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1986-05-14 第104回国会 衆議院 外務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年五月十四日(水曜日)     午前十時二分開議 出席委員   委員長 北川 石松君    理事 奥田 敬和君 理事 田中 秀征君    理事 西山敬次郎君 理事 村田敬次郎君    理事 河上 民雄君 理事 土井たか子君    理事 玉城 栄一君 理事 渡辺  朗君       愛野興一郎君    石川 要三君       鍵田忠三郎君    鯨岡 兵輔君       佐藤 一郎君    竹内 黎一君       中山 正暉君    仲村 正治君       町村 信孝君    山下 元利君       岡田 春夫君    小林  進君       高沢 寅男君    藤田 高敏君       鳥居 一雄君    岡崎万寿秀君       田中美智子君  出席国務大臣         外 務 大 臣 安倍晋太郎君  出席政府委員         外務大臣官房審         議官      福田  博君         外務大臣官房審         議官      斉藤 邦彦君         外務大臣官房審         議官      松田 慶文君         外務大臣官房領         事移住部長   妹尾 正毅君         外務省欧亜局長 西山 健彦君         外務省情報調査         局長      渡辺 幸治君  委員外出席者         科学技術庁長官         官房審議官   松井  隆君         科学技術庁原子         力安全局原子力         安全課長    堀内 純夫君         科学技術庁原子         力安全局原子力         安全課原子力安         全調査室長   今村  治君         科学技術庁原子         力安全局保障措         置課長     池田 信一君         外務大臣官房審         議官      太田  博君         資源エネルギー         庁長官官房国際         原子力企画官  石海 行雄君         資源エネルギー         庁公益事業部統         括安全審査官  荒井 行雄君         資源エネルギー         庁公益事業部原         子力発電運転管         理室長     倉重 有幸君         労働省労働基準         局安全衛生部労         働衛生課長   福渡  靖君         参  考  人         (評 論 家) 田中 直毅君         参  考  人         (日本長期信用         銀行調査部長) 竹内  宏君         外務委員会調査         室長      門田 省三君     ――――――――――――― 五月十三日  核兵器廃絶等に関する請願(鈴切康雄紹介)  (第四八四七号)  同(日笠勝之紹介)(第四八四八号)  同(山田英介紹介)(第四八四九号)  同(吉浦忠治紹介)(第四八五〇号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 五月十二日  核兵器廃絶等に関する陳情書外三件  (第  一八八号)  朝鮮民主主義人民共和国在住日本人妻安否調  査及び里帰り実現に関する陳情書  (第一八九号)  国際文化交流の促進に関する陳情書  (第一九〇号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  原子力平和的利用における協力のための日本  国政府中華人民共和国政府との間の協定の締  結について承認を求めるの件(条約第三号)  扶養義務準拠法に関する条約の締結について  承認を求めるの件(条約第五号)(参議院送  付)  国際情勢に関する件(円高問題)      ――――◇―――――
  2. 北川石松

    北川委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件、特に円高問題について調査を進めます。  本日は、参考人として評論家田中直毅君及び日本長期信用銀行調査部長竹内宏君に御出席をいただいております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位には、円高問題について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただきたいと存じます。  次に、議事の順序について申し上げます。まず、田中参考人竹内参考人順序で、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。  それでは、田中参考人にお願いいたします。
  3. 田中直毅

    田中参考人 本日、円高に関する問題について見解の一端を披瀝させていただくことを大変に光栄に存じております。  まず、なぜ日本でこれだけ円高の問題が議論になるのか、国際社会ではこの日本円高についてなぜ冷淡なのかということからお話を始めたいと思います。  昨年九月からドルが次第に安くなりました。そして、ことしに入りまして原油価格が下がるようになりまして、アメリカでも、そして西ヨーロッパでも、先進工業国ではいずれも大変いい時代が来たという認識が広まっております。現在、最も多い見解は、恐らくこれから四年ほどは米国でも、また西ヨーロッパ諸国でも堅調な景気の回復が続き、かつ、インフレが厄介な問題になる可能性はほとんどないという見方が強まっているわけです。そういう意味では、一九七〇年代から八〇年代の前半にかけて非常に苦しい経済運営を迫られてきた国々が、これからしばらくは大変いい時代が来る、こういう認識が一般的かと存じます。  しかし、日本だけはそういう中で、必ずしもそういう楽観的な見方はございません。今後の日本経済を考えますと、これまでの日本経済の単純な延長線上に日本経済日本産業の姿はないのではないか、大きな構造変容が迫られている、そしてかなり苦い薬も飲まざるを得ないのではないか、こういう違和感が日本にあるわけでございます。  今回の東京サミットにおいて、中曽根首相に関する国内の多くの評価は、円高の歯どめをできるかどうかというところに評価基準も置いてきたように思います。これは世界的にいいますと、日本が置かれている状況の厳しさというものが、中曽根首相評価基準を、そうした円高の歯どめをつけられるのかどうかというところに評価基準自体が絞り込まれた理由がというふうに私は考えております。  それでは、なぜ日本だけがこうした状況になったかということでございます。少なくとも一九八○年代の前半までは、日本経済構造が大変うまくいっているという評価が強かったわけでございます。それは日本産業構造を急速に変えまして、高くなった石油とか工業原材料をそんなに使わなくても製品ができるような、いわゆる先端産業あるいは軽薄短小という形で産業構造を急速に変化させたことが、日本に対する称賛として出たわけでございます。  しかし、今日になってみますと、この産業構造変化は、輸入をほとんどふやさないことになっておるわけでございます。この数年、日本輸入は、金額ベースで見てもふえておりません、ドル建てで見てもふえておりません。これは日本産業構造がうまく変わったせいでございますが、今日のような情勢になってみますと、日本輸入しない国という評価海外から出てくるわけでございます。これが、現在の膨大な貿易黒字の第一の要因かと思います。  二番目の要因、なぜこれほど貿易黒字が大きくなるかという二番目の要因は、八〇年代の前半我が国にとって財政再建が非常に課題が厳しかった時期でございまして、財政再建に専ら注力するということでございまして、これも現在の膨大な貿易黒字というものに結びついているかと思います。そして昨年までのドル高・円安も、日本輸出を大変促進する要因だったと思います。  以上、申し上げましたように、産業構造変化、それから財政再建ドル高・円安、この三つの要因が重なることによって、今日の膨大な貿易黒字が生まれているわけでございます。  それでは、現在我々が当面していますこの経常収支黒字の問題、どのくらい異常かということでございますが、昨年はGNP比で三・六%になっております。経常収支黒字は、無論いろいろな年がございますが、この三・六%というのは大変な数値でございまして、先進工業国をとってみますと、これに類した数値が出たのは一九四七年の米国でございます。第二次世界大戦が終わりまして、アメリカだけに生産能力があり、アメリカ世界に対して物をどんどん出していた、あのときに経常収支黒字GNP比で三・七%でございまして、昨年の日本の三・六というのはこれに匹敵する数値でございます。しかも、ことしになりますと、原油価格が大幅に下落いたしましたので、間違いなくこの経常収支黒字幅GNP比で四%を超えると思います。  これを考えてみますと、これは世界的に見て到底肯定できないという意見が出てくるわけでございます。経常収支、どのくらいになるかわかりませんが、黒字がもし八百億ドルというような水準になってまいりますと、およそ韓国全体のGNPに相当するような日本経常収支黒字が生まれるということでございます。これはマージャンでいいますと、ある人だけがばかに勝ち込んでいてほかの人はすってんてんだ、こういう状態でございまして、これはけしからぬという意見になってくるわけでございます。マージャンですと、ひとりばか勝ちする人を外せばそれでまたゲームは成立するわけでございますが、世界貿易においてひとり勝っている人を排除するというわけにはいかないわけでございます。  それではどうするかということになりますと、いろいろあるわけですが、ハンディキャップをつけかえる以外にないのではないかということになりまして、これが現在の円高になってきていると思います。  我々は、国会でもそうですが、円高というのは大変産業に大きな影響を与えるわけですから、何とかならないのか、円高に歯どめはないのか、こういう議論をするわけでございますが、これをそのまま、我々は困っている、何とか円高に歯どめをかけたいというふうに海外に言いますと、それはワニのそら涙だ、とてもそんな話は聞けない、こういう話になるわけでございまして、円高が問題だという言い方をしましても国際社会の理解は得られないというのが現状かと思います。  それでは、円高というのは本当に困ったことかどうかということでございます。確かに、輸出産業は大変厳しい状態にあると私は思いますが、円高に伴う新しい価格体系が成立するならば、問題の多くは解消する性格のものだと思います。例えば輸入品でございますが、もし輸入品が本当に為替レートに相当するだけ下がる、そして我々が消費者段階でそれを手にすることができるという事態を考えてみますと、かなりいい影響が出るわけでございます。わずか半年ちょっとの間に円が五割高くなり、そして海外からの輸入品が、もし同じドル建て価格だといたしますと三三%安く手に入るわけでございます。もし我々が手にしている輸入品が、すぐそうした円高メリットが出て値下がりするといたしますと、これは大変な恩恵が我々に及んでくるわけでございます。  アメリカとか西ドイツに比べますと、現在の日本消費者物価の値下がりというのは余りにも少な過ぎると思います。アメリカドル安にもかかわらず、この一−三月期の消費者物価年率マイナス一・九%でございます。四−六月も、恐らく年率で一%ぐらいのマイナスになると思います。ドル安アメリカがこうでございますし、西ドイツは、これは二月ごろでございますが、西ドイツの大きな銀行調査部の発表では、一九八六年の西ドイツ消費者物価マイナスになるというふうに言っております。  ところが、翻って我が国を考えてみますと、これだけの円高にもかかわらず、そうした効果が期待できないでいるという問題があろうかと思います。小麦はおよそ九割を輸入しているわけでございますが、しかし、これが下がった、そしてパンとかうどんの値段が下がるというメカニズムが働いているようには思えません。食肉価格についても同様でございまして、せっかく円が高くなったにもかかわらず、消費者はそのメリットを得られないでいる。そして、新しい価格体系が成立しないために、輸出で被害を受ける業界だけが円高デフレを叫ぶ、円高によって大きなメリットを受けるはずのところからこれを前提にした動きが出ない、ここに我が国の難しさがあろうかと思います。  海外からこれだけ安く資材が手に入る時代でございますから、それを使って事業を展開しようという人が出てきてもよさそうでございますが、そうしたものが簡単に手に入らないということによって、事業機会もまたなかなか芽が出ないということにつながっているかと思います。そういう意味では、戦後、昭和二十年代から三十年代にかけて外貨が非常に貴重な時代に、余り輸入品がふえない、そして国内生産者を保護するということを前提につくり上げてきた経済の諸制度に手をつけることなくして、恐らくこの円高メリットというのは我々に入ってこない、これが国内において円高デフレ論がこれだけ強くなる理由がというふうに思っております。  それでは、この経済制度をどう変えるかは、今後国会先生方の御審議をいただくことを国民の多くは期待していると思いますが、これは背後に生産者もいるということからいきますと、合意ができるにはなかなか時間がかかるかと思います。  それでは、短期的といいますか、当面の円高問題を乗り切るためには、一体どういう政策手段が我々にあるのかという問題でございます。正統的な手法としては、金融それから財政という手段だろうと思います。もし金利を大幅に下げますと、これは円高にストップをかける要因になろうかと思います。ただし、アメリカにおいても現在実質金利は高過ぎるという議論が大きいわけでございまして、現在アメリカ公定歩合は六・五%でございますが、これがまだ下げられていく可能性があるわけです。日本が単独で公定歩合を下げた場合には、確かに円高に歯どめをかける要因かと思いますが、もしアメリカが現在六・五%の公定歩合を二%下げたらどうか、そういう問題があるわけでございます。アメリカ公定歩合がもし四%台にまで下がるということになりますと、現在日本公定歩合は三・五ですが、これをたとえ二・五に下げたとしても、金融だけでは何ともならないという問題があるわけです。  じゃ、アメリカはそうした可能性があるかということでございますが、先ほど申し上げましたように、アメリカにおいては消費者物価は現在完全に鎮静し、マイナスになっております。こうしたインフレ期待が消滅し始めている状態のもとでは、米国内において金利はもっと下げるべきだという議論が強いわけでございまして、アメリカ公定歩合はまだ下がっていく可能性がある。そうすると日本金融緩和をいたしましても、その効果はかなりの程度相殺される。そして下げる余地からいきますと、アメリカが大きく日本が小さいということで、金融政策を中期的といいますか、今年じゅうどうやって円をコントロールするかということになりますと、金融政策だけに期待するのは私は無理だろうと思います。  それでは、財政はどうかということでございます。補正予算を組み、公共事業あるいは減税という形の刺激策をとれば、何がしかの効果円レートに出るだろうと私は思います。ただし、中長期的に見ますと、国債の増発につながるわけでございますから、普通の考え方をたどりますとやがて増税があるやということになるわけでございまして、一年だけあるいは半年だけ財政面からの刺激はできるけれども、その次の年からは増税ですよということになりますと、さあ踊ってみると言われましても国民は簡単には踊れないという面がありまして、財政面からの刺激策は、私は、効果がゼロだとは思いませんが、次の増税措置によってかなり相殺される可能性があると思います。そういう意味では、金融財政いずれも難しい問題があると思います。  それでは、今後どうなるかということでございます。この四月の貿易統計も大変な黒字が出ておりますが、今年度上半期について見ますと、恐らく日本貿易黒字経常収支黒字は大幅なものになるだろうと私は思います。輸出数量は既に下がっておりますし、円建てで見ても下がっているわけですが、ドル建てで見ますと二割ぐらい上がっているという状態が続くのではないでしょうか。例えば、アメリカにおける価格を引き上げるという形によって、ドルをたくさん手にできるものなら手にするという形が進んでおりますので、輸出ドル建てで見るとかなり出る。そして、原油は既にバレル当たり十六ドル台のものが日本に入着いたしておりますので、これも輸入金額は減るということでございまして、日本経常収支め黒字はことし上半期かなりふえる。そういう意味では、円高への方向性はずっと持ち続けるのではないかと思います。  それでは一体、最終的にどういう手段があるのか。もういろいろな手段を組み合わせる以外にないと思いますが、私は一つ御審議いただければと思うのは、日本労働時間をこの際立法措置によって減らすことを議論していただいたらいかがなものかと思います。日本の年間総実労働時間はかなり多いわけでございまして、現在の水準から一割下げてもアメリカ水準、現在の水準から二割下げると西ドイツ水準でございます。二千百八十時間ぐらい働いているわけでございますが、これはやはり長過ぎるということだと思います。例えば週休二日制とかいろいろな方法があると思いますが、労働時間を減らすことが行われた場合に、海外に及ぼす影響は、日本はただただ供給力をふやすだけでなくて、生活を楽しむ、ゆとりのある生活にする大きな流れができ始めたなということだろうと思います。  労使間に任せておいたのでは、なかなか簡単にはいかないという面があります。現在、全労働者の二七%が完全週休二日制の恩恵に浴しているわけですが、労働者の四分の三はそれに無縁でございます。そういう意味では、労働時間を減らす立法措置が、我々の考え方あるいは海外に及ぼす影響を考えましても、かなり大きい影響力を持つのではないかと思います。円高が起きているときにはそうしたことができると私は思いますが、円がどんどん安くなるような状況ではそうしたことも審議できないわけでございます。インフレのおそれが全くないときに、そういうことも議論されたらいかがなものかというふうに思っております。
  4. 北川石松

    北川委員長 ありがとうございました。  次に、竹内参考人にお願いいたします。
  5. 竹内宏

    竹内参考人 竹内でございます。  お役に立つような御報告もできかねるわけでございますけれども、最近の国際情勢とか円高経済の面から御報告申し上げたいと思います。  恐縮でございますけれども、現在の情勢を最も手っ取り早く、貯蓄投資バランスからちょっと御報告申し上げたいと思うわけでございます。  黒板を使わせてもらって恐縮でございますけれども、日本GNPは約三百兆ございます。この三百兆のGNPの中で約八十兆、貯蓄されております。これを比喩的に申し上げれば、毎年三百兆の生産物を生産して、二百二十兆をその年に使ってしまい、八十兆のものを将来のために残しているというようなことでございます。現在は燃えるような技術進歩がなくなりましたので、過去のように猛烈な投資が起きておりません。現在は、この八十兆を、十五兆円が住宅投資に使われております。五十兆が工場をつくるために使われております。そして、十五兆が余っているというような姿でございます。  それで、高度成長のときにはこれがほとんどすべて工場に化けましたので、見事な高度成長が達成されたわけでございますけれども、現在は余っている。余っておりますから、どういたしましても、このまま捨てておきますと来年の経済は縮小してまいりますし、売れ残りが生じますから経済は不況になります。ですから、何としてもこの売れ残り物を処分しなければならないというのが、昭和五十年代からの姿でございます。  そこで、政府がおやりになりましたのは、膨大な建設国債を発行されたり、あるいは地方へ行きますと膨大な地方債を発行されたりいたしまして、ケインズが腰を抜かすようなケインズ政策を実行された、このようなことであります。その結果、日本地方へ参りますと、自動車がほとんど通らない山の頂上まで美しい舗装道路ができ上がりましたし、村や町には利用率が非常に低い、堂堂たる公民館ができ上がったということでありますし、小学生の生徒が七人ぐらいしかいらっしゃらないところにも見事なプールができ上がった、こういうようなことで、見事に福祉社会がやってきたわけでございます。  その結果、財政は見事に破綻してしまった、こういうことでございます。国債残高は現在百四十兆でございますけれども、GNPで割ってみますと四五%、イギリスと匹敵する国債に抱かれた経済に転落した、このようなことかなというように思われるわけであります。  一方、アメリカは約六百兆の経済でございます。六百兆の中で百二十兆が貯蓄されております。このうち、二十五兆が住宅に使われております。八十兆が工場をつくるために使われているわけであります。残りが十五兆円しかないわけであります。そこで、政府財政赤字が二十五兆円ありますから、十兆円はみ出ているわけでございます。この十兆円、つまり供給力が六百兆しかないのに需要が六百十兆ある、極端に言いますとそのような経済でございますから、常に需要過剰でございます。需要過剰になりますと、投資がどんどん起きてまいりますし、そこでまた投資のための生産物が必要でありますから、どうしてもインフレ経済になる。アメリカ物不足経済であった、こういうことであります。  過去のインフレに経験がございますので、それを抑えるために通貨量をコントロールするというような政策をとった。つまり、財政刺激して金融を引き締めた、このような政策の結果、高金利時代がやってきた。アメリカ金利水準が高うございますから、世界から資金が流入してきた。日本からも大量の資金アメリカに流出するわけであります。その結果、アメリカドル高時代がやってきた、このようなことであります。  ドルが高くなりますと、日本の余り物はアメリカに向かって非常に急スピードで流れていく、アメリカ不足部分に向かって流れていく、このようなことであります。ですから日本は、この余り部分アメリカに過去数年間、大量に流すことによって処分した。ということは、日本経済にしてみますと、財政への依存なくして成長できるようになった。つまり、財政を再建しながら成長できるようになった、そのしわがアメリカ輸出に向かっていった、このようなことであります。  ここで議論の種になりますのは、アメリカは、日本が貯蓄過剰である、これを使い切れないから日本が悪いのだ、このようなことになるわけであります。日本からいいますと、おまえたち財政赤字で、財政赤字の結果高金利になり、ドルが上がって、おまえたちが持っていったんだ、おまえたちが持っていかなければ我々は国内で使えたのだけれども、おまえたちが悪いんだ、このような議論になるわけであります。これはどちらがどうか、甚だよくわからないわけでございますけれども、議論はそのような議論になって、日米の責任についての論争になる、こういうことであります。  ですけれども、アメリカは、経常収支赤字が千二百億ドルとか千三百億ドルに達してきた。その結果、アメリカは間もなく世界最大の債務国に転落していって、いつドルが暴落しても不思議ではないような状態に追い込まれていく。それからドル高でございますから、農業が崩壊していくということであります。輸出ができなくなって農業が崩壊していく。油の値段が下がってまいりますので、テキサス州を初めといたしまして、産油業者は非常な苦境に追い込まれていくということであります。その結果、農業や産油業者にファイナンスしている銀行群は、次々に倒産していくということであります。一昨年は百二十行、昨年は多分九十行、ことしは百二十行倒産するんじゃなかろうか。つまり、金融恐慌ではございませんけれども、金融不安の兆しが出てくる。その上にドル高でございますから、この部分だけ海外からやってくればよろしいわけでございますけれども、内需も食われ出した、このようなことであります。つまり、このようなバランスはもはや成立しなくなったというようなことかなと思われるわけであります。  それから、我々の周辺には途上国群があります、中進国群があります。韓国でいいますと日本の十五分の一ぐらいの経済でございますけれども、これらのところは貯蓄率が大変高い。燃えるような投資をやっておりますから、物が大変必要だ。ここも物不足でございます。この物不足に向かって、日本の余り物が流れていったということであります。このような国の通貨はドルにリンクしておりますから、一層流れやすい。韓国は日本から機械を買い、工場をつくり、そこからできた生産物アメリカ輸出していった、これで非常にうまくいったわけであります。  アメリカは順調に成長し、ドル高によってインフレにならなかった。日本は順調に成長し、財政赤字をふやさないで済んだ。韓国は順調に成長し、経常収支赤字が耐えがたいほど大きくならなかった。このようなことでありますけれども、源のアメリカ経済が崩壊してくるということになりますと、これはいかんともしがたいわけでございますから、アメリカ財政均衡法等によりまして財政赤字を減らそうという努力を始めた。それと同時に、保護貿易によって輸入をとめる、これによってアメリカの再建を図っていく。当然のやり方だろうと思うわけであります。  そうなりますと、どういたしましても大量な物が流れてくる日本が最適なといいますか、批判の的になる。先ほど田中さんが言われましたように、GNPの三・六%の経常収支黒字を持ち、それから輸入制限品目は二十二品目もある、いろいろな非関税障壁と言われるようなものもないことはないというようなことであります。このことを打開するためには、言うまでもないことでございますけれども、円高に持っていくしか手がなかった、このようなことだろうと思われるわけであります。  アメリカは、昨年の四月来、このドル高不況によりまして景気が低迷し、金利が下がり出し、ドル安の気配が出てきた。ここで九月のG5によって、アメリカは、今までドル高がよかった、確かによかったわけでございますけれども、それをドル安の方がいいということを明らかに世界に宣言した、このようなことであります。十一月には、日本銀行はそれに歩調を合わせるように、金利を引き上げるべき段階でないにもかかわらず金利を引き上げて、円高の環境をつくり出した。日本は本気になって、国内均衡よりも対外均衡を優先することを世界に示した。このようなことで、いわば為替相場は管理された相場に移ってくる。その上に油の値段が下がってまいりましたので一層円高になってくる、このようなことであります。  そうなりますと、今度はアメリカ人が何を言ったか、日本政府の偉い方が何を言ったかということが為替相場に響いてくるわけであります。  アメリカでは、御案内のとおりベーカーさんの力が非常に強くなってきた、このようなことであります。ベーカーさんは、御案内のとおりテキサス州出身である。一番困っている産油業界のテキサス州出身でございます。ですから、ベーカーさんの立場とすれば、円高になればなるほどいいというような立場になるわけであります。一方、ボルカーさんのような、ドル安になってまいりますと不安が起きるというような立場、ドルが暴落して不安が起きるというような立場に対しましては、確かにドルは円に対して大変安うございますけれども、他のアメリカ貿易している諸国の通貨と比べますと決して安くはない、ドルはほとんど下がっていないわけであります。ですから、ドル資になる不安はそれほど強くない、こういうことでありますし、現在これだけ円高になりましても日本の長期資本収支、アメリカに対する資金の流出はそれほど減ってないということであります。  ということは、例えば現在アメリカの景気が下がりぎみでありますから、金利の先安感がある。ここに投資していけばキャピタルゲインが得られるということになりましょうし、生命保険会社のように長期の資産で、長期的な展望で投資しているところになりますと、現在日米金利差は三%でございます。三%というのは、来年三%円高になりましてとんとんだ、国内投資しているよりもとんとんだ、それで三%というのは、仮に百五十円と仮定いたしますと四円五十銭であります。来年百四十五円五十銭に下がってもとんとんだ、十年持っておりますと百五円になってもとんとんだ、まさか十年先には百五円にはなるまい、百二十円くらいじゃないかと思えば、買って十年間持ち続ければ国内投資するよりも採算が高い、こういうことになるわけであります。  それから、日本の株を買ったらどうか、これは何としても高過ぎる、ヨーロッパも株は高くなり過ぎた、最も投資の対象としてはアメリカであるというようなことでアメリカ資金が集まってきておりますから、ドル安の不安、ドルが暴落する不安は必ずしも強くない。このようなバックグラウンドがありますと、円高にどんどん持っていけるというような自信がベーカーさんにあるのではなかろうかというような推量ができるわけであります。そんなことから現在百五十円台に突っ込むかな、このようなところにやってきたわけであります。  円高の目的というのは、言うまでもなく輸出を減らして輸入をふやすことである、こういうことになりますから、当然のことながら輸出産業が不況に陥るということは一種の目標であるということになりますから、これはある意味では仕方がないことだ、こういうことになるわけであります。つまり、日本の国際的な地位から見て仕方がないことだということであります。もし、長期的に見て経常収支がバランスした——すぐにバランスするわけじゃございません。田中さんが言われたように、ことしはJカーブ効果が働きますから、経常収支黒字は七百から八百になるかもしれない。ですけれども、長期的にもし百五十円とか百六十円とかいったら、当然経常収支は間もなくバランスしてまいります。そのときはどういうことかといいますと、海外に向かっていた十数兆の需要が減る、こういうことであります。減らしっ放しですと不況になりますから、この十兆強を埋めるために内需を拡大しなければならないということになるわけであります。  十兆の内需の拡大、これは途方もないことであります。多分政治の仕組みといいますか、過去の仕組みを変えないとやっていけないだろう。例えば道路をつくるにいたしましても、道路をつくる当事者にターミナル、インターチェンジ付近の土地を数千ヘクタール先行投資を認める、これによって十数年たてば十倍くらい土地が値上がりいたしますので、それを売却して建設資金の返済に充てる。つまり、そのような企業といいますか公団は五十年債、百年債を発行できて、そして今までのようにターミナルができて、新幹線の駅ができて収益を上げた人が吐き出さないようなことをやめなければ、多分内需の拡大はできないだろうというような、ちょうど電電さんとか国鉄さんが民営化されるように、どうも大きな変化がなければ膨大な内需の拡大はできないだろうというような感じがいたします。  内需が仮に拡大できれば、現在考えてみれば毎年五百億ドルのものと六百億ドル資金を、我々よりもはるかに経済力が強いアメリカを中心として供給しているわけですから、これを国内に供給できればもっともっと我々の生活は豊かになるはずだ、当然のことであります。多分アメリカ人が成田にやってきて、この辺まで自動車でやってきたときに、あたりを見ますとこの住宅、東京だけかもわかりませんけれども、東京は特に住宅事情が貧困でございます。あれを見ながらやってきて、頭の中で経常収支が五百億ドル、資本収支が六百億ドル赤字だ、これを見たならば、多分飢餓輸出と考えるに違いないというふうに思われるわけであります。ですから、私はそこから先は田中さんと反対でございまして、内需拡大のためには猛烈に働かなければならないというような気がいたすわけであります。  特に、コンセンサスづくりというような大変な仕事があります。コンセンサスづくりのためには、何か労働時間を短縮したらコンセンサスづくりはできないかもしれないというような気すらいたすわけであります。さしあたっては多分——経済というのは、谷深ければ山高しでございます。百五十円に突っ込んだら次には必ず円安になるはずだ、次の円安はことしの年末ころ、あるいは百八十円くらいになるかもしれないと思われます。これはアメリカ金利が下がれば景気が上昇し始める、上昇し始めると金利が上がる、日米金利差が拡大する。  日本がなぜアメリカに資本進出やいろいろなものをしていくか、あるいは途上国や韓国に工場を出していくか、無論向こうの方がもうかるからであります。なぜもうかるか。日本の土地代は工場をつくれば五万円強、アメリカでつくれば数千円である。アメリカで新聞広告を出せば数百倍の労働者が集まってきてくれる。その上、日本はもうけますと法人税の実質課税が五二%、アメリカは平均すれば三〇%前後であります。ですから、当然日本工場をつくればつくるほどもうからないかもしれないということで、ちょうどボルグやステンマルクが母国を捨てたように、企業はもうからない母国を捨てて海外に出ていくというようなことが円高によってさらに生ずるかもしれない。このようなことが生じないためには、広い意味で内需を拡大して国内の収益期待を拡大しておかないと資本が逃げてしまうのかな、こんなような感じがいたすわけであります。そんなような意味で申し上げますと、現在は内需拡大が国内にとっても必要でございますし、それから日本の国際的地位を考えましても、こんな大きな国が経常収支GNPの三・六%、到底許されない事態であるということであります。  ちょうど比喩的に申し上げれば、我々は現在アメリカの大都市に行って、そこのホテルのエレベーターの中でアメリカの悪口を言えなくなった。つまり、だれかが日本語がわかるようになったということでありますし、どこへ行きましても日本食が食えるようになった。私も海外でしばしば、毎年講演しておりますけれども、今から十年くらい前でいきますと、余談で恐縮ですけれども、質問がとんちんかんであった。つまり、彼らに私の英語が通じていなかったということでありますけれども、現在は冗談を言えば笑うようになった。質問も的確である。私の英語が進歩するはずがない。じゃ、なぜか。彼らのジャパニーズイングリッシュに対するヒアリング能力が急速に高まった。つまり、現在はRだろうがLだろうがどうでもよくなった。彼らが識別してくれるようになった。このような経済大国になりましたら、当然のことながら現在の国際的な役割は、内需を拡大することこそ日本の国際化ではなかろうか、このような感じがしているわけであります。  甚だ口幅ったいことを申し上げましたけれども、以上で御報告申し上げます。
  6. 北川石松

    北川委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人からの御意見の開陳は終わりました。
  7. 北川石松

    北川委員長 これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。西山敬次郎君。
  8. 西山敬次郎

    西山委員 ただいま両先生の非常に有益なお話、ありがとうございました。  昨今の急激な円高、その原因が我が国経常収支の大幅な黒字にあることはもちろんでございますが、きのうベーカー財務長官が証言したということをけさも各報道機関が報じております。その内容を見ておりますと、報道機関によって非常にばらつきがあるわけでございまして、大まかに見てみますと、ある報道機関ではドル高是正はほぼ達成したとか、「以前の円に対する切り上げ分を十分に埋め合わせた」と書いております。また一方では、適正水準は設定しないのだ、あるいはターゲットは設けないのだということを報道しているわけでございまして、いろいろな報道の仕方があるものでございますが、私はこの円高というものに対しまして適正水準とかいうものは恐らく設けがたいものじゃなかろうか、計算はしにくいのじゃなかろうかと思うわけでございます。  あえて言うなれば、ターゲットといいますと、恐らくベーカーはターゲットという表現をしたと思うわけでございますが、これを適正水準と訳しておる方がおかしいのでございまして、目標値というものはある程度国の政策として決めるべきじゃなかろうかと思うわけでございますが、それにつきましての御見解竹内先生にお伺いしたいと思うわけでございます。
  9. 竹内宏

    竹内参考人 御指摘のとおり、ターゲットというのは多分人によって立場が違うだろうと思います。通常でいきますと、経常収支がバランスするというのが多分ターゲットだろうと思いますけれども、政治的なターゲットになりますと、円高によってアメリカの産業の輸出が増大し輸入が減少することによって、景気刺激効果が明らかに出たというのが政治的なターゲットだろう、短期的なターゲットだろうと思われるわけであります。ですから、ターゲットの内容が甚だその人の立場立場によって多分違うだろう。ベーカーさんは、今までもっと円高をやれというような強行論者でございますし、御案内のとおりアメリカ政府の中におけるリーダーシップを発揮されている、このようなことだろうと思います。  さしあたって、アメリカ輸出が伸び出し、輸入が減り出したのですけれども、多分これから見ますと、先ほどもちょっと触れましたように、日本経常収支黒字はさらに拡大していく、事によったら円安に向かうかもしれない、そのときになりましたらさらにベーカーさんの発言が変わってくるだろう、ターゲットはもっともっと円高のターゲットをやらなきゃいけない、こういうことになるのかなというような感じがいたします。  それで、ドルを持っている国がドル安にしようというのは、ある意味では簡単であります。日本も、円安にしようと思ったらこれはできますけれども、逆はなかなかとりにくい、相手の協力がなければとりにくい、こういうことでありますから、ベーカーさんの発言の内容が為替市場に与える影響は大変大きいというようなことでございます。ベーカーさんは、果たして妥当かどうかということをお考えかどうかよくわかりませんけれども、現在はあるいは事によったら妥当とお考えになっているかもしれない。ですけれども、間もなく政治的に妥当と考えられないような事態が、経常収支黒字が拡大してまいりますので、また発言内容が変わられるのかな、このような印象を持っております。
  10. 西山敬次郎

    西山委員 そういうふうに、通貨当局の発言というものは為替の相場に非常に大きな影響を与えるわけでございまして、先般も日本のある通貨責任者が発言したばかりに、円高誘導ということでまた急速な、百六十円を割るような事態になったわけてございます。  私は、為替相場というものは、ある程度高くなるということは円高メリットがあるわけでございまして、そのデメリットがあるからこそ問題であるわけでございますが、水準あるいはターゲットというよりもむしろその変動が急速であるということが問題じゃなかろうかと思うわけでございます。  そこからいたしますと、前回の昭和五十二年の円高のときには、六月に始まったわけでございますが、当時は一日に一円幅くらいずつしか上がらなかった。それが今回は、昨年の九月二十日に対しまして、G5の操作の結果、翌日の二十四日には一挙に十二円も上がって二百三十円になったということがあるにもかかわらず、なお円高誘導したというところに問題があったのじゃなかろうかと思うわけでございます。  その辺につきまして、ターゲットの置き方が問題か、あるいは急速なものが問題になるのか、その辺のところにつきまして田中先生、ひとつ御見解をお伺いしたいと思います。
  11. 田中直毅

    田中参考人 私は、ターゲットを変動相場制のもとにおいて政府が設定することは無理だろうと思います。現在、世界貿易はおおよそ二兆ドルの規模で行われておりますが、世界における為替取引は、年間で四十兆ドルから五十兆ドルに上っておるというふうに言われております。そういう意味では、いろいろな思惑を含めたお金の流れがこの為替の価格を決めているわけでございまして、たとえ政府の協調的な動きがあったとしても、とてもこれを特定の水準で買い支えるということはもう不可能になっているかと思います。  それでは、先ほどのG5ではなぜ動いたのかということでございます。これは、それまでドルが異常な高さだったということもございますが、アメリカ政府がこれまで自国の通貨を明らかに下げる、下げる目的で介入すると言ったことはなかったわけでございまして、このことが為替市場が全く織り込んでなかった要素でございます。そして、アメリカドルを売ると言った場合には、これは幾らでも売れるわけでございます。売るアメリカ政府部門の手元はガラス張りで見えるわけでございますが、輪転機がついておりまして、ドルを売ると言った場合には幾らでも売れる。一九七〇年代、カーター政権でドルを買い支えると言ったときには、アメリカの場合は外貨で、例えば西ドイツのマルクとか円というものを見せ金にして、これで円なりマルクなりを売りましてそしてドルを買う、こういう操作をすると言ったわけですが、ガラス張りの向こう側に見えますのはほんの少しのマルクとか円だったわけです。今回ばかりは、今までは売ると言ったことのないドルをあえて値段を下げる、しかも横には輪転機がついているということですと、これは黙ってついた方がいいという思惑が為替市場に一挙に走った。これがおっしゃいましたような大幅なドル安につながったんだろうと思います。  ただ、現在のような例えば一ドル百六十円前後になりますと、為替の担当者はかなり先行きについて注意深く、ゴージャスという表現が多いようですが、注意深くなっております。投機筋と言われるところの人たちも、ポジションを決して積み上げておりません。先物において円を極端に買い込んでいるとか、あるいはドルを売り込んでいるという姿にはなっておりません。ポジションそのものは積み上がってないというのが特徴かと思います。そういう意味では、決してこの一ドル百六十円前後のところでポジションの偏りが物すごくできているというわけではないと思います。  そういう情勢を見計らってベーカー財務長官が、ある程度ドルを下げることに成功した、当初ドルは四割高だとか五割高だとか言われておりましたので、ほぼその辺のところは来た、これからは為替市場に任せていい、こういう判断であろうかと思います。ですから、例えば百六十円でもういいと言ったわけではなくて、ほぼこのG5以降の流れの中の政府の意図的な動きはここらあたりでとめていいという表現だというふうに私は理解いたしております。
  12. 西山敬次郎

    西山委員 もう時間がありませんのであれでございますが、円高に対する対策といたしまして、円高のデメリットに、対してとるべき措置はいろいろあり得るわけでございますが、まずはやはり基本的には経常収支黒字幅を縮小させなきゃならない。そのために、田中先生のおっしゃいました労働時間の短縮というのは私は一つの案であるとは思いますが、ある意見を聞いておりますと、日本人は二宮尊徳型から急速に小原庄助型に変わることはなかなかいけないのじゃないかという御意見もございます。私はごもっともだと思います。そういった意味におきまして、やはり労働時間の短縮という対策は私はもう一つ賛成しかねるわけでございますが、まあそれは見解の相違でございましょう。  それとともにもう一つは、短期的な対策といたしまして、協調介入といろいろ言いますけれども、介入ということが非常に特効薬のように言われますが、私は、介入というのはいわば麻薬だと思うのです。こんなものはやむを得ないときにやるわけでありまして、これによって投機業者をいたずらに得させるというようなことになる可能性もあるわけでございますので、介入はできるだけ避けていくべきでありまして、基本的には、先ほど申し上げました抜本的な対策を講ずるとともに、被害に対しましては、デメリットに対しましては中小企業対策、これを十分とるべきだ。その点におきまして、国際的にはアンフェアであるという非難もあり得るかもしれませんけれども、そういうことは遠慮しないで、どんどん中小企業の救済策はとるべきであろうと思うわけでございますが、両先生、いかがでございますか。
  13. 竹内宏

    竹内参考人 賛成でございますけれども、ただ、輸出が伸びなくなって困難になった中小企業を再び輸出を伸ばすような形で援助いたしますと、これは御案内のとおりガット違反になりますし、国際摩擦の原因になる、こういうことでございますから、内需とか他の部門に転換がスムーズになるような援助とか、それから転換がうまくいくような経済環境、つまり景気をよくするとかそのような政策が必要かと、このように考えております。
  14. 田中直毅

    田中参考人 私は、安くなるものが安くなる仕組みをつくった方がいいのではないかというふうに思っています。中小企業対策、必要だろうと思いますが、実際の予算を見てみましても、二千億円強ぐらいかと記憶いたしておりますが、そんなにふえる性格のものではないのではないかというふうに思っておりまして、効果のほどは先生方が主張されるほどには私はないのではないかというふうに思っておりまして、もっと下がるものが下がって、安い資材が手に入って、それで事業機会を新しい分野でふやすという工夫を中小企業の人人ができるような仕組みをつくった方が私はいいというふうに感じております。
  15. 西山敬次郎

    西山委員 終わります。
  16. 北川石松

    北川委員長 次に、土井たか子君。
  17. 土井たか子

    ○土井委員 本日は、大変お忙しい中を参考人ふして御出席をいただきました田中直毅参考人竹内参考人に、まずお礼を申し上げたいと思い童す。ありがとうございました。  それで、お話承っていても、これなかなか難しい問題なんですね。最近は、円高問題に対して論評する論文とか論考があたりに出回っておりまして、これはもう読み始めましたらなかなか時間が足りなくて、毎日そればかりに明け暮れるというふうなことにもなってしまいかねないのでありますが、一言で言いまして、この異常とも言えるようなただいまの急激な円高の原因はどこにあるかということをお尋ねすれば、最も主要な原因はここであるということのお考えを披瀝していただけませんかで両先生、まず田中先生から。
  18. 田中直毅

    田中参考人 それが多分、これだというふうに一つ申し上げるのはなかなか難しいんだろうと思いますが、日本経常収支黒字をかなり上げていたときに、日本の通商交渉とかあるいは日本の有識者が海外に出かけていろいろ議論したときに、海外から買うものはないとか、およそ働きが諸君らの方が悪いのではないかという、それに類した発言が多いという中で、そんなに買うものがないというんだったら、買えるだけ円高くなってもらおうじゃありませんかと。日本経済構造を変えるべきという議論は随分政府からも出てきまして、去年の夏にはアクションプログラム、ごく最近では前川リポート、経構研報告というのがあったわけですが、どうも本当に海外でいら立ちを隠さない人は、日本はプログラムとかリポートだけ出している、例えば去年の夏だったらアクションプログラムというのですが、プログラムは要らない、アクションをとれと。それからリポートということで、リポートだけ出て、それで話が終わったというのではとてものめない。  先ほど申し上げたのですが、膨大な経常収支黒字が出ているわけですから、それを均衡化、経常収支黒字を減らすための経済構造の変革というものにそれほど熱心でない、プログラムとリポートを出していればいいということだったら、もう円という唯一価格市場といいますか、一つだけ市場があるわけで、経済構造評価経済構造の変革についてのレビューというのは、国際的には内政干渉にわたってできないわけですね。一応要望は出したとしても、最終的にはそれぞれの国がすることだ。だとすれば、一つだけある為替市場というところで帳じりを合わさせてもらいますよというのが、現在の異常な円高につながっているというふうに私は思います。
  19. 竹内宏

    竹内参考人 私は、第一番目には、アメリカ財政赤字のツケが回ったというのが第一であります。  それから第二番目には、日本では人々が保守的になりまして、変化を嫌うようになったというのが第二番目だと思います。ですから、思い切った内需を拡大するような政策といいますか、そのような実際の事業に対して反対者が極めて多いということになりますし、それから、消費を拡大しようと思いましても、東京の人々がどこかに行こう、日曜に行こうと思ったら大混雑でありますから、極めて高いサービスの購入しかできないということになりますと、テレビでごろ寝が最もいいというようなことになるわけであります。  ですから、そのような意味で、日本全体の中で日本生活水準を上げるための大きな考え方ができにくくなったというようなこと、つまり利権を持っている多くの人々が利権を持つことこそ正義であるというふうに考え出した、このようなところが問題だろう、このように存じておるわけであります。
  20. 土井たか子

    ○土井委員 今そういうふうなお答えをいただきました、御見解のほど聞かしていただきました中身からいたしましても、つくづく私たち思いますことは、これはきょうあす早急に対策を講じてどうのこうのすることはとても難しい問題ばかりなんですよね。ところが、どうも性格が性急であるのか、特効薬とか即効性のある問題に飛びつく嫌いが過剰であるのかよくわかりませんけれども、今回の例の東京サミットに対しての期待というのはもう非常に過剰なものでございまして、どうも東京サミット円高に対する対策が手ぬるい、円高に対しての見込み違いであった、これの責任は挙げて政府にあるという詰め方が東京サミットについては連日なされるわけであります。私どもも、政府の責任は非常に重大であるということを認識して、再々この外務委員会の場所でもそういう質問を展開しているわけでありますが、田中先生はサミットの前後にわたって、新聞にもサミットに対しての論評を披瀝されていらっしゃいます。  ちょっと田中先生にお伺いするのですが、サミットに対して日本政府の側の何か見込み違いがあったとすると、対応でどこに誤りがあったのか、これはどういうふうにお考えになっていらっしゃるかというのを、新聞の論考は論考として、何かここで御見解を承ることができればと思いますが、いかがでございますか。
  21. 田中直毅

    田中参考人 国内の産業人、そして生活する立場からいきますと、円高はほどほどのところでとめてほしい、円高に歯どめをかけてほしいというのが政府に対する期待としてあったことは、私は間違いないだろうというふうに思います。問題は、それを政府がどういう形で交渉の場に上げたかということでございますが、直接、多分物の言い方としては、これ以上の円高には耐えられないという言い方だったろうと思います。しかし、これでは、例えばアメリカの同意はやはり得られなかったというふうに私は思います。  問題のプリゼンテーションの仕方として、円が問題だという言い方をしますと、先ほども言いましたように、異常な経常収支黒字が出ているわけですから、これはもうつらいというふうに言いますと、先ほどもちょっと言ったのですが、ワニのそら涙だという極めて冷淡な反応が返ってくるわけでございまして、問題はやはりドルだというふうに言うべきではなかったかというふうに思います。ドルが異常に安くなる、あるいは今後まだ不安だということについては、国際的な世論が、国際的に見てそれは問題だ、だからドルの価値をそろそろ議論しようというふうに問題を提示するならば、私は、アメリカはそれを拒否することができなかっただろうと思います。  現在アメリカの連銀には、一日およそ一兆ドルのしりが寄せられます。各銀行が持ち寄るわけですが、これは例えば円と西ドイツ・マルクとの決済を考えてみましても、かなり多くが実際にはドルを介して決済されるという、ドル世界の決済の通貨として今日まで続いている。これが連銀が一日一兆ドルという日本GNPの半分くらい、もう六割くらいに相当する決済を迫られている。ですから、もしドルに不安が起きるということになりますと、ドルを持っていて、一週間後あるいは十日後に大きく下がるというような通貨になりますと、これは決済通貨としてドルを手元に置いておけないということになるわけでございまして、それは世界の決済制度がかなり不安になる、これはもう国際経済不安に近づくわけでして、これまでの半年間のドルの下がり方というのは、余りにも急激過ぎるという問題の提示の仕方はできたように思います。それを円が、円高でつらいという提示の仕方では納得を得られなかった、ドルの問題として、ドルの安定性の問題として提示すれば、もう少し具体的な成果が得られたのではというふうに感じております。
  22. 土井たか子

    ○土井委員 今の田中先生の御発言を承っておりまして、私の方の理解に間違いかなければ、これは簡単に言えばただいまの異常な円高というのは、先ほど竹内先生からも御発言がございましたけれども、アメリカの側の財政赤字のツケがこういう格好で回されてきているんだ、一言で言ったらそういう表現が成り立つ。そうすると、簡単に言うと、これはアメリカ経済戦略という形で、今円高というのが急激な円高になってきたというふうに理解していいのですか、どうでございますか。
  23. 竹内宏

    竹内参考人 多分、原因の六割から七割はアメリカにあるというように思うわけでございますけれども、ただ、そう言っても始まらないということであります。それともう一つは、アメリカ日本から大量の物を買ってもらっているわけでございますから、日本にしてみるとお客さんでございますから、やはり消費者は神様だと同じようにアメリカに対していろんな立場の弱い面もありますし、とにかくこちらが黒字だ、この点が大変弱いわけでございますので、どうも現在は原因の議論は多少無理かなというような感じがいたしますけれども、私は明らかに大部分の原因はアメリカにある、こういうように思っております。
  24. 土井たか子

    ○土井委員 田中先生もそのようにお考えになりますか。
  25. 田中直毅

    田中参考人 アメリカが意図したことは間違いないだろうと思います。去年の六月に、アメリカの上院で決議案が通りました。それは、ドルの値段を下げるべきだという決議案でございます。日本の議会と違いましてアメリカはやたら決議案が出るものですから、ついつい我々見逃してしまうわけですが、ビル・ブラットレーというニュージャージー出身の民主党議員が提案した、ドルを下げるべきだ、財務省に対してこれを要求するというのが去年の六月に通って、その後財務省はドルを下げる方向で、日本との打ち合わせを始めたというふうに最近見られております。これが去年の九月のG5につながっていくわけでございますから、アメリカが明らかに八〇年代前半ドル高時代と違って、ドルを安くすることによって新しい経済秩序をつくり上げようとしていることは、これは私は間違いない事実だろうと思います。  その最大の要因は、アメリカの議会における保護主義の高まり、この保護主義の高まりに何か形を、それをコントロールするためにはどうしても行政府が、今までドル高放置をしていたわけですが、それに対してドルを安くするという介入、いろんな動きをせざるを得なくなった、これが今日までの動きだろうと思います。そして、今日においてもまだドルは下がっていいと、ベーカー財務長官は本音では思っていると私は思います。それは現在、アメリカにおける期待インフレ率、将来どのくらいインフレになろうかという見込みがかなり低下しておりまして、さらに円高ドル安が生まれたとしてもアメリカインフレの火種を抱える可能性は少ない、それだったらアメリカの議会の保護主義、現在もまた秋の中間選挙を控えて高まり始めているわけですが、それとのバランスでいくと、円高はまだあってもいいと考えているだろうと思います。そういう意味では、私は、アメリカの行政府の戦略というべきかどうかわかりませんが、思惑というものが今日の大きな流れをつくり上げていることは間違いないと判断いたしております。
  26. 土井たか子

    ○土井委員 この円高という現象について言うと、大変なデメリットがある反面でメリットもあると思うのですね。そしてまた、この問題に対しては、緊急に何らかの対策を講じなければならない問題もあれば、抜本策として、円高であるがゆえにただいま制度改革等々についても手がつけられるという問題もあろうかと思うのですね。先ほど来ずっと承ってまいりました中に、メリットの問題も触れていただいているわけでありますけれども、しかし、現実の問題とすれば、中小企業の中では倒産が相次ぐということが、現実、特に輸出関連の企業に関連して、地域別に見てまいりますと、相当集中的に関西あたりでは深刻な問題になってまいっております。そういうことからすると、緊急に対策を何とか講じなければならないという側面もこれは否めない。  そこで、お尋ねをまずその点についていたしますが、低利で融資をするとか、それからつなぎ融資をするとかいうふうなことの必要があるのではないかということもしきりに言われておりますし、御存じのとおり、特定産業構造改善臨時措置法がやがて期限切れになりますから、それをめぐってこれに対しての延長の是非の問題も、ただいまの円高と関連をして非常に具体的に問題にされるという側面もございます。ひとつその中小企業対策と申しますか、ただいまの、それはもうあっぷあっぷしている状況に対して、どういうふうにすることが今緊急の問題として必要であるというふうにお考えになるかどうか、その辺はいかがなものですか。
  27. 竹内宏

    竹内参考人 先ほども申し上げましたように、輸出主導型の中小企業を輸出主導型のように再生させることは国際的に不可能であるということであります。ですから、現在でも円高によって日本経済はそれほど致命的な打撃を受けていない。というのは、二百四十円台でかなりもうけられたということでありますから、その余力がまだ残っております。それを言ってみれば、企業体質が強くなった、このようなことかなと思われるわけであります。ですけれども、実際には地域では随分お困りになっているところもあるに違いないし、実際、御指摘のような関西のようなところを中心に大変なデメリットを受けております。  もちろん、北海道とか九州南部は全く円高と関係のない生活をされている、こういうようなことでございますけれども、ただ、その救済につきましては、先ほど申し上げましたように、できるならば日本産業構造を変えやすい環境をつくり上げるということだろうと思います。つまり、景気を悪くしないということが非常に重要であるというように思われるわけであります。それから第二番目には、できるならば転換資金みたいなものの供給は大いにやっていただきたい、こういうふうに思うわけでございますけれども、ただ、古い形の再生ということになりますと、何のために円高になったかわからないというようなことになるのかなということであります。  ただ、口幅ったいようなことでございますけれども、円高議論は、先ほど御指摘のようなアメリカが悪いか日本が悪いか、このような問題になるわけでございますけれども、それは同時に、どちらが譲り合うか、国内事情としてどちらが譲り合うかということだろうと思います。アメリカ財政赤字が原因である、アメリカ財政赤字アメリカ国内事情によって発生した、このようなことになるわけでございます。それに対しまして日本も、国内事情によっていろいろな企業倒産が起きる、これをどこまで援助するか、これも一つの国内事情になる。この円高をめぐる問題は、まさにお互いの国内事情同士の対決かな、このような感じがしているわけであります。  ちょうど、よく存じませんけれども、比喩的で実際の例ではありませんけれども、アメリカでカリフォルニア州の選出の政治家の方は、多分オレンジの自由化を認めさせないと彼の政治的生命は絶たれるかもしれない、私のふるさとの静岡県選出の代議士さんは、オレンジの自由化を認めたら彼の政治的生命は絶たれるかもしれないというような国内事情同士の争いが円高になっているといいますか、円高をめぐる争いだ、このようなことになるわけでございますから、その面でいきますと、中小企業の産地の再生の方向は今までと同じ方向をとりますと、これは大変な国際問題になるというようなことでございますから、その転換の方向をはっきりといいますか、何か援助するような助成の仕方が重要かな、こんなように存じているわけでございます。
  28. 土井たか子

    ○土井委員 竹内参考人の御意見を聞いておりますと、輸出型の産業構造というのは、改革をしないともうどん詰まりであるというふうなことを先ほど来お述べになっていらっしゃるのを承りまして、私も、輸出産業型というのには限界があるということもよくわかるわけですが、ただ、内需拡大ということからして、先ほどそのためには猛烈に働くことが非常に大事だということをおっしゃったわけですね。猛烈に働きましても、可処分所得が内需拡大のためにきちっと備わっていないと、勤労国民の間には猛烈に働いて、しかも内需拡大にそれがつながるかというと必ずしもそうはまいりません。今までは、やはり輸出型の産業に依存した中身において、今日まで引きずってきたという側面も重々にしてあるわけでありますから、そういうことからしますと、内需拡大のために猛烈に働くことが大事だというのがどうもぴんとこぬのです。  むしろ田中参考人のおっしゃるように、時間短縮というのが私たちに問われている急を要する問題だ。国際的に考えても、日本の長時間労働というのはもう有名過ぎるくらい有名でありまして、どこに行ったってこれは非難の的になるわけでありまして、単に外国からそういう批判を受けるからということではなくて、やはり日本の勤労のあり方がどうであるか、日本産業構造をどのようにつくり変えていくことが必要であるかということを長期的な視野で考えても、これは短時間労働に持っていくということは非常に問われている大事な問題だと私は思うのですね。内需拡大のためにばりばり働くことが大事だとおっしゃっている意味がもう一つ私にはよくつかみ切れないのですが、もう少しその辺は、田中先生はどういうふうにお思いになるかというのをちょっと聞かせていただけませんか。
  29. 田中直毅

    田中参考人 まず、竹内さんがもっと働けと言われたのは、多分根回しをするような立場にある方はもっと働けということで、一般勤労層はもっと休んでいいという意味だと私は受け取ったのですが、これは土井先生の受けとめ方と違うかもしれません。  おっしゃるように内需拡大は重要なんですが、賃金の決まり方がこの二、三年少し低過ぎたという感じは私は持っております。八三年度の実質労働生産性の伸びは、事後的に二・四%でございました。これに対して名目賃金上昇率は、終わってみると二・三%。名目賃金上昇率が実質労働生産性の伸びを若干ですが下回っております。八四年をとってみますと、これも事後的でございますが、実質労働生産性の伸びは四%であった、名目賃金上昇率は三・八%ということで、賃金の上昇率がここのところやはり下振れしている。今から考えてみれば、賃金がもう少し上がっていてもよかったのではないかというのがどうも経済の姿になっているわけでして、内需がなかなか盛り上がらない一つの原因は賃金の決まり方にあるということでございます。  ただ、賃金については労使間で決まることでありまして、政府なり国会がとやかく言うべき筋合いのものだとは思いませんが、労使間における賃金決定においてもう少し多面的な要因が反映されてしかるべきではないかというふうに感じております。
  30. 土井たか子

    ○土井委員 竹内先生、御意見がございますでしょうか。
  31. 竹内宏

    竹内参考人 私がよく働けと申しますのは、東京の住宅街もどこも先進国と比べると余りにも惨めだ、これで遊んでいいのかという気が第一にいたします。ですから、我々が努力すれば、我々の環境は世界最高の環境になるだけのマンパワーと資金と資材は持っている、ただ仕組みがないだけだということであります。  それから第二番目に、先ほど田中さんもまさに言われたように労使間でいろんなことが決まるわけでございますけれども、もし労働時間を短縮したならば、中小企業は見るも無残に韓国に負けていくというようなことでございます。ですから、そのあたりは非常にフレキシブルに考えなければいけないのかな、こんなような感じがしております。
  32. 土井たか子

    ○土井委員 あと二問申し上げまして、二問ともについてもし御見解を承ることができればひとつお聞かせをいただいて、河上委員の方に時間を持っていかなければなりません。  あと二問は、先ほどメリットの点が十分に生かされてないということもおっしゃいました。昨日、電気、ガスの方の料金の、期間も決められた期間しか考えられておりませんし、中身からいっても昨日のいろいろな論評を聞いておりますと、どうも計算上も料金の値下げというのはもうちょっと大幅にできるのではあるまいかという意見もございました。ガス、電気のみならずもう少し抜本的に、この節メリットの点についてどんとやらなければならないときではないかという気がしてならないわけでありますけれども、こういうことについての御意見を承らしていただきたいのが一つ。  それからあと一つは、第四次公定歩合の引き下げというのは必要であるかどうかという問題ですね。その見通しについて、どうお考えになっていらっしゃるかという問題です。この二問をひとつお聞かせいただきまして……。
  33. 田中直毅

    田中参考人 おっしゃるように、円高メリットがもっと出るべきだと思います。電力とガスについては、還元の水準についてはいろいろ議論があると思いますが、私は一番問題なのは、本来もっと早く、円高が起きたときからすぐ機動的に行われる仕組みが必要であったのにこれまで延びている、これが円高デフレを強めている、デフレ論を強めている大きな要因だと思います。その他からいきますと、やはり食管会計の政府部門の赤字を縮小する形で吸収されてしまっている。小麦の価格が下がらない。食肉について言いますと、価格支持制度生産者の保護が図られていて、輸入食肉が現実に安く手に入らない。時々畜産振興事業団で安売りデーと、食いだめができない肉をある日だけ安くしてもらっても、食べ盛りの子供に食わせるわけにもいきませんので、これも本来政府部門の赤字を解消するという形で使われていて、消費者に届いてないというのも、この仕組みも私はおかしい、もっと本格的な審議がなされてしかるべきだろうと思います。  第四次公定歩合引き下げについては、現在既に三・五%の公定歩合水準になっておりまして、普通預金についてはもうほとんど金利がつけられない状態です。今度公定歩合を下げますと、普通預金の金利はつかないという状態に、恐らく現在の仕組みを前提にすればなるかと思います。言うならば、今度公定歩合を下げますとこれが打ちどめ、その後はなし、もしその後下げるということになりますと、お金を借りてもらった人には余分にお金を差し上げるとか、お金を預かってあげた方からはお金をいただくという仕組みになりまして、これはスイスが、海外からスイスに預金する人に対してそういう仕組みをとったことはございますが、国内の居住者に対して百円預かって一年後には九十九円でお支払いいたしますということは、これはあり得ない。みんなたんす預金に回ってしまうわけですから、現在の水準前提にしますと、日本銀行はこれが決定打だという局面でないと、なかなかに公定歩合の引き下げはできないのではないかと私は思っております。
  34. 竹内宏

    竹内参考人 おっしゃるように、電力料金差額一兆五千億弱吐き出した。これは、政府の今度の景気対策の中で財政投融資九千億を拡大する、それから公共事業前倒し八〇%、後半穴があきますから多分補正予算が組まれるに違いない、これが二兆ぐらいいくだろう、そうすると三兆でございますけれども、三兆の半分の額が電力会社から出てきた、こういうことになるわけであります。実際に企画庁の計算によりますと、〇・七%消費者物価がこれで上がらなくても済む、このような計算になっております。勤労者平均の税引き後の所得は五百万円弱でありますから、仮に五百万円といたしますと、五、七、三十五、三十五万円の減税があっただけの効果があった、こういうことでありますから、できるだけ早く円高メリットを還元する、これがぜひ必要なことだろう。  ですから、先ほど田中さんが言われましたようにもっと早くやるべきであった、そのかわり円安になったり石油価格が上がったら、直ちに電力料金を引き上げることがスムーズにできるというような体制が必要だろう、こんなような気がいたします。そのような前提のもとで直ちにもっと引き下げるべきだ、こんなふうに考えております。
  35. 土井たか子

    ○土井委員 どうもありがとうございました。
  36. 北川石松

    北川委員長 次に、河上民雄君。
  37. 河上民雄

    ○河上委員 きょう、お二人の先生にわざわざお忙しいところをおいでいただいて、ありがとうございました。もう既に、大体先生方のお考えもだんだんはっきり例えるようになってきているわけでございますが、先ほど来お話がございました東京サミットの歴史的な位置づけといいますか、そんなことについて両先生のお考えを伺いたいなという気がいたしております。  それは、日本では東京サミットで何か円高について歯どめが得られるのではないかという期待がありまして、特にレーガン大統領が中曽根首相夫人にキスをしたときには、その程度のことはあるのではないかと期待したのでありますけれども、キスだけで何もなかった、大変冷淡であった、こういうお話でございまして、どうも円高に関しては、七カ国集まりまして六対一というような感じになっておったような気がするのでございます。その背景というものはどういうものかと考えますときに、これがいわゆるレートの変動に伴う一時的なものなのか、それとも日本経済力というのが、ある意味世界の中で占める地位が非常に大きくなったことに対する世界の一つの反応であるのかということをちょっと考えるわけであります。  第一次大戦後、いわゆるワシントン会議というのがございまして、このときは経済力というよりもむしろ軍事力だと思うのですけれども、日本に対する包囲網ができたというふうに当時の人たちは感じておりまして、近衛文麿公の有名な、どうも間違っているかもしれませんが、「英米本位の平和主義を排す」というような論文を書いたりしたのであります。そんなふうに言っては大変まずいのではないかと思うのです。そのころは幣原外交というものも始まっていくわけで、英米の許す範囲内でアジアで日本が進出する。  もう一つは、当時はまだ無名であったかと思いますけれども、東洋経済新報社の社説で石橋湛山氏が一切を捨つるの覚悟ということで、朝鮮、満州、台湾は捨てようと言って、一切の植民地を捨てることが日本世界で生きていける唯一の道だということを言いまして、それから二十四年たちましたときには結局石橋湛山の言ったことが一番正しかったことになるわけでありますが、現在、ではどういうふうにしたらよいのか。近衛文麿公のように、どうも英米の枠は勝手なもので突き返せばいい、こういうふうでいいのでないとした場合にはどういう形が一番よいとお考えになっているか、お伺いしたいと思います。
  38. 田中直毅

    田中参考人 日本に対するアメリカからの要求というのは、多分二つあるのだろうと思うのです。一つは、もっと買い手になれということだと思うのです。それからもう一つは、国際社会に対してどういう責任を果たすのか明らかにしろということだと思うのです。これが円レート議論に絡まってくるのだというふうに私は理解しております。  一つは、買い手になれという話なんですが、これは一九八〇年代の前半アメリカというのは、確かに財政赤字を放置したという責任は免れませんが、もう一つ、世界経済に果たした役割からいきますと、世界に対して買い手として振る舞った。このことが、例えば日本周辺のアジア諸国の経済発展に大きく寄与したことは間違いございません。そういう意味では、アメリカ向けの輸出でもって大いに潤う国々、そして生活水準を引き上げることができた、産業基盤をつくり上げることができた国がいっぱいあるわけであります。この間、日本はほとんど買い手としては振る舞っておりません。購入金額はほとんど横ばいでございますし、製品輸入ということからいきますと、円安ということもありまして買わなかった。もうそういう時代は終わったのではないか。日本は、もっと世界に対して買い手として振る舞うべし。その望ましいのは、そういう形になるのはやはり円高円高になれば買い手になるわけでございまして、円高にして世界に対して買い手になる、特に途上国に対して買い手になることがやはりアメリカのグローバルなといいますか、世界的なことを視野に置いた上での一つの対日要求だというふうに私は思っております。  それからもう一つは、経常収支黒字がこれだけ高くなってまいりますと、どういう国際的責任を果たすのか。無論レーガン政権は、軍事について随分日本に要求を言ってきているわけでございますが、非軍事の分野においても日本の果たすべき役割があるという言い方は、レーガン政権の周辺からはかなり強まっているように私には思われます。そういう意味では、例えば援助の問題にしろ、あるいは国際公共負担という言葉も少しずつ定着し始めておりますが、世界の枠組みをつくり上げる上にどういう貢献をするのだ、途上国の累積債務の問題等々も含めてそれも要求している。そのことに対して注意を喚起するためにも一層の円高が望ましい、日本で、そういう円高の中でそういう議論が起きることがアメリカにとっても、またグローバルに見ても望ましいという判断は米国にあるのだろうというふうに、私は理解いたしております。
  39. 竹内宏

    竹内参考人 御指摘のように、現在はアメリカの立場に協力して円高に持っていっているというようなことだと思います。ですから、円高はけしからぬというのは、言うまでもなくナショナリズムの反映であるというような感じもいたします。ちょうど戦前でいきますとワシントン会議とか、いろいろ河上先生の御専門のところでございましょうが、それに対する対応と似ている面がないことはないというような気がいたしているわけでございます。  今まで見ましても、たまたまアメリカは意図しなかったにもかかわらず、日本政策を助けた面もございます。オイルショック後日本はデフレ政策をやった、それで物価が安定しまして、そこから後輸出主導型でうまく成長できた、アメリカはそのとき逆の手をたまたま打っていた、ですから日本は立ち直った、こういうことであります。ですから、今まで持ちつ持たれつでありますけれども、アメリカがやった場合には必ずしも意図的にはやらなかった。それで現在は、アメリカは大変に困っておりますので、それを日本が助けるべき立場にありますけれども、この場合は意図的にやらざるを得ないというところが大変苦しいわけでございますから、その面でぐあいが悪いということになろうかという感じがいたします。  ですけれども、広い立場で、これだけの経済大国になりますと世界経済全体を見回す態度が必要かなというようなことでございまして、ちょうど先ほど御指摘のような、植民地を捨てるということと全く違う意味でございますけれども、一種の見方を変えないと日本経済は存立てきないのかなというような感じがいたします。何としても三・六%の黒字を持って、これでアメリカの工業のレベルを追い抜こう、こういうようなことは到底無理だというような感じがいたします。むしろ、バランスしながら追い抜いていくかなということであります。  それから、ついででございますけれども、日本も発展途上国援助をいろいろなことを随分やっておるわけでございますけれども、こんなことを申し上げては失礼でございますけれども、PRが下手だなということでございます。ですから、これだけやっているにもかかわらず、日本の新聞や雑誌にはやっていない、やっていないというふうに書いてあるわけでございますし、例えばタイなんかへ行きましても、この道路は日本の援助でできたのだと言っても乗っている本人も知りませんし、タイの人もほとんど知らないというようなことで、そういう意味では甚だ残念な気もいたしているわけでございます。
  40. 河上民雄

    ○河上委員 余り時間がありませんので、最後に一つだけ内需拡大につきまして、先ほど両先生の間に若干の、こちらの方の理解が悪いのかもしれませんが、食い違いがあるような気もいたしますが、その中で社会保障制度というものが果たす役割ですね。ここ数年自民党・政府は、社会保障をむしろ縮小する形で来ているわけですけれども、内需拡大、可処分所得の拡大という意味からいいまして、社会保障を削っていくことがいいのか、いや、それは大変な間違いであったというふうにお考えになりますか、その辺のことだけちょっと伺って、私の質問を終わりたいと思います。
  41. 田中直毅

    田中参考人 日本の異常に高い貯蓄率が何に起因するかというのは、随分意見の違いがございます。それでも、老後に対する不安とか将来に対する不安が今日の高い貯蓄率につながっているのではないかという推測には、私はそれなりの理由があるように思われます。そういう意味では、今後の社会保障制度をどの程度充実した、安心してそれに頼れるものにするかということと、消費性向といいますか、所得のうちのどれだけを現在の消費に使うのかということの関係はあるように思われます。そういう意味では、これからどういうデザインが望ましいのか、これは人によって違うのだろうと私は思いますが、社会保障の水準を切り詰めれば、切り詰めたときには、それがどこかで消費の何かを抑制する形で働く可能性というのは無視できないだろうというふうに私は感じております。
  42. 竹内宏

    竹内参考人 社会保障費の負担が多過ぎるので可処分所得が伸び悩んで、その結果消費が伸びないというような面もあるわけでございますから、このあたりは非常なバランスが重要かなと思われるわけであります。  それと、やや問題点がずれますけれども、日本の年配者の方々は随分金融資産をお持ちになっております。ところが、実際に使おうと思っても老人の方々が遊ぶ場所がないということが問題がな。ですから、若者たちが非常に広々としたところでテニスをやっていて、何か家の陰でゲートボールをおやりになっている、このようなことでございますから、何としても老人に対するサービスの供給量が不足しているということでございましょうし、それから先ほどの繰り返しになりますけれども、交通網がそれほどうまく発達しておりませんから、老人の方々が遊びに行く場所は非常に肉体的にくたびれてしまう、そのような意味でもう少し広い、大きな開発が必要かなというような感じもいたしております。
  43. 河上民雄

    ○河上委員 ありがとうございました。
  44. 北川石松

    北川委員長 次に、玉城栄一君。
  45. 玉城栄一

    ○玉城委員 お二人の先生方には、きょうは大変ありがとうございます。  まず最初に、田中先生にお伺いをいたしたいわけでありますが、ちょうどいい機会でもございますので、先生の御著書の中に「軍拡の不経済学」という、アメリカの膨大な赤字というものは軍事関係に予算を使い過ぎたのだ、逆に日本の場合は、このように経済大国、戦後経済が成長してきたのはやはり軍事面に予算を使わなかったからだというような、全く私もそのとおりだと思うわけでありますが、その点について御意見をいただきたいと思います。
  46. 田中直毅

    田中参考人 恐らく、現在の日本の軍事費でもってなおかつこれだけの財政赤字が出ているわけでございますから、もし日本が、例えば西ヨーロッパ並みの軍事負担をした場合にどのくらいの財政赤字になるのか、あるいはそれを賄うために増税というのはどのくらいでなければならないのか、逆に出てくるように思います。我々にとってもし軍事負担をふやすという選択が行われた場合には、そうした財政面から見ても相当なデフレ圧力が経済にかかってくるのだろうというふうに思います。  現在の米国財政赤字のかなりの部分が、やはり軍事支出増に起因しているというふうに思います。アメリカで昨年の暮れにグラム・ラドマン・ホリングズ法という、均衡財政法というのが通りましたが、これをアメリカの中でいろいろな分析が行われておりますが、いわゆるリベラルと言われる人たちがこれに賛成したのは、これで軍事費に歯どめがかけられもということであったように思います。そしていわゆる保守、アメリカの議会における保守の人たちは、これによって小さい政府が実現すると思ったということのようです。レーガン大統領がこれにサインしたのは、これで増税はしなくても済むいうことで、それぞれ思惑が違ってグラム・ラトマン・ホリングズ法というのは成立したというふうに思われるわけですが、とにかく、この財政赤字の大きな要因が軍事費にあるし、軍事費に歯どめをかけるためには財政均衡法というものを通す以外にない。ほかの支出、非軍事支出も当然削るということになるわけですが、軍事支出も削るということにアメリカの議会の中でかなりの人が賛成したところに、現在の財政赤字と軍事支出との関係があるというふうに私は感じております。  お尋ねに対してのお答えになっておりますかどうですか……。
  47. 玉城栄一

    ○玉城委員 そこで、今回の急激な円高につきましても、アメリカ財政赤字のツケが回ってきているんだというようなお話も先ほどあったわけでありますが、これは例えば円高ドル安によりまして在日米軍基地の基地維持に相当こたえているようであります。日本基地での日本人従業員の給料の分等、そういうものを含めて千八百億、それをアメリカ側は日本政府が当然補てんすべきであるという要求もしているようでありますが、そういうことについては政府が補てんすべきなのか、すべきでないのか、この財政赤字が、先ほども先生おっしゃいましたように軍事費に向こうは使い過ぎる、そのツケが来て、さらにそれをまた政府が補てんしてあげる、こういうことは果たしていいのかどうかという感じがするわけでありますが、先生、どういう御意見でございましょうか。
  48. 田中直毅

    田中参考人 大変難しいお尋ねでして、それは私が例えば、そんなことは日本政府が面倒見る必要はないというふうに言ってどうなるものでもないとは思っておるのですが、確かに金額で言うと、全体として良好な日米関係を買い取るためには安い買い物ではないかという考え方も恐らく政府部内にはあろうかと思いまして、それ一事をもってどうした方が、あるいはどこかで原則が外れるとかというふうにはちょっと、それだけを取り上げて、これはこの原則に照らしてこうあるべきだというふうには、ちょっと私も勉強不足でお答えしにくいのですが……。
  49. 玉城栄一

    ○玉城委員 竹内先生にちょっとお伺いしたいのですが、先ほど急激な円高によるいろいろな国内経済面への打撃、関西方面が中心である、今度は別の側面で九州とか北海道は別にこの円高とは関係ない生活をしているんだというお話もあったわけでありますが、沖縄のように米軍基地がたくさんありまして、よしあしは別としましても基地経済というのは、一つのあの地方経済の柱になっていることも事実であるわけですね。ですから、こういう急激な円高ドル安によりまして当然基地関係者というのは購買力がほとんど落ち込むわけでありますから、そういう周辺関係業者の打撃ははかり知れないものがあるわけですね。これは沖縄に限らず、基地関係のあるところは似たような現象があるわけですが、先ほど先生、転換すべきである、それに対する資金融資等もすべきではないかというようなお話もありましたけれども、こういう変わった側面についてはどういうふうに考えていったらいいのか、その辺、御意見を承りたいと思います。
  50. 竹内宏

    竹内参考人 私も素人でございますので全くよくわかりませんけれども、印象的に申し上げますと田中さんのあのことはまさに賛成でございまして、日米関係を良好に買い取るためには、経済的な面もあるし軍事的な面もあるし、どれが最も安上がりに済むかなというようなことで、多分日米関係でいきますと、経済問題も軍事問題も向こうからいきますと、そんなに離れている問題ではないというようなことかなという気がするわけでございます。  実際に沖縄などは、御指摘のように既に円高が続いておりますので、沖縄のバーとかそういうところになりますと日本人客が主流になって、白人といいますか米軍がほとんどいなくなった、こんなようなことでございます。中には、それを痛快に思っている方がいるかもわかりませんけれども、ただ、沖縄でございますと、例えばどの程度あれか知りませんが、沖縄海洋博によって観光客が約二割ふえた、このようなことだろうと思いますけれども、そのようなことで、観光というのは必ずしもいいものとは思いませんが、沖縄の方々が実際に転換されるようないろいろな努力、これも沖縄の経済なんか考えてみますと、かつては対円レートが占領下は大変高く設定されましたので国内企業が成長しなかった、このような特殊な理由もあるようでございますけれども、実際にはそういうような沖縄は多分観光が主流にならざるを得ないだろうというようなことでありますし、もう少し広く考えますと、大変アジアと風土が近うございますから、東アジア中心の関係にどう持っていかれるかとか、そんなようなこと。あるいは航空機料金をどの程度コンペティティブにして、そして実勢といいますか、割高でないようなシステムをどうつくり上げるか、そのようなこととか、いろいろな方策が環境づくりにもあろうかなというふうに思っておりますけれども、具体的には基地の問題は余り考えたことがございませんので、印象的なお答えで恐縮でございます。
  51. 玉城栄一

    ○玉城委員 今度は田中先生にも今の問題で御意見を承りたいわけでありますが、そういうことで、輸出関連中小零細業者とまた違ったそういう関係業者というのが打撃を受けているわけでありますので、そういう部分についてはどういうふうに緊急的な救済策を講じたらいいのか、何か御意見があったらお聞かせいただきたいと思うのですが。
  52. 田中直毅

    田中参考人 確かに、おっしゃいますように、沖縄県の場合は集中的にそういう問題が起きているように思われます。ですから、それに対してどういう施策があるのかということになると、米軍に依存しない産業構造をどうつくり上げるかということと恐らく同じ問題だろうと思います。  沖縄から見まして周辺のアジア諸国は、それなりにいろいろな形の産業の渦巻きといいますか、新しいうねりが産業的にもでき始めているように私には思われます。そういう意味では、ネットワークを周辺アジア諸国に広げるような形のネットワークの中で、位置づけといいますか、新しい意味合いを見出すという努力が恐らく今まで以上に重要になるのだろうと思います。  例えば、竹内さんが先ほどおっしゃいましたが、韓国とか台湾とかを考えてみますと、円高によって初めて本格的に対日輸出ができるという感じを彼らが持つように現在なっております。そういう意味では、日本向けの仕事というのが、韓国なり台湾なりあるいは香港で従来に比べて水準が相当上がってくるだろうと思います。そういう一つのうねりができるときに、例えば沖縄から見ますと、地理的な問題も非常に近いということもございまして、いろいろな意味での、そういうところに対するサービスの提供、あるいは一つのネットワークの中での沖縄の位置づけというのは新しい面が生まれてくるのではないか。円高によって新しい国際地図ができ上がるときに、新しい要因を組み込んだ沖縄独自の取り組みというのが、これからはもっといろいろなアイデアが出てきてしかるべきではないかというふうに私は感じている次第でございます。
  53. 玉城栄一

    ○玉城委員 どうもありがとうございました。  それで、今度また、さっきお二方の先生のお話を伺っておりまして率直に感じましたことは、現在の円高あるいはドル安というものは、アメリカの事情からすると、さらに円高に行くぞ、あるいはドル安に行くぞという感じを率直に受けたわけでありますが、大体どの辺までこれが行き、そして現在の日本経済の実態からして、円高、円の安定額というのはどの辺というふうに御専門の先生方は見ておられるのか。竹内先生からひとつよろしくお願いいたします。
  54. 竹内宏

    竹内参考人 私は、百五十円台に一時突っ込みまして、それから、後半になりますと円安に向かっていくというふうな感じを持っております。年末には、百八十円ぐらいになるのじゃないかというふうに思っております。これは、円の見通しがなかなか当たらないわけで、エコノミストよりも占い師の方がよく当たるという意見もありますけれども。  その根拠は、油の値段がもう下がらないだろうというのが第一番目であります。アメリカの産油業者が大変困りますので、それからメキシコなんか困りますので、ですからてこ入れが入るに違いない、それが第一の理由であります。これは円安に持っていく要因に働く。それからアメリカは、ここまで金利が下がってきますと、景気の回復過程に入るに違いない。そうなりますと、金利の先高感が出てくるに違いない。そうなりますと日米金利差が拡大いたしますので、日本から再び資本流出が増大いたしまして、それが円安の要因になるだろう。  そのときの問題は、経常収支が膨大な黒字、Jカーブによりまして七百億ドルから八百億ドルになる。このときに、百八十円に円が下がってきたらどうなるか、またここで深刻な国際摩擦が発生するに違いないというような気がいたします。ですけれども、長期的に見ますと山高ければ谷深しで、振れていきながら円は二百円台には戻らないだろう。さしあたっては百七十円から百八十円ぐらいのところ、あるいは百八十円に近いようなところが、長期といいますか二年ぐらいとってみますと、多分そのあたりになるに違いないというような感じを持っております。そうなりますと、多くの輸出産業、特に中小企業関係は困難になってきて自助努力が必要だ。転換するか、あるいは韓国に工場を持っていくか、韓国から部品を輸入するか、いろいろなことが必要だろうというふうに思われます。  それで、地域によりまして、その転換がうまい地域とうまくない地域があるというような気がいたします。よく存じませんけれども、例えば長野県選出の代議士先生もいらっしゃいますけれども、長野県の坂城町というのは世界に冠たる坂城町だ。もう片仮名で言うようになりまして、私の出身地の静岡県でございましても、天竜川を越すとすばらしい、静岡の周辺に来ますと転換能力が非常に低いということで、どうしようもない地域性があるというような気がしているわけでございます。
  55. 田中直毅

    田中参考人 私は、竹内さんと少し意見が違いまして、無論若干の振れはあると思いますが、例えば百六十円を前提にして、百八十円まで戻るということは恐らくないのではないかというふうに思っております。  それはどういうことかといいますと、現在、日本経済はおくればせながら新しい価格体系に対応しようとしておりまして、恐らくそれがだんだん対応してくる。円高水準に対応する価格体系ができますと、それなりのバランスが戻ってくるというのが第一の原因でございます。  それからもう一つは、確かに日本で使い切れないお金が海外に出ていくという面はございますが、逆に、円が国際的に保有される。資産保有動機としての円というのは、現在ドルにかわって、ドルが果たしてきた役割のかなりを今円が取ってかわるという局面に歴史的にはあるように思います。三百六十円から三百八円、そして現在百六十円というような大きな流れからいきまして、これはドル本位制、ドルだけが使われるという仕組みから次第に複数通貨が使われてくる、その中で、円が国際的な決済なり資産の通貨として持たれていく過程で起きているというように感じておりまして、トレンドとしては、私は円高の方向、円が資産としても決済通貨としても今後より多く使われていく局面になっていくだろうと感じております。これは、円貨に対する需要が高いということを意味しているわけでございまして、私は、円安に若干振れる時期があるかとは思いますが、もう大きく円安に振れることはないと見た方がいいと判断いたしております。
  56. 玉城栄一

    ○玉城委員 どうもありがとうございました。
  57. 北川石松

    北川委員長 次に、渡辺朗君。
  58. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 両先生、大変ありがとうございました。蒙を開いていただきまして、感動いたしております。  私は十五分しかいただいておりませんので、あらかじめ三つぐらい両先生にお聞かせをいただきたいと思います。  質問点は大変素朴でございまして、余り素朴過ぎて申しわけないと思うのですが、一つは、不思議に思ってならないことがあります。それは、例えば竹下大蔵大臣とかベーカーさんとかローソン英国蔵相であるとか、あるいは時にはアイアコッカさんの冗談一言が円ドルレートをぐぐっと変えていく。世の中はもっと複雑で、もっとちゃんとしていると思うのに、個人の発言や何かの一言一言で私どもが振り回される、ちょっと不思議でならないわけであります。また、一喜一憂しなければならないというのもおかしなことでありまして、このメカニズムというのはどこにその秘密があるのだろうか。大変素朴でございますが、第一の問題点、両先生に教えていただきたいと思います。  それから二番目に、国際協調ということはこれから日本の生きる道としては当然だと思いますし、大きな路線だと思いますが、その中で先般の前川レポートというのは、学校の先生として専門家として採点された場合、何点を上げられるべきレポートでございますか。そして、もし両先生が自分で書き直すとお考えになりましたら、どことどこの点をお直しになるでしょうか、その点を聞かしていただきたい。  関連しまして、国際協調の中で特に日本がこれから責められるのは途上国援助、南北問題であろうと思いますが、その際に、それぞれの途上国がみんな膨大な累積債務を持っている、日本はこういうような問題に対してどう対応していったらいいのだろうかということを苦慮しているわけでありますが、ここら辺を教えていただきたい。  三番目の問題点は、これが最後でありますが、実はもしかしたら選挙もあるかもわかりません。そうなりますと、私ども座談会やら演説会でアピールをしないと、演説を打たぬといかぬわけであります。家庭の主婦に対して、この円高時代にどう対処したらいいのかという処世術を私が座談会でしゃべった場合に何が一番アピールするのか、そこら辺を特に両先生に教えていただきたいと思うのです。  念のために、私の選挙区は静岡県でございまして、農業もあります。地域性ということが今出ましたが、中小企業もあります、メーカーもあります、と同時に観光地もあります。中小都市なんか大変多いのでありますが、そういうところの家庭の主婦、こういう人たちに一体何をアピールしたらいいのだろうか、一言で結構ですから、選挙必勝術の秘訣をちょっと教えていただきたいと思います。  以上でございます。よろしくお願いします。
  59. 田中直毅

    田中参考人 いずれも難しい問題ばかりでございますが、最初の御質問の、影響力があると思われる人の発言によってなぜ為替市場が大きく動くかということでございます。私は、本質にかかわる問題と最近の為替関係者の性格というのと二つあると思います。  本質にかかわる問題ということからいきますと、何が均衡レートだとかどちらへ行くのかというのは、客観的なものがあるというよりは、為替市場に参加する人たちが、例えばベーカー発言、例えば日本の大蔵大臣の発言をほかの人たちがどう受けとめるかということでもって自分も動く。これを人気投票とか美人投票の原理と言う人もあるわけですが、自分の美的感覚からいけばこれが美人だと思いましても、その美人投票に投票する人たちが、どうも自分の美的感覚に合わない人に対して、ああ、この人は結構受けがいいのではないかと思ったら、美人投票に恥いていい成績をとるためには、自分の美的感覚を殺しまして投票を入れるという面があるわけでございますが、どうも為替市場というのはもともとそういう性格があるというふうに思われます。最近のように、G5の大蔵大臣の会議から始まったということになりますと、その中心になった、例えばベーカー財務長官の発言というのは無視できないと多くの人が思うから自分もそれに乗ってみる、こういう動きだろうと思います。  もう一つは、現在為替の取引をしている実務家がだんだんサラリーマンに、もともとサラリーマンですが、みんなと一緒に動いていれば大して上司から怒られないけれども、自分のポジションを持って逆に出た場合には、失敗したときにとがが大変大きく映る、みんなと動いた方がいい、そういう心理状態というのは、しばらく前に比べて、世界的に見てやはり強くなってきているという面があるように思います。アメリカのように機関投資家が資金運用に当たって、プルーデンスルールというのでしょうか、慎重に動け、そういうものを押しつけられているような、要するにみんなが動くように動けと言わんばかりの基準というものがそれなりに定着し始めたのがこの十年ぐらいの動きかと思いますが、そういう意味で、発言に対して影響力があると皆が思ったという場合には、みんなついていくという面が強く出ているように私には思われます。  それから二番目の前川報告でございますが、前川報告には少額貯蓄優遇税制の廃止をしたらどうかということと、石炭産業についてのこれ以上の保護は無理ではないか、具体的には二つしか書いてなかったと私は思います。しかし、この際、本来はもう少しいろいろなことが取り上げられるべきであったろうと思います。それは、昭和二十年代から三十年代にかけて、日本は最も望ましいと思われる経済構造をつくり上げていったわけでございまして、そのときの生産者保護の仕組みというものが今日大きな問題を生んでいるわけでございます。  消費者サイドに立ってみますと、食管会計の問題、それから食肉についての支持価格制度というのは大いに問題になろうかと思いますし、国際協調を前提とした場合には、例えばこういう問題について、少なくともかなり立ち入った報告が問題提起としてはあるべきではなかったか。もし、おまえ書けと言われましたら、私は、例えばそういう問題を書いてみたいと思っております。  累積債務の問題は、日本においてもう一つ関心が乏しく、米国において非常に関心が高いという対照があるように思われます。アメリカでは、議員先生がかなりこの累積債務問題についてのイニシエーションといいますか問題提起をして、それで議論を進めていく。アメリカ銀行がそれだけ貸し込んでいる面もあるわけでございますが、そういう問題についてかなり関心が高くなっております。  最近の一つの流れとしては、ただ単に累積債務国に対して緊縮を求めるだけではだめだ、彼らの成長を促し、輸出して外貨獲得能力を高めてあげるような施策が要る、一本調子の緊縮だけではもう無理だという判断が次第に強まっているように思います。そういう意味では、民間銀行を中心にして、もう少し累積債務国に貸し増しをする、そして輸出能力を手にさせる。一方、無論国内における緊縮も要求するけれども、それだけでは無理だというところに一つの方向性が出始めているように思います。そういう意味では、累積債務の問題が新しい段階を備え始めているというふうに感じております。それから、円高時代について一般の家庭婦人に何がアピールできるかということでございますが、私はこの円高時代の最大の特徴は、やはり海外から物が安く手に入るということだろうと思います。  それでは、普通の日本の家庭に海外から買ったものが、例えば家具とかいろいろ生活に必要なものがどんどん入ってくるかといいますと、実際には生活慣習も違いますし、アメリカでつくられた家具がすぐ日本に入ってくるという性格のものではありません。そうすると、どうしたらいいかといいますと、日本人の生活慣習にふさわしくて、そして素材は安いということがあるわけです。  海外の資材というのはどんどん安くなっているわけでございます。例えばこの半年余り、三割は安くなっているわけです。同じもので三三%安くなっているわけですから、三三%安くなった資材を使って、家庭の主婦が身の回りにある家具とか生活用機器を工夫するということになりますと、例えばこういうものがあるのではないか、もっと海外の、例えば韓国とか台湾とかあるいはアメリカとか、そういうところでつくられた物が入る仕組みができればいいということになりまして、例えば静岡県のそういう業者の人たちにこういうものをつくってみたらどうですか、それはメード・イン・台湾かメード・イン・コリアかメード・イン・USAかわかりませんが、その設計規格と商品規格そのものは日本で生まれる、こういうものが新しい国際分業の時代にいいのではないか。  輸入品が入ってくるというときに、ちょっとした雑貨というもので輸入品が金額的に大きくふえるという時代はもはや終わっているわけですから、主婦の方々は、自分たち生活感覚に合わせて、例えば生活機器のこういうものが三割安くなったら、このくらいは売れるでしょうということはよく知っているわけですから、そういう知恵を例えば企業に売りつけたらどうか、もう少しそういう円高時代、国際的な流れの中でみずからの生活をとらえた場合に、自分たち生活費が安くなる工夫をして、そしてそれを企業に教えてあげて企業にももうけさせる、そこで雇用の場もふえるという仕組みを、日本経済を支えるいろいろな人がもっと知恵を出す時代になっていると私は思いますし、主婦もまたそういう知恵をまさに出せる時代になってきているのではないかというふうに感じておるわけでございます。
  60. 竹内宏

    竹内参考人 第一の点は、田中さんと全く一緒でございます。  現在、何となく為替相場は、政策当局によってお互いに管理されたというような時代といいますか、相場の見方が強くなっておりますので、そのときに両国の当事者の発言は非常な影響力を持ち、そしてその発言に市場がどう反応するかによって行動する、こういうことでございますから、発言によって為替レートは非常に振れる、このような時代になったのかなという点でございます。  それから、第二番目に前川レポートでございますけれども、一遍読みますと大したことはございませんけれども、五回読みますと大変すぐれたレポートであるというふうに思います。その行間からにじみ出ている感情は、何とも言えない激しさがあるというような感じがいたします。最初の方に、大都会の開発と見事に書いてございます、一番できそうもないようなところが書いてあるわけでございますけれども。それから容積率の拡大、線引きの見直しという点も、まさに書いてあるわけでございます。私が、ああいうものをどう書くかということになったら、あんな立派なものはできませんけれども多分同じようになるだろう。政治的な立場を配慮しながら行間ににじみ出るものを表現していく、こういう意味では大変すぐれたレポートであるような感じがいたします。発言できなかった、具体的に書けなかったところに大変立派なものが何となくあるようなことで、大変立派なレポートである、このように思っております。  それから累積問題につきましては、現在は、銀行でございますと元金の償還は余り問題にしない、利息さえ入ってくればいい。経常収支赤字につきましても、相手国のGNP分の経常収支赤字がよくなっていればいいのじゃないか、このようなルールができ上がりつつあります。ですから、極端な言い方でございますが、お互いに心配でございますから、IMF総会とかそういうところで世界の大銀行の頭取たちが会いまして、そこでお互いに抜け駆けの功名をしない、つまり危なくても引き揚げないというようなお互いの暗黙の了解を得ながら、世界全体が、利息さえ返ってくれば元本につきましてはしばらく問題としないというような、そのようなルールが何となくでき上がった、これが現在の世界恐慌を防いでいる知恵ではなかろうか、このように思っているわけでございます。  それとさらに、田中さん言われましたように、途上国の工業の発展に協力していかなければならないということは、問題御指摘のとおりでございます。ただ、途上国は途上国固有の道徳がございますし、固有の、例えばお役人の方の行動基準があるわけでございます。これを日本の基準をそのままに当てはめて、これはわいろであるとか、そのようなことになりますと、相手国に対する介入になるといいますか、相手国の風土に入ったら、郷に入ったら郷に従えというような相手の立場に立つというようなことが必要かな。まさに、アメリカ日本の立場に時たま立ってもらいたいわけでありますけれども、経済力の低い国に対しましては、経済力の強い国は自分たちのモラルが全世界、その国に対して通用するというような考えで今までいろいろなことがございまして、そのようなことで問題が起きる場合もございますけれども、だんだんそれも相手の国の立場がわかってきた、ルール、モラルがわかってきた、このようなことかなという感じがしておるわけでございます。  それから第三番目の点でございますけれども、昨今になりますと財テクブームでございます。これは、さらに円レート変化によりましていろいろ金利も動きます。資産が大変多くなっております。現在でございましても、家計の収入における一三%くらいは配当金利の収入だ、このような時代になってまいりましたのですけれども、ただ家庭の主婦の方でございますと、大もうけしようと思った投資は大損する、こういうふうなことがルールが非常に重要でございますので、この点ぜひ、このような自由化の時代になりますと財テクについても自己責任だ、このようなことで、無用な大損害を防ぐということが重要かなという点が一つかなというふうな感じがしておるわけでございます。  それから第二番目には、この間清水市で輸入フェアが行われましたけれども、あのような輸入フェアは家庭の主婦にたいへん喜ばれるということでございますけれども、同時に地場産業の方々には大変しかられる、このようなことが問題がなというような気がいたしますが、輸入フェアなんか大変結構じゃないかと思います。  それから第三番目には、やや離れますけれども、現在の御家庭の年配者の主婦にしてみますと、お子さんが少のうございますから、一人っ子同士が御結婚されて、私ぐらいの年配になりますと惨たんたる生活が待っている。寝たきり老人、確実に四人持つことは数学的な確かさでございますから、そのような点につきましてどのようにこれを解決していくか。静岡県でございますと、浜松の方では三人家族はどうか、三人家族の家は実際どういう生活をされているんだ、それによってどれだけ負担があるのかなというようなことで、高年齢化に対しまして家族のあり方というようなことも一つの議論のテーマかな。浜松あたりでは、具体的な調査も市民の中から起こっているようでございます。それから、もう少し明るい面でいきますと、掛川とか富士に新幹線がとまったりいたします。  それから、静岡県の東部になりますと、東名高速の影響が見事に実りまして成長性が高うございますし、焼津とかそのあたりもターミナル周辺は目覚ましい進歩を遂げているということでございますから、その面で明るいビジョンを持つように、特に中部でございますとやや白けておりますし、西部へ行きますと、西部の東部側は大変難しい問題があるわけでございます、こんな点も明るいムードを出していただければなというようなことでございます。私も、静岡県がつくりました静岡研究総合機構の理事長をさせていただいておりますので、そんなような感じもいたしているわけでございます。
  61. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 ありがとうございました。終わります。
  62. 北川石松

    北川委員長 次に、田中美智子君。
  63. 田中美智子

    田中(美)委員 きょうはお二人の先生、どうも御苦労さまでございます。私、十分しか持ち時間がございませんので、まず最初に三問一緒に申し上げますので、お二人簡潔にお答えしていただきたいと思います。  まず第一問は、この八カ月に八十円も円高になるという戦後最高の円高、一カ月に十円ずつ上がっているというこういう状態の中で、韓国、台湾、香港などのようなドル建てでやっているところはたんたんと日本の市場をねらっているであろうと思いますので、日本の中小零細企業が壊滅的になるのじゃないか、そういう点からもなるのじゃないかという心配をしております。その点についてお答えいただきたいと思います。  それから二つ目は、西ドイツもマルクが上がっております。日本ほどひどくないようですけれども、あそこでは輸入品の値段が下がっておりますが、日本ではさっぱり輸入品が下がらない、それは一体どこに問題があるのかということをお聞かせ願いたいと思います。  第三番目は、日本は今現在卸物価は下がっているようですけれども、消費物価が下がっていないというのが実感なのですが、どうして消費物価が下がらないのだろうかというところ、この三点についてお願いいたしたいと思います、田中先生からよろしく。
  64. 田中直毅

    田中参考人 おっしゃいますとおり、韓国、台湾では、日本の市場が初めて彼らにとって魅力的といいますか、初めて本格的に売れるのではないかということで勉強し始めている段階だと思います。それでは、すぐ韓国、台湾から猛烈に物が入ってくるかどうかということでございますが、勉強はしているけれどもそうは簡単にはいかないかなという議論もあるわけでございます。どういうことかといいますと、例えばスリッパ一つとりましても、今までですと、韓国ではスリッパだったら安くできる、倉庫いっぱいつくったスリッパを日本に全部持っていってもらって、日本の流通機構に乗せれば全部はける、こう考えるわけですが、そこは日本のコンサルタントが行きまして、そんなことをやってもだめだ、例えば山形県にある日本のスリッパの産地では、スリッパが売れるために二十以上の要因をパソコンに入れていろいろ工夫している。  例えば、柄とか色模様とかフリルがつくとかいろいろありますですね、それは例えば去年の流行は何だったからことしはこれになるのではないかとか、スリッパ一つでもそのくらいいろいろ工夫を重ねて、やっと日本のマーケットの中で存在感を得ている。それが同じ商品規格の同じ色模様の同じデザインのものを倉庫いっぱいつくって日本に持ってきても売れないよということが、日本の消費市場に密着したコンサルタントの人たちが今韓国へ行って講義している内容でありまして、日本のマーケットに入ってくるということはそのくらい、スリッパ一つとっても二十以上の要因があるのだそうで、それからいきますと簡単には入ってこれない。逆に言えば、この円高の間に、日本でも無論事業転換を迫られる事業分野というのはかなりふえてくるわけでございますが、それは少し時間をかけて考えることができるのではないか。逆に言いますと、日本輸入というのはそう簡単にはふえない、しかし、長い目で見ると間違いなくふえるだろうと思います。それから、多分流通機構に問題があるのではないかという御指摘だと思います。確かに、西ドイツ消費者物価はことしマイナスになります。日本は、恐らくゼロに近くはなると思いますが、マイナスにはならない。どこに違いがあるかということでございますが、例えば日本では、この国会で大規模小売店舗法というのが決まりまして、大規模小売業者、流通業者は規制されております。もし、これが自由に売れるという仕組み、そして店舗展開が自由だということだとすると、流通機構の変化がなお加速したのではないか。ということは、海外のものが安くなるということになりますと、これが流通機構にもっと早く乗るようになる、そしてもっと本格的に安いものが手に入るということになるのではないかと思います。  これまでの日本の立法が、一方で生産者保護、小規模業者の保護であり、一方で消費者を考える、この二つのバランスの中で出てきているわけですが、我々は、もう少し現在のような円高になれば消費者の目で見直した方がいいと思うのですが、これまでの日本の議会における立法過程では、生産者とか小規模流通業者の保護の方が評価されていたような時期があった、それが今日何がしか影響を持っているのではないかと思います。  それからもう一つは、先ほども申し上げましたが、政府の特別会計の赤字を埋めるといいますか、今まで食管会計その地大きな赤字が出ていますので、これを埋める形で円高メリットが吸収されてしまって、消費者に出てこないということに私は問題があるように思います。そういう意味では消費者物価指数というのは、おっしゃいますようになかなか下がらない。下がらないところに、今日までのいろいろな意味での政策の積み重ねも含めて、制度のありようが反映しているのではないかと感じております。
  65. 竹内宏

    竹内参考人 第一問でございますけれども、韓国が輸出市場でねらっているのはアメリカでございます。その理由は、日本でいいますと、先ほどお話がございましたように品質の要求が強い、それからロットが小さい、文句が多過ぎる、こういうことでねらっているのはアメリカ市場でございます。ですから、日本の中小企業が被害を受けるのは、アメリカ市場で日本の商品が負けるということで被害を受けるというのが、第一番目の点であると思われるわけであります。  それからもう一つ、大企業が部品の調達をこれらの中進国からやるに違いないと思われます。私も韓国にしばしば参りますけれども、例えば先々月某造船メーカーの会長と表敬に参りました。商売じゃなくて表敬でございます。その方は二年前にも表敬に行かれた。二年前に韓国で表敬のついでに、仕事で十五社回ることになった。それは日本からの輸出に対するお礼である。ことしは五件しかなかった。この五件はいずれも日本に対する輸入の交渉であるということでありますから、三〇%以上も安くなりますと、明らかに大企業は部品などの生産は急スピードで中進国にシフトしていく、その分だけ日本国内でマーケットがなくなって中小企業が苦境に追い込まれる、こういうことかなと感じております。それが経常収支をバランスさせる方向かなということで、大変難しい問題があるという気がいたします。  それから、第二番目も田中さんが言われた、まさにそのとおりでございます。その上に日本は地価が大変高うございますから、土地を購入した金利分が価格に転嫁されるということであります。ちなみに申し上げますと、国富統計でございますけれども、アメリカ全土を買う値段は約六百兆で買えます。日本全土を買いますと八百兆かかるわけでございますから、このような地価が値上がりして水準が高いということ、同時に、輸入物価もどこかで輸入メリットを吸収して、その上に細かい流通部門でございますから、吸収してしまう仕組みができているのかな、こんな感じがいたします。  余分なことでございますけれども、ただし土地の値段を下げますと、我々はアメリカ人と同じ程度、一世帯当たり三千万円の資産を持っております。六二%の人が土地と住宅を持っておりますから、我々の資産内容は千五百万が土地である、その上に九百万円のウサギ小屋が乗っかって、六百万円の金融資産を持っている、このようなことであります。アメリカは三千万円持っておりまして、二百万円の土地の上に千七百万円の豪邸が乗っかり、千百万円の金融資産を持っておる、このようなことでありますから、地価の値段が下がりますと国民の大部分の資産が減りますから、大変社会不安が多くなる。この意味で、高地価の上にバランスしてしまっていかんともしがたいというようなことがこの面にも反映しているのか、一点つけ加えますとそんな気がいたしているわけであります。  最後に、卸売物価は御指摘のように前年同月比マイナス八%であります。消費者物価は一・一%であります。この理由は、サービス業にお勤めの方も賃上げをされます。そのサービス業は、生産性が非常に上がりにくいという職種でございますし、その上、円高影響がほとんどない。このような方の賃上げ部分が消費者物価に乗っかっておりますから、卸売物価はマイナス八%、消費者物価はプラス一・一%、こんなギャップが生じているのかなというような感じがいたします。この消費者物価の上昇率は、言ってみれば日本全体が平等になるコストである、このように考えさしていただいております。
  66. 田中美智子

    田中(美)委員 時間になりましたが、最後に一言。田中先生の労働時間を短縮せよ、法的に規制をするようにということに私も大変賛成しておりますが、竹内先生は猛烈に働け、時間をもっと長くと言われましたけれども、これにはどうしても納得いきません。時間がありませんので、竹内先生に一言、なぜそうすればいいのかということをお聞かせください。
  67. 竹内宏

    竹内参考人 さっき申し上げましたように、社会資本がまだまだ足りないということでありますし、これから急速な勢いで高年齢化社会に入っていくということであります。二〇二〇年になりますと、六十五歳以上と二十五歳から六十五歳までの労働者の人口の比率が、現在の七・五対一から二・五対一と絶望的な高年齢化社会に入っていく。このときには社会資本の拡大もできないだろう、経済も衰退しているに違いない、そのために準備しておくには今からもっと働いて社会資本を充実しておかないと、高年齢者社会のときに対応できないということかなという感じがいたします。  先ほど申し上げましたように、多分一人っ子同士の御夫婦もふえている。その方が私の年配になったら、惨たんたる生活が待っている。これを防ぐためには、今から社会投資を充実したり環境整備をしておくために大いに働いておかないとぐあいが悪い、こういう点があります。  それから、さらに先ほど御指摘のように、韓国が攻めてくると言われておりますけれども、我々の周辺でございますと、土曜日も働いております。韓国の方々は日曜日も働いております、多くの人は。数学的な確かさで七分の一ずつ追いつかれているわけでございますから、働き過ぎを反省して遊び出したら、同時に輸入が拡大し、多くの企業が競争に負けていくというようなことを覚悟しながら、働き過ぎを反省しなければいけないかなということでありますけれども、最大の問題は、次の飛躍のための準備は高年齢者社会を控えてまだまだ不足である、そのような考えでございます。  もっとも私、昭和一けたでございますので、そんなような感じを持たしていただいております。
  68. 田中美智子

    田中(美)委員 今の御意見に対して、田中先生何か御意見ありましたら一言、それで私の質問を終わります。
  69. 田中直毅

    田中参考人 既に現在日本の持っております貯蓄とか生産設備とか、そういうものをうまく組み合わせれば、竹内さんが言われた社会資本整備というのはできるというふうに思いますし、労働時間の短縮というのはずっと言われているにもかかわらず、十年以上、むしろ少しずつふえぎみになってきております。これはやはり立法措置でもなければ、労使間の協議では決まらない。では、いつの時期にできるかといったら、円安が起きる時期ではなくて円高が起きる時期の方がそれはしやすい。それは国内インフレ要因がないからでして、本来ならば、ここまで円高になる前にそれが行われていればこんな異常な円高はなかっただろう、そのタイミングのはかり方が少し悪かったといいますか、もう少し前にそういう議論が行われていればなという感じがいたしております。
  70. 田中美智子

    田中(美)委員 大変ありがとうございました。
  71. 北川石松

    北川委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時二十一分休憩      ————◇—————     午後一時三分開議
  72. 北川石松

    北川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  原子力平和的利用における協力のための日本政府中華人民共和国政府との間の協定の締結について承認を求めるの件を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。河上民雄君。
  73. 河上民雄

    ○河上委員 ただいま提起されております原子力平和的利用における協力のための日本政府中華人民共和国政府との間の協定につきまして、また、それに関連して幾つかのことをお尋ねしたいと思います。  私どもも、本協定がある意味では日本国民的課題ともいうべき日中友好の立場、技術協力の見地から見て極めて大切な協定であることについては、十分承知いたしておるところであります。しかしまた、大切であればこそ、原子力発電所の安全性についてより深い注意を寄せるべきだ、このように考えているものでございます。そのような立場から幾つかのことをお尋ねをしたいと思っております。  大変残念なことでありますけれども、今回ソ連におきましてチェルノブイル原発事故が起きました。今回の事件は、その被害状況から見ましても、世界の人類全体が国境や社会体制の違いを超えて共通の問題に直面していると私どもは考えておるのであります。一つの国内の事故が世界的規模にたちまち波及するという今まで理論上考えられていたことが現実に起こった、そういう強烈な印象を持っているわけでございまして、我々は最近、宇宙船地球号というようなことをしきりに言うわけでありますけれども、そういう見地から見まして、一つの国の問題というだけではない、慎重に考えるべき問題であると考えておる次第でございます。  つきましては、今回の事件からどのような教訓を見出しておられるのか、また見出すべきであるのか、政府においてはその点どのようにお感じでいらっしゃいますか。
  74. 松田慶文

    ○松田政府委員 お答え申し上げます。  事故そのものの実情がまだ十分判明しておりませんし、この点はソ連政府からの事故報告を待った上で国際的な検討が進められ、技術的な分野でどのような教訓を得るかの検討が遠からずなされることになろうかと考えております。とりあえずの現時点での教訓ないしは問題意識といたしましては、この種大事故が発生したときの緊急通報の制度が現状においては不備であることの認識、また相互支援、救助体制も必ずしも十分でないということの認識、これは国際的に一致しておりまして、先般の東京サミットの際の声明にもその点が強調されましたし、またIAEA等の問題意識も同様な点に集中しているようでございます。
  75. 河上民雄

    ○河上委員 今から六年半ほど前に、既に御承知のとおりアメリカのスリーマイル島で原発事故が起きました。そのときにはどういう教訓を引き出されたのでございますか。
  76. 今村治

    ○今村説明員 お答えいたします。  五十四年三月でございましたけれども、米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故につきましては、これを原子力の安全に対する大きな警鐘と受けとめ、事故当初から必要な情報の入手に努めるとともに、米国原子力発電所事故調査特別委員会を設置いたしまして、事故の原因、我が国原子力の安全確保に反映させるべき事項等について幅広い調査検討を行いました。その結果、原子力安全委員会といたしましては、我が国原子力発電所の安全性を一層向上させる観点から、安全基準とか安全審査、安全設計、運転管理、防災及び安全研究、こういった広い範囲にわたりまして検討すべき五十二項目を摘出いたしまして、関係の安全審査指針に取り入れるなど、原子力安全確保対策に反映させているところでございます。また、関係行政庁及び事業者におきましては、これらを十分踏まえてしかるべき安全確保対策が実施されていると考えております。
  77. 河上民雄

    ○河上委員 このたびのソ連のチェルノブイル原発事故の原因、影響などについて調査するために、原子力安全委員会は去る十三日にソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置したと報道されております。スリーマイル島原発事故の後、原子力安全委員会日本学術会議で学術シンポジウムを共催して、事故が提起した問題について究明をしておるのでありますけれども、これと同じような努力を権威ある機関でなすべきだと思うのでありますが、今回こういう特別委員会を設置されました背後にはやはりそういうお考えをお持ちになっておられますか。
  78. 松田慶文

    ○松田政府委員 ただいま事故が発生してまだ二週間でございまして、ソ連内部においても現状では被害の拡大、汚染の拡大の防止あるいは汚染の除去という当面の対策に追われております。  IAEAに対しましては、ソ連はできるだけ早急に事故の解明をした上でIAEAに報告を提出する、それを受けてIAEAで専門家会合を行うということになっております。これは二、三カ月以内に行われることが期待されております。そういった形で事故原因の解明が行われた上で、先ほど先生御指摘の国内の諸対策へ発展していくものと考えております。
  79. 河上民雄

    ○河上委員 今回のソ連の原発事故につきましては、正式の原因究明その他がまだソ連自身においても行われていないというか、完成していないというか、したがって報告がないということでございますけれども、最近日本を訪れたソ連共産党中央委員会の国際部副部長のコワレンコ氏が、今回のソ連の原発事故は人為的なミスであるというふうにソ連は考えているというふうに言明されております。日本政府においてこのような報告を受けておられますか。
  80. 松田慶文

    ○松田政府委員 去る五日、IAEAの事務局長は二人の安全専門家を帯同いたしましてソ連を訪問いたしまして、現地もヘリコプターから視察しております。その報告によりますと、とりあえずの印象としては、今度の事故は構造上の、設計上の問題でもなく、また運用、管理上の問題でもなく、やはり操作上の問題であろうということを言っております。その点は、委員御指摘の点と軌を一にするわけでございますが。先ほども申し上げましたとおり、ソ連政府は真の解明はもう少し時間を欲しい、そして二、三カ月でその報告をIAEAに提出して国際的な検討に供したい、こう言っている次第でございます。
  81. 河上民雄

    ○河上委員 その報告はIAEAを通じて受けるのでしょうか、それとも関係各国ということで日本が直接ソ連から受けるのでしょうか。
  82. 松田慶文

    ○松田政府委員 ソ連政府は、すべての仕事をIAEAとの間で進ませたいという意向のようでございまして、ただいま私が申し上げましたソ連政府の正式の事故報告もIAEAに提出されまして、そこで専門家会合の討議に付されることとなっております。
  83. 河上民雄

    ○河上委員 これは今まで日本政府も、また原子力発電所の関係者も繰り返し強調されていることでありますけれども、原子力発電所というのは技術的に見たら大変完成度の高い施設である、産業であるということでありますけれども、先般のスペースシャトルの事故の一つの教訓でもあるのですけれども、技術的に非常に完成度の高いものほど、かえって思いがけない初歩的な人為的ミスで大事故に至るということが多いようでございますが、巨大産業に伴う不可避的な人為ミスということにつきまして政府はどのようにお考えでいらっしゃいますか。
  84. 堀内純夫

    ○堀内説明員 巨大産業におきます安全の鉄則といいますと、それを構築しておりますいろいろなコンポーネントがございます、それからまた、いろいろな分野の人がそれにタッチをしております、これらのコンポーネント及びまたそれを運営ないしは運転、メンテナンスをする人々の考え方が安全を守るという一つの考え方に集約されていないと、なかなか安全というのは守りにくいということは先生のおっしゃるとおりだと思いますが、こういう問題を解決するためにいわゆるTQC、トータル・クオリティー・コントロールという言葉が最近非常に盛んになってきておりまして、特に原子力におきましてはTMI、その後の特に関電高浜におきますめくら線の間違えた取りつけ、こういうものを契機にいたしまして日本原子力界では特にそのTQCの問題には力が入れられてきております。先生も御承知だと思いますが、その努力が実りまして関西電力がTQCに関するデミング賞という非常にはえある賞を受賞されておられますし、また、それを裏づけるように稼働率もここのところ七〇から八〇%台へと入ってきているというようなことがなされております。  また、私どもは、どんな事故であれ、その得られるものの大きさはいろいろありましょうけれども、たとえその炉の型式が変わったとしても、それの事故に至った原因、それからその後またとられましたいろいろな手続、そういうものの中に我我がまだ気がつかなかったものはないかということをファクトファインディングしていきまして、それをさらに安全性の向上にと反映させていきたい、かように思っておるところでございます。
  85. 河上民雄

    ○河上委員 今、事故が起きないようにいろいろ努力をされている、また、事故を防止するシステムを開発されているというようなお話でございました。しかし、大変素人的な質問かもしれないのでありますけれども、一九七九年にアメリカのスリーマイル島でああいう事故が起きまして、当時これは人類史上最悪の事故、こう言われたのでございますが、どうも今回はそれを上回るような、それこそ人類史上最悪の事故になっているようでございます。チェルノブイルの原発事故は一九八六年、この間約六年半あるわけでございますが、日本のことわざにありますように二度あることは三度あるというので、まさか三度があっては大変なことだと思うのでございます。  今、原子力発電というのは大変進んでおりまして、今お話がありました、私どもの住んでおります関西地区の電力を供給しております関西電力は、原子力発電所による発電量が四八・二%ぐらいとか聞いておりまして、約半分近くになっておる、そういう現実はあるわけでございます。また、世界的に見まして、要するに米、ソ、仏、日という四カ国が突出して進んでいるわけでございます。まさか、二度あることは三度あるということで、今度はフランスか日本だなんというようなことにならないように絶対しなければいかぬと思うのでございますけれども、どうも人為ミスを含めましてあらゆるものには、事故の発生の確率のようなものがあるような気がするのでありますが、原発事故については確率というものを大体考えておられるのでしょうか。例えば、一万年に一回というような確率かもしれませんけれども、あるいは百年に一回とか、現実には今既に六年半に一回起こるというようなことになってきているわけです、こういう大規模なものだけでも。小規模なものを含めまして、原発事故の確率というのは大体どういうように考えて、それをなるべくゼロにするために努力をしておられるのか、その点を伺いたいと思います。
  86. 今村治

    ○今村説明員 事故の発生確率を定鐘化するという問題につきましては、スリーマイルアイランド事故以来各国で研究が進められておりますけれども、機器ごとの故障率のデータそのものが十分蓄積されていない、解析手法、評価手法、こういった技術水準がまだ研究段階にあるということ等から、判断基準としていまだ採用される段階にはなく、また、確率的な判断が我が国の社会において十分受け入れられるに至っていないというのが実情であると考えております。  いずれにしましても、確率的評価の手法の整備を進めることは大変重要なことでございまして、今後の研究開発の進展に即して、確率論的安全評価考え方をいかに今後の原子力安全規制において取り入れていくかということにつきましては、国際的動向も見きわめまして検討してまいりたいと考えております。
  87. 河上民雄

    ○河上委員 今のお話では、スリーマイルアイランドの経験からそういう定量は大変難しいけれどもそういうことについて今後検討しよう、こういうことを決めておられるということでありますが、今回のソ連の事故で、私はさらにそういうことについて努力すべきだと思うのであります。ことわざの、二度あることは三度あるというような、人間の知恵のような経験律みたいなことも、私どもは余りおろそかにしてはならないんではないか、こんなふうに思うのでございます。  もう一つ、私ども素人でよくわからないことがございまして、専門家にぜひ教えていただきたいのでありますが、こういう事故がありますときに、まず放射能が大気中にどのくらいあるか、どうもその場合に異常というか、量的に異常であるということが——もちろん、その構成、成分も当然そのとき検出されるわけですけれども、その場合によく天然のものに比べたら微量であるとか天然のものに比べてやや上回っているとか、そういうようなことがよく出てくるのでありますけれども、一体天然の放射能と原子力発電所などでつくり出す、あるいはもっとレントゲン写真とかいろんなのがあると思いますけれども、そういう人間がつくり出す放射能との間に違いがあるのか、単に同質的なもので、ただ量が天然のものの上に加わったということで、あるところまでふえると危険であるというようなことなのか、そこをぜひ教えていただきたいと思うのです。
  88. 今村治

    ○今村説明員 放射能と申しますのは、放射線を出す物質であると考えられます。人体への影響ということを問題にしますときは、まさにこの放射能が問題になるわけでございますが、放射線を出す物質は自然にも既に存在しておりまして、地球上に既にカリウム40ですとか炭素14、こういったものから放出される放射線それから宇宙に起源を持つ宇宙線、こういったものを自然放射線と呼んでおります。一方、原子炉や加速器などで生成される放射性物質から放出される放射線を人工放射線と呼んでおります。この人工放射線にしましても自然放射線にしましても、出す放射線の種類と申しますのはアルファ線、ベータ線、ガンマ線それから中性子線、このいずれかでございまして、その点につきましては、放射性物質が人工であろうと自然であろうと変わりはないということになっております。  人体への影響につきましては、こういったガンマ線、ベータ線、アルファ線、中性子線、こういった放射線の種類あるいは量それから被曝を受ける身体の部位によっては異なりますけれども、量と受ける身体の部位が同じであれば、あとは放射線の種類、これはアルファがベータかガンマか中性子、これだけでございますので、いずれにしましても人工放射線であるか自然放射線であるかによって、種類、量それから被曝を受ける身体の部位が等しければ影響は同じと考えていただいて結構だと思います。
  89. 堀内純夫

    ○堀内説明員 少々おわかりにくい点があろうかと思いますので、補足させていただきます。  まず今、今村の方から説明いたしましたように自然放射線と人工放射線というのがございますが、自然放射線というのはもう天然の中に最初からあるものでございまして、これはウラン系列それからトリウム系列、アクチニウム系列と言われる一つのもともとの元素がありまして、それが自然に崩壊していく過程でもって出てくるものでございます。それの最たるものがカリウム4〇というものでございまして、これは人間の体の中にはかなりの量入っております。これの寄与が人間にとって一番大きいだろうと思います。それからもう一つは、いわゆるコスミックレイと言われます宇宙線でございますが、これが体の中を常に突き抜けていっていると言ってもいいぐらいあります。これらの自然放射線というのは、私どもの手ではいかようにもしようがないものでございます。もう生まれたときから与えられている。  それでまた、これらの放射線はその場所によっても著しく違いまして、例えば日本の場合ですと、自然放射線はすべてひっくるめると平均約百ミリレムというふうに言われておりますが、関東より東では約八十ミゾレム相当、西の方へ行きますと百ミリを超えて、高いところでは百十三ミリというようなところもございます。さらにアメリカのデンバーなんかになりますと、非常に一けたも高いというようなところがございますが、いずれにしてもこれはどうしようもないもの。  片方の、もう一つの方の人工放射線でございますが、これは私どもが社会生活に必要としていろいろな放射性物質を使っていく。例えば原子力発電をする、それから医療のために放射線を使う、放射性物質を使う、こういうような場合に出てくるものでございます。これは人工的に原子炉の中でつくり出されたり、ないしは放射線加速器と言われるもので人工的にやはりつくり出されるものでございます。  ただ、これらにつきましては、自然放射線と違いまして、私どもがそれを自分たちの利益との関係において、それのコントロールをすることができるということが大きな違いであろうかと思います。そのコントロールの仕方といたしましては、できるだけ放射線というのは浴びない方がいいという考え方に現在は立っております。なぜかといいますと、非常に高い方のところでは放射線の影響というものが非常にはっきりしておりますから、ここはみんなが避けているわけです。だけれども、低いところにつきましてはなかなか避けるのも難しく、また、その様子についても障害の程度についてもわからない面が多く、中にはあった方がむしろいいんだという、いわゆる温泉なんかで使われているラジウムとかラドンとかと言われる、そういう放射線の影響というのもございますし、それから自然の中に生きているんだから、その中から放射線を抜き取ってしまったら、かえって人類に悪い影響を及ぼすんだというような考え方もございます。  しかし、なおかつその放射線は、多少でも影響を及ぼすという説が今支配的でございまして、これをするために私どもは最大の努力をする。それはICRPの考え方の中でいわゆるALARAという考え方、要するにできるだけ低くできるのならば、それを使うことのメリットとの関係において、十分な比較考量をして低くおさめようというような考え方をとっているというのが現状でございます。そのように、自然放射線についてはほとんど我々はコントロールできない、片っ方の人工放射線については、我々の心がけとそれを使うことに対する評価との関係においてコントロールができるのであるということが、大きく違う点だろうと思います。
  90. 河上民雄

    ○河上委員 今の御説明でございますと、自然放射能というのは昔からある、しかし我々はコントロールできない、こういう話でございますが、非常に素人的に考えますと、生まれてからこの方ずっとその自然放射能を浴びていても、我々はがんになったりしないわけです。しかし、人工的な放射能を浴びると、それがやがてがんの原因になったりなんかするのはどういうわけか、これはどうも量の問題ではなくて質の違いではないかという気がするわけです。もちろん、私ども若干、各放射能に関するいろいろなものを読みますと、自然放射能は確かにコントロールできないかもしれないけれども人間の体内に蓄積することがない、したがって体内から放射能を浴びるということがない、しかし人工の放射能は体内に蓄積される、しかも濃縮される、したがって、それがあることによって体内に放射源があって放射能を浴びる結果がんになったりするんだ、こういうふうに説明がございます。  どうもこれは、天然のものと人工のものとの区別というのは単に量だけではない、そういう何か我々には理解できないもの、つまり天然の放射能というのは自然の秩序の中の循環の中で処理されていくけれども、どうもその循環の中に入らない異物として、人工的放射能が生まれているのではないかという一つの疑いを私ども持っているわけであります。そうじゃないと、なぜ我々は一生涯自然の放射能を浴びながらがんになったりすることがないか、ただ一瞬、短い時間微量の人工の放射能を浴びてもそういう障害が生まれるということとの、何か構造的な違いがあるんではないかという気がするわけでございます。そういう点につきまして、どうも今まで余り専門家からはっきりした説明が我々に与えられてはおらないように思うのでありますが、その点はいかがでございますか。なるべく短くお願いします。
  91. 堀内純夫

    ○堀内説明員 先ほども今村から申し上げましたように、放射性物質が出す放射線においては、自然のものも人工のものも同じ作用をします。それからまた、人工でつくり出されるものでも天然にあるものと同じものがつくり出される場合、その挙動は核種ごとによって違いますから、人工的につくり出されるものであろうと天然にあるものであろうと、核種が同じであれば同じ挙動をする。それから、先ほど先生蓄積云々というお話がありましたけれども、蓄積の仕方についても、それは天然のものも人工のものも同じ蓄積の仕方をします。  これは例えば生物学的ハーフライフという、人間の体の中にはある程度入りますとそれをまた排除をしていくという作用もございまして、そういう面ですべてが全部蓄積されていくわけではない。しかし、人工放射線の中には天然にない、天然では放射性でないものと同じ挙動をするために、それが天然の放射性でない元素に置きかわって体の中に残って悪さをするという場合もございます。そういうものにつきましては、私どもはそういうものの影響をすべて評価いたしまして、それによりましていわゆる許容濃度ないしは濃度限界値というような対応を決めまして、人類に対して直接的な影響はもちろんのこと、また後世に対するような影響も起きないようにという配慮をしているところでございます。
  92. 河上民雄

    ○河上委員 影響を受けるのは、要するに素人なわけですから、今の御説明だけでみんなが安心できるかどうか、私は大変疑問だと思うのです。  今私は、ここに一冊の本を持っておるのでありますが、それによりますと、これは今度のソ連の事故が起こる前に出版されているものでありますけれども、「また、ヨウ素という放射能があります。これはいちばん恐ろしい放射能です。核実験の結果として降ってくる放射能、あるいは核戦争が起こったときの放射能で何がいちばん怖いかといえば、このヨウ素です。原子力発電所の事故時でも、何がいちばん怖いかといえば、このヨウ素がまず怖いのです。」と書いてございまして、「これは人体に入ると甲状腺に集まります。甲状腺はのどもとにあり、ここからいろんなホルモンが分泌されるのですが、ヨウ素はその分泌を助けます。」というようなことが書いてございます。ところが、今回のソ連の原発事故が起きました後、新聞等で報道せられますように、沃素131というのがスウェーデンあたりまで行っているわけですが、こういうことは専門家の間ではもう十分予測されていたことですか。
  93. 堀内純夫

    ○堀内説明員 核分裂がありますと、これは核分裂の法則の中で沃素131というのは非常にできやすい核種であるということはよく知られております。それからもう一つは、沃素という元素は非常に昇華性、要するに固体からすぐ気体に変わる、液体とか何かを経ないで気体に変わるということで、いわば非常に蒸発しやすいといいますか、そういうようなことがございます。それからもう一つは、今先生もおっしゃいましたように、一番甲状腺に取り入れられやすい核種として有名である。それから、私どもが放射性物質の測定をするのに、ベータ線のエネルギーが測定器なんかでも非常にはかりやすいレベルのエネルギーを出す、そういうようないろいろなところがございますので、沃素についてはまず着目していくというのが、私どもの原子炉等での事故があった場合の一つの手法であるというふうに考えていただいて結構だと思います。
  94. 河上民雄

    ○河上委員 素人的にどうしても懸念される点をちょっと伺ったわけでございますが、どうもそういう問題についてまだ十分解明されていないような気もするわけであります。今回の協定におきまして、中国側が日本の技術を一番求めておりますのはどういう技術でございますか。
  95. 松田慶文

    ○松田政府委員 この協定の締結によりまして、原子力分野におきまする諸般の協力が将来期待されるわけでありますが、現時点において特に特定の分野について中国側が希望を表明しているという点はございません。幅広く協力を進めたいと言っております。その中には、安全性の向上技術も含まれております。また技術の別の分野、すなわち物資の交流、機材の移動ということも、当然協力の一つの眼目となっている次第でございます。
  96. 河上民雄

    ○河上委員 今物資ということが出てまいりましたけれども、核廃棄物を中国に引き受けてもらうというようなお考えも中にあるのでございますか。
  97. 松田慶文

    ○松田政府委員 協定案文三条には協力の分野が掲げられておりまして、確かに御指摘のとおりその一つとして、「放射性廃棄物の処理及び処分」ということも協力の一分野とされております。しかしながら、現在までの話し合い及び今後の見通しの問題といたしまして双方が相手方の廃棄物を引き取る、処分をするというような形の話し合いは全く出ておりません。
  98. 河上民雄

    ○河上委員 中国側の方のいろいろな文献を見ますと、中国側で考えておるあるいは現に既に始まっております原発は、秦山、広東、金山、河東、東北、大体五つぐらい挙がっておるのでありますけれども、そういうことでよろしゅうございますか。
  99. 松田慶文

    ○松田政府委員 一両年前までは、御言及になったような名称がそのとおりよく言われたものでございますが、それはまだ計画策定段階の一つの案でございまして、先般策定されました第七次五カ年計画によりますと、実行に移すべき計画としてはその中から幾つか少ない数のものが特記されております。御指摘の秦山、これは第一号計画でございまして、現に建設中でございますし、第二番目の広東、これは九十万キロワットのもの二基をフランスとの協力で進めるということになっております。三番目におっしゃいました上海については、諸般の事情からこれは凍結ないし無期延期ということになりまして、五カ年計画から外れております。そのかわりに伝えられるところでは、秦山の当初三十万キロワットに新しく六十万キロ二基を加える、これをもって上海の電力事情に対応するということになっております。したがいまして整理して申し上げますと、当面確定していると承知しておりますのは秦山に三つ、広東に二つ、合計五つでございます。
  100. 河上民雄

    ○河上委員 それが予定あるいは既に建設に入っておる原発は、中国の今言及されました大都会から大体何キロぐらいの地点にございますか。
  101. 松田慶文

    ○松田政府委員 秦山は上海の南にございますが、都心から約百五十キロ離れております。
  102. 河上民雄

    ○河上委員 今回ソ連で事故が起きたのですが、チェルノブイルからソ連第三の大都会キエフまでの距離はどのくらいでございますか。
  103. 松田慶文

    ○松田政府委員 約百三十キロ離れております。
  104. 河上民雄

    ○河上委員 東海村に原発の施設があるわけでありますけれども、東海村と東京との距離はどのくらいですか。
  105. 堀内純夫

    ○堀内説明員 おおよそ百二十キロくらいじゃないかと思います。たしか水戸が国鉄の沿線で東京駅から百キロというのが、通常の我々計算するときの根拠でございます。
  106. 河上民雄

    ○河上委員 欧米では今回の事故の後、原発に対しましていろいろ世論調査したりいたしております。例えばアメリカなどは五〇%くらいは、これ以上拡大は慎重にした方がいいという結果が出ておりますし、ヨーロッパでも計画中のものについては、もう少し再検討しなければいかぬというような意見が起きているやに聞いておるわけでございますが、今のお話のような大都会キエフとチェルノブイルの百三十キロという数字と、東海村−東京の百二十キロあるいは泰山−上海の百五十キロという数字を見ますと、これは単にソ連だからこういう事故が起きた——ソ連だからこういう事故はあり得ないという議論も破綻をしているわけですけれども、逆にソ連だからこういう事故になったんだという議論の立て方というのは大変間違っているのではないか、やはりこれは宇宙船地球号として考えて重大な一つの教訓として、万々間違いないという自信をお持ちのようではありますけれども、もう一度考えてみるべきではないかと私は思うのであります。この点については今、今後もう少し原因がはっきりしてからというお話でありますが、いかがでございますか。
  107. 松田慶文

    ○松田政府委員 現在申し上げ得ることは、今度事故を起こしたソ連の原子力発電所のシステム、メカニズムが西側、我々を含めての軽水炉のタイプと違う、特に格納容器多重防御のシステムに少し差があると言えますけれども、ソ連だから起こる、ソ連だから起こらないということは全く議論としては成立いたしませんで、より科学的、実体的に検討を進め、この事故をどこで起こった事故であれ、世界的に教訓として用いる必要がございます。この点の認識世界じゅう一致しておりまして、ソ連に対してもできるだけ早く事故を解明してもらって、それを報告してもらって専門家の討議に付そう、これを今後の教訓にしたいというのが一致した意見でございます。先ほど私が言及しました東京サミット時の声明におきましても、これを教訓として生かしたい、そのための国際協力を進めたいということを基調として書かれておりまして、この趣旨は各国より支持されておるところでございます。
  108. 河上民雄

    ○河上委員 今、そういう国境あるいは社会体制の違いを超えて科学的に検討したいというお答えがあったわけで、それは結構だと思うのでありますが、東京サミットの声明で言っておりますところの国際協定づくりといいますか、そういうことにつきましては当然ソ連も、いわゆる社会主義体制の国家も参加をするという呼びかけはされるわけでございますか。
  109. 松田慶文

    ○松田政府委員 そのとおりでございます。  ソ連は、今回の事故についてIAEAと話しております過程の中でいろいろな対応を示しておりますが、その一つとして、早期警戒警報システムの作成に係る努力にはソ連も当然協力するということを明らかに述べております。
  110. 河上民雄

    ○河上委員 今回の原発事故によりまして、ソ連の農業は大変大きな損害を受けるのではないか、こんなふうに思いますけれども、これは外務省ではどういうふうにお考えでいらっしゃいますか。
  111. 西山健彦

    西山政府委員 先ほど来審議官の方からお答え申し上げておりますが、かなりの放射能による汚染があると見られますので、ソ連経済に相当程度の影響が出るものと考えられますけれども、この時点では事故の詳細についてなお不明な点が多いものでございますから、はっきりとしたことは申し上げられない状態でございます。
  112. 河上民雄

    ○河上委員 西欧側には、今回の原発事故に関連して損害賠償を要求すべきだというような声も起きております。また、東ヨーロッパ諸国はより距離が近いだけに、それ自体としても恐らく損害があったと思われますし、西欧側が東ヨーロッパの農産物を買わない、しばらくそれを停止するというようなことを決めておりまして、そうした経済的な損害が次々と起きているわけでありますが、こういう場合、損害賠償というのは国際的に要求できるのかどうか、また、今後そういうことについてある取り決めをした方がいいとお考えなのか。
  113. 斉藤邦彦

    ○斉藤(邦)政府委員 今回の事故によりまして、ソ連の近隣の諸国に被害が出ているわけでございます。今回の事件が、ソ連の故意または過失によりまして他国の環境を著しく汚染したというような場合に該当するといたしますと、これはソ連が今回の事件が不可抗力であるとかあるいは緊急避難等の要件に合致するということを立証しない限り、原則としてソ連の国家責任が生じるということになると考えられます。  なお、最近の科学技術の進展、それからそれに伴いまして生産設備の複雑化とか危険性の増大というようなことを背景にいたしまして、故意、過失がない場合でも責任を問うべきである、そして責任を負うべきであるという考え方が広まってきております。この考えからいたしますと、仮にソ連側に故意、過失がない場合でも、ソ連に損害賠償の責任ありという考え方になるわけでございます。  もう一つの、条約面での手当てがいるのではないかという御質問でございますが、現在、原子力損害の民事責任に関する条約というのは二つございまして、一九六三年に作成されました原子力損害の民事責任に関するウィーン条約、もう一つは一九六〇年に作成されました原子力の分野における第三者損害賠償責任に関するパリ条約、この二つの条約が既に存在しております。しかしながら、ソ連はいずれの条約にも入っておりません。
  114. 河上民雄

    ○河上委員 それは日本は入っておるのですか。
  115. 斉藤邦彦

    ○斉藤(邦)政府委員 我が国も入っておりません。
  116. 河上民雄

    ○河上委員 私は、今回の事件につきましては、こういう大きな事件でございましただけに、やはり抜本的な検討をして教訓をそこに見出すべきだと考えておるものでございまして、既に原子力発電に人類が大きく依存しておるという現実もまた否定できないわけでございますが、それだけに、人類全体として悩み深き大きな一つの課題としてもう少し謙虚に対面しないと、最近のスペースシャトルの事故、あるいは我が国でも日航機の墜落事故、そして今回のソ連の原発事故、いずれも考えてみると非常に初歩的なミスが大きなあれを起こしているだけに、もう一度総ざらいするような、そして二度あることが三度あるということにならぬようにしなくてはならないのではないか、こんなふうに思うのでございます。  ところで、今回の日中原子力協定は、日本の技術を中国に提供するという協定でございますが、従来は、日本アメリカを初めとする外国の技術の提供を受けるという協定だったと思うのであります。その中でも代表的な日米原子力協定の改定の時期がそろそろ来ているかと思うのでありますが、これにつきまして今どういうようになっておりますか、この機会にお伺いしたいと思います。
  117. 松田慶文

    ○松田政府委員 日米原子力協定は、現在その有効期間三十五年の半ばでございますけれども、最近における諸般の事情の変化あるいは新しい協力の対応の必要性等がございまして、過去数年来改定交渉を行ってきております。おおむねそのまとめの段階が近づきつつございますけれども、まだ双方の間には解決を要すべき重要な項目も多々残っておりまして、なお鋭意協議を続けております。前回の協議は本年一月末に行いまして、これが数えて第十四回目でございましたが、夏にも次の協議を開きまして、残る問題点を詰めていきたいと考えております。
  118. 河上民雄

    ○河上委員 今、原子力の廃棄物その他、あるいは本協定にあります物資という面につきまして、その物資の輸送に関しましてアメリカの協力を現に受けているわけでございますが、そのあり方についても今回やはり論議の対象になっているのでございましょうか。
  119. 松田慶文

    ○松田政府委員 御指摘のとおりでございます。  核物質の国際輸送というものは、その安全性の確保等々の分野から非常に重要な問題でございまして、これをどのように日米協定の中で扱っていくかも一つの問題点として、現在協議の対象となっております。
  120. 河上民雄

    ○河上委員 現在は、その輸送はどういうふうに現実に行われているわけですか。
  121. 池田信一

    ○池田説明員 御説明いたします。  一昨年の秋にフランスから、日本から持っていった使用済み燃料から出てきたプルトニウムにつきまして、船で日本に運んでおります。
  122. 河上民雄

    ○河上委員 日本に揚がりましてからは、どういうふうにして運んでおるのですか。
  123. 堀内純夫

    ○堀内説明員 トラックで隊列を組んで輸送しておりますが、それに際しましては、トラックへの荷物の取りつけその他につきまして運輸省の方で確認をいたしましてやっております。それから各都道府県等の公安委員会に届けまして、その通路の安全確保を図っておるというのが現状でございます。
  124. 河上民雄

    ○河上委員 そのことは住民に十分周知徹底しておるわけですか。
  125. 堀内純夫

    ○堀内説明員 私どもとしましては、PP上の問題、要するにフィジカルプロテクションの問題等がございますので、国家公安委員会というものを通じて住民までに伝えられるべきものかどうかはわかりませんが、とにかく住民一人一人の方とか、意識して住民の方々にその通路を知らせるということはしておりません。ただし、国家公安委員会をして、安全な経路をその運送をする列が通るようにお願いをしているわけでございます。
  126. 河上民雄

    ○河上委員 今のお話でございますと、どうも核物質の方の安全を確保するということであって、住民にはそれが通った時期も何もわからない。恐らくこれは、住民に対して住民の不安を引き起こすおそれがあるということと、あるいは核ジャックに対する心配ということだろうと思うのでありますが、こういう原発事故が起きまして、いろいろ安全性についての、これは何万分の一がの確率かもしれませんが、一たん起きた場合の被害の大きさというものを考えますと、自動車の事故の確率とは全然違うわけでございますし、また公開の原則という点から見まして、住民に物質の輸送に関して一切通知がないという、これが現実に毎日のように行われているということになりますと、私はどうも原発の全体のシステムの上からいって、これは大変な大きな欠陥ではないか、こう思います。  今回、こういうような事故が起きまして、ソ連の情報の公開を日本政府も迫っているわけでございます。それは当然、政府間の情報の公開ということではなくて、やはり住民にそれが公開せられるということが一番大事なことだと思いますので、そうした点について、今後そういう日米原子力協定の改定という際には当然この辺も十分考えていただかなければいかぬ、このように希望いたしまして、私の質問を終わりたいと思います。
  127. 北川石松

    北川委員長 次に、玉城栄一君。
  128. 玉城栄一

    ○玉城委員 今回、我が国と中国と原子力協定を締結をしょう、こういうことでございますが、この協定が締結された場合、我が国にはどういうメリットがあるのか、まず最初にお伺いいたします。
  129. 松田慶文

    ○松田政府委員 この協定の我が国にとってのメリットというお尋ねでございます。御案内のとおり、日中間には非常に強固な友好の関係があるわけでございますけれども、従来原子力協定が存在しておらないためにこの分野での協力を実体的に行うことができませんでしたが、この協定の成立によって協力の分野を原子力関係にまで広めることができますことは、日中関係をより長期にわたって安定的に発展させることに貢献するものと考えます。また、この協定によりまして中国のエネルギー問題、原子力発電に貢献できるならば、これもまた中国に対する協力という形で、我が国の隣国への外交関係の発展に役立つものと思います。さらに御案内のとおり、この協定では保障措置、平和目的限定ということを非常に強く定めましたが、これによって国際的な核不拡散の努力へも資したものと考えております。
  130. 玉城栄一

    ○玉城委員 この協定の七条ですが、いわゆる義務的仲裁規定について我が国が中国側に譲歩をした理由と背景と、それから中国側がこの協定を結ぶに当たって譲歩した箇所とその理由について、概略御説明いただきたいと思います。
  131. 松田慶文

    ○松田政府委員 この協定の構成全体にとりましてお互いに主張点がございましたので、それぞれ相手の立場も尊重し、自己の立場も相手に理解してもらって、双方相歩み寄った上でこの協定が成立したわけでございます。私どもが一番主張いたしまして、かつ中国の理解を得たことは、お互いに相手方に渡す機材、燃料等について国際原子力機関の査察を受ける、これを大原則とすることは私どもの譲り得ない主張でございましたが、これは中国が、いろいろと紆余曲折はございましたが、究極的に同意いたしました。  他方、今委員御指摘の、紛争解決のための調停メカニズムにつきましては、これを強制的に行うやり方は、中国の国家としての考え方、主権というものに対する中国流の侵害の観念との関係におきましてどうしても受け入れられない。これは日本だからあるいは原子力だからということではなくて、国家の主権の問題、原理の問題として考えられない。考えられるのは、商事仲裁、商事調停という商業上のことであれば第三者の調停を受けられるけれども、このような国家の行為に関しては第三者の関与は認められないが、自分が納得して受ける調停は受けられる。したがいまして、この七条にございますとおり、問題解決のためには調停手続に付託することができますが、これは双方納得してやるという建前にしたい。これは中国の事情、物の考え方を私どもが理解し、これを受け入れた経緯がございます。  あと、ほかにどういう妥協の条項があるかという御質問でございましたが、例えば原子力協定その他の協定には違反時の返還請求権というものの規定があるものもございますが、この八条にございますとおり、「相互に協議を行い、」「規定の遵守を確保するための適切な措置」というふうな形で包括的に定めましたが、これも物の考え方は強制調停と同じように、立国家の主権ないしは国家の付為に関する中国側の理念との関係で、そのような規定にいたしたわけでございます。
  132. 玉城栄一

    ○玉城委員 今おっしゃいましたその返還請求権については、例えばアメリカ、イギリス、フランスそれからオーストラリアとの原子力協定の中にはちゃんとあるわけですね。今おっしゃったように、中国側についてはその返還請求権というものは入れていない。それは、中国側のそういう主権との問題というお話なんですけれども、そうしますと、従来結んでいます。そういう原子力協定との関係というのはどういうふうになりますか。
  133. 松田慶文

    ○松田政府委員 二点御説明申し上げたいと思います。  第一点は、第八条に書かれておりますとおり、四条、五条、六条の違反につきましては直ちに協議を行った上、「規定の遵守を確保するための適切な措置をとる。」という規定になっておりますが、この趣旨は、それぞれの問題が生じた態様に応じて個別協議の上、最も妥当な措置をとろうということでございまして、その措置の中には返還ということも排除しない、このように合意の上定めたわけでございます。違いは、返還請求権というのは条約上の権利でございますが、そういう権利の形では明定しなかったが、実態的にはそれも含み得るという形で処理しようということにしたわけでございます。したがいまして、私どもは実態上の措置はこれで十分とれていると思います。  それから第二点は、このような例はほかにもございまして、先般策定いたしましたカナダとの原子力協定には、同様の考え方から返還請求権は入っておりません。
  134. 玉城栄一

    ○玉城委員 実態的には他の原子力協定と同じようなものであるということで理解をいたします。  それから、今後いわゆる日中原子力協定が締結されて、我が国として中国側からウラン資源の提供を受けるということも考えているのかどうか、その辺、いかがでしょうか。
  135. 松田慶文

    ○松田政府委員 理論的にはその可能性は十分ございますし、協定第三条の協力分野にも、「ウラン資源の探鉱及び採掘」と書いてございまして協力の一項目として掲げてございますし、現に動燃事業団を通ずる技術協力も行っておりますが、実際の資源としての輸入の今後の可能性等につきましては、通産省の方からお答えをお願いしたいと思います。
  136. 石海行雄

    ○石海説明員 我が国のウラン資源の輸入につきましては、既に長期契約等によりまして、一九九〇年代半ばまでに必要なウラン資源については確保済みということになっております。したがって、現在のところ、中国からウランを輸入する具体的な計画はないというふうに承知しております。  ただ、長期的な観点で考えますと、ウラン資源の供給源の多様化ということも大切な観点でございますので、中国からのウランの輸入につきましても、経済性の確保といったものを前提としまして、長期的な観点から所要の検討が進められていくものではないか、かように考えております。
  137. 玉城栄一

    ○玉城委員 長期的には中国側のウラン資源の供給も考えられる、こういうことですが、中国のウラン資源の埋蔵量というのは大体どのぐらいあるのか、どういうふうに予想していらっしゃるのか、お伺いいたします。
  138. 石海行雄

    ○石海説明員 中国におきますウラン資源の埋蔵量でございますが、これにつきましては、現在までのところ、中国から公式に発表されたことはございません。ただ、中国政府関係者が論文などに書いているものがございまして、これを読みますと、中国国内には確認埋蔵量だけで、一千五百万キロワットの原子力発電所が三十年間に必要とする量が存在するということでございますので、相当量のウラン資源が中国内には存在するというふうに考えております。
  139. 玉城栄一

    ○玉城委員 先ほどからも御質疑がありましたけれども、今回のソ連の原発事故、こういうことがあっては大変なことですが、もし万一、仮に中国にこれに類するような事故が起きたとしました場合、これは隣国である我が国への影響というのはまさにはかり知れないものがあるわけです。今回、この協定を日中間で結ぶに当たって、もし仮に今後そういう事故が起こったら、それに備えて情報の公開のシステムであるとかそういうものも含めて、政府としてはどういうふうに対応するつもりなのか。
  140. 松田慶文

    ○松田政府委員 原子力協力の分野で安全性の問題は、最も重要な柱の一つでございます。中国との従来の関係も、この協定の発効を待つ前から民間レベルで人物交流等がございましたが、その中でも安全性の分野が大きく取り上げられておりました。このような双方の関心を踏まえまして、この協定の第三条におきましても、協力の分野として「軽水炉及び重水炉の安全上の問題」ということを特記して、今後の協力の項目として掲げている次第でございます。  中国は安全には非常に力を入れておりまして、先般も原子力安全局という独立の機関をつくりまして、それなりの組織、体制の整備を力を入れてやっております。また、国際的な安全確保の問題につきましては、先ほどから御議論いただいておりますソ連の事故の教訓といたしまして、IAEAの場で国際協力を進めていこうということが現在動き出しておりまして、中国もIAEAの理事国として当然その努力に一緒になって加わるものと思っております。
  141. 玉城栄一

    ○玉城委員 これはどちらの方でしょうか、我が国と開発途上国との原子力発電関連技術協力というのは現在どういうふうな実態になっているのか、また今後どういうふうに開発途上国と原発技術協力を進めていく方針なのか、それをお伺いいたします。
  142. 太田博

    ○太田説明員 お答えいたします。  我が国は、開発途上国からの要請を受けまして原子力平和利用分野、まず放射線、ラジオアイソトープ等を利用した医療分野等での技術協力、これを主として研修生の受け入れという形で実施しております。原子力発電関係に関しましては、安全管理の分野につきまして昭和六十年度に国際協力事業団、JICAに集団研修コースを新設いたしまして、合計六名の研修員に対しまして原子力発電の安全管理に関する技術協力を実施いたしております。今後とも原子力の平和利用の分野、これは医療分野及びただいま御説明いたしました原子力発電の分野双方につきまして、一層協力を推進してまいりたいと考えております。
  143. 松井隆

    ○松井説明員 お答えいたします。  原子力委員会におかれましても、開発途上国の原子力分野の協力については非常に積極的でございまして、ただいま外務省からお話のありました点のほかに、原子力委員会あるいは科技庁といたしましても、例えば東南アジア諸国におけるIAEAが主宰する技術協力についても参加して積極的に指導をやっておりますし、さらに私どもの方にも、新たに東南アジア諸国の人たちを受け入れる研究交流制度をつくりまして、そこで多数の人たちを受け入れるという仕組みを始めておりまして、そういう意味ではさらにこういう問題について強化したいと考えている次第でございます。
  144. 玉城栄一

    ○玉城委員 今後も技術協力については協力強化をしたいということですが、さっき六名とおっしゃいました。これは国はどこですか。それから、今申し込みもあるということですが、どの国が我が国の原発関係の技術協力を求めているのか、また今後どういう国々と協力を強化していきたいのか、その辺をお伺いします。
  145. 太田博

    ○太田説明員 お答えいたします。  原子力発電の分野における集団研修コースの六十年度の六名の国別は、中国、インドネシア、韓国、フィリピン、これがそれぞれ一名、それからタイが二名ということになっております。先ほど申しましたように、今後とも基本的には開発途上国の要請にこたえる形で、こういう集団研修コースを充実させていきたいというふうに考えておりまして、ただいま申しましたような国が特に原子力発電の安全面に関心を持っているようでございますので、引き続きこういう国からの研修の要請が出てくるものというふうに考えております。
  146. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは今中国、インドネシア、韓国、タイ、フィリピンですか。今後は、例えばパキスタンとかインドとかあるいはブラジルとか、そういうところから要請があった場合には、やはり協力をしていくという方針なのかどうかですね。
  147. 太田博

    ○太田説明員 お答えいたします。  先ほど申しましたような国以外からの要請につきましても、できるだけその要請にこたえられるように対処してまいりたいと考えております。ただ、研修のコースの割り当て等の関係もございまして、要請にすべて一どきに応じられるかどうかという問題はございますけれども、いずれにせよ、できるだけ要望に応じていきたいというふうに考えております。
  148. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは最近の報道なんですけれども、ソ連がリビアに対して原子力発電の技術協力をするという報道があるのですが、それは外務省御存じでいらっしゃるのかどうか。
  149. 松田慶文

    ○松田政府委員 実は、私どもも新聞報道で承知いたしましたものでございますから、直ちに出先を通して調査を命じております。
  150. 玉城栄一

    ○玉城委員 私たち、こういうのは全く技術的にはわかりませんので、こういう機会にお伺いしておきたいのですが、原発の技術、これはいわゆる軍事転用というものは可能なのかどうか、原発に関係する技術というものは軍事用に使えるのか使えないのか、どうなんでしょうか。
  151. 松田慶文

    ○松田政府委員 原子力発電から生じます発生物質プルトニウム、これがそのまま核爆弾の材料となるという意味において、軍事転用につながるのでございます。
  152. 玉城栄一

    ○玉城委員 そういう意味で、開発途上国への原発技術の協力ということについては慎重、また、大前提は安全ということはもう当然だと思うのですが、その辺いかがですか。
  153. 松田慶文

    ○松田政府委員 お答え申し上げます。  先ほど途上国に対する技術協力の現状を申し上げましたけれども、その中にインド、パキスタン等々が含まれておりませんのは、その二国は、例えば例示でございますけれども、核不拡散条約に加盟しておりません。したがいまして、私どもはいかなる原子力分野での協力であれ、常に核不拡散に対する考慮というものを念頭に置いて進める必要がございます。それが今御質問の軍事転用に直結するような高度の分野であれ、またそこに至らない分野であれ、常にやはり不拡散の問題は念頭に置いて進んでいきたいと考えております。
  154. 玉城栄一

    ○玉城委員 さっき松田さんは、いわゆる原発に関係する技術というものは、そこから出てくる材料が核爆弾の材料になるという意味では軍事転用も可能だ、こういうことをおっしゃったわけですが、そういう意味では我が国もいわゆる核兵器開発能力というものはあるのですか、ないのですか。
  155. 松井隆

    ○松井説明員 先ほど松田審議官からお答えしたとおり、原子力の場合には核兵器につながるものは使用済み燃料からプルトニウムを取り出す、そのプルトニウムが爆弾になるということが一つと、その前にウラン濃縮というのをやりますけれども、一〇〇%のウラン235の濃縮ができた場合には爆弾になる、この二つかと思います。  ただ、この技術につきましてはそういうものでございますけれども、いずれにしても我が国としては原子力基本法におきまして、我が国原子力開発というのは平和を旨とするということで、はっきり軍事利用を禁止しております。したがって、そういう問題は一切やっておりませんし、また、そういう意味では軍事転用はいかなるものか、必ずしも正確につかんでおらないという点もございますものですから、私どもとしてはあくまで平和を旨としてやる、ただ技術的にはそれだけの力はあり得るというふうに考えております。
  156. 玉城栄一

    ○玉城委員 いわゆる濃縮ウランの開発技術について研究はしていらっしゃるのですか。
  157. 松井隆

    ○松井説明員 研究はしております。それは、あくまで私どものやっておりますのは軽水炉燃料に使用するための程度の濃縮度でございまして、具体的には三%とかあるいは四%程度のウラン235を濃縮するという技術の研究をしておりまして、それにつきましては既にパイロットプラントをつくっておりまして、着実に運転しているという状況でございます。
  158. 玉城栄一

    ○玉城委員 再処理技術についても、やはり研究していらしゃるわけですね。
  159. 松井隆

    ○松井説明員 これにつきましても東海村に再処理工場がございまして、そこで使用済み燃料から有用なウラン、プルトニウムを取り出しているということはやってございます。
  160. 玉城栄一

    ○玉城委員 これは、大臣にぜひ言明をしていただいてこの質疑を終えたいと思うのですが、今さら申し上げるまでもなく世界で唯一の被曝国ですし、絶対に我が国は核兵粋は持たないということは大原則なんですから、ところが技術的には十分可能性はあり得るということでありますので、いわゆる日中原子力協定、今審議でありますので、この機会に我が国は核兵器を保有しない、絶対にそんなことはあり得ないということを言明していただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
  161. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 これは日本の国是でございますから、非核三原則は遵守してまいらなければならないと考えております。
  162. 玉城栄一

    ○玉城委員 非核三原則は遵守ということは、我が国は現在並びに将来にかけて核兵粋というものは絶対に保有しないというふうに理解してよろしいわけですね。
  163. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 非核三原則は、核兵粋は持たず、つくらず、持ち込ませずということでございますから、今お話しのとおりである、こういうふうに理解しております。
  164. 玉城栄一

    ○玉城委員 以上です。
  165. 北川石松

    北川委員長 次に、渡辺朗君。
  166. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 前回の日中原子力協定、いろいろ御質問をさせていただきたいと思っておりましたが、残していた部分がありますので、お聞かせいただきたいと思います。  一つは、アメリカと中国の間の経済協力、それから技術協力、そういったものがいろいろ進行中でございますけれども、この原子力、核についての技術交流というものは、どこら辺までいっているのであろうかという点でございます。  関連して、その前にアメリカの核艦船の中国寄港問題というのがあったわけでございますが、年内にもアメリカの艦船の中国寄港ということが報道されておりますけれども、事実関係はどのようでございましょうか。
  167. 松田慶文

    ○松田政府委員 御質問の第一点の米中原子力協力についてお答え申し上げます。  両国間には協定締結交渉が行われておりまして、昨年十二月にこの協定が発効いたしまして、ようやくこれから米中間で新しい協力が始まるという段階でございますが、現時点では具体的な動きはございません。
  168. 福田博

    ○福田(博)政府委員 米国艦船の中国寄港の関係でございますが、これは第三国間の関係でもございますし、我々としても情報は入手したいとは思ってはおりますが、今のところ詳細は全くわかりません。
  169. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 もうちょっと親切にお答えをいただきたいと思うのです。新聞などではもう既にいろいろなことが報道されているのですね。米中間で南シナ海では何か軍艦でもって合同演習も行われた、いや、そうではない、例えばこんな報道もあります。これだってひとつ、ぜひ聞かしていただきたいのです。  それから米艦船の中国寄港問題は、英国の軍艦が中国に寄港した、あるいはする、それに対する中国側の対応と連関で米艦船の寄港、しかも核搭載の場合でも可能性がある、中国側が拒否するということがないのではなかろうか、オーケーを言うのではなかろうかなどという報道が行われておる。まさか、何も御存じないとかなんとかということはないだろうと思うのです。もうちょっと親切に教えていただきたいと思います。
  170. 福田博

    ○福田(博)政府委員 米国艦船の入港問題についてのお尋ねでございましたので、その部分だけ私どもが確実に承知していることはないという意味でお答えしたわけでございますが、御承知のとおり、アメリカは中国に対して軍事協力というものを行っておるわけでございます。これは米国政府によれば二つの基本方針に基づいている。一つは、着実な米国と中国間の政治経済関係の発展を反映したものでなければならないこと。それから第二は、移転される武器技術というものが防衛的な性格のものであって、かつ、周辺の友邦諸国に警戒心を呼び起こすものではないこと。そういう基本方針でやっていると承知しております。  最近の主な動きを説明いたしますと、これはアメリカ、中岡、両方の政府がともに発表しておりますが、本年の一月に米国と中国の海軍の艦艇が南シナ海におきまして出会った際に、あいさつの交信を行ったということでございます。  それから、そのほかに米国製の武器の対中売却という話がありますが、これは野戦用の砲弾それから航空機用電子機器の輸出について、米国議会の承認がこのほど得られたということを承知しております。  人的な交流面では、御承知のとおり、一九八三年にはワインバーガー国防長官が訪中しましたし、八四年には張愛萍国防部長が訪米いたしまして、現在楊得志総参謀長が訪米中と承知しております。  最後でございますが、米国艦船の中国寄港の現状につきましては、確かに報道等にあることについては私どもも注目しておりますし、確固たる情報で申し述べることがあるものがあれば申し上げたいところでございますが、遺憾ながら今のところ、確たる情報はいずれもないということでございます。
  171. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 今の合同演習というのは、これは合同演習じゃなくてあいさつだったということ、事実がそうであるならばそのとおりであってほしいと思いますが、ただし、たしか四月の初めごろでございますけれども、アメリカ政府は議会に対して、かなり大規模な中国に対する武器技術を供与するということを正式に通告をしているわけであります。これはどの程度のものを含んでいるのか、将来どういうふうなところにまで発展していくのか、こういう点についてもひとつ聞かしていただきたいと思うのですが、お見通しございますか。
  172. 福田博

    ○福田(博)政府委員 まず最初の方の、例の信号の交換といいますか、あいさつの交換ということにつきましては、これは直接確認をいたしておりますので、先方の説明でそのとおりであると思っております。  米国議会に提案されましたものは、先ほど御説明しましたとおり野戦砲弾、具体的には信管製造技術でございます。これは八五年、昨年に米国議会が既に承認をいたしまして、具体的な商談が進められている模様でございます。  第二に航空機用電子機器でございますが、中国製のF8という戦闘機がございますが、これ用の電子機器につきまして、その売却を承認する案件が米国議会に提出されまして、これは議会の方で三十日以内にそれを否決しない限り自動的に成立いたしますが、三十日の日にちがつい数日前に経過いたしまして、その間反対は出ませんでした。
  173. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 いろいろ軍事協力が進んでいるということがかいま見えました。これが一体これからどうなるのかなということは、隣国であります我々にとってはよそごとではございません、大変関心事であります。特にまた、これも確認したいんですけれども、こういうことはどうなんでしょうか、中国政府は四月の初めに英国の艦船二隻の上海訪問を認めた、その際に、訪中したラモント英国務相は、核兵粋の積載の有無は確認も否定もしない方針ということを念を押した上での中国側の了解だったというふうに言われておりますけれども、この点の事実関係はいかがでございます。もう一遍聞かせてください。
  174. 福田博

    ○福田(博)政府委員 イギリスとの関係につきましては、私若干つまびらかにいたしませんので、後ほどまたはっきりわかりましたらお伝えいたしたいと思いますが、そういう報道を読んだ記憶はございます。
  175. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 そうすると、中国側は今までアメリカの艦船が寄港する場合に、たしか胡耀邦総書記が核積載の有無が条件になって、核積載船の場合は寄港を認めないということから米国艦船の寄港がストップしたというのが今までの経緯だと思いますけれども、この点で何らかの政策上の転換が予想されるということはございますか。
  176. 斉藤邦彦

    ○斉藤(邦)政府委員 私も、ただいまの渡辺委員の御指摘になりました報道、事実関係を必ずしも詳細に承知しておりませんので、その点申しわけございませんけれども、英国側は以前から核兵器を積載しているか否か、これは否定もしなければ肯定もしないという政策をとっておるわけでございます。イギリスの艦艇が中国を訪問したとすれば、そのイギリスの政策を中国側がそのまま認めたことになる、すなわち英国の艦艇が核兵器を積んでいてもこれの入港を認めるという方針に転じたということには必ずしもならないわけでございまして、そこのところをどういう話し合いが中国と英国側の間で行われたかという点につきましては、我が国は必ずしもつまびらかにしていない次第でございます。
  177. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 この点は、中国の核というものに対する政策と密接な関連を持つ問題だと思いますし、我が国の非核三原則問題とも連動をいたしてくるように思いますので、ぜひひとつ詳細に調べてみていただきたいし、お教えをいただきたいと思います。  なお、米中関係についてでありますけれども、先ほどは米中関係はこれからだ、軍事技術の交流あるいは拡大というようなものもこれからだろうというお話がありましたが、その点で、例えばこれはいつのことでございましたか、五月の初めでございますが、ベーカー米国財務長官が訪中して、その後、印象のようなものを語っております。その中で、中国側の方は今のところ経費が大変かさむ、近代化のためでありましょう、それからまた外貨不足がある、それからまた首尾一貫をしない税法上の問題もあるということで、これは民間などの場合に、米中関係、特に対中国投資問題については必ずしも明るい展望だけではないということを指摘しておりますが、そういう問題は日本政府も同じような見方をしておられるのでしょうか、それともこれは米中関係だけなんでしょうか。
  178. 福田博

    ○福田(博)政府委員 中岡が、中国に対する投資を誘致するということに対して大変熱心であるということは御承知のとおりでございますし、ただ、今回発表されました第七次五カ年計画の際にも、いわゆる外資投資法なんかが同時にできたわけでございますが、中国側の法制等につきましては、中国も鋭意整備には努めておりますが、なおかついろいろな点で不十分な点がまだあることは事実でございます。  中国はいろいろな国、私の記憶が正しければ、たしか現在十五の国と投資保護協定を締結いたしまして、その投資の誘致に努めておりますが、まだ我が国それからアメリカとの関係では投資保護協定は締結されておりません。これにつきましては、日本アメリカは潜在的な投資をする国としては最大の国でございますが、その投資が中国に行われた場合にどういう待遇を受けるであろうかという、その待遇の内容の詳細を我々お互いに交渉によって詰めている段階でございまして、先方の法制の整備あるいはそれに伴って長期的な方針というものがより一層明らかになるにつれて、私どもの、特に日本についてでございますが、日本との投資保護協定の交渉もより順調に進むのではないかと期待しております。
  179. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 これは大臣にぜひお尋ねをしたいのですけれども、この原子力協定を日中間で結ぶということは、幾つかの目標、目的がありますけれども、一つには、原子力機器の輸出という問題が大きく開けていくであろうということが説明書の中にあることを前回も指摘しておきましたが、そのようなものであるとするならば、今のように日中間のさまざまな税法上の問題であるとか投資保護の問題であるとかというようなことも、私は技術協力のみならず、そういう面での協力関係、これは進めていかぬといけないのじゃないかと思いますが、技術協力と並行して、そのような経済環境をつくり出すための法制上の措置や何かの協力というものについての大臣としての姿勢はいかがなものでございましょうか。
  180. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 日中のこれまでの友好関係、これをさらに進めるための大きな分野として、原子力の平和利用についての協定がここに締結されたわけでございまして、我々は、この協定を通じまして日中関係をさらに発展させるということが必要であろうと思いますし、今お話がありましたように、原子力機器等についての日本の中国への技術協力という面も開けてくることは事実でございますが、同時に、全体的にはこうした原子力の技術協力、そういう分野だけでなくて、日中関係の全体の技術協力という面が進められなければならない、技術移転というものが進められなければならない。これは、中国は近代化計画を進めておるだけに、やはり隣国としての日本の大きな役割であろうし、中国からも大変な大きな期待が持たれておると思うわけでございます。  そうしたいろいろな面での状況を進める中で、投資も大きな要因になっておりますが、中国の要人と会いますと、日本投資が他の西欧諸国に比べると少しおくれがちであるという批判をよく受けるわけでございまして、これはやはり我々としては民間にもこの投資についての推進方を求めております。しかし、民間が投資を行う場合には投資環境というものがよく整わないと、民間ですから、どうしても自分たちがリスクを負うわけですから出ていけない、そういうことで日中間にも投資保護協定等も必要になってくるわけで、今回、呉学謙外相がお見えになった際も、投資保護協定について問題点が残っておるけれども、これを大いに両国で推進をするという立場で、問題点をひとつ解決していこうじゃないかということを話し合った次第でございます。これからいろいろな面で、両国間の関係改善、関係推進のための道がまだまだ開かれなければならない、私はこういうふうに感じておるわけであります。
  181. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 日中原子力協定に関連しまして、日中間の原子力に関する協力状況というものがあるのかないのか、あるいは見通し、そんなものも聞きたいのですが、時間がありませんのでそれはカットしまして、これは大臣にぜひお尋ねをしたいのですが、ソ連のあのチェルノブイルの事故が起こった、被害規模がなかなか大きい、そしてまた、不安を世界的に広げました。我々も大変な不安を持っております。ソ連側の方から日本政府に対して、何らかの協力、助力、こういったものの申し出はあったのでしょうか、なかったのでしょうか。
  182. 松田慶文

    ○松田政府委員 日本政府の方からソ連政府に対して、可能な協力を行う用意がある、特に医療分野では我が方には専門的な知識も十分あるということを申し出でございますが、現時点のところ、ソ連政府の方から政府レベルでの協力の要請は来ておりません。
  183. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 大臣、これはもう積極的に申し入れをしたらどうだろうか、医療なり、あるいは食糧問題だってそうじゃないかと私は思いますし、あるいはまた原因究明の共同研究なんということも本当に重要な、それこそ人道上の立場から行わなければならぬ問題だろうと思うのです。そのことが、また恐らく緊張緩和あるいは信頼感醸成措置の一つにもなり得るのではなかろうかと私は思いますが、大臣の御見解はいかがでございましょうか。それをお尋ねいたしまして、質問を終わりたいと思います。
  184. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 このチェルノブイル事故が起こりまして、早速、ちょうどサミットもありました、サミットでもソ連に対する積極的なサミット諸国の協力も呼びかけたわけでおりますし、あるいはまた日本政府としても、総理あるいは私からソ連政府に対しまして、先ほど審議官が答弁いたしましたように、医療その他で日本がお役に立つことがあったら何でもいたしますという申し入れをいたしたわけでございますが、残念ながらソ連から返事がないわけでございます。しかし、こういう問題は、ただソ連だ、日本だ、アメリカだということで済ませる問題ではないのですから、世界の人類全体に係る問題でございますから、今後はIAEA等でひとつ議論を尽くして、国際的な協力体制を推進していく努力を大いにしなければならぬ、こういうふうに思っております。
  185. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 大臣、もう一遍その点は、再度申し入れをするというお気持ちはお持ちでございますね。
  186. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 これは申し入れておりますし、ソ連が受け入れるということであるならば、協力はもちろんやぶさかでないわけでございます。姿勢は変わっておりません。
  187. 渡辺朗

    渡辺(朗)委員 ありがとうございました。
  188. 北川石松

    北川委員長 次に、田中美智子君。
  189. 田中美智子

    田中(美)委員 四月三十日にアメリカの民主党の上院議員が報告いたしました「原子力発電炉の安全問題の国際動向」、これで社会主義国を除く十四カ国で、一九七一年から八四年までの間に百五十一件も重大な事故が発生していたということが明らかになったことは御存じだと思います。こういうものを見まして、今度のソ連のチェルノブイル事故なども考えますと、今まで安全安全と言われていた神話が次々と崩壊しているという感じがするのです。日航機はちょっと次元が違いますけれども、これも安全と言われていたものがああいう事故になりますし、またチャレンジャーもああいうことになるというようなことがありますので、本当に慎重に慎重にしなければならないのではないかと思います。絶対にどんな事故でもあってはならないのですが、これは人類絶滅かと思わせるようなことにもなりかねないわけですので、慎重な安全対策というものをもう一度この事故から学んで考え直す必要があるのではないか。  それで、この新聞の切り抜きは五月十二日の朝日新聞ですが、これには「ソ連チェルノブイリ原発の四号炉にも、ほぼ日本と同様の、この装置があった。結果的にこの装置が役立たなかったことは、「万一の時にもECCSがあるから大丈夫」といわれていた」。ところが、同じものがあって、それが効果を出さなかったんだということがわかってくる段階で、この点はどのようにお考えになるのでしょうか。
  190. 荒井行雄

    ○荒井説明員 現在において、今回事故のありましたソ連のチェルノブイル発電所の事故の状況がどのようであったか、それから設備がどのような設備であったかというようなところにつきましては、いまだ詳細な情報が入ってございません。したがって、今御指摘の新聞に指摘されたようなソ連原子炉において、一体ECCSがどのような機能を果たしたかというようなことについては、現在云々できるような段階ではでざいません。  ただ、我が国原子力発電所においては、ECCSにつきましては独立かつ多重な機能を有するように定められておりまして、しかも想定されるいろいろな事故事象を考えてございまして、その中で、例えば一次冷却材を喪失するという事故事象につきましても、最大の一次冷却材配管が破断するというような最も厳しい事故をも想定して、それに対して十分ECCSが冷却機能を有するというようなふうに設計されてございます。それから電気事業者におきましても、定期的にECCSの設備につきまして保守点検をやってございます。また、そのようなことでございますので、たとえ冷却材喪失事故が起こりましてもECCSが作動し、十分安全性が確保されるというふうに考えております。
  191. 田中美智子

    田中(美)委員 ソ連のECCSがどうであったかということがわからないうちに、自分のうちのものは大丈夫なんだ、こういうふうに言う。その前には、ソ連とは全然違うんだから大丈夫なんだ、同じものがあったじゃないかということになって、いや、あれがどうなっているかわからないけれども、うちのものは大丈夫なんだ、こういう態度は国民に非常に不安を与えるというふうに思うのですね。やはり絶対ということは言えないということが、そちらでも絶対かと言われるのに対して絶対とは言えないと言っていらっしゃるのですから、もう少し謙虚な発言をしていただかないと、ソ連の方のテレビでの放映など見ておりますと、安全だと思っていた、こう言っています。それは、ずさんだったのかもしれませんけれども事故が起きたんですから、安全だと思っていてもああいうふうにあったのですから、こういうことがもし日本で起きたら大変なことではないかと思うのですね。  今、点検などきちんとしているというお答えでしたけれども、最近徐々に点検の日にちが縮まっている。今までは大体三カ月、四カ月とめて点検をしていたのに、これからは二カ月にしていこう。それは技術開発が進んだから点検が早くいくんだということですが、現場の労働者の話を聞くとそんなことは絶対言えないと思うのです。  時間がないので一々聞いておれませんので、一つ一つ聞いていきたかったのですが、飛ばしていきますけれども、ことしの四月十一日の原子力産業新聞に有沢広巳日本原子力産業会議会長の所信表明が出ています。これを読んでみますと、「定期検査を二か月程度に、運転継続期間を十五か月程度にし、」今、十三カ月ぐらいにいっているところもあるわけですからそれを十五カ月程度にし、「当面の目標として稼働率を八五%に近づける」、もう稼働率を上げるということでどんどん点検を略していっている。いや、それは技術が進んでいるんだから早くできるんだと言うけれども、現場の労働者の話を聞けば決してそんなことはない。この点検を縮めるということは絶対にやめていただきたい。むしろ、点検を延ばす必要があるのではないかと思いますが、その点はいかがでしょう。
  192. 倉重有幸

    ○倉重説明員 定期検査の件でございますけれども、御案内のように定期検査は電気事業法に基づきまして、定検終了時期から一年以内に行うことになっております。現在、ほぼ一年に一回の割合で、三、四カ月かけて実施されておるわけでございます。この定期検査におきましては、国の検査に加えまして電気事業者みずから自主保安の一環ということで、主要な機器設備につきまして点検を行ってトラブルの未然防止を図っておるわけでございます。  現在、その定期検査が短縮の方向にあるということでございますが、これは各種作業の手順の合理化とか作業の自動化、遠隔化、さらには定期検査期間中に行われます保修作業があるわけでございますが、これが事故、故障の減少によりましてそういう保修作業が非常に少なくなってきているということで、定期検査が短縮化されてきつつあるわけでございます。したがいまして、安全を犠牲にして定期検査を短くしているということはございません。
  193. 田中美智子

    田中(美)委員 あなたはございませんとおっしゃるけれども、そんな確信を持ったようなことを言えますか、現場を知らないでいて。実際に一番危険なところに入っていくのはほとんどが、これだけたくさん私が入手したものでも、下請ですよ。下請、孫請、ひ孫請ですよ。全く身分も安定していない日給の人たちが中へ入ってやっているんですよ。そして、ほとんど教育なんてろくにされていないのです。私は、ある人の教育手帳を見たんですけれども、こういうものに対する教育なんて一時間とか二時間とか一時間半とか三十分、こんな教育を受けた人たちが危ないところへ入ってやっている。それは正社員じゃないのです、全部日雇いですね。この人たちが、点検がないときには原発ジプシーと言われるように、転々とあちこちの原発のところを歩いていっているという状態です。こういう人たちが実際に安全の管理をしているわけですよ。それをあなたが点検大丈夫だなんて言えますか。自分が中に入って見ているわけじゃないじゃないですか。そういう意味で、これを短くするということだけは断固やめなければいけない、それを強く要求したいと思うのです。  そして、建設中のものと建設準備中、これは十五あります。建設中が九つ、建設準備中が六つあります。これをすぐ停止してほしいと思うのですね。そして、試運転も入れますと三十二基あるのですけれども、この運転を至急中止して、私はこれを総点検してほしいと思うのです。そんなに簡単に、だれが点検しているかということもよく知らないで、これだけたくさんの下請の中の、こういう人たちは約五万から十万と言われているのですね、全く日雇いの、はっきり名前さえわからないような人がやっているのですからね。こんなことは直さなかったら、大変な事故になったときはもうおしまいですからね。日本の場合には一発ですから、ソ連のようなことが起きたら大変なことになるわけです。それを簡単に国会の場で、点検していますから大丈夫ですなんというようなことを言うことは傲慢だと思うのです。どうせ私が言っても、とめてすぐ総点検をやれと言ったってやめないでしょう、やめるとは言わないでしょうから聞きませんけれども、強く要求しておきます、時間がありませんので。  それで、労働省にちょっとあれしたいのですけれども、これは遠くから見えないかもしれませんけれども、(写真を示す)白ろう病というのか、それとも白ナマズというのかよくわかりません。しかし、こういう病気が、原発で働いている、これは正職員です、日雇いではないのですね。こういう病気が出ているというのは、衣類を洗濯する洗濯場と、それから掃除ですね。ここで働いている人たちに、今、敦賀で六人出ているそうです。あと、ほかの原発でも、なぜかこういう病気が出ているという訴えが私のところにありましたので、私はまだ見に行っていないのですけれども、これは至急こういう人たちが本当に出ているのかどうか調査していただきたいと思います。いかがですか。
  194. 福渡靖

    ○福渡説明員 お答えをいたします。  今先生が御指摘になりました、敦賀にある原子力発電所において白ろう病に似た症状が出ているということでございますけれども、作業服を洗濯する方あるいは作業場を清掃する方の中でそういうような症状があるということについては、まことに申しわけないのですが、私どもの方はそういう事実を把握しておりません。御指摘のように、事実関係について私どもの方も確認をしていきたい、このように思います。
  195. 田中美智子

    田中(美)委員 確認して私のところに連絡していただけますか。
  196. 福渡靖

    ○福渡説明員 確認をいたしましたら、また国会を通して御報告いたします。
  197. 田中美智子

    田中(美)委員 もともと原発は、自動車や新幹線を走っている汽車と違いまして未成熟なものです。自動車は完成されているものですから、手抜きをしたり、また扱い方を間違わなければ、一応安全というものかもわかりませんけれども、原発は未成熟なものです。その安全さえも確認されていない、日本でもはっきり安全だということは絶対言えないものです。そういうものを外国に売るということはやはり問題があるんではないかと思いますが、安倍外相、この点どうお考えになりますか。——外相から一言お願いします、時間ありませんので。
  198. 松田慶文

    ○松田政府委員 大臣の前に御説明申し上げますと、この中国との関係におきましても、安全の認識は共通でございまして、将来の協力に常に安全を考慮するというのは、双方の共通の理解でございます。また、中国であれどこの国であれ、原子力機器の輸入に関しましては、安全を重点に置いて重要な柱の一つとして考えることは当然でございまして、私どもは、安全ということに問題があるから中国との協力を控えるべしという御議論には、遺憾ながら同調できない次第でございます。
  199. 田中美智子

    田中(美)委員 こういう重大な問題を代理の人にあれさせるということは、私はけしからぬと思います。時間がありませんので、やはりちゃんと安倍外相が言うべきだった、そう思います。時間がないわけです、私の場合は。  共産党・革新共同としてのこの条約に対する意見がありますので、ちょっとこれを表明させていただきたいと思います。よく聞いていていただきたいと思います。  私たちは、相手国の要望に応じて、我が国原子力問題で必要可能な協力を行うことを一般的に否定するものではありません。その際、重要なことは、日本がこの面でも対米従属の条件下にあること、及び原子力発電の安全性の保障が確立されていないことです。私たちは、この立場から、原子力問題での国際協定その他について、対米従属の状態の容認あるいは拡大を意味するような場合、また、安全性の保障のない我が国原子力技術を無責任に輸出する結果となるような場合には、相手国のいかんにかかわらず、それに賛成しない態度をとってきました。  今回の日中原子力協定は、相手国は社会主義国の中国ですが、その主要な内容は、我が国原子力発電の機器や技術の中国への輸出にあります。我が国原子力発電が、安全上多くの危険性を抱えていることは、私たちが具体的事実を示して批判し、安全対策の全面的な再検討とともに、無責任な増強計画の中止を要求しているところです。相手国が社会主義国であるからといって、また中国の要望にこたえるものだからといって、日本自身において安全上の責任を持ち得ない原子力機器などの輸出に賛成することはできません。こういう見地から、日本共産党・革新共同は、日中原子力協定の承認案件には棄権の態度をとるものです。  一応、会派としての表明をさせていただきましたが、安倍さんがお答えになりませんので、原子力発電所、今動いていますのを至急とめて総点検をするということについて、安倍外相の御意見をお聞きしたいと思います。
  200. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 よく聞いていただきたいのですが、松田審議官は自分は先に答えますと言って、私は答えるつもりだったのですが、もうあなたが立ち上がったものですから……。  原子力平和利用について大事なことは、やはり安全の確保です。これは日本であると中国であるとソ連であるとを問わない、世界じゅうの最大の平和利用の問題である、こういうふうに我々も確信しております。
  201. 田中美智子

    田中(美)委員 時間がないわけですから、その点で同じことを二度言う必要はないんで、外相が言えばいいことです。そういう点では、時間をたくさん持ってやっている場合と、我々のように時間の少ないときには、それなりの協力をするのが当然ではないかということを最後に申し上げておきます。そして、委員長にも、そういう点で今後とも御協力をお願いしておきたいと思います。
  202. 北川石松

    北川委員長 一言言っておきますが、先ほど大臣が答弁しようと思う前にあなたか手を挙げられたので、私はあなたに指名をいたしました。以上です。
  203. 田中美智子

    田中(美)委員 質問を終わります。
  204. 北川石松

    北川委員長 これにて本件に対する質疑は終了いたしました。     —————————————
  205. 北川石松

    北川委員長 これより本件に対する討論に入るのでありますが、別に討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  206. 北川石松

    北川委員長 起立多数。よって、本件は承認すべきものと決しました。  お諮りいたします。  ただいま議決いたしました本件に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  207. 北川石松

    北川委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕      ————◇—————
  208. 北川石松

    北川委員長 次に、扶養義務準拠法に関する条約の締結について承認を求めるの件を議題といたします。  政府より提案理由の説明を聴取いたします。外務大臣安倍晋太郎君。     —————————————  扶養義務準拠法に関する条約の締結について   承認を求めるの件     〔本号末尾に掲載〕     —————————————
  209. 安倍晋太郎

    ○安倍国務大臣 ただいま議題となりました扶養義務準拠法に関する条約の締結について承認を求めるの件につきまして提案理由を御説明いたします。  この条約は、ヘーグ国際私法会議における検討の結果、昭和四十八年十月二日に作成されたものであります。  この条約は、国際的な扶養義務について、裁判等において争われる場合には、扶養を請求する者が常居所を有する国の法律を適用することを原則とする統一的な準拠法規則を定めております。  我が国がこの条約を締結することは、国際的な扶養義務に関する法律の抵触について扶養を請求する者の保護を重視しつつ適切な解決を図る見地から、また、国際私法規則の統一に寄与する見地から有意義であると認められます。  よって、ここに、この条約の締結について御承認を求める次第であります。何とぞ、御審議の上、速やかに御承認あらんことを希望いたします。
  210. 北川石松

    北川委員長 これにて提案理由の説明は終わりました。  本件に対する質疑は後日に譲ることといたします。  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時十分散会