○
参考人(香西泰君) 東京工業大学の香西と申します。
本日はこの
予算委員会にお招きいただきまして
意見陳述せよということでございます。大変光栄に存じて参ったわけでございます。
私は、
佐藤先生のように
財政学者というわけではございませんで、マクロ
経済一般を専攻している人間でございます。したがいまして、
財政、
税制のあるいは
社会保障
制度の細かいテクニカルな
議論というよりも、むしろ
日本経済全体の中で
財政や
税制をどう考えていったらいいかというような点について
意見を申し上げさせていただきたい、こういうふうに思うわけでございます。
最初に、
日本経済の
現状と
課題、その中期的な
展望といったようなところから少し
議論を始めさしていただきまして、その後
財政の問題、
税制の問題、そしてさらに国際的な協力の問題、こういったようなことを順次触れさしていただきたい、こういうふうに思うわけでございます。
〔
委員長退席、理事
桧垣徳太郎君着席〕
日本経済が今後発展すべき中期的なねらい、
方向というものにつきましては、活力ある福祉
社会を建設しなければいけない、あるいは国際
社会との調和や国際
社会への貢献を果たさなければいけない、こういう
課題が
日本経済に課せられている。この二つのことについては、恐らく非常に幅広い
国民的な合意が既にできているように思うわけでございます。しかも
現状におきまして、この二つの
目標、つまり
日本の国内で活力ある福祉
社会をつくるということと国際
社会に協力していくということとは必ずしも矛盾しないわけでございまして、具体的には国内需要を拡大していくという、内需振興をすることが一方で国内の福祉
社会の建設にも役立ちますし、あるいは国内の福祉
社会を建設するような形で内需を振興すべきでありますし、そのことを通じて国際
社会にも
日本の市場を拡大する、あるいは貢献していく、こういうことができるわけでございますので、この
目標については非常に幸せな状況に
日本経済はある。もう
目標は定まっておって、その
目標は必ずしも矛盾していないわけでございますから、一意そこに専念すればいいのではないかというわけでございます。
このように、
目標としてはまことに結構なことでございますけれども、それならば現実の
日本経済においてこの
目標を達成することがうまくいきそうかどうかということを考えてみますと、実態はなかなか容易でないという感じがいたします。
内需拡大ということが盛んに強く言われておりますけれども、私の見るところでは、国内需要の実勢というものはほっておきますと余り強いものにならないのではないだろうかという気がいたします。一九八〇年代に入りまして、大体
日本の内需だけで
経済成長いたしますと三%がやっとというぐらいの感じでございます。昨年度あたり
日本経済は五%とか四%というような
成長率を示したわけでございますけれども、これは
アメリカが非常に高い成表をした。一昨年でありますと、
アメリカが七%ぐらいの
アメリカとしては超高度成長をしたというようなこともございましたし、あるいは異常な
ドル高、一時二百六十円までまいりました。そういう特殊な二つの外的条件があったときに初めて
日本経済は五%、四%という成長ができたのでございまして、そういう条件がないときの
日本の
経済の
成長率というのは、なかなか三%以上に乗っていくということが難しいような気がするわけでございます。
それはなぜそうなっているかというふうに考えてみますと、
一つは、国内需要ということを申しましても、現在の
日本の企業というものは既に非常にもう
世界的な企業になっておりまして、国内の市場で商売をしようという企業は率直に言って余りない。もう全
世界のグローバルな観点から経営を考えるということが定着いたしております。したがいまして、
設備投資計画あるいは海外投資計画というものを考えましても、大体もう
世界市場を相手に商売するものだというふうになってしまっておりますので、これは国内需要の方に目を向けさせるということはなかなか難しい。それをさせようとすればかなりいろんな条件整備が必要なのではないか、こういう気がいたすわけでございます。
それからまた、
消費需要あるいは住宅需要ということももちろん潜在的には非常に大きいわけでございますけれども、実際の問題といたしましては、例えば現在でございますと、労働需給
関係というのはなかなか引き締まらない。現在非常に技術が進歩しておりまして、そういう
過程で、いわば人減らしのための技術というのは非常に発達している。メカトロニクスとかオフィスオートメーションとかファクトリーオートメーションとかいうようないろんな省力化技術が発達しておりますから、どうしても労働需給というのは緩和
基調になりがちである。そこへもってきまして女性の
社会的進出が非常に目立っておりまして、例えばパートタイマーなどの供給余力、労働の供給余力というのは非常に大きい、こういう状況がございます。
したがいまして、労働需給が基本的に緩和している、傾向的に緩和しているという状況にございますので、これは労働組合が力があるとかないとか、頑張るとか頑張らないということの前に、まず名目
所得の
伸びはそれほど高いものにならない。具体的に言えば、春闘での賃金上昇率というのはそんなに高くは
経済情勢からいってどうもなりそうもない、こういう条件があるわけでございます。そうなってまいりますと、やはり内需の拡大ということをいたすためには、かなりの
政策努力によってこの成長パターンを変えていくということが必要なんではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。
実は、
日本経済は非常に活力がございまして、非常に
成長力は高いんだというのは事実でございます。非常に適応力があるわけでございますけれども、この適応力というのは、
日本経済は低い成長でもうまくやっていく、高い成長でも困らない。五%もうまくいくし、三%なら三%で何とかバランスをとっていく、こういう意味で非常に柔軟にできているわけでございます。これは少してき過ぎていまして、そのために
日本経済は低成長に甘んじてしまうという
可能性がこれまで見られたのではないか。しかし、最近の
世界経済の情勢を見ますと、
日本経済が低成長に甘んじていていい時代というのはもう終わったように思います。つまり
アメリカが非常に大きな
減税政策とか
ドル高
政策といったようなことで
世界経済を引っ張ってきた、そういうときには
日本は受け身で、低いなら低いなりに、高いなら高いなりに適応するということでよかったわけでございますけれども、
アメリカ自身
財政赤字を
削減するといったような
方向に出ております。あるいは
ドル高を
是正するという方針で
アメリカが大きく
政策を転換してまいっておりますので、
日本としても自主的に
世界経済のことを考えながら内需を自分で拡大していくということが現在求められるに至ったのではないだろうか、こういうふうに考えるわけでございます。
ところが、その内需を拡大する場合、問題は、その手段の点でいろいろなジレンマがあるということでございまして、例えば金融
政策というのを考えてみますと、国内需要のためには金利を下げなければいけないわけでありますけれども、余り金利を下げ過ぎると
円高が崩れる、
円安になってしまってはかえってぐあいが悪い。
円高のためには一時金利を引き上げようとしたこともあったわけでございまして、簡単に下げられないといったような問題がございます。
それからまた、
財政政策という点につきましては、御
承知のように、
日本では現在
赤字財政、
赤字額を減らしていく、こういう再建
目標を持っているわけでございますけれども、
円高とか物価安定とか、
円高で物価安定の中で国内需要が
伸びないと
税収がふえてこない。そこでまずます
財政制約が強まるという面が一方で出てまいりますし、他方で内需振興のためにはもっと支出拡大をしたいのだけれども、この再建
目標、
赤字を減らすという
目標とそれが矛盾してくるのではないか、こういうジレンマが現在あるわけでございます。問題は、このジレンマをどのような形で解決していくのかということが今後の
日本経済にとっての、あるいは
財政政策にとっての
最大の
課題であるというふうに考えております。
その場合、一番問題が少ないと申しますか、だれが考えてもそれができれば一番いいというふうに考えますのは、行政改革とか規制の撤廃、デレギュレーションとかあるいは民間活力を活用するという形で、
財政が
負担をしないでより高い
日本経済の成長を実現できるということがありますと、これは
政策的に言えば一番ありがたい
政策であるということは問題がないわけでございます。私もぜひその
方向で行政改革、デレギュレーションあるいは民間活力の活用という
方向で発展していただきたいというふうに思うわけでございます。思うわけでございますけれども、一方でこういった
政策の
効果というものについては必ずしも直ちに
効果が出るというものでもないということがあろうかと思います。
長い目で見れば、行政が効率化し、規制が撤廃されて民間活力が活用されるということはよいことでございますけれども、それが直ちに内需振興にどこまでつながるかという点は問題でございまして、むしろ本来
財政がなすべきことをしないためのいわば言いわけとしてとりあえず民間活力を活用するという言い方をしているということになりますと、かえって問題が先へ延ばされてしまう、こういう心配もあるわけでございます。そういう意味で、また民間活力と申しますけれども、民間企業はもうかることであれば既にやっているはずでありますから、民間活力を活用するというからにはそれに対して備える、その条件整備をする、そういうことが必要なわけでありまして、そういう条件整備のためにはやはり
財政の出番と申しますか、
財政による条件整備によって、それと相まって民間活力が活用されるということになるのではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。
そういう観点から
財政の問題について考えてまいりますと、私は
財政政策というものを余り短期的に、例えばたまたまことし
景気が悪いとか、
円高不況だからといったような非常に短期的な
景気刺激のために
財政を使うということについてはいろいろ問題もあるように思っております。むしろ短期的な
景気刺激という点でいえば、先ほど申しましたように、
日本経済は非常に柔軟でありますから、ある
程度の弾力性を持っているわけでして、むしろやはり
財政のあり方としては長い目で見て
日本経済の
成長力を引き出す、あるいは長い目で見て
日本経済の
内需拡大型の発展というものを保証する、そういうところへ民間の目をもっと向けさせるというような形で
財政というのは活動すべきであろうと思います。もちろん短期的な
景気政策というものを否定するわけではございませんけれども、より長い目で見た
成長力を引き出す、特に国内需要の
内需拡大力を引き出すということは、それが
財政の
仕事なのではないだろうか、こういうふうに思っているわけでございます。
財政というものは、もちろん規律なしに野方図でやっていいということにはならないわけでございまして、その意味では、
財政に対してある
程度たがをはめる
財政再建といったようなものを
目標として掲げるということ自体は私は結構なことだとは思いますが、しかし、これもやはり
長期的な観点で考えるということが非常に必要なことではないかと思います。
現在、
日本の
社会は急速に
高齢化社会に接近しつつあるわけでございまして、そういった場合、将来
高齢化社会がどんどん現実化してまいりますと、どうしても
社会保障、年金、医療といったようなところでは非常に
負担の増加が大きくならざるを得ない。このままいけばかなり大きな
負担が将来的にはくる、こういうふうに考えるべきだろうと思います。現時点で
財政が
赤字が幾らあるかとか、公債
発行が幾らあるかということよりも、むしろ今後二十年、三十年後の
高齢化社会になったときに、実は
財政が今のままでいいのかどうか、今の
制度でいいのかどうか、こういうことの方がはるかに大きな問題でございまして、現実の、現在時点で例えば公債の
発行が多いか少ないかといっても別に公債の消化に困っているとか、公債価格が出し過ぎて
暴落して困っているということではないわけでありますから、そちらの方はそれほど差し迫った問題だというふうには私は考えておりませんで、むしろより
長期の観点に立ちますと、やはり
高齢化社会がだんだんやってきたときに、二十年後、三十年後に備えて今から
社会保障
制度をちゃんとしたものにしておく、こういうことが
一つ重要なポイントではないだろうかというふうに思うわけでございます。
これは一九七〇年代における
我が国の
財政の拡大も
社会保障を
中心としました移転支出、つまり
国民の
所得の再分配のための費用というものが非常に急増してきているわけでございますが、今後
高齢化社会を迎えますと、それがほっておけばかなりより大きなものになる。ところが一方で、年金にいたしましても医療保障にいたしましても、これは
制度でございますので、急に変えては、人人が自分の老後のつもりで積み立てたものが急になくなるというようなことになりますと非常に混乱を起こすわけでございます。そういう意味で、
社会保障
制度の改革といったようなことはかなり
長期的な視点で、しかもこれは先のことだからといって、先になってはどうにもならなくなるわけでして、今から
制度をちゃんと変えていくということが必要ではないかと思います。
この点、率直に言えば、
社会保障については私はやや緊縮的な考え方、つまり
負担と受益のバランスというものをもっととった方がいいというふうに考えているわけでございまして、ある意味で
負担も引き上げると同時に受益は少しずつ抑えぎみにしていった方がむしろ長い目で見た
財政バランス、
日本経済のバランスのためにはいいのではないかと思います。余り大きな
社会保障を約束しておりましても、例えば年金について非常にいいことを約束しておりましても、他方で年金パンク論などというのが非常に世の中にはやってしまうというようなことですと、これは長い目で見た生活保障にならないわけでございまして、むしろ控え目であってもこれだけのことは間違いなくできそうだということを保障するという姿勢でいった方がいいのではないかというふうに思います。
日本は、別に大規模に軍備を拡大しょうと思っているわけでもございませんし、公務員数をこれからどんどんふやそうと思っているわけでもないわけでございまして、
長期的に見ればやはり
社会保障のところが一番大きな
財政問題になってくるというわけであります。私は、その点逆に言いまして、
社会保障については
負担を
国民に求めることも合意を得ることもより容易であるというふうに思います。
その意味では、例えば
社会保障についてもっと独立採算的な
制度を取り入れていく、
社会保障に必要な資金は一般の公務
サービス等とは切り離してそれ自体で一般会計から金を入れるということではなくて、保険料とその支払いとが
長期的にバランスしていくといったような形のものを、そういう
制度を今から設計しておいた方がいいのではないだろうか、こういうふうに私は考えているわけでございます。そしてその一方で、現在の
財政再建目標ということにつきましては、やはり過度に
目標を固定し硬直的に考えるということについてはもう少し弾力的に考えていいのではないだろうか。
赤字公債を漸減していくということ、
赤字公債の
発行額をだんだん減らしていくということは私も賛成いたしますが、例えば建設公債といったようなものについてそれも公債全体として無理やり、無理やりといいますか、強力に抑制するということが必要なのかどうかという点については疑問に感じるわけでございます。
我が国は幸いにして現在まだ
貯蓄率が高いわけでありまして、むしろ高過ぎでその資金が海外投資に向かうことが例えば
ドル高を呼んでいたとか、
貿易摩擦の原因になっているとか、いろいろ問題も出てきているわけでございます。そして、
高齢化社会が現実のものとなるためにはまだ十五年、二十年の時間的余裕があるわけでありまして、この時期は将来
高齢化社会に備えて今のうちにいろんなストックをむしろ充実させておくべき時期に当たっているのではないかというふうに考えます。
その意味で言いますと、
社会資本整備とか、あるいは後からちょっと触れたいと思いますが、国際協力とか技術開発とか、そういった非常に将来収益を生むべきものにつきましては、
我が国の
貯蓄率が高くて
高齢化社会がまだ来ていない、だんだん私ども年をとっておりますけれどもまだ働ける、こういう時期にはそういった将来に残るストックをやはり充実させるべぎでありまして、これを単に海外に投資をしてしまうということでは将来の国内の生活がむしろ貧しいものになる危険があるように思うわけでございます。
そういうふうに考えますと、例えば公債の
発行残高というものを無理やり減らすということではなくて、
GNPに対して公債
発行残高がそれほど大きなものにはならない、現在四割とか五割、これは計算によっていろいろ違いますが、
国債発行残高そのものですと百四十三兆に対して三百三兆ぐらいですか、そういったような四〇%台というようなバランスでございますけれども、これを適度にコントロールする。野方図ではよくないわけでしてコントロールする必要はありますが、
経済成長に見合って公債が
発行されていくということ自体までやめてしまうということは必要がないのではないか。せっかくの
日本の貯蓄力、現在ある貯蓄力を
我が国の国内における
社会資本整備とか、あるいは技術開発とか、あるいは国際協力といったようなものにもっと積極的に振り向けていくことが望ましいのではないだろうか、こういうふうに思うわけでございます。
例えば、そういう意味で考えますと、結局
国民の
貯蓄率が高いといいますことは、
国民が現在の
消費よりも現在受益をしないで将来受益をしたいということを考えているから
貯蓄率が高くなっているわけでありまして、そういう意味ではそれにこたえるような資金の使途を考える、こういうことが必要なのではないだろうか、こういうふうに考えております。その意味で、私は建設公債を
中心にある
程度の公債
発行の弾力化、
GNPの
伸びとバランスをとりながらある
程度弾力化していく。弾力化したところでこれは目に見えて大規模な
財政支出拡大が起こるというわけでもございませんし、いわゆる
赤字といいますか、不況対策だから大急ぎで何かやるという、そんな華々しいことを考えるのではなくて、むしろ
長期的に見て
財政も国内の需要を引っ張る
方向に回るという姿勢を示す。それによって民間活力がそちらに流れてくる。こういう環境整備という意味で、建設公債などについてももう少し弾力的な立場をとることも考えられてよいのではないか、私はそちらの方がよいのではないだろうか、こういうふうに考えているわけでございます。
ただ、そうした場合、今申しましたようなことを申しますと、結局一種の二正面作戦が必要だということを主張しているわけでございまして、将来非常に
負担が大きくなると見込まれる
社会保障
制度等についてはこれを
負担と収益のバランスをとっていくようにする。そのほか
合理化のできる余地があるもの、例えば国と
地方財政のバランスの
見直しとか、そういった点についてはむしろ大胆な行政改革、
制度改革を進めていく。その一方で
公共投資、
社会資本建設についてはもう少し弾力的に考えていったらどうか。こういうわけでありますから、これは一種の二正面作戦論になるわけでございます。しかし、そういう
議論をいたしますと、例えば
大蔵省なら
大蔵省の友人たちからすぐ反論されるわけでありますけれども、二正面作戦というのは実際は非常に難しいのだ、拡大なら拡大あるいは縮小なら縮小と言ってくれると、
我が国の官僚組織にしましても
政治組織にしましても一
方向に突進するというのは非常にうまいわけですが、一方で
制度改革をしてバランスをとる、他方で伸ばすところは伸ばすというのはこれはなかなか
政治的、行政的に難しい、こういう批判があるわけでございます。
その批判は私も重々
承知しているわけでございますけれども、しかし、これは私のように直接
政治、行政にタッチしていないからそういう理想論を述べるのかもしれませんが、やはり
国民的な合意を経ながら一種の二正面作戦、つまり非常に
長期的な意味での
財政の規律と、それからやはり
内需拡大のための
財政の出番というものをうまくバランスさせていくような
方向に御検討いただけないものであろうかということを考えるわけでございます。
以上が
財政の支出、主として
社会保障と
社会資本建設というもの、それに対して公債
政策について多少考え方を述べさせていただいたわけでありますが、あと若干
税制改革についても
議論をしてみたいと思います。
私は、
税制改革という点で、
増税によって現在の
財政危機あるいは
財政赤字を急激に減らそうという考え方は必ずしもとる必要がないように思っております。確かにある時期、
日本では非常に歳入欠陥が大きくなりまして三兆円、六兆円というような歳入欠陥が生じましてそれを公債で
発行する。そのために公債
発行が行き過ぎるのではないかという非常な危機感が抱かれたときがございましたけれども、現在は大体
税収がまだ八割には至っておりませんが、そろそろ一般会計規模の八割に近いところまで、これはこれまでの
政治、行政の御努力によって回復してきているわけであります。
〔理事
桧垣徳太郎君退席。
委員長着席〕
まだまだ足りないかもしれませんが、今後
経済成長を続けていく、そして
日本の
貯蓄率に頼ってある
程度の公債
発行を続けていくということでありますと、必ずしも
増税によって
財政の
赤字を消してしまえという
議論には私は賛成いたしません。
日本のような
貯蓄率の高い国では、ある
程度公債
発行があってもいいというふうに私は考えております。ただ、税の中身につきましてはもう少しいろいろ改革をするということは必要であろうというふうに思うわけでございまして、これは基本的にはやはり広く浅く税というのは取るというのがいいのではないか。例えば
所得税というものは累進構造になっておりまして非常に高い。ある段階になりますと非常に重い税を払うことになるわけでございますけれども、しかし、これをもし非常に薄くでもよいから広く取ることができればかなりの
減税もできる。つまり現在非常に大きく
負担している一部の層への偏り、そういったものをもう少し広める形で考えることはできないだろうかというふうに考えるわけでございます。税というのは、一方で言えばこれは
国民としては必ず払っていただかなければいけないわけでございますからなるべく広く取る、その一方で浅く取る、余り税を重く取らないということが必要だろうと思います。
税について、
所得分配を公正にする必要があるという
議論がございますけれども、
我が国の
所得分布、特に勤労
所得面での
所得分布というのはむしろ国際的に見て非常に平等化しているわけでありまして、そういうかなり
所得が平等に分布している中で余り累進性を強化するということでありますと、かえって
負担感が非常に重くなるという嫌いがあるのではないかと思うわけでございます。もし
所得分布を
是正しなければいけないということであるのなら、例えば
相続税とか資産課税といったような形でむしろ資産の分布の平等をねらうべきであって、
所得税といったようなものについてはもう少し累進構造が緩和されていてもいいのではないかという気がいたします。
その意味では、
所得税は
減税するということに私としては賛成したいわけでございますが、他方では、やはり利子に対する課税のあり方をもう少し公平なものにするという必要があるかと思いますし、他方で
消費支出に対する税を
導入するということも必要なのではないか。
直間比率を
是正するということと利子
所得についての課税を強めるということとのバランスで
所得税の傾斜を緩め、
所得税全体としても
減税する。
法人税は、今もし余力があれば多少の
減税といったような形で考えることが
経済バランスのためにいいのではないかというふうに思います。
なお、
税制改革につきましては
アメリカ等
においても現在
議論が進んでいるわけでございますけれども、
消費税というのはある意味で貯蓄を奨励する形になるわけでして、
消費に対して税金を取るということは貯蓄を奨励する形になるわけですから、仮に
消費税というものを入れるとすれば一方で利子課税といったようなものも見直す形で、貯蓄と
消費と勤労といいますか、この三つのバランスをもっととっていく。これまで見ておりますと、大体
間接税のウエートが非常に、下がっている。つまり
消費に対する課税が傾向的に低下する。それから利子に対する課税も非常に少なくなっている。
所得税のところだけが非常に大きな税金を払うような形になっているように思われますので、そのバランスを回復する。
日本は
原則的に言えばやや貯蓄過剰傾向がありますから、貯蓄を余り奨励するといったようなことはしない方が国際的には認められやすいように思うわけでして、そういう観点から言いますと、
消費税を
導入するのであればやはり利子課税といったことも考えざるを得ないのではなかろうかと、こういうような印象を持っております。
最後に、やや次元の違った話になりますが、それは、この
予算、
財政を通じてやはり国際協力ということをこれから
日本としては大いに考えていかざるを得ないだろうと思うわけでございます。
昨年の
我が国の経常収支
黒字は五百億
ドルを超えたわけでございますけれども、現在石油価格の値下がりといったようなことが起きておりまして、ことしは下手をすれば
政府の
経済見通しを超えて石油値下がり分による
黒字が
追加されるかもしれない。大体
我が国の経常収支は、昨年あたりで
GNPに対して三・七%ぐらいの
黒字になったという計算があるようでございますけれども、これは歴史的に見ますと、かつて
アメリカが経常収支
黒字を一番たくさん出した一九四七年の数字と同じだということを、これは私が自分で計算したのではないのですが聞いたことがございます。そのとき
アメリカは御
承知のようにマーシャルプランというのを出しまして、つまりそういう
国際収支の
黒字を国外に、海外に還元して
世界経済の順調な発展に寄与するという
政策をとったわけでございます。あるいは石油の値上がりが非常に大きかった一九七〇年代におきましては、サウジなども国際金融に対してファシリティーを供与するといったような国際協調的な
政策をとっているわけでございます。
我が国といたしましても、やはり国際的な
社会の中で生きていくためには、国際協力のために身銭を切って努力しているということを
国民自身が自覚すると同時に、
世界に対しても示すということが非常に必要ではないかと思うわけでございまして、私は、そのためには例えば国際協力税というような、これは国際協力をする人に税金をかけるのではございませんで、国際協力を目的とする特別の税を考えるとか、あるいは国際協力のための特別の債券を
発行するとかいったような形で、目に見える形で国際協力を充実していくということが今後の
日本経済にとって非常に重要ではないかと思います。国際協力というのは非常にやりにくいわけでありまして、下手をして発展途上国の独裁政権に対してただ金をばらまくのかという批判が常に出るわけでございます。これは非常に困ったことでありますが、簡単に言えば、発展途上国で独裁国でない国を探すというのは非常に難しいわけでして、もし独裁政権に協力するなと言われると国際協力ができなくなってしまう危険もあります。
例えば、国際的な基金とか機関に協力するとか、地域協力を促進するとか何かやり方を考えて、
日本が率先して国際的な公共財、
世界のために役に立つことに身銭を切るという姿勢を見せることが今後の
日本経済が
世界経済の中で生きていくための
一つの重要な条件ではないかと思います。その点をやや次元が違いますが
追加させていただきたい、かように考えます。
以上、簡単でございますが、私の陳述を終わります。