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最高裁判所長官代理者(
猪瀬愼一郎君) 最高裁の決定そのものの
内容につきましてはただいま御
説明したところに尽きるわけでございますが、この問題について、一般論としまして現行少年法の考え方について若干御
説明申し上げますと、少年法の保護
処分は刑罰と異なりまして、少年の健全育成を目的とした保護、教育
処分の性格を持っているわけでございます。それと同時に、保護
処分は少年の自由を制限、拘束する一面をもあわせ持っておりますことから、現に保護
処分の
執行を受けている少年について非行事実のないことが明白な場合には少年をその保護
処分から解放するということは、少年の権利保障の見地から現実の必要があるわけでございますので、これを現行制度のもとにおいては、先ほど申し上げました決定にございますように、少年法二十七条の二の第一項の解釈で運用しようとするのが
裁判所の実務の一般的な考え方でございます。
しかし、保護
処分の
執行が終了した段階においては、非行事実不存在と宣言して保護
処分の取り消しをするということは少年の名誉回復の意味合いが強いわけでございますが、この点については、保護
処分の保護的な性格というものを強調することからいいますと刑罰とは差異があるのではないか、保護
処分は刑罰とは差異があるのではないか、こう考えられておりまして、この考え方は現行の少年審判手続構造にも密接に反映しているわけでございます。
と申しますのは、現行の少年審判手続におきましては、非行事実が認められない場合には、刑事手続と異なりまして、非行事実の不存在を主文中で明確にすることも、また
理由中で明確にすることも必要的なものとしては
要求されていないのでございまして、単に審判不開始または不
処分、要するに審判を開始しないあるいは審判
処分をしない、こういう決定で手続を終了することを現行法は予定しているところでございます。
このような手続構造は非行事実のなかった少年の権利保障の見地から見ますと不十分ではないかという見方も成り立つものと思われますが、
他方、非行事実のあった少年の保護の見地からしますと、現実にはこの場合が非常に圧倒的に多い場合でございますけれ
ども、黒白を手続上明確にしない方が少年保護という見地からしますとよろしいのではないか、こういう見方も成り立つわけでございます。
このいわば衝突する二つの価値の調和をどこで線を引くのが適当であるか、こういう問題になってこようかと思いますが、現行少年法は少年審判手続の保護的な性格を強調する考え方に立っていると言えようかと思います。そして、このような現行の少年審判手続構造を前提にしますと、非行事実の不存在を手続上宣言して明確にすることを
要求する刑事訴訟法上の再審制度は現行の少年審判手続とは整合しないことになりまして、現行法の解釈論としてこれを取り入れるということは非常に困難であるというふうに考えられていると言えようかと思います。
したがいまして、この再審制度を少年審判手続に導入するということは、少年の権利保障を
強化するという見地から、少年審判手続の保護的性格にある程度のいわば譲歩を求める意味合いもあるわけでございまして、それは少年法の理念及び手続構造とも関連する大きな問題であるわけでございます。
ただ、
昭和五十二年の六月の法制
審議会の少年法改正に関する
答申では、この点につきまして、非行事実が認められない場合に行うべき決定の規定を
整備するとともに、刑事訴訟法上の再審に相当する非常救済手続の新設を提言しておるところでございます。私
どもとしましても、立法論としましては大筋としてこのような方向の改正が十分考慮さるべきものというふうに考えておるのでございます。