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参考人(阿部浩二君) 本日、
著作権法の一部を改正する
法律案並びに
プログラムの
著作物に係る、
登録の
特例に関する
法律案についての
意見を申し上げる機会を与えていただきましたことに対しまして、まず御礼申し上げたいと存じます。
初めにお断りと申しますか、ここに二つの
法律案が出されておりますが、
著作権法の一部を改正する
法律案につきましては、大別いたしますとニューメディアとデータベースとのこの二つの分野に分けることができるのではないかと思います。私はそのうちの主としてデータベースについての
意見を申し上げ、ニューメディアにつきましては黒川
参考人の方にお譲りしたいと、こういうようなつもりでおりますので、よろしく御了解いただきたいと思います。
それでは初めに、
著作権法の一部を改正する
法律案、そちらの方から申し上げてまいりたいと思います。
データベースにつきましてでございますが、今回の改正に当たりまして、「データベース」と、まず一番初めに定義が置かれているわけでございます。データベースと申しますと、非常に広い意味におきましては百科事典のようなものもデータベースと言うことができないわけではないのであります。しかし、ここにおいて問題といたしますデータベースは、そのような百科事典のようなものを取り上げているわけではございませんで、論文とか、あるいは数値、図形等多数の情報を体系的に整理統合し、コンピューターで、電子計算機で検索することができるように体系的に構成した情報の集合体、こういう意味においてデータベースが使われていると理解いたしております。
データベースというものは、作成に当たりましては、御承知のように非常に多額の金銭、費用と、それから多くの時間が費やされるわけでございます。したがいまして、そこには経済的な価値はもちろんのこと、
文化的な価値も非常に大きいということは当然のことでございまして、これに対する保護が昔からといいますか、データベースの構築が
考えられました時点からいろいろと
考えられておりまして、諸外国の例を眺めてみましても、例えばアメリカの場合を取り上げてみますと、一九七六年に一九〇九年の旧アメリカ
著作権法が全面的に改正されました際に、いろいろとデータベースにつきましても討論されたわけでございます。しかし、データベースという文言は明示はされてはおりませんでしたけれ
ども、その中において、保護される
著作物の中にリテラリーワークという言葉がございます。リテラリーワークと申しますと、
日本では通常文芸の
著作物というような
表現をとっておりますけれ
ども、私は、余りその
表現といいますか翻訳は感心したものではないと、こう
考えております。それは言語の
著作物と言った方がより正確ではなかろうか、こう思いますが、非常に古いベルヌ条約が翻訳されたときも文芸の
著作物と言ったので、それを引いて現在も文芸の
著作物と言っているのじゃないかと思います。その言語の
著作物としてのリテラリーワークの中にこのデータベースが入るのであり、
著作権法上保護されるということをアメリカの新
著作権法においては申しているわけでございます。それは
審議の過程において明らかにされているところでございます。
ただ、文言は出ておりませんが、続きまして、データベースあるいはコンピューターの
プログラムにつきまして
審議を開始しておりましたアメリカの
国会図書館、そこの著作権局だったと思いますが、そこに付設されました、新技術の開発に伴って生ずるところの
著作物の保護に関する特別な
委員会、国家
委員会がございました。通常コンツーと呼んでおります。CONTUという略語を使っておりますが、そこにおきましても、データベースは
著作物として
考えていこう、しかもそれは編集
著作物として
考えていこう、このようなことで、
著作物としてデータベースを保護するということにつきましては、アメリカでは現在確定した
考え方であるというように私は理解しております。
また一方イギリスにおきましても、イギリスには
日本の著作権
審議会に該当するような
委員会が臨時に設けられることがしばしばございますけれ
ども、その
一つとして、一九七七年にウィットフォード
委員会というのが報告を
出しております。そのウィットフォード
委員会の中におきましても、データベースを
著作物として取り上げよう、リテラリーワークとして取り上げようという報告がなされているわけでございます。
そのほかにも、カナダもまた一九八四年に
政府の白書でそのような取り扱いをしているわけでございます。オーストラリアもそのとおりでございます。
また、国際機関といたしましても、御承知のようなWIPO、世界知的所有権機関とユネスコとの合同でしばしば持たれております
政府の専門家会議におきましても、データベースの保護につきまして、これは保護の対象として
考えていこう、データベースも
著作物の中に含ましめることができるのであると、このようなことがしばしば、例えば一九七九年や一九八二年の
政府間の
委員会において取り上げられているところでございます。
こういうような、国際間におきましてもいろいろとデータベースの保護ということが努力されておりますので、今回、まあおくればせと言っては失礼でございますけれ
ども、我が国におきましてデータベースが
著作権法の中において保護されるということになりましたことは、私としては、極めて喜ばしいことではないか、こういうふうに
考える次第でございます。
と申しますのは、先ほど申しましたように、データベースはこれを作成するに当たりまして多額の費用や多額の労力が使われてくるのであって、残念なことには、現在
日本におきますところのデータベースの利用状態ということを見ましても、一九八四年、八五年――昨年、一昨年あたり、どちらでしたか、一昨年だったと思いますが、現在
日本で使用することができると申しますか、用に供されているところのデータベースの数というものは、総数として、単純計算いたしまして約千二百くらいだったでしょうか、千二百余りだと思いますが、それが提供されておりますけれ
ども、そのうちで、現に我が国でもって作成されたデータベースがどのくらいあるかと申しますと、そのうちの二百と若干という程度でございまして、約二一%ぐらいしか我が国のいわば国産はないわけでございます。そのほかのものは外国のデータベースでございます。とりわけ、主としてアメリカのデータベースが供されておりまして、私もしばしばその恩恵に浴しております。
例えば、アメリカにダイアログという大きなデータベースのディストリビュータープロデューサーがございますけれ
ども、
日本の紀伊國屋や丸善を通しまして、私の方の端末機でもって呼び
出しながらいろいろな文献を参考にするということができるわけでございます。そういうデータベース、これは
日本にも、おくればせながらと申しましても、
日本では科学技術情報センターを
中心といたしまして、化学
関係の文献、これがあそこのJOISというデータベースが
日本の化学
関係者には非常に利用をされております。しかし、そういうふうなものはございますけれ
ども、まだまだ
日本ではこのデータベースの開発という点におきましては世界的に見ますとどうもおくれているのではなかろうか、こんな感じがいたします。そういうところで、この著作権でもってデータベースの権利を保護し、その流通を
考えていこうということは、極めて結構なことじゃなかろうかと思っております。
そして、そこで
一つ出てまいりますのは、なぜ著作権によって保護しなければならないかということが
一つ疑問かと思いますけれ
ども、これは確かにデータベースならデータベースとしての特殊な法律をつくるということも
考えられないわけじゃありませんでしょうけれ
ども、そういうことは現在の実際の社会から見たならば極めて不適切ではなかろうか。著作権による保護が最も適切であるというような感じを持っております。と申しますのは、先ほど申しましたように、諸外国において
著作権法において保護するということを現にしているというだけではございませんで、これは言語の
著作物として十分にその
内容としてとらえることができますし、と同時に、現在百以上の国々が、御承知のような万国著作権条約であるとかあるいはベルヌ条約によって相互に
著作物を保護するという体制をとっているからであります。そういうことによりまして、我々の
著作物としてのデータベース、これも世界的に保護されるところの、何と申しますか、そういう体制が明示されてくるということは非常にうれしいことだと、こういうふうに思うわけでございます。
そこで、今回のこの
著作権法の改正に当たりまして、どのようなことが
中心として取り上げられてくるだろうかということをちょっと私なりに整理してみますと、
著作権法の第二条に、データベースにつきまして定義を置いているわけでございます。そして、データベースで、その情報の選択または体系的な構成によって創作性を有するところのものについては、
著作物として保護せられる、それがデータベースの
著作物ですが、そのデータベースについての定義をまず第二条にはっきりと置いているわけでございます。そして、そのデータベースの中で、創作性を持つものについては保護していこうと、これが第十二条の二でもって保護の明確化を図っているわけでございます。これは理屈から申しますと、必ずしもこのような規定が置かれなくても、
著作権法によってデータベースは保護の対象とすることには私は差し支えがないと思いますけれ
ども、しばしばこのデータベース、新しい
一つの知的産物でもあり、それに対する誤解があっても困りますので、この保護を明確化するということは、極めて賢明な手段ではないかと、こう思っております。
話は飛びますが、後ほど申し上げますところの
プログラムの
登録の問題のそのもともとの
プログラムにつきましても、これは
一つの言語の
著作物として取り上げることは十分にできるわけであって、それを注意的に規定したのが、この前の
プログラムについての
著作権法の改正ではないか、こういうようなとらえ方をしてもよろしいと思いますが、データベースもまさしく
著作権法によって保護されるものをここで保護していると明記し、誤解を避け、注意的な規定としてにせよこれをはっきりしたことは喜ばしいと、こう思っているわけであります。
さらに、この
著作権法の一部改正におきましては、データベースというものは、現在、その利用形態というものはオンラインによって利用されるということが通常でございます。そういたしますと、このデータベースの作成は、個人でもって作成するというよりも法人組織において、これがどのような法人であれ、法人組織において作成するということが多いだろうと思います。法人の作成のときにおいては、一般に
著作物についての公表が著作権の保護を受けるところの前提となっておりますが、データベースも、これは端末から引き出すときにはデータベース全体についての公表と果たして言えるかという点につきましては、若干の疑問があるわけであります。そういう点まで配慮いたしまして、いつでも公衆がそれを利用することができる、こういう状態において公表とみなすという規定が今回設けられているようでございます。それも極めて適切な規定の仕方ではなかろうかと、こういうように、
考えるわけであります。
そしてまた、データベースの場合には、データベースを構成するデータそれ自体これもまた問題になりますが、それとデータベースとの関連におきまして、そのデータ自体のもともとの保護についてはデータベースの保護とはこれは抵触するものではない、そちらの方の権利を格別侵害するものではなくてその権利はそれ自体として保護し、それとは別個にデータベースをデータベースの
著作物として
考えていこう、こういう体制をとっていることは賢明ではないかと、こういうふうに思う次第であります。
データベースにつきましては、柱としましてはそんな三つ四つの点があるのではないかと思います。
それにつけ加えておきますと、このデータベースを単なる一般的な編集
著作物として見るだけではなくて、それよりも一歩進んだデータベースそれ自体を
著作物として見ると、こういう姿勢をとったということは、これは
日本的ともいうのではなくて、世界でも余り見ないところの規定でございますけれ
ども、これはそれ自体データベースの新しい知的産物としての特徴をよくつかんでいるんじゃないか。しかしそれは、編集
著作物との間においてどういう差があるのか、こういう点は学問的には私は非常に興味があります。しかしながら、実際においては余りこれを問題にする必要もなさそうな、実務界ではそんなふうなことはほとんど問題にしないと思いますけれ
ども、学問的には非常に興味のあるところでございます。
データベースにつきましてはそんな程度にいたしまして、余り時間を超過しても恐縮でございますので、次に、簡単に
プログラムの
登録の方について御説明といいますか、私の感じを申し上げたいと思います。
プログラムの
著作物に係る
登録の
特例法でございます。御承知のように、これはことしの一月一日から施行された
著作権法の一部改正法、その中において、
プログラムが
著作物として保護されるということが、注意的にせよ何にせよ、これは明記されたわけでありますが、その
著作権法の中には、現在のところ、
登録につきましては実名を
登録する、あるいは発行年月日を
登録する、あるいは著作権の
登録をする、これは権利の対抗要件としての意味を持っているわけですが、三つの
登録のやり方があるわけであります。その三つの
登録に加えまして、今回、一月一日から施行されておりますところの
著作権法の改正法におきましては、
プログラムについての創作年月日の
登録が制定されたわけであります。
その制定されたのは、これもまたそのときに十分に御
審議いただいたはずだと思いますが、
プログラムにつきましては公表されないということがしばしばあるわけでございます。公表されない
プログラムにつきましては発行年月日、この
登録ということは現実には余り役に立たないということになりますと、発行ということではなくて創作の
登録ということが
考えられてもよのではないか、そのことが実務会から多分に要望が出されたところだったと記憶いたしております。それにこたえてできたのが創作年月日の
登録であり、したがいまして、それについての、
登録についての規定の整備を図っていくということはこれはどうしても必要であり、それが特別法といいますか、
特例法をとってくるということは、若干通常の形態からいたしますと、これはちょっと異例な形になるかと思いますが、つまり、
プログラムにつきましての法律、
著作権法の中にこの創作年月日の
登録についての大まかなところはちょっと書いておいてもいいんじゃなかろうかと、こうは思いますけれ
ども、
プログラムについてそれ自体の保護を非常に強く要請しておりました実務界あるいは世界的な情勢から見まして
登録につきましての手続に関しましては後回しにした、そして
プログラムについての保護を前に持っていった。この一月一日から施行しておきまして、あとは、この創作年月日の
登録だけは後回しにした、これもやむを得ないし、また、今回これが出されたということは極めて結構じゃなかろうかと、こういうふうに
考えるわけでございます。
そして、拝見いたしますと、この
登録も、多数の
登録があることはこれは一応予想しなければなりませんので、そこで磁気テープでもって原簿を作成する、あるいは申請に当たりましても磁気テープをもって申請してもよいというような含みまで残されているように私には見受けられるわけでございます。
内容的に見ましても、私にとりましては時宜にかなった
特例法ではなかろうかと、こんなふうな感じをしているわけでございます。
ただ、この場合に注意しなければなりませんのは、
プログラムにつきましては公表しないということは、つまり商売上の秘密と申しますか、トレードシークレットと申しますか、そのように、一般に公表を嫌うというふうなこともございます。その点と
登録との調和を図ったこの手続のいろんな施行規則というものが
考えられなければなるまいと、こんなふうな感じを持っているわけでございます。
時間も参りましたので、これで、私の
考えというものを簡単に申し上げた次第でございます。