○石
公述人 御紹介いただきました石でございます。
今、山口
先生の方から
予算項目にわたるまで細かい御説明がございました。私は、どちらかと申しますと、マクロの政策運営との関連で六十一年度
予算がどうか、あるいは今後どういう
予算編成をしていったらいいかという視点から議論を展開いたしたいと思います。
まず最初に、六十一年度
予算をどう見るかという基本的な
立場から御説明申したいと思います。細かく見ればいろいろ
問題点はあると思いますが、しかし、現状におきましては、大筋このような
予算にならざるを得ないのではないかという
意味において、
原則賛成でございます。そういう
意味で、支持する
立場から幾つか論点を整理いたしたいと思います。時間の制約もございますので、以下三つの点に絞って私の見解を述べさせていただきます。
最初は、
内需拡大論との
関係において、今回の
予算の性格をどう考えるかというのが第一点でございます。それから第二点は、
財政赤字の削減、いわば
財政再建路線というのがあるわけでございますが、これをどういうふうに見たらいいのかという点でございます。それから第三点は、六十一年度
予算に限らず、もう少し中長期的に視野を拡大して、今後
我が国の
財政運営というものをどう考えるべきかという点。この三点に絞って、以下議論を整理いたしたいと思います。
内需拡大論の必要性があるかどうかという是非の問題が第一点でございますが、これはひとえに景気の見通しいかんに依存する問題だと思います。最近ではよく官高民低と申しまして、
政府の見通しが高く民間の見通しが低いということでございまして、今年度も、
経済企画庁から出されました見通しによりますと、六十一年度実質で四%の成長が達成できるという見通しがあり、これに対して民間の方は三%台そこそこというのが大方の
意見のようでございます。また、
政府の見通しといたしましては、
財政の再建と抵触しないで景気の拡大はほぼ図れる、つまり財投を中心といたしました民活でとりあえずやっていこうという、いわば両者そう抵触しない形での見解が出されておりますが、民間の方はやはりどっちかとらないとうまくいかないのではないかという目標の選択の問題があるような感じがいたします。
私は、現段階におきましては、今申しました財投、民活路線、それから公共事業の前倒しというようなことも考えられておりますので、そういう形でとりあえず対処しつつ、今後の景気の推移を見守って、次の段階が必要ならば出るべきであると考えております。問題は、海外からのプレッシャーがどのくらい強くなるかであります。場合によっては、効果がないというのを知りつつも何か
内需拡大策をとらなければいけないということもあるのかもしれません。また、国際協調の面から重要な視点になってくる可能性もございます。あるいは後半になってもっと景気が落ちつけば、補正
予算等で本格的な景気調整の機能を
財政に持たせる時期も出てくるかもしれません。恐らくそういうときには税制
改革との絡みで、例えば貯蓄を優遇しているのはもう見直すべきではないかという議論、あるいはもっと抜本的にやるんだったら、恐らく公共事業を建設国債でという議論も出てくるかと思いますが、これは事態を十分慎重に見ての議論だろうと思います。ある
程度財政面からの出動は後手後手に回ってもいたし方がないのかという感じがいたします。
と申しますのは、
財政はなぜ今刺激の方に向かわざるを得ないかというときの論点をどうもはっきりしにくいからでございます。例えば
国内均衡の面から見ますと、少なくともインフレと失業という
二つのマクロ的な指標においてはさほど大きな問題はまだないように見えます。円高のデメリットが今盛んに言われ、不況色が表に出ておりますが、年度の後半からはやはり円高のメリットの方もかなり浸透してくると思われますので、その辺の推移というのは今後重要な論点になろうかと思います。
といたしますと、
国内均衡より対外不均衡のためにマクロ的に
財政を使えということになりますと、果たして
財政がどれだけ、今大幅に出しております経常収支の黒字を是正するのに役に立つか、
財政赤字の幅との兼ね合いでコストベネフィットの
計算が必要になろうかと思います。私はそこそこ効果があると思いますが、今膨大に出ております経常収支の黒字を、
財政を中心とした
内需拡大で物事が解決するとは思っておりません。後からもう一回申しますが、中長期的に見た産業構造の変革であるとかそういった構造的な変革がなくてはやはり問題は再度出てくるというふうに考えております。これは第一点でございまして、
財政、
内需拡大は慎重にやるべしというのが私の論拠でございます。必要なときには出なければいけないと思いますが、それも景気の推移との関連であるという点が私の最初の申し述べたい点でございます。
第二は、
財政赤字というものをどのぐらい慎重に、累積をどう見るかということでございます。
御承知のように、国債残高は、六十一年度
予算で見ますと百四十三兆円に達しております。
GNPの
比率でも四〇%を超しているわけでございます。将来この国債残高が二百兆円ほどになるという推計が出ておりますし、借換債も今盛んに新たに発行され出しているわけでございます。
財政赤字に関しましては、
アメリカでも大変問題になっております。
アメリカの
経済学者も
日本の
経済学者も最近は
財政赤字に対していろいろな
意見を述べておりますが、押しなべて申せば、楽観派から悲観派までさまざまなタイプがあろうかと思います。私は、超楽観もいたしておりませんし、それから超警戒もしていないという
意味では、ほぼ中ほどの
立場あるいはもう少し
財政赤字に対しては警戒色が強いのかもしれませんが、そういう考え方を常日ごろ持っております。
一言で申しますと、ケインジアンタイプのマクロ政策を主張する人、お役所で申しますと、例えば政策官庁であります通産省とか建設省あたりは、
財政赤字を使って景気回復という点に主眼を置くいわゆる
内需拡大派かと思います。そういう
意味では、
財政赤字に対する楽観というのはある
程度強いと思いますが、それに対して
財政学者なり
財政当局、
財政再建派と申しますか
改革派と申しますか、やはり
財政赤字に対してはでき得る限り削減したい、そういう
意味では警戒的な観点を持っているわけであります。
私は、
財政学を専攻し、
財政というものについて常日ごろいろいろの面から見る
立場から申しまして、やはり
財政の赤字というものは機会があれば極力削減する方向で対処すべきであるという
立場を一貫してとっております。
その理由は、幾つかございますが、二、三まとめますと、次のようなことでございます。マクロ的に見まして、
財政赤字が今猛烈なインフレを
我が国の
経済に及ぼすとか、あるいはクラウディングアウトといったようなそういった現象を起こしてない、そういう
意味では、
アメリカよりははるかに良好な状況であるとは思いますが、しかしよく見てみますと、潜在的にはかなりいろんな面で危惧すべき
状態が既に出ていると思います。
第一点は、
財政は破綻型、つまり
財政赤字は発散型になっているということでございます。よく言われますように、国債の利子率が名目成長率の
伸びを上回りますと成長
経済におきましてはどんどん利回りが高まり、国債残高も一定
水準に収束しない、対
GNP比率で収束しないということでございます。来年度の名目成長率の見通しは五・一%であります。今国債の利子率というのは六%以上でありますから、当然こういう心配される状況があるわけであり、かつ過去数年間こういう
状態が続いております。そういう
意味では、今このままでいけば、これがどのくらい続くかわかりませんし、あるいは短期間に直るのかもしれませんが、しかし
現実においてあるいは過去数年間の経緯においてはこういう
状態でございまして、やはり
財政赤字というものが持つ
財政の中のウエートの増大あるいは
国民経済におけるウエートの増大というのは、大いに心配すべきことであろうと思います。恐らく潜在的には、絶えずインフレなりクラウディングアウトの心配というのをしておくべきであろうと思います。
それから第二点は、
財政の中身を見てみますと、国債の利払い費が来年度の
予算では十・六兆円、これに対して
社会保障費は九・八兆円でございますから、恐らく
国民的に見て一番重要だと思われる
社会保障費を上回った分の利払い費が年々出ておるということは、やはり
財政の資源配分機能から申しますと非常な問題がある。かつ、国債費が十一・三兆円出て、新発債が十・九兆円というのは、要するに、新発債の大半以上、大半というか、新発債以上の国債費というもの、つまり過去の借金の元本の償還と利払い費に充てておるという点、何のための公債かという点がまた問題にされようかと思います。そういう
意味で、
財政の内部から見ても幾つかの大きな問題がある。
さらに第三点といたしましては、景気が回復し完全雇用になってもこの赤字は消えないという
意味の完全雇用赤字というものがここずっと続いているわけでございまして、
経済成長を高目に持っていって、それでその赤字が消えるという循環赤字ではございませんで、構造的な赤字であるという
意味で、やはり
財政赤字というのは、それなりに事あるたびにこれを減らしていくというスタンスが重要ではないかと考えております。そういう
意味では今回、緊縮
財政という性格を帯びてはおりますが、六十一年度
予算の性格というのはこの点を配慮したという
意味では、それなりに評価ができるのではないかと思います。
第三は、六十一年度というもののみならず、もう少し中長期的に見たときにどういうことをしなければいけないか、あるいはそれに備えて六十一年度
予算あるいは六十一年度の中の
財政運営はどうすべきかという点に話を持っていきたいと思います。
御承知のように、過去数年、四、五年間、ゼロシーリングとかマイナスシーリングで歳出カットに努めてきたわけでございます。これはひとえに行政
改革イコール
財政再建という形で、
財政面からの緊縮のムードを行革に反映させ、
財政の肥大化をとりあえず防ぎ、むだを省きたいということのあらわれであり、そういう
意味では、第一期というような言い方をしてもいいかと思います。この第一期においては、マクロ的にかなり
日本経済を需要不足にしたという面のマイナスはあったかもしれませんが、いろんな
意味で国鉄を中心としたあるいは
社会保障制度を中心とした
改革が進んだという
意味では、ある
程度の成功をおさめたのではないかと思います。
ただ問題は、この第一期のままで今後対応し切れるかという点、そういう
意味では、新しい局面という
意味で、今後第二期という面が恐らく
財政再建なり行革には出てこさるを得ないのではないかと思います。と申しますのも、従来のやり方では、確かにメリットはあったわけでありますが、デメリットの面が次第に顕在化してきた、つまり功よりも罪が次第に目立ってきたという点に大いに関心を寄せるべきであります。
例えば、先ほど申しました国債費あるいは地方交付税の主要
財政費等々を除いた
一般歳出というのがマイナスあるいはゼロで抑えられているということは、本来あるべき
財政の資源配分機能というものからいろいろ憂慮すべき点もございますし、かつ、そういう
一般歳出ゼロにするという
予算編成上の技術によっていろんなテクニックがどうも使われている。どうも俗に言われます見せかけ上の歳出カットというものもないことはないわけでありまして、いろんな俗に言われますツケ回しのこともあるでしょうし、それから公的年金
制度からいろいろ借りてきているものもありましょうし、定率繰り入れを中止したという点もありますし、そういうこともございます。それから、歳出面よりは税制面の方でいろいろ施策を要求する声が強くなって、税制の本来の姿がどうもゆがめられておるという面も、やはり罪として考えるべきであろうと思います。そういう面が次第に顕在化してきたという
意味で、従来型の緊縮一本、いわゆる歳出削減一本でどれだけ対応できるかという心配が出てきたということであります。
しかし、その一方で、
国民の側から見ますと、まだまだ行
財政改革は不十分でないかという声も事実あるわけでございます。そういうわけで、こっちの面もやはりやってもらいたいというのが恐らく継続して、第二期と私が
定義いたしましたここから数年先の時期の
財政改革なり
財政再建あるいは
財政運営
一般の問題になってこようかと思います。何と申しましても、まだ
財政構造の仕組み全体に、いろいろな昔の高度成長期につくられた
制度がそのまま残って、必ずしもうまく機能していない面もあると思います。例えば補助金の機構というのも、ことし大分
改革はされましたが、まだまだ国から地方に行くところのパイプとして、それが果たして本当にいいのかどうかという点の見直しも必要だろうと思います。それから地方は地方で、まだ特に見られます高
水準の給与といったような問題も、これまた大きくマスコミをにぎわせているという点がございます。そんなことも踏まえまして、やはり構造的あるいは機構的にまだ直すべき点もあろうと思いますので、こういう点を配慮しつつ、中長期的にいろいろ考えるべきだろうと思います。
さてそこで、二、三論点といたしまして議論しておかなければいけないのは、六十五年度の赤字国債脱却というのを果たして今捨てるべきかあるいは
維持すべきかという、そういう問題だろうと思います。
私は、これを外しましても五十歩百歩であり、今の
状態というのが先送りになるだけであって、問題はちっとも解決しない、こういう感じがいたしております。と申しますのは、やはりこういうターゲットが年々の
財政運営に当たって必要だということ、と同時に、これにかわるべきものがないということであります。そういう
意味では、一応の
努力目標としてこの六十五年というのを一つターゲットに持っておくのは、あながちむだではないという気がいたしております。恐らくかわり得るターゲットとしては、
GNPに対します国債残高の
比率がふえなきゃいいだろうという点があろうかと思います。これは
経済的にそれなりに
意味はあると思いますが、やはり利払いの累積といったような問題もあり、すぐさまこれに乗れるかどうかは若干わからないところであります。
海の向こうの
アメリカでもかなり
財政赤字削減に対して神経を払っておりまして、御承知のグラム・ラドマン法みたいなのが出てきたわけでございます。こういう措置が
日本ではなかなかとれない。つまり、革命的な手法によって、革新的な手法によってこういった
財政赤字を一挙に片づけようというようなことがなかなかとれないという
我が国の実態を見れば、やはりスロー・アンド・ステディーで赤字削減というのを年々着実に減らすという
努力が必要ではないか、このように考えております。
そう言いますと、じゃ、今の円高不況が深刻化し、
内需拡大というのを一方的に退けるかということでありますが、私の考えは、短期的に何かこういうことがあるたびに
内需拡大という形で
財政手段をさまざま使うには、どうも問題があり過ぎる。つまり、中長期的な構造
改革というものしか抜本的な対策はないのではないかと思っております。つまり、短期的に外圧が強くて、
内需拡大を仮にしてその効果があっても、構造的な問題を残存させておいては、またもとのもくあみになるだろうということであります。ここで構造的問題と申しておりますのは、まさに産業構造を国際的な水平分業に持っていくとか、産業構造自体を改めるとか、あるいはオープンドアのポリシーをもっともっと進めるとか、金融、
財政、税制あるいは国対地方の税の仕組み、そういうものをやはり今抜本的に見直す時期ではないかと思います。そういう
意味では、構造的に今
我が国の仕組みを変えていきませんと、今後のさまざまな問題に対応し切れない、こういうことでございます。——あと一、二分で結論をつけます。
そこで、今何が一番必要かということでありますが、恐らく歳出の方の面も、一応の
努力としていろいろ削っていくということが必要だと思いますが、やはり税制の問題だろうと思います。これから高齢化社会が来ますし、それから国際的
責任も増大する一方でございまして、恐らく中長期的には
国民の負担増は避けられない、私はこう考えております。そういう
意味で、短期的には税収の中立性という形で、増収を目指さないにいたしましても、それなりに将来に備えた
税負担のあり方というのを税制
改革の中で考えるべきである、このように考えております。
やはりもう一点重要な点は、社会資本というのをこれからやはり充実させる方向で、いろいろ考えていかなければいけないだろうということでありまして、そのためには、税制
改革とひっかけてさまざまな
財源調達の問題というものを十分に考えていく必要があると思います。そういう
意味では、私は少額貯蓄
制度の、俗に言う優遇税制というのは、もう見直していい時期だと思っておりますし、それから、消費税のウエートを高めるという
意味での大型間接税の検討ももう時期に来ていると思いますし、そのかわりに
所得税とか
法人税とかいうのをとりあえず、今いろいろなひずみあるいはゆがみという不平がありまして、それを解消する
意味で減税するといった
意味のいろいろな考慮を払うべきであろうと思います。
まだちょっと言い足りないところもございますが、御質問のときに改めてお答えいたしたいと思います。終わります。(
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