○
澤井参考人 御
紹介いただきました
澤井でございます。
私は、以下に述べる二つの
理由、一つは
行政責任の
明確化という
観点、それからもう一点は
地方財政への
負担の転嫁という二点からこの
法案には反対したいと思います。その
理由を以下二点についてお話ししたいと思います。
まず第一点ですが、
国庫補助負担金の
整理について。
地方自治体の
自主性、
自律性を強める、これは
臨調基本答申の提言の中の言葉でありますが、その
自主性、
自律性を強めるという意味であれば賛成していきたいと思います。しかし、残念ながら今回の
国庫補助負担金の
負担率、
補助率の
引き下げはそうなってはいないのではないかと思っております。 まず、
地方自治を強化する、そういったような
観点から
国庫補助負担金を見直す場合には、その
国庫補助負担金にかかわる
事務事業につきまして、国と
地方公共団体の間でその
行政目的を達成するに当たっての
責任の所在、それから分配の
あり方が明確になっている、そういう必要があります。同時に、それとの
関係で
費用負担をどの
レベルの
団体がどれほどするのか、そのための
財源配分をいかにするかというのが明らかになっている必要があると思います。
こういうふうにして初めて
納税者である
国民あるいは
住民にとりまして、
地方自治体がその特定の
事務事業についていかほど
責任を持ち、あるいは
地方自治体の財布から幾ら出ているかがつかめることになり、そのことによって初めてみずからそれをコントロールする意欲も生まれてくるのじゃないだろうかというふうに思います。
ちょっと話が変わりますけれども、この
法案を基礎づけておると思っております
補助金問題検討会の
報告を見ますと、「
補助率は、基本的には、例えば(イ)国として
当該行政に係る関与の度合やその実施を確保しようとする関心の強さ、(ロ)
地方の
住民に与える利益の
程度、(ハ)国及び
地方の
財政状況等の諸要素を
総合的に勘案の上、決定されるものと考えられる。」と述べられています。この書き方は、専ら国の都合を一方的に優先させているというふうにとらえられますので、
補助率の変更についてこういう形ではちょっと承服しがたいというふうに思います。
ただし、その中で、次いで「
個々の
補助率の
あり方については、基本的には国と
地方の
関係についての幅広い角度からの
見直しや、
個々の
事務事業の
見直しを踏まえて検討すべきである。」というふうに述べられております。この点については、もしかしたら考える方向が逆なのかもしれませんが、文言上は
意見が一致いたしております。
また、それに続いて「国及び
地方公共団体が、
双方で等しく
負担を分かち合う
性格の
事業の
補助率は二分の一が適当」と述べた後で、「なお、もとより
個別補助率の
見直しに当たっては
個々の
補助金の
目的、
性格等の
相違を考慮する必要があり、画一的に律しきれないものがあることはいうまでもない。」というふうに述べられておりますが、これも全く私は賛成であります。この線で議論がされておればいいというふうに思います。
ところが、
他方で
補助率の
簡素簡明化が唱えられておりまして、そのためか、
個別事業ごとの慎重な
見直しという原則がかなり崩れているというふうに思います。結果的には、一律
引き下げと同じ結果になっているのじゃないだろうかというふうに思っています。つまり、
個々の
事務事業と
補助負担金の
関係ですね、その
行政目的の
あいまい化、ひいては各
レベルの
行政の間の
行政責任の不明確さがもたらされているように思います。
例えば、
老人福祉法関係ですが、その中に
老人ホームへの
入所措置がございます。
老人福祉法の第十一条ですが、この
費用負担については、御
案内のとおり昨年度については、
市町村及び
都道府県設置の
養護老人ホーム、
特別養護老人ホームの
措置費については十分の七が国、それから十分の三がそれぞれを設置する
地方公共団体の
負担というふうになっていたわけであります。ところが、この
費用負担には
特例がございまして、
老人ホームに入所された方のうち
居住地を持たない御
老人というのがいらっしゃるわけですが、この
居住地を持たない御
老人の
入所措置に要する
費用については、
市町村の施設であっても
当該市町村は
負担をする義務を持っておりません。
老人福祉法の第二十四条第一項及び第二十六条第一項によりまして、六十年度の場合、十分の三を
都道府県が、それから十分の七を国が
負担していますので、この
居住地が明らかでない御
老人については、
市町村は
制度的には一銭たりとも持たなくていい。そうしますと、
市町村の方から見ますと、この点は、
生活保護法における
負担関係よりもさらに厳密に国の
責任が示されているというふうに考えられるわけです。
ところが、この
法案を拝見しますと、第二十五条ですが、この方々の
入所措置に要する
費用については、他の
居住地の明らかな御
老人方と同様に国の
負担を二分の一にしている。と同時に、
都道府県負担も十分の三から二分の一に
引き上げられておりまして、非常に奇妙なことになっていると思います。それで、
市町村の設置する
老人ホームへの
入所者のうちで
居住地の明らかでない人々について
市町村に
負担責任がないのは従前のとおりであります。この
法案でもそういうふうになっております。
つまり、この
入所措置事務については、基本的には
生活保護以上の取り扱いをするという
行政の
あり方、その
責任の
あり方、すなわち、国の
責任で行うという
性格は変わっていないわけであります。にもかかわらず、国の
負担を二分の一にしているというのはどういう
理屈になっているのだろうかというふうな疑問を非常に強く持ちます。同時に、どうして
都道府県の
責任がそんなに重くなったのであろうかという点も非常に奇妙なことと思います。これは、
補助金問題検討会の
理屈にも合っていないというふうに思います。このような
理屈に合わない
補助率引き下げでは、どうしても
行政責任の
明確化ができるというふうには思えません。それはむしろその
行政責任、
政府間、各
団体間の
責任を混迷に導くだけではなかろうかというふうに思います。
他の部分についても同じような問題があるのじゃないかと思いますけれども、何分にも
法案をいただいてから三日か四日しかたっておりませんので十分検討できておりませんが、その点で慎重な御
審議をお願いしたいというふうに思います。
次に、
理由の二番目を申し上げますが、
地方財政法の第二条第二項は、国は「
地方公共団体に
負担を転嫁するような施策を打ってはならない。」と定めております。私は、この
法案については、これに抵触する疑いがあると考えます。
それは、この
法案の第九章の「
地方公共団体に対する
財政金融上の
措置」に関してでありますけれども、具体的にどんな
措置がとられたかという点で申しますと、これは御
案内のとおり、
国庫補助負担金の
補助負担率引き下げに伴って、今年度一兆一千七百億円の
地方一般財源負担増があったとされております。これをちょっと見てみますと、この調子でいきますと、三年間の
措置ですので仮に六十一年度ベースで単純に計算しましても、一兆一千七百億円掛ける三で三兆五千百億円プラス六十年度で五千八百億円ございましたので、合計ちょっと丸めまして四兆一千億円、四年間でこれを
地方の
一般財源で賄っていくということになるわけです。四年間で四兆一千億、これに対して
財政金融上の
措置をとることになっておりますけれども、これが決定的に不十分であると思いますし、これが結果的に
地方財政の全般的な悪化を招くことになりはしないかというおそれを持っているわけです。
たしか
自治省が一昨年でしたか、お出しになっている
地方財政参考試算では、国と違いまして
地方財政は収支均衡するような
数字になっておりましたし、現実に
地方財政計画上は昨年から収支均衡しておるわけであります。しかしながら、
地方財政というのは三千三百有余の
自治体の
総合ですから、
マクロの
数字だけでは本当の姿はつかめないというふうに思います。ぜひ具体的な
自治体財政の
状況を
十分考慮の上で、御
審議をいただきたいというふうに思います。
その点をもうちょっと敷衍いたしますと、今年度一兆一千七百億円の
国庫補助負担金の削減に対する
地方財政対策というのは、そのうち二千四百億円は御
案内のとおり国税、
地方税の
たばこ消費税の
引き上げでありますが、残りの九千三百億円はすべて
建設地方債であります。これが結局
地方自治体の将来にわたる
負担増になるというのは非常に自明のことでありますけれども、では、この
地方債を
地方自治体が受け取る
余裕があるかどうか、その点を慎重に見きわめていただきたいと思うわけであります。
私どもで、
政府の出しておられる
統計、
自治省関係の
統計でありますが、分析いたしました。最近、
公債費比率が非常に上がっているというふうに言われておりますけれども、具体的に自分たちの手でさわってみますとかなり具体的な手ごたえがございまして、
地方自治体の
公債費比率は著しく上昇しておる。
一般的には、
地方財政運営、
自治体財政運営の場合を考えますと、
公債費比率が一八%を超えますと
財政運営が非常に苦しくなります。そのためにいろいろな無理をいたしまして、やみ起債とか転がしとか、いろいろ脱法行為といいますか、違法までいきませんけれども、相当工夫してやっておられる
団体もかなりあるわけであります。事実、一八%を超えますと、
財政再建計画をつくって再建を進めないと、その
自治体は
地方財政再建促進
特別措置法による再建
団体に陥らざるを得なくなるだろうというふうに私は思っています。
その点をちょっと見てみますと、この
公債費比率が上昇したというのは——ちょとお断りしておきますけれども、
昭和五十年代に、
昭和五十年度補正からとられました
地方財政対策の結果として
公債費比率は上昇しておりますので、
財政運営上の
地方自治体の方の
責任がないとは言いませんけれども、構造的には
地方側の
責任とは言えない、
地方財政対策の結果であるというふうにまず押さえていただきたいと思うわけであります。
五十六年度決算と五十九年度決算でこれを見ますと、
公債費比率が一八%以上の都市は、五十六年度では、全体で六百四十九市のうちの三・九%であります。町村二千六百六町村でありますが、そのうち四・二%が一八%以上。それから三年たった五十九年度になりますと市の数が六百五十一市になりますが、六百五十一市のうち実に一六%の
団体、つまり、百四市が一八%以上の
公債費比率になっています。町村では二千六百四町村のうち一七・五%に当たる四百五十八町村が、五十九年度決算で一八%の
公債費比率を超えております。つまり、都市、町村とも二割近くの
団体が、
財政運営が具体的に困難になる水準にまで公債費
負担が既にふえているという点を注意していただきたいと思うわけです。
もう一つ注意していただきたいのですが、この公債費
負担については地域的に大変なばらつきがあるということです。北海道、青森県、岩手県、秋田県といった道県、福島県、群馬県なども悪い
団体がふえています。新潟県、石川県、それからちょっと地域的には飛んでいるのですけれども山梨県、それから滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県の関西、それから島根県、鳥取県の山陰、山陽の岡山、徳島県、高知県の南四国、福岡、長崎、熊本、宮崎、鹿児島の九州諸県、さっきのは全体の
数字でしたが、このパーセンテージをかなり大きく超える
団体が一八%を超えております。したがって、一六%以上の公債費、一六%でもかなり苦しいわけですが、一六%以上の公債費ということになりますともっとふえるわけですね。こういった地域が今回の
財政金融措置でかなりの苦境に立たされるというのは避けられないだろうと思います。その点を十分に考慮していただきたいと思うわけです。
最後になりますが、今回の
財政金融措置が具体的にどうあらわれておるかについて触れておきますと、ある県庁所在都市、人口二十万規模ですけれども、この都市の場合は、五十九年度をベースにしまして、六十一年度は今回の
補助率引き下げのために約八億円の
一般財源の
負担増になります。保育所と
老人ホームが大きいのですけれども、このための
財源をどう捻出したかといいますと、この都市の場合、投資的
事業をコントロールするために、各年度で可能な起債のアッパーリミットというものを設定しております。これは要するに国の
財政再建の仕方に似ているわけですけれども、これが約四十億円です。毎年度四十億円の幅に起債を抑えるという政策でやってきたのです。ところが、
補助負担率引き下げのために増加しました
一般財源負担を賄うのに、六十一年度に予定しておりました
建設事業に向けるべき
一般財源を
地方債に振りかえまして、つまり
建設事業から
一般財源をはがしまして、それを経常的経費の
負担増に回しておるわけです。その結果、この起債のアッパーリミットを四億円ほど超過してしまったわけです。いわゆる調整債と言われる分ですが、その分を起債予定にしましたのではみ出してしまった。
このように
自治体の計画的
財政運営は、そういう意味で言いますと崩されたわけでありますが、同時に将来にわたる公債費
負担は増加するということになりますので、非常に苦しい
財政運営を迫られる。同時に、
自治体の行うべき仕事も、今国会に別に提案されております
地方自治法改正案の別表の改正を見ますと、
地方自治体並びにその機関のやる仕事が非常にふえております、この十二年間ですね。
地方自治体のやるべき仕事は、機関、
団体ともふえておりまして、そういうふうに仕事が増加している中での
財政運営を考えなければならないということになっております。それに今回の
措置が加わりますと、かなり難しいことになるのではなかろうかというふうに思っております。
以上、
行政責任の不
明確化、
地方財政への
負担転嫁、この二つの
理由から本
法案には賛成できないということを申し述べまして、私の
意見といたします。
どうもありがとうございました。