税の創設が随分と行われております。そのあらわれとして、六十二年度の税制改革といいますか、増収政策として昨年来大分論議されましたのが建設省の河川工事のための流水占用料、それからもう一つは農水省の水源税という問題があります。これらの問題を私ども大変反対をいたしましたのは、これによってさらに民間活力が阻害される、このようないわば受益者負担という形で事実上の増税を行うことはよろしくない、こういう反対をいたしました。これについては現在見送りをされておる形でありますが、再び六十二年度の問題として再燃をする可能性があるんではなかろうか、こう考えますが、このような受益者負担という考え方の目的税の創設についてどのようなお考えでありますか、お伺いしたいと思います。  それから、税制のもう一点は、民間投資の拡大についてでありますけれども、現在、我が国の機械等の法定耐用年数がアメリカあるいはEC等に比べまして、アメリカも数年前大幅な短縮をいたしました。我が国ではまだ平均しますと大体十年あるいは十一年が法定耐用年数でありますけれども、現在の技術革新の時代に、あるいはまた内需拡大等々考え、民間投資の促進を考えますときに余りにもこれは長過ぎる、財源がないというふうな理由だけで、このような古い法定耐用年数がこのまま存続しているところにまた大きな問題がある、こう考えておりますが、これらについてどうお考えでありますか、お伺いをいたします。  それから、恐縮ですが、もう一点。これは税の問題と違いますけれども、貿易摩擦の問題等々につきましてでありますが、先ほど先生は従来の輸出依存から内需依存に政策転換をすべきというお話であります。これは当然でもっともだと思いますが、しかし現実に、現在の輸出企業、特に輸出中小企業が内需に転換することが果たして可能かどうかという国内市場の問題があるわけですね、これについて私どもも輸出産地あるいは輸出中小企業の実態をいろいろ調査をし、話し合いをしております。  そこで、私、個人的に得た感触としては、先ほど二百円をさらに上回れば壊滅的な打撃をこうむる、こういう先生のお話でありましたが、仮に百九十円あるいは百八十五円でもいいかと思いますが、百八十五円でなお輸出ができ得る企業体質をつくる努力と内需に転換をして国内市場に新規参入する体制をつくる努力とどちらが容易かということを考えますと、私は、むしろ内需に新規参入する努力よりも百八十五円程度ならこれにまだ対応できる体質をつくる努力の方が中小企業にとって容易である、こういう感触を得ておりますけれども、これらについてどうお考えでありましょうか。  同時に、貿易摩擦を解消するためには何といっても大幅な黒字を解消しなくちゃいけませんが、あるエコノミストのつい最近の話を聞いたわけでありますけれども、現在のような状態を考えるときに、仮に石油は今後大体二十ドル程度になったと仮定をしても、やはり大幅な黒字を解消するのには百七十円でもだめだ、百六十円になってようやく日本国際収支は、貿易収支は百億ドル程度黒字になるであろう、だからレートだけ考えた場合には百七十五円でも百七十円でもだめだと、こういうお話を聞いておりますけれども、それにつきましてもどうお考えでありましょうか。若干時間を経過しましたが、以上、ひとつお伺いをいたします。
  14. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 第一の不公平税制是正に関連いたしまして、学校法人、宗教法人に対する優遇措置見直してはどうかという御意見でございますが、私も賛成でございます。これらに対しましては、収益事業につきましてはもう課税をしているという面があるわけでございますが、より一層の見直しが必要であるということでございます。やはり税制改革というのは聖域を設けちゃいかぬということだと思います。ここは手をつけないんだということがありますと、国民税制に対する信頼というものはやっぱり損なわれるわけでございますから、全部一遍まないたの上にのせてみて、公平の原則に従って措置を考えるというのが私は原則だろうと思います。  それから、二番目のマル優の問題でございましたが、ちょっと世上議論が混乱しているところがあるかなと私思いますのは、マル優を存続した上で低率分離課税をしよう、こういう有力な案がございます。それは例えば、現在ですと一人三百万円までという限度管理をきちっとして存続するけれども、しかしその預金についても、今は免税になっているが、例えば一〇%なら一〇%その利子から税金をいただこう、免税預金から減税預金へという考えがこれでございます。もう一つは、そんなことをやっても第一限度管理ができるか、しかも国税庁の検査が時々金融機関にばあっと入ってきて莫大な金を吸い上げられるというのは困ったものだ、したがってそういうややっこしい制度は置かないで、この際目をつぶってマル優というのは廃止してしまう、そして一律分離課税、金持ちもそうでない人も二〇%なら二〇%という税率で利子課税をした方がいっそすっきりしているじゃないか、こういう考え方が有力な意見としてございまして、金融界でも都市銀行を除けばすべての金融機関がこれでもはや一致してきているわけです。  問題は、その場合に、そうすると郵便貯金はどうなるんだと。要するに、郵便貯金は青天井で預入限度がなくなるんじゃないかということで郵便貯金に対する競争上の恐怖感を持っておりますので、都市銀行だけはいや廃止は反対だと、こう言っているわけでございまして、どちらをとるか。私は先ほど言いましたように、いっそ廃止してしまって一律分離課税の方がすっきりするだろう、そして廃止したものをどうするかというと、全額所得税法人税相続税減税財源に振り当てる、この方がいいんじゃないかということを申し上げたわけでございます。  先生の御提案の、一たん銀行窓口で課税して還付させる、還付請求を受けて返すというお考えもこれは一考に値すると思いますが、この手続がこれだけの預金の口数が張るわけでございまして、全員が還付請求をするということは非常に手続上煩瑣な問題になりはしないかなという感じがいたします。  それから、建設省が考えております流水占用税とか水源税についてどうかということですが、私も反対でございまして、できるだけこういう目的税なようなものはつくらぬ方がいいということでございます。政府税制調査会の中でも、これを支持する意見は皆無に近かったというふうに申し上げておきたいと思います。  それから、四番目は耐用年数のお話でございました。今、法定耐用年数が十一年というお話でございますが、日本の全産業が持っている設備投資年齢が今平均して八年でございますから、おっしゃるとおり十一年は長過ぎるのでございます。できれば八年くらいに短縮すべきだと私は思います。ただ、実は法定耐用年数を短縮いたしますと、それだけ減税をするということに相なるわけですから、そのような方法がいいのかあるいは法人税の一律引き下げがいいのかということになろうかと思います。財源にゆとりがある時代ならば法人税の税率の引き下げと切り離して対処し得るかもしれませんが、限られた財源の中での選択ということになるとどうでございましょうか。いずれにしてもこの問題は法人税率の取り扱いと絡んで、私が先ほどワンパッケージと申しましたけれども、セットとして考えてみる大きな課題ではなかろうか。いずれにしても御指摘の問題、これは長過ぎることだけは確かでございまして、できれば短縮した方がよろしいということだと思います。  円高の問題でございますけれども、輸出がだめですから内需へかわれ、こう言っても、これから新規参入なんかできる余地はほとんどない、それはもう理想論だと、おっしゃるとおりだと思います。ですから、どちらかと言えば歯を食いしばって地べたをはい回るような努力をしつつ、例えば一ドル百八十円なら百八十円、百八十五円なら百八十五円というこの厳しいレートへの適応の道の方が案外対応しやすいかもしれません。ただし、その間にいろんな問題が起きますから、そういう中小企業などの努力を側面から支援するような政策的な措置が必要ではなかろうか、かように考えておるわけでございます。
  15. 青島幸男

    青島幸男君 先ほどから大変貴重な御意見を承っておりまして、ただお話どれ一つとりましても先々余り見通しが明るくなるというようなお話ではございませんで、五点もその具体的な例を挙げて、円高もこれがしばらくの期間定着するんではなかろうかというお話でございますし、五百億ドル対米輸出超過というようなことも経済摩擦の根源になっておりますし、どれをとりましても余り希望が持てるというお話ではございませんで、大変絶望的な気分になっているのです。  それで、国内の財政の立て直しに大型間税を認めるようなところまで踏ん切りをつけてもいいんじゃないかというお話もございましたですけれども、国内の財政の立て直しには、外部的な状況がこうですから、内需を喚起するという格好も一つ重要な方途だとも思います。しかし、大型間税というものを考えなければいけないほど日本財政は詰まってはおりますが、大型間税を採用するということが実は内需拡大の歯どめになってしまうんではないか。多少先々希望が持てるのであれば応分の負担に応ずるという国民の意思もあるやに考えられますけれども、それが大型間税の採用ということで水をかけてしまうような結果になりはしないかということを大変危惧しておるんです。限られた時間で御質問申し上げているので、この一点だけに限って御質問申し上げたいと思います。
  16. 廣瀬嘉夫

    参考人廣瀬嘉夫君) 大型間接税を採用いたしますと、当然物価が今よりは上昇圧力を受けるだろう。そうしますと、結局個人消費に影響が出て、むしろ内需拡大策と衝突するんではないかという御指摘でございました。大型間接税導入した場合に一体物価が上がるのか上がらないのかということは非常に大きな問題でございます。ただ、大型間接税導入する場合のまだ仕組みも決まっておりません。それから、やっぱり税率は要するに今のECがやっておりますようなそれぞれの取引段階に低いものを課して、しかもそれが最終的に必ず転嫁されるような仕組みということにすれば、それほどの物価上昇圧力がかかってこないんじゃないか。  それからもう一つ、当然のことですけれども、大型間接税導入する場合は今の物品税廃止するわけでございます。物品税を残してその上に大型間接税をやるということには相なりませんから、必ず物価が上がるということではない。もちろん、実施する場合のそのときどきの経済情勢とか、あるいはそのときの政府政策スタンスとかというものが非常に大事になってくるわけでございますが、便乗値上げは絶対に許さないというような歯どめをかけるとか、いろんな措置が必要になろうと思います。  私は、これはもう先生方も同じだと思いますが、何も増税を声高にやればいいという考え方じゃありませんが、ただこれだけの財政危機を克服するということを考え、かつ二十一世紀に向かってとにかく世界でも最高の高齢化社会に移行するということを考えますと、税の体系を今のままでいいという議論にはならぬでしょうと。いずれにしても、やっぱり広く間接税課税ベースの広いもので拾っていくというようなことをやらないと、最終的にこの財政危機のハードルは越えられないんじゃないでしょうか。ですから、今からそれを検討してみてはどうかということを申し上げたわけでございまして、避けて通れない課題なんじゃなかろうかというふうに思うわけでございまして、その過程の中でこういう全体の経済政策との整合性なり物価の問題なりというものを十分に煮詰めていく必要がある、こういうふうに考えております。
  17. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 以上で廣瀬参考人意見聴取は終了いたしました。  一言お礼申し上げます。  ただいまお述べいただきました貴重な御意見は、先刻申し上げましたとおり、今後の総予算審査参考にいたしてまいりたいと存じます。  本日は、大変お忙しい中、本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして重ねて厚くお礼を申し上げます。(拍手)  午後一時三十分まで休憩いたします。    午前十一時四十分休憩      —————・—————    午後一時三十一分開会
  18. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 予算委員会を再開いたします。  昭和六十一年度総予算三案を一括して議題といたし、午前に引き続き、中期展望に立った財政税制改革問題について、参考人意見を聴取いたします。  佐藤参考人に一言ごあいさつ申し上げます。  大変お忙しい中、貴重な時間をお割きいただき、本委員会のために御出席いただきましたことを厚くお礼を申し上げます。  本日は、忌憚のない御意見を承りまして今後の審査参考にしてまいりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただく要領で行いたいと存じます。  それでは、佐藤参考人にお願いいたします。
  19. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 昭和六十一年度総予算についての意見をということでございますが、第一といたしまして六十一年度予算の性格について、第二としまして国税、地方税改革の必要性について、第三に税制改革の具体的論点についてお話をすることにいたします。  昭和六十一年度予算は、例年に比べてスムーズに編成されたと言われておりますが、その基本的性格をあえて批判的な立場から申し上げますと、それは財政危機意識の欠如した予算であるというのが第一に挙げられます。  六十一年度の一般会計予算規模は五十四兆八百八十六億円で、前年比三%の伸び、そのうち地方交付税と国債費を除いた一般歳出伸び率ゼロないしマイナスであります。一般歳出伸び率ゼロは五十八年度以来四年続けてでありますが、この低い伸び率の中で対外的な要請による防衛費の増額、経済協力費の増額を果たし、また内需拡大という要請にこたえての公共事業量の確保を図ったと言われております。公共事業費は、後でも触れますように、一般会計ではマイナス二・三%でありますが、財政投融資対象事業と地方公共団体の公共事業をふやすことによってその量を確保ないし増額したという説明であります。また公共事業費削減は、民活事業の利用によって補うことができるという考え方のようでありますが、民活事業として掲げられている東京湾横断道路など、十分な成果を上げられるかどうか疑問とされております。民活頼り、地方頼りといった公共事業の総量の確保で果たして内需拡大と貿易不均衡の是正という課題にこたえられるのかどうか疑問であります。  財政危機意識の欠如は、国債発行漸減による財政再建が遅々としてしか進んでいないことにも示されております。六十一年度予算では国債発行額が前年度より七千三百四十億円削減され、国債依存度も一般会計予算の上で二二・二%から二〇・二%へ減らすことができております。赤字国債削減額は四千八百億円で、六十五年度までに赤字国債をゼロにするためには今後毎年一兆三千億円余の減額を行わなければならないわけですが、それが可能かどうか。それから、六十年度補正予算で既に四千五十億円という大きな税収欠陥があらわれ、これを同額の赤字国債増発で手当てしたことを思い合わせますと、六十一年度に想定されている税収予算も十分確保できるのかどうか心配であります。六十一年度の税収予算は、増税分三千四百十億円を含めて前年比五・二%増の収入を確保できるとしておりますが、税収欠落から年度中に四兆円弱といった巨額の国債追加発行を行った五十七年度予算の轍を踏まないことを望みたいと思います。  六十一年度予算の第二の特徴は、その編成過程に不透明なところが多いということであります。  六十一年度予算では、先ほど述べましたように一般歳出伸び率ゼロの四度目の予算編成が達成され、これが財政再建努力のあかしとされておりますが、その措置の主要な手段は補助金の削減であります。一般歳出伸び率ゼロの手段としては、公務員人件費のベア分の非計上のほか、厚生年金に対する国庫負担の繰り延べ、政管健保への国庫負担削減、そして国鉄助成の国債費への振替などがなされております。この国鉄助成の国債費への振替は、支出を一般歳出から非一般歳出である国債費に振りかえただけのものであります。  地方団体への補助金減らしの主要な手段は、いわゆる高率補助金の一律一割削減でありまして、これは六十年度に一年限りの措置として導入されたものでありますが、今後三年間継続ということになります。これによる減収は一兆一千七百億円とされております。地方団体の財源補てん必要額もそういうふうになっております。  国庫補助金には、国が義務として負担する国庫負担金と国が任意に行える財政交付金、奨励的補助金とがありますが、これが高率補助金の一律一割削減という便宜的なスローガンで処理されております。生活保護費等、社会保障関係費の国庫負担にかかわるものが中心でありまして、大蔵、厚生、自治の三省により補助金問題検討会が設けられて、国と地方の役割分担と費用負担のあり方の見直しを数次にわたって審議したはずでありますが、その経過は明らかにされておりません。具体的な審議内容を明らかにしない密室での作業結果の報告となっており、部外者にはわからない内容となっております。  高率補助金の一割削減は、昭和五十七年度当時は補助率の地域特例を中心とした公共事業関係補助金の削減、昨年六十年度には公共事業関係社会保障関係の補助金の一年限りの削減という形で行われ、大きな論議を呼んだのですが、今回は、三年間という措置が大きな論議もなしに決定されたのは、外部から見ると大変不思議であります。  なぜこうした事情が生まれたのかを見ますと、地方向け補助金の削減は、たばこ消費税の増税地方債増発によって手当てするという案が行政内部での調整の形で予算編成の最終段階で浮上したからと思われます。特に、たばこ消費税の増税は隠し球的な提案であり、また予算編成をスムーズなものとしたウルトラC級の手段であったと私は見ております。たばこは五月から一本一円程度値上げすることとし、増収約二千四百億円の半分は地方消費税として地方税源の強化に役立てられ、半分は地方交付税の特例加算となって、弱小地方団体を中心とした地方団体の減収補てんに充てられるとのことであります。この措置は、政府税調及び自民党税調の六十一年度改正案ないし改正大綱の決定後に急遽浮上してきたもので、この点を行政府主導の予算編成として非難する向きもありますが、問題は予算の最終段階での調整が密室の中でなされたことにあり、予算編成過程の不透明が六十一年度予算の特徴と見られるゆえんとなっております。  第三の特徴は、中長期的ビジョンの欠如した先行き不安の予算ということであります。  予算編成の最大の問題は、財政再建のめどを明瞭で実現可能な形で示すことにあります。我が国財政昭和五十年度補正予算以来、大量国債発行時代に入り、昭和五十三−五十五年におい国債依存度三〇%以上という異例の借金財政を続け、その後も依存度は漸減してきているものの、二〇%超の依存度であります。恐らくアメリカを除いてこうした放漫な財政運営を行っている先進諸国はないと思われます。  現状について見ますと、六十一年度公債発行は、新規債十兆九千四百六十億円に加え、借換債十一兆四千九百二十四億円の発行予定であり、合計二十二兆円以上の発行であります。これがスムーズに消化されるならば、またこれが貯蓄率が異常に高く貯蓄超過傾向が顕著な日本の資本市場の特性にマッチするものであれば問題はないように思われますが、果たしどうでしょうか。国債はその消化及び保有状況が問題であります。やや数字は古いのですが、国債の保有分布を昭和五十九年度について見ますと、市中金融機関二九・五%、個人、法人四〇・二%、資金運用部二四・七%、日銀五・六%となっておりまして、個人、法人の高い保有が大きな特徴となっております。資金運用部保有も含めて、貯蓄性資金による引き受けと保有であるならばインフレ等のあしき影響は出てこないと思われ、むしろそこでは国債を持つ者と持たない者との所得再分配が問題になるものと思われます。  国債累積の目立った影響として挙げなければならないのが、利払い費のみで毎年十兆円余りに達する国債費負担の増大による一般歳出、特に民生関係費の圧縮でありまして、これはだれの目にも明らかなところであります。国債費の重圧を緩和するためには国債発行額の漸減を図らねばならず、特に赤字国債の減額を財政再建目標とするという点には了解できる点があります。六十一年度予算では国債減額七千三百四十億円、うち赤字国債四千八百四十億円でありますが、これにつきましては、この削減を可能にしたのが地方債発行額の大規模な増額であったという事実に注目する必要があります。地方債の増発は、補助金削減による減収補てんのための建設地方債発行増額九千三百億円といった形であらわれております。地方財政計画ベースでの地方債は、六十年度の三兆九千五百億円から六十一年度の四兆四千二百九十億円へと一二・一%の増であります。  国は、公共事業費削減する一方で内需振興のための公共事業の主役に地方単独事業中心とした地方公共事業を置こうという考え方でありますが、これは国の責任地方への押しつけと見られないか問題であります。国の財政は危機的な状況にある一方で、地方財政は全体としてゆとりがあるという考え方から、国の負担地方にしわ寄せしていくことに関連いたしましては、国、地方を含めた公共財政全体の財政運営のめどを中長期的視野において考えるという態度がますます必要であると申したいと思います。  大蔵省の「財政改革を進めるに当たっての基本的考え方」と「財政中期展望」がこの一月国会に提出されているようでありますが、国の財政の中期的見通しをこれが物語るものとなっている一方で、これは国の一般会計に関する極めてラフな推計を明らかにしたものであって、政府財政運営はこれにより何ら制約されるものでなく、いわば政治責任を欠いた推計資料の役割を果たしております。こうした中期展望を中期財政計画的なものに切りかえていく必要があります。中期展望は、歳出面を国債費地方交付税、一般歳出に三分いたしますが、ここでこのような区分を法定化し、一般歳出の概念をそこで明らかにする必要があるのではないでしょうか。国鉄関係経費が一般歳出から国債費に切りかえられたことが一般歳出減らしに役立てられていることは前でも申し上げましたが、こうした例はこれまでもいろいろあるのであります。歳入面では税収の推移を少なくとも主要税目について明らかにする必要があります。これは比較的容易に可能であると考えられます。また国の財政計画と整合的な形での地方財政計画を表示するということも必要であります。  四番目として、税制改革の行方に関する問題がありますが、これも極めて不透明であります。六十二年度に大税制改革をやるというならば、それへの手がかりが得られるような改革が先行していなければならないけれども、やろうとしていることはある意味で逆の選択増税であります。現内閣は行財政改革の目玉として大税制改革を標榜しており、それはシャウプ勧告以来の抜本的改革を目指すものとしております。シャウプ勧告税制は、直接税中心主義を特に個人所得税の公平の確保という形で確立しようとしたものとしてとらえますが、中曽根首相の場合は、所得税法人税重税感の緩和に税制改革の主眼が置かれております。  この際、減税財源をどこから調達するかという問題が当然生じますが、これは税制調査会の審議の結果を待つという態度であります。減税財源の検討がなされないまま、所得税法人税減税提案がさまざまな形でなされており、例えば所得税、住民税合わせて九〇%近い個人所得税最高税率を六〇%台、地方税を含めた法人税負担率を五〇%以下にするといった考え方が財務当局の側で煮詰まっているようであります。また首相は、本院の予算委員会、また昨日の衆議院の予算委員会等におきまして、減税の主体を三百万円から四百万円、これがだんだんと広がりまして、六百万円から八百万円というような所得層を減税対象の重点に置きたいというようなことを言っております。この層が特に税負担が重いといたしまして、所得税減税をどのような手段で行うか、かわり財源をどこから持ってくるかには問題が多いのであります。  第二の国税、地方税改革の必要性ということでございます。  現在、シャウプ税制以来の大税制改革に関する議論が進行中でありますが、過去の大税制改革と言われるものを見ますと、大税制改革には次のような条件が必要と思われます。  それは、国税のみ、地方税のみの改革、もちろんこれらの一部の改革ではなく、国税、地方税を含めた有機的関連を持った改革であることが第一。第二に、改革の必要性が多面的な角度から確認されていること。そこでは社会経済情勢の大きな変化や改革を求める世論の広範な形成があること。第三に、改革を推進する政治的主体が強力なものとして形成されていることなどであります。  過去の大税制改革は大正十五年、昭和十五年、昭和二十五年改正それぞれを見ましても、こういう条件が当てはまっております。詳しいことは省略させていただきます。  ここで、世論形成が十分な形で行われているかどうかということが多分に疑問であります。所得税法人税減税税制改革の柱になるという点については人々の支持があるかもしれませんが、国家財政現状が大規模減税を可能にするものかどうか疑問であります。少なくとも政府は、所得税法人税減税は、これを大規模に行う状況にはないということで減税を拒否し続けてきております。減税財政再建は大きく矛盾するのであります。今度は大規模減税ということになりますと、当然減税財源の補てんが問題になりますが、その際候補となるのはマル優の廃止、低率分離課税導入等、利子課税の強化とEC型付加価値税ということになるでありましょう。しかし、これは貯蓄重課と貯蓄優遇という二つの異なった路線であり、これをどういうふうに選択するかは問題になる。初めの利子課税強化について、これをマル優廃止の形で行うことには大きな政治的な抵抗があり、付加価値税についても同じであります。付加価値税といってもその構成の仕方で作用に大きな違いが出てまいります。  大型間接税の中では、EC型付加価値税が最もすぐれた税であるという考え方を私はとることはできません。税額控除制を伴った付加価値税には税の取り戻し効果というものがあり、免税が実質免税として機能しないという問題があります。そこでは免税はかえって不利となる。つまり免税業者は納税しないだけでなく、前段階の税額控除を受けられないので、免税業者からの財貨サービスを調達するのほかえって不利ということで免税業者は取引を忌避されたりいたします。昭和五十三年当時の一般消費税構想では、免税業者からの仕入れにも課税が行われているとみなす、みなし税額控除が考えられましたが、それはこうした難点を回避しようとするものであったのであります。しかし、この一般消費税(仮称)は国会決議で否定されております。  五十三年当時の一般消費税構想は、インボイスなき税額控除であったので、税の転嫁に不明瞭さが残る。そこで、今度はインボイスのついたEC型をはっきり押し出すべしという議論も強くなっておりますが、免税や税率の差別の問題は回避できないと思われますので、そうすると事務は著しく煩雑となります。免税や軽減税率のものと有税のものの仕分けが適正に行われるかをめぐって税務監査の必要が高まります。問題の処理には手をやいているというのが諸国の実情のように思われます。概して新税の導入には、導入のための税務費用と納税費用、納税者の側での納税費用がかかりますが、付加価値税の導入はコストに見合う便益をもたらし得るものかどうかは疑問であります。  EC型付加価値税は、西欧諸国で支障なく円滑に運営されているから我が国への導入にも問題がないと見る向きもあるかもしれませんが、それは概して財務当局の立場に立っての見解であります。少なくとも西欧諸国の学者の中で、付加価値税が所得税にまさる基幹税の性格を持つといった議論はないようであります。付加価値税負担は軽減税率やゼロ税率を大きく取り入れた国でも軽度の逆進性をぬぐい去ることはできないのでありまして、ゼロ税率の採用は生活必需品等を実質免税にする不可避的な措置となります。  それにしても、EC諸国の付加価値税率の高さには驚くべきものがございます。多くの国が導入時の税率を大きく引き上げており、一五%から二〇%、アイルランドのごときは三〇%といった付加価値税率であります。日本では五%の税率で導入するとしても、これがその後繰り返し増税の対象となることは目に見えております。  付加価値税を社会保障、特に年金財源とする福祉目的税の構想は、ある意味で歯どめをねらったものと見られますが、付加価値税と年金には、目的税の要件である税源とその使途との間の内的有機的関連が欠けております。そういうことであるならば、付加価値税は所得型のそれとし、府県事業税にかえてこれを導入するというシャウプ勧告の方がすぐれております。この際、付加価値税を府県税とするならば、料飲税、娯楽施設利用税、不動産取得税、自動車税等は市町村に移譲するといった形で市町村間接税強化を図るべきではないかと思われます。市町村、特に都市団体に消費税源をより多く付与する必要は、消費サービス、流通課税が都市需要に適合する税であるといったことからも基礎づけられます。  国税改正は、所得税内部の増減税をサラリーマン減税と利子課税の強化と組み合わせて行う一方で、物品税、酒税、印紙税といった個別間接税の適正化に努め、特に物品税ではとらえ得ないサービス課税の強化に努めるといった対応が必要と思われます。  社会経済情勢の変化が税制改革を促しているといった面は確かにございます。こうした変化として特に挙げられているのが産業・雇用構造の変化、経済ソフト化サービス化所得水準の上昇と平準化、老齢化社会の到来、都市化の進行と定住化などであります。所得水準の上昇は消費課税の拡充の条件となるという考え方がありますが、それはむしろ所得課税強化の前提条件でもあります。老齢化社会の本格的成熟は二〇一五年ないし二五年といった将来でありますから、それまで付加価値税のような大型新税の導入を留保せよという意見もあります。老齢化社会の進行に伴い、自己所有家屋で生活する年金生活者の固定資産税の重圧をどのように緩和するかという今まで余り議論されてこなかった問題も生じています。産業構造の変化により、地域格差の動向にも注目する必要があり、もし格差が減少してきているならば、所得課税、企業課税の地方への移譲の前提条件も出てまいります。  税制改革の前提は、何よりもだれがどのような根拠で改革を願望しているかを的確に把握することにあります。サラリーマンの重税感はかなりのものと思われますが、国民一般の重税感は果たしてどのようなものとしてあるのか、シャウプ勧告前後の重税意識が再現されるような状況になっているか、これははっきり見きわめる必要があります。過去の税制改革にも関連して特に私が申し上げたかったことは、国税の一部、地方税の一部ではなくて、これを全体とした有機的な税制改革のあり方を検討すべきであるということであります。  第三といたしまして、税制改革の具体的な論点を申し上げます。  税制改革の具体的内容は目下税制調査会で審議中であり、四月には減税中心とした内容の中間報告が出るとのことであります。ここでどのような方向が出てくるかはっきりいたしませんが、所得税減税法人税減税がそこに盛り込まれるものと思われます。その際の問題点と考えられるものを見ますと、次のとおりであります。  所得税減税は、税率改正を簡素化の方向で行うことが減税の目玉となる見込みであります。現在の所得税率は最高七〇%、最低一〇・五%で、所得ブラッケットに応じた税率の数は十五であります。最高税率七〇%は五十九年度改正で七五%から下げたものであり、最低税率一〇・五%は同年まで一〇%だったものを上げたものであります。これをもっとアメリカやイギリスの改革の方向に沿ってさらに最高税率引き下げ、最低税率引き上げをやり、所得ブラッケットも数段階に簡素化しようとするものであります。  竹下蔵相や中曽根首相が打ち出している線は、所得税、住民税合計で八八%にもなる最高税率を六〇%程度に下げるということのようであります。もちろん八八%の税率といいましても、これは超過累進税率、限度を超えた所得に対する税率であります。それがそのまま所得全体にかかるわけではございませんし、賦課制限というものがありまして、所得税、住民税合計で七八%を超えるときは住民税の課税を減らすということにしております。賦課制限を受ける所得の限度は大体年所得一億三千万円以上というようなもののようであります。最高税率適用者はほとんどいないのだから下げてもよいと言うような者もいますが、賦課制限の対象となる人、それによる地方税の減収もかなりの規模であるのですから、もしこれを下げるということになりますと、最高所得層の人には大きな利益となります。  現在十五個のブラッケットに対応した税率を数個に減らすというのも改正の柱とされそうであります。シャウプ勧告当時は八つであったので、これをモデルとするという案もございます。  所得税減税の問題は、減税をどのような方法で、いかなる規模で行うか、それによりどの所得階層の人々が利益を受けるかであります。この最後の問題を考える場合には、所得階層別の所得税負担率がどのように配置されているかを明らかにすることが前提になります。いわゆる所得税、住民税の実効税率は、我が国の場合、外国に比較して収入千八百万円程度までの層はむしろ低く、それ以上になると急激な累進税率の適用を受けると言われております。国際比較というような観点からいうと、減税対象は二千万円以上の税率引き下げというようなことになりますが、果たしてこうした中高所得層の税率の軽減が必要かどうか、これらの人々の負担をむしろふやしていくことにしか財政再建の方途はないのではないかと私は思うのであります。  また、千万円から二千万円という人々も、これを中堅所得層というふうに見るならば、これらの人々にも犠牲を求めるほかに財政再建達成の道はないのではないかと思われます。収入千万円以下というところでもかなり税率の区分が細かく、負担増が顕著でありますので、この間の所得ブラッケットを簡素化すれば税負担の緩和に役立つことも事実と思われます。しかし、ブラッケットの変わり目での飛躍はかえって大きくなるという欠点もございます。いずれにしましても、所得階層別の税率の配置の実態を明らかにしないと議論が進まない。  考え方だけ申し上げますと、簡素化は中小所得層に対する税制において図るべきであるが、高所得層はむしろ複雑で精緻な税制が公平の観点から 必要と思われます。また税率の緩和によるか課税最低限の引き上げによるか、後者の場合は、人的控除の引き上げによるか給与所得控除の引き上げによるかも重要であります。給与所得控除の引き上げの場合はサラリーマンにもちろん有利でありますが、給与所得控除は事業所得者の専従者控除、みなし法人の給与所得控除にもはね返るので、クロヨン問題に対する対応としては必ずしも適当でない、こういった点が最近の税制改革論議でも浮上してきている議論であります。そうすると人的控除、特に基礎控除の引き上げということになるほか、サラリーマン税制改革ということでは、給与所得の概算控除と必要経費控除の選択を認める制度を法定するということが今後の大きな課題となります。  法人税改革については、現在の四三・三%の基本税率の引き下げが問題となると思いますが、果たして我が国の法人の税負担は諸外国に比して重いか軽いかをめぐりまして、法人の実効税負担の意味が問われねばならないと思います。法人の実効税負担は五二・九二%で、アメリカやイギリス、フランスに比べて高いというようなふうにされておりますが、法人税仕組みが違いますので、こういう比較から負担の軽重を直ちに問うには問題があります。  むしろ問題は、この数年増大している赤字法人の課税逃れというような問題で、この問題に対処するために六十年度に欠損繰り戻しの停止、六十一年度には欠損繰り越しの一年分停止というようなものを打ち出しております。繰越期間は五年間というようなことですが、これをさらに縮めるというようなことも考えられるわけであります。それから赤字法人に対する課税のあり方としては、赤字法人も支払わなければならない外形標準課税の導入という考え方もございます。  所得税減税財源をどこから求めるかが恐らく最大の問題となると思いますが、所得税、そうして法人税の税率の引き下げは、もしそれがどうしても必要ならば所得税法人税内部の改革によってこれを捻出すべきであるというのが私の意見であります。  付加価値税による減税財源調達は疑問であります。所得税、住民税納税者は三千万人、四千万人の規模で存在し、国民の大部分が大衆課税であるこの種の税を納税していることは確かでありますが、これを納税していない低所得者層も多いのであります。付加価値税は所得税を十分納税していない個人事業者、農業者、自由業者等に負担分担を行わしめるもので、クロヨン是正にも役立つという意見もありますが、付加価値税でも零細事業者の免税、農業者の実質免税が不可避であり、中小事業者の課税の適正化には記帳義務の強化等、事業課税の適正化の中で行うほかはないと思われます。所得税法人税にあらわれるひずみは、新税として導入される付加価値税にもあらわれるものと思われます。  EC型付加価値税は、税額控除を伴った包括的課税であるということを特徴としますが、輸出は免税であります。輸出の場合免税であるというのは、正確にはゼロ税率の適用を受けるということであって、輸出業者はその財貨に含まれる前段階の税をすべて控除することができます。通常の免税の場合は納税はしなくてもいいけれども、前段階の仕入れ財貨に含まれる税の控除もできません。これはゼロ税率と免税の違いでありますが、イギリスではEC型付加価値税の例外として、かなり広範な生活必需財貨にゼロ税率を適用しており、それにより課税支出は最終消費支出の約半分になっていると言われております。しかし、この生活必需財貨を実質免税するという考え方には学ぶべきものが多いように思われます。EC型付加価値税採用の問題を考える場合には、まずそうしたゼロ税率適用範囲の問題を考えるべきだと思われます。  次に、アメリカが州と地方段階で小売売上税を持つため、連邦レベルでの付加価値税導入が阻止されていることとの関連で、我が国でも地方税としての小売売上税なり付加価値税の導入を改めて考えるべきであると思います。  我が国は、シャウプ勧告による事業税にかわる付加価値税の提案があり、それが法制化された経験もあります。我が国地方団体、特に都市団体が消費流通課税の欠乏に悩んでいることから、消費流通税の拡充を要求していることにはそれなりの根拠があると思われます。補助金を今後とも大幅に整理して国の負担を軽くする一方で、地方税源を消費課税の付与という形で強化することも十分考えられることであります。  要するに、いろいろな選択肢があり、中長期課題としてこれらに慎重に対応する必要があるということであります。一部の人々の判断に基づき、これしかないという形で早急に提案することは問題であり、せいては事をし損じるのであります。もちろん、税制調査会なり政府なりが明確に自分の最善と考える提案を打ち出して国民に判断を問うということは必要であり、それは同種の問題をある意味で十数年来抱えているのでありますから、早ければ早いほどいいと思います。しかしその場合も、大税制改革は数年間で完全実施に移すという段階的スケジュールが必要と思われます。税制改革問題は中長期的な制度改革の一環として位置づけるべきものと思われるのであります。  以上で四十分間ということで、終わらせていただきます。
  20. 安田隆明

    委員長安田隆明君) どうもありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  21. 降矢敬義

    ○降矢敬義君 ただいまは大変いいお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。  質問を四点ばかりさせていただきたいと思います。  一つは、私たち、今やっぱり国の財政を何とか再建しなきゃならぬ、大きな課題を持っているわけでありまして、先生と同じように私たちは危機意識を持ってこれに対処しなきゃならぬ、こう考えております。そこで、この道行きの問題でありますが、今までは先生も御存じのとおり、一部は選択増税をやり、五十七年度からは歳出のカットを組み合わせてこれに対処してきましたが、しかしその道行きで、中長期展望に立って、しかも多大の国債償還を頭に置きながら一体そういう道行きでやっていけるものなのか。それとも、少なくとも非常に難しい、したがって現在税制改正を思い切ってやらなきゃならぬなと。つまり私たちの国債というものは私たちの税金で返していくわけでありますから、多大の国債を持ち、しかも同時に一般歳出は削りに削って国民所得の一〇%程度にもなっているような状況の中では難しい、そうすれば思い切った税制改革をして、将来の国債利払いにも耐えられ、かつまた新しい歳出要因にもちゃんと耐えていけるような、そういう展望税制改正として持たなきゃならぬと思いますが、先生はその辺をどうお考えですかということが第一点であります。  第二点は、そういう道行きの中で税制改正を考えるときに、タックスシステムというものは、少なくとも租税プラス強制的に徴収される社会保障費というものを加えてやっぱり我々の負担を考えていくべきじゃないかと思います。  私は、そういう立場からちょっとお伺いしたいんですが、昭和五十年には二五%ぐらいだったのが現在は三六%、十年間で我々の負担は一〇%上がっています。先生御案内のとおり、高齢化社会が来れば税金を上げなくても医療費と年金の負担はどんどんふえていくわけでありますから、私たちが小さな政府と言いながら、かつまた、あるいは今の三六が四〇になり四五になるのか、あるいはやっぱりイギリス、西ドイツのような五〇%のような負担はしないようにしなきゃならぬ、そういう私は考え方を持っていますが、その辺の負担の水準というものを長期展望の中で先生はどういうふうにお考えになっているのか。それを私はあえてどうこう言うものではありませんが、税と社会保障費の分担割合というものをどう考えたらいいのかということと非常にかかわりがあるから聞いておきたいわけであります。  第三番目には、税制改正の中で結局、一口に言えば直間比率の問題と言われておりますが、つまり今七三、ことし切り上がれば七四、二六という割合でありますが、これはだんだん年がたつに従ってこの割合が直接税に傾いてきて、間接税の方が引っ込んできているという状態であることは先生も御案内のとおりであります。したがって、この直間比率を見直そうという話が実は個人所得税中心にあるのだと私は見ているわけであります。  個人所得税は、今御案内のとおり重税感があるなということは多くの方が持っているわけであります。しかし、さりとてサービスを受ける側から国民全体としてみて、私たちの財政をどう賄うのかという問題があります。直接税と間接税についての今の比率を一体先生は直す必要があると考えているのか、あるいは将来アメリカ式にもう少し直接税に傾いた方がいいとお考えなのか。そこは、将来所得税なり法人税というものを減税する、つまり直間比率を変えていくとすれば、バランスとしてどこかに先生が御指摘のような減税財源を求めなければ、私たちは将来に対しての大きな国債というものの償還ができないんじゃないのかという疑問を持っておりますので、直間比率をもっと直接税に変えていった方がいいのかあるいはやっぱり直すべきなのか、直すときに直接税である法人税あるいは所得税相続税というものを下げて、一体間接税に何を求めたらいいのか、その辺の先生のお考え方があればお知らせいただきたいと思います。  同時に、そのときに私たちの生活というものを租税の側から見れば、所得という格好であらわれ、あるいは消費という格好であらわれ、あるいは資産という格好で当然あらわれるわけでありますし、そういう見方でとらえることができるわけでありますが、課税のバランスというものは所得中心としながら、あとの二つの補完税ということで、私たちの国民の全体の負担の公平ということが語られるはずであると思いますので、その辺のバランス問題を先生どうお考えになっているのか。  それからもう一つは、先ほども先生がおっしゃったんですが、所得税法人税減税財源というものは所得税法人税の中でつくるべきであって、例えば付加価値税あるいは非課税貯蓄に求めるのは適当じゃないような、私の聞き間違いでなければ、そういうお話があったように思います。  そこで、あえてお伺いいたしたいんですが、所得税あるいは法人税で、法人税が一番わかりやすいわけでありますけれども、結局、法人税の中で生むとすれば、いわゆる政策税制をやめるということだろうと私は聞いたわけであります。そうすると、公平の観念から言えば、確かに政策税制というものは、それは不公平の部類に入ると私は思いますけれども、我々はやっぱり租税を通して、歳出予算を通してと同じように租税を通して産業政策をやったり、あるいは社会政策をやったりすることは先生も御案内のとおりであります。その辺のことを考えますと、いわゆる所得税減税財源あるいは法人税減税財源を内部において生み出すとして、先生がおっしゃったような一兆円、二兆円というような大きな財源が果たして出るものなのか、その辺の先生のお考えをお聞きいたしたいと思います。  それから最後に、実は私もかねてからいろいろ考えていて主張したことがあるんですが、私たちも老齢化社会にいって、やっぱり年金と医療の財源国民が全部少なくともみんなが負担するという仕掛けがどうしても必要じゃないのかなとかねてから思っています。そういう意味では私は、社会保障の特別会計あるいはその中における福祉財源、福祉目的税というもの、あるいは許されればEC型の付加価値税とか、そういうものに多少でも近いようなものが考えられぬか。しかし、それで間に合うわけじゃありません。しかしながら、そういうものであれば消費を通じて少なくともみんなが幾らかでも負担する、その上に所得の再配分としての所得税なりあるいは法人税からの一部分の繰り入れがあって、そういうもので末永く私たちの二十一世紀になってからの医療や年金にも耐えられるような、そういう財源というものはないのかと、こう考えておるわけでありますが、それについて先生のお考えがあればお示しいただきたいと思います。  以上であります。
  22. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 財政再建を今までのような選択増税、これは主に企業関係の説とそれから個別的な消費税を数年に一度ずつ上げるというような形で部分的な増税をやりながら、一方では経費削減一般歳出伸び率ゼロをずっと続けるというようなやり方で、それなりに公債依存度を減らしてきているわけです。そういうやり方では限度が来たというようなことをいろいろ言われておりますけれども、私はむしろそういうやり方以外に今後ともやっていけないのではないかというふうに考えます。  それで、選択増税はもう手段が切れたというようなふうにも考えられませんが、何か大税制改正をやって本格的増税をやらなければ財政再建という方向はと、もう既にある意味で昭和五十年代の初めから言われてきているわけです。それで、そういう形で言われながら、実際やっていることは選択増税によって部分的に少しずつ公債依存度を減らしていく。そういうやり方以外に今後ともとれないのではないかというふうに思います。  それで、その際大きな改革を続いてやるのだから当面はいじらないというようなことじゃなくて、毎年毎年きめ細かに選択増税なら増税のあり方というものを検討していくという以外に、例えば六十五年財政再建を達成するというような今はだれもみんな無理だというように考えているわけですから、それのもう少し現実的なアプローチということになると、今までのようなやり方しかないんじゃないかというのが私の考えてあります。  それから二番目としまして、国民負担率というのは、租税だけじゃなく社会保険料を加えて考えると三六%、今後どこまで上がっていくのか、西欧諸国の水準よりやや少ないところということで、五〇%には到底いかない水準で抑えたいというようなことを非常に漠然と言っているわけです。そういうのは中期展望においてはっきり数量的に表示できないことはないと思いますので、それを政治的な決定でも一向差し支えありませんから、中期展望の中で負担率の限度というようなのを定めるということはむしろ政府責任ではないかというふうに考えて、私自身がどういうふうに考えるかということであれば、その量的な決定というものをする立場にございませんが、租税といっても国税、地方税の適切なシェア、それから租税全体と社会保険料とのシェア、社会保険料の部分を急速にふやす、それを受益負担というような観点から主張するのには疑問を感じ、保険料よりは租税による財源調達ということを考えていいと思います。  それから租税の中では、方向としても、国税に比較すると地方税の方がだんだん上がってきているというような方向もございますけれども、これはいろいろな意味で将来の方向として、例えば地方の時代とか都市の時代というようなことを考えるならば税源の強化ということが必要ですから、そういう種類のバランスを負担率のほかに考える必要があると考えます。  それから三番目に、直間比率という問題はほとんど意味をなさないというふうに考えるので、七〇対三〇というような比率が適切か否かということは、その内容、特に法人税負担割合法人税の租税収入の中でのシェアの大きさというようなものが日本の場合、諸外国に比べて異常に大きいわけですね。そういう構造上の特質もございます。  それで、法人税をどういうふうに考えるかというと、法人税というのはむしろ価格に転嫁される売上税と同じようなものだというような考え方も学者の中ではとられておりまして、そうするともっと重要なのは、個人所得税の比率が果たして諸外国に比べて非常に高くなっているか否かというふうに考えますと、決してそういうことはないので、日本の場合、個人所得税に対する依存率というのは余り高くないので、これはもっと引き上げてもいいんじゃないか。個人所得税中心とする税制というのは、何よりも納税の自覚に基づくものであると同時に、それは担税力、給付能力に応じた税であるという、これはシャウプ勧告の有名な言葉がございますが、そういう意味では私は個人所得税中心にもっとふやしてもいいんじゃないかというふうに考えます。  七〇対三〇という比率に関連しては、ここでも私のきょうの報告の趣旨である国税、地方税関係というのを考えますと、国税ではそんなふうになっていますが、地方税ではこれが八五対一五ぐらいなんです。それから、むしろ消費流通過程を必要としている都市団体なんかの場合には九二対八ぐらいで、大都市が持っている間接税源というのはたばこ消費税と電気・ガス税だけなんですね。こういうのはもう少し市町村税源強化というようなことを考えつつ社会経済情勢の変化に対応する必要があるんじゃないかというふうに考えます。  それから、所得税法人税減税財源をその内部から求めるということでは、利子課税をマル優分についても低率分離課税適用という形で行う。それで五%ないし一〇%の低率源泉分離課税ということをやれば一兆五千億ぐらいの収入はすぐ上がるというふうに言われておりますね。それで、マル優のものを全部それに適用するというのは問題がある。例えば特に老齢者というような者、利子で暮らしているというような人を当然配慮しなければならないということはありますが、利子課税を強化するというのには私は大賛成でありまして、EC型があるいはマル優廃止、低率分離課税か、どちらかといえば、ちゅうちょなく利子課税強化の方を賛成したいというふうに考えております。  それから、福祉目的税の考え方に対しては、福祉財源社会保険料よりも税で賄う場合、それは目的税の形で使途と税源を拘束するという考え方は間違いではないというふうに考えます。場合によってはEC型の付加価値税というのを福祉目的税にするという考え方、それでまとまるならばそれに大きく反対する理由はございませんが、その場合にも、先ほど申し上げましたように、福祉財源らしくするためには、大型間接税、大型消費税といっても、やはり生活必需財貨に対する課税というようなものはやらないという体制をはっきりしまして、そのためには広範なゼロ税率を適用するというような形でEC型付加価値税を構成すれば、それがまた有力な財源になり得るのではないかというふうに考えております。  以上でございます。
  23. 降矢敬義

    ○降矢敬義君 ありがとうございました。
  24. 高杉廸忠

    ○高杉廸忠君 社会党の高杉であります。先生には大変御多忙のところ参考人として御出席をいただきまして、貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。限られた時間でありますから重複を避けまして、財政税制についてそれぞれお伺いをいたしたいと存じます。  まず、財政についてお伺いをいたします。  中期的な視点に立った現行制度の改革の方途を国民にわかりやすい形で示すべきである、こういう先生の御意見に対しまして非常に共感を覚えるわけであります。私どもも政府財政再建への手法、手段を示すように再三求めてきたところでありますけれども、財政中期展望といった機械的に計算した数字を示す、それにとどまっているわけであります。政府は、この理由として経済全体が大変流動的で、その一部門である財政について定量的な姿での財政計画的なものを示すのは困難だと、こういうふうに言っているわけです。  そこでお伺いをするわけですが、第一に、果たして政府の言うようにあらかじめ財政再建の計画を示すということは先生がお考えになって困難なのかどうか、この点について先生の御意見をぜひ伺いたい。  次の第二として、政府財政再建増税、こういう展望を恐らく持っていると思うんです、本音を言うとですね。そして、なし崩し的にその方向財政を持っていこう、こういうふうにしているように見えるのです。こうしたことが数年来の場当たり的な予算編成を行わせたのではないか、こう考えるのです。先生は、先ほど来のお話の中にも、予算編成が不透明なのは問題である、そのため中期的視点に立った改革方途を示すべきである、こうおっしゃっておられますが、私も全く同感なんです。そこでお伺いをいたしますが、具体的な方途を示すとすると、どうしても増税、これを言わざるを得ないと思うのです。したがって政府はその方途を示さない、こういうように考えるのですが、先生はどういうようにお考えになっておられるか。  第三として、一般歳出の前年度比や国債依存度が示すように、数字の上では財政再建が進んでおります。しかし、これらは中期的視点に立って進められてきた結果ではなくて、先生も御指摘のように、負担の後送りやツケを回し、見せかけの削減、こういった場当たり的つじつま合わせな財政運営の結果であって、財政構造そのものは決して好転したとは思ってないのであります。そこでお伺いしますが、こうした中期的視点のない財政運営による弊害について先生はどういうふうにお考えになっておりますか。  第四として、先ほど来のお話のように、国の負担地方にツケ回すという手法が五十年代中期以降の財政再建路線の一つのパターンである、こうおっしゃる。今年度も地方向け補助金の率が引き下げられておりますし、今後は地方交付税交付金の交付税率についても見直すべきである、こういう声が高まっていることも私どもは懸念をするわけであります。そこで先生に伺いますが、国と地方との財政調整のあり方、その是非、この点にあわせまして先生の御意見をぜひお伺いをしたいと、このように考えております。  それから、第五でありますが、財政への悪影響を及ぼしている場当たり的つじつま合わせ的な政府財政再建を中長期的視点に立ったそれへと軌道修正をさせるよう、私ども今後政府に要求していきたいと思っているんですが、そこで、この際その参考のために先生の御意見をぜひ伺いたいんですが、先生がお考えになります中長期的視点に立った現行制度の改革方途、どういうものがあるでしょうか。具体的にひとつお示しいただければありがたいと、このように思っております。  次に、税制について三点ほどありますが、昨年のESPに掲載されました先生の論文を拝見いたしました。税制改革が必要な理由として税調が挙げました社会情勢の変化の内容に対しまして、先生は所得分配の公正、不平等の是正高齢者福祉などの要望が強くなっていることや経済摩擦などを変化の第一に挙げるべきだと、こういうふうなお考えのようであります。  そこでお伺いいたしますが、第一に、現在所得税の税率について簡素化の方向で検討されているようですけれども、公平化という点を考えますと、複雑とはいえ細かな刻みを設けた方がより望ましいという感じを私は持つんです。この点について先生はどういうふうにお考えになりますか。  第二に、大型間接税ですけれども、これを活用することによってクロヨン問題の是正法人税脱税の防止、こういうようなものに効果が上げられるという公平、公正の視点から導入を提唱する方もおられるんです。この点についてぜひとも具体的に先生の御意見を聞かせていただければありがたいと思っております。  最後になりましたが、第三として、現下の課題となっております日米経済摩擦の原因について日米の税制度の違いを挙げられる方もいらっしゃるんです。アメリカは御承知のとおりに消費優遇、我が国は貯蓄優遇の税制である、こう言われているんですけれども、今後の税のあり方を考えるときに、こうした摩擦解消の観点からも考慮していかなければならないかどうか。税制を変えることによって摩擦解消にどの程度その効果が期待されるのであるかどうか。  以上の諸点についてお伺いをいたしたいと思います。
  25. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 中期財政計画というのは我が国には存在しないわけです。それにかわるものとして中期展望というのを、昭和五十六年当時は中期財政計画的なものというような表現で財政計画に入るという構えを示しましたが、中曽根首相の時代になりますと、計画ということはむしろ不適当だというような形になっております。果たして計画化は不可能かどうかという点については、私はこれはやろうと思えばできる、しかもそれはやらなければならないことだというふうに考えます。  その理由というのは、経済計画というのは、日本などは社会主義の国と違いまして、社会主義的な計画経済というようなものをとることができない。それだけ不確定要素が多いわけですが、予算及び財政というのは、これは予算の場合は特に何円何銭という小数単位に至るまで計画化が可能なものであり、計画しなければならないものになるわけですね。それで財政収支がどういうふうになるかというのは、今後の経済的な与件に大きく左右されることは当然でありますが、西欧諸国の財政計画というのは経済的与件が変わればまた数値を変えるという、いわゆるローリングシステムということで常に四年あるいは五年先までを含めた財政収入、財政支出、例えばイギリスなどの場合には地方財政も含めた全体の財政見通しをとっているわけです。そういうことが日本でとれないということは全くないので、それはある意味で行政府責任を負うことを忌避する態度のあらわれであるというふうに、いわば無責任ということになるわけであります。  したがって、計量化が困難な要素というのは当然ありますが、財政展望国民にわかりやすい形で示すという政治責任を欠くということは好ましくない。ただ、我が国の場合はそれらを規定する法的な根拠というのがございませんので、いろいろ政府が行政府の方で勝手に分類を決めたり、それを変えたりというようなことをやりやすくなっているので、そういう点で法律化することが難しければ、イギリスのように例えば議会と政府との申し合わせでやるとか党間の申し合わせでやるというような形の財政計画の発足が可能であるというふうに考えますので、それを何とか議会の方でやっていただきたいと私なども考えております。  それから、二番目として、財政再建増税という手段なしに達成することは可能かという問いに対しては、これは私は不可能だというふうに考えます。公債を含めて財政規模が拡大をしている段階におきまして、国債、公債というものは租税の先取りであり、これは必ず租税で返すという点に関して言えば、租税負担の増大になって当然はね返るものというふうに考えます。  しかし、現在の国債と租税との関係というのは、ある意味でその境界が非常に紛らわしくなるほど国債一つの大きな負担というようなふうに見られ、租税との限界というものが必ずしも明確でなくなっておりますので、国債が一応貯蓄性の資金によって引き受けられているならばと私申し上げましたが、そういう状況で引き受けられ、それが国民の資産になるというような形で、それが期限もかなり長いものという形で継続するならば、国債を償還しないということであるならば、租税負担を直ちに増大するという必要はないと思いますが、長期的な見方から言えば増税が必要である。したがって、減税という場合には当然それを上回る、ないしそれをカバーする税負担の増加というものを一方では考え、それを税制改革の柱というふうにせざるを得ない状況だというふうに考えます。  それから、国債依存度の軽減をいろいろなやり方で、つじつま合わせのような形でやっているということで、これはある意味で財政上のテクニック、技術ということでありまして、それなりにつじつま合わせは非常に巧みだというようなふうになりますが、その弊害が確かにあらわれているので、一般の人たちには全くわからない取引で国と地方の対立が回避されるなんという状況は好ましくないというふうに考えております。  国と地方財政調整のあり方では、補助金の削減、それから交付税の制度見直しというのが今後の不可避的な課題になると思います。国の方でその負担を軽減していく手段としては、ある意味でそれが本命にならざるを得ない点がございます。補助金が、特にその配分が過度に資金を、人口希薄の団体あるいは農村団体というようなところに、一人当たりにすれば都市団体の何倍もの資金を配分するというような形で後進地域の開発というようなことを政策的に進めてまいったというようなのは反省の時期に入っているということは確かだというふうに思います。補助金を削減するということはある意味で不可避的ですから、それを削減するならば、当然それが事務分担、役割分担の見直し、国費の削減というのは国の権限ないし事務というものを地方にはっきりおろすというような形でやるということであれば、役割分担と対応した負担の再配分ということが可能になるわけでありますので、そういう点がキーポイントになると思います。  交付税につきましても、これは昭和四十一年以来ですから、国税三税の三二%、これをもっと引き下げるというような提案を税務当局の方でいろいろ考えているようでありますが、地方交付税の国税三税三二%分というのは地方財源、ある意味では地方税の変形だというような考え方からすると、それは削減できないばかりでなく必ず総額を確保すべきものということになります。私は、全く私見を申し上げますと、そういう調整が日本の場合では専ら大蔵省と自治省との間のやりとり、交渉というようなことで決まっていくわけで、本当に地方団体の意向というのがそこに反映しているかどうかということがわからない。こういうのをもう少し改善をする方法というのがあるのではないかというふうに考えます。  中期的視野に立った現行制度の改革の中心ということになりますと、先ほど言いましたように、長期展望の法制化、法的な義務づけというような、財政法改革というような問題になると思います。財政法をいろいろな意味でこういう状況のもとでもう一度見直し、検討すべき点は検討する必要がある。財政法の一条に、予算というものは国の中期財政計画に基づいて編成するという一条を入れれば、それで義務づけがなされるわけですから、そういうことが重要になる。  税制上の問題につきましては、所得税の税率を簡素化する。段階区分を、例えば現在は二%から三%ぐらいだんだん上がっていくわけですね。それで、上の方へいくと五%ぐらい上がるという、そういう仕組みになっているわけです。それを下の方も含めてもっと大きな段階区分にするということは、ちょうどその段階区分に移る前の人に非常に有利ですけれども、そういう意味で減税効果はないとは思えませんが、段階区分が多くなればなるほど、その時点に達すれば、そこから一円上がっても高い負担になる、飛躍が大きくなる問題がございます。私は、どちらかといえば細かな税率の構成という方が応能負担という点においては正しいというふうに考えております。大型間接税がクロヨン問題の対策になり得るという根拠は、特に事業の取引がインボイスつきで、しかもそのインボイスの中にその製品の価格のほかにそれに含まれている税額が明示されているために、その当事者の一方が過大のインボイスをつけてやれば、続く段階の取引相手が不利になるというような形で、自動制御効果が働くというようなことを言う人がございます。それなりの意味があるのではないか。そういう自動制御の装置というのを税制の中に組み込むということはいろいろな意味で必要だというふうに考えますが、その効果がどれだけあるかということになりますと、やはり納税者の中に、仕分けをいいかげんにしたり不正確な記載をするというようなことは当然あり得るわけで、目立った改善が行われるかどうかということは疑問であります。  それから最後に、貿易摩擦のような大きな経済問題に対応する税制のあり方というようなこと、相変わらず輸出産業が輸出超過という形で収益を得ているというような状況のもとでは、余り企業減税というようなことは言えなくなるんじゃないかというような気がいたしますが、国際貿易政策の対策として税制を利用するというようなことには私は基本的に反対であります。現在、内需振興のための税制措置というようなものはすべて個別措置であり、個別的な事業ないしプロジェクトの参加者に利益を与えるような措置というのは余りとるべきではない、こんなふうに考えております。
  26. 太田淳夫

    ○太田淳夫君 どうも先生大変ありがとうございました。  私は、三点ほど先生に御質問したいと思いますが、これから税制改革の問題が大きな論議を呼ぶこととなろうと思いますけれども、私たちは、現在の直接税中心税制度というものは、水平的公平あるいは所得再配分機能あるいは資源配分の中立性の点から見まして、すぐれた制度ではないかと思っております。このすぐれた直接税中心制度我が国で十分に機能しない、そのゆがみを生ずる根本の原因、本当の原因と申しますか、それは何か、先生にちょっとお伺いしたいと思います。  それから、私は、資産所得や資本蓄積を過度に優遇したり、あるいは法人に対して多くの特別措置を設けて減免税を行っていることは非常にまずいのじゃないかと思いますが、その点どのようにお考えでしょうか。これが一点です。  二点目は、一般消費税を初めとして、いわゆる間接税を多くしますと消費段階の選択を各人がすることで税負担感が軽減される、こう言われておりますけれども、間接税には逆進性という欠点があるわけでございますが、この点と、また直接税に比べて租税弾性値も低いことはこれは大蔵省の資料でも明らかになっております。さらに、税率を上げますとこれが物価にはね返ってくる、こういう問題点もあるわけであります。今後、財政運営が困難になって、どうしても間接税導入して大幅に依存しなければならない場合、これらの今申し上げたような間接税の持っている欠点を可能な限り小さくしたり、あるいはできることなら解消する、そういった手段がおありになるのかどうか、お尋ねしたいと思うのです。  三点目は、財政運営財政再建の関連でお聞きしたいと思いますけれども。政府は今まで歳出削減一本やりで財政再建をやってまいりましたのですが、しかし赤字国債削減も計画どおりには行われておりませんし、またこの六十一年度予算を見ましても内需拡大を望みます内外の要請にもこたえられない、言うならば手詰まりな状態を起こしているわけでございますけれども、財政再建は必要なことですが、やはり財政再建の手法に無理があったんじゃないか、このように思われるわけでございますが、その点の先生の御判断を伺いまして、こういう点を改めてやったらどうかというような点がございましたら御教示いただきたいと思います。以上です。
  27. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 最初の問題は、我が国税制が、特に所得税制等が公平に機能していない理由は何かということですと、それはむしろ政府及び国会責任を問うというような形になってしまいますので、公平な税制のモデルというのはシャウプ勧告に基づくシャウプ税制にあるということで考えますと、それ以後の修正というのは大体公平化というようなものを大きく崩していく過程だったわけです。これはまさに積み重ねですから、まずそれが特別措置の拡大というようなことをある業種、ある産業分野に認めると、必ず公平という観点からそれがほかに拡大するという形になりますし、利子を優遇すれば配当も優遇しなければならないというような形になるし、それが特別措置の波及というような形でずっと続いてきたわけであります。  これは、やはり医師の社会保険診療報酬が不公平税制ということで相変わらず残っている一つということになっておりますが、議員立法でつくられたというような経過があるようでございますし、どうしてそういうふうになったかというようなことは歴史的な積み重ね。ただ、こういう税制の公平、不公平というような問題は何も昭和二十五年税制の崩壊過程で初めて始まったというようなものではなくて、あらゆる歴史的な段階においても税制改正の基礎ということでは当然そういう負担の不公平感の高まりというものがあったわけだと思います。  それで、最初の問題につきましてはちょっと歯切れが悪くなりましたが、一般消費税の導入によって例えば所得税法人税などの減税をし、負担感の軽減に役立つかどうかということになりますと、まさにおっしゃったように、一般消費税を導入すれば物価が上がるでしょうから、そういう意味では、物価騰貴というのはインフレーションと同じような形ですべての広範な財貨が高くなればそれだけ負担がふえるわけですから、結局生活が楽にならないというような形でプラス・マイナス・ゼロになるんじゃないか、こういうことですが、こういう一般消費税の欠陥、負担逆進性だとか物価騰貴促進作用だとか、こういうものを是正する方法があるかどうかというようなことになりますと、それはいろんなやり方で諸外国でもやっているんですね。それは、例えばアメリカの場合は州、市町村、地方段階でセールスタックスがございますけれども、セールスタックスを特に低所得者の場合にはその負担分に当たるものを払い戻すとかいうようなことをあわせてやっている。  それから、先ほど私がこれはぜひ取り上げていただきたいと申し上げているのは生活必需財貨——生活必需財貨というのはもっといろいろありまして、特にイギリスの例で申し上げますと光熱費一般ですね。それから新聞、雑誌、食料品、それから衣服の中でも児童用の衣服というのはサイズで決めたものですから、それは小さいサイズの人だったら免税特権が得られるというのは不公平だという是正議論が起こりましてその選定が非常に難しいわけですけれども、そういうものを実際ゼロ税率を適用して、輸出と同じようにそれまでにかかった税は全部もうかけないというような仕組みをはっきりつくれば、それほど大きな負担逆進性はあらわれないだろうということは考えられますね。それしかないんではないか。  一般消費税はだめだというわけでしょう。それから包括的、網羅的、普遍的で大規模な消費税、投げ綱をかけるような形で取る税はとらないというようなことを言っているわけですから、それを逃がれる唯一の道はイギリス型の付加価値税をとり、これを例えば福祉目的税というような形で構成する、そういう形になれば話が随分違ってくると思います。そこまでいくかどうか、税調なんかの審議で。  それから、財政運営財政再建に関して赤字国債削減が遅々としてしか進んでいないのは手法に無理があるのではないかということで、その無理というものがどういうところにあるかというと、一番大きなつまずきというのは、昭和五十三年の秋の段階で一般消費税を持ち出して、これ以外に財政再建の方途はないというような形で議論を固め、それでそれを提案しようとしたその段階の最初に無理があったんじゃないかという気がするんです。それで、結局それがだめになるとすると、あとはもう大型間接税なんというのはとれないということを前提にして、もっと地道に現行税制の手直しを早くからやる、それから蔵出の節約というのはもっと早くからやるということをやっておればよかったのではないかと思います。  昭和五十三年、臨時異例財政運営なんということでやり始めた手法、国債依存度三五%なんということをやり、それを二、三年も続けたという、そういうやり方が通常の財政下のセンスとしては甚だ疑わしいようなものを認めだというような点が一番大きな原因じゃないかというようなふ うに考えております。
  28. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 先ほど先生は、昭和六十一年度予算について、これは財政危機意識欠如の予算であるという大変厳しい批判をされました。一方、先生が「金融財政事情」というところに書かれた文章によりますと、「一歩一歩ではあるが、財政再建目標への接近がなされている。」という評価もしておるんですね。文章で見ると、それは国債依存率の低下だとお見受けするんですが、しかし先生の先ほどのいろんなお話、また現状、これはやっぱり地方債への肩がわりとか表面的なつじつま合わせとか、あるいは赤字国債借りかえ、国債整理基金繰り入れ停止等々、むしろ私は、これはこの再建目標から遠のいているんではないか、こういうぐあいに思うんですが、その点について、この文章との関係で先生のお考えをお聞きしたい。  第二点は、これも先ほどのお話で、減税財源が検討されないままの減税論議についての批判もございました。先生としては、その際言われておったことは、どの層に減税効果がいくのか、その財源をどこから持ってくるのかについてやはり検討すべきだとおっしゃいましたが、その点について先生自身のお考えですね。我々ですと、軍事費を削れとかあるいは大企業への租税特別措置などをやって財源持ってこいと言うんですが、先生は先ほどは付加価値税導入に対する批判で、それは減税財源すべきじゃないと、こうおっしゃいました。そうすると、また一方、現在の財政状況では大きな減税財源はないということになってしまうんですが、その辺のお考えをお聞きしたいと思います。  それから第三点は、先生の別の雑誌での文章で、大型間接税導入を支持する論拠の一つ所得の平準化があるという、それについて批判をされています。この所得の平準化につきましては、午前中の参考人はこれを是認する見解を述べられたんですが、先生はそれについて批判的な御見解のようです。結局、資産格差等もあるということで、この所得の平準化について先生がそういう批判的な見解を述べられる論拠をもう少し詳しくお話しいただければありがたい。  以上、三点です。
  29. 佐藤進

    参考人佐藤進君) ちょっと私、耳が遠いというようなこともございまして、論点を正確に把握できたかどうか疑問なんであります。  「金融財政事情」という週刊雑誌に予算の批評を書きました論点というのは、私がきょうの報告の最初に言ったことをもっと縮めたような形で言ったわけで、結局、財政再建目標というものは、六十五年達成というようなものは不可能なんである、それで何か大きな再建措置というようなものを無理に考えるということよりは、ともかく一歩一歩国債依存度を減らしていくというようなやり方をとって今まで来たのだし、これからも大きな改革なんということは実際できない状況にあるわけですから、そういうことを考えて、現行制度をもう少し見直すという形で特に税の問題は考えざるを得ないのじゃないかというのが私の基本的な考え方です。  それで、減税というものの必要性については私は決して否定的ではございませんし、特にサラリーマンが大きな重税感を持っているということはそのとおりだというふうに考えますので、サラリーマン減税といっても、いわゆる給与所得者の中にはかなり高額の、重役、経営者の給与を得ているというような人もございますし、給与所得者の中でも五千万円以上の年所得を得ているなんという人もいるらしいです。例えば五千万円以上の層になりますと、限界税率というのは六〇%ぐらいになるわけですね。そういう人が二万人ぐらいいるというんです。それで、そういう人たちに減税するというのは、いろんな意味で、そういう人たちが給与所得として得ているもののほかに株のもうけだとか大きな資産の所有者なんというのであるとすれば、もっとやっぱり適正な負担を求めるという態度をとるべきである。  減税層というのをどこに限定するかということにつきましては、これは私新聞情報でありますけれども、参議院の予算委員会で、二月の十四日、中曽根首相は年収三百万円から四百万円までの所得層の負担を減らすことを重点に置くというようなことを言ったという報道ですね、これは僕は非常にいい方向である。というのは、大体この三百万から四百万円というのは民間の給与所得者の年収の平均なんですね。民間の給与所得者の年間の平均というのは大体三百五十万円ぐらいなんです。それで、平均あるいはそれ以下というような人に重点を置いて減税するというのは、多数の勤労者のためになることなんである。ただ、五十九年度の税率改正、僕は税率改正などということは余り軽々しくやるべきでないというふうに言ったんですけれども、そのねらいというのは中高所得層の減税なんですね。中高所得層ということで、例えば千五百万円ぐらいまでの人というようなことをねらって減税をやるということなんですけれども、そういう人たちが果たして負担に耐えられないほど重い負担をしているのかどうかというと、それは僕は非常に疑問だというふうに考えます。  一番よくわからないのは、それぞれの負担率の層にどれくらいの人が配置されているかという材料を政府でちゃんと持っていると思うんですけれども、出さないわけです。それでこの層に減税がいくんだということをはっきりさせないと話が進まない。その場合の考え方というのは、平均所得層というようなもの、平均的な給与というようなものを基準にして、そこかあるいはその下ぐらいをねらうという、こういうことであればいいと思います。  それから、付加価値税の導入というのは、僕は税調で例えばそういうような方針が出たとしても、そんな六十二年から始まるなんということはあり得ないと思います。税制改正というのをそんなふうにやるのは全く邪道であって、大体イギリスだとかドイツだとか、いわゆる大税制改革というものを見ますと、三年か五年後に完全実施するというのでそのタイムスケジュールを示すんです。西ドイツで大税制改革というのを一九七五年にやったんですけれども、それの委員会の報告が数年がかりで出、それにおくれて政府案が決定されたというのが七一年なんですね。四年後に所得税減税をこれだけやりますというスケジュールをその四年前に出しているんです。それから法人税の場合なんか七七年に、六年後に実施に移しているんです。イギリスの場合では付加価値税をEC加盟に応じて導入せざるを得なかったわけですが、この場合は二年前です。政府が決定をして、それをブルーペーパーというんですか青書で示したのは七一年。それから、より具体的なホワイトペーパーを出したのが七二年です。それで七三年の四月から実施。だから、六十二年に大規模税制改革を一遍にやるなんということは全く考えられないと私は考えているんです。  ちょっとお答えになったかどうか……。
  30. 井上計

    ○井上計君 いろいろと参考になりますお話、ありがとうございました。  三点お伺いをいたしたいと思いますが、先ほど先生のお話の中に、赤字法人に対する外形課税も考えるべきだというお話がありました。したがって、それはどういう方法か。赤字法人に対する外形課税をという場合、その方法はどういうふうな方法をお考えであるのか。同時に、そうなりますと、赤字個人事業所についてもバランス上当然考えていかなくてはいかぬと思いますけれども、どういうふうなお考えであるのかということ、これが第一点であります。  それから、それと関連をいたしますけれども、大型間接税、付加価値税等につきましての導入については、先生のお説よくわかりました。ただ、財源という面で考えますと、実は私個人がそれにあえて賛成とかそういう方法をということじゃありませんけれども、一部に、大分以前からでありますけれども、財源が必要であるのならある程度やむを得ないが、しかしそれの徴税の簡素化のために一律定率の売上税という声もあるわけでおりますけれども、売上税を仮に導入したとします と、今のこの赤字法人あるいは赤字個人事業所の外形課税的なものがそれによってある程度補完される、こういう考え方もありますが、あわせてそういう点につきまして先生のお考えをお聞かせいただきたい、こう思います。  それから次に、先生のお説の中に、ちょうだいをしたこの先生の論文の中にございます、きょうお話にはなかったようでありますけれども、配当軽課税の問題であります。昭和三十六年、この配当軽課税が制定されましたころと現在とはもう大幅に企業内容、企業の体質が変わっております。特に、財テク時代なんと言われるときに、企業の金融収益が相当な企業の財務内容等のウエートを占めておるというふうな点から考えると、当然配当軽課税の見直しがもっと論議されていい、こう思うのでありますが、しかし従来我々論議いたしますと必ずそこに出てくるのは法人擬制説の反対論であるわけでありますが、先生のお考え、配当軽課税率の見直しの中で法人擬制説に対してどのような諭旨をお持ちでありますかお伺いしたい、こう思います。  それからもう一点、これは地方税の問題でありますけれども、先ほどの赤字法人の外形課税と同じようなことでありますけれども、現在事業税についてのいろんな問題があります。各地方自治体でも法人事業税については当然これは外形課税にすべきであるという、これは賛否両論がありますけれども、赤字法人がふえ、同時にまた多くの従業員を抱え、多くの敷地を持ち、地方の公共施設を多く利用しておる大法人の赤字がふえておる中で、確かに現在の事業税のあり方はバランスを欠いている。ある意味では不公平であるというふうな論議もあるわけでありますけれども、この地方税の事業税、地方事業税についての外形課税、これについてはどういうふうなお説でありますか。以上お伺いをいたします。
  31. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 赤字法人が法人の五〇%を超え、しかもそれが次第にふえるというような傾向にあるという状況のもとで、これが課税逃れというような形でつくられた赤字ならば当然それに対して適正な課税をしなければいけないということで、これに対する課税の方法としては当然、広く言えば外形標準を導入するということになると思いますし、先ほどおっしゃった付加価値標準なんというのもこれは外形標準の一つになると思います。資本金基準で取るとか、それも一つの外形標準として考えでいいのではないか。それは戦前においてあった制度ですね。  それから、地方税の中にあります均等割というやつを国税のレベルでも取るということも当然考えられるでしょうし、それの根拠づけということになると当然、企業、特に法人企業は国家及び地方団体のサービスを受けているから、それは利益がゼロでもサービスはかなりの規模で受けているならそれに対する見返りを払うべきだという根拠で、その根拠は特に地方税の場合に大きいというふうに考えます。  付加価値税よりは一律定率の売上税。これは小売売上税でしょうか、それを導入するというのは十分考えられることであるというふうに思いますね、卸売にするか小売段階にするかということであれば。ただ、その売上税で、しかもさらにサービスをその中でつかむということになれば、新しい社会経済的な構造の変化というふうなものにも対応できると思いますが、サービス課税を含めた売上課税ということになりますと、やはり例えば地域の実情について詳しく情報を集め得るところの地方レベルの方がいいとか、そういう形でそれを国税にするか府県税にするかあるいは市町村税にするかというような選択はございますけれども、いわゆる日本に存在しています個別消費税あるいは特殊消費税の集合体である物品税なんかよりは売上税の方が簡素である、徴税は難しいと思いますけれども、簡素化ということであれば、いろいろな雑税的なものを整理してこういう一般的な売上税を設けるということは十分考察の対象になるというふうに考えます。  それから、企業課税の基本につきましては、私はどちらかと言えば法人実在説の立場が法律的で、法の構成から言いましては、これはやはり擬制説というのはおかしいですね。やはり法人というのは権利義務を一応持った納税主体なんです。国民というものの中には個人だけじゃなくて、法人も特に個人と異なった分野を除いて権利義務を同じように持っているわけですね。それで、それは独立の納税主体として納税する必要がある。  配当軽課というのは、その始まりは西ドイツの例に基づいて、資本市場対策あるいは有価証券市場を振興するというような目的でこれを三十六年に導入したわけですけれども、その導入効果というものは、まあ余りそんなものはあってもなくても同じであるとか、配当の方は支払い配当の段階の軽課ですけれども、今度は配当を受け取る方ではその控除割合削減されるというようなことを伴いますから、結局法人の方が有利になって株主の方は不利になるというようなことでちっとも資本市場振興に役立たないですね。簡明化ということで言えば、当然これ一本にして法人税は一本にする、それは差し支えないんじゃないかというようなふうに考えます。  それから、地方税のうちの事業税に外形標準課税である付加価値を導入するというのは、これはシャウプ勧告の結果我が国地方税法に法定され、結局それが廃止に至った根拠というようなものは、やはり大きな負担の変化というもの、特に納税者の方で負担が重課される分野の人が大反対したからというようなことなんでしょうけれども、根拠としては非常によく説明されたものでして、国税も地方税も同じ税源に重複して課税するのはよくないじゃないかというのが一つです。それから、国税が改正されれば事業税の方もそれにはね返るようなんでは何か自主性がないんじゃないかというような、固定資産税は市町村の税として独立税としてあるわけですけれども、府県にはいわゆる独自の財源というのは主たるものは何もないわけですから、付加価値税を与えれば十分独立税源として都道府県が自主的に活動する財源が得られるんじゃないか、こういう根拠ですね。  それは、それをどういうふうに考えるかという問題がありますけれども、私などは大賛成で、やはり地方の時代というのにだんだんなってくるわけですから、国が負担をできるだけ減らしていって地方に事務事業を移譲するというような場合、当然地方レベルの税源を強化するということが必要になりますから、そういう意味ではぜひそれを推進していただきたい。都道府県知事会なんというので大体成案にまで、条例案までつくってやろうとしたというような経緯も昭和五十三年当時ありますし、そんな方向を私はむしろ支持をしたいというふうに考えておるということです。
  32. 井上計

    ○井上計君 ありがとうございました。
  33. 青島幸男

    青島幸男君 二院クラブの青島でございます。有益なお話をありがとうございます。  私、時間がございませんので端的にお尋ねいたしますけれども、財政はもう危機的なまでに逼迫をしておりますし新たな財源もないということで、思い切って増税を考えなければ財政の建て直しはできないだろうというような御意見を午前中の参考人からも伺いました。しかし、どこにその財源があるかと言えば、直間比率をもう少し考え直す以外には適当な線がないんじゃないかというお話も伺いました。  我が国国民の生活様式がおおむね都市型になっておりますし、大部分の人間が中流意識を持っているというような実情からかんがみまして、新たな間接税を設けるということでこの危機的な状況を脱するのはいたし方がないという先ほどの参考人の御意見もあったんですけれども、しかし流通の過程で付加価値税を設けるあるいは売上税を設けるにしましても、手続が煩瑣になるばかりで実効がなかなか上がらないんじゃないかという不安もございますし、それから実態を捕捉されるという不安があってやりにくいと反対もあるようでございますけれども、諸外国の例なんかと照らしまして、どの程度実効が上がることが考えられるか、その点だけお尋ねしたいと思います。
  34. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 現在の我が国財政は危機的な状況にあると言うこと自体が大きな問題でありまして、何しろだんだんとよくなっているような形で少しずつ改善され、財政再建目標は六十五年は無理かもしれないけれども、もう少し延ばせばできるというような状況であれば、そんなに大騒ぎする必要はないんじゃないかということで、そこからすぐ増税というような問題が出てこない。それから、増税だからどこから財源を調達するかというのがすぐ一般消費税なり売上税なりに結びつくという状況には、私は現在はないというふうにむしろ考えております。むしろもっと基本的な問題を長期的な角度から、財税制改革なら財税制改革というものをむしろ何年後に達成し、それをどういうスケジュールで実現していくかということを明らかにすべきで、余り財政危機だ、財政危機だなんということを言いながら実際は何もやっていないというような状況をかえってつくり出すのは危険だというふうに考えます。  現在の制度がどこが悪いのか、だれが一番改革を必要としているのか、そういうことをもう少し見きわめると、これは非常に言い過ぎかもしれませんけれども、私は青年時代シャウプ勧告を迎えたわけですが、少なくとも昭和二十四年当時などは大変ないわゆる重税感社会一般に、例えば税を払えなくなって倒産しただけじゃなくて首つりをした、そういう事業者が出てきた。  それから、財税制改革というのはもっと昭和の初め、昭和十五年の財税制改革の前に、農村の不況がある上に農家では戸数割というものを到底払えなくなって自分の持っている米を全部売って、さらに追加的に第二期の納税をやるのはどうしたらいいかというようなことをやったり、青島さんは小説家でもあるわけですから、昭和万葉集というのをごらんになりますと、昭和万葉集の昭和五年、六年ごろに国民の暮らしというのがいろいろありまして、納税の苦しさをうたった歌は幾つも出てきますね。農民がもう重税にあえいでいるという状況なんです。今は一般に国民の生活水準は非常に豊かになって、払うものもたくさんありますけれども、それによってもう大変な社会不安がもたらされるというような状況がどうかというような、こういうような問題をもっと根本的に考えていただきたいというようなことです。
  35. 青島幸男

    青島幸男君 ありがとうございました。
  36. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 以上で佐藤参考人意見聴取は終了いたしました。  一言お礼申し上げます。  ただいまお述べいただきました貴重な御意見は、先刻申し上げましたとおり、今後の総予算審査参考にいたしてまいりたいと存じます。  本日は、大変お忙しい中、本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして重ねて厚くお礼を申し上げます。どうぞ御退席ください。(拍手)     —————————————
  37. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 香西泰参考人に一言ごあいさつ申し上げます。  大変お忙しい中、貴重な時間をお割きいただき、本委員会のために御出席を賜りましてまことにありがとうございます。委員会を代表して心から厚くお礼申し上げます。  本日は、忌憚のない御意見を承りまして、今後の審査参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、四十分程度意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただく要領で行いたいと存じます。  それでは、香西参考人お願い申し上げます。
  38. 香西泰

    参考人(香西泰君) 東京工業大学の香西と申します。  本日はこの予算委員会にお招きいただきまして意見陳述せよということでございます。大変光栄に存じて参ったわけでございます。  私は、佐藤先生のように財政学者というわけではございませんで、マクロ経済一般を専攻している人間でございます。したがいまして、財政税制のあるいは社会保障制度の細かいテクニカルな議論というよりも、むしろ日本経済全体の中で財政税制をどう考えていったらいいかというような点について意見を申し上げさせていただきたい、こういうふうに思うわけでございます。  最初に、日本経済現状課題、その中期的な展望といったようなところから少し議論を始めさしていただきまして、その後財政の問題、税制の問題、そしてさらに国際的な協力の問題、こういったようなことを順次触れさしていただきたい、こういうふうに思うわけでございます。    〔委員長退席、理事桧垣徳太郎君着席〕  日本経済が今後発展すべき中期的なねらい、方向というものにつきましては、活力ある福祉社会を建設しなければいけない、あるいは国際社会との調和や国際社会への貢献を果たさなければいけない、こういう課題日本経済に課せられている。この二つのことについては、恐らく非常に幅広い国民的な合意が既にできているように思うわけでございます。しかも現状におきまして、この二つの目標、つまり日本の国内で活力ある福祉社会をつくるということと国際社会に協力していくということとは必ずしも矛盾しないわけでございまして、具体的には国内需要を拡大していくという、内需振興をすることが一方で国内の福祉社会の建設にも役立ちますし、あるいは国内の福祉社会を建設するような形で内需を振興すべきでありますし、そのことを通じて国際社会にも日本の市場を拡大する、あるいは貢献していく、こういうことができるわけでございますので、この目標については非常に幸せな状況に日本経済はある。もう目標は定まっておって、その目標は必ずしも矛盾していないわけでございますから、一意そこに専念すればいいのではないかというわけでございます。  このように、目標としてはまことに結構なことでございますけれども、それならば現実の日本経済においてこの目標を達成することがうまくいきそうかどうかということを考えてみますと、実態はなかなか容易でないという感じがいたします。内需拡大ということが盛んに強く言われておりますけれども、私の見るところでは、国内需要の実勢というものはほっておきますと余り強いものにならないのではないだろうかという気がいたします。一九八〇年代に入りまして、大体日本の内需だけで経済成長いたしますと三%がやっとというぐらいの感じでございます。昨年度あたり日本経済は五%とか四%というような成長率を示したわけでございますけれども、これはアメリカが非常に高い成表をした。一昨年でありますと、アメリカが七%ぐらいのアメリカとしては超高度成長をしたというようなこともございましたし、あるいは異常なドル高、一時二百六十円までまいりました。そういう特殊な二つの外的条件があったときに初めて日本経済は五%、四%という成長ができたのでございまして、そういう条件がないときの日本経済成長率というのは、なかなか三%以上に乗っていくということが難しいような気がするわけでございます。  それはなぜそうなっているかというふうに考えてみますと、一つは、国内需要ということを申しましても、現在の日本の企業というものは既に非常にもう世界的な企業になっておりまして、国内の市場で商売をしようという企業は率直に言って余りない。もう全世界のグローバルな観点から経営を考えるということが定着いたしております。したがいまして、設備投資計画あるいは海外投資計画というものを考えましても、大体もう世界市場を相手に商売するものだというふうになってしまっておりますので、これは国内需要の方に目を向けさせるということはなかなか難しい。それをさせようとすればかなりいろんな条件整備が必要なのではないか、こういう気がいたすわけでございます。  それからまた、消費需要あるいは住宅需要ということももちろん潜在的には非常に大きいわけでございますけれども、実際の問題といたしましては、例えば現在でございますと、労働需給関係というのはなかなか引き締まらない。現在非常に技術が進歩しておりまして、そういう過程で、いわば人減らしのための技術というのは非常に発達している。メカトロニクスとかオフィスオートメーションとかファクトリーオートメーションとかいうようないろんな省力化技術が発達しておりますから、どうしても労働需給というのは緩和基調になりがちである。そこへもってきまして女性の社会的進出が非常に目立っておりまして、例えばパートタイマーなどの供給余力、労働の供給余力というのは非常に大きい、こういう状況がございます。  したがいまして、労働需給が基本的に緩和している、傾向的に緩和しているという状況にございますので、これは労働組合が力があるとかないとか、頑張るとか頑張らないということの前に、まず名目所得伸びはそれほど高いものにならない。具体的に言えば、春闘での賃金上昇率というのはそんなに高くは経済情勢からいってどうもなりそうもない、こういう条件があるわけでございます。そうなってまいりますと、やはり内需の拡大ということをいたすためには、かなりの政策努力によってこの成長パターンを変えていくということが必要なんではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。  実は、日本経済は非常に活力がございまして、非常に成長力は高いんだというのは事実でございます。非常に適応力があるわけでございますけれども、この適応力というのは、日本経済は低い成長でもうまくやっていく、高い成長でも困らない。五%もうまくいくし、三%なら三%で何とかバランスをとっていく、こういう意味で非常に柔軟にできているわけでございます。これは少してき過ぎていまして、そのために日本経済は低成長に甘んじてしまうという可能性がこれまで見られたのではないか。しかし、最近の世界経済の情勢を見ますと、日本経済が低成長に甘んじていていい時代というのはもう終わったように思います。つまりアメリカが非常に大きな減税政策とかドル政策といったようなことで世界経済を引っ張ってきた、そういうときには日本は受け身で、低いなら低いなりに、高いなら高いなりに適応するということでよかったわけでございますけれども、アメリカ自身財政赤字削減するといったような方向に出ております。あるいはドル高を是正するという方針でアメリカが大きく政策を転換してまいっておりますので、日本としても自主的に世界経済のことを考えながら内需を自分で拡大していくということが現在求められるに至ったのではないだろうか、こういうふうに考えるわけでございます。  ところが、その内需を拡大する場合、問題は、その手段の点でいろいろなジレンマがあるということでございまして、例えば金融政策というのを考えてみますと、国内需要のためには金利を下げなければいけないわけでありますけれども、余り金利を下げ過ぎると円高が崩れる、円安になってしまってはかえってぐあいが悪い。円高のためには一時金利を引き上げようとしたこともあったわけでございまして、簡単に下げられないといったような問題がございます。  それからまた、財政政策という点につきましては、御承知のように、日本では現在赤字財政赤字額を減らしていく、こういう再建目標を持っているわけでございますけれども、円高とか物価安定とか、円高で物価安定の中で国内需要が伸びないと税収がふえてこない。そこでまずます財政制約が強まるという面が一方で出てまいりますし、他方で内需振興のためにはもっと支出拡大をしたいのだけれども、この再建目標赤字を減らすという目標とそれが矛盾してくるのではないか、こういうジレンマが現在あるわけでございます。問題は、このジレンマをどのような形で解決していくのかということが今後の日本経済にとっての、あるいは財政政策にとっての最大課題であるというふうに考えております。  その場合、一番問題が少ないと申しますか、だれが考えてもそれができれば一番いいというふうに考えますのは、行政改革とか規制の撤廃、デレギュレーションとかあるいは民間活力を活用するという形で、財政負担をしないでより高い日本経済の成長を実現できるということがありますと、これは政策的に言えば一番ありがたい政策であるということは問題がないわけでございます。私もぜひその方向で行政改革、デレギュレーションあるいは民間活力の活用という方向で発展していただきたいというふうに思うわけでございます。思うわけでございますけれども、一方でこういった政策効果というものについては必ずしも直ちに効果が出るというものでもないということがあろうかと思います。  長い目で見れば、行政が効率化し、規制が撤廃されて民間活力が活用されるということはよいことでございますけれども、それが直ちに内需振興にどこまでつながるかという点は問題でございまして、むしろ本来財政がなすべきことをしないためのいわば言いわけとしてとりあえず民間活力を活用するという言い方をしているということになりますと、かえって問題が先へ延ばされてしまう、こういう心配もあるわけでございます。そういう意味で、また民間活力と申しますけれども、民間企業はもうかることであれば既にやっているはずでありますから、民間活力を活用するというからにはそれに対して備える、その条件整備をする、そういうことが必要なわけでありまして、そういう条件整備のためにはやはり財政の出番と申しますか、財政による条件整備によって、それと相まって民間活力が活用されるということになるのではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。  そういう観点から財政の問題について考えてまいりますと、私は財政政策というものを余り短期的に、例えばたまたまことし景気が悪いとか、円高不況だからといったような非常に短期的な景気刺激のために財政を使うということについてはいろいろ問題もあるように思っております。むしろ短期的な景気刺激という点でいえば、先ほど申しましたように、日本経済は非常に柔軟でありますから、ある程度の弾力性を持っているわけでして、むしろやはり財政のあり方としては長い目で見て日本経済成長力を引き出す、あるいは長い目で見て日本経済内需拡大型の発展というものを保証する、そういうところへ民間の目をもっと向けさせるというような形で財政というのは活動すべきであろうと思います。もちろん短期的な景気政策というものを否定するわけではございませんけれども、より長い目で見た成長力を引き出す、特に国内需要の内需拡大力を引き出すということは、それが財政仕事なのではないだろうか、こういうふうに思っているわけでございます。  財政というものは、もちろん規律なしに野方図でやっていいということにはならないわけでございまして、その意味では、財政に対してある程度たがをはめる財政再建といったようなものを目標として掲げるということ自体は私は結構なことだとは思いますが、しかし、これもやはり長期的な観点で考えるということが非常に必要なことではないかと思います。  現在、日本社会は急速に高齢化社会に接近しつつあるわけでございまして、そういった場合、将来高齢化社会がどんどん現実化してまいりますと、どうしても社会保障、年金、医療といったようなところでは非常に負担の増加が大きくならざるを得ない。このままいけばかなり大きな負担が将来的にはくる、こういうふうに考えるべきだろうと思います。現時点で財政赤字が幾らあるかとか、公債発行が幾らあるかということよりも、むしろ今後二十年、三十年後の高齢化社会になったときに、実は財政が今のままでいいのかどうか、今の制度でいいのかどうか、こういうことの方がはるかに大きな問題でございまして、現実の、現在時点で例えば公債の発行が多いか少ないかといっても別に公債の消化に困っているとか、公債価格が出し過ぎて暴落して困っているということではないわけでありますから、そちらの方はそれほど差し迫った問題だというふうには私は考えておりませんで、むしろより長期の観点に立ちますと、やはり高齢化社会がだんだんやってきたときに、二十年後、三十年後に備えて今から社会保障制度をちゃんとしたものにしておく、こういうことが一つ重要なポイントではないだろうかというふうに思うわけでございます。  これは一九七〇年代における我が国財政の拡大も社会保障を中心としました移転支出、つまり国民所得の再分配のための費用というものが非常に急増してきているわけでございますが、今後高齢化社会を迎えますと、それがほっておけばかなりより大きなものになる。ところが一方で、年金にいたしましても医療保障にいたしましても、これは制度でございますので、急に変えては、人人が自分の老後のつもりで積み立てたものが急になくなるというようなことになりますと非常に混乱を起こすわけでございます。そういう意味で、社会保障制度の改革といったようなことはかなり長期的な視点で、しかもこれは先のことだからといって、先になってはどうにもならなくなるわけでして、今から制度をちゃんと変えていくということが必要ではないかと思います。  この点、率直に言えば、社会保障については私はやや緊縮的な考え方、つまり負担と受益のバランスというものをもっととった方がいいというふうに考えているわけでございまして、ある意味で負担も引き上げると同時に受益は少しずつ抑えぎみにしていった方がむしろ長い目で見た財政バランス、日本経済のバランスのためにはいいのではないかと思います。余り大きな社会保障を約束しておりましても、例えば年金について非常にいいことを約束しておりましても、他方で年金パンク論などというのが非常に世の中にはやってしまうというようなことですと、これは長い目で見た生活保障にならないわけでございまして、むしろ控え目であってもこれだけのことは間違いなくできそうだということを保障するという姿勢でいった方がいいのではないかというふうに思います。日本は、別に大規模に軍備を拡大しょうと思っているわけでもございませんし、公務員数をこれからどんどんふやそうと思っているわけでもないわけでございまして、長期的に見ればやはり社会保障のところが一番大きな財政問題になってくるというわけであります。私は、その点逆に言いまして、社会保障については負担国民に求めることも合意を得ることもより容易であるというふうに思います。  その意味では、例えば社会保障についてもっと独立採算的な制度を取り入れていく、社会保障に必要な資金は一般の公務サービス等とは切り離してそれ自体で一般会計から金を入れるということではなくて、保険料とその支払いとが長期的にバランスしていくといったような形のものを、そういう制度を今から設計しておいた方がいいのではないだろうか、こういうふうに私は考えているわけでございます。そしてその一方で、現在の財政再建目標ということにつきましては、やはり過度に目標を固定し硬直的に考えるということについてはもう少し弾力的に考えていいのではないだろうか。赤字公債を漸減していくということ、赤字公債の発行額をだんだん減らしていくということは私も賛成いたしますが、例えば建設公債といったようなものについてそれも公債全体として無理やり、無理やりといいますか、強力に抑制するということが必要なのかどうかという点については疑問に感じるわけでございます。  我が国は幸いにして現在まだ貯蓄率が高いわけでありまして、むしろ高過ぎでその資金が海外投資に向かうことが例えばドル高を呼んでいたとか、貿易摩擦の原因になっているとか、いろいろ問題も出てきているわけでございます。そして、高齢化社会が現実のものとなるためにはまだ十五年、二十年の時間的余裕があるわけでありまして、この時期は将来高齢化社会に備えて今のうちにいろんなストックをむしろ充実させておくべき時期に当たっているのではないかというふうに考えます。  その意味で言いますと、社会資本整備とか、あるいは後からちょっと触れたいと思いますが、国際協力とか技術開発とか、そういった非常に将来収益を生むべきものにつきましては、我が国貯蓄率が高くて高齢化社会がまだ来ていない、だんだん私ども年をとっておりますけれどもまだ働ける、こういう時期にはそういった将来に残るストックをやはり充実させるべぎでありまして、これを単に海外に投資をしてしまうということでは将来の国内の生活がむしろ貧しいものになる危険があるように思うわけでございます。  そういうふうに考えますと、例えば公債の発行残高というものを無理やり減らすということではなくて、GNPに対して公債発行残高がそれほど大きなものにはならない、現在四割とか五割、これは計算によっていろいろ違いますが、国債発行残高そのものですと百四十三兆に対して三百三兆ぐらいですか、そういったような四〇%台というようなバランスでございますけれども、これを適度にコントロールする。野方図ではよくないわけでしてコントロールする必要はありますが、経済成長に見合って公債が発行されていくということ自体までやめてしまうということは必要がないのではないか。せっかくの日本の貯蓄力、現在ある貯蓄力を我が国の国内における社会資本整備とか、あるいは技術開発とか、あるいは国際協力といったようなものにもっと積極的に振り向けていくことが望ましいのではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。  例えば、そういう意味で考えますと、結局国民貯蓄率が高いといいますことは、国民が現在の消費よりも現在受益をしないで将来受益をしたいということを考えているから貯蓄率が高くなっているわけでありまして、そういう意味ではそれにこたえるような資金の使途を考える、こういうことが必要なのではないだろうか、こういうふうに考えております。その意味で、私は建設公債を中心にある程度の公債発行の弾力化、GNP伸びとバランスをとりながらある程度弾力化していく。弾力化したところでこれは目に見えて大規模な財政支出拡大が起こるというわけでもございませんし、いわゆる赤字といいますか、不況対策だから大急ぎで何かやるという、そんな華々しいことを考えるのではなくて、むしろ長期的に見て財政も国内の需要を引っ張る方向に回るという姿勢を示す。それによって民間活力がそちらに流れてくる。こういう環境整備という意味で、建設公債などについてももう少し弾力的な立場をとることも考えられてよいのではないか、私はそちらの方がよいのではないだろうか、こういうふうに考えているわけでございます。  ただ、そうした場合、今申しましたようなことを申しますと、結局一種の二正面作戦が必要だということを主張しているわけでございまして、将来非常に負担が大きくなると見込まれる社会保障制度等についてはこれを負担と収益のバランスをとっていくようにする。そのほか合理化のできる余地があるもの、例えば国と地方財政のバランスの見直しとか、そういった点についてはむしろ大胆な行政改革、制度改革を進めていく。その一方で公共投資社会資本建設についてはもう少し弾力的に考えていったらどうか。こういうわけでありますから、これは一種の二正面作戦論になるわけでございます。しかし、そういう議論をいたしますと、例えば大蔵省なら大蔵省の友人たちからすぐ反論されるわけでありますけれども、二正面作戦というのは実際は非常に難しいのだ、拡大なら拡大あるいは縮小なら縮小と言ってくれると、我が国の官僚組織にしましても政治組織にしましても一方向に突進するというのは非常にうまいわけですが、一方で制度改革をしてバランスをとる、他方で伸ばすところは伸ばすというのはこれはなかなか政治的、行政的に難しい、こういう批判があるわけでございます。  その批判は私も重々承知しているわけでございますけれども、しかし、これは私のように直接政治、行政にタッチしていないからそういう理想論を述べるのかもしれませんが、やはり国民的な合意を経ながら一種の二正面作戦、つまり非常に長期的な意味での財政の規律と、それからやはり内需拡大のための財政の出番というものをうまくバランスさせていくような方向に御検討いただけないものであろうかということを考えるわけでございます。  以上が財政の支出、主として社会保障と社会資本建設というもの、それに対して公債政策について多少考え方を述べさせていただいたわけでありますが、あと若干税制改革についても議論をしてみたいと思います。  私は、税制改革という点で、増税によって現在の財政危機あるいは財政赤字を急激に減らそうという考え方は必ずしもとる必要がないように思っております。確かにある時期、日本では非常に歳入欠陥が大きくなりまして三兆円、六兆円というような歳入欠陥が生じましてそれを公債で発行する。そのために公債発行が行き過ぎるのではないかという非常な危機感が抱かれたときがございましたけれども、現在は大体税収がまだ八割には至っておりませんが、そろそろ一般会計規模の八割に近いところまで、これはこれまでの政治、行政の御努力によって回復してきているわけであります。    〔理事桧垣徳太郎君退席。委員長着席〕 まだまだ足りないかもしれませんが、今後経済成長を続けていく、そして日本貯蓄率に頼ってある程度の公債発行を続けていくということでありますと、必ずしも増税によって財政赤字を消してしまえという議論には私は賛成いたしません。  日本のような貯蓄率の高い国では、ある程度公債発行があってもいいというふうに私は考えております。ただ、税の中身につきましてはもう少しいろいろ改革をするということは必要であろうというふうに思うわけでございまして、これは基本的にはやはり広く浅く税というのは取るというのがいいのではないか。例えば所得税というものは累進構造になっておりまして非常に高い。ある段階になりますと非常に重い税を払うことになるわけでございますけれども、しかし、これをもし非常に薄くでもよいから広く取ることができればかなりの減税もできる。つまり現在非常に大きく負担している一部の層への偏り、そういったものをもう少し広める形で考えることはできないだろうかというふうに考えるわけでございます。税というのは、一方で言えばこれは国民としては必ず払っていただかなければいけないわけでございますからなるべく広く取る、その一方で浅く取る、余り税を重く取らないということが必要だろうと思います。  税について、所得分配を公正にする必要があるという議論がございますけれども、我が国所得分布、特に勤労所得面での所得分布というのはむしろ国際的に見て非常に平等化しているわけでありまして、そういうかなり所得が平等に分布している中で余り累進性を強化するということでありますと、かえって負担感が非常に重くなるという嫌いがあるのではないかと思うわけでございます。もし所得分布を是正しなければいけないということであるのなら、例えば相続税とか資産課税といったような形でむしろ資産の分布の平等をねらうべきであって、所得税といったようなものについてはもう少し累進構造が緩和されていてもいいのではないかという気がいたします。  その意味では、所得税減税するということに私としては賛成したいわけでございますが、他方では、やはり利子に対する課税のあり方をもう少し公平なものにするという必要があるかと思いますし、他方で消費支出に対する税を導入するということも必要なのではないか。直間比率是正するということと利子所得についての課税を強めるということとのバランスで所得税の傾斜を緩め、所得税全体としても減税する。法人税は、今もし余力があれば多少の減税といったような形で考えることが経済バランスのためにいいのではないかというふうに思います。  なお、税制改革につきましてはアメリカにおいても現在議論が進んでいるわけでございますけれども、消費税というのはある意味で貯蓄を奨励する形になるわけでして、消費に対して税金を取るということは貯蓄を奨励する形になるわけですから、仮に消費税というものを入れるとすれば一方で利子課税といったようなものも見直す形で、貯蓄と消費と勤労といいますか、この三つのバランスをもっととっていく。これまで見ておりますと、大体間接税のウエートが非常に、下がっている。つまり消費に対する課税が傾向的に低下する。それから利子に対する課税も非常に少なくなっている。所得税のところだけが非常に大きな税金を払うような形になっているように思われますので、そのバランスを回復する。日本原則的に言えばやや貯蓄過剰傾向がありますから、貯蓄を余り奨励するといったようなことはしない方が国際的には認められやすいように思うわけでして、そういう観点から言いますと、消費税を導入するのであればやはり利子課税といったことも考えざるを得ないのではなかろうかと、こういうような印象を持っております。  最後に、やや次元の違った話になりますが、それは、この予算財政を通じてやはり国際協力ということをこれから日本としては大いに考えていかざるを得ないだろうと思うわけでございます。  昨年の我が国の経常収支黒字は五百億ドルを超えたわけでございますけれども、現在石油価格の値下がりといったようなことが起きておりまして、ことしは下手をすれば政府経済見通しを超えて石油値下がり分による黒字追加されるかもしれない。大体我が国の経常収支は、昨年あたりでGNPに対して三・七%ぐらいの黒字になったという計算があるようでございますけれども、これは歴史的に見ますと、かつてアメリカが経常収支黒字を一番たくさん出した一九四七年の数字と同じだということを、これは私が自分で計算したのではないのですが聞いたことがございます。そのときアメリカは御承知のようにマーシャルプランというのを出しまして、つまりそういう国際収支黒字を国外に、海外に還元して世界経済の順調な発展に寄与するという政策をとったわけでございます。あるいは石油の値上がりが非常に大きかった一九七〇年代におきましては、サウジなども国際金融に対してファシリティーを供与するといったような国際協調的な政策をとっているわけでございます。  我が国といたしましても、やはり国際的な社会の中で生きていくためには、国際協力のために身銭を切って努力しているということを国民自身が自覚すると同時に、世界に対しても示すということが非常に必要ではないかと思うわけでございまして、私は、そのためには例えば国際協力税というような、これは国際協力をする人に税金をかけるのではございませんで、国際協力を目的とする特別の税を考えるとか、あるいは国際協力のための特別の債券を発行するとかいったような形で、目に見える形で国際協力を充実していくということが今後の日本経済にとって非常に重要ではないかと思います。国際協力というのは非常にやりにくいわけでありまして、下手をして発展途上国の独裁政権に対してただ金をばらまくのかという批判が常に出るわけでございます。これは非常に困ったことでありますが、簡単に言えば、発展途上国で独裁国でない国を探すというのは非常に難しいわけでして、もし独裁政権に協力するなと言われると国際協力ができなくなってしまう危険もあります。  例えば、国際的な基金とか機関に協力するとか、地域協力を促進するとか何かやり方を考えて、日本が率先して国際的な公共財、世界のために役に立つことに身銭を切るという姿勢を見せることが今後の日本経済世界経済の中で生きていくための一つの重要な条件ではないかと思います。その点をやや次元が違いますが追加させていただきたい、かように考えます。  以上、簡単でございますが、私の陳述を終わります。
  39. 安田隆明

    委員長安田隆明君) どうもありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  40. 金丸三郎

    ○金丸三郎君 私は自民党の金丸でございます。  本日は、香西先生お忙しい中を御出席をいただきまして、大変示唆に富んだお話をお伺いすることができまして本当にありがとうございます。  実は、大変勉強いたしたわけではございませんけれども、二、三の先生の論文も拝見をいたしましたので、ただいまお話を伺ったりいたしまして、先生のユニークと申しましょうか、大変興味深く拝聴いたしたわけでございますけれども、二、三疑問がございましたりいたしますので、お伺いいたしたいと思うのでございます。  第一は、財政再建の問題、国債発行の問題でございます。先ほど御指摘のように、現在、六十一年度末で百四十三兆円になる。先生のお考えでは、公債の残高と国の経済の規模とがバランスをとっておればそう心配要らないのじゃないかとか、名目成長率と利子率がほぼ均衡しておればそう心配ないじゃないかという御意見のように拝聴をいたしました。現在の我が国の公債の発行を六十五年度にゼロにしたいという政府の方針がございます。これに対してはどういうふうにお考えでございますか。それから、私は、長期的な財政運営という点から言いますと、現在の時点でなかなか六十五年度に公債の発行をゼロにするとか財政の再建をやり上げるというのは恐らく不可能という見方の人が多いと思います。そういう見地に立ちますというと、先生の御意見は大変ユニークな御意見のように拝聴するわけでございますが、一体どれほどまでならば国債発行してもいいのか、そこら辺はどのようにお考えになっておりますかどうか。  それから、現在日本財政危機の状況にあるという参考人のお方と、まあそうでない御意見と、きょうは二通りございました。先生がその点もっと明確にどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、ニュアンスはわかりましたけれどもお願いいたします。  それから第二は、国の経済を成長させるための財政政策として、経済成長を助けながらそれによってまた国の財政が助かってくるような、いわばもっと端的に申しますと、税収もふえていくようないい循環をつくり出すような財政政策をとるべきだという御意見のようで、私も至極賛成でございますけれども、具体的にはどのようにしたらよろしいかということ。  それから、先ほどちょっと三%というような日本成長率は低過ぎるんじゃないか、できるならもっと高目がいいんじゃないかというお気持ちのように実は拝聴しました。私は実は別の考えを持っておりまして、人類が長く生存していくのには余り高度の経済成長はいいんだろうかというそんな懸念を持っております。しかし、我が国財政現状から申しますというと、そういうことも中期的には言えないので、やはりこれはどんどん税収もふえて、いろんな赤字も返していけるようにした方がいい。三千数百の地方自治団体の中には不交付団体もございますけれども、ことしの予算編成では深刻なむしろため息を聞くのでございます。そういう面で、国も地方財政的には相当シビアになってきておるというのが実感でございますので、今後の経済成長をどう考えていったらいいのかをお伺いいたします。  それから最後に、税制改正でございますけれども、所得税の問題あるいは法人税の問題あるいは利子課税の問題、消費税の問題といろいろ先生の御意見を承ることができましたので大変参考になったわけでございますが、先生は具体的な問題よりも長期的な視野で考えたいというようなお考えのようでございますので、税制改正のやり方としまして国民負担の軽減を図ってあげようと、これは政治家として与野党一致した考えだと思います。これが所得税減税といい、あるいはまた法人税減税にもなろうかと思います。それからもう一つは、不公平税制の問題、これももう論じられておる問題でございますけれども、これについてもそうそう異論はない。具体的な選択、実施の時期の問題で与野党でも意見を異にすることがあるわけでございますが、経済成長のための税制改正、これは若干否定的な参考人もいらっしゃいましたけれども、これについて先生はどのようにお考えになりますか。  それから、公債がもっとふえていくのは必至だろうと私は実は見ております。公債がふえますとやっぱり税金で返す以外には将来返せないわけで、そうしますと、税制改正をやらないで、景気がどんどんよくなって国や地方税収がふえればいいわけでございますけれども、そうでないとすれば、やはりふえていく国債を償還するための税収をふやす税の改正も考える必要がありはせぬだろうかと思うわけでございます。先生の公債に対するお考えに対しまして、税制という立場から私はちょっと疑問に感じましたので、その点につきましての先生のお考えをお教えいただければありがたい、このように思うわけでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
  41. 香西泰

    参考人(香西泰君) 私の方が何か座ったままでずっと聞いておりまして大変失礼いたしました。  金丸先生のような地方財政の御専門家からの御質問でございまして、私のような抽象的なことをやっておる人間がどこまでお答えできるかわかりませんが、まず順を追いまして一応私の意見を申し上げさしていただきたいと思います。  財政再建ということにつきましては、これは経済学的に言えば、率直に言って硬直的な目標を掲げられるということは迷惑という言い方をしてよければ迷惑でございます。つまりいろいろ情勢は変わるわけでございますから、弾力的に対処しなければならないということでございます。しかし、非常に大きな官僚組織、政治機構というものを動かすためには旗印が必要だと、こういう意味で、そしてまた旗印というのは一度立てたら余り変えたくない、こういう気持ちも非常によくわかるわけでございます。そういう意味で、赤字公債の発行額をだんだん減らしていきたいというそのお気持ちは、そういう形で行財政の効率化を図ってこられたこれまでの成果というものは非常に尊敬をもって眺めておりますし、また何らかの意味でそういう、経済学的に言えばちょっと無理かもしれないけれども、いわば行政的に必要な目標というものがあるだろうということについても一応理解しているつもりでございます。  ただ、率直に言いまして、六十五年にゼロということになりますと、これは六十五年が遠い間はいいんですけれども、だんだん近づいてまいりますと、例えばあと幾ら毎年やらなければいけないというかなり機械的な話になってきて、経済政策的な意味でフレキシビリティーがなくなるという問題がございます。アメリカでもグラム・ラドマン法のように、かなり機械的にやらなければできないんだという考え方もございますけれども、余りそこを機械的にやられてしまいますとかえってフリーハンドがなくなっていく。そういう意味で、私は全く個人の意見でございますけれども、リボルビングと申しますか、六十五年ゼロというふうに固定しないで毎年ある程度見直す、そして赤字公債は漸減させるという形で、率直に言えば、余りこれを遠くへ延ばしちゃいますと迫力がなくなるということもありますので、せめて毎年見直して、例えばことしで、現時点で考えれば、六十七年でゼロにしたいとか、そういうある程度目標年度を弾力化していくというようなことはできないだろうかというようなことを考えます。  それからもう一つは、絶対額をゼロというふうに考えるよりも、例えばGNPに対する比率とか財政規模に対する比率、つまり世の中はいろいろ動きますので、何か一つの絶対額を目標にするよりも、もう少し何か比率で目標にすることはできないだろうかと、こういうことを考えるわけでございます。ただ、これは行政的に必要だという面がございますので、その辺はできないとわかっていても、旗をおろすタイミングはもっと後でいいじゃないかという御議論も当然政府の立場としてはおありかと思うので、私の議論はややそういう行政的な立場を離れて、抽象的に言えば、六十五年赤字脱却ということを過度にスティックすることには反対したいと、こういう気持ちでございます。  それから、現在、財政危機かどうかということでございますけれども、私は危機はあったと思っております。つまり財政収支の見通しが非常に狂いまして二年間で十兆円の、三兆円、六兆円というような歳入欠陥が生じたことがございます。あのときはやはり危機であったわけでして、公債価格も暴落したわけでございますが、現在はとりあえず危機を脱して回復期に入っていると、こういうふうに考えでいいのではないか。したがって、むちゃはしてはいけないわけでして、ディシプリンと申しますか、節度はやはり守っていかなければなりませんが、危機と同じように厳しくやることだけが財政政策目標ではなくて、やはりだんだんと体力をつける。つまり経済を成長させながら財政の体力をつける、そういったいわば体を動かして平常にならしながら、体力もつけながら病気も治す、こういう時期に入ってきているのではないか、形容詞としてはそういうふうに考えているわけでございます。  次に、成長政策をとることによって財政収入の方にもよい影響が出てくるということを期待したいということでございます。これにつきましては、具体的にどういうことをやればよいかということでございますけれども、やはり高度成長期と違いまして租税弾性値というのはかなり低下してきたということはどうも否定できない事実のように思います。ただ、それにしても一・一というのは少し下がり過ぎているのではないだろうか。やはり経済の成長が本物だ、そしてかなり持続的に経済が成長するということでありますと、設備投資なんかもいわゆる乗数効果も人々が、例えば政府が投資をいたしましても、これは一時の景気回復策、一時の景気刺激策であって長続きしないとなりますと、民間の方ではそれに対応して投資をしないわけですね。それに対して、政府長期的に成長率を高めていくんだという方向を打ち出しますと、それならばということで民間の方もそれに対応して投資をするようになるかもしれない。そうなりますと、結局乗数効果財政が一出たときに民間のついてくる効果というのがもう少し大きくなるのではないかということが考えられるわけでございまして、高度成長期には財政がちょっと出れば民間は、政府所得倍増と言うと一〇%成長したわけですが、ああいうことは無理ですが、もう少し成長を長期的に続けるということを民間企業に納得してもらって、財政の乗数効果、したがって回り回って租税の弾力性を高めることはできないだろうか、こういうふうに考えるわけでございます。  その意味で、三番目の問題でございますけれども、私は一〇%とか七%の高度成長がいいというふうには必ずしも思いません。当時は日本世界一流国にいわば追いつく過程であったわけでございますけれども、現在は世界のトップランナーのところまで来ておるわけでございますから、これ以上どんどん追いつくために走る必要はないし、また追いつく過程ではまねをすれば追いつけるわけですから速いスピードが出るわけでございますけれども、もう世界の第一ランクになりますと、いろいろ自分で工夫しながら走らなければいけないわけでして、成長率は当然下がると思います。ただ、三%という成長率財政再建ができるのか、あるいは国際収支のバランスがとれるのかという点についてはやや疑問でございまして、日本経済は八四年、八五年に五%成長した。日本経済の潜在成長力は幾らか、三%か五%かという論争があったのでございますけれども、五%成長をしても別にインフレにもならなかったし、地価も上がらなかったし、それほど悪いことは起きていないわけでございます。そういう意味で、高度成長というわけではございませんが、三%以上高い、やはり四、五%がコンスタントに続くといったようなところをねらうことが妥当なのではないだろうかという感じを持っております。  それから、税制改正の中で経済成長のための税制というのをどのように考えるかということでございますけれども、これは税金の存在によって、何といいますか負担感が非常に強くなるとか、あるいはそれによって経済活動がゆがめられるということがない、つまり中立的な税というものがあれば、そのこと自体が経済の効率をよくするわけでして、それが回り回って成長にも役立つだろうというふうに考えられるべきだと思います。ただ、成長のためだけをねらって特にそこに焦点を当てて、例えば租税特例措置といったような形で減税をして刺激するというようなやり方につきましては、一つはかなり国際的な反響というものを考慮しながらやっていかなければいけないと思うわけでございますが、しかし、これも私は一概に悪いというふうには言えないと思うわけでして、例えば住宅とか科学技術の研究開発とか、そういったような点についてはある程度租税によるインセンティブを与えるということも残していいのではないか。そういう租税特例措置のようなものは一切廃止するということがいいのかどうか、なるべく租税特例措置のようなことは廃止して広く薄くかける方がいいという、原則はそうでございますけれども、しかし、だからといって成長のための税制といったようなことを全廃してしまうのがいいかどうかということは私は疑問で、十分選ぶべきで、かつ期間を切るべきだと思いますが、ある程度のことは残していくということも現実的ではないだろうかと思っております。  最後の御質問でございまして、国債というのはやはりどこかで償還しなければならないものではないか、そういう意味で、結局は租税の増収の必要があるのではないかというお話がございました。これは確かにそういうことがございまして、やっぱりちゃんと税金が入ってくる、だから政府として取るべきものはちゃんと入ってくるということがないと国債も安心して持てないということは事実でございます、  ただ、率直に申しまして、国民は貯蓄をしているわけでして、仮に国債が出ていないとすれば、それは何かを買っていたに違いないわけでございます。国債を買わないとしたら、その分のお金で何か別のものを買っていただろう、ひょっとしたらドルを買っていたかもしれないし、ひょっとしたらゴルフの会員券を買っていたかもしれないし、ひょっとしたら企業の社債を買っていて企業が借金していたかもしれない。結局国民の貯蓄というものがあるわけですから、その貯蓄に対して国債が余りに大きくなり過ぎて、例えば設備投資のお金が出ないということだと困るわけでございますけれども、またアメリカのように貯蓄がないところへ国債をむやみやたらに発行するというのは困るわけですが、貯蓄があってひょっとしたらその貯蓄が海外に流れ出してドル高の原因になるかもしれないとか、下手をしたら土地投機に向かうかもしれないというようなときに、むしろそれぐらいならある程度国債を持っていた方が経済はバランスするかもしれない、こういう面もあるわけでございます。  そういう意味で考えますと、やはり国債の量というのはGNPとのバランス、経済規模とのバランスになるのではないかというふうに思うわけでございまして、そして例えば非常に経済が活況を呈したときに、いわば自然増収がある程度大きくなればもちろん国債減額を図るということも結構なことであると思いますし、例えばNTTがいいかどうかわかりませんが、従来の政府資産というのを民間に移す、そうしたときにその代金で国債減額を図る。これは資産と負債が、もともと金を借りてつくった資産であるという意味で、両建てになっているような場合に面打ちしておいた方がきれいにいくというようなことで国債減額を図るということも望ましい場合もあると思います。それからまた、こういうことはなかなかないかもしれませんが、何かの異変で非常に大きな増収があったときには国債を減額した方がいいという経済情勢もあり得ると思うのでございますけれども、現状のような状態の中で例えば三%成長がなかなか五%に上がり切らないようなときに増税をして国債を返すことがいいかどうかという点はやや疑問ではなかろうか、このように考えているわけでございます。
  42. 安恒良一

    ○安恒良一君 私は日本社会党の安恒であります。  香西先生の貴重な御意見をお聞かせいただきまして大変ありがとうございました。なお、先生がお書きになりました「ESP」の「六〇年代財政政策課題」と、「経済評論」にお書きくださいました「昭和六〇年代の日本経済」、こういうものを読まさしていただきまして、さらに本日の先生の貴重な御意見について若干質問をさせていただきたいと思います。  まず最初に、先生から財政長期的に見るべきである、そして二正面作戦と、こういうことで成長のための財政政策についても述べられました。私も大変参考になったわけでありますが、その中でただ一点だけ大変気になりますのは、いわゆる個人消費伸びの中の賃金の名目所得は高くならないんだ、労働需給が非常に問題があるからと、こういう御指摘で、個人所得伸びについてほとんどまあ私流に言えば一言をもって切り捨てられたように思うのでありますが、今私は我慢の哲学というのを読んでいるんですが、日本の財界の稲山さんを中心にする我慢の哲学、また中曽根さんの臨調行革路線、こういう路線のもとでここ数年間賃金が停滞をしている、公共社会サービスがカットされている、福祉がカットされている、そして貯蓄アニマルになっている、こういう生活状態が私は我慢の路線の合成物だと思っておりますが、それが日本の内需不足、そして外需依存型の成長、その結果円高、成長減速、そして国内的にも国際的にも今孤立しつつあるということは事実だろうと。そこで、ライフスタイルを転換をしてみようじゃないかということの提起は極てめ重要ではないだろうか。例えば労働時間を含む労働生活のあり方、教育、カルチャーを含む地域社会生活のあり方、私的消費生活と社会公共サービスの組み合わせのあり方を含むいわゆる生き方を変えたらどうだろうか、二十一世紀に向けて。この点について先生のお書きくださいました論文なり今の御主張の中では全然触れられておりませんので、御意見をお聞かせ願えれば幸いだと思います。これが第一点であります。  第二点目は、財政運営について、先生は、きょうは赤字財政をそんなに心配しなくてもいいんだ、問題は赤字のコントロール、もしくはきょうは「たが」というお言葉もお使いでございましたが、それができればいいんだと。大体、先生の御意見によりますと、名目GNPの公債残高比率は四〇%前後、こういうふうな御意見のように承ります。しかし、私心配しますのは、昭和五十年度に赤字国債が出されたときのGNP国債残高比率は九・八%でした。それが六十一年度には四二・五%まで見込まれています。また、第二臨調によって支出抑制による財政再建が答申された五十七年度が三五・四%でした。それから六十一年までの四年間に七・一%もGNPに対する国債比率が高まっております。私も先生と同じように、無限にこの比率が高まるなどとは思っておりません。また先生がお示しされました四〇%前後にコントロールするという御意見一つの御意見だと思います。そこで、本当に四〇%前後にコントロールするための歳入歳出の両面からの具体的な手段、方法についてお伺いをしたいのであります。これが第二点目であります。  それから第三点目は、大蔵省が提出しております資料で、GNPに対する各国政府長期債務残高比率は日本が一番高いのです。時間がございませんから各国読み上げることは省略いたしますが、率直に言って、政府長期債務残高国債残高はイコールではありませんが、ほとんど同じと見ていいと思います。そういたしますと、西ドイツの二〇・三%などに比較すると、香西先生の御主張の四〇%前後の比率というのはほぼ倍なのであります。でありますから、先生が四〇%を提示されます科学的かつ理論的な根拠をお教えいただければ幸いだと思います。これが一つ。  次に、今先生が二正面作戦という中で、いわゆる高齢化社会に備えてということでいろいろ御意見ございましたが、先生の論文の中にこういう論文がございます。「公的年金は基礎年金に限り、国庫負担はせず、それ以上のものは個人年金、企業年金にターンバックすべきだ」との提言を傾聴すべきものと先生は述べられておりますし、また今の御意見の中にも若干それに近いものがあったと思います。基礎年金の額にもよりますが、政府の考えている基礎年金は非常に不十分の一語に私は尽きると思います。さらに、国庫負担をしないということで果たして公的年金と言えるかということに私は大変疑問を持ちます。先生もおっしゃいましたように、高齢化社会を迎える、ゆとりある老後生活を保障する、こういう各論になりますと、私はやはり公的年金のシステムの確立は大変大きな柱でなければならぬと思いますが、先生のお考え方は、それがどうも私的年金に非常なウエートを置かれているんではないだろうかと思います。ただ、先生のお書きくださった論文の中にそれを補足するものとして、目的税的なことも触れられていることもあえて私承知した上でこのことをお聞きをしております。  それから、その次は税制についてでありますが、税制については、きょうは先生は主として消費税というお言葉をお使いでございましたが、先生がお書きくださっております論文を拝見しますと、支出税ということが書かれているわけであります。そこで、そのお言葉をかりながら税制について、ちょっときょうの先生の御意見について伺いたいと思いますが、先生は消費税もしくは支出税が望ましい、こういうことをきょうも述べられました。しかし、私が知る限りにおきましては、支出税制度というのは言うべくして導入はなかなか困難である、こういうふうに思います。世界でも今日支出税が実施されている国はないのではないでしょうか。これは私の勉強不足かもしれません。先生が評価されます支出税構想をどう実行すれば日本制度に取り入れることができるのかを伺いたいのであります。  以上の点について、先生のお考え方をお聞かせいただければ非常に幸いだと思います。
  43. 香西泰

    参考人(香西泰君) ありがとうございました。私の昔書きましたようなものまで細かく目を通していただきまして、大変恐縮に存じております。安恒先生のような社会保障の大専門家から質問されると、私はもう上がってしまってお答えできないのですが、精いっぱい努力させていただきます。  まず最初に、私、名目賃金が上がらないということで申しましたのは、これはあくまでそれがいいことだというふうに申し上げたのではございませんで、非常に困ったことにそういう状況に、どうも袋小路に日本経済は入っておるようである、むしろ嘆かわしいことだという意味で申し上げたつもりでございます。つまり、やはり現在の労働需給ないしはその背後にございます技術あるいは社会変動といったようなものを考えますと、ほっておいたんではこれは労働組合が幾ら頑張ってもなかなか形勢有利にならないわけでございまして、例えば労働分配率を改善するということが望ましいと思いますけれども、なかなか容易でないという、そういう客観情勢を実は述べたつもりでございまして、それがいいことだというふうには考えていないのでございます。それを打破するためには、やはり雰囲気としてもう少し経済成長をする、数字的に言わせていただければ、三%よりは高い、四、五%の経済成長をするということが国民のフィーリングになるということが必要でございまして、さらにそれを後押しするような意味で、例えば労働時間であるとか、先生お話のございましたいろいろなカルチャーの問題、ライフスタイルの問題、こういったことがやはり非常に重大だろうと思います。これは政府が音頭をとるということだけではなくて、これは安恒先生御出身のことでございますけれども、労働組合の努力もむしろこういった多面作戦でないと、今の賃金要求だけで解決しようとしましても、先ほど申しました技術や社会状況の変化からいってなかなか難しい局面に来ているのではないか。決してそれが好ましいと申し上げたのではなくて、そういう状態だから何かやり方を経済全体としても労働組合としても考えるべきではなかろうか、こういうつもりで申し上げたということでございます。  それから、赤字財政について何らかの形で、私は心配するなということを申し上げたというよりも、むしろコントロールが必要だということを申し上げているわけでございまして、過度に心配する必要はない。だからといってほっておいていいというわけでは決してございませんで、やはりそれについてはコントロールをしていくということがぜひとも大切なことであろうと思います。  具体的にそれではどういう点で歳入歳出について工夫をしていくかということでございますけれども、歳入につきましては、結局、先ほどもちょっと金丸先生の方にも申し上げたことでございますが、赤字を減らすために増税をするということが果たして必要かどうかはやや疑問に思っております。もうしばらく我慢してみてもいいのではないか。そうしますと、やはり歳出面でいろいろ工夫をしなければならないというわけでございますが、その歳出面での工夫ということになりますと、これまた安恒先生にしかられるかもわかりませんが、私は、一つはやはり社会保障について、受益と負担のバランスをとる形で国庫の負担を軽くするということが必要だと思いますし、これもあるいは金丸先生からしかられるかもわかりませんが、もう一つ財政地方財政と国の財政のバランスの見直しという、その二つが戦略的には重要だというふうに考えているわけでございます。これは、毎年の予算編成におきましてもこの二つの点についてはかなりの努力がなされているわけでございますが、例えば医療費の自己負担なども、痛いことは痛いんですけれども、やはりそれをやれば、健康保険財政は改善したという事実もあるわけでございまして、やはり福祉を受けるにはそれを負担するんだというスタイルをもっと強く出した方が合理的な社会保障制度ができる。幾らいい制度をつくりましても、その社会保障制度赤字でいつ倒産するかわからないということではかえって不安でございまして、合理化という言葉は、あるいは効率化という言葉はいいかどうかわかりませんが、やはりある程度負担を、社会保障について負担をしていただく形で社会保障の国庫負担分を少し減らしていく、それから地方と国との仕事見直しを行っていく。こういうことも余計なことかもしれませんが、地方につきましてはだんだん格差が開いて、いいところと悪いところが出てきつつあるわけでございますので、悪いところを中央政府が援助する、いいところはほうっておくということになりますと持ち出しが大きくなってしまうようなことになる。もう少し財政調整のやり方は考えられないだろうかというようなことも考えております。  それから、GNPに対する政府債務残高が、例えば西ドイツ二〇%に対して日本は非常に高いということは事実でございます。ただこの点につきましては、一方では何と申しますか、日本貯蓄率がかなり外国よりは高いという面も考慮すべきだろうと思います。理論的に何%であるべきであるかという厳密な理論を考えるということはかなり難しい、いろいろ理論的には考えられますけれども、いろいろ考えることは難しいかと思いますが、大きく言って日本貯蓄率はかなり高いということが一つございますし、それから現在四〇%台、これは政府債務残高でいけば五〇%近いわけでございますが、現在それだけの国債、公債を抱いていて、例えば金融面にそれほどの問題は起きていない、あるいはそれを抱いているから現在直ちにインフレの危険があるという状態ではない。結果的に見て、今GNPの四割とか五割の政府債務残高、四割の公債を持っていることで何か困ったことが起きているかというふうに考えると、それほど困ったことは起きていないということは、この状態を余り変えない限りはそう問題はないのではないか。学者の議論にしては随分乱暴な議論でございますが、そういうふうにも思います。  なお、歴史的に考えますと、第二次世界大戦当時は大体どこの国も、日本もそうでございますが、GNPの一〇〇%の公債を持ったわけでございまして、御承知のように大変なインフレーションになりました。日本はインフレで公債をちゃらにしてしまったわけでございますが、アメリカはかなり長期間をかけてこれを下げていったわけでございます。四割というのは、大体ケネディ、ジョンソン時代のアメリカの公債GNP比であったかと記憶するわけでございまして、あのときもそれでアメリカ経済がおかしかったかというと、それほどでもなかったのではないか。金融市場が整備されておればその程度の公債は持っていてインフレにならずにやっていけるのではないか、こういうのが歴史的な経験でもあるということも申し上げたいと思います。  それから、社会保障の問題につきまして先生から御質問いただいたわけでございますが、やはり社会保障の問題については財政依存が過度になり過ぎる危険がここはかなりあって、しかも一度約束をしてしまいますと、公共投資の方はやり過ぎた場合は削る、もとへ戻ることができるのでございますけれども、制度というのは一度つくってしまいますともとへ戻れないという問題がございます。そういう意味で、やはり社会保障というものは基本的に必要でございますし、高齢化社会のための蓄えというのは必要でございますけれども、これは考えてみますと、国がやるといっても結局国民負担しなければできないことでございますので、そういう意味ではなるべく自己責任原則というものを導入しておいた方が無難であろうと、私はそういう基本的な考え方を持っているわけでございます。  社会保障というのは、もともとは本当に生活に困っている方を救うというものでは実はないわけでして、これはやはり一種の市民としての品位を保つという制度でございますから、そういう意味ではこれは社会保障制度について過度に財政負担をするということになりますと、かえってその市民社会としてのオーダーが崩れることもあり得るというふうに思うのでして、その点では私は、これは安恒先生にしかられるかもわかりませんが、もう少し自己責任といいますか自己負担ということをやはり考えざるを得ないのではないか、またそれを覚悟した方が日本経済全体のバランス、例えば日本経済が将来もある程度貯蓄率を維持するといったようなことのためには、すべてを賦課方式にするよりも積立方式を残した方がいいとか、そういったような観点で先ほど申しましたような意見を書いたことがあると、こういうことでございます。この点はいろいろ御議論があるところかということは私も承知いたしております。  それから支出税というのは、これはカルドアその他の学者の議論でございまして、現実に支出税ということをやっているという例はないように、私もそのような理解でございます。学者のミード報告とかカルドアの議論とか、そういったようなところにそういったものがあらわれていて興味は非常に深いわけですが、実行できるかどうかということは問題だろうと思います。ただ、それにかわるものとしては、やはり結局間接税の形の消費税というものがある程度支出税的な役割を代替する可能性はあるだろうというふうに考えているわけでして、これは消費税につきましてもいろいろ問題があるわけでございます。  所得というのは、例えばある人の所得は非常に変動する、ある人の所得は非常に安定している、そして百万円である、ある人の所得は非常に変動するというような場合、変動をならす制度がもちろんございますけれども、非常にリスキーな所得に対して、たまたまたくさん取っているから累進課税を課すというのはかなり気の毒なこともあるわけでして、それに対して消費の方は、自分がこれだけ消費できるという能力があると判断するから消費している面があるわけでして、そういう意味では消費の段階で、その御本人が自分がこれだけ消費してもいいんだという段階で払っていただくということもいいのではないか。ただ一方で、消費だけに課税しておきますと貯蓄の方の税が抜け穴になりますので、もし消費税を入れるのであれば、例えば相続税のようなものは強化するとか、あるいは利子課税はある程度取っていくとか、そういった形でバランスをとる必要があろうかと思っているわけでございます。  以上、大変鋭い御質問でたじたじとしているわけでございますが、一応考えを述べさしていただきました。
  44. 太田淳夫

    ○太田淳夫君 先生、大変にありがとうございました。  私は三点ほどお尋ねしたいと思います。  問題は、最後に先生お話しになりました国際経済関連でお尋ねしたいと思いますが、最初は、昨年九月のG5以後の急激な円高というものは多分に政策的な協調介入だったと思うんですが、これは短期的にはともかく長期的には継続できない、このように思います。  そこで、レーガン大統領通貨制度改革の国際会議を教書で提唱されたわけですけれども、これは円を目標としてある程度円高制度的に持続する新しい通貨制度各国の了解のもとで定着させることを考えているんじゃないかなと、このように私も思うわけです。そして先ほどもお話ありましたけれども、さらにサミットの前後には史上最高の貿易黒字を持っています日本に対しまして金利下げ以上の、公定歩合下げ以上の血の流れるような国際的な努力を求めてくるのではないかと、このように思っているわけでございますけれども、その通貨改革についての先生の見通しと米国経済の動向について第一点お伺いいたしたいと思うのです。  それから、第二点目は円高の問題でございます。アメリカのヤイター通商代表は百七十五円が妥当ではないかと主張しておりますけれども、それほどでなくても百八十円台が続いてまいりますと、今でも百八十円になっておりますけれども、これがずっと続きますと、原油価格の下落あるいは金利の低下があってもやがては円高デフレ効果というものの影響があらわれてくるのではないかと、このように私ども考えておるわけですけれども、一体全体妥当な円相場の見通し、あるいは世界的なデフレの到来とも言われておりますが、その点についてどのようにお考えになっていらっしゃるでしょうか。  それから第三点は、アメリカでは非常に楽観論が生まれているらしいんですけれども、石油価格の急激な下落とかあるいは一次産品価格の下落というのは、先ほどもお話ありましたが、直接的には産油途上国とかあるいは一次産品国に打撃を与えているわけですけれども、特に産油途上国の累積債務の問題は非常に深刻な問題になってくるんじゃないかと思うのです。  中でも、昨年の十月にベーカー提案によりまして救済第一号となったメキシコは、特に深刻な状態になっている。レーガン大統領もメキシコヘ飛んでメキシコ大統領と二時間半にわたって会談をするというぐらいにいろいろな問題になってきていると思うんです。メキシコを初めとする産油途上国というのは、日本の銀行も関係していますけれども、アメリカの金融界とのつながりが特に強くなっておりますし、したがって債務国の窮状のインパクトというものは、アメリカの金融システムを大きく動揺させる可能性があるんじゃないか、このように思いますが、それらの動揺というものがやはりドルの不信認を呼び、ドルの崩落のおそれを招かないそのためのいろいろな努力はしていると思いますけれども、そうなりますと、世界経済全体の混乱を招くことになるわけでございます。先ほど先生からも、日本としての果たすべき役割についてはお話しがございましたけれども、こういったことについての不況回避と申しますか対応策はどのような点を考えていかなきゃならないんだろうか、あるいは日本アメリカ国内にありますようなそういう楽観論でいいのだろうか、その点、エコノミストとしての先生の御意見を承りたいと思います。
  45. 香西泰

    参考人(香西泰君) 国際経済の問題を中心に、いずれも重要でかつ鋭い御質問でございまして、私でうまくお答えできるかどうかわかりませんが、非常に難しい問題ばかりでございますので、一応私の意見を御参考までに申し上げるということにさしていただきたいと思います。  G5によりましてドル是正の動きが始まったわけでございますが、これは昨年九月二十二日にG5が行われましたその当時思われていたよりもドル是正に成功して、今日まで一応続いてきております。それが続いてきている理由といたしましては、一つはマーケット、市場自身の中でドル是正の動きが出ていて、いわば自然に動いているところへきっかけをつくったという、そのタイミングのよさが一つあったかと思います。しかしそれと同時に、アメリカにおきまして先ほども申しましたが、グラム・ラドマン・ホリングス法案といったような財政赤字削減するという政策スタンスがかなり強く打ち出された、それを期待しているということがあろうと思います。このグラム・ラドマン法案がそのとおり実現できるかどうかは非常に疑問でございますが、とにかくアメリカ財政赤字が減ってくるらしいということになりまして、ドル是正が進んできたということがあろうかと思います。  したがいまして、私は、国際通貨の問題というのは、介入だけでいじろうといたしましても、現在の世界の資本費は非常に大きくて、これは民間自身が気迷い状態でいるときはちょっと介入するだけで非常に効果がありますが、一方の方にとうとうと流れているときにはとても刃向かえないということで、介入がいつでも成果が上がるとは思いません。しかし、もし何らかの意味で通貨の安定に努力するとするならば、やはり政策協調ですね、例えばアメリカ財政赤字を減らすとか、利子を協調的にみんなで下げようとか、そういったような国際間の経済協調が行われるならば通貨の安定に役立つだろうと思うわけでございます。そういう意味で、国際会議を単に通貨だけで議論をして通貨制度そのものをいじってもなかなかいい答えは出てこないのじゃないかと思うんですが、先進国の政策を協調し合うという方向会議が行われて前進するならばそれはプラスになるのではないか、概略そのように考えております。  それから第二番目の問題でございまして、これは次の問題とも関連いたしますが、円高不況になる、円高デフレの危険をどの程度に読むかということでございます。私は、確かに円高、それから物価が下がってくることによっていろいろなマイナス面も出てくることは全く御指摘のとおりだと思うわけでございますが、同時に、やはり円高で物価が落ちつくことのプラス面もあるわけでございます。例えば、賃金はそれほど上がらなくても物価が下がれば実質賃金は上がるということでございますし、例えば一般会計五十四兆円というのが決まっているわけでございますから、物価が下がってくると事業規模としてはふえる、つまり円高には、一方でデフレ効果を持つと同時に、他方で実質的な支出をふやす効果、こういう二つの面を持っているわけでございます。  そこで、政策のあり方としては、なるたけデフレ効果を抑えてもう一つの実質効果、交易条件改善効果というふうにも申しますが、つまり物価が下がることで逆に現物の、物ではかった支出がふえる、そっちの効果を早く引き出すようにするということが非常に必要なことなのではなかろうかというふうに思います。私は、日本経済はかなり弾力性がございますので、例えば金融緩和のテンポを間違えないというようなことであるとしますと、ある程度何とかやっていく可能性もあるだろうと思いますので、今後の経済政策に期待をしたいと考えております。  それから、三番目の石油の問題も全く御指摘のとおりでございまして、現在既にメキシコは恐らく一九八二年の危機にまさる困難が控えているだろうという感じが私もいたしております。そして、特に一番のウイークポイントがアメリカの金融組織の動揺であるということも全く先生御指摘のとおりで、その点に心配がございます。ただこれも、一方ではメキシコは非常に困るけれども、例えば韓国とかブラジルとか、そういった国は石油の値下がりによって国際収支上非常にプラスも出てまいりますし、実質所得もふえてくるわけでございます。そういうふうに考えますと、ここでも石油価格下落によるデフレ効果と、一方それで利益を得る面と、両面ありますので、それをうまくならすということが非常に必要なことでございます。率直に言いまして、仮にアメリカの金融・銀行制度が非常に動揺するようなことになりますと、これは非常に深刻でございますが、その危険を何とか避けていくことができるならば、一方のデフレ効果は他方の交易条件改善効果である程度バランスがとれていくわけでして、日本としては何かやはり国際協力を呼びかける、あるいは乗っていくというようなことが要請されるのではないだろうかというふうに思うわけでございます。  以上、非常に難しい問題を御質問くださいまして、十分お答えできないかと思いますが、一応のお答えをさしていただきました。
  46. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 まず、内需が伸びない要因一つとして先生が指摘された、企業が世界的企業になっている、世界市場相手の商売であるという点でありますが、ともかく多国籍企業問題ですね。一つアメリカ側の問題としましては、アメリカ産業の空洞化ということが言われていると思うんです。要するに部品輸入という輸入依存構造になっているということですね。その点、やはりアメリカが貿易赤字を減らすのには一つ困難な状況がまずあるんじゃなかろうか、そういう体制になっているのではないか、そして同時に、日本輸出構造は変わらないんじゃないかという、そういう側面です。  もう一つこの多国籍企業の問題としては、日本自身の問題として、これは先生が指摘された問題でありますが、要するに利潤の最大化を求めて全世界的な事業活動となりますと、やっぱり資本の論理が働くわけですね。そうしますと、先生が言われた国内に目を向けさせるための政策努力といいますけれども、相手は自由放任の状況ですね。そうすると、外に別のものがある場合、どんなものをやってもなかなか難しいんじゃないか。そこで先生が考えておられるものはどんなことを考えておられるのか、これはやっぱりある面では法的規制も必要になってくるのではないかというのが第一点であります。  それから第二点は、財政危機から回復の状況にあるというんですが、何をもって回復というのかという点についてもうちょっと詳しく御説明いただきたいと思うんですね。というのは、少なくとも現象面で見る限り、例えば今年度ですと国債費十一兆三千億円のうち十兆六千億円の金利で、元金わずか六千二百七十九億円で、新しく十兆九千億円の借り入れと。仮定計算では少しずつよくなっていくようですけれども、果たしてそうなるかどうかわからないとなりますと、大変むしろ危機的状況は増しているのじゃないか。そして、年々残高はふえながら要調整額は相当な規模ですね。しかも昭和七十四年には二百兆円に近づく、こういう状況だとなりますと、まず残高を減らすことを第一義的に考えないと、管理可能だということで、その辺が第一義にございませんと大体減額に向かっていかないんじゃないか。減額に向かっていかなくてもいいとおっしゃるのかもしれません、GNP比率で。しかし、その論拠としては、GNP比率がほぼ一定で名目成長率と利子率がほぼ同じならばよろしい、いわゆる修正ドーマー理論に立っておられると思うんですが、しかし、現に利子率の方が成長率より高いわけでありまして、その利子率がさらに悪効果を及ぼしてまいりますと、やっぱり大変なことになるのではなかろうかということで、管理可能がいつの間にか管理不可能な状況になってしまいはしないか、これが第二点です。  それからもう一つ所得の平準化ということでありますが、しかし七〇年代後半以降、経済成長率の低下等々で所得格差、賃金格差はむしろ増大しているのではないか、特に所得のもとになる資産格差はますます増大している、こういう指摘がありますが、これについてはどうお考えか。そしてこの問題と関連して国債の金利払い、これが総予算の五分の一、税収の四分の一にも匹敵する大変巨大な額のもので、所得再配分機能ということに関しては逆流するわけですね。これらが相まってこれは大変マイナス要素になりはしないか。以上の点についてお答えいただきたいと思います。
  47. 香西泰

    参考人(香西泰君) どうもありがとうございました。近藤先生からはこれも私の書いたものなど詳しく読んでいただいたような鋭い御質問をいただきまして、大変恐縮、ありがたく存じております。  最初の点でございますけれども、私は、日本企業が世界を相手に商売をするようになるということは、これはやはり歴史の流れだろうと思います。簡単にはとめられないことでありますし、また、日本の企業が世界を相手にして伸びていくことによって日本経済自身もこれまで発展してきましたし、やはり今後も発展していくだろうというふうに考えるわけでございます。ただ一方で、先ほど近藤先生からも御指摘ございましたように、アメリカと同じように空洞化してしまうようなことになってしまってはこれは困るわけでございますが、それをさせないためにどうするかということでございますけれども、それをさせないためには、やはり日本で投資をすれば収益が上がる、そういう環境をつくることが私は一番大事だろうと思います。つまり法的規制のような人為的と申しますか、市場メカニズムを外から無理に縛ろうとしますと、これはもう逆に、ある意味で言いますとがんじがらめにしようとすればするほど資本というのは悪さをするわけでございまして、むしろ市場に任せる、任せる中で市場の雰囲気としてと申しますか、あるいは環境として日本の方で商売をした方がもうかるという環境をつくることができれば、利潤を追求する企業は当然日本に投資をするわけでございまして、そういう意味で資本コストと申しますか、資本収益性を国内で上げるような環境をつくる必要があるのではないか。これは実は恐らくすぐ御批判いただくと思うんですが、循環論法になっておりまして、内需拡大ができれば収益性が上がる、収益性が上がれば内需拡大ができる、こういう循環論法でございますが、何かやはりもう少し日本の内需を拡大する形で日本国内にも投資をした方がもうかるような雰囲気をつくっていく。そのきっかけを例えば財政政策なり金融政策なりでつくることはできないか、こういうことが問題でございまして、にわかに法的規制を加えることはかえって混乱を招くおそれもあるのではないかと私は考えております。  それから第二点の問題も、非常に財政赤字が大きくて利子負担とほとんど均衡しているではないか、修正ドーマー方式と申しますか、利子率と成長率のバランスからいっても安心できないではないかということでございますが、確かに現状では必ずしも安心できないことは私も認めております。ただ、成長率の方をもう少し上げるということが可能性がないのかどうか。それから利子率が現在の水準でいつまでも高とまりしていなければならないのかどうかという点が問題でございまして、例えば卸売物価はマイナスである、物価は非常に落ちついているというふうに考えますと、今後もう少し、これはアメリカ財政赤字の問題と絡んでまいりますから簡単には申せませんが、もしアメリカ財政赤字もある程度グアム・ラドマン法的な方向で解消に向かうとしますと縮減に向かう、解消は難しいかもしれませんが圧縮されるといたしますと、世界的に金利も下がる余地も出てくるであろう、そういうふうに考えているわけでございます。確かに利子の負担が大きいことは御指摘のとおりでございますけれども。これはむしろ金利が下がっていく形である程度節約することは将来可能性がないわけではない、こういうふうに考えております。  それから、所得の平準化ということでございますが、これも確かにどんどん平準化していった時代ではございませんで、ある程度平準化がとまったのではないか、あるいは逆流しつつあるのではないかというような動きも見られないわけではございません。特に資産についてそうではないかという御指摘は、これは必ずしも統計的なデータが十分あるわけではございませんので確たることは言いにくいわけでございますけれども、生活実感の問題として考えてみますとかなり理解のできることでございます。しかし一方で、我が国所得の格差、恐らく資産の格差についても国際比較をすればかなり平準化されているということもこれは事実だろうと思います。  それから、国債の金利支払いが金持ちに対していわば税金をそちらに流していることになるのではないかという御指摘がございまして、この点も軽視できない問題でございます。ただ、これも一つの考え方でございますけれども、国債を買っていなければ金持ちはまた別のものを買って当然収益を上げていたわけでございまして、これはむしろ国債という形で金利を受け取らなければ、例えばアメリカドルを投資して金利を受け取っていたか、ゴルフの会員券を買って値上がり利益を得たか、何か別の形でやはり彼らは資産に対するフェアリターンと申しますか、一定の収益を上げていたに違いない。その点では、国債だから特に所得分布がゆがんでいるということではないわけでございます。  むしろ問題は、租税の方で累進構造をどの程度この国債の金利支払いによって、つまり取る方と払う方と両方含めた場合の再分配機能がどうなっているか、こういう問題が出てくるわけでございまして、御指摘のように税収の方と支払いの方の両方を含めたときに、再分配機能が若干とも低下しているのではないかという点は問題として十分検討しなければならないことでございますけれども、国債発行したから所得が不平等になったということでは必ずしもないのではないか、こういうふうに考えております。
  48. 抜山映子

    抜山映子君 民社党の抜山です。大変有益な御意見をありがとうございました。  先生は民間活力の活用を模索しなければならないということを言われまして、これは全くもって同感なんでございますけれども、安易に民間活力の活用を言うことは危険がある。先生も「六〇年代財政政策課題」におきましているじくも民間活力の活用が「実態がはっきりしないままに、政府の無為の免罪符に用いられてきたきらいがある。」、「民間活力活用のあり方を工夫する」ことが必要だと指摘されております。民間活力の活用と申しましても、東京湾横断道路の場合には所有者は日本道路公団でおる、事業主体は官民合同の第三セクターである、明石海峡大橋の場合は低利の民間資金を導入して、事業主は本州四国連絡橋公団である。こういうようにいろいろ違うわけでございまして、民間活力のルールづくりというものはどうしてもこれから必要になってくるのではないかと思うのでございます。したがいまして、この点について先生がどのようにお考えになっていらっしゃるか、御意見をお伺いしたいと思います。これが第一点でございます。  第二点は、先生は所得税減税に賛成である、一方、消費支出に対する課税も必要であろう、こういうように言われました。先生の「昭和六〇年代の日本経済」におきましても、所得税減税が対策の一つで、「その財源は、間接税をふやすことにしか求められまい。」、このように言われております。そこで村山調査会ですか、増減税の同時同額ということを出しておるわけですが、これについて先生がどういう御意見を持っていらっしゃるか、お伺いしたいと思います。これが第二点でございます。  それから第三点、先ほど同僚委員からも御指摘ございましたんですが、老後の柱として公的年金を基礎年金に限って個人年金、企業年金にターンバックすべきだと、とういうことでこれを傾聴すべき提言と言われておるんですけれども、確かに欧米では公的年金、個人年金、企業年金、三本の柱を老後の柱として立てております。しかし、日本では個人年金、企業年金ともそれを奨励できるだけの環境整備ができておりません。個人年金についても年額の税金の控除額はわずか五千円でありますし、企業年金については数えるほどの企業しかやっていない。しかも、この企業年金は真の企業年金ではなくて、退職金か企業年金かのオプションである、多くの人間は退職金の方が弾力的に運用できるということで退職金を選んでいる、こういう実情でございます。したがいまして、今後個人年金、企業年金を奨励していくに当たってどのような環境整備を行うことが必要であるか、先生の御意見をお伺いしたいと思います。以上三点です。
  49. 香西泰

    参考人(香西泰君) 抜山先生からも非常に重要な問題について御質問いただいたわけでございまして、私自身十分自信を持っていることばかりではないわけでございますが、一応意見を申し上げたいと思います。  民間活力につきましては御指摘のとおりでございまして、現在はやはり試行錯誤の段階であるというふうに見ております。これはスローガンと申しますか、かけ声としては非常にいいわけですし、事実ぜひやりたいわけでございますが、どういうことをすれば一番民間活力を引き出せるのかというのは、やったことがないということもありまして必ずしもはっきりしていないわけでございます。規制緩和をするということは確かに重要でございますけれども、例えば都市計画に関するような場合なんか、逆に規制を強化した方が内需振興に役立つ場合もあるかもしれない。例えば防災とか緑の保持とか、そういったような点について何でも野方図でいいということではなくて、むしろ計画的な要素を入れた方がいい場合だって考えられるわけでございます。  それから、民間活力にしてもどの組織でやるのが一番いいかということも、これは必ずしもあらかじめ決められないということでございますので、私はいろいろやはり実験をしていく、そうなりますとサンセット方式といいますか、とにかくこのプロジェクトについてはこういうやり方でやってみて、何年かたてばまた見直すといったような、むしろ現在が試行錯誤の過程だということを織り込んだような形でいろいろ実験をしてみるということも考えていいのではないだろうか、その程度の知恵しかないわけですが、そのようなことも考えております。  それから、所得税減税消費税、間接税ほぼ同額、これに対しては利子課税ということが恐らくもう一つあり得るのかなという気もいたします。が、大体税収については全体として中立的に考える、これは村山調査会案もそうでございましたし、現在アメリカ議論されておりますレーガン減税案もそうでございますが、これは一応現在の日本財政事情として私としては支持したい考えでございます。つまり単純に増税するとか単純に減税するということではなくて、やはり全体としては増減税ゼロ、もちろんゆとりがあれば減税した方が望ましいわけですが、必ずしも今簡単に減税できる、減税一方でできるということにはなりにくいのではないか、そういう意味で所得税減税消費税を組み合わせる、あるいは利子課税を組み合わせるという形も一つの考え方として私は是認したい、こういうふうに考えております。所得税一本でいきますとどうしても把握ができませんで、貯蓄、消費、勤労というこの三つの経済活動のバランスが必ずしもうまくいきませんので、むしろそれを多面的にとらえていく、各それぞれの節目である程度国民負担を求める、そのかわり薄く広く取る、こういう形がよいのではないかと考えるわけでございます。  それから最後の公的年金の問題。企業年金、個人年金に返せという議論は、たしか自由主義経済研究機構でございましたか、の御提言がございまして、それを私がなり興味深く読ませていただいて評価しているものでございます。これは一つは過渡期、もう既に公的年金は始まっているわけでございまして、どういう形でそういう方向に移していくかというような問題はかなり難しい問題があるわけでございます。  御指摘のように、企業年金や個人年金等について、もしそれをもっと本格的に育てていくとするならば、いろいろ税制その他の点で考えるべき点があるということは私も御指摘のとおりだろうと思います。ただこの問題は、実は公的年金一本に限っていきましても将来の人口構成のいかんによっては公的年金の負担が非常に重くなってきまして、それぐらいなら公的年金に入らないで自分で資産を運用して老後を養った方がかえって有利になるというような、そういう人口構成も将来予想されないではないわけでございます。そういう経済効率性を余り無視しまして公的年金一本でやろうということにしますと、かえって年金制度が非常に困難になるというケースもあり得ないことではないのでございまして、そういう意味でこれは日本経済にとって非常に長期の大きな問題でございますので、さらに研究をしなければいけないのではないか、及ばずながら私どもももう少し勉強さしていただきたいと思っている点でございます。  どうもありがとうございました。
  50. 青島幸男

    青島幸男君 二院クラブの青島でございます。  けさほどから議論を拝聴しておりまして、だんだん暗たんたる気分になってまいりました。いずれにしても八万ふさがりで、余り希望的な御意見が述べられなかったということで私も暗たんたる気分になっておりましたが、香西先生の先ほどからのお話を伺っておりますと何だか大変希望が持てるような気がいたしてまいりました。今後も国際的にこちらが黒字をたくさん持っているわけで、それに国債の累積がかなりたまっておる、しかし、長期的な考え方から見ればそれほど憂慮することではない。それに我が国の民族的資質と申しますか、非常に危機に対応するに巧みであって、幾つかの危機も柔軟に乗り越えてきた、勤勉でよく働く、しかも貯金好きであるということからそうなっておるんだ、こういうことで私もちょっとは安心したんです。  しかし、これは今どきはやりません学歴偏重とか年功序列とか永久就職というようなそういう考え方と一貫して対になっておるものでございまして、これからまたライフスタイルがいろいろ変わってまいりましたりすると、今の若い人たちを見ていますとまさに新人類という言葉がぴったりで、この人たちは本当に日本人だろうかと思われるように考え方もかなり違ってきて、欧米型、享楽型といいますか、必ずしも今までのように耐えに耐えて頑張り抜くというような、勤勉で貯蓄好きというような資質を保持して生き続けるということもちょっと考えかねるようなところもございまして、そういう民族的な資質に基盤を置いて議論を進めてまいりますとちょっと戸惑うような事態になりはしないかという気がするんです。  それも、ここのところで高齢化社会の問題が非常にクローズアップされてまいりましたけれども、ほんのこの二十年ぐらいの間に科学技術の進歩と医学の進歩と、それから医療の環境が非常に整備されてまいりまして、本当に世界で一番、八十に近い男女の高齢化が、寿命も保証されているという高齢化の余りの早さに、制度も追いつかなかったというような実態すら感じられる昨今でございますので、これから十年後、二十年後のスパンで世の中を見ていかなければならないことは事実でしょうけれども、果たして私ども日本人の民族的な資質に基づいて話を進めてまいりますと、かなりそごが生じてくるんじゃないかという懸念が今度は逆に生まれてまいりましたけれども、その辺のところをどういうふうにお考えか、その点だけをお聞かせいただいて終わりにしたいと思います。  ありがとうございます。
  51. 香西泰

    参考人(香西泰君) どうもありがとうございました。大変重要な問題を御指摘いただいたかと思います。  実は、私も学校教師でございまして、新人類とつき合って目をぱちくりするということは始終経験しているわけでございます。ただ、私思いますのに、新人類にはまた新人類のいいところもございまして、非常にさっぱりしているとか、いじめなどを見ていると余りさっぱりしていないのかもしれませんが、非常にさっぱりしているとか、巧みに生活をエンジョイする。こういったことも、一方で頑張らなければいけない、貯蓄もちゃんとしなければいけないということも事実でございますが、他方で国際社会の中で考えてみますと、日本はもう少しゆとりを持った方がいい面もあるわけでございまして、私といたしましては、この新人類がそういう国際的なゆとりのあるライフスタイルを実現しつつ、しかも、日本のこれまでのいいとされていたところも少しは引き継いでいただく、ちょうどいいところヘミックスしていただければ一番いいんじゃないかと思う。あるいはそういうことを教育するのが私ども学校教師の仕事ではないかというふうに考えるわけでございます。  私は、心配がないということを申し上げているのではなくて、むしろ心配ばかりしているよりはなるべく希望のある点を求めて、そちらへ努力を傾けるのが政治にお願いしたいことであるという意味でそのように申し上げたいと思います。
  52. 青島幸男

    青島幸男君 私もそこへ希望をつないでまいりたいと思います。  ありがとうございました。
  53. 安田隆明

    委員長安田隆明君) 以上で香西参考人意見聴取は終了いたしました。  一言お礼申し上げます。  ただいまお述べいただきました貴重な御意見は、先刻申し上げましたとおり、今後の総予算審査参考にいたしてまいりたいと存じます。  本日は、大変お忙しい中、本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして重ねて厚くお礼申し上げます。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十一分散会