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中村参考人 東京大学の
中村でございます。私、
東京湾横断道路地域計画委員会の一員といたしましてこの
調査に参画いたしました
関係上、
意見を述べさせていただきます。
まず最初に、
交通地理的な視点からこの
横断道路というものを考えてみたいと思います。
東京には、
東京の周辺大体三十キロから四十キロ、五十キロという圏内にほぼ
環状にいわゆる
核都市あるいは
副次核都市と現在呼ばれている多くの
都市が連なっております。その間は、十六号を初めといたしまして、これから
先外環状道路あるいは
圏央道路等々で結ばれていって、こうして
環状につながるわけでございます。ただ、それが
横浜から始まりまして厚木、八王子、立川とずっと回ってくるわけですが、ちょうど
横浜と
木更津の間、ここは
東京湾でございまして、その間だけ輪が欠けているわけでございます。それ以外は全部
お互い手を結び合った形で
東京を真ん中にしてつながり合っているわけでございます。したがいまして、これが結ばれることは非常に大きな
意義があるということは、例えばこれが地続きであったらその間の
交通事情あるいは
都市発展がどういうふうになっていたかということを考えれば極めて明らかなのではないかというふうに思います。
しかも、地図でよく眺めてみますと、この
横断道路は
東京の
環状方向の
道路の一部であると同時に、
放射方向とも見られるような形態をなしているわけでございます。すなわち、これができますことによって、
東京を中心にしてほぼ三百六十度
全周方向にわたりまして
環状方向かつ
放射方向にすべて
道路のネットワークができ上がるということになろうかと思います。そういたしますと、その
構造から明らかなように、これは今まで欠けていました
京浜地区、
横浜、
川崎地区と
南房総地区がつながることになります。それと同時に、先ほど申しました
環状につながっている
核都市間がすべて連絡される、密接な
結びつきが起こるということになります。それからもう
一つは、
環状になるわけですから、それが
東京を迂回する
バイパスとして
機能するということが言えようかと思います。
それでは、こうした
道路が
南関東全域にとって
地域発展上どういうふうな
意義があるかということを考えてみたいと思います。これはもう皆様既に御
承知のとおりと思いますが、
一つは言うまでもなく
交通の
効率化でございます。ともかく早く
渋滞なく動けるということが起こるわけでございますし、湾を挟んだ両岸間が短い時間で結べるということになります。
二番目が、先ほど申しましたような
都市機能が強化されるあるいは
相互依存関係が強化されるということが言えようかと存じます。したがいまして、いわゆる
ヒンターランドが拡大するということが言えます。すなわち、
川崎、
横浜にとっては
房総半島が
ヒンターランド的なものになります。一方、
房総の
木更津等々は
川崎、
横浜の方がそのいろいろな
影響範囲に入ってくるわけで、
相互に
ヒンターランドが拡大するということがございます。したがって、それによって非常に
集積が起こってくるわけで、その
集積効果というのは工業だけでなくて
商業業務から
教育、
文化あるいは
医療に至るまで非常に大きいというふうに考えられると思います。ともかく、小さなものが
幾つかあるよりも大きなものができる、それによってより高度の、例えば
医療サービスあるいは
教育、
文化サービスが提供される、そういうふうなものを
お互いの
住民が享受し得るということが考えられるわけでございます。
三番目は、言うまでもなく
産業立地の新しい展開でありまして、これは今までどちらかといいますと
産業上比較的おくれた
状態にあります
房総方面に新しい種々な
産業が展開していくということが当然あるわけでございます。
四番目は、新たな
住宅地の提供がなされるわけで、これはただいま
我が国での最も大きな問題であります土地問題あるいは
住宅問題というふうなものの解決の一助となり得るというふうに思われるわけでございます。
それから五番目は、
レクリエーション、
レジャー機会が拡大、向上するということでありまして、これは少し詳しく述べた方がいいのかと思います。これは、ともかく今後
労働時間の
短縮が起こります。
我が国の
労働時間は
西ヨーロッパ諸国等々に比べて非常に多いということで、これがまた国際的ないろいろなフリクションの種となっているわけですが、何もそれだけでなくて、我々国民の
福祉上からも
労働時間は
短縮し、より豊かな
レジャー、
レクリエーションを楽しむということは必要なわけでありますが、そういうふうな
レクリエーションをするにも、今の
京浜地方を初めといたしまして、用地の
不足等もありまして、
機会が非常に少ないわけでございます。野球をやる、サッカーをやるにもグラウンドがとれない、あるいは海水浴に行っても超満員であるというふうなことが非常にたくさんあるわけでございます。あるいは、これから
高齢化社会に入っていくわけですが、
高齢者が余暇の時間を使う
場所、そういったものもなかなかとりにくいわけでございますが、対岸の
房総方面がそういうふうな近い距離になることによって、そこがそういった新しい場として
機能するということの
意義は非常に大きいのではないかというふうに思います。
そうしたものの
魅力が、これがまた定住の
魅力を呼び、あるいは
産業立地の新しい
魅力を呼ぶというのは、これは例えば
西ヨーロッパの国あるいは
アメリカでもそうですが、そうした美しい風景あるいは豊かな
レジャーの
機会、
レクリエーションの
機会、そういったものが新しい
先端産業等々の
立地の要因になっているというふうなことを見ても明らかではないのかというふうに思います。
その次ですが、こういった非常にいろいろな結構な
効果があると思われるわけですが、ただ、一兆円何がしという
建設費がいかにも巨額であるわけで、果たしてそれに見合うものであるかというふうなものの
検討が非常に大事ではないかというふうに思うわけです。そのために、
計量分析を、
地域計量経済モデルあるいは
交通需要分析を行いまして求めているわけでございます。
そこでの
前提は、二十一
世紀初頭での
南関東一都三県の
人口は三千百二十万人である。
経済成長率は約四・四%をそれまで持続する。あるいは
通行料は五十七年価格で三千円であるというふうな多くの
前提条件のもとにおいて試算しているわけでございますが、その結果、一日に三万台の
交通需要がある。それから、最終的には六万台くらいまで期待できるというふうなことでございまして、その結果、それを通行する
人たち、
道路利用者が受ける
利用者便益、これを直接
効果というふうに呼んでもいいかと思いますが、それは
走行時間の
短縮それから
走行経費の削減ということで、年にして、当初で七百三十億円くらい、三十年間で考えますと二・八兆円くらいというふうなことで、費用の二・三倍とか、そういったオーダーの
便益が見込めるというふうな計算がなされております。
サンフランシスコにおいては、御
承知のように、一九三七年にできました
ゴールデンゲートブリッジを初めとして、
四つの橋があの湾にかかっているわけですが、一九三〇年にはこれも当然のことながらいろいろな
意見がございまして、
住民投票をやって、十万八千票対三万五千票というふうな票でもって、それが賛成というふうなことになって着手されたというふうに書いてあるのを読んだことがございます。そこでは当初六千台
程度の
交通量であったものが、正確に申しますと六千三十二台と書いてございます、一九三七年、今から四十八年前でございます、申しわけありませんが正確な数字を私は知りませんが、今ではこれが大体七万台から八万台
ゴールデンゲートを通っているんではないかというふうに予想されます。こうして、
開発が進むと
交通量というものは加速度的に増加していくというのは、
サンフランシスコの例でございます。もちろん
サンフランシスコと
東京とはいろいろな形で
条件は異なります。したがって、これは
一つの
参考例として申し述べておくにとどめます。
最後に、この
計画に関して留意すべき点を私なりに述べさせていただきたいと思いますが、ともかくこの
プロジェクトは、美しい豊かな
国土をつくるための
プロジェクトでございます。したがって、これでもって
房総半島の
乱開発が行われるようなことは厳に慎むべきであるというふうに思っております。
房総半島の自然というのは非常に大事な自然でありまして、保護すべきところはしっかりとした
土地利用規制をかけ、厳しいコントロールをして、そして本当に豊かな
国土を
南関東のすべての
住民の
福祉向上に役立つようにぜひつくっていただきたい、そのためには非常に有
意義な
プロジェクトであるというふうに私は考えておるものでございます。
以上でございます。