○井上計君 私は、民社党・
国民連合を代表して、ただいま
議題となりました
昭和五十九
年度決算に関連して質問を行います。
去る五十九年二月、第百一
国会の冒頭、
中曽根総理は施政方針演説の中で次のように述べられました。
「我々を取り巻く内外の環境や時代の潮流には、最近顕著な転換の兆しがあらわれております。
我が国も、
政治、経済、文化、
教育、福祉、外交、安全保障等各分野をさらに総合的に再点検し、適切な改革を強力に推し進め、転換期のハードルを乗り越え、
日本の未来を開くべき時期に来ていると確信いたします。 しかしながら、その実現は決して容易なものではありません。それは、」「もろもろのひずみを是正することであり、また、二十一世紀という未知の世界への挑戦と準備のための軌道を敷設することであるからであります。これらの改革と挑戦は、早晩
日本民族が遭遇しなければならない宿命の試練であり、これを乗り越えてこそ、
我が国の希望とさらに偉大な繁栄と発展があると確信いたします。私は、
国民の皆様とともに手を携え、謙虚に国政の衝に当たっていく決意であります。」
私は、この格調高い
総理の演説を聞いたとき、
国民の一人として強い感銘を受け、同時に大きな期待を抱き、その後の
総理の
政治姿勢に対し重大な関心を持ってまいったのであります。
〔
議長退席、副
議長着席〕
また、
竹下大蔵大臣は財政演説で、「
我が国の貿易・
経常収支は、」「米国を中心とする世界景気の回復を主因として大幅な黒字を続けており、諸外国では、
我が国に対しその不均衡の是正を求める声が高まってきております。」と認識をされながら、続いて、「為替相場の動向につきましては、昨年十一月以降、ドイツ・マルク等の欧州通貨は、米ドル金利の反騰懸念や国際
政治情勢などを反映し記録的な安値となっておりますが、円相場は昨年十月以降比較的堅調に推移しております。今後、円相場につきましては、さきの
対策に盛り込んだ資本流入の促進等を初めとした各般の措置の着実な実施と相まって、
我が国経済の良好なファンダメンタルズを十分反映したものとなるよう期待しております。 今後とも関係諸国と密接な協調を保ちながら、円相場の安定に努めてまいりたいと考えております。」と述べておられます。
当時の円相場は二百三十五円前後でありましたから、この演説からすると、この程度が
我が国経済の実態からして適正と考えておられたものと思われるのであります。とすると、五十九
年度の
予算の編成方針と財政の見通しは明らかに誤りであったと言えます。
さらに、昨年九月のG5の合意とその後の
円高政策は、自由貿易体制を守り、国際協調の立場からやむを得ない政策とするならば、
政治の要諦である先見性からして当然予測される
事態を考慮して
円高対策を
確立し、並行して政策転換を実施すべきであったと考えます。ところが、
政府の
対策はすべてが後手後手と回り、いわゆる泥棒を見て縄をなう式の失政と強い非難がありますが、
大蔵大臣はどのように認識しておられますか、お伺いをいたします。
さて、この数日間、円相場はやや落ちつきを見せておりますが、依然、先高感、先行き不透明感の異常な
事態にあります。新聞報道は連日、
円高不況による息切れ倒産を伝えております。
円高が原因による倒産は既に百件を超え、さらに広がりつつあります。また、輸出関連企業のみでなく、
円高による輸入原材料の価格低下のため、極端な売れ行き不振となり、危機に陥っている業種、企業が
増加しつつあるのであります。これらの原因は、
円高のスピードが余りにも速過ぎて、企業に対応する準備時間が全くなかったことにあります。今さら言っても仕方がないとはいえ、せめて五十九
年度あたりから緩やかな
円高政策がとられておれば、このような混乱や悲劇は防止できたものと思われます。したがって、
政府は改めてその責任を痛感し、適切な緊急
対策を速やかに
確立して対処しなければなりません。
私は、以上のような
観点から具体的に
対策を提言して、
総理並びに
関係大臣にお答えをいただきたいと思います。
第一に、去る二月に実施された特定
中小企業者
事業転換
対策等臨時措置法の拡充であります。特に融資条件の緩和、融資枠の
拡大と信用保険法本法の改正に加え、保証協会への補助金の追加を行い、保証枠の
拡大と無担保保証枠の
拡大を速やかに実施し、さらにその金利を三%程度の低利にすべきであります。
大蔵大臣は、現在の財投金利からして不可能とお考えかもしれません。しかし、去る四月二十四日、私が補助金等特別
委員会で提言したように、
現行の財投金利は高金利時代に定められたものであり、低金利時代となった今日においては甚だしい矛盾が生じていることは明らかであります。
この矛盾は、
昭和五十九
年度において既に表面化しております。すなわち、五十九
年度の財政投融資の使い残しが約五兆円となっておりますが、特に
政府系金融機関の未消化が目立っていることがそのあらわれであります。もちろん、
資金運用部
資金法の改正は時間を要するでありましょうから、その間は
予備費等から利子補給を行う等、
政府はあらゆる方法を講ずべき責任があります。また、三%の金利は難題ではありません。既に
政府は二百海里漁業規制の際三%の低利融資を実行していることを考えると、
円高非常
対策として低利融資を行うことについては当然であります。また、
円高不況による解雇、
円高倒産による離職者が
増加しつつあります。
政府はこれらの
対策として、職業転換給付金の支給、あるいは雇用調整
助成金の
助成率の引き上げ等を実施すべきと考えますが、いかがでありましょうか。
さらに、これらの
対策と同時に、硬直化した従来の財政政策を反省し、財政出動によって速やかな
内需拡大、景気の振興を図る政策転換を即時行うべきであります。また、当然のことながら、所得税の減税、投資減税等の
拡大、公共
事業費の追加、民間
住宅建設の促進政策等々の積極政策に転換をしなければ、民間活力の促進は空念仏に終わり、
財政再建どころか、反対に、元も子もなくなるという破綻の憂き目を見るようになることは明らかでありましょう。
同時に、我が風の産業構造の転換を進める施策を
確立すべきは当然であります。しかし、その場合、多くの
事業者に転廃業の
指導を行うことになるでありましょう。それが弱者を切り捨てる政策であっては絶対なりません。そのためには、現在の特定産業構造
改善臨時措置法を
見直して、新たに「特定企業転廃業
対策措置法」のような法律を策定し、設備の買い上げ、債務の肩がわり、長期低利の融資等、特定企業が進んで転廃業のできる環境と条件づくりが必要であります。また、流通業、サービス業等の新分野の開拓、
拡大も
政治の責任として創出する政策が必要と考えます。
さらに、中高年齢労働者の職種転換のために、職業訓練
制度の改正、拡充も必要であります。労働大臣はいかがお考えてありますか、お聞きをいたします。
以上申し上げましたが、この異常、非常
事態の中で苦しんでいる多くの人たちに対し、きめ細かい、そうして温かい施策を速やかに実施してこの難局を乗り切り、ともに手を携えて二十一世紀へ向かって力強く挑戦することができますように、
中曽根内閣の有終の美を飾るため、
総理の決断と勇気を期待し、さらに要望して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕