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政府委員(小和田恒君) 欧亜
局長から御答弁したとおりですが、若干整理して申し上げた方が誤解がないかと思いますので、ちょっと補足させていただきたいと思います。
この
北方領土が、先ほど申し上げましたように歴史的にも法的にも
日本の領土であるというのが
日本政府の
立場だということを申し上げましたが、そのことの持っている
意味は二つあるわけでございます。
一つは、歴史的にも
日本の固有の領土であるという
意味では一八五五年の
条約にも明らかなように、もともとこれは
日本の固有の領土であって、一八五五年の
条約のときにおきましてもロシア側があれが
日本の領土でないということを
主張したことはなかったということ、つまり歴史的に見てずっとこれは
日本の固有の領土であったということが五五年の
条約でも七五年の
条約でも明らかである。それ以降も他国の手に渡ったことがないということが第一点でございます。
第二点の法的な問題につきましては、これは基本的には一九五一年のサンフランシスコ平和
条約の解釈問題になるわけでございます。サンフランシスコ平和
条約で
我が国が放棄をしたクリルアイランズと、これは
日本語は正文ではございませんので、英語で申しますならばそこで言っているところのクリルアイランズというのは一体どの範囲であるかという解釈の問題になるわけでございます。その解釈の根拠、一番のベースになりますのは、そもそも第二次大戦の結果として結ばれた平和
条約の中で領土というものがどういうふうに処理されるかということにさかのぼるわけでございまして、
政府が前々から申し上げておりますように、連合国共同宣言に発しましてカイロ宣言の中で明確にされているところの領土不拡大の原則、これが確実に守られなければならないということがカイロ宣言の中に入っておりまして、それがさらに
我が国が受諾をいたしましたポツダム宣言の中で「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク」と、こういうことが入っているわけでございます。つまり
我が国が戦争を終結いたしましたポツダム宣言において
我が国と連合国との間の基本的な
合意になっておりますのがポツダム宣言であって、そのときに「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク」、すなわち連合国は領土拡大を求めるものではないということが戦争終結の
一つの条件になっておる。そういう前提から出発をして桑港平和
条約の規定ができておる、こういうことでございます。
したがいまして、もともと
日本の国のものであったものに対して連合国がそれをサンフランシスコ平和
条約によって
日本から取り上げるということはポツダム宣言の条項から言ってあり得ないことである、これが解釈の場合の前提になる第一の点でございます。
第二番目の点として、それでは文字どおりの解釈として、クリルアイランズというものはどういうふうに解釈をすべきであるかということになってまいりますと、今
寺田委員が御
指摘になりましたような
条約その他で使われておりますクリルアイランズというものが一体どういう
意味で用いられてきたかということが
一つの解釈の上での参考資料になる、こういうことになるわけでございます。
その参考資料として今問題になっております一八五五年の
条約は、ではどういうことであるかということになりますと先ほど来御
指摘がありましたようにこれは四カ国語でできておりまして、そのいずれが解釈上の正文であるかということは何も書いていないということでございますから、この四つのテキストというものをもとにして解釈をするということになるわけですが、御
承知のとおり多数の
言葉で
条約ができておりますときにはこの
条約はすべて同じ価値を持つわけで、そのテキストの解釈として調和する解釈というものを探さなければならないわけでございます。
そういう見地から見ますと、私どもが
政府の
立場として申し上げておりますように、
日本語では「夫より北の方クリル諸島」というふうに書いてありますので、
日本語に関する限りはこの点は全く問題がない。今御
指摘になりましたロシア語、
オランダ語、
フランス語について見ますと確かに「他の」という
言葉が入っております。この「他の」というのをどういうふうに解釈すべきかということについては私どもも慎重に検討をいたしましたが、
考え方といたしましてはこれは「他の」ということが、そもそもクリルアイランズというものがあって、そのうちの一部が
日本に属し、それ以外のその他のクリルアイランズがロシアに属するという、今
委員が御
指摘になったような解釈の仕方と、それからこの島々の中で
日本に属するものについては既にその前に書いてあるわけで、それ以外のその他の島であるところのクリルアイランズについてはこれはロシアの所領とすると、こういう解釈も私どもはロシア語、
オランダ語、
フランス語と全部見てみましてそういう解釈も可能であると。その二つの解釈のいずれが正しいかということについて、この三つの
言葉に関する限りはどちらとも言えないであろう。しかし、
日本語に関する限りはその点は極めて明確に「夫より北の方クリス諸島」と、こういうふうに書いてあるわけでございますから、全体を調和して全体について適用し得る解釈としては私ども
政府が申し述べているような
考え方が正しい解釈ではないかと、こういうふうに
考えて従来から申し上げているわけでございます。
ただ、繰り返しで恐縮でございますが、あくまでもこれは桑港
条約第二条で言っておりますところのクリルアイランズというものを解釈する上での
一つの参考資料として申し上げているわけでございまして、もともと一人五五年
条約について
政府が言及をしておりますのは、これが本来歴史的に見て
日本の固有の領土であって、一八五五年に
日本とロシアとの間で領土画定をいたしましたときから既にこれは
日本領として認められておったということに私どもの
主張の重点があるわけでございますので、補足させていただきたいと思います。