○吉田参考人 ただいま御紹介いただきました吉田でございます。
私は、現在の会社に入社以来、ずっと研究開発の業務に携わっておるものでございます。私の所属しております会社はしょうゆ製造業をしておりまして、大正六年に設立をされました。自来、しょうゆを初めとして、現在はトマト製品でございますとか酒類でございますとか、あるいは食品でございますとか、そういうものを製造販売しているわけでございますけれ
ども、やはり現在においてもしょうゆが私
どもの主力製品となっておりまして、私
どもの生産量は全国の生産量の約三〇%ぐらいを占めるようなわけでございます。
翻りまして、現在、バイオテクノロジーという言葉がいろいろ使われていることはもう御承知のことでございますけれ
ども、これは結局、生体の機能を
利用して有用な生産物をつくって、これを用いて人類の福祉に貢献するのだ、そういうふうな定義がされております。
よく考えてみますと、農業はまさにこのバイオテクノロジーの基本でございます。それから、古来から
日本の伝統食品と申しますかそういうもの、例えばみそでございますとかしょうゆでございますとか酒でございますとかあるいは納豆、そういったものはすべてこうじ菌とかあるいは特殊な細菌の機能を巧みに
利用した伝統食品であることは皆様御承知のとおりでございます。
さらに、終戦後に至りまして、これは農業とは
関係ございませんけれ
ども、抗生物質とか、あるいは食品産業におけるアミノ酸発酵とか、そういうものはすべて微生物の機能を
利用した産業でございまして、特にアミノ酸工業においては、この技術は
日本は世界に冠たるものを持っておるわけでございます。
しかしながら、現在、この法案にも盛られておりますようなバイオテクノロジーと申しますのは、いわゆる新しいバイオテクノロジーと申しましょうか、そういう言葉でございまして、例えば遺伝子組みかえでございますとか——この遺伝子組みかえの中には、組みかえDNAの仕事もございますし、あるいは細胞融合、あるいは畜産においては核移植のような仕事もございます。それから細胞培養でございますが、これには、例えば植物でございますと約培養とか胚培養、あるいは茎頂点培養とか組織培養といった技術がございます。また、その微生物の酵素あるいは微生物の機能を
利用していく
一つの操作のメカニズムといたしまして、バイオリアクターというものがございます。これは結局、微生物の酵素とか微生物そのものをある
状態で固定化させて、それで反応して物をつくるというふうなことでございます。
こういうことで現在は進んでおりまして、近年その成果も出ていることは皆様御承知のとおりでございまして、例えば医薬品で申しますと、インシュリンとか人の成長ホルモン、そういったものが開発されつつあるのでございます。また植物におきましては、今申しましたような技術を
利用してウイルスフリーの植物とか、あるいは野菜におきましては新品種とか、そういうものが出ておりますし、あるいはバイオリアクターを
利用いたしますと、バイオリアクターによってでん粉から異性化糖をつくる、そういう技術も進んでおるわけでございます。
しかしながら、もっとよく考えてみますと、今申しましたニューバイオテクノロジーという技術は、まだほんの緒についたばかりでございまして、まだまだ問題がたくさんあるわけでございます。例えて申しますと、組みかえDNAの操作でもっていろいろな生産物をつくるということでございますけれ
ども、これにも大変問題がございます。何でもかんでもこの技術を使えばできるわけではございません。端的に言いますと、例えばたんぱくをつくるにしても、やはりそこにはイングルーディングボディーというような問題がございまして、菌体の中ではつくるけれ
どもなかなか外へ出してくれないとか、いろいろな技術がございます。
そういうことでございまして、我々が一生懸命やっても、あるいは実際の、いわゆるニューバイオテクノロジーというのが、自由にその技術をこなし、あるいはその技術自体が我々人間の幸福につながるには、やはりこれは二十一世紀ぐらいにかかるのではないか、そう考えているわけでございまして、その中におきましても、我々民間企業においては、やはりそれに
対応して基本の技術というものをもっと確固としておかなければならない、そういうふうに
感じるわけでございます。
最近、当社におきましては、農水省との共同研究によりましてかんきつ類の細胞融合に成功いたしまして、これを細胞融合をやり、それを培養し、あるいはそれを分化する、そういう基本的な技術を確立したわけでございます。これはまだ、このものはどういうものがとれて、どういう実がなってどういうものになるかということはもちろん全くわかりませんけれ
ども、ただ、そういうミカンという、かんきつ類というものの細胞融合ができる、その基本技術ができたということは、私はやはりそれだけの意味があることだと思っております。将来、これにつきましては、一体どういうものをやろうかということを、さらに共同研究を重ねていくわけでございます。
ただ、この研究にいたしましても、我々といたしましては割合難しい技術が非常に短時間にできたわけでございますが、この研究過程におきましては、相当偶然性があったわけでございます。恐らく一般的に、いわゆる正統的にこの仕事をやるのなら、もっと時間がかかり、もっとお金がかかり、もっとリスクがあったろう、私はそういうふうに
感じるわけでございます。
一般に、欧米におきましては基礎研究を重視し、基礎研究を
中心とした
政府主導の積極的な研究投資が行われておると聞いております。民間の知恵とか活力を生かして、
政府と民間が一緒になってオリジナリティーの高いものを出そうという努力が欧米ではされているわけでございます。これに対しまして
日本では、会社の規模も小さいわけでございますが、基礎研究にかけるお金が非常に少ない、あるいは、同じような研究を同じような会社でやっておる、そういうことが多々あるわけでございます。そういう意味で、各社がお互いに競争し合うということは、これは企業努力、企業
姿勢というものが必要でございますけれ
ども、この際、やはり共同研究とか共同開発という
考え方がその研究のリスクを少なくすることでございますし、それからさらに開発のスピードが上がるということで、こういうことも重要なことではないかと思うわけでございます。
また、中小企業におきましては、非常にすぐれたアイデアを持ち、すぐれた活力のある会社がたくさんあると存じます。これらのアイデアを実行に移すためには、やはり他の会社と共同するなり、あるいは
政府がそれを積極的に援助するということも大変大事なことであると思います。
農水省におきましては、さきに研究組合制度というものがつくられておりまして、これによりまして、例えば膜の技術でございますとか、食品工業におけるエクスクルーダーの技術の共同研究でございますとか、あるいはバイオリアクターの共同研究組合でございますとか、そういったような組合をつくって、異種の企業がある研究テーマを一緒になってやろうという制度ができておりまして、これは私は大変結構なことだと思いますけれ
ども、今回ここに提出されております法案は、その趣旨にのっとって、さらにそれを拡大
強化して積極的にやろうというふうな気持ちが出ているように私は解釈をいたしまして、この法案はまことに時宜を得た
措置ではないかと思うわけでございます。
ただ、私
どもといたしましては、ここに一、二御要望といいますか、御意見を申し上げさせていただきますと、RアンドD、いわゆる研究開発というものはお金だけではございませんで、やはりそこには、何をやるかとか、そういうニーズとかシーズというものを把握できるような機会を持つということ、これがやはり非常に大事なことではないかと思います。もちろん、テーマの選定というものは企業の仕事ではございますけれ
ども、さらにこれを能率よく成果を上げていくためには、何らかそのようなシステムがあればよいなというふうに
感じるわけでございます。
それから、この新しいバイオの研究につきましては、非常にリスクとそれからコストがかかるものでございます。今申しましたとおり、非常に困難な仕事でございますが、これの成果を上げるのは、結局お金ではございません。人でございます。ですから、この点において、この研究はお金だけではなく、人材育成ということが非常に大切であると思います。そういう点も考慮に入れていただければ、なおさら結構ではないか、そういうふうに
感じる次第でございます。
以上でございます。