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中西珠子君 ただいま議題となりました
育児休業法案につきまして、公明党・国民会議を代表し、その提案理由及び
内容の概要を御
説明申し上げます。
近年、既婚婦人の就労が著しく増加し、
昭和六十年には、女子就業者は二千三百四万人を数え、非農林女子雇用者は千五百三十九万人で、このうち有配偶者、いわゆる共働きの妻の数は九百十一万人となっております。このような婦人
労働者の増加が保育需要を増加させ、保育所の数も年々ふえて、
昭和六十年四月一日現在では全国で二万二千八百九十九カ所とはなりましたが、婦人の就労形態の多様化、通勤時間の延長、また、核家族が総世帯の六割以上を占めるに至った家族構成の
変化などにより、延長保育、夜間保育、ゼロ歳児保育に対する要望が高まっているにもかかわらず、午後七時ごろまでの延長保育を行っている保育所は全国で三百七十二カ所、午後十時ごろまでの夜間保育を行っているところは全国で二十四カ所にすぎません。産休明け保育やゼロ歳児保育を行う公立保育所は非常に少なく、ベビーホテルの繁栄の陰に乳児の悲惨な事故が後を絶たない
状況です。
このような
状況のもとで我が国の出生率は近年激減し、
昭和五十九年には一二・五にまで低下しています。六十五歳以上の人口の総人口に対する比率は、十五年先には一五%前後となり、二十五年先には、二十歳から五十九歳までの生産年齢人口は四九・八%となり総人口の半数を割ると予測されています。
かくも急ピッチで人口の
高齢化が進んでいる我が国において、婦人が
経済社会
活動の担い手として一層職場に進出せねばならないことは明らかであります。共働きの妻は家事育児と職業生活の両立が困難であり、また育児のために離職すれば不利となるような
状況では子供を持つことをためらい、出生率は一層
減少することになりましょう。働きながら安心して健全な次の世代を産み育てることが可能な
環境をつくらなければ、我が国の永続的な発展は阻害されるのではいかと危倶されます。
雇用を継続しながら一定期間
休業し、育児に専念できるように、所得保障つきの育児
休業制度を確立することこそ、
労働者の
福祉の向上と、次の世代の健全な育成のためにも、また国としての人口
対策の見地からも緊急課題であると考え、この法案を立案いたしました。
最近の離婚率の上昇、交通事故死の増加などにより父子家庭が急増し、
昭和五十五年で既に三十万世帯を突破している
状況から見ると、女子
労働者のみならず、男子
労働者にも育児
休業がとれる権利を与える必要があると考え、この法案は男女
労働者いずれにも育児
休業を請求する権利を確保しています。ヨーロッパでは既に、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、フランス、イタリア、スペイン等が男女双方に育児
休業請求権を与える
法律を制定しています。
ILOの百五十六号条約、すなわち家族的責任を有する男女
労働者の機会均等と平等待遇に関する条約第三条は、「家族的責任を有する者が、差別を受けることなく、又出来る限り就業にかかわる責任と、家族的責任との相克を防ぎながら、就業の権利を行使出来るようにする事を、国家の方針とする」よう求めています。また同名の百六十五号勧告は「両親のうち、いずれかの者は、出産休暇の直後の期間に、親として育児に専念する休暇を取る可能性を有すべきである。但し雇用を放棄する事なく且つ雇用から生ずる権利が保護されるものとする」と言っています。このような休暇や育児
休業の普及には育児
休業制度の法制化が必要であると痛感し、ここに
育児休業法案を提出する次第です。
次に、この
法律案の
内容について、その概要を御
説明申し上げます。
第一に、この
法律案は、子を養育する
労働者について育児
休業制度を設けることにより、
労働者の雇用の継続を確保し、あわせて子の健全な育成に資することを目的とすると定めております。
第二に、育児
休業とは、「
労働者がその一歳に満たない子を養育するための
休業をいう」と定義し、育児
休業は一定の期間を定めて請求するものとしています。請求は、育児
休業期間の始まる一カ月前にすることとし、期間の延長の請求も同様とします。
第三に、
使用者は、父または母である
労働者が育児
休業を請求したとき、また育児
休業期間の延長や短縮を請求したときは拒んではならないと規定しています。ただし、共働きの場合、他の一方が育児
休業をしている期間は拒むことができるとし、また、両親の一方が無職で家庭にいる場合は、疾病、負傷、出産、その他やむを得ない理由でその子を養育できない期間を除き拒むことができるとしています。しかし、多胎出産の場合は、共働きの父母双方が同時に育児
休業をすることができるとし、この場合に妻が専業主婦であっても、父親の
労働者が育児
休業をすることができることとしています。
第四に、育児
休業中は、労働協約により、賃金を支払う定めのある場合を除き、原則として無給としています。しかし、
労働者の生活の安定と子の健全な育成に資するため、別に
法律で育児
休業基金を設け、この基金から当該
労働者の賃金の額の百分の六十に
相当する額の育児
休業手当を支給することにしています。
第五は、この
法律で定める育児
休業に関する基準は最低の基準とし、この基準に達しない労働契約は
関係部分について無効といたしております。
さらに、年次有給休暇の日数算定上、育児
休業期間は欠勤とみなさないことにしています。ま
た、不利益取り扱いの禁止条項を設け、
使用者は、育児
休業を理由として
労働者に対し解雇、その他不利益な取り扱いをしてはならないものとしています。
第六は、この
法律の規定に違反する事実のあるときは、
労働者は都道府県労働基準局長、労働基準監督署長または労働基準監督官に申告することができます。労働基準監督官等には
報告徴収及び立入検査の権限を認め、この
法律の違反については労働基準監督官は刑事訴訟法の規定による司法警察員の職務を行うものとしています。
第七に、この
法律の適用対象は、公務員を含み、船員以外のすべての
労働者としています。なお、船員の育児
休業については別に
法律で定めることとしています。
また、この
法律の実効性を確保するため所要の罰則を設けております。あわせて
関係法律の改廃整備をも行うこととしております。
以上がこの
法律案の提案理由及び
内容の概要であります。
何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。