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1986-05-16 第104回国会 衆議院 外務委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年五月十六日(金曜日)     午前九時三分開議 出席委員   委員長 北川 石松君    理事 奥田 敬和君 理事 田中 秀征君    理事 西山敬次郎君 理事 村田敬次郎君    理事 河上 民雄君 理事 土井たか子君    理事 玉城 栄一君 理事 渡辺  朗君       石川 要三君    臼井日出男君       鯨岡 兵輔君    竹内 黎一君       中山 正暉君    仲村 正治君       町村 信孝君    山岡 謙蔵君       小林  進君    藤田 高敏君       鳥居 一雄君    渡部 一郎君       永末 英一君    岡崎万寿秀君       田中美智子君  出席国務大臣         内閣総理大臣  中曽根康弘君         外 務 大 臣 安倍晋太郎君  出席政府委員         防衛施設庁総務         部長      平   晃君         経済企画庁調整         局審議官    宮本 邦男君         法務大臣官房審         議官      稲葉 威雄君         外務政務次官  浦野 烋興君         外務大臣官房外         務報道官    波多野敬雄君         外務大臣官房審         議官      斉藤 邦彦君         外務省北米局長 藤井 宏昭君         外務省欧亜局長 西山 健彦君         外務省中近東ア         フリカ局長   三宅 和助君         外務省条約局長 小和田 恒君         外務省国際連合         局長      中平  立君         外務省情報調査         局長      渡辺 幸治君         中小企業庁長官 木下 博生君  委員外出席者         厚生省社会局老         人福祉課長   阿部 正俊君         厚生省児童家庭         局母子福祉課長 伊原 正躬君         外務委員会調査         室長      門田 省三君     ————————————— 委員の異動 五月十六日  辞任         補欠選任   鍵田忠三郎君     山岡 謙蔵君   鯨岡 兵輔君     臼井日出男君 同日  辞任         補欠選任   臼井日出男君     鯨岡 兵輔君   山岡 謙蔵君     鍵田忠三郎君     ————————————— 五月十五日  核トマホーク積載艦船日本寄港反対等に関す  る請願角屋堅次郎紹介)(第五二〇〇号) 同月十六日  核兵器廃絶等に関する請願江田五月紹介)  (第五五一九号)  核兵器全面禁止に関する請願野間友一君紹  介)(第五七六六号)  核兵器全面禁止等に関する請願中村巖君紹  介)(第五七六七号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  扶養義務準拠法に関する条約締結について  承認を求めるの件(条約第五号)(参議院送付)  国際情勢に関する件      ————◇—————
  2. 北川石松

    北川委員長 これより会議を開きます。  扶養義務準拠法に関する条約締結について承認を求めるの件を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。土井たか子君。
  3. 土井たか子

    土井委員 今委員長のおっしゃったとおり、扶養義務準拠法に関する条約について質疑をさせていただくわけですが、外務省から出していらっしゃる説明書を見ますと、「概説」というところで、まずこの条約自身は、昭和元号で書いてあるのがちょっと外務省としてはいかがかと私には思われますけれども、四十八年十月二日に作成をした、そして五十二年の十月一日に既にこの条約は発効している。ところが我が国は、ことしの二月二十八日に署名を大急ぎでやって、ただいまの国会にこれを提案をしてぜひとも承認をという手続をおとりになっていらっしゃるのですが、これはなぜ慌ててことしになってこういうことになって、それ以前は何だか全然そういう気もなさそうな年が続いて今日に至ったのか、この間の経緯をひとつ聞かしていただきたいと思うのですが、どうですか。
  4. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 御承知のとおり、ヘーグ国際私法会議では幾つかの国際私法関係条約を作成しております。我が国といたしましては、このヘーグ国際会議で作成されました条約のうちの妥当な内容を持つと考えられます条約につきましては、順次これを締結していきたいという方針を持っております。その条約締結するに際しましては、その締結後誠実にそれを遵守、実行できるように関係国内法見直し整備、こういう作業を行った上で締結していくという方針を持っている次第でございます。  今、御審議いただいております条約につきましては、その内容につきましては妥当なものと認められましたので、これを実行するための国内法見直し整備作業を行っておりましたところ、昨年に至りましてその作業が終了いたしまして、関係国内法国会提出準備も整いましたので、その国内法国会提出とあわせまして今国会にこの条約を提出して、御承認をお願いしている次第でございます。
  5. 土井たか子

    土井委員 本条約についての国内法整備というと、何法なんですか。
  6. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 この条約を実施するために、我が国現行国際私法でございます法例内容を実質的に変更するための特例法法務委員会に今提出済みでございまして、扶養義務準拠法に関する法律案、この法案を今法務委員会で御審議をいただいているところでございます。
  7. 土井たか子

    土井委員 後でもこれは申しますけれども、そうすると、法例に対して改正することなく、新しい今回の単独立法法務省としては合意なすった、こういうことですか。
  8. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 形式的にはただいま土井委員指摘のとおりでございます。
  9. 土井たか子

    土井委員 法務省、何か御意見があるのですか。
  10. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 扶養義務準拠法に関する法律案附則におきまして、法例改正部分がございます。
  11. 土井たか子

    土井委員 これは附則で決めている部分でありまして、法例そのもの改正にはなっていないのです。新しい単独立法の中で法例にかかわる部分附則の中で述べられているわけであって、法例そのもの改正というわけではない、このように理解していいですね。
  12. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 表現の問題としてどういうことになるかわかりませんが、扶養義務準拠法に関する法律によりまして、これまで法例によって記述されていた部分がこの新しい法律によって記述されることになりまして、その今まで法例で記述していた規定が不要になりますので、その部分を削除するということでございますので、改正ということには一応なると思います。
  13. 土井たか子

    土井委員 しかし、それは法例そのものに対して改正するということを法例に対して問いかける以前に、新しい単独立法扶養義務準拠法に関する法律というのをつくって、その中で関係する部分について、法例のある条文については削除ということを附則で決めている、こういう体裁になるわけでしょう。
  14. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 御指摘のとおりでございます。
  15. 土井たか子

    土井委員 その作業が大変手間取ったわけでありますか。今日までこの条約について、先ほどは御答弁の中で、日本としてこの条約締結することが妥当であるかどうかということを検討して、国内法についての整備をした上でこの条約について締結をするということに相なりましたという経緯について述べられているわけですが、この法務省の方の作業はどれくらいおかけになりましたか、年月からいえば。
  16. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 昭和五十二年にこの条約が発効いたしまして、同時にその際に、この扶養義務に関する条約批准いたしました年でございますけれども、それに引き続いて作業を開始したわけでございますが、その間に先生御案内の国籍法改正作業等が入りまして、この作業が少し延び延びになっていたわけでございます。それと同時に、国籍法が終わりまして直ちに法例身分法に関する部分についていろいろ問題があるということで、これの全面改正作業を並行して行っておりまして、ただ法務省としても、ほかにもいろいろ法律関係の処理がございまして、今回の国会でこの部分をやるのがそういうほかの作業との段取りからいうと最良の選択だということで、去年一年かけまして、この間同時に法例改正作業もやっていたわけでございますけれども、これの作業が終わりましたので、外務省にお願いして条約批准という運びにさせていただいた、こういうことでございます。
  17. 土井たか子

    土井委員 そうすると、今の御答弁を承った限りでは、この条約が効力を発効した昭和五十二年あたりからもう作業には取りかかって、今日に至ったというふうに理解していいわけですね。
  18. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 正確に申しますと、五十三年、五十四年と作業をしております。
  19. 土井たか子

    土井委員 五十三、五十四と作業をして、そうすると、もう少し早く実は締結できるという手続もとれたのではないかということに相なるわけですが、それは可能ではなかったのですか。
  20. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 特に婦人差別撤廃条約との関連もございまして、そのころから国籍法審議ということの準備作業が開始されまして、それと同時に、民事局としてもほかの法律案が錯綜しておりましたので、少しこの条約関係作業がおくれていたということでございます。
  21. 土井たか子

    土井委員 それはいろいろふくそうしてくる問題もございますけれども、ふくそうして出てくる問題と関連をしている部分が実はこの条約中身にもあるわけでありまして、全く無関係と言えない。したがって、今いつごろから作業をお始めになって今日に至ったかということも、ちょっとお伺いする意味が大変あったのです。  あと、その部分について関係するのは外務大臣にも私はお尋ねをしたいと思いますから、ちょっと後回しにしますが、今回この条約締結すれば、締結するのとしないのとどういうふうな状況が変わるわけですか。つまり、こういう事情があるためにこの条約締結する意味があるという事情があるならば、ひとつ述べていただきたいと思うのです。
  22. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 各国民法というのは、これは当然のことながらばらばらの内容でございます。これを世界的に統一しようということは、これは民法というものはそれぞれの国の習慣、歴史、文化に深く根差しておりますので不可能なことでございます。次善の策といたしまして、民法そのもの統一は無理とすれば、具体的なケースに対しましてどこの国の民法を適用すべきかということを定めます国際私法、この原則国際的に統一すれば、少なくとも一つのケースについてはどこの国の裁判所訴えが出されたといたしましても、同じ法律、同じ国の法律が適用されることになるわけでございまして、そういう意味でその国際私法統一ということにつきましては我が国も非常な関心を持っておるわけでございまして、この条約我が国締結することは、世界的な国際私法統一という方向に向かって貢献するのではないかと考えた次第でございます。  それからもう一点は、我が国の現在の国際私法でございます法例におきましては、扶養義務につきまして夫婦間とか親子間とか幾つかそれぞれの規定はございますけれども、一般的な規定といたしましては扶養義務者本国法によるという規定になっております。最近の世界的な考え方といたしまして、扶養関係事件につきましては扶養権利者、すなわち、通常弱い立場にある者の権利をより手厚く保護すべきであろうという考え方がございまして、その観点から、この条約におきましても、準拠法扶養権利者常居所地法によるという定めになっているわけでございます。この条約我が国が加盟することによりまして、現行法例の体制が変わりまして、我が国裁判所訴えが出されました場合には、扶養権利者常居所地法準拠法として適用するということになります。したがいまして、その扶養を要する者の権利のより手厚い保護につながるのではないかというふうに考えた次第でございます。
  23. 土井たか子

    土井委員 権利者権利をより強力に擁護するために、常居住地ということを中心に考えることが果たしてそうなるかどうかというのは、別問題だと私は思っていますよ。だから、今の御答弁を聞いていて、おかしな御答弁だなと実は思っておりますが、さて、夫婦協力扶助、それから婚姻中の夫婦間の問題全部含めまして渉外家事事件というのがありますね、問題になる事件事件数からいったら日本はどれくらいになってきておりますか、このところ。ふえているのですか、減っているのですか、余りふえないで、ずっと横ばいになっているのですか、どうなんですか。やはり国際間の交流がより増大してきますと、ふえていくであろうというのが常識論ですが、どうですか。
  24. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 正確な数については、あるいは法務省の方から御答弁があるかと存じますけれども、私どもの承知しておりますところでは、渉外的な事件の数というのは非常に急速にふえているというふうに聞いております。
  25. 土井たか子

    土井委員 急速にふえているということまではおっしゃるのだけれども、その件数は把握なすっていらっしゃるかどうか、どうなんです。
  26. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 これは裁判所で扱っておりますが、裁判所における調査によりますと、昭和五十年に千七百五十七件であったものが、五十九年には二千七百七十四件ということになって、約一・六倍になっているということのようでございます。
  27. 土井たか子

    土井委員 今おっしゃったのは渉外家事事件に対しての件数だろうと思うのですが、いろいろな事件がこれに含まれておりますから、その中で特に扶養義務関連するというふうに思われるものの件数も出ているに違いないと私は思います。それはどのように相なっておりますか、少し年度別にずっと言ってみてくださいませんか。
  28. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 この渉外事件の中には、審判事件調停事件とがございますが、審判事件扶養関係が問題になるものは少のうございまして、昭和五十年で申しますと九件、昭和五十九年で申しましても二十五件でございます。  ただ、調停事件で申しますと、昭和五十年には五十件であったものが、昭和五十九年には百十五件になっており、昭和五十八年が百八件でございまして、五十七年が八十八件でございましたけれども、もともとの絶対数が少のうございますので、絶対数としてはそれほどではございませんが、大体一割ないし二割ぐらいのペースでふえているということでございます。
  29. 土井たか子

    土井委員 そうすると、今おっしゃったのは、家事裁判ということで裁判になっている事件調停にかけられている事件を両方分けておっしゃったのですね。それ以外にはないわけですか。
  30. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 これは専ら家事裁判家庭裁判所事件として行われるわけでございまして、扶養関係につきましてはこの二つの種類に限られているわけでございます。
  31. 土井たか子

    土井委員 今も、年度別にと私申し上げたら、そういう答え方ではなくお答えになったわけですが、全国の家庭裁判所の方から出ている渉外家事事件の受件数、その中で扶養義務関係するものと思われる渉外家事事件ですね、それについて五十年くらいから五十九年くらいまでは統計が出ていると思います。言ってみてください。
  32. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 先ほど申し上げましたように五十年に家事審判事件は九件でございますが、その内訳としては、婚姻費用分担が四件、子供の監護に関する事件が一件、そのほかの扶養に関する事件が四件、こういうことになっております。それから、調停事件の五十件のうち婚姻費用分担関係が七件、子の監護に関する事件が二十九件、財産分与に関する事件が二件、その他の扶養に関する事件が十二件。  五十一年には十三件、扶養関係審判事件がございますが、そのうち婚姻費用分担が三件、子の監護関係が八件、扶養が二件。それから調停関係では八十二件でございまして、婚姻費用分担が十二件、子の監護関係が五十九件、財産分与関係が五件、扶養が六件。  五十二年は扶養関係審判事件が二十一件でございまして、そのうち婚姻費用分担が八件、子の監護関係が十件、財産分与関係が二件、扶養が一件。それから調停で申しますと六十八件でございますが、そのうち婚姻費用分担が二十件、子の監護が四十一件、財産分与が一件、扶養が六件。  五十三年が全体で審判事件が十八件。そのうち婚姻費用分担が三件、子の監護が七件、財産分与が一件、扶養が七件。調停関係では、六十九件のうち婚姻費用分担が八件、子の監護が四十件、財産分与が十件、扶養が十一件。  五十四年でございますが、この年は審判が十件でございまして、婚姻費用分担が五件、子の監護が四件、扶養が一件。それから調停事件は七十件でございまして、婚姻費用分担が十三件、子の監護が三十九件、財産分与が七件、扶養が十一件。  五十五年が、審判事件十三件のうち婚姻費用分担が四件、子の監護が五件、扶養が四件。調停事件は八十七件でございまして、そのうち婚姻費用分担が二十件、子の監護が四十七件、財産分与が四件、扶養が十六件。  五十六年が、審判十四件のうち婚姻費用分担が四件、子の監護が二件、財産分与が五件、扶養が三件。調停事件七十九件のうち、婚姻費用分担が十七件、子の監護が五十二件、財産分与が三件、扶養が七件。  昭和五十七年になりますと、扶養関係審判事件が十八件でございまして、そのうち婚姻費用分担が五件、子の監護が六件、扶養が七件。調停関係八十八件のうち、婚姻費用分担が二十二件、子の監護が五十一件、財産分与が八件、扶養が七件。  五十八年は、審判事件が十七件、婚姻費用分担が六件、子の監護が六件、財産分与が二件、扶養が三件。それから調停事件の方は、百八件のうち婚姻費用分担が二十一件、子の監護が六十八件、財産分与が五件、扶養が十四件。  五十九年でございますが、審判の先ほど申しました二十五件の内訳を申し上げますと、婚姻費用分担が六件、子の監護が十五件、財産分与が三件、扶養が一件。調停事件百十五件のうち、婚姻費用分担が二十一件、子の監護が七十六件、財産分与が九件、扶養が九件。  こういう数字になっております。
  33. 土井たか子

    土井委員 そうすると、渉外事件件数というのは二千件をはるかに上回る、三千件に近いわけですけれども、その中では扶養義務関係するものは、審判調停含めまして二百件足らずという格好ですからそう多くないわけですね。そのように理解していいのですか。
  34. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 そのとおりでございます。
  35. 土井たか子

    土井委員 渉外家事事件ということになってくると、やはり扶養義務関係するのが非常に多いのじゃないかということが一般感覚からすれば考えられるのですけれども、今承った限りではそうでもないようなお答え中身であります。  ところで、この扶養義務関係すると思われる渉外家事事件で、関係する日本相手国ということになってまいりますとどういう国が多うございますか。
  36. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 これは、日本に在住しております外国人の数と相関しているわけでございまして、圧倒的に韓国が多うございます。その次にアメリカ関係、もちろん中国もありますが、そういう関係でございます。
  37. 土井たか子

    土井委員 今お答えになったとおりで、やはり韓国アメリカ中国というのが恐らくは関係する外国として多いであろうと思われるのですね。それぞれの国はただいまのこの条約締結していますか、外務省
  38. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ただいま挙がりました国のうちで、この条約締結している国はございません。
  39. 土井たか子

    土井委員 ないのですね。この条約締結している国それぞれ見ていきますと、日本で問題になる渉外家事事件、わけても扶養義務関係する事件に対しては、大体は余り関係ない国が締結国でありまして、日本にとっては最も問題になる国というのは締結国ではないのですね。署各国でもないんじゃないですか。署名はしておりますか、どうですか。
  40. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 いずれの国も、署名もしておりません。
  41. 土井たか子

    土井委員 という条約なんですね、これは。日本でよく起こる問題について、関係する国はいずれも署名もしていなければ、だからもちろん批准もしていない。そういう条約を、日本としては国内法整備するのに時間をかけておやりになって、条約締結するということで今後大変意味があるのですか。意味があるとするならば、どういうところで意味があるのですか。
  42. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 韓国米国中国というような国が署名もしていないではないかという御指摘は、まさにそのとおりでございます。しかしながら、この条約は、相手の国がこの条約締結しているか否かにはかかわりなく適用するという形になっておりまして、この条約の三条に書いてございますけれども、「この条約によって指定される法律は、いかなる相互主義の条件にも服することなく、また、締約国法律であるかないかを問わず、適用する。」と書いてございます。したがいまして、例えば米国人を含みます渉外事件、これが日本裁判所に提起された場合、この条約締結後になりますと、米国がこの条約締結しているか否かにかかわりなく、我が国といたしまして、この条約原則に従いまして扶養権利者常居所地法を適用するということになって、それが米国法となった場合におきましても、米国がこの条約締結しているか否かにかかわりなく、米国法を適用するということになるわけでございます。  したがいまして、扶養権利者常居所地法を適用することが、すなわち直ちに扶養権利者権利保護につながらないのではないかという先ほどの委員の御指摘がございまして、その点はそのとおりでございまして、直接つながるということではなくて、むしろ自分がふだん住んでいるところの法律はよく内容を知ることができるであろう、したがいまして扶養権利者としても裁判訴えやすくなるであろうという考慮、そういういわば間接的に権利保護につながるというふうに考えている次第を先ほど御説明したわけでございますけれども、もしその考え方が正しいといたしますれば、相手国、例えば米国とか韓国、これがこの条約締結しているか否かにかかわりなく、その扶養権利者常居所地法法律が適用されるという結果になるわけでございまして、その観点から我が国がこの条約締結することには意味があるというふうに考えておる次第でございます。
  43. 土井たか子

    土井委員 これは、この条約締結していない国を問題にする場合に、その国が締結していないからといって無関係ではなく、その国の法律が適用されるという格好になるときに、その国が実は私はこの条約には入っておりません、したがって我が国法律を適用されることに対してはお断りしますというふうなことが出てきた場合には、どうなるんですか。
  44. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 我が国裁判所で出されました判決がほかの国でそのまま認められるかどうかという点は、それぞれの国の法律によるわけでございます。ただいま御指摘のような事態ももちろんあるわけでございますが、この条約に入っていないからといって、直ちに我が国裁判所の決定をその国が認めないということになるわけではないわけでございまして、それぞれの国の法律に従いまして、認められるときもあれば認められないときもあるということになるかと存じます。
  45. 土井たか子

    土井委員 判決そのものめ問題ではございませんで、判決に至る過程で適用される法律の中に、その当事国法律を適用されることに対して拒否されるというふうな場合がなきにしもあらずではないかと思うのです。なぜ、私がこういうことを言うかというと、従来、条約というのは締結国を拘束するのです。締結していない国は拘束しない。今回の条約は、ただいまの御答弁を聞いていると、未締結国締約もしない、ましてや署名もしていないという国まで、これは拘束をするという意味を持っている条約だという御説明ですから、そんな条約はちょっと今までにございませんので、したがって承りたいという気になっているのです。
  46. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 私の先ほどの御説明が誤解を招いたかもしれませんが、この条約締結していない国もこの条約に拘束されるということを申し上げたつもりはございません。我が国がこの条約締結したといたしまして、この条約に拘束されるのはあくまで我が国のみでございます。我が国がこの条約締結した結果、我が国裁判所はこの条約の定めます原則に従って準拠法を決める義務を負うわけでございまして、その条約の定めます原則に従って準拠法を定めた、その準拠法の国がこの条約に入っているかいないかは、この際関係ないという形になっているということを御説明したつもりでございます。
  47. 土井たか子

    土井委員 ちょっとこれは形式論を御説明の上ではおっしゃるのが、それはそれ以上のことは無理であろうとは私は思いますけれども、実際に照らし合わせて考えてみると、非常にこれ事宜に合わない問題が出てきやしないかと思いますよね。というのはこの条約というのは、原則として考えているのは常居住地でしょう。常居所地において訴えを提起するという場合、権利者日本にいる、義務者が例えばアメリカにいるという場合ですね、この義務者を相手取って日本訴えた場合、日本裁判所は、義務者が住んでいるところのアメリカ法律を適用しなければならないにもかかわらず、アメリカがこの条約に入っていないということのために、この法律を適用することに対して支障を来したという場合にはどうなるのですか。
  48. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ただいま委員指摘ケースは、訴えを起こします扶養権利者日本にいるという場合だったと存じますので、そうだとすれば、この条約原則扶養権利者常居所地法国内法によるということでございますので、日本法律が適用されることになるわけでございます。  もし御質問の趣旨が、逆に扶養権利者常居所地法米国であって、それで例えば扶養義務者日本にいるような場合におきまして、アメリカに住んでおります扶養権利者日本裁判所訴えを起こした場合、どうなるかということだといたしますれば、それは御指摘のとおり、この条約原則に従いまして、日本裁判所アメリカ法律を適用することになるわけでございます。その際、米国がこの条約に入っていないということは、我が国裁判所米国法律を適用してそのケースを裁くということの妨げにはならないというふうに理解しております。
  49. 土井たか子

    土井委員 日本裁判所は、妨げにならないということでこれは適用をいたしましたとしても、アメリカ側が私はその条約に無関係である、この条約に従って取り扱いを進められる準拠法に対する取り扱いというのは、我々としては承認しがたいというふうなことが出てきた場合には、どういうふうに相なりますか。
  50. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 そのようなケースがもちろんあり得るかと存じますが、それはもはやこの条約関係するところではございませんで、外国裁判所判決をどのように承認するかという一般論の問題になるかと存じます。その点につきまして、米国は各州によって建前が違っているというふうに承知しておりますけれども、個々のケースに応じまして日本裁判所が下しました判決、これをアメリカの各州が、自分たちの持っております規則によりましてケースごとに認める場合もあれば、認めない場合もあるというふうになるかと存じます。
  51. 土井たか子

    土井委員 そういたしますと、日本権利者がいる場合は日本法律によってこれは万事規律するということになるから、先ほどの御答弁では問題はない。アメリカ権利者がいる場合は、アメリカ法律に基づいてやるということが本来の趣旨だけれども、しかしこの条約に入っていないことのために、そういう事実がそのとおりに行われないというふうな場合もこれは想定できる。そういう場合には、今おっしゃったように各州の準拠法に従って、取り扱いがケース・バイ・ケースになっていくということでありますね。  そうすると、これは聞けば聞くほど日本の場合には、日本で起こるいろいろな家事事件、特にその中の扶養義務関係する問題について、件数中身を確かめれば確かめるほど、相手国がこの条約に入っていないという場合が大多数なんでありますから、一体そのたびごとに問題の解決としては、スムーズにいかないという可能性もはらんだ取り扱いを進めなければならないということに相なるかと思います。だからこの条約に入ったからといって、直ちに状況が変わるとはとても思えない。以前と余り変わらぬ状況で事の処理が日本においてはなされるということが、引き続きこれは想定されておいてよかろう、こう思われるわけですが、この点はそう考えて間違いじゃないですか、どうですか。
  52. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 お言葉を返すようで恐縮でございますけれども、この条約に入るか入らないかによりまして、日本裁判所が下すべき判決内容というのは非常に変わり得るわけでございます。  ただいま御指摘のとおり、この条約に入ったからといって、個々のケースが常に扶養権利者の満足のいくように解決されるようになるという保証はございませんけれども、先ほど来御説明しておりますとおり、この条約に入りました後は、日本裁判所扶養権利者常居所地法法律を適用してそのケースを裁くということになるわけでございます。現在の我が国法例におきましてはそういう体制になっておりませんので、その点におきまして、この条約に入りました結果、扶養権利者、通常の場合弱い立場にある者、これが恐らくほかの法律よりはよく承知しているであろう自分の住んでいる国の法律に基づいて、そのケース裁判所に裁いてもらうことができるという事態になるわけでございます。
  53. 土井たか子

    土井委員 もう一つ余りぴんとこないような御答弁なんですが、さて、この条約を見ておりまして、これは条約中身を留保することができるという格好になっているわけですね。日本は、この条約について留保をされていますか、どうですか。例えば、十三条の場合はどうですか、十四条の場合はどうですか、十五条の場合はどうですか。それぞれ留保をすることができるという旨の規定がございますが、日本は留保いたしておりますか、どうですか。
  54. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 この条約におきましては、批准、受諾、承認または加入のときまでに、ただいま御指摘ありました十三条から十五条までの留保をすることができると書いてございますが、我が国といたしましては今後とも留保をする予定はございません。
  55. 土井たか子

    土井委員 今締結しております国で、留保をしている国があるんでしょう。
  56. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 幾つかの国が留保しております。
  57. 土井たか子

    土井委員 幾つかの国というより、大部分の国と申し上げていいと思うのです。締結をしている国の大部分の国が、恐らく扶養義務準拠法に関する条約についての留保をしているというふうに考えていいと思うのです。  今までのところ、留保を全くしていない国がありますか、どうですか。
  58. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 フランスは留保をしていないと承知しております。
  59. 土井たか子

    土井委員 フランス一国ではないかと思うのですね。それと、今度留保なしで締結すれば日本ということになっていくであろうと思われるのですが、こうなってきますといよいよ、留保しているか、していないかというのも、取り扱いの上では、相手国の状況ということを知る上では、どうしても確認をして知っておく必要があります。  今回、留保状況がどういうことになっているかというので、私、外務省が当委員会に提出された資料をいろいろ見てみましたら、それに触れて書いてある部分が全くないんですよ。お伺いをしようかなと思って、さらに私はいろいろと調べを進めてまいりましたら、今回、国内法整備することのために法務省がお出しになった「扶養義務準拠法に関する法律案関係資料」というものの中に、これははっきり書いてあるのです。「各国批准状況等一覧表」というのがございまして、その中に「各締約国の留保状況」というのがちゃんと書いてあるのです。法務省法務委員会にお出しになる資料にはこういうことがあって、事これは条約関係するのですよ、条約について承認するかしないかを審議する当外務委員会に対して外務省は御提出なさらないというのは、いかがですか、これはどういうことなんです。
  60. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ある条約につきましての各国の留保状況を把握して、それをお知らせするというのは外務省の任務でございまして、この条約の提出に当たりまして、その点資料が不備であったことは、私ども深くおわびをしなければいけない点だと存じております。
  61. 土井たか子

    土井委員 何遍もこういうのを、条約審議のたびごとに私たちは今まで問題にしてきて、外務省はいつでも、ちょっとこれは資料の上で不備でしたとか行き届きませんでしたということを言われ続けて今日に来ているのですが、どうも国会に対する対応というのは外務省はおかしいですね。条約に対して承認を求めていらっしゃるお立場からすれば、資料に対してこれでいいか、これでいいかという、そういう気持ちで整備なさることが、私は至極当たり前の話ではないかと思うのです。本来、資料要求したってお出しにならないという姿勢がこういうところにも出るのですよ。隠そう隠そう、出さないでおこう、出さないでおこうという姿勢が、あらゆるところに出てくる。外務省の姿勢そのものがここに出てますよ。本当に、これは何とも知れぬ気がします。外務省には反省を促しますよ。姿勢の上でなっておらぬです、外務省は。そういうことを一つ申し上げます。  それと同時に、これはいろいろな資料を繰ってみるのですけれども、今回のこの条約というのは、手続上の準拠する法律をどういう法律に決めるかということだけの話でありまして、そういう法律を適用して審判をする、裁判をする、調停をする、その結果出た結論に拘束されるところまで何にもこれは規定がないのです。そこで出た結論、例えば判決扶養の義務に対して認めて、そしてその義務を履行することを判決の結果要求するとか、扶養のために月額どれくらいの費用を出さなければならないということを命ずるとか、そういう判決が出ましても、その判決を履行するための裏づけが何にもないのです。これは今回の条約ではらち外の問題なんですか。今回の条約ではそこまでいってないのですか、いっているのですか。つまり、判決に対して拘束性ということをこの条約は認めているのか、認めていないのか。どういうことですか。
  62. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 判決の効力云々は各国国内法いかんによるということになるわけでございまして、御指摘のとおりこの条約は、扶養義務に関する法律の抵触についてのみ規律している次第でございます。この点は第二条にも、「この条約は、扶養義務に関する法律の抵触についてのみ規律する。」と規定してございまして、判決がどうあるべきか、判決内容がどうあるべきか、あるいはその効果、効力がどうあるべきかという点は、この条約が何にも定めていないところでございます。
  63. 土井たか子

    土井委員 その判決についての効果がどうあるべきかということを定めている条約がありますか、ありませんか、どうですか。
  64. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 へーグの国際私法会議幾つ条約をつくっておりますが、その中には判決承認に関する条約というのもございます。ただ、これは一つの国で出されました判決をほかの国が承認することを約束する条約でございまして、具体的なケースにつきましてどのような内容判決を下すべきかという点は、これは各国国内法に任されているという点におきましては、変わりがございません。
  65. 土井たか子

    土井委員 それは当然なことだと思うのです。ただ、国際条約に従って準拠法を決めて、その準拠法によって裁判を行った結果の判決については、この条約では全く拘束性を認めていないわけですから、したがって、裁判そのものについて準拠法までは決めるけれども、準拠法を適用した裁判についてのあり方というのが何も問題になってないということからしたら、余り意味がないなということもあるわけです。したがって、裁判判決についての取り扱い方を、さらに条約としては問題にしなければいけないのじゃないかなと私自身は考えまして、それについてそういう条約がありますか、ありませんかということを承っている。  今、そういうのはあるということをおっしゃいましたね。その条約は、日本語で言うとどういう条約名になりますか。扶養義務に関する判決承認及び執行に関する条約を指しておっしゃっているのですか。
  66. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ただいま御指摘のとおり、扶養義務に関する判決承認及び執行に関する条約というのがございまして、私もこの条約について先ほど御説明した次第でございます。
  67. 土井たか子

    土井委員 この条約自身は、いつつくられていますか、そして発効はいつしていますか。
  68. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 この条約が作成されましたのは一九七三年でございます。発効いたしましたのは一九七六年でございます。
  69. 土井たか子

    土井委員 そうすると、準拠法について問題にしているただいま審議中の条約と同じ七三年につくられた。準拠法に関する条約の場合は七七年に発効しておりますが、それよりも一年早くただいまの判決承認及び執行に関する条約の方は発効している、こういう関係になると思いますが、間違っていませんね。
  70. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 そのとおりでございます。
  71. 土井たか子

    土井委員 これを締結されるお気持ちがおありになるのですか、おありにならないのですか。
  72. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 我が国として締結すべきか否かにつきましては、これは関係省庁とも十分協議をして検討したいと考えておりますけれども、この条約につきましては、先ほど来土井委員指摘相手の国がこの条約締結しているか否か、これが非常に関係してくるわけでございます。したがいまして、我が国渉外事件相手方というのは、先ほど御説明ありましたとおり、韓国米国中国というようなところが多いわけでございまして、いずれもこれらの国はこちらの条約にも入っておりません。そういたしますと、今御審議いただいております条約とは違いまして、お互いに判決承認し合うという形が、具体的なケースにつきましては余りまた実益がないという状況にございます。したがいまして、今後の検討課題ではございますけれども、現時点では、必ずしもこの条約は急いで締結しないでもいいのではないかという感じを持っている次第でございます。
  73. 土井たか子

    土井委員 何だか、かごに水を入れるような感じに私自身はなってまいりました。この条約準拠法について考える条約であって、そして当初の御答弁の中では、権利者権利を擁護するということをさらに重視するという側面があると言われたのです。権利者権利を尊重するという立場からすれば、準拠法についてより権利を尊重する立場で考えることは、言うまでもなく判決が出た場合に、その判決の実効性に対しても担保するものでないと、本当のところは意味がないのです。そうでしょう。判決については何も縛られない、勝手に日本裁判所裁判やって、準拠法日本法律でやって、どうぞ勝手におやりなさい、判決出だって何の関係もございません、それで終わりですよ。これで権利について本当に尊重するゆえんですか。
  74. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ただいま御指摘の点、これはまことに一理ある御意見だと考えます。ただ、先ほど来御説明申し上げているつもりでございますけれども、扶養権利者の住んでおります国の法律を適用するという原則我が国裁判所で採用されます結果、その扶養権利者といたしましては自分のよく知っている法律によって裁かれることになる。この結果、間接的ではございますけれども、扶養権利者の利益がもたらされるのではないか、そういうメリットはあるのではないかと考えている次第でございます。
  75. 土井たか子

    土井委員 権利者というよりも、それが提訴されたところの裁判所における裁判官でしょうね、具体的に言えば。しかし、このお答えは非常に心もとない。だから、今回の条約締結する意味はどれほどあるのかなという思いに駆られつつ、国内法整備に目を移しましたときに、大臣が御出席になった上で私は申しましょうという問題が出てくるわけであります。  外務大臣の御出席がまだございません。刻々時間がたって、もう約一時間になんなんといたしておりますけれども、まだ御出席じゃありませんから、外務大臣の御答弁も昨年あった問題でもありますから、あとは外務大臣御出席後にこの問題をさせていただくということで、質問を留保します。よろしいか。——それでは、次の御質問の方に時間を譲ります。
  76. 北川石松

    北川委員長 次に、玉城栄一君。  なお、土井たか子君の質問時間については、留保を委員長は認めます。
  77. 玉城栄一

    ○玉城委員 私も、ただいま土井先生の御質疑を伺っていまして、当初大変この条約に期待もしておったわけでありますが、肝心のところが担保されていないということで非常にがっかりもしているわけです。この扶養義務準拠法に関する条約について、私も去年の五月、この条約ではありませんけれども、この問題に関係するもろもろの問題について、この委員会でもいろいろ御質疑させていただいた経緯もあるわけでありますが、特にこれから急激に国際化という時代の流れで、いわゆる国際私法上のトラブルというのは、現実に過去も現在もあるいはさらにこれからもいろんな問題が予想されるわけでありますから、そういうトラブルの中の特にこういう扶養関係という問題はいろいろ出てくると思うわけで、この条約について私も非常に注目をしておるわけです。  いずれにしても、今までよりは少しはよくなっているのかなという感じもしないでもないわけですが、この条約の仕組みは従来に比べて大体どういうことになるのか。いわゆる扶養権利者扶養を受けることのできる権利者、子供であるとか妻であるとか、あるいは中には夫もいるかもしれませんけれども、そういう扶養権利者にとってはどういうメリットがこの条約上、そして国内法も含めて出てくるのか、その点をお伺いいたします。
  78. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 この条約が定めておりますのは、渉外的な扶養義務ケースをどこの国の法律で裁くかということだけでございます。この条約我が国が加入いたしますと、我が国はこの条約原則を適用する義務を負うわけでございまして、その結果我が国裁判所は、原則といたしまして扶養権利者常居所地法によってそのケースを裁くということになるわけでございます。  現在のところどうかと申しますと、我が国国際私法でございます法例におきましては、夫婦間の問題あるいは親子間の問題は特例がございますけれども、原則といたしましては扶養義務者本国法によるという規定になっております。  したがいまして、具体的なケースをとって申し上げますと、未成年の子供と親のケースの場合、今まででございますと、我が国裁判所にこの両者間での扶養義務についての争いが出た場合は、親の本国法で裁かれることになるわけでございます。「扶養義務者本国法」というように二十一条に規定がございます。他方、「親子間ノ法律関係ハ父ノ本国法二体ル」という規定もございますので、いずれに基づきましても、現在は父親の本国法によって裁かれることになるわけでございます。この条約に入りました後は、扶養権利者常居所地法によるという原則がございますので、子供の住んでおります国の法律によってそのケースが裁かれるという違いが出てくるわけでございます。
  79. 玉城栄一

    ○玉城委員 具体的に言いますと、これはアメリカも加入していますが、例えば夫がアメリカ人であった、奥さんは日本人であった、母親と子供が日本にいる、この条約がない現在は、その父親であるアメリカ人の方の扶養についての問題の裁き方は、アメリカ法律によって裁くということですね。ところが、この条約締結され国内法にされると、今度は日本条約によってその扶養義務を課する、その判決の移動の問題はあるでしょうけれども、その辺はどういうことになりますか。
  80. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 ただいま委員がおっしゃったとおりでございます。
  81. 玉城栄一

    ○玉城委員 その点は前進になるんでしょうかね。  それでは、私はこれは去年の五月にお伺いしましたので、これは沖縄に限らないので、特に沖縄はこういうケースが非常に多いのですよね。大きな基地がありまして、アメリカの兵隊さんと日本人女性が一緒になる、そして子供が生まれる。しかし、その夫であるアメリカ人は帰っていく、親子は置き去りにされる、親子は母子家庭で大変な状態ですね。そういう場合は、一体どういうふうにして救済されるのかということを去年もお伺いしたわけです。  厚生省の方に伺いたいのですが、混血児を抱える母子世帯は全国で幾らなのか。特に沖縄に多いわけですが、それは数としてはどういうふうに実態を掌握されていますか。
  82. 伊原正躬

    ○伊原説明員 お答えいたします。  沖縄における母子世帯の数につきましては、五十六年の沖縄県による調査で約一万三千世帯というふうに把握されております。また、一方混血児でございますが、五十一年三月に沖縄協会が発表しました就学混血児数が約千三百人ということになっております。先生御指摘のように、この千三百人の混血児のほとんどが母子家庭であると考えられますが、私どもの方で母子世帯調査の中で混血児の数については、残念ながら調査してございません。  そして、混血児も含めまして母子世帯全般に対しまして、私どもの方では母子及び寡婦福祉法という法律に基づきまして、母子世帯への貸付金等々の福祉対策を進めているところでございます。
  83. 玉城栄一

    ○玉城委員 少なくともこういう条約は、国際結婚した、それの扶養義務に絡むトラブルの問題をどうしようかという条約、そして国内法があるわけですね。ですから、国内の混血児を抱える母子世帯の実態がどうなのかということも——一般的な母子世帯も、それは国内的な措置ですから当たり前の話ですが、こういう条約関係して混血児を抱える母子世帯の実態、これは沖縄に限りませんよ、それがどういうものであるか知らないというのは、厚生省どういうことですか。ですから、まずそういう実態を厚生省は今後調査されますか、沖縄も含めて。
  84. 伊原正躬

    ○伊原説明員 お答えいたします。  私どもの方で母子家庭につきましては、全国的な調査も五年ごとの定期に実施しておりますが、従来母子世帯の中で混血児につきまして、特段にそれだけを取り上げました調査というのは実施してこなかったわけでございます。これは沖縄ばかりでなく、全国的に混血児というものは生活しているわけでございますけれども、私どもの母子福祉対策の中で、混血児以外の母子家庭につきましての対策と同レベルの対策を進めていくという考えでございますので、現在のところ混血児だけについての調査というのは実施する考えはございません。
  85. 玉城栄一

    ○玉城委員 何か奥歯に物の挟まったようなはっきりしないお答えをされますけれども、私は十分までしか時間がありませんので……。  これは法務省ですか、「渉外家事事件新受件数(全国家庭裁判所)」。渉外家事事件総数は五十八年が二千四百八十三件、扶養義務関連すると思われるものの件数が千二百二十四件中、沖縄はどれくらいあるのですか。
  86. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 その点は、先ほどお答えした数字のとおりでございます。
  87. 玉城栄一

    ○玉城委員 いや、私聞いていませんよ。先ほどだれがお答えしたのですか。
  88. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 土井委員お答えいたしましたが、数字としてはそういうような数字になっております。失礼いたしました。
  89. 北川石松

    北川委員長 そのような数字ではだめじゃないか。今の質問者玉城栄一君に対して答弁悪い。
  90. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 大変失礼いたしました。私どもとしては、沖縄のそういう事件についてだけは把握しておりません。申しわけございませんでした。
  91. 玉城栄一

    ○玉城委員 あなた、さっきはお答えしました、今は把握していない、そんないいかげんな答弁ありますか。これ以上言っても時間もありませんから……。  この署名した国の中に中国も入っておりませんけれども、フィリピンも入っておりませんね。東南アジアの国々というのは入っていないのですね。フィリピン関係も、やはり国際結婚による扶養関係のトラブルというのはあるのですけれども、なぜフィリピンがこの条約に加入していないのか。
  92. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 私ども、なぜフィリピンがこの条約署名もしていないのか、理由を存じません。現在のところ、この条約署名締結しております国はヨーロッパの国に限られておりまして、アジアの国は今のところ一つも入っていないような状況でございます。
  93. 玉城栄一

    ○玉城委員 どうもこれ以上聞きますと、だんだんこの条約に賛成していいのかどうか、ちょっと……。  それで、これは去年の五月に私申し上げたわけでありますけれども、特に沖縄県の場合あれだけ基地を抱えて、アメリカ人との国際結婚のトラブルが多いわけですが、さっき伺いますと日本の国内で裁判をして、その裁判はまた向こうに行くというようなことで、実際に扶養を受ける権利者、子供とか妻とかそういう方々の本当の権利というものが、この条約によってどれだけ担保されているかということになるとちょっと心もとないわけでありますが、やはり今後は国際化の時代ですから、こういういろいろなケースは当然出てくると思うわけですね。ですから、少なくともアメリカ我が国と、扶養義務関係についての取り決めみたいなものを当然やっておくべきだと思うわけですが、外務省は必要ないというお考えですか。
  94. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 その点につきましては、昨年、玉城委員からも御指摘がございまして、我が方といたしましても実情の調査、それから我が国としてとるべき態度その他の検討を行った次第でございます。米国との間にそのような取り決めをつくることに、全く意味がないというふうに我々考えている次第ではございません。ただ、直ちにそのような取り決めを米国とつくることが果たしてできるかどうかという点につきましては、我が国現行国内法制との関係、それから扶養以外の問題についての判決の相互承認の問題、こういうような問題が幾つかございますので、今後の検討課題とさせていただきたいと考えております。
  95. 玉城栄一

    ○玉城委員 あと二分間ありますので、もう一回改めて最初に戻りまして、この条約我が国が加盟することによって、従来よりどういうふうに扶養を受ける権利者、子供とか奥さんとか、そういう方々にとって利益があるかということを、もう一回きちっとおっしゃっていただきたいと思います。
  96. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 この条約は、準拠すべき法律をどの国の法律によるかという仕分けの点だけを決めているわけでございます。したがいまして、この条約に入った結果、扶養権利者の具体的な受けるべき扶養内容が改善されるという保証はないわけでございます。例えば、この条約に入っていなければアメリカ法が適用されたであろうところが、この条約に入った結果、日本法が適用されるということになった場合を仮定いたしまして、アメリカ法による扶養内容よりも日本の法による扶養内容の方が手厚いという保証はないわけでございます。それは個々のケースによるわけでございます。  この条約に入りますメリットとして我々が考えておりますのは、従来と異なりまして、扶養権利者、すなわち通常の場合は弱い立場にありまして訴えを起こす方の側、この人間が住んでいる国の法律が適用されることになるわけでございますので、通常の場合、自分が住んでおります国の法律というのはほかの国の法律よりは内容をよく承知している場合が多いであろうから、訴えを起こす側にとっては一定の安心感と申しますか、一定の知識、見通しを持った上で訴えを起こすことができるようになる、その点が実質的なメリットではないかと考えておる次第でございます。
  97. 玉城栄一

    ○玉城委員 何か安心感とかそういうことのようですけれども、いずれにしても私は、こういう条約は今後発展せしめていかなくてはいけないと思うのです。ですから、そういう意味では従来より前進だと思うわけです。問題は、そういうものがちゃんと担保されるかどうかという問題も含めて、これを機会にこういう問題も今後の問題としてぜひ検討していただきたいということを要望して終わります。
  98. 北川石松

    北川委員長 次に、田中美智子君。
  99. 田中美智子

    田中(美)委員 この条約締結することによってどういうメリットがあるかということをお聞きするつもりでおりましたけれども、今までの同僚議員のお話を聞いておりまして、多少知っているから、わかるから安心だという、単なる精神的な情緒安定に役立つというお話でしたので、この質問は聞きません。  それで、締約国は七カ国しかありませんし、署名も十一カ国しかない。そういう中で、特に日本の女性、男性もあるかもしれませんが、女性が多く結婚します韓国人とか米国人それから中国人、最近はフィリピン人とも結婚しております、そういう中でのいろいろなトラブルについては、何ら関係がないではないかと思いますと、なぜ今この条約締約しようとしたのか、することが悪いとまでは思いませんが、まだ先にしなければならないことがあるのではないかと思います。  その前に一言、確実にしておきたいのは、例えばアメリカ権利者が住んでいる、これは締約国ではありませんので、こういう場合には今までと比べて、例えば日本人の子供の場合に損するのでしょうか、得になるのでしょうか、簡単にお答えください。
  100. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 申しわけございませんが、ただいまのケース、簡単に損になるか得になるかということは申し上げられないわけでございまして、この条約に入る結果起こります事態は、扶養権利者アメリカに住んでいれば、日本裁判所におきましてアメリカ法律を適用して、そのケースを裁くということになる点が違ってくるわけでございます。
  101. 田中美智子

    田中(美)委員 そうすると、今までとほとんど変わらないということですね。
  102. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 そういうことではございませんで、ただいま御指摘ケースが、未成年の扶養を受けるべき日本人の子供がアメリカにいて父親が日本にいたような場合、子供が日本裁判所にこのケース訴えてきた場合、現在の法例のもとにおきましては、このようなケース日本法律によって裁かれることになるわけでございます。この条約に入りました後は、その子供がアメリカに住んでいるのであればアメリカ法律によって裁かれることになるわけで、その点、実質的な違いが出てくるわけでございます。
  103. 田中美智子

    田中(美)委員 法律によって違うわけですから、これは損になる場合もあるし、得になる場合もある。そうすると、今度は締約国のフランスの場合ですね。フランス人と結婚した女性が年をとって夫にも死なれ、フランス人である子供から扶養されない場合にフランスで裁判を起こした場合には、この女性はフランスの法律が適用されるわけですね。そうすると、扶養の義務はないわけですか。
  104. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 フランスはこの条約締約国でございますので、この条約原則を適用する義務がございます。したがいまして、ただいま御指摘ケースは、その扶養を提起した側の母親がどの国に住んでいるかによってどの国の法律が適用されるかが決まるわけでございまして、仮にただいま御指摘ケース日本人である母親が日本に住んでいるのであれば、フランスの裁判所におきましても日本法律を適用してそのケースを裁くということになるわけでございます。
  105. 田中美智子

    田中(美)委員 それはもうわかり切っていることです。フランスに住んでいる場合を言っているのです。
  106. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 その母親がフランスに住んでいるのであれば、フランスの法律が適用されます。
  107. 田中美智子

    田中(美)委員 フランスの場合には、子供の扶養義務はあるのでしょうか。
  108. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 親子間の扶養の義務は、フランスにおいても認められておると承知しております。
  109. 田中美智子

    田中(美)委員 例えばイギリスが締約国になりますと、イギリスにはないはずですので、そういうときには日本の女性はイギリスに住んでおれば扶養されないということになりますね。
  110. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 まだイギリスがこの条約に入っておりませんので、この条約原則が適用になりませんが、もしイギリスが入っていたらどうかという仮定の御質問だったといたしますと、原則といたしましてそのイギリスの法律が適用されることになるわけでございます。仮に、イギリスの法律では親子間の扶養の義務がないということになりますと、原則に従えば扶養は受けられないことになりますが、この条約には、扶養権利者常居所地法によって扶養を受けられないときは両者の、両者と申しますのは扶養権利者扶養義務者、両方の共通の本国法によるという、いわば準則のような規定がございますので、そちらの共通本国法によればどうなるかという観点から、もう一回裁判所が考え直すということになっておるわけであります。
  111. 田中美智子

    田中(美)委員 何のために質問取りをしているのか、私は疑問に思います。私は初めから、フランスに住んでいるとかイギリスに住んでいるとか、子供は日本人ではないんだということで、こういう場合にはどうなるかと聞いているわけですね。それに対して非常に不誠実だと思います。私は非常に不満です。そういう場合には、この条約を結ぶことによって、決してすべてが得にはならないのじゃないかということを聞いているわけですね。質問取りのときにきちっとそのことは言っているわけです。それなのに、日本に住んでいた場合だとか、いや共通の本国法だとか、こういうことを言われて、私が言ったことについては最後でなければ出てこないということでは、時間がどんどん過ぎてしまう。私は、それなら質問取りは要らないじゃないかとさえ思います。わかりましたので、結構です。  次に、ちょっと厚生省にお伺いしたいんですが、中央社会福祉審議会老人福祉専門分科会から昨年の末、十二月十七日に意見具申が出ております。それからもう一つは、中央児童福祉審議会の費用負担部会から、昨年の十二月十八日にやはり意見具申が出ております。この中の老人の問題は最後の二項のところですが、「扶養義務者に適用される費用徴収基準」という中に、今までは同居を原則としていた、これを「原則としつつも、同居していない者であっても実態に即して主たる扶養義務者とする途を設けるべきである。」という言葉とか、それから児童福祉審議会の方では、費用徴収の対象となる扶養義務者の範囲についてのことがいろいろと書かれております。これが今、障害者やそれから老人自身または老人を抱えている家庭にとっては、扶養義務の範囲が拡大されるのではないかという心配を非常にされているわけですが、これは絶対に今までよりも拡大するということはないというふうに聞いておりますけれども、そういう意味でしょうか、これに書いてありますのは。お答え願います。
  112. 阿部正俊

    ○阿部説明員 老人分科会での意見でございますけれども、基本的には扶養義務の範囲を拡大するものではございません。ただ、その扶養義務者が数人いる場合に、どの方に実際の負担義務を果たしていただくのが妥当であろうかということで、前から同居だけにしますと、特に女性が最後に同居する方が多いわけでございますね。同じお子さんでありましても、たまたま別居しているがために、かなりの所得があっても扶養義務を果たさないでいいという格好になりますので、その際のいわば扶養義務者、具体的にだれをその扶養義務者として認定するかというときの取り扱い方について、今申し上げたような点から公平になるように少し工夫しなさいというふうな趣旨に理解をしておりまして、扶養義務者の範囲、例えば配偶者、子、兄弟等、その範囲を拡大するというふうなものではないと理解しております。
  113. 田中美智子

    田中(美)委員 私は、法的に言っているのではありません。今の運用の仕方だということを言っているじゃありませんか。運用の仕方であるならば、今までは同居者の中の主たる扶養義務者がやっていたわけです。それを何人もいるというふうなことは、今まではやっていないはずです。ということは、これに書いてあることはそういうふうに広げるということではないですか。私は、民法上の扶養義務者を広げると言っているのではありませんよ。そうではありません、私の質問は。これは、今までは同居していた者の中の主たる扶養義務者とか、また子供の場合には同居している両親というふうになっているわけじゃないですか、それを兄弟まで広げるのですか。兄弟が五人いれば五人全部に広げるということは、これは広げるということじゃないですか。
  114. 阿部正俊

    ○阿部説明員 私、別にごまかすつもりで言ったわけじゃないのでございまして、子供さんが例えば二人おるという場合に、お年寄りの場合、最後には娘さんのところに……(田中(美)委員「もうあと時間がありませんので」と呼ぶ)そういう運用上、認定に当たりまして、子供さんが二人、三人いる場合に、どの方を扶養義務者として認定するかということの取り扱いを変えるということは、あり得ようかと考えております。
  115. 田中美智子

    田中(美)委員 今までの運用と同じであるかどうかということを一言お答えください。
  116. 阿部正俊

    ○阿部説明員 運用はこの審議会の意見に沿いまして、変えるように今検討中でございます。
  117. 田中美智子

    田中(美)委員 変えるように、ですか。ちょっと聞こえませんでした。もう一度はっきり言ってください。今までの運用と同じであるかということです。
  118. 阿部正俊

    ○阿部説明員 運用を変更いたしますというふうなことで、現在、具体的な案を検討中でございます。
  119. 田中美智子

    田中(美)委員 運用を変えるということですね。わかりました。  それでは、外相が来られましたので、一言お伺いいたしますが、この条約締結するというならば、交通事故の問題とか夫婦の財産制の準拠法など、こういうものはなぜ後回しになっているのでしょうか。その点、お答えください。
  120. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 今問題の法例改正、今法制審議会で審議している、こういうふうに聞いております。法制審議会で審議中である、こういうことでおくれておるということであります。
  121. 田中美智子

    田中(美)委員 現在ですか、現在やっているということですか、ちょっと聞こえなかったものですから。
  122. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 現在、審議中だということです。
  123. 田中美智子

    田中(美)委員 もう一度厚生省にお伺いいたします。  この問題は、特別な悪質の場合だけではなくて、実際に運用を広げていくということですか。もう一度お答えください。
  124. 阿部正俊

    ○阿部説明員 子供さんが数人ある場合に、従来は老人ホームに入所したお年寄りの出身世帯で、同居している方だけをとらえて対象にしておったわけでございますけれども、そうするのがいいのか、あるいは別居しておるけれども負担能力の相当ある方が、従来のやり方ですと負担義務ということから逃れておったわけでございますので、そのときにAの方を対象にした方がいいのか、Bの方を対象にした方がいいのかということについて、もう少し公平なやり方がないだろうかということで、従来の専ら同居だけを原則にすることを少し対象を広げて考えようではないかということで考えておりますので、悪質とか悪質でないということではございません。実際の運用としてそういうふうに変更しますように、現在、具体的な案を検討中でございます。
  125. 田中美智子

    田中(美)委員 厚生省のお話では、悪質の場合だけを取り締まるのであって、そうではないというふうに私の部屋で返答があったわけですが、国会での答弁と違うわけですね。厚生省の窓口で聞くのと、国会での答弁とは違うわけですね。
  126. 阿部正俊

    ○阿部説明員 お部屋の方でどんな方がどんなふうな形で御説明したか知りませんけれども、多分老人ホームへの入所者に対する費用徴収の問題以外の問題として、御説明したのではないかというふうに思いますけれども……。
  127. 田中美智子

    田中(美)委員 いや、そういう勝手な推測をしてもらっては困ります。間違いなく老人関係の方から聞いているわけです。決してそういうことはしない、同居を原則。これには、「同居を原則」とすると書いてありますでしょう。「同居を原則」とすると、それには書いてあるじゃないですか。あなたの考え方、ちょっと違うじゃないですか。これよりももっと抜け出ているじゃないですか。「同居を原則としつつもこと書いてある。その後に書いてあることはどういうことかと部屋で聞いたら、それは悪質な場合だけをやるのだ。確かに悪質な場合はやるということは、私は了解できます。しかし、原則を今変えるというのはおかしいじゃないですか。これをまだ超えるということですか。もう一度お答えください。
  128. 阿部正俊

    ○阿部説明員 悪質か悪質でないかということではございませんで、ただ別居をしている場合に、日本全国どこにいても費用徴収の対象にするかということになりますと、具体的に事務的にも大変困難な面がございますので、同一の市町村内とかあるいは同一の福祉事務所管内とかいうことで、いわば同居と同様な地域関係といいましょうか、というふうなあるケースについて対象にするというふうな具体的な方策を今検討中でございます。
  129. 田中美智子

    田中(美)委員 あなたの言っていることは、この審議会の答申をもさらに出ているということですね。これは、絶対に承服することはできませんし、あなたは大臣ではありませんし、厚生省を代表して言っているというふうには私は考えられません。窓口で言うことと話が違うということはおかしいと思うのです。審議会の答申よりさらに出ていくということは、許されないことだと思います。  時間が参りましたので、それを強く抗議しまして、質問を終わります。
  130. 北川石松

    北川委員長 なお、先ほど安倍外務大臣に対して土井たか子君より質問の時間を留保いたしておりますので、十時三十分から国際情勢に関して中曽根内閣総理大臣に質問を行い、その後、なお扶養義務に関する時間を持ちたいと思いますので、御了承を願いたいと思います。  以上であります。      ————◇—————
  131. 北川石松

    北川委員長 次に、国際情勢に関する件について調査を進めます。  この際、各質疑者に申し上げます。  質疑時間につきましては、理事会申し合わせのとおり厳守されるようお願い申し上げます。  なお、政府におかれましても、質疑時間が限られておりますので、答弁は簡潔明瞭にお願いいたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。藤田高敏君。
  132. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 私は、時間の制約もございますので、問題点を絞りまして質問いたしたいと思います。  総理、御就任になられてからかれこれ四年近くなるわけでありますが、懸案の財政再建の問題も、見通しとして、また今日段階における結果としては、その成果をおさめることが残念ながらできていないように思います。わけても今日、円高の問題については、まさに円高ニュースで明けて円高ニュースで暮れるというぐらい、国民一億、円高総るつぼの中で振り回されておるというのが今日の実態ではないかと思うわけでありますが、その結果、我が国の経済界、国民の生活に深刻な影響を与えております。  このような事態になりましたのは、率直に言わせてもらって、私は昨年のG5以来、特にせんだっての東京サミットを含むこの一連の過程の中における、政府並びに政策当局の対応の仕方あるいは政策手段において大変な誤りがあった、その結果が今日の円高事態を招来しているのではないか、こう思うわけでありますが、総理の、今日段階におけるこのような円高状態になってきたその原因、その責任の所在はどこにあるかということを率直にお尋ねをいたしたいと思います。
  133. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 円高の原因といえば、やはりこれはアメリカ日本、ヨーロッパあるいは世界各国の総合的な経済体質の結果出てきておることであります。人間の体温や発熱が体の全体的な機能の結果出てくるようなものです。  それから、円の相場というものはどこへ行くのだという話がありますが、相場は相場に聞けと言われているとおり、マーケットエコノミーにおいては、市場原理というものによって長期的には動いていくものだろうと思います。円ドルの関係にいたしましても、昨年の九月二十二日のG5以降変化が生じてまいりました。一つには、日本が持っておる膨大な黒字五百億ドルを超え、ある計算によれば、ことしは石油がどんどん値下がりしている状況から見れば七百億ドルを突破する、八百億ドルに手がかかるかもしれぬとすら計算されておる、こういう日本の強い経済的な情勢。それから、アメリカの財政赤字というものが、グラム・ラドマン法は通りましたが、違憲の判決が出たりして、果たしてあのとおり財政赤字の削減がうまくいくのかどうかという問題等々、いろいろな要素が加わっております。  したがいまして、我々は株式相場について一万二千何百円、一万三千円突破、こうやって株式の相場自体について一部関心を持っていますが、持たない人もおる。これもやはり相場は相場に聞けて、この円ドル関係も同じようにそういう市場原理というもので動いておる。しかし、これが乱高下するあるいは急激なショックを起こすようなことがあってはうまくないという意味において、ウィリアムズバーグ・サミットにおいてはそれが有益ならば介入する、そういう約束もしておりました。  そこで、先般の東京サミットにおきましても、各国がそれぞれの経済の指標、インディケーターを持ち寄って相互監視を行おう、そして著しく逸脱するという場合には政策協調を行おう、そういう約束もいたしました。そして今のような、ウィリアムズバーグ・サミットの介入を辞せずということも確認したわけであります。これは、アメリカからしますと一大前進でありまして、アメリカは去年の秋まではいわゆるレッセフェール・レッセパッセの自由放任的な立場をとっておったのを、政策協調あるいは経済構造の積極的調整、あるいは為替に関する今のような相互協調というところまで前進してきたわけなのであります。それはアメリカだけではなくて、サミット構成国全体がそういう立場であります。でありまするから、最近はベーカー長官の発言もあり、きのうは西ドイツ連銀総裁の発言もあり、きょうは百六十四円何十銭から始まっております。そういうようなわけで、サミット以後、各国のそういう協力し合うということが確認されて、地合いをみんなが見詰めている、微妙な動きがある、そういう段階に来ていると思うのであります。  我々は、今当面しておるこの円高による日本の中小企業や一部の輸出産業の苦難に対しては、できるだけ迅速にいろいろな対策を整備して、緊急対策をできるだけ可及的速やかに実行して、それらの方々の苦難をお救い申さなければならぬ。そういうことで、サミット前から私は関係各大臣にその政策を錬磨するように指示しておいたところでございますが、今これを最終的にまとめつつありまして、できるだけ早期に、かつ勇敢にこれを実行していきたい、そう考えておるところでございます。
  134. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 大変長い御答弁には恐縮いたしました。そういう原理原則的な、円高問題自身が、相場の問題は相場に聞けというように市場原理だけで動いてきているのであれば、今日このような深刻な事態が起こっていないのじゃないか。そういうことをおっしゃるのであれば、なぜG5のああいった会議が持たれたのか。これは市場原理どおり動かないところに、ああいう政策手段が入ってきたのではないか。私は率直に言って、総理の今の御答弁を聞いておりますと、G5以来、それぞれのセクションがございますが、他党のことは余り言いたくありませんけれども、自民党内部の宮澤総務会長ではありませんが、総理がサミット前に訪米したときに、総理は何のためにアメリカへ行ったのか、円高問題について何をしてきたのかというような問題が起こるくらい、政府の失政といいますか失策というものを糾弾しておると思うのですね。  今、総理がおっしゃったようなことであれば、新聞報道ではありませんけれども、なぜ、せんだっての東京サミットにおいて総理が大わざをかけるというようなことをおっしゃったのだろうか。しかも、この大わざが外れてしまって、全く円高にはブレーキがかからない、かからぬどころか逆に円高が促進された、そして得点だけはレーガンやあるいはサッチャーさんにとられた、こういう結果になっておるじゃありませんか。今おっしゃったような原則的なことをおっしゃるのではなくて、政治というものは、また外交というものは生きておるわけですから、生きておるこの現実の八カ月間の時間的な経過の中で政府のとった、あるいは政策当局のとった対応の仕方なり政策手段に誤りがあったかどうか、この点はやはり率直に認めるものは認めた上で正しい批判と反省の上でないと、当面しておるこの円高問題に対しても適切な対策というものが打たれないのではないかと思うのですが、どうでしょうか。
  135. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 よく毎日検討はしておりますが、間違っていたとは思いません。やはり国際協調の中でこれらの問題は経済原理を中心にし、そして政策協調というものを加味しつつ、ソフトランディングでこれを打開していくというのが大体サミット構成国の考え方で、急激なショックとかあるいは非常に乱高下するというようなことは避けたいということも一致しているところであります。そういうことはある時間的経過の中には出てくるものである、そう考えておるのであります。
  136. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 そのことだけのやりとりをする時間がございません。私は私の立場から言わしてもらえば、今日のこの急激な円高そして深刻な産業界及び国民に対する生活不安、雇用不安を招来いたしておりますものは、先ほどから申し上げておりますように、政府の責任に帰すべき重大な政策あるいは対応の仕方の失敗であったということを申し上げておきたいと思います。  さてそこで、そうは言いながら、現実の問題として円高は、ベーカーさんがおとといあのように言ってみてもたった三円の違いしかない。これが今後どうなるかというのはいろいろな見方がありましょうけれども、一番この円高問題の基調になっておる日米間の貿易のインバランス、先ほども総理おっしゃいましたが、ことしの見通しからいくと約七百億ドルくらいになるのじゃないか、OECDあたりでは場合によっては八百億ドルくらいになるのじゃないか、こういう状態を前提として今日の条件として存在しておる限りやはりこの円高が続く、こう見なければいかぬと私は思うのですね。そういたしますと、この円高に対して今政府が何をやろうとしておるのか、極めて抽象的には、けさの新聞ではありませんが、もうあちらこちらでアドバルーンだけ上がるのですね。内需拡大をやらなければいかぬ、場合によっては総理の経済哲学をも大転換するようなことをちらっとほのめかしたりするようなことをあちらこちらの会合ではおっしゃる。しかし、肝心な円高対策として何を、いつ、どういう規模でおやりになるのかということは、極めて不明確であります。  もう中小企業はばたばた倒れていっておりますね。あるいは大企業でも、非鉄金属に代表されるような企業はこれまた青息吐息です。そして中小零細企業、おもちゃ屋さんを初めとする零細企業はこれまた途方に暮れつつあるわけですね。こういう中で政府が、今何をなすべきかということを具体的に、例えば公共事業においては何兆円規模のものをやるとか、私どもがずっと一貫して主張いたしておりますが、内需拡大の大きな決め手とも言うべき所得減税については、何も政府・税調だけが万能でないわけですから、国会が決め、政府がやればいいことですから、所得減税については、例えばこういう事態の中で円高に対しても有効に作用する所得減税というものを、少なくとも野党共同修正案で出しておる程度のものは思い切って緊急にやるんだとか、こういうものが具体的に出てこないと、今の緊急事態と言われておる円高対策にもならないし、今日の経済界の混乱を収拾していくこともできないと思うのですが、その中身について、そしていつごろやるのか、その規模について答弁をお願いいたしたい。
  137. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 今まで公定歩合の引き下げを三回にわたってやりまして、最終は四月二十一日でございましたか、今三・五%という日本でもまれに見るぐらいの低利の時代に入ってきて、公定歩合の引き下げということをやりました。それから四月八日に総合経済対策を発表いたしまして、円高等も含む内需の振興策を出して着々実行しておるところです。その一つの大きなものが円高差益の還元ということで、六月一日から電気、ガスについてたしか一兆八百億余にわたる還元を行う、そのうち中小企業関係が大体三千億円ぐらい、大企業関係が三千億円ぐらい、家庭が約三千億円ぐらい、大体それぐらいの割合で恩恵といいますか差益還元が行われる、こういう形になり電力代その他の産業関係についても安くなっていくわけであります。  あるいは、そのほかのいろいろな差益還元もせっかく進めておりまして、ガソリン等もリッター十円くらい下がってきておりますし、あるいはさらにプロパンにいたしましても約一千億円のプロパン代を安くする、灯油もかなり下がってきております。そういうようにして、円高による利益をあらゆる面において還元する、これらは一兆円とか二兆円の減税に当たるものになると思うのです。あるいは公共事業の前倒しも、今までより最高のレベルをやろうということで、これも既に各省に指示して発動しておるところでございます。  そのほか、総合政策に盛られたことを今実行しつつある、その上にさらに金利の問題やそのほかの問題等について、あるいはまた保険の関係等についても、もっとこの緊急事態に合うように直したらどうかというようなさまざまな点を今検討しておりまして、これらの追加緊急措置というものもできるだけ早期に実施していきたい、そう考えておる次第なのでございます。
  138. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 今総理がおっしゃったようなことをやっても、円高には効果が出ていないわけですね。私が特に強調したいのは、今日のこの円高に歯どめをかけて、そして今の産業界、経済界あるいは国民生活に深刻な影響を及ぼしておる事態をどう避けていくのか、その政策が出てこなければならぬと思うのです。なるほどおっしゃっておりますように、二、三の問題については施策として出てきておることは、私も十分承知をいたしております。しかし、円高差益の還元についても、これ自身についても、私どもには大変な言い分があります。これなんかも、八カ月もたってようやくこの程度のことが、この国会が始まった当初から我々が言っておることを今の段階になって手をつけた。そのことを、何か鬼の首でも取ったような答弁をなさることについては、率直に言っていただけない。しかし、そのことでやりとりしようとは思いません。  しかし、円高自身に有効な歯どめがかかるというような政策をやるためには、今の総理の御答弁では足らないような気がするわけでございます。やはり公共事業の前倒しと言ってみたって後をどうするんだ、公共事業の前倒しについて八割やりましょう、しかし後の後半はどうするんだ、この手だてがぴしっと政府の方針として、その規模は、例えば建設国債を発行してでも二兆円規模のものを後半には公共事業としてやるんだとかそういうものが出てこないと、円高にまで有効な影響が出てくることにはならないんじゃないか。特に肝心なこととして申し上げておる財政的な手法としての所得税減税については全然お触れにならない。  そういう消極的な——中曽根総理のことですから、頭がいいんだから何もかもわかり切っておって、意識的に答弁でもはぐらかすわけですね。今のこの円高問題の経済界の事態に対する取り組みというものは、一内閣だけの責任を追及しても済まない、国会も一丸になってこの事態を回避せにゃいかぬということで我々真剣に言っておるわけですから、そういう姿勢でひとつ御答弁を願いたいわけです。前倒しはいいが、そうしたら後をどうするんだ、どの程度のものをいつごろおやりになるのか、所得減税についてはどうなのか、あるいは中小零細企業の金融、融資の枠の拡大とか金利の引き下げとか、そういうものについてもこれまたいつおやりになるのか、具体的なものですね。  なお、私の立場から申しますと、参議院選挙は確定ではないにしても六月二十二日と言われておりますが、この参議院選挙の前におやりになるのか、あるいは参議院選挙の後、情勢を見てゆっくり、それこそ補正予算でも組む時期におやりになるのか、このあたり私は明確にしてもらいたいと思うのです。  総理は、今日の事態を非常事態だとおっしゃっておる。非常事態ということは、その施策においては緊急に対策を講じなければならぬ。そうでしょう。それであれば、のんびりしたことは時間的にも言えない。そういうことになれば政府としては、その時期を、いつごろ、どの程度の規模で、何をおやりになるのか、いま少し重点の置きどころを明確にして御答弁を願いたい。
  139. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 中小企業等に対する対策で、さらに追い打ちをかけてやるべき重要な問題につきましては、今各省庁で検討しておりまして、成案ができ次第できるだけ速やかに、緊急対策でありますから、また私は非常時局的な経済情勢である、そう言っておるわけでありますから、でき次第至急の時期においてどしどし実行していきたい、そう思っております。  それから、公共事業の前倒しの結果、秋にもし公共事業費が不足する、そういうような場合には秋において補正予算も必要に応じて考慮する、そういうことも言っておるので、今前倒しを実行している最中なのでありまして、前倒しをやるには、府県会でみんな議会を開いて予算をいろいろつくっていかなければならぬ。そういうような意味において、今実行しているその次に来る問題は、それが足りなくなったときの用意を今からそれは辞せず、そういう形で言っておるわけであります。ともかく一生懸命やりますから、御協力願います。
  140. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 今の最後の答弁を聞いておりますと、円は上がるが登は下がるというようなそういう感覚で、中曽根総理自身にお任せできるんであればこんな質問はしませんよ。まあそのことはいいです。  私は、その点では所得減税の問題についても御答弁がない。また、公共事業の問題についても、いわゆる後半についてどの程度の規模のものをやるというぐらいなものが明示できなければ、今日の円高問題についても有効な効果が出てこない。政府については、その点は極めて無責任といいますか、極めて消極的であることについて、残念だということを率直に申し上げておきます。  ただ、重ねてお尋ねをいたしておきますが、そういうことであれば、そういう円高に有効に作用するような具体的な経済政策なり財政手段なりあるいは金融手段は、参議院選挙が終わった後、いわば情勢を見てゆっくりおやりになる、こういうふうに判断してよろしいですね。これが一つ。  それともう時間がありませんので、あと二分半ぐらいですから、この円高問題だけにと思っていたのですが、先ほど私が仕入れたところによりますと、外務大臣の訪ソが決定したということを聞きました。時間がありませんので、そのものずばりで二つだけお尋ねしますが、外務大臣の訪ソの目的は何であるのか、訪ソすることによってソ連外交がどう変わっていくのだろうか、こういうところについて、極めて時間的な制約がありますので簡単で結構ですから、外相から御答弁をいただきたいと思います。
  141. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 先ほど総理とお目にかかりまして、日ソ関係で私の訪ソ問題についていろいろと調整をしておりました、その結果を御報告いたしまして、私が訪ソするということについて御了承をいただいた次第でございます。  私の訪ソにつきましては、これはシェワルナゼ・ソ連外相が一月に日本を訪問されたときに、いわゆる定期外相会談が八年ぶりに再開されるということで、有益な意見の交換が行われたと私は思っております。その結果としまして第二回の、再開された定期外相会談第二回をモスクワで開こうということが決まりまして、そして私の訪ソということも同時に共同声明で合意ということで明らかにしたわけでございます。したがって私は、そうした約束を踏まえて時期を見て訪問しなければならないというふうに考えておりまして、今、日ソ間でいろいろと懸案問題等もありますから折衝を続けておったわけでございますが、最終的に五月の末に行くべきだろう、同時にまた、ソ連もその時期を希望するというふうな日ソ間のほぼ合意もできたわけでございまして、今回訪ソを決定いたしました。  これは、あくまでもやはり定期外相会談で、外相会談というのは懸案を一つずつ解決するということに意味があるわけじゃなくて、やはり定期的な外相会談というものをずっと継続していくということに非常に大きな重みがあると私は思っております。その道を再開されて、その道を確実に開いておきたいというのが最も大きな目的でございます。  なお、国際情勢あるいはまた二国間のいろいろな懸案問題等についても、引き続いて率直に話し合う考えでございます。
  142. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 中小企業等に対する緊急対策は、もう用意でき次第どしどしやっていきます。参議院選後というような、そんな悠長なことは考えていない。しかし、いろいろな問題でその後までかかるものもあるかもしれませんが、ともかく準備が整ったものはどしどし、どんどんやっていきたい、そういうことで各省庁に今準備をさしておるところでございます。  外相会議は、これを継続していくというところに意味があるのでありまして、外務大臣には御苦労ですが行っていただく。特に、チェルノブイル原子力発電の事故もあったことであり、この間サミットでそれに関する決議もしたことでございますから、そういうような問題も先方に伝達していただく、そういうこともまた仕事としてはあると思っております。
  143. 藤田高敏

    ○藤田(高)委員 答弁極めて不満足でございますが、時間の制約がございますので質問を終わります。
  144. 北川石松

    北川委員長 次に、小林進君。
  145. 小林進

    ○小林(進)委員 総理にお伺いいたしますが、どうも中曽根内閣は権力志向内閣だという風評が一般なのは総理の耳にも入っていると思うのでありますが、そうして一方には、どうも国民主権者というものをないがしろにし、軽視をしておられる。主権者国民を軽視すること、この内閣に過ぐるものなしというのが専らの評判なんでございますが、その具体的な例といたしまして、総理は五十八年の十二月に総選挙をおやりになった。その総選挙の結果は、与党自民党に二百五十名の議席を与えた。それが主権者の重大な一つの審判でありました。同時に、その審判には四年間の期間が切られている、衆議院の期間は四年ですから。この四年の期間の中に、尊重し、二百五十名あなたに与えた。この数で内閣、立法府を構成しながら国民の期待にこたえてくれというのが、主権者たる国民の崇高な審判です。  ところが、最近動きを見ていると、どうも自民党の数が足りなくて政治がうまくいかないからこれを解散をしようとか、あるいはまだ何とかいま少し、過半数をとって政治の安定をしたいという、これが大義名分だ、こういうようなことで、あるいは早期解散論とか同時解散論が首相の周辺から流れてくる。これは一体、主権者たる国民の審判を尊重した政府の態度なのかどうかということを、非常に私どもは疑わざるを得ないわけであります。  総理の先輩でもある保利茂議長が遺言にも等しい言葉で、これはやはり任期中に解散をするには大義名分がなければならぬ、その大義名分は、与野党が激突をして国会が空白になってにっちもさっちも動かない、あるいはその他、政府の手や国会の手で処置し得ないような突発の動乱みたいなものが起きて、主権者の審判を仰がなければならぬということ以外に、そうそう解散・総選挙などというものはうかがうべきものでないという立派な主張をされております。総理、一体この問題に対して、保利論文に対してどうお考えになっておりますか。簡単でよろしゅうございます。
  146. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 保利さんは、憲法七条による解散権は認めているのです。ただ、これをやるについては、できるだけ慎重にやるべきであるという御趣旨の御所信を残していったと記憶しております。私は、保利さんの見解はやはり一つの先輩が残された御見解であると思って、慎重に対処していくべきであると考えております。
  147. 小林進

    ○小林(進)委員 おっしゃるとおり、自民党という自分のパーティーが数が足りなくてやりづらいから解散をするなんというのは、まことにエゴですよ。エゴの主張だ。国民をないがしろにして公然その理論がまかり通るなんというのは、私は議会政治の棄権だと思っておる。けれども、時間がないから急ぎます。  第二番目に、同時選挙だ。これは、あなたは私の先輩で、あなたはもう十五回当選をされているが、戦後衆議院選挙というのは十六回しかやってない。その十六回の中のたった一回、十五回目があの大平内閣だ。大平さんは自分の手で解散をした。解散をして七カ月もたたないうちに、内閣の不信任案を食った。あなたは、そのときの重大なる立て役者である。そのときに自民党の内紛が起きて、福田派、中曽根派がどうも不信任案が出ている本会議場に大平さんの支持に入ってこないんだ。不信任案が成立するという間際になったときに、それでもあなただけが福田さんと手を分かって早々として本会議場に飛び込んでこられて、最後になって大平支持に回られた、あのあなたの姿はまだ私の目に映っているのですよ。  そういうようなことで不信任案が成立した。大平に与えられたのは、みずから辞職をするか解散をぶつか、その後者を選んで、たった七カ月の間にまた解散をぶった。ぶったそのときに、たまたま参議院選挙が目の前にあったんだ。解散と参議院選挙が同時になったから、異常中の異常な状態で衆参同時選挙というものが行われた。あれは全く奇跡に近い異常状態だ。それを今度は逆手に打って、衆参同時選挙がいつでもやれるような理論構成が中曽根周辺から出ているということは憲法政治の否定だ、二院政治の否定だ。恐るべき政治の逆行を今歩みつつあるではないかという危険を、私は感ぜざるを得ないわけであります。  私は、憲法違反かどうか知らぬけれども、しかし、憲法の立法精神に反していることは事実です。両院というものがそれぞれ独立をして、それぞれ別個の選挙制度を持ち、選挙体制を持っているものを、一つにした方が安上がりだとか一つにしてやれば自民党という政党の数がふえて得をするとかいう、そういう損得勘定でこの異常中の異常の大平内閣の同時選挙のやり方を常道のごとくとられるということは、私は、大変恐るべき民主政治の逆行だと思っている。この点、いかがでございましょう。
  148. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 大平内閣のときに野党が不信任案を出しまして、あのとき私がとった行動は、福田さんや三木さんを説得しておりまして、議員会館で、野党がこうやって突っかかってくるときは、与党はいかなる理由があるにせよ総裁を中心にして団結して、結束して野党と闘うべきである、それが政党政治の本義である、だから一緒に行きましょう、そう言って本会議場へ来るように説得して、そしてとうとう時間が直前まで来たものですからやむを得ず、では私は独自の行動をとりますよ、私は与党として野党に対しては闘うんだ、与党を守るんだ、そう言って同志と一緒に入ってきたというのが真相であります。  また、解散の問題については、七条解散について今までいろいろ判例もあり先例もあります。解散権というものは、憲法が認めている内閣総理大臣に対する最大重要の機能でありまして、これは侵すべきでない。それは憲法上これを制約するというような条文がない限り、これが侵すべきでない。ただし、これが使用についてはあくまで慎重に行うべきである、そう考えております。
  149. 小林進

    ○小林(進)委員 あなたが投票の締め切り前にあたふたとして入ってこられた理由は、私の誤解です。今のお話でよくわかりました。  ところで、五十七年十一月、あなたが総理になられたときに、なられて間もなく私はあなたを訪問いたしました。もうお忘れになったかもしれませんが、私は総理大臣官邸の総理大臣室へあなたをお伺いいたしました。そして、あなたと二人でお話ししたときに、私は一つのことを進言した。あなたはお忘れになったかもしれませんが、そのとき私が言ったことは決まっているのです。総理になって二年間過ぎますとこの部屋にいる主人公はばかになります、だれもあなたのところに苦言や提言や嫌なこと、きのうまでは友人、同僚であった者も、もう次の日から総理のところに来るときには同僚意識を失って番頭や忠僕のようにしてあらわれてくる、そこで二年間いるとしゃばの風が当たらない、悪いことは聞かない、ばかになりますよ、そのことは池田勇人、佐藤栄作、田中角榮、三木武夫、それから福田、大平、鈴木と七代の総理大臣全部に私は申し上げて、お伺いいたしました。その七人の中には、二年たってもばかにならぬのもいたけれども、大体変わってしまう。  それで、四年の歳月を経て私は今あなたの態度を見ていると、あなたもなかなか古い政党人だが、何しろあなたの周辺にいる者がみんな茶坊主になってしまって、いつの間にやら中曽根さんも盲目になったなという感を最近私は深うしている。それが今でもまだ同時選挙やら、やれ何だか奇跡や手練手管であなたを活用し、利用し、あなたの御機嫌をとろうとする茶坊主が雲集している、これを私は申し上げたい。四年の歳月を綴られたあなたが、あの七年たった佐藤さんがぐっと変わって周辺が寂しくなった、まだあれほどの権力者になっていられるとは私は決して思わないが、大変危険だと思いますので、その点を残された四カ月、あなたに慎重を期していただきたいというのが一つなんです。  いま一つ、この十三日と十四日の二日間、私はあなたの郷里の群馬県に入った。群馬県へ行きましたら、だれもが私に中曽根、福田総裁論、これだけ聞かしてくれ、聞かしてくれと、私は行くところ、中曽根、福田総裁比較論を数回やらされた。そこで、私は率直に言います。お互いに総理になられる前の話は別といたしまして、総理になったその後の実績を私に批判せしめれば、中曽根さんの方が総理としての実績も数段上だと私は思う。理由は何だと聞くから、いや福田さんも三十五年国会議員をやってきた、中曽根さんは四十年だが、この四十年は少数派にあって大変苦労された、実に危ない橋も渡りながら苦労された、その苦労が総理になられた中曽根と福田の違いではないかと私は考える、そんな話を私はしてきたのです。  ただ、群馬県の諸君には、中曽根総理は一番危険な状態に今置かれている、あなたは佐藤、吉田、池田に続いてまさに戦後四番目の長期の、しかも、野党から見れば大したことはありませんけれども、国民から見れば大変成績を上げられて、このままいってあなたの晩年を長くいわゆる余韻を残していくか、ここで今までの実績をがらがらにしてしまって、盲目になってこれを一切無にするかという重大な危機に、中曽根総理は今立っていられるということを私は話をしてきました。  あなたのこれからの仕事は、あなたが今やれるだけして、まだやれない仕事を後継者に委託して、あなたの気持ちがそのまま生きるような立派な後継者を育て上げ、選択して、これを養成することが、中曽根総理の生命を永遠に続けることではないかと私は考えておりますが、この点はいかがですか。
  150. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 友情あふれるお言葉をいただきまして、恭しく承っておきます。
  151. 小林進

    ○小林(進)委員 恭しく聞いていただきまして、どうもありがとうございました。  限られた時間なので、私は外交問題で、それにこの日ソ問題をやろうと思ったんだが、その問題に関連して私は中曽根さんにお伺いしたいのです。  今の対ソ交渉は、今までの政府、歴代政府のやり方は全部間違っているということです。第一に、さっきも言うように主権者である国民を盲目にしている。そこで、私は時間がないから申し上げますが、サンフランシスコの条約、そこで吉田さんも北方千島列島を放棄してきたのでございましょう。吉田さんは放棄した。その後の国会の中で吉田さんは速記録つけて明確に言っているし、当時、頭脳明晰なる西村条約局長国会の予算あるいは外務の委員会で、繰り返し、残念ながら千島列島は放棄をいたしてまいりましたと明確にしている。それが、政府がいつの間に変わったか、三十年代に入ると、千島列島は日本の固有の領土で、サンフランシスコ条約では日本は放棄していない、こういうひっくり返しの議論を国会の中でやり返してきた。しかし、国民は盲目ではありません。  時間もないから言いますが、これに対する吉田答弁、それに関連をいたしまして、これは外務省の役人は何回も言うんだ。吉田さんはサンフランシスコ条約を開く前に、三十数通のいわゆる親書をアメリカの国務相ダレスに送っていられるのです。そして、講和条約に対する日本の希望を全部出していられる。その中の二十数通は千島列島に関する問題です。日本の固有の領土だ、この領土だけはどうかひとつ日本にとどめておいてくれという二十数通の文書を出していられる。それを一体、総理、あなたはごらんになりましたか。外務省に私のところに持ってこいと言うと、外務官僚は抵抗して持ってこない。あなたはこの吉田書簡をごらんになったかどうか、ひとつお聞かせ願いたい。
  152. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 私は見たことはありません。しかし、吉田さんはダレスに対して、歯舞、色丹、国後、択捉四島は今まで外国の領土になったことはない、我が国固有の領土である、そういう注意喚起、主張を強くやってきていることは私も知っております。そして、サンフランシスコ平和条約に際しましては、そのためにやはりあの文書の中に注意喚起のところを入れておるわけであります。そしてその後において、我々はヤルタ協定に加入している国でも何でもない、何らヤルタ協定に拘束される国ではないわけであります。したがいまして、その後明確にアメリカ中国もイギリスも、サンフランシスコ条約に加入している国は日本の四島要求を支持しておるわけであります。そういうふうにサンフランシスコ平和条約を解釈しておるわけであります。被害を受けた日本がそれを要求しているということは当然の権利である、日露通好条約あるいは樺太千島交換条約等の条約的根拠も明確にあるということを申し上げるのであります。
  153. 小林進

    ○小林(進)委員 あなたは学のあるところを仰せになりましたけれども、あなたの結論へ行く前に、サンフランシスコ条約でその中で吉田さんは、三十数通で前回まではやりながら条約へ入っていったとき、アメリカの代表にこの千島列島をひとつ協力してくれと言ったときに、この速記録ありますよ、ダレス以下のアメリカは歯舞、色丹の二島だけは北海道固有の領土であるからといって日本の主張は認めたが、国後、択捉に対しては一言も日本を支援いたしておりません、無言です。無言で、国後、択捉以下千島を放棄することを間接に日本に圧力を加えているじゃありませんか。それだから吉田さんは残念がって日本国会へ来て、あなたが言われたように、さすがにサンフランシスコ条約では放棄してきたけれども、これはあきらめない、今後もこれを馳駆して日本はその返還のために闘うんだと、血を吐くような思いを日本国会の中で論じていられたことは明らかだ。  であるならば、アメリカはなぜ一体その講和条約に、国後、択捉以下千島の問題に対して日本を支援しなかったのか。支援しなかった理由は、今あなたがおっしゃったとおりで、ヤルタ協定です。ヤルタ協定はやみ協定で、日本関係していないからこの中では無効だと言うけれども、今、安倍さんが飛んでいってソ連に行ったらソ連が言うのは、国際条約国際協定で千島列島の問題は解決しているんだから、もはやその問題はノーコメントだといって相手にしない。そのソ連の言う国際協定の中できちっとソ連に帰属をしたという、その国際条約というのはヤルタ協定なんだ。そのヤルタ協定は、今あなたがおっしゃるように日本国はそんなものは認めないと言ったところで、敗戦国の日本が戦勝国がつくり上げた条約、協定は、まだそのときは交戦中だったからだめだと言ったところで、アメリカとイギリスとソ連の三人の首脳部が集まってちゃんとした効力のある国際条約、その中でアメリカのルーズベルトが、おまえ日本に参戦してくれ、対独戦争が済んで三カ月たったら日本に参戦してくれ、その代償として南樺太と千島列島はソ連おまえにやる、こう明確にルーズベルトが言っているじゃありませんか。  この問題をこのままにして安倍君がソ連に出かけていったところで、迫力はありませんし、私が申し上げたことなんか日本の国民は全部知っているのですよ。全部知っているのです、自分たちの国を放棄して、アメリカのために放棄させられていて、そして今さら国民をだまして日本の固有の領土だといってソ連へ交渉したところで、そんなものが力が入るか、ソ連に相手にされないよということを国民は知っているから、中曽根さん、もう時間が来ましたからやめますけれども、対ソ連交渉、領土の返還はあなたならばやり得る一番大きな仕事だから、これを成功させるためにも対ソ交渉の理論構成をきちっと改めて、そして国民にも真実を知らせて、世論を背景にしてこの闘いを組むようにしていただきたいとお願いをいたしまして、私の質問を終わります。  御答弁がありましたら、ぜひお聞かせいただければ結構でございますけれども、終わります。
  154. 北川石松

    北川委員長 次に、玉城栄一君。
  155. 玉城栄一

    ○玉城委員 総理には、連日極めてハードな問題の連続で大変御苦労さまでございますが、私はいい機会でございますので、ちょっとソフトな問題をお伺いしておきたいわけであります。  先日、英国のチャールズ皇太子が来日されまして、国会でも演説された。その中に、日本は英国についてはよく知っているけれども、英国側は日本のことについてよく理解してないという趣旨のごあいさつがあったわけでありますが、総理もお聞きになったとおりであります。これは、英国だけでなくして世界の国々が、我が国に対して、日本というのをよく知らない、わからない、いわゆる不可解な国であるというようないろんな指摘がこれまであるわけですね。ですから私は、こういう問題は、貿易摩擦の問題とか今世界から我が国に対していろんな批判がなされているわけでありますが、やはり日本という国を、民族性といいますかあるいは国民性といいますか、正しく世界の方々に知ってもらう努力というものは非常に必要ではないかと思うわけです。  それで、この委員会でも何回も外務省の方に伺って、いわゆる文化交流関係の予算は一体どうなっているかということを伺っても、極めて貧弱なんですね。こういう状態で、本当に正しく日本という姿を理解せしめることは非常に難しいと思うわけでございます。総理はそういう点、いかが御見識としてお持ちでしょうか。
  156. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 玉城さんの御発言に私は全く同感でございまして、今までの日本ならいざ知らず、今日のようなこれだけ世界的な影響力を持ってきている日本でございますから、日本をよく知っていただくということが大事で、今まで以上の数倍の努力をしなければならぬ、そういうときに来ていると思うのです。そういう点から見ますと、留学生の問題にいたしましても、国際交流の事業団あるいは基金、そういうものの予算等もまだまだ不足である、そして、受信ばかり多くて発信が少な過ぎる、もう少し発信機をうんと整えて、発信の情報をどんどんふやす必要がある、そのように考えております。
  157. 玉城栄一

    ○玉城委員 やはりこれから非常にそういう努力が我が国としては必要だ、こう思います、それには当然予算の手当ても。安倍外相も、これから我が国としていわゆる経済交流も大事だけれども、我が国の正しい伝統、すばらしい文化を通して、人と人との触れ合い、世界の方々との触れ合いを通して日本の姿をよく理解せしめるという努力、これはまさに日本の地方文化も含めて、そういう努力が非常に重要な要素であるということもおっしゃっておられるわけです。総理もそういうことだと思うのです。  それで、実は昨年の暮れに、これは通産省の外郭団体なんですが、アジア・ラウンドといいますか、理事長は堺屋太一さんなんですが、沖縄でシンポジウムをやりました。そのいろいろな提言がございますが、その提言の一つに、文化交流を促進するという立場から世界の伝統的な文化あるいは民族的な文化、世界的なものをそこで集中して、いわゆる文化オリンピックを企画、開催してみたらどうだろうか、沖縄の地で。これは平和の問題、やはり人と人との交流の問題、文化を通して、人の触れ合いを通して、お互いに正しく理解を深めていくということは私は非常に同感なのですが、総理、文化オリンピックということについてどうなのでしょうか。
  158. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 アイデアは非常にすばらしいと思いますが、具体的にどういうふうにやるかとな谷と、これはなかなか難しい問題もあると思います。しかし、いずれ二十一世紀のうちには、文化オリンピックというような方向は出てくるのじゃないかとも思いますですね。
  159. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、さっき申し上げた提言のもう一つなのですが、二十一世紀に向かう日本国際化の流れという中で、日本列島の中の最南端、地理的条件として東南アジアとか太平洋諸地域とか中国とか、そういう地理的条件を生かす、あるいは県民性といいますか、そういうことから考えて、やはりいわゆる国際化の先端地域として沖縄を位置づけて、そしてそれにふさわしい施策を日本としても本格的にやっていくことが、我が国は平和国家として非常に重要ではないかという提言、これは後ほどまた差し上げますので、お時間のあるときお読みいただきたいと思うのです。どうでしょうか、日本列島の最南端という地理的条件を生かす、いわゆる国際化の先端地域として位置づけて、二十一世紀に向かうそれに対する施策を集中的に行っていくという考え方は、私は全く同感なのですが、総理はいかがでしょうか。
  160. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 沖縄は、我が国の列島の南に位置して、亜熱帯地域でもありまして、そういう意味においては東南アジアあるいは中国との関係が一番密接になり、やれる場所である。そういう意味において、ASEAN等の研修センターができましたね。あれもASEAN各国から皆さんいらして、かなり有効に今訓練やら勉強が行われているようであります。ああいうものを、今度はASEAN諸国との連携の一つのセンターにさらに成長させていく、そういうようなことを機縁に、沖縄というものを国際的な一つの中心地帯に大きく発展していくように、我々も考えるべきであると思います。
  161. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、こういう問題に関連してもう一点、いい機会でありますのでお伺いしておきたいのです。  きょうは五月十六日、きのうは五月十五日ですね。これは総理も御存じだと思うのですが、四十七年の五月十五日に沖縄が米国の施政権下から返還された日、ちょうどきのうで満十四年になるわけですね。これは沖縄にとっても一つの曲がり角、我が国にとっても、総理のいろいろな御発言も伺っていまして、我が国自体が一つの大きな曲がり角に来ているのではないか、こう思うわけです。  それはさておきまして、沖縄も返還されて十四年、第一次沖縄振興開発計画、第二次沖縄振興開発計画、この後期に入っていくわけですね。ですから、そういう意味では二十一世紀に向かう、総理がさっきおっしゃいましたそういう中心的なセンターとしてということから考えますと、やはりそれにふさわしい沖縄の振興のあり方についても、基本的に考えていく必要があると思うわけですね。ですから、この一次振計、二次振計についても、この延長線の考え方ではなくて、やはり国際化あるいはそういう先端地域、そういう発想から第三次振計ということについてもそろそろ考えてみる必要があるのではないか、こう思うわけでありますが、総理、ぜひお聞かせいただきたいのです。
  162. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 そのお考えに私も賛成です。第三次の計画をつくるときには、そういう内容をうんと盛ったものをぜひつくればいいと思います。
  163. 玉城栄一

    ○玉城委員 今度は質問を変えますけれども、この間の東京サミットでSDIについては議題になったのでしょうか、あるいはならなかったのでしょうか、あるいは話題になったのでしょうか、あるいは首脳間でどういうふうな話し合いをSDIについてなされたのか、お伺いします。
  164. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 SDIにつきましては発言もないし、議題にもなりませんでした。
  165. 玉城栄一

    ○玉城委員 といいますと、総理、去年のボン・サミット、このときは総理も御出席になられたわけですが、SDIオンパレードのような感じで、各国首脳非常に関心を持った議論がされた、このように伺っているわけですが、あのときから一年経過した東京サミットで、このSDIについては話題にもならないし、もちろん議題にもならない、これはどういうふうに理解すればよろしいのでしょうか。
  166. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 下の事務レベルは私知りませんけれども、少なくとも首脳レベルにおきましては議題にもならないし、話題にもなりませんでした。恐らくドイツ、イギリスあるいはフランス、イタリー、おのおの態度が決まって、そしてアメリカとの間である段階にもう既に至っている、そういう状況変化もあるのではないかと思います。
  167. 玉城栄一

    ○玉城委員 今総理の御答弁から伺いますと、もう既にSDIという問題はそういうサミットで議論する、話題にする、議題にする段階は過ぎて、もう既成事実、そして成熟した問題であるというふうに我々は理解すべきなのかどうか、その辺いかがでしょうか。
  168. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 成熟したというのはちょっと言い過ぎじゃないかと思いますが、ほかの国の事情は私はよく知りません。在外公館等から電報や報告を受けて、それを読んでおるという程度でございますが、今回のサミットにおきましてはともかくその問題には触れなかった、むしろゴルバチョフ・レーガン会談、東西問題、そういうような問題が強く出されておりました。
  169. 玉城栄一

    ○玉城委員 そうしますと、私、総理にぜひお伺いしておきたいのは、今日本がSDIについての研究に参加するかどうか、これはある意味では注目されておるわけですね。ですから、それはそういう前提であるというふうに各国首脳は見ているのかどうか、その辺いかがでしょうか。
  170. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 ほかの国の首脳は何を考えていたか、私知りません。しかし、日本は御存じのように調査団を三度派遣いたしまして、その調査報告を今検討もし、これは関係各省ともいろいろ関係する部分がございますから、関係各省においてもいろいろ協議もし、また関係閣僚におきましてもこれに対処する方策について協議している、そういう状況でございます。
  171. 玉城栄一

    ○玉城委員 そうしますと、総理御自身の腹の中には、参加をするということを決めていらっしゃるのではないかというふうに何か例えるわけでありますが、いわゆるSDIへの参加の態度表明のタイミングを総理はねらっているのじゃないかという感じがするのですが、いかがでしょうか。
  172. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 今、目下検討している最中であるということでございます。
  173. 玉城栄一

    ○玉城委員 それは、先ほども御質疑がありましたけれども、来月は参議院選挙がございますですね。これは厳粛な国民の審判を問う大事な時期であるわけですから、SDIに我が国が参加するかどうかという問題については、これは非常に重要な問題であるだけに、国民の審判を問うという以前にきちっとこのことは態度を表明されないと、それが終わってから研究、検討の結果我が国も研究に参加をするんだ、こういうことになりますと、この参議院選挙という大事な国民の審判を問う、こういうことをないがしろにした形でこういう重要問題が処理されていくということについては、これは納得がいかないわけですが、どうでしょうか。
  174. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 SDIにつきましては非常に慎重な態度を持しておりまして、この検討についていつまでにやるとかという、そういう終期を設けてはやっておりません。
  175. 玉城栄一

    ○玉城委員 そうしますと、参議院選挙が終わりました後にそういうことは、いわゆる参加するという態度表明はしないというふうに理解してよろしいわけでしょうか。
  176. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 するもしないも、まだ白紙の状態で、検討しておるという状態でございます。
  177. 玉城栄一

    ○玉城委員 総理も御存じだと思いますけれども、これは報道されております。アメリカのノーベル賞受賞科学者であるとか物理学者であるとか六千五百名の方々がSDIについての研究を拒否する、この一つの理由はSDIのミサイル防衛網がソ連の攻撃から米国を守ることは技術的に不可能である、それから二番目に米ソの核兵器開発競争をエスカレートする、三番目により一層核軍縮交渉を困難にせしめる、四番目に核による人類の破滅の引き金になるおそれがあるという理由で、これだけの六千五百名という科学者とかそういう方々がSDI研究については拒否するということを言っておるわけであります。同時にまた、欧米の方でも百名、きのうの報道にもあったわけでありますが、同様の趣旨で、SDIについては各国首脳にこういうことに参加すべきではないという反対の運動を展開するんだという報道もあるわけですが、総理はいかがでしょうか。
  178. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 そういう問題もすべて含めて検討しておるということであります。
  179. 玉城栄一

    ○玉城委員 私は、今申し上げた四つの理由、そのとおりだと思うわけでありますので、我が国としてはこういうものには絶対に参加すべきではない、こういうふうに思うわけであります。  それでまた質問を変えますが、もう一つ、先ほど安倍外相は、今月の末に訪ソされるということをここで表明されたわけであります、総理も、かねがね訪ソしたいという御意思を表明しておられるわけですが、総理の訪ソはどういうふうになるのでしょうか。
  180. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 この前シェワルナゼ氏が来たときの両方の声明の中に、首脳の相互訪問ということも約束しておるわけでございます。しかし、日本の総理大臣はたしか四回行っておるが、向こうはまだ来てない、そういうことから見ると今度は向こうがおいでになる番である、我々はそういうこともシェワルナゼ氏に申し上げたところであります。したがいまして、もし私が行くということになれば、領土問題等について国民が非常に喜ぶ、そういうような条件が出てきた場合には考えられるということも国会で表明したところでありまして、私の訪ソについては、そういういろいろな条件が整うか整わないかという点を注目しておるところで、安倍外務大臣が向こうへ行って向こうと話をしてどういう結論が出てくるか、その辺もよく承りたいと思っておるところであります。
  181. 玉城栄一

    ○玉城委員 総理の訪ソという問題は、条件次第だということのようであります。外務大臣が今月末に行かれて、いろいろお話をお聞きになってからということになろうかと思うわけでありますが、総理大臣として訪ソされるわけでありますから、総理の自民党における総裁としての任期はたしか十月の三十一日までだと伺っておるわけでありますが、総理は条件が許せば年内に訪ソされるということなのか、あるいは年が明けてでも訪ソされて、日ソ関係の改善、領土問題を含めて首脳といろいろ話し合いたいということなのか、あるいは年内に向こうのゴルバチョフ書記長を招聘するというようなことなのか、その辺はいかがですか。
  182. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 私の方からは、もう招聘済みであります。私が行くかどうかということは、条件が熟するかどうかということであると思っております。
  183. 玉城栄一

    ○玉城委員 条件が熟するということは、年内の訪ソもあるいは年明けての訪ソも、来年も含めてですが、条件次第だ、そういうことのように理解しておいてよろしいわけですか。
  184. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 条件次第です。
  185. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは時間も参りましたので……。  非常に関心の高い問題は、先ほどの総理のお答えを伺っておりますと、国会は二十二日で会期が終わるわけでありますが、同時選挙というものはほとんどない、物理的に不可能である、したがって早期に臨時国会を開催して、あるいは衆議院を解散するのではないかということであるわけです。総理の先ほどのお話を伺っておりますと、円高問題について早急に速やかに大胆にやる、それは早い方がいいということを盛んに、いやに力んでおっしゃっておられるわけです。円高問題は非常に大事だと思うのですが、それは早期に臨時国会を開いてそういうことをやろうというお考えなのか、その辺はいかがでしょうか。
  186. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 臨時国会のことは、今、国会中で考えておりません。しかし、円高に伴う中小企業等に対する手当て、対策は非常に緊急を要すると野党の皆さんからも催促されておるし、与党の皆さんからも催促されておって、緊急にやるべきことはやっていかなければいけないと思っております。
  187. 玉城栄一

    ○玉城委員 以上です。
  188. 北川石松

    北川委員長 次に、永末英一君。
  189. 永末英一

    ○永末委員 本年の東京サミットは昨年十一月の米ソ首脳会談後の初めてのサミットでございまして、昨年十一月のジュネーブにおきます米ソ首脳会談は、人類が一番心配しております核兵器に対して、果たして廃絶の方向へ進むか、それともそれを管理しつつその方向が定まるか、重要な会議でございました。我々核の被害を受け、非核三原則を政策として保持している国にとりましては、まことに重大なものでありました。その後、ソ連からの対応やあるいはまたアメリカからの対応等がそれぞれございました。したがって、東京サミットにおいては、この問題に対して大きな前進が見られるのではないかと私どもは期待しておりましたが、発表せられましたものだけについて見ますと、東京宣言では「より良き未来を期して」というバラ色の文章でございまして、サミットに参加した国々は米国の交渉努力を評価して、ソ連に積極的に交渉に応ぜよというようなことであって、何だかよくわからない。  我々は、核を持たない国という立場でございまして、サミットに来ました他のアメリカの同盟国とは違った立場でございまして、であるならば我々の核廃絶に対する外交努力もまた違った方法、手段というものを脳裏に置きつつ、強調すべきは強調し、独自でやるべきことは独自ででもやっていくべきであろう、私はこう考えております。この基本的な考え方について、そしてまた平和の問題、すなわち核問題がなぜ一体こういうバラ色のよくわからない表現になったのか、この辺についてひとつ簡単に総理大臣の御見解を承っておきたい。
  190. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 東京サミットにおきまして、米ソ首脳会談の再開を一番強く主張したのは私であります。そして、できるだけ早期に確実に三つの分野、今時に可能性がありそうなのはINFの分野でもありますが、ともかく前進するようにレーガンさんも努力してもらいたいし、我々も妥当な妥結が行われるようにレーガンさんを激励したい、そういうことも強く言うたのでございます。そういうような各国首脳の意向も反映されて、ああいう声明になりました。  サミットにおける政治宣言というのは、大体サミットはエコノミックサミットと言われている経済を中心にするサミットでありますので、余り政治的な色彩を強く出すことは、割合にお互いが自粛し合っておる面もあるのです。フランスなんかもそういう点、非常に気にする性格を持っていると思います。しかし、去年はドイツで、戦争が終わって四十年、自由と民主主義のもとに結束していく、自由と民主主義の価値を我々は大いに尊重して広げていく、そういう意味の声明を出しました。ことしはアジア・太平洋で行われるサミットでありますから、アジアの文化、考え方あるいはアメリカあるいはヨーロッパ、この三極の結合というものを、文明的融合という問題等も強調した。また、発展途上国というものがアジア・太平洋には非常に多いのでございまして、このアジア・太平洋地域の声も代弁いたしまして、発展途上国あるいは債務国の問題についても非常に強く経済宣言その他にも出したところであります。
  191. 永末英一

    ○永末委員 核だけの御返答をいただけば十分でございます。  ことし一月十五日にソ連のゴルバチョフ書記長は、今世紀中に核廃絶を実現するいわゆる三段階方式を提案いたしました。これに対してアメリカ側のレーガン大統領は、一月以上たちました二月二十二日にこれに対する回答を行いました。この両者を比べてみますと、ゴルバチョフ提案の方は、アメリカの進めておりますSDI、宇宙兵器の研究をやめることが条件である。レーガン大統領の回答は、核兵器を廃絶するという基調には賛成のようでございますが、SDIに対しましては、自分らのやっていることは核廃絶につながるのだから同意をせよというのが条件でございました。その中には中距離核に対する問題等も提案をしておりますけれども、並べて考えますと、片方は条件としてSDI、宇宙兵器の開発研究をやめるという、片方は存続するという、その条件の全く違うものがぶつかり合ったのでは、内容でございます核兵器廃絶を今世紀中に実現しようということの話し合いは実らぬ、こういうことになるわけでございまして、これは重要なことである。中曽根総理は、一体この両者の提案に対してどういうお考えをお持ちか、承りたい。
  192. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 アメリカは十一月に、ソ連に対する提案をやっておると思っております。その中に、やはりSS20のようなINFの問題はグローバルベースで解決すべきだ、しかしICBMのようなものは、五〇%削減を目指して努力しよう等々があったと私記憶しております。SDIの問題については、ソ連の立場も非常に明確な面もあるし、また明確でない面もあるように思われます。あれはIBM条約の枠内において進められている……(永末委員「IBMかABMか」と呼ぶ)失礼しました。ABM条約、その中で行われておる。研究という部面においてはそれは認められておる。また、研究というようなものは外からわかるものじゃないじゃないか、そういうような面で、その点ではソ連も理解を示しているやに見られる点もあります。そういう点で微妙なものがありまして、そしてSDIにかかわらずINFは前進させようではないかというような機運もあるようであります。  宇宙関係とICBMとSDI等に関する三つの分野はたしかあったと思いますが、SDIの分野というものは少し微妙な点もあると思います。そういう点において一つでもともかく前進させていく。あるいは核実験の停止にいたしましても、検証についてアメリカ側から新しい検証方法を言って、この科学実験にソ連が来て見てください、そういうプロポーザルもあります。そういうようないろいろな面で具体的に前進されるように、私は期待してやまないのであります。
  193. 永末英一

    ○永末委員 端的に聞きますから端的にお答え願いたいのですが、核廃絶について、あなたとしてはどういう条件で核廃絶を主張すべきだとお考えか、無条件でお考えか、それともソ連、アメリカが出したその条件のいずれかに賛成なのか、この辺をはっきりひとつお答え願いたい。
  194. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 廃絶しようと思っても、お互いが安心できる情勢、条件をつくり出さなければ、できるものではありません。こういう業の兵器というものは、一たび生まれたら業の性格を持っております。したがって、具体的に安心できるという道筋をつくり上げていって、初めてそれは段階的削減からこれを廃絶するというところへいけると思う。これが具体的な政治論として考えられる分野ではないかと思うのであります。
  195. 永末英一

    ○永末委員 安心できる状態、その一つがSDIに対する両国の見解の差異になっていると私は思う。しかし、そのことにかかずらわれば問題は進展しない。例えば、安心できるというのは相互の探知を認め合うかの問題がありますが、探知の問題も、軍縮ということが前提でなければやらないというソ連と、まず探知をやろうではないか、そしてお互いにその検証を通じて軍縮を考えたらいいではないか、アメリカとそこでもまた相違しているわけですな。あなたのその核軍縮に至る安心し得る措置というのは何ですか。
  196. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 これはアメリカ側も言っておりますし、日本側も考えておる検証ですね。検証という問題を具体的に詰めていくということが、まず第一歩として考えられるのではないかと思います。
  197. 永末英一

    ○永末委員 検証に対してあなたとしては、日本としてなし得ることは何だとお考えですか。
  198. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 これはジュネーブにおいて今井大使が軍縮委員会等におきまして、その検証に関するいろいろな発言もやっておるところであります。日本は地震国でもありますから、そういう検知という面についてはかなり科学的な能力も進んでおる、そういう面では貢献できるのではないかと思います。
  199. 永末英一

    ○永末委員 あなたも触れられたように、中距離核につきましては、宇宙兵器や戦略核兵器と切り離して交渉するということをソ連は意思表示をして明らかにしており、アメリカもまたそれに対応しておる。ゴルバチョフ書記長の方は、二月の党大会で欧州地域における中距離核を挙げましたが、アメリカはアジアを含めて考えるべきだという主張をいたしております。  さて、中距離核の問題は、欧州のNATO諸国は、自国にパーシングやあるいはまた巡航弾を設置をして、交渉のバーゲニングパワーをつくって交渉しようとしておる。我々は何もないわけです。我々は非核三原則という政策がある。日本としてアメリカに頼むのではなくて、この中距離弾道弾は我々に対して射程距離に置いておるわけである。中国もそうです。日本は一体この問題を独自に交渉する用意があるかどうか、伺いたい、
  200. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 この間シェワルナゼ氏が来たときに私はその話を持ち出して、ソ連のSS20が日本の脅威にならないように、我々は重大な関心を持っている、そういうことも言って、アメリカに対してもこれはグローバルベースで取り扱ってもらいたい、そういうことも言っておるわけなのであります。
  201. 永末英一

    ○永末委員 おっしゃったという報告ですが、交渉しておるんですか、しゃべっただけなんですか。
  202. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 強く要請したということであります。
  203. 永末英一

    ○永末委員 国際交渉は、それぞれがバーゲニングパワーを持って交渉しておるのが現状である。したがって、NATO諸国みずから核兵器を持たない国は、先ほどのような措置を講じてこの中距離核弾頭に対する交渉を、矢面に立っておるのはアメリカであるけれども、彼らはそういう準備をしておる。我々にはない。そういうことはやっていない。我々のバーゲニングパワーは何であるとお考えですか。
  204. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 非核三原則をバーゲニングパワーに使うというのは、これはとらないところです。それは邪道です。国連憲章にのっとって、そういう侵略的、攻撃的なものはみんな控えなければならぬ、そういうことになっておるのでありまして、国連憲章の線に沿ってそれは解決さるべきである、非核三原則というのは、我が国が独自の見地に基づいて、我々が国民の意思のもとに実行している政策なのであって、外国から強要されるものでもなければ、それが条件でああだこうだということが行われるものでもないと思っておるのであります。
  205. 永末英一

    ○永末委員 私は、非核三原則我が国のバーゲニングパワーだなんて言ってない。我々の常態は、非核三原則をポリシーとして持っておるんだ。しかし、交渉する場合に、国連憲章に書いてあるからと教育勅語みたいなことを言っておったって、国際間の交渉にならぬじゃないですか。したがって、我々に直接被害を及ぼすであろうSS20の射程距離であるというのならば、我々自身が努力して、どうしたらこの脅威から去り得る方法があるかと考えるのが、総理大臣として当然考えなくてはならぬ問題だと思います。そういう意味でバーゲニングパワーがあるか。最近、大型の経済使節団が日ソ経済会議に行ったこともございますが、そういうものがバーゲニングパワーであり得るとあなたはお考えですか。
  206. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 バーゲニングという言葉が余りよくないのですね。何か取引するような、まあよく訳して交渉力とかそういう言葉になるので、余り適当な言葉ではないのであります。  日本としては、我々が持っておる憲法とか日本国民が持っておる平和意思とか我々の政策、そういうものは堂々と世界に向かっても、外国に向かっても言い得るものであると私は考えております。
  207. 永末英一

    ○永末委員 あなたは就任以来四年間、外交的にはいろいろと御努力をなすったが、一つ欠けているところがある。それはソ連との関係について、総理大臣としてのあなた自身の努力が欠けておる。任期はあと四カ月でございますが、最近、有終の美をなしたいとおっしゃったようでございます。先ほどは、北方領土等について、条件が熟すならば安倍外務大臣が訪問した後でなどと言っておられましたが、あなたの任期中にこの核兵器の問題をひっ提げて、日本国民に少しでも安心感を高める努力をするために、あなた自身がソ連との交渉をおやりになる御意思はございませんか。
  208. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 私が今まで国民の皆様に申し上げてきたのは、領土問題について国民が喜ぶような条件が出てくる、そういう話を申し上げておるのであります。
  209. 永末英一

    ○永末委員 核兵器はやらぬですか、それだけお答え願いたい。
  210. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 領土問題をよけて通るわけにはいかぬと思うのです。
  211. 永末英一

    ○永末委員 時間がないようでございますので、領土問題は戦後引き継いできた我々の当然の問題である、これは解決しなければならない。しかし、同時に核兵器の問題も、現実問題として一国の首相としては解決をしていただかなければならぬ問題だ。念頭に置きつつ、対ソ交渉のことをお考え願いたい。  質問を終わります。
  212. 北川石松

    北川委員長 次に、岡崎万寿秀君。
  213. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 SDIの研究参加問題で既に二回の関係閣僚会議が開かれて、ただいま検討中という御答弁でございました。次回は参議院選挙後だと承っていますが、そこで最終判断をなさることがあり得るのか、また、総理の在任中に、ただいまおっしゃったような慎重検討中ということで終わることもあり得るのか、その見通しについてお答えいただきたいと思うのです。
  214. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 検討に終期はないということと、まだ白紙の状態で検討している、そういうことであります。
  215. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 何もお答えない。  一九六九年五月に宇宙の平和利用に関する国会決議があることは御承知のとおりで、総理は、これについてもちろん尊重し守っていくということを何回か国会でも答弁されているわけです。総理の言われる尊重というのは、SDI研究参加が国会決議と矛盾抵触する場合は国会決議を優先する、そう理解してよろしいですか。
  216. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 国会決議を尊重するということは、国会決議を大事に思うということなのであります。
  217. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 お聞きしたのは、矛盾した場合、国会決議を優先させるかどうかという点でございます。いかがでしょうか。
  218. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 国会決議には従うとも申し上げております。
  219. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 国会決議に従うということになれば、矛盾した場合は国会決議に拘束される、そういうふうに理解してよろしゅうございますね。
  220. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 文字どおり、従うということです。
  221. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 従うのですから、これは当然拘束される。それじゃ、従うとおっしゃる、尊重する立場ですね。  この国会決議の中に「平和の目的に限り、」という記述があります。それは、しばしば国会の有権的解釈でも非軍事だというふうになっていますし、総理へもそういう質問が幾つかあったようです。これを含めて、こういう国会の有権的解釈を含めて尊重する、従うというように理解してよろしゅうございますか。
  222. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 その辺の解釈の点は非常に専門的、技術的な問題になりますので、今たしか政府部内においても、そういうことも含めていろいろ研究しているのではないかと思います。
  223. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 総理の判断はここで言われないのでしょうか、総理の判断をお聞きしたいと思います。
  224. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 すべての研究というものが出そろって、最後に私が判断をする、そういう立場をとって今勉強させておるところです。
  225. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 総理も、SDIについては、これが非核兵器であり防御兵器体系だというふうに述べられている。つまり、兵器体系といえば非軍事ではないということを示しているわけですね。国会決議というのは専ら平和目的に限る、それは非軍事ということをはっきりうたっていますので、政府のこれまでの有権解釈から見ましても、総理がSDIは兵器的体系だとおっしゃっている点から見ても明らかな矛盾だと思うのです。この点は、矛盾だとはお思いにならないでしょうか。
  226. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 SDIというのは、レーガン大統領の話によれば、核の廃絶を目指した防御兵器である、そして非核兵器である、そういう説明をしまして、それに対して理解を示したという態度でおるわけであります。
  227. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 進まないようでございますので、国会決議にも矛盾し、宇宙の核軍拡につながるようなこういうSDI研究参加は絶対にやめるべきだということを主張して、三宅島の問題に移りたいと思います。  三宅島NLP基地化をめぐって、この間政府・自民党のあらゆる努力にもかかわらず、四千三百の島民の意思は不動であるということ、団結はかえって強固になっているということは事実でございます。四月二十七日、第二回全島大会が開かれまして、ここで有権者の過半数の千五百名が結集して、基地化を断念せよという決議を満場一致採択しているわけでございます。民主主義の見地に立つならば、こういう長期にわたる圧倒的な住民の意思を尊重することが必要だろうと思います。  そこで、総理に二つお聞きしますが、島民の圧倒的多数が長期にわたってノーと言っているこの事実の重みをリアルに認識なさるかどうか、二つ目は、住民の圧倒的意思に逆らってはうまくいくはずがない、これまでのやり方に反省はございませんか、いかがでしょうか。
  228. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 現状はよく知っておりますが、少数意見も尊重せよと野党の皆さんによく言われているところでもあります。
  229. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 事実の重みを認識なさるかどうかという点と、これまでのやり方ではうまくいくはずはない、反省はないかということをお聞きしているのですが、もう一回その点について具体的にお願いしたいと思います。
  230. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 実態についてはよく認識していると思っております。
  231. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 実態を認識するというのは事実の重みを認識されたということでしょうから、これまでのやり方、いいとお思いでしょうか、反省はないかという第二の問題についてお答え願いたいと思います。
  232. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 誤解もまだかなりあるようにも思われますので、ともかく防衛施設庁の説明を聞いていただきたい、聞いていただいた上でよく御判断願いたい、そのように強い熱望を持っております。
  233. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 島民は誤解しているんじゃないんだ、誤解しているのは住民の本当の気持ち——緑と平和を守りたいという、暮らしを第一に考えたい、そういう産業基盤を壊すような基地化は嫌だ、NLP施設は嫌だというのが正直な気持ちだ、誤解しているのは政府じゃないかというのは島民の多くの意見であるし、そのことを総理にも伝えてくれと私はしばしば言われているわけでございます。これまで決してうまくいっていないということは、事実を認識されているということからもおわかりだというふうに思うわけです。私が昨年二月十九日に質問したときに、総理は三宅島にお願いしたいとおっしゃいましたが、それから一年数カ月たったわけですけれども、その努力にもかかわらず住民の圧倒的意思が反対だ、それも絶対に反対だ、こういう状況でございますが、総理の任期中にめどが立つとお思いでしょうか。
  234. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 ともかく誤解も多いようでありますから、ぜひ誤解を解いてまず話を聞いていただく、そういうところから話し合いをぜひ始めさしていただきたいと念願しております。
  235. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 失礼ですけれどもあと何カ月もありませんけれども、相当努力されてもこういう結果なんですね。これは住民の意思に、圧倒的意思に逆らってはいけないということ、民主主義の基本を守らなくちゃいけないことだと思うのです。そういう見地から見ても、総理はこれまでと同じような方法を続けられるのかどうか、その点いかがでしょうか。
  236. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 ともかく、話し合いをしなければ物事はよくわからぬので、防衛施設庁側の話もぜひお聞き願いたい。それで理解するかしないか、いろいろな価値批判も出てくるだろうと思うのであります。
  237. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 施設庁側の意見は、かなり島民には徹底しているわけですね。ですから最近では施設庁の方も、説明会と言わずに対話集会ということで、むしろ島民の意見を聞きたいというふうに変わり始めているわけです。そうしても変わらないというのが島民の圧倒的意思なんです。ですから私は、島民の圧倒的意思に逆らって無理につくるということは、いつまでも島民を苦しめ島に混乱を持ち込むだけだ、この考え方は撤回願いたいというふうに思いますが、総理の在任中に三宅島ということをお決めになったわけでございますから、総理自身が撤回するという意思を少しも表明なさる意思はないかどうか、お考え直す余地はないかどうか、お聞きしたいと思います。
  238. 中曽根康弘

    ○中曽根内閣総理大臣 ともかく努力をして、御理解をいただくように一生懸命やっていきたい。また、島の生活や前途に対しては、政府としてやれるだけのことはやっていくべきである、そう考えております。
  239. 岡崎万寿秀

    ○岡崎委員 時間が来ましたので、これで終わります。
  240. 北川石松

    北川委員長 この際、暫時休憩いたします。     午後零時三分休憩      ————◇—————     午後零時四十二分開議
  241. 北川石松

    北川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  この際、委員長から政府に対し、厳重に注意いたします。  理事会協議に基づく委員会の運営に支障を来すことのないよう、今後は十分留意を願いたいと思います。特にこの点を申し入れておきます。  扶養義務準拠法に関する条約締結について承認を求めるの件を議題とし、質疑を続行いたします。  質疑の申し出がありますので、これを許します。土井たか子君。
  242. 土井たか子

    土井委員 午前中、私が約一時間足らず質問を申し上げる際、御所用のためでしょう、外務大臣の御出席を得ることができませんでしたから、経緯についてはもう具体的に詳しく繰り返し申し述べることを差し控えたいと思いますけれども、しかし、一言外務大臣からいただいた上で、具体的にお聞かせいただきたい中身に進みたいと思うのです。  それは、今回の扶養義務準拠法に関する条約というのは、日本において、この条約に基づいてどういう法律準拠法として用いるかという問題が問われております。しかしながら、日本で現実にいろいろな係争事件が、扶養義務をめぐって外国籍の人との間で取り扱われる事案がこのところふえてまいっておりますけれども、中身を見ると御答弁でもはっきり出ましたとおりで、相手国というのは、国籍からいえば韓国籍でありアメリカ国籍であり中国籍であるという件数が圧倒的であることは言うまでもございません。ところが、それぞれの国はただいままでのところ、この条約批准していないのであります。批准していないばかりでなく、署名もしていないのであります。このことに対しての先の見通しがどういうことになるかということもよくわからないのです。  日本だけがこの条約批准いたしまして、国内法整備をして準拠法を決めてやりましても、相手国であるところの当事者の国が批准もしない、署名もしない、中身については関係なしと言われるような場合に、まことにこれは裁判に対しても支障を来すというふうな場合がなしといたしません。のみならず、裁判を行って判決が出たその判決に拘束性が全くないのです、この条約とは無関係でございますがゆえに。したがいまして、この条約で取り決めた中身について言うならば、まあ今までと余り大勢においては変わらないということしか結論としては出てこないわけでありますが、これはこの条約を結ぶことによってどんなメリットがあるのでございますか、大臣から一言それを聞かせておいていただいて、先に進みます。
  243. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 この条約につきましては、御承知のように扶養義務に関する国際私法規則を統一して、渉外的な扶養事件について均一かつ妥当な解決を図ろうとするものでありまして、ヘーグ国際私法会議の成果の中でも重要な地位を占めるものである、こういうふうに思っております。へーグ国際私法会議の活動に長年にわたり参加してきた我が国がこの条約締結することは、国際私法規則の統一に対する重要な貢献になる、こういうふうに考えております。  近時、我が国と諸外国との間の人的交流が盛んになり、これに伴って我が国国民の関係する渉外的扶養事件が漸増する傾向があります。この条約は、扶養権利者保護の見地から、原則としてその常居所地の法律を適用することとしておりまして、自己の資力及び労働によって生活を維持することができない扶養権利者保護観点から妥当な内容のもの、こういうふうに考えておるわけでございます。
  244. 土井たか子

    土井委員 大臣は、ただいまは事務当局からの文章をお読みになっただけの話でありますから、大臣自身がよくわからないままお読みになっていらっしゃるというのも、私にはよくわかります。正直に言って大臣、よくおわかりにならないでしょう、これ実は。そうだと思うのです、それはそうだと。わからぬことを幾ら聞いたってこれはしようがないので、後はおわかりになるであろうことについて率直にひとつ御見解をいただくことをお願いしたいと思うのです。  実はこれ、朝のうちの審議斉藤議官お答えになって、権利者の立場に立って権利を尊重するというところでこの条約の持っている意味はありますという御答弁も出ているのです。今、外務大臣のお読みになった文章の中では、国際私法の準則を確立することに対して我が国が貢献するという立場においてこの条約締結する意味はあると、これは教科書めいた文章でありましたけれども、お読みになった中にはあったのですが。しかし、午前中の斉藤議官の御答弁にしろ、ただいまの国際私法の準則を確立することに貢献するという立場にしろ、基本的には人権という問題に対してどういう感覚で臨んでいるかということは、言うまでもなく非常に大きなファクターなんです。  昨年、女性差別撤廃条約を当委員会において審議する節に、私は、この委員会で取り上げた問題点がまさに今度は変えられるであろうと見ていたのです。なぜかといったら、法務省国内法整備をしなければならない。しかし、国内法整備というのは、これも午前中にお伺いした限りで、扶養義務準拠法に関する法律案というのを今御提案なすっておりまして、単独立法を意図されているわけであります。これは、特別法と言うことができるのかどうかわかりませんけれども、単独立法を立法することを意図されている。この中で出てまいります二十一条というところを見ますと、法例について二十一条の部分は削除する、また三十一条というのを新設するということが、法例については附則ということで変えられる部分に相なっております。  外務大臣にここでお尋ねしたいのでありますが、この国内法整備する節、問題にされるであろうと私が思ったのは、この法例について法例改正という形で正面切って出てくるであろうという期待でありました。六十年の六月四日の当外務委員会の議事録を私は今手にしているわけでありますが、この中で法務省の方からは「法例につきましては、実体法をどちらの国のものにするかといういわば手続法でございまして、これ自体が男女差別の規定であるというふうには我々は解釈しておりません。ただ、その理念といたしまして若干問題があるのではないかということで、現在法務省国際私法部会では、法例の十三条以下の身分法に関する部分につきまして鋭意検討中でございます。これは既に五、六回開かれておりまして、二、三年内には何らかの形で結論が出るのではないか、こういうふうに思っております。」という御答弁だった。これは議事録そのまま読みました。法例については実体法をどちらにするか、まさに今回はこれが問われた条約なんですよ。いずれの国に準拠を置き、その国の準拠法をいずれにするかという実体法について問われている問題なんです。  ところが、この節、私はこの法例について外務大臣にお尋ねしたのは、この法例自身は明治三十一年の法例なんです。中身を見ると、例えば一条の二項に「台湾、北海道、沖縄県其他島地二付テハ勅令ヲ以テ特別ノ施行時期ヲ走ムルコトヲ得」、こう書いてあるのです。台湾というのはもはや日本の領土じゃございませんで、日本国内法を適用する範囲ではございません。したがって、これを安倍外務大臣に直すべきではありませんか、改正すべきではありませんか、この法例をそういう意味で変えるべきでしょうということをお尋ねしたら、安倍外務大臣お答えになって、戦後、そうした戦前からの法律で戦後の体制に合わないものは改正をしていっているけれども、まだそこまでこれはいっていなかったということなんで、改正の必要があると思うというお答えだったんですよね。今回、法務省はこの点なんかについてどう考えていらっしゃいますか。まず一条の二項についてお尋ねをいたします。
  245. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 御指摘の条項は、私どもとしても適当ではないというふうに考えておりまして、なるべく早い機会にこれを改めたいというふうに考えております。
  246. 土井たか子

    土井委員 なるべく早い機会に、なるべく早い機会にとおっしゃるけれども、これを具体的に国会指摘をしてからもう一年は優にたってしまいましたよ。これは戦後何年たったんですか、そのまま放置しておいて済む問題じゃないと思うのです。外務大臣、こういうのを日本国内法で存置しているということは、これは国際的にも問題になりはしませんか、いかがですか。
  247. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 今法務省のお話のように、これは適当でない、早く削除をすべきであるという考え方はそのとおりであると思っておりますが、まあ法例改正作業というのは、なかなか法制審議会その他いろいろと手続もあって、一、二年かかるということがいわばこれまでの通例になっておるわけですから、作業は急いでおるとは思いますけれども、やはりある程度時間がなければ結論は出せない、こういうことだろうと思います。
  248. 土井たか子

    土井委員 時間がかかるとおっしゃいましたが、戦後これは何年でございますか。台湾が我が国の領土でなくなって何年でございますか。大臣はそこのところをお考えになって、まだ時間がかかって当たり前だとお思いなんですか。いかがでございますか。
  249. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 ですから、もう一、二年といいますか、去年こういうことをお答えもいたしたわけですし、法務省でいろいろと具体的な法制審議会その他の一応の経過を経なければならぬ作業があると思いますけれども、一、二年のうちには結論を出すということだろうと思いますし、そう長くはかからぬだろうと思います。
  250. 土井たか子

    土井委員 何とも心もとない御返答であります。  さらに、この法例の二十条というところが問題になったんです。これは女性に対する例の差別撤廃条約について質問をする節取り上げた部分の一つでありますが、既に国際人権規約や第一肝心、日本国内法の最高法規である憲法の二十四条から考えましても、これは違反するという立場で問題にいたしました。二十条はどう書いてあるか。法例ですよ。「親子間ノ法律関係ハ父ノ本国法二体ル」と書いてあるのです。今回は、この扶養義務準拠法について日本では何法に準拠するかという場合に、法例について、一部法例改正を今回は扶養義務準拠法に関する法律附則として出していらっしゃるわけでありますが、この二十条は抵触しやしませんか、親子間の問題についで取り扱うのは。この条約が問題にしている常居所地じゃないのです。「父ノ本国法二体ル」と言っているのですよ。いかがでございますか。
  251. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 現在国会に提出されております扶養義務準拠法に関する法律案の第二十一条におきまして、「第三十一条に」「次の一項を加える。」という規定がございまして、そこで「本法ハ夫婦、親子其他ノ親族関係二因リテ生ズル扶養ノ義務二付テハ之ヲ適用セズ」ということが書いてございますので、この法律が成立いたしますと、親子間の扶養の義務の関係につきましては、法例の第二十条ではなくこの法律が適用されることになる関係になっております。
  252. 土井たか子

    土井委員 ここに言っているのは、扶養の義務という問題でしょう。準拠法として法例の二十条というのは相変わらず問題になるのじゃないですか、「親子間ノ法律関係ハ父ノ本国法二体ル」というのは。扶養の義務というのはここの三十一条の中身に言っている問題でありまして、今私が言っている二十条は依然として残るのじゃないですか。
  253. 斉藤邦彦

    斉藤(邦)政府委員 扶養の義務につきましては、これから御承認をいただこうとしております法律によることになって、その他の点につきましては従来どおり法例二十条によることになる、その点は御指摘のとおりでございます。
  254. 土井たか子

    土井委員 これもおかしいですよね。「父ノ本国法二体ル」というのはどういうことですか。つまり親権について、親子間の問題については母を問題にしない。だから「父ノ本国法二体ル」というのは、これは当初から、差別撤廃条約審議する節、法例の二十条というのは問題があると言ったのです。確かに問題があるから、これについては二、三年かけて改正する対象として考えているという御答弁があったのですが、作業は進んでいるのですか。
  255. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 御指摘の条項は依然として残りまして、御指摘のような状況が残るわけでございます。ただ、私どもが考えておりますのは、これはあくまで準拠法を決めるだけでございまして、実質法として、例えば父の本国が日本でございますと、親子の関係について共同親権ということになりまして、これは日本の実質法としての民法は全く男女同権にのっとってつくってあるわけでございます。ところが他方、これが父が日本あるいは母が韓国というようなことになって、仮に韓国の母の本国法準拠法にいたしますと、これは韓国法が適用されて父権的な色彩の強い法律になるということでございまして、これは、この準拠法を定めること自体が直接に男女差別につながるものではない、あくまで行き着いた先の実質法がそこを規律するのだという考え方に基づいて、直接的にはその精神に違反するものではない。  しかし、御指摘のように、必ずしも形式の上で適当であるということではないわけでございまして、これは御指摘の二十条だけではなくて、先生つとに御指摘になっております十四条とかいうような条文についても同じような問題があるわけでございまして、私どもそれについてしかるべき形にしたいということで鋭意検討を続けております。ただ、一つの法律に定めるという場合に、父と母あるいは夫と妻というものの国籍等が違う場合に、どういう形でそれを一つの法律に収れんすることができるかということについて何分非常に難しい問題がございまして、諸外国でも必ずしも統一した取り扱いがされていないということで今検討を続けているわけでございますけれども、徐々に煮詰まってまいりまして、多分二年内には何らかの統一的な改正法を策定することができるのではないかというふうに考えております。
  256. 土井たか子

    土井委員 法例について二年内。二、三年というのをずっと聞かされておりますから、いつも年がたつごとに二年二年というので聞かされて耳にたこができるわけでありまして、具体的にはもう次の通常国会には提案するというつもりでやっていただかなければならぬのではないかと思います。それができますか。
  257. 稲葉威雄

    稲葉(威)政府委員 私どもとしても、できるだけ早くやる必要があるというふうに考えておりまして、次の通常国会を目標として努力をいたしております。ただ、絶対に次の通常国会に出せるということまでは、まだ断言できないということでございます。
  258. 土井たか子

    土井委員 最大限の努力を強く要請します。これはもう言われ続けて久しいですからね。  ほかにもいろいろたくさん問題点はございますけれども、大要、この条約締結してさらに実効性あるものにするには、さらなる努力が問われているということも、午前中の質問で私は申し上げた限りであります。外務省とされては、今までどおりの姿勢で、安易な考えでこういう条約に接することをなさらないようにみずからを戒めていただくことをつとに要請しまして、終わります。
  259. 北川石松

    北川委員長 これにて本件に対する質疑は終了いたしました。     —————————————
  260. 北川石松

    北川委員長 これより本件に対する討論に入るのでありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  261. 北川石松

    北川委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。  お諮りいたします。  ただいま議決いたしました本件に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  262. 北川石松

    北川委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  263. 北川石松

    北川委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後一時三分散会