○
寺田熊雄君 私は、
日本社会党を代表して、本
法案に賛成の立場から討論をいたします。
本
法案は、
アメリカ及びECからの
市場開放を求める国際
経済上の強い
要請に基づいて作成されたものであります。中曽根内閣はこの強い
外国の
要請にこたえて、五十九年四月二十七日、対外
経済対策を、次いで六十年七月三十日、いわゆるアクションプログラムを発表し、それらの
要請を満たす努力を約束せざるを得なかったのであります。
それは、
弁護士業務という特異の知的
業務の
自由化を求める点で、従来見られなかった新しい
制度に門戸を開いたものでありましたが、私は、本
法案の作成に当たり、
法務省と
日弁連が緊密なスクラムを組んで作業した点を評価したいのであります。これほどまでに完全に
日弁連の意向が
法案に反映されたことは珍しいことでありました。もっとも、それは前述の二回にわたる
政府の
方針の表明にも見られたことではありましたけれ
ども、
外国人弁護士の
事務所の開設、その恒常的な
業務運営を認める新しい
制度の
創設であります以上、
我が国の
弁護士制度との調和を図りつつ実現せらるべきことであることは当然の事理であったのであります。これによって
法務省は外圧をかわし、
弁護士という知的
業務の
市場開放、
我が国の
市場は閉鎖的であるという非難をかわすことなどに成功いたしましたし、
日弁連はこの新しい
制度を完全に自己の傘下におさめ、
弁護士制度が統一せられ、
弁護士業務の運営が無秩序に陥ることを防ぐという成功をおさめたのであったのであります。
しかし、この
法案にはなお幾多の問題点があり、
アメリカ及びECの
経済団体は、これによっては到底真の
市場開放は得られないという厳しい批判をいたしておりまして、この
法案の審議中に中曽根首相に直訴したことも事実であります。これらの
経済団体は、例えば何百人もの
弁護士を擁する
ローファームが、あたかもケンタッキーフライドチキンやマクドナルドハンバーガーなどが
我が国の
外食産業に殴り込みをかけ、高い
市場占有率や収益を獲得いたしましたように、
ローファームが大挙して
日本の
外国法に関する
法律業務に参入してそれを支配することを夢見ていたのかもしれません。しかし、その期待はこの
法案によって完全に裏切られたと言っても決して過言ではありませんし、もともとそうした要求自体が無理なものであると言えないこともありません。それを許さなければ真の
市場開放ではないと考えるのであれば、それは余りにも極端な資本主義的自由主義に堕するものであると私は考えます。
しかし、この
法案の内容を子細に点検いたしますと、これらの
経済団体の批判には共感を覚える点がないではないのであります。
これらの批判の主なものは、
外国法事務弁護士の
資格取得条件として五年以上の実務経験を設けたこと、その
職務範囲が原則として
原資格国法に限定せられていること、
日本の
弁護士との共同
事業は許されないこと、それが
日弁連の監督下に置かれたことの四点であります。
五年以上の実務経験を
資格取得の条件としていることは、
アメリカのニューヨーク州、ワシント
ンDC等にもその例があるのでありますが、また一面、イギリス、フランスなどEC
諸国にはなく、
一つの問題点であることは疑いありません。
また、
外国法事務弁護士を
日弁連の監督下に置いたことは
我が国の
弁護士制度が
弁護士会の自治権、自主的規律のもとにあり、外部からの介入を許さない独特の
制度であることに対する
理解の欠如によるものでありますし、また、
日弁連に設けられました登録審査会、懲戒及び綱紀
委員会の構成について一定数の裁判官、検察官などを
委員中に含めましてその審査の公正さを担保しようとした努力をしている点を看過したことにもよるものであります。
しかし、その運用、とりわけ綱紀及び懲戒
委員会の運用が余りにも
外国法事務弁護士の
業務運営に対して厳し過ぎたり、懲戒の乱用にわたったりすることのないよう戒心を要することは論をまちません。とりわけ、
外国法事務弁護士が多少
職務範囲の
規制を逸脱したり、
我が国の
弁護士と
業務処理の仕方や倫理観念を異にする
関係上、広告の扱いや報酬の取り方等について多少
日本の
弁護士と異なる処置をとったといたしましても、直ちにそれを綱紀違反として糾弾することには慎重さが求められると考えます。
次に、
職務範囲の点でありますが、許される
法律事務が
原資格国法に限られ、特定の第三国法が許されることはあっても、それについては五年以上の実務経験を要件としていること並びに
アメリカ、イギリス、フランス等が広く
外国法
一般及び国際法に関する
法律業務を
外国弁護士に認めていることなどを考え合わせますと、この点に関する本
法案の制約は厳し過ぎるという非難には合理性がないとは言えません。
また、
アメリカ等の
経済団体は外団法
事務弁護士が
日本における
外国企業の
日本に対する
事業なり投資なりに貢献することを期待しているのに反しまして、
我が国の
経済団体は
日本企業の
外国への
進出や投資、
外国企業の合併等に
外国法事務弁護士を利用することを本
制度のメリットとしているというその違いがあるのであります。
アメリカ的な
考え方によれば、
外国法事務弁護士の
業務の遂行には
日本の法律に対する知識とその運用についての経験を必要としますので、どうしても
日本の
弁護士との共同
事業によることが不可欠となりますが、これが第四十九条によって禁止せられており、彼らに欲求不満が生ずるのは当然であると考えられます。
これらの点については、
法務省当局の今後における公正かつ慎重な検討が望まれるのであります。
最後に、法曹人口の増加の必要性について言いたしたいと思います。
諸
外国に比して
日本の法曹人口が少なきに失するという批判には十分な理由があります。もっとも、これは法曹にはできるだけ十分な法的な教養が必要であるとするという
考え方が
一つの基礎になってもおりますし、また一面、
弁護士の過当競争を恐れる点にも一因があると考えられるのであります。しかし、増大する大衆の法律生活上の需要、殊に大都市以外の地域におけるそれを考えますと、現在の
弁護士数で十分であるとは到底言い得ません。
また、国際
経済の進展に伴い、国際的法律知識や経験を持つ法曹の養成が必要であることなどを考え合わせますと、法曹人口を漸進的に増加せしめることが望ましいと考えられますので、
法務省、最高裁及び
日弁連の法曹三者がこの問題を真剣に検討せられるよう希望するものであります。
以上の諸点の希望を述べまして、本
法案に賛成をいたします。