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竹内参考人 竹内でございます。
お役に立つような御報告もできかねるわけでございますけれども、最近の
国際情勢とか
円高を
経済の面から御報告申し上げたいと思います。
恐縮でございますけれども、現在の
情勢を最も手っ取り早く、
貯蓄投資バランスからちょっと御報告申し上げたいと思うわけでございます。
黒板を使わせてもらって恐縮でございますけれども、
日本の
GNPは約三百兆ございます。この三百兆の
GNPの中で約八十兆、貯蓄されております。これを比喩的に申し上げれば、毎年三百兆の
生産物を生産して、二百二十兆をその年に使ってしまい、八十兆のものを将来のために残しているというようなことでございます。現在は燃えるような
技術進歩がなくなりましたので、過去のように猛烈な
投資が起きておりません。現在は、この八十兆を、十五兆円が
住宅投資に使われております。五十兆が
工場をつくるために使われております。そして、十五兆が余っているというような姿でございます。
それで、
高度成長のときにはこれがほとんどすべて
工場に化けましたので、見事な
高度成長が達成されたわけでございますけれども、現在は余っている。余っておりますから、どういたしましても、このまま捨てておきますと来年の
経済は縮小してまいりますし、
売れ残りが生じますから
経済は不況になります。ですから、何としてもこの
売れ残り物を処分しなければならないというのが、
昭和五十年代からの姿でございます。
そこで、
政府がおやりになりましたのは、膨大な
建設国債を発行されたり、あるいは
地方へ行きますと膨大な
地方債を発行されたりいたしまして、
ケインズが腰を抜かすような
ケインズ政策を実行された、このようなことであります。その結果、
日本の
地方へ参りますと、自動車がほとんど通らない山の頂上まで美しい
舗装道路ができ上がりましたし、村や町には
利用率が非常に低い、堂堂たる公民館ができ上がったということでありますし、小学生の生徒が七人ぐらいしかいらっしゃらないところにも見事なプールができ上がった、こういうようなことで、見事に
福祉社会がやってきたわけでございます。
その結果、
財政は見事に破綻してしまった、こういうことでございます。
国債残高は現在百四十兆でございますけれども、
GNPで割ってみますと四五%、イギリスと匹敵する
国債に抱かれた
経済に転落した、このようなことかなというように思われるわけであります。
一方、
アメリカは約六百兆の
経済でございます。六百兆の中で百二十兆が貯蓄されております。このうち、二十五兆が
住宅に使われております。八十兆が
工場をつくるために使われているわけであります。残りが十五兆円しかないわけであります。そこで、
政府の
財政赤字が二十五兆円ありますから、十兆円はみ出ているわけでございます。この十兆円、つまり
供給力が六百兆しかないのに需要が六百十兆ある、極端に言いますとそのような
経済でございますから、常に需要過剰でございます。需要過剰になりますと、
投資がどんどん起きてまいりますし、そこでまた
投資のための
生産物が必要でありますから、どうしても
インフレ経済になる。
アメリカは
物不足の
経済であった、こういうことであります。
過去の
インフレに経験がございますので、それを抑えるために
通貨量をコントロールするというような
政策をとった。つまり、
財政で
刺激して
金融を引き締めた、このような
政策の結果、
高金利時代がやってきた。
アメリカの
金利水準が高うございますから、
世界から
資金が流入してきた。
日本からも大量の
資金が
アメリカに流出するわけであります。その結果、
アメリカは
ドル高時代がやってきた、このようなことであります。
ドルが高くなりますと、
日本の余り物は
アメリカに向かって非常に急スピードで流れていく、
アメリカの
不足部分に向かって流れていく、このようなことであります。ですから
日本は、この
余り部分を
アメリカに過去数年間、大量に流すことによって処分した。ということは、
日本経済にしてみますと、
財政への依存なくして成長できるようになった。つまり、
財政を再建しながら成長できるようになった、そのしわが
アメリカの
輸出に向かっていった、このようなことであります。
ここで
議論の種になりますのは、
アメリカは、
日本が貯蓄過剰である、これを使い切れないから
日本が悪いのだ、このようなことになるわけであります。
日本からいいますと、おまえ
たちが
財政赤字で、
財政赤字の結果
高金利になり、
ドルが上がって、おまえ
たちが持っていったんだ、おまえ
たちが持っていかなければ我々は
国内で使えたのだけれども、おまえ
たちが悪いんだ、このような
議論になるわけであります。これはどちらがどうか、甚だよくわからないわけでございますけれども、
議論はそのような
議論になって、
日米の責任についての論争になる、こういうことであります。
ですけれども、
アメリカは、
経常収支の
赤字が千二百億
ドルとか千三百億
ドルに達してきた。その結果、
アメリカは間もなく
世界最大の債務国に転落していって、いつ
ドルが暴落しても不思議ではないような
状態に追い込まれていく。それから
ドル高でございますから、農業が崩壊していくということであります。
輸出ができなくなって農業が崩壊していく。油の値段が下がってまいりますので、テキサス州を初めといたしまして、産油業者は非常な苦境に追い込まれていくということであります。その結果、農業や産油業者にファイナンスしている
銀行群は、次々に倒産していくということであります。一昨年は百二十行、昨年は多分九十行、ことしは百二十行倒産するんじゃなかろうか。つまり、
金融恐慌ではございませんけれども、
金融不安の兆しが出てくる。その上に
ドル高でございますから、この部分だけ
海外からやってくればよろしいわけでございますけれども、内需も食われ出した、このようなことであります。つまり、このようなバランスはもはや成立しなくなったというようなことかなと思われるわけであります。
それから、我々の周辺には途上国群があります、中進国群があります。韓国でいいますと
日本の十五分の一ぐらいの
経済でございますけれども、これらのところは貯蓄率が大変高い。燃えるような
投資をやっておりますから、物が大変必要だ。ここも
物不足でございます。この
物不足に向かって、
日本の余り物が流れていったということであります。このような国の通貨は
ドルにリンクしておりますから、一層流れやすい。韓国は
日本から機械を買い、
工場をつくり、そこからできた
生産物を
アメリカに
輸出していった、これで非常にうまくいったわけであります。
アメリカは順調に成長し、
ドル高によって
インフレにならなかった。
日本は順調に成長し、
財政の
赤字をふやさないで済んだ。韓国は順調に成長し、
経常収支の
赤字が耐えがたいほど大きくならなかった。このようなことでありますけれども、源の
アメリカ経済が崩壊してくるということになりますと、これはいかんともしがたいわけでございますから、
アメリカは
財政均衡法等によりまして
財政赤字を減らそうという努力を始めた。それと同時に、保護
貿易によって
輸入をとめる、これによって
アメリカの再建を図っていく。当然のやり方だろうと思うわけであります。
そうなりますと、どういたしましても大量な物が流れてくる
日本が最適なといいますか、批判の的になる。先ほど
田中さんが言われましたように、
GNPの三・六%の
経常収支の
黒字を持ち、それから
輸入制限品目は二十二品目もある、いろいろな非関税障壁と言われるようなものもないことはないというようなことであります。このことを打開するためには、言うまでもないことでございますけれども、
円高に持っていくしか手がなかった、このようなことだろうと思われるわけであります。
アメリカは、昨年の四月来、この
ドル高不況によりまして景気が低迷し、
金利が下がり出し、
ドル安の気配が出てきた。ここで九月のG5によって、
アメリカは、今まで
ドル高がよかった、確かによかったわけでございますけれども、それを
ドル安の方がいいということを明らかに
世界に宣言した、このようなことであります。十一月には、
日本銀行はそれに歩調を合わせるように、
金利を引き上げるべき段階でないにもかかわらず
金利を引き上げて、
円高の環境をつくり出した。
日本は本気になって、
国内均衡よりも対外均衡を優先することを
世界に示した。このようなことで、いわば為替相場は管理された相場に移ってくる。その上に油の値段が下がってまいりましたので一層
円高になってくる、このようなことであります。
そうなりますと、今度は
アメリカ人が何を言ったか、
日本の
政府の偉い方が何を言ったかということが為替相場に響いてくるわけであります。
アメリカでは、御案内のとおりベーカーさんの力が非常に強くなってきた、このようなことであります。ベーカーさんは、御案内のとおりテキサス州出身である。一番困っている産油業界のテキサス州出身でございます。ですから、ベーカーさんの立場とすれば、
円高になればなるほどいいというような立場になるわけであります。一方、ボルカーさんのような、
ドル安になってまいりますと不安が起きるというような立場、
ドルが暴落して不安が起きるというような立場に対しましては、確かに
ドルは円に対して大変安うございますけれども、他の
アメリカが
貿易している諸国の通貨と比べますと決して安くはない、
ドルはほとんど下がっていないわけであります。ですから、
ドル資になる不安はそれほど強くない、こういうことでありますし、現在これだけ
円高になりましても
日本の長期資本収支、
アメリカに対する
資金の流出はそれほど減ってないということであります。
ということは、例えば現在
アメリカの景気が下がりぎみでありますから、
金利の先安感がある。ここに
投資していけばキャピタルゲインが得られるということになりましょうし、生命保険会社のように長期の資産で、長期的な展望で
投資しているところになりますと、現在
日米金利差は三%でございます。三%というのは、来年三%
円高になりましてとんとんだ、
国内に
投資しているよりもとんとんだ、それで三%というのは、仮に百五十円と仮定いたしますと四円五十銭であります。来年百四十五円五十銭に下がってもとんとんだ、十年持っておりますと百五円になってもとんとんだ、まさか十年先には百五円にはなるまい、百二十円くらいじゃないかと思えば、買って十年間持ち続ければ
国内に
投資するよりも採算が高い、こういうことになるわけであります。
それから、
日本の株を買ったらどうか、これは何としても高過ぎる、ヨーロッパも株は高くなり過ぎた、最も
投資の対象としては
アメリカであるというようなことで
アメリカに
資金が集まってきておりますから、
ドル安の不安、
ドルが暴落する不安は必ずしも強くない。このようなバックグラウンドがありますと、
円高にどんどん持っていけるというような自信がベーカーさんにあるのではなかろうかというような推量ができるわけであります。そんなことから現在百五十円台に突っ込むかな、このようなところにやってきたわけであります。
円高の目的というのは、言うまでもなく
輸出を減らして
輸入をふやすことである、こういうことになりますから、当然のことながら
輸出産業が不況に陥るということは一種の目標であるということになりますから、これはある
意味では仕方がないことだ、こういうことになるわけであります。つまり、
日本の国際的な地位から見て仕方がないことだということであります。もし、長期的に見て
経常収支がバランスした——すぐにバランスするわけじゃございません。
田中さんが言われたように、ことしはJカーブ
効果が働きますから、
経常収支の
黒字は七百から八百になるかもしれない。ですけれども、長期的にもし百五十円とか百六十円とかいったら、当然
経常収支は間もなくバランスしてまいります。そのときはどういうことかといいますと、
海外に向かっていた十数兆の需要が減る、こういうことであります。減らしっ放しですと不況になりますから、この十兆強を埋めるために内需を拡大しなければならないということになるわけであります。
十兆の内需の拡大、これは途方もないことであります。多分政治の仕組みといいますか、過去の仕組みを変えないとやっていけないだろう。例えば道路をつくるにいたしましても、道路をつくる当事者にターミナル、インターチェンジ付近の土地を数千ヘクタール先行
投資を認める、これによって十数年たてば十倍くらい土地が値上がりいたしますので、それを売却して建設
資金の返済に充てる。つまり、そのような企業といいますか公団は五十年債、百年債を発行できて、そして今までのようにターミナルができて、新幹線の駅ができて収益を上げた人が吐き出さないようなことをやめなければ、多分内需の拡大はできないだろうというような、ちょうど電電さんとか国鉄さんが民営化されるように、どうも大きな
変化がなければ膨大な内需の拡大はできないだろうというような感じがいたします。
内需が仮に拡大できれば、現在考えてみれば毎年五百億
ドルのものと六百億
ドルの
資金を、我々よりもはるかに
経済力が強い
アメリカを中心として供給しているわけですから、これを
国内に供給できればもっともっと我々の
生活は豊かになるはずだ、当然のことであります。多分
アメリカ人が成田にやってきて、この辺まで自動車でやってきたときに、あたりを見ますとこの
住宅、東京だけかもわかりませんけれども、東京は特に
住宅事情が貧困でございます。あれを見ながらやってきて、頭の中で
経常収支が五百億
ドル、資本収支が六百億
ドルの
赤字だ、これを見たならば、多分飢餓
輸出と考えるに違いないというふうに思われるわけであります。ですから、私はそこから先は
田中さんと反対でございまして、内需拡大のためには猛烈に働かなければならないというような気がいたすわけであります。
特に、コンセンサスづくりというような大変な仕事があります。コンセンサスづくりのためには、何か
労働時間を短縮したらコンセンサスづくりはできないかもしれないというような気すらいたすわけであります。さしあたっては多分——
経済というのは、谷深ければ山高しでございます。百五十円に突っ込んだら次には必ず円安になるはずだ、次の円安はことしの年末ころ、あるいは百八十円くらいになるかもしれないと思われます。これは
アメリカの
金利が下がれば景気が上昇し始める、上昇し始めると
金利が上がる、
日米金利差が拡大する。
日本がなぜ
アメリカに資本進出やいろいろなものをしていくか、あるいは途上国や韓国に
工場を出していくか、無論向こうの方がもうかるからであります。なぜもうかるか。
日本の土地代は
工場をつくれば五万円強、
アメリカでつくれば数千円である。
アメリカで新聞広告を出せば数百倍の
労働者が集まってきてくれる。その上、
日本はもうけますと法人税の実質課税が五二%、
アメリカは平均すれば三〇%前後であります。ですから、当然
日本に
工場をつくればつくるほどもうからないかもしれないということで、ちょうどボルグやステンマルクが母国を捨てたように、企業はもうからない母国を捨てて
海外に出ていくというようなことが
円高によってさらに生ずるかもしれない。このようなことが生じないためには、広い
意味で内需を拡大して
国内の収益期待を拡大しておかないと資本が逃げてしまうのかな、こんなような感じがいたすわけであります。そんなような
意味で申し上げますと、現在は内需拡大が
国内にとっても必要でございますし、それから
日本の国際的地位を考えましても、こんな大きな国が
経常収支が
GNPの三・六%、到底許されない事態であるということであります。
ちょうど比喩的に申し上げれば、我々は現在
アメリカの大都市に行って、そこのホテルのエレベーターの中で
アメリカの悪口を言えなくなった。つまり、だれかが
日本語がわかるようになったということでありますし、どこへ行きましても
日本食が食えるようになった。私も
海外でしばしば、毎年講演しておりますけれども、今から十年くらい前でいきますと、余談で恐縮ですけれども、質問がとんちんかんであった。つまり、彼らに私の英語が通じていなかったということでありますけれども、現在は冗談を言えば笑うようになった。質問も的確である。私の英語が進歩するはずがない。じゃ、なぜか。彼らのジャパニーズイングリッシュに対するヒアリング能力が急速に高まった。つまり、現在はRだろうがLだろうがどうでもよくなった。彼らが識別してくれるようになった。このような
経済大国になりましたら、当然のことながら現在の国際的な役割は、内需を拡大することこそ
日本の国際化ではなかろうか、このような感じがしているわけであります。
甚だ口幅ったいことを申し上げましたけれども、以上で御報告申し上げます。