○伏見康治君 これからSDIにどうなさるかという判断をなさる時期に、先ほど申し上げたようなことを
長官の頭のどこかに置いておいていただけるということを希望しておきたいと思います、これからも似たようなことを二、三申し上げますが。
日本は本当に今いい国でございまして、
研究者はみんな秘密といったようなものに煩わされずに、ある
意味ではのんきな
研究をみんなやっておりますが。ところで、西側諸国の科学というものが非常に繁栄してそして東側の科学が余り発達しないという、どこまで客観的にそれが言えるかは別として、
皆さんそう
考えているようですね。そうしてその東側の科学が十分発達しなかった最大の理由は、スターリン時代のルイセンコ事件というのがございまして、要するに政治が優先して、政治が科学
研究を支配したということのためにひどいことになったわけです。スターリンが亡くなってからそういう呪縛が幾らかなくなりまして、自由なる
研究がソビエトの中でも行われるようになってきているとは思います。それに似たようないろいろな規制といったようなものがいまだに東側にはあるかもしれないとは思っておりますが。しかしとにかく西側が東側に対して優越を言えるというのは、西側が学問の自由というものを非常に高く
評価してきたというところに私はあると思うんですね。その学問の自由があって、学会のような組織をつくってそこで自由に討論する、甲諭乙駁することによってインチキな
研究は捨てられ、すぐれた
研究がその中から選び出されてくるというそういうプロセスを経なければ本当の
研究というものは伸びないわけですが、それを行う場所というのはオープンでなければいけないはずなんですね。それが閉ざされた
社会になりますというと途端に
研究というものはまやかしのものになっていくおそれが非常に強いわけです。
ですから、
アメリカ自身が軍事
研究のクラシフィケーションというものをやるときに相当気を使っているわけでございまして、つまり、しばらく軍事
研究としてやっていてもちっとも進歩があらわれないというような領域がございますというと、そういうものは簡単にデクラシファイいたします。公開してしまいます。公開することによってその方の
研究が進展するということを
期待してそうするわけです。秘密の中に閉ざされてしまってごく数人の
人間だけがやっているということは学問
研究の上から申しますと非常に嫌な条件でございまして、そういう
分野が今SDIの名のもとに
アメリカでどんどん広がっているということは極めて危険な兆候だと思うんですね。つまり西側が一番大事にしているその自由というものをみずから捨てていくというプロセスだと思うんですね。相手が悪いからこっちも悪くなるということなのかもしれないんですけれ
ども、それは本末転倒で、何とか西側諸国の本当の価値あるところを守るというそういう
意識があるべきだと思うんですが、これは
長官の意見を聞いてもまた同じような答えが出てくるかと思いますので。
それから、
日本が参加したような場合に
一体どういう悪いことが起こるかということを、もう
一つ歴史上の事実に基づいて申し上げてみたいと思うんですが、原子爆弾ができるいわゆるマンハッタン
計画というのがございました。このマンハッタン
計画の初期には、イギリスの科学者、フランスの科学者、
カナダの科学者がみんな参加していたわけです。イギリスは独自に
アメリカよりもむしろ早目に原子爆弾の
研究を始めたわけですが、とてもドイツの空爆下で
仕事になりませんものですから、その
人たちが全部大挙して
アメリカへ移って一緒に
仕事を始めたわけです。ところが、いよいよ原子爆弾が完成に近づいた段階で、
アメリカは、お前たちは帰れといってイギリス人を帰してしまいました。フランス人も帰した。
カナダ人も帰してしまいました。要するに、
アメリカがその共同
研究のいいところは独占してしまって、イギリスもフランスも
カナダも追い帰されて、はじき出されてしまったわけです。それがあるために、イギリスは戦後になって独自に爆弾
計画をやらざるを得なかった。また意地でもやらざるを得なかったという感じがいたしますね。
私は、SDIに参加するということの
日本の科学者たちの運命も恐らく同じことになるだろうという感じを非常に強く受けるわけです、歴史がそういうことを教えてくれているわけですから。つまり、もしそれに参加して
日本が何か本当にコントリビュートしたとするとクラシファイするということで、
アメリカ人になってしまえばいいですよ、
アメリカ人になるか、あるいははじき帰されるかという落ちになるであろうということを私はひどく心配いたします。こういうことも
河野長官がSDIに参加するかしないかをお
考えになるときの
一つの材料にしていただきたいと思います。
いろいろなことを言いたいんですけれ
ども、ある
意味では繰り返しになりますので、もう
一つの面を申し上げて私の知っている
日本の
研究者たちと今度のSDIとの
関係を
考えてみたいと思うんですが、私の知っている
研究者でこのSDIに最も近い
仕事をしている人は大阪
大学の山中千代衛
先生という、大変強いレーザーをつくって、それを極めて小さな目標にぶつけまして、それを加熱して、その高熱・高圧によって核融合を起こそうというそういう
研究をなさっている方です。その
目的は核融合の平和利用にあるわけですから、全く平和なことを念頭に置いた純粋な平和
研究です。しかし、その強力なレーザービームを使うという
意味におきましてはSDIの
研究と紙一重のところにいるわけですね。現在までのところ、その似たような
研究をなさっているリバモアの
研究所、ロスアラモスの
研究所といったようなところがその山中
先生と同じような
研究をやっておられるわけですが、そこにおられる
人たちと山中
先生とは核融合の
研究という看板のもとでは自由に話ができているわけです。
アメリカでも核融合
研究というものはオープンでございますから、その範囲内では山中
先生は自由にお話ができて、つき合って、お互いに研さんし合っているわけですね。ところが、SDIが出てまいりますというと、核融合というものもそろそろそのSDIの縁のところにありますから、先ほど申しましたように、その縁のところがだんだんグラシファイの枠の中に取り込まれていくわけです。それで、今まで山中
先生はある
意味では極めて安楽に核融合という聖域で
仕事をしてこられたと思うんですけれ
ども、これから恐らく山中
先生は極めてつらい立場に置かれることがあるんではないかと思うわけですね。恐らく非常に強いお誘いが
アメリカ側から来るんじゃないかと思うんです。少なくとも今のところ山中
先生はそういうものには絶対参加しない、私はあくまでも平和利用の
研究に徹するということを言っておられますが、しかしいろいろなあの手この手でもって誘惑してくるんではないかと私はひそかに恐れているわけですが。
そういう
研究を
日本ではほかにも幾つか
考えることができます。そういう
方々たちが無事にその平和利用の領域の中で本当の平和な
研究に徹しられるようにひとつ
長官考えてあげてほしいと思うんですね。それは政治的に何らかの
意味において防護してあげないと、個人個人の科学者はやっぱりいろいろと弱い面がありまして、例えば非常にたくさんの
研究費を目の前に見せられますとつい誘惑されてしまうといったようなことが起こりがちでございますので、そういう点も
河野長官ひとつ大いに
考えていただきたいと思うわけです。
それからもう
一つ気になりますのは、エドワード・テラーというマンハッタン
計画の中の生き残りの、学問的には偉い、しかし大変右翼の学者がおられるわけですが、このエドワード・テラーさんがSDI
関係のいわばイニシアチブのイニシアチブをとった方ではないかと思うんですが、例のエックス線レーザーというものですね、原子爆弾を破裂させたそのエネルギーによってエクサイドされたアトムを使ってエックス線のレーザーのいわばエネルギー源にする、原爆をエネルギー源にしたエックス線レーザーの
研究を
指導した人です。そのエックス線レーザーができたということがエドワード・テラーをしてレーガンにSD1を勧めるきっかけになったといううわさがございますが、そのテラーさんが言っている新聞の情報を申し上げますと、SDIに
協力して何か
研究成果を出したとする。そうすると、その
研究に
日本も金を出していないのならば、
日本の場合では実はなかったんですけれ
ども、
日本も金を出すのでなかったならばその
研究の
成果というものは完全に
アメリカのものであるということを言っておりますね。ですから、そういう
研究に参加するということの実際上のメリットは、そういう
意味では
日本には出てこないのではないかと思います。
その種のお話がいろいろございますが、最後にもう
一つだけ申し上げておきたいと思いますのは、これは
長官に聞いてもお答えが出てくるはずだと思うんですが、対米武器技術供与取り決めというのがございますね。これにはいろんな
省庁が
関係しているんですが、
科学技術庁は参画していないわけです。今度のSDIには
科学技術庁も参画している。この違いは
一体何によって出てきたんでしょうか。