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参考人(三木俊博君) 私は、全国各地で先物取引による一般市民の被害の救済活動に取り組んでおります先物取引被害全国研究会という弁護士グループの
代表幹事をも務めております。さら滝、本案に
関係あります豊田商事に対する破産申し立ての代理人を務めまして、その後、全国豊田商事被害者弁護団連絡
会議のメンバーともなっております。このように私が先物取引や現物まがい商法の一般市民の被害救済に取り組んだ経験に基づきまして、
法律実務家の視点から、この法案についての
意見を申し述べさせていただきたいと存じます。
本法案は、豊田商事などの現物まがい商法の再発防止を目的として立案され、提出されておりますが、豊田商事のような悪質な詐欺的商法をぜひとも根絶しなければならないという、
政府及び議員各位、あるいはまた私たち
法律実務家の共通した願い、
立場及び私の被害救済実務の経験から見ますと、この法案の規制内容は極めて不完全であって、被害再発を防止できないばかりか、かえって現物まがい商法を預託取引の名のもとに法的に認めて、これを助長することにすらなりかねないという危惧を抱いております。
以下、問題点を申し上げさせていただきます。
第一番目は、商品等の政令指定制をとっておることでありまして、そのため、悪質業者に非指定商品などを用いた規制回避を許す危険があります。
このことは、単なる懸念ではございませんでして、海外先物取引被害の多発を背景といたしまして、昭和五十八年一月から海外先物取引規制法が施行されておりますが、同法が本法と同じように商品と市場の政令指定制をとっていることから、あえて指定外の商品や市場を舞台とする悪質業者が後を絶たず、その被害が続発し、
通産省あるいは経済企画庁、
国民生活センター等も頭を痛めておられるところであります。
同法は、当初香港市場を規制しておりましたが、その規制を回避して、英国や米国の市場へ舞台を移す業者がいて、被害が出たところから、六十年一月、約二年後に英米の幾つかの市場を規制対象として追加いたしました。しかし、さらにそれを逃れる業者がおりまして、本年五月一日より、さらに若干の英米の市場と商品を指定するに至っております。しかし、通貨や株式指数の先物取引は非指定のままであり、私も
現実に、大阪におきまして、その被害を弁護士会の被害者救済センターなどで受け付けております。政令指定制では、どうしても被害が相当数出てから指定し、規制することになってしまうわけでありまして、後追いというのが残念ながら実情であります。そもそもこの種の商法に対して政令指定制をとらねばならない本質的な理由はないと考えます。
二番目に、顧客からの預かり金銭、商品を安全、確実に保管、運用することを監視し、これを担保、保証する措置が講じられていないという点であります。
現物まがい商法は、顧客から単に商品などを預かり受けるのではなく、その前提として、豊田商事の場合を例に挙げれば金地金でございましたが、そういう商品を売りつけ、そして直ちに預かると称して、金銭の支払いと引きかえに預かり証券を手渡すものであります。そこで、顧客の交付した金銭やそれらの商品などが安全、確実に保管され、運用され、返還されることが不可欠と考えます。しかし、本法案には何らその規定が置かれておりません。
私は、先ほど申し上げましたような被害救済の実務経験を持っておりますが、被害に遭って一たん金銭を支払った後に、この種悪質な業者から金銭を返還させるのはなかなか難しいのであります。私もみずから研修もし、それ相当の
努力はするつもりではありますが、いかんせん資力がないそういう業者でありますので、裁判で勝訴したとしても、返還、賠償能力がなく、泣き寝入りにならざるを得ないという例があって、非常に残念に思うことがしばしばでございます。業者の財務状態の健全性と言いかえることもできますが、その
確保が預託取引の場合に不可欠と考えます。第三番目は、本法案では、業者の事業所に業者及び財産の
状況を記載した書類を備え置かせ、預託者に閲覧させることとし、またその要旨を申込書面に記載させることとしております。しかし、これまた私が多く接した主婦や老人の被害者の
方々の実情を目に浮かべて考えますと、実際に勧誘を受けたり預託者となった一般市民の方が、みずから積極的に事業所へ出向いてそれらの書類を閲覧し、精査することは到底考えられないのです。しかも、その備え置き書類の真実性の
確保措置は講じられておりません。その真偽を
判断し、財務
状況や信用力を正確に評価することが、一般の市民の人、特に主婦や老人の人たちにできるでしょうか。だからこそ、銀行法や信託業法のもとでは大蔵省の監査、監督が実施され、一般市民の預貯金などの
保護が図られているのではないでしょうか。
四番目は、契約書面や申込書面での開示規制においても、預託取引の根幹をなす顧客からの預かり商品などの保管方法、運用方法が開示されていない点が問題であります。
この
法律では、ディスクロージャー、開示の法思想をとりまして、その徹底を図るという
立場から、幾つかの契約における重要事項が開示されることとなっておりますけれ
ども、豊田商事の例などを考えますと、この程度ならば今までも、豊田商事も開示してきていないことはないわけであります。
被害防止の観点からいいますならば、財務
状況の健全性の
確保に加えて、書面で商品などの保管、運用方法が明記される必要があると考えます。
五点目は、違法不当な勧誘行為の禁止についても、規定自体が不明確であること、担保措置に欠けること、そしてそのために実効性が極めて疑問なことであります。
豊田商事等の現物まがい商法業者とそのセールスマンのさまざまな悪質勧誘行為の中には、この法案が規定しております。威迫する言動を交えてこの勧誘だけではございませんでした。長時間の居座り、深夜にわたる居座り、執拗な勧誘、洗濯、肩もみ、品さすりなどの過剰な親愛行為が、老人、主婦を中心とする一般市民の平穏な市民
生活や冷静で合理的な
判断を妨げる行為として、具体的に列挙して禁止される必要があると考えます。これらの悪質勧誘行為があったことは、本法案の前提となりました産業構造審議会の答申でも、問題があるとして触れられているところであります。
特に、過剰な親愛行為については、その卑劣さは許しがたいが、法的規制は難しいという
意見を聞くことがございます。しかし、過剰な親愛行為は、それ自体を目的に行われているのではありません。営利の目的を持ち、しかもその目的を秘して、さらに常識的程度を超えて実行されているのであります。例えば、不当景品類及び不当表示防止法という
法律がございますが、顧客を誘引するための手段として不当な景品類を提供することを禁止しております。これと同様に考えて、取引の目的外の物品・役務を提供して相手方の合理的
判断を妨げる行為の禁止を規定することが十分考えられると思うわけであります。
そもそも、預託取引が訪問勧誘によって行われてよいものでしょうか。訪問勧誘は日常
生活用品に限られるべきだと考えます。預託取引あるいはその前提としての商品等の売却の訪問勧誘や、また突然平穏な
生活を破る電話勧誘は禁止さるべきだと考えます。
また、実効性を
確保する点からは、罰則による制裁が必要であるとともに、禁止行為が行われた場合には、その結果締結された契約を無効としたり、無条件で取り消し得ることが必要です。また、そのような行為によって一般市民が被害をこうむった場合には、業者に対して損害賠償を求め得ることが明文化されなければなりません。本法案には、残念ながらこのような禁止行為違反に対する罰則や民事効果が規定されていないのであります。
確かに、こういう違法なことを行った場合には、業務停止命令の対象とされてはいますが、現在の
消費者保護行政の人員等の体制の中で、十分機動的に
行政権限が発動されていないことは、残念ながら海外先物取引規制法の不完全な施行
状況が教えるところであります。通商産業省が海外先物取引規制法の施行直後に、全力を注がれまして調査をし、業務停止命令を発しました本社を大阪市に置く
日本貴金属は、その後業態を変え、今なお海外の先物取引の営業を継続し、私のところへも被害者が訴えてきておりますし、社長はざっく
ばらんな話として、もう今は詐欺みたいなことをやっておりますというふうなことを率直に言うような
状況で、仕事を継続しておるわけであります。
禁止行為の実効性
確保のためには、確かに
行政の
方々に
努力していただくことは不可欠ではございますが、さらに
行政を補完する
意味でも、あるいは
消費者がみずから立ち上がる
意味でも、
消費者みずからが行使し得る権利、すなわち違法な行為があった場合には取り消し得るとか、損害賠償を請求し得るということを明記することが何を差しおいても不可欠であり、実務に携わる弁護士としての願いであります。
六番目は、本法案では、クーリングオフ権や違約金支払いによる中途解約権が規定されてはおりますが、注意を要しますのは、それによって返還されるのが商品や施設利用権であって、それを購入するために支払った代金ではないという点であります。金地金ならともかく、その他の商品、例えば豊田ゴルフや鹿島商事が扱ったゴルフ会員権の場合、価値も換価性も乏しく、その返還を受けたとて被害回復にはなりません。
私は大阪の弁護士でございますので、大阪の例をちょっと出しますと、大阪府下南部及び和歌山、奈良地域に発生しました観音行商法では、三十万円で取引されておりますのが、実際はわずか三千円でございます。そこで、観音竹業者は、顧客の請求に対し、観音竹を預かったのだから観音竹を返すと言っております。この観音竹業者は、現在、和歌山
地方裁判所で破産手続が進んでおるわけであります。業者が顧客に売却した商品等を預かった場合には、その売却代金の返還を義務づけることが必要だと考えます。
七点目は、中途解約の場合に、一〇%の違約金を控除されるのも問題であります。業者は顧客から預かり受けた金銭あるいは商品などを換価した上で運用しているわけであります。銀行の例を出しますと、定期預金はある一定期間拘束されるわけですが、その期間中に解約しても普通預金の利息がつきます。
政府原案では一五%であったのが、衆議院で四党派の共同提案によって一〇%に減率されたわけでありますが、
地方自治体で消費
生活の相談を担当している
方々の中にも高率過ぎるとの批判も強く、業者がこの資産を運用しているところに着目いたしますと、違約金の控除は不要と考えるわけであります。
こういうふうな問題点を含みます本法案の最も大きな問題点は、本法案のもとで豊田商事を初めとする現物まがい商法業者が、名実ともに営業することができるということであります。
形式的な問題は一たんおくとしましても、実質的にも禁止されないということであります。実質面において禁止となるような立法措置をとるのであれば、既に申し上げましたように、預かり金銭や資産の保全措置の
確保、預かり資産の運用面を含む業務全体の開示の徹底、違法行為があった場合の民事、刑事両面での効果の徹底が不可欠であります。それに加えての
行政の機動的
対応によってこそ実質的禁止が図り得るのです。
少し長くなりまして恐縮でございましたが、私は先物取引、現物まがい商法の被害救済に取り組んだ経験から、まことに残念なことに、本法案では現物まがい商法とその被害の再発を防止できないと断言せざるを得ないのであります。
以上です。ありがとうございました。